(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157663
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】セメント組成物及び水硬性組成物、並びにセメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20221006BHJP
C04B 7/02 20060101ALI20221006BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20221006BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B7/02
C04B24/26 E
C04B22/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062014
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 裕伸
(72)【発明者】
【氏名】西 元央
(72)【発明者】
【氏名】井戸 利博
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 尚
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB23
4G112MD00
4G112PB11
4G112PB31
(57)【要約】
【課題】中庸熱ポルトランドセメントまたは低熱ポルトランドセメントであって、ポリカルボン酸系混和剤と混合した場合に、優れた初期流動性及び経時流動性を得ることができるセメント組成物及びその製造方法、並びに、該セメント組成物とポリカルボン酸系混和剤とを含む水硬性組成物を提供する。
【解決手段】クリンカ、二水石膏、及び、半水石膏を含み、前記クリンカは、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、または、低熱ポルトランドセメントクリンカであり、前記半水石膏由来のSO3含有量が0.79質量%以上であり、半水化率が40%以上95%以下である、セメント組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカ、二水石膏、及び、半水石膏を含み、
前記クリンカは、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、または、低熱ポルトランドセメントクリンカであり、
前記半水石膏由来のSO3含有量が0.79質量%以上であり、半水化率が40%以上95%以下である、セメント組成物。
【請求項2】
前記半水石膏由来のSO3含有量が、1.41質量%以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセメント組成物と、ポリカルボン酸系混和剤とを含む、水硬性組成物。
【請求項4】
クリンカと、二水石膏と、半水石膏とを含むセメント組成物の製造方法であって、
少なくとも前記クリンカ及び二水石膏を混合する工程を含み、
前記クリンカは、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、または、低熱ポルトランドセメントクリンカであり、
前記半水石膏由来のSO3含有量が0.79質量%以上であり、半水化率が40%以上95%以下である、セメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物及びその製造方法に関し、特に中庸熱ポルトランドセメントまたは低熱ポルトランドセメントに関する。また、本発明は、該セメント組成物を含む水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の高層化に伴い、高強度コンクリートが多用されている。高強度コンクリートでは、流動性を高めるために、高性能AE減水剤としてポリカルボン酸系混和剤がセメントに添加されることがある。
しかしながら、ポリカルボン酸系混和剤の場合、(1)セメント工場間、あるいは、製造ロット間で、所定の流動性を得るために必要な添加量が異なる、(2)添加量を増加させても所定の流動性が得られない、などの問題がある。また、(3)混練直後に所定の流動性が得られたとしても、経時的に変化する、ことも問題となっている。上述の現象が発生する理由は定かではないが、セメントの粉末度や、セメントクリンカの間隙質(主に3CaO・Al2O3)の割合、硫酸アルカリ含有量など、混練初期における混和剤の吸着量に関連するパラメータの影響が考えられる。上記の問題は、3CaO・Al2O3の割合が高いセメントクリンカ(例えば、普通ポルトランドセメントクリンカ、早強ポルトランドセメントクリンカ)を用いた場合に顕著である。
