(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157645
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】透湿度の低い複合膜、それを用いた積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/06 20060101AFI20221006BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221006BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20221006BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221006BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20221006BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20221006BHJP
C09D 201/06 20060101ALI20221006BHJP
C09D 183/00 20060101ALI20221006BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221006BHJP
【FI】
C08L101/06
B32B27/18 Z
B32B27/20 Z
B05D7/24 302Y
C08K5/5415
C08K3/36
C09D201/06
C09D183/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021061984
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】是兼 由李子
(72)【発明者】
【氏名】谷川 裕一
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB24Z
4D075BB26Z
4D075CA42
4D075DA03
4D075DB18
4D075DB20
4D075DB36
4D075DB43
4D075DB48
4D075DB53
4D075DC36
4D075EB19
4D075EB43
4D075EC03
4F100AA20A
4F100AH06A
4F100AJ06B
4F100AK04B
4F100AK07B
4F100AK21A
4F100AK21B
4F100AK25B
4F100AK41B
4F100AK42B
4F100AK45B
4F100AK49B
4F100AK54B
4F100AK55B
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DG10B
4F100DG15B
4F100EH46A
4F100EJ423
4F100EJ863
4F100GB15
4F100GB23
4F100GB66
4F100JD02
4J002AA051
4J002AB011
4J002AB041
4J002AH001
4J002BE021
4J002CF031
4J002CF181
4J002DJ017
4J002EX016
4J002EX036
4J002FD206
4J002FD207
4J002GB01
4J002GB04
4J002GC00
4J002GF00
4J002GG02
4J038CE021
4J038DL021
4J038DL031
4J038EA011
4J038GA03
4J038HA446
4J038KA06
4J038KA08
4J038LA06
4J038MA07
4J038MA08
4J038NA08
4J038NA27
4J038PA06
4J038PA19
4J038PB01
4J038PB04
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】透湿度が低く、環境負荷の小さい複合膜とそれを用いた積層体とその製造方法を提供する。
【解決手段】OH基を有する樹脂と、アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解重縮合物を含有する複合膜により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OH基を有する樹脂と、アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解重縮合物と、を含有する複合膜。
【請求項2】
OH基を有する樹脂と、粒径15nm以下のシリカ粒子と、を含有する複合膜。
【請求項3】
前記OH基がアルコール性水酸基またはカルボキシル基である、請求項1又は2に記載の複合膜。
【請求項4】
アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解縮合物がシリカ粒子であり、その平均粒径が、15nm以下である、請求項1に記載の複合膜。
【請求項5】
25℃90%RHにおける透湿度が20g/m2・day以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の複合膜。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の複合膜が基材上に積層されてなる積層体。
【請求項7】
25℃90%RHにおける透湿度が20g/m2・day以下である請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記基材がポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、アクリル樹脂、PVA、紙、不織布、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、及びセルローストリアセテートからなる群より選ばれるものである請求項6又は7に記載の積層体。
【請求項9】
アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解重縮合物を含む溶液と、OH基を有する樹脂とを混合して複合液とする工程と、
得られた複合液を基材に塗布する工程と、
複合液が塗布された基材を乾燥する乾燥工程と、を有する積層体の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥工程が、90℃以上で行われる、請求項9に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透湿度の低い膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透湿度の低いフィルムないし包装体を得るためには、透湿性の低い樹脂を用いるか、あるいは有機化合物の層の下に酸化アルミニウムや二酸化ケイ素のような蒸着金属酸化膜の補助が必要であった。
【0003】
たとえば特許文献1には、ポリエステルフィルム表面に、アルミナやシリカなどを含む蒸着膜を形成することが開示され、特許文献2には、プラスチックの基材上に特定の酸化アルミニウム膜を設けたものが開示されている。また特許文献3には、窒化シリコンを用いたガスバリア膜が開示されており、これは透明ではあるが、容易に作成できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-053223号公報
【特許文献2】特開2021-45929号公報
【特許文献3】特許第5394867号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこれらの蒸着膜は透明性がなく、且つ蒸着加工中に不純物が入りやすいなど欠点がある。又、蒸着自体簡単な工程ではなく、また広範囲に施すことも容易ではない。また、透湿性の低い樹脂は、通常環境中での分解が非常に遅い。このため包装紙等として使用した際に、風に飛ばされるなどして環境中に放置されると、マイクロプラスチック等の発生元ともなるため、放置された場合の環境への負荷を低くすることも求められている。
本発明は、金属蒸着膜などのガスバリア膜を積層しなくても、低い透湿性を有する樹脂膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明は、樹脂を特定の複合膜とすることにより、これらの問題を解決することが出来、優れた水蒸気バリア性を有する樹脂膜を提供できることを見出した。
すなわち本発明は以下を要旨とする。
【0007】
[1]OH基を有する樹脂と、アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解重縮合物と、を含有する複合膜。
[2]OH基を有する樹脂と、粒径15nm以下のシリカ粒子と、を含有する複合膜。
[3]前記OH基がアルコール性水酸基またはカルボキシル基である[1]又は[2]に記載の複合膜。
