(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157020
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ルウの製造方法並びにルウ及びソース
(51)【国際特許分類】
A23L 23/10 20160101AFI20221006BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20221006BHJP
【FI】
A23L23/10
A23L23/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061015
(22)【出願日】2021-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】森下 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】北川 陽一郎
【テーマコード(参考)】
4B036
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LE03
4B036LF05
4B036LG02
4B036LH04
4B036LH09
4B036LH10
4B036LH13
4B036LH22
4B036LH26
4B036LH29
4B036LH32
4B036LH38
4B036LK01
4B036LK03
4B036LP01
4B036LP17
4B036LP19
(57)【要約】
【課題】本発明は、大豆粉を配合していても当該大豆粉由来のえぐみが抑制されているルウの製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のルウの製造方法は、
澱粉質原料及び第1の油脂を含む加熱処理混合物を用意する工程と、
前記加熱処理混合物に、大豆粉及び第1のユリ科植物原料を添加して、ルウ原料混合物を調製する工程と、
前記ルウ原料混合物を加熱撹拌して、溶融状のルウを調製する工程と
を含み、前記ルウ原料混合物又は前記溶融状のルウに、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料を添加する工程をさらに含み、及び/又は、前記加熱処理混合物が、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料をさらに含み、
前記第1のユリ科の植物原料は、飴色化されていないことを特徴としている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルウの製造方法であって、
澱粉質原料及び第1の油脂を含む加熱処理混合物を用意する工程と、
前記加熱処理混合物に、大豆粉及び第1のユリ科植物原料を添加して、ルウ原料混合物を調製する工程と、
前記ルウ原料混合物を加熱撹拌して、溶融状のルウを調製する工程と
を含み、前記ルウ原料混合物又は前記溶融状のルウに、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料を添加する工程をさらに含み、及び/又は、前記加熱処理混合物が、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料をさらに含み、
前記第1のユリ科の植物原料は、飴色化されていない、ルウの製造方法。
【請求項2】
前記第1のユリ科植物原料又は前記第2のユリ科植物原料が、オニオン原料及び/又はガーリック原料を含む、請求項1に記載のルウの製造方法。
【請求項3】
前記第2のユリ科植物原料及び第2の油脂を含み、かつ水分量が5質量%以上である油脂混合物を用意する工程と、前記油脂混合物を、90~130℃で20分以上加熱して、前記飴色化したユリ科植物原料を得る工程と、をさらに含む、請求項1又は2に記載のルウの製造方法。
【請求項4】
前記大豆粉が、脱脂大豆粉を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のルウの製造方法。
【請求項5】
前記大豆粉の配合量が、前記ルウの全質量に対して0.01質量%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のルウの製造方法。
【請求項6】
前記ルウ原料混合物又は前記溶融状のルウに水系原料を添加し、それを100℃以上で加熱撹拌する工程をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のルウの製造方法。
