(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156361
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】混合材組成物、並びに、セメント組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 18/10 20060101AFI20221006BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20221006BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20221006BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C04B18/10 Z
C04B28/02
C04B14/28
C04B24/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060000
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MD00
4G112PA10
4G112PB11
4G112PB31
(57)【要約】
【課題】高温環境下におけるセメント組成物に流動性を付与することが可能な混合材組成物を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面は、全酸化カルシウムの含有量が15質量%以上であり、遊離酸化カルシウムの含有量が0.60質量%以上であり、且つ塩素の含有量が0.95質量%以下である、バイオマス燃焼灰を含む混合材組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全酸化カルシウムの含有量が15質量%以上であり、
遊離酸化カルシウムの含有量が0.60質量%以上であり、且つ、
塩素の含有量が0.95質量%以下である、バイオマス燃焼灰を含む、混合材組成物。
【請求項2】
前記バイオマス燃焼灰における亜鉛の含有量が0.25質量%以上である、請求項1に記載の混合材組成物。
【請求項3】
前記バイオマス燃焼灰のブレーン比表面積が7000cm2/g以上である、請求項1又は2に記載の混合材組成物。
【請求項4】
石灰石を更に含み、
前記バイオマス燃焼灰の含有量が、前記バイオマス燃焼灰及び前記石灰石の合計量を基準として、0.1~55.0質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の混合材組成物。
【請求項5】
セメントクリンカ、石膏、及び、請求項1~4のいずれか一項に記載の混合材組成物を含有し、
前記混合材組成物の含有量が5.0質量%超20.0質量%以下である、セメント組成物。
【請求項6】
前記石膏の半水化率が40~100質量%である、請求項5に記載のセメント組成物。
【請求項7】
前記セメントクリンカは、C3S量が40.0~70.0質量%であり、C2S量が5.0~40.0質量%であり、C3A量が7.0~13.0質量%であり、C4AF量が7.0~13.0質量%である、請求項5又は6に記載のセメント組成物。
【請求項8】
前記セメント組成物のSO3量が1.0~3.5質量%である、請求項5~7のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項9】
減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、及び流動化剤からなる群より選択される少なくとも一種の混和剤を含有する、請求項5~8のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項10】
前記混和剤がポリカルボン酸系化合物を含有する、請求項9に記載のセメント組成物。
【請求項11】
セメントクリンカ、石膏、及び、請求項1~4のいずれか一項に記載の混合材組成物を含む原料を、前記混合材組成物の含有量が5.0質量%超20.0質量%以下となるように、混合する混合工程を有する、セメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、混合材組成物、並びに、セメント組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高温環境下におけるセメントの使用では、セメント成分の水和反応が促進されることで時間経過とともに流動性が著しく低下する問題があった。このような問題に対して、生コンクリートの輸送、又は長時間を要するコンクリートの施工等においては、流動性を保持する目的で多量の高性能減水剤、高性能AE減水剤、硬化遅延剤等が添加剤として用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、セメントに配合される混合材として石灰石が広く利用されている。環境への配慮から、石灰石に代えて廃棄物や産業副産物を混合材として利用することによって天然資源である石灰石の使用量を削減することが行われている。例えば、普通ポルトランドセメントに添加される少量混合成分として、高炉スラグ、石炭灰、シリカフューム等の産業副産物が利用されている。また、特許文献2では、上記混合材、又はセラミック微粉末、高分散性減水剤、及びリチウム組成物を含有するモルタル用流動化添加材、並びに上記モルタル用流動化添加材を用いたモルタルの製造方法が開示されている。