[4]アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解縮合物がシリカ粒子であり、その平均粒径が、15nm以下である、[1]に記載の複合膜。
[5]25℃90%RHにおける透湿度が20g/m2・day以下である、[1]乃至[4]のいずれか一に記載の複合膜。
[6][1]乃至[5]のいずれかに記載の複合膜が基材上に積層されてなる、積層体。[7]25℃90%RHにおける透湿度が20g/m2・day以下である、[6]に記
載の積層体。
[8]前記基材がポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、アクリル樹脂、PVA、紙、不織布、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、及びセルローストリアセテートからなる群より選ばれるものである[6]又は[7]に記載の積層体。
[9]アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解重縮合物を含む溶液と、OH基を有する樹脂とを混合して複合液とする工程と、得られた複合液を基材に塗布する工程と、複合液が塗布された基材を乾燥する乾燥工程と、を有する積層体の製造方法。
[10]前記乾燥工程が、90℃以上で行われる、[9]に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蒸着金属酸化被膜層を用いずに水蒸気バリア性を有する複合膜(ハイブリット膜とも称する)を提供することができる。蒸着を使用する必要が無いので、製造も容易である。また、好ましい形態では、複合膜を生分解性のものとシリカ(砂)とにできるので、基材に生分解性の樹脂を選択することで、プラスチックの残存による環境への影響も小さくできる。
【0009】
したがって、本発明は用途分野としては、食品、飲料、医薬品などの各種の分野における積層体、及び蒸着金属酸化膜の問題を解決することが出来る包装材料、各種包装容器、袋、フィルムなどの包装体である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一形態は、OH基を有する樹脂と、アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解重縮合物と、を含有する複合膜である。
また、OH基を有する樹脂と、粒径15nm以下のシリカ粒子と、を含有する複合膜とすることによっても、同様の効果を得ることができる。
【0011】
本発明で呼称する複合膜の複合とは、OH基を有する樹脂とアルコキシシラン及び/又はその縮合物と、の加水分解重縮合物のOH基がエステル交換反応をすることでSi-O-C結合を形成した状態をいう。また、本発明で呼称する積層体とは、複合膜を基材などの支持体の上にコーティングすることで得られる多層体のことを指す。
(OH基を有する樹脂)
本発明で用いるOH基を有する樹脂は、アルコキシシラン及び/又はその分解縮合物に存在するOH基と反応して、ケイ素と樹脂とが化学的に結合している状態となる樹脂である。従ってOH基としては、カルボキシル基又はアルコール性水酸基が好ましく、特に好ましくはアルコール性水酸基である。
【0012】
具体的な樹脂としては、生分解性を有するものが好ましい。具体的な生分解性の定義に関しては、1989年の生分解性プラスチック研究会により、「自然界において微生物が関与して環境に悪影響を与えない低分子化合物に分解されるプラスチックである」と定義された。この表現は曖昧であり、1993年のアナポリスサミットにおいて、「生分解性材料とは、微生物によって完全に消費され自然的副産物(炭酸ガス、メタン、水、バイオマスなど)のみを生じるもの」とされている。具体的に好ましい樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂、スターチ、セルロース、リグニン、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PLA(ポリ乳酸)からなる群より選ばれるものが好ましく、最も好ましくはポリビニルアルコール樹脂である。
【0013】
ポリビニルアルコール樹脂(以下PVA系樹脂と記載することもある)は、ビニルアルコール構造単位を有する樹脂であれば、その具体的な構造は特に限定されず、典型的には酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステルモノマーを重合したポリカルボン酸ビニルエ
ステルをケン化して得られるが、これに限られない。
前記PVA系樹脂としては、未変性PVA、変性PVA系樹脂が挙げられる。変性PVA系樹脂としては、PVA構造単位を供与するビニルエステル系モノマー以外のモノマーを共重合することにより合成される共重合変性PVA系樹脂であってもよいし、未変性PVAを合成した後に主鎖または側鎖を適宜化合物で変性した後変性PVA系樹脂であってもよい。
【0014】
共重合変性PVA系樹脂に用いることができる共重合モノマー(不飽和単量体)としては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類またはその塩;モノエステル、もしくはジアルキルエステル;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩;ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジエチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩;酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、等のポリ(オキシアルキレン)基を有するアリルエーテル;等が挙げられる。
【0015】
また、共重合変性PVA系樹脂として、側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂が挙げられる。かかるPVA系樹脂としては、例えば3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、ビニルエチレンカーボネート、グリセリンモノアリルエーテル等を共重合して得られる側鎖1,2-ジオール変性PVA系樹脂;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート;等を共重合し、ケン化して得られる側鎖にヒドロキシメチル基を有するPVA系樹脂が挙げられる。
後変性PVA系樹脂の後変性の方法としては、未変性PVAあるいは上記変性PVA系樹脂をアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化する方法等が挙げられる。
【0016】
本実施形態では上記の未変性PVA、変性PVA系樹脂のいずれも使用できるが、未変性PVAの場合は完全ケン化品、変性PVA系樹脂の場合は側鎖に親水性に優れた官能基、例えばカルボン酸基やスルホン酸基などを有するアニオン変性基含有PVA、4級アンモニウム塩基などを有するカチオン変性基含有PVA、ヒドロキシアルキル基やオキシエチレン基などを有するノニオン変性基含有PVAが好ましい。
【0017】
シラノール基と反応するOH基量を重視する場合には、後述するシリケートとの反応の高さから、未変性PVAが特に好ましい。シリケートとPVA溶液の相溶性を重視する場合には部分ケン化品を使用することが好ましく、又シリケートとPVAの結合性、すなわちSi-O-C結合を重視する場合には完全ケン化品が好ましい。
【0018】
通常PVA系樹脂のケン化度は70モル%以上であり、80モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましい。また上限は通常100モル%以下であり、好ましくは99.8モル%以下である。ケン化度は、JIS K6726の滴定法で測定した値である。
PVA系樹脂の平均重合度は特段限定されないが、通常200以上3000以下、好ましくは250以上2800以下、特に好ましくは300以上2600以下である。
この範囲にすることで、被覆された肥料溶出にかかる時間を長くすることが出来る。また通常3500以下であり、2800以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。この範囲にすることにより、被覆された肥料の溶出が小さくなりすぎることを防ぎ、又被膜する膜が割れることを防ぎやすくなる。かかる平均重合度は水溶液粘度測定法(JIS K 6726)で測定した値である。
【0019】
PVA系樹脂は、1種の樹脂のみを用いてもよく、2種以上の樹脂をブレンドして用いてもよい。この場合、構造単位が異なるものであってよく、ケン化度が異なるものであってよく、平均重合度が異なるものであってもよい。ブレンドして用いる場合のケン化度、平均重合度などは、全てのPVA系樹脂の平均値が上記の範囲内であればよい。
