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特開2022-155986積層造形用粉末材料および該粉末材料を用いた造形物の製造方法
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  • 特開-積層造形用粉末材料および該粉末材料を用いた造形物の製造方法 図1
  • 特開-積層造形用粉末材料および該粉末材料を用いた造形物の製造方法 図2
  • 特開-積層造形用粉末材料および該粉末材料を用いた造形物の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155986
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】積層造形用粉末材料および該粉末材料を用いた造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20221006BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20221006BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221006BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20221006BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20221006BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20221006BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20221006BHJP
   C22C 29/08 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B22F1/00 Q
B29C64/153
B33Y10/00
B33Y70/00
B22F3/16
B22F3/105
B22F10/28
C22C29/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059464
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】山田 純也
(72)【発明者】
【氏名】伊部 博之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄太
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4K018AB02
4K018AB07
4K018AC01
4K018AD06
4K018BA04
4K018BA11
4K018BB04
4K018BC11
4K018BC12
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】機械的強度に優れた積層造形物を形成し得る炭化タングステンおよびコバルトを主成分とする積層造形用の粉末材料を提供する。
【解決手段】ここに開示される積層造形用の粉末材料は、炭化タングステン(WC)と、 コバルト(Co)と、炭素(C)を主要構成元素として含む炭素添加材とを含み、
ここで、以下の式:
(WC由来のCの質量+炭素添加材由来のCの質量)/(WCの質量)×100;
で示される炭素含有率A(質量%)の値が、6.4≦A≦7.2の条件を具備する粉末材料である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形用の粉末材料であって、
炭化タングステン(WC)と、
コバルト(Co)と、
炭素(C)を主要構成元素として含む炭素添加材と、
を含み、
ここで、以下の式:
(WC由来のCの質量+炭素添加材由来のCの質量)/(WCの質量)×100;
で示される炭素含有率A(質量%)の値が、6.4≦A≦7.2の条件を具備する、粉末材料。
【請求項2】
前記炭素含有率A(質量%)の値が、6.6≦A≦6.9の条件を具備する、請求項1に記載の粉末材料。
【請求項3】
前記炭素添加材として、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバーおよびナノカーボンからなる群から選択される少なくとも1種の固体炭素材料を含む、請求項1または2に記載の粉末材料。
【請求項4】
前記炭素添加材として、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)およびモリブデン(Mo)からなる群から選択される少なくとも1種の金属の炭化物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末材料。
【請求項5】
前記炭化タングステンと前記コバルトと前記炭素添加材とが混在する造粒焼結粒子により構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末材料。
【請求項6】
前記造粒焼結粒子の平均粒子径は10μm以上30μm以下であり、
ここで該造粒焼結粒子を構成する粒子として、
