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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156725
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】縫合装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/062 20060101AFI20221006BHJP
   A61B 17/94 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A61B17/062
A61B17/94
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060561
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(72)【発明者】
【氏名】川崎 洋次郎
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160BB01
4C160MM43
4C160NN01
(57)【要約】
【課題】消化管内における組織の縫合に係る操作性および利便性に優れた縫合装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る縫合装置10は、一対の針状部材を有する後側アーム12と、一対の針状部材が挿入される収容部を備えた前側アーム11と、前側アーム11と後側アーム12とを接近離間させるアーム移動機構13と、前側アーム11および後側アーム12をアーム移動機構13に連結する連結機構40と、を備え、前側アーム11において、アーム移動機構13との連結位置と、針状部材15との連結位置と、針状部材16との連結位置とが一直線上に配置されており、後側アーム12において、アーム移動機構13との連結位置と、針状部材15が挿入される挿入位置(係合部材収容部18)と、針状部材16が挿入される挿入位置(係合部材収容部19)とが一直線上に配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の針状部材を有する後側アームと、
該後側アームと接近離間可能に設けられ、該後側アームと接近した際に前記一対の針状部材が挿入される収容部を備えた前側アームと、
該前側アームの収容部に配置され、前記一対の針状部材のそれぞれと係合可能な一対の係合部材と、前記一対の係合部材のそれぞれに繋がった縫合糸と、を有する縫合器具と、
前記前側アームと前記後側アームとを所定の接近離間方向に沿って接近離間させるアーム移動機構と、
前記前側アームおよび前記後側アームを前記アーム移動機構に連結する連結機構と、を備えており、
前記前側アームにおいて、前記一対の針状部材のうちの一方との連結位置と、前記一対の針状部材のうちの他方との連結位置と、前記アーム移動機構との連結位置とが、一直線上に配置されており、
前記後側アームにおいて、前記一対の針状部材のうちの一方が挿入される挿入位置と、前記一対の針状部材のうちの他方が挿入される挿入位置と、前記アーム移動機構との連結位置とが、一直線上に配置されていることを特徴とする縫合装置。
【請求項2】
前記前側アームおよび前記後側アームが、前記所定の接近離間方向に対して垂直な方向に向かって、前記アーム移動機構との連結位置から直線状に延びる部材であることを特徴とする請求項1に記載の縫合装置。
【請求項3】
前記収容部に、前記所定の接近離間方向に向かって開口する、側縁が閉じた開口部が形成されており、
前記開口部の内周面の一部に樹脂材が設けられており、
前記一対の係合部材のそれぞれの一部が、前記開口部の内周面に対向して設けられた前記樹脂材の間に嵌合可能なように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の縫合装置。
【請求項4】
前記連結機構が、前記後側アームに連結された筒状の摺動部材と、前記前側アームに連結された、該摺動部材内に挿通可能な支柱部材と、を備えており、
前記摺動部材の内周面および前記支柱部材の外周面のそれぞれが長手方向に沿って平面状に成形されており、前記摺動部材の内周面および前記支柱部材の外周面が当接することで前記支柱部材の中心軸を回転軸とした前記支柱部材と前記摺動部材との相対的な回転が規制されるように構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の縫合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫合装置に関する。さらに詳しくは、内視鏡に取り付けられて消化管内の組織の縫合に使用される縫合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、胃等の消化管に腫瘍ができた場合、その除去は外科手術で行われることが一般的であった。近年、外科手術よりも患者の負担を軽減でき、しかも、体表面に形成される傷を小さくできる低侵襲な手術として、ラパロスコープによる手術も行われるようになっている。
【0003】
最近では、ラパロスコープによる手術よりも低侵襲な手術として、軟性内視鏡を使用した手術が行われている。腫瘍が粘膜層に留まっている初期胃がん等であれば、軟性内視鏡によって消化管の内腔から粘膜層を含めた粘膜下層までを剥離することによって腫瘍を切除できる。この場合、体表面には全く傷を残すことなく手術を行うことができるので、患者への負担が小さく、しかも、手術後の回復も早くなる。
【0004】
一方、胃壁に形成された粘膜下層よりも深い腫瘍、つまり、固有筋層に到達しているような腫瘍の場合、固有筋層まで除去しなければならない。この場合、腫瘍を除去すると胃壁に開口が形成されてしまうので、腫瘍を除去した後、開口を塞ぐ(縫合する)必要がある。しかし、軟性内視鏡だけでは開口を塞ぐことができないので、軟性内視鏡とラパロスコープを使用した手術も行われている。具体的には、胃壁の腫瘍の切除は軟性内視鏡で実施し、腫瘍を除去した後の開口はラパロスコープで縫合する手術が実施されている。
【0005】
軟性内視鏡とラパロスコープを使用した手術は、外科手術と比較すれば低侵襲であるが、それでも、ラパロスコープを腹腔内に挿入するための孔を形成しなければならない。もし、軟性内視鏡によって消化管腔内から腫瘍の切除だけでなく縫合まで行うことができれば、体表面に傷を形成することなく手術を行うことができる。このため、現在、消化管腔内から開口を縫合する縫合装置の開発が進められている。
【0006】
胃壁等から組織を切除した場合、切除した部位に形成される開口から組織が腹腔内に出てしまうおそれがある。切除した組織が癌であれば、癌組織が腹腔内に漏れた場合には、癌細胞が播種して他の臓器等に転移してしまう可能性がある。このため、胃壁等に開口を形成せずに癌細胞を含む組織を切除することを可能にする縫合装置が提案されている(下記の特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1に開示されている縫合装置は、前側アームおよび後側アームが接近離間可能となるようアーム移動手段に連結されている。後側アームは、先端を前側アームに向けた状態かつその中心軸が後側アームと前側アームが接近離間する方向と平行になるように設けられた一対の針状部材を有する縫合針部を備えている。前側アームは、前側アームと後側アームとが接近したときに、一対の針状部材の先端部をそれぞれ収容し得る一対の収容空間が設けられた収容部を備えている。前側アームの収容部に設けられた一対の収容空間は、縫合糸によって互いに連結された、針状部材と係合可能な一対の係合部材を収容できるように構成されている。このように構成された縫合装置を用いることで、胃壁等の組織を前側アームと後側アームによって一回挟んで離すだけで、縫合糸の両端部(係合部材と連結されている部分)がいずれも後側アーム側に位置した状態となるように、縫合糸を組織に通すことができ、その状態で縫合糸の両端部を結紮すれば、通常の外科手術における縫合と同様に組織を縫合することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2017/164359号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されている縫合装置(以下、従来技術に係る縫合装置と記載)を用いて組織の縫合を行う場合には、例えば、以下に説明する問題が生じるおそれがある。
