(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015599
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】親水化高分子微多孔膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/36 20060101AFI20220114BHJP
B01D 67/00 20060101ALI20220114BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20220114BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20220114BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220114BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C08J9/36 CEW
B01D67/00
B01D71/32
B01D71/34
B01D69/10
B01D69/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118538
(22)【出願日】2020-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北野 文萌
(72)【発明者】
【氏名】松元 竜児
【テーマコード(参考)】
4D006
4F074
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006MA03
4D006MA09
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4D006MB09
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4D006NA05
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4F074AA38
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4F074DA43
(57)【要約】
【課題】親水性の向上した親水化微多孔膜を製造する方法を提供すること。
【解決手段】疎水性高分子微多孔膜から親水化高分子微多孔膜を製造する方法であって、
(親水化工程1)疎水性高分子微多孔膜の原反を親水化剤含有水溶液中に浸漬させ、親水化剤を付着させた原反とする工程と、
(親水化工程2)前記親水化剤を付着させた原反を加圧して、親水化剤含有水溶液を原反に浸潤させ、親水化剤含有水溶液が含浸した原反とする工程と、
(親水化工程3)前記親水化剤含有水溶液が含浸した原反から親水化剤が付着した疎水性高分子微多孔膜を繰り出し、平板上に展開し、前記親水化剤を重合することにより疎水性高分子微多孔膜を親水化する工程と、を有しており、前記親水化剤含有水溶液は、親水化剤と重合開始剤と水溶性有機溶剤とを含み、水溶性有機溶剤の総量の濃度が親水化剤含有水溶液の20~50体積%であり、前記親水化剤が、親水性架橋モノマー、または親水性モノマーと親水性架橋モノマーとの混合物であり、親水化工程2において、加圧の圧力は、0.5MPa以上である、親水化高分子微多孔膜を製造する方法による。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性高分子微多孔膜から親水化高分子微多孔膜を製造する方法であって、
(親水化工程1)疎水性高分子微多孔膜の原反を親水化剤含有水溶液中に浸漬させ、親水化剤を付着させた原反とする工程と、
(親水化工程2)前記親水化剤を付着させた原反を加圧して、親水化剤含有水溶液を原反に浸潤させ、親水化剤含有水溶液が含浸した原反とする工程と、
(親水化工程3)前記親水化剤含有水溶液が含浸した原反から親水化剤が付着した疎水性高分子微多孔膜を繰り出し、平板上に展開し、前記親水化剤を重合することにより疎水性高分子微多孔膜を親水化する工程と、を有しており、
前記親水化剤含有水溶液は、親水化剤と重合開始剤と水溶性有機溶剤とを含み、水溶性有機溶剤の総量の濃度が親水化剤含有水溶液の20~50体積%であり、
前記親水化剤が、親水性架橋モノマー、または親水性モノマーと親水性架橋モノマーとの混合物であり、
親水化工程2において、加圧の圧力は、0.5MPa以上である、
親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
