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特開2022-157473閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因の有無を判定する方法、一塩基多型(SNP)のアレルを検出する方法、組成物、及びキット
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  • 特開-閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因の有無を判定する方法、一塩基多型(SNP)のアレルを検出する方法、組成物、及びキット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157473
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因の有無を判定する方法、一塩基多型(SNP)のアレルを検出する方法、組成物、及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20221006BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20221006BHJP
   C12Q 1/6858 20180101ALI20221006BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221006BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20221006BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221006BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20221006BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20221006BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALN20221006BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6858 Z
C12N15/11 Z
C12Q1/68 100Z
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
C12N15/09 200
C12Q1/6883 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061724
(22)【出願日】2021-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」委託研究、産業理術力強化法第17条の適用を受ける特許出願」
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】510060844
【氏名又は名称】学校法人電子開発学園
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】山本 万里
(72)【発明者】
【氏名】西平 順
(72)【発明者】
【氏名】勝山 豊代
(72)【発明者】
【氏名】上島 希実
(72)【発明者】
【氏名】服部 裕樹
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC01
4B029GA08
4B029GB10
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR72
4B063QS15
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】成人女性の高尿酸血症罹患リスクを知るための方法を提供すること。
【解決手段】閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因の有無を判定する方法であって、上記方法は、
成人女性である被験者由来の核酸における下記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つがリスクアレルであるときに該被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示す遺伝的素因があると判定し、上記一塩基多型(SNP)のいずれもがリスクアレルでないときに該被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示す遺伝的素因がないと判定する判定工程を含み、
上記リスクアレルは、2種類のホモ接合型それぞれを有する集団における平均血清尿酸値を求めて比較するとき、平均血清尿酸値がもう一方のホモ接合型よりも高値を示すホモ接合型を構成するアレルであり、
前記血清尿酸値高値及び血清尿酸値についての高値は、血清尿酸値が7mg/dL以上であることである、方法。
(a)ヒト染色体2上のrs1351879
(b)ヒト染色体2上のrs4430896
(c)ヒト染色体12上のrs117377116
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因の有無を判定する方法であって、前記方法は、
