(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155989
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】基板の製造方法および表面処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 644C
H01L21/304 622Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059470
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 優一
【テーマコード(参考)】
5F057
5F157
【Fターム(参考)】
5F057AA21
5F057CA12
5F057DA03
5F057DA39
5F057FA37
5F057GA02
5F157AA96
5F157BA08
5F157BA31
5F157BD02
5F157BE12
5F157BF48
5F157BF49
5F157BF52
5F157BF56
5F157BF59
5F157BF63
5F157BF72
5F157DB03
5F157DB14
(57)【要約】
【課題】シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去しうる手段を提供する。
【解決手段】シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に、水溶性高分子を含む層を形成することを含む、基板の製造方法であって、前記水溶性高分子を含む層の厚さが2nm以上22nm以下である、基板の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に、水溶性高分子を含む層を形成することを含む、基板の製造方法であって、
前記水溶性高分子を含む層の厚さが2nm以上22nm以下である、基板の製造方法。
【請求項2】
SiO2プローブを用いて原子間力顕微鏡で測定したときの、前記SiO2プローブに対する前記水溶性高分子を含む層の接着強度が5.0nN以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子を含む層の形成は、前記水溶性高分子を含む表面処理組成物を用いて前記研磨済研磨対象物の表面をリンス研磨処理することを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記リンス研磨処理の際の研磨圧力は、0.2psiを超えて5psi未満である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性高分子はノニオン性水溶性高分子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性高分子を含む表面処理組成物は、界面活性剤をさらに含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記界面活性剤はノニオン性界面活性剤である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を、水溶性高分子を含む表面処理組成物を用いて表面処理し、前記シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に、前記水溶性高分子を含む層を形成することを含む、表面処理方法であって、
前記水溶性高分子を含む層の厚さが2nm以上22nm以下である、表面処理方法。
【請求項9】
前記表面処理はリンス研磨処理である、請求項8に記載の表面処理方法。
【請求項10】
前記リンス研磨処理の際の研磨圧力は、0.2psiを超えて5psi未満である、請求項9に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の製造方法および表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカ、アルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、酸化珪素、窒化珪素や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
CMP工程後の半導体基板表面には、不純物(「異物」または「ディフェクト」とも称する)が多量に残留している。不純物には、CMPで使用された研磨用組成物由来の砥粒、金属、防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料、金属配線やプラグ等を研磨することによって生じたシリコン含有材料や金属、さらには各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物などが含まれる。
【0004】
半導体基板表面がこれらの不純物により汚染されると、半導体の電気特性に悪影響を与え、デバイスの信頼性が低下する可能性がある。したがって、CMP工程後に洗浄工程を導入し、半導体基板表面からこれらの不純物を除去することが望ましい。
【0005】
かような洗浄用組成物として、例えば、特許文献1には、ポリカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸と、スルホン酸型アニオン性界面活性剤と、カルボン酸型アニオン性界面活性剤と、水とを含有する、半導体基板用の洗浄用組成物が開示されており、これによって、基板表面を腐食することなく、異物を除去しうることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の洗浄において、異物(残渣)を十分に除去できないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に、特定範囲の厚さを有する水溶性高分子を含む層を形成することを含む基板の製造方法により上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に、水溶性高分子を含む層を形成することを含む、基板の製造方法であって、前記水溶性高分子を含む層の厚さが2nm以上22nm以下である、基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去しうる手段が提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に、水溶性高分子を含む層を形成することを含む、基板の製造方法であって、前記水溶性高分子を含む層の厚さが2nm以上22nm以下である、基板の製造方法である。かような本発明の製造方法によれば、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去することができる。