【0020】
また、PVA系樹脂は部分的に変性されていてもよい。変性されている場合、PVA系樹脂の変性率は、当該樹脂粒子10gを20℃の水100gと混合し、撹拌により分散させた後、撹拌下1℃/分で90℃まで昇温し、60分以内に90重量%以上溶解する範囲が好ましい。
変性の種類はOH基を有する限り特段限定されないが、水中で強い酸又は塩基性有する基を導入する場合には、シリケートとの複合の過程で触媒的な影響を示さない範囲の変性量とすることが好ましい。
【0021】
(アルコキシシラン及び/又はその縮合物)
本発明において用いられるアルコキシシラン及び/又はその縮合物は、OH基を有する樹脂と結合して、Si-O-C結合を生成する。
アルコキシシランは、アルコキシ基を有するシランであれば特段限定されず、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~10の脂肪族アルコキシ基、フェノキシ基、アリールオキシ基等の炭素数6~15の芳香族アルコキシ基が挙げられる。加水分解反応制御がしやすい点から、炭素数1~4の脂肪族アルコキシ基が望ましい。
アルコキシシランとしては、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシランが挙げられる。より具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン類、
【0022】
また、トリメトキシシランのようなヒドロシリル基を有するトリアルコキシシラン類:メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、アリールトリエトキシシラン、アリールトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、[3-(6-アミノヘキシルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、(11-アジドデシル)トリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、1,3-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,3-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,3-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ブチルトリエトキシシラン、などのアルキルトリアルコキシシラン類、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、[3-(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、[8-(グリシジロキシ)-n-オクチル]トリメトキシシラン、3-グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、2-プロピニル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]カルバメート、トリエトキシ(3-グリシジロキシプロピル)シラン、トリエトキシ(イソブチル)シラン、トリエトキシ-n-オクチルシラン、トリエトキシ[2-(7-オキサビシクロ[4,1,0]ヘプタン-3-イル)エチル]シラン、トリエトキシ(プロピル)シラン、トリエトキシシラン、(トリエトキシシリル)メチルメタクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピルメタクリレート、2-[3―(トリエトキシシリル)プロピル]こはく酸無水物、1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]ウレア、トリエトキシ(p-トリル)シラン、トリエトキシビニルシラン、トリイソプロポキシ(ビニル)シラン、トリメトキシ[3-(メチルアミノ)プロピル]シラン、トリメトキシ(7-オクテン-1-イル)シラン、トリメトキシ-n-オクチルシラン、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン、トリメトキシ(プロピル)シラン、トリメトキシシラン、1-(トリメトキシシリル)ナフタレン、3-(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ブタン-1-アミン、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、[3-(トリメトキシシリル)プロピル]こはく酸無水物、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ウレア、トリエトキシ(p-トリル)シラン、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ビニルトリメトキシシランなど、
【0023】
また、ジメチルジメトキシシランのようなジアルコキシシラン類:ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、3-ジグリシジロキシプロピル(ジメトキシ)シラン、3-ジグリシジロキシプロピル(ジエトキシ)シラン、3-[ジメトキシ(メチル)シリル]プロピルメタノリレート、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシ(メチル)シラン、ジメトキシメチルビニルシラン、シクロヘキシル(ジメトキシ)メチルシラン、1,1,3,3,5,5,-ヘキサエトキシ-1,3,5,-トリシリルアクロヘキサン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、ジシクロペンチル(ジメトキシ)シラン、ジエトキシジエチルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ジエトキシ(3-グリシジロキシプロピル)メチルシラン、ジエトキシ(メチル)フェニルシラン、ジエトキシメチルシラン、3-[ジエトキシ(メチル)シリル]プロピルメタクリレート、ジエトキシメチルビニルシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジメトキシジ-p-トリルシラン、ジメトキシ(メチル)-n-オクチルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジメトキシ(メチル)シラン、3-[ジメトキシ(メチル)シリル]プロピルアクリレート、3-グリシジロキシプロピル(ジメトキシ)メチルシランなど、
【0024】
また、モノアルコキシシラン類:アリールオキシトリメチルシラン、ベンジルオキシトリメチルシラン、3,5-ビス(tert-ブチルジフェニルシリロキシ)ベンジルアルコール、1,2-ビス(トリメチルシリルオキシ)シクロブテン、ビス[2-(トリメチルシリルオキシ)エチル]エーテル、1,3-ビス(トリメチルシリルオキシ)プロパン、tert-ブトキシトリメチルシラン、(1E)-1-tert-ブトキシ-1-(トリメチルシリルオキシ)プロパン、ジメチルエトキシビニルシラン、ジメチルケテンメチルトリメチルシリルアセタール、エトキシトリエチルシラン、エトキシトリフェニルシラン、エチレンジオキシビス(トリメチルシラン)、イソプロペニロキシトリメチルシラン、イソプロポキシトリメチルシラン、メトキシ(ジメチル)オクタデシルシラン、メトキシ(ジメチル)-n-オクチルシラン、メトキシジメチルフェニルシラン、メトキシトリメチルシラン、1-メトキシ-1-トリメチルシリルオキシプロペン、メトキシトリフェニルシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチル(フェノキシ)シラン、2-(トリメチルシリルオキシ)フラン、トリメトキシ(ビニルオキシ)シラン、トリス(トリメチルシリルオキシ)エチレンなど、があげられる。この中から特に制限することはないが、生分解性を有する官能基を持つことが好ましい。
【0025】
これらの中でもOH基を有する樹脂との複合粒子とした場合に、低い透湿性の点から、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシランが好ましく、テトラアルコキシシランがより好ましい。これらのアルコキシシランは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特にテトラアルコキシシランとトリアルコキシシランを両方使用すると被膜の割れが発生しにくくなるため好ましい。
【0026】
本発明の目的が、透湿性の低い複合膜という観点から、低架橋性成分であるモノアルコキシシラン、ジアルコキシシランは機能性付与のための添加剤として使用し、複合体粒子中のOH基を有する樹脂成分の膨潤や溶解を助長しない最小限の量とすることが好ましい。
【0027】
