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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157625
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】圧縮ボンド磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20221006BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20221006BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20221006BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 180
H01F7/02 A
H02K15/03 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061951
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柘植 勇輝
【テーマコード(参考)】
5E040
5E062
5H622
【Fターム(参考)】
5E040AA04
5E040CA01
5E040HB05
5E040NN17
5E062CD05
5H622AA03
5H622DD04
5H622QA02
5H622QA04
(57)【要約】
【課題】本発明は、高密度で高配向な圧縮ボンド磁石が得られる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、磁石粉末と磁石粉末を結着させ得るバインダ樹脂からなるボンド磁石原料をキャビティ内で加熱しつつ圧縮する成形工程を備える圧縮ボンド磁石の製造方法である。磁石粉末は異方性磁石粉末を含む。バインダ樹脂は熱硬化性樹脂を含む。成形工程はキャビティ内へ配向磁場を印加しつつなされる第1成形工程と、第1成形工程後に配向磁場を低減または遮断してなされる第2成形工程とを有する。配向磁場の印加を成形工程の途中で遮断等することにより、磁石粒子の配向を維持したまま、ボンド磁石の高密度化が図られる。本発明の製造方法によれば、成形工程の圧縮力の低減も可能となる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石粉末と該磁石粉末を結着させ得るバインダ樹脂からなるボンド磁石原料をキャビティ内で加熱しつつ圧縮する成形工程を備え、
前記磁石粉末は、異方性磁石粉末を含み、
該バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂を含み、
該成形工程は、該キャビティ内へ配向磁場を印加しつつなされる第1成形工程と、該第1成形工程後に該配向磁場を低減または遮断してなされる第2成形工程とを有する圧縮ボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程は、圧縮力が5~50MPaである請求項1に記載の圧縮ボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
前記ボンド磁石原料は、前記磁石粉末と前記バインダ樹脂の合計に対する該磁石粉末の体積割合が60~75体積%である請求項1または2に記載の圧縮ボンド磁石の製造方法。
【請求項4】
前記配向磁場は、前記ボンド磁石原料の圧縮方向に交差する配向方向へ印可される請求項1~3のいずれかに記載の圧縮ボンド磁石の製造方法。
【請求項5】
前記第2成形工程は、前記熱硬化性樹脂の硬化度が10 ~70%となる時点から開始される請求項1~4のいずれかに記載の圧縮ボンド磁石の製造方法。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂である請求項1~5のいずれかに記載の圧縮ボンド磁石の製造方法。
【請求項7】
