(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157717
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】熱伝導シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20221006BHJP
B29C 65/00 20060101ALI20221006BHJP
B29D 7/01 20060101ALI20221006BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20221006BHJP
H05K 7/20 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
H01L23/36 D
B29C65/00
B29D7/01
H01L23/36 M
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062103
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
【テーマコード(参考)】
4F211
4F213
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
4F211AB13
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5F136FA82
(57)【要約】
【課題】加圧された場合に熱伝導シートが配置箇所からはみ出しにくく、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る、熱伝導シートを提供する。
【解決手段】複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートである。複数の条片は、樹脂及び粒子状炭素材料を含有する第一条片と、シート厚み減少率の値が3%以下である第二条片とを含む。熱伝導シートの少なくとも片面において、第一条片を含む第一領域が占める面積割合が50%以上であるとともに、第二条片を含む第二領域が直接隣接しないように配置されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートであって、
前記複数の条片が、第一樹脂及び粒子状炭素材料を含有する1又は複数の第一条片と、シート厚み減少率の値が3%以下である複数の第二条片と、を含み、
前記熱伝導シート中において、前記1又は複数の第一条片は少なくとも一つの第一領域を構成し、前記複数の第二条片は複数の第二領域を構成し、前記第一領域は少なくとも一つの前記第一条片を含み、前記第二領域は少なくとも一つの前記第二条片を含み、
少なくとも一方の主面において前記第一領域が占める面積割合が50%以上であり、さらに、
前記少なくとも一方の主面において前記複数の前記第二領域は直接隣接しない、
熱伝導シート。
【請求項2】
前記少なくとも一方の主面において前記第二領域が占める面積割合が5%以上である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記第一条片のシート厚み減少率の値が4%以上である、請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記第一条片の熱伝導率が20W/mK以上である、請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記第二条片が第二樹脂を含み、前記第二樹脂が結晶性樹脂である、請求項1~4のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項6】
第一樹脂及び粒子状炭素材料を含む第一組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートAを得る工程と、
第二樹脂及び粒子状炭素材料を含む第二組成物を加圧してシート状に成形し、シート厚み減少率の値が3%以下である一次シートBを得る工程と、
(i)1又は複数の前記一次シートAと、複数の前記一次シートBとを、厚み方向に積層して積層体を得る、或いは、(ii)1又は複数の前記一次シートAと、1又は複数の前記一次シートBとを厚み方向に積層して得た積層物を折畳または捲回して積層体を得る、積層体形成工程と、
前記積層体を積層方向に45度以下の角度でスライスし、二次シートを得る工程と、を含み、
前記積層体形成工程にて用いる前記一次シートA及び前記一次シートBの枚数は、前記二次シートの少なくとも一方の主面における前記一次シートAに由来する領域の面積割合が50%以上となる枚数であり、
前記積層体形成工程にて、積層体の積層方向において、一次シートBに由来する層が直接隣接しない層界面が複数存在するように、前記一次シートA及びBを配置する、
熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体(IGBTモジュールなど)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、熱伝導性が高いシート状の部材(熱伝導シート)を介し、この熱伝導シートに対して所定の圧力をかけることで発熱体と放熱体とを密着させている。
【0004】
熱伝導シートに対して圧力をかけた際には、熱伝導シートが配置箇所からはみ出す、ポンプアウトするなどの不具合が生じることがあった。そこで従来、かかる不具合に対する対処方法が検討されてきた。例えば特許文献1では、常温常圧下で液体の樹脂と、常温常圧下で個体の樹脂と、粒子状炭素材料とを含み、0.05MPa加圧下での熱抵抗値が0.30℃/W以下である熱伝導シートであって、常温常圧下で液体の樹脂の含有割合が、常温常圧下で液体の樹脂及び常温常圧下で個体の樹脂の合計含有量の60質量%以上75質量%以下である熱伝導シートが提案されている。特許文献1では、常温常圧下で液体の樹脂の含有割合を所定の範囲内に制御することで、ポンプアウトの抑制と熱伝導性との両立を試みている。
【0005】
特許文献1のように、熱伝導シートを構成する樹脂成分の配合を制御することで上記の不具合に対処する技術的思想とは別に、熱伝導シートを、属性の相異なる複数種の条片により構成する技術的思想も提案されてきた。例えば特許文献2では、複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートであって、複数の条片がフッ素樹脂及びシリコン樹脂の少なくとも一方からなる樹脂並びに熱伝導性充填材を含有する第一条片と、所定の難燃性基準を満たす材料よりなる第二条片とを含む、熱伝導シートが提案されている。特許文献2によれば、このような構成を採用することにより、熱伝導性及び難燃性を両立し得る熱伝導シートを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-129377号公報
