(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157669
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】スプレー用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
A23D9/00 518
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062026
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100169317
【弁理士】
【氏名又は名称】濱野 愛
(72)【発明者】
【氏名】高田 直輝
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和馬
(72)【発明者】
【氏名】平井 浩
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG01
4B026DG04
4B026DG05
4B026DH05
4B026DK01
4B026DP01
4B026DX01
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、適度な広がりで噴霧できるスプレー用油脂組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、所定の条件で測定された20℃での粘度が30mPa・s以上65mPa・s以下であり、かつ、所定の条件で測定された20℃での静的表面張力が30mN/m以上33mN/m以下である、スプレー用油脂組成物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を含み、
下記条件で測定された20℃での粘度が30mPa・s以上65mPa・s以下であり、かつ、
下記条件で測定された20℃での静的表面張力が30mN/m以上33mN/m以下である、
スプレー用油脂組成物。
(粘度の測定条件)
ブルックフィールド粘度計を用いて、20℃、30rpmで10回転後の粘度を測定する。測定を3回行い、その平均値(小数第2位以下を四捨五入)を20℃での粘度として特定する。
(静的表面張力の測定条件)
懸滴法により、20℃で、接触角計及び18Gのテフロン(登録商標)コーティングされた針を用いて静的表面張力を測定する。測定を3回行い、その平均値(小数第2位以下を四捨五入)を20℃での静的表面張力として特定する。
【請求項2】
前記油脂全体のグリセリドにおいて、その構成脂肪酸のうち3質量%以上60質量%以下が、炭素数6以上10以下の直鎖飽和脂肪酸である、
請求項1に記載の油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は、作業性の観点等から、スプレー(噴霧)して用いられることがある。このようにスプレーされた油脂は、例えば、焼菓子等の離形油、炒め油等として幅広く利用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、油脂をスプレーする際には、適度な広がりで噴霧できることが求められる。
【0005】
しかし、従来の油脂は、充分な広がりで噴霧しにくかった。そのため、噴霧の際にスプレー容器のノズルを大きく動かしたり、ノズルを複数設けたりする必要があり得た。
他方で、噴霧された油脂が広がりすぎると、噴霧対象の周辺にも油脂が付着する等の問題が生じ得る。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、適度な広がりで噴霧できるスプレー用油脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、粘度及び静的表面張力が所定の範囲内にある油脂組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 油脂を含み、
下記条件で測定された20℃での粘度が30mPa・s以上65mPa・s以下であり、かつ、
下記条件で測定された20℃での静的表面張力が30mN/m以上33mN/m以下である、
スプレー用油脂組成物。
(粘度の測定条件)
ブルックフィールド粘度計を用いて、20℃、30rpmで10回転後の粘度を測定する。測定を3回行い、その平均値(小数第2位以下を四捨五入)を20℃での粘度として特定する。
(静的表面張力の測定条件)
懸滴法により、20℃で、接触角計及び18Gのテフロン(登録商標)コーティングされた針を用いて静的表面張力を測定する。測定を3回行い、その平均値(小数第2位以下を四捨五入)を20℃での静的表面張力として特定する。