【0013】
本発明者らは、かような構成によって、研磨済研磨対象物の表面における残渣が除去されうるメカニズムを以下のように推測している。
【0014】
すなわち、研磨済研磨対象物の表面に水溶性高分子を含む層(以下、単に「水溶性高分子層」とも称する)を形成することにより、研磨済研磨対象物表面への残渣(汚染物質)の再付着を防止することができる。さらに、当該水溶性高分子層の厚さを、2nm以上22nm以下とすることにより、研磨済研磨対象物表面上の水溶性高分子と、残渣との付着力(接着力)が低下し、研磨済研磨対象物表面上の水溶性高分子からの残渣の脱離が容易になり、結果として研磨済研磨対象物の表面から残渣を十分に除去することができると考えられる。
【0015】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0016】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0017】
<残渣>
本明細書において、残渣とは、研磨済研磨対象物の表面に付着した異物を表す。残渣の例は、特に制限されないが、例えば、後述する有機物残渣、研磨用組成物に含まれる砥粒由来のパーティクル残渣、パーティクル残渣および有機物残渣以外の成分からなる残渣、パーティクル残渣および有機物残渣の混合物等のその他の残渣等が挙げられる。
【0018】
総残渣数とは、種類によらず、全ての残渣の総数を表す。総残渣数は、ウェーハ欠陥検査装置を用いて測定することができる。残渣数の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0019】
本明細書において、有機物残渣とは、研磨済研磨対象物表面に付着した異物のうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機物や有機塩等からなる成分を表す。
【0020】
研磨済研磨対象物に付着する有機物残渣は、例えば、後述の研磨工程もしくはリンス研磨工程において使用したパットから発生するパッド屑、または研磨工程において用いられる研磨用組成物もしくはリンス研磨工程において用いられるリンス研磨用組成物に含まれる添加剤に由来する成分等が挙げられる。
【0021】
なお、有機物残渣とその他の異物とは色および形状が大きく異なることから、異物が有機物残渣であるか否かの判断は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)SU8000(株式会社日立ハイテク製)を用いたSEM観察によって目視にて行うことができる。また、異物が有機物残渣であるか否かの判断は、必要に応じて、SEMに付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析にて判断してもよい。有機物残渣数は、ウェーハ欠陥検査装置、およびSEMまたはEDX元素分析を用いて測定することができる。
【0022】
<研磨済研磨対象物>
本明細書において、研磨済研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程は、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。
【0023】
本発明に係る研磨済研磨対象物は、シリコン含有材料を含む層を有する。シリコン含有材料の例としては、例えば、単体シリコン、シリコン化合物が挙げられる。単体シリコンの例としては、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)、アモルファスシリコン等が挙げられる。シリコン化合物の例としては、例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素、炭化ケイ素、シリコンゲルマニウム等が挙げられる。シリコン含有材料には、比誘電率が3以下である低誘電率材料も含まれる。また、n型不純物ドープトポリシリコン、p型不純物ドープトポリシリコンも、本発明に係る研磨済研磨対象物の概念に含まれる。これらシリコン含有材料は、1種単独でも、または2種以上の組み合わせであってもよい。
【0024】
本発明に係る研磨済研磨対象物は、シリコン含有材料を含む層を有していれば、他の材料を含んでいてもよい。他の材料の例としてはカーボンや金属が挙げられる。さらに、カーボンの例としては、結晶性カーボン、アモルファスカーボンが挙げられる。金属の例としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、ハフニウム、コバルト、ニッケル、チタン、タンタル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。これらの金属は、合金または金属化合物の形態で含まれていてもよい。これら金属は、1種単独でも、または2種以上の組み合わせであってもよい。
【0025】
[基板の製造方法]
本発明の基板の製造方法は、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に、厚さが2nm以上22nm以下である水溶性高分子を含む層を形成することを含む。この水溶性高分子を含む層を形成する方法は、特に制限されないが、該水溶性高分子を含む表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面を処理する方法であることが好ましい。
【0026】
以下では、上記の表面処理組成物およびその製造方法、ならびに該表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面を処理する方法(表面処理方法)について説明する。
【0027】
(表面処理組成物)
本発明に係る表面処理組成物は、水溶性高分子を含むことが好ましい。ここでいう水溶性高分子とは、同一の繰り返し構成単位を有する水溶性の高分子(単独重合体;ホモポリマー)、または相異なる繰り返し構成単位を有する水溶性の高分子(共重合体;コポリマー)をいい、典型的には重量平均分子量(Mw)が1000以上の化合物であり得る。水溶性高分子として用いられるポリマーの種類は、特に制限はなく、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれも使用可能である。また、水溶性高分子が共重合体である場合の共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体、および周期的共重合体のいずれであってもよい。
