(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156443
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】セメント成形体の製造方法、および、加熱養生用のセメント成形体
(51)【国際特許分類】
C04B 22/08 20060101AFI20221006BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C04B22/08 B
B28B11/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060144
(22)【出願日】2021-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行所名:一般社団法人 セメント協会 刊行物名:第74回セメント技術大会講演要旨 発行日:令和2年5月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中上 明久
(72)【発明者】
【氏名】西山 沙友里
(72)【発明者】
【氏名】小田部 裕一
【テーマコード(参考)】
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
4G055AA01
4G055BA02
4G112MB04
(57)【要約】
【課題】加熱養生後のセメント成形体に温度ひび割れが生じるのを抑制できるセメント成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】セメント組成物と水とを混練して混練物を得る混練工程と、前記混練物を成形してなるセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程とを備えるセメント成形体の製造方法であって、前記混練工程では、前記セメント組成物を構成するセメントの質量に対して0.6質量%以上3.0質量%以下の亜硝酸カルシウムを、前記セメント組成物および前記水と混練するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物と水とを混練して混練物を得る混練工程と、前記混練物を成形してなるセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程とを備えるセメント成形体の製造方法であって、
前記混練工程では、前記セメント組成物を構成するセメントの質量に対して0.6質量%以上3.0質量%以下の亜硝酸カルシウムを、前記セメント組成物および前記水と混練する、
セメント成形体の製造方法。
【請求項2】
前記混練工程では、前記セメント組成物を構成するセメントの質量に対して1.2質量%以上1.8質量%以下の亜硝酸カルシウムを、前記セメント組成物および前記水と混練する、
請求項1に記載のセメント成形体の製造方法。
【請求項3】
養生環境に配置されて加熱養生される加熱養生用のセメント成形体であって、
セメント組成物と亜硝酸カルシウムと水とが混練されて成形されてなり、
前記セメント組成物を構成するセメントの質量に対して0.6質量%以上3.0質量%以下の亜硝酸カルシウムを含む、
加熱養生用のセメント成形体。
【請求項4】
前記セメント組成物を構成するセメントの質量に対して1.2質量%以上1.8質量%以下の亜硝酸カルシウムを含む、
請求項3に記載の加熱養生用のセメント成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱養生工程を備えるセメント成形体の製造方法、および、加熱養生用のセメント成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
早期強度発現を目的として、セメント組成物と水とを混練して成形したセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程が行われることがある。特許文献1には、加熱養生工程の一例として、セメント成形体と高温の蒸気とを接触させることで行う加熱養生工程が開示されている。
【0003】
加熱養生工程が終了した後、セメント成形体を養生環境から取り出すと、セメント成形体の内部温度と表面温度との差が大きくなり、セメント成形体に温度ひび割れ(以下、温度ひび割れとも記す)が生じることがある。このような温度ひび割れを抑制する方法としては、養生環境から取り出したセメント成形体に急激な温度低下が生じないように、加熱養生工程の温度管理を行うことが考えられる。例えば、加熱養生工程の養生温度を比較的低温に設定し、加熱養生工程の養生温度と養生環境の外の温度との差を比較的小さくすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように、加熱養生工程の養生温度を比較的低く設定すると、必要とする積算温度が得られるまでに長時間を要することがあり、加熱養生工程を効率的に行うことができない。このため、温度ひび割れを抑制しうる他の方法が要求されている。