【0004】
しかし、上述した高炉スラグ、石炭灰、及びシリカフューム以外に、その他の廃棄物や産業副産物をセメント混合材として利用することができれば、更なる環境負荷の低減が可能であり、循環型社会の形成に寄与することができる。これまで混合材としての利用実績が少ない無機粉末としては、例えば、バイオマス燃料、バイオマス廃棄物、一般ごみを燃焼した際に発生する燃焼灰が挙げられる。
【0005】
特に近年、再生可能エネルギーとしてバイオマス燃料の利用が増加している。例えば特許文献3では、木質バイオマスや製紙スラッジ等をバイオマス燃料として利用することで、環境負荷の低減を図っている。このようなバイオマス燃料の利用によって排出される燃焼後の灰分(バイオマス燃焼灰)は、産業副産物として多く排出されており、その有効利用が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-021901号公報
【特許文献2】特開2006-069854号公報
【特許文献3】特開2017-122550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セメント組成物を高温環境下で練り混ぜる際に減水剤等の混和剤を使用する場合、セメントクリンカや石膏、及びその他混合材等との相互作用によって、期待した流動性が確保できない、又は、長時間経過後に流動性が高まりすぎて材料分離を生じる等の問題がある。
【0008】
本開示は、高温環境下におけるセメント組成物に適度な流動性を付与することが可能な混合材組成物を提供することを目的とする。本開示はまた、上述の混合材組成物を含み、環境負荷低減に寄与し、且つ高温環境下において適度な流動性を発揮し得るセメント組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面は、全酸化カルシウムの含有量が15質量%以上であり、遊離酸化カルシウムの含有量が0.60質量%以上であり、且つ塩素の含有量が0.95質量%以下である、バイオマス燃焼灰を含む、混合材組成物を提供する。
【0010】
上記バイオマス燃焼灰は、全酸化カルシウムの含有量、及び酸化カルシウムにおける遊離酸化カルシウムの含有量が所定の範囲内であり、且つ塩素の含有量が所定の範囲内となっていることによって、高温環境下におけるセメント組成物に適度な流動性を付与することが可能である。
【0011】
上記バイオマス燃焼灰における亜鉛の含有量が0.25質量%以上であってよい。
【0012】
上記バイオマス燃焼灰はブレーン比表面積が7000cm2/g以上であってよい。
【0013】
上記混合材組成物は、石灰石を更に含み、上記バイオマス燃焼灰の含有量が、上記バイオマス燃焼灰及び上記石灰石の合計量を基準として、0.1~55.0質量%であってよい。
【0014】
本開示の一側面は、セメントクリンカ、石膏、及び、上述の混合材組成物を含有し、上記混合材組成物の含有量が5.0質量%超20.0質量%以下である、セメント組成物を提供する。
【0015】
上記セメント組成物は、上述のバイオマス燃焼灰を含む混合材組成物を比較的多く含みながら、上述の混合材組成物の含有量が所定の範囲内となっていることによって、環境負荷を低減に寄与し、且つ高温環境下において適度な流動性を発揮し得る。
【0016】
上記セメント組成物において、上記石膏の半水化率が40~100質量%であってよい。
【0017】
上記セメントクリンカは、C3S量が40.0~70.0質量%であり、C2S量が5.0~40.0質量%であり、C3A量が7.0~13.0質量%であり、C4AF量が7.0~13.0質量%であってよい。
【0018】
上記セメント組成物は、上記セメント組成物のSO3量が1.0~3.5質量%であってよい。
【0019】
上記セメント組成物は、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、及び流動化剤からなる群より選択される少なくとも一種の混和剤を更に含有してよい。
【0020】
上記混和剤がポリカルボン酸系化合物を含有してよい。
【0021】