【0028】
アニオン性水溶性高分子の例としては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリメタリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等が挙げられる。
【0029】
カチオン性水溶性高分子としては、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリビニルピリジン、カチオン性のアクリルアミドの重合体等が挙げられる。ポリアリルアミンの具体例としては、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等を用いることができる。
【0030】
ノニオン性水溶性高分子の例としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリアミン類、ポリビニルエーテル類(ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテルなど)、ポリアルキレンオキサイド類(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなど)、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、水溶性セルロース(ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース)などの多糖類、アルギン酸多価アルコールエステル、水溶性尿素樹脂、デキストリン誘導体、カゼイン等が挙げられる。また、このような主鎖構造を有するもののみならず、ノニオン性ポリマー構造を側鎖に有するグラフト共重合体も好適に用いることができる。
【0031】
両性水溶性高分子の例としては、例えば、アニオン性基を有するビニル単量体とカチオン性基を有するビニル単量体との共重合体、カルボキシベタイン基またはスルホベタイン基を有するビニル系の両性高分子等が挙げられ、具体的には、アクリル酸/ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体、アクリル酸/ジエチルアミノエチルメタクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0032】
さらには、上記で例示した水溶性高分子の共重合体も用いることができる。
【0033】
水溶性高分子は、1種単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。また、水溶性高分子は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0034】
これら水溶性高分子の中でも、リンス研磨後に基板から脱離しやすくする観点で、ノニオン性水溶性高分子が好ましく、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリN-ビニルアセトアミド、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、およびエチルセルロースがより好ましい。
【0035】
該水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)の下限は、1,000以上であることが好ましく、1,500以上であることがより好ましく、2,000以上であることがさらに好ましく、5,000以上であることがさらにより好ましい。また、該水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)の上限は、1,500,000以下であることが好ましく、800,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることがさらに好ましく、100,000以下であることがさらにより好ましく、80,000以下であることが特により好ましい。なお、水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いたポリエチレングリコール換算の値として測定することができる。
【0036】
表面処理組成物中の水溶性高分子の含有量は、使用する水溶性高分子の種類に応じて適宜設定されるが、含有量の下限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましい。また、表面処理組成物中の水溶性高分子の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。
【0037】
なお、表面処理組成物が2種以上の水溶性高分子を含む場合、水溶性高分子の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0038】
<界面活性剤>
本発明に係る表面処理組成物は、本発明の効果をより向上させるという観点で、界面活性剤をさらに含むことが好ましい。界面活性剤の種類は、特に制限はなく、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、および両性の界面活性剤のいずれであってもよい。
【0039】
ノニオン性界面活性剤の例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型等が挙げられる。その他、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、モノエタノールアミン、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、3級アセチレングリコール、アルカノールアミド等も、ノニオン性界面活性剤として用いることができる。
【0040】
アニオン性界面活性剤の例としては、例えば、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルスルホン酸ナトリウム等の硫酸エステル型;ラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル型;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸型等が挙げられる。
【0041】
カチオン性界面活性剤の例としては、例えば、ラウリルアミン塩酸塩等のアミン類;ポリエトキシアミン、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩類;ラウリルビリジニウムクロライド等のピリジウム塩等が挙げられる。
【0042】