【0010】
図11(A)は、従来技術に係る縫合装置の前後一対のアーム近傍を後側アームの後方側から見た断面図である(特許文献1の図6(A)参照)。図11(B)は、本発明の課題を説明するための模式図であり、従来技術に係る縫合装置を用いて組織を縫合する際の状態を示す図である。なお、図11(A)および図11(B)には、説明のために後側アーム100のみが模式的に図示されており、一対の針状部材のそれぞれの配置位置(一対の針状部材のそれぞれと後側アーム100との連結位置)W1、W2、前後一対のアームが回転する際の支点となるアームの回転軸位置(後側アーム100とアーム移動機構との連結位置)W3が後側アーム100上に示されている。
【0011】
胃壁に形成された腫瘍TMを切除する際、例えば腫瘍TMが形成されている部分(腫瘍壁TW)において、腫瘍TMの周囲の筋層を露出させて、筋層が露出した部分(露出部EA)を形成する。このとき、腫瘍TMを含む組織は腫瘍壁TWから盛り上がった山型形状(突起状)となり、その山型形状の組織の麓に沿って形成された露出部EAの縫合対象箇所STを縫合糸により縫合する。
【0012】
従来技術に係る縫合装置を用いて露出部EAを縫合する場合、露出部EAの縫合対象箇所STに一対の針状部材を突き刺すために、露出部EAの縫合対象箇所STに対して、一対の針状部材および一対の収容空間の位置合わせを行う必要がある。しかしながら、従来技術に係る縫合装置では、前後一対のアームが湾曲しており、この湾曲形状に沿って一対の針状部材および一対の収容空間が設けられている。すなわち、従来技術に係る縫合装置では、一対の針状部材のそれぞれの配置位置W1、W2同士を結ぶ直線L1、一対の針状部材のそれぞれの配置位置W1、W2と回転軸位置W3とを結ぶ直線L2、直線L3はいずれも平行にはならない(または、重ならない)ように構成されている。
【0013】
例えば、図11(B)の左側から前後一対のアームを縫合対象箇所STに近づけた場合には、縫合対象箇所STに対して、一対の針状部材の位置を比較的容易に合わせることができる。しかしながら、図11(B)の右側から前後一対のアームを縫合対象箇所に近づけた場合には、縫合対象箇所STが山型形状の組織の麓に位置しているため、湾曲した前後一対のアームが腫瘍壁TWに当たってしまい、縫合対象箇所STに対して、一対の針状部材の位置を合わせることは容易ではない。すなわち、従来技術に係る縫合装置は、縫合対象箇所ST周辺の組織の形状に大きく影響される構成となっており、一対の針状部材の位置合わせが容易ではない場合があるという問題を含んでいる。
【0014】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、消化管内における組織の縫合に係る操作性および利便性に優れた縫合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明に係る縫合装置は、一対の針状部材を有する後側アームと、
該後側アームと接近離間可能に設けられ、該後側アームと接近した際に前記一対の針状部材が挿入される収容部を備えた前側アームと、
該前側アームの収容部に配置され、前記一対の針状部材のそれぞれと係合可能な一対の係合部材と、前記一対の係合部材のそれぞれに繋がった縫合糸と、を有する縫合器具と、
前記前側アームと前記後側アームとを所定の接近離間方向に沿って接近離間させるアーム移動機構と、
前記前側アームおよび前記後側アームを前記アーム移動機構に連結する連結機構と、を備えており、
前記前側アームにおいて、前記一対の針状部材のうちの一方との連結位置と、前記一対の針状部材のうちの他方との連結位置と、前記アーム移動機構との連結位置とが、一直線上に配置されており、
前記後側アームにおいて、前記一対の針状部材のうちの一方が挿入される挿入位置と、前記一対の針状部材のうちの他方が挿入される挿入位置と、前記アーム移動機構との連結位置とが、一直線上に配置されていることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、縫合対象箇所周辺の組織の形状に影響されずに、一対の針状部材の位置合わせを容易に行うことができ、操作性および利便性に優れた縫合装置を実現することができる。
【0017】
また、本発明に係る縫合装置において、前記前側アームおよび前記後側アームが、前記所定の接近離間方向に対して垂直な方向に向かって、前記アーム移動機構との連結位置から直線状に延びる部材であってもよい。
【0018】
上記の構成によれば、一対の針状部材の位置合わせを容易に行うことができる縫合装置をより確実に実現することができる。
【0019】
また、本発明に係る縫合装置において、前記収容部に、前記所定の接近離間方向に向かって開口する、側縁が閉じた開口部が形成されており、
前記開口部の内周面の一部に樹脂材が設けられており、
前記一対の係合部材のそれぞれの一部が、前記開口部の内周面に対向して設けられた前記樹脂材の間に嵌合可能なように構成されていてもよい。
【0020】
上記の構成によれば、側縁が閉じた開口部の内周面に設けられた樹脂材の間に係合部材の一部を嵌合させることによって、係合部材が収容部から脱落することがないように収容部に配置することができ、操作性および利便性に優れた縫合装置を実現することができる。
【0021】
また、本発明に係る縫合装置は、前記連結機構が、前記後側アームに連結された筒状の摺動部材と、前記前側アームに連結された、該摺動部材内に挿通可能な支柱部材と、を備えており、
前記摺動部材の内周面および前記支柱部材の外周面のそれぞれが長手方向に沿って平面状に成形されており、前記摺動部材の内周面および前記支柱部材の外周面が当接することで前記支柱部材の中心軸を回転軸とした前記支柱部材と前記摺動部材およびとの相対的な回転が規制されるように構成されていてもよい。
【0022】
上記の構成によれば、前側アームと後側アームとが支柱部材の中心軸に沿って相対的に移動可能(摺動可能)とする構成と、前側アームと後側アームとが、支柱部材の中心軸を回転軸として相対的に回転することを規制する構成とを同時に実現することができ、操作性および利便性に優れた縫合装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態における縫合装置を第1の視点から見た概略斜視図であって、縫合装置が内視鏡のシャフトに取り付けられた状態を示す図である。
図2図1に示す縫合装置の部分断面図である。
図3】本発明の実施形態における縫合装置を第2の視点から見た概略斜視図である。
図4】本発明の実施形態における縫合装置を第3の視点から見た概略斜視図である。
図5図2のX-X断面図である。
図6】本発明の実施形態における縫合装置を用いて組織を縫合する際の状態を模式的に示す図である。
図7】本発明の実施形態における縫合装置において、前側アームの先端部を示す部分拡大図である。
図8】本発明の実施形態において、支柱部材および摺動部材の断面図である。
図9】本発明の実施形態における縫合装置による縫合作業の概略説明図であり、(A)は、一対の針状部材の先端と前側アームの背面との間の隙間に突起部を配置した状態を示す図、(B)は、一対の針状部材を一対の係合部材収容部に挿入した状態を示す図、(C)は、一対の針状部材を元の位置に戻した状態を示す図である。
図10】本発明の実施形態における縫合装置を使用した施術の概略説明図であり、(A)は、胃壁の腫瘍を吊り上げた状態を示す図、(B)は、腫瘍を囲むように筋層が露出された露出部の位置を縫合した状態を示す図、(C)は、露出部を切断して腫瘍を切除した状態を示す図である。
図11】(A)は、従来技術に係る縫合装置において、前後一対のアーム近傍を後側アームの後方側から見た断面図、(B)は、本発明の課題を説明するための図であって、従来技術に係る縫合装置を用いて組織を縫合する際の状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、装置各部の構造を分かりやすくするために、各図面における各部の相対的なサイズは、必ずしも実際の装置におけるサイズと対応するものではない。
【0025】
