(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157629
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】遮音シート部材の製造方法及び遮音シート部材
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20221006BHJP
E04B 1/86 20060101ALI20221006BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G10K11/16 130
E04B1/86 K
E04B1/86 Q
G10K11/172
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061956
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越峠 晴貴
【テーマコード(参考)】
2E001
5D061
【Fターム(参考)】
2E001DF02
2E001DF05
2E001FA10
2E001FA14
2E001GA17
2E001GA24
2E001HD11
5D061AA06
5D061AA25
5D061BB31
5D061DD11
(57)【要約】
【課題】本発明は、遮音性能に優れるヘルムホルツ型凸部を有する遮音シート部材の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】シート部と、前記シート部の少なくとも一方の面に設けられた複数の凸部と、を有し、前記凸部は、内部に空間部と、前記凸部の表面から前記空間部までを貫通する孔部とを有する、遮音シート部材の製造方法であって、前記孔部を形成するためのピン部を有する複数の凹部を有する金型に、モノマー及び/又はポリマー含有組成物を流し込む流し込み工程を有する、遮音シート部材の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部と、
前記シート部の少なくとも一方の面に設けられた複数の凸部と、を有し、
前記凸部は、内部に空間部と、前記凸部の表面から前記空間部までを貫通する孔部とを有する、遮音シート部材の製造方法であって、
前記孔部を形成するためのピン部を有する複数の凹部を有する金型に、モノマー及び/又はポリマー含有組成物を流し込む流し込み工程を有する、遮音シート部材の製造方法。
【請求項2】
前記流し込み工程において、前記凹部に流し込まれた前記モノマー及び/又はポリマー含有組成物中に気体が含まれるように、かつ、該気体の内部に前記ピン部の先端部分が入るように該モノマー及び/又はポリマー含有組成物を流し込むことを特徴とする、請求項1に記載の遮音シート部材の製造方法。
【請求項3】
前記凹部の形状が、円柱形状、角柱形状、半球形状、又は楕円体形状である、請求項1又は2に記載の遮音シート部材の製造方法。
【請求項4】
前記凹部が並列する方向の断面の内、凹部の面積の割合が最大となる断面において取り得る最長の線分の長さが0.5mm以上10mm以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の遮音シート部材の製造方法。
【請求項5】
前記凹部の高さが1mm以上20mm以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の遮音シート部材の製造方法。
【請求項6】
前記ピン部の直径が0.05mm以上5mm以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の遮音シート部材の製造方法。
【請求項7】
前記モノマー及び/又はポリマー含有組成物が光重合性化合物を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の遮音シート部材の製造方法。
【請求項8】
前記モノマー及び/又はポリマー含有組成物の粘度が100mPa・s以上2000mPa・s以下であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の遮音シート部材の製造方法。
【請求項9】
前記モノマー及び/又はポリマー含有組成物の流し込み速度が1m/min以上7m/min以下であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の遮音シート部材の製造方法。
【請求項10】
シート部と、
前記シート部の少なくとも一方の面に設けられ、複数の凸部と、を有し、
前記凸部は、内部に空間部と、前記凸部の先端面又は側面のいずれかの面から前記空間部までを貫通する孔部とを有する、遮音シート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮音シート部材の製造方法及び遮音シート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅、オフィスビルやホテル等の建物においては、自動車、鉄道、航空機、船舶等からの屋外騒音や建物内部で発生する設備騒音や人声を遮断して、室用途に適した静謐性が要求される。また、自動車、鉄道、航空機、船舶等の乗り物においては、風切り音やエンジン音を遮断して、乗員に静粛で快適な空間を提供するために室内騒音を低減する必要がある。そのため、屋外から屋内、または、乗り物の室外から室内への騒音や振動の伝搬を遮断する手段、すなわち、遮音手段の研究開発が進められてきている。近年では、建物における高層化、乗り物におけるエネルギー効率向上、さらに、建物、乗り物やそれらの設備の設計自由度向上のために、複雑な形状にも対応可能な遮音部材が求められている。
【0003】
従来、遮音部材、特にシート状の部材については、遮音性能を向上させるために、部材構造の改良がなされてきた。例えば、石膏ボード、コンクリート、鋼板、ガラス板、樹脂板等の剛性のある平板材を複数枚組み合わせて用いる方法(特許文献1)や、石膏ボード等を用いて中空二重壁構造や中空三重壁構造とする方法(特許文献2)、平板材と複数の独立した切り株状の突起とを組み合わせて用いる方法(特許文献3、4、5)等が知られている。
【0004】
またシート状に凸部を形成する成形方法としてはロール凹版に電離放射線硬化型樹脂液を充填した後にシート部を接する状態で硬化させる方法(特許文献6)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-231316号公報
【特許文献2】特開2017-227109号公報
【特許文献3】特開2000-265593号公報
【特許文献4】国際公開第2017/135409号
【特許文献5】国際公開第2019/208727号
【特許文献6】特許第3616109号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1~5における遮音部材においては、遮音性能を向上させるために、部材構造の観点からの改良が図られている。しかしながら、低周波数帯域の遮音性については改良が十分に行われていないという問題があった。
本問題に対して、凸部が例えば空洞等を有するヘルムホルツ型の凸部であることにより低周波数帯域の遮音性が改善できることが分かった。しかし、このような構造の製造は困難を要する。
【0007】
本発明は、遮音性能に優れるヘルムホルツ型凸部を有する遮音シート部材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、遮音シート部材の製造において、モノマー及び/又はポリマー含有組成物を特定の形状を有する金型に流し込む工
程を適用することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
[1] シート部と、
前記シート部の少なくとも一方の面に設けられた複数の凸部と、を有し、
前記凸部は、内部に空間部と、前記凸部の表面から前記空間部までを貫通する孔部とを有する、遮音シート部材の製造方法であって、
前記孔部を形成するためのピン部を有する複数の凹部を有する金型に、モノマー及び/又はポリマー含有組成物を流し込む流し込み工程を有する、遮音シート部材の製造方法。
[2] 前記流し込み工程において、前記凹部に流し込まれた前記モノマー及び/又はポリマー含有組成物中に気体が含まれるように、かつ、該気体の内部に前記ピン部の先端部分が入るように該モノマー及び/又はポリマー含有組成物を流し込むことを特徴とする、[1]に記載の遮音シート部材の製造方法。
[3] 前記凹部の形状が、円柱形状、角柱形状、半球形状、又は楕円体形状である、[1]又は[2]に記載の遮音シート部材の製造方法。
[4] 前記凹部が並列する方向の断面の内、凹部の面積の割合が最大となる断面において取り得る最長の線分の長さが0.5mm以上10mm以下であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の遮音シート部材の製造方法。
[5] 前記凹部の高さが1mm以上20mm以下であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の遮音シート部材の製造方法。
[6] 前記ピン部の直径が0.05mm以上5mm以下であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の遮音シート部材の製造方法。
[7] 前記モノマー及び/又はポリマー含有組成物が光重合性化合物を含むことを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の遮音シート部材の製造方法。
[8] 前記モノマー及び/又はポリマー含有組成物の粘度が100mPa・s以上2000mPa・s以下であることを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の遮音シート部材の製造方法。
[9] 前記モノマー及び/又はポリマー含有組成物の流し込み速度が1m/min以上7m/min以下であることを特徴とする、[1]~[8]のいずれかに記載の遮音シート部材の製造方法。
[10] シート部と、
前記シート部の少なくとも一方の面に設けられ、複数の凸部と、を有し、
前記凸部は、内部に空間部と、前記凸部の先端面又は側面のいずれかの面から前記空間部までを貫通する孔部とを有する、遮音シート部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により、シート部と、該シート部の少なくとも一方の面に設けられた複数の凸部とを有し、該凸部は内部に空間部と、が凸部の先端面又は側面のいずれかの面から前記空間部までを貫通する孔部を有する遮音シート部材を作製することができ、ヘルムホルツ共鳴器の原理によって低周波数帯域の遮音性に優れる遮音シート部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の遮音シート部材を示す概略斜視図である。