【0009】
(2) 前記油脂全体のグリセリドにおいて、その構成脂肪酸のうち3質量%以上60質量%以下が、炭素数6以上10以下の直鎖飽和脂肪酸である、
(1)に記載の油脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、適度な広がりで噴霧できるスプレー用油脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例における、噴霧状態の測定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0013】
<スプレー用油脂組成物>
本発明のスプレー用油脂組成物(以下、「本発明の油脂組成物」ともいう。)は、油脂を含み、以下の粘度及び静的表面張力に関する要件を全て満たす。
(粘度に関する要件)
下記条件で測定された20℃での粘度が30mPa・s以上65mPa・s以下である。
ブルックフィールド粘度計を用いて、20℃、30rpmで10回転後の粘度を測定する。測定を3回行い、その平均値(小数第2位以下を四捨五入)を20℃での粘度として特定する。
(静的表面張力に関する要件)
下記条件で測定された20℃での静的表面張力が30mN/m以上33mN/m以下である。
懸滴法により、20℃で、接触角計及び18Gのテフロン(登録商標)コーティングされた針を用いて静的表面張力を測定する。測定を3回行い、その平均値(小数第2位以下を四捨五入)を20℃での静的表面張力として特定する。
【0014】
なお、「懸滴法」とは、シリンジの針先から落下しない最大限の懸滴(ドロップ)の形状に基づき、液体の表面張力を算出する方法である。
接触角計としては、例えば、型式「DMo-502」(協和界面科学株式会社製)等を用いることができる。
静的表面張力の算出の際に必要なパラメーターである油脂組成物の比重は、日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法 2.2.2-2013 比重」(測定温度/標準とする水の温度=20℃/20℃)に準拠して測定した値を用いることができる。例えば、比重を接触角計に入力して測定を行うことで、油脂組成物の静的表面張力を測定できる。
【0015】
本発明者らが、油脂の諸特性と、その噴霧時の広がり具合との関連を詳細に検討した結果、油脂の特性のうち粘度及び静的表面張力が、噴霧時の広がり方に大きな影響を及ぼすという新規な知見を見出した。
【0016】
本発明において、「噴霧時の油脂組成物の広がり」とは、油脂組成物をスプレー容器から噴霧した際に、スプレー容器のノズル先端部を中心として油脂組成物が広がる角度を意味する。
噴霧時の油脂組成物の広がりは、例えば、実施例の(噴霧状態)の項に示した噴霧状態を示す広がり(単位:°)として特定してもよいし、目視で特定してもよい。
【0017】
本発明において、「適切な油脂組成物の広がり」とは、噴霧時の油脂組成物の広がりが適切な角度であることを意味する。
噴霧時の油脂組成物の広がりの角度が適切であるかどうかは、油脂を噴霧する目的や、噴霧対象の種類や大きさ等に応じて異なる。例えば、油脂組成物が、噴霧対象における所望の面を中心に噴霧され、その他の面にはほぼ噴霧されていないことを基準として、油脂組成物の広がりが適切であるかを判断できる。
【0018】
本発明によれば、噴霧時に広がりすぎず、噴霧対象に対して、効率よく油脂組成物をスプレーし得る。効率よく油脂組成物をスプレーできているかは、実施例の(噴霧捕捉率)の項に示した方法で噴霧捕捉率を特定することで評価し得る。
噴霧捕捉率が高いほど、油脂組成物の噴霧時に、意図しない範囲(噴霧対象の範囲以外)に噴霧されていないことを意味する。
【0019】
以下、本発明の油脂組成物の構成をより詳細に説明する。
【0020】
(粘度)
本発明者は、油脂組成物の20℃での粘度が低いほど、噴霧時に広がる傾向にある一方で、該粘度が高いほど噴霧時に狭まる傾向にあることを見出した。さらに、油脂組成物の20℃での粘度を30mPa・s以上65mPa・s以下に調整することで、適度な広がりとなりやすいことを特定した。
油脂組成物の20℃での粘度が30mPa・s以上であることで、噴霧時に油脂組成物が過度に広がりづらくなる。
油脂組成物の20℃での粘度が65mPa・s以下であることで、噴霧時に油脂組成物が過度に狭まりづらくなる。
【0021】
油脂組成物の20℃での粘度の下限は、好ましくは31mPa・s以上、より好ましくは33mPa・s以上である。
【0022】
油脂組成物の20℃での粘度の上限は、好ましくは60mPa・s以下、より好ましくは55mPa・s以下である。
【0023】
(静的表面張力)