【0006】
そこで、本発明は、加熱養生後のセメント成形体に温度ひび割れが生じるのを抑制できるセメント成形体の製造方法、および、加熱養生用のセメント成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセメント成形体の製造方法は、セメント組成物と水とを混練して混練物を得る混練工程と、前記混練物を成形してなるセメント成形体を養生環境に配置して加熱養生する加熱養生工程とを備えるセメント成形体の製造方法であって、前記混練工程では、前記セメント組成物を構成するセメントの質量に対して0.6質量%以上3.0質量%以下の亜硝酸カルシウムを、前記セメント組成物および前記水と混練する。
【0008】
斯かる構成によれば、混練工程において、上記の割合で亜硝酸カルシウムを用いることで、加熱養生工程後のセメント成形体に温度ひび割れが生じるのを抑制できる。なお、「温度ひび割れが生じるのを抑制できる」とは、「温度ひび割れの数量を低減できること」、または「生じる温度ひび割れの幅を細くできること」の少なくとも1つである。
【0009】
前記混練工程では、前記セメント組成物を構成するセメントの質量に対して1.2質量%以上1.8質量%以下の亜硝酸カルシウムを、前記セメント組成物および前記水と混練することが好ましい。
【0010】
斯かる構成によれば、混練工程において、上記の割合で亜硝酸カルシウムを用いることで、加熱養生工程後のセメント成形体に温度ひび割れが生じるのをより効果的に抑制できる。
【0011】
本発明に係る加熱養生用のセメント成形体は、養生環境に配置されて加熱養生される加熱養生用のセメント成形体であって、セメント組成物と亜硝酸カルシウムと水とが混練されて成形されてなり、前記セメント組成物を構成するセメントの質量に対して0.6質量%以上3.0質量%以下の亜硝酸カルシウムを含む。
【0012】
本発明に係る加熱養生用のセメント成形体は、前記セメント組成物を構成するセメントの質量に対して1.2質量%以上1.8質量%以下の亜硝酸カルシウムを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、加熱養生後のセメント成形体に温度ひび割れが生じるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】[実施例]の本試験における測定方法の概略を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、セメント組成物と水とを混練して混練物を得る混練工程と、該混練物を成形してなるセメント成形体を養生する養生工程とを備える。該養生工程は、セメント成形体を加熱養生する加熱養生工程と該加熱養生工程の前に行う前置き工程とを備える。なお、前置き工程および加熱養生工程については後述する。また、本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、加熱養生工程を行う養生環境からセメント成形体を取り出す取出工程を更に備える。
【0017】
前記混練工程では、亜硝酸カルシウムを、セメント組成物および水と混練する。混練工程で使用される亜硝酸カルシウムの質量割合は、セメント組成物を構成するセメントの質量に対して0.6質量%以上3.0質量%以下であり、好ましくは1.2質量%以上1.8質量%以下であり、より好ましくは1.4質量%以上1.6質量%以下である。
【0018】
セメント組成物に含まれるセメントとしては、特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント等のJIS R 5210:2009に規定されるポルトランドセメント、JIS R 5211:2009に規定される高炉セメント、JIS R 5213:2009に規定されるフライアッシュセメント、JIS R 5212:2009に規定されるシリカセメントおよびJIS R 5214:2009に規定されるエコセメント等が挙げられ、これらを単独でまたは混合して用いることができる。
【0019】
また、セメント組成物は、混和材を含むものであってもよい。例えば、セメント組成物は、混和材として、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石粉末、石英粉末、二水石膏、半水石膏、I型無水石膏、II型無水石膏、III型無水石膏等を一つまたは複数含んでもよい。