【
図3】実施形態に係る遮音シート部材の断面図である。
【
図4】遮音シート部材の製造工程の一例を示す図である。
【
図5】回転式による遮音シート部材の製造工程の一例を示す図である。
【
図6】平板式による遮音シート部材の製造工程の一例を示す図である。
【
図7】共振周波数の計算に用いたユニットセルの概略構成図である。
【
図8】共振周波数の計算に用いたユニットセルの概略構成図である。
【
図9】共振周波数の計算に用いたユニットセルの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いながら説明するが、本発明はこれらの図面及び実施の形態に限定されるものではない。
本明細書において、凸部及び凹部に係るパラメータは、特段の断りがない限り、それぞれ、複数の凸部に係るパラメータの平均値、及び複数の凹部に係るパラメータの平均値を表す。
【0013】
<1.遮音シート部材の製造方法>
本発明の一実施形態に係る遮音シート部材の製造方法(単に「遮音シート部材の製造方法」とも称する。)は、
シート部と、
前記シート部の少なくとも一方の面に設けられた複数の凸部と、を有し、
前記凸部は、内部に空間部と、前記凸部の先端面又は側面のいずれかの面から前記空間部までを貫通する孔部とを有する、遮音シート部材の製造方法であって、
前記孔部を形成するためのピン部を底部又は側面部にピン部を有する複数の凹部を有する金型に、モノマー及び/又はポリマー含有組成物を流し込む流し込み工程を有する、遮音シート部材の製造方法である。この遮音シート部材の製造方法は、上記の流し込み工程以外の工程を有していてもよい。
【0014】
本実施形態に係る遮音シート部材の製造方法により製造される遮音シート部材の一例を
図1に示す。
図1に示す遮音シート部材100は、シート部11と、該シート部11の一方の面に設けられた複数の凸部12とを有し、該凸部12が内部に空間部14と、該凸部の先端面から該空間部14までを貫通する孔部15とを有する。該シート部11は、シート面11a及びシート面11bを有する。また、
図2は、
図1におけるI-I矢視断面図である。
図2に示す遮音シート部材100は、該凸部12は、空間部14及び孔部15の周囲設けられて凸形状を形成する凸形成部13と空間部14とから構成される。また、
図2に示す点線Bは、シート部11と凸部12との境界を示す線である。また、
図2において、t1は凸部12の高さ、t2はシート部11の厚み、w1は凸部12の幅、w2はシート部平面方向の空間部14の断面幅、w3は入音方向に垂直な方向の孔部15の断面幅を示す。
なお、本明細書において、シート部11における凸部12が設けられた領域とは、遮音シート部材100を平面視した場合に凸部12に重複するシート部11の領域であり、
図2においては、w1で示される幅を有するシート部11の領域である。
【0015】
本実施形態に係る凸部は、空間部及び孔部を有しており、いわゆるヘルムホルツ型吸音構造(ヘルムホルツ構造)を構成している。このヘルムホルツ構造では、共鳴現象を利用して、孔部から空間部へ入った音のエネルギーを摩擦熱に変換させることで遮音特性を示す。孔部の形状が円柱形状である場合、ヘルムホルツ構造は孔部を持った容器の内部にある空間部(例えば、空気)がばねとしての役割をすることで音を減衰させるもので、次式で表される。
【0016】
【0017】
上記式中、fは遮音周波数、cは音速、aは円柱形状の孔部の底面の半径、Vは空間部の体積、Lは円柱形状の孔部の高さを表す。上記式から、空間部の体積が大きく、孔部の長さが長いほど、また、孔部の入音方向と垂直方向の断面積が小さいほど、吸音される音の周波数が小さくなる。つまり、これらのパラメータを所望の数値に設定することにより低周波数帯域の遮音性に優れる遮音部材を実現することができる。なお、上記式は、孔部の形状が円柱形状である場合の式であるが、角柱などの形状でも同様の傾向が示され、孔部の入音方向と垂直方向の断面積が小さくなるとaが小さくなり遮音周波数が小さくなる。本発明者らは、このようなヘルムホルツ構造を複数有することで、遮音性能に優れるシート部材を製造することができることに注目したが、そのような構造を有する部材を製造することは困難であった。しかしながら、本発明者らの鋭意検討により、以下に示す方法であれば、複数のヘルムホルツ構造を有するシート部材を製造することができることが見出された。
【0018】
円柱形状の凸部12を有する遮音シート部材100の態様の例を
図3(a)~(d)に示す。
図3(a)~(d)に示す符号は、
図2における符号と同様である。
図3(a)に示す遮音シート部材100は、
図2と同様に、凸部12にのみ空間部14を有し、孔部15がシ凸部の先端面側に設けられる態様である。
図3(b)に示す遮音シート部材100は、凸部12にのみ空間部14を有し、孔部15がシ凸部の側面側に設けられる態様である。
図3(c)に示す遮音シート部材100は、空間部14の領域が凸部12のみならずシート部11にまで及んでいる態様である。
図3(d)に示す遮音シート部材100は、空間部14の形状が球状でなく、直方体(又は立方体)の形状である態様である。
上記の態様はいずれもヘルムホルツ構造を有するものであり、上述したヘルムホルツ構造による効果を得ることができる。
【0019】
以下、本実施形態に係る製造方法を詳細に説明する。
<1-1.流し込み工程>
遮音シート部材の製造方法は、孔部を形成するためのピン部を底部又は側面部にピン部を有する凹部を有する金型に、モノマー及び/又はポリマー含有組成物を流し込む流し込み工程を有する
【0020】
[1-1-1.金型]
本実施形態で使用する金型の材質は特段制限されず、例えば、アルミニウム、黄銅、鋼、SUS等の金属製の型;シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂、フッ素樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等の樹脂製の型;樹脂にめっきを施した型;樹脂に各種金属粉を混合した材料で作製した型等が挙げられる。これらの金型の中でも、耐熱性及び機械強度に優れ、連続生産に適していることから、金型が好ましい。具体的には、金型は、重合発熱に対する耐久性が高い、変形しにくい、傷が付きにくい、温度制御が可能である、精密成形に適している等の多くの点で好ましい。本明細書における「金型」は、金属製の型に限定されず、上記のような金属製でない型も含む。
金型は平板状であってもロール状であってもよいが、連続生産性に適していることからロール状であることが好ましい。
【0021】
(金型凹部製造方法)
金型に凹部を形成する方法としては、例えば、アルミニウムや鋼を切削加工によって作製する方法、銅めっきをエッチングして作製する方法、樹脂を射出成形等の方法で作製する方法が挙げられる。この中でも、形状精度や重合発熱に対する耐久性に優れていることから切削加工による製造が好ましい。
【0022】
(金型凹部のピン部の製造について)
金型凹部底面部にピン部を設ける方法としては前述した切削加工法において、例えばエンドミル刃を用いて凹部を切削してゆき、ピンとなる部分が残るように加工を実施することで金型凹部底面部にピン部を作製することができる。ピン部が設けられる位置について、本実施形態では、ピン部を巻き込むようにしてモノマー及び/又はポリマー含有組成物が流し込まれることにより、凹部の内部に空気を残しつつ凸部を形成させることができる、つまり、空間部と孔部を有するヘルムホルツ構造を形成させることができるため、ピン部の位置に制限はなく、例えば、凹部が円柱形状等の形状であれば底面部又は側面部のいずれの箇所に設けられていてもよいが、製造安定性の観点から、柱形状である場合には底面部に設けられていることが好ましい。
【0023】
(金型凹部形状)
金型凹部の形状としては、円柱形状、角柱形状、半球形状、楕円体形状が挙げられる。この中でも切削加工のし易さとピン部の形成し易さから円柱形状が好ましい。複数設けられる凹部の形状は1種類単独で形成されてもよく、2種類以上を併用してもよい。
金型凹部の凹部が並列する方向に平行な断面のうち、面積が最大である断面における断面積は、特段制限されないが、通常0.5mm2以上であり、1mm2以上であることが好ましく、5mm2以上であることがより好ましく、また、通常200mm2以下であり、180mm2以下であることが好ましく、150mm2以下であることがより好ましい。上記の面積が0.5mm2以上であると、ヘルムホルツ共鳴器の内部容積が大きくなるために低周波数帯域の遮音性に優れる。また、上記の面積が200mm2以下であると金型凹部に樹脂を塗布する際に空気を巻き込み易くなる。
凹部が並列する方向の断面の内、凹部の面積の割合が最大となる断面において取り得る最長の線分の長さ(円柱形状である場合には、底面の円の直径)は、特段制限されないが、0.5mm以上であることが好ましく、0.8mm以上であることがより好ましく、1mm以上であることが更に好ましく、また、10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましく、7mm以下であることが更に好ましい。金型凹部の直径が0.5mm以上であると、ヘルムホルツ共鳴器の内部容積が大きくなるために低周波数帯域の遮音性に優れる。また、金型凹部の直径が10mm以下であると金型凹部に樹脂を塗布する際に空気を巻き込み易くなる。
金型凹部の高さ(凹部が並列する方向に垂直の方向の長さ)は、特段制限されないが、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、また、20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることが更に好ましい。金型凹部の高さが1mm以上であると、ヘルムホルツ共鳴器の内部容積が大きくなるために低周波数帯域の遮音性に優れる。また、金型凹部の直径が20mm以下であると金型凹部に樹脂を塗布する際に空気を巻き込み易くなる。
金型に設けられる凹部の個数は、複数であれば(2以上であれば)特段制限されないが、製造コストの観点から、複数であることが好ましい。具体的な個数としては、例えば、200個/m2以上であり、500個/m2以上であることが好ましく、1000個/m2以上であることがより好ましく、また、1000000個/m2以下であり、800000個/m2以下であることが好ましく、600000個/m2以下であることがより好
ましい。