前記キャビティを有する筐体に前記圧縮ボンド磁石を一体化させた磁気部材が得られる請求項1~6のいずれかに記載の圧縮ボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮ボンド磁石の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能化や省エネルギー化等を図るため、希土類磁石を用いた電磁機器(電動機等)が多く用いられる。希土類磁石には、希土類磁石粉末を焼結させた焼結磁石と、希土類磁石粉末をバインダ樹脂で結着させたボンド磁石がある。ボンド磁石は焼結磁石よりも、成形性に優れ、形状自由度が大きい。
【0003】
ボンド磁石には、主に、磁石粉末と熱可塑性樹脂の溶融混合物を筐体のキャビティ(ロータコアのスロット等)へ射出して一体成形した射出ボンド磁石と、磁石粉末と熱硬化性樹脂の混合物または混練物を、金型や筐体等のキャビティ内で圧縮して成形した圧縮ボンド磁石とがある。圧縮ボンド磁石は、通常、バインダ樹脂に熱硬化性樹脂が用いられるため、射出ボンド磁石よりも耐熱性に優れる。このような圧縮ボンド磁石の製造方法に関連する記載が下記の特許文献1にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-31677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、磁気異方性樹脂結合型磁石(単に「ボンド磁石」という。)の製造方法を提案している。その具体的な工程は次の通りである(特許文献1の[0024]、[0065]等)。
【0006】
先ず、磁石粉末と熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)の粉末(単に「樹脂粉末」という。)を混合した原料粉末を、加熱した成形用金型(金型温度:150℃)に給粉する。次に、樹脂粉末が溶融してから磁界(16kOe)の印加を開始し、その溶融樹脂が最低粘度となってから加圧(8ton/cm)を開始する。
【0007】
その後、液体状になった樹脂の架橋反応が進み、その粘度が増加したところで、磁界印加、加熱および加圧を終了させ、成形用金型からボンド磁石を取り出す。取り出されたボンド磁石には、金型温度と同温度で加熱硬化処理(キュア処理)が施される。
【0008】
特許文献1の加熱磁場中成形では、磁界印加の開始時と加圧の開始時との間に、意図的な時間差が設定されている。しかし、磁界印加の終了時と加圧の終了時との間には有意な時間差が設定されていない。すなわち、特許文献1の場合、磁界印加の終了と加圧の終了は略同時になされている。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来とは異なる新たな圧縮ボンド磁石の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究した結果、加熱圧縮する成形工程の途中で、配向磁場を低減または遮断することにより、ボンド磁石の高密度化が図れることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《圧縮ボンド磁石の製造方法》
(1)本発明は、磁石粉末と該磁石粉末を結着させ得るバインダ樹脂からなるボンド磁石原料をキャビティ内で加熱しつつ圧縮する成形工程を備え、前記磁石粉末は、異方性磁石粉末を含み、該バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂を含み、該成形工程は、該キャビティ内へ配向磁場を印加しつつなされる第1成形工程と、該第1成形工程後に該配向磁場を低減または遮断してなされる第2成形工程とを有する圧縮ボンド磁石の製造方法である。
【0012】
(2)本発明の製造方法によれば、圧縮力を増大させるまでもなく、配向磁場の低減または遮断(「遮断等」という。)により、圧縮ボンド磁石(単に「ボンド磁石」という。)の高密度化が図られる。逆に、所望の配向度と密度を有するボンド磁石を、圧縮力を低減させつつ成形することが可能となる。圧縮力の低減により、例えば、キャビティを構成する金型・筐体の変形抑制、ボンド磁石の精度向上または磁石粒子の割れ抑制等も可能となり得る。
