(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157315
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20221006BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221006BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20221006BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/136
C01B25/45 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061455
(22)【出願日】2021-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】忍足 暁
(72)【発明者】
【氏名】野添 勉
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】体積エネルギー密度及び充放電容量に優れたリチウムイオン二次電池が得られるリチウムイオン二次電池用正極材料及びリチウムイオン二次電池用正極並びにリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池の提供。
【解決手段】一般式LixAyDzPO4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、Cu及びCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、V、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc及びYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1である。)で表されるオリビン型リン酸塩系化合物と炭素とを含み、オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した凝集体を形成しており、凝集体は凝集体を中実とした場合の体積密度の70体積%以上85体積%以下の緻密な凝集体であるリチウムイオン二次電池用正極材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LixAyDzPO4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、V、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1である。)で表されるオリビン型リン酸塩系化合物と炭素とを含み、
前記オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した凝集体を形成しており、
前記凝集体は、凝集体を中実とした場合の体積密度の70体積%以上85体積%以下の緻密な凝集体である、リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
炭素量(c)が0.7質量%以上3.0質量%以下、
比表面積(a)が5m2/g以上35m2/g以下、
前記炭素量(c)を前記比表面積(a)で除した値(c/a)が0.08以上0.20以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
タップ密度が1.61g/cm3以上1.86g/cm3以下である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層は、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有する、リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、
正極として、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えた、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛電池、ニッケル水素電池よりもエネルギー密度、出力密度が高く、スマートフォン等の小型電子機器をはじめとして、家庭用バックアップ電源、電動工具等の様々な用途に利用されている。また、太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギー貯蔵用として、大容量のリチウムイオン二次電池の実用化が進んでいる。
リチウムイオン二次電池は、通常、正極、負極、電解液およびセパレータを備える。正極を構成する正極材料としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等のリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するリチウム含有金属酸化物からなる正極活物質が用いられる。リチウムイオン二次電池は、電池の高容量化、長寿命化、安全性の向上、低コスト化等の様々な観点から改良が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オリビン型リン酸塩系化合物を正極活物質として用いる場合、例えば、一次粒子を比表面積が5m2/g~35m2/g程度となるように微細化し、さらに、その一次粒子に炭素被覆を施すことで良好な特性を得る試みがなされてきた。しかし、このように一次粒子を微細化すると、一次粒子同士の間の空隙が増加して、タップ密度およびカーボンコート密度が低下する。その結果、オリビン型リン酸塩系化合物を含む正極の電子伝導性が低下し、その正極を備えたリチウムイオン二次電池の体積エネルギー密度や充放電容量が低下することがあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、体積エネルギー密度および充放電容量に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池用正極、並びに、このリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、オリビン型リン酸塩系化合物と炭素とを含み、オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した凝集体の体積密度を調整することにより、体積エネルギー密度および充放電容量に優れたリチウムイオン二次電池用正極材料となることを見出した。本発明は、係る知見に基づいて完成したものである。