成人女性である被験者由来の核酸における下記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つがリスクアレルであるときに該被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示す遺伝的素因があると判定し、前記一塩基多型(SNP)のいずれもがリスクアレルでないときに該被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示す遺伝的素因がないと判定する判定工程を含み、
前記リスクアレルは、2種類のホモ接合型それぞれを有する集団における平均血清尿酸値を求めて比較するとき、平均血清尿酸値がもう一方のホモ接合型よりも高値を示すホモ接合型を構成するアレルであり、
前記血清尿酸値高値及び血清尿酸値についての高値は、血清尿酸値が7mg/dL以上であることである、方法。
(a)ヒト染色体2上のrs1351879
(b)ヒト染色体2上のrs4430896
(c)ヒト染色体12上のrs117377116
【請求項2】
前記一塩基多型(SNP)(a)のリスクアレルは、Aであり、
前記一塩基多型(SNP)(b)のリスクアレルは、Gであり、
前記一塩基多型(SNP)(c)のリスクアレルは、Aである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験者は、判定時において、閉経後に血清尿酸値高値をまだ示していない、及び/又は、閉経前の成人女性である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患若しくは状態の発症前又は早期段階において、閉経後に血清尿酸値が高値を示すリスクの有無を判定するためのものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記高尿酸血症と関連する疾患若しくは状態が、痛風、痛風関節炎、心臓若しくは脳の血管障害、心筋梗塞、腎結石、尿路結石(尿管結石、膀胱結石を含む。)、腎臓の機能低下、慢性腎臓病、及び、腎不全からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患又は状態の発症についての前記被験者のリスクを発見するためのもの、該リスクを低減させるための予防策(生活習慣の改善、血清尿酸値のモニタリングを含む。)を講ずるためのもの、高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患又は状態を前記被験者において発見するためのもの、並びに/あるいは、高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患又は状態を有する被験者を選択するためのものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを検出する検出工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法に用いるための、前記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを検出する方法。
【請求項9】
前記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルは、走査型プローブ及びナノ細孔DNA配列決定、ピロシーケンシング、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、時間温度勾配電気泳動(TTGE)、Zn(II)-サイクレンポリアクリルアミドゲル電気泳動、均一蛍光PCR系単一ヌクレオチド多型分析、リン酸-アフィニティポリアクリルアミドゲル電気泳動、ハイスループットSNP遺伝子型判定プラットフォーム、分子ビーコン、5’ヌクレアーゼ反応、Taqmanアッセイ、MassArray(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析と組み合わせた単一塩基プライマー伸長)、トリチル質量タグ、遺伝子型判定プラットフォーム(Invader Assay(登録商標)など)、単一塩基プライマー伸長(SBE)アッセイ、PCR増幅(例えば、磁気ナノ粒子(MNP)上でのPCR増幅)、PCR産物の制限酵素分析(RFLP法)、アレル特異的PCR、マルチプライマー伸長(MPEX)、等温スマート増幅、PCR-SSCP(一本鎖DBA高次構造多型解析)法、シークエンス法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、及び、RNAseA切断法からなる群より選択される少なくとも1つを含む技術によって検出される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法に用いるための組成物であって、該組成物は、前記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、組成物。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法に用いるためのキットであって、該キットは、前記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、キット。
【請求項12】
前記試薬が、オリゴヌクレオチド、DNAプローブ、RNAプローブ、及びリボザイムから選択される、請求項10に記載の組成物又は請求項11に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因の有無を判定する方法、一塩基多型(SNP)(a)~(c)のアレルを検出する方法、組成物、及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