アルコキシシラン及び/又その縮合物は溶媒中では加水分解し、加水分解重縮合物として三次元シロキサン架橋構造を形成する。アルコキシシランの縮合物は低縮合物であってもよい。ここでいう低縮合物とは、アルコキシシランの2~10量体程度のオリゴマーを意味し、2~8量体程度のオリゴマーであってよく、2~5量体程度のオリゴマーであってよい。溶媒としては、通常メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~4の低級アルコールや、これらと水との混和物などが用いられる。
【0028】
本実施形態の複合膜に含有されるアルコキシシラン/又はその縮合物を有する成分は、複合膜の全重量に対するSi含有量として、SiO2換算で通常50重量%以上であり、70重量%以上であることが好ましく、また通常100重量%以下であり、90重量%以下であることが好ましい。なお、複合膜の全重量に対するSi含有量は、後述する<複合膜>の説明欄で説明する。
【0029】
本発明で使用されるアルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解縮合物は一定の粒径を有することが好ましい。これは粒径が小さすぎると十分な三次元シロキサン架橋構造が得られず、OH基を有する樹脂の膨潤を抑えることが出来ず、粒径が大きすぎると比表面積が大きくなり、面積当たりのシラノール基量が減り、結果緻密な三次元シロキサン構造を得られず低い透湿性が得られなくなる。良好な低い透湿性を得る粒子径は15nm以下が好ましく、12nm以下がより好ましく、9nm以下がさらに好ましく、6nm以下が特に好ましく、3nm以下が最も好ましい。これによりOH基を有する樹脂と後述するSi-O-C結合を形成し、三次元架橋構造を形成することが出来、低い透湿性を得ることが出来る。アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解縮合物の粒径の測定方法は、動的光散乱法を用いた粒度分布測定装置などが挙げられるが、特許第3760471号のような小角X線散乱を用いた方法で測定しても得ることが出来る。
【0030】
得られた複合膜はSi-O-C構造を有していることが好ましい。このSi-O-C構造は、フーリエ変換赤外分光法により確認することが可能である。
フーリエ変換赤外分光法(以下、FT-IR)において、Si-O-C結合を有していることを確認する方法は以下のとおりである。FT-IR測定を行うと、1500~1200cm-1の領域に各原子団の振動モードが現れる。日立評論、第43巻、第5号、90-94(S36.5)によれば1430±30及び1326±25cm-1にはPVA中のOH基の変角振動と他の振動のカップリングが現れる。シリケートには2000cm-1から1300cm-1の間の領域にピークはない。このことから複合膜において、Si-O-C構造ができるとOH基が減り、他の振動とのカップリングが減少するので、このピークが減少または消失することがわかる。
【0031】
FT-IRで測定するサンプルは測定する方法によって異なるが、後述する基材上に塗工した膜の状態か、基材に塗工した膜と同条件で作製した単独膜を使用して測定することが出来る。早急に測定する必要がある場合は基材に塗工した膜の状態で測定し、精度高く
分析する必要がある場合は単独膜で測定することが好ましい。
基材に塗工した膜の状態で測定する時は、そのまま測定しても、測定前に乾燥処理を施してもよい。乾燥する温度は特に定めていないが、膜中のSi-O-C結合量に影響を与えないことが好ましい。この場合、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましく、60℃以下が最も好ましい。乾燥時間は乾燥温度によって適宜変えることが出来る。単独膜は基材に塗工した膜と同じ組成の塗工液をPTFEシャーレ上に通常1g加え、基材に塗工した膜と同じ乾燥・焼成条件を施すことで得ることが出来る。
【0032】
測定方法は透過法、反射法があるが、反射法が好ましく、反射法の中でも測定する試料の形状に影響されないATR法が特に好ましい。ATR法で測定する場合、使用するプリズムは測定可能な波数領域の点から、ダイヤモンドプリズムが最も好ましい。
【0033】
FT-IRで分析するとき、1回の測定で積算しデータを得ることが出来る。積算を行うことで得られるスペクトルの精度が向上し、信頼性の高い値を得ることが出来る。積算の回数は2のn乗で行われる。回数に特に制限はないが、好ましくは32回以上、特に好ましくは64回以上、最も好ましいのは128回以上である。
また、測定するスペクトルの分解能を設定することが好ましい。分解能は設定する値が小さいほどスペクトルの精度が向上し、信頼の高い値を得ることが出来る。分解能の設定値に特に制限はないが、好ましくは32cm-1以下、より好ましくは16cm-1以下、さらに好ましくは8cm-1以下、特に好ましいのは4cm-1以下、最も好ましいのは2cm-1以下である。
【0034】
FT-IRは測定対象物を測定する時にバックグラウンド測定を行うことが好ましい。バックグラウンド測定とは空気中の水蒸気や二酸化炭素などの吸収成分を差し引くための補正のことを言う。これにより空気中の水分や二酸化炭素による測定誤差をなくすことができる。バックグラウンド測定は測定前に行う。
FT-IRで得られるスペクトルは位相補正する。位相補正は測定時にFT-IRのソフトウェアによって自動的に補正される。位相補正の方法は特に制限されないが、絶対値法、掛け算法、コンボルーション法、マニュアル法などが挙げられ、測定するサンプルの特徴に合わせて方法を選択することが出来る。例えば、Thermo Fisher Scientific社の装置iN10MXであれば、Mertz法もしくはPower Spectrum法を選択することが出来る。明らかにおかしい結果が出ていない限り、通常はMertz法を用いる。
【0035】
FT-IRで得られるスペクトルの強度は吸光度で表示する。
FT-IRで得られたスペクトルが吸光度で現れる場合、ベースライン補正を行う。これは得られたスペクトルのベースラインが乱れている場合、正確なピーク強度比や面積値が得られなくなるためである。ベースライン補正の方法は特に制限はなく、得られたスペクトルに応じて適切な方法が用いられる。例えばThermo Fisher Scientific社のソフトウェアOMNIC(Versionsion.8.3以降)であれば、得られたスペクトルを解析し、最も好ましい補正方法が自動で選択される。該当ソフトウェアでは線形(一次)補間法、3次スプライン補間法(スプライン)、多項式補間法が選択できる。
【0036】
FT-IRで得られたスペクトルはスムージング(平滑化)を行う。これは後述するピーク分離を実施する際、スペクトルの微小な乱れをピークと検知しないようにするためである。スムージングを行うことで微小な乱れを整えることができ、より精度の高いピーク分離計算を行うことが出来る。スムージングの方法は特に制限はなく、単純移動平均法、Sacutzkey-Golay法などが挙げられ、得られたスペクトルや、自動化の場合は使用するソフトウェアに応じて適切な方法が用いられる。例えばThermo Fisher Scientific社のソフトウェアOMNIC(Version.8.3以降)であれば、得られたスペクトルを解析し、最も好ましい範囲が自動で選択される。また、該当ソフトウェアではスムージングを行う際の波数の間隔を指定することが出来る。指定する波数の間隔が小さいと元のスペクトルの形状を維持したスムージングが行われるが、スペクトルラインが十分に平滑化されない。逆に指定する波数の間隔が大きいとスペクトルラインがより平滑になるが、元のスペクトルの形状から変化してしまう。このため、適切な間隔を指定してスムージングを行うことが重要である。指定する間隔は9.642cm-1以上48.212cm-1以下が好ましいが、ノイズや不純物の影響が大きいと見られる場合には13.499cm-1以上28.927cm-1以下の範囲にすることでスペクトルピークを損なうことなく平滑化できる。
【0037】
FT-IRで得られたスペクトルのピーク分離を行う。これはピークの重なりによって実際のピーク強度が高くなり正確な評価が出来なくなることを防ぐことができ、また後述する分離したピークの面積比からSi-O-C結合を算出することが出来るためである。ピーク分離の方法や手法は様々であり、ソフトウェアを用いて自動で算出することも可能である。本発明ではThermo Fisher Scientific社のソフトウェアOMNIC(Version.8.3以降)を使用してピーク分離を行った。
【0038】
