IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特開2022-157172リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
<>
  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池 図1
  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池 図2
  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157172
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20221006BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20221006BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061253
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野添 勉
(72)【発明者】
【氏名】中野 豊将
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB12
5H050HA04
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池用正極、並びに、このリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、鉄イオンの四極子分裂の高エネルギー側のピークの強度が、鉄イオンの四極子分裂の低エネルギー側のピークの強度よりも大きい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、
鉄イオンの四極子分裂の高エネルギー側のピークの強度が、鉄イオンの四極子分裂の低エネルギー側のピークの強度よりも大きい、リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
電極活物質粒子の表面に炭素質被膜が形成された一次粒子と、該一次粒子が複数個集合した凝集粒子と、を含み、
レーザー式回折粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が0.3μm以上5.0μm以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記一次粒子が、平均粒子径が50nm以上500nm以下のオリビン構造を有する、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
前記炭素質被膜の厚さが0.5nm以上10nm以下である、請求項2または3に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項5】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層は、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有する、リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、
正極として、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えた、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
オリビン系正極活物質は、結晶内のリチウムイオンが一次元方向のみに拡散するため、オリビン系正極活物質を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池は、大電流を瞬間的に流した際にリチウムイオンの拡散が追い付かず、過電圧(電圧降下)が高くなるという課題があった。
【0003】
従来、3価のFeの含有量が極めて少なくするように、リン酸鉄リチウム(LiFePO)またはリン酸マンガン鉄リチウム(LiMn1-xFePO)からなるオリビン系正極活物質を合成することにより、オリビン系正極活物質を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池の高容量化が可能であることが知られている。特許文献1では、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、異性体シフト値を規定することにより、意図的に少量の3価のFeを結晶内に固溶させて、結晶内に欠陥を生成し、結晶内においてリチウムイオンが二次元方向または三次元方向に拡散することが可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6477948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リチウムイオン二次電池を使用するにあたり、耐久性の指標となるサイクル特性に関して、さらなる性能の向上が求められていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池用正極、並びに、このリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、リチウムイオン二次電池用正極材料をメスバウアー分光法により分析して得られるメスバウアースペクトルにおいて、鉄イオンの四極子分裂の高エネルギー側のピークの強度が、鉄イオンの四極子分裂の低エネルギー側のピークの強度よりも大きくなるように、リチウムイオン二次電池用正極材料を作製することにより、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、鉄イオンの四極子分裂の高エネルギー側のピークの強度が、鉄イオンの四極子分裂の低エネルギー側のピークの強度よりも大きい、リチウムイオン二次電池用正極材料。