【特許文献2】特開2019-21687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された従来の熱伝導シートでは、優れた熱伝導性と、加圧された場合に熱伝導シートが配置箇所からはみ出しにくくすることとを高いレベルで両立するという点で改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、加圧された場合に熱伝導シートが配置箇所からはみ出しにくく、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る、熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートを、樹脂及び粒子状炭素材料を含有する1又は複数の第一条片と、シート厚み減少率の値が3%以下である複数の第二条片と、を用いて構成するにあたり、得られる熱伝導シートの少なくとも一方の主面において第一条片を含む第一領域が占める面積割合が50%以上となるようにするとともに、第二条片を含む第二領域が直接隣接しないように配置した場合に、加圧された場合に配置箇所からはみ出しにくく、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る、熱伝導シートを提供することができることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートであって、前記複数の条片が、第一樹脂及び粒子状炭素材料を含有する1又は複数の第一条片と、シート厚み減少率の値が3%以下である複数の第二条片と、を含み、前記熱伝導シート中において、前記1又は複数の第一条片は少なくとも一つの第一領域を構成し、前記複数の第二条片は複数の第二領域を構成し、前記第一領域は少なくとも一つの前記第一条片を含み、前記第二領域は少なくとも一つの前記第二条片を含み、少なくとも一方の主面において前記第一領域が占める面積割合が50%以上であり、さらに、前記少なくとも一方の主面において前記複数の前記第二領域は直接隣接しない、ことを特徴とする。このように、樹脂及び粒子状炭素材料を含有する1又は複数の第一条片と、シート厚み減少率の値が3%以下である複数の第二条片と、を用いて構成するにあたり、得られる熱伝導シートの少なくとも一方の主面において第一領域が占める面積割合が50%以上となるようにするとともに、第二条片を含む第二領域が直接隣接しないように配置することで、配置箇所からはみ出しにくく、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る、熱伝導シートを提供することができる。
なお、「シート厚み減少率の値」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
また、本明細書において、「熱伝導シートの主面において第一領域が占める面積割合」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0011】
また、本発明の熱伝導シートは、少なくとも一方の主面において前記第二領域が占める面積割合が5%以上であることが好ましい。第二領域が占める面積割合が5%以上であれば、配置箇所から一層はみ出しにくい熱伝導シートを提供することができる。
なお、「熱伝導シートの主面において第二領域が占める面積割合」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0012】
また、本発明の熱伝導シートは、前記第一条片のシート厚み減少率の値が4%以上であることが好ましい。第一条片のシート厚み減少率の値が4%以上であれば、配置箇所から一層はみ出しにくい、熱伝導シートを提供することができる。
【0013】
また、本発明の熱伝導シートは、第一条片の熱伝導率が20W/mK以上であることが好ましい。第一条片の熱伝導率が20W/mK以上である熱伝導シートは、一層熱伝導性に優れる。
なお、「熱伝導率」の値は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0014】
また、本発明の熱伝導シートは、前記第二条片が第二樹脂を含み、前記第二樹脂が結晶性樹脂であることが好ましい。第二条片が結晶性樹脂を含んでいれば、配置箇所から一層はみ出しにくい、熱伝導シートを提供することができる。
【0015】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートの製造方法は、第一樹脂及び粒子状炭素材料を含む第一組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートAを得る工程と、第二樹脂及び粒子状炭素材料を含む第二組成物を加圧してシート状に成形し、シート厚み減少率の値が3%以下である一次シートBを得る工程と、(i)1又は複数の前記一次シートAと、複数の前記一次シートBとを、厚み方向に積層して積層体を得る、或いは、(ii)1又は複数の前記一次シートAと、1又は複数の前記一次シートBとを厚み方向に積層して得た積層物を折畳または捲回して積層体を得る、積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に45度以下の角度でスライスし、二次シートを得る工程と、を含み、前記積層体形成工程にて用いる前記一次シートA及び前記一次シートBの枚数は、前記二次シートの少なくとも一方の主面における前記一次シートAに由来する領域の面積割合が50%以上となる枚数であり、前記積層体形成工程にて、積層体の積層方向において、一次シートBに由来する層が直接隣接しない層界面が複数存在するように、前記一次シートA及びBを配置するを特徴とする。このように、樹脂並びに粒子状炭素材料を含む一次シートAと、樹脂及び粒子状炭素材料を含む一次シートBとを用いて熱伝導シートを製造するに際して、一次シートA及び一次シートBの枚数を、二次シートの少なくとも一方の主面における一次シートAに由来する部分の面積割合が50%以上となるように決定し、さらに、積層体形成工程にて、積層体の積層方向において、一次シートBに由来する層が直接隣接しない層界面が複数存在するように、一次シートA及びBを配置することで、配置箇所からはみ出しにくく、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る、熱伝導シートを効率的に提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加圧された場合に熱伝導シートが配置箇所からはみ出しにくく、且つ優れた熱伝導性を発揮し得る、熱伝導シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に従う熱伝導シートの一例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、放熱部材として、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
