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特開2022-157692ポリイミド、ポリアミック酸及びポリイミドフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157692
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ポリイミド、ポリアミック酸及びポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/14 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
C08G73/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062054
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】中村 仁美
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA04
4J043PA05
4J043PA06
4J043PA08
4J043PA19
4J043QB15
4J043QB31
4J043RA06
4J043RA07
4J043RA34
4J043SA06
4J043SA31
4J043SA32
4J043SA36
4J043SB01
4J043SB03
4J043TA22
4J043TA32
4J043TA66
4J043TA71
4J043TB01
4J043TB03
4J043UA032
4J043UA042
4J043UA052
4J043UA061
4J043UA082
4J043UA092
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UA151
4J043UA152
4J043UA331
4J043UA421
4J043UA451
4J043UA561
4J043UA632
4J043UA672
4J043UB052
4J043UB122
4J043UB172
4J043UB221
4J043UB231
4J043UB392
4J043UB401
4J043VA011
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA051
4J043VA062
4J043XA16
4J043YA06
4J043YA07
4J043YA08
4J043ZA12
4J043ZA52
4J043ZB21
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】高いガラス転移温度を有し、高温に曝しても良好な光学特性を示すポリイミドを提供する。
【解決手段】酸二無水物残基及びジアミン残基を含むポリイミドであって、ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基のうち75モル%以上が、エステル結合、アミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つを有し、ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基が有するエステル結合のモル数に対する、ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基が有するアミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造の合計モル数の比が0.5以上1.0以下である、ポリイミド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸二無水物残基及びジアミン残基を含むポリイミドであって、
ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基のうち75モル%以上が、エステル結合、アミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つを有し、
ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基が有するエステル結合のモル数に対する、ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基が有するアミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造の合計モル数の比が0.5以上1.0以下である、
ポリイミド。
【請求項2】
非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造が、イミダゾリン環構造又はオキサゾリン環構造である、請求項1記載のポリイミド。
【請求項3】
酸二無水物残基が、エステル結合を有する酸二無水物残基を含む、請求項1又は2記載のポリイミド。
【請求項4】
エステル結合を有する酸二無水物残基が、式:
【化1】
で示される酸二無水物から誘導される残基である、請求項3記載のポリイミド。
【請求項5】
ジアミン残基が、アミド結合を有するジアミン残基を含む、請求項1~4のいずれか一項記載のポリイミド。
【請求項6】
アミド結合を有するジアミン残基が、式:
【化2】
で示されるジアミンから誘導される残基である、請求項5記載のポリイミド。
【請求項7】
ジアミン残基が、非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造を有するジアミン残基を含む、請求項1~6のいずれか一項記載のポリイミド。
【請求項8】
非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造を有するジアミン残基が、式:
【化3】
で示されるジアミンから誘導される残基である、請求項7記載のポリイミド。
【請求項9】
非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造を有するジアミン残基が、式:
【化4】