両性界面活性剤の例としては、例えば、レシチン、アルキルアミンオキシド、N-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムベタイン等のアルキルベタインやスルホベタイン等が挙げられる。
【0043】
界面活性剤は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。また、界面活性剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0044】
これら界面活性剤の中でも、ノニオン性またはアニオン性の界面活性剤が好ましく、リンス研磨後に基板から脱離しやすくする観点で、ノニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0045】
表面処理組成物が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量の下限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましい。また、表面処理組成物中の水溶性高分子の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、5.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
なお、表面処理組成物が2種以上の界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0047】
<溶媒>
本発明に係る表面処理組成物は、溶媒を含むことができる。溶媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。溶媒は、水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。また、溶媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、例えば、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0048】
表面処理組成物中の水の含有量は特に限定されないが、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましく、95質量%以上が特に好ましく、97質量%以上が最も好ましく、例えば、99質量%以上であってもよい。表面処理組成物中の水の含有量が上記範囲であれば、本発明の効果がより発揮される傾向にある。
【0049】
水は、研磨済研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを防ぐという観点で、残渣をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる残渣イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0050】
<他の添加剤>
本発明に係る表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。ただし、本発明に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、残渣の原因となりうるためできる限り含有しないことが望ましいため、その含有量はできる限り少ないことが好ましい。他の添加剤の例としては、特に制限されないが、例えば、砥粒、防腐剤、還元剤、酸化剤等が挙げられる。
【0051】
<pHおよびpH調整剤>
本発明に係る表面処理組成物のpHの下限値は、特に制限されないが、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましく、4以上であることがさらにより好ましく、5以上であることが特に好ましい。また、pHの上限値は、特に制限されないが、12以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましく、9以下であることがさらにより好ましく、8以下であることが特に好ましく、7以下であることが最も好ましく、例えば6以下であってもよい。この範囲であると、研磨装置や接触する研磨パッドなどの消耗部材を劣化させる可能性がより低下し、劣化により生じた生成物により、残渣の発生や、傷などが発生する可能性もより低下する。なお、表面処理組成物のpH値は、pHメーター(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認することができる。
【0052】
表面処理組成物のpH値は、pH調整剤により調整することができる。
【0053】
pH調整剤は、特に制限されず、表面処理組成物の分野で用いられる公知のpH調整剤を用いることができる。これらの中でも、公知の酸、塩基、またはこれらの塩等を用いることが好ましい。pH調整剤の例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、アミノ酸、アントラニル酸等のカルボン酸や、スルホン酸、有機ホスホン酸等の有機酸;硝酸、炭酸、塩酸、リン酸、次亜リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸などの無機酸;水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属の水酸化物;第2族元素の水酸化物;アンモニア(水酸化アンモニウム);水酸化第四アンモニウム化合物等の有機塩基等が挙げられる。
【0054】
pH調整剤は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。また、これらpH調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0055】
表面処理組成物中のpH調整剤の含有量は、所望の表面処理組成物のpH値となるような量を適宜選択すればよい。
【0056】
(表面処理組成物の製造方法)
本発明に係る表面処理組成物の製造方法は、好ましくは本発明に係る水溶性高分子と、溶媒と、必要に応じて他の成分とを混合することを含む。例えば、本発明に係る水溶性高分子と、溶媒と、必要に応じて他の成分とを、攪拌混合することにより、本発明に係る表面処理組成物を得ることができる。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0057】
[表面処理方法]