そして、本発明の熱伝導シートは、本発明の熱伝導シートの製造方法により効率的に製造することができる。
【0019】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、複数の条片を並列接合してなる熱伝導シートである。本発明の熱伝導シートを構成する複数の条片は、第一樹脂及び粒子状炭素材料を含有する1又は複数の第一条片と、シート厚み減少率の値が3%以下である複数の第二条片と、を含む。そして、熱伝導シート中において、1又は複数の第一条片は少なくとも一つの第一領域を構成し、複数の第二条片は複数の第二領域を構成する。さらに、第一領域は少なくとも一つの第一条片を含み、第二領域は少なくとも一つの第二条片を含む。さらに、本発明の熱伝導シートの少なくとも一方の主面において、第一領域が占める面積割合が50%以上であり、且つ、少なくとも一方の主面において、複数の第二領域は直接隣接しないことを特徴とする。本発明の熱伝導シートは、シート厚み減少率の値が3%以下である第二条片を含む第二領域が直接隣接せず、複数の第二領域の間に、例えば第一領域が介在する構造を満たすものである。このような構造をとることで、第一条片により優れた熱伝導性を発揮しつつ、シート厚み減少率の値が3%以下である、すなわち、加圧下にてつぶれにくい第二条片により、配置箇所からはみ出しにくくする機能を発揮することができる。
【0020】
本発明の熱伝導シートは、例えば
図1に示すように、第一条片11と、第二条片12とを並列接合してなる。より具体的には、複数の第二条片12が直接隣接せず、少なくとも1つの第一条片11が間に介在する。なお、
図1では明瞭のために、第一条片及び第二条片につき各一つに関して参照符号を付すが、
図1に示されるハッチングを有する2本の条片が第二条片12であり、その他のハッチングを有さない6本の条片がすべて第一条片11である。
図1に示す熱伝導シート10では、第一条片11及び第二条片12が、隣接する条片同士で長手方向(図示例では上下方向)に延びる辺を共有するように(図示例では左右方向に)接合されている。なお、図示例では、第一条片11及び第二条片12の幅がほぼ等しい場合を示したが、第一条片11及び第二条片12の幅は、相異なっていてもよい。また、熱伝導シート10を構成する第一条片11及び第二条片12の数及び存在比は、熱伝導シートの少なくとも一方の主面において、第一条片が占める面積割合が50%以上となる限りにおいて特に限定されない。
【0021】
図1に占める2つの第二条片12は、各1つの第二領域を構成し、第二領域の間には、3片の第一条片11を含んでなる一つの第一領域が介在している。配置箇所から一層はみ出しにくい熱伝導シートを提供する観点から、
図1に示すように、複数の第二領域の間に、第一領域が介在することが好ましい。ここで、
図1に示す態様とは別に、例えば、第二領域が複数の第二条片を含んでいてもよいし、また、第一領域が一つの第一条片のみからなるものであってもよい。第一領域は、一又は複数の第一条片のみからなる。第二領域は、一又は複数の第二条片のみからなる。第一領域及び第二領域がそれぞれ複数の条片を含む場合には、かかる複数の条片は、それぞれ、第一条片及び第二条片としての条件を満たす限りにおいて特に限定されることなく、同一であっても相異なっていてもよい。
【0022】
さらに、熱伝導シート10は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、第一条片11及び第二条片12以外の第三の条片を含んでいてもよい。この場合、第三の条片は第三領域を定義し、複数の第一領域の間隙或いは複数の第二領域の間隙、さらには第一領域と第二領域との間隙に、第三領域が介在していてもよい。
【0023】
ここで、第一条片および第二条片の合計数は、特に限定されることなく、例えば、5本以上とすることが好ましく、10本以上とすることがより好ましく、15本以上とすることが更に好ましく、100本以下とすることが好ましく、50本以下とすることがより好ましく、30本以下とすることが更に好ましい。熱伝導シートを構成する第一条片および第二条片の合計数が上記範囲内であれば、熱伝導シートを容易に製造することができるからである。
【0024】
<主面において第一領域が占める面積割合>
熱伝導シートの少なくとも一方の主面における、第一領域が占める面積割合は、50%以上である必要があり、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、85%以下であることがさらに好ましい。熱伝導シートの少なくとも一方の主面における、第一領域が占める面積割合が上記下限値以上であれば、得られる熱伝導シートの熱伝導性を一層高めることができる。また、熱伝導シートの少なくとも一方の主面における、第一領域が占める面積割合が上記上限値以下であれば、配置箇所から一層はみ出しにくい熱伝導シートを得ることができる。
【0025】
<主面において第二領域が占める面積割合>
熱伝導シートの少なくとも一方の主面における、第二領域が占める面積割合は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、50%以下である必要があり、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。熱伝導シートの少なくとも一方の主面における、第二領域が占める面積割合が上記下限値以上であれば、配置箇所から一層はみ出しにくい熱伝導シートを得ることができる。また、熱伝導シートの少なくとも一方の主面における、第二領域が占める面積割合が上記上限値以下であれば、得られる熱伝導シートの熱伝導性を一層高めることができる。
【0026】
<第一領域及び第二領域の配置態様>
熱伝導シートにおける第一領域及び第二領域の配置態様は、熱伝導シートの少なくとも一方の主面における、第一領域が占める面積割合が50%以上となり、且つ、複数の第二領域が直接隣接しない限りにおいて特に限定されない。例えば、熱伝導シートの少なくとも一方の主面における第一領域及び第二領域の配置態様としては、熱伝導シートの任意の一方向の全長に亘って、第一領域及び第二領域が略等間隔で交互に延在していてもよい。あるいは、熱伝導シートの少なくとも一方の主面における第一領域及び第二領域の配置態様は、第一領域よりなる海部中に、第二領域よりなる島部が点在してなる海島配置であってもよい。
【0027】
ここで、上述した本発明の効果を一層高める観点から、第一領域及び第二領域の配置態様は、複数の第二領域が熱伝導シートの少なくとも一方の主面においてある程度の距離間隔で離散していることが好ましい。このような配置態様を満たしていれば、第二領域が適度に離散してあたかも「柱」のように機能して、得られる熱伝導シートが配置箇所においてつぶれることを効果的に抑制することができ、熱伝導シートのはみ出しにくさを一層高めることができる。
