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特開2022-156721可逆的熱伸縮性を有する織物、アクチュエータモジュールおよびアシストスーツ
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  • 特開-可逆的熱伸縮性を有する織物、アクチュエータモジュールおよびアシストスーツ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156721
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】可逆的熱伸縮性を有する織物、アクチュエータモジュールおよびアシストスーツ
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/20 20210101AFI20221006BHJP
   D02G 1/02 20060101ALI20221006BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20221006BHJP
   D03D 15/67 20210101ALI20221006BHJP
   A61L 27/04 20060101ALN20221006BHJP
   A61L 27/18 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
D03D15/00 A
D02G1/02 Z
D03D1/00 Z
D03D15/02 A
A61L27/04
A61L27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060552
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】晴山 和直
(72)【発明者】
【氏名】中山 光
【テーマコード(参考)】
4C081
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4C081AB18
4C081BB03
4C081BB07
4C081BB08
4C081CA022
4C081CA232
4C081CG01
4C081DA04
4L036MA06
4L036MA34
4L036PA18
4L036PA21
4L036RA04
4L036UA07
4L048AA04
4L048AA24
4L048AA44
4L048AA50
4L048AA51
4L048AA52
4L048AB06
4L048AC11
4L048AC12
4L048BA01
4L048BA02
4L048CA00
4L048CA04
4L048DA01
4L048DA24
(57)【要約】
【課題】可逆的熱伸縮性を有する繊維を複数本並べてアクチュエータとして使用する場合に、効率的な前記繊維の配置および安全かつ効率の良い前記繊維の加熱を実現することができる織物を提供する。
【解決手段】経糸または緯糸の一方が可逆的熱伸縮性を有する繊維1であり、他方が可逆的熱伸縮性を有さず、かつ絶縁被膜で覆われた電熱線2を含む織物。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸または緯糸の一方が可逆的熱伸縮性を有する繊維Aであり、他方が可逆的熱伸縮性を有さず、かつ絶縁被膜で覆われた電熱線を含む織物。
【請求項2】
前記繊維Aがコイル形状である請求項1に記載の織物。
【請求項3】
可逆的熱伸縮性を有し、熱収縮率が3%以上である請求項1または2に記載の織物。
【請求項4】
前記織物の組織が、平織、綾織、カラミ織および朱子織のいずれか、またはこれらの組織の組み合わせである請求項1~3のいずれか一項に記載の織物。
【請求項5】
前記電熱線が、連続した1本の電熱線である請求項1~4のいずれか一項に記載の織物。
【請求項6】
前記電熱線が、複数本の電熱線からなる請求項1~4のいずれか一項に記載の織物。
【請求項7】
前記コイル形状の直径が100~2000μmであり、前記電熱線の直径が20~2000μmである請求項2~6のいずれか一項に記載の織物。
【請求項8】
長辺の長さが50~1000mm、短辺の長さが5~200mmである請求項1~7のいずれか一項に記載の織物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の織物が2~30枚積層した積層物を含むアクチュエータモジュール。
【請求項10】
請求項9に記載のアクチュエータモジュールを駆動部として備えるアシストスーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的熱伸縮性を有する織物、該織物を使用したアクチュエータモジュールおよび該アクチュエータモジュールを使用したアシストスーツに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱による可逆的伸縮性(以下、「可逆的熱伸縮性」とも称する)を有する繊維を使用したアクチュエータの開発が進んでいる。非特許文献1には、可逆的熱伸縮性を有する繊維をコイル形状にしたアクチュエータが開示されている。