【0003】
そこで、ポリカルボン酸系混和剤を用いた場合に、混練直後の流動性に優れ、その後の経時変化を小さくすることができるセメント組成物が種々提案されている。特許文献1は、3CaO・Al2O3含有量が5質量%15質量%以下のクリンカ及び石膏を含み、3CaO・Al2O3含有量、石膏含有量及び半水石膏含有量が所定の関係を満たす水硬性組成物を開示する。特許文献2は、3CaO・Al2O3含有量が5~15質量%であり、二水石膏及び半水石膏の合計に占める半水石膏の割合がSO3換算で70質量%以上、かつ、半水石膏含有量がSO3換算で1.2質量%以下のセメントと、ポリカルボン酸系高性能減水剤とを含む水硬性組成物を開示する。特許文献3は、3CaO・Al2O3含有量が7~13質量%であり、半水石膏量が0.2~3.5質量%、二水石膏及び半水石膏の合計に対する半水石膏の割合が50~95質量%であり、水溶性アルカリ量が0.17~0.32質量%であるセメント組成物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-302518号公報
【特許文献2】特開2004-196624号公報
【特許文献3】特開2007-45647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントの場合には、3CaO・Al2O3の割合が高いため、水和の進行により水和物の比表面積が増大することにより、流動性を確保するために必要な混和剤が不足し、流動性の経時的な低下が発生すると考えられた。3CaO・Al2O3含有量が低い中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントでは、このような問題は発生しないと考えられた。しかしながら、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントでも、ポリカルボン酸系混和剤と混合してコンクリートとした場合に、流動性が経時的に変化する現象が見られることがあった。中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントの場合は、上記とは異なる原因により流動性が経時的に低下すると考えられる。このことから、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントの場合において、流動性の経時的な変化を抑制することを目的として、上記特許文献1~3を参照することはできない。
【0006】
本発明は、中庸熱ポルトランドセメントまたは低熱ポルトランドセメントであって、ポリカルボン酸系混和剤と混合した場合に、優れた初期流動性及び経時流動性を得ることができるセメント組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。更に本発明は、該セメント組成物とポリカルボン酸系混和剤とを含む水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの鋭意検討の結果、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントにおいて、半水化率及び半水石膏由来のSO3含有量を特定の範囲とすることにより、モルタルやコンクリートとした場合に混練後初期の流動性を確保できるとともに、経時的に良好な流動性を維持することができることを見出した。
更に、本発明者らは、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントにポリカルボン酸系混和剤を添加した場合に、加圧ブリーディング試験の後で流動性が顕著に低下する場合があることを見出した。加圧ブリーディング試験は、コンクリートをポンプで圧送した後の流動性に相当する。そして、本発明者らは、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントにおいて、半水化率及び半水石膏由来のSO3含有量を特定の範囲とすることにより、上述した加圧後の流動性の変化も抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供する。
[1] クリンカ、二水石膏、及び、半水石膏を含み、前記クリンカは、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、または、低熱ポルトランドセメントクリンカであり、前記半水石膏由来のSO3含有量が0.79質量%以上であり、半水化率が40%以上95%以下である、セメント組成物。
[2] 前記半水石膏由来のSO3含有量が、1.41質量%以下である、[1]に記載のセメント組成物。
[3] [1]または[2]に記載のセメント組成物と、ポリカルボン酸系混和剤とを含む、水硬性組成物。