なお、本発明の別の実施形態では、金型に設けられる凹部の個数を1個として遮音シート部材を作製することができる。この場合には、凸部を1つずつ作製し、これをシート部へ複数接着することにより作製することができ、凸部やシート部の条件は、前述の又は後述の凹部が複数ある実施形態に係る条件を同様に適用することができる。
【0024】
(金型凹部のピン部)
金型凹部に設けられるピン部は、凸部の表面から前記空間部までを貫通する孔部を形成するために付与する。ピン部の形状は円柱状であってもよいし、角柱状、円錐状、角錐状であってもよい。
例えば、凹部に設けられたピン部を取り囲むようにモノマー及び/又はポリマーを塗布することで、凸部の表面から前記空間部までを貫通する孔部を形成することができる。
金型凹部のピン部は前述した通り、ピン部を残すように切削加工することによって作製することができる。ピン部の入音方向に対して垂直な方向の断面の最大長さ(ピン部が円柱形状である場合には底面の直径)は0.05mm以上であることが好ましく、0.07mm以上であることがより好ましく、0.08mm以上であることが更に好ましく、また、5mm以下であることが好ましく、3mmであることがより好ましく、1mm以下であることが更に好ましい。ピン部の直径が0.05mm以上であると剛性に優れるために、賦形又は成形によるピン部の変形や欠損が生じにくい。また、ピン部の直径が5mm以下であるとヘルムホルツ共鳴器の開口部径が小さくなるために低周波数帯域の遮音性に優れる。ピン部の高さは、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましく、0.2mm以上であることがさらに好ましく、0.3mm以上であることが更に好ましく、また、5mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることがさらに好ましく、2mm以下であることが更に好ましい。ピン部の高さが0.05mm以上であると孔部の長さがながくなり遮音性能にすぐれ、また、5mm以下であるとピン部の剛性に優れ成形時にピン部が曲がったり、折れることを抑制することができる。
【0025】
[1-1-2.モノマー及び/又はポリマー含有組成物]
モノマー及び/又はポリマー含有組成物(単に「組成物」とも称する。)は、凸部を形成することができるモノマー及び/又はポリマーを含有していれば特段制限されず、他の成分を有していてよい。
(モノマー及び/又はポリマー)
凸部の材料は樹脂又はエラストマーであり、特にゴム弾性を有する樹脂及び/又はエラストマーであることが好ましく、例えば、樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂が挙げられ、エラストマーとしては、熱、光硬化性エラストマー、又は熱可塑性エラストマーが挙げられるが、これらの中でも光硬化性樹脂又は光硬化性エラストマー、つまり組成物中に含まれるモノマー及び/又はポリマーとして光重合性化合物を用いることが好ましく、特に、靭性に優れ、生産性に優れることから、光硬化性樹脂を含むこと、つまり組成物中に含まれるモノマー及び/又はポリマーとして光重合性化合物を用いることが好ましい。
上記の樹脂又はエラストマーの成形体を作製するため、モノマー及び/又はポリマー含有組成物には、上記の樹脂を溶媒に溶解させたものを用いてもよく、この場合には熱により溶媒を除去することで樹脂の成形体を作製することができ、また、上記の樹脂のモノマー等の原料を混合したものを用いてもよく、この場合には熱や光によって硬化させることで樹脂又はエラストマーの成形体を作製することができ、また、熱可塑性樹脂を加熱して溶解させたものを用いてもよく、この場合には冷却することで樹脂又はエラストマーの成形体を作製することができ、また、上記のエラストマー又は溶媒に溶解させたエラストマーと架橋剤とを混合させたものを用いてもよく、この場合には熱や光によって硬化させることで樹脂又はエラストマーの成形体を作製することができる。
モノマー及び/又はポリマーは、1種の材料を単独で用いてもよく、2種以上の材料を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよいが、貯蔵弾性率、引張破断伸度等の特性を制御することができる観点から、2種以上の材料を組み合わせることが好ましい。
【0026】
以下、凸部の材料として使用し得る樹脂及びエラストマーについて説明するが、上述の通り、モノマー及び/又はポリマー含有組成物には、これらの樹脂又はエラストマーのモノマーを含有させるか、又は熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性エラストマーそのものを含有させることができる。
樹脂として、例えば、不飽和ポリエステル樹脂(モノマーとしては例えば、飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸、及びジオール)、フェノール樹脂(モノマーとしては例えば、フェノール及びホルムアルデヒド)、エポキシ樹脂(モノマーとして例えば、ビスフェノールA及びエピクロルヒドリン)、ウレタン樹脂(モノマーとして例えば、ジオール及びジイソシアネート)、ロジン変性マレイン酸樹脂(モノマーとして例えば、ロジン、マレイン酸、及びポリオール)等の熱硬化性樹脂;
エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、これらの変性体等の単量体の単独重合体又は共重合体等の光硬化性樹脂;
酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルブチラール、ビニルピロリドン等のビニル系単量体の単独重合体共重合体又は、飽和ポリエステル樹脂(モノマーとして例えば、飽和二塩基酸及びジリオール)、ポリカーボネート樹脂(モノマーとして例えば、ビスフェノールA及びホスゲン)、ポリアミド樹脂(モノマーとして例えば、ジアミン及びジカルボン酸)、ポリオレフィン樹脂(モノマーとして例えば、エチレン又はプロピレン)、ポリアリレート樹脂(モノマーとして例えば、芳香族二塩基酸ジカルボン酸及び芳香族ジオール)、ポリスルホン樹脂(モノマーとして例えば、ビスフェノールAの金属塩及びジハロゲン化ジフェニルスルホン)、ポリフェニレンエーテル樹脂(モノマーとして例えば、ハロゲン化ベンゼン及びフェノールの金属塩)等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、硬化物の靭性に優れるウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートの単量体の単独重合体又は共重合体が好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートの単量体の単独重合体が特に好ましい。
【0027】
エラストマーとして、例えば、化学架橋された天然ゴム或いは合成ゴム等の加硫ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の熱硬化性樹脂系エラストマー等の熱硬化性エラストマー;オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー;アクリル系光硬化性エラストマー、シリコーン系光硬化性エラストマー、エポキシ系光硬化性エラストマー等の光硬化性エラストマー;シリコーン系熱硬化性エラストマー、アクリル系熱硬化性エラストマー、エポキシ系熱硬化性エラストマーが挙げられる。これらの中でも、熱硬化性エラストマーであるシリコーン系熱硬化性エラストマー、アクリル系熱硬化性エラストマー、光硬化性エラストマーであるアクリル系光硬化性エラストマー、又はシリコーン系光硬化性エラストマーが好ましい。
【0028】
光硬化性樹脂とは、光照射により重合する樹脂である。例えば、光ラジカル重合性樹脂、及び光カチオン重合性樹脂が挙げられる。なかでも、光ラジカル重合性樹脂が好ましい。光ラジカル重合性樹脂は、少なくとも分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する光ラジカル重合性モノマー(光重合性化合物)としては、特に限定されないが、硬化物の弾性率の観点から、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ブチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、モルホリン-4-イル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、硬化物の靭性の観点から、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートであることが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートであることが特に好ましい。
【0029】
また、モノマー及び/又はポリマー含有組成物は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を含んでもよい。エチレン性不飽和結合を有する化合物として、スチレン、α-メチルスチレン、α-クロロスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル系モノマー類;酢酸ビニル、酪酸ビニル、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、アジピン酸ジビニル等のビニルエステルモノマー類;エチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ジアリルフタレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のアリル化合物類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸モルフォリル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカン、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル等のモノ(メタ)アクリレート;ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール(繰返し単位数:5~14)、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール(繰返し単位数:5~14)、ジ(メタ)アクリル酸1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ポリブチレングリコール(繰返し単位数:3~16)、ジ(メタ)アクリル酸ポリ(1-メチルブチレングリコール)(繰返し単位数:5~20)、ジ(メタ)アクリル酸1,6-ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,9-ノナンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジシクロペンタンジオールのジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのカプロラクトン付加物(n+m=2~5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのγ-ブチロラクトン付加物(n+m=2~5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ネオペンチルグリコールのカプロラクトン付加物(n+m=2~5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ブチレングリコールのカプロラクトン付加物(n+m=2~5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、シクロヘキサンジメタノールのカプロラクトン付加物(n+m=2~5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ジシクロペンタンジオールのカプロラクトン付加物(n+m=2~5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAのカプロラクトン付加物(n+m=2~5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールFのカプロラクトン付加物(n+m=2~5)のジ(メタ)アクリル酸エステルビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(p=1~7)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(p=1~7)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールFエチレンオキサイド付加物(p=1~7)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールFプロピレンオキサイド付加物(p=1~7)のジ(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(p=1~5)のトリ(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド付加物(p=1~5)のトリ(メタ)アクリル酸エステル、グリセリントリ(メタ)アクリル酸エステル、グリセリンエチレンオキサイド付加物(p=1~5)のトリ(メタ)アクリル酸エステル、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ジトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(p=1~5)のテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(p=1~5)のトリ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(p=1~15)のテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(p=1~5)のトリ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(p=1~15)のテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(p=1~5)のペンタ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(p=1~15)のヘキサ(メタ)アクリル酸エステル、N,N',N"-トリス((メタ)アクリロキシポリ(p=1~4)(エトキシ)エチル)イソシアヌレート等のポリ(メタ)アクリレートペンタエリスリトールカプロラクトン(4~8モル)付加物のトリ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールカプロラクトン(4~8モル)付加物のテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールカプロラクトン(4~12モル)付加物のペンタ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールカプロラクトン(4~12モル)付加物のヘキサ(メタ)アクリル酸エステル、N,N',N"-トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、N,N'-ビス(アクリロキシエチル)-N"-ヒドロキシエチルイソシアヌレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸プロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、及びイソシアヌル酸エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;ビスフェノールAグリシジルエーテル、ビスフェノールFグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等の分子内に複数のエポキシ基を有するポリエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との付加反応により得られるエポキシポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、硬化物の靭性に優れる、フェノキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、メトキシポリエチレングリコールアクリレートが好ましく、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、メトキシポリエチレングリコールアクリレートがより好ましい。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
モノマー及び/又はポリマー含有組成物中のモノマー及び/又はポリマーの含有量は、靭性や製造コスト、他の機能などの観点から、適宜調整することができ、特に限定されない。例えば、通常70重量%以上であり、80重量%以上であることが好ましい。また、100重量%であってもよく、99重量%以下であることが好ましい。
【0031】
モノマー及び/又はポリマー含有組成物が光硬化性樹脂又は光硬化性エラストマーを含む場合、成形性や機械的強度の向上、製造コストの低減等の観点から、組成物は光重合開始剤を含むことが好ましく、例えば、ベンゾイン系、アセトフェノン系、チオキサントン系、フォスフィンオキシド系及びパーオキシド系等の光重合開始剤を挙げることができる。上記の光重合開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4-フェニルベンゾフェノン、t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2-メチル-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノ-1-プロパノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、メチルベンゾイルホルメート等を例示することができる。これらは1種の材料を単独で用いてもよく、2種以上の材料を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0032】
モノマー及び/又はポリマー含有組成物が光硬化性樹脂又は光硬化性エラストマーを含む場合、該組成物中の光重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、機械的強度の向上や適切な反応速度の維持の観点から、通常0.1重量%以上であり、0.3重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましい。また、通常3重量%以下であり、2重量%以下であることが好ましい。
【0033】
モノマー及び/又はポリマー含有組成物がエラストマーを含む場合、エラストマーを硬化させるための架橋剤を含んでいてよい。架橋剤の種類はエラストマーの種類に応じて適宜決定することができるが、例えば、硫黄等が挙げられる。
モノマー及び/又はポリマー含有組成物がエラストマーを含む場合、該組成物中の架橋剤の含有量は、特段制限されないが、機械的強度の向上や適切な反応速度の維持の観点から、通常10重量%以上であり、20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、また、通常90重量%以下であり、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。
【0034】
モノマー及び/又はポリマー含有組成物は、モノマー及び/又はポリマーの種類に応じて溶媒を含んでいてもよい。溶媒を含む場合、組成物中遠溶媒の含有量は、十分な量のモノマー及び/又はポリマーを溶解させる観点から、また、溶媒キャスト時の気体の発生を抑制する観点から、通常0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、また、通常30重量%以下であり、20重
量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
【0035】
モノマー及び/又はポリマー含有組成物は、上記の成分以外の成分を含んでいてよく、例えば、増粘剤、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、又は着色剤等の各種添加剤を含んでいてよい。
難燃剤は、可燃性の素材を燃え難くする又は発火しないようにするために配合される添加剤である。その具体例としては、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン等の臭素化合物、トリフェニルホスフェート等のリン化合物、塩素化パラフィン等の塩素化合物、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、メラミンシアヌレート等の窒素化合物、又はホウ酸ナトリウム等のホウ素化合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