該当ソフトウェアでピークを検出する際、分離する波数を指定する。指定範囲はベースラインを引くために用いた範囲を使用すればよく、4000cm-1から400cm-1の範囲が使用される。この範囲でのベースラインが不適切と思われる場合には、2000cm-1から800cm-1の範囲を用いる。また、指定した範囲でピークを検出する際、検出するピークの初期値を設定する。通常半値幅3.857に設定し指定した範囲でピーク検出を行う。この時、ベースラインの乱れが原因で検出されたピークについては取り除いてもよい。ピーク検出に用いる分布関数は通常Voigtを使用するが、状況によってGaussian、Lorentzian、Gaussian・Lorentzian、Log Normalが使用される。また、設定された半値幅でピークを検出する感度を設定することが出来る。通常、余分なピーク検出を防ぐために感度は装置に付帯したプログラムを用いて低感度に設定して行うが、ピークが検出されない場合などに、中感度、高感度を設定することが出来る。検出されたピークを用いてピークフィッティングを行う。この時、元のスペクトルと得られる合成スペクトルの標準偏差値の許容範囲をあらかじめ設定して計算することが出来る。この許容範囲をノイズとして扱う。ノイズは1から10まで設定することが出来、値が大きいと標準偏差値が大きい、すなわち得られる合成スペクトルと元のスペクトルの相違が大きくなり、値が小さいと標準偏差値が小さい、すなわち得られる合成スペクトルと元のスペクトルが一致したスペクトルを得やすくなる。ノイズの設定値は通常10であるが、得られる合成スペクトルの標準偏差値が大きいときは値を小さくしてもよい。また、ピークフィッテングの際にベースラインの補正を行うこともできる。通常1次(線形)補正を行うが、得られる合成スペクトルによって2次補正、3次補正を行うことが出来る。使用するソフトウェアでは計算の繰り返しを行い計算するので、計算1回目で得られた合成スペクトルの標準偏差値が基準より大きい場合でも同じ条件で再度計算を行うことで、より元のスペクトルに近い合成スペクトルを算出する。ここで合成スペクトルとは計算された単離スペクトルの合算によって得られるIRスペクトルのことを指す。繰り返し計算を行っても標準偏差値が基準を上回る場合、検出するピークの半値幅が異なっている場合があるので、半値幅の値を変更し、再度ピーク検出を行い、ピークフィッティングを繰り返し行い標準偏差値が基準値以下になるまでこの作業と計算を繰り返す。標準偏差値は1.5以下が好ましいが、可能な範囲で小さい値にしたほうが良いため、1.0以下、0.7以下と試し、分離したピークがベースラインを乱すような状況が表れない範囲で下げ、最も好ましいのは0.5以下である。
【0039】
通常本発明で使用するソフトウェアはVersion.8.3以降のOMINICであるが、半値幅を設定することでピーク検出し計算できるソフトウェアであれば用いることが出来る。
複合膜において1050cm-1±25に現れるSi-O-Si結合の伸縮振動のピーク面積と1430±30cm-1または1326±25cm-1付近のピーク面積を比較することでSi-O-C結合を確認することが出来る。この時、各ピークトップの波数は測定条件やサンプルの状態によってずれることがある。使用するピーク面積は通常標準偏差値1.0以下の合成スペクトルより計算した単離ピークの面積値で比較することが出来る。スペクトルピークの比をPVA/Si-O-Siとしたとき、用いるPVAのピークは通常1430cm-1のピークを用いるが、1430cm-1のピークの検出感度が低いときや他の振動ピークによる影響を受けているときは1326cm-1のピークを用いても問題ない。PVA/Si-O-Siの値が小さいほどSi-O-C結合が多く生成されていることを意味し、その値は0.2以下が好ましく、0.15以下がより好ましく、0.1以下が最も好ましい。
【0040】
FT-IRにおいて、1430±30cm-1または1326±25cm-1のピークが検出されない場合や、ベースラインの乱れやスペクトルのノイズの影響が大きく正確な値を得ることが出来ない場合は、1H核磁気共鳴分光法(以下、1H NMR)を用いることで、この問題を解決することが出来る。
通常、溶液1H NMRでは溶解した化学種に起因するピークが観測され、不溶な成分のピークは観測されない。また、PVAのOHとSi-OHが共有結合を介して結合した場合、三次元網目構造を形成するためあらゆる溶媒に不溶となる。従って、PVAのOHとSi-OHが共有結合を介して結合した場合、溶液1H NMRにおいてPVA中の1Hに起因するピークが観測されなくなる、または複合膜中のPVAの量から期待されるピーク強度よりも弱く観測される。
【0041】
測定を行うための測定対象物の形態は、測定形態が溶液であることから、膜を基材から抽出することまたは基材に塗工した膜と同条件で作製した単独膜が望ましい。基材に塗工した膜は単独膜の密度をJIS8807:2012に準じた測定で値を得るほかに、塗工膜の膜厚と膜の組成物の密度から単位面積当たりの重量を計算することが出来る。
【数1】
【0042】
基材の塗膜で測定サンプルを作製する場合、切り出した基材を有機溶媒または水に浸漬させた後、溶媒を乾燥させて溶出した塗膜を得る方法と、切り出した基材をNMR測定に使用する重溶媒に浸漬させてから基材を取出し、塗膜入り重溶媒を得る方法がある。どちらでも測定は可能であるが、分析精度を重視する場合は有機溶媒又は水で塗膜を抽出が望ましく、Si-O-C結合が存在しているかどうか確認する程度であれば重溶媒に溶出させる方法が好ましい。それぞれの方法について説明する。
【0043】
切り出した基材を有機溶媒または水に浸漬させる場合、切り出した基材に存在する塗膜重量100重量%に対して、有機溶媒または水を50000重量%加え基材を浸漬させる。この時、基材を浸漬させる方法はシャーレのような浅型でも、スクリュー管のような深型の容器の中でもどちらでもよい。使用する溶媒は基本塗膜中の、SiOHと反応していないOH基を有する樹脂を溶出させるものであり、且つ基材を溶解しないものであればなんでもよい。例えば、使用している樹脂がPVAであればDMSOや水などが挙げられる。抽出に欠ける時間は特に定めていないが、最低でも30分は浸漬する。これらの溶媒で抽出するとき、Si-O-C結合に影響を与えない範囲であれば加温してもよい。これにより基材上の塗膜の溶出を早めることが出来る。
【0044】
温度は有機溶媒の沸点によって異なるが、Si-O-C結合に影響を与えなければ特に定められていない。例えば水の場合、膜を溶出させる温度は1℃以上100℃以下が好ましく、5℃以上95℃以下がより好ましく、10℃以上80℃以下がさらに好ましく、15℃以上75℃以下が特に好ましく、20℃以上60℃以下が最も好ましい。この範囲にすることで膜中のSi-O-C結合量に与える影響を小さくすることが出来る。
加温する時間はその時の温度によって変わる。浸漬した基材を取り出したとき、基材両面を洗浄することが好ましい。これは基材を引き上げたときに塗膜成分が付着している可能性があるため、その回収を目的とする。
洗浄に用いる溶媒は基材を浸漬したときに用いた溶媒が通常だが、相溶性があれば別の有機溶媒または水を用いても問題ない。洗浄に用いる溶媒に制限はなく、十分基材から分析に用いるために十分な量の溶出物が回収できればよい。
【0045】
次に、基材の親戚に使用した溶媒と、洗浄に用いた溶媒を除去する工程を説明する。この工程では溶出した塗膜を含む溶媒を加熱、又は減圧で取り除き、回収した膜の成分を得る。この工程では恒温器や乾燥機、ロータリーエバポレーターなどの装置を用いた方法や、時計皿に溶媒を滴下し、バーナーで加熱して溶媒を取り除く方法もあるが、通常穏やかな条件で加温できる装置が好ましく、安全性から特に好ましいのはロータリーエバポレーターである。ロータリーエバポレーターで減圧留去する場合、加熱しても構わない。この時浴槽に使用する溶媒は通常水である。水の温度はSi-O-C結合に影響を与えなければ特に定められていないが、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましい。
【0046】
溶媒除去の工程が終わると、塗膜成分が固体となって析出する。これを塗膜が不溶であり、基材の親戚に使用した有機溶媒と相溶性のある有機溶媒あるいは水で洗浄し、乾燥させる。この作業は、揮発性の低い有機溶媒を抽出に用いた場合重要である。これにより、乾燥時除去しきれなかった溶媒を取り除くことが出来る。そのため洗浄に用いる有機溶媒は塗膜が不溶であり、回収液の溶媒と可溶であることと共に揮発性であることが好ましい。これらの条件が当てはまれば特に制限はないが、例えばメタノール、エタノールのような低級アルコールやアセトン、脂肪族炭化水素などが挙げられる。
【0047】
有機溶媒で洗浄した後の析出物は、一定時間乾燥を行うことが好ましい。揮発溶媒を使用するので、通常室温での乾燥で問題ないが、水などを取り扱った場合、Si-O-C結合に影響を与えなければ恒温器などの装置を使用した乾燥を行っても構わない。乾燥温度は膜中のSi-O-C結合量に影響を与えず、且つ膜中の水分を除去できる温度が好ましい。この範囲としては120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましく、60℃以下が最も好ましい。乾燥時間は乾燥温度によって変更することが出来る。これらの工程によって固体のサンプルを得ることが出来るので、後述するNMRの測定方法に則りサンプリングを行う。
【0048】
