(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156347
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電子線応用装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/153 20060101AFI20221006BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20221006BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20221006BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20221006BHJP
G01N 23/227 20180101ALI20221006BHJP
【FI】
H01J37/153 Z
H01J37/26
H01J37/147 Z
H01J37/20 A
G01N23/227
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059982
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】圓山 百代
(72)【発明者】
【氏名】池上 明
(72)【発明者】
【氏名】森本 剛史
(72)【発明者】
【氏名】白崎 保宏
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA07
2G001BA08
2G001CA03
2G001DA09
2G001HA13
2G001SA29
5C101AA02
5C101BB03
5C101EE08
5C101EE22
5C101EE59
5C101EE63
5C101EE64
5C101FF02
5C101GG37
(57)【要約】
【課題】半導体製造ラインでの使用に適した投影型電子線応用装置を提供する。
【解決手段】電子線応用装置の電子光学系は、光軸109に対して垂直に配置されるミラー収差補正器106と、電子の軌道を光軸から離軸させてミラー収差補正器106に入射させ、出射された電子の軌道を光軸に戻す複数の磁場セクタ104と、電子の軌道に沿って隣接する磁場セクタの間に配置されるダブレットレンズ105とを備え、複数の磁場セクタのそれぞれが電子の軌道を偏向する偏向角は等しく、ダブレットレンズは、物面及び像面がそれぞれ、電子の軌道に沿って隣接する磁場セクタの中心平面となるよう配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する試料ステージと、
前記試料から放出された電子による電子像を結像する対物レンズを含み、前記試料ステージの試料載置面に対して垂直な光軸を有する電子光学系と、
前記電子像を撮影するカメラとを有し、
前記電子光学系は、
前記光軸に対して垂直に配置されるミラー収差補正器と、
前記対物レンズを通過した電子の軌道を前記光軸から離軸させて前記ミラー収差補正器に入射させ、前記ミラー収差補正器から出射された電子の軌道を前記光軸に戻す複数の磁場セクタと、
電子の軌道に沿って隣接する前記磁場セクタの間に配置されるダブレットレンズとを備え、
前記複数の磁場セクタのそれぞれが電子の軌道を偏向する偏向角は等しく、
前記ダブレットレンズは、物面及び像面がそれぞれ、電子の軌道に沿って隣接する前記磁場セクタの中心平面となるよう配置される電子線応用装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記電子光学系における前記複数の磁場セクタの数をS、前記複数の磁場セクタのそれぞれの偏向角をAとすると、Nを自然数として、
S=4N-1
A=π/4N[rad]
と表せる電子線応用装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記磁場セクタの中心平面は、前記磁場セクタの電子線入射平面と電子線出射平面との交線と前記磁場セクタの中心とを含む平面である電子線応用装置。
【請求項4】
請求項1において、
電子の軌道に沿って隣接する前記磁場セクタの間には奇数段の前記ダブレットレンズが配置される電子線応用装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記複数の磁場セクタは、前記光軸上にその中心が配置される第1の磁場セクタと第2の磁場セクタを含み、
前記第1の磁場セクタの中心は、前記対物レンズを通過した電子の軸上軌道と前記光軸との交点に配置され、