血清尿酸値が基準値を超えた病態(7mg/dL以上;血清尿酸値高値)を高尿酸血症と呼ぶ。高尿酸血症患者のうち一部は「痛風」と呼ばれる発作的な関節炎を起こし、生活の質(QOL)が著しく低下する。また、近年では、高尿酸血症が心臓や脳の血管障害を起こす原因となる他、腎臓の機能低下を引き起こすことも指摘されている。末期腎不全の発症率と高尿酸血症との関係を見てみると、1000人あたりの末期腎不全の発症数は尿酸値が7mg/dL未満だと1.22人、高尿酸血症だと4.64人に急増する。そのため、通風の観点からだけではなく、高尿酸血症の発症リスクを考える必要が生じてきた。
【0003】
これまでに、高尿酸血症の発症や血清尿酸値には遺伝的素因と環境要因の両方が関わることが知られている。環境要因としては、肥満が高尿酸血症発症に大きく関わることが知られており、生活習慣改善による予防が有効とされている。一方、遺伝的素因を明らかにすることは、個人の特性に考慮した効果的な高尿酸血症の予防を可能にする観点から重要であり、複数の尿酸関連遺伝子が本疾患の遺伝的素因として報告されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nakatochi, M. et al. Genome-wide meta-analysis identifies multiple novel loci associated with serum uric acid levels in Japanese individuals. Commun Biol 2, 115 (2019).(https://doi.org/10.1038/s42003-019-0339-0)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高尿酸血症は、女性と比較して男性の有病率が極めて高い。そのため、これまでの血清尿酸値に関わる遺伝的素因に関連した知見については、男性比率が高いデータを対象にした報告が大半を占める。よって、女性での血清尿酸値に関わる遺伝的素因について、知見が不足していた。
【0006】
そこで、本発明は、成人女性の高尿酸血症罹患リスクを知るための方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、成人女性では女性ホルモンであるエストロゲンが減少する閉経後に血清尿酸値が上昇しやすいことに着目し、閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
[1] 閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因の有無を判定する方法であって、上記方法は、
成人女性である被験者由来の核酸における下記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つがリスクアレルであるときに該被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示す遺伝的素因があると判定し、上記一塩基多型(SNP)のいずれもがリスクアレルでないときに該被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示す遺伝的素因がないと判定する判定工程を含み、
上記リスクアレルは、2種類のホモ接合型それぞれを有する集団における平均血清尿酸値を求めて比較するとき、平均血清尿酸値がもう一方のホモ接合型よりも高値を示すホモ接合型を構成するアレルであり、
前記血清尿酸値高値及び血清尿酸値についての高値は、血清尿酸値が7mg/dL以上であることである、方法。
(a)ヒト染色体2上のrs1351879
(b)ヒト染色体2上のrs4430896
(c)ヒト染色体12上のrs117377116
【0009】
[2] 上記一塩基多型(SNP)(a)のリスクアレルは、Aであり、
上記一塩基多型(SNP)(b)のリスクアレルは、Gであり、
上記一塩基多型(SNP)(c)のリスクアレルは、Aである、上記[1]に記載の方法。
【0010】
[3] 上記被験者は、判定時において、閉経後に血清尿酸値高値をまだ示していない、及び/又は、閉経前の成人女性である、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患若しくは状態の発症前又は早期段階において、閉経後に血清尿酸値が高値を示すリスクの有無を判定するためのものである、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
【0011】
[5] 上記高尿酸血症と関連する疾患若しくは状態が、痛風、痛風関節炎、心臓若しくは脳の血管障害、心筋梗塞、腎結石、尿路結石(尿管結石、膀胱結石を含む。)、腎臓の機能低下、慢性腎臓病、及び、腎不全からなる群より選択される少なくとも1つである、上記[4]に記載の方法。
[6] 高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患又は状態の発症についての上記被験者のリスクを発見するためのもの、該リスクを低減させるための予防策(生活習慣の改善、血清尿酸値のモニタリングを含む。)を講ずるためのもの、高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患又は状態を上記被験者において発見するためのもの、並びに/あるいは、高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患又は状態を有する被験者を選択するためのものである、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