【0020】
また、セメント組成物は、粗骨材、および/または、細骨材を含むものであってもよい。粗骨材としては、例えば、粒径2.5~40mmの砂利、砕石等の公知の粗骨材、これらの混合物や軽量骨材等が挙げられる。また、細骨材としては、山砂、川砂、陸砂、砕砂、海砂、珪砂3~7号等の比較的粒径の細かい細骨材、JIS A 5011:2003に記載される高炉スラグ骨材、フェロニッケルスラグ骨材、銅スラグ骨材、電気炉酸化スラグ骨材または珪砂粉、石灰石粉等の微粉末等の公知の細骨材等が挙げられる。なお、粗骨材、および/または、細骨材がセメント組成物に含まれない場合には、粗骨材、および/または、細骨材と、セメント組成物と、水とを混練して混練物を形成してもよい。
【0021】
また、セメント組成物は、各種添加剤を含むものであってもよい。例えば、添加剤としては、無機混和材、AE剤、減水剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、消泡剤、防錆剤、防凍剤、着色剤、空気連行剤等の混和剤や、耐久性を向上させるための炭素繊維や鋼繊維や化学繊維等の補強材等が挙げられる。
【0022】
混練物を形成する際の水/セメント比(質量比)としては、特に限定されず、使用するセメント等の材料の種類や配合により変化させることが好ましい。例えば、水/セメント比(質量比)としては、30%以上60%以下であってもよく、35%以上50%以下であってもよい。
【0023】
前記セメント成形体は、混練物を成形型に打設して成形したものであってもよく、成形型を用いずに成形したものであってもよい。また、セメント成形体は、後述するように、加熱養生されるものである。つまり、セメント成形体は、加熱養生用である。また、斯かる加熱養生用のセメント成形体は、亜硝酸カルシウムを、セメントの質量に対して0.6質量%以上3.0質量%以下、好ましくは1.2質量%以上1.8質量%以下、より好ましくは1.4質量%以上1.6質量%以下含む。
【0024】
セメント成形体の大きさ(体積)としては、特に限定されず、例えば、0.064m3以上30m3以下とすることができ、0.1m3以上20m3以下とすることができ、0.2m3以上10m3以下とすることができる。セメント成形体の最大部材厚寸法(最も部材厚が厚い部分)としては、特に限定されず、例えば、0.2m以上1.0m以下とすることができ、0.3m以上0.8m以下であってもよく、0.3m以上0.6m以下であってもよい。
【0025】
次に、養生工程について説明する。本実施形態では、養生工程は、上述のように、前置き工程と加熱養生工程とを備える。前置き工程は、セメント成形体を一定の温度環境(または、温度管理されていない屋内の温度環境)に配置する工程である。また、加熱養生工程は、前置き工程後のセメント成形体を加熱養生する工程である。
【0026】
前置き工程は、成形型に収容された状態のセメント成形体に対して行ってもよく、成形型から取り出したセメント成形体に対して行ってもよい。前置き工程の時間としては、例えば、1時間~24時間とすることができる。また、前置き工程の温度としては、例えば、0℃~40℃とすることができる。
【0027】
加熱養生工程は、セメント成形体を養生環境に配置して行う。養生環境としては、特に限定されず、例えば、セメント成形体を成形型に収容した状態で加熱養生工程を行う場合には、該成形型内の環境(セメント成形体を成形する空間)を養生環境としてもよく、成形型を配置する環境(例えば、成形型を収容可能な養生槽内の環境)を養生環境としてもよい。セメント成形体を成形型から取り出して加熱養生工程を行う場合には、該セメント成形体を配置する環境(例えば、セメント成形体を収容可能な養生槽内の環境)を養生環境としてもよい。なお、成形型内の環境が養生環境となる場合としては、例えば、下記の場合が挙げられる。具体的には、成形型にヒーター等の加熱機器を取り付けて成形型を加熱し、成形型の熱によって成形型内でセメント成形体を加熱養生する場合が挙げられる。または、温風や高温の水蒸気等を成形型自体の内部に供給して成形型自体を加熱し、成形型の熱によって成形型内でセメント成形体を加熱養生する場合が挙げられる。
【0028】
加熱養生工程は、養生環境の温度が所定時間で所定温度(最高温度)に達するように(例えば、昇温速度10℃~20℃/hに)構成し、最高温度に達した後、所定時間、最高温度を保持するように構成することができる。養生環境の最高温度としては、特に限定されず、例えば、40℃~90℃とすることができる。また、加熱養生工程は、最高温度を所定時間保持した後、所定の降温速度で(または温度管理されない状態で)セメント成形体の温度を降下させるように構成することができる。加熱養生工程でセメント成形体を加熱する方法としては、特に限定されず、例えば、ボイラー等で発生させた蒸気を養生環境に供給して加熱する方法等が挙げられる。セメント成形体の温度を降下させる方法としては、特に限定されず、例えば、セメント成形体および/または成形型を冷風や冷水で冷却する方法や、セメント成形体および/または成形型を養生環境(具体的には、養生槽内)に放置する方法等が挙げられる。