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1]一般式LixAyDzPO4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、V、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1である。)で表されるオリビン型リン酸塩系化合物と炭素とを含み、前記オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した凝集体を形成しており、前記凝集体は、凝集体を中実とした場合の体積密度の70体積%以上85体積%以下の緻密な凝集体である、リチウムイオン二次電池用正極材料。
[2]炭素量(c)が0.7質量%以上3.0質量%以下、比表面積(a)が5m2/g以上35m2/g以下、前記炭素量(c)を前記比表面積(a)で除した値(c/a)が0.08以上0.20以下である、[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[3]タップ密度が1.61g/cm3以上1.86g/cm3以下である、[1]または[2]に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[4]電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、前記正極合剤層は、[1]~[3]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有する、リチウムイオン二次電池用正極。
[5]正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、正極として、[4]に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えた、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、体積エネルギー密度および充放電容量に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池用正極、並びに、このリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1におけるリチウムイオン二次電池用正極材料の透過型電子顕微鏡像である。
【
図2】比較例2におけるリチウムイオン二次電池用正極材料の透過型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0011】
[リチウムイオン二次電池用正極材料]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料(以下、単に「正極材料」とも言う。)は、一般式LixAyDzPO4で表されるオリビン型リン酸塩系化合物と炭素とを含み、前記オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した凝集体を形成しており、前記凝集体は、凝集体を中実とした場合の体積密度の70体積%以上85体積%以下の緻密な凝集体である。
【0012】
オリビン型リン酸塩系化合物は、高充放電容量を発現する観点から、一次粒子、または一次粒子が凝集した凝集体(二次粒子)の一部または全部が、炭素を含む炭素質被膜で覆われていることが好ましい。
前記凝集体の体積密度を向上させ緻密な凝集体に調整することで、電極の体積当たりのオリビン型リン酸塩系化合物の充填量が向上すると考えられる。すなわち、本実施形態における凝集体の体積密度を、凝集体を中実とした場合の体積密度の70体積%以上85体積%以下とすることで、リチウムイオン二次電池の体積エネルギー密度を向上することができる。
【0013】
前記凝集体において、前記体積密度は、71体積%以上84体積%以下であることが好ましく、73体積%以上82体積%以下であることがより好ましい。前記体積密度が70体積%未満では、高い電極密度が得られず体積エネルギー密度が低下する。前記体積密度が85体積%を超えると、凝集体の中に電解液が染み込みにくいため十分な放電容量が得られず体積エネルギー密度が低下する。
【0014】
「オリビン型リン酸塩系化合物(正極活物質)」
本実施形態で用いられるオリビン型リン酸塩系化合物は、一般式LixAyDzPO4で表される化合物であって、正極活物質として機能する。
一般式において、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種であり、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、V、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種であり、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1である。
【0015】
一般式において、AおよびDは、各々独立に2種以上であってもよい。本実施形態で用いられるオリビン型リン酸塩系化合物は、例えば、LixA1
y1A2
y2D1
z1D2
z2D3
z3D4
z4PO4のような式で表されてもよい。この場合、y1とy2との合計がyの範囲、すなわち0を超え1.0以下の範囲にあればよく、z1とz2とz3とz4との合計がzの範囲、すなわち0以上1.0未満の範囲にあればよい。
【0016】
オリビン型リン酸塩系化合物は、上記構成であれば、特に限定されないが、オリビン構造の遷移金属リン酸リチウム化合物からなることが好ましい。
一般式LixAyDzPO4において、Aは、Co、Mn、NiおよびFeであることが好ましく、Co、MnおよびFeであることがより好ましい。また、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、V、Alであることが好ましい。オリビン型リン酸塩系化合物がこれらの元素を含むことで、高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合剤層を形成することができる。また、資源量が豊富であるため、選択する材料として好ましい。
【0017】