【0028】
<第一条片>
第一条片は、第一樹脂及び粒子状炭素材料を含有する。第一条片は、第一樹脂及び粒子状炭素材料を含有しているので、熱伝導シートに優れた熱伝導性を付与することができる。なお、第一条片は、本発明の効果を阻害しない限りに応じて、必要に応じて、繊維状炭素材料及び任意の添加剤を含有していてもよい。
【0029】
第一樹脂としては、特に限定されることなくあらゆる樹脂を用いることができる。例えば、第一樹脂としては、液状樹脂及び固体樹脂が挙げられる。なお、第一樹脂として、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、第一樹脂として、液状樹脂と固体樹脂との双方を用いることができる。なお、第一樹脂として液状樹脂と固体樹脂とを併用する場合、液状樹脂と固体樹脂との質量比は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で調整することができる。
【0030】
<<液状樹脂>>
そして、液状樹脂としては、常温常圧下で液体である限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いることができる。
なお、本発明において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0031】
液状樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム)が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
<<固体樹脂>>
固体樹脂としては、常温常圧下で液体でない限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂、常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂等を用いることができる。
【0033】
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸又はそのエステル、ポリアクリル酸又はそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、ゴムは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0034】
常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
<<粒子状炭素材料>>
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を使用すれば、熱伝導シートの熱伝導性をより向上させることができるからである。
【0036】
膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0037】
粒子状炭素材料の平均粒子径は、体積平均粒子径で1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。粒子状炭素材料の平均粒子径が上記下限以上であれば、熱伝導シート中に粒子状炭素材料の伝熱パスをより良好に形成し、熱伝導シートに優れた熱伝導性をより発揮させ得るからである。また、粒子状炭素材料の平均粒子径が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を高めることができる。なお、「体積平均粒子径」は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA-960」)を用いて、レーザー回折法を用いて測定された粒子径分布において、小径側から計算した累積体積が50%となるときの粒子径(D50)として求めることができる。
【0038】
また、粒子状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。なお、「粒子状炭素材料のアスペクト比」は、熱伝導シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0039】
<<第一条片中の粒子状炭素材料の含有割合>>
そして、第一条片中の粒子状炭素材料の含有割合は、25体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、35体積%以上であることがさらに好ましく、60体積%以下であることが好ましく、50体積%以下であることがより好ましく、45体積%以下であることがさらに好ましい。粒子状炭素材料の含有割合が上記下限以上であれば、第一条片の硬度及び熱伝導性を高めることができるため、得られる熱伝導シートのはみだし難さ及び熱伝導性を一層高めることができる。また、粒子状炭素材料の含有割合が上記上限値以下であれば、第一条片が過度に硬くなることを抑制して、得られる熱伝導シートに適度な柔軟性を付与することができ、これにより発熱体及び放熱体(以下、これらをあわせて、「被着体」とも称することがある。)との密着性を高めることにより、熱伝導性を高めることができる。また、熱伝導シートには、静置した状態でカールが生じにくいことが必要とされるが、カールのしにくさという観点からは、粒子状炭素材料の含有割合が上記上限値以下であることが好ましい。
【0040】
<<繊維状炭素材料>>
本発明の熱伝導シートが更に含み得る繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、繊維状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、10超であることが好ましい。
【0041】
上述した中でも、繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)などの繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。
【0042】
<<第一条片のシート厚み減少率>>
第一条片のシート厚み減少率の値は、4%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましく、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。第一条片のシート厚み減少率の値が上記下限値以上であれば、第一条片が過度に硬くなることを抑制して、得られる熱伝導シートに適度な柔軟性を付与することができ、これにより被着体との密着性を高めることにより、熱伝導性を高めることができる。第一条片のシート厚み減少率の値が上記上限値以下であれば、第一条片の硬度及び熱伝導性を高めることができるため、得られる熱伝導シートのはみだし難さ及び熱伝導性を一層高めることができる。なお、第一条片のシート厚み減少率は、例えば、配合する第一樹脂の種類、粒子状炭素材料の配合量などに応じて制御することができる。