平均粒子径が1μm未満である前記炭化タングステンからなる粒子と、
平均粒子径が2μm以上10μm以下である前記コバルトからなる粒子と、
平均粒子径が1μm以上5μm以下である前記炭素添加材を構成する粒子と、
を含む、請求項5に記載の粉末材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の粉末材料を用いて積層造形を行うことを特徴とする、造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形に用いられる粉末材料に関する。また、該粉末材料を用いて積層造形を行うことを特徴とする造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造目的とする造形物を、その三次元形状のデータ(例えば三次元CADデータ)に基づいて作製するいわゆる三次元造形技術が普及している。かかる造形技術の一つとして、粉末材料を薄く層状に敷き詰めたのち、造形対象である造形物の断面に対応する形状に接合または焼結し、この薄層を順次一体的に積み重ねていく積層造形法が挙げられる。
かかる積層造形に用いられる粉末の造形材料として従来は樹脂材料が多用されていたが、近年は粉末床溶融結合法(PBF)、レーザ粉体肉盛法(LMD)等の積層造形に用いられ得る金属やセラミックからなる積層造形用粉末材料の開発が進められている(特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/194678号
【特許文献2】特開2017-113952号公報
【特許文献3】特開2017-114716号公報
【特許文献4】特開2017-115194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属、セラミック等の無機材料からなる積層造形用粉末材料の開発目標の一つとして、割れや欠けのない高い機械的強度を備える造形物が得られる粉末材料の開発が挙げられる。この目標に適う材料として、炭化タングステン(WC)およびコバルト(Co)を主成分とする粉末材料の開発が進められている。炭化タングステンとコバルトは、超硬合金(WC-Co合金)の原料であり、高硬度の造形物を積層造形により製造する材料として好適である。
しかしながら、これまでに開発された炭化タングステンとコバルトを主成分とする粉末材料については、積層造形物の機械的強度をより向上させるためになお改善の余地がある。
【0005】
このような状況に鑑み、本発明は、より機械的強度に優れた積層造形物を形成し得る炭化タングステンおよびコバルトを主成分とする積層造形用の粉末材料(以下「WC/Co含有粉末材料」ともいう。)を提供することを目的とする。また、かかる粉末材料を用いて積層造形を行うことを特徴とする造形物の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を実現するべく、炭化タングステンおよびコバルトを主成分とする粉末材料からなる積層造形物の合金組織を詳細に検討した。その結果、造形物中にη相が存在するとその存在割合が高くなるほど機械的強度が低下するところ、積層造形に用いるWC/Co含有粉末材料に含まれる炭素(C)の含有率を意図的に高めることによって脆性相であるη相の形成を抑制し、造形物の機械的強度を向上し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
ここで開示される積層造形用の粉末材料は、炭化タングステン(WC)と、コバルト(Co)と、炭素(C)を主要構成元素として含む炭素添加材とを含む積層造形用粉末材料である。
そして、以下の式:
(WC由来のCの質量+炭素添加材由来のCの質量)/(WCの質量)×100;
で示される値を炭素含有率A(質量%)としたとき、かかる炭素含有率A(質量%)が、6.4≦A≦7.2の条件を具備する、WC/Co含有粉末材料である。
【0008】
本発明者の得た技術的知見によると、これまでのWC/Co含有粉末材料を用いて粉末床溶融結合法(PBF)、レーザ粉体肉盛法(LMD)等の粉末積層造形を実施したとき、当該造形時におけるレーザ光や電子ビームの照射エネルギーによって、炭素成分の存在量が理論値よりも低下してしまい、それによって脆性層であるη相が造形物の組織内に発生し易い状態となり得た。さらに、本発明者は、WC/Co含有粉末材料に予め所定量の炭素を含む材料(炭素添加材)を添加しておくことにより、粉末積層造形を実施したときの炭素成分の存在量を低下させず、結果的に脆性層であるη相が造形物の組織内に形成されるのを抑制し、WC/Co含有粉末材料からなる造形物におけるη相の存在に起因する機械的強度の低下を抑制することを実現した。
従って、ここで開示される積層造形用WC/Co含有粉末材料によると、積層造形時における炭素成分の低下を防止して造形物組織内におけるη相形成を抑制し、当該造形物の機械的強度の低下を防止することができる。
このため、ここで開示される技術によると、WC-Coを構成要素とする超硬合金から構成された機械的特性に優れた積層造形物を製造することができる。
【0009】
ここで開示される粉末材料の好適な一態様は、上記炭素含有率Aの値が、6.6≦A≦6.9の条件を具備する。