で示されるジアミンから誘導される残基である、請求項7記載のポリイミド。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項記載のポリイミドの前駆体であるポリアミック酸。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項記載のポリイミドを含むポリイミドフィルム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド及びその前駆体であるポリアミック酸、ならびにポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置には、フレキシブル化の要求があり、ガラス基板をプラスチック材料に置き換える試みがなされている。プラスチック材料の中でも、ポリイミドは、耐熱性、絶縁性及び寸法安定性等において優れた材料であり、ガラス基板の代替材料として研究が進められている。
【0003】
最近では、ポリイミドフィルムの用途としてディスプレイ用途が着目されており、ディスプレイの表面保護フィルムや基板に対する要求に応えるべく、種々のポリイミドが開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、シス,シス,シス-1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物とアミド結合を有するジアミンより得られるポリイミドが提案されている。
また、特許文献2及び3では、ビフェニル構造とエステル結合を含むポリイミドが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017―203061号公報
【特許文献2】国際公開第2020/246466号
【特許文献3】国際公開第2020/255864号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ディスプレイの製造工程において、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)を形成する基板(TFT基板)は高温に曝されるため、高温領域でも熱的及び機械的特性が変化しないことが求められる。中でも、発光方式がボトムエミッション型やトップ&ボトムエミッション型ディスプレイでは、TFT基板を通して光を取り出すことになるため、TFT基板が上記高温のプロセスを経ても良好な光学特性を維持することが要求される。そのため、TFT基板の基材となるポリイミドには、高いガラス転移温度を有し、高温に曝しても良好な光学特性を示すことが求められる。上記の特許文献1~3は、この点については及んでない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリイミドに、エステル結合と、アミド結合及び/又は非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造とを、ポリイミドを構成する酸二無水物残基及びジアミン残基中に所定の条件を満たすように導入することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]酸二無水物残基及びジアミン残基を含むポリイミドであって、
ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基のうち75モル%以上が、エステル結合、アミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つを有し、
ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基が有するエステル結合のモル数に対する、ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基が有するアミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造の合計モル数の比が0.5以上1.0以下である、
ポリイミド。
[2]非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造が、イミダゾリン環構造又はオキサゾリン環構造である、[1]のポリイミド。
[3]酸二無水物残基が、エステル結合を有する酸二無水物残基を含む、[1]又は[2]のポリイミド。
[4]エステル結合を有する酸二無水物残基が、式:
【化1】
で示される酸二無水物から誘導される残基である、[3]のポリイミド。
[5]ジアミン残基が、アミド結合を有するジアミン残基を含む、[1]~[4]のいずれかのポリイミド。
[6]アミド結合を有するジアミン残基が、式:
【化2】

で示されるジアミンから誘導される残基である、[5]のポリイミド。
[7]ジアミン残基が、非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造を有するジアミン残基を含む、[1]~[6]のいずれかのポリイミド。
[8]非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造を有するジアミン残基が、式:
【化3】
で示されるジアミンから誘導される残基である、[7]のポリイミド。
[9]非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造を有するジアミン残基が、式:
【化4】
で示されるジアミンから誘導される残基である、[7]のポリイミド。
[10][1]~[9]のいずれかのポリイミドの前駆体であるポリアミック酸。
[11][1]~[9]のいずれかのポリイミドを含むポリイミドフィルム。
【0009】
本発明では、ポリイミドを構成する酸二無水物残基及びジアミン残基中、エステル結合と、アミド結合及び/又は非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造(以下、「含窒素環構造」ともいう。)とが所定の条件を満たすように導入される。ポリイミド構造中のエステル結合は、無色透明性を向上すると共に、アミド結合及び/又は含窒素環構造中の-NH-や-N=部分と水素結合を形成し、ポリイミドに高いガラス転移温度をもたらす。一方で、アミド結合及び/又は含窒素環構造は、通常、高温で酸化することで着色を及ぼすが、上述の水素結合の形成により、高温に曝しても酸化が抑制され、良好な光学特性を示すことを可能とするものと推測される。