本発明者は、油脂組成物の20℃での静的表面張力が低いほど、噴霧時に広がる傾向にある一方で、該静的表面張力が高いほど噴霧時に狭まる傾向にあることを見出した。さらに、油脂組成物の20℃での静的表面張力を30mN/m以上33mN/m以下に調整することで、適度な広がりとなりやすいことを特定した。
油脂組成物の20℃での静的表面張力が30mN/m以上であることで、噴霧時に油脂組成物が過度に広がりづらくなる。
油脂組成物の20℃での静的表面張力が33mN/m以下であることで、噴霧時に油脂組成物が過度に狭まりづらくなる。
【0024】
油脂組成物の20℃での静的表面張力の下限は、好ましくは31mN/m以上、又は32mN/m以上である。
【0025】
油脂組成物の20℃での静的表面張力の上限は、好ましくは32mN/m以下、又は31mN/m以下である。
【0026】
(油脂の種類)
本発明の油脂組成物に含まれる油脂としては特に限定されないが、動植物油脂、グリセリン及び脂肪酸から合成した油脂、並びにこれらの分別油、エステル交換油、水素添加油等が挙げられる。
これらの油脂は、単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0027】
動植物油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、ゴマ油、エゴマ油、亜麻仁油、落花生油、グレープシード油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等が挙げられる。
これらのうち、例えば、高オレイン酸油として知られるもの(大豆油、菜種油、ひまわり油等)を好適に用いることができる。
【0028】
グリセリン及び脂肪酸から合成した油脂としては、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、中・長鎖脂肪酸トリグリセリド(MLCT)等が挙げられる。
【0029】
「中鎖脂肪酸トリグリセリド」とは、グリセリドの構成脂肪酸のほとんど(例えば、全構成脂肪酸の80質量%超)、又は全てが炭素数6以上10以下の直鎖飽和脂肪酸(カプロン酸、カプリン酸、カプリル酸等)であるグリセリドである。
【0030】
中鎖脂肪酸トリグリセリドの原料である炭素数6以上10以下の直鎖飽和脂肪酸原料には、炭素数6又は12の直鎖飽和脂肪酸がわずかに含まれることがあるが、本発明においてはそれらの割合が低いほど好ましい。
そのため、本発明における好ましい中鎖脂肪酸トリグリセリドは、構成脂肪酸が炭素数6以上12以下の直鎖飽和脂肪酸のみからなり、かつ、構成脂肪酸中の炭素数6及び12の直鎖飽和脂肪酸が好ましくは20質量%未満、より好ましくは5質量%以下であるトリグリセリドである。
【0031】
本発明における油脂として中鎖脂肪酸トリグリセリドを用いる場合、グリセリドの構成脂肪酸が全て炭素数8以上10以下の直鎖飽和脂肪酸(カプリン酸、カプリル酸等)であるグリセリドを用いることが好ましい。
【0032】
「中・長鎖脂肪酸トリグリセリド」とは、グリセリドの構成脂肪酸が、炭素数6以上10以下の直鎖飽和脂肪酸、及び、炭素数16以上22以下の直鎖飽和脂肪酸からなるグリセリドである。
中・長鎖脂肪酸トリグリセリドは、エステル交換等によって製造できる。
【0033】
中・長鎖脂肪酸トリグリセリドを構成する炭素数16以上22以下の直鎖飽和脂肪酸としては、20℃で液状の動植物油脂の構成脂肪酸として知られるものが好ましい。このような構成脂肪酸として、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等が挙げられる。
【0034】
分別油としては、パーム油の分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクション等)等が挙げられる。
【0035】
エステル交換油としては、パーム油又はパーム油の分別油と他の液状油脂とのエステル交換油、MCTと植物油等とのエステル交換油(中・長鎖脂肪酸トリグリセリド)等が挙げられる。
【0036】
水素添加油としては、動植物油の水素添加油、動植物油の分別油の水素添加油、エステル交換油の水素添加油等が挙げられる。
【0037】
油脂としては、油脂全体として、室温(25~30℃程度)で液状であるものが好ましく、20℃で液体である者がより好ましく、5℃で液状であるものが特に好ましい。
このような油脂を用いることで、加温せずにスプレー可能な油脂組成物が得られる。
【0038】
(油脂の配合)
本発明における粘度及び静的表面張力に関する要件を満たす油脂組成物は、上記の油脂を単独で、又は2種以上を組み合わせることで得られる。
【0039】