本開示の一側面は、セメントクリンカ、石膏、及び、上述の混合材組成物を含む原料を、上記混合材組成物の含有量が5.0質量%超20.0質量%以下となるように混合する混合工程を有する、セメント組成物の製造方法を提供する。
【0022】
上記セメント組成物の製造方法は、混合材として上述の混合材組成物を使用し、混合材として上記バイオマス燃焼灰を比較的多く配合しつつ、上記混合材組成物の含有量が所定の範囲内となるように混合することによって、環境負荷を低減に寄与し、且つ高温環境下において適度な流動性を発揮し得るセメント組成物を製造できる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、高温環境下におけるセメント組成物に適度な流動性を付与することが可能な混合材組成物を提供できる。本開示によればまた、上述の混合材組成物を含み、環境負荷低減に寄与し、且つ高温環境下において適度な流動性を発揮し得るセメント組成物、及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、以下の説明では、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
【0025】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0026】
セメント組成物の一実施形態は、セメントクリンカ、石膏、及び、バイオマス燃焼灰を含む混合材組成物を含有する。本実施形態におけるバイオマス燃焼灰としては、全酸化カルシウムの含有量が15質量%以上であり、遊離酸化カルシウムの含有量が0.60質量%以上であり、且つ塩素の含有量が0.95質量%以下であるバイオマス燃焼灰を用いる。
【0027】
セメントクリンカは、例えば、普通セメントクリンカ、早強セメントクリンカ、中庸熱セメントクリンカ、低熱セメントクリンカ、及び油井セメントクリンカ等が挙げられる。この中でも、強度特性や入手のしやすさを考慮すると、普通セメントクリンカ、早強セメントクリンカが好適に使用できる。
【0028】
石膏は、例えば、二水石膏、半水石膏、及び無水石膏等を使用することができる。石膏は、1種を単独で使用してもよく、また複数を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
セメント組成物における石膏の半水化率は、一般的なポルトランドセメントにおける石膏の含有量と同等であってよい。セメント組成物における石膏の含有量は、SO3換算で、セメント組成物全量を100質量%として、例えば、0.5~3.5質量%、1.0~3.0質量%、又は1.0~2.5質量%であってよい。
【0030】
本実施形態に係るセメント組成物は、所定の混合材組成物を配合することによって、高温環境下において適度な流動性を発揮し得ることから、石膏の半水化率を高めたものであってよい。ここで石膏の半水化率とは、セメント組成物中の半水石膏と二水石膏との合計量に対する半水石膏量の質量比を意味する。上記セメント組成物において、上述の石膏の半水化率は、例えば、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、又は80質量%以上であってよい。上述の石膏の半水化率の上限値は特に制限されるものではなく、100質量%(すなわち、全量半水石膏)であってもよく、99質量%以下、98質量%以下、又は95質量%以下であってもよい。上述の石膏の半水化率は上述の範囲内で調整してよく、例えば、40~100質量%、又は50~99質量%であってよい。なお、上述の石膏の半水化率が40質量%未満となる場合には、安定してより良好な流動性を獲得しやすい傾向にある。石膏の半水化率は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)で測定される。
【0031】
上記セメント組成物は、バイオマス燃焼灰を含む混合材組成物を含有する。混合材組成物は、石灰石を更に含んでもよい。
【0032】
石灰石としては、例えば、一般に販売されている石灰石粉、及び寒水石粉等の炭酸カルシウムを主成分とする粉末を使用することができる。石灰石は、好ましくは、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分に適合するものを含む。
【0033】
セメントのブレーン比表面積は、例えば、3000~8000cm2/g、3000~7000cm2/g、3000~6000cm2/g、3000~5000cm2/g、又は3000~4000cm2/gであってよい。
【0034】