【0012】
[7] 上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを検出する検出工程を含む、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8] 上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の方法に用いるための、上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを検出する方法。
【0013】
[9] 上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルは、走査型プローブ及びナノ細孔DNA配列決定、ピロシーケンシング、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、時間温度勾配電気泳動(TTGE)、Zn(II)-サイクレンポリアクリルアミドゲル電気泳動、均一蛍光PCR系単一ヌクレオチド多型分析、リン酸-アフィニティポリアクリルアミドゲル電気泳動、ハイスループットSNP遺伝子型判定プラットフォーム、分子ビーコン、5’ヌクレアーゼ反応、Taqmanアッセイ、MassArray(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析と組み合わせた単一塩基プライマー伸長)、トリチル質量タグ、遺伝子型判定プラットフォーム(Invader Assay(登録商標)など)、単一塩基プライマー伸長(SBE)アッセイ、PCR増幅(例えば、磁気ナノ粒子(MNP)上でのPCR増幅)、PCR産物の制限酵素分析(RFLP法)、アレル特異的PCR、マルチプライマー伸長(MPEX)、等温スマート増幅、PCR-SSCP(一本鎖DBA高次構造多型解析)法、シークエンス法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、及び、RNAseA切断法からなる群より選択される少なくとも1つを含む技術によって検出される、上記[7]又は[8]に記載の方法。
【0014】
[10] 上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法に用いるための組成物であって、該組成物は、上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、組成物。
[11] 上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法に用いるためのキットであって、該キットは、上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、キット。
[12] 上記試薬が、オリゴヌクレオチド、DNAプローブ、RNAプローブ、及びリボザイムから選択される、上記[10]に記載の組成物又は[11]に記載のキット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成人女性の高尿酸血症罹患リスクを知るための方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1のSNP(a)~(c)の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0018】
<閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因の有無を判定する方法>
本発明の第一の態様は、閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因の有無を判定する方法であって、上記方法は、
成人女性である被験者由来の核酸における後述の一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つがリスクアレルであるときに該被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示す遺伝的素因があると判定し、上記一塩基多型(SNP)のいずれもがリスクアレルでないときに該被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示す遺伝的素因がないと判定する判定工程を含む方法である。
【0019】
本発明の第一の態様の方法は、成人女性では女性ホルモンであるエストロゲンが減少する閉経後に血清尿酸値が上昇しやすいことに着目し、閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因を判定する方法ともいえ、かかる遺伝的素因ないし遺伝要因の有無から、成人女性である被験者における閉経後の血清尿酸値上昇のリスク、ないし、閉経後に血清尿酸値高値を示すリスクの有無を判定することができる。具体的には、成人女性である被験者の生体試料から抽出されたゲノム由来の核酸(DNA)において後述の一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのSNPs箇所(SNPを検出する箇所)が検出されるとき、該SNPアレル情報をもとに、被験者が閉経後に血清尿酸値が上昇しやすいタイプであるか否かを判定する方法である。
【0020】