上記したように、本発明の基板の製造方法は、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に、厚さが2nm以上22nm以下である水溶性高分子を含む層を形成することを含む。この水溶性高分子を含む層を形成する方法は、特に制限されないが、該水溶性高分子を含む表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面を処理する表面処理方法であることが好ましい。よって、本発明の他の一形態によれば、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を、水溶性高分子を含む表面処理組成物を用いて処理し、前記シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に、前記水溶性高分子を含む層を形成することを含む、表面処理方法であって、前記水溶性高分子を含む層の厚さが2nm以上22nm以下である、表面処理方法を提供する。
【0058】
本明細書において、表面処理とは、研磨済研磨対象物の表面における残渣を除去する処理をいい、広義の洗浄を行う処理を表す。本発明の一形態に係る表面処理方法は、表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。表面処理は、特に制限されないが、例えば、リンス研磨処理または洗浄処理によって行われることが好ましい。
【0059】
本発明の一形態に係る表面処理方法は、リンス研磨処理による方法であることが好ましい。この理由は、所望の厚さを有する水溶性高分子の層をより効率よく得ることが可能となるためである。
【0060】
本明細書において、リンス研磨処理とは、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物の作用により、研磨済研磨対象物の表面に水溶性高分子の層を形成する処理および研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。リンス研磨処理の具体例としては、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、研磨済研磨対象物を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨済研磨対象物と研磨パッドとを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら、研磨済研磨対象物と、研磨パッドとを相対摺動させる処理が挙げられる。
【0061】
より具体的には、リンス研磨処理は、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用して行うことが好ましい。研磨装置は、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。研磨パッドは、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。なかでも、より好ましい研磨パッドは、ポリウレタンである。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。また、化学的機械的研磨とリンス研磨処理とを同じ研磨装置を用いて行う場合、研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加えて、本発明の一形態に係る表面処理組成物の吐出ノズルを備えていると好ましい。
【0062】
リンス研磨条件は、特に制限されず、表面処理組成物および研磨済研磨対象物の特性に応じて適切な条件を適宜設定することができるが、2nm以上22nm以下という所望の厚さの水溶性高分子を含む層を得るためには、リンス研磨時の研磨圧力(研磨荷重)が重要となる。一般的に、リンス研磨時の研磨圧力(研磨荷重)が高いと、水溶性高分子層の厚さは薄くなり、リンス研磨時の研磨圧力(研磨荷重)が低いと、水溶性高分子層の厚さは厚くなる。
【0063】
リンス研磨時の研磨圧力(研磨荷重)の下限は、0.2psi(1.38kPa)を超えることが好ましく、0.3psi(2.07kPa)以上であることがより好ましく、0.4psi(2.76kPa)以上であることがさらに好ましく、0.5psi(3.45kPa)以上であることがさらに好ましく、0.7psi(4.83kPa)以上であることがさらにより好ましく、1psi(6.9kPa)以上であることが特に好ましい。また、研磨圧力(研磨荷重)の上限は、5psi(34.8kPa)未満であることが好ましく、4.5psi(30.1kPa)以下であることがより好ましく、4.0psi(26.6kPa)以下であることがさらに好ましく、3.5psi(24.1kPa)以下であることがさらにより好ましく、3.0psi(20.9kPa)以下であることが特に好ましい。すなわち、リンス研磨時の研磨圧力(研磨荷重)は、0.2psi(1.38kpa)を超えて5psi(34.8kpa)未満であることが好ましく、0.3psi(2.07kpa)以上4.5psi(30.1kpa)以下であることがより好ましく、0.4psi(2.76kpa)以上4.0psi(26.6kpa)以下であることがさらに好ましく、0.5psi(3.45kPa)以上3.5psi(24.1kPa)以下であることがさらにより好ましく、0.7psi(4.83kPa)以上3.5psi(24.1kPa)以下であることが特に好ましく、1psi(6.9kPa)以上3.0psi(20.9kPa)以下であることが最も好ましい。水溶性高分子がPNVAである場合は、リンス研磨時の研磨圧力(研磨荷重)は、1psi(6.9kPa)以上2psi(13.8kPa)以下が特に好ましい。リンス研磨時の研磨圧力(研磨荷重)がこのような範囲であれば、所望の厚さを有する水溶性高分子層を形成することが容易となり、残渣の除去を効率よく行うことができる。
【0064】
リンス研磨時の研磨時間は、所望の厚さを有する水溶性高分子層が得られるよう適宜設定すればよく、特に制限されないが、一般的には、5秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましく、15秒以上であることがさらに好ましく、20秒以上であることがさらにより好ましい。また、リンス研磨時の研磨時間は、残渣を効率的に除去する観点で、180秒以下であることが好ましく、150秒以下であることがより好ましく、120秒以下であることがさらに好ましく、100秒以下であることがさらにより好ましい。
【0065】
定盤回転数も、所望の厚さを有する水溶性高分子層が得られるよう適宜設定すればよく、特に制限されない。一般的には、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下であることが好ましく、20rpm(0.33s-1)以上300rpm(5s-1)以下であることがより好ましく、30rpm(0.5s-1)以上200rpm(3.3s-1)以下であることがさらに好ましい。