本発明の実施形態における縫合装置は、軟性内視鏡等に取り付けて、消化管腔内から縫合を行う装置であって、簡便かつ迅速に縫合を実施できるようにしている。
【0026】
以下、一例として、本実施形態における縫合装置を軟性内視鏡に取り付けて使用した場合について説明する。本実施形態における縫合装置は、特に軟性内視鏡に取り付けて使用した場合には、消化管腔内において、消化管に開口や貫通孔が形成されていない状態でも、組織の全層縫合等を実施できるようになっている。なお、全層縫合とは、消化管の全層(漿膜、漿膜下層、固有筋層、粘膜下層、粘膜)を貫通するように縫合糸を通して縫合することを意味している。なお、本実施形態における縫合装置は、軟性内視鏡だけでなく、ラパロスコープの先端に取り付けて使用することもできる。
【0027】
<縫合装置の構成>
まず、図1図4を参照しながら、本実施形態における縫合装置の構成について説明する。図1は、本実施形態における縫合装置を第1の視点から見た概略斜視図であり、縫合装置が内視鏡のシャフトに取り付けられた状態を示す図である。図2は、図1に示す縫合装置の部分断面図である。図2では、後側アーム12の基端側の一部の断面、および、支柱部材41の一部の断面が図示されている。図3および図4は、本実施形態における縫合装置をそれぞれ第1の視点とは異なる第2および第3の視点から見た概略斜視図である。
【0028】
本実施形態における縫合装置10は、例えば、内視鏡1のシャフト2に取り付けて使用できるように構成されている。縫合装置10が取り付けられる内視鏡1としては、一般的な内視鏡手術に使用される軟性内視鏡を用いることができる。内視鏡1のシャフト2は、生体の消化管に挿入して使用されるものであれば、その径や長さ、材質等は特に限定されるものではない。例えば、シャフト2の径は、一般的な内視鏡では10mm程度であるが、5~15mm程度のものでもよい。また、シャフト2の長さは、一般的な内視鏡では1200mm程度であるが、1200~3000mm程度のものでもよい。
【0029】
図1図4に示すように、本実施形態の縫合装置10は、前後一対のアーム11、12と、前後一対のアーム11、12を作動させるアーム移動機構13と、前後一対のアーム11、12の移動を案内する連結機構40と、を備えている。なお、本明細書では、シャフト2に取り付けられた状態の縫合装置10において、シャフト2の先端面2sに対して相対的に遠い側を「前側」、シャフト2の先端面2sに対して相対的に近い側を「後側」として説明する。
【0030】
<アーム移動機構13>
アーム移動機構13は、軸方向に沿って延びた長尺な部材であり、内視鏡1のシャフト2に取り付けられるものである。アーム移動機構13の軸方向の長さは、特に限定されるものではないが、例えば、内視鏡1のシャフト2の長さと同程度の長さである。
【0031】
縫合装置10は、アーム移動機構13を内視鏡1のシャフト2に固定することによって、内視鏡1に固定して使用されるものである。具体的には、縫合装置10は、アーム移動機構13の軸方向がシャフト2の軸方向と略平行となるように、シャフト2に取り付けられる。
【0032】
このように縫合装置10がシャフト2に取り付けられていれば、シャフト2を屈曲したとき等にアーム移動機構13をシャフト2の屈曲に確実に追従させることができるので、アーム移動機構13がシャフト2の屈曲等の邪魔になることを防ぐことができる。
【0033】
また、アーム移動機構13は、前後一対のアーム11、12の両方が内視鏡1のシャフト2の先端面2sより前方に位置し、かつ、後側アーム12が前側アーム11に対して内視鏡1の先端面2s側に位置するように、内視鏡1のシャフト2に取り付けられる。
【0034】
これにより、シャフト2を屈曲させても、前後一対のアーム11、12は、常に内視鏡1のシャフト2の先端面2sの前面に配置されるようになり、シャフト2に設けられたカメラによって前後一対のアーム11、12の動きを確実に視認することができるようになる。したがって、前後一対のアーム11、12を使用して、胃等の消化管内の組織を縫合する際に、操作者は、カメラにより撮影された画像を観察しながら、前後一対のアーム11、12を容易かつ確実に操作することができる。
【0035】
アーム移動機構13の先端部には、固定部13dが設けられている。固定部13dは、アーム移動機構13の軸方向とシャフト2の軸方向とが略並行となるように、アーム移動機構13をシャフト2に固定するための部材である。固定部13dは、例えば、アーム移動機構13の先端部(チューブ13cの先端部)が嵌合可能な筒状部材と、内視鏡1のシャフト2の先端部が嵌合可能な筒状部材とが連結された構成を有している。固定部13dを構成する各筒状部材にシャフト2の先端部およびアーム移動機構13の先端部をそれぞれ嵌合することで、アーム移動機構13をシャフト2に固定することができる。
【0036】
また、アーム移動機構13の先端側から基端側までの任意の箇所は、アーム移動機構13がシャフト2に沿うように固定されている。例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、アルミ等を素材とするベルト状部材や、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、金属等を素材とする輪状留め具などによって、アーム移動機構13の先端側から基端側までの任意の位置をシャフト2に固定することができる。
【0037】
アーム移動機構13は、シャフト2に固定された状態において、シャフト2の屈曲等に追従して変形できる程度の柔軟性を有する素材によって形成されている。つまり、アーム移動機構13は、内視鏡1のシャフト2に取り付けても、内視鏡1の操作の妨げにならないような強度となるように形成されている。
【0038】
なお、アーム移動機構13をシャフト2に固定する方法は特に限定されるものではなく、シャフト2の屈曲等の変形を妨げないように固定できる方法であればよい。
【0039】
また、アーム移動機構13は、必ずしも内視鏡1のシャフト2に沿って設ける必要はなく、アーム移動機構13の先端部だけがシャフト2の先端部に固定されてもよい。この場合でも、シャフト2の先端部において、アーム移動機構13の軸方向とシャフト2の先端部の軸方向とが略平行となっていれば、操作者は、前後一対のアーム11、12を容易に操作することができる。
【0040】
以下、アーム移動機構13の具体的な構成とともに、前側アーム11と後側アーム12との相対的な位置を変化させることが可能な構成について説明する。
【0041】
アーム移動機構13は、一例として、シース13aと、シース13a内に挿通されたワイヤー13bと、シース13aが内部に挿通されたチューブ13cとにより構成されている。
【0042】
チューブ13cは、その先端から基端まで貫通孔が形成された中空のチューブ状部材である。チューブ13cは、上述したように、ベルト状部材等によってシャフト2に固定されている。さらに、チューブ13cは、固定部13dによってシャフト2に固定されている。チューブ13cの素材は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の樹脂で形成されていることが好ましい。
【0043】
チューブ13c内には、シース13aが挿通されている。シース13aは中空のチューブ状部材であり、チューブ13cの軸方向に沿って移動可能、かつ、チューブ13c内で回転可能となるようにチューブ13c内に挿入されている。シース13aの素材は特に限定されるものではないが、シャフト2の屈曲(言い換えればチューブ13cの屈曲)に追従して変形可能であるが、軸方向に力が加わっても、伸びたり折れ曲がったりしにくい強度(プッシャビリティ)を有するように形成されていることが好ましく、例えば、ステンレスやニッケルチタン合金で形成された金属コイルチューブや補強材で補強された樹脂チューブ等で構成されていることが好ましい。
【0044】
シース13aの先端は、後側アーム12の基端部に連結固定されている。例えば、支柱部材41の外周面を覆うようにシース13a内部に支柱部材41が挿入され、シース13aの先端が後側アーム12の背面12bに連結固定されている。なお、シース13aと後側アーム12との軸方向の移動が連動するような構成となっていればよく、シース13aと後側アーム12との連結方法は特に限定されるものではない。
【0045】