本明細書におけるバイオマス燃焼灰とは、火力発電等の工程において、少なくとも一部にバイオマス燃料を含む燃料を燃焼した際に得られる燃焼灰を意味する。バイオマス燃焼灰を得るための燃料は、好ましくはバイオマス燃料の割合が高く、より好ましくはバイオマス燃料を25質量%以上含み、特に好ましくはバイオマス燃料を50質量%超含み、更に好ましくはバイオマス燃料のみからなる燃料であってもよい。バイオマス燃焼灰としては、バイオマス燃料のみからなる燃料を燃焼(専焼)させて得られる燃焼灰を用いることができ、バイオマス燃料と、他の燃料又は廃棄物とを含む燃料を燃焼(混焼)させて得られる燃焼灰を用いることもでき、また両燃焼灰の混合灰を用いることもできる。
【0035】
バイオマス燃料としては、例えば、木質チップ、木屑、木質ペレット、廃木材、間伐材、おがくず、わら、籾殻、ヤシ殻、トウモロコシ残渣、バガス、製紙スラッジ、廃パルプ、古紙、黒液、バイオエタノール、バイオ由来メタン、家畜排泄物、及び食品加工廃棄物等が挙げられる。他の燃料としては、例えば、石油、重油、及びその他の油脂等が挙げられる。上記廃棄物としては、例えば、廃プラスチック、廃油、廃タイヤ、RPF、建設廃材、建設発生土、廃石膏、及び廃石灰等が挙げられる。
【0036】
本開示に係るバイオマス燃焼灰としては、全酸化カルシウムの含有量が15質量%以上であり、遊離酸化カルシウムの含有量が0.60質量%以上であり、且つ塩素の含有量が0.95質量%以下であるバイオマス燃焼灰を用いる。当該バイオマス燃焼灰はセメント組成物に添加して用いる混合材の一種として好適であることから、混合材用バイオマス燃焼灰ともいえる。
【0037】
バイオマス燃焼灰におけるカルシウム化合物の存在形態として、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、及び酸化カルシウム(生石灰)等があるが、本明細書における全酸化カルシウム含有量とは、カルシウム化合物の存在の形態に係わらず、バイオマス燃焼灰を対象とした蛍光X線分析によって検出されるカルシウムの存在量を酸化物換算値で示した数値である。
【0038】
全酸化カルシウム含有量の下限値は、例えば、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、又は35質量%以上であってよい、全酸化カルシウム含有量の上限値は、例えば、70.0質量%以下、60.0質量%以下、50.0質量%以下、又は40.0質量%以下であってよい。全酸化カルシウム含有量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、15~70質量%、又は20~50.0質量%であってよい。
【0039】
バイオマス燃焼灰における遊離酸化カルシウムの含有量とは、カルシウムの存在形態が遊離の状態であるもの(化合物として酸化カルシウムの状態であるもの)に限った量を意味し、遊離酸化カルシウム量(f-CaO量)はJCAS I-01-1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」の記載に準拠して測定される値である。
【0040】
遊離酸化カルシウムの含有量の下限値は、例えば、1.00質量%以上、2.10質量%以上、3.00質量%以上、又は4.00質量%以上であってよい。遊離酸化カルシウムの含有量の上限値は、例えば、30.0質量%以下、20.0質量%以下、15.0質量%以下、10.0質量%以下、又は7.0質量%以下であってよい。遊離酸化カルシウムの含有量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.60~30.0質量%、又は2.10~10.0質量%であってよい。
【0041】
バイオマス燃焼灰における塩素の含有量(Cl含有量)の下限値は、例えば、0.25質量%超であってよい。バイオマス燃焼灰における塩素の含有量の上限値は、例えば、0.80質量%以下、0.60質量%以下、又は0.40質量%以下であってよい。塩素の含有量の上限値が上記範囲内であるようなバイオマス燃焼灰を含むことによって、得られるセメント組成物の高温環境下での流動性をより優れたものとすることができる。上記バイオマス燃焼灰における塩素の含有量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.25質量%超0.95質量%以下であってよい。バイオマス燃焼灰における塩素の含有量は、例えば、バイオマス燃焼灰を加熱、洗浄等することによって、調整することができる。
【0042】
バイオマス燃焼灰における亜鉛の含有量(Zn含有量)の下限値は、例えば、0.25質量%以上、0.50質量%以上、又は1.0質量%以上であってよい。バイオマス燃焼灰における亜鉛の含有量の上限値は、例えば、20.00質量%以下、10.00質量%以下、5.00質量%以下であってよい。バイオマス燃焼灰における亜鉛の含有量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.25~20.00質量%、又は0.25~5.00質量%であってよい。
【0043】