【0066】
表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)を採用してもよい。表面処理組成物の供給量(表面処理組成物の流量)は、研磨済研磨対象物全体が覆われる供給量であればよく、特に制限されないが、一般的には、100mL/min以上5000mL/min以下であることが好ましい。
【0067】
なお、表面処理方法は、厚さが2nm以上22nm以下の水溶性高分子を含む層が得られる限りにおいては、洗浄処理による方法であってもよい。本明細書において、洗浄処理とは、研磨済研磨対象物が研磨定盤(プラテン)上から取り外された状態で行われる、主に表面処理組成物による化学的作用により研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。洗浄処理の具体例としては、例えば、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、または、最終研磨に続いてリンス研磨処理を行った後、研磨済研磨対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外し、研磨済研磨対象物を表面処理組成物と接触させる処理が挙げられる。表面処理組成物と研磨済研磨対象物との接触状態において、研磨済研磨対象物の表面に摩擦力(物理的作用)を与える手段をさらに用いてもよい。
【0068】
洗浄処理方法、洗浄処理装置、および洗浄処理条件は、特に制限されず、公知の方法、装置、条件等を適宜用いることができる。洗浄処理方法は、特に制限されないが、例えば、研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、必要に応じて超音波処理を行う方法や、研磨済研磨対象物を保持した状態で洗浄ブラシと研磨済研磨対象物とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら研磨済研磨対象物の表面をブラシで擦る方法等が挙げられる。
【0069】
本発明の一形態に係る表面処理方法を行う工程の前、後、またはその両方において、水による洗浄を行ってもよい。その後、研磨済研磨対象物の表面に付着した水滴を、スピンドライヤやエアブロー等により払い落として乾燥させてもよい。
【0070】
<水溶性高分子層の厚さ>
本発明に係る基板の製造方法および表面処理方法において、研磨済研磨対象物上に形成される水溶性高分子層の厚さは2nm以上22nm以下である。厚さが2nm未満の場合、残渣が研磨済研磨対象物に付着しやすくなり、残渣の除去が難しくなる。一方、厚さが22nmを超えると、水溶性高分子層の粘弾性が大きくなり、残渣と水溶性高分子との絡み合いの作用が増加し、残渣の除去が難しくなる。水溶性高分子層の厚さの下限は、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上である。また、水溶性高分子層の厚さの上限は、好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下である。
【0071】
なお、本発明において、水溶性高分子層の厚さは、分光エリプソメトリーにより測定される値を採用する。水溶性高分子層の厚さの測定方法の詳細は、実施例に記載の通りである。
【0072】
<接着強度>
上記のような厚さを有する水溶性高分子層は、残渣との接着力が小さくなり、残渣の脱離を容易にする。残渣と水溶性高分子層との接着力については、SiO2プローブを用いた原子間力顕微鏡(AFM)で測定したときの、SiO2プローブに対する水溶性高分子層の接着強度を指標とすることができる。SiO2プローブは、研磨で一般的に用いられるシリカ砥粒と同じ化合物からできており、SiO2プローブに対する水溶性高分子層の接着強度が小さいほど、研磨済研磨対象物から残渣の除去が、より容易であると言うことができる。すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、SiO2プローブを用いて原子間力顕微鏡で測定したときの、前記SiO2プローブに対する前記水溶性高分子を含む層の接着強度が5.0nN以下である。また、接着強度は、SiO2プローブの先端曲率半径に比例する傾向がある。
【0073】
当該接着強度は、5.0nN以下であることが好ましく、4.0nN以下であることがより好ましく、3.0nN以下であることがさらに好ましく、2.0nN以下であることがさらにより好ましく、1.0nN以下であることが特に好ましく、0.5nN以下であることが最も好ましく、例えば0.45nN未満であってもよく、典型的には0.3nN以下であってもよく、0.15nN以下であってもよい。なお、当該接着強度の下限値は、0nN以上であることが好ましく、0.001nN以上であることがより好ましく、0.01nN以上であることがさらに好ましい。
【0074】
当該接着強度の測定方法の詳細は、実施例に記載の通りである。
【0075】
[半導体基板の製造方法]
上記したように、本発明の一実施形態に係る基板の製造方法は、シリコン含有材料を含む層を有する研磨済研磨対象物の表面に、厚さが2nm以上22nm以下の水溶性高分子を含む層を形成することを含む。特に、本発明の一実施形態に係る基板の製造方法は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であるとき、好適に適用される。すなわち、本発明の好ましい他の一形態によれば、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、当該研磨済半導体基板を、上記表面処理方法によって研磨済半導体基板の表面における水溶性高分子を含む層を形成することを含み、前記水溶性高分子を含む層の厚さが2nm以上22nm以下である半導体基板の製造方法もまた提供される。
【0076】
かかる製造方法が適用される半導体基板の詳細については、上記表面処理組成物によって表面処理される研磨済研磨対象物の説明の通りである。
【0077】
また、基板の製造方法は、研磨済研磨対象物(好ましくは研磨済半導体基板)の表面を、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いて表面処理する工程(表面処理工程)を含むものであれば特に制限されない。このような製造方法として、例えば、研磨済研磨対象物を形成するための研磨工程および表面処理工程を有する方法が挙げられる。以下、これらの工程について説明する。