【請求項7】
澱粉質原料と、第1の油脂と、大豆粉と、第1のユリ科植物原料と、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料とを含むルウ。
【請求項8】
澱粉質原料と、第1の油脂と、大豆粉と、第1のユリ科植物原料と、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料とを含むソース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルウの製造方法並びにルウ及びソースに関しており、特に大豆粉を含むルウの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カレー、シチュー、及びハヤシライスソースなどの具材入りのソースを調理するための調理材料としてルウが用いられている。一般に、ルウの特性は、使用する原料の種類及び量だけでなく、配合順序や熱処理方法などの様々な条件によって変化するので、ルウの風味を向上させるために、その製造方法に関して多くの研究が行われてきた。例えば、特許文献1には、大豆粉を配合することによってルウの流動性を高めることができる旨が記載されている。一方、ルウの原料として、オニオンパウダーやガーリックパウダーなどのユリ科植物原料が知られているが、加熱度が異なるユリ科植物原料を複数種類含むルウは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大豆粉を配合することによってルウの流動性を高めると、当該大豆粉由来のえぐみによってルウの風味が悪くなるという弊害がある。そこで、本発明は、大豆粉を配合していても当該大豆粉由来のえぐみが抑制されているルウの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、加熱度が異なるユリ科植物原料を複数種類配合することにより、大豆粉由来のえぐみを抑制することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示すルウの製造方法並びにルウ及びソースを提供するものである。
〔1〕ルウの製造方法であって、
澱粉質原料及び第1の油脂を含む加熱処理混合物を用意する工程と、
前記加熱処理混合物に、大豆粉及び第1のユリ科植物原料を添加して、ルウ原料混合物を調製する工程と、
前記ルウ原料混合物を加熱撹拌して、溶融状のルウを調製する工程と
を含み、前記ルウ原料混合物又は前記溶融状のルウに、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料を添加する工程をさらに含み、及び/又は、前記加熱処理混合物が、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料をさらに含み、
前記第1のユリ科の植物原料は、飴色化されていない、ルウの製造方法。
〔2〕前記第1のユリ科植物原料又は前記第2のユリ科植物原料が、オニオン原料及び/又はガーリック原料を含む、前記〔1〕に記載のルウの製造方法。
〔3〕前記第2のユリ科植物原料及び第2の油脂を含み、かつ水分量が5質量%以上である油脂混合物を用意する工程と、前記油脂混合物を、90~130℃で20分以上加熱して、前記飴色化したユリ科植物原料を得る工程と、をさらに含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載のルウの製造方法。
〔4〕前記大豆粉が、脱脂大豆粉を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のルウの製造方法。
〔5〕前記大豆粉の配合量が、前記ルウの全質量に対して0.01質量%以上である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のルウの製造方法。
〔6〕前記ルウ原料混合物又は前記溶融状のルウに水系原料を添加し、それを100℃以上で加熱撹拌する工程をさらに含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のルウの製造方法。
〔7〕澱粉質原料と、第1の油脂と、大豆粉と、第1のユリ科植物原料と、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料とを含むルウ。