ここで、本明細書における高いガラス転移温度は、熱機械分析(TMA)におけるガラス転移温度が400℃以上であることを意味し、高温に曝した後の光学特性は、ポリイミドフィルムを400℃で10分保持した後の光学特性(全光線透過率、ヘイズ、YI値)で評価することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高いガラス転移温度を有し、高温に曝しても良好な光学特性を示すポリイミド及びその前駆体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリイミドは、酸二無水物残基及びジアミン残基を含み、ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基の合計を100モル%とした場合、そのうち75モル%以上が、エステル結合(-C(=O)O-)、アミド結合(-C(=O)NH-)及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つを有し、ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基が有するエステル結合のモル数に対する、ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基が有するアミド結合及び含窒素環構造の合計モル数の比が0.5以上1.0以下である。本発明のポリイミドは、エステル結合を構造中に含むが、アミド結合及び含窒素環構造については、これらの少なくとも一方を構造中に含んでいればよく、アミド結合のみを含むものであっても、含窒素環構造のみを含むものであってもよく、アミド結合及び含窒素管構造の両方を含むものであってもよい。
【0012】
本発明のポリイミドは、式(1):
【化5】
(ここで、Xは酸二無水物残基であり、Yはジアミン残基である)で示される繰り返し単位で構成されることができ、ポリイミド中に含まれる酸二無水物残基であるX及びジアミン残基であるYの合計100モル%に占める、エステル結合、アミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つを有する、酸二無水物残基X及びジアミン残基Yの割合が75モル%以上である。これにより、エステル結合と、アミド結合及び/又は含窒素環構造との水素結合が十分に形成され、400℃までの温度条件下での分子運動が十分に抑制される。割合は85モル%以上であることが好ましい。上限は、特に限定されず100モル%であってもよいが、所望の特性に応じて、エステル結合、アミド結合及び含窒素環構造のいずれも有していない酸二無水物残基X及び/又はジアミン残基Yがポリイミドの構造中に存在していてもよい。
【0013】
本発明のポリイミド中に含まれる酸二無水物残基X及びジアミン残基Yが有するエステル結合のモル数に対する、ポリイミド中に含まれる酸二無水物残基X及びジアミン残基Yが有するアミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造の合計モル数の比は0.5以上1.0以下である。エステル結合と、アミド結合及び/又は含窒素環構造とが上記の範囲にあることで、水素結合がバランス良く形成され、高いガラス転移温度と、良好な光学特性が維持できる。比は、合成のしやすさの点から、0.85以下が好ましく、0.75以下がより好ましい。
【0014】
エステル結合と、アミド結合及び/又は非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造は、ポリイミドを構成する酸二無水物残基X及びジアミン残基Yのいずれに存在していてもよく、両方に存在していてもよい。
【0015】
ある繰り返し単位を構成する酸二無水物残基X及びジアミン残基Yの両方が、エステル結合、アミド結合及び含窒素環構造の少なくとも1つを有していてもよく、いずれか一方が有していてもよい。この場合、エステル結合、アミド結合及び含窒素環構造の2種以上が、ある繰り返し単位を構成する酸二無水物残基X又はジアミン残基Yに存在していてもよく、同種のものが2つ以上存在していてもよい。
【0016】
非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造は、特に限定されず、窒素原子以外の環原子が、炭素原子又は炭素原子と酸素原子である環構造が好ましい。例えば、イミダゾリン環、オキサゾリン環、ピラジン環、ピリミジン環等の構造が挙げられ、モノマーの入手のしやすさから、イミダゾリン環、オキサゾリン環等の構造が好ましい。これらの構造は、ポリイミド中、縮合環の一部として含まれていてもよい。
【0017】
<酸二無水物>
エステル結合、アミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造の含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つを有する酸二無水物から酸二無水物残基を誘導することにより、ポリイミド中に対応するエステル結合、アミド結合及び含窒素環構造を導入することができる。高温処理によりポリイミドが変色することを抑制する点から、酸二無水物は芳香族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましい。中でも、エステル結合、アミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造の含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つが導入される酸二無水物は芳香族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましい。
【0018】
<<エステル結合を有する酸二無水物>>
エステル結合を有する酸二無水物から、酸二無水物残基を誘導することにより、ポリイミド中にエステル結合を導入することができる。この場合、分子中のエステル結合は1つ以上であればよく、1~3つが好ましく、1又は2つがより好ましい。なお、酸二無水物の-C(=O)-O-C(=O)-部分は、エステル結合として考慮しないものとする。エステル結合を有する酸二無水物は、単独でも、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
【0019】
エステル結合を有する酸二無水物としては、式(3):
【化6】
(式中、
環Aは、式:
【化7】
(式中、*は結合手を示す)で示される環式基であり、これらの環式基は置換基を有していてもよく、
は、エステル結合を少なくとも1つ有する、2価の基である。)
で示される化合物が挙げられる。
【0020】