アクチュエータを加熱する手段として、例えば、非特許文献2には、銀ペーストにより被膜したナイロン繊維を電熱線として用いる方法や、繊維からなるコイルに導電ペーストを塗布し、通電加熱が可能なコイルとする方法が開示されている。また、特許文献1には、繊維からなるコイルの外周に電熱部材と絶縁部材を配置する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-186925号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Science,2014,vol.343,issue 6173,p.868-872
【非特許文献2】M.Hiraoka et al.,“Power-efficient low-temperature woven coiled fibre actuator for wearable applications”,Scientific Reports,2016,6,36358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
可逆的熱伸縮性を有する繊維と電熱線等とを組み合わせて、複数本を並べて使用する場合、安全かつ効率の良い加熱手段が求められる。
例えば、非特許文献1では、複数本の繊維等を並べて使用する方法として、銀被膜で覆われたナイロン繊維を使用し、通電加熱時に銀被膜で覆われたナイロン繊維の接触によるショートが起きないように、ポリエステル繊維やコットン繊維を挟んだ織物としている。しかしながら、銀被膜で覆われたナイロン繊維に絶縁被覆がされていないため、ショートする危険性は残っている。また、冷却液として水を使用する場合には漏電の危険性がある。
【0006】
非特許文献2では、繊維からなるコイル2本を双糸状にした物に対して導電被膜を塗布しているが、絶縁被膜は備えていない。また、この方法では、コイルが伸縮運動をする度に導電被膜に欠陥が発生しやすく、繰り返し耐久性に問題が生じやすい。また、伸縮運動の度に導電被膜の厚み等の状態が変化し抵抗値が変わるため、抵抗値の制御が困難であり、ショートする危険性もあった。また、繊維からなるコイルを数百本規模で使用する場合においては、多大なコストがかかってしまう。
【0007】
特許文献1には、繊維からなるコイル1本、もしくは繊維からなるコイル2本を双糸状にした物に対する、電熱部材と絶縁部材の配置の仕方が記載されている。しかしながら、繊維からなるコイルを数百本規模で使用する場合においては、莫大なコストと手間がかかってしまう。また、繊維からなるコイル1本、もしくは繊維からなるコイル2本を双糸状にした物に対して最適化を図るため、体積当たりに配置できる繊維からなるコイルの数が少なくなってしまう。
【0008】
したがって、本発明の目的は、可逆的熱伸縮性を有する繊維を複数本並べてアクチュエータとして使用する場合に、効率的な前記繊維の配置および安全かつ効率の良い前記繊維の加熱を実現することができる織物を提供することである。また、本発明の目的は、繰り返し耐久性が高く、安全に使用できるアシストスーツ、およびそのパーツとなるアクチュエータモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題を解決するために、本発明者等が鋭意検討した結果実現したものである。すなわち、本発明は、以下の1~10である。
1.経糸または緯糸の一方が可逆的熱伸縮性を有する繊維Aであり、他方が可逆的熱伸縮性を有さず、かつ絶縁被膜で覆われた電熱線を含む織物。
2.前記繊維Aがコイル形状である1に記載の織物。
3.可逆的熱伸縮性を有し、熱収縮率が3%以上である1または2に記載の織物。
4.前記織物の組織が、平織、綾織、カラミ織および朱子織のいずれか、またはこれらの組織の組み合わせである1~3のいずれかに記載の織物。
5.前記電熱線が、連続した1本の電熱線である1~4のいずれかに記載の織物。
6.前記電熱線が、複数本の電熱線からなる1~4のいずれかに記載の織物。
7.前記コイル形状の直径が100~2000μmであり、前記電熱線の直径が20~2000μmである2~6のいずれかに記載の織物。
8.長辺の長さが50~1000mm、短辺の長さが5~200mmである1~7のいずれかに記載の織物。
9.1~8のいずれかに記載の織物が2~30枚積層した積層物を含むアクチュエータモジュール。
