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  • 特開-有機半導体インク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157791
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】有機半導体インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20221006BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 29/74 20060101ALI20221006BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20221006BHJP
   C09D 11/033 20140101ALI20221006BHJP
【FI】
C09D11/102
C08G61/12
H01L29/28 220A
H01L29/28 100A
H01L29/91 H
H01L29/91 G
H01L29/86 301D
H01L29/74 E
H01L29/28 250G
C09D11/52
C09D11/033
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062221
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 英典
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸江
(72)【発明者】
【氏名】武井 出
【テーマコード(参考)】
4J032
4J039
5F005
【Fターム(参考)】
4J032BA17
4J032BA20
4J032BB03
4J032BC03
4J032BC06
4J032CG01
4J039AE10
4J039AE13
4J039BC03
4J039BC05
4J039BE12
4J039GA34
5F005FA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非劇物であり非ハロゲンの溶媒を用いつつ、良好な光電特性を実現できる有機半導体インクを提供する。
【解決手段】窒素原子を含む複素環式化合物の繰り返し単位及び、イオウ原子を含む複素環式化合物の繰り返し単位を含むコポリマーであるp型半導体化合物と、電子親和力が3.5eV以上のn型半導体化合物と、ベンゼン環にハロゲン基が直接結合していないアニソール誘導体と、を含む有機半導体インク。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1A)で表される繰り返し単位、式(1B)で表される繰り返し単位及び下記式(1C)で表される繰り返し単位を含むコポリマーであるp型半導体化合物と、
電子親和力が3.5eV以上のn型半導体化合物と、
ベンゼン環にハロゲン基が直接結合していないアニソール誘導体を含む溶媒と、
を含む有機半導体インク。
【化1】
(式(1A)、式(1B)及び式(1C)中、A及びAは各々独立して、周期表第16族から選ばれる原子を表し、Qは周期表第14族から選ばれる原子を表し、Rは置換基を有していてもよい直鎖アルキル基を表し、Rは置換基を有していてもよい分岐アルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を表す。R及びRは各々独立して、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記アニソール誘導体が、2-メチルアニソール、3-メチルアニソール、4-メチルアニソール、2-エチルアニソール、3-エチルアニソール、4-エチルアニソール、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、2,5-ジメチルアニソール、2,6-ジメチルアニソール、3,4-ジメチルアニソール、及び3.5-ジメチルアニソールからなる群より選択される、請求項1に記載の有機半導体インク。
【請求項3】
前記アニソール誘導体が、2-メチルアニソールである、請求項2に記載の有機半導体インク。
【請求項4】
芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機半導体インク。
【請求項5】
前記芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルの融点が25℃以下である、請求項4に記載の有機半導体インク。
【請求項6】
前記芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルの沸点が前記溶媒の沸点以上である、請求項4または5に記載の有機半導体インク。
【請求項7】
前記芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルが、テトラリンまたは1,8-ジヨードオクタンである、請求項4~6のいずれか1項に記載の有機半導体インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、有機半導体インクに関する。
【背景技術】
【0002】
有機太陽電池や有機光検出器などのバルクへテロジャンクション(BHJ)型光電変換層の成膜に用いられる有機半導体インクの多くはクロロホルム、もしくはクロロベンゼンなどのハロゲン溶媒、または非ハロゲン溶媒でもトルエン、またはキシレンなどの医薬用外劇物に指定される芳香族溶媒を用いているため、作業者の安全性確保や環境負荷の観点から課題があった。そのため、様々な非ハロゲンかつ非劇物の溶媒が有機半導体インクに向けて検討されてきた。
特許文献1及び2には、光電変換層用の有機半導体インクの溶媒としてo-キシレンなどと併せてプソイドクメンなどの非劇物かつ非ハロゲンの溶媒を用いる例が開示されている。また、非特許文献1には、PTB7-Thを含む光電変換層用の有機半導体インクの主溶媒にエチルベンゼンを用いることで良好な光電変換特性が得られることが開示されている。また、非特許文献2には、PTB7-Thを含む光電変換層用の有機半導体インクの主溶媒にテルピレノンを用いることで良好な光電変換特性が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6718412号公報
【特許文献2】特許第6697833号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Mater. Chem. A, 2018, 6, 23840-23855
【非特許文献2】J. Phys. Chem. A, 2019, 123, 4, 2105-2113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の文献などから任意の光電変換層用の有機半導体組成物を含むインクに適切な溶媒を類推することは極めて困難である。これは有機半導体やその分子量により各種溶媒への溶解度が異なるのみならず、高い光電変換効率を有するBHJ型光電変換層の形成には塗布乾燥時にp型とn型の有機半導体が共連続に入り組んだナノ構造を形成させることが不可欠であり、この構造形成のためには溶解性以外にもp型とn型の有機半導体の溶解性の差や乾燥速度など多くの因子が関与しているためである。つまり、良好な光電特性を実現するためには、半導体化合物の選択のみならず、該半導体化合物に適した溶媒を選択することが重要である。半導体化合物および溶媒の組み合わせの検討は幅広く行われているものの、それらの成分の組み合わせの数に制限はなく、検討の余地、特に、溶媒として非劇物であり非ハロゲンの溶媒を用いた場合の組み合わせについては十分な検討の余地が残されている。
そこで本発明は、非劇物であり非ハロゲンの溶媒を用いつつ、良好な光電特性を実現できる有機半導体インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、半導体化合物として、特定の構造を有するコポリマーであるp型半導体化合物および特定の特性を有するn型半導体化合物を用いることで、非劇物であり非ハロゲンの溶媒を用いつつ、良好な光電特性を実現
できる有機半導体インクを提供することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の実施形態には下記が含まれるが、限定されるものではない。
[1] 下記式(1A)で表される繰り返し単位、式(1B)で表される繰り返し単位及び下記式(1C)で表される繰り返し単位を含むコポリマーであるp型半導体化合物と、
電子親和力が3.5eV以上のn型半導体化合物と、
ベンゼン環にハロゲン基が直接結合していないアニソール誘導体を含む溶媒と、
を含む有機半導体インク。
【化1】
(式(1A)、式(1B)及び式(1C)中、A及びAは各々独立して、周期表第16族から選ばれる原子を表し、Qは周期表第14族から選ばれる原子を表し、Rは置換基を有していてもよい直鎖アルキル基を表し、Rは置換基を有していてもよい分岐アルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を表す。R及びRは各々独立して、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を表す。)
[2] 前記アニソール誘導体が、2-メチルアニソール、3-メチルアニソール、4-メチルアニソール、2-エチルアニソール、3-エチルアニソール、4-エチルアニソール、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、2,5-ジメチルアニソール、2,6-ジメチルアニソール、3,4-ジメチルアニソール、及び3.5-ジメチルアニソールからなる群より選択される、[1]に記載の有機半導体インク。
[3] 前記アニソール誘導体が、2-メチルアニソールである、[2]に記載の有機半導体インク。
[4] 芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルをさらに含む、[1]~[3]のいず
れかに記載の有機半導体インク。
[5] 前記芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルの融点が25℃以下である、[4]に記載の有機半導体インク。
[6] 前記芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルの沸点が前記溶媒の沸点以上である、[4]または[5]に記載の有機半導体インク。
[7] 前記芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルが、テトラリンまたは1,8-ジヨードオクタンである、[4]~[6]のいずれかに記載の有機半導体インク。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非劇物であり非ハロゲンの溶媒を用いつつ、良好な光電特性を実現できる有機半導体インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る光電変換素子の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。以下の説明は、本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
なお、本明細書において「~」で表される記載は、その前後に記載された数字を含む範囲を表すものとする。
また、2つ以上の対象を併せて説明する際に用いる「独立して」とは、それらの2つ以上の対象が同じであっても異なっていてもよいという意味で使用される。
【0011】
<1.p型半導体化合物>
本発明の実施形態に係る有機半導体インクに係るp型半導体化合物であるコポリマー(以下、単に「コポリマー」とも称する)は、下記式(1A)で表される繰り返し単位、(1B)で表される繰り返し単位及び式(1C)で表される繰り返し単位を含む。本実施形態に係るコポリマーは、溶解させた際にゲル化しにくいため、塗布成膜するために適している。また、本実施形態に係るコポリマーは、光吸収波長領域がより長波長にあり、かつ光吸収性が高く、さらに高い移動度を有する点から好ましい。また、本実施形態に係るコポリマーは、高分子量のものを得やすい点で好ましい。
【0012】
【化2】
【0013】
式(1A)および式(1B)中、AとAは各々独立して、周期表第16族から選ばれる原子を表す。AとAとして具体的には、酸素原子、硫黄原子、セレン原子又はテルル原子が挙げられる。なかでも、合成の容易性の点で好ましくは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子であり、より好ましくは、硫黄原子又は酸素原子であり、特に好ましくは硫黄原子である。AとAは同一でも異なっていてもよく、好ましくは同一である。
【0014】
式(1C)中、Qは周期表第14族元素から選ばれる原子を表す。周期表第14族元素から選ばれる原子として具体的には、炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子又は鉛原子が挙げられる。Qとして好ましくは、炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子又はスズ原子であり、より好ましくは、炭素原子、ケイ素原子又はゲルマニウム原子である。さらに好ましくは、ケイ素原子又はゲルマニウム原子である。ケイ素原子及びゲルマニウム原子は炭素原子と比較して原子半径が大きいことから、π-πスタッキングを阻害するような置換基R及びRによる立体障害が低減されうる。このことは、コポリマー間の分子間相互作用が適度に維持されうる点で好ましい。
