(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155949
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】菓子類用小麦粉、菓子類用ミックス粉、菓子類、及び菓子類用小麦粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 6/00 20060101AFI20221006BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20221006BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059407
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】坪谷 理絵
(72)【発明者】
【氏名】安藤 福代
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和也
(72)【発明者】
【氏名】白取 真希子
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB05
4B032DB22
4B032DG02
4B032DP02
4B032DP04
(57)【要約】
【課題】口の中で崩壊感が感じられ、咀嚼時に口残りしにくい菓子類が得られる菓子類用小麦粉を提供すること。
【解決手段】本発明は、原料小麦粉が常圧下で加水加熱処理された菓子類用小麦粉であり、水分含有量が12.0~17.0質量%、偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合が90%以上、RVA最高粘度が2300cP以上、中位径が20~40μmである、菓子類用小麦粉を提供する。また、本発明は、当該菓子類用小麦粉の製造方法であり、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程を含む、製造方法も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料小麦粉が常圧下で加水加熱処理された菓子類用小麦粉であり、
水分含有量が12.0~17.0質量%、
偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合が90%以上、
RVA最高粘度が2300cP以上、
中位径が20~40μmである、菓子類用小麦粉。
【請求項2】
前記菓子類用小麦粉は、α-アミラーゼ消化性が、前記原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性の0.90~1.20倍である、請求項1に記載に菓子類用小麦粉。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の菓子類用小麦粉を含む、菓子類用ミックス粉。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載の菓子類用小麦粉、又は請求項3に記載の菓子類用ミックス粉含む、菓子類。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の菓子類用小麦粉の製造方法であり、
原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程を含む、菓子類用小麦粉の製造方法。
【請求項6】
前記加水加熱処理において用いられる水の中位径が、100μm以下である、請求項5に記載の菓子類用小麦粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子類用小麦粉、当該菓子類用小麦粉を含む菓子類用ミックス粉及び菓子類、並びに、菓子類用小麦粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、菓子類の食感改良を目的とした菓子類用小麦粉に関する技術が種々提案されている。例えば、下記特許文献1には、小麦粉中粒径30μm以下の小麦粉粒子が80重量%以上であるスポンジケーキ用小麦粉が開示されている。下記特許文献2には、(1)粗蛋白質含量が6.0~9.5質量%、(2)グルテンバイタリティが35~55%、(3)α化度が0~5%、(4)平均粒径が15~50μm、(5)粒径60μm以上の粗粉画分の含有割合が5~30質量%、(6)粒径30μm以下の微粉画分の含有割合が50~80質量%であることを特徴とする菓子類用小麦粉が開示されている。下記特許文献3には、軟質系小麦を主体とする原料小麦を、加熱水蒸気により、原料小麦の品温が85~100℃で1~5分間湿熱処理するか、あるいは原料小麦の品温が60~80℃で30分間~3時間湿熱処理し、次いで、この湿熱処理小麦を常法に従って製粉し、得られた小麦粉を分級して粒径60μm以上の粗粉部分を除去して、その粒度分布を特定の範囲に調整することを特徴とする菓子類用小麦粉の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-237682号公報
【特許文献2】特開2012-254053号公報
【特許文献3】特開2012-254052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
小麦粉を含有する菓子について、喫食時に感じられる崩壊感と口残りの少なさは、依然として改善の余地があると考えられる。
そこで、本発明は、口の中で崩壊感が感じられ、咀嚼時に口残りしにくい菓子類が得られる菓子類用小麦粉を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、原料小麦粉が常圧下で加水加熱処理された菓子類用小麦粉であり、水分含有量が12.0~17.0質量%、偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合が90%以上、RVA最高粘度が2300cP以上、中位径が20~40μmである、菓子類用小麦粉を提供する。
前記菓子類用小麦粉は、α-アミラーゼ消化性が、前記原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性の0.90~1.20倍であってよい。
また、本発明は、前記菓子類用小麦粉を含む、菓子類用ミックス粉も提供する。
また、本発明は、前記菓子類用小麦粉、又は前記菓子類用ミックス粉含む、菓子類も提供する。
また、本発明は、前記菓子類用小麦粉の製造方法であり、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程を含む、菓子類用小麦粉の製造方法も提供する。
前記菓子類用小麦粉の製造方法は、前記加水加熱処理において用いられる水の中位径が、100μm以下であってよい。
【0006】
なお、本明細書において「常圧」とは、0.1MPaを意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、口の中で崩壊感が感じられ、咀嚼時に口残りしにくい菓子類が得られる菓子類用小麦粉を提供することができる。
なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、本発明の範囲がこれらの実施形態のみに限定されることはない。
【0009】
<I.菓子類用小麦粉>
【0010】
1.菓子類用小麦粉の概要
【0011】
本発明の一実施形態に係る菓子類用小麦粉は、菓子類の原料として用いられる小麦粉である。当該菓子類用小麦粉を用いることで、喫食時に口の中で崩壊感が感じられ、咀嚼時に口残りしにくい菓子類を得ることができる。
【0012】
本明細書において「崩壊感」とは、喫食時に菓子類が口の中でほろほろとほぐれる様子を意味する。本明細書において「崩壊感がより良好」とは、喫食時に菓子類が口の中でよりほろほろとほぐれやすいこと意味する。本明細書において「口残り」とは、喫食時に口の中にザラツキやネチャつきが残ることを意味する。
【0013】
上記菓子類用小麦粉は、原料小麦粉が常圧下で加水加熱処理されたものであり、水分含有量、偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合、RVA最高粘度、及び中位径のそれぞれが特定の数値範囲内のものである。
【0014】
2.菓子類用小麦粉の物性
【0015】
本実施形態の菓子類用小麦粉の物性を説明する。具体的には、当該菓子類用小麦粉の水分含有量、偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合、RVA最高粘度、中位径、及びα-アミラーゼ消化性について説明する。
【0016】
(1)水分含有量
【0017】
本実施形態の菓子類用小麦粉において、水分含有量は12.0~17.0質量%である。水分含有量が12.0質量%未満又は17.0質量%超であると、当該菓子類用小麦粉を含む菓子類が口の中でほぐれにくく、口残りのあるものになる場合がある。水分含有量は、好ましくは12.5質量%以上、より好ましくは13.0質量%以上、さらにより好ましくは13.5質量%以上である。また、水分含有量は、好ましくは16.0質量%以下、より好ましくは15.5質量%以下、さらにより好ましくは15.0質量%以下、特に好ましくは14.5質量%以下である。水分含有量の数値範囲の好ましい上限値及び下限値は、上記で述べた値のうちからそれぞれ選択されてよい。水分含有量は、好ましくは12.5~16.0質量%、より好ましくは13.0~15.5質量%、さらにより好ましくは13.0~15.0質量%、特に好ましくは13.0~14.5質量%である。口の中での崩壊感がより良好で口残りがより少ない菓子類を得るために、このような水分含有量が好ましい。
【0018】
上記菓子類用小麦粉の水分含有量は、加熱乾燥法により測定される。具体的には、当該水分含有量は次の手順で測定及び算出される。アルミ容器に試料(菓子類用小麦粉)10gを秤量し、送風乾燥機で130℃、1時間乾燥させ、乾燥後の試料の重量を測定する。乾燥前の試料の重量(10g)から乾燥後の試料の重量を減じることで、試料に含まれる水分含有量が算出される。
【0019】
(2)偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合
【0020】
本実施形態の菓子類用小麦粉において、偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合は90%以上である。偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒(以下、単に「偏光十字を示す澱粉粒」ともいう。)の割合が90%未満であると、当該菓子類用小麦粉を含む菓子類が口の中でほぐれにくく、口残りのあるものになる場合がある。偏光十字を示す澱粉粒の割合は、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上である。口の中での崩壊感がより良好で口残りがより少ない菓子類を得るために、このような割合が好ましい。偏光十字を示す澱粉粒の割合の数値範囲の上限値は、100%以下である。
【0021】
本実施形態の菓子類用小麦粉において、偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合が高いほど未糊化澱粉が多く含まれていることを示す。ここで、澱粉の糊化について説明する。澱粉は、直鎖成分のアミロースと分岐成分のアミロペクチンから構成され、これらの成分が部分的に微結晶を発達させた多結晶の粒状構造をもつ。澱粉粒を水中で加熱すると、まず結晶性を消失して膨潤し、さらに加熱すると、澱粉粒が崩壊し、その断片と一部溶解した澱粉分子が混合した糊液となる。つまり「澱粉の糊化」は、一般に水の存在下で加熱することで澱粉粒が不可逆的に膨潤し、さらに崩壊ないし溶解して、結晶性及び複屈折性を失い、粘度が上昇した状態をいう。こうした糊化過程は、一般には、澱粉粒の結晶構造の変化を、澱粉粒の複屈折性から観察する偏光顕微鏡法等によって評価することができる(中村道徳ら編:生物化学実験法19「澱粉・関連糖質実験法」(学会出版センター)p.166(1999))。偏光顕微鏡法による観察において、澱粉の糊化は、結晶性及び複屈折性の喪失により、未糊化澱粉で見られた形成核で交差した偏光十字が見られなくなることで判定することができる。したがって、未糊化澱粉が存在するか否かは、偏光顕微鏡法による観察において澱粉粒形と偏光十字が確認できるか否かで判断することができる。すなわち、本実施形態の菓子類用小麦粉が未糊化澱粉を含むことは、偏光顕微鏡で偏光十字を示す澱粉粒が観察されることにより確認されうる。そして、上記で述べたとおり、偏光十字を示す澱粉粒の割合が高いほど、未糊化澱粉の含有量が多いことが確認されうる。
【0022】
本実施形態の菓子類用小麦粉において、上記偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合は、明視野顕微鏡を用いた明視野観察下における澱粉粒の全個数に対する、偏光顕微鏡を用いた偏光観察下で偏光十字を示す澱粉粒の個数の割合である。顕微鏡を用いた澱粉粒の個数の計測は、例えば次の手順により行われうる。まず、スライドグラスに試料(菓子類用小麦粉)を少量のせ、上からスポイトで蒸留水を1~2滴たらし、次いでカバーガラスで覆い、明視野顕微鏡(200倍率)に載置する。明視野にて澱粉粒を観察して全個数を計測し、その後、当該明視野顕微鏡に偏光板を取り付け、偏光観察下にて偏光十字を示す澱粉粒の個数を計測する。
【0023】
(3)RVA最高粘度
【0024】