粘度及び静的表面張力のいずれか、又は両方が本発明の数値範囲内になくとも、粘度及び静的表面張力がより高い(又は低い)油脂を組み合わせて配合することで、本発明の要件を満たす油脂組成物が得られる。
2種以上の油脂を組み合わせて配合する場合、その配合比は、得ようとする粘度及び静的表面張力や、実現しようとする噴霧時の広がり等に応じて適宜設定できる。
【0040】
通常、粘度の高い油脂の配合量が多い(又は、少ない)ほど、油脂組成物全体の粘度は増加(又は、低下)する。
【0041】
通常、静的表面張力の高い油脂の配合量が多い(又は、少ない)ほど、油脂組成物全体の静的表面張力は増加(又は、低下)する。
【0042】
各種油脂の、20℃での粘度及び静的表面張力は、上述の測定条件で特定される。
油脂の種類等に応じて、20℃での粘度及び静的表面張力の値は異なり得る。
【0043】
例えば、実施例で用いた油脂の20℃での粘度及び静的表面張力は以下のとおりである。
大豆油:粘度=約60mPa・s、静的表面張力=約33mN/m
菜種油(キャノーラ油):粘度=約70mPa・s、静的表面張力=約33mN/m
MCT1(中鎖脂肪酸トリグリセリド(構成脂肪酸:カプリル酸=75質量%、カプリン酸=25質量%)):粘度=約27mPa・s、静的表面張力=約29mN/m
オリーブ油1(商品名「エキストラバージンオリーブオイル」、日清オイリオグループ株式会社製):粘度=約76mPa・s、静的表面張力=約32mN/m
アマニ油:粘度=約45mPa・s、静的表面張力=約33mN/m
香味油:粘度=約74mPa・s、静的表面張力=約32mN/m
【0044】
「MCT1」は、粘度及び静的表面張力のいずれも、本発明の要件の下限値未満である。
しかし、「MCT1」とともに、粘度及び静的表面張力がより高い油脂(例えば、大豆油、菜種油等)を配合することで、本発明の要件を満たす油脂組成物を得ることができる。
【0045】
「菜種油」は、粘度が本発明の要件の上限値超であるが、静的表面張力が本発明の要件の範囲内である。
しかし、「菜種油」とともに、粘度がより低いが、静的表面張力が本発明の要件の範囲内である油脂(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド等)を配合することで、本発明の要件を満たす油脂組成物を得ることができる。
【0046】
「MCT1」の上記値から理解されるとおり、本発明の油脂組成物に中鎖脂肪酸(炭素数6以上10以下の直鎖飽和脂肪酸を主とする中鎖脂肪酸)を含むトリグリセリド、すなわち、中鎖脂肪酸トリグリセリドを主に配合すると、粘度及び静的表面張力が低くなる傾向にある。
そのため、構成脂肪酸全体に占める中鎖脂肪酸の割合が高いトリグリセリドを配合する場合、粘度及び静的表面張力がより低くなる可能性があるため、グリセリドの構成脂肪酸として中鎖脂肪酸以外が含まれるように調整することが好ましい。
【0047】
グリセリドの構成脂肪酸として中鎖脂肪酸以外が含まれるように調整する方法としては、中鎖脂肪酸トリグリセリドとともに、中鎖脂肪酸以外を構成脂肪酸として含む油脂を配合する方法等が挙げられる。
【0048】
グリセリドの構成脂肪酸として中鎖脂肪酸以外が含まれるように調整する場合、例えば、油脂全体のグリセリドにおいて、その構成脂肪酸のうち3質量%以上60質量%以下が、好ましくは炭素数6以上10以下の直鎖飽和脂肪酸(カプロン酸、カプリン酸、カプリル酸等)、より好ましくは炭素数8以上10以下の直鎖飽和脂肪酸(カプリン酸、カプリル酸等)となるように調整する。
【0049】
炭素数8以上10以下の直鎖飽和脂肪酸以外の構成脂肪酸としては、炭素数16以上22以下の直鎖脂肪酸が挙げられる。具体的には、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等が挙げられる。
【0050】
油脂の一部として、中鎖脂肪酸トリグリセリドを配合すると、本発明における粘度及び静的表面張力に関する要件を満たしやすい。
かかる場合、中鎖脂肪酸トリグリセリドと組み合わされる油脂としては、構成脂肪酸として炭素数16以上22以下の直鎖脂肪酸を主成分とする動植物油脂(大豆油、キャノーラ油、オリーブ油、コーン油等)であることが好ましい。
【0051】
本発明の油脂組成物のうち、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む態様について、好ましい油脂の組み合わせを例示する。
(組み合わせ1)大豆油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリド
(組み合わせ2)菜種油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリド
(組み合わせ3)オリーブ油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリド
【0052】
(組み合わせ1)において、好ましい質量比は、大豆油:中鎖脂肪酸トリグリセリド=97:3~20:80である。
【0053】
(組み合わせ2)において、好ましい質量比は、菜種油:中鎖脂肪酸トリグリセリド=97:3~20:80である。
【0054】
(組み合わせ3)において、好ましい質量比は、オリーブ油:中鎖脂肪酸トリグリセリド=97:3~20:80である。
【0055】
中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量は、油脂組成物に対して、好ましくは3質量%以上60質量%以下、より好ましくは5質量%以上55質量%以下、さらに好ましくは8質量%以上50質量%以下である。
【0056】
動植物油(大豆油、菜種油、オリーブ油、コーン油等)の含有量は、油脂組成物に対して、好ましくは40質量%以上97質量%以下、より好ましくは45質量%以上95質量%以下、さらに好ましくは50質量%以上92質量%以下である。
動植物油として2種以上を配合する場合、その総量が上記範囲内にあればよい。
【0057】
油脂の含有量(総量)は特に限定されないが、本発明の効果を奏しやすいという観点から、油脂組成物に対して、好ましくは90質量%以上100質量%以下、より好ましくは98質量%以上100質量%以下である。
【0058】
(その他の成分)
本発明の油脂組成物には、上述の成分にくわえて、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、適宜、他の成分を配合してもよく、配合しなくともよい。
このような成分としては、界面活性剤(乳化剤)、シリコーン、色素(カロテン等)、酸化防止剤、香味成分等が挙げられる。これらの成分の種類や配合量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0059】
本発明の油脂組成物に乳化剤を配合すると、粘度及び静的表面張力を本発明の要件の範囲内に調整しやすくなり得る。乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、モノルグリセリド、有機酸モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベート、レシチン等が挙げられる。
【0060】
<本発明の油脂組成物の製造方法>
上述の油脂等を混合及び撹拌することで、本発明の油脂組成物を得られる。
【0061】
得られた油脂組成物は、任意のタイミングで20℃での粘度及び静的表面張力を測定してもよい。
【0062】
<本発明の油脂組成物の用途>
本発明の油脂組成物は、スプレー容器に入れ、任意の対象に噴霧して使用できる。
【0063】
噴霧対象は特に限定されないが、調理器具(フライパン等)、製菓器具(型等)、食材等が挙げられる。
【0064】
噴霧目的は特に限定されないが、調理(炒め調理、グリル調理等)、離型等が挙げられる。
【0065】
本発明においては、油脂組成物の構成を上述のとおりに調整する点以外は、従来のオイルスプレーで採用され得る任意の容器(加圧タイプ、非加圧タイプ等)やその他の構成等を使用できる。
【実施例0066】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
<スプレー用油脂組成物の作製>
表1乃至3に示す割合で油脂を配合したスプレー用油脂組成物を作製した。なお、表中の油脂組成の数値の単位は「質量%」である。
【0068】
用いた材料は以下のとおりである。
大豆油:スプレー用油脂組成物、日清オイリオグループ株式会社製
菜種油:精製キャノーラ油、日清オイリオグループ株式会社製
MCT1:中鎖脂肪酸トリグリセリド(構成脂肪酸:カプリル酸=75質量%、カプリン酸=25質量%)、日清オイリオグループ株式会社製
MCT2:中鎖脂肪酸トリグリセリド(構成脂肪酸:カプリル酸=約60質量%、カプリン酸=約40質量%)、日清オイリオグループ株式会社製
MCT3:中鎖脂肪酸トリグリセリド(構成脂肪酸:カプリル酸=30質量%、カプリン酸=70質量%)、日清オイリオグループ株式会社製
MLCT:菜種油と「MCT1」とを質量比86:14でエステル交換した油脂、日清オイリオグループ株式会社製
オリーブ油1:商品名「エキストラバージンオリーブオイル」、日清オイリオグループ株式会社製
オリーブ油2:精製オリーブ油と「オリーブ油1」とのブレンド油、日清オイリオグループ株式会社製
アマニ油:精製アマニ油、日清オイリオグループ株式会社製
香味油:商品名「BOSCOオリーブ&ガーリックオイル」(エキストラバージンオリーブオイルベース)、日清オイリオグループ株式会社製