〔8〕澱粉質原料と、第1の油脂と、大豆粉と、第1のユリ科植物原料と、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料とを含むソース。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、第1のユリ科植物原料と第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料とを組み合わせてルウに配合することにより、大豆粉由来のえぐみを抑制することができる。したがって、大豆粉を含むルウにおいても、その風味を良好に保つことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のルウの製造方法は、(1)澱粉質原料及び第1の油脂を含む加熱処理混合物を用意する工程と、(2)前記加熱処理混合物に、大豆粉及び第1のユリ科植物原料を添加して、ルウ原料混合物を調製する工程と、(3)前記ルウ原料混合物を加熱撹拌して、溶融状のルウを調製する工程とを含んでおり、
前記ルウ原料混合物又は前記溶融状のルウに、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料を添加する工程をさらに含み、及び/又は、前記加熱処理混合物が、第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料をさらに含むことを特徴としている。
【0008】
本明細書に記載の「ルウ」とは、カレー、シチュー、ハヤシライスソース、ハッシュドビーフ、スープ、肉野菜炒め及び回鍋肉などの炒めものなどの種々の調理品を作製するためのメニュー用調味料、及びその他各種ソースを調理する際に使用する調理材料のことをいう。前記ルウを、肉や野菜などの食材を水と一緒に煮込んだところに投入することで、各料理を手軽に作ることができる。前記ルウの形態は、当技術分野で通常採用されるものであれば特に限定されないが、例えば、ブロック状(固形ルウ)、フレーク状、顆粒状、粉状、又はペースト状のいずれであってもよい。
【0009】
本明細書に記載の「澱粉質原料」とは、澱粉を主成分とする食品原料のことをいう。前記澱粉質原料は、前記ルウを製造することができる限り特に限定されないが、例えば、小麦澱粉、コーンスターチ、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、くず澱粉、及び加工澱粉などの澱粉、並びに、小麦粉、コーンフラワー、米粉、ライ麦粉、蕎麦粉、あわ粉、きび粉、はと麦粉、及びひえ粉などの穀粉などからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。前記澱粉質原料の配合量は、特に限定されないが、例えば、前記ルウの全質量に対して、約10~約50質量%であってもよく、好ましくは約15~約45質量%であり、さらに好ましくは約20~約40質量%である。
【0010】
本明細書に記載の「油脂」とは、食用に供される天然油脂又は加工油脂などの油脂のことをいう。第1の油脂としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記第1の油脂は、バター、牛脂、及び豚脂などの動物油脂、マーガリン、パーム油、綿実油、及びコーン油などの植物油脂、これらの硬化油脂、並びにこれらの混合油脂などからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。前記油脂の融点は、特に制限されず、目的の形状のルウを製造するために適宜選択され得る。例えば、固体状のルウを製造するためには融点35℃以上の油脂が好ましい。前記第1の油脂の配合量は、特に限定されないが、例えば、前記ルウの全質量に対して、約15質量%以上であってもよく、好ましくは約20~約50質量%であり、さらに好ましくは約25~約40質量%である。
【0011】
前記加熱処理混合物は、前記澱粉質原料及び前記第1の油脂を常法により撹拌混合しながら加熱することで調製され得るものであり、前記澱粉質原料が小麦粉である場合には、それから調製される加熱処理混合物は小麦粉ルウと呼ばれることもある。前記加熱処理混合物を調製するときの加熱条件は、製造するルウの種類や前記澱粉質原料及び前記第1の油脂の種類などに応じて適宜調整され得るものであるが、例えば、前記澱粉質原料及び前記第1の油脂の混合物を、到達品温が約70~約150℃になるように約1~約100分間昇温加熱してもよい。
【0012】