【請求項2】
さらに、前記親水化工程3の後に、下記親水化工程4を含む、請求項1に記載の親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
(親水化工程4)前記親水化高分子微多孔膜を洗浄して余分な成分を除去する工程。
【請求項3】
前記重合が光重合反応である、請求項1または2に記載の親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
【請求項4】
前記疎水性高分子微多孔膜が、フルオロポリマー系微多孔膜である、請求項1~3のいずれか1項に記載の親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
【請求項5】
前記疎水性高分子微多孔膜が、ポリフッ化ビニリデン系微多孔膜である、請求項4に記載の親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
【請求項6】
前記疎水性高分子微多孔膜が、さらに基材を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性高分子微多孔膜を親水化することにより親水化高分子微多孔膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)系樹脂などの疎水性高分子からなる微多孔膜は、耐薬品性、耐熱性に優れることから、エアフィルター、バグフィルター、および液ろ過用フィルターなどに幅広く使用されている。しかし、これらの材料からなる微多孔膜は、高分子が疎水性であることから水に濡れにくい性質を有している。そのため、用途に応じては、疎水性高分子微多孔膜の表面を親水化処理し、親水化高分子微多孔膜として用いられている。
【0003】
親水化処理の方法として、高分子微多孔膜の表面にポリビニルアルコール(PVA)などの親水化剤で被覆する方法や、エタノールなどのアルコールで置換する方法が知られている。しかし、これらの手法で得られた親水化高分子微多孔膜の親水性能は、その効果の持続性に乏しい。これは、ろ過中にPVAが溶出したり、エタノールが乾燥したりするためである。
【0004】
一方、親水化剤を用いて疎水性高分子微多孔膜を修飾することで、恒久的に親水性を示す高分子微多孔膜を得ることが検討されている。たとえば、特許文献1では、親水化剤含有の溶液に疎水性高分子微多孔膜を浸漬させた後、親水化剤を重合することで高分子微多孔膜の表面を改質することが行われている。
【0005】
特許文献1には、疎水性高分子微多孔膜を親水化剤含有の溶液に浸漬させる工程が記載されている。これらの浸漬工程において、前記微多孔膜として長尺物を用いる場合は、回転ロールによる搬送などの手段を用いて、親水化剤含有溶液の入った槽に連続的に長尺物を搬入する方法が用いられる。そして、親水化剤含有溶液で十分に湿潤されるまで長尺物を浸漬させ続ける必要があるが、用いる長尺物の長さや幅によっては、大型の槽を多段もしくは平面上に複数の槽を段階的に設け、浸漬させることが必要となる。すなわち、長尺物を搬入しながら長尺物に親水化剤含溶液を十分に湿潤させることができる程度の大きさの槽を設置できる広い場所の確保が必要となる。
【0006】
また、親水化剤含溶液に原反を浸漬する工程だけでは、疎水性高分子微多孔膜への親水化剤含有溶液の浸透や、疎水性高分子微多孔膜への親水化剤含有溶液の付着量が不十分であり、該微多孔膜に親水性を十分に与えられない場合がある。
【0007】
疎水性高分子微多孔膜への浸漬回数、および浸漬に用いる槽の小型化を図るためには、一回の浸漬で大量の微多孔膜を浸漬させ、さらにその大量の疎水性高分子微多孔膜が湿潤できる条件が求められる。すなわち、疎水性高分子微多孔膜が多重に積層され、積層が密になった状態、すなわちロール状に巻き取られた原反の状態で浸漬することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、疎水性高分子微多孔膜がロール状に巻き取られ多重に積層された原反の状態で、効率よく疎水性高分子微多孔膜を親水化剤で湿潤させることができ、その後、充分に湿潤させた疎水性微多孔膜を重合させることで、親水性の向上した親水化微多孔膜を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、より効率的に疎水性高分子微多孔膜から親水化高分子微多孔膜を製造するための方法を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]疎水性高分子微多孔膜から親水化高分子微多孔膜を製造する方法であって、