[2]電極活物質粒子の表面に炭素質被膜が形成された一次粒子と、該一次粒子が複数個集合した凝集粒子と、を含み、レーザー式回折粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が0.3μm以上5.0μm以下である、[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[3]前記一次粒子が、平均粒子径が50nm以上500nm以下のオリビン構造を有する、[2]に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[4]前記炭素質被膜の厚さが0.5nm以上10nm以下である、[2]または[3]に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[5]電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、前記正極合剤層は、[1]~[4]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有する、リチウムイオン二次電池用正極。
[6]正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、正極として、[5]に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えた、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池用正極、並びに、このリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】メスバウアースペクトルにおいて、スペクトルが2本に分裂している状態を示す図である。
図2】実施例1の正極材料のメスバウアースペクトルを示す図である。
図3】比較例1の正極材料のメスバウアースペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
[リチウムイオン二次電池用正極材料]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、鉄イオンの四極子分裂の高エネルギー側のピークの強度が、鉄イオンの四極子分裂の低エネルギー側のピークの強度よりも大きい。
【0013】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、鉄イオンの四極子分裂の低エネルギー側のピークの強度(以下、「ピーク強度A」ということもある。)に対する、鉄イオンの四極子分裂の高エネルギー側のピークの強度(以下、「ピーク強度B」ということもある。)の比(ピーク強度B/ピーク強度A)が、1.02以上であることが好ましく、1.04以上であることがより好ましい。前記の比(ピーク強度B/ピーク強度A)の上限値は、1.1以下であってもよく、1.08以下であってもよい。
前記の比(ピーク強度B/ピーク強度A)が、1/02以上であると、充放電時の容量の低下が抑えられる。
【0014】
メスバウアー分光分析は、固体中の放射性同位元素(線源)として組み込まれたメスバウアー核(57Co→57Feの壊変過程で励起基準にある57Fe)から放出されるγ線が、もう1つの固体(試料)中での基底状態にある同種のメスバウアー核によって反跳せずに共鳴吸収されるときに、その吸収量あるいは吸収後に放出される散乱量のエネルギー依存性(メスバウアースペクトル)を調べることにより行われる。
【0015】
本実施形態では、このメスバウアー分光分析により得られたスペクトルがローレンツ型の理論線型式で近似できるものとし、成分毎のピーク半値幅は全て等しく、対称位置にあるピーク高さはそれぞれで等しく、スペクトルが理論線型の足し合わせであるとの仮定の元、カーブフィッティングを行い、ピーク位置を定め、各成分の面積強度を求める。理論線型式には下記の式(1)に示す式を用いる。
【0016】
【数1】
【0017】
上記の式(1)において、f(E)はドップラー速度Eにおけるカウント、Eはドップラー速度(エネルギーに1次で比例)、Bはベースラインのカウント、Iはi番目のピークの吸収強度、Γはi番目のピークの半値幅、x0iはi番目のピーク中心、δは異性体シフト、Δは四極分裂、Hは内部磁場を示す。
また、最小二乗法にて残差の二乗和が最小となるときの各成分の相対面積比をスペクトルの面積強度とする。
【0018】
本実施形態では、メスバウアー分光法により得られるスペクトルにおいて、そのFeが常磁性(内部磁場H=0)である場合は2本に分裂したピークとして得られ、そのFeが強磁性もしくは反強磁性(内部磁場H≠0)である場合は6本に分裂したピークとして得られ、2本もしくは6本以外のピークとしては観測されない。
【0019】
なお、メスバウアースペクトルにおいて、スペクトルが2本に分裂しているとは、図1に示すような状態のことである。
【0020】
また、メスバウアースペクトルにおける四極分裂値とは、2本に分裂したピーク間隔である。一般的には、構造的に等方的でも電気陰性度の異なる配位子が配位している場合、構造的に配置が歪んでいる場合、および、これらの混合の場合に2本に分裂すると考えられている。
【0021】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、電極活物質粒子の表面に炭素質被膜が形成された一次粒子と、その一次粒子が複数個集合した凝集粒子(二次粒子)と、を含むことが好ましい。
【0022】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料では、レーザー式回折粒度分布測定装置で測定された平均粒子径が0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましく、0.4μm以上4.0μm以下であることがより好ましく、0.45μm以上3.5μm以下であることがさらに好ましい。前記平均粒子径が前記下限値以上であると、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストをアルミニウム集電体に塗工、乾燥した正極合材層の構造を均一化することができ、充放電反応に伴う局所的な過電圧が抑制され、金属溶出量を低減することができる。前記平均粒子径が前記上限値以下であると、正極材料を密に詰め込むことが可能となり、正極の単位体積当たりのエネルギー密度が向上する。
なお、ここでいう平均粒子径とは、電極活物質粒子の表面に炭素質被膜が形成された一次粒子、およびその一次粒子が複数個集合した凝集粒子の平均粒子径のことである。
【0023】
一次粒子の平均粒子径は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子を任意に100個選択し、その一次粒子の平均した粒子径から算出する。
【0024】
上記一次粒子は、平均粒子径が50nm以上500nm以下のオリビン構造を有することが好ましい。すなわち、上記一次粒子を構成する電極活物質粒子はオリビン構造を有し、上記一次粒子は、平均粒子径が50nm以上500nm以下であることが好ましい。