環Aの置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子等)、アルキル基(例えば、メチル基等)、ハロゲン置換アルキル基(例えば、トリフルオロメチル基等)、アリール基(例えば、フェニル基等)等が挙げられる。
【0021】
2つの環Aは、両方が、式:
【化8】
(式中、*は上記と同義である。)
で示される環式基であることが好ましく、より好ましくは非置換の前記環式基である。
【0022】
は、エステル結合を少なくとも1つ有していれば、特に限定されず、例えば、-C(=O)O―、-C(=O)O-R-O-C(=O)-、-O-C(=O)-R-O-C(=O)-、-O-C(=O)-R-C(=O)O-等が挙げられる。ここで、Rは、2価の有機基であり、例えば、フェニレン、ビフェニレン、ナフタレンジイル、アルキレン、式:
【化9】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、
-CH-、-C(CH-、CH(CH)―、-C(CF-、-S(=O)-、-O-又は
【化10】
である)
等であり、これらの基は置換基を有していてもよい。置換基については、環Aの置換基の例示が適用される。Rに関する置換基は、ヒドロキシ、アルキルカルボニルオキシ(例えばアセトキシ)であってもよい。
【0023】
具体的な酸二無水物としては、以下が挙げられる。
【化11】

【0024】
合成のしやすさや成膜性の点から、TMPBP-TMEが好ましい。
【0025】
<<アミド結合を有する酸二無水物>>
アミド結合を有する酸二無水物から、酸二無水物残基を誘導することにより、ポリイミド中にアミド結合を導入することができる。この場合、分子中のアミド結合は1つ以上であればよく、1~3つが好ましく、1又は2つがより好ましい。
アミド結合を有する酸二無水物は、単独でも、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
【0026】
アミド結合を有する酸二無水物としては、式(4):
【化12】
(式中、
環Bは、式:
【化13】
(式中、*は結合手を示す)で示される環式基であり、これらの環式基は置換基を有していてもよく、
は、アミド結合を少なくとも1つ有する、2価の基である。)
で示される化合物が挙げられる。
【0027】
環Bの置換基としては、環Aの置換基として例示したものが挙げられる。
【0028】
2つの環Bは、両方が、式:
【化14】
(式中、*は上記と同義である。)
で示される環式基であることが好ましく、この環式基はより好ましくは非置換である。
【0029】
は、アミド結合を少なくとも1つ有していれば、特に限定されず、例えば、-C(=O)NH―、-C(=O)NH-R-NH-C(=O)-、-NH-C(=O)-R-NH-C(=O)-、-NH―C(=O)-R-C(=O)NH-(式中、Rは、2価の有機基である。)等が挙げられる。Rについては、Rについて例示したものが挙げられる。
【0030】
具体的な酸二無水物としては、以下が挙げられる。
【0031】
【化15】
【0032】
<<含窒素環構造を有する酸二無水物>>
非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造を有する酸二無水物から、酸二無水物残基を誘導することにより、ポリイミド中に含窒素環構造を導入することができる。含窒素環構造を有する酸二無水物は、単独でも、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
【0033】
<<その他の酸二無水物>>
ポリイミドは、エステル結合、アミド結合、含窒素環構造のいずれも有していない酸二無水物(以下。「その他の酸二無水物」ともいう。)から誘導される酸二無水物残基を含むことができる。その他の酸二無水物は、単独でも、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。その他の酸二無水物残基を含む場合、ポリイミド中に含まれる酸二無水物残基であるXに占める、その他の酸二無水物残基は、25モル%以下であることができ、含有による効果を十分に得る点から、10モル%以上がより好ましい。
【0034】
具体的なその他の酸二無水物としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-2’-シクロペンタノン-5-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物(CpODA)、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物(HBPDA)及びこれらの位置異性体等の環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物;
1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等の非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物;
3,4-オキシジフタル酸二無水物(aODPA)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(sODPA)、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(aBPDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(sBPDA)、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸二無水物(BPADA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物等の非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物;
1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物等の単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物;
9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等の縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0035】