【0078】
[研磨工程]
本発明の好ましい一実施形態に係る基板の製造方法において、研磨済研磨対象物を得る工程は、研磨対象物(好ましくは半導体基板)を研磨して、研磨済研磨対象物を形成する工程である。
【0079】
研磨工程は、研磨対象物(好ましくは半導体基板)を研磨する工程であれば特に制限されないが、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)工程であることが好ましい。また、研磨工程は、単一の工程からなる研磨工程であっても複数の工程からなる研磨工程であってもよい。複数の工程からなる研磨工程としては、例えば、予備研磨工程(粗研磨工程)の後に仕上げ研磨工程を行う工程や、1次研磨工程の後に1回または2回以上の2次研磨工程を行い、その後に仕上げ研磨工程を行う工程等が挙げられる。本発明に係る表面処理組成物を用いた表面処理工程は、上記仕上げ研磨工程後に行われると好ましい。
【0080】
研磨用組成物は、半導体基板の特性に応じて、公知の研磨用組成物を適宜使用することができ、例えば、砥粒、分散媒、および酸を含むもの等を好ましく用いることができる。かかる研磨用組成物の具体例としては、コロイダルシリカ、水、およびマレイン酸を含む研磨用組成物等が挙げられる。
【0081】
研磨装置は、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置は、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。
【0082】
研磨パッドは、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。なかでも、より好ましい研磨パッドは、ポリウレタンである。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0083】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数およびヘッド(キャリア)回転数は、10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.67s-1)以下であることが好ましく、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.45kPa)以上10psi(68.9kPa)以下であることが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましく、20mL/分以上4000mL/分以下であることがより好ましく、30mL/分以上3000mL/分以下であることがさらに好ましく、35mL/分以上2000mL/分以下であることがさらにより好ましく、40mL/分以上1000mL/分以下であることが特に好ましく、45mL/分以上500mL/分以下であることが最も好ましく、例えば50mL/分以上300mL/分以下であってもよく、典型的には55mL/分以上150mL/分以下であってもよい。研磨時間も特に制限されないが、研磨用組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましく、10秒間以上150秒間以下であることがより好ましく、15秒間以上120秒間以下であることがさらに好ましい。
【0084】
[表面処理工程]
表面処理工程とは、本発明に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面における水溶性高分子を含む層を形成することおよび残渣を低減することを含む工程をいう。半導体基板の製造方法において、リンス研磨工程の後、表面処理工程としての洗浄工程が行われてもよいし、リンス研磨工程のみ、または洗浄工程のみが行われてもよい。
【0085】
リンス研磨工程および洗浄工程で用いられるリンス研磨方法および洗浄方法の詳細は、上記リンス研磨処理および洗浄処理に係る説明に記載の通りである。
【0086】
本発明に係る基板の製造方法において、上記研磨工程および表面処理工程以外のその他の工程については、公知の半導体基板の製造方法に採用されうる工程を適宜採用することができる。
【実施例0087】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件下で行った。
【0088】
[水溶性高分子の準備]
ポリN-ビニルアセトアミド(重量平均分子量(Mw)が50,000のPNVA、昭和電工株式会社製)と、ポリビニルアルコール(重量平均分子量(Mw)が10,000のPVA(鹸化度99%)、日本酢ビ・ポバール株式会社製)と、を準備した。なお、水溶性高分子の重量平均分子量は下記の方法で測定した。
【0089】
[水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)の測定]
水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の値を用いた。重量平均分子量は、下記の装置および条件によって測定した:
GPC装置:株式会社島津製作所製
型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD-LTII)
カラム:VP-ODS(株式会社島津製作所製)
移動相 A:MeOH
B:酢酸1%水溶液
流量:1mL/分
検出器:ELSD temp.40℃、Gain 8、N2GAS 350kPa
オーブン温度:40℃
注入量:40μL。
【0090】
[表面処理組成物の調製]
(調製例1)
水溶性高分子であるポリN-ビニルアセトアミドと、溶媒である水(脱イオン水)と、を混合することにより、表面処理組成物1を調製した。ここで、水溶性高分子の含有量は、表面処理組成物1の総量に対して、0.2質量%とし、表面処理組成物1のpHは5.9であった。
【0091】
(調製例2)
水溶性高分子であるポリビニルアルコールと、溶媒である水(脱イオン水)と、を混合することにより、表面処理組成物2を調製した。ここで、水溶性高分子の含有量は、表面処理組成物2の総量に対して、0.2質量%とし、表面処理組成物2のpHは4.4であった。
【0092】
[表面処理組成物のpHの測定]
表面処理組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))によって確認した。
【0093】
[研磨済研磨対象物の準備]
下記の化学的機械的研磨(CMP)工程によって研磨された後の研磨済ポリシリコン基板を、研磨済研磨対象物として準備した。
【0094】
(CMP工程)
研磨対象物として、12インチ多結晶シリコン(ポリシリコン)ウェーハ(アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製)を準備した。