一次粒子の平均粒子径は、60nm以上400nm以下であることがより好ましく、80nm以上250nm以下であることがさらに好ましい。
ここで、炭素質被膜によって被覆されたオリビン構造を有する電極活物質粒子を含む一次粒子の平均一次粒子径を上記の範囲とした理由は、次の通りである。平均一次粒子径が50nm未満では、一次粒子の比表面積が増えることで必要になる炭素の質量が増加し、充放電容量が低減する。さらに、炭素被覆が困難となり、充分な被覆率の一次粒子を得ることができず、特に低温や高速充放電において良好な質量エネルギー密度が得られない。一方、平均一次粒子径が500nmを超えると、一次粒子内でのリチウムイオンの移動または電子の移動に時間がかかり、よって、内部抵抗が増加し、出力特性が悪化するので好ましくない。
【0025】
上記二次粒子の形状は特に限定されないが、球状、特に真球状の粒子からなる正極材料を生成し易いことから、その形状も球状であることが好ましい。
ここで、球状が好ましい理由は、次の通りである。炭素質被膜で被覆されている、二次粒子と、結着剤と、溶媒とを混合して、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができる。さらに、このリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストの電極集電体への塗工も容易となる。また、形状が球状であれば、二次粒子の表面積が最小となり、ひいては、添加する結着剤の混合量を最小限にすることができ、得られる正極の内部抵抗を小さくすることができる。
さらに、二次粒子の形状を球状、特に真球状とすることで最密充填し易くなる。これにより、単位体積当たりのリチウムイオン二次電池用正極材料の充填量が多くなり、その結果、電極密度を高くすることができ、リチウムイオン二次電池の高容量化を図ることができるので好ましい。
【0026】
上記一次粒子における炭素質被膜の厚みは、0.5nm以上かつ10nm以下であることが好ましく、炭素質被膜の厚みは、0.5nm以上かつ5.5nm以下であることがより好ましい。
炭素質被膜の厚みを上記の範囲とした理由は、次の通りである。炭素質被膜の厚みが0.5nm未満であると、炭素質被膜の厚みが薄すぎるために所望の抵抗値を有する膜を形成することができなくなる。その結果、導電性が低下し、正極材料としての導電性を確保することができなくなる。一方、炭素質被膜の厚みが10nmを超えると、電池活性、例えば、正極材料の単位質量当たりの電池容量が低下する。
【0027】
上記一次粒子における炭素質被膜の被覆率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることにより、炭素質被膜の被覆効果が充分に得られる。
【0028】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積に対する炭素担持量([炭素担持量]/[比表面積])は、0.5mg/m以上かつ2.0mg/m以下であることが好ましく、0.7mg/m以上かつ1.6mg/m以下であることがより好ましい。
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料における比表面積に対する炭素担持量を上記の範囲に限定した理由は、次の通りである。比表面積に対する炭素担持量が0.5mg/m未満では、リチウムイオン二次電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することが困難となる。一方、比表面積に対する炭素担持量が2.0mg/mを超えると、炭素量が多すぎて、一次粒子の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が必要以上に低下する。
【0029】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積は、5.0m/g以上かつ20m/g以下であることが好ましく、5.5m/g以上かつ18m/g以下であることがより好ましく、6.0m/g以上かつ16m/g以下であることがさらに好ましい。
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積を上記の範囲に限定した理由は、次の通りである。比表面積が5.0m/g未満では、結晶内でのリチウムイオンの移動または電子の移動に時間がかかり、よって、内部抵抗が増加し、出力特性が悪化するので好ましくない。一方、比表面積が20m/gを超えると、炭素質電極活物質複合粒子の比表面積が増えることで必要になる炭素の質量が増加し、充放電容量が低減する。さらに、炭素被覆が困難となり、充分な被覆率の一次粒子を得ることができず、特に低温や高速充放電において良好な質量エネルギー密度が得られないため好ましくない。
【0030】
「電極活物質粒子」
オリビン構造を有する電極活物質粒子は、特に限定されないが、例えば、Li拡散に好適な結晶構造を有するLiFe1-y-zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、V、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)からなることが好ましい。
【0031】
LiFe1-y-zPOにおいて、xが、0.85≦x≦1.1を満たすこととした理由は、次の通りである。xが0.85未満であると、負極にリチウムイオンを含まない活物質を用いた場合、電池内のリチウムイオン量が少なくなり、電池容量が低下するので好ましくない。一方、xが1.1を超えると、オリビン構造を保つことができず結晶安定性が低下するので好ましくない。
【0032】
LiFe1-y-zPOにおいて、yが、0≦y≦0.85を満たすこととした理由は、次の通りである。yが0.85を超えると、Feの比率が小さくなり過ぎるため、結晶内のリチウムイオン拡散速度や電子伝導速度が低下し、入出力特性が低下するため好ましくない。
【0033】
LiFe1-y-zPOにおいて、zが、0≦z≦0.2を満たすこととした理由は、次の通りである。zが0.2を超えると、電気化学的に不活性な金属比率が大きくなるので、正極材料の単位質量当たりの電池容量が低下するので好ましくない。
【0034】
本実施形態におけるLiFe1-y-zPOは、y=0かつz=0であるものが好ましい。すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料において、電極活物質粒子はLiFePOからなることが好ましい。