ポリアミドの透明性を確保する点から、6FDA、HPMDA、CpODA、aODPA、sODPA等が好ましく、低誘電化の点から、BPAF、TFMB等が好ましい。
【0036】
<ジアミン>
エステル結合、アミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造の含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つを有するジアミンからジアミン残基を誘導することによりポリイミド中に対応するエステル結合、アミド結合及び含窒素環構造を導入することができる。ポリイミドの耐熱性の向上の点から、ジアミンは芳香族ジアミンが好ましい。中でも、エステル結合、アミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造の含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つが導入されるジアミンは、芳香族ジアミンであることが好ましい。
【0037】
<<エステル結合を有するジアミン>>
エステル結合を有するジアミンから、ジアミン残基を誘導することにより、ポリイミド中にエステル結合を導入することができる。この場合、分子中のエステル結合は1つ以上であればよく、1~3つが好ましく、1又は2つがより好ましい。エステル結合を有するジアミンは、単独でも、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
【0038】
エステル結合を有するジアミンとしては、式(5):
【化16】
(式中、
は、エステル結合を少なくとも1つ有する、2価の基であり、
は、1価の基又は原子であり、
mは、0~4の整数であり、
は、1価の基又は原子であり、
nは、0~4の整数である。)
で示される化合物が挙げられる。
【0039】
は、エステル結合を少なくとも1つ有していれば、特に限定されず、例えば、-C(=O)O―、-C(=O)O-R-O-C(=O)-、-O-C(=O)-R-O-C(=O)-、-O-C(=O)-R-C(=O)O-(式中、Rは、2価の有機基である。)等が挙げられる。Rについては、Rについて例示したものが挙げられる。
【0040】
及びRは1価の基又は原子であり、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子等)、アリール基(例えば、フェニル基等)、アルキル基(例えば、メチル基等)、ハロゲン置換アルキル基(例えば、トリフルオロメチル基等)、が挙げられる。
n及びmは0~4の整数であり、好ましくはn及びmは0~1であり、より好ましくはn及びmの両方が0である。
【0041】
具体的なジアミンとしては、以下が挙げられる。
【化17】
【0042】
溶解性や入手のしやすさの点から、APABが好ましい。
【0043】
<<アミド結合を有する酸二無水物>>
アミド結合を有するジアミンから、ジアミン残基を誘導することにより、ポリイミド中にアミド結合を導入することができる。この場合、分子中のアミド結合は1つ以上であればよく、1~3つが好ましく、1又は2つがより好ましい。アミド結合を有するジアミンは、単独でも、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
【0044】
アミド結合を有するジアミンとしては、式(6):
【化18】
(式中、
は、アミド結合を少なくとも1つ有する、2価の基であり、
は、1価の基又は原子であり、
pは、0~4の整数であり、
は、1価の基又は原子であり、
qは、0~4の整数である。)
で示される化合物が挙げられる。
【0045】
は、アミド結合を少なくとも1つ有していれば、特に限定されず、例えば、-C(=O)NH―、-C(=O)NH-R-NH-C(=O)-、-NH-C(=O)-R-NH-C(=O)-、-NH―C(=O)-R-C(=O)NH-(式中、Rは、2価の有機基である。)等が挙げられる。Rについては、Rについて例示したものが挙げられる。
【0046】
及びRは1価の基であり、R及びRについて例示したものが挙げられる。
p及びqは0~4の整数であり、好ましくはp及びqは0~1であり、より好ましくはp及びqの両方が0である。
【0047】
具体的なジアミンとしては、以下が挙げられる。
【化19】
【0048】
入手のしやすさ、着色の抑制の点から、DABAが好ましい。
【0049】
<<含窒素環構造を有するジアミン>>
非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造を有するジアミンから、ジアミン残基を誘導することにより、ポリイミド中に含窒素環構造を導入することができる。含窒素環構造を有するジアミンは、単独でも、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
【0050】
含窒素環構造を有するジアミンとしては、イミダゾリン環構造を有する化合物を使用することができ、具体的には以下が挙げられる。
【化20】
【0051】
含窒素環構造を有するジアミンとしては、オキサゾリン環構造を有する化合物を指標することができ、具体的には以下が挙げられる。
【0052】
【化21】
【0053】
含窒素環構造を有するジアミンとしては、ピラジン環、ピリミジン環、ピぺラジン環、トリアジン環等の構造を有する化合物を使用することができ、具体的には以下が挙げられる。
【0054】
【化22】
【0055】
入手のしやすさ、着色の抑制の点から、イミダゾリン環構造又はオキサゾリン環構造を有する化合物が好ましく、より好ましくは、5BIA及びBOである。
【0056】
<<その他のジアミン>>
ポリイミドは、エステル結合、アミド結合、含窒素環構造のいずれも有していないジアミン(以下、「その他のジアミン」ともいう。)から誘導されるジアミン残基を含むことができる。その他のジアミンは、特に限定されず、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミンのいずれも使用することができる。その他のジアミンは、単独でも、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。その他のジアミンを含む場合、ポリイミド中に含まれる酸二無水物残基であるYに占める、その他のジアミンは、25モル%以下であることができ、含有による効果を十分に得る点から、10モル%以上がより好ましい。
【0057】