【0013】
《圧縮ボンド磁石/磁気部材》
本発明は、上述した製造方法により得られた圧縮ボンド磁石としても把握できる。また本発明は、圧縮ボンド磁石とキャビティを有する筐体とが一体化した磁気部材としても把握される。磁気部材(電磁部材等)の一例として界磁子がある。
【0014】
界磁子は、例えば、電動機の回転子(ロータ)または固定子(ステータ)である。電動機には、モータのみならず、ジェネレータが含まれる。電動機は、直流電動機でも交流電動機でもよい。界磁子がロータの場合、例えば、筐体はロータコアであり、キャビティはそのスロットである。ロータは、インナーロータでもアウターロータでもよい。
【0015】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、特に断らない限り、本明細書でいう「x~yMPa」はxMPa~yMPaを意味する。他の単位系(μm等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】加熱磁場中成形の各過程を模式的に示す説明図である。
図1B】その成形中における圧縮力と配向磁場のタイムチャートである。
図1C】熱硬化性樹脂の粘度の時間変化を示すグラフである。
図1D】無磁場成形した場合と磁場中成形した場合について、圧縮力(成形圧力)とボンド磁石の密度との関係を示すグラフである。
図1E】成形中に印加される磁場の有無が、ボンド磁石の密度に及ぼす影響を説明する模式図である。
図2】成形法の相違がボンド磁石の密度に及ぼす影響を圧縮力毎に示す散布図である。
図3A】配向磁場の印加終了時と、ボンド磁石(圧縮力:20MPa)の密度、配向度または残留磁束密度との関係を示す散布図である。
図3B】配向磁場の印加終了時と、ボンド磁石(圧縮力:30MPa)の密度、配向度または残留磁束密度との関係を示す散布図である。
図4】スロットにボンド磁石を一体成形したIPM用ロータの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書中に記載した事項から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を上述した本発明の構成に付加し得る。製造方法に関する構成要素も物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0018】
《加熱磁場中成形》
本発明に係る加熱磁場中成形の概要と、それによりボンド磁石の高密度化等が図れる機序とを、図1A図1E(まとめて「図1」という。)に基づいて説明する。
【0019】
(1)概要
ボンド磁石の加熱磁場中成形は、図1Aに示す各過程(工程)を順に経てなされる。各過程は次の通りである。磁石粉末とバインダ樹脂(主に熱硬化性樹脂)からなる原料が、加熱された金型等のキャビティ内へ供給(投入、収容等)される(供給過程)。図1Aには、キャビティがダイと上下パンチにより形成される場合を例示した。特に断らない限り、成形開始(原料供給時)から成形終了(ボンド磁石の排出)まで加熱は継続される。
【0020】
キャビティ内でバインダ樹脂(特に熱硬化性樹脂/単に「樹脂」という。)が溶融を開始した後、配向磁場が印加される(配向過程)。但し、配向磁場が印加されているキャビティ内へ原料が供給されてもよい。つまり、原料の供給と配向磁場の印加との先後は問わず、両者は同時でもよい。コンパウンドを供給後、配向磁場を印加すると、磁場の影響を受けることなく、コンパウンドをキャビティへ投入できて好ましい。
【0021】
加熱および磁場印加された原料を圧縮(加圧)する(配向圧縮過程)。その後、圧縮を継続したまま、配向磁場を遮断等する(圧縮過程)。
【0022】
原料に加えられる配向磁場(H)と圧縮力(P)の経時変化(タイムチャート)は、図1Bに示すようになる。本発明に係る加熱磁場中成形では、磁場印加の開始時(t1)と圧縮の開始時(t2)との間のみならず、磁場印加の終了時(t3)と圧縮の終了時(t4)との間にも、有意な時間差(Δt)が意図的に設定されている。