電極活物質粒子がLiFePOからなることにより、結晶内のリチウムイオン拡散速度や電子伝導速度が向上し、入出力特性が向上する。
【0035】
「炭素質被膜」
炭素質被膜は、原料となる有機化合物が炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。炭素質被膜の原料となる炭素源は、炭素の純度が42.00%以上かつ60.00%以下の有機化合物由来であることが好ましい。
【0036】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料における炭素質被膜の原料となる炭素源の「炭素の純度」の算出方法としては、複数種類の有機化合物を用いる場合、各有機化合物の配合量(質量%)と既知の炭素の純度(%)から、各有機化合物の配合量中の炭素量(質量%)を算出、合算し、その有機化合物の総配合量(質量%)と総炭素量(質量%)から、下記の式(2)に従って算出する方法が用いられる。
炭素の純度(%)=総炭素量(質量%)/総配合量(質量%)×100・・・(2)
【0037】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、鉄イオンの四極子分裂の高エネルギー側のピークの強度が、鉄イオンの四極子分裂の低エネルギー側のピークの強度よりも大きいため、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0038】
[リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法は、特に限定されないが、例えば、電極活物質粒子がLiFe1-y-zPOからなる場合、Li源、Fe源、A源、M源およびP源を、水を主成分とする溶媒と混合して得られた原料スラリーαを、100℃以上かつ300℃以下の範囲の温度に加熱することで、加圧下にて、LiFe1-y-zPO粒子を合成する工程と、炭素源を含む水溶媒中にLiFe1-y-zPO粒子を分散させてなる原料スラリーβを乾燥して、造粒した後、500℃以上かつ1000℃以下の範囲の温度に加熱することで、LiFe1-y-zPO粒子の表面を炭素質被膜によって被覆する工程と、を有する方法が挙げられる。
【0039】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料が、メスバウアー分光法により得られるメスバウアースペクトルにおいて、鉄イオンの四極子分裂の高エネルギー側のピークの強度が、鉄イオンの四極子分裂の低エネルギー側のピークの強度よりも大きくなるように調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、水熱合成において、核粒子となる前駆体粒子合成する第1工程と第1工程で得られた前駆体粒子を材料に用い、再度水熱合成を行い、粒成長を促進させることで目的の粒子を形成することができる。
【0040】
LiFe1-y-zPO粒子の合成方法は特に限定されないが、例えば、Li源、Fe源、A(Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種)源、M(Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)源およびP源を、水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌してLiFe1-y-zPOの前駆体を含む原料スラリーαを調製する。
【0041】
これらLi源、Fe源、A源、M源およびP源を、これらのモル比(Li源:Fe源:A源:M源:P源)、すなわち、Li:Fe:A:M:Pのモル比が0.85~5:0.1~2:0~2:0~2:1~2となるように水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌・混合して原料スラリーαを調製する。
これらLi源、Fe源、A源、M源およびP源は、均一に混合する点を考慮すると、Li源、Fe源、A源、M源およびP源をそれぞれ、一旦、水溶液の状態とした後、混合することが好ましい。
この原料スラリーαにおけるLi源、Fe源、A源、M源およびP源のモル濃度は、高純度であり、結晶性が高くかつ非常に微細なLiFe1-y-zPO粒子を得る必要があることから、0.1mol/L以上かつ3mol/L以下であることが好ましい。
【0042】
Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物、炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩、および、これらの水和物が挙げられる。Li源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
なお、リン酸リチウム(LiPO)は、Li源およびP源としても用いることができる。
【0043】
Fe源としては、例えば、2価Fe化合物としては塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))等の鉄化合物またはその水和物等が用いられ、3価Fe化合物としてはリン酸鉄リチウム(III)(FePO)、硝酸鉄(III)(Fe(NO)、塩化鉄(III)(FeCl)、クエン酸鉄(III)(FeC)等の鉄化合物またはその水和物等が用いられる。2価Fe化合物のみFe源としてもよいし、3価Fe化合物のみをFe源としてもよいし、2価Fe化合物と3価Fe化合物を共にFe源としてもよい。2価Fe化合物と3価Fe化合物を共にFe源とすれば、結晶内に3価のFeを固溶させやすくなるので好ましい。
【0044】
Mn源としては、Mn塩が好ましく、例えば、塩化マンガン(II)(MnCl)、硫酸マンガン(II)(MnSO)、硝酸マンガン(II)(Mn(NO)、酢酸マンガン(II)(Mn(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Mn源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0045】
Co源としては、Co塩が好ましく、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)、酢酸コバルト(II)(Co(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Co源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0046】