オリビン型リン酸塩系化合物は、高放電容量および高エネルギー密度の観点から、一般式LiFex2Mn1-x2-y2My2PO4で表される化合物であることも好ましい。
一般式LiFex2Mn1-x2-y2My2PO4において、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、V、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYから選択される少なくとも1種、0.05≦x2≦1.0、0≦y2≦0.14である。
【0018】
本実施形態におけるオリビン型リン酸塩系化合物の形状は、一次粒子および該一次粒子の凝集体である二次粒子であることが好ましい。
オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子の形状は、特に制限されないが、球状、特に真球状であることが好ましい。一次粒子が球状であることで、本実施形態の正極材料を用いて正極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、正極形成用ペーストを集電体に塗工しやすくなる。なお、正極形成用ペーストは、例えば、本実施形態の正極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して調製することができる。
オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子および二次粒子を、総じて正極活物質粒子と称する。
【0019】
「炭素質被膜」
本実施形態の正極材料が含む炭素は、正極活物質粒子を被覆する炭素質被膜として、正極材料に含まれることが好ましい。
炭素質被膜は、該炭素質被膜の原料となる有機物を炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。
以下、炭素質被膜で被覆された正極活物質粒子を炭素質被覆正極活物質粒子と言うこともある。
有機物としては、正極活物質粒子の表面に炭素質被膜を形成できる化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、フェノール、フェノール樹脂、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール等が挙げられる。多価アルコールには、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリンおよびグリセリン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本実施形態における正極材料(好ましくは、炭素質被覆正極活物質粒子)は、炭素量(c)が0.7質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。
正極材料の炭素量(c)が0.7質量%以上であることで、炭素間の距離が縮まり、導電パスが容易になり易いため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上し易い。正極材料の炭素量(c)が3.0質量%以下であることで、オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子間の空隙が狭まりにくく、正極材料の電解液保持量を高めることができ、入力特性を向上し易い。
入力特性とサイクル特性とのバランスの観点から、正極材料の炭素量(c)は、1.0質量%以上2.7質量%以下であることがより好ましく、1.2質量%以上2.5質量%以下であることがさらに好ましい。
上記炭素量(正極材料における炭素含有量)は、炭素分析計(例えば、堀場製作所社製、型番:EMIA-220V)を用いて測定することができる。
【0021】
本実施形態における正極材料(好ましくは、炭素質被覆正極活物質粒子)は、比表面積(a)が5m2/g以上35m2/g以下であることが好ましい。
正極材料の比表面積(a)が5m2/g以上であることで、オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子の粒径が細かくなり、リチウムイオンおよび電子の移動にかかる時間を短くして大電流での作動時および低温での作動時の容量を増加することができる。正極材料の比表面積(a)が35m2/g以下であることで、金属溶出を抑制することができる。
入力特性とサイクル特性とのバランスの観点から、正極材料の比表面積(a)は、7m2/g以上30m2/g以下であることがより好ましく、9m2/g以上25m2/g以下であることがさらに好ましい。
上記比表面積は、比表面積計(例えば、日本ベル社製、商品名:BELSORP-mini)を用いて、窒素(N2)吸着によるBET法により測定することができる。
【0022】
本実施形態における正極材料(好ましくは、炭素質被覆正極活物質粒子)では、上記炭素量(c)を上記比表面積(a)で除した値(c/a)、換言すると、正極材料の単位比表面積当たりの炭素量は、0.08以上0.20以下であることが好ましい。c/aの単位は、質量%・g/m2である。
c/aが0.08以上であることで、炭素質被膜が充分な電子伝導性を示すことができる。また、c/aが0.20以下であることで、炭素質被膜中に生じる層状構造からなる黒鉛の微結晶が少なくなり、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じにくくなる。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることを抑制することができる。
上記観点から、c/aは、0.10以上0.18以下であることがより好ましく、0.11以上0.16以下であることがさらに好ましい。
【0023】
本実施形態における正極材料(好ましくは、炭素質被覆正極活物質粒子)のタップ密度は、1.61g/cm3以上1.86g/cm3以下であることが好ましい。
正極材料のタップ密度が1.61g/cm3以上であることで、正極活物質と電解液との接触面積が大きくなり過ぎず、正極活物質からの金属溶出量を抑制することができる。正極材料のタップ密度が1.86g/cm3以下であることで、正極活物質と電解液との接触面積が大きくなり、正極活物質へのリチウムイオンの脱挿入がし易くなり、容量を大きくすることができる。
上記観点から、正極材料のタップ密度は、1.64g/cm3以上1.80g/cm3以下であることがより好ましく、1.65g/cm3以上1.79g/cm3以下であることがさらに好ましい。