本明細書において、「血清尿酸値高値」とは、血清尿酸値が高尿酸血症と診断される基準値を超えていることをいい、現在日本において、血清尿酸値が7mg/dL以上であることに相当する。血清尿酸値の測定方法は、特に限定されないが、臨床的に用いられるものが好ましく、例えば、ウリカーゼ・ペルオキシダーゼ法(ウリカーゼPOD法)が挙げられる。
【0021】
本明細書において、「リスクアレル」は、SNP(Single Nucleotide Polymorphism)サイトにおいて、2種類のホモ接合型それぞれを有する集団における平均血清尿酸値を求めて比較するとき、平均血清尿酸値がもう一方のホモ接合型よりも高値を示すホモ接合型を構成するアレルである。例えば、あるSNPにおいてA/A、A/T、T/Tの3つの遺伝子型が存在する場合、A/A型をもつヒトの集団とT/T型をもつヒトの集団とを比較して平均血清尿酸値がA/A型をもつ集団の方が高かったとすると、平均血清尿酸値が高い方のA/A遺伝子型を構成するAアレルのことをリスクアレルという。リスクアレルは、あるSNP、例えばSNP(a)~(c)において該リスクアレルが存在すると、他の対立遺伝子(非リスクアレル)が存在する場合に比較して、被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示すリスクが高いことの指標とすることができるアレルでもある。
【0022】
一塩基多型(SNP)(a)~(c)は、下記のものである。
(a)ヒト染色体2上のrs1351879
(b)ヒト染色体2上のrs4430896
(c)ヒト染色体12上のrs117377116
【0023】
上記SNP(a)~(c)について、詳細は後述の表1に示す。本明細書において、上記SNP(a)~(c)をそれぞれ、「SNP(a)」、「SNP(b)」、「SNP(c)」と略記することがある。
【0024】
後述の実施例1に示すとおり、上記各SNP(a)~(c)について以下のとおりである。
上記SNP(a)は、ヒト染色体領域2p24.1上のrs1351879であり、その対立遺伝子はA/Gであり、リスクアレルはAであり、非リスクアレルはGである。
上記SNP(b)は、ヒト染色体領域2p24.1上のrs4430896であり、その対立遺伝子はA/Gであり、リスクアレルはGであり、非リスクアレルはAである。
上記SNP(c)は、ヒト染色体領域12q22上のrs117377116であり、その対立遺伝子はA/Gであり、リスクアレルはAであり、非リスクアレルはGである。
【0025】
SNP(a)~(c)は、血清尿酸値との関連性が従来知られておらず、本発明における新たな知見であり、更に、該SNP箇所についてデータベースに掲載されている注釈から、該SNP箇所が血清尿酸値に作用する機構について推定することも容易ではない。しかしながら、本発明は、実施例1に詳述するように、該SNP箇所について、成人男女を含む集団を対象としたGWAS解析においても血清尿酸値と相関が認められることを確認したものであり、未だ機序は明らかではないが該SNP箇所が血清尿酸値に関与していると推測される。
【0026】
また、高尿酸血症は、女性と比較して男性の有病率が極めて高く、従来の血清尿酸値に関わる遺伝的素因の知見は、男性が大半を占めるデータを用いて得られている。一方で、本発明は、実施例1に詳述するように、成人女性を対象に閉経前集団と閉経後集団を比較する新たな観点から見出されたものである。成人女性においては、閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の減少と共に血清尿酸値が上昇しやすいことが知られている一方、どのような要因を持つ集団が特に上昇しやすいかについての十分な知見は従来得られていなかった。臨床的には、高尿酸血症は痛風のみならず、血管内皮障害を惹起し、脳・心血管障害のリスクであることが知られている。本発明において新たに同定した閉経前集団と比較して閉経後集団に有意な血清尿酸値高値をもたらすリスクアレルは、医療産業上の応用価値も高いと言える。
【0027】
被験者としては、該被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示す遺伝的素因の有無を判定するという目的からは、判定時において、閉経後に血清尿酸値高値をまだ示していない、及び/又は、閉経前の成人女性で好適であるが、必ずしもかかる成人女性に限られず、例えば、閉経後の女性であって測定すれば血清尿酸値高値を示す状態であるにもかかわらず未測定である等、本人や関係者等が該状態に気付いていないか知らない場合の成人女性もが被験者に含まれても構わない。その場合、例えば、本発明の第一の態様の方法により、閉経後に血清尿酸値高値を示す遺伝的素因があると判定されたことを契機に高尿酸血症であることを発見することも期待される。
【0028】
被験者由来の核酸としては、特に限定されず、例えば、被験者から採取した被験者由来の生物学的サンプルないし生体試料からの核酸抽出物であってよい。生物学的サンプルないし生体試料としては、核酸が取得可能であれば特に限定されず、例えば、血液、血清、唾液、痰、汗、涙、精液、脳脊髄液等の体液試料;口腔細胞、頬スワブ等の粘膜剥離物、涙腺分泌物、組織検体等の体組織試料等が挙げられる。
【0029】
本発明の第一の態様の方法は、上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを検出する検出工程を含むものであってもよく、該検出工程を含むものである場合、具体的には、該検出工程により得られる検出結果に基づき、上記SNP(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを決定することができ、好ましくは更に、上記SNP(a)~(c)のうち少なくとも1つがリスクアレルであるかないかを決定することができる。