【0023】
(2)機序
配向圧縮過程(第1成形工程に相当)と圧縮過程(第2成形工程に相当)とにより、高配向で高密度なボンド磁石が得られる理由は次のように考えられる。
【0024】
先ず、キャビティ内で加熱された樹脂は、溶融して液体状となる。その粘度は、図1Cに示すように、当初、時間に対して単調減少して最小(極小)に到達した後、単調増加する。さらに加熱を継続すると、その樹脂は熱硬化して固体状となる。なお、原料(磁石粒子と樹脂)の粘度変化も、通常、ほぼ樹脂の粘度変化と同様な傾向となる。
【0025】
次に、配向磁場を印加して原料を加熱圧縮(「磁場中成形」という。)して得られたボンド磁石の密度と、配向磁場を印加せずに原料を加熱圧縮(「無磁場成形」という。)して得られたボンド磁石の密度は、例えば、図1Dに示すようになる。いずれの場合でも、ボンド磁石の密度は圧縮力の増加と共に増加する。但し、同じ圧縮力で観ると、無磁場成形したボンド磁石の方が、磁場中成形したボンド磁石よりも高密度となる。
【0026】
配向磁場(H)の有無により、同じ圧縮力(P)でもボンド磁石の密度が変化する理由は定かではないが、結果から次のように推察される。図1Eに示すように、磁場中成形の場合、磁石粒子とキャビティ内壁面との間または隣接する磁石粒子間には、配向磁場の分だけ配向磁場(H)方向へより強い磁着力が作用する。この状況下で、配向磁場(H)に垂直な圧縮力が磁石粉末とバインダ樹脂からなるコンパウンドに作用すると、キャビディ内壁面と磁石粒子の間や磁石粒子同士の間で、磁着力に比例した摩擦力(f)が発生する。このような摩擦力により、磁場中成形される磁石粒子は、無磁場成形される磁石粒子よりも、姿勢変化や圧縮方向への移動等が制限される。その結果、磁場中成形すると、無磁場成形したときよりも、ボンド磁石の密度が低下すると考えられる。
【0027】
本発明のように配向圧縮過程と圧縮過程を経ると、上述した樹脂の粘度変化と配向磁場による密度への影響とが相加的または相乗的に作用して、高配向で高密度なボンド磁石が得られるようにる。具体的にいうと、先ず、配向圧縮過程では、粘度が低下した樹脂中で磁石粒子が配向磁場に沿って十分に姿勢変動(移動・回転等)し、高配向化が図られる。次に、圧縮過程では、配向磁場に起因した抵抗がない状態で圧縮され、高密度化が図られる。
【0028】
なお、配向磁場を遮断等する時期(圧縮過程(第2成形工程)の開始時期)は、溶融していた樹脂の粘度が極小となるときを経過した付近であるとよい。その時期が早過ぎると、配向度の低下を招き得る。その時期が遅過ぎると、密度の増加が不十分となる。
【0029】
《成形工程》
圧縮力は、従来のように高圧でもよいし、低圧でもよい。より十分な効果を得るに、圧縮力は、5~50MPaさらには10~40MPa程度の低圧でもよい。圧縮力の低減により、磁石粒子の割れ、キャビティを構成する筐体の変形等が抑制され得る。
【0030】
第1成形工程と第2成形工程は、圧縮力が同じでも異なってもよい。例えば、圧縮力を一定とすれば、加圧装置や加圧制御等の簡素化を図れる。既に樹脂の粘度が十分増加した第2成形工程中の圧縮力を、第1成形工程中の圧縮力よりも大きくして、ボンド磁石のさらなる高密度化を図ってもよい。
【0031】
成形工程中の加熱温度は、バインダ樹脂(特に熱硬化性樹脂)の特性に応じて調整される。加熱温度は、例えば、100~200℃、120~180℃さらには130~170℃である。加熱温度が過小では、樹脂の軟化または溶融が不十分となり、配向度や密度の低下等が生じ得る。加熱温度が過大では、磁石粒子の酸化劣化や熱硬化性樹脂の早期硬化等が生じ得る。
【0032】
成形工程中の配向磁場は、通常、ボンド磁石原料の圧縮方向に交差(さらには直交)する配向方向へ印可される。配向磁場の大きさは、例えば、0.5~3Tさらには1~2Tである。配向磁場は、ボンド磁石が成形されるキャビティの内周面における磁束密度である。配向磁場の起磁源には、電磁石の他、希土類永久磁石を用いてもよい。
【0033】
《ボンド磁石原料》