かかる構成の積層造形用粉末材料によると、より好適にη相の形成を抑制しつつ、造形物のより良好な機械的特性を維持することができる。
【0010】
また、ここで開示される粉末材料の好適な他の一態様では、上記炭素添加材として、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバーおよびナノカーボンからなる群から選択される少なくとも1種の固体炭素材料を含む。
かかる構成の積層造形用粉末材料によると、炭素添加材が固体の炭素からなる材料により構成されるため、効果的な炭素成分の補充を実現することができる。
【0011】
また、ここで開示される粉末材料の好適な他の一態様では、上記炭素添加材として、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)およびモリブデン(Mo)からなる群から選択される少なくとも1種の金属の炭化物(カーバイド)を含む。
かかる構成の積層造形用粉末材料によると、炭素添加材として上記いずれかの金属カーバイドが含まれるため、炭素成分の補充に加えてWCとCo以外の異種金属元素の存在による機械的強度に優れる合金材からなる造形物を製造することができる。
【0012】
また、ここで開示される粉末材料の好適な他の一態様では、該粉末材料は、上記炭化タングステンと、上記コバルトと、上記炭素添加材とが混在する造粒焼結粒子により構成されている。
かかる上記3種類の成分が混在する造粒焼結粒子、例えば上記炭化タングステンからなる粒子(一次粒子といえる。以下同じ。)と、上記コバルトからなる粒子と、上記炭素添加材を構成する粒子とが混在する造粒焼結粒子とが混在する造粒焼結粒子(二次粒子といえる。以下同じ。)により構成された粉末材料によると、炭素成分の効果的な補充が実現され、η相の形成をより効果的に抑制することができる。
好ましくは、上記造粒焼結粒子の平均粒子径は10μm以上30μm以下であり、ここで、該造粒焼結粒子を構成する粒子(一次粒子)として、平均粒子径が1μm未満である上記炭化タングステンからなる粒子と、平均粒子径が2μm以上10μm以下である上記コバルトからなる粒子と、平均粒子径が1μm以上5μm以下である上記炭素添加材を構成する粒子とを含む。
このように規定される粒子径の造粒焼結粒子によって、η相の形成をより効果的に抑制することができる。
【0013】
また、本教示は、ここで開示されるいずれかの粉末材料を用いて積層造形を行うことを特徴とする造形物の製造方法を提供する。上記のとおり、ここで開示される技術によると、WC-Coを構成要素とする超硬合金から構成された機械的特性に優れた積層造形物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る粉末積層造形装置の簡略図である。
図2】炭素添加量と造形物におけるη相の形成抑制度合いとの関係を示すXRDチャートである。
図3】一実施例に係る粉末材料を使用して作製したキューブ状造形物(焼成体)の断面を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、明細書において数値範囲を示す「X~Y」との表記は、特筆しない限り「X以上Y以下」を意味するものとする。
【0016】
<定義>
本明細書において、「粉末材料」とは、積層造形に用いられる粉末状の材料をいう。ここで開示される粉末材料は、WC/Co含有粉末材料、即ち、炭化タングステンとコバルトが主要構成要素である積層造形用粉末材料(即ち、質量基準で粉末材料全体のうちの最大構成成分がWC+Coである積層造形用粉末材料)である。
本明細書において、「一次粒子」とは、上記粉末材料を構成している形態的な構成要素のうち、外観から粒状物として識別できる最小単位を意味する。従って、ここで開示されるWC/Co含有粉末材料が二次粒子(例えば造粒粒子)を含む場合は、該二次粒子を構成する粒子が一次粒子と呼称され得る。ここで「二次粒子」とは、一次粒子が三次元的に結合され、一体となって一つの粒のように振る舞う粒子状物(粒子の形態をなしたもの)をいう。造粒された粒子や造粒後に焼結された造粒焼結粒子は、ここでいう「二次粒子」の典型例である。
【0017】
なお、ここでいう「結合」は、直接的または間接的に、2つ以上の一次粒子が結びつくことを指し、例えば、化学反応による一次粒子同士の結合、単純吸着によって一次粒子同士が引き合う結合、一次粒子表面の凹凸に接着材等を入り込ませるアンカー効果を利用した結合、静電気により引き合う効果を利用した一次粒子同士の結合、一次粒子の表面が溶融して一体化した結合等が含まれる。
また、 本明細書において、「原料粒子」という場合は、ここで開示される粉末材料を形成するために用いられる原料段階の粉末を構成する粒子をいう。
本明細書において、粉末材料に関する「平均粒子径」とは、特に断らない限り、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布における積算値50%での平均粒子径(50%体積平均粒子径;D50)を意味する。
【0018】
<粉末材料の構成>
上述のとおり、ここで開示される粉末材料は、炭化タングステンと、コバルトと、炭素を主要構成元素として含む炭素添加材(即ち、質量基準で炭素が最大の構成元素である材料)とを含むWC/Co含有粉末材料である。