【0015】
式(1A)中、Rは置換基を有していてもよい直鎖アルキル基である。コポリマー間の相互作用を適度に強める観点から好ましい。
直鎖アルキル基の炭素数は、通常1以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、一方、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。直鎖アルキル基の炭素数が上記範囲内であることは、溶解性向上の点から好ましい。
【0016】
直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-テトラデシル基、n-ヘキサデシル基、n-イコシル基、n-テトラコシル基又はn-トリアコンチル基等が挙げられる。
なかでも好ましくは、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-テトラデシル基、n-ヘキサデシル基、n-イコシル基、n-テトラコシル基又はn-トリアコンチル基であり、より好ましくは、コポリマーの溶解度を高く維持しつつ、かつコポリマーの分子間距離を離し過ぎないことにより電荷移動を促進しうる点で、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、又はn-ドデシル基である。
【0017】
式(1B)中、Rは置換基を有していてもよい分岐アルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を表す。RとRがこのような組合せであることにより、ポリマー主鎖同士が規則正しく配向することによる起こる溶解度の低下やゲル化を抑制することができ、インク保存安定性を高めることができると考えられる。
なお、Rは、好ましくは、置換基を有していてもよい分岐アルキル基又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であり、より好ましくは置換基を有していてもよい分岐アルキル基である。
【0018】
分岐アルキル基としては、分岐1級アルキル基、分岐2級アルキル基又は分岐3級アルキル基が挙げられる。分岐1級アルキル基とは、遊離原子価を有する炭素原子に結合する水素原子が2つである分岐アルキル基を意味する。分岐2級アルキル基とは、遊離原子価を有する炭素原子に結合する水素原子が1つである分岐アルキル基を意味する。また分岐3級アルキル基とは、遊離原子価を有する炭素原子に結合する水素原子が無い分岐アルキル基を意味する。ここで、遊離原子価とは、有機化学・生化学命名法(上)(改訂第2版、南江堂、1992年発行)に記載のとおり、他の遊離原子価と結合を形成できるものをいう。
【0019】
なかでも、適度に分子間相互作用を強めて移動度が向上する点で分岐1級アルキル基が好ましく、溶解性が向上する点で分岐2級アルキル基が好ましい。
分岐1級アルキル基の炭素数は、通常3以上、好ましくは6以上、より好ましくは8以上であり、一方、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。分岐1級アルキル基の炭素数が上記範囲内にあることは、溶解性向上の点から好ましい。
【0020】
分岐1級アルキル基としては、例えば、2-エチルヘキシル基、2-メチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、2-エチルブチル基、2,4-ジメチルヘキシル基、2-メチルペンチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-ヘキシルデシル基、2,2-ジメチルブチル基、2-メチルヘプチル基、2-ブチルオクチル基、2-プロピルペンチル基、2-メチルオクチル基、2-メチルドデシル基又は2,5-ジメチルヘキシル基等が挙げられる。
【0021】
なかでも、2-エチルヘキシル基、2,4-ジメチルヘキシル基、2,6-ジメチルへプチル基、2-ヘキシルデシル基、2-メチルヘプチル基、2-ブチルオクチル基、2-プロピルペンチル基、2-メチルオクチル基、又は2,5-ジメチルヘキシル基が好ましく、より好ましくは2-エチルヘキシル基、2-ヘキシルデシル基、2-ブチルオクチル基又は2-ヘキシルオクチル基である。
【0022】
分岐2級アルキル基の炭素数は、通常3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以
上、一方、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。分岐2級アルキル基の炭素数が上記範囲内にあることにより、溶解性を向上させることができる点で好ましい。
分岐2級アルキル基としては、例えば、1-メチルプロピル基、1-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、1-メチルペンチル基、1-メチルオクチル基、1-エチルブチル基、1-ブチルヘプチル基、4-メチル-1-プロピルヘキシル基、1,3-ジメチルペンチル基、1-エチル-2-メチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1-ブチルヘキシル基、1,3-ジメチルデシル基、又は1-プロピルヘプチル基等が挙げられる。
【0023】
なかでも、好ましくは1-エチルヘキシル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-ブチルヘプチル基、1-エチルオクチル基、1-プロピルヘキシル基、4-エチル-1-メチルオクチル基、4-メチル-1-プロピルヘキシル基、1-エチル-2-メチルペンチル基、1-ブチルヘキシル基又は1-プロピルヘプチル基である。
分岐3級アルキル基の炭素数は、通常4以上、一方、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。
【0024】
分岐3級アルキル基としては、例えば、t-ブチル基、2-エチル-1,1-ジメチルペンチル基、1-エチル-1,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジブチルドデシル基、1-ブチル-1-エチルヘキシル基、1-エチル-1-プロピルペンチル基、1,1-ジメチルヘプチル基、1,1-ジメチルデシル基、1,1-ジメチルペンチル基、1,1-ジブチルペンチル基、1-ブチル-1-プロピルペンチル基、1-ヘキシル-1-メチルノニル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、又は1,1,2,2-テトラメチルプロピル基等が挙げられる。
なかでも、t-ブチル基又は1,1-ジメチルプロピル基が好ましく、より好ましくはt-ブチル基である。
【0025】
シクロアルキル基の炭素数は、通常3以上、より好ましくは4以上、一方、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基又はシクロラウリル基等が挙げられる。なかでも、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基又はシクロオクチル基が好ましい。
【0026】
芳香族炭化水素基の炭素数は、通常6以上、一方、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは14以下である。このような芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、インダニル基、インデニル基、フルオレニル基、アントラセニル基又はアズレニル基等が挙げられる。なかでも、フェニル基又はナフチル基が好ましい。
複素環基としては、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基の炭素数は、通常2以上、一方、通常20以下、好ましくは14以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは6以下である。このような脂肪族複素環基としては、例えば、オキセタニル基、ピロリジニル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロチエニル基、ピペリジニル基、テトラヒドロピラニル基又はテトラヒドロチオピラニル基等が挙げられる。
【0027】
芳香族複素環基の炭素数は、通常2以上、一方、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは14以下である。このような芳香族複素環基としては、例えば、チエニル基、フラニル基、ピリジル基、ピリミジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、トリアゾリル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基又はベンゾトリアゾリル基等が挙げられる。なかでも、チエニル基、ピリジル基
、ピリミジル基、チアゾリル基又はオキサゾリル基が好ましい。
及びRが「有していてもよい」置換基としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定はないが、好ましくはハロゲノ基、水酸基、カルボキシル基、カルバモイル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ボリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、脂肪族複素環基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基等が挙げられる。なかでも好ましくは、本実施形態に係るコポリマーの分子内極性をコントロールしうる点で、ハロゲン原子、アルコキシ基又はアルキルチオ基である。
【0028】
及びRは各々独立して、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を表す。具体的には、置換基を有していてもよい直鎖アルキル基、置換基を有していてもよい分岐アルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基を表し、R及びRで定義したものと同義である。R及びRは、同一でも異なっていてもよい。
【0029】
なかでも好ましくは、R及びRのうち少なくとも一方が置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基である。
溶解度を向上させる点からは、R及びRがともに、置換基を有していてもよいアルキル基がより好ましく、さらに好ましくは、置換基を有していてもよい分岐アルキル基であり、特に好ましくは置換基を有していてもよい分岐1級アルキルである。
【0030】
また、別法として、Qが不斉原子となり、得られるコポリマーが、多数のジアステレオマーを持つことが出来るため、溶解性を向上させることができる点で、Rが、置換基を有していてもよい直鎖アルキル基、かつRが置換基を有していてもよい分岐アルキル基がより好ましく、特に好ましくは、Rが置換基を有していてもよい直鎖アルキル基、かつRが置換基を有していても良い分岐1級アルキル基である。
【0031】
及びRが「有していてもよい」置換基としては、R及びRが「有していてもよい」置換基と同義である。なかでも、水素原子とヘテロ原子とを含む群から選択された原子からなる置換基が好ましく、より好ましくは、極性を上げる点でフッ素原子等のハロゲン原子、又は水素結合能を有する点でアミノカルボニル基若しくはカルボニルアミノ基等のアミド結合を有する基である。
【0032】
また、R及びRのうち少なくとも一方が置換基を有さない分岐アルキル基であることもまた好ましい。特に好ましくは、2-エチルヘキシル基、2-エチルヘプチル基、2-エチルオクチル基、2-エチルノニル基又は2-エチルデカニル基等が挙げられる。
及びRは、少なくともどちらか一方が、分岐鎖アルキル基を含むものが好ましく、両方が、分岐鎖アルキル基であることも溶解性をあげる観点から好ましい。
【0033】
式(1A)と式(1B)の中で、RとRの置換基が異なることにより、ポリマー間の距離を不均一にすることが出来るため、コポリマーの溶解性が向上する。
このことは、本実施形態に係るコポリマーの有機溶媒への溶解性が向上しやすく、本実施形態に係るコポリマーが塗布成膜しやすくなりうる点で好ましい。また、本実施形態に係るコポリマーを溶液とした時にコポリマーが析出したりゲル化したりすることが抑制され、保存安定性が向上しうる点でも好ましい。
【0034】
ジオキソピロール縮合環上に直鎖アルキル基を有する繰り返し単位とジオキソピロール縮合環上に分岐アルキル基等を有する繰り返し単位は、それぞれ、直線性をもつ置換基を
有する繰り返し単位と空間的な広がりをもつ置換基を有する繰り返し単位となると考える。ゆえに、上記繰り返し単位を有する本実施形態に係るコポリマー同士の分子間距離が適度に離れうる部分と互いに近づける部分とが共存でき、コポリマー間に不規則な距離間を持たせることができることから、溶解性の向上を図ることができると考える。
【0035】
また、本実施形態のコポリマーは、直線性をもつ置換基を有する繰り返し単位と空間的な広がりをもつ置換基を有する繰り返し単位を有することから、複数のコポリマー間において、ジチエノ縮合環とジオキソピロール縮合環との間、及び/又はジチエノ縮合環同士の分子間相互作用が適切に調整される。ゆえに、高分子量体であるにもかかわらず、同時に、溶解度が向上し、コポリマーの凝集、結晶化又はゲル化が抑制されるコポリマーとなり、結果としてコポリマーを含有するインクの安定性が向上しうると考える。
【0036】
本実施形態に係るコポリマーは、式(1A)で表される繰り返し単位、式(1B)で表される繰り返し単位、及び式(1C)で表される繰り返し単位のうち1以上のそれぞれを、2種以上含んでいてもよい。