【0069】
<スプレー用油脂組成物の物性評価>
上記で得られた各油脂組成物について、以下の方法に基づき、各物性を測定した。その結果を表中の「粘度」、「静的表面張力」、及び「噴霧状態」の項に示す。
【0070】
(粘度)
以下の方法で、各油脂組成物の20℃での粘度(単位:mPa・s)を測定した。
20℃に調整された油脂組成物の粘度を、ブルックフィールド粘度計(B型粘度計、型式「BMII」、東機産業株式会社製)を用いて、30rpm(ローターNo.1)で10回転後の値を測定した。
測定を3回行い、その平均値(小数第2位以下を四捨五入)を20℃での粘度として特定した。
【0071】
(静的表面張力)
以下の方法で、懸滴法に基づき、各油脂組成物の20℃での静的表面張力(単位:mN/m)を測定した。
20℃に調整された油脂組成物の静的表面張力を、予め測定した比重に基づき、接触角計(型式「DMo-502」、協和界面科学株式会社製)、及び18Gのテフロン(登録商標)コーティングされた針を用いて測定した。
【0072】
なお、各油脂組成物の比重は、日本油化学会制定の「基準油脂分析試験法 2.2.2-2013 比重」(測定温度/標準とする水の温度=20℃/20℃)に準拠して測定した値を採用し、これを接触角計に入力して静的表面張力を特定した。
【0073】
測定を3回行い、その平均値(小数第2位以下を四捨五入)を20℃での静的表面張力として特定した。
【0074】
(噴霧状態)
各油脂組成物(100質量部)をカロテン(0.01質量部)で着色し、スプレー容器に充填した。なお、スプレー容器のノズルは、型式「T305-14」(株式会社三谷バルブ製)を使用した。
室温(22℃)下で、スプレー容器から各油脂組成物をスプレーし、ノズル先端から油脂組成物が噴出する様子を撮影し、画像ソフトウェア(「ImageJ」バージョン:1.51、アメリカ国立衛生研究所製)を用いて、油脂組成物の広がりを測定した。
油脂組成物の広がりは、ノズル先端部、及び、ノズル先端部から霧の最外部(霧の境目)に沿った2つの端点を目視でプロットし、ノズル先端部を中心とした角度(単位:°)として特定した。なお、各試験において、ノズル先端部から霧の最外部に沿った2つの端点は、ノズル先端部からの水平距離が一定(6cm)となるように設定した。
測定を3回行い、その平均値(小数第2位以下を四捨五入)を、噴霧状態を示す広がり(単位:°)として特定した。
【0075】
図1に、ノズル先端部(1)、及び、ノズル先端部から霧の最外部に沿った2つの端点(2-1及び2-2)のプロット例を示す。なお、
図1中、(A)、(B)及び(C)は、それぞれ、「比較例1-1」、「実施例1-5」、及び「比較例1-2」のプロット結果を示す。
各プロット結果において、ノズル先端部(1)及び端点(2-1)を繋いだ線分と、ノズル先端部(1)及び端点(2-2)を繋いだ線分とがなす角が、噴霧状態を示す広がりに相当する。
【0076】
(噴霧捕捉率)
各油脂組成物を、上記(噴霧状態)の評価で用いたものと同様のスプレー容器に充填し、垂直面に固定した濾紙の表面から15cm離れた箇所から、濾紙に対してスプレーした。なお、濾紙は、商品名「5A(150mm)」(アドバンテック東洋株式会社製)を用いた。
次いで、油脂組成物の噴霧量(スプレー容器からのスプレー量、単位:g)、及びスプレー前後の濾紙の質量変化(単位:g)を測定し、下式に基づき、炉紙面の噴霧捕捉率を算出した。
「濾紙の質量変化」(単位:g)=(スプレー後の濾紙の質量)-(スプレー前の濾紙の質量)
「噴霧捕捉率」(単位:%)=(濾紙の質量変化)÷(噴霧量)×100
【0077】
上記の測定を3回行い、その平均値(小数第2位以下を四捨五入)を、噴霧捕捉率として特定した。なお、噴霧捕捉率が低いほど、意図しない範囲に油脂組成物が噴霧されていることを示す。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
表1及び2の「噴霧状態」に示されるとおり、粘度及び静的表面張力が本発明の要件を満たす油脂組成物は、霧の広がりが適度(本例では、25~38°程度)であり、噴霧対象に対してムラなくスプレーすることができた。
【0082】
これに対し、粘度及び静的表面張力が本発明の要件を満たさない場合、霧の広がりが狭すぎるか(比較例1-1、1-2、2-1、2-2)、広すぎる(比較例1-3)傾向にあった。
特に、MCTの配合割合が高いほど、噴霧時に乱気流状態となるため霧が広がりすぎる傾向にあり、比較例1-3では、霧の最外部の特定が困難だった。このことは、表3の「噴霧捕捉率」でも示されており、粘度及び静的表面張力が本発明の要件を下回る場合、噴霧捕捉率が低下し、意図した範囲以上に油脂組成物を噴霧してしまうことがわかった。