【0043】
<<第一条片の熱伝導率>>
第一条片の熱伝導率は、20W/mK以上であることが好ましく、30W/mK以上であることが好ましい。熱伝導率が上記下限値以上であれば、かかる第一条片は熱伝導性に優れるため、熱伝導シートの熱伝導性を高めることができる。なお、第一条片の熱伝導率の上限は特に限定されないが、70W/mK以下でありうる。
【0044】
<第二条片>
第二条片はシート厚み減少率の値が3%以下である必要がある。第二条片はかかる属性を満たすため、熱伝導シートが加圧下においてつぶれにくくするように機能し得る。そして、第二条片は、第二樹脂及び粒子状炭素材料を含むことが好ましい。さらに、第二条片は、繊維状炭素材料及び任意の添加剤を含んでもよい。
【0045】
<<第二条片のシート厚み減少率>>
第二条片のシート厚み減少率の値は、3%以下である必要があり、2%以下であることがより好ましい。第二条片のシート厚み減少率の値が上記上限値以下であれば、配置位置からのはみだしを良好に抑制することができる。なお、第二条片のシート厚み減少率は、例えば、配合する第二樹脂の種類、粒子状炭素材料の配合量などに応じて制御することができる。
【0046】
<<第二樹脂>>
第二樹脂としては、本発明の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されることなく、第一樹脂として使用可能なものとして列挙した各種の樹脂(結晶性樹脂を含む)、及びその他の結晶性樹脂を使用することができる。中でも、第二樹脂が、結晶性樹脂であることが好ましい。ここで、ある樹脂が「結晶性」であることは、JIS K7121に従う示差走査熱量測定(DSC)法に従う測定により、融点が検出されることを意味する。なお、ある樹脂の「結晶性」は、当該樹脂を構成する重合体の重合体鎖が立体規則性を有することに起因してもたらされうる、ある特定構造を有する重合体固有の性質である。また、結晶性樹脂としては樹脂全体が結晶化しているもののみではなく、部分的に結晶化しているものも含む。第二樹脂として好適に用いることができる結晶性樹脂としては、例えば、直鎖状、又は分岐鎖状の高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン系結晶性樹脂、直鎖状、又は分岐鎖状の高密度ポリプロピレン、低密度ポリプロピレンなどのポリプロピレン系結晶性樹脂、及び、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリメチルブテン、ポリメチルヘキセン、ポリビニルナフタレン、ポリキシレン等からなる群で示されるポリオレフィン系結晶性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリエステル等からなる群で示されるポリエステル系結晶性樹脂、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12、ポリアミドイミド等からなる群で示されるポリアミド系結晶性樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等からなる群で示されるフッ素系結晶性樹脂や、その他として、ロジン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、セルロース、アセタール樹脂、塩素化ポリエーテル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、液晶ポリマー(芳香族多環縮合系ポリマー)等の結晶性樹脂が挙げられる。これらの中でも、融点が低く加工が容易であるため、ポリエチレン系結晶性樹脂及び、ポリプロピレン系結晶性樹脂が好ましく、ポリエチレン系結晶性樹脂がより好ましい。第二樹脂が結晶性樹脂であれば、配置箇所から一層はみ出しにくい、熱伝導シートを提供することができる。
【0047】
<<粒子状炭素材料>>
粒子状炭素材料としては、第一条片に配合し得るものとして列挙した各種の粒子状炭素材料を用いることができる。中でも、熱伝導性の観点から膨張化黒鉛が好ましい。第二条片に配合する粒子状炭素材料の好適属性については、第一条片に関して説明した内容と同じである。
【0048】
<<第二条片中の粒子状炭素材料の含有割合>>
そして、第二条片中の粒子状炭素材料の含有割合は、10体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、30体積%以上であることがさらに好ましく、50体積%以下であることが好ましく、40体積%以下であることがより好ましい。第二条片中の粒子状炭素材料の含有割合が上記下限以上であれば、第二条片の熱伝導性を高めることができるため、得られる熱伝導シートの熱伝導性を一層高めることができる。また、熱伝導シートには、静置した状態でカールが生じにくいことが必要とされるが、カールのしにくさという観点からは、粒子状炭素材料の含有割合が上記上限値以下であることが好ましい。
さらに、配置位置からのはみだしを一層良好に抑制する観点から、第二条片中の粒子状炭素材料の含有割合は、第一条片中の粒子状炭素材料の含有割合よりも低いことが好ましい。
【0049】
<<第二条片の熱伝導率>>
第二条片の熱伝導率は、5W/mK以上であることが好ましく、10W/mK以上であることが好ましい。熱伝導率が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を一層高めることができる。なお、第二条片の熱伝導率の上限は特に限定されないが、30W/mK未満でありうる。
【0050】
<熱伝導シートの製造方法>
本発明の熱伝導シートは、第一樹脂及び粒子状炭素材料を含む第一組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートAを得る工程と、第二樹脂及び粒子状炭素材料を含む第二組成物を加圧してシート状に成形し、シート厚み減少率の値が3%以下である一次シートBを得る工程と、(i)1又は複数の一次シートAと、複数の一次シートBとを、厚み方向に積層して積層体を得る、或いは、(ii)1又は複数の一次シートAと、1又は複数の一次シートBとを厚み方向に積層して得た積層物を折畳または捲回して積層体を得る、積層体形成工程と、積層体を積層方向に45度以下の角度でスライスし、二次シートを得る工程と、を含む、製造方法に従って効率的に製造することができる。そして、かかる製造方法においては、積層体形成工程にて用いる一次シートA及び一次シートBの枚数を、二次シートの少なくとも一方の主面における一次シートAに由来する領域の面積割合が50%以上となる枚数として決定する。さらに、積層体形成工程にて、積層体の積層方向において、一次シートBに由来する層が直接隣接しない層界面が複数存在するように、一次シートA及びBを配置する。