前記第2の磁場セクタの中心は、前記ミラー収差補正器から出射された電子の軸上軌道と前記光軸との交点に配置される電子線応用装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記電子光学系は、
前記対物レンズと前記第1の磁場セクタとの間に、前記対物レンズを通過した電子の軸外軌道を前記光軸と平行に整える対物補助レンズと、
前記ミラー収差補正器により収差補正された電子像を前記カメラの撮像面に拡大投影する投影レンズとを備える電子線応用装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記第1の磁場セクタと前記第2の磁場セクタとの間に1段または複数段のダブレットレンズが配置され、
前記複数の磁場セクタをOFFすることが可能な電子線応用装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記第2の磁場セクタに結像される電子像は、前記複数の磁場セクタのON/OFFにかかわらず、前記第1の磁場セクタに結像される電子像と等倍である電子線応用装置。
【請求項9】
請求項1において、
前記磁場セクタは、前記光軸を挟んで対向する平面状のポールピースを含み、
前記ポールピースは、第1の溝によりメインポールピースとシールド磁極とに分離され、
前記第1の溝は前記メインポールピースを取り囲むように形成され、
前記第1の溝に前記磁場セクタに磁場を発生させるコイルが配置される電子線応用装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記ポールピースの平面形状は円形であり、
前記第1の溝は、前記ポールピースと同心円状に形成される電子線応用装置。
【請求項11】
請求項9において、
前記ポールピースの第1の端面は前記磁場セクタの電子線入射平面と同一であり、前記ポールピースの第2の端面は前記磁場セクタの電子線出射平面と同一であり、
前記磁場セクタにおける前記電子線入射平面から中心までの光軸と前記中心から前記電子線出射平面までの光軸とにおいて、前記メインポールピース、前記第1の溝及び前記シールド磁極の配置が同じである電子線応用装置。
【請求項12】
請求項9において、
前記メインポールピースをさらに複数のメインポールピースに分離する第2の溝が形成され、
前記第1の溝及び第2の溝に前記磁場セクタに磁場を発生させるコイルが配置され、
前記第2の溝は、前記磁場セクタの中心平面と平行となるように形成される電子線応用装置。
【請求項13】
請求項12において、
分離された前記複数のメインポールピースごとに異なる磁場を発生させる電子線応用装置。
【請求項14】
請求項12において、
前記磁場セクタの中心平面は、前記磁場セクタの電子線入射平面と電子線出射平面との交線と前記磁場セクタの中心とを含む平面である電子線応用装置。
【請求項15】
請求項1において、
前記試料ステージの試料載置面は、前記電子線応用装置が設置される床面に対して水平となるように調整されている電子線応用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線応用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光電子顕微鏡(Photoelectron Emission Microscope:PEEM)は、紫外光やX線(励起光)を試料の表面に照射することによって発生する光電子を用いて像を形成する装置であり、試料の表面構造に起因するコントラストを有する光電子像を得ることができる。
【0003】
特許文献1は、収差補正機能を組み込んだカソード・レンズ顕微鏡(PEEMはその一例である)の構造を、特許文献2は、ミラー収差補正器を組み込んだPEEMの構造を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009-528668号公報
【特許文献2】特開2020-85873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体ウエハの表面に形成されたパターン形状の検査装置として、光を用いる光学式検査装置、電子線を用いるSEM(Scanning Electron Microscope)式検査装置が広く用いられている。光学式検査装置とSEM式検査装置とでは、試料(半導体ウエハ)上で観察できる構造の大きさが異なる。光学式検査装置では広い検査領域に対するパターン形状検査が高速に行える一方、欠陥が微細になるほど検出が困難になる。これに対して、SEM式検査装置は、微細な欠陥の検出に強みを有する一方、観察視野が狭く、検査領域が広くなるほどパターン形状検査のスループットが低下する。