上記菓子類用小麦粉において、RVA最高粘度は2300cP以上である。RVA最高粘度が2300cP未満であると、得られる菓子類が口残りのあるものになる場合がある。RVA最高粘度は、好ましくは2400cP以上、より好ましくは2500cP以上、さらにより好ましくは2600cP以上、特に好ましくは2700cP以上、又は2800cP以上である。後述するように、RVA最高粘度が取りうる数値には上限がある。RVA最高粘度の数値範囲の上限値は、例えば3500cP以下、好ましくは3200cP以下である。RVA最高粘度の数値範囲の好ましい上限値及び下限値は、上記で述べたうちからそれぞれ選択されてよい。RVA最高粘度は、好ましくは2300~3500cP、より好ましくは2500~3500cP、さらにより好ましくは2500~3200cP、特に好ましくは2800~3200cPである。口の中での崩壊感がより良好で口残りがより少ない菓子類を得るために、このようなRVA最高粘度が好ましい。
【0025】
本実施形態の菓子類用小麦粉において、RVA最高粘度は、当該菓子類用小麦粉の懸濁液の粘度変化を連続的に測定するラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)を用いて、米国穀物化学会の公定法(AACC Method 76-21)に基づいて求められる。当該粘度変化の測定の手順は、具体的には以下のとおりである。当該測定は、特に言及しない限り、大気圧条件下で実施される。
【0026】
(i)測定する対象の試料(菓子類用小麦粉)3.5gを25mLの0.5mM硝酸銀水溶液に入れてよくかき混ぜて懸濁し、14質量%濃度の懸濁液を調製する。
(ii)この懸濁液(25℃)を、RVA装置(RVA4500、Perten Instruments社製)(パドル回転数:160rpm)に供する。下記のRVA装置の設定温度条件に従って懸濁液を加温及び冷却し、その間連続的に懸濁液の粘度(cP)を読み取り、時間(秒)を横軸、粘度(cP)を縦軸としたRVAプロファイルを作製する。
【0027】
上記RVA装置の設定温度条件は次のとおりである。
50℃に60秒間保持→50℃より1℃/5秒の速度で昇温→95℃になった時点(加熱開始から282秒後)で同温度にて150秒間保持→その後(加熱開始から432秒後)約1℃/5秒の速度で降温→50℃になった時点(加熱開始から660秒後)で同温度にて120秒間保持。
【0028】
上記のとおり作製されたRVAプロファイルにおいて、温度が50~95℃に上昇すると粘度は上がってピークに達した後に下降する挙動を示す。当該ピーク時の粘度を、本実施形態の菓子類用小麦粉のRVA最高粘度とする。
【0029】
上記RVAプロファイルにおいて、粘度が上記で述べた挙動を示すのは、澱粉粒が膨潤して粘度が上昇し、その後に澱粉粒が破裂して粘度が下がるためである。すなわち、澱粉の膨潤には限度があり、粘度の値にも上限がある。そのため、本実施形態の菓子類用小麦粉におけるRVA最高粘度が取りうる数値にも上限がある。
【0030】
(4)中位径
【0031】
本実施形態の菓子類用小麦粉において、中位径は20~40μmである。中位径が20μm未満であると、当該菓子類用小麦粉を含む菓子類が口の中でほぐれにくいものになる場合がある。中位径が40μm超であると、当該菓子類用小麦粉を含む菓子類が口残りのあるものになる場合がある。中位径は、好ましくは22μm以上、より好ましくは24μm以上である。中位径は、好ましくは38μm以下、より好ましくは35μm以下である。中位径の数値範囲の好ましい上限値及び下限値は、上記で述べたうちからそれぞれ選択されてよい。中位径は、好ましくは22~38μm、より好ましくは25~35μmである。口の中での崩壊感がより良好で口残りがより少ない菓子類を得るために、このような中位径が好ましい。
【0032】
上記菓子類用小麦粉の中位径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって、フラウンホーファー回折を用いて、体積基準分布(積算分布)で測定される。当該レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、レーザー回析式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS(株式会社日本レーザー製)が用いられる。
【0033】
(5)α-アミラーゼ消化性
【0034】
本実施形態の菓子類用小麦粉において、α-アミラーゼ消化性は、好ましくは原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性の0.90~1.20倍、より好ましくは原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性の0.95~1.10倍である。すなわち、当該原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性に対する当該菓子類用小麦粉のα-アミラーゼ消化性の割合は、好ましくは0.90~1.20倍、より好ましくは0.95~1.10倍である。α-アミラーゼ消化性がこのような数値範囲内であることによって、口の中での崩壊感がより良好で口残りがより少ない菓子類を得ることができる。なお、当該原料小麦粉の詳細については、下記「II.菓子類用小麦粉の製造方法」において説明する。また、本明細書におけるα-アミラーゼは、カビ由来のα-アミラーゼを意味する。
【0035】
上記原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性に対する上記菓子類用小麦粉のα-アミラーゼ消化性の割合は、以下の手順で求められる。以下の手順における吸光度の測定は、特に言及しない限り、室温(25℃)及び大気圧条件下で実施される。
【0036】
試料(菓子類用小麦粉又は原料小麦粉)100mgに、予め40℃で10分間プレインキュベートしたα-アミラーゼ溶液(Aspergillus oryzae由来、50unit/mL)を1mL添加して、撹拌した後、40℃で10分間処理する。次いで、クエン酸-燐酸水溶液(pH2.5)を5mL添加して反応を停止させ、遠心分離(1,000g、5分)して上清を得る。この上清0.1mLにアミログルコシダーゼ溶液(Aspergillus niger由来、2unit/0.1mL)0.1mLを添加して40℃で20分間処理した後、510nmで吸光度を測定する。得られた吸光度から、標準溶液を用いて作成したD-グルコースの検量線を利用して、生成したグルコース量を算出する。原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性に対する菓子類用小麦粉のα-アミラーゼ消化性の割合は、下記式(1)を用いて求められる。
【0037】
原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性に対する菓子類用小麦粉のα-アミラーゼ消化性の割合={(菓子類用小麦粉から生成したグルコース量)/(原料小麦粉から生成したグルコース量)}×100 ・・・(1)
【0038】
3.菓子類の種類
【0039】
本実施形態の菓子類用小麦粉が原料として用いられる菓子類は、一般的に小麦粉が原料として用いられる菓子類であり、含気泡菓子及び含気泡菓子以外の菓子が含まれうる。本明細書において「含気泡菓子」とは、原料として小麦粉を含み且つ内部に気泡を有する菓子を意味し、例えば、スポンジケーキ、シフォンケーキ、バターケーキ、カステラ、パンケーキ、蒸しパン及びマフィンなどが挙げられる。上記菓子類のうち含気泡菓子以外の菓子としては、例えば、クッキー、ビスケット、クラッカー、マドレーヌ、及びフィナンシェなどが挙げられる。