【0051】
<<一次シートAを得る工程>>
一次シートAを得る工程では、第一樹脂及び粒子状炭素材料を含む第一組成物を加圧してシート状に成形する。
【0052】
ここで、第一組成物は、第一樹脂と、粒子状炭素材料と、任意の他の成分とを混合して調製することができる。そして、第一樹脂、粒子状炭素材料、及び任意の他の成分としては、上述した第一樹脂、上述した粒子状炭素材料、及び上述した他の成分を用いることができる。
【0053】
なお、上述した成分の混合は、特に制限されることなく、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;などの既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め樹脂を溶解又は分散させて樹脂溶液として、炭素材料、架橋剤、及び任意の他の成分と混合してもよい。そして、混合時間は、例えば、5分以上60分以下とすることができる。また、混合温度は、例えば、5℃以上160℃以下とすることができる。
【0054】
そして、上述のようにして調製した第一組成物は、任意に脱泡及び解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。このように第一組成物を加圧成形したシート状のものを、一次シートAとすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0055】
ここで、第一組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば、特に制限されることなく、プレス成形、圧延成形又は押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。
【0056】
そして、第一組成物を加圧してシート状に成形してなる一次シートAでは、粒子状炭素材料が主として面内方向に配向し、特に一次シートAの面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。なお、一次シートAのシート厚み減少率及び熱伝導率などの好適属性は、第一条片に関して説明した好適属性と同じである。
【0057】
<<一次シートBを得る工程>>
一次シートBを得る工程では、第二樹脂及び粒子状炭素材料を含む第二組成物を加圧してシート状に成形し、シート厚み減少率の値が3%以下である一次シートBを得る。
【0058】
ここで、組成物は、第二樹脂と、粒子状炭素材料と、任意の他の成分とを混合して調製することができる。そして、第二樹脂、粒子状炭素材料、及び任意の他の成分としては、上述した第二樹脂、上述した粒子状炭素材料、及び上述した他の成分を用いることができる。
【0059】
なお、上述した成分の混合は、一次シートAを得る工程と同様にして実施することができる。さらに、得られた第二組成物は、一次シートAを得る工程と同様に加圧成形することで一次シートBを得ることができる。なお、一次シートBの加圧成形にあたり、金型を用いた熱プレスを実施することが好ましい。
【0060】
そして、第二組成物を加圧してシート状に成形してなる一次シートBでは、粒子状炭素材料が主として面内方向に配向し、特に一次シートBの面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。なお、一次シートBのシート厚み減少率及び熱伝導率などの好適属性は、第二条片に関して説明した好適属性と同じである。
【0061】
<<積層体形成工程>>
積層体形成工程では、(i)1又は複数の一次シートAと、複数の一次シートBとを、厚み方向に積層して積層体を得る、或いは、(ii)1又は複数の一次シートAと、1又は複数の一次シートBとを厚み方向に積層して得た積層物を折畳または捲回して積層体を得る。
【0062】
積層体形成工程において、上記(i)の操作を実施する際には、複数の一次シートBの間に、少なくとも1枚の一次シートAが介在するように、一次シートA及びBを配置することで、得られる積層体の積層方向において一次シートBに由来する層が直接隣接しない層界面が複数存在するような配置状態を形成する必要がある。言い換えると、複数の一次シートBにより、少なくとも1枚の一次シートAを「挟む」ように配置状態を形成する必要がある。また、本工程において上記(ii)の操作を実施する際にも同様の配置状態を形成する必要があるが、そのための手段としては、例えば、一次シートA及びBを1枚ずつ積層して得た積層物(この段階では、一次シートAとBとの界面は1つ)を、折畳または捲回することにより、一次シートBに由来する層が直接隣接しない層界面が複数存在する配置状態を実現することができる。もちろん、本工程において上記(ii)の操作を実施する際であっても、上記(i)の操作を実施する場合のように、一次シートBに由来する層が直接隣接しない層界面が複数存在する積層物を、折畳または捲回することにより積層体を得てもよい。
【0063】
さらに、積層体形成工程においては、用いる一次シートA及び一次シートBの枚数を、二次シートの少なくとも一方の主面における一次シートAに由来する領域(上述した第一領域に対応する。)の面積割合が50%以上となる枚数として決定する。具体的には、一次シートA及び一次シートBの厚みと、積層体の積層断面における一次シートAに由来する領域の形状などを総合的に勘案して、用いる一次シートA及び一次シートBの枚数を決定することができる。
【0064】
例えば、
図1に示す熱伝導シート10において、
図1に示される全ての第一条片11の合計面積割合(すなわち、第一領域の面積割合)が75%であるとすると、ほぼ同一の厚みの一次シートA及び一次シートBを、A:B=3:1の割合の枚数で使用し、配置することにより、所望の熱伝導シート10を形成することができる。なお、製造工程における一次シートA及びBの厚みの変動が大きい場合には、かかる変動も考慮して、一次シートA及びBの使用枚数を決定することができる。
【0065】
なお、積層体形成工程で得られる積層体において、一次シートA及びBの表面同士の接着力をより高めて、積層体の層間剥離を十分に抑制する場合には、一次シートA及びBの表面を溶剤で若干溶解させた状態で積層体形成工程を行ってもよいし、一次シートA及びBの表面に接着剤を塗布した状態または一次シートA及びBの表面に接着層を設けた状態で積層体形成工程を行ってもよい。
【0066】
一次シートA及びBを含む積層体を得るに際して、一次シートA及びBを積層しただけの状態の積層物(以下、「加圧前積層体」とも称することがある。)を、加熱条件下で加圧して、積層体を得ることが好ましい。
【0067】