【0030】
上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルは、走査型プローブ及びナノ細孔DNA配列決定、ピロシーケンシング、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、時間温度勾配電気泳動(TTGE)、Zn(II)-サイクレンポリアクリルアミドゲル電気泳動、均一蛍光PCR系単一ヌクレオチド多型分析、リン酸-アフィニティポリアクリルアミドゲル電気泳動、ハイスループットSNP遺伝子型判定プラットフォーム、分子ビーコン、5’ヌクレアーゼ反応、Taqmanアッセイ、MassArray(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析と組み合わせた単一塩基プライマー伸長)、トリチル質量タグ、遺伝子型判定プラットフォーム(Invader Assay(登録商標)など)、単一塩基プライマー伸長(SBE)アッセイ、PCR増幅(例えば、磁気ナノ粒子(MNP)上でのPCR増幅)、PCR産物の制限酵素分析(RFLP法)、アレル特異的PCR、マルチプライマー伸長(MPEX)、等温スマート増幅、PCR-SSCP(一本鎖DBA高次構造多型解析)法、シークエンス法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、及び、RNAseA切断法からなる群より選択される少なくとも1つを含む技術によって検出することができ、例えば、上記SNP(a)~(c)のうち少なくとも1つを含む1個以上の一塩基多型(SNP)の遺伝子型のタイピング(ジェノタイピング)等であってもよい。
【0031】
本発明の第一の態様の方法は、高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患若しくは状態の発症前又は早期段階において、閉経後に血清尿酸値が高値を示すリスクの有無を判定するためのものであってよい。
【0032】
上記高尿酸血症と関連する疾患若しくは状態としては、典型的には、例えば、痛風、痛風関節炎、心臓若しくは脳の血管障害、心筋梗塞、腎結石、尿路結石(尿管結石、膀胱結石を含む。)、腎臓の機能低下、慢性腎臓病、腎不全等が挙げられ、また、例えば、これらの疾患又は状態との合併症であってもよい。かかる合併症としては、肥満、高血圧、脂質異常症、高血糖等が挙げられる。
【0033】
即ち、本発明の第一の態様の方法は、上述のとおり、上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つがリスクアレルであるか否かにより、被験者の血清尿酸値が閉経後に高値を示すリスクの有無を判定することができる方法であるが、具体的には、該SNP(a)~(c)のうち少なくとも1つの有無を、閉経後に高尿酸血症になるリスク、及び/又は、高尿酸血症と関連する上記疾患若しくは状態を被験者が将来発症するリスク(又は、判定時に発症しているリスクであってもよい)があることの指標とすることができる方法である。
【0034】
本発明の第一の態様の方法は、例えば、高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患又は状態の発症についての上記被験者のリスクを発見するためのもの、該リスクを低減させるための予防策(生活習慣の改善、血清尿酸値のモニタリングを含む。)を講ずるためのもの、高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患又は状態を上記被験者において発見するためのもの、並びに/あるいは、高尿酸血症及び/若しくは高尿酸血症と関連する疾患又は状態を有する被験者を選択するためのものとして、それぞれ好適である。
【0035】
本発明を用いることにより、閉経前の女性に対して閉経後に高尿酸血症に至るリスクを早い段階から予測することができる。また、高尿酸血症は、心疾患、腎不全などの疾患を引き起こすリスクにもなることから、高尿酸血症の発症やそれに伴う疾患のリスクを低減させるための予防策を講ずるために、本発明を利用することができる。
産業上利用の具体的な応用例としては、閉経後に血清尿酸値が上昇しやすいと判定された者について、閉経前から公知の高尿酸血症になりにくい生活習慣をレコメンドするシステムや、更年期における定期的な血清尿酸値のモニタリングを促すシステムなどが挙げられる。これらのシステムを、公知の遺伝子検査サービスに組み込むこともできる。
【0036】
<SNPの存在又は非存在を検出する方法>
本発明の第一の態様の方法に用いるための、上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを検出する方法もまた、本発明の一つであり、本発明の第二の態様である。
上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを検出する方法としては、本発明の第一の態様の方法について上述した、上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを検出する検出工程ないし、該工程における検出方法を適用することができる。
【0037】
<組成物>
本発明の第三の態様は、本発明の第一の態様の方法に用いるための組成物であって、該組成物は、上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、組成物である。
【0038】