ボンド磁石原料は、コンパウンドでも、コンパウンドの予成形体でもよい。
【0034】
コンパウンドは、磁石粉末とバインダ樹脂を、混合または混練(「混合等」という。)した顆粒からなる。混合等は、少なくともバインダ樹脂が軟化する温度(軟化点)以上で、バインダ樹脂に含まれる熱硬化性樹脂があまりに急激に硬化する温度未満の温度でなされるとよい。バインダ樹脂(特に熱硬化性樹脂)の種類や配合にも依るが、その温度は、例えば、40~120℃さらには80~100℃である。
【0035】
ボンド磁石原料は、磁石粒子にクラック等の損傷が生じ難い条件下の混合により調製されるとよい。具体的にいうと、磁石粉末とバインダ樹脂は、加圧力(せん断応力)があまり作用しない状況で混合されるとよい。混合には、例えば、バッチ式の混練機を用いるとよい。この際、ボンド磁石原料の投入量を、その処理槽の処理容積の75%以下さらには65%以下程度にして、加圧しない状態でブレードを回転させて加熱混合するとよい。
【0036】
予成形体は、上述したコンパウンドを所定の形態(形状、大きさ)にしたブロックからなる。予成形体は、ボンド磁石に類似した形態であると、キャビティへ効率的に収容(投入)できる。予成形体は、ボンド磁石に非類似な形態でもよい。例えば、キャビティに充填、装填等できる範囲内で、細分化された分割体(ペレット等)でもよい。この場合、ボンド磁石毎に専用の予成形体を用意する必要がなく、予成形体の汎用性が高まる。
【0037】
予成形(工程)も、磁石粒子にクラック等の損傷が生じ難い条件下でなされるとよい。予成形は、通常、ボンド磁石を成形するキャビティとは別なキャビティに充填したコンパウンドを加圧してなされる。
【0038】
《磁石粉末》
磁石粉末は、例えば、ボンド磁石原料(ボンド磁石)の全体(磁石粉末とバインダ樹脂の合計)に対して、例えば、60~80体積%、65~75体積%さらには68~73体積%含まれるとよい。磁石粉末が過少ではボンド磁石の磁気特性が低下し、磁石粉末が過多になると、配向度または密度が低下し得る。
【0039】
磁石粉末は、異方性磁石粉末(粒子)を含む限り、単種の粉末でも複数種の粉末でもよい。複数種の粉末は、例えば、形態(特に粒径)、成分組成または磁気特性(不可逆減磁性を含む)の少なくともいずれかが異なる粉末が混合された混合粉末である。
【0040】
一例として、平均粒径の異なる粗粉末と微粉末を含む混合粉末を用いてもよい。粗粉末の平均粒径は、例えば、40~200μmさらには80~160μmである。微粉末の平均粒径は、例えば、1~10μmさらには2~6μmである。本明細書でいう平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製HELOS)にて測定して定まる。
【0041】
粗粉末と微粉末の合計(または磁石粉末全体)に対する粗粉末の体積割合は、例えば、60~90体積%さらには65~85体積%である。換言すると、その合計に対する微粉末の体積割合は、例えば、10~40体積%さらには15~35体積%である。
【0042】
粗粉末と微粉末の各粒径や割合、ボンド磁石原料(ボンド磁石)全体に対する磁石量(樹脂量)を所定範囲内とすると、低圧成形したときでも、高密度なボンド磁石が得られる。
【0043】
磁石粉末には、例えば、水素処理された希土類異方性磁石粉末が用いられる。水素処理は、主に、吸水素による不均化反応(Hydrogenation-Disproportionation/単に「HD反応」ともいう。)と、脱水素による再結合反応(Desorption-Recombination/単に「DR反応」ともいう。)を伴う。HD反応とDR反応を併せて単に「HDDR反応」という。また、HDDR反応を生じる水素処理を、単に「HDDR(処理)」という。
【0044】
なお、本明細書でいうHDDRには、特に断らない限り、改良型であるd―HDDR(dynamic-Hydrogenation-Disproportionation-Desorption-Recombination)も含まれる。d―HDDRについては、例えば、国際公開公報(WO2004/064085)等で詳述されている。