本明細書に記載の「ユリ科植物原料」とは、ユリ科植物に由来する香りの強い食品原料のことをいい、変色するほど加熱されたものではなく、好ましくは、水分を5質量%以上含む状態で約90℃以上の温度で加熱されていないものである。特に前記第1のユリ科植物原料は、本発明のルウの製造方法の全工程を通じて飴色化されない。前記第1のユリ科植物原料としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、オニオン原料、ガーリック原料、長ネギ原料、ラッキョウ原料、及びニラ原料からなる群から選択される少なくとも1種以上を含んでもよい。好ましくは、前記第1のユリ科植物原料は、オニオン原料及び/又はガーリック原料を含み、さらに具体的には、オニオンパウダー(玉ねぎの乾燥粉末)、オニオンペースト、みじん切りされた玉ねぎ、すりおろし玉ねぎ、ガーリックパウダー(ニンニクの乾燥粉末)、ガーリックペースト、みじん切りされたニンニク、乾燥させたミンス状ニンニク、又はすりおろしニンニクなどを含んでもよい。前記第1のユリ科植物原料の配合量は、特に限定されないが、例えば、前記ルウの全質量に対して、約0.1~約10質量%であってもよく、好ましくは約0.3~約3質量%である。
【0013】
前記溶融状のルウを調製する工程の加熱条件は、製造するルウの種類や使用する原料の種類などに応じて適宜調整され得るものであるが、例えば、前記ルウ原料混合物を、到達品温が約80℃以上、好ましくは約90~約150℃になるように約1~約100分間、好ましくは約3~約75分間昇温加熱してもよい。ただし、前記ルウ原料混合物は、前記第1のユリ科植物原料が飴色化するほどは加熱されず、例えば、水分を5質量%以上含む状態で90℃以上の温度では20分間以上加熱されない。
【0014】
本明細書に記載の「飴色化したユリ科植物原料」とは、第2のユリ科植物原料を、飴色すなわち褐色になるまで加熱して、辛み及び苦味を低減させかつ甘み及び香ばしさを高めた食品原料である。前記第2のユリ科植物原料が、オニオン原料である場合には、加工オニオン、飴色玉ねぎ、又はローストオニオンなどと呼ばれることもあり、前記第2のユリ科植物原料が、ガーリック原料である場合には、フライドガーリック、又はローストガーリックなどと呼ばれることもある。前記第2のユリ科植物原料としては、前記第1のユリ科植物原料と同じものを特に制限されることなく採用することができるが、前記第2のユリ科植物原料は、必ずしも前記第1のユリ科植物原料と同一である必要はない。
【0015】
前記飴色化したユリ科植物原料は、前記第2のユリ科植物原料を常法により加熱して調製することができるが、例えば、前記第2のユリ科植物及び第2の油脂の混合物を加熱することにより調製してもよい。すなわち、前記飴色化したユリ科植物原料は、第2のユリ科植物原料及び第2の油脂を含み得る。前記第2の油脂としては、前記第1の油脂と同じものを特に制限されることなく採用することができるが、前記第2の油脂は、必ずしも前記第1の油脂と同一である必要はない。
【0016】
前記第2のユリ科植物原料を加熱して飴色化させる条件は、特に制限されないが、例えば、当該第2のユリ科植物原料及び前記第2の油脂を混合し、その水分量が5質量%以上の状態で約90~約130℃で約20分以上加熱して、前記飴色化したユリ科植物原料を調製してもよい。また、前記第2のユリ科植物原料及び前記第2の油脂の混合比率は、前記飴色化したユリ科植物原料を調製することができる限り特に制限されないが、例えば、前記第2のユリ科植物原料に対する前記第2の油脂の質量比は、約1:9~約15:1であってもよく、好ましくは約2:5~約5:1である。なお、水分量は、当技術分野で通常採用される方法で測定することができるが、例えば、常圧加熱乾燥法(乾燥温度:105℃、乾燥時間:16時間)によって測定することができる。
【0017】
ある態様では、前記飴色化したユリ科植物原料を調製する際は、単糖と一緒に加熱してもよい。単糖と一緒に加熱することにより飴色化が促進され、より短い時間で飴色化オニオンを調製することが可能となる。前記単糖の配合量は、特に限定されないが、例えば、前記第2のユリ科植物原料及び前記第2の油脂を含む混合物の全質量に対して約4質量%以上であってもよい。
【0018】
前記飴色化したユリ科植物原料を添加するタイミングは、特に制限されず、本発明のルウの製造方法のどの段階で添加してもよい。例えば、前記飴色化したユリ科植物原料は、前記ルウ原料混合物又は前記溶融状のルウに添加してもいいし、前記飴色化したユリ科植物原料を含む前記加熱処理混合物を用意してもよい。後者の場合、前記加熱処理混合物を調製する際に前記飴色化オニオンを添加してもよいが、前記澱粉質原料及び前記第1の油脂に加えて未加熱のオニオン原料を混合し、当該混合物を加熱する過程で当該ユリ科植物原料から飴色化したユリ科植物原料を生じさせてもよい。また、前記飴色化したユリ科植物原料の配合量は、特に限定されないが、例えば、前記第2のユリ科植物原料の配合量が、前記ルウの全質量に対して、約0.1~約10質量%となるような量であってもよく、好ましくは約0.3~約3質量%となるような量である。