Ni源としては、Ni塩が好ましく、例えば、塩化ニッケル(II)(NiCl)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))および、これらの水和物が挙げられる。Ni源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0047】
Mg源としては、Mg塩が好ましく、例えば、塩化マグネシウム(II)(MgCl)、硫酸マグネシウム(II)(MgSO)、硝酸マグネシウム(II)(Mg(NO)、酢酸マグネシウム(II)(Mg(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Mg源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0048】
Ca源としては、Ca塩が好ましく、例えば、塩化カルシウム(II)(CaCl)、硫酸カルシウム(II)(CaSO)、硝酸カルシウム(II)(Ca(NO)、酢酸カルシウム(II)(Ca(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0049】
Co源としては、Co塩が好ましく、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)、酢酸コバルト(II)(Co(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Co源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0050】
Sr源としては、Sr塩が好ましく、例えば、炭酸ストロンチウム(SrCo)、硫酸ストロンチウム(SrSO)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0051】
Ba源としては、Ba塩が好ましく、例えば、塩化バリウム(II)(BaCl)、硫酸バリウム(II)(BaSO)、硝酸バリウム(II)(Ba(NO)、酢酸バリウム(II)(Ba(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0052】
Ti源としては、Ti塩が好ましく、例えば、塩化チタン(TiCl、TiCl、TiCl)、酸化チタン(TiO)、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0053】
Zn源としては、Zn塩が好ましく、例えば、塩化亜鉛(II)(ZnCl)、硫酸亜鉛(II)(ZnSO)、硝酸亜鉛(II)(Zn(NO)、酢酸亜鉛(II)(Zn(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられる。Zn源としては、これらの群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0054】
B源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等のホウ素化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0055】
Al源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物等のアルミニウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0056】
Ga源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物等のガリウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0057】
In源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物等のインジウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0058】
Si源としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、四塩化珪素(SiCl)、ケイ酸塩、有機ケイ素化合物等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0059】
Ge源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等のゲルマニウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0060】
希土類元素源としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0061】
P源としては、例えば、オルトリン酸(HPO)、メタリン酸(HPO)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸アンモニウム((NHPO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリン酸塩、および、これらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0062】
水を主成分とする溶媒とは、水単独、あるいは、水を主成分とし、必要に応じてアルコール等の水性溶媒を含む水系溶媒、のいずれかである。
水性溶媒としては、Li源、Fe源、A源、M源およびP源を溶解させることのできる溶媒であれば、特に制限されない。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの水性溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
次いで、この原料スラリーαを耐圧容器に入れ、100℃以上かつ300℃以下、好ましくは100℃以上かつ250℃以下の範囲の温度に加熱し、1時間以上かつ72時間以下、水熱処理を行い、LiFe1-y-zPO粒子を得る。
この場合、水熱処理時の温度および時間を調整することにより、LiFe1-y-zPO粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0064】
次いで、炭素源を含む水溶媒中に、LiFe1-y-zPO粒子を分散させて、原料スラリーβを調製する。