【0006】
発明者らは、光学式検査装置のスループットとSEM式検査装置の欠陥検出の分解能を両立できる検査装置として、PEEMによる光電子像からパターン欠陥を検出する検査装置(PEEM式検査装置)についての検討を行った。
【0007】
PEEM式検査装置を半導体製造ラインで使用するためには、現在、半導体製造ラインで使用されている検査装置と同様に、試料(半導体ウエハ)を水平に載置する水平ウエハステージと、水平ウエハステージのウエハ載置面に対して垂直な直立カラムに内蔵される電子光学系とを有する構造として、半導体ウエハのハンドリングを半導体製造ラインの他の装置と揃えることが望ましい。
【0008】
しかしながら、従来PEEMあるいは、PEEMと同じ投影結像系を有するLEEM(Low Energy Electron Microscope)では、小片の試料の分析が想定されており、試料ステージに対する試料ハンドリングからの制約が少なく、ステージを自由に配置することができた。例えば、特許文献1では、試料から、像が投影される視野スクリーンまでの経路は、プリズムアレイによって直角に曲げられた経路となっている。このため、特許文献1の電子光学系は半導体製造ラインで使用する検査装置には適さない構成である。これに対して、特許文献2では、試料面に対して電子光学系がミラー収差補正器も含めて垂直に配置される光電子顕微鏡を開示している。しかしながら、特許文献2の構成では、収差補正部を直線的な光路とするため、ミラーの断続により電子線をパルス化している。このように電子線をパルス化しながら、高精度の収差補正を行うには高度な制御技術が求められるとともに、単位時間あたりに撮像系に到達する電子数が減少することにより、鮮明な光電子像を得るために必要な時間が長くなり、スループットの低下につながる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施の態様である電子線応用装置は、試料を載置する試料ステージと、試料から放出された電子による電子像を結像する対物レンズを含み、試料ステージの試料載置面に対して垂直な光軸を有する電子光学系と、電子像を撮影するカメラとを有し、
電子光学系は、光軸に対して垂直に配置されるミラー収差補正器と、対物レンズを通過した電子の軌道を光軸から離軸させてミラー収差補正器に入射させ、ミラー収差補正器から出射された電子の軌道を光軸に戻す複数の磁場セクタと、電子の軌道に沿って隣接する磁場セクタの間に配置されるダブレットレンズとを備え、
複数の磁場セクタのそれぞれが電子の軌道を偏向する偏向角は等しく、ダブレットレンズは、物面及び像面がそれぞれ、電子の軌道に沿って隣接する磁場セクタの中心平面となるよう配置される。
【発明の効果】
【0010】
半導体製造ラインでの使用に適した投影型電子線応用装置を提供する。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2A】磁場セクタによる電子線の軌道制御を説明する図である。
【
図2B】磁場セクタによる電子線の軌道制御を説明する図である。
【
図3A】磁場セクタが発生させる偏向収差を打ち消す原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本実施例の電子線応用装置の構成例を示す。
図1は、紫外光やX線などの励起光10をウエハ(試料)20の表面に照射して発生する光電子の像(光電子像)を得るPEEMを例示している。装置本体114は、その主要な構成として、検査対象であるウエハ20を載置する試料ステージ101、光電子像を撮影するカメラ108、光電子像をカメラ108に投影するための電子光学系を有している。試料ステージ101の試料載置面は、装置本体114が設置される床面に対して水平となるように調整されている。カメラ108は電子(光電子)そのものを検知して撮影するものであってもよいし、シンチレータを備え、シンチレータによって電子を一旦光に変換し、変換された光を検知して撮影するものであってもよい。
【0013】
装置本体114(試料ステージ101、カメラ108、電子光学系を含む)は制御装置112と接続されている。制御装置112は、GUI(Graphical User Interface)装置111から入力されるユーザからの指示を受けて装置本体114の制御を行うとともに、カメラ108で撮影された光電子像の画像処理を行う。制御装置112は記憶部113を備え、記憶部113には、装置本体114の制御パラメータや、光電子像が記憶される。