【0019】
本明細書に記載の「大豆粉」とは、大豆を粉末化した食品原料である。前記大豆粉としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく使用できるが、例えば、前記大豆粉は、脱脂大豆粉及び/又は全脂大豆粉などを含んでもよい。前記大豆粉の配合量は、特に限定されないが、例えば、前記ルウの全質量に対して、約0.01質量%以上であってもよく、好ましくは約0.1質量%以上、より好ましくは約0.3~約5質量%である。
【0020】
前記大豆粉を配合すると前記ルウ原料混合物及び前記溶融状のルウの流動性を高めることができるが、先味から後味にかけてえぐみが生じ、ルウの風味が損なわれることがある。前記第1のユリ科植物原料は、先味から中味にかけての大豆粉由来のえぐみを抑制することができ、前記飴色化されたユリ科植物原料は、中味から後味にかけての大豆粉由来のえぐみを抑制することができる。本発明のルウの製造方法においては、前記第1のユリ科植物原料及び前記飴色化されたユリ科植物原料の両方を使用することによって、先味から後味までの全体にわたって大豆粉由来のえぐみを抑制することができるだけでなく、その抑制の程度も、いずれかのユリ科植物原料を単独で使用したときと比較して顕著に向上しており、相乗的にえぐみが抑制されている。なお、飲食品を口に入れたときに最初に感じる味を先味、それに続いて感じる味を中味、その後の口中に残る味を後味という。
【0021】
ある態様では、本発明のルウの製造方法は、前記ルウ原料混合物又は前記溶融状のルウに水系原料を添加し、それを約100℃以上で加熱撹拌する工程をさらに含む。前記水系原料は、ある程度の水分を含有する食品原料のことをいい、固体、液状、又はペースト状であり得る。前記水系原料の水分量は、特に限定されないが、例えば、当該水系原料の全質量に対して約10質量%以上であってもよい。前記水系原料は、前記ルウを製造することができる限り特に限定されないが、例えば、果実(リンゴ、バナナ、チャツネなど)のペースト又はエキス、畜肉(ビーフ、チキン、ポークなど)のペースト又はエキス、野菜(オニオン、ガーリックなど)のペースト又はエキス、チーズ及び生クリームなどからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0022】
前記ルウ原料混合物及び前記溶融状のルウは水分量の低い油系の組成物であり、そこに水分が混入すると、高温加熱時に当該組成物が硬化して撹拌が困難になることがある。前記水系原料を添加すると、前記ルウ原料混合物及び前記溶融状のルウの硬化のリスクが高まるが、そのような不利な条件下であっても、本発明のルウの製造方法においては前記大豆粉を使用しているため、前記ルウ原料混合物及び前記溶融状のルウを硬化させずに撹拌し続けることができ、原料全体を均一に加熱することができる。
【0023】
本発明のルウの製造方法は、ルウの製造において通常採用され得る工程、例えば、前記溶融状のルウを冷却する工程、容器に充填する工程、及び/又は固化させる工程などをさらに含んでもよい。また、本発明のルウの製造方法は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料又は任意の添加剤を添加する工程などをさらに含んでもよく、前記大豆粉のえぐみの抑制又はマスキングに有効な他の添加剤を添加する工程さらに含んでもよい。前記任意の食品原料及び/又は前記任意の添加剤は、特に限定されないが、例えば、粉体原料(デキストリンを含む)、香辛料、調味料、乳化剤、増粘剤、酸化防止剤(ビタミンC、及びビタミンEなど)、香料、甘味料、着色料、又は、酸味料などを含んでもよい。
【0024】
別の態様では、本発明は、前記澱粉質原料と、前記第1の油脂と、前記大豆粉と、前記第1のユリ科植物原料と、前記飴色化したユリ科植物原料とを含むルウ又はソースにも関している。本発明のルウを用いて調製されるソース及び本発明のソースにおいては、前記大豆粉が含まれているにもかかわらず、前記第1のユリ科植物原料及び前記飴色化したユリ科植物原料が併せて含まれているため、前記大豆粉由来のえぐみは、これらユリ科植物原料の組合せを含まないルウ及びソースと比較して顕著に抑制されている。
【0025】