【0040】
本実施形態の菓子類用小麦粉を菓子類の原料として用いることで、喫食時に口の中で崩壊感が感じられ、咀嚼時に口残りしにくい菓子類が得られうる。また、本実施形態の菓子類用小麦粉を含気泡菓子の原料として用いることで、口の中で崩壊感が感じられ、咀嚼時に口残りしにくく、さらに、喫食時にふんわり感のある含気泡菓子が得られうる。すなわち、本実施形態の菓子類用小麦粉は、含気泡菓子用小麦粉であってよく、含気泡菓子の原料として用いられることで、口の中での崩壊感の付与及び口残りの低減に加えて、ふんわり感の付与にも寄与する。なお、本明細書において「ふんわり感」とは、噛んだ時に生地の抵抗が感じられない様子を意味する。
【0041】
以下で、本実施形態の菓子類用小麦粉が含気泡菓子用小麦粉である場合における好ましい物性について説明する。
【0042】
喫食時に口の中で崩壊感が感じられ、咀嚼時に口残りしにくく、且つ喫食時にふんわり感のある含気泡菓子を得るための含気泡菓子用小麦粉の物性は、上記「2.菓子類用小麦粉の物性」で述べたとおりの物性であってもよい。すなわち、当該含気泡菓子用小麦粉における水分含有量、偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合、RVA最高粘度、中位径、及びα-アミラーゼ消化性の好ましい数値範囲は、上記「2.菓子類用小麦粉の物性」で述べたとおりの数値範囲であってもよい。
【0043】
ふんわり感のある含気泡菓子を得るためには、上記含気泡菓子用小麦粉の物性は、例えば以下のとおりであってよい。
【0044】
上記含気泡菓子用小麦粉における水分含有量は、12.0質量%以上、好ましくは12.5質量%以上、より好ましくは13.0質量%以上、さらにより好ましくは13.5質量%以上であってもよい。また、含気泡菓子用小麦粉における水分含有量は、17.0質量%以下、好ましくは16.0質量%以下であってもよい。含気泡菓子用小麦粉における水分含有量の数値範囲の好ましい上限値及び下限値は、上記で述べた値のうちからそれぞれ選択されてよい。水分含有量は、好ましくは12.5~17.0質量%、より好ましくは13.0~17.0質量%、さらにより好ましくは13.5~17.0質量%、特に好ましくは13.5~16.0質量%であってもよい。水分含有量がこのような数値範囲内にあることによって、よりふんわり感のある含気泡菓子を得ることができる。
【0045】
上記含気泡菓子用小麦粉における偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合は、90%以上であり、好ましくは95%以上である。含気泡菓子用小麦粉における偏光十字を示す澱粉粒の割合の数値範囲の上限値は、100%以下である。偏光十字を示す澱粉粒の割合がこのような数値範囲内にあることによって、よりふんわり感のある含気泡菓子を得ることができる。
【0046】
上記含気泡菓子用小麦粉におけるRVA最高粘度は、2300cP以上であり、好ましくは2400cP以上、より好ましくは2500cP以上、さらにより好ましくは2600cP以上であってもよい。含気泡菓子用小麦粉におけるRVA最高粘度の数値範囲の上限値は、例えば3500cP以下、好ましくは3200cP以下であってもよい。含気泡菓子用小麦粉におけるRVA最高粘度の数値範囲の好ましい上限値及び下限値は、上記で述べたうちからそれぞれ選択されてよい。RVA最高粘度は、好ましくは2300~3500cP、より好ましくは2400~3500cP、さらにより好ましくは2500~3200cP、特に好ましくは2600~3200cPであってもよい。RVA最高粘度がこのような数値範囲内にあることによって、よりふんわり感のある含気泡菓子を得ることができる。
【0047】
上記含気泡菓子用小麦粉における中位径は、20μm以上である。含気泡菓子用小麦粉における中位径は、40μm以下であり、好ましくは38μm以下、より好ましくは35μm以下、さらにより好ましくは30μm以下であってもよい。含気泡菓子用小麦粉における中位径の数値範囲の好ましい上限値及び下限値は、上記で述べたうちからそれぞれ選択されてよい。中位径は、好ましくは20~38μm、より好ましくは20~35μm、さらにより好ましくは20~30μmであってもよい。中位径がこのような数値範囲内にあることによって、よりふんわり感のある含気泡菓子を得ることができる。
【0048】
上記含気泡菓子用小麦粉におけるα-アミラーゼ消化性は、好ましくは原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性の0.90~1.20倍、より好ましくは原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性の0.95~1.20倍、さらにより好ましくは原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性1.00~1.20倍である。すなわち、原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性に対する含気泡菓子用小麦粉のα-アミラーゼ消化性の割合は、好ましくは0.90~1.20倍、より好ましくは0.95~1.20倍、さらにより好ましくは1.00~1.20倍である。α-アミラーゼ消化性がこのような数値範囲内にあることによって、よりふんわり感のある含気泡菓子を得ることができる。
【0049】
<II.菓子類用小麦粉の製造方法>
【0050】
上記「I.菓子類用小麦粉」で述べた本発明の一実施形態に係る菓子類用小麦粉は、以下で説明する製造方法により得ることができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る菓子類用小麦粉の製造方法を以下で説明する。
【0051】
本実施形態の菓子類用小麦粉の製造方法は、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程を含む。当該原料小麦粉とは、当該菓子類用小麦粉の原料となる小麦粉であり、具体的には、常圧下での加水加熱処理に供される小麦粉を意味する。当該原料小麦粉として、例えば薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、及びデュラム小麦粉などが挙げられ、これらのうち1つ又は2つ以上の組合せが用いられてもよい。当該原料小麦粉は、好ましくは薄力粉を含む小麦粉であり、より好ましくは薄力粉である。また、当該原料小麦粉のたん白質量は、好ましくは10.0質量%以下であり、より好ましくは8.5質量%以下である。
【0052】