【0014】
図1の電子光学系における電子線の軌道の中心である光軸109は、試料ステージ101の試料載置面に対して垂直となっている。したがって、電子光学系及びカメラ108を直立カラムに内蔵可能であり、ウエハ20のハンドリングを半導体製造ラインで使用する他の装置と揃えることができる。電子光学系について、A~Cの3つの区間に区分して説明する。なお、ここでは、試料ステージ101の試料載置面をXY平面とし、XY平面に垂直な方向をZ方向とするとき、光軸109は、ウエハ20に対する励起光10の入射位置からZ方向に延長される線として示している。
【0015】
区間Aにおいて、対物レンズ102により、光電子像が結像される。
図1において、ミラー収差補正器106入射前の軸上軌道を軸上軌道110a、ミラー収差補正器106入射前の軸外軌道を軸外軌道110bとして示している。レンズ103は対物補助レンズであり、対物補助レンズ103は、軸外軌道110bを光軸109に平行に整える機能を果たしている。光電子像は、対物レンズ102により、ウエハ20上における軸上軌道110aと軸外軌道110bの間隔から、磁場セクタ104aにおける軸上軌道110aと軸外軌道110bの間隔(矢印で示す)まで拡大されている。
【0016】
区間Bにおいて、光電子像の色収差及び球面収差を補正する。光電子像の色収差及び球面収差の補正にはミラー収差補正器106を使用する。ミラー収差補正器106は、複数枚の電極で構成され、その最終段に印加した電圧によって電極付近で軌道を反射する。電極に印加する電圧を制御することにより球面収差と色収差を補正することができる。ミラー収差補正器106は、例えば、特許文献1に開示の電子鏡と同様であり、公知の構成が利用できる。ミラー収差補正器106は光軸109に対して直交するように配置されている。このため、区間Bでは、磁場セクタ104a~cを用いて、光電子の軌道を光軸109から離軸させて、ミラー収差補正器106に入射させ、再度、ミラー収差補正器106を出射した光電子の軌道を光軸109に戻すよう、光電子の軌道を制御する。
図1において、ミラー収差補正器106出射後の軸上軌道を軸上軌道110c、ミラー収差補正器106出射後の軸外軌道を軸外軌道110dとして示している。磁場セクタ104aは、磁場セクタの中心が、軸上軌道110aと光軸109との交差する位置となるように配置されている。同様に、磁場セクタ104cは、磁場セクタの中心が、軸上軌道110cと光軸109との交差する位置となるように配置されている。区間Bにおいて、色収差及び球面収差の補正された光電子像(磁場セクタ104cにおける矢印で示す)が得られる。区間Bの入口(磁場セクタ104a)と出口(磁場セクタ104c)とにおいて、光電子像の倍率に変化はない(1倍)。
【0017】
区間Cにおいて、収差補正された光電子像は、投影レンズ107により、カメラ108の撮像面に拡大投影される。
【0018】
なお、磁場セクタ内の電子線(光電子)の軌道に関して、
図1では理解しやすくするために直線的に進行し、ある一点で角度を持って屈折するように示しているが、実際には滑らかに曲がる。以下の図においても同様である。
【0019】
区間Bにおける光電子(電子線)の軌道制御について
図2A,Bを用いて説明する。区間Bでは、電子線をミラー収差補正器に入射させるため、電子線の進行方向を光軸109から90°(π/2)曲げ、その後、ミラー収差補正器から出射(反射)した電子線を再度光軸109に沿って進行させるため、電子線の進行方向を再度90°(π/2)曲げる必要がある。電子線の進行方向を変えるために磁場セクタ104が用いられるが、磁場セクタ104は偏向方向に依存した偏向収差を発生させる。そこで、本実施例では、第1の磁場セクタで偏向させた電子線を第2の磁場セクタに入射し、第2の磁場セクタにおいて電子線を偏向させるとともに、第1の磁場セクタで発生した偏向収差を打ち消す。このためには、第1の磁場セクタと第2の磁場セクタとで発生する偏向収差の大きさの絶対値を等しくする必要があるので、第1の磁場セクタの偏向角と第2の磁場セクタの偏向角とは同一とする必要がある。
【0020】
光軸109からミラー収差補正器への入射までの軌道、ミラー収差補正器からの出射から光軸109までの軌道のそれぞれで偏向収差を打ち消しておく必要がある。このため、ミラー収差補正器への電子線の入射の前後で偶数個の磁場セクタが必要であり、かつミラー収差補正器の直前に置かれる磁場セクタ(
図1の磁場セクタ104b)はミラー収差補正器への入射前と出射後とで共通に使用する。
【0021】
図1の区間B(