【0095】
上記で準備したポリシリコン基板について、研磨用組成物(組成;コロイダルシリカ(平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径60nm)4質量%、濃度30質量%のマレイン酸水溶液0.018質量%、溶媒:水)を使用し、下記の条件にて研磨を行った:
<研磨装置および研磨条件>
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド H800
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:80rpm
ヘッド回転数:80rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:30秒間。
【0096】
(リンス研磨工程)
(実施例1)
上記CMP工程にて研磨対象物表面を研磨して得られた研磨済研磨対象物を、研磨定盤(プラテン)上から取り外した。続いて、同じ研磨装置内で、研磨済研磨対象物を別の研磨定盤(プラテン)上に取り付け、下記の条件にて、上記調製例1で調製した表面処理組成物1を用いて、研磨済研磨対象物表面に対してリンス研磨処理を行った:
<リンス研磨装置およびリンス研磨条件>
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド H800
表面処理組成物供給量:300mL/分
リンス研磨時間:10秒
リンス研磨圧力:0.5psi(3.4kPa)
定盤回転数:60rpm。
【0097】
(実施例2~20)
研磨時間および研磨圧力を下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、リンス研磨処理を行った。
【0098】
(実施例21~40)
上記調製例2で調製した表面処理組成物2を用い、研磨時間および研磨圧力を下記表2のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、リンス研磨処理を行った。
【0099】
(実施例41~42)
上記表面処理組成物1に対して、ドデシルベンゼンスルホン酸を0.05質量%となるように加えた表面処理組成物3を調製した。表面処理組成物3のpHは5.6であった。この表面処理組成物3を用い、研磨時間および研磨圧力を下記表3のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、リンス研磨処理を行った。
【0100】
(実施例43~44)
上記表面処理組成物2に対して、オレイン酸ジエタノールアミドを0.05質量%となるように加えた表面処理組成物4を調製した。表面処理組成物4のpHは5.8であった。この表面処理組成物4を用い、研磨時間および研磨圧力を下記表3のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、リンス研磨処理を行った。
【0101】
(比較例1~4)
水溶性高分子であるポリN-ビニルアセトアミドと、溶媒である水(脱イオン水)と、を混合することにより、表面処理組成物5を調製した。ここで、水溶性高分子の含有量は、表面処理組成物1の総量に対して、0.2質量%とし、表面処理組成物5のpHは5.9であった。
【0102】
この表面処理組成物5を用い、研磨時間および研磨圧力を下記表3のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、リンス研磨処理を行った。
【0103】
(比較例5)
表面処理組成物1の代わりに、脱イオン水を用いたこと以外は、実施例10と同様にして、リンス研磨処理を行った。
【0104】
(洗浄工程)
上記リンス研磨工程にて、研磨済研磨対象物表面をリンス研磨して得られたポリシリコン基板(以下、「リンス研磨済研磨対象物」とも称する)をそれぞれ、研磨定盤(プラテン)上から、研磨装置に付属の洗浄装置(クリーナー槽部分)へ搬送させた。その後、水(脱イオン水)を用いて、洗浄ブラシであるポリビニルアルコール(PVA)製スポンジで圧力をかけながら下記条件でリンス研磨済研磨対象物表面に対して洗浄処理を行った:
<洗浄装置および洗浄条件>
洗浄装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
洗浄ブラシ回転数:100rpm
研磨済研磨対象物回転数:100rpm
洗浄用組成物の種類:水(脱イオン水)
洗浄用組成物供給量:1000mL/分
洗浄時間:60秒間。
【0105】
[評価]
水溶性高分子層の厚さおよび接着強度の測定においては、リンス研磨工程までを実施したリンス研磨済研磨対象物を準備した。
【0106】
(水溶性高分子層の厚さ測定)
リンス研磨工程を終えたリンス研磨済研磨対象物を20mm四方に切り出し、分光エリプソメトリー(堀場製作所製、型式UVISEL Plus)によって測定した。なお測定は、純水を満たしたガラスセルに試料を浸漬した状態で行った。
【0107】
(接着強度測定)
リンス研磨工程を終えた段階のリンス研磨済研磨対象物を10mm四方に切り出し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、残渣と水溶性高分子層との間の接着強度を測定した。測定装置および測定条件を下記に示す。純水中でフォースカーブ測定を行い、復路におけるプローブがジャンプアウトする直前に計測された力を接着強度とした。接着強度の値が小さいほど、残渣が脱離しやすいことを示す:
測定装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 型式S-image/NanonaviII
プローブ:ナノワールド社製 型式qp-scont 先端曲率半径10nm 材質SiO2
サンプリング周波数:1Hz
走査範囲:-1nm~+200nm。
【0108】
(残渣数測定)
ケーエルエー・テンコール株式会社製、光学検査機Surfscan(登録商標)SP5を用いて、上記洗浄工程後のポリシリコン基板(洗浄済研磨対象物)表面に残存した直径65nm以上の残渣数を測定した。なお、洗浄済研磨対象物の外周部5mmの区間は、測定エリアから除外した。
【0109】
評価結果を下記表1~3に示す。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
上記表1~表3から明らかなように、実施例の製造方法は、比較例の製造方法に比べて、研磨済研磨対象物の表面上の残渣が低減することが分かった。界面活性剤を含む表面処理組成物を用いた実施例41~44の場合、残渣がより低減することが分かった。