本実施形態に係るコポリマーは、本発明の効果を損なわない範囲で、式(1A)、(1B)又は(1C)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。式(1A)で表される繰り返し単位、式(1B)で表される繰り返し単位、及び式(1C)で表される繰り返し単位の合計が、本実施形態に係るコポリマーを構成する繰り返し単位に占める割合は、特段の制限は無いが、通常2モル%以上、好ましくは10モル%以上、より好ましくは25モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、よりさらに好ましくは90%以上である。特に好ましくは、本実施形態に係るコポリマーは、式(1A)で表される繰り返し単位、式(1B)で表される繰り返し単位,及び式(1C)で表される繰り返し単位を含みかつこれらの繰り返し単位のみで構成されるか、又はこれらの繰り返し単位を含みかつこれらの繰り返し単位のみで構成されるポリマー鎖を含む。
【0037】
本実施形態に係るコポリマーを構成する繰り返し単位に占める、式(1A)で表される繰り返し単位の割合は、特段の制限は無いが、通常1モル%以上、好ましくは2モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上である。一方、通常99モル%以下、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。
【0038】
本実施形態に係るコポリマーを構成する繰り返し単位に占める、式(1B)で表される繰り返し単位の割合は、特段の制限は無いが、通常1モル%以上、好ましくは10モル%以上、より好ましくは30モル%以上である。一方、通常99モル%以下、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。
【0039】
本実施形態に係るコポリマーを構成する繰り返し単位に占める、式(1C)で表される繰り返し単位の割合は、特段の制限は無いが、通常1モル%以上、好ましくは2モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上である。一方、通常99モル%以下、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。
【0040】
本実施形態に係るコポリマーにおける、式(1A)+式(1B)で表される繰り返し単位の数に対する、式(1C)で表される繰り返し単の位の数比(1C/1A+1B)は、特段の制限は無いが、通常0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上である。一方、通常100以下、好ましくは10以下、より好ましくは2以下である。
【0041】
本実施形態に係るコポリマーにおける、式(1A)、式(1B)及び式(1C)で表される繰り返し単位の配列状態は、ブロック又はランダムのいずれでもよい。すなわち、本
実施形態に係るコポリマーは、ブロックコポリマー又はランダムコポリマーのいずれでもよい。また、これらのコポリマーのうち中間的な構造を有するコポリマー、例えばブロック性を帯びたランダムコポリマーであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上あるコポリマー、及びデンドリマーも含まれる。なかでも、合成が容易であり、規則性がより低下しうる点で、ブロックコポリマー又はランダムコポリマーであることが好ましく、コポリマーの溶解性が向上しかつコポリマーを溶解させたインクの保存安定性がより向上しうる点で、ランダムコポリマーであることがより好ましい。
【0042】
なかでも、本実施形態に係るコポリマーは、下記式(2A)及び式(2B)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。下記式(2A)及び式(2B)で表される繰り返し単位を有するコポリマーは、電荷分離状態をより容易に維持しうる点で好ましい。
【0043】
【化3】
【0044】
式(2A)及び式(2B)中、A、A、R~Rは上述と同義である。
式(2A)及び式(2B)中、Q及びQは、それぞれ独立して周期表第14族元素から選ばれる原子を表す。Q及びQは、それぞれ式(1B)及び(1C)におけるQ及びQと同様のものである。
及びRは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を表し、R及びRと同義である。
【0045】
本実施形態に係るコポリマーは、式(2A)で表される繰り返し単位及び(2B)で表される繰り返し単位のうち1以上のそれぞれを、それぞれ2種以上含んでいてもよい。
本実施形態に係るコポリマーは、本発明の効果を損なわない範囲で、式(2A)又は(2B)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。本実施形態に係るコポリマーを構成する繰り返し単位に占める式(2A)で表される繰り返し単位及び式
(2B)で表される繰り返し単位の合計の割合は、特段の制限は無いが、通常2モル%以上、好ましくは10モル%以上、より好ましくは25モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、よりさらに好ましくは90%以上である。特に好ましくは、本実施形態に係るコポリマーは、式(2A)で表される繰り返し単位及び式(2B)で表される繰り返し単位を含みかつこれらの繰り返し単位のみで構成されるか、又はこれらの繰り返し単位を含みかつこれらの繰り返し単位のみで構成されるポリマー鎖を含む。
【0046】
本実施形態に係るコポリマーを構成する繰り返し単位に占める、式(2A)で表される繰り返し単位の割合は、特段の制限は無いが、通常1モル%以上、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上である。一方、通常99モル%以下、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。
本実施形態に係るコポリマーを構成する繰り返し単位に占める、式(2B)で表される繰り返し単位の割合は、特段の制限は無いが、通常1モル%以上、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上である。一方、通常99モル%以下、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。
【0047】
本実施形態に係るコポリマーにおける、式(2B)で表される繰り返し単位の数に対する式(2A)で表される繰り返し単位の数の数比(2A/2B)は、特段の制限は無いが、通常0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上である。一方、通常100以下、好ましくは10以下、より好ましくは5以下である。
本実施形態に係るコポリマーにおける、式(2A)及び式(2B)で表される繰り返し単位の配列状態は、交互、ブロック又はランダムのいずれでもよい。すなわち、本実施形態に係るコポリマーは、交互コポリマー、ブロックコポリマー又はランダムコポリマーのいずれでもよい。また、これらのコポリマーのうち中間的な構造を有するコポリマー、例えばブロック性を帯びたランダムコポリマーであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上あるコポリマー、及びデンドリマーも含まれる。なかでも、合成が容易であり、規則性がより低下しうる点で、ブロックコポリマー又はランダムコポリマーであることが好ましく、コポリマーの溶解性が向上しかつコポリマーを溶解させたインクの保存安定性が向上しうる点で、ランダムコポリマーであることがより好ましい。
【0048】
本実施形態に係るコポリマーの好ましい具体例を以下に示す。しかしながら、本発明に係るコポリマーが以下の例示に限られるわけではない。下記例示のm、nはモル分率を表し、m+n=1となる正の数である。
【0049】
【化4】
【0050】
【化5】
【0051】
【化6】
【0052】
【化7】
【0053】
【化8】
【0054】
本実施形態に係るコポリマーのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、通常2.0×10以上、好ましくは3.0×10以上、より好ましくは4.0×10以上、さらに好ましくは5.0×10以上、よりさらに好ましくは7.0×10以上、特に好ましくは1.0×10以上である。一方、好ましくは1.0×10以下、より好ましくは1.0×10以下、特に好ましくは5.0×10以下である。光吸収波長を長波長化するという観点、高い吸光度を実現するという観点、高いキャリア移動を実現で
きるという観点、及び有機溶媒への溶解度の観点から、重量平均分子量がこの範囲にあることが好ましい。
【0055】
本実施形態に係るコポリマーのポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、通常5.0×10以上、好ましくは1.0×10以上、より好ましくは2.0×10以上、さらに好ましくは2.5×10以上、特に好ましくは3.0×10以上である。一方、好ましくは1.0×10以下、より好ましくは1.0×10以下、さらに好ましくは5.0×10以下、殊更に好ましくは2.0×10以下、特に好ましくは1.0×10以下である。光吸収波長を長波長化するという観点、高い吸光度を実現するという観点、高いキャリア移動を実現できるという観点、及び有機溶媒への溶解度の観点から、数平均分子量がこの範囲にあることが好ましい。
【0056】
本実施形態に係るコポリマーの分子量分布(PDI,(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)))は、通常1.0以上、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.3以上である。一方、好ましくは20.0以下、より好ましくは15.0以下、さらに好ましくは10.0以下である。コポリマーの溶解度が塗布に適した範囲になりうるという点で、分子量分布がこの範囲にあることが好ましい。
【0057】
本実施形態に係るコポリマーのポリスチレン換算の重量平均分子量、数平均分子量、及び分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。具体的には、カラムとして、PolymerLaboratories GPC用カラム(PLgel MIXED-B 10μm 内径7.5mm,長さ30cm)を2本直列に繋げて用い、ポンプとしてLC-10AT(島津製作所社製)、オーブンとしてCTO-10A(島津製作所社製)、検出器として示差屈折率検出器(島津製作所製:RID-10A)、及びUV-vis検出器(島津製作所製:SPD-10A)を用いることにより測定できる。測定方法としては、測定対象のコポリマー(1mg)をクロロホルム(200mg)に溶解させ、得られた溶液1μLをカラムに注入する。移動相としてクロロホルムを用い、1.0mL/minの流速で測定を行う。解析にはLC-Solution(島津製作所製)を用いる。
【0058】
本実施形態に係るコポリマーは、好ましくは光吸収極大波長(λmax)が通常470nm以上、好ましくは480nm以上にあり、一方、通常1200nm以下、好ましくは1000nm以下、より好ましくは900nm以下にある。また、350nmから850nmの範囲で最も長波長側にある吸収極大波長の半値幅が通常10nm以上、好ましくは20nm以上であり、一方、通常300nm以下である。また、本実施形態に係るコポリマーを太陽電池用途に用いる場合、コポリマーの吸収波長領域は太陽光の波長領域に近いほど望ましい。
【0059】
本実施形態に係るコポリマーの溶解度は、特に限定は無いが、好ましくは25℃におけるクロロベンゼンに対する溶解度が通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、一方、通常30質量%以下、好ましくは20質量%である。溶解性が高いことは、塗布によりより厚い膜を成膜できるために好ましい。
本実施形態に係るコポリマーは、分子間で適度な相互作用が起こることが好ましい。本明細書において、分子間で相互作用するということは、分子間でのπ-πスタッキング等の相互作用によってポリマー鎖間の距離が短くなることを意味する。相互作用が強いほど、高い移動度及び/又は結晶性を示す傾向があるため、半導体材料として好適であるものと考えられる。すなわち、分子間で相互作用するコポリマーにおいては分子間での電子移動が起こりやすいため、例えば光電変換素子において活性層中に本発明に係るコポリマーを用いた場合に、活性層内のp型半導体化合物とn型半導体化合物との界面で生成した正孔(ホール)を効率よく電極(アノード)へ輸送できると考えられる。
【0060】
結晶性の測定方法としてはX線回折法(XRD)が挙げられる。本明細書において結晶性を有するとは、XRD測定により得られたX線回折スペクトルが回折ピークを有することを意味する。結晶性を有することは、分子同士が配列した積層構造を有することを意味すると考えられ、後述する活性層を厚膜化できる傾向がある点で好ましい。XRD測定は公知文献(X線結晶解析の手引き(応用物理学選書4))に記載の方法に基づいて行うことができる。
【0061】