図2Aに相当)の電子光学系は、磁場セクタの数を最小とする構成を示しており、磁場セクタはそれぞれπ/4の偏向角を有し、全体で3つの磁場セクタで構成されている。区間Bにおいて電子線の軌道制御を行う磁場セクタの構成を、
図2Bに一般化して示す。
図2Bにおける屈曲点のそれぞれに磁場セクタが配置される。区間Bにおける磁場セクタの数をS、このときの磁場セクタの偏向角をAとすると、Nを自然数として、
S=4N-1
A=π/4N[rad]
と表せる。
図2AはN=1の場合、
図2BはN=2の場合に相当する。Nを大きくした場合、磁場セクタの数は多くなるものの、磁場セクタが発生させる偏向収差を小さくできるので、より精度の高い電子線の軌道制御を行うことができる。
【0022】
第1の磁場セクタで発生する偏向収差は、第2の磁場セクタとの間にダブレットレンズ105をはさむことによって打ち消すことができる。
【0023】
まず、
図3Bを用いて、ダブレットレンズについて説明する。ダブレットレンズは2つのレンズ313,314で構成されている。レンズ313,314それぞれの焦点距離がF1、F2であるとき、ダブレットレンズは、物面とレンズ313との距離がF1、レンズ313とレンズ314との距離が(F1+F2)、レンズ314と-像面との距離がF2となっている。物面から光軸315に対して平行にレンズ313に入射する軸外軌道317はレンズ313から距離F1、レンズ314から距離F2の位置で光軸を横切り、レンズ314を通過した後に再度光軸315と平行な軌道となる。また、物面で光軸315を通過する軸上軌道316は像面で光軸315を通過する。このように、軸上軌道316、軸外軌道317ともに、ダブレットレンズ入射前と出射後で、光軸315に対して進行方向が反転する特徴がある。この特徴を用いて、第1の磁場セクタで発生した偏向収差を第2の磁場セクタにおいて打ち消す。
【0024】
なお、本実施例で使用するダブレットレンズの倍率は等倍とするため、焦点距離F1=焦点距離F2とする。また、レンズ313,314を磁場レンズで構成する場合には、コイルに流す電流の正負を反転させることで、電子ビームの軌道の回転をキャンセルさせる。
【0025】
図3Aに、第1の磁場セクタ301、第2の磁場セクタ302、その間に配置されるレンズ303,304で構成されるダブレットレンズを通る電子線の軌道を模式的に示す。ダブレットレンズの物面に第1の磁場セクタ301が配置され、ダブレットレンズの像面に第2の磁場セクタ302が配置されている。なお、実際には電子線の軌道は磁場セクタにより偏向されるが、
図3Aでは単純化して、電子線の軌道が直進するよう示している。第1の磁場セクタ301、第2の磁場セクタ302に示す矢印は、偏向の向きと大きさを示している。上述したように、第1の磁場セクタ301、第2の磁場セクタ302の偏向の向きと大きさは同じである。
【0026】
図1において説明したように、光電子(電子線)の軸上軌道は磁場セクタの中心で光軸と交差している。したがって、磁場セクタの中心がダブレットレンズの物面、像面に含まれることにより、
図3Aに示すように、偏向収差がない状態では、軸上軌道306は第1の磁場セクタ301の中心で光軸305と交差し、第2の磁場セクタ302の中心で再び光軸305と交差する。また、軸外軌道307はレンズ303に光軸305と平行な軌道で入射し、レンズ304から光軸305と平行な軌道で出射する。
【0027】
第1の磁場セクタ301が偏向収差を発生させたことにより、軸上軌道306が偏向軸上軌道308に変化し、軸外軌道307が偏向軸外軌道309に変化する。この例では、偏向軸上軌道308、偏向軸外軌道309はそれぞれ軸上軌道306、軸外軌道307よりも紙面で下側を通ってレンズ303に入射される。
図3Bで説明したように、ダブレットレンズ入射前と出射後で、光軸に対する電子線の軌道は反転しているため、第2の磁場セクタ302が偏向収差を発生させていない状態では、第2の磁場セクタ302を通過した偏向軸上軌道308、偏向軸外軌道309はそれぞれ軸上軌道306、軸外軌道307よりも紙面で見て上側を通過する。そこで、第2の磁場セクタ302が第1の磁場セクタ301と同じ偏向収差を発生させることにより、第2の磁場セクタ302を通過した偏向軸上軌道308、偏向軸外軌道309はそれぞれ軸上軌道306、軸外軌道307に戻される。すなわち、偏向収差が打ち消される。
【0028】
第1の磁場セクタ301と第2の磁場セクタ302との距離と、ダブレットレンズを構成するレンズ303,304の焦点距離との関係で1段のダブレットレンズで構成することが困難な場合には、奇数段のダブレットレンズを磁場セクタ間に配置すればよい。したがって、隣接する磁場セクタの間に配置するレンズの数をLとすると、Mを自然数として、