次いで、この原料スラリーβを、乾燥して、造粒した後、500℃以上かつ1000℃以下、好ましくは500℃以上かつ800℃以下の範囲の温度にて、1時間以上かつ100時間以下加熱し、LiFe1-y-zPO粒子の表面を炭素質被膜によって被覆し、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を得る。ここで、500℃未満の温度で加熱した場合、炭素質被膜の炭化が不十分となり、導電性が著しく低下するので好ましくない。一方、1000℃を超える温度で加熱した場合、リチウムが一部揮発し、電池容量が低下するので好ましくない。
【0065】
「炭素源」
炭素源としては、電極活物質粒子の表面に炭素質被膜を形成することができる有機化合物であれば特に限定されない。
有機化合物としては、水への溶解性もしくは水への分散性を有する化合物が好ましい。
例えば、サリチル酸、カテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシベンゼン、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、フェニルアラニン、水分散型フェノール樹脂等、スクロース、グルコース、ラクトース等の糖類、リンゴ酸、クエン酸などのカルボン酸、アリルアルコール、プロパルギルアルコール等の不飽和一価アルコール、アスコルビン酸、ポリビニルアルコール等が挙げられ、1種類または2種類以上を混合して炭素の純度を42.00%以上として使用することができる。
【0066】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法において、炭素源の添加量(添加率)は、電極活物質粒子と炭素源の合計質量を100質量%とした場合に、0.5質量%以上かつ15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上かつ10質量%以下がより好ましい。
【0067】
炭素源の添加量が0.5質量%未満であると、リチウムイオン二次電池用正極材料における混合安定性が低下するため好ましくない。一方、炭素源の添加量が15質量%を超えると、相対的に正極活物質の含有量が少なくなり、電池特性が低下するため好ましくない。
【0068】
また、炭素源として、複数種類の有機化合物を用いる場合、その有機化合物の炭素の純度が42.00%以上かつ60.00%以下となるように、上述のように、各有機化合物の配合量を調整する。
【0069】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、その電極集電体上に形成された正極合剤層(正極)と、を備え、正極合剤層が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するものである。
すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されてなるものである。
【0070】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合してなる、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する。
【0071】
「結着剤」
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
【0072】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける結着剤の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上かつ6質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素の群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0074】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける導電助剤の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上かつ10質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
「溶媒」
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を含むリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストでは、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くするために、溶媒を適宜添加してもよい。
電極形成用塗料または電極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0076】
リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量部とした場合に、60質量部以上かつ400質量部以下であることが好ましく、80質量部以上かつ300質量部以下であることがより好ましい。
上記の範囲で溶媒が含有されることにより、電極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを得ることができる。
【0077】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等の混錬機を用いた方法が挙げられる。
【0078】
次いで、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、この塗膜を乾燥し、次いで、加圧圧着することにより、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されたリチウムイオン二次電池用正極を得ることができる。
【0079】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極によれば、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有しているため、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0080】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備えてなる。
【0081】