一方、シース13aの基端は、シャフト2を操作する操作部(不図示)の近傍まで延びている。したがって、アーム移動機構13のシース13aの基端を軸方向に移動させることによって、チューブ13cの先端からシース13aが突出する長さを変化させることができる。言い換えれば、シャフト2の軸方向に沿って、シャフト2に対して後側アーム12を移動させることができるようになっている。また、シース13aの基端を回転させることによって、後側アーム12をシース13aの中心軸周りに回転させることができるようになっている。
【0046】
シース13a内には、ワイヤー13bが挿通されている。ワイヤー13bは、例えば、金属製のワイヤー等であり、シャフト2の屈曲(言い換えればシース13aの屈曲)に追従して変形できるものである。ワイヤー13bは、シース13aの軸方向に沿って移動可能となるようにシース13a内に挿入されている。
【0047】
ワイヤー13bの先端は、前側アーム11の基端部に連結固定されている。なお、ワイヤー13bと前側アーム11との軸方向の移動が連動するような構成となっていればよく、例えば、ワイヤー13bの先端が、前側アーム11の基端部付近において、前側アーム11または前側アーム11に連結された支柱部材41に連結固定されていてもよい。
【0048】
一方、ワイヤー13bの基端は、シャフト2を操作する操作部(不図示)の近傍まで延びている。したがって、アーム移動機構13のワイヤー13bの基端を軸方向に移動させることによって、シース13aの先端からワイヤー13bが突出する長さを変化させることができる。言い換えれば、シャフト2の軸方向に沿って、後側アーム12に対して前側アーム11を移動させることができるようになっている。
【0049】
以上の構成により、アーム移動機構13のシース13aの基端およびワイヤー13bの基端を操作して、シース13aやワイヤー13bを軸方向に沿って移動させれば、前側アーム11および後側アーム12を軸方向に移動させることができる。つまり、シャフト2の先端面2sに対して、前側アーム11や後側アーム12の相対的な位置を変化させることができる。例えば、シース13aとワイヤー13bを同一距離だけ同一方向に移動させれば、シャフト2の先端面2sに対して、前側アーム11および後側アーム12を同一距離だけ同一方向に移動させることができる。
【0050】
また、シース13aとワイヤー13bは、それぞれ独立して軸方向に移動可能なように構成されているので、前側アーム11と後側アーム12とを互いに接近離間させることができる。例えば、ワイヤー13bの移動を固定して、シース13aを軸方向に移動させれば、後側アーム12を前側アーム11に対して接近離間させることができる。逆に、シース13aの移動を固定して、ワイヤー13bを軸方向に移動させれば、前側アーム11を後側アーム12に対して接近離間させることができる。
【0051】
なお、アーム移動機構13の外径(すなわち、チューブ13cの外径)は、本実施形態における縫合装置10を取り付けた内視鏡1を消化管内(またはオーバーチューブ内)に挿入することができる程度であればよく、特に限定されるものではない。例えば、アーム移動機構13の外径は、アーム移動機構13とシャフト2の外径を合わせた径が、11~15mm程度となるようにすることが好ましく、11~14mm程度となるようにすることがさらに好ましい。
【0052】
<連結機構40>
上述したように、アーム移動機構13は、前側アーム11および後側アーム12をそれぞれ独立して移動させることができ、前側アーム11および後側アーム12の軸方向の距離を変化させることができるようになっている。一方、後述するように、縫合を行うためには、前側アーム11と後側アーム12とを接近させたときに、後側アーム12に設けられた一対の針状部材15、16が、前側アーム11に設けられた一対の係合部材収容部18、19に確実に挿入されるようにする必要がある。
【0053】
本実施形態における縫合装置10では、一対の針状部材15、16が一対の係合部材収容部18、19に確実に挿入されるようにするために、連結機構40が設けられている。
【0054】
連結機構40は、前側アーム11および後側アーム12が接近離間する方向(接近離間方向)と直交する面内の相互回転を固定するように構成されている。すなわち、連結機構40は、一対の針状部材15、16および一対の係合部材収容部18、19がシャフト2の軸方向において常に重なる位置に配置されるように、前側アーム11および後側アーム12の相互回転を固定してこれらの位置を維持するように構成されている。さらに、連結機構40は、前側アーム11および後側アーム12が接近した際に、一対の針状部材15、16が一対の係合部材収容部18、19内へ挿入されるように構成されている。
【0055】
連結機構40は、一例として、支柱部材41と摺動部材42とにより構成されている。
【0056】
支柱部材41は、細長く延びた中空の筒状部材である。支柱部材41の側面には、先端から基端まで長手方向に沿って延びる切欠部41nを有している。切欠部41nは、支柱部材41の内部に形成された中空の空間が外部(外面側)に連通するように形成されている。
【0057】
支柱部材41の先端(シャフト2から最も離れた位置)は、前側アーム11の基端部に連結固定されている。
【0058】
支柱部材41の長手方向の長さは、前側アーム11および後側アーム12を軸方向に離間させたときに、一対の針状部材15、16の先端が、後側アーム12の背面11bに対して十分に離隔するように設定されることが好ましい。
【0059】
支柱部材41の素材は特に限定されるものではないが、強度を確保するために、ステンレス鋼等の金属であることが好ましい。
【0060】
支柱部材41は、シース13aの内腔に挿通されている。シース13aは、後側アーム12の基端部に連結固定されているが、一方、支柱部材41とシース13aとは連結されておらず、支柱部材41は、シース13aの内腔において、シース13aに対して軸方向に摺動できるようになっている。また、シース13a内に挿通されているワイヤー13bは、シース13aの先端からさらに前方に延びており、ワイヤー13bの先端は、前側アーム11の基端部に連結固定されている。
【0061】
摺動部材42は、細長く延びた中空の筒状部材である。摺動部材42の基端は、後側アーム12の基端部に連結固定されている。さらに、摺動部材42は、その内部に支柱部材41を挿通させることができ、支柱部材41の外周面と摺動部材42の内周面とが対向した状態で、摺動部材42は、支柱部材41の長手方向に摺動(スライド)できるようになっている。摺動部材42を最も前方まで摺動させた場合(すなわち、前側アーム11および後側アーム12を軸方向に最も接近させた場合)、摺動部材42の先端は、前側アーム11の背面11bに当接するようになっている。
【0062】
摺動部材42の長手方向の長さは、一例として、一対の針状部材15、16の長さから、前側アーム11の厚さ(前面11aと背面11bとの距離)分だけ短い長さとなるように設定されている。このような長さとすることで、前側アーム11および後側アーム12を軸方向に接近させたときに、一対の針状部材15、16の先端が後側アーム12から突出してしまうことを防ぐことができる。
【0063】
摺動部材42の素材は特に限定されるものではないが、強度を確保するために、ステンレス鋼等の金属であることが好ましい。
【0064】
支柱部材41の外周面の断面形状は、一部が平坦となるように切り取られた円形状に成形されている。また、摺動部材42の中空内周面の断面形状も同じ形状となるように成形されている。さらに、摺動部材42の内周面の大きさ(内周面断面の径)は、支柱部材41の太さ(外周面断面の径)よりも僅かに大きく設定されている。
【0065】
このように、支柱部材41の外周面および摺動部材42の内周面は、同形状かつ非円対称形状となっている。このため、摺動部材42は、支柱部材41に対して自由に回転することはできず、支柱部材41がその中心軸周りを回転した場合には、支柱部材41と一体となって回転するようになっている。また、摺動部材42は、支柱部材41の長手方向に対して摺動できるようになっている。なお、支柱部材41および摺動部材42の詳細な構成については、図8を参照しながら後述する。
【0066】
<後側アーム12について>