バイオマス燃焼灰としては、強度発現の観点から、二酸化ケイ素の含有量(SiO2含有量)の少ない粉末を用いることが好ましい。バイオマス燃焼灰のSiO2含有量の上限値は、例えば、50.0質量%以下、45.0質量%以下、40.0質量%以下、30.0質量%以下、又は20.0質量%以下であってよい。バイオマス燃焼灰としては、廃棄物・副産物の有効利用の観点から、二酸化ケイ素の含有量(SiO2含有量)の多い粉末を用いることが好ましい。バイオマス燃焼灰におけるSiO2含有量の下限値は、例えば、1.0質量%以上、5.0質量%以上、又は10.0質量%以上であってよい。
【0044】
バイオマス燃焼灰としては、強度発現の観点から、酸化アルミニウムの含有量(Al2O3含有量)の少ない粉末を用いることが好ましい。バイオマス燃焼灰のAl2O3含有量の上限値は、例えば、20.0質量%以下、14.0質量%以下、11.0質量%以下、又は8.0質量%以下であってよい。バイオマス燃焼灰としては、廃棄物・副産物の有効利用の観点から、酸化アルミニウムの含有量(Al2O3含有量)の多い粉末を用いることが好ましい。バイオマス燃焼灰におけるAl2O3含有量の下限値は、例えば、1.0質量%以上、3.0質量%以上、6.0質量%以上、又は7.0質量%以上であってよい。
【0045】
バイオマス燃焼灰としては、強度発現の観点から、三酸化硫黄の含有量(SO3含有量)の少ない粉末を用いることが好ましい。バイオマス燃焼灰のSO3含有量の上限値は、例えば、25.0質量%以下、20.0質量%以下、15.0質量%以下、又は12.0質量%以下であってよい。バイオマス燃焼灰としては、廃棄物・副産物の有効利用の観点から、SO3の含有量(SO3含有量)の多い粉末を用いることが好ましい。バイオマス燃焼灰におけるSO3含有量の下限値は、例えば、0.1質量%以上、1.0質量%以上、3.0質量%以上、又は5.0質量%以上であってよい。
【0046】
バイオマス燃焼灰のR2O含有量の上限値は、例えば、5.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。バイオマス燃焼灰としては、廃棄物・副産物の有効利用の観点から、R2Oの含有量(R2O含有量)の多い粉末を用いることが好ましい。バイオマス燃焼灰におけるR2O含有量の下限値は、例えば、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上であってよい。
【0047】
バイオマス燃焼灰は粉砕等によって粒度を調整したものを用いてもよい。バイオマス燃焼灰のブレーン比表面積の下限値は、例えば、3000cm2/g以上、6800cm2/g以上、7000cm2/g以上、8000cm2/g以上、9000cm2/g以上、又は10000cm2/g以上であってよい。ブレーン比表面の下限値が上記範囲内であることによって、セメント組成物を硬化させた際の強度をより向上できる。バイオマス燃焼灰のブレーン比表面積の上限値は、例えば、50000cm2/g以下、40000cm2/g以下、30000cm2/g以下、又は20000cm2/g以下であってよい。ブレーン比表面の上限値が上記範囲内であることで、取扱い性の低下を抑制し、セメント組成物の製造をより容易に行うことができる。バイオマス燃焼灰のブレーン比表面積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、3000~50000cm2/g、又は9000~20000cm2/gであってよい。
【0048】
上記混合材組成物の含有量は、セメント組成物全量を基準として、5.0質量%超20.0質量%以下である。上記混合材組成物の含有量の下限値は、セメント組成物全量を基準として、例えば、6.0質量%以上、7.0質量%以上、又は8.0質量%以上であってよい。上記混合材組成物の含有量の下限値が上記範囲内であることで、環境負荷をより低減してセメント組成物を製造することができる。上記混合材組成物の含有量の上限値は、セメント組成物全量を基準として、例えば、15.0質量%以下、12.0質量%以下、又は10.0質量%以下であってよい。上記混合材組成物の含有量の上限値が上記範囲内であることで、得られるセメント組成物を硬化した際の強度をより向上させることができる。
【0049】
上記混合材組成物が石灰石を更に含む場合、バイオマス燃焼灰の含有量は、上記石灰石及び上記バイオマス燃焼灰の合計量を基準として、0.1~55.0質量%であってよい。上記バイオマス燃焼灰の含有量の下限値は、上記石灰石及び上記バイオマス燃焼灰の合計量を基準として、例えば、0.5質量%以上、1.0質量%以上、3.0質量%以上、5.0質量%以上、10.0質量%以上、又は15.0質量%以上であってよい。上記バイオマス燃焼灰の含有量は、上記石灰石及び上記バイオマス燃焼灰の合計量を基準として、例えば、50.0質量%以下、40.0質量%以下、又は30.0質量%以下であってよい。