上記原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程は、具体的には、原料小麦粉に対して常圧下で加水処理と加熱処理の両方を行う工程である。当該加水処理と加熱処理の両方を行う工程は、加水処理完了後に加熱処理を行うこと、加熱処理完了後に加水処理を行うこと、並びに、加水処理及び加熱処理の一部又は全部を並行して行うことのうち、いずれか1つを行うことであってよい。当該加水処理と加熱処理の両方を行う工程は、好ましくは加水処理及び加熱処理の一部又は全部を並行して行う工程である。加水処理と加熱処理の一部を並行して行う場合、加水処理及び加熱処理を同時に開始することが好ましい。
【0053】
上記加水処理は、具体的には、原料小麦粉に水を添加する処理である。当該水の添加は、例えば、液体の水の噴霧、水蒸気の噴出、又は飽和水蒸気の噴出によって行われてよく、好ましくは水蒸気の噴出によって行われうる。液体の水の噴霧、水蒸気の噴出、又は飽和水蒸気の噴出は、当該技術分野において既知の装置により行われてよい。原料小麦粉に添加される水の温度は、当業者によって適宜設定されてよい。当該水の温度は、例えば4℃以上、好ましくは15℃以上、より好ましくは50℃以上、さらにより好ましくは60℃以上、特に好ましくは80℃以上であってよい。原料小麦粉に添加される水の中位径は、例えば100μm以下であり、好ましくは70μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらにより好ましくは30μm以下であり、特に好ましくは20μm以下である。当該水の中位径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって、フラウンホーファー回折を用いて、体積基準分布(積算分布)で測定される。当該レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、レーザー回析式粒子径分布測定装置HELOS(株式会社日本レーザー製)が用いられる。
【0054】
上記加熱処理は、具体的には、原料小麦粉を加熱する処理である。加熱処理は、当技術分野で既知の加熱方法により行われてよい。当該既知の加熱方法としては、例えば、ジャケット加熱及び熱風加熱などが挙げられる。加熱処理における加熱温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらにより好ましくは120℃以上である。加熱処理における加熱温度は、好ましくは160℃以下である。加熱処理における加熱時間は、上記菓子類用小麦粉を得るために、加熱方法及び加熱温度等の加熱条件に応じて適宜調整されてよい。当該加熱時間は、製造コスト低減のため5時間を超えない範囲で適宜調整されることが好ましい。
【0055】
上記原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する装置として、当技術分野で既知の装置が用いられてよい。当該装置は、例えばバッチ式の装置でもよく連続式の装置でもよい。また、当該装置は、開放系の装置でもよく密閉系の装置でもよいが、常圧を維持しやすく上記原料小麦粉を効率的に製造できることから、開放系の装置であることが好ましい。すなわち、上記原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程は、開放条件下で行われることが好ましい。
【0056】
本実施形態の菓子類用小麦粉の製造方法は、小麦粉の水分含有量を特定の数値範囲内とするために、小麦粉を乾燥させる工程(以下、単に「乾燥工程」ともいう。)を含んでよい。当該乾燥工程は、当技術分野で既知の乾燥方法により行われてよい。
【0057】
本実施形態の菓子類用小麦粉の製造方法は、小麦粉の中位径を特定の数値範囲内とするために、小麦粉を粉砕する工程(以下、単に「粉砕工程」ともいう。)を含んでよい。例えば、当該製造方法は、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程の前に原料小麦粉を粉砕する工程を含んでもよい。また、当該製造方法は、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程の後に小麦粉を粉砕する工程を含んでもよい。また、当該製造方法は、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程の前に原料小麦粉を粉砕する工程を含み、且つ、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程の後に小麦粉を粉砕する工程を含んでもよい。好ましくは、当該製造方法は、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理する工程の後に小麦粉を粉砕する工程を含む。加水加熱処理の後に粉砕することによって、小麦粉の中位径をより調整しやすくなる。
【0058】
上記粉砕工程は、例えばロール式粉砕、衝撃式粉砕、又は気流式粉砕などの既知の方法により行われてよい。当該粉砕工程は、市販入手可能な粉砕装置を用いて行われてよく、例えば、パルベライザー(株式会社ダルトン製)、ジェットミル(株式会社セイシン企業製)、又は分級機を内蔵した衝撃型微粉砕機のACMパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社製)などが用いられうる。
【0059】
本実施形態の菓子類用小麦粉の製造方法は、小麦粉の中位径を特定の数値範囲内とするために、小麦粉の中位径を調整する工程を含んでよい。当該製造方法において上記粉砕工程が行われる場合は、当該小麦粉の中位径を調整する工程は、好ましくは当該粉砕工程よりも後に行われる。当該小麦粉の中位径を調整する工程は、既知の方法により行われてよい。例えば、ロール式粉砕、衝撃式粉砕、又は気流式粉砕などにおいて通常用いられる粉砕装置を使用して中位径を調整してもよく、粉砕後に分級することで中位径を調整してもよい。当該粉砕装置の種類としては、例えば、ピンミル、ハンマーミル、及びボールミル等が挙げられる。粉砕後の分級により調整する場合、任意に分級点を設定した気流式分級機にて分取し、回収すればよい。また、中位径が特定の範囲になるような目開きの篩を用いて中位径を調整してもよい。
【0060】
上記粉砕工程及び/又は上記小麦粉の中位径を調整する工程を経た小麦粉の中位径の好ましい数値範囲は、上記「I.菓子類用小麦粉」の「2.菓子類用小麦粉の物性」における「(4)中位径」で述べたとおりでありうる。粉砕された小麦粉が含気泡菓子用小麦粉である場合は、粉砕された小麦粉の中位径の好ましい数値範囲は、上記「I.菓子類用小麦粉」における「3.菓子類の種類」で述べたとおりでありうる。
【0061】
<III.菓子類用ミックス粉>
【0062】
本発明の一実施形態に係る菓子類用ミックス粉は、上記で説明した本発明の一実施形態に係る菓子類用小麦粉を含む。そのため、当該菓子類用ミックス粉を菓子類の原料として用いることによって、喫食時に口の中で崩壊感が感じられ、咀嚼時に口残りしにくい菓子類を得ることができる。また、当該菓子類用ミックス粉を含気泡菓子の原料として用いることによって、喫食時に口の中で崩壊感が感じられ、咀嚼時に口残りしにくく、且つふんわり感のある含気泡菓子を得ることができる。