タップ密度は、JIS R 1628:1997 ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法に則った手法にて測定することができる。
【0024】
炭素質被膜で被覆された正極活物質粒子(炭素質被覆正極活物質粒子)の一次粒子の平均粒子径の下限値は、50nm以上であることが好ましく、70nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましい。炭素質被膜で被覆された正極活物質粒子(炭素質被覆正極活物質粒子)の一次粒子の平均粒子径の上限値は、500nm以下であることが好ましく、450nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることがさらに好ましい。
一次粒子の平均粒子径が50nm以上であると、正極材料の比表面積の増加に起因する炭素量の増加を抑制でき、これによりリチウムイオン二次電池の充放電容量が低減することを抑制できる。一次粒子の平均粒子径が500nm以下であると、正極材料内を移動するリチウムイオンの移動時間または電子の移動時間を短くすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の増加に起因する出力特性の悪化を抑制できる。
【0025】
ここで、一次粒子の平均粒子径とは、個数平均粒子径のことである。上記一次粒子の平均粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定した200個以上の粒子の粒子径を個数平均することで求めることができる。
【0026】
炭素質被覆正極活物質粒子の二次粒子の平均粒子径の下限値は、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましい。炭素質被覆正極活物質粒子の二次粒子の平均粒子径の上限値は、20μm以下であることが好ましく、18μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。
二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上であると、正極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合してリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際、導電助剤および結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これにより、リチウムイオン二次電池の正極の正極合剤層における単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量を高くすることができる。二次粒子の平均粒子径が20μm以下であると、リチウムイオン二次電池の正極の正極合剤層中の導電助剤や結着剤の分散性および均一性を高くすることができる。その結果、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量が高くなる。
【0027】
ここで、二次粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。上記二次粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0028】
正極活物質粒子を被覆する炭素質被膜の厚み(平均値)の下限値は、1.0nm以上であることが好ましく、1.4nm以上であることがより好ましい。正極活物質粒子を被覆する炭素質被膜の厚み(平均値)の上限値は、10.0nm以下であることが好ましく、7.0nm以下であることがより好ましい。
炭素質被膜の厚みが1.0nm以上であると、炭素質被膜中の電子の移動抵抗の総和が高くなることを抑制できる。これにより、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の上昇を抑制でき、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。炭素質被膜の厚みが10.0nm以下であると、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散することを妨害する立体障害の形成を抑制することができる。これにより、リチウムイオンの移動抵抗が低くなる。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の上昇が抑えられ、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。
【0029】
正極活物質粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が充分に得られる。
なお、炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X-ray microanalyzer、EDX)等を用いて粒子を観察し、粒子表面を覆っている部分の割合を算出し、その平均値から求めることができる。
【0030】
炭素質被膜を構成する炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度の下限値は、0.3g/cm3以上であることが好ましく、0.4g/cm3以上であることがより好ましい。炭素質被膜の密度の上限値は、2.0g/cm3以下であることが好ましく、1.8g/cm3以下であることがより好ましい。炭素質被膜を構成する炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度とは、炭素質被膜が炭素のみから構成されると想定した場合に、炭素質被膜の単位体積当たりの質量である。
炭素質被膜の密度が0.3g/cm3以上であると、炭素質被膜が充分な電子伝導性を示すことができる。炭素質被膜の密度が2.0g/cm3以下であると、炭素質被膜中に層状構造からなる黒鉛の微結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0031】
(リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法は、特に限定されないが、例えば、A源とD源とP源と炭素源となる有機化合物を混合する工程と、前記工程で得られた混合物を仮焼成する工程と、仮焼成によって得られた仮焼成体とLi源とを水などの溶媒と混合し湿式ミル処理して分散する工程と、湿式ミル工程によって得られたスラリーを乾燥造粒する工程と、乾燥造粒工程によって得られた造粒体を本焼成する工程とを有する。