【0050】
上記セメントクリンカのBogue式による鉱物組成及び化学組成は、例えば、C3S量が40.0~70.0質量%であり、C2S量が5.0~40.0質量%であり、C3A量が7.0~13.0質量%であり、C4AF量が7.0~13.0質量%であってよい。
【0051】
上記セメントクリンカのC3S量は、例えば、50.0~55.0質量%であってよい。上記セメントクリンカのC2S量は、例えば、15.0~25.0質量%であってよい。上記セメントクリンカのC3A量は、例えば、10.5質量%超11.5質量%以下であってよい。上記セメントクリンカのC3AF量は、例えば、9.0~10.0質量%であってよい。
【0052】
上記セメント組成物のSO3量は、例えば、1.0~3.5質量%、1.2~3.0質量%、又は1.5~2.5質量%であってよい。
【0053】
上記セメント組成物は、セメントクリンカ、石膏、及び混合材組成物に加えて、更に混和剤を含有してよい。混和剤は、例えば、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、収縮低減剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、及び増粘剤等が挙げられる。上記セメント組成物は、上述の混和剤の中でも、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、及び流動化剤からなる群より選択される少なくとも一種の混和剤を含有することが好ましい。また、混和剤は、好ましくはポリカルボン酸系化合物を含み、より好ましくはポリカルボン酸系化合物及びホスホン酸系化合物を含む。混和剤の含有量は、上述のセメント組成物100質量部に対して、例えば、0.01~3質量部であってよい。
【0054】
上述のセメント組成物は、例えば、以下のような製法によって製造することができる。セメント組成物の製造方法の一実施形態は、セメントクリンカ、石膏、及び、上述の混合材組成物、を含む原料を混合する混合工程を有する。
【0055】
混合工程は、セメントクリンカ、石膏、及び上記混合材組成物、を含む原料を、上記混合材組成物の含有量が5.0質量%超20.0質量%以下となるように、混合する工程である。
【0056】
混合工程においては、各主成分の混合の他、各主成分を破砕してもよく、混合及び破砕の順序は特に限定されるものではない。すなわち、各主成分を混合した後に破砕を行ってもよく、各主成分を破砕した後に混合してもよく、また各主成分の混合と破砕とを同時に行ってもよい。混合工程における各主成分の混合は、例えば、パン型ミキサー、傾胴式ミキサー、リボンミキサー等の混合機を用いて行ってよく、ボールミル又は竪型ローラーミル、及びローラープレス等の粉砕機を用いて混合粉砕してもよく、又は各主成分のそれぞれを粉砕した後に機械混合機等の混合機で混合してもよい。
【0057】
上記セメント組成物の製造方法においては、セメントクリンカ、石膏、及び混合材組成物を配合することが好ましいが、セメントクリンカ及び石膏に代えて、セメントクリンカ、石膏及び石灰石が予め配合されたセメントを用いてもよく、当該セメントに対して混合材組成物を配合してもよい。
【0058】
混合材組成物が石灰石を更に含む場合において、石灰石が予め配合されたセメントに対して混合材組成物を配合する場合、セメントに配合された石灰石と混合材組成物が含有する石灰石の合計量に対して、バイオマス燃焼灰の含有量が上述の関係を充足するように調整することで、セメントクリンカ、石膏、及び混合材組成物での配合を行った場合と同等の効果を得ることができる。
【0059】
混合材組成物として使用する原料が複数種ある場合、混合材組成物として配合した後に各主成分と混合及び破砕してもよく、混合材組成物としての配合を事前に実施することなく、各原料を主成分と同等に扱って、上述の混合及び粉砕を適用してもよい。
【0060】
上述の製造方法によって製造される混合セメント組成物は、細骨材、粗骨材、水、混和材等と混合してモルタルとして使用してもよい。
【0061】
細骨材は、JIS A 5005:2020「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の細骨材等を用いることができる。細骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、銅スラグ細骨材、及び電気炉酸化スラグ細骨材等が挙げられる。細骨材を使用する場合、細骨材の使用量は、上述の混合セメント組成物100質量部に対して、例えば、50~500質量部、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0062】