本実施形態に係るコポリマーの正孔移動度(ホール移動度と記す場合がある)は、通常1.0×10-7cm/Vs以上、好ましくは1.0×10-6cm/Vs以上、より好ましくは1.0×10-5cm/Vs以上、特に好ましくは1.0×10-4cm/Vs以上である。一方、本実施形態に係るコポリマーの正孔移動度は通常1.0×10cm/Vs以下、好ましくは1.0×10cm/Vs以下であり、より好ましくは1.0×10cm/Vs以下であり、特に好ましくは1.0×10cm/Vs以下である。正孔移動度がこの範囲にあることにより、本実施形態に係るコポリマーは半導体材料として好適に用いられる。また、光電変換素子において高い変換効率を得るためには、n型半導体化合物の移動度と、p型半導体化合物の移動度とのバランスが重要である。本実施形態に係るコポリマーは光電変換素子においてp型半導体化合物として用いられ、コポリマーの正孔移動度とn型半導体化合物の電子移動度とを近づける観点から、コポリマーの正孔移動度がこの範囲にあることが好ましい。正孔移動度の測定方法としてはFET法が挙げられる。FET法は公知文献(特開2010-045186号公報)に記載の方法により行うことができる。
【0062】
一方で、本実施形態に係るコポリマーは溶液状態での保存安定性が高いことが好ましい。保存安定性が高いとは、溶液とした時に凝集しにくいことを意味する。より具体的には、本実施形態に係るコポリマー2mgを2mLのスクリューバイアルに入れ、1.5質量%の濃度になるようにo-キシレンに加熱溶解させてから室温まで冷却した際に、冷却を開始してから5分間以上ゲル化しないことが好ましく、1時間以上ゲル化しないことがより好ましい。
【0063】
本実施形態に係るコポリマー中の不純物は極力少ないほうが好ましい。特に、パラジウム、銅等の遷移金属触媒が残っていると、遷移金属の重原子効果による励起子トラップが生じるために電荷移動が阻害され、結果として本発明に係るコポリマーを光電変換素子に用いた際に光電変換効率を低下させるおそれがある。遷移金属触媒の濃度は、コポリマー1gあたり、通常1000ppm以下、好ましくは500pm以下、より好ましくは100ppm以下である。一方、通常0ppmより大きく、1ppm以上であってもよく、3ppm以上であってもよい。
【0064】
本実施形態に係るコポリマー中の、末端残基(例えば、後述する式(3A)~(3C)におけるX及びY)を構成する原子の残存量は、特段の制限は無いが、コポリマー1gあたり、通常6000ppm以下、好ましくは4000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、さらに好ましくは2000ppm以下、よりさらに好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは200ppm以下である。一方、通常0ppmより大きく、好ましくは1ppm以上、より好ましくは3ppm以上である。
【0065】
特に、本実施形態に係るコポリマー中のSn原子の残存量としては、コポリマー1gあたり、通常5000ppm以下、好ましくは4000ppm以下、より好ましくは2500ppm以下、さらに好ましくは1000ppm以下、よりさらに好ましくは750ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは100ppm以下である。一
方、通常0ppmより大きく、好ましくは1ppm以上、より好ましくは3ppm以上である。Sn原子の残存量が5000ppm以下であることは、熱分解しやすいアルキルスタニル基等が少ないことを意味し、安定性の点で高い性能を得ることができるために、好ましい。
【0066】
また、本実施形態に係るコポリマー中のハロゲン原子の残存量は、コポリマー1gあたり、通常5000ppm以下、好ましくは4000ppm以下、より好ましくは2500ppm以下、さらに好ましくは1000ppm以下、よりさらに好ましくは750ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは100ppm以下である。一方、通常0ppmより大きく、好ましくは1ppm以上、より好ましくは3ppm以上である。ハロゲン原子の残存量を5000ppm以下にすることは、コポリマーの光電変換特性及び耐久性等の性能が向上する傾向にあるため、好ましい。
【0067】
コポリマー中の、末端残基(例えば、後述する式(3A)~(3C)におけるX及びY)を構成する原子の残存量は、元素量を測定することにより決定できる。コポリマーの元素分析は、例えばPd及びSnについてはICP質量分析法で実施することができ、臭素イオン(Br)及びヨウ素イオン(I)についても、ICP質量分析法で実施することができる。
【0068】
ICP質量分析法は、公知文献(「プラズマイオン源質量分析」(学会出版センター))に記載されている方法により実施できる。具体的には、Pd及びSnについては、試料を湿式分解後、分解液中のPd、SnをICP質量分析装置(Agilent Technologies社製 ICP質量分析装置 7500ce型)を用いて検量線法により定量することができる。又、Br及びIについては、試料を試料燃焼装置(三菱化学アナリテック社製 試料燃焼装置 QF-02型)にて燃焼し、燃焼ガスを還元剤入りのアルカリ吸収液に吸収させた後、吸収液中のBr及びIをICP質量分析装置(Agilent Technologies社製 ICP質量分析装置 7500ce型)を用いて検量線法により定量することができる。
【0069】
<2.p型半導体化合物の製造方法>
本実施形態に係るp型半導体(コポリマー)の製造方法には特に限定はなく、例えばジオキソピロール縮合環を有する化合物と、ジチエノ縮合環を有する化合物と、を用いて公知の方法で製造することができる。好ましい方法としては、下記一般式(3A)で表される化合物と、下記一般式(3B)で表される化合物と、下記一般式(3C)で表される化合物とを、必要であれば適当な触媒の存在下で、重合する方法が挙げられる。
【0070】
【化9】
【0071】
式(3A)中、R及びAは、式(1A)で規定されたものと同義であり、式(3B)中、R及びAは、式(1B)で規定されたものと同義である。式(3C)中、R、R、及びQは式(1C)で規定されたものと同義である。
式(3A)~(3C)中、X及びYは、重合反応の種類に応じて適宜選択できる。例えば、本実施形態に係るコポリマーは、カップリング反応を用いた重合反応により製造することができる。使用可能な反応としては、Suzuki-Miyauraクロスカップリング反応方法、Stilleカップリング反応方法、Yamamotoカップリング反応方法、Grignard反応方法、ヘック反応方法、薗頭反応方法、もしくはFeCl等の酸化剤を用いる反応方法、電気化学的な酸化反応を用いる方法、又は適当な脱離基を有する中間体化合物の分解による反応方法等が挙げられる。これらの中でも、Suzuki-Miyauraカップリング反応方法、Stilleカップリング反応方法、Yamamotoカップリング反応方法、又はGrignard反応方法が、構造制御がしやすい点で好ましい。特に、Suzuki-Miyauraクロスカップリング反応方法、又はStilleカップリング反応方法、Grignard反応方法が、材料の入手しやすさ、反応操作の簡便さの点からも好ましい。これらの反応は、「クロスカップリング-基礎と産業応用-(CMC出版)」、「有機合成のための遷移金属触媒反応(辻二郎著:有機合成化学協会編)」、「有機合成のための触媒反応103(檜山為次郎:東京化学同人)」等の公知文献の記載の方法に従って行うことができる。
【0072】
X及びYの例としては、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキルスタニル基、アルキルスルホ基、アリールスルホ基、アリールアルキルスルホ基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基(-B(OH))、ホルミル基、シリル基、アルケニル基又はアルキニル基等が挙げられる。
【0073】
ハロゲン原子としては、臭素原子又はヨウ素原子が好ましい。アルケニル基としては、例えば炭素数2以上12以下のアルケニル基が挙げられる。
ホウ酸エステル残基としては、例えば、下式で示されるものが挙げられる。下式において、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0074】
【化10】
【0075】
アルキルスタニル基としては、例えば、下式で示されるものが挙げられる。下式において、Meはメチル基を表し、Buはn-ブチル基を表す。
【0076】
【化11】
【0077】
式(3A)~(3C)で表される化合物の合成上の観点及び反応のし易さの観点から、XとYとの一方がハロゲン原子であり、他方がアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、又はホウ酸残基(-B(OH))であることが好ましい。
重合反応は公知の方法に従って行うことができる。例えば、X又はYがアルキルスタニル基である場合には公知のStilleカップリング反応の条件に従って反応を行えばよい。また、X又はYがホウ酸エステル残基又はホウ酸残基である場合には公知のSuzuki-Miyauraカップリング反応の条件に従って反応を行えばよい。さらに、X又はYがシリル基である場合には公知のHiyamaカップリング反応の条件に従って反応を行えばよい。カップリング反応の触媒としては例えば、パラジウム等の遷移金属と、配位子(例えばトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子)との組み合わせを用いることができる。
【0078】
以下では、Stilleカップリング反応方法を用いて本実施形態に係るコポリマーを製造する方法について述べる。Stilleカップリング反応方法を用いる場合、式(3A)~(3C)において、Xがハロゲン原子でありかつYがアルキルスタニル基であるか、Xがアルキルスタニル基でありかつYがハロゲン原子であることが好ましい。
重合反応において用いられる、式(3A)と式(3B)で表される化合物の量に対する、式(3C)で表される化合物の量との合計の比((3A+3B)/3C)は、モル比換算にして、通常0.90以上、好ましくは0.95以上であり、一方、通常1.3以下、好ましくは1.2以下である。比率がこのような範囲内にあることは、より高い収率で高分子量体を取得しうる点で好ましい。
【0079】
重合反応において用いられる、式(3A)で表される化合物の量に対する、式(3B)で表される化合物の量の比(3A/3B)は、特段の制限は無く目的に応じて適宜設定しうるが、モル比換算にして、通常0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上である。一方、通常100以下、好ましくは10以下、より好ましくは2以下である。
【0080】
本実施形態に係るコポリマーが高純度であることが望ましい場合には、重合前のモノマー(式(3A)~(3C)で表される化合物)を精製した後に、重合反応を行うことが好ましい。精製方法としては、例えば、蒸留、昇華精製、カラムクロマトグラフィー又は再結晶等が挙げられる。
例えば本発明に係るコポリマーを有機光電変換素子用の材料として用いる場合、その純度が高いことにより素子特性が向上しうるため、コポリマーが高純度であることが望ましい。本発明に係るコポリマーを有機光電変換素子用の材料として用いる場合、式(3A)~(3C)で表される化合物のそれぞれの純度は通常90%以上、好ましくは95%以上である。
【0081】
重合反応において重合促進のために用いる触媒としては、遷移金属触媒等が挙げられる。遷移金属触媒は、重合の種類に応じて選択すればよい。遷移金属触媒としては、均一系遷移金属触媒と不均一系遷移金属触媒とが挙げられる。
均一系遷移金属触媒としては、重合反応に用いる溶媒に十分に溶解するものが好ましい。好ましい例としては、特に、パラジウム、ニッケル、鉄、又は銅を含む、後周期遷移金属錯体触媒が挙げられる。具体的な例としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh)又はトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))等の0価のパラジウム触媒;ビス(トリフェニルホスフィン)塩化パラジウム(PdCl((PPh)))又は酢酸パラジウム等の2価のパラジウム触媒等のパラジウム(Pd)触媒;Ni(dppp)Cl又はNi(dppe)Cl等のニッケル触媒;塩化鉄等の鉄触媒;ヨウ化銅等の銅触媒等が挙げられる。ここで、dbaはジベンジリデンアセトンを表し、dpppは1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンを表し、dppeは1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンを表す。
【0082】
0価のPd触媒として具体的には、Pd(PPh、Pd(P(o-tolyl)、Pd(PCy、Pd(dba)、又はPdCl(PPh等が挙げられる。PdCl(PPh又は酢酸パラジウム等の2価のPd触媒を用いる場合には、PPhやP(o-tolyl)等の有機配位子と併せて使用することが好ましい。ここで、Phはフェニル基を表し、Cyはシクロヘキシル基を表し、o-tolylは2-トリル基を表す。
【0083】
不均一系遷移金属触媒としては、上述のような均一系遷移金属触媒を、担体に担持させることによって得られる触媒が挙げられる。不均一系遷移金属触媒が含む遷移金属の好ましい例としては、パラジウム、ニッケル、鉄、又は銅を含む、後周期遷移金属が挙げられる。不均一系遷移金属錯体触媒が有する有機配位子としては、均一系遷移金属錯体触媒について挙げたものと同様のものを用いることができる。また、公知文献(Strem社,”Heterogeneous Catalysts”(2011年))記載の有機配位子を用いることもできる。担体の例としては、金属、ナノコロイド、ナノ粒子、磁性化合物、金属酸化物、多孔質物質、粘土、例えば尿素樹脂のようなポリマー、及びデンドリマー等が挙げられる。多孔質物質の具体的な例としては、ミクロ孔物質、メソ孔物質、活性炭、シリカゲル、アルミナ、及びゼオライト等が挙げられる。特に、ポリマーに担持された不均一系遷移金属錯体触媒を用いることは、不均一系遷移金属錯体触媒の回収が容易であるために好ましい。また、ポリマーが多孔性であることは、反応を促進する点でより好ましい。