[4] クリンカと、二水石膏と、半水石膏とを含むセメント組成物の製造方法であって、少なくとも前記クリンカ及び二水石膏を混合する工程を含み、前記クリンカは、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、または、低熱ポルトランドセメントクリンカであり、前記半水石膏由来のSO3含有量が0.79質量%以上であり、半水化率が40%以上95%以下である、セメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセメント組成物は、ポリカルボン酸系混和剤と混合してコンクリート等とした場合に、混練直後だけでなく経時的に優れた流動性を得ることができ、更には、混練後に静置した場合や圧送した後であっても、優れた流動性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のセメント組成物及び水硬性組成物について、詳細に説明する。なお、本明細書中の「AA~BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0011】
[セメント組成物]
本発明のセメント組成物は、クリンカ、二水石膏、及び、半水石膏を含み、前記クリンカが、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、または、低熱ポルトランドセメントクリンカであり、前記半水石膏由来のSO3含有量が0.79質量%以上であり、半水化率が40%以上95%以下である。
【0012】
本発明では、セメント組成物、水及びポリカルボン酸系混和剤を混練して作製したモルタル及びコンクリートの各流動性を、以下のように定義する。
(1)初期フロー
混練終了直後の流動性。
(2)経時フロー
混練終了から所定時間(具体的に、混練終了から5分以上)モルタルあるいはコンクリートを静置し、評価材齢到達直前で均質化処理(切り返しなど)を行った後、モルタルあるいはコンクリートをフロー試験器具に充填し、速やかにJIS A 1150:2020「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠して評価したときの流動性。
(3)静置フロー
混練終了後または所定時間モルタルあるいはコンクリートを静置した後、経時フローの評価材齢到達直前で均質化処理(切り返しなど)を行ってから、フロー試験器具にモルタルあるいはコンクリートを充填し、その後、充填状態で所定時間静置してから、JIS A 1150:2020「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠して評価したときの流動性。各材齢の経時フローに対して、均質化処理後に静置された場合の流動性変化の有無を把握することができる。
(4)加圧フロー
混練終了後または所定時間(具体的に、混練終了から5分以上)モルタルあるいはコンクリートを静置した後、均質化処理を行ったモルタルまたはコンクリートを加圧容器内に充填して一定条件で加圧し、その後加圧容器内から取り出した試料の均質化処理を行ってからフロー試験器に充填し、速やかにJIS A 1150:2020「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠して評価したときの流動性。例えばポンプで圧送した後の流動性に相当する。
【0013】
<クリンカ>
本発明で用いられるセメントクリンカは、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定される中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、または、低熱ポルトランドセメントクリンカである。本発明で用いられるセメントクリンカは、ボーグ式で算出された3CaO・Al2O3(略号:C3A)の割合が5質量%未満であることが好ましい。また、セメントの水和熱低減の観点からは、C3Aの割合が4質量%未満であることが更に好ましい。
中庸熱ポルトランドセメントクリンカの場合、ボーグ式で算出された3CaO・SiO2(略号:C3S)の割合が30~50質量%であり、2CaO・SiO2(略号:C2S)の割合が30~55質量%であり、4CaO・Al2O3・Fe2O3(C4AF)の割合が5~15質量%であることが好ましい。
低熱ポルトランドセメントクリンカの場合、ボーグ式で算出された3CaO・SiO2(略号:C3S)の割合が20~40質量%であり、2CaO・SiO2(略号:C2S)の割合が40~65質量%であり、4CaO・Al2O3・Fe2O3(C4AF)の割合が5~15質量%であることが好ましい。
C3S、C2S、C3A及びC4AFの割合は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」により測定したセメントクリンカにおけるCaO、SiO2、Al2O3及びFe2O3の割合から求められる。