切り出した基材を重溶媒に浸漬させる方法は、切り出した基材に存在する塗膜重量100重量%に対して、重溶媒1500重量%を加え基材を浸漬させる。浸漬させる時間は特に制限はないが、1分以上浸漬させることが好ましい。この時、使用する重溶媒は基材上の塗膜を溶出させ、且つ基材が溶けない溶媒であることが好ましい。また、基材を浸漬させる方法はシャーレのような浅型でも、スクリュー管のような深型の容器の中でもどちらでもよい。使用する溶媒は基本塗膜中の、SiOHと反応していないOH基を有する樹脂を溶出させるものであり、且つ基材を溶解しないものであればなんでもよい。
【0049】
単独膜は基材に塗工したと同じ組成の塗工液をPTFEシャーレ上に通常1g加え、被覆粒状肥料を作製したときと同じ乾燥・焼成条件を施すことで得ることが出来る。もしくは、塗工後塗膜を剥離可能な基材上に、同じ塗工方法及び条件、焼成条件で作製した膜を基材から剥離したものを用いることが出来る。
【0050】
1H NMRで測定する際に使用する重溶媒は、複合膜が可溶であれば特に制限はないが、通常は非プロトン供与性である重ジメチルスルホキシド(以下、DMSO-d6)溶媒を使用する。この溶媒を使用することで膜由来のスペクトルピークと重なることがなく、測定を行うことが出来る。測定対象物と重溶媒の比は複合膜100重量%に対し、重溶媒1500重量%である。後に積分規格化を行うため、このサンプリングで得られる重量は重要であり、重量は可能な限り統一されることが好ましい。
【0051】
1H NMRで測定する際は、得られるスペクトルは積算されていることが好ましい。これは積算を行うことでスペクトル上のノイズを減少させ、より平滑で精度の高いスペクトルを得ることが出来るためである。積算は通常2のn乗の数値で実施される。積算回数に制限は特になく、回数を重ねるほどより精度の高いスペクトルを得ることが出来る一方で、測定に時間がかかるという問題も発生するので、状況に応じて適切な回数を指定することが重要である。好ましくは2回以上128回以下で、より好ましくは4回以上128回以下、最も好ましいのは8回以上128回以下である。
【0052】
1H NMRで測定する際は、測定精度を上げるため,次パルスを照射するための待ち時間(Relaxation Delay、以下、RD)を設定する必要がある。これは磁化が励起後、熱平衡状態に戻る必要があり、早いと十分に熱平衡状態に戻らないまま次の測定が始まってしまうため、適切な時間を設定することが望ましい。通常5秒であるが、より精度の高いスペクトルを得る場合はこれより長い時間かけてもよい。
【0053】
溶液1HNMRにおいて、OH基を有する樹脂のOH基に起因するピークの積分規格化を行うために、測定サンプルを作製するときに基準物質を添加することが好ましい。基準物質は複合膜や複合膜の原料のスペクトルに重複せず、使用する重溶媒に溶解することが好ましく、不揮発性であればより好ましい。揮発性の物であればN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ベンゼン、ベンズアルデヒド、アセトン、アセトニトリル、クロロホルム、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン(MEK)、ヘプタン、ヘキサン、2-プロパノール、ピロール、トルエン、トリエチルアミン(TEA)、不揮発性物質であれば、ジメチルアセトアミド、グリース、ヘキサメチルベンゼン(HMB)、イミダゾール、ヘキサメチルりん酸トリアミド、ピリジンなどが挙げられる。通常、基準物質の規格化積分値は1であるが、PVAのOH基に起因するシグナルの積分値が1より小さいときは、10もしくは100として計算・規格化してもよい。
【0054】
複合膜に含まれるOH基を有する樹脂のOH基に起因するピークの規格化積分値が、複合膜中に含まれるPVAと同じ質量のPVA単独のOH基に起因するピークの規格化積分値に対し、50%以下になっていることが好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下が特に好ましく、20%以下が最も好ましい。この値になることでSi-O-C結合が十分に生成され低い透湿性が発揮される。
【0055】
本実施形態に係る複合膜を得る方法は、特段限定されないが、通常は以下に示す手順で作成することができる。
i)アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解水溶液を用いた方法
ii)アルコキシシラン及び/又はその縮合物を用いた方法
そして、本発明の別の形態は、アルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解重縮
合物を含む溶液と、OH基を有する樹脂とを混合して複合液とする工程と、得られた複合液を基材に塗布する工程と、複合液が塗布された基材を乾燥する乾燥工程と、を有する積層体の製造方法である。
なお、複合膜が基材上に積層されたものを積層体と呼び、以下同様である。
なお、以下では代表例として(i)について、OH基を有する樹脂についてはPVA系樹脂を用いて説明する。PVA系樹脂は本発明において最も好適なものの一例であるが、本発明の構成上、特に(i)と反応させる樹脂はOH基を有している樹脂であれば特に限定されず、例えばセルロース、セルロース誘導体、デンプン等であっても適用が可能である。
【0056】
PVA系樹脂と、アルコキシシラン及び/又はその縮合物と、の加水分解液による製造方法について詳述する。一例では、次の1)~5)の工程を得て本発明の複合膜が基材上に積層押した積層体を得ることができる。
1)アルコキシシラン及び/又はその縮合物水溶液(A)の調製
2)PVA系樹脂水溶液(B)の調製
3)(A)と(B)との混合(複合液とする工程)
4)基材に塗布する工程
5)乾燥工程
【0057】
1)アルコキシシラン及び/又はその縮合物水溶液(A)の調製
この工程ではアルコキシシラン及び/又はその縮合物を溶媒存在下あるいは不存在下で触媒及び水と混合して加水分解し、任意に水希釈可能な液状加水分解組成物とする。
溶媒としては、通常メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~4の脂肪族低級アルコール類が用いられるが、水との相溶性が高く、PVA系樹脂水溶液と混合してもPVAの析出が起こりにくいメタノール、エタノールが特に好ましい。無溶媒下でアルコキシシラン及び/又はその縮合物と加水分解用の水を混合しても相溶しないが、加水分解の進行と共に添加した水が消費され対応するアルコールが生成するため、水の添加量が少ない場合は無溶媒でも最終的に均一透明な組成物となる場合もある。溶媒の使用量は、(A)に含まれる加水分解されたアルコキシシランのSiO2換算重量で20重量%に対して60重量%~75重量%である。固形分濃度、溶媒種類、溶媒比率に応じて適宜変更することが出来る。この後、必要に応じて目的の濃度になるように水またはアルコールで希釈を行ってもよい。
【0058】
水溶液(A)の調製時に、アルコキシシラン及び/又はその縮合物を加水分解(及び/又は縮合)させるためには、触媒及び水を用いる。
かかる触媒とは、通常、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の無機酸触媒、またはギ酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、パラトルエンスルホン酸などの有機触媒、アンモニア等の塩基触媒が、有機金属、金属アルコキシド、有機スズ化合物、アルミニウムやチタン・ジルコニウム等何れかの金属を含む金属キレート化合物、ホウ素化合物等が挙げられる。得られる加水分解体がシラノール基を多く有し、PVA系樹脂と親和性が高く、水溶液(A)が短時間でゲル化しにくく保存安定性に優れる点から、好ましくは酸触媒、有機金属、金属アルコキシド、金属キレート化合物、ホウ素化合物等である。
【0059】
かかる触媒の量は、アルコキシシラン及び/又はその縮合物のアルコキシ基の総モル量に対して通常0.001~0.3モル%、好ましくは0.002~0.2モル%、特に好ましくは0.003~0.1モル%である。かかる量を使用することにより加水分解反応が適切な速度で進行し、かつ水溶液(A)の保存安定性が高くなる。
また、水溶液(A)調製時の水の量はアルコキシシラン及び/又はその縮合物のアルコキシ基の総モル量に対して通常50~200モル%、好ましくは55~180モル%である。かかる量とすることで加水分解反応が進行しやすくなり、(A)を水希釈した場合に
水と均一に相溶しやすい。また目的の複合膜を作製する際に多孔質となることを避けやすいほか、乾燥に無駄な熱量を使うことがない。通常は触媒と水を混合した混合物をアルコキシシラン/又はその縮合物に一括して配合するが、別々に加えてもよい。
【0060】
水溶液(A)調製時のアルコキシシラン及び/又はその縮合物の加水分解(および/または縮合)反応は、通常10~80℃である。かかる温度が高すぎた場合、加水分解反応速度が大きくなり(A)がゲル化しやすく、低すぎた場合反応が進行しにくくなるという傾向がある。反応は通常攪拌しながら行う。