【0045】
粗粉末の一例として、NdとFeとBを基成分とするNdFeB系異方性磁石粉末がある。微粉末の一例として、SmとFeとNを基成分とするSmFeN系異方性磁石粉末またはSmとCoを基成分とするSmCo系異方性磁石粉末がある。微粉末(一部)として、粒度調整がされたNdFeB系異方性磁石粉末を用いてもよい。
【0046】
磁石粉末の一部として、希土類異方性磁石粉末以外の磁石粉末(希土類等方性磁石粉末、フェライト磁石粉末等)が含まれてもよい。なお、本明細書でいう基成分は、必須成分または主成分と換言できる。基成分となる元素の合計量は、通常、対象物(磁石粒子)全体に対して80原子%以上さらには90原子%以上である。なお、希土類磁石粉末は、その保磁力や耐熱性等を高める元素(Dy、Tb等の重希土類元素、Cu、Al、Co、Nb等)を含んでもよい。
【0047】
《バインダ樹脂》
バインダ樹脂は熱硬化性樹脂を含む。熱硬化性樹脂には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂 、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等がある。代表的なエポキシ樹脂は、通常、主剤(プレポリマー)と硬化剤を混合物であり、エポキシ基による架橋ネットワーク化により硬化する。エポキシ樹脂のプレポリマーとして、例えば、ノボラック型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビフェニル型、ナフタレン型、脂肪族型、グリシジルアミン型等が用いられる。エポキシ樹脂の硬化剤として、例えば、アミン系、フェノール系、酸無水物系が用いられる。
【0048】
一液性エポキシ樹脂を用いると、熱硬化時期をキュア処理(熱硬化工程)により調整でき、効率的なバッチ処理等が可能となる。キュア処理は、例えば、成形工程後のボンド磁石を130~250℃さらには150~230℃に加熱してなされる。
【0049】
ちなみに、各磁石粒子は、使用する樹脂に適した界面活性剤で被覆処理されていてもよい。これにより、軟化または溶融した樹脂中における磁石粒子の姿勢変動性、磁石粒子と樹脂との結合性等が向上し得る。エポキシ樹脂を用いる場合なら、界面活性剤として、例えば、チタネート系カップリング剤やシラン系カップリング剤を用いれる。なお、界面活性剤層の厚さは0.1~2μm程度でよい。
【0050】
《ボンド磁石》
ボンド磁石は、例えば、相対密度が90%以上、95%以上さらには98%以上であるとよい。相対密度の上限値は、99%さらには100%である。なお、相対密度(ρ/ρ)は、理論密度(ρ)に対する実密度(ρ)の比(百分率)である。理論密度(ρ)は、ボンド磁石を構成する磁石粉末とバインダ樹脂の各真密度とそれらの配合量から求まる。実密度(ρ)は、成形(さらにはキュア処理)したボンド磁石を測定して得られた質量と体積から求まる。体積は、アルキメデス法により求めても、成形体の形状(寸法)から算出してもよい。
【0051】
ボンド磁石は、キュア処理前またはキュア処理後に、着磁(着磁磁場:2~6T)がなされてもよい。ボンド磁石は、例えば、0.7T以上、0.75T以上さらには0.8T以上という高い残留磁束密度(Br)を発揮し得る。
【0052】
ボンド磁石は、耐熱性または耐久性の指標となる不可逆減磁率(100℃×1000時間後)が、例えば、-3%以内、-2%以内さらには-1.5%以内であるとよい。
【0053】
《磁気部材》
ボンド磁石は種々の磁気部材に用いられる。筐体のキャビティ内にボンド磁石を一体成形すると、磁気部材の効率的な製造が可能となる。ボンド磁石を低圧成形すると、キャビティを構成する筐体の変形が抑制される。これにより、筐体の設計自由度の増大や磁気部材の精度向上が図られる。このような磁気部材の代表例として、電動機(車両駆動用モータ、エアコン、家電製品用モータ等)の界磁子がある。
【実施例0054】
成形条件を変化させた複数の試料(圧縮ボンド磁石)を製作し、それらの特性を測定・評価した。このような具体例に基づいて、本発明を以下に詳しく説明する。