【0014】
<半水石膏、二水石膏>
本発明のセメント組成物は、二水石膏及び半水石膏を含む。本発明において、半水石膏由来のSO3含有量は、0.79質量%以上であり、半水化率は、40%以上95%以下であることを要件とする。半水化率は、下記式(1)から算出される。
半水化率(%)=半水SO3量/(半水SO3量+二水SO3量)×100 (1)
半水SO3量:セメント組成物中の半水石膏由来のSO3含有量(質量%)
二水SO3量:セメント組成物中の二水石膏由来のSO3含有量(質量%)
半水石膏由来のSO3含有量:半水石膏含有量(質量%)×80/145
二水石膏由来のSO3含有量:二水石膏含有量(質量%)×80/172
【0015】
中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、または、低熱ポルトランドセメントクリンカを用いるセメント組成物は、クリンカ組成上、混練初期においてC3Aの水和を抑制する必要がほとんどない。このため、半水石膏の添加や、二水石膏から半水石膏への転換量の調整は重要でないと考えられていた。しかしながら、本発明者らの検討では、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントにおいても、種々の状況での流動性を確保するためには、一定量以上の半水石膏を必要とすることが判明した。この理由は定かではないが、本発明のセメント組成物に水及びポリカルボン酸系混和剤を添加してモルタルまたはコンクリートを製造した場合、二水石膏は混練直後の流動性(初期フロー)の発現に寄与し、半水石膏は経時的な流動性(経時フロー)の維持と、圧送など加圧された後の流動性(加圧フロー)の維持に寄与すると考えられる。
【0016】
半水石膏由来のSO3含有量が0.79質量%未満である場合、良好な経時フロー、静置フロー及び加圧フローを得ることができない。半水石膏由来のSO3含有量は、0.89質量%以上であることが好ましく、0.99質量%以上であることがより好ましい。ただし、JIS R 5210:2019「ポルトランドセメント」において、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントに含有されるSO3の上限が規定され、更にクリンカ中にも一定量のSO3が含まれる。このことから、半水石膏由来のSO3含有量に上限があることが好ましい。上記JIS規格で規定されているセメント中のSO3量の上限は、中庸熱ポルトランドセメントの場合3.0質量%、低熱ポルトランドセメントの場合3.5質量%である。原料由来でクリンカ中に持ち込まれるSO3量は変動するが、概ね0.3~1.2質量%程度である。クリンカ中のSO3含有量の変動を許容して上記JIS規格の規定を考慮すると、半水石膏由来のSO3含有量は、1.80質量%以下であることが好ましく、1.60質量%以下であることがより好ましく、1.40質量%以下であることが更に好ましい。
【0017】
半水化率が95%を超えると、相対的に二水石膏の割合が低くなり、十分な初期フローを得ることができない。一方、半水化率が40%未満であると、相対的に半水石膏の割合が低くなり、十分な経時フローを得ることができず、また、静置フロー及び加圧フローも得ることができない。半水化率が40%以上95%以下であることにより、半水石膏と二水石膏との配合バランスが良好であるために、優れた初期フローを得ることができるとともに、良好な経時フロー、静置フロー及び加圧フローを得ることができる。優れた初期フローの確保を考慮すると、半水化率は、90%以下であることが好ましい。優れた経時フロー、静置フロー及び加圧フローを得るとの観点では、半水化率は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0018】
本発明のセメント組成物は、無水石膏が添加されていても良い。本発明のセメント組成物に無水石膏が含まれていても、モルタルまたはコンクリートの流動性に大きな影響を与えないと考えられる。無水石膏の添加量は、半水石膏及び二水石膏の含有量も考慮し、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されるSO3添加量を超えない範囲で添加することが可能である。
【0019】
<セメント組成物の品質>
本発明において、セメント組成物のブレーン比表面積は2600cm2/g以上4500cm2/g以下であることが好ましく、3000cm2/g以上3900cm2/g以下がより好ましい。
【0020】
[水硬性組成物]
本発明の水硬性組成物は、本発明のセメント組成物とポリカルボン酸系混和剤とを含む。本発明の水硬性組成物から、モルタルまたはコンクリートが調製される。