10.9に記載のアクチュエータモジュールを駆動部として備えるアシストスーツ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可逆的熱伸縮性を有する繊維を複数本並べてアクチュエータとして使用する場合に、効率的な前記繊維の配置および安全かつ効率の良い前記繊維の加熱を実現することができる織物が得られる。また、本発明によれば、繰り返し耐久性が高く、安全に使用できるアシストスーツ、およびそのパーツとなるアクチュエータモジュールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】コイル形状の繊維Aの外観の一部を示す写真である。
図2】連続した1本の電熱線から構成される平織の織物を示す模式図である。
図3】複数本の電熱線から構成される平織の織物を示す模式図である。
図4】織物を10枚積層してなるアクチュエータモジュールの断面を示す模式図である。
図5】コイル形状の繊維Aと電熱線からなる平織の織物の一部を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。ただし、この実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるため具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数や、位置や、大きさ等についての変更、省略、追加およびその他の変更が可能である。
【0013】
[織物]
本発明の織物は、経糸または緯糸の一方が可逆的熱伸縮性を有する繊維Aであり、他方が可逆的熱伸縮性を有さず、かつ絶縁被膜で覆われた電熱線を含む。ここで、可逆的熱伸縮性を有するとは、加熱による収縮と、冷却による伸長とをおおよそ一定の変位で繰り返す性質を有することを意味する。ただし、本発明の技術的範囲は、加熱する温度範囲や繰り返し動作に伴う劣化現象による特性変化において制約を受けるものではない。可逆的熱伸縮性を有する繊維Aが織物の経糸または緯糸の一方に配置されることで、該織物は一方向に伸縮可能となる。また、本発明では、可逆的熱伸縮性を有する繊維Aを複数本並べて、織物を構成する。複数の繊維Aが並んでいることにより、伸縮の力を大きくすることができる。また、多方向に絶縁被膜で覆われた電熱線を配置することで、前記繊維Aに効率良く熱を伝えることができ、余分な繊維を配置する必要がないため、軽量化が実現できる。
【0014】
可逆的熱伸縮性を有する好ましい態様は、復元率90%以上の伸縮を1回以上できることが好ましく、5回以上できることがより好ましい。可逆的熱伸縮性を有するより好ましい態様は、復元率95%以上の伸縮を1回以上できることが好ましく、5回以上できることがより好ましい。可逆的熱伸縮性を有するさらに好ましい態様は、復元率97%以上の伸縮を1回以上できることが好ましく、5回以上できることがより好ましい。
【0015】
可逆的熱伸縮性を有する繊維Aとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、テフロン(登録商標)繊維、ビニロン繊維、ポリウレタン繊維、ポリ乳酸繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、シラン架橋ポリエチレン繊維等が挙げられる。これらの中でも、可逆的熱伸縮性の観点から、ナイロン繊維、シラン架橋ポリエチレン繊維が好ましい。
【0016】
本発明において、電熱線とは、発熱素線に絶縁被膜を被覆したものをいう。発熱素線の材質や寸法に特に制限はないが、抵抗値やコストの観点から、ニッケルクロム合金が好ましい。なお、電熱線の柔軟性や電熱線の直径を調整するために、発熱素線は巻芯に巻いて使用してもよい。この場合、巻芯としては、耐熱性や絶縁性、耐擦過性の観点から、ポリアリレート繊維やアラミド繊維が好適である。
【0017】
前記電熱線が絶縁被膜で覆われていることで、通電加熱の際に誤ってショートする恐れがなく、人が接触しても感電の危険がない。また、織物をアクチュエータとして使用する際には、冷却のために水等を使用する場合もあるが、感電や漏電の恐れもなくなる。絶縁被膜の材質は、絶縁性が良好な材料であれば特に制限されるものではないが、最も汎用的で安価な材料として塩化ビニルが好ましい。さらに、絶縁被膜は、耐熱性と、アクチュエータの伸縮運動に耐え得る耐摩耗性とを備えていることがより好ましく、例として、ポリテトラフルオロエチレンやテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂、ホルマール、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミドイミド、エナメル、架橋ポリエチレン、塩化ビニルやシリコーン系樹脂等が挙げられる。
【0018】
電熱線を含む経糸または緯糸は、電熱線以外にも可逆的熱伸縮性を有さない他の糸を含むこともできる。可逆的熱伸縮性を有さない他の糸としては、化学繊維、天然繊維のどちらも使用できるが、電熱線の破断防止の点からは、強度の高い糸が好ましく、ポリエステル繊維を含む糸が好ましい。また、耐熱性などの点からは羊毛、綿が好ましい。
【0019】
本発明の織物は、前記繊維Aがコイル形状であることが好ましい。