脂肪族ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0058】
芳香族ジアミンの具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の芳香環を1つ有する芳香族ジアミン;4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3‘-DDS)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。
【0059】
ポリアミドの透明性を確保する点から、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミン(例えば、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等が好ましい。無色透明性を向上しやすい観点から、芳香族環上水素原子の一部又は全てがフルオロ基、トリフルオロメチル基又はトリフルオロメトキシ基で置換されたジアミンが好ましく、そのようなジアミンでビフェニル構造を有するものがより好ましい。
ポリアミドの低誘電化の点から、フルオレン構造を有する芳香族ジアミン(例えば、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(BAFL)、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン)が好ましい。
【0060】
<ポリイミドの製造方法>
本発明のポリイミドは、酸二無水物及びジアミンを重合してポリアミック酸(前駆体)
を得て、これを閉環反応させることにより合成することができる。
【0061】
<<酸二無水物及びジアミン>>
酸二無水物及びジアミンは、ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基のうち75モル%以上が、エステル結合、アミド結合及び含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つを有し、かつポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基が有するエステル結合のモル数に対する、ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基が有するアミド結合及び含窒素環構造の合計モル数の比が0.5以上1.0以下となるような組み合わせであればよい。
【0062】
ポリイミドの製造に、酸二無水物として、エステル結合を有する酸二無水物及び場合によりエステル結合、アミド結合、含窒素環構造のいずれも有していない酸二無水物、ジアミンとして、アミド結合及び含む窒素環構造を有するジアミン及び場合によりエステル結合、アミド結合、含窒素環構造のいずれも有していないジアミンを用いることができる。
中でも、エステル結合を有する酸二無水物とアミド結合を有するジアミンとを組み合わせた態様、エステル結合を有する酸二無水物と、アミド結合を有するジアミン及び含窒素環構造を有するジアミンとを組み合わせた態様が好ましい。これらの態様には、その他の酸二無水物及び/又はその他のジアミンを用いることもできる。
上記における化合物の例示及び好ましい例は、酸二無水物及びジアミンについて記載したものが適用される。
【0063】
<<重合反応>>
重合反応に用いる全酸二無水物と全ジアミンは、高分子化の点から、モル比で、0.95:1~1.05:1とすることができ、好ましくは0.97:1~1.03:1である。
【0064】
重合反応は有機溶媒中で行うことができ、有機溶媒は、反応に不活性な有機溶媒であれば、特に限定されない。ポリアミド酸の重合溶液をそのままイミド化工程に使用する点からは、有機溶媒は、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、m-クレゾール、γ-ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、中でも溶解性の点から、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン等が好ましい。有機溶媒は1種であっても、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
【0065】
重合反応の際、酸二無水物及びジアミンの固形分濃度は、特に限定されないが、反応速度を高める点から、5質量%以上とすることができ、好ましくは10質量%以上であり、また、40質量%以下とすることができ、好ましくは35質量%以下である。
反応温度は、特に限定されないが、反応速度向上の点から、15℃以上とすることができ、また、100℃以下とすることができる。
反応時間は、特に限定されないが、反応の完結と作業効率の点から、1時間以上とすることができ、好ましくは2時間以上であり、また、24時間以下とすることができ、好ましくは18時間以下である。
【0066】
得られたポリアミック酸は、式(2):
【化23】
(ここで、Xは酸二無水物残基であり、Yはジアミン残基である。)で示される繰り返し単位で構成される。
【0067】
ポリアミック酸に含まれる酸二無水物残基であるX及びジアミン残基であるYは、ポリイミドに関する酸二無水物残基であるX及びジアミン残基であるYの記載が適用される。
ポリアミック酸に含まれる酸二無水物残基であるX及びジアミン残基であるYの合計100モル%に占める、エステル結合、アミド結合及び含窒素環構造から選ばれる少なくとも1つを有する酸二無水物残基X及びジアミン残基Yの割合が75モル%以上であり、これらが有するエステル結合のモル数に対する、アミド結合及び非置換の窒素原子を環原子として有する五員又は六員の含窒素環構造の合計モル数の比は0.5以上1.0以下である。
【0068】
ポリアミック酸は、重量平均分子量(Mw)が20、000以上であることができ、好ましくは30,000以上であり、また、500,000以下であることができ、好ましくは300,000以下である。この範囲であれば、加工容易な粘度域に収まる。
ここで、重量平均分子量はポリスチレン標準を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した値である。
【0069】
<<閉環反応>>
【0070】
ポリアミック酸を閉環反応してイミド化する方法としては、熱イミド化、還流イミド化、化学イミド化が挙げられる。
【0071】