かかる粉末材料の好適な一形態として、例えば、原料粒子としてのWC粒子、Co粒子、および、炭素添加材を構成する粒子を混合することによって調製されたものが挙げられるが、この形態に限られない。
例えば、原料粒子としてのWC粒子(粉末)に予め炭素成分が過剰に添加されたことによって、WCの化学量論的組成比を上回る量のCが存在する高炭素配合タイプのWC粉末(HighC-WC粉末)を採用してもよい。ここで開示される粉末材料の一形態において、かかるHighC-WC粉末は、炭化タングステンと炭素添加材とが合一された構成要素といえるものである。
【0019】
炭化タングステンの原料粒子からなるWC粉末(HighC-WC粉末でもよい。)としては、超硬合金形成用として市販されている種々のWC粉末材料を使用することができる。好ましくは、平均粒子径が1μm未満(例えば0.05~0.5μm、特には0.1~0.3μm)であるような炭化タングステン原料粒子を用いることができる。このような微小なサイズの炭化タングステン原料粒子からなるWC粉末を採用することによって、より緻密なWC-Co系合金からなる積層造形物を製造することができる。
また、ここで開示される粉末材料の製造に用いられるコバルトの原料粒子からなるCo粉末としては、粉末冶金や超硬合金材の製造用途に用いられている従来のCo粉末を特に制限なく用いることができる。平均粒子径が1μm以上(例えば2μm以上)であって10μm以下(例えば5μm以下)程度の粒度範囲のCo粉末を好ましく用いることができる。
【0020】
ここで開示される粉末材料は、炭素(C)を主要構成元素として含む炭素添加材が上述した炭素含有率A(質量%)に基づいて決定される規定量添加されていることを特徴とする。
好適な炭素添加材として、常温で固体の炭素材料(好ましくは粒子状の固体炭素材料)が挙げられる。かかる固体炭素材料としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、活性炭、カーボンファイバー(PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、黒鉛繊維等)、ナノカーボン類(カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン、ダイヤモンド微粒子等)が挙げられる。この種の固体炭素材料は、上記HighC-WC粉末を製造する際にも炭素成分供給源として用いられ得る。
【0021】
或いは、好適な炭素添加材の他の形態として、WCおよびCoとともに硬い合金を構成し得る金属元素の炭化物が挙げられる。このような金属炭化物は、WCおよびCoとともに積層造形される際のレーザ光、電子ビーム等の照射エネルギーにより炭素供給源として機能し得る化合物である。特に限定するものではないが、かかる金属炭化物として、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)およびモリブデン(Mo)のうちのいずれかの金属の炭化物が挙げられる。
上述した固体炭素材料または金属炭化物からなる炭素添加材として、平均粒子径が0.5μm以上(例えば1μm以上)であって10μm以下(例えば5μm以下)程度の粒度範囲の粒子状炭素添加材が特に好ましく用いられ得る。
或いはまた、後述するように、ここで開示される粉末材料の製造のために用いられるバインダ等の任意成分のなかには、炭素添加材として機能するものも含まれ得る。例えば、バインダとして使用され得る有機材料であって、最終的に製造された粉末材料に残留する炭素成分は、炭素含有率Aの決定において炭素添加材(バインダ等)由来のCの質量として考慮される。
【0022】
ここで開示される粉末材料は、炭化タングステンおよびコバルトを主成分とする積層造形用の粉末材料(WC/Co含有粉末材料)であり、良好なWC-Co系合金が形成され得る限り、粉末材料全体のうちのWCおよびCoの含有量(質量基準)は特に限定されない。例えば、WCは、粉末材料全体の60質量%以上が適当であり、70質量%以上が好ましく、75質量%以上が特に好ましい。
他方、Coは、粉末材料全体の10質量%以上が適当であり、15質量%以上が好ましく、15質量%以上が特に好ましい。WC含有量が低くなりすぎないようにする観点から、40質量%以下が適当であり、30質量%以下が好ましく、25質量%以下が特に好ましい。例えば、粉末材料全体においてWCが80~85質量%であり且つCoが15~20質量%であるものは良好なWC-Co系超硬合金が得られ得るため、特に好適な実施形態である。
【0023】
また、ここで開示される粉末材料に添加される炭素添加材の添加量は、以下の式:
(WC由来のCの質量+炭素添加材由来のCの質量)/(WCの質量)×100;
で示される炭素含有率A(質量%)が所定の範囲となるように規定される。
かかる炭素含有率Aが6.4質量%以上であることが好適であり、6.6質量%以上が特に好ましい。また、Aは7.2質量%以下が好適であり、6.9質量%以下が特に好ましい。炭素含有率Aが、6.4質量%よりも低すぎると、Cの不足量を補えない虞があり、η相の形成抑制効果が低下するため好ましくない。また、炭素含有率Aが、7.2質量%よりも高すぎると、逆にCの存在量が過剰になってWC-Co系超硬合金の形成に不利になる虞があり好ましくない。