本発明におけるポリカルボン酸系混和剤とは、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定されるコンクリート化学混和剤のうち、セメントへの吸着部位としてカルボン酸を有する高分子からなる混和剤である。ポリカルボン酸系混和剤としては、メタクリル酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有モノマーと、ポリオキシエチレン基をもつモノマーとの共重合物などが挙げられる。ポリカルボン酸系混和剤の添加量は、混和剤の銘柄によって変動し得るが、W/C(水セメント比)、流動性の目標値などを考慮して設定されることが好ましい。
【0021】
<その他成分>
本発明の水硬性組成物は、強度発現性、水和発熱量の低減等を目的として、フライアッシュ、高炉スラグあるいはシリカフュームなどをさらに添加することができる。本発明の水硬性組成物では、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定される高炉スラグ、シリカ質混合材及びシリカフュームを使用することができる。本発明の水硬性組成物においては、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュを、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定される合計量を超えて添加することもできる。
【0022】
[セメント組成物の製造方法]
本発明のセメント組成物の製造方法は、クリンカと、二水石膏と、半水石膏とを含むセメント組成物の製造方法であって、少なくとも前記クリンカ及び二水石膏を混合する工程を含み、前記クリンカは、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、または、低熱ポルトランドセメントクリンカであり、前記半水石膏由来のSO3含有量が0.79質量%以上であり、半水化率が40%以上95%以下である。
本発明のセメント組成物の製造方法は、少なくともクリンカ及び二水石膏を混合する工程を含む。混合と同時に粉砕を行っても良い。特に粉砕を行う場合、粉砕設備(チューブミルなど)内部の温度上昇によって二水石膏から結晶水が脱水し、二水石膏が半水石膏に転移する。このため、クリンカ及び二水石膏のみを混合粉砕する場合でも、セメント組成物中に半水石膏が含まれることになる。脱水により半水石膏を得る場合、半水石膏由来のSO3含有量、及び、半水化率は、クリンカに対する二水石膏の投入量、混合時あるいは粉砕時の通風や散水などの温度制御を行うことにより、調節することができる。
本発明においては、クリンカ、二水石膏及び半水石膏を混合して、セメント組成物を製造しても良い。この場合も、混合と同時に粉砕が行われても良い。粉砕による温度上昇を考慮して、クリンカ、二水石膏及び半水石膏の割合、温度制御を行うことにより、所望の半水石膏由来のSO3含有量及び半水化率を得ることができる。
セメント組成物中の二水石膏及び半水石膏の定量は、X線回折パターンのリートベルト解析、または、熱分析(TG/DTA測定若しくはDSC測定)により行うことができる。X線回折パターンのリートベルト解析を用いる場合には、二水石膏及び半水石膏だけでなく、無水石膏を定量することができる。
【実施例0023】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
1.試料
試料1~12として、添加石膏の種類及び添加量、半水化率がそれぞれ異なるセメント組成物(中庸熱ポルトランドセメント)を準備した。試料1,7,8,11,12は、それぞれ異なるセメント工場で製造されたセメント組成物である。試料2~6は、試料1と試料7の混合比率を変えることにより作製した。試料9は、試料4に対して半水石膏(関東化学社製、鹿1級 焼石膏)を添加して作製した。試料10は、試料2に対して半水石膏を(関東化学社製、鹿1級 焼石膏)を添加して作製した。各試料について、各種石膏由来のSO3含有量、半水化率、ブレーン比表面積を表1に示す。また、セメント組成物のボーグ式による鉱物組成及び化学組成を表2に示す。
各種石膏由来のSO3含有量は、X線回折パターンのリートベルト解析により得た。
ブレーン比表面積の測定は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準じて行った。
セメント組成物の化学組成は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準じて蛍光X線測定装置(PRIMUS IV、株式会社リガク製)を用いて、ガラスビード法にて成分分析を行った。鉱物組成は、得られたCaO、SiO2、Al2O3及びFe2O3の質量割合から、下記のボーグ式を用いて算出した。