粗骨材は、JIS A 5005:2020「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の粗骨材等を用いることができる。粗骨材としては、例えば、砂利、及び砕石等が挙げられる。粗骨材を使用する場合、粗骨材の使用量は、上述の混合セメント組成物100質量部に対して、例えば、50~500質量部、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0063】
細骨材及び粗骨材を併用することもできるが、この場合、細骨材及び粗骨材の合計の使用量は、上述の混合セメント組成物100質量部に対して、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0064】
水としては、例えば、水道水、蒸留水、及び脱イオン水等が挙げられる。水の使用量は、上述の混合セメント組成物100質量部に対して、20~100質量部、又は40~70質量部であってよい。
【0065】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例0066】
以下、実施例、比較例、及び参考例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0067】
[セメント組成物の原料]
セメント組成物の原料として以下の物を用いた。
【0068】
(セメントクリンカ)
セメントクリンカは、Bogue式による鉱物組成が下記表1の記載となるような普通ポルトランドセメントクリンカを用いた。Bogue式の計算に用いたセメントの化学成分は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に記載の方法に準拠して測定した。
【0069】
【0070】
(石膏)
石膏は、JIS R 9151:2009「セメント用天然せっこう」に記載の要件を満たす石膏を用いた。
【0071】
(混合材)
混合材としては、後述する、石灰石、バイオマス燃焼灰、及び石炭灰を用いた。各混合材の性状(全酸化カルシウム量、遊離酸化カルシウム量、化学組成、及びブレーン比表面積)を表2に示す。
【0072】
・石灰石
石灰石(CC)は、炭酸カルシウム含有量が90質量%以上、酸化アルミニウム含有量が1.0質量%以下であり、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分の要件を満たす石灰石を用いた。
【0073】
・バイオマス燃焼灰
バイオマス燃焼灰(BA)は、ブレーン比表面積値が6520~11000cm2/gであるバイオマス燃焼灰BA1~BA6を使用した。なお、BA2はBA1をボールミルにて粉砕したバイオマス燃焼灰である。
【0074】
・石炭灰
石炭灰(FA)は、JIS A 6201:2015 コンクリート用フライアッシュのフライアッシュII種に適合する石炭灰(FA1,FA2)を用いた。FA2は、FA1に酸化カルシウム(生石灰)を添加した石炭灰である。生石灰は試薬の炭酸カルシウムを950℃で恒量になるまで強熱して得たものを使用した。
【0075】
(混和剤)
・高性能減水剤
高性能減水剤として、CHRYSO社の「OPTIMA SL 183」(商品名)を用いた。「OPTIMA SL 183」はポリカルボン酸系化合物及びホスホン酸系化合物を含有する高性能減水剤である。
【0076】
(実施例1~2、比較例1~8、及び参考例1~3)
セメントクリンカ、石膏及び各種混合材(石灰石、バイオマス燃焼灰、石炭灰)を表2に示す配合量(質量%)となるように、混合及び粉砕することによってセメント組成物を調製した。
【0077】
表2におけるセメント組成物の、石膏量(SO3換算値)、石灰石の添加量、SO3量、及び石膏の半水化率を示す。セメントのSO3量は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に記載の方法に準拠して測定したセメントの化学分析値を意味する。石膏の半水化率は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)にて測定した。
【0078】
<混合材の性状の測定>
表2における各混合材について、全酸化カルシウムの含有量、遊離酸化カルシウムの含有量、化学組成、及びブレーン比表面積に関しては、以下のように求めた。混合材の化学組成は走査型蛍光X線装置を使用して、ファンダメンタルパラメーター法によって定量した。遊離酸化カルシウム量(f-CaO量)はJCAS I-01-1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」の記載に準拠して測定し、ブレーン比表面積はJIS R 5201:2015「セメントの物理測定方法」の記載に準拠して測定した。蛍光X線分析には、株式会社リガク製の「ZSX-100e」(製品名)を用いた。