後側アーム12は、長手方向に直線状に延びる部材である。後側アーム12の素材は特に限定されるものではないが、強度を確保するために、ステンレス鋼等の金属であることが好ましい。後側アーム12は、一例として、その前面12aと背面12bが互いに平行な平坦面となるように形成されている。本明細書では、長手方向に延びる後側アーム12に関して、支柱部材41および摺動部材42から離れた部分を「後側アーム12の先端部」、摺動部材42および支柱部材41に近い部分を「後側アーム12の基端部」として説明する。
【0067】
後側アーム12の基端部には、摺動部材42の基端が連結固定されている。摺動部材42が支柱部材41の長手方向に摺動した場合には、同時に、後側アーム12も支柱部材41の長手方向に摺動するようになっている。また、支柱部材41が回転した場合には、摺動部材42が支柱部材41と一体となって回転し、同時に、摺動部材42に連結固定されている後側アーム12も支柱部材41の中心軸周りするようになっている。
【0068】
また、後側アーム12の基端部には、シース13aの先端が連結固定されている。なお、シース13aと後側アーム12との連結方法は特に限定されるものではない。
【0069】
後側アーム12の先端部には、縫合針部14が設けられている。縫合針部14は、後側アーム12の長手方向に沿って配列された一対の針状部材15、16を備えている。すなわち、一対の針状部材15、16は、長手方向に直線状に延びる後側アーム12に設けられており、一対の針状部材15、16および支柱部材41の中心軸(回転軸)は、略直線上に並ぶように配置されている。なお、上記のように略直線上に並ぶ位置関係については、図5を参照しながら後述する。
【0070】
一対の針状部材15、16はいずれも、支柱部材41の長手方向(前側アーム11および後側アーム12が接近離間する方向)に延びている。一対の針状部材15、16は、その先端部であるやじり状部15a、16aと、やじり状部15a、16aより基端側に位置する細径部15b、16bと、を有している。やじり状部15a、16aは、その先端が尖っており、また、その基端の外径が細径部15b、16bの外径よりも大きく、細径部15b、16bとの連結部分に段差ができるように形成されている。一対の針状部材15、16が一対の係合部材20、21と係合した際には、やじり状部15a、16aと細径部15b、16bとの連結部分の段差に係合部材20、21が引っ掛かることによって、係合部材20、21が脱落することを防ぐ役割を有する。
【0071】
また、縫合針部14の一対の針状部材15、16はいずれも、その先端が前側アーム11に向いた状態、かつ、針状部材15、16の軸方向が後側アーム12の前面12aと直交するように後側アーム12に取り付けられている。言い換えれば、一対の針状部材15、16はいずれも、その中心軸が支柱部材41の長手方向(つまりシース13aの中心軸)と略平行となるように後側アーム12に取り付けられている。
【0072】
なお、一対の針状部材15、16の素材や長さ、軸径は特に限定されるものではない。一対の針状部材15、16は、縫合する対象に突き刺してその対象を貫通させることができ、しかも、対象を貫通した状態から逆方向に移動させて対象から引き抜くことができる程度の長さおよび強度を有するものであればよい。例えば、本実施形態における縫合装置10によって胃壁を縫合する場合であれば、その長さは後側アーム12の前面12aからその先端までの長さが胃壁を貫通できる長さであればよく、その素材はステンレス鋼等の金属が強度の点で好ましい。より具体的には、一対の針状部材15、16の先端から後側アーム12の前面12aまでの長さは、7~20mm程度が好ましく、7~10mm程度がさらに好ましい。また、一対の針状部材15、16の軸径に関しては、細径部15b、16bの軸径は1~2mm程度が好ましく、やじり状部15a、16aの最大径は細径部15b、16bの軸径よりも0.1~1mm程度大きいことが好ましい。
【0073】
また、一対の針状部材15、16の軸間距離も特に限定されるものではなく、縫合糸22によって縫合部分を適切に縫合できる程度の距離に設けられていればよい。例えば、一対の針状部材15、16の軸間距離を2~4mm程度にしておけば、外科手術における縫合と同等程度の縫合状態を実現することができる。さらに、一対の針状部材15、16と連結機構40との距離も特に限定されるものではなく、例えば、5mm以上、より具体的には、10~20mm程度にすることができる。
【0074】
<前側アーム11について>
前側アーム11は、後側アーム12と同様、長手方向に直線状に延びる部材である。前側アーム11の素材は特に限定されるものではないが、強度を確保するために、ステンレス鋼等の金属であることが好ましい。前側アーム11は、一例として、その前面11aと背面11bが互いに平行な平坦面となるように形成されている。前側アーム11は、実質的に、後側アーム12と同じ形状に形成されている。本明細書では、長手方向に延びる前側アーム11に関して、支柱部材41および摺動部材42および支柱部材41から離れた部分を「前側アーム11の先端部」、支柱部材41および摺動部材42および支柱部材41に近い部分を「前側アーム11の基端部」として説明する。
【0075】
前側アーム11の基端部には、支柱部材41の先端が連結固定されている。支柱部材41がシース13aの軸方向に沿ってその位置を変えた場合には、同時に、前側アーム11もシース13aの軸方向に沿ってその位置を変えるようになっている。また、支柱部材41が回転した場合には、同時に、支柱部材41に連結固定されている前側アーム11も支柱部材41の中心軸周りするようになっている。
【0076】
また、前側アーム11の基端部には、ワイヤー13bの先端が連結固定されている。なお、ワイヤー13bの先端は、前側アーム11の基端部付近において、後述する支柱部材41に連結固定されていてもよい。
【0077】
前側アーム11の先端部には、収容部17が設けられている。収容部17は、前側アーム11の背面11bに、背面11bよりも前側アーム11内部に窪んだ形状をなす開口部を備えている。側縁が閉じた開口部とは、接近離間方向から見たときに側縁(側面)が繋がっているO形状の開口縁を有する開口部を意味する。開口部は、前側アーム11の長手方向に沿って広がるように形成されている。開口部の開口径は、一対の針状部材15、16の各やじり状部15a、16aが挿入可能であり、かつ、係合部材20、21が通過不可能な大きさ(背面11b側に配置された係合部材20、21が前面11aから脱落しない大きさ)に設定される。なお、この開口部は、例えば、開口部内の底面が前面11aに達していない(すなわち、前面11aまで貫通していない)凹形状の窪みであってもよく、あるいは、前側アーム11の前面11aと背面11bとの間を貫通する貫通孔であってもよい。図面には、開口部は、接近離間方向に平行な貫通軸を有しており、側縁が閉じた貫通孔である場合が図示されている。
【0078】
また、収容部17の長手方向に広がる開口部の先端側および基端側には、縫合を行う際に係合部材20、21を配置するための一対の係合部材収容部18、19が形成されている。一対の係合部材収容部18、19は、前側アーム11および後側アーム12を接近させたときに一対の針状部材15、16が挿入される位置に設けられている。
【0079】
収容部17には、背面11b側に係合部材20、21を収容するための一対の係合部材収容部18、19が形成されている。係合部材収容部18、19は、例えば、収容部17の開口部の先端側および基端側のそれぞれの周囲に形成された窪みであり、各係合部材20、21が収容される形状となっている。なお、係合部材20、21には、その表裏を貫通する貫通孔が設けられており、係合部材20、21の貫通孔が、収容部17の開口部により形成された開口空間の上方に配置された状態となる。
【0080】
さらに、収容部17の開口部の側面は、樹脂材17rで覆われている。樹脂材17rは、例えば、前側アーム11を配置した金型に溶融樹脂を注入して射出成型するインサート成形によって設けることができる。樹脂材17rは、係合部材収容部18、19にそれぞれ収容した係合部材20、21を安定して保持するために設けられている。なお、樹脂材17rにより係合部材20、21を安定して保持する構成の詳細については、図7を参照しながら後述する。
【0081】