一次シートA及びBの積層により得られた加圧前積層体は、80℃以上の温度条件下にて、流体を圧力媒体として全方位から0.8MPa以上の圧力で加圧することにより、積層体とすることが好ましい。ここで、流体とは、気体又は液体を意味する。また、圧力媒体とは、加圧前積層体に対して圧力を印加する媒体を意味する。さらに、「全方位から加圧する」とは、加圧前積層体の全表面から加圧前積層体の内部に向かう方向の圧力を印加することを意味する。
【0068】
そして、加圧前積層体を加圧する際の温度条件は80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましく、200℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましい。加圧前積層体を加圧する際の温度が上記下限値以上であれば、隣接する一次シートA及びB同士の密着性を高めることができ、より一層はみ出しにくい熱伝導シートを得ることができる。また、加圧前積層体を加圧する際の温度が上記上限値以下であれば、一次シートA及びBを形成する際に構築された炭素材料の配向性が熱伝導シートにて良好に保持されるため、熱伝導性に一層優れる熱伝導シートが得られる。
【0069】
そして、加圧前積層体を加圧する際の圧力は、0.8MPa以上2.0MPa以下であることが好ましい。加圧前積層体を加圧する際の圧力が上記範囲内であれば、得られる熱伝導シートの熱伝導性及びはみだしにくさを一層高めることができる。
【0070】
加圧前積層体を加圧は、オートクレーブ又は温水等方圧プレス装置を用いて実施することが好ましい。中でも、得られる熱伝導シートの熱伝導性を一層高める観点から、オートクレーブを用いることが好ましい。なお、オートクレーブは流体としての水蒸気を圧力媒体として、加圧前積層体を全方位から加圧しうる装置である。また、温水等方圧プレス装置は、温水を圧力媒体として加圧前積層体を全方位から加圧しうる装置である。
【0071】
<<スライス工程>>
スライス工程では、上記の工程にて得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる二次シートを得る。なお、本工程にて得られた二次シートが本発明の熱伝導シートでありうる。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、二次シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
【0072】
なお、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0073】
そして、このようにして得られた二次シートでは、厚み方向に炭素材料が良好に配向しており、厚み方向の熱伝導性に優れている。
【実施例0074】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例及び比較例において各種属性の測定及び評価は、以下に従って実施した。
【0075】
<熱抵抗値及びシート厚み減少率>
熱伝導シートの熱抵抗値は、熱抵抗試験器(日立テクノロジーアンドサービス社製、製品名「樹脂材料熱抵抗測定装置」)を用いて測定した。ここで、1cm角の略正方形に切り出した熱伝導シートを試料とし、試料温度50℃において、0.1MPa、及び0.9MPaの圧力を加えた時の熱抵抗値(℃/W)及びシート厚み(単位:mm)を測定した。熱抵抗値が小さいほど熱伝導シートが熱伝導性に優れ、例えば、発熱体と放熱体との間に介在させた際の放熱特性に優れていることを示す。
また、0.9MPaで加圧した際のシート厚みを0.1MPaで加圧した際のシート厚みで除した値を、1から引いた値をシート厚み減少率とした。得られた結果を表1に示す。
【0076】
<<熱伝導率>>
実施例、比較例で得た一次シートA及びBの主面内について、それぞれ、熱拡散率α(m2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)および比重ρ(g/m3)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率α(m2/s)]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して、シート厚み方向に対して垂直なXY平面方向の熱拡散率を測定した。
[定圧比熱Cp(J/g・K)]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下における比熱を測定した。
[比重ρ(g/m3)]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)をに用いて比重(密度)(g/m3)を測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ・・・(I)
に代入し、XY平面方向の一次シートA及びBの熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0077】
<熱伝導シート主面において条片が占める面積割合>
実施例、比較例で得た熱伝導シートを三次元形状測定機(キーエンス社製、製品名「ワンショット3D測定マクロスコープ」)を用いて測定した。ここで、3cm角以上の任意の大きさの略正方形に切り取った熱伝導シートを試料とした。特に、熱伝導シートを構成する第一条片と第二条片との識別は、黒鉛量の違いに起因する色の濃淡を根拠に行った。
【0078】
<はみ出し試験>
実施例、比較例で得た熱伝導シートを直径10mmの円型に打ち抜いたものを試料とした。この試料に対しプレス機を用いて、80℃、2.5MPaにて20分加圧した。
加圧後の試料の面積を三次元形状測定機(株式会社キーエンス製、製品名「ワンショット3D測定マクロスコープ」)で測定し、加圧前との面積の違いを下記の式に従いはみだし率を算出した。はみだし率の値が100%に近いほど、熱伝導シートのサイズが被着体からの加圧により変化しにくく、配置位置からはみ出しにくいことを意味する。
<はみ出し率>=(プレス後の面積)÷(プレス前の面積)×100
【0079】
<カール指数>
実施例、比較例で得られた50mm×50mmの熱伝導シートに対して重り(55mm×55mm、65g)を10秒間乗せた。重りを除去した後、デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製、商品名「ABSインサイドデジマチックキャリパ」)にてカール高さを測定し、得られた値(mm)を熱伝導シート一辺の長さである50mmで除した値を下記の基準に従って評価した。
A:カール高さが3mm未満。
B:カール高さが3mm以上6mm未満。
C:カール高さが6mm以上、あるいは丸まって半周している。
D:エッジが半周超~1周未満カールしている。
E:エッジが1周以上カールしている。
【0080】
(実施例1)
<一次シートAを得る工程>