また、酸化防止剤は、酸化劣化防止のために配合される添加剤である。その具体例としては、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、又はリン系酸化防止剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
さらに、可塑剤は、柔軟性や耐候性を改良するために配合される添加剤である。その具体例としては、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、シリコーン油、鉱物油、もしくは植物油、又はこれらの変性体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
さらに、着色剤として、色素や顔料等が挙げられる。
これらの各種添加剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
(組成物粘度)
モノマー及び/又はポリマー含有組成物の粘度は、100mPa・s以上であることが好ましく、150mPa・s以上であることがより好ましく、200mPa・s以上であることが更に好ましく、また、2000mPa・s以下であることが好ましく、1500mPa・s以下であることがより好ましく、1000mPa・s以下であることが更に好ましい。樹脂の粘度が上記範囲内であると、後述するが金型に樹脂を塗布する際に金型凹部に残存する空気の量を制御することが容易である。粘度が大きすぎると凹部への樹脂流入量が低下し空間部を形成することが難しくなり、粘度が低すぎると凹部への樹脂流入量が増加し空間部が形成されなくなる。粘度は、組成物中の溶媒やモノマー及び/又はポリマーの含有量の制御、又はモノマー及び/又はポリマーの分子量の制御等によって調整することができる。
【0037】
[1-1-3.モノマー及び/又はポリマー含有組成物の流し込み]
金型へのモノマー及び/又はポリマー含有組成物の流し込みは、凹部に流し込まれたモノマー及び/又はポリマー含有組成物中に気体が含まれるように、かつ、該気体の内部にピン部の先端部分が入るように実施されれば特段制限されず、例えば
図4に示すような方法で流し込みを行う。流し込みの態様について、モノマー及び/又はポリマー含有組成物を金型の凹部に流し込むことができれば特段制限されず、例えば、塗布により行うことができ、特に、上述した組成物の粘度の条件、及び後述する組成物の流し込み速度の条件を満たせば気体の形成が可能となる。また、流し込み工程における気体の条件や、成形後の空間部の条件は、これらの組成物の粘度の条件、及び組成物の流し込み速度の条件を制御することにより調整することができる。ただし、上記の組成物中の気体は、その内部にピン部の先端部分が入るように形成されるが、ヘルムホルツ構造を形成する観点から、ピン部全体が気体の内部に入らないように形成されることが重要である。
図4の態様では、
図4(a)に示すように、孔部を形成するためのピン部63を有する
複数の凹部62を有する金型を準備する。続いて、凹部並列方向(
図4(a)中の矢印で示す方向)に沿って金型の表面を沿って凹部に流し込むように、後述する組成物製造工程で製造したモノマー及び/又はポリマー含有組成物を流し込む。凹部並列方向に沿って金型の表面を沿って凹部に流し込むようにする、という態様を実現できる観点から、上述の通り塗布により行うことが好ましい。この際、
図4(b)に示されるように、凹部62中の空気(気体)を巻き込むように、かつ、巻き込んだ後の空気(気体)にピン部の先端部分が入るように該組成物を流し込む。前記組成物を塗布したのちに、基材フィルムを被せることで、金型に大きな衝撃を与えない限り、ピン部の先端部分が入るように形成された空気はこの状態で保持されることとなる。また、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを用いる場合には、流し込む前に組成物を加熱して軟化状態にしてから流し込みを行う。続いて、後述する硬化工程において、熱又は光によって硬化する樹脂及び/又はエラストマーである場合には、加熱又は光の照射により組成物を硬化させるか、又は軟化状態の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを用いる場合には、冷却して組成物を硬化させる。これらの硬化処理は、流し込み後できるだけ速やかに行うことが好ましい。続いて、後述する剥離工程において、
図4(c)に示されるように、硬化した成形体を金型から剥がし、遮音シート部材を得る。
なお、上記のモノマー及び/又はポリマー含有組成物の流し込みにより形成された気体の形状及びサイズは、金型に大きな衝撃を与えない限り、最終的に得られる遮音シート部材における空間部の形状及びサイズとそれぞれ同等のものとなる。
【0038】
モノマー及び/又はポリマー含有組成物の流れ込みによって形成される気体の形状は、特段制限されず、球形状であってもよく、四角柱形状や五角柱形状等の多角柱形状であってもよく、不定形状であってもよいが、成形容易性及び品質の安定化の観点からは球形状であることが好ましい。
また、上記の気体の体積は、特段制限されないが、低周波数帯域の遮音性を向上させる観点から、通常0.9mm3以上であり、5mm3以上であることが好ましく、10mm3以上であることがより好ましく、20mm3以上であることが更に好ましく、また、通常4000mm3以下であり、3500mm3以下であることが好ましく、3000mm3以下であることがより好ましく、2500mm3以下であることが更に好ましい。
【0039】
金型へのモノマー及び/又はポリマー含有組成物の流し込み速度は、特段制限されないが、凹部に流し込まれたモノマー及び/又はポリマー含有組成物に気体が残存するようにモノマー及び/又はポリマー含有組成物を流し込む観点から、通常1m/min以上であり、1.2m/min以上であることが好ましく、1.5m/min以上であることがより好ましく、また、通常7m/min以下であり、6m/min以下であることが好ましく、5m/min以下であることがより好ましい。
【0040】
図4に示すように遮音シート部材を製造する場合、凸部とシート部とが一体に成型され、一体成型品として遮音シート部材を製造することができる。このような一体に成形する方法は、後述する凸部とシート部とを別に作製して接着剤等で接続する方法と比較して、製造コストや安定した品質の確保の観点から有利である。
図4に示す方法の場合、凸部を構成する材料とシート部を構成する材料とが同じとなるが、これらは異なっていてもよい。シート部の材料を凸部の材料とは異なるものとする方法としては、例えば、金型に組成物を流し込んだ後、つまり
図4(b)に示す状態となった後、組成物を硬化させる前に、シート形状の部材を組成物に接触させ、凸部の硬化に併せてシート部と凸部とを接着させる方法が挙げられる。
【0041】
シート部に用いられる材料としては、凸部を支持可能なものであれば特に限定されず、上述した凸部と同じ材料としてもよく、異なる材料としてもよいが、製造コストや安定した品質の確保の観点から同じ材料であることが好ましい。シート部に用いられる材料の具
体例としては、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリノルボルネン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース、ポリスチレン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキサジン樹脂等の有機材料、これらの有機材料中にアルミニウム、ステンレス、鉄、銅、亜鉛、真鍮等の金属、無機ガラス、無機粒子や繊維を含む複合材料等が挙げられるが、これらに特に限定されず、シート部の製造に際しては、これらのポリマーを生成するためのモノマーを用いることができる。これらの中でも、遮音性、剛性、成形性、コスト等の観点から、支持体は、光硬化性樹脂シート、熱硬化性樹脂シート、熱可塑性樹脂シート、金属板及び合金板からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、特に、柔軟性と耐久性の観点から、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートであることが好ましく、その中でもポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。
シート部は、上述した凸部における各種添加剤を含んでいてもよい。
凸部とは別にシート部を作製する場合、その作製方法は特段制限されず、公知の方法、例えば、プレス成形や射出成形を利用する方法を適用することができる。
【0042】
<1-2.組成物製造工程>
遮音シート部材の製造方法は、上記の流し込み工程の前にモノマー及び/又はポリマー含有組成物を製造する組成物製造工程を有していてよい。
組成物を製造する方法は特段制限されず、例えば、上記のモノマー及び/ポリマー及びその他の必要な成分を攪拌翼を用いて攪拌する方法や自転・公転方式のミキサー等を用いて混合する方法が挙げられる。
また、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーをそのまま用いる場合には、これらを加熱して軟化することにより組成物を得ることができる。
【0043】
<1-3.硬化工程>
遮音シート部材の製造方法は、上記の流し込み工程の後に、凹部に流し込まれたモノマー及び/又はポリマー含有組成物を硬化する硬化する工程を有していてよい。該組成物を硬化する方法は、特段制限されず、モノマー及び/又はポリマーの種類に応じて適宜選択することができる。
モノマー及び/又はポリマー含有組成物を加熱によって硬化させる場合、加熱の条件は特段制限されないが、例えば加熱温度は、十分な強度の確保及び製造コスト低減の観点から、通常20℃以上であり、22℃以上であることが好ましく、24℃以上であることがより好ましく、また、70℃以下であり、65℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましく、さらに、加熱時間は、十分な強度の確保及び製造コスト低減の観点から、通常0.5時間以上であり、1時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、また、8時間以下であり、6時間以下であることが好ましく、4時間以下であることがより好ましい。
【0044】
モノマー及び/又はポリマー含有組成物を光照射によって硬化させる場合、光の種類は特段制限されず、ガンマ線、X線、紫外線、可視光線、又は赤外線等が挙げられるが、工業化の容易さから、紫外線であることが好ましい。