【0063】
本実施形態の菓子類用ミックス粉は、菓子類の製造時に、水、牛乳、油脂、及び卵などの、粉末及び/又は顆粒状の原料以外の原料と共に使用されるものであってよい。当該菓子類用ミックス粉は、好ましくは、当該菓子用小麦粉以外の穀粉及び/又はその他粉末状原料をさらに含む。
【0064】
上記菓子類用小麦粉以外の穀粉として、例えば、上記菓子類用小麦粉以外の小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、及びとうもろこし粉などが挙げられ、これらのうちの1つ又は2つ以上の組合せが用いられてよい。
【0065】
上記その他粉末状原料として、例えば、澱粉類、糖類、乳成分、卵成分、増粘多糖類、乳化剤、酵素製剤、食塩、炭酸カルシウムなどの無機塩類、ビタミン類、イースト、イーストフード、膨張剤、着色料及び香料などが挙げられ、これらのうちの1つ又は2つ以上の組合せが用いられてよい。
【0066】
<IV.菓子類>
【0067】
本発明の一実施形態に係る菓子類は、上記で説明した本発明の一実施形態に係る菓子類用小麦粉又は菓子類用ミックス粉を含む。すなわち、本実施形態の菓子類は、上記菓子類用小麦粉又は上記菓子類用ミックス粉を用いて製造される菓子類である。当該菓子類は、一般的に小麦粉が原料として用いられる菓子類であってよく、当該技術分野で既知の手法により製造されてよい。
【0068】
本実施形態の菓子類は、好ましくは含気泡菓子及び含気泡菓子以外の菓子を含む。上記で説明したとおり、含気泡菓子としては、例えば、スポンジケーキ、シフォンケーキ、バターケーキ、カステラ、パンケーキ、蒸しパン及びマフィンなどが挙げられる。含気泡菓子以外の菓子としては、例えば、クッキー、ビスケット、クラッカー、マドレーヌ及びフィナンシェなどが挙げられる。
【実施例0069】
以下で実施例を参照して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
<菓子類用小麦粉の製造>
【0071】
(1)実施例1の菓子類用小麦粉の製造
【0072】
原料小麦粉(昭和産業株式会社製「クレオパトラ」)を製造機器(大平洋機工株式会社製「パムアペックスミキサ」)に投入し、常圧下(0.1MPa)で加水加熱処理した。具体的には、常圧下で、液体の水を噴霧することで原料小麦粉に水を添加しつつ、原料小麦粉を加熱した。加水処理において、噴霧された水の中位径は、17.01μmであった。当該中位径は、下記の手順で測定された。加熱処理では、加熱温度を120℃で140秒維持した。すなわち、加熱処理では、加熱温度を120℃、加熱時間を140秒とした。その後、上記製造機器から小麦粉を取り出し、実施例1の菓子類用小麦粉を得た。
【0073】
(2)水の中位径の測定
【0074】
原料小麦粉に添加された水の中位径は、レーザー回析式粒子径分布測定装置HELOS(株式会社日本レーザー製)によって、フラウンホーファー回折を用いて、体積基準分布(積算分布)で測定した。
【0075】
(3)実施例2~9及び比較例1~7の菓子類用小麦粉の製造
【0076】
下記表3に記載されている「菓子類用小麦粉の製造条件」に従って、上記実施例1と同様に実施例2~9及び比較例1~7の菓子類用小麦粉を得た。実施例2~9及び比較例1~7の菓子類用小麦粉の製造においては、必要に応じて、上記加水加熱処理の後に菓子類用小麦粉を乾燥させる工程(乾燥工程)及び/又は菓子類用小麦粉を粉砕する工程(粉砕工程)を行った。当該乾燥工程では、菓子類用小麦粉の水分含有量が下記表3に記載されている数値となるように乾燥処理が行われた。当該粉砕工程では、菓子類用小麦粉の中位径が下記表3に記載されている数値となるように粉砕処理が行われた。
【0077】
なお、各実施例及び比較例の菓子類用小麦粉を、以下では単に「小麦粉」ともいう。
【0078】
<菓子類用小麦粉の物性測定>
【0079】
得られた菓子類用小麦粉の物性を以下の手順で測定した。当該測定は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)及び大気圧条件下にて行った。
【0080】
(1)水分含有量
【0081】
アルミ容器に試料(菓子類用小麦粉)10gを秤量し、送風乾燥機で130℃、1時間乾燥させ、乾燥後の試料の重量を測定した。乾燥前の試料の重量(10g)から乾燥後の試料の重量を減じることで、試料に含まれる水分含有量を算出した。
【0082】
(2)偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合
【0083】
スライドグラスに試料(菓子類用小麦粉)を少量のせ、上からスポイトで蒸留水を1~2滴たらし、次いでカバーガラスで覆い、明視野顕微鏡(200倍率)に載置した。明視野にて澱粉粒を観察して全個数を計測し、その後、当該明視野顕微鏡に偏光板を取り付け、偏光観察下にて偏光十字を示す澱粉粒の個数を計測した。そして、澱粉粒の全個数に対する偏光十字を示す澱粉粒の個数の割合(単位:%)を算出した。
【0084】
(3)RVA最高粘度
【0085】
(i)測定する対象の試料(菓子類用小麦粉)3.5gを25mLの0.5mM硝酸銀水溶液に入れてよくかき混ぜて懸濁し、14質量%濃度の懸濁液を調製した。
(ii)この懸濁液(25℃)を、RVA装置(RVA4500、Perten Instruments社製)(パドル回転数:160rpm)に供した。下記のRVA装置の設定温度条件に従って懸濁液を加温及び冷却し、その間連続的に懸濁液の粘度(cP)を読み取り、時間(秒)を横軸、粘度(cP)を縦軸としたRVAプロファイルを作製した。
【0086】
上記RVA装置の設定温度条件は次のとおりであった。
50℃に60秒間保持→50℃より1℃/5秒の速度で昇温→95℃になった時点(加熱開始から282秒後)で同温度にて150秒間保持→その後(加熱開始から432秒後)約1℃/5秒の速度で降温→50℃になった時点(加熱開始から660秒後)で同温度にて120秒間保持。
【0087】
上記のとおり作製されたRVAプロファイルにおいて、温度が50~95℃に上昇すると、粘度は上がってピークに達した後、下降する挙動を示した。当該ピーク時の粘度を、菓子類用小麦粉のRVA最高粘度とした。
【0088】
(4)α-アミラーゼ消化性
【0089】
試料(菓子類用小麦粉又は原料小麦粉)100mgに、予め40℃で10分間プレインキュベートしたα-アミラーゼ溶液(Aspergillus oryzae由来、50unit/mL)を1mL添加して、撹拌した後、40℃で10分間処理した。次いで、クエン酸-燐酸水溶液(pH2.5)を5mL添加して反応を停止させ、遠心分離(1,000g、5分)して上清を得た。この上清0.1mLにアミログルコシダーゼ溶液(Aspergillus niger由来、2unit/0.1mL)0.1mLを添加して40℃で20分間処理した後、510nmで吸光度を測定した。得られた吸光度から、標準溶液を用いて作成したD-グルコースの検量線を利用して、生成したグルコース量を算出した。原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性に対する菓子類用小麦粉のα-アミラーゼ消化性の割合は、下記式(1)を用いて求めた。