また、前側アーム11には、縫合糸収容部11hが設けられている。縫合糸収容部11hは、前面11aと背面11bとの間を貫通する貫通孔である。一対の係合部材収容部18、19に一対の係合部材20、21を収容した際、例えば収容部17の開口部が貫通孔である場合には、一対の係合部材20、21に両端が固定されている縫合糸22は前側アーム11の前面11a側に露出可能なようになっており、この露出した縫合糸22を前面11a側から縫合糸収容部11h内へ挿入して収容できるようになっている。
【0082】
<係合部材20、21>
また、本実施形態における縫合装置10は、一対の係合部材20、21を備えている。一対の係合部材20、21は、所定形状に成形された薄肉部材であり、その表裏を貫通する貫通孔が形成されている。一対の係合部材20、21は、縫合糸22のそれぞれの端部と繋がっており、一対の係合部材20、21および縫合糸22により縫合器具が構成されている。
【0083】
一対の係合部材20、21は、前側アーム11の収容部17の一対の係合部材収容部18、19内に収容できるようになっている。
【0084】
一対の係合部材20、21は、一対の係合部材収容部18、19内に収容されたときに、その表裏を貫通する貫通孔が収容部17の開口部により形成された開口空間の上方に配置されるようになっている。言い換えると、一対の針状部材15、16のやじり状部15a、16aが、係合部材収容部18、19内に収容された一対の係合部材20、21の貫通孔を通って、さらに前方に進んだ場合には、収容部17の開口部により形成された開口空間内に挿入されるような配置となっている。
【0085】
また、一対の係合部材20、21の貫通孔は、一対の針状部材15、16のやじり状部15a、16aを挿通させることはできるが、やじり状部15a、16aが完全に貫通孔を挿通すると一対の針状部材15、16から一対の係合部材20、21が抜け落ちない構造に形成されている。具体的には、一対の係合部材20、21の貫通孔の内径は、一対の針状部材15、16のやじり状部15a、16aの外径よりも小さく、かつ、細径部15b、16bの軸径よりも大きく設定されている。
【0086】
また、一対の係合部材20、21は、一対の係合部材収容部18、19内に収容された際に樹脂材17rの間に嵌合される凸部(図7に示す面状凸部20a、21aおよび係止凸部20b、21b)を有している。係合部材20、21の凸部の構成については、図7を参照しながら後述する。
【0087】
一対の係合部材20、21の素材は特に限定されるものではないが、その表裏を貫通する貫通孔を形成しても、一対の針状部材15、16のやじり状部15a、16aを挿通させつつ、一対の針状部材15、16に係合した状態を維持できるような性質を有する素材が好ましい。つまり、一対の係合部材20、21は、ある程度の弾性変形が可能な素材によって形成されていることが好ましい。例えば、金属製の板や軸材等を使用すれば、上述したような性質を有する一対の係合部材20、21を形成することができる。
【0088】
<一対の針状部材15、16と回転軸との位置関係>
図5および図6を参照しながら、一対の針状部材15、16と回転軸との位置関係について説明する。図5は、図2のX-X断面図である。図6は、本発明の実施形態における縫合装置を用いて組織を縫合する際の状態を模式的に示す図である。
【0089】
本実施形態における縫合装置10においては、後側アーム12は、長手方向に直線状に延びる部材である。後側アーム12の基端部は摺動部材42に連結固定されているため、支柱部材41の中心軸を回転軸として、摺動部材42が支柱部材41と一体となって回転した場合、後側アーム12も支柱部材41の中心軸を回転軸として回転するように構成されている。
【0090】
図5には、一対の針状部材15、16のそれぞれの配置位置Z1、Z2、支柱部材41の中心軸(アーム回転軸)の回転軸位置Z3が示されている。なお、一対の針状部材15、16のそれぞれの配置位置Z1、Z2は、後側アーム12が一対の針状部材15、16のそれぞれと連結する連結位置を示しており、例えば、一対の針状部材15、16のそれぞれの針軸の位置である。また、支柱部材41の回転軸位置Z3は、後側アーム12におけるアーム移動機構13との連結位置を示している。
【0091】
本実施形態における縫合装置10では、一対の針状部材15、16のそれぞれの配置位置Z1、Z2同士を結ぶ直線、一対の針状部材15、16のそれぞれの配置位置Z1、Z2と支柱部材41の回転軸位置Z3とを結ぶ直線はすべて重なって、同一の直線Lとなる。
【0092】
なお、配置位置Z1、Z2および回転軸位置Z3のそれぞれを結ぶ直線は、必ずしも厳密に重なっている必要はない。本明細書では、配置位置Z1、配置位置Z2、回転軸位置Z3が同一の直線上に配置された状態とは、例えば、配置位置Z1と回転軸位置Z3とを結ぶ直線と、配置位置Z2と回転軸位置Z3とを結ぶ直線とがなす角度が5°以下であること、好ましくは3°以下であること、より好ましくは1°以下であることを意味する。配置位置Z1、配置位置Z2、回転軸位置Z3が同一の直線上に配置された状態となるのであれば、前側アーム11および後側アーム12は、必ずしも直線状の部材でなくてもよいが、直線状の部材とすることで、配置位置Z1、配置位置Z2、回転軸位置Z3を確実に同一の直線上に配置することができる。
【0093】
配置位置Z1、配置位置Z2、回転軸位置Z3を同一の直線上に配置することで、縫合装置10の操作性を向上させることができるようになる。例えば、図6の左側または右側のいずれの方向から前後一対のアーム11、12を縫合対象箇所STに近づけた場合であっても、縫合対象箇所STに対して、一対の針状部材15、16の位置を容易に合わせることができる。特に、従来技術に係る縫合装置100を用いたときには位置合わせが容易ではなかった場合(図11(B)参照)であっても、本実施形態における縫合装置10を用いたときには、配置位置Z1、配置位置Z2、回転軸位置Z3を同一の直線上に配置することで、腫瘍壁TWに邪魔されることなく、縫合対象箇所STに対して一対の針状部材15、16の位置を容易に合わせることができる。
【0094】
なお、上述した後側アーム12における位置関係に対応して、前側アーム11においても同様に、針状部材15が挿入される挿入位置(係合部材収容部18が設けられている位置)と、針状部材16が挿入される挿入位置(係合部材収容部19が設けられている位置)と、アーム移動機構13との連結位置(支柱部材41の回転軸位置)とが、一直線上に配置された状態となっている。
【0095】
<前側アーム11において係合部材20、21を保持する構成>
図7を参照しながら、前側アーム11において係合部材20、21を保持する構成について説明する。図7は、本発明の実施形態における縫合装置10において、前側アーム11の先端部を示す部分拡大図である。なお、図7には、前側アーム11の係合部材収容部18、19に収容されている係合部材20、21近傍の拡大図も示されている。
【0096】
図7に示すように、前側アーム11の先端部には収容部17が設けられている。上述したように、収容部17には、背面11bよりも前側アーム11内部に窪んだ形状をなす、側縁が閉じた開口部が形成されている。また、収容部17の側面は樹脂材17rで覆われている。すなわち、前側アーム11の先端部には、例えば金属製の部材に取り囲まれるように、樹脂材17rにより側面が構成された開口部が形成されている。なお、樹脂材17rは、開口部の側面の一部に設けられていてもよく、係合部材20、21の凸部を圧入した際に、該凸部が嵌合可能となるように開口部の内周面に対向して設けられていればよい。
【0097】
収容部17の先端側および基端側には、係合部材収容部18、19が形成されている。係合部材収容部18、19の背面11b側の形状は、係合部材20、21の外縁に合わせた形状となっており、係合部材収容部18、19内に係合部材20、21が収容されるようになっている。
【0098】
係合部材20、21は、その表裏を貫通する貫通孔が形成された、概略円状の外縁を有する係合部材本体部20m、21mを備えている。さらに、係合部材20、21は、係合部材本体部20m、21mと一体に構成されている面状凸部20a、21aおよび係止凸部20b、21bを備えている。
【0099】
面状凸部20a、21aは、係合部材本体部20m、21mと同一面内において、係合部材本体部20m、21mから特定の方向に突出した形状となっている。係合部材本体部20m、21mから突出した面状凸部20a、21aの突端面および側面には、係止凸部20b、21bが設けられている。