また、反応時間はスケールにより異なるが、通常5分~24時間、好ましくは10分~8時間である。かかる時間とすることにより、水溶液(A)が高粘度化あるいはゲル化しにくく、また反応が不十分となることを防ぎ、水溶液(B)と容易に透明相溶する。
【0061】
2)PVA系樹脂水溶液(B)の調製
この工程では水または水とメタノールの混合溶液、またはこれらを必要に応じて加温した状態において、攪拌下でPVA系樹脂粒子を投入することにより、前記樹脂粒子を水に溶解しPVA系樹脂水溶液(B)とする。水の温度は10~100℃、特に好ましくは25~90℃であり溶解特性に応じて適宜選択される。PVA系樹脂粒子の投入は一括投入でも分割投入でもよい。継粉を防ぎ完全に溶解させるために、必要に応じて投入終了後、溶液を加熱してもよい。投入後すぐに加熱してもよいが、室温で一定時間攪拌してから加熱すると、継粉をより防ぎやすくなる。ここでいう室温とは25±5℃の範囲をいう。室温で攪拌する時間は特に定められていないが、通常は1~3時間、より好ましくは20~40分、特に好ましくは10~15分であり、PVA系樹脂の特性に応じて適宜選択される。また、加熱しながら投入してもよい。
【0062】
水溶液(B)の濃度は、水溶液(B)の粘度や使用樹脂の溶解特性、水溶液(A)との相溶性に応じて適宜選択することが出来、通常1~30重量%、好ましくは2~25重量%である。水溶液(B)の溶媒は通常水であるが、OH基を有する樹脂の溶解特性によって炭素数1~3の低級アルコールや、アセトン等の有機溶媒を含有していてもよい。これにより被覆膜の乾燥が早くなり塗工した基材の製造が早くなる。有機溶媒の含有量は水100重量%に対して通常1~9900重量%、より好ましくは10~400重量%、特に好ましくは30~250重量%である。
【0063】
3)複合液とする工程
この工程では上記の方法にて調製した水溶液(A)および水溶液(B)を混合し、均一な水溶液(複合液)とする。混合の仕方は滴下でも一括添加でもよい。
ここで、水溶液(A)のアルコキシシラン及び/又はその縮合物が部分加水分解状態である場合には、(B)中の水の一部が水溶液(A)と水溶液(B)との混合時にシリケート成分の加水分解用の水として利用され、更なる加水分解重縮合が進行する。水溶液(A)と水溶液(B)との混合後、室温もしくは混合液の沸点以下の加温下で、必要に応じ10分~24時間の間熟成して均一な水溶液を得る。
【0064】
また、本発明の効果である低い透湿性を損なわない範囲において、無機物や有機物のフィラーなどのその他の成分が複合膜中に含まれていてもよい。例えば前記フィラーとしてはタルク、マイカ、ハイドロタルサイト等の板状フィラー、炭酸カルシウム、シリカ、クレー、各種鉱石粉砕品、硫黄等が挙げられる。
また、フィラー以外のその他の成分としては、例えば、界面活性剤や多糖類およびその誘導体等の有機物質が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合によるポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性物質、ポリエチレングリコール-アルキルエーテル、ポリエチレングリコール-分岐アルキルエーテル等のエー
テル型ノニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール-アルキルエステル、ポリエチレングリコール-分岐アルキルエステル等のエステル型ノニオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤およびこれらの混合物等などが挙げられる。多糖類またはその誘導体としては、例えばセルロース、寒天、デンプン、キチンとその誘導体、およびキトサンとその誘導体が挙げられ、これらの中でもデンプンは安値で好ましい材料である。デンプンとしては、トウモロコシ、タピオカ、小麦、馬鈴薯、米、甘藷由来のものが使用できる。また、これらのデンプンは加工したα化デンプン等の加工デンプンを用いてもかまわない。また、デンプン表面をシリコーン樹脂等で処理して、分散性や流動性を改良したシリコーン処理デンプン等も使用できる。これら界面活性剤、多糖類またはその誘導体は、単独でも使用できるし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
上記フィラーの粒径は、100μm以下が好ましく、1~50μmがより好ましい。粒径が上記の範囲であると、粒径が大きすぎて製膜時に被膜が剥離する等の問題も起きにくい。フィラーは、粒径が被膜の厚みより大きくて被膜表面から一部分が突出する場合でも、被膜に一部分が取り込まれて接着している状であれば、所期の目的は達成される。粒径の測定は、例えば前記レーザー回折式粒度分布測定装置等の公知の方法を用いればよい。被膜材料が上記フィラー等を含む場合、その割合は特に限定されるものではないが、被膜材料100質量%に対して、0.1~70質量%が好ましく、1~60質量%がより好ましい。被膜材料が上記界面活性剤や多糖類およびその誘導体等のフィラー以外のその他の成分を含む場合、その割合は特に限定されるものではないが、被膜材料100質量%に対して、0.01~60質量%が好ましく、0.1~50質量%がより好ましい。
【0066】
4)基材に塗布する工程
この工程では、前工程で得られた複合液を用いて、基材への塗布を行う。ここではバーコート法を用いているが、コーティング方法に特に制限はなく、従来公知コーティング技術のうち、任意のものを適宜選択すればよい。具体的には、スプレー法、ローラーコート法、バーコート法、スピンコート法、グラビアコート法、ダイコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、コンマコート法、カーテンコート法、ディップコート法、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。塗布する厚み、及び材料の粘度、固形分に応じて、上記方法から適宜選択することが出来る。使用する基材は特に制限はないが、紙、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、不織布、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリブチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、及びセルローストリアセテートなどの材料からなるフィルムを用いることが出来る。膜の密着性や基材の低い透湿性の観点から、PETが好ましく、環境への影響からポリブチレンサクシネートが特に好ましい。また、基材は通常厚みが小さいほど透湿度は上昇するので、本発明の効果が発揮されやすい。使用する基材の厚みに特に制限はないが、100μm以下が好ましく、75μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましく、30μm以下が特に好ましい。
【0067】
ここではコーティングする基材として膜厚30μmのポリブチレンサクシネートフィルムを使用し、バーコート法で塗工する。15cm×11.5cm角にカットした基材を厚紙にセロハンテープで各辺を貼り付ける。この時、基材がゆがまないように気を付ける。基材を貼り付けた厚紙を水平台の上に固定し、基材上部にコーティング液を横一直線に添加する。バーコート法において、添加するコーティング液の量は基材の大きさによって決まる。ここでは0.5g以上1g以下添加すれば斑なく均一に塗布することが出来る。次にバーコーターを使用してコーティングを行う。使用するバーコーターの種類は特に制限はないが、目詰まりを起こしにくく、膜厚斑が少ないワイヤレスバーコーター(ノンワイヤーバーコーター)が特に好ましい。バーコーターの番手は、理論膜厚が小さい番手ほど
膜厚斑が少なく、理論膜厚が大きい番手ほど厚膜の塗工膜を得ることが出来るので、使用する基材の種類や厚み、塗工液の固形分や粘度によって適宜選択することが出来る。膜厚斑少なく本発明の効果を発揮できる膜厚を得られることから、0.6番手以上44番手以下が好ましく、0.6番手以上40番手以下がより好ましく、1番手以上29番手以下がさらに好ましく、1番手以上26番手以下が特に好ましく、2番手以上22番手以下が特に好ましい。基材上部、添加したコーティング液の位置にバーコーターを静かに置き、コーター全体に塗工液が浸透するようその場で2、3回回転させる。その後、真っ直ぐ基材の下部までバーコーターを回転させずに引き下ろす。こうすることで均一な膜厚の塗布膜を得ることが出来る。
【0068】
5)乾燥工程
この工程では、前工程で得られた基材上の塗布膜を乾燥することで塗工膜を硬化させ、透湿性の低い膜を得ることが出来る。乾燥工程の温度等は特に限定されないが、複合膜に割れ等を生じさせないための比較的低温での乾燥と、膜中のSi-O-C結合を増加し、膜をより緻密にして透湿性をより低くするための高温での乾燥を組み合わせて行うと好ましい。具体的には、次の(ア)(イ)の工程を有していてもよい。