光の強度は、特段制限されず、通常50mW/cm2以上、1000mW/cm2以下であり、100mW/cm2以上、900mW/cm2以下であることが好ましく、200W/cm2以上、700W/cm2以下であることがより好ましい。
光の露光量は、特段制限されず、通常300mJ/cm2以上、10000mJ/cm2以下であり、500mJ/cm2以上、5000mJ/cm2以下であることが好ましく、800mJ/cm2以上、2000mJ/cm2以下であることがより好ましい。
【0045】
<1-4.剥離工程>
遮音シート部材の製造方法は、上記の硬化工程で得られた硬化物を金型から剥離する工程を有していてよい。この剥離の方法は特段制限されないが、シート部と凸部を一体に成形する方法により遮音シート部材を製造する場合には、シート部と凸部が剥離しないように金型から硬化物を剥離することが必要である。
【0046】
<1-5.シート部作製工程、凸部とシート部との接続工程>
遮音シート部材は、
図4に示すように凸部とシート部とを一体に成形して一体成型品としてもよいが、別々に成型して接着剤等により接続してもよい。凸部とシート部とを別々に成型する場合、遮音シート部材の製造方法は、シート部を作製するシート部作製工程、及び上述した凹部を有する金型への組成物の流し込みで作製された凸部とシート部作製工程で作製されたシート部を接着剤等で接続する接続工程を有していてよい。
シート部の材料及び作製方法は上述した材料及び作製方法を適用することができる。
凸部とシート部とを接着する接着剤の種類は、特段制限されず、モノマー及び/又はポリマーの種類に応じて適宜選択することができる。
【0047】
遮音シート部材は、シート部の少なくとも一方の面に複数の凸部が設けられていてよく、両面に設けられていてもよい。シート部の両面に複数の凸部が設けられる遮音シート部材は、上述した製造方法においてシート部の片面に複数の凸部を形成させた後、シート部の反対側の面にさらに上述の方法で複数の凸物を形成させることで製造することができる。
【0048】
遮音シート部材の製造方法における回転式及び平板式の具体例を以下に示すが、これに限定されない。
【0049】
(回転式)
シート部の少なくとも片面に複数の凸部を形成する方法としては、特許第3616109号(特許文献6)に記載されているような、グラビア印刷による賦形方法が挙げられ、後述する
図5に、金型へのモノマー及び/又はポリマー含有組成物の流し込みを可能とするグラビア印刷装置30を示す。グラビア印刷装置30は、少なくとも基材となる基材フィルム32を供給する巻き出し部と、凹部41を有するロール凹板40と、組成物充填部49とノズル43aを有するノズル塗布装置43と、基材となる基材フィルム32とロール凹板40とを押圧する押圧ロール51と、紫外線照射装置47と、基材フィルムを巻き取る巻き取り部46を有する。なお、
図5では、凹部に備わるピン部の記載は省略している。
凹部41を有するロール凹板40は、一定の速度で回転する、凹部41は前述のようにピン部を備える構造を有する。
充填された組成物42は、ノズル塗布装置43から、回転するロール凹板40の凹部41に塗布される。ここで金型に組成物を塗布する速度は、上述した流し込み速度を適用できる。塗布速度が前記範囲内であれば金型凹部への空気残存量を制御することができるため凸部にヘルムホルツ構造を有する遮音シート部材を作製することができる。
塗布された組成物44は、押圧ロール51により供給される基材フィルム2とともに押圧される。押圧されたシートは、押圧ロール51と送りロール52との間に位置している紫外線射線装置により硬化し基材シートに密着される。
紫外照射装置47を通過した後、基材フィルム32をロール凹版40から剥離する。これにより、既に硬化した組成物33が基材フィルム2と一体となって、凹部41から脱離され遮音シート部材31を得ることができる。
【0050】
上記の回転式では、紫外線照射により硬化を行っているため、組成物に含まれるモノマ
ー及び/又はポリマーとしては、光硬化性樹脂又は光硬化性エラストマーのモノマーであることが好ましい。ただし、押圧ロール51から送りロール52まで組成物が送られるまでの間に加熱する手段を設けておけば、モノマー及び/又はポリマー熱硬化性樹脂又は熱硬化性エラストマーのモノマーを用いることもできる。また、凹部40に流れ込むまでに組成物を加熱することができる手段が設けられていれば、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーそのものを用いることができる。
上記の押圧ロール51とロール凹版との間の圧力は、特段制限されないが、凸部と基材との厚み制御の観点から、通常0.05MPa以上であり、0.07MPa以上であることが好ましく、0.1MPa以上であることがより好ましく、また、通常0.5MPa以下であり、0.45MPa以下であることが好ましく、0.4MPa以下であることがより好ましい。
後述する平板式による遮音シート部材の製造方法と比較して、製造効率の高さから回転式による遮音シート部材の製造方法の方が好ましい。
【0051】
(平板式)
シート部の少なくとも片面に複数の凸部を形成する別の方法としては、平板状の金型で賦形する方法が挙げられ、平板状の金型にブレードやダイコーターを用いて塗布する方法が挙げられる。例として
図6に、ブレードを用いた金型へのモノマー及び/又はポリマー含有組成物の流し込みを示す。ブレードは金属製であっても樹脂製であってもよい。ブレードを用いて一定速度で金型に樹脂を塗布する。ここで金型に組成物を塗布する速度は、上述した流し込み速度を適用できる。塗布速度が前記範囲内であれば金型凹部への空気残存量を制御することができるため凸部にヘルムホルツ構造を有する遮音シート部材を作製することができる。
【0052】
<2.遮音シート部材>
本発明の別の実施形態に係る遮音シート部材は、シート部と、前記シート部の少なくとも一方の面に設けられ、凸部と、を有し、前記凸部は、内部に空間部と、前記凸部の先端面又は側面のいずれかの面から前記空間部までを貫通する孔部とを有する、遮音シート部材であり、上述した製造方法により製造することができ、
図1で例示される。
【0053】
[シート部]
シート部は、その態様は特に限定されないが、樹脂(有機高分子)の分子運動等に起因して、ゴム弾性を有するものであることが好ましい。このシート部は、騒音源から音波が入射された際に、ある周波数で振動する振動子(共振器)としても機能し得るものである。シート部は、空間部を有していても有していなくともよいが、空間部を有する場合、
図3(c)に示すような態様が挙げられる。なお、ヘルムホルツ構造を保持するため、凸部から及び得る空間部は、凸部が設けられた側と反対側のシート部の表面まで達しないようにする。
【0054】
シート部を構成する材料は、上述の遮音シート部材の製造方法で説明した通りである。
図1に示す遮音シート部材では、シート部は平面視で正方形状に形成されているが、その形状はこれに特に限定されない。三角形状、長方形状、矩形状、台形状、ひし形状、5角形状や6角形状等の多角形状、円状、楕円状、又はこれらに分類されない不定形状等、任意の平面視形状を採用することができる。
【0055】
シート部11の厚みt2は特に限定されず、適宜設定することができる。シート部11の厚みt2が厚いと、凸部の共振周波数が低周波数側にシフトする傾向にあり、またシート部11t2の厚みが薄いと、凸部の共振周波数が高周波側にシフトする傾向にある。
シート部の厚みは、特に限定されないが、遮音性能、剛性、成形性、軽量化、コスト等の観点から、通常0.03mm以上であり、0.04mm以上であることが好ましく、0
.05mm以上であることがより好ましく、一方で、1mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることが特に好ましい。なお、シート部11の厚みはシート部全体で均一でなくともよく、例えば、遮音シート部材100が設置される態様に応じて、また部分的に遮音性能の強弱を付けたいときには、シートと認識される範囲でシート部に傾斜が設けられていてもよい。シート部の厚みが均一でない場合には、シート部11の厚みt2は平均値として算出される。ただし、成形容易性や安定的な遮音性能の確保の観点から、シート部11の厚みは均一であることが好ましい。
【0056】
シート部は、遮音性能や、機械的強度、柔軟性、ハンドリング性、生産性等の観点から、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上のヤング率を有することが好ましく、また、好ましくは100MPa以下、より好ましくは10MPa以下のヤング率を有することが好ましい。
ここで、本明細書におけるヤング率とは、一軸方向に外力を加えた際の試料の単位断面積あたりに働く力(応力)と変形率(歪み)の比を意味し、JIS K 6394:2007「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-動的性質の求め方-」の強制振動非共振方法により測定される貯蔵たて弾性係数の25℃、10Hzにおける値を意味している。
【0057】
また、シート部は、低温における遮音性の温度依存性を低減させる観点から、0℃以下のガラス転移温度を有することが好ましい。シート部のガラス転移温度が低いほど、耐寒性が高められ、弾性率の0℃付近での温度依存性が小さくなり遮音性能が環境温度に依存し難くなる傾向にある。シート部のガラス転移温度は、より好ましくは-10℃以下、さらに好ましくは-20℃以下、特に好ましくは-30℃以下である。なお、本明細書において、シート部のガラス転移温度は、上述した周波数10Hzにおける動的粘弾性測定、特に温度依存性測定において、損失正接のピーク温度を意味する。
【0058】
[凸部]
凸部は、複数でシート部上に設けられ、騒音源から音波が入射された際に、ある周波数で振動する振動子(共振器)として機能するものである。凸部は空間部を有し、
図2の遮音シート部材100のように、凸部12は、シート部11から続く空間部14と、空間部から凸部の表面まで貫通する孔部15と、空間部14及び孔部13の周囲を覆う凸形成部13とから構成されている。凸部(凸形成部)の先端側の部分とは、一般的に先端側と認識される範囲の領域であってよく、具体的には、凸部の高さ方向に対して、凸部の全体の領域のうち先端側50%の領域であってよく、また、凸部が空間部を有する場合には、該空間部のシート側の端部よりも先端側の領域であってもよいが、本発明の効果を得ることを確保する観点からは後者で定義されることが好ましい。