上記試薬としては、上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを直接又は間接的に検出することができるものであれば特に限定されず、例えば、公知の試薬を用いることができ、例えば、オリゴヌクレオチド、DNAプローブ、RNAプローブ、及びリボザイムから選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0039】
<キット>
本発明の第四の態様は、本発明の第一の態様の方法に用いるためのキットであって、該キットは、上記一塩基多型(SNP)(a)~(c)のうち少なくとも1つのアレルを直接又は間接的に検出することができる試薬を含む、キットである。
上記試薬としては、本発明の第三の態様の組成物について上述したものを用いることができる。キットとしては、上記試薬を含むものであれば特に限定されず、例えば、DNAマイクロアレイ、DNAチップ、遺伝子チップ等であってもよい。
【実施例0040】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
成人男女642名の健常者(ヒト)を対象として、下記概要の手順に従って試験・解析した。
1)被験者より生体試料を収集し、血清尿酸値を測定する。
2)被験者の生体試料に存在するゲノム由来のDNAを抽出する。
3)上記DNAに含まれる一塩基多型(SNP)のアレルを検出する。
4)上記SNPアレルの組み合わせにより、閉経後に血清尿酸値高値を示すタイプを判定する。
【0042】
1.血清尿酸値の測定
被験者から血液を採取して、ウリカーゼ・ペルオキシダーゼ法(ウリカーゼPOD法)に従い測定を行った。
【0043】
2.遺伝子型の測定
被験者から血液を採取して、常法に従いDNAを抽出・増幅し、該DNAを「ジャポニカアレイ(登録商標)」(遺伝子多型解析用アレイ、東北大学 東北メディカル・メガバンク機構製)にかけて、各対象者の遺伝子多型を検出した。なお、この「ジャポニカアレイ(登録商標)」は、日本人の大規模ゲノム解析の成果に基づいて作製された、約66万個の一塩基多型(SNP)が搭載された遺伝子多型解析用アレイである。
【0044】
3.血清尿酸値と相関のある遺伝子型の同定
「ジャポニカアレイ(登録商標)」遺伝子多型解析用アレイを用いて検出した約66万個の一塩基多型(SNP)マーカーについて品質管理を実施し、クオリティコントロールとして、ジェノタイピングの成功率が0.99未満のSNPs、歪んだハーディー・ワインベルク平衡(Hardey-Weinberg equilibrium)のp値(HWE:p<1.0×10)を有するSNPs、および0.01未満のマイナーアレル頻度(MAF)の14703のSNPsを除外後、関連解析に使用した。クオリティコントロールを通過した合計645006のSNPsと血清尿酸値との関連についてPLINK1.9(http://pngu.mgh.harvard.edu/purcell/plink/)を用いGWAS解析を行った。GWAS解析の結果、計26個のSNPsが有意水準(p<1.0×10-5)を満たし、血清尿酸値との有意な関連を示した。
【0045】
4.成人女性における閉経後に血清尿酸値が上昇しやすい遺伝的素因の同定
GWAS解析に用いた622名について、成人男性と、成人女性のうち閉経に関する情報が得られていない者、及び上記工程において同定されたSNPsのうち、最も血清尿酸値との相関が強い既知のSNP(rs121907892)について、遺伝子型A/G及び遺伝子型A/Aを持つ者のいずれかに該当する者を除外した。なお、該SNPにおけるAアレルは、腎近位尿細管における尿酸再吸収に関わる遺伝子URAT1/SLC22A12の機能喪失型アレルであり、該アレルを保有する者は血清尿酸値が低値となる(「痛風と核酸代謝」第42巻 補冊(平成30年);https://www.jstage.jst.go.jp/article/gnam/42/Supplement/42_suppl-26/_pdf/-char/ja)。
除外の結果選出された閉経前成人女性215名及び閉経後成人女性211名を対象として、上記工程にて同定したSNPsのうち、血清尿酸値との関係が既知ではない以下の9箇所のSNPsから、成人女性における閉経後に血清尿酸値が上昇しやすい遺伝的素因を同定した。
【0046】
【表1】
【0047】
まず、9箇所のSNPsそれぞれについて、2種類のホモ接合型それぞれを有する集団における平均血清尿酸値を求め、比較した。平均血清尿酸値がもう一方のホモ接合型よりも高値を示すホモ接合型を構成するアレルを、以下、リスクアレルと呼ぶ。
【0048】
次に、9箇所のSNPsそれぞれについて、リスクアレルを持つ集団とリスクアレルを持たない集団の血清尿酸値に関する独立2標本のt検定を用いた比較を、閉経前女性集団及び閉経後女性集団のそれぞれにおいて行った。有意水準は5%に設定した。
【0049】
その結果、閉経後女性集団においてリスクアレルを持たない集団と比較してリスクアレルを持つ集団では血清尿酸値の有意な高値が認められる一方、閉経前集団ではリスクアレルを持たない集団とリスクアレルを持つ集団の間で有意差が認められないSNPsとして、以下の3箇所を同定することができた。この3箇所のSNPsの解析結果を図1に示す。
(a)ヒト2番染色体領域のSNP(rs1351879)
(b)ヒト2番染色体領域のSNP(rs4430896)
(c)ヒト12番染色体領域のSNP(rs117377116)
【0050】
5.考察
本実施例では、特定のSNP箇所(ヒト2番染色体領域のSNP(rs1351879)、ヒト2番染色体領域のSNP(rs4430896)、ヒト12番染色体領域のSNP(rs117377116))において、閉経後女性集団でのみ平均血清尿酸値が有意な高値を示すアレルが存在することを示した。
図1