【0055】
《第1実施例/試料の製造》
(1)磁石粉末とバインダ樹脂
磁石粉末として、水素処理(d-HDDR)して製造された粗粉末である市販のNdFeB系異方性磁石粉末(愛知製鋼株式会社製マグファイン/Br:1.28T、iHc:1313kA/m、平均粒径:125μm)と、微粉末である市販のSmFeN系異方性磁石粉末(住友金属鉱山株式会社製SmFeN合金微粉C /Br:1.35T、iHc:875kA/m、平均粒径:3μm)を用意した。
【0056】
バインダ樹脂として、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂(日本化薬株式会社製NC-3000L)を用意した。この樹脂の主剤はビフェニル型で、硬化剤はフェノール系である。また、その軟化点は60℃であった。
【0057】
(2)ボンド磁石原料
粗粉末と微粉末を8:2(質量割合/体積割合でもほぼ同様)に秤量した磁石粉末と、バインダ樹脂とを混合したボンド磁石原料を調製した。磁石粉末は、磁石粉末(粗粉末および微粉末)とバインダ樹脂を合計した混合物(ボンド磁石原料)全体に対して70体積%(バインダ樹脂:30体積%)とした。
【0058】
磁石粉末とバインダ樹脂の混合は、ニーダを低速回転(10rpm)させ、非加圧状態で5分間行った。このとき、ニーダの容体を90℃に保持した。こうして、磁石粉末とバインダ樹脂を溶融混合したコンパウンドを得た(溶融混合工程)。
【0059】
(3)成形
コンパウンドを金型のキャビティへ充填した(収容工程)。金型(キャビティ内壁面)の温度は、成形開始(充填前)から成形終了まで150℃(一定)に保持した。キャビティへ印加した圧縮力(P)は、10MPa、20MPaまたは30MPaのいずれかとした。
【0060】
なお、コンパウンドの予成形体を用いて、ロータコアのスロット等にボンド磁石を一体成形してもよい。予成形体は、例えば、そのスロット等よりも断面形状を僅かに小さくしたキャビティへ、コンパウンドを充填し、加圧して得られる(予成形工程)。
【0061】
配向磁場を印加しない「無磁場成形」と、一定の配向磁場を成形開始から成形終了まで継続して印加した「定磁場成形」と、成形途中で磁場の印加を遮断した「磁場変更成形」とを、各圧縮力でそれぞれ行った。キャビティへコンパウンドを充填(単に「原料供給」という。)する成形開始時(t0:硬化度0%)から、ボンド磁石をキャビティから排出する成形終了時(t5:硬化度95%)までの時間(単に「成形時間」という。)は5分間とした(図1B参照)。
【0062】
いずれの場合も、圧縮開始時(t2)は成形開始時(原料供給時)から1分間経過後(硬化度10%以内)とした。また圧縮終了時(t4)は、成形開始時(原料供給時)から4分間経過後(成形終了時の1分前:硬化度70%以上)とした。
【0063】
定磁場成形と磁場変更成形では、配向磁場の印加開始時(t1)を成形開始時から0.5分間経過後(硬化度5%以内)とした。定磁場成形では、配向磁場の印加終了時(t3)を成形開始時から4分間経過後(圧縮終了時と同時:硬化度70%以上)とした。
【0064】
磁場変更成形では、配向磁場の印加終了時(t3)を成形開始時から3分間経過後(圧縮終了時の1分前:硬化度35%)とした。この場合、配向磁場の印加終了時前(t2~t3またはt0~t3)が第1成形工程に相当し、配向磁場の印加終了時後(t3~t4またはt3~t5)が第2成形工程に相当する。
【0065】
なお、印加した配向磁場は1.2T(一定)とし、配向方向は圧縮方向(軸方向)に直交する方向(径方向)とした。配向磁場の印加と遮断は、電磁コイルへの通電の切り替え(ON/OFF)により行った。
【0066】
またボンド磁石に使用されるバインダ樹脂は、通常、主剤と硬化剤からなる。主剤と硬化剤は、受けた熱履歴に応じて架橋反応が進行する。硬化度は、その進行具合(割合)を示す。そこで本明細書でいう「硬化度」は下式から求めた。
・硬化度=(ボンド磁石中の総硬化完了樹脂量)/(ボンド磁石中の総樹脂量)
・ボンド磁石中の総硬化完了樹脂量