第一樹脂としての、常温常圧下液体のニトリルゴム(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipole(登録商標)1312」)70部及び常温常圧下固体のニトリルゴム(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipole(登録商標)3350」)30部と、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm;アスペクト比=1.5)150部(第一樹脂及び粒子状炭素材料の合計体積部数を基準として、40体積部)とを加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機(大阪ケミカル社製、商品名「ワンダークラッシュミルD3V-10」)に投入して、10秒間解砕することにより、組成物を得た。次いで、得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙1000μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み0.8mmの一次シートAとした。
【0081】
<一次シートBを得る工程>
第二樹脂として、結晶性樹脂である低密度ポリエチレン(熱可塑性樹脂;融点:113℃、三菱化学社製、「ノバテック(登録商標)LD LF440HB」)60部と、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm;アスペクト比=1.5)72部(第二樹脂及び粒子状炭素材料の合計体積部数を基準として、34体積部)とを、6インチ二本ロール混錬機にて温度150℃にて20分間撹拌混合した。
次いで、得られた組成物50gを、内型が100×100×0.5mmの金属の型枠に入れ、150℃にて熱プレスすることで100×100×0.8mmの一次シートBを得た。
【0082】
<積層体形成工程>
続いて、上記の工程で得られた一次シートA及びBを縦50mm×横50mm×厚み0.8mmに裁断し、一次シートAを3枚重ねた後、一次シートBを1枚積層し、再度、一次シートAを3枚重ね、一次シートBを1枚積層する、という操作を積層体高さが60mmになるまで繰り返し、積層物を得た。
得られた積層物を離型PET(polyethylene terephthalate)でキャラメル包装しテープ止めを行い、PETレトルト包装で真空包装し加圧処理し加圧前積層体を得た。
得られた加圧前積層体をオートクレーブ(羽生田鉄工所社製、小型オートクレーブ「DANDELION」)にて150℃雰囲気下、0.8MPaの圧力条件下にて、30分間加熱加圧処理して、積層体を作製した。
【0083】
<スライス工程>
得られた積層体をサーボプレス機(放電精密加工研究所製)のプレス部分に、切断刃(両刃、刃角2θ:20°、刃部の最大厚み:3.5mm、材質:超鋼、ロックウェル硬度:91.5、刃面のシリコン加工:なし、全長:200mm)を取り付け、スライス速度200mm/秒、スライス幅100μmの条件で積層体の積層方向(換言すれば、積層された一次シートA及びBの主面の法線に一致する方向に)にスライスして、縦50mm×横60mm×厚み0.10mmの熱伝導シートを得た。
そして、得られた熱伝導シートについて、上述の方法に従って、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
尚、第一の条片と第二の条片は同じ加圧を行ってもシートの圧縮率が異なるため、スライスして得られたシートにおける一次シートAに由来する第一の条片の面積は全体の75%となっていた。
また、得られた熱伝導シートの両表面において、一次シートAに由来する第一の条片と、一次シートBに由来する第二の条片とが並列接合しており、第二の条片の間には第一の条片が介在していた。
【0084】
(実施例2)
一次シートBを得る工程において、低密度ポリエチレンの配合量を70部に変更し、膨張化黒鉛の配合量を30部(第二樹脂及び粒子状炭素材料の合計体積部数を基準として、15体積部)とした以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例3)
一次シートAを得る工程において、膨張化黒鉛の配合量を225部(第一樹脂及び粒子状炭素材料の合計体積部数を基準として、50体積部)に変更した以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例4)
一次シートAを得る工程において、膨張化黒鉛の配合量を95部(第一樹脂及び粒子状炭素材料の合計体積部数を基準として、30体積部)に変更した以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例5)
積層体形成工程において、一次シートAとBとを1枚ずつ交互に、高さが60mmになるまで重ねて加圧前積層体を得た。かかる点以外は実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例6)
積層体形成工程において、一次シートAを9枚重ねた後、一次シートBを1枚積層し、再度、一次シートAを9枚重ね、一次シートBを1枚積層する、という操作を積層体高さが60mmになるまで繰り返した。かかる点以外は実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例7)
一次シートBを得る工程において、第二樹脂として常温常圧下固体のニトリルゴム(日本ゼオン社製、商品名「Nipole(登録商標)1041」)100部を配合し、膨張化黒鉛の配合量を40部(第二樹脂及び粒子状炭素材料の合計体積部数を基準として、15体積%)とした以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例1)
一次シートBを作製せず、一次シートAのみを積層して積層体形成してその他の操作に供した以外は実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例2)
一次シートAを作製せず、一次シートBのみを積層して積層体形成してその他の操作に供した以外は実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0092】
なお、表1において、
「NBR」は、ニトリルゴムを、
「PE」は、ポリエチレンを、
それぞれ示す。
【0093】
【0094】
表1より、一次シートAに由来する第一条片と、シート厚み減少率の値が3%以下である一次シートBに由来する第二条片とを、所定の面積比率を満たすように、且つ、第二条片よりなる第二領域が相互に隣接しないように配置して第一条片及び第二両辺を並列接合してなる実施例1~7の熱伝導シートは、加圧された場合に熱伝導シートが配置箇所からはみ出しにくく、且つ、熱伝導性を発揮することができる。
一方、いずれかの一次シートだけを用いて得た比較例1~2の熱伝導シートにおいては、はみ出し難さ及び熱伝導性を両立することができなかったことが分かる。