【0084】
重合反応においては、2種以上の遷移金属錯体触媒を用いることが、高分子量のコポリマーが得られうる点で好ましい。例えば、2種以上の均一系遷移金属錯体を用いてもよいし、2種以上の不均一系遷移金属錯体を用いてもよいし、均一系遷移金属錯体と不均一系遷移金属錯体とを組み合わせて用いてもよい。この2種以上の遷移金属錯体触媒のうち、
少なくとも1種は不均一系金属錯体触媒であることが、カップリング反応条件下でモノマーをすばやくオリゴマーに変換することができる点で好ましい。また、オリゴマーになると不均一系金属触媒による重合反応速度が落ちる傾向にあるため、オリゴマーからポリマーへの誘導を均一系金属触媒で行う方が、高分子量体を得るために好ましい。この観点から、2種以上の遷移金属錯体触媒のうち、少なくとも1種が不均一系金属錯体触媒であり、かつ少なくとも1種が均一系金属錯体触媒であることがより好ましい。
【0085】
式(3A)~(3C)で表される化合物の量の合計に対する遷移金属錯体の添加率は、通常1×10-4mol%以上、好ましくは1×10-3mol%以上、より好ましくは1×10-2mol%以上であり、一方、通常1×10mol%以下、より好ましくは5mol%以下である。触媒の添加率がこの範囲にあることは、より低コストかつ高い収率で、より高分子量のコポリマーが得られる傾向にある点で好ましい。
遷移金属触媒を使用する場合に、アルカリ、補触媒又は相間移動触媒を併用してもよい。
【0086】
アルカリとしては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム等の無機塩基;トリエチルアミン等の有機塩基;等が挙げられる。
補触媒としては、例えば、フッ化セシウム、酸化銅又はハロゲン化銅等の無機塩が挙げられる。補触媒の添加率は、式(3A)~(3C)で表される化合物の量の合計に対して、通常1×10-4mol%以上、好ましくは1×10-3mol%以上、より好ましくは1×10-2mol%以上であり、一方、通常1×10mol%以下、好ましくは1×10mol%以下、より好ましくは1.5×10mol%以下である。補触媒の添加率がこの範囲にあることは、より低コストかつ高い収率でコポリマーが得られる傾向にある点で好ましい。
【0087】
相間移動触媒としては、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド又はAliquat336(アルドリッチ社製)のような四級アンモニウム塩等が挙げられる。相間移動触媒の添加率は、式(3A)~(3C)で表される化合物の量の合計に対して、通常1×10-4mol%以上、好ましくは1×10-3mol%以上、より好ましくは1×10-2mol%以上であり、一方、通常5mol%以下、より好ましくは3mol%以下である。相間移動触媒の添加率がこの範囲にあることは、より低コストかつ高い収率でコポリマーが得られる傾向にある点で好ましい。
【0088】
重合反応に用いられる溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン又はシクロヘキサン等の飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン又はキシレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン又はトリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール又はt-ブチルアルコール等のアルコール類;水;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン又はジオキサン等のエーテル類;DMF等の非プロトン性極性有機溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、一種を単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0089】
溶媒の添加率は、式(3A)~(3C)で表される化合物の合計1gに対して、通常、1×10-2mL以上、好ましくは1×10-1mL以上、より好ましくは1mL以上であり、一方、通常1×10mL以下、好ましくは1×10mL以下、より好ましくは2×10mL以下である。溶媒の添加率がこの範囲にあることは、反応の制御がより容易となる点で好ましい。
【0090】
重合反応の反応温度は、通常0℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。一方、通常300℃以下、好ましくは250
℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下、特に好ましくは160℃以下である。加熱方法としては特段の制限は無いが、オイルバス加熱、熱電対加熱、赤外線加熱、マイクロウェーブ加熱の他、IHヒーターを用いた接触による加熱等が挙げられる。重合反応の時間は、通常1分間以上、好ましくは10分間以上、一方、通常160時間以下、好ましくは120時間以下、より好ましくは100時間以下である。また重合反応は窒素(N)又はアルゴン(Ar)雰囲気下で行うことが好ましい。これらの反応条件で反応を行うことにより、より短時間かつ高い収率でコポリマーが得られうる。
【0091】
重合反応により得られたコポリマーに対しては、さらに末端処理を行うことが好ましい。コポリマーの末端処理を行うことにより、コポリマーの末端残基(上述のX及びY)の残存量を減らすことができる。例えば、Stilleカップリング反応によってコポリマーを重合した場合には、コポリマーの末端に存在する臭素(Br)やヨウ素(I)等のハロゲン原子及びアルキルスタニル基を、末端処理によって減らすことができる。この末端処理を行うことは、効率及び耐久性の点でよりよい性能のコポリマーを得ることができるために、好ましい。
【0092】
重合反応後に行うコポリマーの末端処理方法としては、特段の制限は無いが、例えば末端残基を芳香族基のような他の置換基で置換する方法が挙げられる。
例えば、Stilleカップリング反応によってコポリマーを重合した場合の末端処理方法としては、以下の方法が挙げられる。コポリマーのハロゲン原子の末端処理方法としては、重合反応後の精製前の反応系中に、末端処理剤としてアリールトリアルキルスズを加えた後、加熱攪拌を行うことにより行うことができる。アリールトリアルキルスズの例としてはフェニルトリメチルスズ又はチエニルトリメチルスズ等が挙げられる。コポリマーの末端のハロゲン原子を芳香族基に置換することは、共役安定効果により、コポリマーがより安定になるために、好ましい。
【0093】
末端処理剤の添加量としては、特段の制限は無いが、重合反応に用いたハロゲン原子を末端に有するモノマー(3Aおよび3B、又は3C)の量に対して、通常1.0×10-2モル当量以上、好ましくは0.1モル当量以上、より好ましくは1モル当量以上であり、一方、通常50モル当量以下、好ましくは20モル当量以下、より好ましくは10モル当量以下である。ハロゲン原子の末端処理の反応温度は、通常0℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。一方、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下、特に好ましくは160℃以下である。加熱方法としては、特段の制限は無いが、オイルバス加熱、熱電対加熱、赤外線加熱、又はマイクロウェーブ加熱の他、IHヒーターを用いた接触による加熱等が挙げられる。コポリマーのハロゲン原子の末端処理の反応時間は、特段の制限は無いが、通常30分以上、好ましくは1時間以上であり、一方、通常50時間以下、好ましくは20時間以下である。これらの反応条件で反応を行うことにより、より短時間かつ高い変換率で末端処理を行うことができる。
【0094】
また、コポリマーのアルキルスタニル基の末端処理方法としては、重合反応後の精製前の反応系中に、末端処理剤としてアリールハライドを加えたのち、加熱攪拌を行うことにより行うことができる。アリールハライドの例としてはヨードチオフェン、ヨードベンゼン、ブロモチオフェン又はブロモベンゼン等が挙げられる。コポリマーの末端のアルキルスタニル基を別の置換基へと置換することにより、熱分解しやすいアルキルスタニル基中のSn原子がコポリマー中に存在しなくなり、コポリマーの経時劣化が抑えられうる。また、コポリマーの末端のアルキルスタニル基をアリール基に置換することは、共役安定効果によりコポリマーがより安定になりうる点においても好ましい。
【0095】
末端処理剤の添加量としては、特段の制限は無いが、重合に用いたアルキルスタニル基を末端に有するモノマー(3A及び3B、又は3C)の量に対して、通常1.0×10-2モル当量以上、好ましくは0.1モル当量以上、より好ましくは1モル当量以上であり、一方、通常50モル当量以下、好ましくは20モル当量以下、より好ましくは10モル当量以下である。アルキルスタニル基の末端処理の反応温度及び反応条件としては、コポリマーのハロゲン原子の末端処理と同様のものを用いることができる。これらの反応条件で反応を行うことにより、より短時間かつ高い変換率で末端処理を行うことができる。
【0096】
また、Suzuki-Miyauraクロスカップリング反応によりコポリマーを重合した場合の末端処理の方法としては、以下の方法が挙げられる。コポリマーのハロゲン原子の末端処理方法としては、アリールボロン酸を加えたのち、加熱攪拌を行う方法が挙げられる。コポリマーのホウ素原子含有基の末端処理方法としては、末端処理剤としてアリールハライドを加えたのち、加熱攪拌を行う方法が挙げられる。
【0097】
末端残基Xの末端処理方法及び末端残基Yの末端処理方法に特段の制限はないが、それぞれ独立に行うことが好ましい。なお、それぞれの末端処理の順序に特段の制限は無く、適宜選択できる。
また、末端処理は、コポリマーの精製前に行ってもよいが、コポリマーの精製後に行ってもよい。末端処理をコポリマー精製後に行う場合には、コポリマーと片方の末端処理剤(例えばアリールハライド又はアリールトリアルキルスズ)とを有機溶剤に溶解した後、パラジウム触媒等の遷移金属触媒を加えて反応を行い、さらにもう片方の末端処理剤(アリールトリアルキルスズ又はアリールハライド)を加えて反応を行えばよい。反応を促進する観点から、末端処理をコポリマー精製前に行う場合と同様に、末端処理時には加熱攪拌を行うことか好ましい。また、収率を向上させる観点から、反応を窒素条件下で行うことも好ましい。反応時間は、特段の制限は無いが、通常30分以上、好ましくは1時間以上であり、一方、通常25時間以下、好ましくは10時間以下である。
【0098】
遷移金属触媒の添加量としては、特段の制限は無いが、式(3A)~(3C)で表される化合物の量の合計に対して、通常5.0×10-3モル当量以上、好ましくは1.0×10-2モル当量以上であり、一方、通常1.0×10-1モル当量以下、好ましくは5.0×10-2モル当量以下である。触媒の添加量がこの範囲にあることにより、より低コストかつ高い変換率で末端処理を行うことができる。
【0099】
コポリマー精製後の末端処理時における、アルキルスタニル基の末端処理剤の添加量としては、特段の制限は無いが、重合に用いたアルキルスタニル基を末端に有するモノマー(3B及び3C、又は3A)の量に対して、通常1.0×10-2モル当量以上、好ましくは1.0×10-1モル当量以上、より好ましくは1モル当量以上であり、一方、通常50モル当量以下、好ましくは20モル当量以下、より好ましくは10モル当量以下である。末端処理剤の添加量がこの範囲にあることにより、より低コストかつ高い変換率で末端処理を行うことができる。
【0100】
コポリマー生成後の末端処理時における、ハロゲン原子の末端処理剤の添加量としては、特段の制限は無いが、重合に用いたハロゲン原子を末端に有するモノマー(3Aおよび3B、又は3C)の量に対して、通常1.0×10-2モル当量以上、好ましくは1.0×10-1モル当量以上、より好ましくは1モル当量以上であり、一方、通常50モル当量以下、好ましくは20モル当量以下、より好ましくは10モル当量以下である。末端処理剤の添加量がこの範囲にあることにより、より低コストかつ高い変換率で末端処理を行うことができる。
【0101】
重合反応後に行う工程として特に限定はないが、通常はコポリマーを分離する工程が行
われる。コポリマーの末端処理を行う場合には、末端処理後にコポリマーを分離する工程を行うことが好ましい。必要に応じて、コポリマーの末端処理前に、さらにコポリマーの分離及び精製を行なってもよい。より短い処理工程でコポリマーを得る観点からは、重合反応後に、コポリマーの末端処理、コポリマーの分離及びコポリマーの精製をこの順に行うことが好ましい。
【0102】
コポリマーの分離方法としては、例えば、反応溶液と貧溶媒とを混合してコポリマーを析出させる方法、又は、水若しくは塩酸で反応溶液中の活性種をクエンチした後にコポリマーを有機溶媒で抽出し、この有機溶媒を留去する方法等が挙げられる。
コポリマーの精製方法としては、再沈精製、ソックスレー抽出器を用いた抽出、ゲル浸透クロマトグラフィー、又はスキャベンジャーを用いた金属除去等の、公知の方法が挙げられる。
【0103】
[2-1.式(3A)~(3C)で表される化合物の製造方法]
重合反応の原料として用いられる式(3A)および(3B)で表される化合物は、J.Am.Chem.Soc.,2010,132(22),7595-7597に記載の方法に準じて製造することができる。また、式(3C)で表される化合物は、J.Mater.Chem.,2011,21,3895、及びJ.Am.Chem.Soc.2008,130,16144-16145に記載の方法に準じて製造することができる。