(親水化工程1)疎水性高分子微多孔膜の原反を親水化剤含有水溶液中に浸漬させ、親水化剤を付着させた原反とする工程と、
(親水化工程2)前記親水化剤を付着させた原反を加圧して、親水化剤含有水溶液を原反に浸潤させ、親水化剤含有水溶液が含浸した原反とする工程と、
(親水化工程3)前記親水化剤含有水溶液が含浸した原反から親水化剤が付着した疎水性高分子微多孔膜を繰り出し、平板上に展開し、前記親水化剤を重合することにより疎水性高分子微多孔膜を親水化する工程と、
を有しており、前記親水化剤含有水溶液は、親水化剤と重合開始剤と水溶性有機溶剤とを含み、水溶性有機溶剤の総量の濃度が親水化剤含有水溶液の20~50体積%であり、前記親水化剤が、親水性架橋モノマー、または親水性モノマーと親水性架橋モノマーとの混合物であり、親水化工程2において、加圧の圧力は、0.5MPa以上である、親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
[2]さらに、前記親水化工程3の後に、下記親水化工程4を含む、[1]に記載の親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
(親水化工程4)前記親水化高分子微多孔膜を洗浄して余分な成分を除去する工程。
[3]前記重合が光重合反応である、[1]または[2]に記載の親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
[4]前記疎水性高分子微多孔膜が、フルオロポリマー系微多孔膜である、[1]~[3]のいずれかに記載の親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
[5]前記疎水性高分子微多孔膜が、ポリフッ化ビニリデン系微多孔膜である、[4]に記載の親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
[6]前記疎水性高分子微多孔膜が、にさらに基材を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の親水化高分子微多孔膜を製造する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の親水化高分子微多孔膜の製造方法によれば、疎水性高分子微多孔膜が、ロール状に巻き取られ、多重に積層された原反の状態で、効率よく親水化剤に湿潤させることができ、その後、原反または原反から切り出した小片に親水化剤を重合させることで、親水性の向上した親水化高分子微多孔膜を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、親水化前の疎水性高分子微多孔膜と、親水化後の親水化された疎水性高分子微多孔膜(以下、親水化高分子微多孔膜と略記する。)の説明が、共通する場合には、単に高分子微多孔膜として表記した。
【0014】
本発明において、ロール状に巻き取られ、多重に積層された状態の疎水性高分子微多孔膜を疎水性高分子微多孔膜の原反、または略して原反と表記した。
【0015】
高分子微多孔膜は、微多孔膜、微多孔質または微多孔質膜とも呼ばれ、内部に多数の微細孔を有する高分子材料からなる膜である。本発明において、微細孔は、連結された構造をとり、膜の一方の面から他方の面へ気体あるいは液体が通過することが可能な孔である。
【0016】
本発明に用いられる疎水性高分子微多孔膜は、疎水性高分子材料から構成される微多孔膜であり、特に液体の通液性のムラが少なく、目詰まりなどが生じにくい膜であることが好ましい。疎水性高分子微多孔膜の微細孔の孔径は0.01~1.0μm程度であればよく、0.1~0.5μmであることがより好ましい。
【0017】
疎水性高分子材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル(PAN)、酢酸セルロース(CA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドなどが利用できるが、これらに限定されない。
【0018】