【0024】
ここで開示される粉末材料は、炭素含有率Aが所定の範囲に設定可能であり、且つ、良好なWC-Co系合金が形成され得る限りにおいて、他の任意成分を含み得る。例えば、積層造形時において炭素添加材として機能しないもの(炭素添加材として機能し得るものは本技術においては炭素添加材の範疇に包含される。)であるバインダ、分散剤、界面活性剤、無機顔料、有機顔料、等が挙げられる。
【0025】
<粉末材料の調製>
ここで開示される粉末材料は、例えば、炭化タングステン(WC)からなる原料粒子、コバルト(Co)からなる原料粒子、および、炭素(C)を主要構成元素として含む炭素添加材を構成する原料粒子(HighC-WC粉末を使用する場合は独立して炭素添加材を構成する原料粒子がなくてもよい。)を、他の任意成分と合わせて混合することによって調製することができる。かかる混合粉体からなる材料は、ここで開示されるWC/Co含有粉末材料の一典型例である。
【0026】
しかしながら、より好適な粉末材料は、上記の各成分が混在する造粒焼結粒子により構成される粉末材料である。典型的には、各成分の原料粒子(一次粒子)を混合して造粒し、さらに焼結して形成された各一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子としての造粒焼結粒子により構成される粉末材料である。以下、かかる造粒焼結粒子を好適に製造する造粒焼結法の一例を説明するが、該方法に限定されない。
【0027】
<造粒焼結粒子の製造>
造粒焼結法は、原料粒子を二次粒子の形態に造粒した後、焼結して、原料粒子同士を結合(焼結)させる手法である。かかる造粒焼結法において、造粒は、例えば、乾式造粒あるいは湿式造粒等の造粒方法を利用して実施することができる。造粒方法としては、例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹枠造粒法、破砕造粒法、溶融造粒法、噴霧造粒法、マイクロエマルション造粒法等が挙げられる。なかでも好適な造粒方法として、噴霧造粒法が挙げられる。
【0028】
噴霧造粒法によると、例えば、以下の手順で粉末材料を製造することができる。即ち、先ず、炭化タングステン、コバルトおよび炭素添加材にそれぞれ対応する種類の原料粒子を用意し、必要に応じてその表面を保護剤等により安定化させる。そしてかかる安定化された原料粒子を、例えば任意成分としてのバインダ等の有機材料からなるスペーサー粒子等とともに適切な溶媒に分散させて噴霧液を用意する。原料粒子の溶媒への分散には、例えば、ホモジナイザー、翼式撹拌機等の混合機、分散機等を用いて実施することができる。そして、超音波噴霧機等を利用して該噴霧液から液滴を形成し、かかる液滴を気流に載せて噴霧乾燥装置(スプレードライヤー)を通過させることにより、造粒粒子を形成することができる。
得られた造粒粒子を、所定の焼成炉に導入して、焼結させることによって、一次粒子が間隙をもって結合された二次粒子の形態の造粒焼結粒子からなる粉末材料を得ることができる。なお、ここで一次粒子は、原料粒子とほぼ同等の寸法および形状を有していても良いし、原料粒子が焼成により成長・結合されていてもよい。
【0029】
なお、上記の製造工程において、液滴が乾燥された状態では、原料粒子とバインダとが均一な混合状態にあり、原料粒子はバインダにより結着されて混合粒子を構成している。スペーサー粒子を使用する場合は、原料粒子とスペーサー粒子とが均一な混合状態でバインダにより結着されて混合粒子を構成している。そして、この混合粒子が焼成されることで、バインダ(およびスペーサー粒子)が消失する(燃えぬける)とともに、原料粒子が焼結されることで、一次粒子が間隙をもって結合された形態の二次粒子が形成される。
なお、焼結に際し、原料粒子はその組成や大きさによっては一部が液相となって他の粒子との結合に寄与し得る。そのため、出発材料の原料粒子よりも一次粒子の平均粒子径は大きくなる場合がある。二次粒子および一次粒子の平均粒子径や、一次粒子間に形成される間隙の大きさおよび割合は、所望の二次粒子の形態に応じて設計することができる。
【0030】
上記の製造工程において、調整される噴霧液の原料粒子の濃度は、10~40質量%であることが好ましい。また、添加されるバインダとしては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。添加するバインダは、原料粒子の質量に対して0.05~10質量%(例えば1~5質量%)の割合で調整されることが好ましい。焼成される環境は、特に制限はされないが、大気中、真空中もしくは不活性ガス雰囲気中であってもよく、600℃以上1600℃以下の温度で焼結されることが好ましい。特に、有機材料等からなるスペーサー粒子、バインダ等を用いる場合は、造粒粒子中の有機材料を除去する目的で酸素が存在する雰囲気下で焼結されてもよい。必要に応じて、製造された二次粒子を、解砕および分級してもよい。
【0031】
こうして製造される粉末材料を構成する造粒焼結粒子における強度(以下「顆粒強度」という。)は、1kgf/mm以上であることが好ましく、5kgf/mm以上であることがさらに好ましく、10kgf/mm以上(例えば、20kgf/mm以上)であることが特に好ましい。これにより、造形のためのエネルギーにより造粒焼結粉が崩壊したり、飛散したりするのを好適に抑制することができる。その結果、造形エリアへの粉末材料の供給が安定するため、ムラの無い高品質な造形物を造形することができる。