【0032】
Li源、A源、D源およびP源のモル比(Li:A:D:P)は、2.5~4.0:0~1.0:0~1.0:0.9~1.15であることが好ましく、2.8~3.5:0~1.0:0~1.0:0.95~1.1であることがより好ましい。
【0033】
ここで、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物;炭酸リチウム(Li2CO3)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO3)、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸水素二リチウム(Li2HPO4)およびリン酸二水素リチウム(LiH2PO4)等のリチウム無機酸塩;酢酸リチウム(LiCH3COO)、蓚酸リチウム((COOLi)2)等のリチウム有機酸塩;並びに、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
なお、リン酸リチウム(Li3PO4)は、Li源およびP源としても用いることができる。
【0034】
A源としては、Co、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、Lix1Ay1Dz1PO4におけるAがFeである場合、Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl2)、硫酸鉄(II)(FeSO4)、酢酸鉄(II)(Fe(CH3COO)2)等の鉄化合物またはその水和物や、硝酸鉄(III)(Fe(NO3)3)、塩化鉄(III)(FeCl3)、クエン酸鉄(III)(FeC6H5O7)等の3価の鉄化合物や、オルトリン酸鉄等が挙げられる。
【0035】
D源としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、Lix1Ay1Dz1PO4におけるDがCaである場合、Ca源としては、水酸化カルシウム(II)(Ca(OH)2)、塩化カルシウム(II)(CaCl2)、硫酸カルシウム(II)(CaSO4)、硝酸カルシウム(II)(Ca(NO3)2)、酢酸カルシウム(II)(Ca(CH3COO)2)、およびこれらの水和物等が挙げられる。
【0036】
P源としては、リン酸(H3PO4)、リン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)、オルトリン酸鉄等のリン酸化合物が挙げられる。
【0037】
炭素源となる有機化合物の配合量は、この有機化合物の全質量を炭素元素に換算したとき、LixAyDzPO4正極活物質粒子100質量部に対して、0.15質量部以上15質量部以下であることが好ましく、0.45質量部以上4.5質量部以下であることがより好ましい。
正極活物質粒子に対する有機化合物の配合量が0.15質量部以上であると、この有機化合物を熱処理することにより生じる炭素質被膜の正極活物質粒子表面における被覆率を80%以上にすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の高入力特性およびサイクル特性を向上することができる。正極活物質粒子に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、相対的に正極活物質粒子の配合比が低下して、リチウムイオン二次電池の容量が低くなることを抑制できる。また、正極活物質粒子に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、正極活物質粒子に対する炭素質被膜の過剰な担持により、正極活物質粒子の嵩密度が高くなることを抑制できる。なお、正極活物質粒子の嵩密度が高くなることを抑制することで電極密度の低下を抑制し、単位体積当たりのリチウムイオン二次電池の容量低下を抑制することができる。
【0038】
仮焼成温度は、350℃以上500℃以下であることが好ましく、380℃以上450℃以下であることがより好ましい。
仮焼成温度が350℃以上であると、A源とD源とP源とを充分に反応した粒子を生成させることができ、かつ有機化合物の分解および反応が充分に進行させることができる。その結果、A源とD源とP源とが均質な濃度分布で存在する粒子の周囲に炭素質被膜が形成された仮焼成体を形成することができる。仮焼成温度が500℃以下であると、仮焼成体の粒成長が進行せず粗大な粒子径なく小さな粒子径を保つことができる。その結果、その後の湿式ミル処理での分散粒子径が小さく抑えられ、最終的に得られる正極活物質も粗大な粒子径なく小さな粒子径を保つことができ、高い比表面積の粒子を得ることができるため、リチウムイオン二次電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が大きくなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。
仮焼成温度は、有機化合物が充分に炭化する時間であればよく、特に制限はないが、例えば、0.1時間以上100時間以下である。
焼成雰囲気は、好ましくは、窒素(N2)およびアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気、または水素(H2)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気である。
【0039】
仮焼成体とLi源とを溶媒に混合する際、仮焼成体、Li源および溶媒の総量(100質量%)に対して、固形分量を好ましくは40質量%以上75質量%以下、より好ましくは45質量%以上72質量%以下、さらに好ましくは50質量%以上70質量%以下となるように調整する。固形分量を上記範囲内とすることで、得られる正極材料のタップ密度を上述の範囲内とすることができる。
【0040】
上記溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ-ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミドおよびN-メチルピロリドン等のアミド類;ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中で、好ましい溶媒は水である。
なお、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0041】