【0079】
<せん断応力の測定>
実施例1~2、比較例1~8、及び参考例1~3で調製した各種セメント組成物を用いてせん断応力の測定を行った。なお、高温環境下での使用を想定して、流動性の評価は35℃の条件下で実施した。
【0080】
具体的にはまず、上記セメント組成物100質量部に対して、高性能減水剤の含有量が1.0質量部となるように、高性能減水剤の水溶液を加えて、ペーストを調製し練り混ぜた。この際、水の配合量がセメント組成物100質量部に対して34質量部となるように調整した。練り混ぜは35℃の恒温室内において、ケミカルミキサーを用いて、600rpm、3分間の条件で行った。練り混ぜ後、直ちに上記ペーストを測定容器に投入し、レオメータによって練り混ぜ直後のせん断応力の測定を行った。その後、当該ペーストを35℃の恒温室内において、水分の蒸発を防いだ状態で静置し、養生した。養生開始から120分間が経過した時点で上記ペーストに対して練り返しを行った後に、再度測定容器に投入し、レオメータによって材齢120分のせん断応力を測定した。
【0081】
せん断応力の測定は、共軸二重円筒型レオメータ(Anton Paar社製、製品名:MCR101)を用いて、せん断速度を10-5~103s-1まで段階的に変更して行った。より具体的には、上記せん断速度の変化幅を対数軸で36点に分割し、上記36点の各点において、その時点でのせん断速度で5秒間ずつせん断をかけせん断応力を測定し、合計180秒間で10-5から103s-1まで上昇させ(上昇曲線)た。その後、せん断速度を同様に段階的に下げていきながら(下降曲線)、その際のせん断応力を測定した。下降曲線の0.1s-1で5秒間、せん断を加えた後のせん断応力値(0.1s-1でのせん断応力値)を流動性の指標とし、練り混ぜ直後、及び練り混ぜから120分間経過後の流動性を評価した。流動性の測定中は測定容器内を35℃に保持した。なお、せん断応力が0.15~10.0Paである場合には、優れた流動性を有すると評価した。
【0082】
【0083】
表2に示した、実施例1,2は、比較例1に対して石灰石の一部を本開示に係る所定のバイオマス燃焼灰で置き換えた実験例である。表2に示されるとおり、実施例1,2のセメント組成物では、材齢120分のせん断応力の低下が抑制されることを確認できる。高温環境下での経時の流動性低下の問題が大きい石膏の半水化率が高い場合であっても上述の効果を得ることができ、石膏の半水化率が低い場合においても同様の効果を奏すると考えられる。なお、実施例1及び実施例2の結果の対比から、混合材に占めるバイオマス燃焼灰の割合を高めることによって当該効果を上昇し得ることも確認できる。
【0084】
石膏の半水化率が高いと、高温環境下での経時の流動性低下の問題が大きいことを確認するために、参考例1及び参考例2を示した。石膏の半水化率が40質量%未満である参考例1と、石膏の半水化率が40質量%以上である参考例2とのせん断応力の結果を比較すると、石膏の半水化率が大きい場合に、高温環境下での長時間経過後のせん断応力の低下が著しく、流動性の維持の観点から問題が生じ得ることが分かる。
【0085】
なお、実施例1~2、比較例1~8及び参考例3では、高温環境下での長時間経過後のせん断応力の低下が著しく、流動性に関する課題が顕在化しやすい条件での使用を想定して、石膏の半水化率を81質量%とした評価を行った。参考例3は、混合材として石灰石が3.9質量%添加されたものであり、一般に使用される普通ポルトランドセメントを想定した実験例であるが、練り混ぜ直後のせん断応力は2.16Paと比較的優れるものの、120分間経過後の材齢120分のせん断応力は0.09Paと大きく低下することが確認された。比較例1は混合材を増量した場合を想定し、その全量を石灰石とした実験例であるが、この場合も参考例3と同様に材齢120分のせん断応力が大きく低下することが確認された。
【0086】
次に、比較例2~6は、実施例1~2とは異なるバイオマス燃焼灰を用いた例であり、比較例7~8は混合材として石炭灰を用いた例である。表2に示されるとおり、比較例2~8のセメント組成物であっても高温環境下での材齢120分のせん断応力の低下が大きいことが確認された。
【0087】
比較例7、8は混合材として石炭灰を使用したものである。なお、比較例8で使用した石炭灰(FA2)は、比較例7で使用した石炭灰(FA1)に生石灰を添加することで遊離酸化カルシウム量を増加させた石炭灰である。比較例7,8から、遊離酸化カルシウム量を補うことのみでは、高温環境下における流動性は改善されないことが確認された。
本開示によれば、高温環境下におけるセメント組成物に流動性を付与することが可能な混合材組成物を提供できる。本開示によればまた、上述の混合材組成物を含み、環境負荷低減に寄与し、且つ高温環境下において適度な流動性を発揮し得るセメント組成物、及びその製造方法を提供できる。