本発明において、高分子微多孔膜の微細孔の孔径やその分布は、気体透過法(パームポロメトリー)により測定することができる。前記気体透過法(パームポロメトリー)は、細孔径分布の測定方法として一般的なものの一つであり、微細孔が貫通微孔を形成する材料、たとえば、セラミックス、中空糸、セパレータ、不織布、膜フィルターなどの細孔分布測定法として最もよく用いられている。この方法では、測定対象の貫通細孔を気体が通過するときに貫通細孔のネック部分(最も細い地点)で気体の流れが滞る現象を利用して、貫通細孔のサイズをネック口径として算出する。気体透過法に基づくいずれの測定機器(パームポロメーター)でも、濡れ易い有機溶媒の気体が満たされた空気を、その圧力を徐々に高めながら測定対象の貫通細孔内に送り、流入空気の圧力と排出空気の流量の関係から孔径の分布を算出する。
【0019】
高分子微多孔膜としては、二種類以上の材質を複合化した複合膜を用いてもよい。複合膜としては、分離機能層である多孔質層とそれを補強するための基材とが複合化された膜が好適に用いられる。ここでいう補強に用いられる基材としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、綿、絹などの有機繊維及びそれらの織物、編物、不織布などが挙げられる。複合膜の若干の例としては、ポリエーテルスルホン(PES)製微多孔膜にポリエステル不織布を組み合わせた複合膜やポリフッ化ビニリデン(PVDF)製微多孔膜にポリエステル不織布を組み合わせた複合膜、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製微多孔膜にポリエステル組紐を組み合わせた中空糸状の複合膜などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明に使用される疎水性高分子微多孔膜は、市販の製品であっても、市販の材料を用いて、自ら作製した疎水性高分子微多孔膜であってもよい。
市販の製品としては、フッ素系樹脂に由来する微多孔膜としては、たとえば、Merck Millipore社製の疎水性デュラポア(型式:GVHP04700)、Membrane Solutions社製のMS(登録商標)PVDF疎水性メンブレンなどのPVDF膜を挙げることができ、またW.L.Gore and Associates社製のPTFE膜などを挙げることができる。
【0021】
自ら作製した疎水性高分子微多孔膜としては、たとえば、特許第5729521号を参照し、製造したポリフッ化ビニリデン(PVDF)製微多孔膜が挙げられる。このとき、微多孔を形成することができる多孔化剤としては、たとえば、ポリエチレングリコールを挙げることができる。
【0022】
[疎水性高分子微多孔膜の製造方法]
下記の製造工程1~4によって疎水性高分子微多孔膜を製造することができる。
【0023】
(製造工程1)
製造工程1は、原料液を製造する工程である。
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの疎水性高分子材料を使用し、ジメチルアセトアミドなどの水溶性有機溶媒、ポリエチレングリコールなどの多孔化剤、水を用いて、均一に混合して原料液を製造することができる。
【0024】
(製造工程2)
製造工程2は、基材上に製造工程1で製造した原料液を塗工する工程である。
ロール状の不織布などを基材として用い、ロール状の不織布をその端部から引き出して展開し、ロールなどの搬送機構によって展開された不織布を浸漬装置や塗布装置に搬入し、平坦に維持された不織布の表面に前記原料液を均一に浸漬または塗布し、製造工程3に搬送する。
【0025】
(製造工程3)
製造工程3は、製造工程2で原料液が塗布された不織布(以下、複合塗膜と略記する。)を、純水、より好ましくは超純水の入った固化槽で浸漬や塗布された原料液を固化する工程である。
水面が波立たないように製造工程2で得られた複合塗膜を固化槽に連続的に搬入し、複合塗膜が水に接触するように固化槽内の水中を通過させた後、これを固化槽から排出する。このように複合塗膜の原料液を固化させることで複合膜が得られる。
【0026】
(製造工程4)
製造工程4は、製造工程3を経て得られた複合膜を水中で洗浄する工程である。
製造工程3の固化槽から排出された複合膜を洗浄槽に連続的に搬入し、複合膜が水と気泡に接触するように洗浄槽内の水中を通過させることで、複合膜に残留していた原料液などの水溶性の成分を除去し、複合膜を洗浄槽から排出させることで、疎水性高分子微多孔膜を製造することができる。
【0027】
[疎水性高分子微多孔膜の親水化]
下記親水化工程1~3により、疎水性高分子微多孔膜から親水化高分子微多孔膜が得られる。
疎水性高分子微多孔膜の親水化方法の工程としては
(親水化工程1)疎水性高分子微多孔膜の原反を親水化剤含有水溶液中に浸漬させ、親水化剤を付着させた原反とする工程と、
(親水化工程2)前記親水化剤を付着させた原反を加圧して、親水化剤含有水溶液を原反に浸潤させ、親水化剤含有水溶液が含浸した原反とする工程と、