【0100】
本実施形態では、面状凸部20a、21aおよび係止凸部20b、21bにより構成される凸部の幅方向の距離D2が、収容部17の開口部の側面で対向する樹脂材17rの離隔距離D1より僅かに大きくなるように設定されている。この設定により、係合部材収容部18、19に係合部材20、21を収容する際に、面状凸部20a、21aおよび係止凸部20b、21bにより構成される係合部材20、21の凸部を樹脂材17rに圧入することで、対向する樹脂材17r間に凸部が嵌り込んで、係合部材20、21が安定して保持されるようになる。その結果、消化管の内部まで縫合装置10を搬送する際や、消化管内で位置決めを行っている際に係合部材20、21が脱落してしまうことを抑制することができる。
【0101】
なお、縫合時には、一対の針状部材15、16によって係合部材20、21を係合部材収容部18、19から離脱させる必要があるが、弾力性を持つ樹脂材17rで係合部材20、21の凸部を保持すれば、一対の針状部材15、16による離脱に対応できるようになる。また、インサート成形時やその後の加工時に、樹脂材17rの離隔距離D1の距離を適切に設定し、係合部材20、21の凸部を保持する力を調整してもよい。
【0102】
上述したように、樹脂材17rは、前側アーム11の先端部を構成する部材に取り囲まれている。前側アーム11の素材としては、例えばステンレス鋼等の金属を用いることができる。係合部材20、21の凸部を樹脂材17rに圧入した場合には、樹脂材17rが凸部幅方向に広がるように変形して離隔距離D1が大きくなり、係合部材20、21が脱落してしまうおそれが生じるが。本実施形態では、樹脂材17rを金属で取り囲む構成となっており、これにより、樹脂材17rの変形を抑制することができる。
【0103】
<支柱部材41および摺動部材42の構成>
図8を参照しながら、支柱部材41および摺動部材42の構成について説明する。図8は、本発明の実施形態において、支柱部材41および摺動部材42の断面図である。
【0104】
支柱部材41は細長く延びた円筒部材であり、図8に示されているように、支柱部材41の内部には、長手方向に沿って挿通孔41aが形成されている。また、長手方向に沿って設けられた切欠部41nにより、挿通孔41aは、長手方向に沿って開口している。支柱部材41は、例えば、断面略正円の円筒部材の一部を長手方向に切り落とした形状、より詳細には、長手方向に沿って平行する2つの平面部41bが外周面に形成された形状を有している。
【0105】
摺動部材42は細長く延びた円筒部材であり、図8に示されているように、摺動部材42の内部には、長手方向に沿って挿通孔42aが形成されている。摺動部材42の挿通孔42aの内壁面(摺動部材42の内周面)は、支柱部材41の外周面に適合する形状を有している。鎧詳細には、摺動部材42の内周面には、支柱部材41の平面部41bと対向する位置に平面部42bが形成されている。
【0106】
このように、支柱部材41の外周面および摺動部材42の内周面のそれぞれには、平面部41b、42bが形成されている。これにより、支柱部材41と摺動部材42とが、支柱部材41の中心軸を回転軸として相対的に回転しようとしても、断面非円対称の形状が噛み合って支柱部材41の外周面および摺動部材42の内周面が接触して、その回転は規制される。その結果、支柱部材41と摺動部材42とが独立して回転することを抑制でき、かつ、支柱部材41と摺動部材42とを一体として回転させることができるようになる。
【0107】
また、支柱部材41の外周面と摺動部材42の内周面との間には、ほとんど間隙が生じないようなサイズに設定されている。なお、この間隙が狭すぎると摺動が滑らかに行われない可能性があり、間隙が広すぎると摺動が固定されず、意図しない摺動が起こってしまう可能性がある。したがって、この間隔を適切に調整することが好ましい。
【0108】
例えば、摺動部材42の内周面には、2つの平面部42bにそれぞれ2つずつ、合計4つの突起部42tが設けられており、支柱部材41の外周面が、摺動部材42の内周面の突起部42tと接触するように構成されている。突起部42tは、摺動部材42の長手方向に沿って延びるように設けられている。摺動部材42は、突起部42tを支柱部材41の外周面に接触させながら、支柱部材41に対して摺動できるようになっており、突起部42tのみで接触するため、支柱部材41と摺動部材42との間の摩擦抵抗が低減されて滑らかな摺動が実現されるようになる。
【0109】
また、摺動部材42は、例えば、2つの割型部材42P、42Qを組み合わせた構成であってもよい。一例として、2つの割型部材42P、42Qは、平面部42bと平行な面で円筒部材を長手方向に真半分に分けた構成を有しており、2つの割型部材42P、42Qは、同じ形状となっている。
【0110】
上述したように、支柱部材41の外周面と摺動部材42の内周面との間の間隔を適切に調整することが好ましいが、摺動部材42を2つの割型部材42P、42Qにより構成することで、この間隔を調整することが容易となる。より詳細には、支柱部材41を2つの割型部材42P、42Qで挟む距離を変えながら、支柱部材41の外周面と摺動部材42の内周面との間の間隔を適切に調整できるようになる。また、この間隔が適切に定まった場合には2つの割型部材42P、42Qの間隙42Cも特定の寸法に定まり、この間隙42Cの寸法を維持したまま2つの割型部材42P、42Qを溶接等により固定すれば、適切な摺動部材42を実現することができる。
【0111】
<縫合装置10による組織の縫合>
本実施形態の縫合装置10を内視鏡1のシャフト2に取り付けておけば、胃壁等の組織を胃の内部から縫合することができる。
【0112】
以下、図9を参照しながら、本実施形態の縫合装置10を使用して、胃壁を内反させた状態で縫合する縫合作業について説明する。図9は、本発明の実施形態における縫合装置による縫合作業の概略説明図である。なお、図9では、縫合作業における動きを分かりやすくするために、一部の構成および符号を図示省略している。
【0113】
まず、胃内に、本実施形態の縫合装置10を取り付けた内視鏡1のシャフト2を挿入する。そして、縫合対象箇所である胃壁を内視鏡1に挿通した内視鏡用鉗子で内側に引き込む等の方法で胃の内方に凹ませて、胃内部に突起状の部分(突起部PP)を形成させる。
【0114】
その状態で、アーム移動機構13を操作して、前側アーム11を後側アーム12から離間させる。そして、縫合針部14の一対の針状部材15、16の先端と、前側アーム11の背面11bとの間に、突起部PPを挟むことができる程度の隙間を形成する。その状態で、シャフト2を操作して、縫合針部14の一対の針状部材15、16の先端と前側アーム11の背面11bとの間の隙間に突起部PPを配置する(図9(A))。
【0115】
そして、アーム移動機構13を操作して、前側アーム11の移動を固定した状態で後側アーム12を前側アーム11に向かって移動させる。すると、縫合針部14の一対の針状部材15、16が突起部PPを貫通し、その先端が一対の係合部材収容部18、19に挿入される。一対の係合部材収容部18、19には、一対の係合部材20、21が配置されており、一対の針状部材15、16のやじり状部15a、16aは、さらに一対の係合部材20、21の貫通孔を挿通する。これにより、一対の針状部材15、16のやじり状部15a、16aを一対の係合部材20、21とそれぞれ係合させることができる(図9(B))。
【0116】
なお、図9(B)では、後側アーム12と前側アーム11とを接近させる際に、後側アーム12を前側アーム11に接近させる場合を説明したが、前側アーム11を後側アーム12に接近させてもよいし、両者をともに移動させて両者を接近させてもよい。
【0117】
一対の針状部材15、16のやじり状部15a、16aに一対の係合部材20、21を係合させたら、アーム移動機構13を操作して、後側アーム12を前側アーム11から離間させる。このとき、一対の針状部材15、16は、突起部PPを貫通した孔を通ってそれぞれ元の位置に戻る。すると、縫合糸22の両端が固定されている一対の係合部材20、21はいずれも突起部PPの一方の側(図9(C)では上側)に位置した状態となる。これにより、縫合糸22によって、針状部材15から突起部PPを貫通して針状部材15の反対側に出てから、再び突起部PPを貫通して針状部材16に戻る輪が形成される(図9(C)参照)。
【0118】