熱イミド化は、ポリアミック酸溶液をキャストし段階的に加熱することにより行うことができ、還流イミド化は、ポリアミック酸溶液にイミド化反応時に生成する水と共沸する共沸溶媒(例えば、トルエン、キシレン等)を添加し、加熱することにより行うことができる。これらのイミド化では反応促進剤を使用してもよい。化学イミド化は、有機溶媒中、縮合剤及び反応促進剤を用いて行うことが好ましい。例えば、有機溶媒中、ポリアミック酸を、縮合剤及び反応促進剤を用いてイミド化することができる。
【0072】
有機溶媒は、反応に不活性な有機溶媒であれば、特に限定されない。ポリアミド酸の重合溶液をそのままイミド化工程に使用する点からは、有機溶媒は、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、m-クレゾール、γ-ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、中でも溶解性向上の点から、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン等が好ましい。有機溶媒は1種でも、2種以上の任意の比率の組み合わせでもよい。
【0073】
縮合剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物、亜リン酸エステル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸エステル等が挙げられる。副生成物の沸点が低く、除去が容易という観点から、好ましくは、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸であり、より好ましくは無水酢酸である。
縮合剤は、1種であっても、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
縮合剤の使用量は、反応速度向上の点から、酸二無水物に対して、1当量以上とすることができ、2当量以上が好ましく、また、5当量以下とすることができ、4当量以下が好ましい。
【0074】
反応促進剤としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピペリジン、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、3-エチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、3,5-ジエチルピリジン、イソキノリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾールが挙げられ、反応速度向上と無色透明性維持の点から、好ましくはピリジン、3-メチルピリジン、3-エチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、3,5-ジエチルピリジン、イソキノリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾールであり、より好ましくはピリジン、3-メチルピリジン、3-エチルピリジン、イソキノリンである。
反応促進剤は、1種であっても、2種以上の任員の比率の組み合わせであってもよい。
反応促進剤の使用量は、反応速度向上と無色透明性維持の点から、酸二無水物に対して、0.1当量以上とすることができ、0.2当量以上が好ましく、また、2当量以下とすることができ、1当量以下が好ましい。
【0075】
反応温度と反応時間は、特に限定されないが、熱イミド化では220℃以上380℃以下にて0.5時間以上2時間以下、還流イミド化では180℃以上220℃以下にて1時間以上10時間以下、化学イミド化では20℃以上120℃以下にて1時間以上4時間以下とすることができる。
また、反応雰囲気は、無色透明性維持の点から、窒素雰囲気であることが好ましい。
【0076】
任意で、末端修飾剤の添加、縮合剤および反応促進剤の留去工程等を行うことができる。
【0077】
得られたポリイミドは、公知の方法で単離することができる。単離方法としては、再沈殿が挙げられる。得られたポリイミドを単離せずに、フィルム化等することもできる。
【0078】
ポリイミドは、重量平均分子量(Mw)が20,000以上であることができ、また、500,000以下であることができる。
ここで、重量平均分子量はポリスチレン標準を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した値である。
【0079】
本発明のポリイミドは、上記構造を有するものであれば、ポリアミック酸のイミド化を経て製造されたものに限定されない。
【0080】
<ポリイミドフィルム>
本発明はまた、上記ポリイミドを含むポリイミドフィルムに関する。
【0081】
ポリイミドフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、感光剤(光酸発生剤、光重合開始剤、光塩基発生剤)、増感剤、密着剤、界面活性剤、レベリング剤、着色剤、離型剤、安定剤、可塑剤、滑剤、無機フィラー、有機フィラー、オイル、繊維、香料、消泡剤等の添加剤を含むことができる。
【0082】
ポリイミドフィルムの厚みは、特に限定されず、用途に応じて適宜、設定することができる。例えば、5μm以上とすることができ、好ましくは8μm以上であり、また、120μm以下とすることができ、好ましくは100μm以下である。
【0083】
ポリイミドフィルムは、ポリイミド又はその前駆体(ポリアミック酸)を含む溶液を支持体上にキャストして、得られた塗膜を乾燥させてフィルム化することにより作製することができる。ポリイミドを含む溶液として、イミド化後のポリイミドを含む溶液を用いることができる。
【0084】
ポリイミド又はその前駆体(ポリアミック酸)を含む溶液の塗布方式は、特に限定されず、公知の塗布方法を用いることができ、例えばスピンコーター、バーコーター、ブレードコーター、コンマコーター、リップコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、リバースコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、スプレーコーター等が挙げられる。
【0085】