(親水化工程3)前記親水化剤含有水溶液が含浸した原反から親水化剤が付着した疎水性高分子微多孔膜を繰り出し、平板上に展開し、前記親水化剤を重合することにより疎水性高分子微多孔膜を親水化する工程と、が含まれる。
前記親水化剤含有水溶液は、親水化剤と重合開始剤と水溶性有機溶剤とを含み、水溶性有機溶剤の総量の濃度が親水化剤含有水溶液の20~50体積%である。
上記親水化高分子微多孔膜の工程に従い、かつ必要に応じて、(親水化工程4)として、親水化高分子微多孔膜を洗浄して余分な成分を除去する工程が含まれてもよい。
さらに必要に応じて、親水化された疎水性高分子微多孔膜を乾燥、巻き取り、裁断、および梱包を行ってもよい。この工程も工程3と同様にバッチ式あるいは連続式で行うことができる。
【0028】
親水化工程1において、規模の小さいものはバッチ式で、大きいものは連続式で行うことができる。バッチ式では、たとえば、樹脂製ボトルに疎水性高分子微多孔膜の原反と親水化剤含有水溶液を入れ、疎水性高分子微多孔膜を浸漬させる。樹脂製ボトルに収まる範囲で、前記原反は樹脂のボトルに複数同時に入れることができる。連続式では、たとえば、原反が入る大きさの耐圧性容器に前記親水化剤溶液を入れ、そこに原反を浸漬し、原反の疎水性高分子微多孔膜に親水化剤を付着させる。親水化工程1において、浸漬の時間は、適宜選択すればよいが、少なくとも1分以上である。
【0029】
親水化工程2において、バッチ式、または連続式で加圧することができ、原反に親水化剤含有水溶液を十分に湿潤させることができる。バッチ式では、たとえば、親水化工程1で得られた原反と、親水化剤含有水溶液の入った樹脂製ボトルを、耐圧製容器内にセットし、原反が十分に浸潤するまで加圧する。連続式では、たとえば、原反と親水性含有水溶液が入った耐圧製容器内(ADVANTEC製ステンレスハウジング(耐圧0.69MPa))の圧力を、加圧装置によって上昇させ、原反が十分に湿潤するまで圧力を加える。加える圧力やその時間は、用いる疎水性高分子微多孔膜の目付や細孔径、厚み、親水化剤含有水溶液に応じて任意の値を設定できる。加える圧力は、0.5MPa以上であり、好ましくは、0.5~0.6MPaである。加圧時間は、5分以上であることが好ましく、より好ましくは5~60分であり、さらに好ましくは15~45分である。
【0030】
親水化工程3において、親水化工程2で得られた原反を親水化剤含有水溶液から取り出し、ロール状の原反から親水化剤が付着した疎水性高分子微多孔膜を繰り出し、平板上に展開し、長尺物とした後、親水化剤を重合させてもよい。親水化工程3の重合は、長尺物の一部を切り取り、小片にして扱うバッチ式、あるいは長尺物のまま扱う連続式で行うことができる。親水化工程3では、より効果的に重合反応を行うためであれば、任意の方法によって親水化剤が付着した疎水性高分子微多孔膜を乾燥させたり、脱酸素雰囲気下に置いたりする工程を加えることができる。重合反応としては、光重合や熱重合を行うことができる。
たとえば、疎水性高分子微多孔膜の小片を用い、光重合を行う場合、小片の液切りを行い、石英ガラス製蓋つき窒素ガス置換用ボックスなどのステンレスメッシュ底面に小片を置き、ボックスに窒素ガスを1~2分間循環させ、ボックス内部に窒素ガスを充填させ、ボックスを密閉状態に維持し、外部の光源からボックスの石英の蓋を通して、紫外線を照射し、親水化剤を光重合させることができる。
乾燥や重合を行う際に、親水化剤が付着した疎水性高分子微多孔膜が湾曲しないよう、金属の枠やワイヤーなどで、親水化剤が付着した疎水性高分子微多孔膜の端を固定するなどの処理を加えてもよい。これらに限らず、より効率的に重合反応を行うための工程および、より高性能な膜を得るための工程を追加で入れることができる。
【0031】
(親水化工程4)
親水化工程4は、親水化工程3で得られた、親水化高分子微多孔膜を洗浄して余分な成分を除去する工程である。さらに必要に応じて、親水化工程3で得られた親水化高分子微多孔膜を乾燥してもよい。親水化工程4においても工程3と同様にバッチ式あるいは連続式で行うことができる。さらに必要に応じて、親水化された疎水性高分子微多孔膜を乾燥、巻き取り、裁断、および梱包を行ってもよい。この工程も工程3と同様にバッチ式あるいは連続式で行うことができる。
【0032】