凸部は、シート部の少なくともいずれか一方の面に設けられていればよく、一方の面にのみ設けられていても、両方の面に設けられていてもよいが、遮音高性能の向上の観点からは、両方の面に設けられていることが好ましい。ただし、後述する支持体を設けて遮音構造体とする場合には、製造容易性及び性能の安定化の観点から、凸部はシート部の一方の面にのみ設けられていることが好ましい。
【0059】
凸部の配列、設置数、及び大きさ等は、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。凸部は、シート部の少なくとも一方の表面に接して設けられる。例えば
図1に示す遮音シート部材では、複数の凸部を格子状に等間隔に配置しているが、凸部の配列は、これに特に限定されない。複数の凸部が、例えば千鳥状に配置されていても、ランダムに配置されていてもよい。本実施形態に係る遮音シート部材による遮音機構は所謂フォノニック結晶のようにブラッグ散乱を利用していないため、必ずしも凸部の間隔が規則正しく周期的に配置されていなくてもよい。
【0060】
また、単位面積当たりの凸部の設置数は、凸部同士が接触する等により干渉しないように複数個で配置可能であれば、特に限定されない。
単位面積当たりの凸部の最大数は、凸部の形状等によっても異なるが、例えば、凸部が円柱状で、円柱の高さ方向がシート法線方向と平行に設置され、且つ、円柱断面直径が1cmの場合には、100cm2当たり100個以下が好ましい。
単位面積当たりの凸部の最小数は、例えば、凸部が円柱状で、円柱の高さ方向がシート法線方向と平行となるように設置され、且つ、断面直径が1cmの場合には、100cm2当たり2個以上が好ましく、より好ましくは10個以上、さらに好ましくは50個以上である。凸部21の設置数が、上記の好ましい下限以上であることで、より高い遮音性能が得られる傾向にある。また、上記の好ましい上限以下であることで、シート全体の軽量化を図ることが容易となる。
【0061】
複数の凸部の高さ(シート部の法線方向における長さ)は、均一であってよく、均一でなくともよいが、同一であっても異なっていてもよいが、成形容易性や安定的な遮音性能の確保の観点から、均一であることが好ましい。複数の凸部のうち最も高い凸部の高さ(凸部の最大高さ)は、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。成形容易性及び生産性の向上等の観点から、凸部の最大高さは、100μm以上が好ましく、より好ましくは500μm以上、さらに好ましくは1mm以上である。また、50mm以下が好ましく、より好ましくは40mm以下、さらに好ましくは30mm以下である。上記の好ましい数値範囲内とすることで、凸部を設けたシート(すなわち遮音シート部材)の離型性がよくなる傾向にある。
【0062】
複数の凸部の断面積の総和が最大となる高さ位置におけるシート部のシート面に平行な面において、当該面に含まれる凸部の断面のうち、面積が最大である凸部の断面積は、8000mm
2以下であることが好ましく、2000mm
2以下であることがより好ましく、500mm
2以下であることがさらに好ましく、また、面積が最小である凸部の断面積は、50μm
2以上であることが好ましく、8000μm
2以上であることがより好ましく、0.15mm
2以上であることがさらに好ましい。
また、
図1に示すように、凸部が円柱である場合、複数の凸部の断面積の総和が最大となる高さ位置におけるシート部のシート面に平行な面において、当該面に含まれる凸部の断面のうち、直径が最大である円の直径は100mm以下が好ましく、より好ましくは50mm以下、さらに好ましくは25mm以下である。また、直径が最小である円形の直径は10μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは1mm以上である。凸部の断面積及び円柱の場合の円の直径を上記の好ましい数値範囲内とすることで、シート部のシート面へ設置する凸部を所定数以上確保することができ、さらに良好な遮音性能を得ることができ、また、成形容易性及び生産性もさらに高められる傾向にある。
【0063】
また、凸部はシート部の少なくとも一方の面に複数個設けられているが、凸部を構成する材料、凸部の配列、形状、大きさ、凸部の設置の方向等は、複数個の凸部すべてにおいて必ずしも同一でなくてもよい。これらのうち少なくとも1種を相違させた複数種の凸部を設置することにより、高遮音性能が現れる周波数領域を拡大する等の効果が得られる場合がある。
【0064】
[空間部]
空間部は、少なくとも凸部に設けられる。空間部の形状は、特に限定されず、三角柱状、矩形柱状、台形柱状、5角柱や6角柱等の多角柱状、円柱状、楕円柱状、角錐台状、円錐台状、角錐状、円錐状、これらに分類されない不定形状等、任意の形状を採用することができる。また、凸部中の空間部の数は1つに限定されず、孔部を有さない空間部を有していてもよいが、品質安定性の観点から1つであることが好ましい。
【0065】
シート部や凸部に対する空間部の割合は本実施形態の範囲を満足する限り、特に制限されない。凸部の共振周波数が所望の遮音周波数領域に一致するように空間部の割合を適宜設定することができる。空間部の割合が大きいと凸部の共振周波数が低周波数側に大きくシフトする傾向にあるが、凸形成部の割合が減るため凸部の強度が下がる。また、空間部の割合が小さいと凸形成部の割合が増えるため凸部の強度を上げることができるが、凸部の共振周波数の低周波数側へのシフトが小さくなる傾向にある。
空間部の体積は、低周波数帯域の遮音性の向上の観点から、通常0.9mm3以上であり、10mm3以上であることが好ましく、20mm3以上であることがより好ましく、また、通常4000mm3以下であり、3500mm3以上であることが好ましく、2500mm3以上であることがより好ましい。
凸部の水平方向の断面の内、空間部の占める面積の割合が最大となる断面における割合は、遮音性能の観点から、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上である。また、この割合は、機械的強度、ハンドリング性等の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下である。
【0066】
[孔部]
凸部は孔部を有する。孔部の形状は空間部と外部とをつなぐことができれば特段制限されず、例えば、円柱形状、又は四角形状もしくは五角形状等の多角形状であってよく、液体の表面張力の観点から円柱形状であることが好ましい。
孔部の入音方向の高さは、低周波数帯域の遮音性の向上の観点から、通常0.05mm以上であり、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、また、通常5mm以下であり、4.5mm以下であることが好ましく、4.0mm以下であることがより好ましい。
孔部の入音方向と垂直な面の断面積は、低周波数帯域の遮音性の向上の観点から、通常0.008mm2以上であり、0.01mm2以上であることが好ましく、0.015mm2以上であることがより好ましく、また、通常78mm2以下であり、70mm2以下であることが好ましく、65mm2以下であることがより好ましい。
孔部の入音方向と垂直な面の断面積と同様の面積を有する円の直径は、低周波数帯域の遮音性の向上の観点から、通常0.05mm以上であり、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、また、通常5mm以下であり、4.5mm以下であることが好ましく、4.0mm以下であることがより好ましい。
孔部の体積は、低周波数帯域の遮音性の向上の観点から、通常0.0001mm3以上であり、0.0003mm3以上であることが好ましく、0.001mm3以上であることがより好ましく、また、通常98mm3以下であり、90mm3以下であることが好ましく、80mm3以下であることがより好ましい。
凸部の水平方向の断面の内、孔部の入音方向と垂直な面の断面積に対する空間部の占める面積の割合が最大となる断面積の割合(空間部/孔部)は、特段制限されないが、低周波数帯域の遮音性の向上の観点から、通常2以上であり、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、また、通常200以下であり、180以下であることが好ましく、150以下であることがより好ましい。
【0067】
[凸形成部]
凸形成部は、シート部のシート面上に複数接して設けられ、かつ空間部及び孔部の周囲設けられて凸形状を形成する。凸形成部の外形形状や外形的なパラメータは、上述した凸部の外形形状や外形的なパラメータと同様である。
【0068】
凸形成部(凸部)の材料は、上述の遮音シート部材の製造方法で説明した通りである。
これらのなかでも、凸形成部の材料は、上述したシート部と同じ材料であることが好ま
しく、特にエラストマー類が好ましい。シート部及び凸形成部が同じエラストマー類を含有するものであれば、シート部と凸形成部との一体成形が容易となり、生産性が飛躍的に高められる。すなわち、シート部及び凸部(凸形成部)が、熱硬化性エラストマー、光硬化性エラストマー、及び熱可塑性エラストマーよりなる群から選択される少なくとも1種を共に含有する一体成形物であることが、特に好ましい態様の1つである。
【0069】
なお、凸形成部は、2種又はそれ以上の材料からなる2色成形体又は多色成形体とすることもできる。この場合、シート部と接する側(後端側)の凸形成部に上述したシート部と同じエラストマー類を採用することで、シート部と支持部との一体成形が容易となる。
【0070】
[遮音特性]
遮音シート部材の遮音特性の評価として、音響透過損失の測定を行った。以下に音響透過損失の測定条件を示す。
遮音シート部材を境界として分けた二つの空間のうちの一方の空間でホワイトノイズを発生させた場合に、下記式(1)に基づき、72.8Hz~10900Hzまでの1/12オクターブ帯域の各中心周波数において、音を発生させた空間(音源室)の所定の箇所における音圧レベルと、もう一方の空間(受音室)の所定の箇所における音圧レベルとの差から音響透過損失(TL)を求めた。
【0071】
【数2】
Lin;音源室の音圧レベル(dB)
Lout;受音室の音圧レベル(dB)
入射音;ホワイトノイズ(例えば、72.8~10900Hzの周波数領域での平均音圧値が0.94Pa程度の音圧)
サンプル-マイク間距離;10mm
【0072】
遮音シート部材は、下記式(A)~(C)で表される条件を同時に充たすことが好ましい。下記の条件の充足は、遮音シート部材を所望の向きで設置することにより、高い遮音効果を得ることができることを表す。
(TL
1-TL
2)-(TL
3-TL
4)>3dB ・・・(A)
TL
1-TL
2>0dB ・・・(B)
TL
3-TL
4>0dB ・・・(C)
TL
1(dB):凹凸シート部材側が音源に向けて設置された場合の遮音シート部材の音響透過損失