支持体は、特に限定されず、無アルカリガラスを含むガラス、セラミック、金属(アルミニウム箔等)、樹脂フィルム(PET、PEN等のポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム等の熱可塑性フィルム等)等の基板やフィルム等が挙げられる。これらの基板やフィルムは、銅等により回路が形成されていてもよい。
【0086】
ポリイミド又はその前駆体(ポリアミック酸)を含む溶液に、本発明の目的を損なわない範囲で、感光剤(光酸発生剤、光重合開始剤、光塩基発生剤)、増感剤、密着剤、界面活性剤、レベリング剤、着色剤、離型剤、安定剤、可塑剤、滑剤、無機フィラー、有機フィラー、オイル、繊維、香料、消泡剤等の添加剤を添加し、これらの添加剤を含むポリイミドフィルムとすることができる。
【0087】
ポリイミド又はその前駆体(ポリアミック酸)を含む溶液の塗布厚は、所望のポリイミドフィルムの厚みに応じて、設定することができる。
【0088】
ポリイミドを含む溶液をキャストした後、得られた塗膜を乾燥させることでポリイミドフィルムを得ることができる。乾燥の方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば風乾、オーブン又はホットプレートによる加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。乾燥の際の温度は、有機溶媒の種類に応じて、設定することができる。乾燥は、空気中で行うことができるが、着色抑制の点から、窒素等の不活性雰囲気中で行うことが好ましい。例えば、80℃以上180℃以下で塗膜を乾燥させることができる。
【0089】
ポリイミドの前駆体(ポリアミック酸)を含む溶液を使用した場合、乾燥後の塗膜を熱処理することでポリイミドフィルムとすることができる。乾燥の方法は、特に限定されず、上記の方法を使用することができる。乾燥及び熱処理の条件は特に限定されず、例えば80℃以上180℃以下で塗膜を乾燥させた後、220℃以上380℃以下で熱処理を行うことができる。
【0090】
本発明のポリイミドフィルムは、高いガラス転移温度を有し、高温に曝した後の光学特性に優れている。そのため、ディプレイ等の用途に使用することができ、ボトムエミッション型ディスプレイの用途に好適である。中でも薄層トランジスタ(TFT)等の製造工程に高温プロセスを含む製品の基板として好適に使用することができる。
【実施例0091】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0092】
実施例・比較例の評価は以下のようにして行った。
<ガラス転移温度>
TAインスツルメンツ社製TMA Q400を用いて、実施例・比較例のポリイミドフィルム(所定の加熱処理を行った後のフィルム)を幅5mm、長さ16mmのサイズにカットし、まず10℃/分で昇温して50℃から350℃まで加熱し、次いで10℃/分で降温して50℃まで冷却したのちに、10℃/分で昇温して50℃から450℃まで加熱した際の、2回目の加熱時の変曲点をガラス転移温度として求めた。
【0093】
<重量平均分子量(Mw)>
実施例・比較例のポリアミック酸について、高速液体クロマトグラフ装置(ジーエルサイエンス社GL7700)を用いて標準ポリスチレン換算での分子量を測定した。
カラム:TOSOH社製TSKgel ALPHA-4000及びALPHA-2500
溶離液:リン酸100mmol/L及び臭化リチウム10mmol/Lを含む和光社製GPC用N-メチルピロリドン(NMP)
【0094】
<全光線透過率(%)、ヘイズ(%)、イエローインデックス(YI)>
実施例・比較例のポリイミドフィルム(所定の加熱処理を行った後のフィルム)について、測定装置として、日本電色工業社製「ヘーズメーターNDH7000」を用いて、JIS K7361-1に準拠した測定を行い、全光線透過率(%)、ヘイズ(%)の測定結果を得た。
実施例・比較例のポリイミドフィルム(所定の加熱処理を行った後のフィルム)について、測定装置として、コニカミノルタ社製の「測色分光計CM-5」を用いて、ASTM E313に準拠した測定を行うことにより、イエローインデックス(YI)を求めた。
なお、全光線透過率(%)及びイエローインデックスは、測定したポリイミドフィルムの厚みを10μmの厚みに下記式にて換算する。
全光線透過率(%)の実測値×10(μm)/測定フィルムの厚み(μm)=厚み10μmにおける全光線透過率(%)
イエローインデックスの実測値×10(μm)/測定フィルムの厚み(μm)=厚み10μmにおけるイエローインデックス
【0095】
実施例で使用した化合物は以下のとおりである。
【化24】
【化25】
【0096】
<実施例1>
DABA1.81gをスクリュー管に測り取り、乾燥雰囲気(20℃、20%RH)でN-メチルピロリドン15.8mLに溶解させた。攪拌して溶解させたのち、乾燥雰囲気でTMPBP-TME4.94gを徐々に加え、室温(約25℃)で一晩(16時間)反応させポリアミック酸溶液を得た。
【0097】
得られたポリアミック酸溶液を無アルカリガラス板にフィルム膜厚が30μmになるようにキャスティングした後、80℃の熱風で30分乾燥させた。その後、乾燥膜を形成させた無アルカリガラス板をイナートガスオーブンに投入し、窒素雰囲気下で135℃30分間加熱したのち、2℃/分にて370℃まで昇温し、この温度で30分間保持してポリイミドフィルムを得た。次いで、400℃にて10分間保持した。この所定の加熱処理を行った後の厚み30μmのポリイミドフィルムについて、各種特性を測定した。測定結果を表1に示す。400℃10分の保持は、TFT基板におけるプロセス温度を想定した加熱処理である。
【0098】
<実施例2~12、比較例1~7>
表1に示される種類及び量の酸二無水物及びジアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~12及び比較例1~7のポリイミドフィルムを作製し、得られたポリイミドフィルムについて、各種特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
実施例のポリイミドフィルムは、400℃以上のガラス転移温度を有し、所定の加熱処理を経ているが、良好な光学特性を示した。比較例のポリイミドフィルムは、ガラス転移温度が400℃未満であり、光学特性は実施例に及ばなかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のポリイミドは、高いガラス転移温度を有し、高温に曝しても良好な光学特性を示すため、ディスプレイ用の基板等の用途に好適である。