本発明に用いられる親水化剤としては、親水性モノマー、または親水性モノマーと親水性架橋モノマーの混合物を用いることができ、さらに重合開始剤を含むことができる。用いる親水化剤は、親水化の目的や、得られる親水化高分子微多孔膜の用途によって適宜選択することができる。本発明で用いられる親水化剤は、重合させたときに疎水性高分子微多孔膜の表面をコーティングして親水性にすることができ、同時に得られる親水化高分子微多孔膜の微細孔を塞ぎ、その透水性を妨げることがない程度の濃度に調整される必要がある。重合開始剤は、特に限定されないが、たとえば、光重合開始剤および熱重合開始剤などが挙げられる。光重合開始剤としては、たとえば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤などを使用することができる。アルキルフェノン系重合開始剤として、2-ヒドロキシ1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシル)-2-ヒドロキシ-メチルプロパノンなどが挙げられ、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられるが、これらに特に限定されない。本発明に用いられる親水化剤含有水溶液の組成物は、さらに酸化防止剤および安定剤などの添加剤を含むことができる。これらの添加剤は、当該技術分野において通常使用される濃度で含有することができる。
【0033】
本発明において、浸漬に使用する親水化剤含有水溶液の溶媒として、水溶性有機溶剤と水との混合溶液が用いられる。前記溶媒は、1種類以上の水溶性有機溶剤を含むことができる。親水化剤を溶解することができ、かつ親水化剤の重合反応を阻害しない任意の濃度で調整された溶媒を使用することができる。水溶性有機溶剤は、低級アルコールであることが好ましく、特に限定されないが、たとえば、イソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、エタノール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール(EG)、グリセリン(Gly)などが挙げられる。溶媒は、任意の割合で有機溶剤を含む水溶液を使用することができ、水溶性有機溶剤の総量の濃度は、親水化剤含有水溶液の20~50体積%である。また、複数の有機溶剤を混合して使用することもでき、混合した有機溶剤の組成としては、特に限定されないが、イソプロピルアルコール(IPA)とエチレングリコール(EG)や、イソプロピルアルコール(IPA)とグリセリン(Gly)などの組み合わせが挙げられる。水溶性有機溶剤として混合した有機溶剤を使用した場合、水溶性有機溶剤の総量の濃度が親水化剤含有水溶液の20~50体積%であればよい。
【実施例0034】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴を具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。
【0035】
[PVDF微多孔膜の製造]
疎水性高分子微多孔膜は、下記の製造工程1~4を経て製造したPVDFの疎水性高分子微多孔膜を使用した。
【0036】
以下の製造工程1~4によって本発明に用いられる疎水性高分子微多孔膜を製造した。
(製造工程1)
疎水性高分子として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用した。具体的には、PVDFとして、アルケマ製商品「Kyner HSV900」を12.0質量%、溶媒として、ジメチルアセトアミドを78.0質量%、多孔化剤として、重量平均分子量400のポリエチレングリコールを6.0質量%、水として、超純水を4.0質量%用いて、均一に混合することで原料液を製造した。
【0037】
(製造工程2)
基材として、ロール状に巻き取られた倉敷繊維加工製不織布(鞘成分が高密度ポリエチレンであり、芯成分が結晶性ポリプロピレンである熱接着性複合繊維2.2dtexからなる不織布、目付80gsm)を用いた。巻き取られた不織布を端部から引き出して展開し、展開された不織布をロールなどの搬送機構によって塗布部に搬入した。塗布部では平坦に維持され、塗布部を連続的に通過する不織布の表面に各種塗布装置によって原料液を均一に塗布した。塗布部から搬出された、原料液が塗布された不織布を、直ちに後述の製造工程3を行う部位に搬送した。
【0038】
(製造工程3)
固化槽に、水面が波立たないように製造工程2で得られた複合塗膜を連続的に搬入し、複合塗膜が水に接触するようにこれを固化槽内の水中を通過させた後、これを固化槽から排出した。このようにして複合塗膜の原料液を固化させ、複合膜を得た。
【0039】
(製造工程4)
製造工程3の固化槽から排出された複合膜を洗浄槽に連続的に搬入し、複合膜が水と気泡に接触するようにこれを洗浄槽内の水中を通過させることで、複合膜に残留していた原料液などの水溶性の成分を除去し、複合膜を洗浄槽から排出させた。