=(ボンド磁石中の総樹脂量)―(溶けだした樹脂(未反応樹脂)量)
・溶けだした樹脂(未反応樹脂)量
=(ボンド磁石総重量)―(溶剤浸漬後のボンド磁石重量)
【0067】
各重量は以下のように特定した。先ず、測定対象であるボンド磁石(試験片)の総重量を予め計量しておく。そのボンド磁石中の「総樹脂量」は、磁石粉末とバインダ樹脂の原料割合から算出される。次に、そのボンド磁石を溶媒(メチルエチルケトン)に浸漬して、未硬化(未反応)な主剤と硬化剤を溶出させる。溶出後の残量を計量することにより「溶剤浸漬後のボンド磁石重量」が求まる。
【0068】
(4)キュア処理
金型のキャビティから取り出した各ボンド磁石(圧縮成形体)を大気中で150℃×30分間加熱して、バインダ樹脂をほぼ完全に熱硬化させた。
着磁の記載。
【0069】
(5)着磁
各ボンド磁石は、空芯コイルにより磁場(6T)を印加して着磁した。
【0070】
《第2実施例/試料の製造》
上述した磁場変更成形において、配向磁場の印加終了時(t3)を種々変更したボンド磁石も製造した。具体的にいうと、t3を、成形開始時(原料供給時)から1.5分後(硬化度15%)、2.5分後(硬化度25%)、3分後(硬化度35%)、3.5分後(硬化度45%)または5分後(硬化度95%)のいずれかとした。t3の変更を除けば、第1実施例と同様な磁場変更成形を行った。但し、圧縮力は20MPaまたは30MPaのいずれかとした。なお、本実施例では、圧縮終了時(t4)を成形開始時(原料供給時)から硬化度70%以上のときとした。このため、t3=5分(硬化度95%)のときは、実質的に定磁場成形(t3=t4=t5)を意味する。
【0071】
《測定・観察》
(1)密度
キュア処理後のボンド磁石の実密度(ρ)を、外形寸法から求まる体積と測定した質量とを用いて算出した。
【0072】
(2)磁気特性
ボンド磁石の磁気特性を直流BHトレーサー(東英工業株式会社製TRF-5BH-25Auto)を用いて常温で測定した。得られたB-H曲線から残留磁束密度(Br)を求めた。また、飽和磁化(4πIs)に対する残留磁束密度の比率(Br/4πIs)を配向度とした。
【0073】
《評価》
第1実施例に基づいて、各ボンド磁石の密度を圧縮力毎にプロットした散布図を図2に示した。また第2実施例に基づいて、各ボンド磁石の密度、配向度および残留磁束密度を、図3A図3B(両者を併せて「図3」という。)に示した。図3Aは圧縮力を20MPaとしたときであり、図3Bは圧縮力を30MPaとしたときである。
【0074】
図2から明らかなように、磁場変更成形を行うと、定磁場成形を行う場合よりも、高密度なボンド磁石が得られた。また、磁場変更成形して得られたボンド磁石の密度は、無磁場成形して得られたボンド磁石の密度とほぼ同程度であった。
【0075】
従って、磁場変更成形を行うと、磁場中成形を行う場合よりも、ボンド磁石の高密度化または圧縮力の低減を図れることがわかった。
【0076】
図3から明らかなように、磁場変更成形を行う場合、配向磁場の印加終了時(t3)を適切に設定することにより、高密度または高残留磁束密度と、高配向度を両立できることもわかった。第2実施例に基づけば、配向磁場の印加を終了(遮断)する時刻(t3)は、成形開始時(t0)から2.5~4分後(硬化度:25~70%)さらには3~3.5分後(硬化度:35~45%)とされるよい。
【0077】
《ロータ》
上述した磁場変更成形を行って、永久磁石内包型同期モータ(IPM)のロータコア(筐体/電磁部材)のスロット(キャビティ)にボンド磁石を一体成形した。こうして得られたロータ(界磁子)の外観を図4に示した。なお、ロータコアは、所望形状に打ち抜かれたケイ素鋼板の積層体からなる。
【0078】
ボンド磁石の成形圧が小さかったため、スロットの外周縁にある薄肉部でも、変形は殆ど生じなかった。従って、本発明の製造方法によれば、高密度および高配向度なボンド磁石を有する高精度(真円度、円筒度)なIPM用ロータが得られることも確認された。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3A
図3B
図4