仮焼成体とLi源とを、溶媒に分散させる方法としては、仮焼成体とLi源とを溶解または分散する方法であれば、特に限定されない。このような分散に使用する装置としては、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の媒体粒子を高速で撹拌する媒体撹拌型分散装置が挙げられる。
【0042】
湿式ミル工程によって得られたスラリーを乾燥造粒する工程は、特に限定されないが、例えば、噴霧熱分解装置を用いて、上記混合物を高温雰囲気中、例えば、110℃以上200℃以下の大気中に噴霧し、乾燥して、混合物の造粒体を生成してもよい。
この噴霧熱分解法では、速やかに乾燥して略球状の造粒体を生成するためには、噴霧の際の液滴の粒子径は、0.01μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0043】
本焼成温度(スラリーを乾燥する温度)は、630℃以上790℃以下であることが好ましく、680℃以上770℃以下であることがより好ましい。
焼成温度が630℃以上であると、仮焼成体とLi源との反応が充分に進行し、良好な結晶性の正極材料が得られるばかりか、正極材料の粒子周囲に存在する有機化合物由来の炭素を充分に炭化させることができる。その結果、得られた正極材料に低抵抗の炭素質被膜を形成することができる。焼成温度が790℃以下であると、正極材料の粒成長が進行せず充分に高い比表面積を保つことができる。その結果、リチウムイオン二次電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が大きくなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。
【0044】
焼成時間は、有機化合物が充分に炭化する時間であればよく、特に制限はないが、例えば、0.1時間以上100時間以下である。
【0045】
焼成雰囲気は、好ましくは窒素(N2)およびアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気、または水素(H2)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気である。混合物の酸化をより抑えたい場合には、焼成雰囲気は還元性雰囲気であることがより好ましい。
【0046】
仮焼成により有機化合物が分解および反応して炭素が生成する。そして、この炭素は正極活物質粒子の表面に付着して炭素質被膜となり、本焼成により炭化が進行する。これにより、正極活物質粒子の表面は低抵抗の炭素質被膜により覆われる。
【0047】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、一般式LixAyDzPO4で表されるオリビン型リン酸塩系化合物と炭素とを含み、前記オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した凝集体を形成しており、前記凝集体は、凝集体を中実とした場合の体積密度の70体積%以上85体積%以下の緻密な凝集体であるため、体積エネルギー密度および充放電容量に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0048】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備え、正極合剤層が、本実施形態の正極材料を含有する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むため、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、高入力特性およびサイクル特性に優れる。
以下、リチウムイオン二次電池用正極を単に「正極」と称することがある。
【0049】
正極を作製するには、上記の正極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、正極形成用塗料または正極形成用ペーストを調製する。この際、必要に応じてカーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤を添加してもよい。
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
正極材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、例えば、正極材料100質量部に対するバインダー樹脂が1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、3質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
【0050】
正極形成用塗料または正極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
次いで、正極形成用塗料または正極形成用ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とする。次いで、この塗膜を乾燥し、上記の正極材料と結着剤とを含む混合物からなる塗膜が一主面に形成された電極集電体を得る。その後、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、電極集電体の一主面に正極合剤層を有する正極を作製する。
より具体的には、例えば、電極集電体としてのアルミニウム箔の一方の面に、正極形成用塗料または正極形成用ペーストを塗布して塗膜とする。次いで、塗膜を乾燥し、正極材料と結着剤とを含む混合物からなる塗膜が一方の面に形成されたアルミニウム箔を得る。その後、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、アルミニウム箔の一方の面に正極合剤層を有する電極集電体(正極)を作製する。
このようにして、高入力特性およびサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる正極を作製することができる。