【0104】
式(3C)で表される化合物の特に好ましい製造方法としては、下式(4C)で表される化合物を原料として用いる方法が挙げられる。より具体的には、式(4C)で表される化合物に非求核性塩基を反応させた後に、求電子剤を反応させることにより、式(3C)で表される化合物を得ることができる。この方法によれば、式(3C)で表される化合物を製造する際に生じる、例えば置換基Yを1つしか有さない副生物の量を減らすことができる。副生物の量が少ないことは、重合反応により得られる本実施形態に係るコポリマーがより大きい分子量のものとなりうる点で好ましい。
【0105】
【化12】
【0106】
式(4C)において、Q及びR~Rは、式(3C)で規定されたものと同様である。
非求核性塩基の例としては、金属水素化物、嵩高い置換基を有する金属アルコキシド、アミン類、ホスファゼン塩基、嵩高い置換基を有する金属マグネシウム試薬(Grignard試薬)、又は金属アミド等が挙げられる。非求核性の塩基を用いることは、式(4C)で表される化合物が有する縮合環への求核攻撃を効果的に抑制することでき、副生物の生成を抑えることができる点で好ましい。塩基性の高さ及び求核性の低さの点から、非求核性塩基として好ましくは金属アミドであり、特に好ましくは嵩高い置換基を有する金属アミドである。
【0107】
非求核性塩基を用いて一般式(4C)で表される化合物を脱プロトン化した後、発生したアニオン種と求電子剤とを反応させることで、一般式(3C)で表される化合物を得ることができる。
置換基Yが、アルキルスタニル基である場合には、求電子剤としては、特段の限定は無いが、例えばハロゲン化トリアルキルスズ化合物が挙げられる。置換基Yが、ホウ酸残基又はホウ酸エステル残基である場合には、求電子剤としては、特段の限定は無いが、ホウ酸トリエステルが好ましく用いられる。ホウ酸トリエステルとの反応によって得られたホウ酸エステル残基を有する化合物をそのまま単離することもできるし、ホウ酸エステル残基を加水分解してホウ酸残基に導いた後に化合物を単離してもよい。
【0108】
式(3C)で表される化合物の、反応後の精製方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。特に好ましい方法としては、ゼオライトを用いる方法が挙げられる。より具体的には、得られた化合物をゼオライトと接触させればよい。この方法は、(3C)で表される化合物の分解を防ぎながら、より簡便に化合物を精製できるために好ましい。ゼオライトとしては、アルミノケイ酸塩、メタロケイ酸塩若しくはシリカライト等のアルミノケイ酸塩系ゼオライト;又は、アルミノリン酸塩、ガロリン酸塩若しくはベリロリン酸塩等のリン酸塩系ゼオライトが好ましい。
【0109】
式(3C)で表される得られた化合物をゼオライトと接触させる方法としては、(1)ゼオライトを含む層を用意し、化合物を通過させる方法、又は(2)組成物中にゼオライトを投入し、その後ゼオライトを除去する方法、等が挙げられる。
式(4C)で表される化合物に対して加える非求核性塩基の量に特段の制限はなく、通常は式(4C)で表される化合物に対して2モル当量以上の非求核性塩基が用いられる。一方で、使用する試薬の量を減らすために、非求核性塩基の量は通常20モル当量以下、好ましくは10モル当量以下、さらに好ましくは5モル当量以下である。式(4C)で表される化合物に対して加える求電子試薬の量に特段の制限はなく、通常は式(4C)で表される化合物に対して2モル当量以上の求電子試薬が用いられる。一方で、使用する試薬の量を減らすために、求電子試薬の量は通常モル20当量以下、好ましくは10モル当量以下、さらに好ましくは5モル当量以下である。
【0110】
式(4C)で表される化合物は、公知の方法を用いて製造することができるが、以下に示す方法を用いて製造することが特に好ましい。すなわち、式(4C)で表される化合物にシリル基が付加した化合物から、シリル基を脱離させることにより、式(4C)で表される化合物を得ることができる。この方法は、より高収率で式(4C)で表される化合物を得ることができる点で好ましい。
【0111】
例えば、式(4C)で表される化合物は、下式(5C)で表される化合物の、酸を用いた脱シリル化反応により製造することができる。
【0112】
【化13】
【0113】
式(5C)において、Q及びR~Rは、式(3C)で規定されたものと同様である。(5C)において、R~Rは置換基を有していてもよいシリル基を表す。2つの置換基Rは互いに異なっていてもよい。置換基を有していてもよいシリル基としては、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基、又はトリアリールシリル基等が挙げられる。脱シリル化反応において用いる酸としては特に限
定はなく、無機酸又は有機酸を用いることができる。無機酸の種類に特に限定は無く、塩酸、硫酸、硝酸、又はリン酸等を用いることができる。有機酸の種類に特に限定は無く、酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、クエン酸、安息香酸、クロロ安息香酸、又はp-トルエンスルホン酸等を用いることができる。
【0114】
式(5C)で表される化合物は、Qがケイ素原子又はゲルマニウム原子である場合、例えば、ビチオフェン化合物を塩基で処理し、シリルハライド又はゲルミルハライドと反応させることによって得ることができる。より具体的な例としては、5,5’-ビス(トリメチルシリル)-3,3’-ジブロモ-2,2’-ビチオフェンをn-ブチルリチウムで処理し、RSiCl、RSiBr、RGeCl、又はRGeBrを反応させることにより、式(5C)で表される化合物が得られうる。また、式(3C)又は(4C)で表される化合物も、RSiCl、RSiBr、RGeCl、又はRGeBrを用いて合成しうる。この場合、RSiCl、RSiBr、RGeCl、又はRGeBrは、減圧蒸留で精製することが好ましい。容易に達成可能な減圧度かつより低い温度で減圧蒸留を行うためには、R及びRの炭素数は、15以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。
【0115】
<3.有機半導体インク>
本実施形態に係るコポリマーは、溶媒に対する溶解性、及び長波長領域における光吸収性を持ち、有機半導体インクとして好適である。
本発明の一実施形態に係る有機半導体インクは、少なくとも上記のコポリマーを含む。本実施形態に係る有機半導体インクは、上記のコポリマーのうち一種を含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせで含有していてもよい。また、本実施形態に係る有機半導体インクは、上記のコポリマーのみからなるものであってもよいが、本発明の効果が得られる範囲で後述するその他の成分を含有していてもよい。
【0116】
本実施形態に係る有機半導体インクは、後述する有機電子デバイスの有機半導体層又は有機活性層の材料として好適である。この場合、有機半導体インクを成膜して用いることが好ましい。この際に、上記のコポリマーの有機溶剤への可溶性及びその加工性に優れている等の物性が好ましく活用される。本実施形態に係る有機半導体を有機電子デバイスにおいて用いる方法については後述する。
【0117】
本実施形態に係る有機半導体インク中の上記のp型半導体化合物(コポリマー)の含有量は、特段制限されないが、非劇物であり非ハロゲンの溶媒に溶解させる観点、及び良好な光電特性を実現できる観点から、通常0.05重量%以上であり、0.1重量%以上であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることがさらに好ましく、1.0重量%以上であることが特に好ましく、また、通常8重量%以下であり、5重量%以下であることが好ましく、4重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることがさらに好ましく、2重量%以下であることが特に好ましい。
【0118】
本実施形態に係る有機半導体インクは、p型半導体化合物として、上記のコポリマー以外の化合物を含んでいてもよく、例としては、
PTB7(Poly [[4,8-bis[(2-ethylhexyl)oxy]benzo[1,2-b:4,5-b']dithiophene-2,6-diyl][3-fluoro-2-[(2-ethylhexyl)carbonyl]thieno[3,4-b]thiophenediyl ]])、
PTHB7-Th(Poly[4,8-bis(5-(2-ethylhexyl)thiophen-2-yl)benzo[1,2-b;4,5-b']dithiophene-2,6-diyl-alt-(4-(2-ethylhexyl)-3-fluorothieno[3,4-b]thiophene-)-2-carboxylate-2-6-diyl)])、
P3HT(ポリ3ヘキシルチオフェン)、
PM6(Poly[(2,6-(4,8-bis(5-(2-ethylhexyl-3-fluoro)thiophen-2-yl)-benzo[1,2-b:4,5-b’]dithiophene))-alt-(5,5-(1’,3’-di-2-thienyl-5’,7’-bis(2-ethylhexyl)benzo[1’,2’-c:4’,5’-c’]dithiophene-4,8-dione)])、
PTq10(Poly[[6,7-difluoro[(2-hexyldecyl)oxy]-5,8-quinoxalinediyl]-2,5-thiophenediyl])、又は
PCDTBT(Poly[N-9'-heptadecanyl-2,7-carbazole-alt-5,5-(4',7'-di-2-thienyl-2',1',3'-benzothiadiazole)])等が挙げられる。
【0119】
本実施形態に係る有機半導体インクは半導体特性を示し、例えば、その硬化物(本明細書では、乾燥により膜等の形状になったものも硬化物と呼ぶ)の電界効果移動度測定において、正孔移動度(ホール移動度と記す場合がある)が通常1.0×10-7cm/Vs以上、好ましくは1.0×10-6cm/Vs以上、より好ましくは1.0×10-5cm/Vs以上、特に好ましくは1.0×10-4cm/Vs以上であり、一方、正孔移動度が通常1.0×10cm/Vs以下、好ましくは1.0×10cm/Vs以下、より好ましくは1.0×10cm/Vs以下、特に好ましくは1.0×10cm/Vs以下である。正孔移動度の測定方法としてはFET法が挙げられる。FET法は、公知文献(特開2010-045186号公報)に記載の方法により実施することができる。
本インクの粘度等は特に限定されず、使用する塗布方法に合わせて適宜選択すればよい。
【0120】
[n型半導体]
本実施形態に係る有機半導体インクは、電子親和力が3.5eV以上の高いn型半導体化合物を含む。n型半導体化合物の種類は特段制限されず、例えば
ペリレン-ビスイミド、[6,6]-フェニル-C61-酪酸メチルエステル([60]PCBM)もしくはC70等のより大きいフラーレンを有するPCBM、
[6,6]-フェニル-C61-酪酸n-ブチルエステル([60]PCBNB)もしくはC70等のより大きいフラーレンを有するPCBNB等のフラーレン誘導体等、
ペリレンジイミド、
P(NDI2OD-2T):Poly{[N,N′-bis(2-octyldodecyl)-naphthalene-1,4,5,8-bis(dicarboximide)-2,6-diyl]-alt-5,5′-(2,2′-bithiophene)}、
ITIC:3,9-bis(2-methylene-(3-(1,1-dicyanomethylene)-indanone))-5,5,11,11-tetrakis(4-hexylphenyl)-dithieno[2,3-d:2’,3’-d’]-s-indaceno[1,2-b:5,6-b’]dithiophene、又は
Y6: 2,2'-((2Z,2'Z)-((12,13-bis(2-ethylhexyl)-3,9-diundecyl-12,13-dihydro-[1,2,5]thiadiazolo[3,4-e]thieno[2",3’':4’,5']thieno[2',3':4,5]pyrrolo[3,2-g]thieno[2',3':4,5]thieno[3,2-b]indole-2,10-diyl)bis(methanylylidene))bis(5,6-difluoro-3-oxo-2,3-dihydro-1H-indene-2,1-diylidene))dimalononitrile等が挙げられる。
これらの中でも、非劇物であり非ハロゲンの溶媒に溶解させる観点、及び良好な光電特性を実現できる観点から、PCBM、ITIC,P(NDI20D-2T)であることが好ましく、特にPCBMが好ましい。n型半導体化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の種類及び割合で併用してもよい。
n型半導体化合物は、p型半導体からの励起電子を受け取るため、3.5eV以上の電
子親和力を有し、さらに、励起電子の受領のために十分亜ドライビングフォースを持たせる観点から、電子親和力は3.6eV以上であることが好ましく、3.7eV以上であることがより好ましく、3.8eV以上であることがさらに好ましく4.0eV以上であることが特に好ましく、また、p型半導体から光励起によらない自発的な電子の受領を防ぎ
、有機太陽電池として用いた際の開放電圧を上げる観点から、5.0eV以下であることが好ましく、4.5eV以下であることがより好ましく、4.3eV以下であることがさらに好ましく、4.2eV以下であることが特に好ましい。