【0090】
原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性に対する菓子類用小麦粉のα-アミラーゼ消化性の割合={(菓子類用小麦粉から生成したグルコース量)/(原料小麦粉から生成したグルコース量)}×100 ・・・(1)
【0091】
(5)中位径
【0092】
菓子類用小麦粉の中位径は、レーザー回析式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS(株式会社日本レーザー製)によって、フラウンホーファー回折を用いて、体積基準分布(積算分布)で測定した。
【0093】
<菓子類の製造>
【0094】
(1)スポンジケーキの製造
【0095】
下記表1に示されるAの原料をボウルに入れ、最終比重が0.36となるようにミキサーの高速で2分30秒間ミキシングした。下記表1に示されるBの原料を加え、ミキサーの低速で1分間ミキシングした後、ボウルの内側に付着した生地をかき落とし、最終比重が0.42となるようにミキサーの中速で30秒間ミキシングして、生地を得た。当該生地350gを6号デコレーション型に流し入れ、上火180℃、下火185℃のオーブンで32分間焼成して、実施例1の小麦粉を用いたスポンジケーキ(以下、「実施例1のスポンジケーキ」ともいう。)を製造した。下記表1の「全卵」はキユーピータマゴ株式会社製(商品名:液全卵(殺菌))であった。
【0096】
【0097】
上記表1の「実施例1の小麦粉」を実施例2~9及び比較例1~7の小麦粉に変更した以外は、上記実施例1のスポンジケーキと同じ手順で実施例2~9及び比較例1~7のスポンジケーキを製造した。
【0098】
(2)クッキーの製造
【0099】
室温(20~25℃)条件下で、下記表2に示されるAの原料をボウルに入れ、ミキサー(ピーター使用)の中速で30秒間ミキシングし、1度ミキサーを停止した後、再度中速で30秒間ミキシングした。下記表2に示されるBの原料を少しずつ加え、ミキサーの中速で10分間ミキシングした。下記表2に示されるCの原料を加え、ミキサーの低速で30秒間ミキシングした後、ボウルの内側に付着した生地をかき落とし、さらに低速で15秒間ミキシングして、生地を得た。得られた生地をまとめて、10℃で一晩冷蔵した。生地を5mmの厚さに伸ばし、10℃で1時間冷蔵した後、内径4cmのカッターで型抜きし、170℃で18分間焼成して、実施例1の小麦粉を用いたクッキー(以下、「実施例1のクッキー」ともいう。)を製造した。下記表2の「加糖凍結卵黄」はキユーピータマゴ株式会社製(商品名:加糖凍結卵黄20)であった。
【0100】
【0101】
上記表2の「実施例1の小麦粉」を実施例2~9及び比較例1~7の小麦粉に変更した以外は、上記実施例1のクッキーと同じ手順で実施例2~9及び比較例1~7のクッキーを製造した。
【0102】
<菓子類の評価>
【0103】
訓練を受けた専門パネル5名が、上記スポンジケーキの口の中での崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感、並びに、上記クッキーの口の中での崩壊感及び口残りのなさを評価した。具体的には、当該専門パネル5名が、上記スポンジケーキ及びクッキーを喫食し、協議して、下記評価基準に従った評価を決定した。
【0104】
(1)崩壊感
◎:口の中でほろほろとほぐれやすく(崩壊感がかなりあり)、非常に良好
○:口の中でほろほろとほぐれ(崩壊感があり)、良好
×:口の中でほぐれにくく(崩壊感が感じられにくく)、不良
【0105】
(2)口残りのなさ
◎:咀嚼した時に、口の中に残るザラツキやネチャつきがなく(口残りがなく)、非常に良好
○:咀嚼した時に、口の中に残るザラツキやネチャつきがあまりなく(口残りがあまりなく)、良好
×:咀嚼した時に、口残りがあり、不良
【0106】
(3)ふんわり感
◎:噛んだ時に生地の抵抗がなく(ふんわり感があり)、一口目の食感が軽く、非常に良好
○:噛んだ時に生地の抵抗がなく(ふんわり感があり)、一口目の食感がやや軽く、良好
×:噛んだ時に生地の抵抗があり(ふんわり感がなく)、不良
【0107】
実施例1~9及び比較例2~7の結果を下記表3及び表4に示す。なお、表3及び表4中の「製造機器」、「加水/水蒸気」、及び「原料小麦粉」の行における表記の意味は、以下のとおりである。
[製造機器]
I:パムアペックスミキサ(大平洋機工株式会社)
II:パドルドライヤー(株式会社奈良機械製作所)
III:オートクレーブ(株式会社トミー精工)
[加水/水蒸気]
無加水:加水処理なし
加水:加水処理において液体の水を噴霧
水蒸気:加水処理において水蒸気を噴出
[原料小麦粉]
A:薄力粉(たん白質量7.5%、商品名「クレオパトラ」(昭和産業株式会社))
B:薄力粉(たん白質量8.1%、商品名「月桂冠」(昭和産業株式会社))
C:薄力粉(たん白質量9.6%、商品名「特初穂」(昭和産業株式会社))
【0108】
【0109】
【0110】
表3に示されるとおり、水分含有量が12.5質量%、13.8質量%、又は16.0質量%である実施例1~3の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感のいずれもが良好又は非常に良好であった。当該実施例1~3の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが良好又は非常に良好であった。特に、水分含有量が13.8質量%である実施例2の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが非常に良好で、当該実施例2の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが非常に良好であった。一方、水分含有量が10.8質量%である比較例1の小麦粉を使用したスポンジケーキ及びクッキーは、全ての評価が不良であった。水分含有量が18.7質量%である比較例2の小麦粉を使用したスポンジケーキ及びクッキーは、崩壊感と口残りのなさが不良であった。これらの結果から、崩壊感及び口残りのなさが良好な菓子類を得るためには(特には、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが良好な含気泡菓子を得るためには)、菓子類用小麦粉の水分含有量は12.0質量%以上、12.5質量%以上、13.0質量%以上、又は13.5質量%以上であることが好ましいと考えられる。また、崩壊感及び口残りのなさが良好な菓子類を得るためには(特には、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが良好な含気泡菓子を得るためには)、菓子類用小麦粉の水分含有量は17.0質量%以下、16.0質量%以下、15.5質量%以下、15.0質量%以下、又は14.5質量%以下であることも好ましいと考えられる。