【0052】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備え、前記正極合剤層は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するため、体積エネルギー密度および充放電容量に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0053】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解質とを有し、正極として、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を備える。
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上記構成に限定されず、例えば、更にセパレータを備えていてもよい。
【0054】
「負極」
負極としては、例えば、金属Li、天然黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、Li合金およびLi4Ti5O12、Si(Li4.4Si)等の負極材料を含むものが挙げられる。
【0055】
「電解質」
電解質は、特に制限されないが、非水電解質であることが好ましく、例えば、炭酸エチレン(エチレンカーボネート;EC)と、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート;EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を、例えば、濃度1モル/dm3となるように溶解したものが挙げられる。
【0056】
「セパレータ」
本実施形態のリチウムイオン二次電池において、正極と負極とは、セパレータを介して対向させることができる。セパレータとして、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0057】
本実施形態のリチウムイオン二次電池によれば、正極と、負極と、電解質とを有し、正極として、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を備えるため、体積エネルギー密度および充放電容量に優れる。
【0058】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いてなる正極合剤層を有することから、電池構成部材のいずれの周囲においてもLiイオン移動に優れ、高入力特性およびサイクル特性に優れる。そのため、電気自動車駆動用バッテリーやハイブリッド自動車駆動用バッテリー等に好適に用いられる。
【実施例0059】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0060】
〔リチウムイオン二次電池用正極材料の製造〕
[実施例1]
以下のようにして、オリビン型化合物LiFePO4を製造した。
Fe源およびP源としてFePO4を、炭素源としてグルコースを用い、これらをヘンシェルミキサーで6時間混合して、原料混合物を調製した。このとき、Fe源とP源の混合比が、モル比でFe:P=1:1となるようにし、グルコースの添加量を、最終生成物であるLiFePO4の100質量部に対して7質量部となるように添加した。
【0061】
次いで、仮焼成として、原料混合物を中外炉エンジニアリング社製のロータリーキルンを用いて、400℃にて5時間の熱処理を行い、仮焼成体を得た。
【0062】
この仮焼成体と、Li源としてのLiOH・H2Oと、水とエチレングリコールとの混合溶媒とを、仮焼成体、LiOH・H2Oおよび混合溶媒の総量(100質量%)に対して、固形分量が60質量%となるように混合した。この固形分量は、後述するスラリーにおいても同じ量である。このとき、添加するLi源の量を、Li源とFe源とP源の混合比が、モル比でLi:Fe:P=1:1:1となるようにした。また、水とエチレングリコールの混合比を、水100質量部に対して、エチレングリコール1質量部となるようにした。
この混合物を、アイメックス社製のビーズミルTSG-6Uと、直径1mmジルコニアビーズを用い、湿式分散処理を行って、スラリーを得た。湿式分散処理は、スラリーの平均粒度分布が0.5μm以下になるまで行った。
【0063】
このようにして得られたスラリーを、乾燥造粒後、中外炉エンジニアリング社製のロータリーキルンを用いて、690℃にて2時間熱処理を行った。この加熱処理による反応でLiFePO4が生成し、LiFePO4粒子の表面を炭素質被膜によって被覆して、実施例1のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0064】
[実施例2]
実施例1において得られた仮焼成体、Li源としてのLiOH・H2Oおよび混合溶媒の総量(100質量%)に対して、固形分量が50質量%となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0065】
[実施例3]
実施例1において得られた仮焼成体、Li源としてのLiOH・H2Oおよび混合溶媒の総量(100質量%)に対して、固形分量が70質量%となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0066】
[比較例1]
実施例1において得られた仮焼成体、Li源としてのLiOH・H2Oおよび混合溶媒の総量(100質量%)に対して、固形分量が30質量%となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0067】
[比較例2]
実施例1において得られた仮焼成体、Li源としてのLiOH・H2Oおよび溶媒としての水の総量(100質量%)に対して、固形分量が30質量%となるように混合したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0068】
[比較例3]
実施例1において得られた仮焼成体、Li源としてのLiOH・H2Oおよび混合溶媒の総量(100質量%)に対して、固形分量が85質量%となるように混合し、水とエチレングリコールの混合比を、水100質量部に対して、エチレングリコール5質量部となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0069】
「評価」
実施例1~実施例3および比較例1~比較例3で得られた正極材料について、下記の評価を行った。また、実施例1~実施例3および比較例1~比較例3の正極材料を用いて、リチウムイオン二次電池を作製し、リチウムイオン二次電池について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