C3S=(4.07×CaO)-(7.60×SiO2)-(6.72×Al2O3)-(1.43×Fe2O3)
C2S=(2.87×SiO2)-(0.754×C3S)
C3A=(2.65×Al2O3)-(1.69×Fe2O3)
C4AF=3.04×Fe2O3
【0024】
試料1~12のセメント組成物に細骨材を添加し、ミキサ(ホバートジャパン(株)製、N50)を用いて15秒間混合した。混合後、ポリカルボン酸系混和剤(ポゾリスソリューションズ(株)製、商品名「マスターグレニウムSP8V(標準型)」)、及び、水(水道水)を添加して、3分間混練し、各試料のモルタルを得た。水セメント比(W/C)は30%、細骨材セメント容積比(S/C)は1.64とした。減水剤セメント比(SP/C)は、混練後5分経過後のモルタルのスランプフローが350±50mmとなる配合に調整した。各試料について、セメント組成物に対する減水剤添加量を表1に示す。
【0025】
【0026】
【0027】
2.モルタルの流動性評価(ミニスランプフロー試験)
(1)初期フロー測定
試料1~12のモルタルに対して、JIS A 1171:2020「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に準拠するミニスランプフローコーンを用いて、JIS A 1150:2020「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠して、初期フローの測定を行った。測定は20℃±2℃の環境で行った。
混練直後のモルタルについて、一定回数の手混錬を行った後、ミニスランプコーンに充填した。充填後直ちにミニスランプコーンを引き抜き、フロー試験を実施した。
(2)経時フロー測定
上記初期フローを測定した後に、試料1~12のモルタルをミキサの練り鉢内へ戻し、そのままの状態で評価材齢直前まで静置した。評価材齢到達直前で、練り鉢内で匙を用いて30秒程度攪拌し、均質化処理を行った。その後、(1)と同様にして、各試料のモルタルをミニスランプコーンに充填した。充填後直ちにミニスランプコーンを引き抜き、フロー試験を実施した。
(3)静置フロー測定
(i)混練直後からの静置フロー
(1)と同様にして、混練直後の試料1~12のモルタルについて一定回数の手混錬を行った後、(1)とは別のミニスランプコーンに充填した。充填後、コーンの投入口に平板を設置し、さらに重りを乗せた。この状態で5分静置した後、ミニスランプコーンを引き抜き、フロー試験を実施した。
(ii)各材齢での静置フロー
試料1~12のモルタルについて、(2)と同様の操作で均質化処理まで行い、(2)とは別のミニスランプコーンに各試料のモルタルを充填した。充填後、コーンの投入口に平板を設置し、さらに重りを乗せた。この状態で5分または15分静置した後、ミニスランプコーンを引き抜き、フロー試験を実施した。
(4)加圧フロー測定
試料1~4、9~12のモルタルについて、それぞれ加圧ブリーディング試験を行った。具体的に、混練後20分または60分静置した各試料のモルタルを、均質化処理を行った後に加圧ブリーディング試験機(関西機器製作所社製、KC-254 A)に所定量を充填し、排水を行わずに5.0MPa、120秒の条件で加圧を行った。加圧処理後の試料を容器より取り出し、均質化処理を行い、(1)と同様にして、各試料のモルタルをミニスランプコーンに充填した。加圧ブリーディング試験機への試料の充填からスランプフロー測定までに要した時間は15分程度であった。充填後直ちにミニスランプコーンを引き抜き、フロー試験を実施した。
【0028】
モルタルの流動性の評価結果を表3及び表4に示す。表3及び表4におけるスランプフロー値は、混練直後(経過時間0分)のスランプフロー値(初期フロー)を100%として規格化したスランプフロー値である。表3及び表4に示す「経過時間」は、初期フロー、経時フロー及び静置フローに関しては、混練直後からミニスランプコーンに充填するまでの経過時間を表す。加圧フローに関しては、混練直後から加圧ブリーディング試験を行うまでの経過時間を表す。
【0029】
【0030】
【0031】
3.評価
試料1~12のモルタルについて、表3及び表4に示す規格化したスランプフロー値から下記の評価を行った。
(A)評価1
各試料の初期フロー及び経時フローについて、スランプフロー値の最大値を求め、それぞれ最大値からの差(「ΔF1」と表記する。)を下記式(1)により算出した。ΔF1の値を表5及び表6に示す。
ΔF1=(スランプフロー最大値)-(各経過時間でのスランプフロー値) ・・・(1)
ΔF1の値が大きい程、時間経過による流動性の変動が大きいことを示す。各試料について、下記の指標に基づいて減点方式で採点した。採点を表5及び表6に示す。
40<ΔF1:-5点
20<ΔF1≦40:-3点
10<ΔF1≦20:-1点
0≦ΔF1≦10:0点
【0032】
(B)評価2(経時フローロス、後伸び)