【0111】
表3に示されるとおり、偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合が95%又は98%である実施例1~3の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感のいずれもが良好又は非常に良好であった。当該実施例1~3の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが良好又は非常に良好であった。特に、偏光十字を示す澱粉粒の割合が98%である実施例2の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが非常に良好で、当該実施例2の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが非常に良好であった。
【0112】
表3に示されるとおり、RVA最高粘度が2512cP、2936cP、又は3456cPである実施例4、2、又は5の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感のいずれもが良好又は非常に良好であった。当該実施例4、2、又は5の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが良好又は非常に良好であった。特に、RVA最高粘度が2512cPである実施例4の小麦粉を使用したスポンジケーキ、及び2936cPである実施例2の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが非常に良好で、当該実施例2の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが非常に良好であった。一方、RVA最高粘度が2210cPである比較例3の小麦粉を使用したスポンジケーキは、口残りのなさとふんわり感が不良で、当該比較例3の小麦粉を使用したクッキーは、口残りのなさが不良であった。これらの結果から、崩壊感及び口残りのなさが良好な菓子類を得るためには(特には、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが良好な含気泡菓子を得るためには)、菓子類用小麦粉のRVA最高粘度は2300cP以上、2400cP以上、2500cP以上、2600cP以上、2700cP以上、又は2800cP以上であることが好ましいと考えられる。また、崩壊感及び口残りのなさが良好な菓子類を得るためには(特には、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが良好な含気泡菓子を得るためには)、菓子類用小麦粉のRVA最高粘度は3500cP以下、又は3200cP以下であることも好ましいと考えられる。
【0113】
表4に示されるとおり、α-アミラーゼ消化性が原料小麦粉のα-アミラーゼ消化性の0.94倍、0.99倍、又は1.18倍である実施例6、2、又は7の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感のいずれもが良好又は非常に良好であった。当該実施例6、2、又は7の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが良好又は非常に良好であった。特に、α-アミラーゼ消化性が0.99倍である実施例2の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが非常に良好で、当該実施例2の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが非常に良好であった。
【0114】
表4に示されるとおり、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理した実施例2の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが非常に良好で、当該実施例2の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが非常に良好であった。一方、原料小麦粉を0.2MPaの加圧条件下で加水加熱処理した比較例5の小麦粉を使用したスポンジケーキ及びクッキーは、全ての評価が不良であった。これらの結果から、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理して菓子類用小麦粉を製造することが、菓子類における崩壊感及び口残りのなさの向上(特には、含気泡菓子の崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の向上)に寄与していると考えられる。
【0115】
表4に示されるとおり、中位径が22μm、29μm、又は38μmである実施例8、2、又は9の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感のいずれもが良好又は非常に良好であった。当該実施例8、2、又は9の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが良好又は非常に良好であった。特に、中位径が29μmである実施例2の小麦粉を使用したスポンジケーキは、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが非常に良好で、当該実施例2の小麦粉を使用したクッキーは、崩壊感及び口残りのなさが非常に良好であった。一方、中位径が16μmである比較例6の小麦粉を使用したスポンジケーキ及びクッキーは、口残りのなさが不良であった。中位径が48μmである比較例7の小麦粉を使用したスポンジケーキは、口残りのなさとふんわり感が不良で、当該比較例7の小麦粉を使用したクッキーは、口残りのなさが不良であった。これらの結果から、崩壊感及び口残りのなさが良好な菓子類を得るためには(特には、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが良好な含気泡菓子を得るためには、菓子類用小麦粉の中位径は20μm以上、22μm以上、又は25μm以上であることが好ましいと考えられる。また、崩壊感及び口残りのなさが良好な菓子類を得るためには(特には、崩壊感、口残りのなさ、及びふんわり感の全てが良好な含気泡菓子を得るためには)、菓子類用小麦粉の中位径は40μm以下、38μm以下、又は35μm以下であることも好ましいと考えられる。
【0116】
以上のとおり、本発明の菓子類用小麦粉においては、原料小麦粉を常圧下で加水加熱処理すること、並びに、水分含有量が12.0~17.0質量%であること、偏光顕微鏡観察下で偏光十字を示す澱粉粒の割合が90%以上であること、RVA最高粘度が2300cP以上であること、及び中位径が20~40μmであることが、口の中で崩壊感が感じられ咀嚼時に口残りしにくい菓子類を得るために重要である。