【0029】
加熱養生工程は、所定の積算温度が得られるまで行うことが好ましい。積算温度は、セメント成形体を成形してから(例えば、混練物を成形型に打ち込んでから)の時間に対する環境温度(セメント成形体が配置される環境温度)の積算値である。具体的な積算温度としては、セメント成形体の寸法や形状、取り出し後の運搬方法等により異なるが、例えば、200℃・h~300℃・hとすることができる。
【0030】
次に、取出工程について説明する。
取出工程は、加熱養生工程にあるセメント成形体を養生環境から取り出す工程である。具体的には、成形型内に養生環境を形成して加熱養生工程を行う場合には、セメント成形体を成形型から脱型することで取出工程を行う。また、セメント成形体を収容した状態の成形型を養生環境(具体的には、養生槽等)に配置して加熱養生工程を行う場合には、該成形型ごとセメント成形体を養生環境(具体的には、養生槽等)から取り出すことで取出工程を行ってもよく、成形型から脱型したセメント成形体を養生環境(具体的には、養生槽等)から取り出すことで取出工程を行ってもよい。また、セメント成形体を成形型から取り出して加熱養生工程を行う場合には、該セメント成形体を養生環境(具体的には、養生層)から取り出すことで取出工程を行ってもよい。
【0031】
セメント成形体を「養生環境から外に取り出す」とは、セメント成形体を外気温と略同じ温度環境に配置すること、または、外気に曝すことをいう。取出工程で養生環境から取り出したセメント成形体を配置する環境(養生環境の外側の環境)の温度(例えば、セメント成形体を外気に曝す場合には、外気温)としては、例えば、-5℃以上40℃以下であってもよく、5℃以上30℃以下であってもよい。
【0032】
以上のように本実施形態に係るセメント成形体の製造方法によれば、加熱養生後のセメント成形体に温度ひび割れが生じるのを抑制できる。
【0033】
即ち、混練工程において、上記の割合で亜硝酸カルシウムを用いることで、加熱養生工程後のセメント成形体に温度ひび割れが生じるのを抑制できる。
【0034】
なお、本発明に係るセメント成形体の養生方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、他の各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0035】
上記実施形態では、加熱養生工程の前に前置き工程が行われるが、これに限定されず、例えば、前置き工程を行わないように構成してもよい。
【実施例0036】
以下、試験例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の試験例に限定されるものではない。
【0037】
<使用材料>
W:水道水(ρ=1.00g/cm3)
C:早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製、ρ=3.13g/cm3)
S:細骨材(静岡県掛川市産山砂、ρ=2.60g/cm3)
G:粗骨材(茨城県岩瀬町産砕石、ρ=2.64g/cm3)
SP:ポリカルボン酸系高性能減水剤(花王社製)
A:亜硝酸カルシウム(関東化学株式会社製、試薬 鹿1級)
【0038】
<予備試験>
<セメント成形体の作製>
上記の各材料を用いて、下記表1の配合でセメント成形体を作製した。該セメント成形体のサイズおよび練り混ぜ環境の温度については、下記表2に示す。また、得られたセメント成形体に対して、下記表3の条件で、加熱養生工程を行った。加熱養生工程は、セメント成形体を成形型に収容した状態で、該成形型を養生環境(具体的には、養生槽内)に配置することで行った。なお、セメント成形体には、内部温度および表面温度を測定する熱電対(T-G‐0.32、東京測器研究所社製)を設置した。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
<温度ひび割れの評価>
加熱養生工程で所定の積算温度が得られた後、上記表3の「取出工程の開始」のタイミングでセメント成形体を成形型ごと養生環境の外に取り出した(取出工程)。
そして、取出工程を行い、脱型した直後から210分間、セメント成形体の表面を目視で観察し、温度ひび割れの有無および幅を確認した。温度ひび割れの有無、および、温度ひび割れ発生までの時間(取出工程を行ったときから温度ひび割れが発生するまでの時間)については、下記表4に示す。