本発明において、コイル形状とは、繊維材料に撚りをかけ続けた際に形成されるコイル形状をいう。コイル形状としては、芯棒等を使用せずに、単純に撚りをかけ続けることにより自然にコイルを形成させたオーバーツイスト型と、コイル形状が形成され始めた際に当箇所へ芯棒となるものを挿入、もしくは、初めから繊維材料を芯棒に巻き付けてコイル形状を形成させたマンドレル型がある。いずれにせよ両者とも、加熱することで収縮し、冷却することで伸長するものであり、本発明においては、所望とする発生応力と熱収縮率に応じて両者を使い分けることができる。なお、コイル形状の繊維Aは、所望のコイル形状の直径や熱収縮率が得られるように、荷重の重さや、撚りの回数および速度、温度条件等を適宜調整することにより作製することができる。
【0020】
前記コイル形状の繊維Aにおいて、コイル形状の直径は100~2000μmであることが好ましい。
なお、本発明におけるコイル形状の直径Dとは、図1に示すとおり、コイルそのものの外径を意味する。コイル形状の直径は、織物における経糸もしくは緯糸の糸直径とみなすことができるため、織物の立体構造に大きく寄与する。以上の観点から、コイル形状の直径は100~2000μmであることが好ましい。コイル形状の直径が100μm以上であれば、コイルを製造する際にコイルが破断することがなく、容易にコイルを製造できる。また、コイル形状の直径が2000μm以下であれば、1枚の織物が必要以上に厚くなることなく、平面状の織物を製造できる。前記観点から、コイル形状の直径は、より好ましくは150~1500μm、さらに好ましくは200~1000μm、特に好ましくは250~900μm、最も好ましくは300~800μmである。コイル形状の直径の測定方法は、精密な測定ができる手段であれば特に限定されないが、光学顕微鏡やマイクロスコープによる測定が寸法上好ましい。
【0021】
また、前記電熱線の直径は20~2000μmであることが好ましい。本発明における電熱線の直径とは、絶縁被膜を含む線の外径を意味する。電熱線の直径は、織物における経糸もしくは緯糸の糸直径とみなすことができるため、織物の立体構造に大きく寄与する。電熱線の直径が小さいほど、織り込んだ際の非加熱部との接触面積が増え、通電加熱によって生じた熱量を良好に非加熱部へ伝えることができる。そのため、電熱線の直径の下限は特に制限されないが、電熱線の直径が20μm以上であれば、擦過に強く、繰り返し耐久性の高い織物を製造できる。また、電熱線の直径が2000μm以下であれば、1枚の織物が必要以上に厚くなることなく、平面状の織物を製造できる。前記観点から、電熱線の直径は、より好ましくは30~1500μm、さらに好ましくは40~1500μm、特に好ましくは50~1300μm、最も好ましくは100~1000μmである。電熱線の直径の測定方法は、コイル形状の直径と同様、光学顕微鏡やマイクロスコープによる測定が寸法上好ましい。
【0022】
本発明の織物は、可逆的熱伸縮性を有し、熱収縮率が3%以上であることが好ましい。
織物の熱収縮率が3%以上であれば、アクチュエータとして利用しやすくなる。熱収縮率が大きいほど、使用用途が広がるため好ましい。この観点から、前記熱収縮率は4%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。また、熱収縮率は、30%以下であることが好ましい。熱収縮率が30%以下であれば、織物の収縮前の形態が維持しやすくなる。この観点から、熱収縮率は20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。なお、本発明において、織物の熱収縮率は、可逆的熱伸縮性を有する繊維Aの熱収縮率とほぼ等しいものと考えることができる。ただし、織物を形成する際に、コイル形状の繊維Aが蛇行して配置されることにより、織物の熱収縮率が少し高くなる可能性も考えられる。いずれにせよ、織物の熱収縮率が上記範囲内であるか、可逆的熱伸縮性を有する繊維Aの熱収縮率が好ましくは3%以上、より好ましくは上記範囲内であることが望ましい。
【0023】
熱収縮させる温度は50~150℃の範囲が好ましい。低温で収縮させるほど効率が良く、50℃以上であれば、外気温との温度の差の影響が少なく、熱収縮の制御がしやすい。熱収縮するスピードの観点から、熱収縮させる温度は高い方が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。また、熱収縮させる温度が150℃以下であれば、温度上昇までの時間を短縮でき速やかに収縮させることができる。この観点から、熱収縮させる温度は120℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
【0024】
本発明の織物は、織物の組織が、平織、綾織、カラミ織および朱子織のいずれか、またはこれらの組織の組み合わせであることが好ましい。
織物の平面性や対称性や耐摩擦性を重視する場合は平織が好ましく、コイル形状の繊維の曲げ柔軟性や意匠性等の観点からは、綾織または朱子織が好ましい。繊維、またはコイル形状の繊維の伸縮を良好に発現させる観点からは、カラミ織が好ましい。