【0121】
本実施形態に係る有機半導体インク中の上記のn型半導体化合物の含有量は、特段制限されないが、非劇物であり非ハロゲンの溶媒に溶解させる観点、及び良好な光電特性を実現できる観点から、通常0.2重量%以上であり、0.5重量%以上であることが好ましく、1.0重量%以上であることがより好ましく、1.5重量%以上であることがさらに好ましく、3.0重量%以上であることが特に好ましく、また、通常50重量%以下であり、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることがさらに好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。
本実施形態に係る有機半導体インクにおいて、p型半導体化合物の含有量に対するn型半導体化合物の含有量の比率(n型半導体化合物/p型半導体化合物)は、特段制限されないが、良好な光電特性を実現できる観点から、重量比率で、通常0.5以上であり、0.8以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましく、また、通常10以下であり、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。
【0122】
なお、電子親和力の測定に関しては、公知のサイクリックボルタンメトリーと光学バンドギャップから間接的に決める方法でも、逆電子分光法で直接決める方法のどちらの方法を用いてもほぼ同等の値が出るが、本件発明ではサイクリックボルタンメトリーと光学バンドギャップから求める方法を用いる。また、簡易には真空準位に対するLUMOエネルギー準位を代用することもできる。
【0123】
[溶媒]
本実施形態に係る有機半導体インクは溶媒を含む。本実施形態で用いられる溶媒は、ベンゼン環にハロゲン基が直接結合していないアニソール誘導体を含み、作業者の安全性確保や環境負荷の観点から優れる。ベンゼン環にハロゲン基が直接結合していないアニソール誘導体の種類は特段制限されないが、作業者の安全性確保や環境負荷の観点から、ハロゲン基を有さないアニソール誘導体であることが好ましく、具体的には2-メチルアニソール、3-メチルアニソール、4-メチルアニソール、2-エチルアニソール、3-エチルアニソール、4-エチルアニソール、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、2,5-ジメチルアニソール、2,6-ジメチルアニソール、3,4-ジメチルアニソール、3.5-ジメチルアニソールが好ましく、特に好ましくは、2-メチルアニソールである。アニソール誘導体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の種類及び割合で併用してもよい。
【0124】
本実施形態に係る有機半導体インクは、溶媒としてベンゼン環にハロゲン基が直接結合していないアニソール誘導体以外の溶媒を含んでいてよく、例えば、1,4-ジオキサン、アセトン、エチルベンゼン等が挙げられる。作業者の安全性確保や環境負荷の観点から、上記のアニソール誘導体はハロゲン基を有さないことが好ましく、溶媒として含まれる化合物がハロゲン基を有さないことがより好ましく、本実施形態に係る有機半導体インクハロゲン基を有する化合物を含有しないことがさらに好ましい。
【0125】
上記のアニソール誘導体の沸点は、良好な塗布性、乾燥性、光電変換特性を両立させる観点から、150℃以上であるが、155℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることがさらに好ましく、また、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい
【0126】
溶媒は、作業者の安全性確保や環境負荷の観点から、ハロゲン元素を含む化合物を実質的に含まない(検出限界以下である)ことが好ましい。
【0127】
本実施形態に係る有機半導体インク中の溶媒の含有量は、特段制限されないが、扱いやすさ向上の観点から、通常10重量%以上であり、40重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましく、90重量%以上であることが特に好ましく、また、通常99.9重量%以下であり、99.5重量%以下であることが好ましく、97重量%以下であることがより好ましく、96重量%以下であることがさらに好ましく、95重量%以下であることが特に好ましい。
【0128】
本実施形態に係る有機半導体溶媒中のベンゼン環にハロゲン基が直接結合していないアニソール誘導体の含有量は、特段制限されないが、扱いやすさの観点から、通常10重量%以上であり、40重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、60重量%以上であることがさらに好ましく、70重量%以上であることが特に好ましく、また、通常99重量%以下であり、96重量%以下であることが好ましく、94重量%以下であることがより好ましく、92重量%以下であることがさらに好ましく、90重量%以下であることが特に好ましい。
溶媒中の不純物としてのハロゲンの濃度は、作業者の安全性確保や環境負荷の観点から、1重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることが好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましく、また、実質的に0重量%である(検出限界以下である)ことが特に好ましい。
【0129】
本実施形態に係る有機半導体インクにおいて、p型半導体化合物の含有量に対するベンゼン環にハロゲン基が直接結合していないアニソール誘導体の含有量の比率(ベンゼン環にハロゲン基が直接結合していないアニソール誘導体/p型半導体化合物)は、特段制限されないが、扱いやすさ向上の観点、及び良好な光電特性を実現できる観点から、重量比率で、通常1以上であり、10以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、50以上であることがさらに好ましく、また、通常1000以下であり、500以下であることが好ましく、200以下であることがより好ましく、100以下であることがさらに好ましい。
【0130】
[その他の成分]
本実施形態に係る有機半導体インクは、本発明の効果が得られる範囲で上記のp型半導体、n型半導体、及び溶媒以外の成分(「その他の成分」、「添加剤」とも称する。)をさらに含んでいてよく、例えば、上記のコポリマーに係る高分子もしくはモノマー以外の高分子もしくはモノマー、増粘剤、モルフォロジー調整剤、酸化剤、還元剤、熱硬化剤、又は光硬化剤等が挙げられる。その他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の種類及び割合で併用してもよい。
モルフォロジー調整剤としては、主溶媒よりも沸点が高いこと、塗布乾燥中に液体かそれに近い流動性を持つであること、p型よりもn型半導体に対して高い溶解性を持つことなどを勘案し、芳香族系(テトラリン、ジフェニルエーテルなど)、非芳香族系(1,8-ジヨードオクタン、2メチルテトラヒドロフランなど)、又は固体系(ポリスチレン、ポリ
ジメチルシロキサンなどのポリマー)等から選択すればよく、また、インクの塗布乾燥時にp型半導体とn型半導体が適切な相分離構造を形成する観点から、例えば、芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルを含むことが好ましい。芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルの種類は、特段制限されず、例えば、テトラリン、1,8-ジヨードオクタン、ジトリルエーテル、ジフェニルエーテル、ポリスチレン等が挙げられるが、n型半導体の溶解性の観点から、テトラリン又は1,8-ジヨードオクタンあることが好ましい。
上記の芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルの融点は、特段制限されないが、塗布乾燥時に液体としてモルフォロジー調整機能を発現させる観点から、通常-100℃以上であり、-50℃以上であることがより好ましく、-20℃以上であることがさらに好ま
しく、また、通常100℃以下であり、75℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、25℃以下であることがさらに好ましい。
上記の芳香族炭化水素またはハロゲン化アルキルの沸点は、特段制限されないが、塗布乾燥時に溶媒よりも遅く蒸発しモルフォロジー調整機能を発現させる観点から、溶媒の沸点よりも高いことが好ましく、具体的には、通常50℃以上であり、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましく、また、通常400℃以下であり、350℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、280℃以下であることがさらに好ましい。
【0131】
<4.本発明のインクを用いて得られる有機半導体材料を含む電子デバイス>
次に、本発明の別の実施形態に係る有機電子デバイスについて説明する。本実施形態に係る有機電子デバイスは、上記の有機半導体インクを用いて作製される。すなわち本実施形態に係る有機電子デバイスは、上記の有機半導体インク、又はその硬化物を含む(又は、備える)。上記の有機半導体インクを適用可能なものであれば、本実施形態に係る有機電子デバイスの種類に特に制限はない。例としては、発光素子、スイッチング素子、光電変換素子、光電導性を利用した光センサー等が挙げられ、光電変換素子の一例として有機フォトダイオードで好ましく用いることができる。
【0132】
有機半導体インクの硬化物の形態は特段制限されないが、後述する光電変換素子における活性層として利用し得る観点から、シート形状や膜形状であることが好ましく、また目的吸収波長での光の吸光度を十分に得ると共に、光電変換で生じた電荷を失活させずに電極に輸送させる観点から、この場合の厚さは、例えば、10nm以上、2000nm以下であってよく、好ましくは50nm以上、1000nm以下であり、より好ましくは100nm以上、600nm以下である。
【0133】
有機半導体インクの硬化物を得る方法は特段制限されず、例えば、硬化剤を用いずに自然乾燥や加熱により溶媒を除去して硬化する方法、硬化剤を用いずに含有成分を反応させて硬化する方法、又は有機半導体インクに熱硬化剤もしくは光硬化剤を含有させて加熱もしくは光照射によって硬化する方法等が挙げられる。
硬化剤を用いずに加熱により溶媒を除去して硬化する場合、加熱条件は、含有成分、特に溶媒の態様に応じて適宜設定できるが、加熱温度は、例えば、40℃以上、300℃以下としてよく、また、100℃以上、200℃以下としてもよく、また、加熱時間は、例えば、1分以上、72以下としてよく、また、5分以上、10時間以下としてもよい。
熱硬化剤を用いる場合の加熱条件は特段制限されず、加熱温度は、例えば、40℃以上、300℃以下としてよく、また、100℃以上、200℃以下としてもよく、また、加熱時間は、例えば、1分以上、72時間以下としてよく、また、5分以上、10時間以下としてもよい。
光硬化剤を用いる場合の加熱条件は特段制限されず、光の種類は、例えば、ガンマ線、X線、紫外線、可視光線、又は赤外線等を利用することができ、光照射時間は、例えば、5秒以上、72時間以下としてよく、また、1分以上、10時間ありがとうございます。
【0134】
発光素子としては、表示デバイスに用いられる各種の発光素子が挙げられる。具体例としては、液晶表示素子、高分子分散型液晶表示素子、電気泳動表示素子、エレクトロルミネッセント素子、エレクトロクロミック素子等が挙げられる。
スイッチング素子の具体例としては、ダイオード(pn接合ダイオード、ショットキー・ダイオード、MOSダイオード等)、トランジスタ(バイポーラートランジスタ、電界効果トランジスタ(FET)等)、サイリスタ、更にはそれらの複合素子(例えばTTL等)等が挙げられる。
【0135】
光電変換素子の具体例としては、薄膜太陽電池、電荷結合素子(CCD)、光電子増倍
管、フォトカプラ等が挙げられる。また、光電導性を利用した光センサーとしては、これらの光電変換素子を利用したものが挙げられる。
上記の有機半導体インク、又はその硬化物を有機電子デバイスのどの部位に用いるかは特に制限されず、任意の部位に用いることが可能である。上記の有機半導体インクの半導体特性を活用するために、有機電子デバイスの半導体層に、上記の有機半導体インク、又はその硬化物を用いる事が好ましい。特に光電変換素子の場合には、通常は、本発明に係る有機半導体インク、又はその硬化物を含有する有機半導体層は、有機活性層として使用される。
【0136】
<5.光電変換素子>
上記の有機半導体インクを用いて得られる光電変換素子は、本発明の別の実施形態であり、一対の電極と、該電極間に配置された活性層とを備える光電変換素子であって、この活性層としては上記のコポリマーを含有する有機半導体インクの硬化物を備える。
【0137】
[5-1.光電変換素子の構成]
図1に、本実施形態に係る光電変換素子の一例を示す。図1に示される光電変換素子は、一般的な有機薄膜太陽電池に用いられる光電変換素子であるが、本実施形態に係る光電変換素子が図1に示されるものに限られるわけではない。本実施形態の一例としての光電変換素子107は、基材106、アノード101、正孔取り出し層102、活性層103(p型半導体材料(化合物)とn型半導体材料(化合物)との混合層)、電子取り出し層104、及びカソード105を含む層構造を有する。なお、図1では、各層が上述した順番に積層された光電変換素子の例を示しているが、光電変換素子107は、基材106、カソード105、電子取り出し層104、活性層103、正孔取り出し層102、及びアノード101をこの順に有する構成であってもよい。また、活性層103は、p型半導体材料とn型半導体材料とを積層させた構成であってもよい。さらに、正孔取り出し層102及び電子取り出し層104は必須の構成ではなく、任意で設ければよい。