【0043】
また、取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度(Ta0)、取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度(Tb0)、および、取出工程を開始する直前から5分間隔で測定したセメント成形体の内部温度(Tai)および表面温度(Tbi)を用いて、下記式(1)により、ΔTを算出した。また、脱型した直後から210分間、5分間隔で内部温度(Tai)および表面温度(Tbi)を測定し、ΔTを算出することで、ΔTの最大値を得た。
ΔTの最大値、および、ΔTが最大値となるまでの時間については、下記表4に示す。
ΔT=(Tai-Ta0)-(Tbi-Tb0)・・・(1)
(Ta0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の内部温度)
(Tai:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の内部温度)
(Tb0:取出工程を開始する直前におけるセメント成形体の表面温度)
(Tbi:取出工程を開始する直前から所定時間経過する毎に測定するセメント成形体の表面温度)
【0044】
【0045】
上記の表4を見ると、ΔTの最大値が30℃を超えると、温度ひび割れが生じることが認められる。また、目視による観察の結果、ΔTが30℃を超えた辺りで生じる温度ひび割れの幅は、0.05mm程度であったが、その後のΔTの増加に伴って温度ひび割れの幅が大きくなり、0.15mmに達するものもあった。一方、ΔTが30℃以下である場合には、温度ひび割れが生じないことが認められる。
以上のことから、ΔTの最大値を低くすることで、加熱養生後のセメント成形体に生じる温度ひび割れを抑制できると言える。
ここで、ΔTの最大値を低くするためには、上記式(1)の「Tai-Ta0」(以下では、「ΔT1」とも記す)を低くすることが考えられる。
そこで、亜硝酸カルシウムの添加によって、ΔT1を低下できるか否かについて、下記の本試験によって検討した。
【0046】
<本試験>
上記の表1の配合に亜硝酸カルシウムを加えて混練物を作成した。具体的には、WとSPとAとの混合液と、Cと、Sとを混練してモルタルを得た。そして、斯かるモルタルとGとを混練して混練物を得た。混練物を作成する際の環境温度は、5℃であった。亜硝酸カルシウムの添加率(セメントに対する質量割合)は、下記表5に示す。
そして、
図1に示すように、断熱材1(デュポン・スタイロ株式会社製、品名:スタイロフォーム(登録商標)、厚さ:200mm)で囲った直方体状の成形空間(100mm×100mm×200mm)に混練物Aを満たし、混練物(セメント成形体)Aの100mm×100mmの一面A1のみが露出するようにした。なお、成形空間内の混練物(セメント成形体)Aにおける露出面(前記一面)A1に対抗する位置の他の一面(以下では、「内面」とも記す)A2の中心箇所には、熱電対(T-G‐0.32、東京測器研究所社製)Xを設置した。そして、該熱電対Xによって測定される前記内面A2の温度をセメント成形体の内部温度とした。
【0047】
そして、成形空間に混練物を満たした状態で(換言すれば、成形空間内のセメント成形体を)、5℃の環境に2時間配置した(前置き工程)。その後、前記露出面を、昇温速度20℃/hで65℃まで加熱し、その温度で2時間5分保持した(加熱養生工程)。そして、保持時間終了直後に、成形空間からセメント成形体を取り出し、5℃の環境に配置した(取出工程)。斯かる試験では、プログラム温度制御が可能な恒温装置を使用した。
【0048】
そして、取出工程を開始する直前に測定したセメント成形体の内部温度(Ta0)と、取出工程を開始する直前から5分間隔で測定したセメント成形体の内部温度(Tai)とを用いて、下記式(2)により、ΔT1を算出した。また、取出工程直後から210分間、5分間隔で内部温度(Tai)を測定し、ΔT1を算出することで、ΔT1の最大値を得た。ΔTの最大値については、下記表5に示す。
ΔT1=Tai-Ta0・・・(2)
【0049】
【0050】
<まとめ>
表5を見ると、比較例よりも実施例の方が、ΔT1の最大値が低いことが認められる。また、上記の予備試験の結果から、ΔT1を低下させることが、セメント成形体に温度ひび割れが生じるのを抑制することに繋がる。
つまり、混練工程で所定量の亜硝酸カルシウムを用いて混練物を形成し、斯かる混練物を用いてセメント成形体を作製することで、斯かるセメント成形体を加熱養生しても、ΔT1の最大値が比較的低くなる。このため、セメント成形体に温度ひび割れが生じるのを抑制できる。