【0025】
本発明における織物は、前記電熱線が、連続した1本の電熱線であることが好ましい。
図2は、経糸として繊維A(1)を使用し、緯糸として連続した1本の電熱線2を使用した織物の一例を示す模式図である。図2に示すように、連続した1本の電熱線2をループで折り返して使用することで、長尺の電熱線をカットすることなく、より簡便に織物を製造できる。極端な例としては、1本の電熱線を1枚の織物の全てに使用できる。すなわち、1枚の織物内で、電熱線を直列回路にしているとみなすことができる。電熱線を1本の直列回路のように配置して織物を製造することで、通電の回路が簡単になり織物を軽量化しやすい。また、電熱線を緯糸として使用することで、1本の直列配置にしやすくなる。
【0026】
また、本発明における織物は、前記電熱線が、複数本の電熱線から構成されていてもよい。
図3は、経糸として繊維A(1)を使用し、緯糸として複数本の電熱線2を使用した織物の一例を示す模式図である。電熱線が複数本の電熱線からなる織物をアクチュエータとして使用する場合、例えば繰り返し摩擦等により万が一、電熱線の破断等のトラブルが発生しても、1本の経糸もしくは緯糸の電熱線が破断するのみであり、織物単位で機能しなくなることを防ぐことができる。
【0027】
本発明における織物は、長辺の長さが50~1000mm、短辺の長さが5~200mmであることが好ましい。
本発明における織物の長辺の長さは、アシストスーツへの応用を検討する場合には、50~1000mmであればよい。長辺の長さは、織物の使用箇所や使用方法、使用者の体格、コイル形状の繊維のアクチュエータとしての伸縮長等に応じて適宜選択される。例えば身長が170cm、体重が60kgの標準的な体格に対しては、腰補助用アシストスーツの場合は長辺の長さが80~500mmであることが好ましい。
【0028】
本発明における織物の短辺の長さは、アシストスーツへの応用を検討する場合には、5~200mmであればよい。短辺の長さは、モジュールとしての必要発生応力と、モジュールの寸法等に応じて適宜選択される。例えば、背中側に背負うシステムのアシストスーツにおいて、左右に分けて2つのモジュールとして使用する場合、短辺の長さが200mm以下であれば、装着感を損なうことなく使用することができる。
【0029】
[アクチュエータモジュール]
本発明のアクチュエータモジュールは、前記織物が2~30枚積層した積層物を含む。
本発明においては、熱収縮方向が同じ方向になるように前記織物を積層することによって、厚み方向へも、コイル形状の繊維の数を増やし、伸縮力を増やすことができる。また、織物を積層することで、電熱線を加熱した際に、周囲の空気等への熱のロスを減らし、効率的に、コイル形状の繊維を加熱することができるようになる。
例えば、平織の織物を同じ位置で厚み方向が増すように10枚積層した場合、図4に示すように、コイル形状の繊維1が、その織物を構成する電熱線2および2’だけでなく、周囲の織物における電熱線とも接触して加熱される。そのため、加熱時の熱エネルギーのロスをより低減して、効率的にアクチュエータとして動作させることが可能となる。織物の積層枚数は、必要とされる発生応力に応じて決定される。積層枚数が多いほどモジュールの大きさに対する表面積の割合が減るため、効率よくコイル形状の繊維を加熱することができる。
【0030】
本発明において、前記織物の積層物は、電源や冷却ユニット等を付帯することでアクチュエータモジュールとすることができる。電源は、必要な電力が供給可能なものであれば特に制限されることはなく、固定式や携帯式といった様態にも特に制限はない。また、冷却ユニットとしては、冷風による空冷や液体による冷却が挙げられる。また、特にコントロールが必要でなければ自然冷却でも構わない。迅速な冷却が必要な場合は、液体による冷却が有用である。その場合、本発明の織物は電熱線が絶縁被膜を有しているため、水等の電気を通しやすい液体でも利用することができる。また、当然さらなる安全性を確保するために、絶縁性の液体を使用しても構わない。絶縁性の液体としては、例えばシリコーンオイルやパーフルオロポリエーテルなどが挙げられる。パーフルオロポリエーテルは一般的に冷媒としても知られるため、本発明には好適である。また、加熱と冷却の両者を効率よく使用するためにペルチェ素子の利用が有効である。
【0031】
[アシストスーツ]
本発明のアシストスーツは、前記アクチュエータモジュールを駆動部として備える。
前記織物および前記アクチュエータモジュールは、様々な用途で利用可能であるが、コイル形状の繊維の質量当たりの発生応力が高いという特長から、特にアシストスーツへの利用が好適である。アシストスーツとは、医療・介護分野や物流・荷役など重量物を扱う分野で、人間の力に加えて補助的に作用するための外骨格型もしくは衣類型の装置である。アシストスーツは、駆動部としてのアクチュエータモジュールに加え、人体に装着するためのベルトやサポータ等を含む。また、アシストスーツは、動作幅や動作方向を操作するためにギヤ等を具備し、必要に応じてリンク機構等の機械機構を含む。目的に応じて腰補助用や歩行補助用や腕補助用等、様々なタイプのアシストスーツが考えられる。前記織物および前記アクチュエータモジュールは、これら種々のアシストスーツの構成要素として、いずれのタイプにも適用可能である。