本発明のルウ又はソースは、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される前記任意の食品原料及び/又は前記任意の添加剤などをさらに含んでもよい。また、本発明のルウを用いて調製されるソース及び本発明のソースの種類は、特に限定されないが、例えば、カレー、シチュー、ハヤシライスソース、ハッシュドビーフ、チャウダー、パスタなどの麺用ソース、スープ、肉野菜炒め及び回鍋肉などの炒めもの料理用ソース、及びその他各種ソースであってもよい。
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0027】
〔製造例〕
小麦粉25質量部及び食用油脂25質量部を加熱釜に投入して加熱撹拌し、常法により小麦粉ルウを作製した。この小麦粉ルウを、後掲の表1に記載の残りの原料(残りの油脂を含む)と混合しルウ原料混合物(常圧加熱乾燥法で測定した水分量:4質量%、原料の規格値及び文献値から計算した単糖の含有量:3質量%)を得た。当該ルウ原料混合物を、105℃に達するまで加熱して、溶融状のルウを作製した。この溶融状のルウを冷却して容器に充填し、更に冷却して固化することによって、実施例1及び2並びに比較例1~4のブロック状の固形ルウを作製した。なお、オニオンパウダー及びガーリックパウダーは飴色化されていない未加熱の食品原料であるが、ローストオニオンパウダー及びローストガーリックパウダーは、予め加熱されて飴色化されている食品原料である。
【0028】
【表1】
*1 オニオン及び油脂を1:1の割合で混合した混合物(水分量:7質量%、単糖の含有量:10質量%)を、120℃で30分間加熱して調製したもの(原料規格に基づく)
*2 ガーリック及び油脂を7:1の割合で混合した混合物(水分量:6質量%、単糖の含有量:4質量%)を、90℃で25分間加熱して調製したもの(原料規格に基づく)
【0029】
〔試験例〕
実施例1若しくは2又は比較例1~4のルウ50質量部を、300質量部の湯と一緒に加熱釜に投入し、沸騰させて、カレーソースを作製した。作製したソースにおける脱脂大豆由来のえぐみを、脱脂大豆を含むがユリ科植物原料を含まない対照のルウから作製したカレーソースを基準として4名のパネラーが評価した。
【0030】
対照のルウを使用して作製したカレーソースにおいては、脱脂大豆に由来するえぐみが先味から後味にかけて感じられたが、オニオンパウダー及びローストオニオンパウダーを含むルウ(実施例1)又はガーリックパウダー及びローストガーリックパウダーを含むルウ(実施例2)を使用してカレーソースを作製すると、そのようなえぐみは感じられなかった。一方、飴色化されていないオニオンパウダー又はガーリックパウダーだけを含むルウ(比較例1及び3)を使用してカレーソースを作製すると、先味のえぐみは低減されたものの、後味には依然としてえぐみが残っていた。また、飴色化されているローストオニオンパウダー又はローストガーリックパウダーだけを含むルウ(比較例2及び4)を使用してカレーソースを作製すると、後味のえぐみは低減されたものの、先味には依然としてえぐみが残っていた。
【0031】
〔参考例〕
オニオンパウダー及びローストオニオンパウダーに代えてトマトパウダー(ナス科植物原料)及び加熱処理したトマトパウダーを使用した以外は実施例1と同様にして、参考例の固形ルウを作製した。この参考例の固形ルウを使用した以外は上記試験例と同様にしてカレーソースを作製し、脱脂大豆に由来するえぐみを評価した。その結果、対照のルウから作製したカレーソースと同様に、脱脂大豆に由来するえぐみが前味から後味にかけて感じられた。したがって、上記試験例で確認された脱脂大豆に由来するえぐみの抑制効果は、ユリ科植物原料に特異的な効果であると考えられる。なお、トマトパウダーだけを含む固形ルウから作製したカレーソースにおいても脱脂大豆に由来するえぐみが前味から後味にかけて感じられた。加熱処理したトマトパウダーだけを含む固形ルウから作製したカレーソースにおいては、前味のえぐみは低減されたものの、後味のえぐみは依然として残っていた。
【0032】
以上より、第1のユリ科植物原料及び第2のユリ科植物原料に由来する飴色化したユリ科植物原料を組み合わせてルウに配合することにより、大豆粉由来のえぐみを抑制できることが分かった。したがって、大豆粉を含むルウにおいても、その風味を良好に保つことが可能となる。
前記第2のユリ科植物原料及び第2の油脂を含み、かつ水分量が5質量%以上である油脂混合物を用意する工程と、前記油脂混合物を、90~130℃で20分以上加熱して、前記飴色化したユリ科植物原料を得る工程と、をさらに含む、請求項1に記載のルウの製造方法。