(ア)低温乾燥
(イ)高温乾燥
なお、ここでいう低温および高温は(ア)と(イ)を差異化するための呼称である。
【0069】
乾燥に使用する装置は、塗膜中の溶媒を除去し、塗膜を硬化できるのであれば特に制限はない。例えば恒温器や乾燥機が使用されるが、均一な温度精度を有することから恒温器が好ましい。乾燥機を使用する場合、強制循環式乾燥機、自然対流式乾燥機が挙げられ、温度精度に優れている点で強制循環式乾燥機が好ましい。ここではヤマト科学社製の送風定温恒温器DKN-402を使用している。
【0070】
(ア)低温乾燥
この時の温度は室温以上が好ましく、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上、また89℃以下である。これ以上の温度になると、膜中の水分が急激に失われることにより被膜が割れてしまうことがある。焼成に要する時間は焼成温度によって異なるが、最低でも15分以上焼成することが好ましい。
【0071】
(イ)高温乾燥
この工程では、(ア)で焼成した塗布膜を(ア)よりも高い温度で焼成する工程である。これにより、膜中のSi-O-C結合が増加し、膜がより緻密になり溶出を抑えることが出来る。乾燥温度は基材に影響を与えなければ特に制限はないが、90℃以上が好ましく、好ましくは100℃以上120℃以下である。高温乾燥に要する時間は乾燥温度によって異なるが、最低でも15分以上焼成することが好ましい。
【0072】
<複合膜>
2つの乾燥工程を経て得られる複合膜はある程度の厚みを有することが好ましい。厚みは基材にコーティングするときに使用するコーティング法の条件、塗工液の粘度や固形分濃度などによって決定されるので、特に制限はないが、膜厚を一定値以上とすることでより透湿性が低くなり一方膜厚を適当な上限値以下とすることにより複合膜が割れる可能性を減らす頃ができるこのため、複合膜として通常0.1μm以上250μm以下が好ましく、0.3μm以上150μm以下がより好ましく、0.5μm以上100μm以下が特に好ましい。膜厚を確認する方法は様々であるが、基材や塗膜が透明の場合、光学式非接触膜厚測定装置を使用することが出来る。また、基材が不透明の場合、塗工膜を削るなどして、レーザー顕微鏡で基材との段差を確認することで膜厚を確認することが出来る。
【0073】
また、前記複合膜中のSi含有量が、SiO2換算で0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることが更に好ましく、100重量%未満であることが好ましく、95重量%以下であることがより好ましく、90重量%以下であることが更に好ましい。この範囲であることで、被膜が割れにくく、より低い透湿性を得ることが出来る。
【0074】
<透湿度について>
得られた複合膜や積層体の透湿度はJIS Z 0208に定められた方法を使用することが出来、その温湿度の条件は25℃90%RHに設定することが出来る。
【0075】
複合膜は、25℃90%RHにおいて透湿度30g/m2・day以下であることが好ましく、25g/m2・day以下がより好ましく、20g/m2・day以下が特に好ましく、最も好ましくは10g/m2・day以下である。
【0076】
以下本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
<シリケート加水分解液の作製>
シリケートMS-51(三菱ケミカル社)を15.4g、メタノール31.2g、純粋3.25g、マレイン酸を0.16g加え1時間攪拌した後、一晩静置してSiO2換算固形分濃度20~22%のシリケート加水分解液を得た。この加水分解液中のシリカの平均粒子径を特許第3760471号の手法を用いて測定した結果、粒子径は2nmであった。
<PVA水溶液の作製>
純水95.0gにポリビニルアルコールNL-05(平均重合度500、ケン化度98.5mol%以上)を5.0g加えた。室温で15分攪拌した後、90℃に昇温し1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度5%のPVA水溶液を得た。
【0078】
<複合液の作製>
PVA水溶液16.0gにシリケート加水分解液6.0gを混合し1時間攪拌した。SiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比は60質量%/40質量%とした。
<積層体の作成>
得られた複合液をプラスチックフィルム(基材)に塗布した。基材にはポリブチレンサクシネートフィルム(Bio-PBS、三菱ケミカル社製)を使用した。ノンワイヤーバーコーター(18番手)を用いて複合液を基材に塗布した後、恒温低温送風機(ヤマト科学社製、DKN-402)で80℃1時間乾燥を行った後、さらに105℃16時間乾燥を行った。得られた膜はレーザー顕微鏡(キーエンス社)を用いて膜厚を測定したところ、5μmであった。
【0079】
[比較例1]
<複合液の作製>
PVA水溶液16.0gに平均シリカ粒径16.7nm(PL-2L、扶桑化学工業(株)製、固形分20重量%)コロイダルシリカ水溶液6.0gを混合した。SiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比は60質量%/40質量%とした。
<積層体の作成>
得られた複合液をプラスチックフィルム(基材)に塗工した。基材にはポリブチレンサクシネートフィルム(Bio-PBS、三菱ケミカル社製)を使用した。ノンワイヤーバーコーター(18番手)を用いて塗工液を基材にコーティングした後、恒温低温送風機(
ヤマト科学社製、DKN-402)で80℃1時間乾燥を行った後、さらに105℃16時間乾燥を行った。得られた膜はレーザー顕微鏡(キーエンス社)を用いて膜厚を測定したところ、5μmであった。
【0080】
[比較例2]
<複合液の作製>
PVA水溶液16.0gに平均シリカ粒径60nmのコロイダルシリカ水溶液(日産化学社製、固形分20重量%)6.0gを混合した。SiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比は60質量%/40質量%とした。
<積層体の作成>
得られた複合液をプラスチックフィルム(基材)に塗工した。基材にはポリブチレンサクシネートフィルム(Bio-PBS、三菱ケミカル社製)を使用した。ノンワイヤーバーコーター(18番手)を用いて塗工液を基材にコーティングした後、恒温低温送風機(ヤマト科学社製、DKN-402)で80℃1時間乾燥を行った後、さらに105℃16時間乾燥を行った。得られた膜はレーザー顕微鏡(キーエンス社)を用いて膜厚を測定したところ、5μmであった。
【0081】
<透湿度測定>
透湿カップは安田精機社製(No.308)を使用し、JIS Z 0208に従い作製した。作製した透湿カップは重量を測定した後、25℃90%RHに設定した環境試験機(エスペック社製、)に入れJIS Z 0208に従い試験を行った。
<FT-IR測定>
FT-IR装置(Thermo Fisher Scientific社製、iN10MX)を使用して測定を行った。測定及び解析には同社ソフトウェアOMNIC(Version8.3.103を使用した。測定条件および解析条件は以下のとおりである。
測定法)ATR法
測定サンプルの形状)被覆尿素
プリズム)ダイヤモンドプリズム
積算回数)64回
分解能)4cm-1
バックグラウンド補正)サンプル測定前
位相補正)Mertz法
スペクトル強度)吸光度
ベースライン補正)オートベースライン補正
スムージング)オートスムージング
ピーク検出:分布関数)Voigt関数
ピーク検出:ピーク検出感度)低感度
ピーク検出:半値幅)3.857~10
ピークフィッティング:ノイズ)5
ピークフィッティング:ベースライン補正)1次(線形)補間
ピークフィッティング:繰り返し計算)標準偏差値が1.0以下になるまで計算
得られた実施例1、比較例1~2の塗工基材は、上記の透湿試験、FT-IR、溶液1HNMRの測定に準じて分析を行った。結果を表1に示す。
【0082】
【0083】
透湿度はJIS Z 0208に準拠し算出した後、以下に示す式(1)を用いて膜単体の透湿度を算出した。
【数2】
ここで、Lは膜と基板の総膜厚、L1は複合膜の膜厚、L2は基板の膜厚である。また、Pは全体の湿気透過係数(透湿試験から得られた数値)、P1は複合膜の湿気透過係数、P2は基板の湿気透過係数である。
【0084】
参考として、ポリブチレンサクシネートフィルム(フィルム厚30μm、Bio-PBS、三菱ケミカル)のみの透湿カップを作製し、透湿試験を実施したところ、透湿度は平均で160g/m2・dayであった。この値を参考に実施例1の複合膜(積層体ではない)の透湿度を算出したところ、11g/m2・dayであった。比較例1及び比較例2についてはシリカの粒径が大きいと、十分なSi-O-C結合が得られず、透湿性が十分下がらなかったことが判り、またシリカが水分を吸着する現象も生じたと思われる。