【実施例0032】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例における各測定は、以下の方法によって行った。
【0033】
(コイル形状の直径、コイル形状の繊維の長さおよび電熱線の直径の測定)
コイル形状の繊維のコイル形状の直径、コイル形状の繊維の長さおよび電熱線の直径は、デジタルマイクロスコープ(商品名:DSX500、オリンパス製)を用いて測定した。
【0034】
(熱収縮率、復元率の測定)
長辺の長さが100mm、短辺の長さが5mmの織物を作製し、この織物を2枚重ねて、測定試料とした。コイル形状の繊維1本あたり10gの荷重をかけ、印を2点付けた。前記引張荷重をかけた状態で、25℃から90℃まで昇温した後、25℃まで降温し、その25℃の状態で、織物に付けた印の2点間の距離(L1)を測定した。次いで、25℃から90℃まで再度昇温し、前記印の2点間の距離(L2)を測定した。熱収縮率は、下式より求められる。
熱収縮率(%)=(L1-L2)×100/L1
続いて、25℃まで降温し、さらに同様に昇温と降温を5回繰り返し、前記印の2点間の距離(L3)を測定した。復元率は、下式より求められる。
復元率(%)=100-|初期試長変化率|
初期試長変化率(%)=(L3-L1)×100/L1
【0035】
(実施例1)
可逆的熱伸縮性を有する繊維Aとして、直径0.21mmのナイロン繊維(商品名:銀鱗(登録商標)1.5号、東レ社製)を使用し、該繊維60cmに70gの荷重をかけ、350回撚りをかけることで長さ140mmのオーバーツイスト型のコイル形状の繊維を作製した。作製時には、撚りによって荷重が回転しないよう制御した。また、撚りの速度は1秒間6回転とした。
得られたコイル形状の繊維を、20%伸長をかけた状態で、180℃で60分間保持することで熱セットを行った。作製されたコイル形状の繊維のコイル形状の直径は480μmであった。
【0036】
得られたコイル形状の繊維を経糸とし、電熱線(東京特殊電線社製、巻芯:ポリアリレート、発熱素線:ニッケルクロム合金、絶縁被膜:エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、直径:930μm、抵抗値:300Ω/m(20℃時))を緯糸として、図2に示すような平織の織物を作製した。なお、図1は、この織物に用いたコイル形状の繊維の一部を示す写真である。また、図5は、作製した織物の一部を示す写真である。織物の末端において、電熱線はどの箇所もループで折り返す形で配置し、1枚の織物の中で電熱線は1本のみ使用した。また、1枚の織物の中でコイル形状の繊維は8本使用した。作製した織物の長辺の長さは100mm、短辺の長さは5mmであった。この織物を2枚重ねて、アクチュエータモジュールとした。コイル形状の繊維には、1本あたり10gの荷重をかけた。
このアクチュエータモジュールの電熱線に直流電源装置を用いて通電し、織物の表面温度が約90℃になるまで通電加熱を行い、熱収縮を行った。表面温度は、熱画像カメラA6700SC(商品名、チノー社製)を使用して確認した。該織物は5%収縮し(熱収縮率:5%)、その後空冷することにより元の長さに戻った。同じ条件で加熱と空冷をさらに5回繰り返し行った(合計6回)が、該織物の長さは実験前と変わらなかった(復元率:100%)。すなわち、作製した織物は、可逆的熱伸縮性を有することが確認できた。また、通電によって到達する電熱線の温度も変化はなく、得られたアクチュエータモジュールは、高い耐久性を維持できることが確認された。
【0037】
(比較例1)
実施例1と同様にしてコイル形状の繊維を作製し、その表面に銀含有ペースト(商品名:PE874、デュポン社製)を膜厚が200μmとなるように塗布した。
該コイル形状の繊維を10本並べて、両端をそれぞれ10本まとめて固定し、1本あたり10gの荷重をかけた。
コイル形状の繊維に塗布された銀含有ペーストを利用して直流電源装置を用いて通電し、実施例1と同様に、織物の表面温度が約90℃になるまで通電加熱を行い、熱収縮を行った。表面温度は、熱画像カメラA6700SC(商品名、チノー社製)を使用して確認した。コイル形状の繊維が5%収縮し、その後空冷することにより元の長さに戻った。同じ条件で加熱と空冷をさらに5回繰り返し行った(合計6回)ところ、通電によって到達するコイル形状の繊維の表面温度が度々下がり、耐久性に問題が発生した。
【符号の説明】
【0038】
1、1’ 可逆的熱伸縮性を有するコイル形状の繊維A
2、2’ 電熱線
3 アクチュエータモジュールの外枠
D コイル形状の直径
図1
図2
図3
図4
図5