その一方で、顆粒強度が過剰に強すぎると、粉末材料を十分に溶融させるのが困難となるために好ましくない。かかる観点から、顆粒強度は500kgf/mm未満が適当であり、300kgf/mm以下であることが好ましく、200kgf/mm以下であることがさらに好ましく、100kgf/mm以下(例えば、50kgf/mm以下)であることが特に好ましい。
【0032】
<積層造形法>
ここで開示される粉末材料(WC/Co含有粉末材料)は、従来のWC-Co系合金からなる積層造形物を製造する場合と同様の積層造形法に用いることができる。
かかる積層造形法の典型例として、レーザ粉体肉盛法(レーザメタルデポジション法ともいう;LMD)や粉末床溶融結合法(PBF)が挙げられる。粉末床溶融結合法(PBF)は、照射エネルギーとしてレーザを使用する選択的レーザ溶融法(セレクトレーザメルティング法;SLM)と、照射エネルギーとして電子ビームを使用する電子ビーム溶融法(エレクトロンビームメルティング法;EBM)を包含する。
【0033】
レーザ粉体肉盛法は、構造物の所望の部位に粉末材料を提供して、そこにレーザ光を照射することで粉末材料を溶融・凝固させ、当該部位に肉盛りを行う(即ち造形物を製造する)技術である。この手法を利用することで、例えば、構造物に摩耗等の物理的な劣化が発生した場合に、当該劣化部位に粉末材料として当該構造物を構成する材料または補強材料等を供給し、その粉末材料を溶融・凝固させることで劣化部位等に肉盛りを行うことができる。
粉末床溶融結合法は、設計図から作成したスライスデータに基づき、粉末材料を堆積させた粉末層にレーザ光若しくは電子ビームを走査させ、粉末層を所望形状に溶融・凝固する操作を、1断面(1スライスデータ)ごとに繰り返して積層させることで三次元的な構造体を造形することができる。
【0034】
ここで開示される粉末材料を用いた粉末積層造形による造形物の製造方法の一例を、図1を参照しつつ説明する。
図1は粉末積層造形のための積層造形装置の簡略図である。この図に示されるように、大まかな構成として、積層造形装置は、積層造形が行われる空間である積層エリア10と、粉末材料を貯留しておくストック12と、積層エリア10への粉末材料の供給を補助するワイパ11と、粉末材料を固化するための固化手段(炭酸ガスレーザ、YAGレーザ等のレーザ発振器やビーム照射器等のエネルギー照射手段)13と、を備えている。
積層エリア10は、典型的には、外周が囲まれた造形空間内を造形面より下方に有し、この造形空間内に昇降可能な昇降テーブル14を備えている。この昇降テーブル14は、所定厚みΔt1ずつ降下することができ、この昇降テーブル14上に目的の造形物を造形してゆく。ストック12は、積層エリア10の傍に配置され、例えば、外周が囲まれた貯留空間内に、シリンダー等によって昇降可能な底板(昇降テーブル)を備えている。底板が上昇することで、所定量の粉末材料を造形面に供給(押し出し)することができる。
【0035】
かかる積層造形装置では、昇降テーブル14を造形面より所定厚みΔt1だけ下げた状態で積層エリア10へ粉末材料層20を供給することで、所定厚みΔt1の粉末材料層20を用意することができる。このとき、造形面にワイパ11を走査させることで、ストック12から押し出された粉末材料を積層エリア10上に供給するとともに、粉末材料の表面を平坦化して、均質な粉末材料層20を形成することができる。そして、例えば、形成された第1層目の粉末材料層20に対し、第1層目のスライスデータに対応した固化領域にのみ、固化手段13を介してレーザ光、電子ビーム等のエネルギーを照射することで、粉末材料を所望の断面形状に溶融または焼結し、第1層目の粉末固化層21を形成することができる。
【0036】
次いで、昇降テーブル14を所定厚みΔt1だけ下げて再度粉末材料を供給し、ワイパ11でならすことで第2層目の粉末材料層20を形成する。そしてこの粉末材料層20の第2層目のスライスデータに対応した固化領域にのみ、固化手段13を介してエネルギーを照射することにより粉末材料を固化させて第2層目の粉末固化層21を形成する。このとき、第2層目の粉末固化層21と、下層である第1層目の粉末固化層21とが一体化されて第2層目までの積層体が形成される。引き続き、昇降テーブル14を所定厚みΔt1だけ下降させて新たな粉末材料層20を形成し、固化手段13を介してエネルギーを照射して所要箇所のみに粉末固化層21を形成する。このように、積層造形装置は、この工程を繰り返すことで、予め用意した設計図(3DのCADデータ)から作成したスライスデータに基づき目的とする三次元造形物を製造することができる。
以上に説明したように、ここで開示される粉末材料によると、上述したような積層造形プロセスによってη相(CoC)の形成が抑制され、割れや欠けが少なく高硬度のWC-Coを主体とする超硬合金三次元造形物を製造することができる。
【0037】
以下、ここで開示される粉末材料および造形物の製造に関する実施例を説明するが、本技術を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0038】
<試験例>