【0040】
疎水性高分子微多孔膜(A)
製造工程4で得られた複合膜を自然乾燥させ、これを5cm×200cmの長方形に切断し、シート状の疎水性高分子微多孔膜(A)とし、これをロール状に巻き取り、原反とした。
得られた疎水性高分子微多孔膜(A)の原反は、実施例1~2、比較例1~2、比較例4(1)、比較例5、および比較例7で用いた。
【0041】
疎水性高分子微多孔膜(B)
Membrane Solutions社のMS(登録商標)PVDF疎水性メンブレン(孔径:0.10μm)を5cm×200cmの長方形に切断し、これを疎水性高分子微多孔膜(B)とし、これをロール状に巻き取り、原反とした。
得られた疎水性高分子微多孔膜(B)の原反は、実施例3、比較例3、比較例6、および比較例8で用いた。
【0042】
実施例1~3、比較例4(1)、比較例5、比較例6
[疎水性高分子微多孔膜の親水化]
表1に示す割合でイソプロピルアルコール(IPA)とグリセリン(Gly)を混合した水溶液を作製し、得られた水溶液に親水性架橋モノマーと重合開始剤を溶解させ、60分間撹拌した。得られた親水化剤含有IPA水溶液を親水化剤含有水溶液として用いた。
【0043】
親水性架橋モノマーとして、新中村化学工業製「NKエステル(登録商標)A-GLY-9E」を1質量%使用した。重合開始剤として、IGM Resins B.V.製の「Omnirad2959」を0.03質量%使用した。
【0044】
(親水化工程1)
樹脂製ボトル(商品名:アイボーイ(PP製))に前記原反と親水化剤含有水溶液を入れ、原反を親水化剤含有水溶液に浸漬させた。
【0045】
(親水化工程2)
次に、樹脂製ボトルを、耐圧性(耐圧0.69MPa)の10インチのADVANTEC製ステンレスハウジング内に入れ、窒素ガスで0.6MPaに加圧した。加圧した時間をそれぞれ表1に示した。
【0046】
【0047】
(親水化工程3)
親水化剤含有水溶液が含浸された原反を樹脂製ボトルから取り出し、原反を平たんに展開し、原反のロールのコア側から0~5cm、100~105cm、195~200cmの部分をそれぞれ、切り取り、5cm×25cmの小片とした。親水化剤含有水溶液が含浸された疎水性高分子微多孔膜の小片の液切りを行い、石英ガラス製蓋つき窒素ガス置換用ボックスのステンレスメッシュ底面に、疎水性高分子微多孔膜の小片を静置した。このとき疎水性高分子微多孔膜のうち多孔質層側が上になるようにした。ボックスに窒素ガスを1~2分間循環しボックス内部に窒素ガスを充填させた。充填後はボックスを密閉状態に維持した。
【0048】
窒素ガス置換用ボックス外部の光源(Light Hammer10(製品名))からボックスの石英の蓋を通して、UV-Bの積算光量が900mJ/cm2となるように紫外線を照射し、親水化剤を光重合した。
【0049】
(親水化工程4)
上記ボックスから親水化工程3で得られた、親水化剤を重合させた疎水性高分子微多孔膜の小片を取り出し、最初に水で洗浄し、次にエタノールで洗浄し、その後、乾燥させた。
【0050】
比較例1~3、比較例4(1)
[疎水性高分子微多孔膜の親水化]
親水化工程2の加圧する工程を行わないこと以外、実施例1と同じ方法で親水化した。
【0051】
[実施例と比較例の評価・比較]
親水化工程2のように加圧して作製した親水化高分子微多孔膜(実施例1~3、比較例4(1)、比較例5、比較例6)と、親水化工程2の加圧する工程を省略して作製した親水化高分子微多孔膜(比較例1~3、比較例4(2))、親水化処理を行っていない疎水性高分子微多孔膜(比較例7~8)の水に対する接触角を測定し、結果を表2に示した。
【0052】
接触角測定位置
I:高分子微多孔膜がロール状のとき、コア側から2mの位置
II:高分子微多孔膜がロール状のとき、コア側から1mの位置
III:高分子微多孔膜がロール状のとき、コア側から0mの位置
【0053】
接触角測定結果なし区分
α:親水化工程2を行ったが、高分子微多孔膜が十分に湿潤しない。
β:親水化工程3の途中で膜が乾燥したため、光硬化処理に不適切。
【0054】
接触角減少率の定義
{(親水化工程2を省略して親水化した高分子微多孔膜の接触角)―(親水化工程2を経て親水化させた高分子微多孔膜の接触角)}/(親水化工程2を省略して親水化した高分子微多孔膜の接触角)×100
*接触角減少率の評価:減少率の数値が大きいほど親水化能力を有するという指標
a:25%以上
b:10%以上25%未満
c:5%以上10%未満
d:5%未満
【0055】