経過時間0分でのスランプフロー値(初期フロー)に対する各経過時間でのスランプフロー値(経時フロー)の差(「ΔF2」と表記する。)を、下記式(2)により算出した。ΔF2の値を表5及び表6に示す。
ΔF2=(各経過時間でのスランプフロー値)-(0分でのスランプフロー値) ・・・(2)
ΔF2の値が小さい程、混練直後(初期フロー)に対して経時的に流動性が失われたことを意味する。この現象を、「経時フローロス」と称する。各試料について、経時フローロスを下記の指標に基づいて減点方式で採点した。採点を表5及び表6に示す。
<経時フローロス>
ΔF2<-20:-5点
-20≦ΔF2<-15:-3点
-15≦ΔF2<-10:-1点
-10≦ΔF2:0点
ΔF2の値が大きすぎることは、混練直後(経過時間0分)のスランプフロー値が小さく、十分な初期フローを得ることができなかったことを意味する。この現象を、「後伸び」と称する。各試料について、後伸びを下記の指標に基づいて減点方式で採点した。採点を表5及び表6に示す。
<後伸び>
ΔF2>40:-5点
20<ΔF2≦40:-3点
10<ΔF2≦20:-1点
ΔF2≦10:0点
【0033】
(C)評価3(静置フローロス)
各経過時間について、経時フローのスランプフロー値に対する静置フローのスランプフロー値の差(「ΔF3」と表記する。)を、下記式(3)により算出した。ΔF3の値を表5及び表6に示す。
ΔF3=(静置フロー評価によるスランプフロー値)-(経時フロー評価によるスランプフロー値) ・・・(3)
ΔF3の値が小さい程、均質化処理後の時間経過により、流動性が失われたことを意味する。この現象を、「静置フローロス」と称する。各試料について、各静置時間での静置フローロスを下記の指標に基づいて減点方式で採点した。採点を表5及び表6に示す。
<5分静置の場合>
ΔF3<-15:-5点
-15≦ΔF3<-10:-3点
-10≦ΔF3<-5:-1点
-5≦ΔF3:0点
<15分静置の場合>
ΔF3<-20:-5点
-20≦ΔF3<-15:-3点
-15≦ΔF3<-10:-1点
-10≦ΔF3:0点
【0034】
(D)評価4(加圧フローロス)
各経過時間について、経時フローのスランプフロー値に対する加圧フローのスランプフロー値の差(「ΔF4」と表記する。)を、下記式(4)により算出した。
ΔF4=(加圧フロー評価によるスランプフロー値)-(経時フロー評価によるスランプフロー値) ・・・(4)
ΔF4の値を表5及び表6に示す。ΔF4の値が小さい程、加圧後に流動性が失われたことを意味する。この現象を、「加圧フローロス」と称する。各試料について、加圧フローロスを下記の指標に基づいて減点方式で採点した。採点を表5及び表6に示す。
ΔF4<-20:-5点
-20≦ΔF4<-15:-3点
-15≦ΔF4<-10:-1点
-10≦ΔF4:0点
【0035】
(E)総合評価
(A)評価1~(C)評価3の採点の合計を算出した。下記指標に基づいて、各試料を評価した。評価結果と採点の合計を表5及び表6に示す。
A:合計が0~-5点の試料
B:合計が-10~-6点の試料
C:合計が-14~-11点の試料
D:合計が-15点以下の試料
【0036】
【0037】
【0038】
<半水化率の影響>
表5によると、半水化率が高い試料7,8は、ΔF1が大きく、また評価2の後伸びが大きい傾向が見られる。すなわち、半水化率が高すぎる場合には、二水石膏の含有量が不十分であるため、十分な初期フローを得ることができないと言える。表5の結果から、半水化率を95%以下とすることにより、混練後初期の流動性に優れるモルタルが得られた。特に試料8は、初期流動性が低い(後伸びが大きい)ために流動性の変化(ΔF1)が大きいだけでなく、静置フロー(ΔF3)も低下する傾向が見られている。
また、表5を参照すると、半水化率が低くなるほど、静置フローが悪くなる、すなわち、均質化処理後に静置した場合に流動性が低下する傾向が見られた。また、半水化率が低くなるほど、加圧フローロスが起こりやすくなる傾向がある。表5の結果によると、半水化率は高い方が好ましく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましいと言える。
【0039】
<半水石膏由来のSO3量の影響>
試料3,10~12は、半水化率が同程度(71~75%)であり、半水石膏由来のSO3含有量が異なる試料である。水石膏由来のSO3含有量が低い試料11は、経過時間60分で経時フローロスが発生した。試料11は、静置フローロス及び加圧フローロスも大きい傾向があった。また、半水石膏由来のSO3含有量が低い試料1も、静置フローロス及び加圧フローロスが大きい傾向があった。半水石膏由来のSO3含有量が0.79質量%以上である試料2~6,9~10,12は、経時フローロスが発生しにくく、静置フローロス及び加圧フローロスも小さい傾向が見られた。