原料粉末として、平均粒子径(D50)が約0.2μmの炭化タングステン(WC)粉末と、平均粒子径(D50)が約5μmのコバルト(Co)粉末とを用意した。そして、粉末材料全体の17質量%がCo粉末であり、1質量%がバインダ(CMC)であり、残部がWC粉末となるように配合し、得られた配合粉末を湿式混合後、スプレードライヤーにより造粒した。得られた造粒粒子を焼結し、造粒焼結粒子(二次粒子)からなる粉末材料を製造した。かかる粉末材料を本試験例に係るサンプルAとする。上記のとおり、サンプルAは、炭素添加材は含まれていない。
次に、サンプルAと同じ組成の混合粉末に対し、炭素添加材として黒鉛粒子(D50:約4μm)、炭化バナジウム(VC)粒子(D50:約4μm)のうちの1種または2種を適宜組合せたものを計6とおりのそれぞれ異なる配合比で配合し、相互に炭素含有率が異なる計6種類の造粒焼結粒子からなる粉末材料を調製した。これらを炭素含有率が低い順からサンプルA、サンプルB、サンプルC、サンプルD、サンプルE、サンプルF、サンプルG(A<B<C<D<E<F<G)とした。
【0039】
次いで、サンプルA~Gの粉末材料をそれぞれ供試し、単純なキューブ状の積層造形物を市販の積層造形装置(製品名:ProX DMP200、3DSystem社製品)を用いて作製した。
即ち、平らに敷いた粉末材料にレーザ光を照射し、一層ずつ溶融させ、この工程を繰り返すことでキューブ状造形物を作製した。本試験例では、出力300W、走査速度300mm/s、ピッチ幅0.1mm、1層あたりの積層厚さは30μmとした。
積層造形後、得られた造形物について焼成処理(加熱処理)を行った。即ち、減圧雰囲気中(10Pa)、1380℃で2時間(連続)の焼成処理を行った。
【0040】
次いで、得られた造形物の焼成体に対してXRD(X線回折)測定を行った。そして、XRDチャートからCoC(η相)を示すピーク(40.1°)の強度をサンプルA~G間で比較した。結果を図2に示す。
図示される各サンプルの40.1°付近のピーク(即ちη相を示すピーク)高さの比較から明らかなように、炭素含有率が相対的に低い粉末材料であるサンプルA,B,C,Dから作製された造形物の組織中にはη相が形成されていることが明確に認められた。他方、炭素含有率が相対的に高い粉末材料であるサンプルE,F,Gから作製された造形物の組織中にはη相の形成を示すピークは認められなかった。
かかる結果は、所定量の炭素添加材を添加することによって、WC-Co系合金からなる造形物の組織中に脆性層であるη相が形成されるのを抑制できることを示している。
【0041】
<製造例>
(サンプル1)
原料粉末として、平均粒子径(D50)が約0.2μmの炭化タングステン(WC)粉末と、平均粒子径(D50)が約5μmのコバルト(Co)粉末と、炭素添加材として平均粒子径(D50)が約4μmの黒鉛(C)粉末を用意した。バインダとしてCMCを用意した。
そして、粉末材料全体の17質量%がCo粉末であり、1質量%がCMCであり、0.56質量%が黒鉛粉末であり、残部がWC粉末となるように配合し、得られた配合粉末を湿式混合後、スプレードライヤーにより造粒した。得られた造粒粒子を焼結し、造粒焼結粒子(二次粒子)からなる粉末材料を製造した。かかる粉末材料を本製造例に係るサンプル1とする。
【0042】
(サンプル2~7)
原料粉末として、平均粒子径(D50)が約4μmの炭化バナジウム(VC)粉末をさらに用意し、粉末材料全体の17質量%がCo粉末であり、1質量%がCMCであり、1質量%がVCであり、0.28質量%が黒鉛粉末であり、残部がWC粉末となるように配合した以外は、サンプル1と同様のプロセスにより、サンプル2の粉末材料を製造した。
また、粉末材料全体の17質量%がCo粉末であり、1質量%がCMCであり、0.84質量%が黒鉛粉末であり、残部がWC粉末となるように配合した以外は、サンプル1と同様のプロセスにより、サンプル3の粉末材料を製造した。
また、粉末材料全体の17質量%がCo粉末であり、1質量%がCMCであり、3質量%がVCであり、0.14質量%が黒鉛粉末であり、残部がWC粉末となるように配合した以外は、サンプル1と同様のプロセスにより、サンプル4の粉末材料を製造した。
また、粉末材料全体の17質量%がCo粉末であり、1質量%がCMCであり、0.28質量%が黒鉛粉末であり、残部がWC粉末となるように配合した以外は、サンプル1と同様のプロセスにより、サンプル5の粉末材料を製造した。
また、粉末材料全体の17質量%がCo粉末であり、1質量%がCMCであり、0.14質量%が黒鉛粉末であり、残部がWC粉末となるように配合した以外は、サンプル1と同様のプロセスにより、サンプル6の粉末材料を製造した。
また、粉末材料全体の17質量%がCo粉末であり、1質量%がCMCであり、残部がWC粉末となるように配合した以外は、サンプル1と同様のプロセスにより、サンプル7の粉末材料を製造した。即ち、サンプル7の粉末材料には炭素添加材に相当する物質は添加されていない。
【0043】
製造したサンプル1~7の粉末材料(造粒焼結粒子)について、市販のレーザ回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定した。表1中の該当欄にD,D10,D50,D90およびD97の値を示した。