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極、電解液、セパレータ等は特に限定されない。
負極としては、例えば、金属Li、炭素材料、Li合金、LiTi12等の負極材料を用いることができる。
また、電解液とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0082】
電解液は、例えば、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、例えば、濃度1モル/dmとなるように溶解することで作製することができる。
セパレータとしては、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
【0083】
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を備えるため、サイクル特性に優れる。
【実施例0084】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0085】
〔リチウムイオン二次電池用正極材料の製造〕
[実施例1]
Li源としてLiOH、P源としてNHPO、Fe源としてFeSO・7HOを用い、これらを物質量比でLi:Fe:P=3:1:1となるように純水に混合して、200mLの均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に入れ、170℃にて2時間、水熱合成を行った。この反応後に、室温(25℃)になるまで冷却して、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。この反応生成物を蒸留水で複数回、十分に水洗し、乾燥しないように含水率を30%に保持して、前駆物質とした。
さらに、再度、上記と同様に、スラリー状の混合物を200mL調製した。そのスラリー状の混合物に前駆物質を2g添加し、容量500mLの耐圧密閉容器に入れ、170℃にて12時間、2回目の水熱合成を行った。この反応後に、室温(25℃)になるまで冷却して、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。この反応生成物を蒸留水で複数回、十分に水洗し、乾燥しないように含水率を30%に保持して、ケーキ状物質とした。ケーキ状物質を若干量採取し、70℃にて2時間真空乾燥させて、得られた粉末をX線回折で測定したところ、単相のLiFePOが形成されていることが確認された。
得られたケーキ状LiFePO(電極活物質)20gと、炭素源としてポリビニルアルコール0.73gとを、総量が100gとなるように水と混合し、直径0.1mmのジルコニアビーズ150gとともに、ビーズミルを行い、分散粒径(d50)が100nmとなるスラリー(混合物)を得た。
その後、スプレードライヤーを用いて、乾燥出口温度が60℃となる温度で乾燥、造粒し、造粒粉を得た。
得られた造粒粉を窒素雰囲気のロータリーキルンを用いて、700℃にて1時間、熱処理を行い、炭素質被覆された造粒体(以下、「炭素質被覆造粒体」と言う。)を得た。
得られた炭素質被覆造粒体を、ジェットミル装置(商品名:SJ-100、日清エンジニアリング社製)を用いて、供給速度180g/時間の条件で解砕し、炭素質被覆された電極活物質(以下、「炭素質被覆電極活物質」と言う。)を含む正極材料を得た。
【0086】
[実施例2]
2回目の水熱合成時に添加する前駆物質の量を1gにしたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質被覆電極活物質を含む正極材料を得た。
【0087】
[実施例3]
2回目の水熱合成時に添加する前駆物質の量を4gにしたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質被覆電極活物質を含む正極材料を得た。
【0088】
[比較例1]
Li源としてLiOH、P源としてNHPO、Fe源としてFeSO・7HOを用い、これらを物質量比でLi:Fe:P=3:1:1となるように純水に混合して、200mLの均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に入れ、170℃にて12時間、水熱合成を行った。この反応後に、室温(25℃)になるまで冷却して、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。この反応生成物を蒸留水で複数回、十分に水洗し、乾燥しないように含水率を30%に保持して、ケーキ状物質とした。ケーキ状物質を若干量採取し、70℃にて2時間真空乾燥させて、得られた粉末をX線回折で測定したところ、単相のLiFePOが形成されていることが確認された。
得られたケーキ状LiFePO(電極活物質)20gと、炭素源としてポリビニルアルコール0.73gとを、総量が100gとなるように水と混合し、直径0.1mmのジルコニアビーズ150gとともに、ビーズミルを行い、分散粒径(d50)が100nmとなるスラリー(混合物)を得た。
その後、スプレードライヤーを用いて、乾燥出口温度が60℃となる温度で乾燥、造粒し、造粒粉を得た。
得られた造粒粉を窒素雰囲気のロータリーキルンを用いて、800℃にて1時間、熱処理を行い、炭素質被覆造粒体を得た。
得られた炭素質被覆造粒体を、ジェットミル装置(商品名:SJ-100、日清エンジニアリング社製)を用いて、供給速度180g/時間の条件で解砕し、炭素質被覆電極活物質を含む正極材料を得た。
【0089】
[比較例2]
熱処理温度を700℃にし、ジェットミル装置での解砕を実施しなかったこと以外は比較例1と同様にして、炭素質被覆電極活物質を含む正極材料を得た。
【0090】
[比較例3]
炭素源の添加量を2.5gにしたこと以外は比較例2と同様にして、炭素質被覆電極活物質を含む正極材料を得た。
【0091】
「評価」
実施例1~実施例3および比較例1~比較例3で得られた正極材料について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
〔リチウムイオン二次電池用正極材料の評価〕
(1)正極材料の粒度分布
正極材料を水に分散させ、分散液に含まれる正極材料の粒度分布を、粒度分布計(商品名:LA-920、株式会社堀場製作所製)を用い、JIS Z8825「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に準ずる方法で測定した。
【0093】
(2)一次粒子の平均粒子径の測定