縫合糸22の輪が形成されると、突起部PPの対向する壁面同士を接触させた状態で縫合糸22を結紮する。具体的には、縫合糸22において、針状部材15に係合させた係合部材20から突起部PPに向かって延びている部分と、針状部材16に係合させた係合部材21から突起部PPに向かって延びている部分とを結紮する。この結紮は、市販されているクリップ等を利用することができる。例えば、クリップ等を内視鏡1の鉗子口から供給して縫合糸22に取り付ければ、結紮することができる。また、日本国特許5294181号に記載されている結紮器具によって結紮してもよい。
【0119】
最後に、縫合糸22において、結紮した部分よりも一対の針状部材15、16側に位置する部分を切れば、突起部PPの対向する壁面同士を接触させた状態で固定することができる。
【0120】
<縫合装置10を使用した施術>
本実施形態の縫合装置10を使用すれば、胃壁内に形成された腫瘍を胃壁に開口を形成することなく、切除することができる。
【0121】
以下、図10を参照しながら、本実施形態の縫合装置10を使用して、胃壁内に形成された腫瘍を切除する方法について説明する。図10は、本発明の実施形態における縫合装置を使用した施術の概略説明図である。
【0122】
図10に示すように、まず、胃壁の腫瘍TMが形成されている部分(腫瘍壁TW)において、腫瘍TMの周辺の粘膜等を切除して、腫瘍TMを囲むように筋層が露出された部分(露出部EA)を形成する。
【0123】
ついで、胃を若干萎縮させた状態で、露出部EAおよび腫瘍TMが形成されている部分と対向する胃壁(対向壁OW)を縫合糸SL等によって連結する。例えば、この連結には、日本国特許5294181号に記載されている縫合装置を使用することができる。なお、露出部EAと対向壁OWの連結は、例えば、少なくとも2箇所以上で実施する。
【0124】
露出部EAと対向壁OWが連結された後に、胃に二酸化炭素ガスを送気して胃を膨張させる。すると、腫瘍壁TWと対向壁OWとが離間する。このとき、露出部EAと対向壁OWが連結されているので、露出部EAに囲まれている部分(腫瘍TMを含む組織)は、露出部EAの外側の部分に比べて、膨張が制限される。つまり、腫瘍TMは、縫合糸SLによって対向壁OWに吊り上げられたような状態となる(図10(A))。
【0125】
腫瘍TMが吊り上げられた状態になると、腫瘍TMの部分を頂点として、胃壁が内方に凹んだ状態となる。すると、上述したような突起部PPの縫合と同様の方法で、本実施形態の縫合装置10によって露出部EAの位置を縫合することができる(図10(B))。
【0126】
なお、本実施形態における縫合装置10は単回使用の縫合器である。複数の縫合対象箇所が存在する場合には、例えば1回縫合するたびに(すなわち、1箇所の縫合対象箇所を縫合するたびに)、縫合装置10を交換することで、複数の縫合対象箇所を縫合することができる。
【0127】
縫合した部分では、胃壁の外面同士が接触した状態となるので、露出部EAにおいて、縫合した部分よりも内方の位置で露出部EAを切断すれば、腫瘍TMを切除することができる(図10(C))。このとき、縫合した部分では胃壁の外面同士が縫合されているので、胃壁に開口が形成されることがない。つまり、胃壁に開口を形成することなく腫瘍TM等を除去できるので、腫瘍TMが癌であったとしても、癌細胞が腹腔内に播種されてしまうことを防止できる。
【0128】
<本実施形態に係る作用>
以下、本実施形態に係る作用について説明する。
【0129】
本実施形態における縫合装置10は、一対の針状部材15、16を有する後側アーム12と、後側アーム12と接近離間可能に設けられ、後側アーム12と接近した際に一対の針状部材15、16が挿入される収容部17を備えた前側アーム11と、前側アーム11の収容部17に配置され、一対の針状部材15、16のそれぞれと係合可能な一対の係合部材20、21と、一対の係合部材20、21のそれぞれに繋がった縫合糸22と、を有する縫合器具と、前側アーム11と後側アーム12とを所定の接近離間方向に沿って接近離間させるアーム移動機構13と、前側アーム11および後側アーム12をアーム移動機構13に連結する連結機構40と、を備えている。前側アーム11において、針状部材15との連結位置と、針状部材16との連結位置と、アーム移動機構13との連結位置とが、一直線上に配置されている。また、後側アーム12において、針状部材15が挿入される挿入位置(係合部材収容部18)と、針状部材16が挿入される挿入位置(係合部材収容部19)と、アーム移動機構13との連結位置とが、一直線上に配置されている。
上記の構成によれば、縫合対象箇所周辺の組織の形状に影響されずに、一対の針状部材15、16の位置合わせを容易に行うことができ、操作性および利便性に優れた縫合装置10を実現することができる。
【0130】
本実施形態における縫合装置10において、前側アーム11および後側アーム12が、所定の接近離間方向に対して垂直な方向に向かって、アーム移動機構13との連結位置から直線状に延びる部材であってもよい。
上記の構成によれば、一対の針状部材15、16の位置合わせを容易に行うことができる縫合装置10をより確実に実現することができる。
【0131】
本実施形態における縫合装置10において、収容部17に、所定の接近離間方向に向かって開口する、側縁が閉じた開口部が形成されており、開口部の内周面の一部に樹脂材17rが設けられており、一対の係合部材20、21のそれぞれの一部(例えば、面状凸部20a、21aおよび係止凸部20b、21bにより構成された凸部)が、開口部の内周面に対向して設けられた樹脂材17rの間に嵌合可能なように構成されていてもよい。
上記の構成によれば、側縁が閉じた開口部の内周面に設けられた樹脂材17rの間に係合部材20、21の一部を嵌合させることによって、係合部材20、21が収容部17から脱落することがないように収容部17に配置することができ、操作性および利便性に優れた縫合装置10を実現することができる。
【0132】
本実施形態における縫合装置10において、連結機構40が、後側アーム12に連結された筒状の摺動部材42と、前側アーム11に連結された、摺動部材42内に挿通可能な支柱部材41と、を備えており、摺動部材42の内周面および支柱部材41の外周面のそれぞれが長手方向に沿って平面状に成形されており、摺動部材42の内周面および支柱部材41の外周面が当接することで支柱部材41の中心軸を回転軸とした支柱部材41と摺動部材42との相対的な回転が規制されるように構成されていてもよい。
上記の構成によれば、前側アーム11と後側アーム12とが支柱部材41の中心軸に沿って相対的に移動可能(摺動可能)とする構成と、前側アーム11と後側アーム12とが、支柱部材41の中心軸を回転軸として相対的に回転することを規制する構成とを同時に実現することができ、操作性および利便性に優れた縫合装置10を実現することができる。
【0133】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上述した実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属するすべての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0134】
1 内視鏡
2 シャフト
2s 先端面
10 縫合装置
11 前側アーム
11a、12a 前面
11b、12b 背面
11h 縫合糸収容部
12、100 後側アーム
13 アーム移動機構
13a シース
13b ワイヤー
13c チューブ
13d 固定部
14 縫合針部
15、16 針状部材
15a、16a やじり状部
15b、16b 細径部
17 収容部
17r 樹脂材
18、19 係合部材収容部
20、21 係合部材
20a、21a 面状凸部
20b、21b 係止凸部
20m、21m 係合部材本体部
22、SL 縫合糸
40 連結機構
41 支柱部材
41a、42a 挿通孔
41b、42b 平面部
41n 切欠部
42 摺動部材
42C 間隙
42t 突起部
42P、42Q 割型部材
EA 露出部
OW 対向壁
PP 突起部
ST 縫合対象箇所
TM 腫瘍
TW 腫瘍壁
W1、W2、Z1、Z2 針状部材の配置位置
W3、Z3 回転軸位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11