L=2(2M-1)
と表せる。
図1では磁場セクタ104aと磁場セクタ104bとの間のダブレットレンズ105a、磁場セクタ104bと磁場セクタ104cとの間のダブレットレンズ105bはどちらも1段のダブレットレンズの例(L=2)を示している。磁場セクタ間ごとにダブレットレンズの段数が異なっていてもよい。
【0029】
図4に装置本体114の変形例を示す。本変形例では、高分解能が不要である場合や、装置本体の調整を行う場合などに一時的に磁場セクタをOFFにできる。構成は基本的に
図1と同様であるが、最も試料位置に近い磁場セクタ104aと最もカメラに近い磁場セクタ104cとの間にレンズ群401が配置されている。収差補正OFFモードでは磁場セクタ104a~cに電流を流さずOFFとするため、軸上軌道110a、軸外軌道110bは磁場セクタ104により偏向されることなく直進する。レンズ群401は、磁場セクタ104aの中心面402を磁場セクタ104cの中心面403に1倍で投影する。1倍で投影することによって、磁場セクタのON/OFF(収差補正ONモード/収差補正OFFモード)にかかわらず、電子光学系の倍率を同一にすることが可能である。このことは、軸上軌道と軸外軌道が投影レンズ107内を通過するときの離軸距離を、収差補正ONモード/収差補正OFFモードにかかわらず同一とできることで、投影レンズ107によって発生する収差、絞りによる軌道選択やアライナー感度などを揃えることも可能になる。例えば、レンズ群401を1または複数段のダブレットレンズで構成し、レンズ群401の各レンズの焦点距離を等しくすることにより、1倍で投影するレンズ群401を実現できる。
【0030】
本実施例で使用する磁場セクタの構成について説明する。
図5は、X方向からみた磁場セクタ501を示している。XYZ方向は
図1と同じであり、磁場セクタ501による電子線の偏向方向はXZ平面に含まれる。また、電子線の軌道の中心である光軸503をあわせて示している。磁場セクタ501は光軸503を挟んで対向する2つの平面状のポールピース502a,502bで構成される。ポールピース502a,502bは、XZ平面に平行となるように配置される。ポールピース502a,502bは同じ形状を有している。光軸からY方向に見たポールピース502aを
図6に示す。
【0031】
図6は、平面形状が円形の磁場セクタの例である。ポールピース502は鉄などの磁性体からなる。ポールピース502には、ポールピース502と同心円状の溝505が形成されており、溝505の内側をメインポールピース504、溝505の外側をシールド磁極506と呼称する。溝505にはコイルが巻かれており、対向するポールピース用コイルに流す電流の方向と量を同一として制御することで、ポールピース502aとポールピース502bのメインポールピース504の間に均一磁場B
0が発生する。磁場B
0はシールド磁極506にて終端され、磁場セクタの外側は磁場なしとされる。
【0032】
電子線はローレンツ力によってX方向に向かって偏向される。磁場セクタの電子線入射平面507a及び電子線出射平面507bは光軸に対して垂直になっている。本実施例での磁場セクタの偏向角Aは上述した通り、π/4N[rad](
図6ではN=1)であり、電子線出射平面507bは磁場セクタの偏向角Aに応じて定義される。
【0033】
中心平面508は、電子線入射平面507a及び電子線出射平面507bとの交線とポールピース502aの中心とを含む平面である。光軸503のメインポールピース内の距離、溝の距離、及びシールド磁極の距離は中心平面508を中心として同一であり、電子線の軌道は中心平面508を起点として対称となる。
図3Aに示したように、電子線の軸上軌道は磁場セクタの中心において光軸と交差するため、磁場セクタ内で発生する偏向収差は中心平面508を境界として打ち消しあう。
【0034】
磁場セクタの平面形状は円形でなくてもよく、
図6において説明した対称性や垂直などの条件を維持することで同様の効果が得られる。そのような例を
図7A,Bとして示す。それぞれに対して、同じ電子線の偏向を行える、ポールピースの平面形状が円形である場合の形状(
図6に相当)を点線で示している。このように、光軸503上では、メインポールピース504、溝505、シールド磁極506の配置は
図6と等しく、さらに、
図7A、Bの構造はどちらも電子線入射平面507a及び電子線出射平面507bがポールピース502の端面と同一とすることにより、
図6の構造よりも、偏向収差が出にくくなる点で有利な構造である。