【0138】
活性層103の層構成は、p型半導体材料とn型半導体材料の混合層(バルクヘテロ接合型と称す場合がある。)が好ましいが、他の構成であってもよい。例えば、p型半導体材料とn型半導体材料が積層された薄膜積層型、薄膜積層型の中間層にp型半導体材料とn型半導体材料の混合層(i層)を有する構造であってもよい。なお、活性層103のp型半導体材料に含まれる化合物としては、上記のコポリマーを用いることが好ましい。また、活性層103として、上記の有機半導体インク、又はその硬化物を用いることが好ましい
【0139】
また、光電変換素子107が有するそれぞれの層の間には、後述の各層の機能に影響を与えない程度に、別の層が挿入されていてもよい。
【0140】
基板106、アノード101、正孔取り出し層102、活性層103のn型半導体材料、電子取り出し層104、及びカソード105は、公知の材料や方法を用いて形成すればよい。具体的には、Solar Energy Materials&Solar Cells 96(2012)155-159、国際公開第2011/016430号又は特開2012-191194号公報等に記載の通りである。なお、活性層103のp型半導体材料に関しても、上記のコポリマーに加えて、上記公知文献に記載されたような上記のコポリマー以外のp型半導体材料(化合物)と組み合わせて用いてもよい。また、基板106及び光電変換素子107を構成する各層の好ましい膜厚についても上記公知文献に記載された通りである。なお、上記の公知文献に記載された中でも、基板106及び光電変換素子を構成する各層の材料について好ましいものを以下に説明する。
【0141】
基板106としては、ガラス基板等の無機材料基板、ポリエチレンテレフタレート、ポ
リエチレンナフタレート又はポリイミド等のプラスチック基板、紙又は合成紙等の紙材料から成る基板、ステンレス、銅、チタン又はアルミニウム等の金属に絶縁性を付与するために表面をコート又はラミネートしたもの等の複合材料から成る基板が挙げられる。軽量でフレキシブルな光電変換素子が得られる点で、基板106の材料としてはプラスチック基板あるいは複合材料から成る基板を用いることが好ましい。
【0142】
カソード105としては、特に、インジウム・スズ酸化物(ITO)、銀、銅、アルミニウム等が挙げられる。
【0143】
電子取り出し層104としては、無機化合物あるいは有機化合物のいずれでもよいが、成膜安定性が優れる点、及び生産コストが低減しうる点で、酸化チタン(TiOx)又は酸化亜鉛(ZnO)が好ましい。
【0144】
活性層103のn型半導体化合物としては、LUMOエネルギー準位は、特に限定はされないが、例えばサイクリックボルタモグラム測定法により算出される真空準位に対する値が、通常-4.0eV以上、好ましくは-3.9eV以上である材料が好ましい。開放電圧(Voc)はp型半導体化合物のHOMOエネルギー準位とn型半導体化合物のLUMOエネルギー準位との差に依存するため、n型半導体化合物のLUMOエネルギー準位を高くすると、Vocが高くなる傾向がある。一方、LUMOエネルギー準位を高くしすぎると、p型半導体化合物からの電子移動が起こりにくくなる為、通常-1.0eV以下、好ましくは-2.0eV以下、より好ましくは-3.0eV以下、さらに好ましくは-3.3eV以下である。n型半導体化合物のLUMOエネルギー準位が上記の範囲にあることで、開放電圧(Voc)と短絡電流密度(Jsc)を同時に高めることができる。
【0145】
n型半導体化合物のHOMOエネルギー準位は、特に限定は無いが、通常-5.0eV以下、好ましくは-5.5eV以下である。一方、通常-7.0eV以上、好ましくは-6.6eV以上である。n型半導体化合物のHOMOエネルギー準位が-7.0eV以上であることは、n型半導体化合物の光吸収も発電に利用しうる点で好ましい。n型半導体化合物のHOMOエネルギー準位が-5.0eV以下であることは、正孔の逆移動を阻止できる点で好ましい。
【0146】
n型半導体化合物の電子移動度は、特段の制限はないが、通常1.0×10-6cm/Vs以上であり、1.0×10-5cm/Vs以上が好ましく、5.0×10-5cm/Vs以上がより好ましく、1.0×10-4cm/Vs以上がさらに好ましい。一方、通常1.0×10cm/Vs以下であり、1.0×10cm/Vs以下が好ましく、5.0×10cm/Vs以下がより好ましい。n型半導体化合物の電子移動度が上記の範囲であることは、上記のコポリマーとの組合せにおいて、変換効率向上等の効果が得られうる点で好ましい。電子移動度の測定方法としてはFET法が挙げられ、公知文献(特開2010-045186号公報)に記載の方法により実施することができる。
【0147】
具体的には、上記のコポリマーとの間で理想的な相分離構造を形成し易いことから、置換基を有するフラーレン誘導体が好ましく、特に好ましくはPCBMである。
【0148】
正孔取り出し層102としては、制限するわけではないが、フェルミ準位が-5.0eV以下(あるいは仕事関数が5.0eV以上)の材料であることが好ましい。より好ましくは、フェルミ準位が-5.1eV以下(仕事関数が5.1eV以上)、特に好ましくはフェルミ準位が-5.2eV以下(仕事関数が5.2eV以上)である。フェルミ準位(あるいは仕事関数)が上記の範囲であることにより、上記のコポリマーから正孔を取り出しやすくなり、光電変換効率や耐久性に優れた光電変換素子を提供することができる。こ
のような条件を満たす材料であれば特段の制限はないが、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等に、スルホン酸及び/又はヨウ素等がドーピングされた導電性ポリマー、スルホニル基を置換基として有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物、三酸化モリブデン等の金属酸化物等が挙げられる。が好ましい。
【0149】
アノード101としては、特に制限はなく、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物、銀、金、白金、クロム又はコバルト等の金属あるいはその合金を用いることができる。
【実施例0150】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0151】
<実験1:溶解性の評価>
アニソール化合物として下記D1を以下に示す化合物(三菱ケミカル株式会社製)を用いた。なお、下記のD1の重量平均分子量は29万9000、分子量分散度(PDI)は4.5、mは0.6であり、nは0.4である。
【0152】
【化14】
【0153】
(実施例1)
上記D1を2-メチルアニソール(東京化成)に溶解させ120℃で2時間加熱し、8mg/mLの溶液を得た。この溶液を80℃と60℃でそれぞれ1時間放置し、D1の溶解性を目視で観察した。観察結果を表1に示す。
【0154】
(実施例2)
溶媒をp-ブロモアニソール(東京化成)にしたこと以外は実施例1と同様にして溶解性を観察した。観察結果を表1に示す。
【0155】
(比較例1)
溶媒をクロロベンゼン(アルドリッチ)にしたこと以外は実施例1と同様にして溶解性を観察した。観察結果を表1に示す。
【0156】
(比較例2)
溶媒をp-シメンにしたこと以外は実施例1と同様にして溶解性を観察した観察結果を表1に示す。
【0157】
(比較例3)
溶媒をエチルベンゼン(東京化成)にしたこと以外は実施例1と同様にして溶解性を観察した。観察結果を表1に示す。
【0158】
(比較例4)
溶媒をテルピノレン(東京化成)にしたこと以外は実施例1と同様にして溶解性を観察した。観察結果を表1に示す。
【0159】
【表1】
【0160】
表1より、60℃においては、実施例1及び2に係るアニソール誘導体と比較例1に係るクロロベンゼンは良好な溶解性を示したが、比較例2~4のヘテロ原子を有しない芳香族炭化水素に対する溶解性は不良であり、さらに、80℃においては、実施例1及び2に係るアニソール誘導体は良好な溶解性を示したが、比較例1に係るクロロベンゼン、及び比較例2~4のヘテロ原子を有しない芳香族炭化水素に対する溶解性は不良であった。
【0161】
<実験2:光電変換素子の評価>
[評価方法]
以下の実施例及び比較例で製造した有機フォトダイオードの性能測定方法は以下の通りである。
【0162】
ペクセル・テクノロジー社製の作用スペクトル測定装置PEC-S20とテクトロニクス社ケ
ースレー2400ソースメータを用いて、波長700nmの入射光を照射し、素子に-5Vの電圧を印加した際の外部量子効率の値を得た。
測定に当たっては、ITO基板側から光を入射させた。
【0163】
(実施例3)
以下の方法により、有機フォトダイオードを作製した。
ガラス基板上に電極として膜厚70nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)の透明導電膜がパターン成膜されたITO基板の表面を紫外線オゾン洗浄機(NL-UV253、日本レーザー電子社製)で10分間処理した後に、正孔輸送層を以下のように成膜した。
下記式(H4)に示すポリマー(Mw=64000、Mn=43000、Mw/Mn=1.5)60mgを1mLのアニソールに溶解させ、正孔輸送層形成用組成物を調製した。
なお、下記式(H4)において、0.95の比率で含まれる繰り返し単位中のArは、下に0.95と記載されている9,9-ジn-ヘキシル-2-フルオレニル基であり、ランダムに0.95:0.05の割合で含まれているわけではない。0.05の繰り返し単位についても同様である。
この組成物を窒素雰囲気下において回転数1000rpmで30秒間、ITO基板の電極面にスピンコートし、240℃で30分間加熱乾燥して、膜厚250nmの正孔輸送層を形成した。なお、下記式(H4)に示すポリマーは、230℃の加熱乾燥でも重合し、その後の塗布工程を行っても問題を生じるものではない。
【0164】
【化15】
【0165】
この正孔輸送層上に次のようにして光電変換層(活性層)を成膜した。
上記の実験1におけるD1を8mg、mixPCBM(フロンティアカーボン製、[C
60]PCBM:[C70]PCBM=1:3(重量比))を20mg混合し、2-メチ
ルアニソール(東京化成製)を1.0mL添加し、110℃で4時間加熱した後、加熱したまま5.0μmのPTFEフィルターを通して光電変換インク1を得た。
このインク1を60℃に加熱し、HTLを塗布した基板上に1000rpmしでスピンコートし、スピンコート後に素子を120℃10分窒素中で加熱することで300nmの光電変換層を得た。これに真空蒸着装置でフラーレン(フロンティアァーボン製)を40nm、さらにアルミニウムを100nm成膜し光電変換素子1を得た。
【0166】
(比較例5)
上記の実験1におけるD1を8mg、mixPCBMを20mg混合し、p-ブロモアニソールを1.0mL添加し、110℃で4時間加熱した後、加熱したまま5.0μmのPTFEフィルターを通して光電変換インク2を得た。
このインク2を用いたこと以外は実施例3と同様にして光電変換素子2を作製した。
【0167】
(比較例6)
上記の実験1におけるD1を12mg、mixPCBMを30mg混合し、キシレン(関東化学製)を0.9mLとテトラリン(アルドリッチ製)0.1mL添加し、110℃で4時間加熱した後、加熱したまま1.0μmのPTFEフィルターを通して光電変換インク3を得た。
このインク3を用いたこと以外は実施例3と同様にして光電変換素子3を作製した。
【0168】
【表2】
【0169】
表2より、以上のようにアニソール誘導体の中でもハロゲン基を芳香族環状に一つ有するp-ブロモアニソールは良好な光電変換膜が得られないことが明らかとなった。
また、2-メチルアニソールを用いたインク1は有機光電変換インクで一般的に用いられる劇物試薬であるキシレンを主としたインク3と同等の光電変換特性を与えることが明らかとなった。
【0170】
<実験3:添加剤>
(実施例4)
上記の実験1におけるD1を10mg、mixPCBMと25mg混合し、2-メチルアニソールを0.9mLと添加剤としてテトラリン(アルドリッチ製)0.1mL添加し、110℃で4時間加熱した後、加熱したまま1.0μmのPTFEフィルターを通して光電変換インク4を得た。
このインク3を用い、またインク3のスピンコート後に素子を120℃10分窒素中で加熱したこと以外は実施例3と同様にして光電変換素子4を作製した。
【0171】
(実施例5)
上記の実験1におけるD1を10mg、mixPCBMと25mg混合し、2-メチルアニソールを0.98mLと添加剤として1,8-ジヨードオクタン(アルドリッチ製)0.02mL添加し、110℃で4時間加熱した後、加熱したまま1.0μmのPTFEフィルターを通して光電変換インク5を得た。
このインク5を用いたこと以外は実施例4と同様にして光電変換素子5を作製した。
【0172】
【表3】
【0173】
以上のように、室温(25℃)で液体の添加剤の芳香族炭化水素類またはハロゲン化アルキルを用いても2-メチルアニソールを主溶媒とする有機光電変換インクから得られる光電変換層の外部量子効率は保たれることが明らかとなった。
【0174】
上記の実施例から、本発明により、ポリトリールアミン系半導体化合物を含む正孔輸送層を備える光電変換素子において、耐熱性及び耐光性を向上させることができることが分かった。
【符号の説明】
【0175】
101 アノード
102 正孔取り出し層
103 活性層
104 電子取り出し層
105 カソード
106 基材
107 光電変換素子
図1