TL
2(dB):TL
1の条件において、凹凸シートを、質量及び面積が同じである凹凸のない平面シートに置き換えたときの遮音シート部材の音響透過損失
TL
3(dB):被着体側が音源に向けて設置された場合の遮音シート部材の音響透過損失
TL
4(dB):TL
3の条件において、凹凸シートを、質量及び面積が同じである凹凸のない平面シートに置き換えたときの遮音シート部材の音響透過損失
前記TL
1および前記TL
2はTL
1-TL
2が最大となるときの周波数における音響透過損失であり、かつ、前記TL
3および前記TL
4はTL
3-TL
4が最大となるときの周波数における音響透過損失である。
上記の式(A)~(C)の条件を充足する場合、上記の式(A)の左辺の値は、遮音シート部材の設置向きの制御により得られる遮音性能の向上効果を増加させる観点から、3より大きいことが好ましいが、4より大きいことがより好ましく、5より大きいことがさらに好ましく、7より大きいことが特に好ましく、8より大きいことが殊更特に好ましく、10より大きいことが最も好ましい。上記の式(A)を充足する方法としては、例えば、直径5mmの球形状の空間部及び直径0.1mm、高さ0.5mmの円柱形状の孔部を有し、かつ、直径6mm、高さ5mmの円柱形状の凸部を、シート部の平面に対して10000個/m
2となるように、かつ、凸部の円柱の底面円形状の中心ピッチ間隔が10mmで
図1に示すような態様で設け、かつ、シート部及び凸形成部の材料としてウレタンアクリレートを用い、遮音シート部材を作製する方法が挙げられる。
上記の式(A)~(C)の条件の充足は、遮音シート部材を所望の向きで設置することにより、高い遮音効果を得ることができることを表す。また、本技術を従来の遮音部材へ応用することにより、従来の遮音部材で得られる遮音特性の改善が期待される。
なお、上記の遮音特性の評価は、後述する遮音構造体においても同様に評価することができ、遮音構造体の好適条件も遮音シート部材の好適条件と同様に適用される。
【0073】
<3.遮音構造体>
本発明の別の実施形態である遮音構造体(単に「遮音構造体」とも称する。)は、上記の各実施形態に係る遮音シート部材、及び該遮音シート部材を支持する支持体を少なくとも備える、遮音構造体である。
上述の遮音シート部材は、遮音性能を発現させる環境に合わせ適宜設置することができる。例えば、遮音シート部材を装置、構造体上等に直接設置してもよい。遮音シート部材と装置、構造体等の間には、接着層等を設けてもよい。一方で、本実施形態のように、遮音シート部材を支持する支持体とともに用いて遮音構造体としてもよい。なお、支持体は、上述した遮音シート部材を用いて遮音する際に、遮音シート部材を支持していればよく、製造、又は保管時等の段階では遮音シート部材を支持していなくともよい。
【0074】
[支持体]
支持体は、遮音シート部材に設けられていれば特段制限されないが、製造容易性及び構造的安定勢の観点から、シート部材の一方の面にのみ凸部が設けられた遮音シート部材で、凸部が設けられた面とは反対側の面に接して設けられていることが好ましい。
【0075】
支持体を構成する素材は、遮音シート部材を支持可能なものであれば特に限定されないが、遮音性能を高める観点から、シート部や凸部を構成する材料よりも剛性の高いものが好ましい。具体的には、支持体51は、1GPa以上のヤング率を有することが好ましく、より好ましくは1.5GPa以上であり、上限は特にないが、例えば1000GPa以下であることが挙げられる。
また、遮音シート部材を支持体に設置する面は、シートを支持する観点、遮音性能を高める観点等から上記支持体と同様の剛性を有することが好ましい。
【0076】
支持体を構成する素材としては、例えば、光硬化性樹脂シート、熱硬化性樹脂シート、熱可塑性樹脂シート、金属板、合金板等が挙げられる。光硬化性樹脂シート、熱硬化性樹脂シート及び熱可塑性樹脂シートは、上記基部で挙げた光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂を用いたシート等が挙げられる。
支持体を構成する素材の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリレート樹脂、イソソルバイドを主原料としたポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリノルボルネン等のポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース、ポリスチレン、エポキシ樹脂、オキサジン樹脂等の有機材料、これらの有機材料中にアルミニウム、ステンレス、鉄、銅、亜鉛、真鍮等の金属、無機ガラス、又は無機粒子や繊維を含む複合材料等
が挙げられる。
これらの中でも、遮音性、剛性、成形性、コスト等の観点から、支持体は、光硬化性樹脂シート、熱硬化性樹脂シート、熱可塑性樹脂シート、金属板及び合金板からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。ここで、支持体の厚みは、特に限定されないが、遮音性能、剛性、成形性、軽量化、コスト等の観点から、通常0.05mm以上、0.5mm以下であることが好ましい。
さらに、支持体は光透過性、遮音シート部材との密着性等の観点から、支持体表面にコーティング層を設けてもよい。
【0077】
なお、支持体の形状は、遮音構造体の設置面に応じて適宜設定でき、特に限定されない。例えば、平坦なシート状であっても、湾曲したシート状であっても、曲面部や折り曲げ部等を有するように加工された特殊形状であってもよい。さらに、軽量化等の観点から、切り込みや打ち抜き部等が、支持体の任意の場所に設けられていてもよい。
【0078】
また、支持体の面密度(単位面積当たりの質量)も、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。本発明の効果を高める観点からは、支持体の面密度は、遮音シート部材の面密度の80%以下が好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下であり、また、上限は特にないが、例えば1%以上であってよい。
【0079】
遮音構造体は、本発明の遮音シート部材を含む積層体であってもよい。例えば、支持体の両面に遮音シート部材を設けてもよい。また、遮音シート部材を支持体上に設けた遮音構造体を複数積層して用いてもよい。複数の遮音シート部材を組み合わせることで、周波数位置等を制御することができる。
また、支持体の両面に遮音シート部材を有する積層体であっても、支持体、積層体を含む筐体等がフレキシブルであれば、曲面等を有する非平坦面等に追随することができるため、遮音構造体を安定して取付けることも可能である。
【0080】
<4.遮音シート部材及び遮音構造体の利用>
遮音シート部材及び遮音構造体の利用法の一例として、小型電子機器などのモーター音や電子回路中のスイッチング音等の減消音用として、小型電子機器の内部や外部に取り付けるといった利用法が考えられる。
【実施例0081】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
<実験1>
[固有周波数の計算]
本実験Iでは、有限要素法を用いた物理シミュレーションソフトであるCOMSOLMultiphysics(COMSOL社)を用いて構造の固有周波数を計算した。該物理シミュレーションの条件について詳述する。
該物理シミュレーションには有限要素法を用いた。有限要素法は解析的に解くことができない微分方程式を高い精度で近似的に解くための数値解析の手法であり、解析したい複雑な対象を単純な小部分(要素)に分割して全体の挙動を近似的に計算する方法である。後述の実施例における突起の固有周波数は、下記手順により計算した。
図7~9における遮音構造体の各部位i~ivのそれぞれに対して、表1に記載の物性(比重、貯蔵弾性率(ヤング率)、ポアソン比)、及び表1、
図7~9に記載の材料寸法(r、h、a)をCOMSOLMultiphysics(COMSOL社)の固体力学モジュールの方程式に代入し、シート部iiの底面を完全固定した条件にて固有振動モードを計算した。なお、
図7は、空間部及び孔部をともに有さない態様であり、
図8は、空間部を有するが孔部を有さない態様であり、
図9は、空間部及び孔部をともに有する態様を示す。本計算は理想的な状態として接着剤の影響を受けない場合を想定するため、部位iiの底面を完全固定した条件での固有振動数を計算している。
凸部の水平方向の断面の内、空間部(部位iii)の占める面積の割合が最大となる断面における、その割合を下記のように定める。
空間部割合[%]=(部位iiiの半径)
2/(部位iの半径)
2
また、空間部(部位iii)による固有周波数のシフト量の大きさを明確にするために、規格化した固有周波数のシフト量を下記のように定める。
周波数シフト量[%]=((部位iiiの無い態様の固有周波数)-(固有周波数))/(部位iiiの無い態様の固有周波数)
なお、
図7~9におけるri及びriiiは、各部分における円柱形状の底面の円の半径を示す。
【0083】
[比較例1~2、及び実施例1]
比較例1は
図7、比較例2は
図8、また実施例1は
図9に示す遮音シート部材を含むユニットセルである。該ユニットセルの構成部材のサイズ、材料、物性を表1に示す。該ユニットセルにおける突起の伸縮振動の固有周波数を上記計算方法に基づいて算出し、結果を表1に記載した。
【0084】
【0085】
表1より、
図9のように凸部に空間部と孔部を有する構造において共鳴周波数が発現することを確認した。
【0086】
<参考実験>
[3Dプリンターを用いた遮音シート部材の製造]
光造形方式3Dプリンター(ミッツ(株)製のM3DS-SA5)を用いて、
図1に示すようにシート部上に凸部が縦横等間隔で並ぶような態様の遮音シート部材を作製した。参考比較例1~2、及び参考実施例1の各凸部の態様は、上述した実験1における比較例1~2、及び実施例1における態様と同様であり、条件を表3にまとめる。また、参考比較例1~2、及び参考実施例1のいずれにおいても、シート部の形状を縦100mm×横100mm×高さ0.25mmとし、シート部上の凸部の数を10個×10個とし、凸部の円柱の底面円形状の中心ピッチ間隔を10mmとした。
【0087】
参考比較例1~2、及び参考実施例1に係る遮音シート部材を用いて、上記の実験2と同様に音響透過損失測定を行った。この評価結果を表3に示す。
【0088】
【0089】
表3より、
図9のように凸部に空間部と孔部を有する構造において共鳴周波数が発現することを確認した。
【0090】
上記の実施例より、本発明によれば、遮音性能に優れるヘルムホルツ型凸部を有する遮音シート部材の製造方法を提供することができることが分かった。