溶媒であるN-メチル-2-ピロリジノン(NMP)に、正極材料と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、ペースト中の質量比で、正極材料:AB:PVdF=90:5:5となるように加えて、これらを混合し、正極材料ペーストを調製した。
次いで、この正極材料ペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、塗膜が所定の密度となるように圧着して、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成し、アルミニウム箔と正極合剤層とを有する正極板を得た。
【0071】
得られた正極板を、成形機を用いて正極面積が9cm2の正方形の周りにタブしろを有する板状に打ち抜いた。正極板1枚当たりの正極合剤層の厚みと質量を測定して、電極密度(正極合剤層の密度)を算出した。
その後、タブしろにタブを溶接して試験電極(正極)を作製した。
【0072】
次いで、溶媒である純水に、負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのスチレンブタジエンラテックス(SBR)と、粘度調整材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、ペーストの質量比で、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1となるように加えて、これらを混合し、負極材料ペースト(負極用)を調製した。
調製した負極材料ペースト(負極用)を、厚さ10μmの銅箔(集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、銅箔表面に負極合剤層を形成し、銅箔と負極合剤層とを有する負極板を得た。
その後、負極板を、成形機を用いて負極面積9cm2の正方形の周りにタブしろを有する板状に打ち抜いた。さらに、タブしろにタブを溶接して負極を作製した。
【0073】
作製した正極と負極とを、多孔質ポリプロピレンからなる厚さ25μmのセパレータを介して対向させ、非水電解液(非水電解質溶液)としての1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)溶液10mLに浸漬した後、ラミネートフィルムにて封止して、リチウムイオン二次電池を作製した。LiPF6溶液としては、炭酸エチレンと、炭酸ジエチルとを、体積比で1:1となるように混合し、添加剤として炭酸ビニレン2質量%を加えたものを用いた。
【0074】
〔リチウムイオン二次電池用正極材料の評価〕
(1)体積密度
水銀ポロシメーター(Quantachrome社、製番:Poremaster GT-60)を用いて、LiFePO4の一次粒子が凝集した凝集体の体積密度を測定した。
【0075】
(2)炭素量(c)
炭素分析計(堀場製作所社製、型番:EMIA-220V)を用いて、正極材料の炭素量(c)を測定した。
【0076】
(3)比表面積(a)
比表面積計(日本ベル社製、商品名:BELSORP-mini)を用いて、窒素(N2)吸着によるBET法により、正極材料の比表面積(a)を測定した。
測定された炭素量(c)と比表面積(a)とから、炭素量/比表面積(c/a)を算出した。
【0077】
(4)粒度分布(D50)
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、商品名:LA-950)を用いて、正極材料の粒度分布(D50)を測定した。
【0078】
(5)タップ密度
正極材料の凝集粒子から所定の質量の試料を採取し、この試料を容積10mLのガラス製のメスシリンダーに投入した。この試料をメスシリンダーとともに振動させ、この試料の容積が変化しなくなった時点で試料の容積を測定し、この試料の質量を試料の容積で除した値を、正極材料のタップ密度とした。
【0079】
(6)顆粒断面観察
集束イオンビーム加工観察装置(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名:FB2100)を用いて、炭素質被覆正極活物質粒子の二次粒子を断面加工した薄膜試料を作製し、電界放射型透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名:HF2000)を用いて、オリビン型リン酸塩系化合物の二次粒子を断面加工した薄膜試料を作製し、一次粒子間の空隙を観察した。
図1に、実施例1におけるリチウムイオン二次電池用正極材料の透過電子顕微鏡(TEM)像を示し、
図2に、比較例1におけるリチウムイオン二次電池用正極材料のTEM像を示す。
【0080】
〔リチウムイオン二次電池の評価〕
(1)1C放電容量および正極当たりの体積エネルギー密度
環境温度25℃にて正極の電圧が天然黒鉛負極電圧に対して4.1Vになるまで電流値1CAにて定電流充電した後に、正極の電圧が天然黒鉛負極電圧に対して2.5Vになるまで電流値1CAにて定電流放電を行い、1C放電容量を評価した。また、電流値1CAにて定電流放電挙動と電極密度から、体積エネルギー密度を評価した。
体積エネルギー密度は下記基準にて評価した。
「○」:1CAの体積エネルギー密度が1260mWh/cm3以上である。
「×」:1CAの体積エネルギー密度が1260mWh/cm3未満である。
【0081】
【0082】
表1に示す結果から、実施例1~実施例3のリチウムイオン二次電池用正極材料は、凝集体の体積密度が70%以上85体積%以下であるため、電極密度を高くしたままに、凝集体中の電解液移動性(イオン泳動性ともいえる)を良好にできるため、1C放電容量が高くでき、体積エネルギー密度を高くすることができる。また、実施例1~実施例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、体積エネルギー密度の評価が○であった。
一方、比較例1と比較例2のリチウムイオン二次電池用正極材料は、凝集体の体積密度が70体積%未満であるため、電極密度が低くなり、凝集体中の電解液移動性(イオン泳動性ともいえる)を良好で1C放電容量が高くても、体積エネルギー密度が低下する。さらに、比較例3のリチウムイオン二次電池用正極材料は、凝集体の体積密度が85体積%を超えるため、凝集体中の電解液移動性(イオン泳動性ともいえる)が悪くなり、1C放電容量が低くなるから、体積エネルギー密度が低下する。また、比較例1~比較例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、体積エネルギー密度の評価が×であった。