電極活物質粒子と、電極活物質粒子の表面に形成された炭素質被膜とを含む一次粒子の平均粒子径を、走査型電子顕微鏡像(SEM)観察により測定した200個以上の一次粒子の粒子径を個数平均することで求めた。
【0094】
(3)炭素質被膜の厚さの測定
炭素質被膜の厚さを、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、30視野での各被覆炭素層の厚さを平均することで求めた。
【0095】
(4)メスバウアースペクトル測定
実施例1~実施例3および比較例1~比較例3の正極材料について、メスバウアー分光法によるメスバウアー分光分析を行った。メスバウアースペクトルを透過法により測定した。詳細を下記に示す。
測定方法:等加速モード、室温、常圧下
線源:57Co/Rh マトリクス、1.85[GBq]
速度軸検量の方法:純鉄箔の室温でのスペクトルの6本の磁気分裂ピークのうち、内側4本のピーク中心位置をX2、X3、X4、X5[channel]として、下記の式で求めた。
X0[channel]=(X2+X3+X4+X5)/4
Γ[channel]=20.422/{0.0835(X5-X2)+0.8385(X4-X3)}
このメスバウアー分光分析により得られたスペクトルがローレンツ型の理論線型式で近似できるものとし、数値計算ソフトを用いたフィッティングを行い、各ピークの強度を算出した。強度比は高エネルギー側のピーク強度/低エネルギー側のピーク強度として算出した。
図2に、実施例1の正極材料のメスバウアースペクトルを示す。図3に、比較例1の正極材料のメスバウアースペクトルを示す。
【0096】
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
実施例1~実施例3および比較例1~比較例3の正極材料を用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。
溶媒であるN-メチル-2-ピロリジノン(NMP)に、正極材料と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、ペースト中の質量比で、正極材料:AB:PVdF=90:5:5となるように加えて、これらを混合し、正極材料ペーストを調製した。
次いで、この正極材料ペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、塗膜が所定の密度となるように圧着して、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成し、アルミニウム箔と正極合剤層とを有する正極板を得た。
その後、正極板を、成形機を用いて正極面積が9cmの正方形の周りにタブしろを有する板状に打ち抜いた。さらに、タブしろにタブを溶接して試験電極(正極)を作製した。
【0097】
次いで、溶媒である純水に、負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのスチレンブタジエンラテックス(SBR)と、粘度調整材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、ペーストの質量比で、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1となるように加えて、これらを混合し、負極材料ペースト(負極用)を調製した。
調製した負極材料ペースト(負極用)を、厚さ10μmの銅箔(集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、銅箔表面に負極合剤層を形成し、銅箔と負極合剤層とを有する負極板を得た。
その後、負極板を、成形機を用いて負極面積9cmの正方形の周りにタブしろを有する板状に打ち抜いた。さらに、タブしろにタブを溶接して負極を作製した。
【0098】
作製した正極と負極とを、多孔質ポリプロピレンからなる厚さ25μmのセパレータを介して対向させ、非水電解液(非水電解質溶液)としての1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)溶液500mLに浸漬した後、ラミネートフィルムにて封止して、リチウムイオン二次電池を作製した。LiPF溶液としては、炭酸エチレンと、炭酸ジエチルとを、体積比で1:1となるように混合したものを用いた。
【0099】
〔リチウムイオン二次電池の評価〕
(1)容量維持率の測定
環境温度25℃にて、充電電流を2C、放電電流を2Cとして、定電流充放電により放電容量を測定し、測定された値を初期放電容量とした。
その後、環境温度を45℃に設定し、充電電流を2C、放電電流を2Cとして、定電流充放電を600回行い、その後、再度、環境温度を25℃にて、充電電流を2C、放電電流を2Cとして、定電流充放電により放電容量を測定し、サイクル後の放電容量を得た。
下記の式(3)に従って、サイクル試験による容量維持率を算出した。
サイクル試験容量維持率=サイクル後の放電容量/初期放電容量 (3)
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示す結果から、実施例1~実施例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、鉄イオンの四極子分裂の高エネルギー側のピークの強度が、鉄イオンの四極子分裂の低エネルギー側のピークの強度よりも大きいため、サイクル試験容量維持率が高く、サイクル特性に優れる。
一方、比較例1~比較例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、鉄イオンの四極子分裂の高エネルギー側のピークの強度と、鉄イオンの四極子分裂の低エネルギー側のピークの強度とが等しいため、サイクル試験容量維持率が低く、サイクル特性に劣る。なお、比較例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池と実施例2のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池とは、サイクル試験容量維持率が等しいが、比較例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は1サイクル目容量が低く、その点において、実施例2のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池よりも性能が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、リチウムイオン二次電池の正極として有用である。
図1
図2
図3