図7Bは、
図7Aの構造から、さらに電子線が通過しない構造部分をカットした構造であり、電子光学系が内蔵されるカラムの空間を有効活用できるという利点がある。
【0035】
図8に、磁場セクタの別の構成例を示す。ローレンツ力は磁場B
0と平行な方向に進行する電子線には作用しないため、磁場セクタにおいて電子線は、基本的に偏向方向のみ集束作用を受ける。このため、電子線には非点が大きく発生した状態となる。
図8は磁場セクタによる非点の発生を抑制する構成である。ポールピースの溝505付近におけるフリンジ場(磁場)は電子線の偏向方向に対して水平な磁場成分を持つため、電子線の偏向方向に対して垂直な方向に作用することができる。そこで、
図8の磁場セクタでは、フリンジ場を活用することで非点を抑制する。
【0036】
図1に示す電子光学系において、ミラー収差補正器106に最も近い磁場セクタ104bには電子線が2回入射・出射するため、最も厳しい電子線の制御が要求される。そこで
図8に、
図7Bに示したポールピースに対して、非点抑制のための構造を追加したポールピースを示す。
図1の磁場セクタ104bとの対応付けを分かりやすくするため、
図7Bのポールピースを90°左向きに回転させた状態で示している。
【0037】
図8の構成では、メインポールピースが溝によってメインポールピース601~603の3つに分離されている。中間平面604aは、電子線入射平面507a1及び電子線出射平面507b1に対する中間平面であり、中間平面604bは、電子線入射平面507a2(電子線出射平面507b1と同一)及び電子線出射平面507b2に対する中間平面である。メインポールピースを分離する溝505d1,505d2は中間平面604a,604bと平行となるように形成されている。
【0038】
この例では、第1のメインポールピース601が発生する磁場B
1と第3のメインポールピース603が発生する磁場B
3とが同じになるように、第1及び第3のメインポールピースのコイルには同じ電流を流し、第2のメインポールピース602が発生する磁場B
2は磁場B
1(B
3)と磁場の向きが逆になるように異なる電流を流す。対応する電子線入射平面と電子線出射平面とを通過する光軸503が中間平面604aまたは中間平面604bに対して対称であることが維持されている限りにおいて、磁場B
1(B
3)、B
2を自由に選択できる。
図8の例では、磁場B
2を磁場B
1,B
3に対して反転させることで、光軸を外側に膨らませた軌道としている。第1~第3のメインポールピースに流す電流をすべて同一の電流とすれば、偏向された電子線の軌道は
図7Bのポールピースの場合と同じになる。電子線が溝505(メインポールピースを分離する溝505dを含む)を通過する際に受けるフリンジ磁場はこの磁場B
1~B
3の組み合わせによって変わるため、発生する非点量を最小化する磁場B
1~B
3の組み合わせを選択すればよい。なお、
図8では、メインポールピースを3つに分割する例を示したが、それよりも更に細かく分割してもよい。たとえば実装の観点からはへこんだ形状のメインポールピースに沿わせてコイルを巻くことは難しいため、第1のメインポールピース601や第2のメインポールピース602を上下に分割し、それぞれ別のコイルを巻き、同じ電流を流すことで同様の効果が得られる。
【0039】
以上、本発明を実施の態様に沿って説明したが、本発明は上記記載の内容に限定されるものではない。例えば、本実施例ではPEEMを例に説明したが、本実施例の電子光学系は、同様の電子光学系を有するLEEMに対しても適用可能なものである。
【符号の説明】
【0040】
10:励起光、20:ウエハ(試料)、101:試料ステージ、102:対物レンズ、103:対物補助レンズ、104:磁場セクタ、105:ダブレットレンズ、106:ミラー収差補正器、107:投影レンズ、108:カメラ、109:光軸、110a,110c:軸上軌道、110b,110d:軸外軌道、111:GUI装置、112:制御装置、113:記憶部、114:装置本体、301,302:磁場セクタ、303,304,313,314:レンズ、305,315:光軸、306,308,316:軸上軌道、307,309,317:軸外軌道、401:レンズ群、402,403:中心面、501:磁場セクタ、502:ポールピース、503:光軸、504:メインポールピース、505:溝、506:シールド磁極、507a:電子線入射平面、507b:電子線出射平面、508:中心平面、601:第1のメインポールピース、602:第2のメインポールピース、603:第3のメインポールピース、604:中心平面。