いずれのサンプルについても平均粒子径(D50)は15~20μmの範囲にあり、殆どの粒子が8~40μmの範囲に存在することが認められた。
【0044】
サンプル1~7の粉末材料(造粒焼結粒子)について、市販の蛍光X線分析法に基づく波長分散型蛍光X線分析装置(XRF-1800:株式会社島津製作所製品)を用いて、W、Co、V、不可避的不純成分(ここではFe、Zr)の定量分析を行った。
また、市販の炭素・硫黄分析装置(EMIA:株式会社堀場製作所製品)を用いて全体のC量(トータルC量)を測定した。そして、Wの定量値から化学量論的にWC由来のC量を算出し、全体C量から該WC由来のC量を差し引いたC量を、炭素添加材由来のC量とした。
こうして得られた各元素の含有率(質量%)を表1の該当欄に示す。また、表1の該当欄に上述した計算式に基づいて各サンプルの炭素含有率A(質量%)を記載している。
【0045】
また、サンプル1~7の粉末材料(造粒焼結粒子)について、電磁力負荷方式の圧縮試験機を用いて顆粒強度を測定した。具体的には、各サンプルの粉末材料を構成する10個以上の造粒焼結粒子をランダムにサンプリングし、市販の微小圧縮試験装置(MCT-500:株式会社島津製作所製品)を用いて測定した破壊強度の算術平均値を、顆粒強度(kgf/mm)とした。なお、造粒焼結粒子について、圧縮試験にて得られた臨界荷重をL[N]、平均粒子径をd[mm]としたとき、造粒焼結粒子の破壊強度σ[MPa]は、式:σ=2.8×L/π/d2、より算出することができる。各サンプルの顆粒強度(kgf/mm)を表1の該当欄に示す。
【0046】
次いで、サンプル1~7の粉末材料をそれぞれ供試し、単純なキューブ状の積層造形物を市販の積層造形装置(製品名:ProX DMP200、3DSystem社製品)を用いて作製した。即ち、試験例と同様、平らに敷いた粉末材料にレーザ光を照射し、一層ずつ溶融させ、この工程を繰り返すことでキューブ状造形物を作製した。本試験例では、出力300W、走査速度300mm/s、ピッチ幅0.1mm、1層あたりの積層厚さは30μmとした。
積層造形後、得られた造形物について焼成処理(加熱処理)を行った。即ち、減圧雰囲気中(10Pa)、1380℃で2時間(連続)の焼成処理を行った。
【0047】
次いで、得られた造形物の焼成体に対してXRD(X線回折)測定を行った。ここではXRD測定において、CoC(η相)を示すピーク(40.1°)の強度と、WCを示すピーク(35.6°)の強度とを検出し、これらのピーク比(CoC/WC)から、各サンプルの積層造形物(焼成体)におけるη相の形成の有無ならびに形成の程度を評価した。結果を表1の該当欄に示す。
表1の「η相の存在」欄において、XRD測定ピーク比(%)が0%であるものは、η相の存在が認められないため「無し」と記入しており、XRD測定ピーク比(%)が0ではないが1%未満のものは、η相の存在は認められるもののその存在割合は極僅かなレベルであるため「ほぼ無し」と記入している。
一方、XRD測定ピーク比(%)が1%以上3%未満のものは、η相の存在が僅かに認められるがその存在割合は機械的強度に実質的な影響を及ぼさない程度であるため「若干有り」と記入している。XRD測定ピーク比(%)が3%以上のものは、η相の存在が認められ、その存在割合はη相無しのものと比べて機械的強度に実質的な影響を及ぼし得る程度であるため「有り」と記入している。
【0048】
サンプル1のキューブ状造形物(焼成体)を積層方向に対して直交する方向に切断し、その断面をそれぞれ光学顕微鏡で観察した。図3は、該サンプル1の造形物(焼成体)の切断面を示す顕微鏡写真である。
【0049】
【表1】
【0050】
本製造例の結果を示す表1ならびに図3から明らかなように、WC/Co含有粉末材料に対してWCの化学量論的組成比を上回るC量となるように炭素添加材が添加されたサンプル1~6の粉末材料、具体的には炭素含有率A(質量%)が6.4≦A≦7.2の条件を具備するように炭素添加材(ここでは黒鉛、VC、CMC)が添加されたサンプル1~6の粉末材料を用いて積層造形により製造された造形物(焼成体)では、WC-Co系合金組織中にη相がまったく形成されないか、形成される場合であってもその程度はごく僅かであった。これにより、図3に示すように、割れや欠けの認められない緻密構造のWC-Co系合金組織からなる造形物を製造することができる。
炭素含有率AがほぼWCの化学量論的組成比であるサンプル7の粉末材料から製造された造形物では、組織中に比較的多量のη相が形成されており、機械的強度の向上は全く認められなかった。
詳細なデータは示していないが、特に炭素含有率A(質量%)が6.6≦A≦6.9の条件を具備するように黒鉛等の炭素添加材が添加されたサンプル1,2および5の粉末材料から製造した造形物(焼成体)の機械的特性(硬度等)は、他のサンプルの粉末材料から製造した造形物(焼成体)の機械的特性よりも優れていた。このことは、より好適な量の炭素添加材(換言すればより好適なC添加量)によって、過剰なC量をWC-Co系合金組織に含ませることなく該合金組織中にη相が形成されるのを効果的に抑制し得ることを示すものである。
【符号の説明】
【0051】
10 積層エリア
11 ワイパ
12 ストック
13 固化手段
14 昇降テーブル
20 粉末材料層
21 粉末固化層
図1
図2
図3