(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157908
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】熱処理油
(51)【国際特許分類】
C21D 1/58 20060101AFI20221006BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20221006BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
C21D1/58
C10M101/02
C10N40:20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062413
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 正司
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104DA02A
4H104PA25
(57)【要約】
【課題】熱安定性に優れ、光輝性の長期的に維持することができる熱処理油を提供する。
【解決手段】鉱油(A)を含む基油を含有する熱処理油であって、前記鉱油(A)は40℃動粘度が100~600mm2/sであり、かつ硫黄分含有量が0.10~0.20質量%であり、前記鉱油(A)の含有量が、前記基油の全量基準で0.5質量%超である熱処理油。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油(A)を含む基油を含有する熱処理油であって、
前記鉱油(A)は40℃動粘度が100~600mm2/sであり、かつ硫黄分含有量が0.10~0.20質量%であり、
前記鉱油(A)の含有量が、前記基油の全量基準で0.5質量%超である熱処理油。
【請求項2】
前記鉱油(A)のn-d-M環分析による%CAが5.0~25.0である請求項1に記載の熱処理油。
【請求項3】
前記鉱油(A)を、前記基油の全量基準で0.7~100質量%含有する請求項1又は2に記載の熱処理油。
【請求項4】
含硫黄合成添加剤の配合量が、前記熱処理油の全量基準で100質量ppm未満である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱処理油。
【請求項5】
前記基油が、さらに、硫黄分含有量が100質量ppm以下の鉱油(B)を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の熱処理油。
【請求項6】
前記鉱油(A)の含有量が、前記基油の全量基準で0.8~99.2質量%であり、
前記鉱油(B)の含有量が、前記基油の全量基準で0.8~99.2質量%である請求項5に記載の熱処理油。
【請求項7】
加熱した金属部材を、油温を120℃以上に維持した請求項1~6のいずれか1項に記載の熱処理油に浸漬して冷却する冷却工程を含む高温焼入れ処理を行う金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理油に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材等の金属材料は、その性質の改善を目的として、焼入れ、焼戻し、焼なまし、及び焼ならし等の熱処理を施されることがある。これらの熱処理の中で、焼入れは、加熱された金属材料を冷却剤中に浸漬して、所定の焼入れ組織に変態させる処理である。焼入れによって、金属材料は非常に硬くなり、機械的強度が向上する。
【0003】
焼入れ用の冷却剤としては、熱処理油組成物が広く用いられている。熱処理油組成物には、冷却剤としての性能に加え、焼入れ後の金属材料の商品価値を高める観点から、焼入れ前の金属材料の表面光沢を焼入れ後も保持する性能も要求される。すなわち、熱処理油組成物には、焼入れ後の金属材料の光輝性を良好なものとする性能が要求される。
【0004】
例えば、特許文献1では、硫黄分が300質量ppm以下である鉱油および合成油のうち少なくとも1種と、硫黄及び硫黄化合物の少なくとも1種を配合して全硫黄分を3質量ppm~1000質量ppmに調整した基油、及びスルホン酸のアルカリ土類金属塩、フェノールのアルカリ土類金属塩、アルケニルコハク酸誘導体、脂肪酸、脂肪酸誘導体、フェノール系酸化防止剤、およびアミン系酸化防止剤よりなる群から選ばれた少なくとも1種とを含有してなる熱処理油組成物を用いることによって、焼入れ後の金属材料の光輝性を良好なものとすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討した結果、これらの添加剤を添加した熱処理油であっても、熱安定性に問題があったり、光輝性の長期的に維持することが難しいという問題が有った。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、熱安定性に優れ、光輝性の長期的に維持することができる熱処理油を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の鉱油を配合した熱処理油により、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、下記[1]及び[2]を提供する。
[1] 鉱油(A)を含む基油を含有する熱処理油であって、
前記鉱油(A)は40℃動粘度が100~600mm2/sであり、かつ硫黄分含有量が0.10~0.20質量%であり、
前記鉱油(A)の含有量が、前記基油の全量基準で0.5質量%超である熱処理油。
[2] 加熱した金属部材を、油温を120℃以上に維持した[1]の熱処理油に浸漬して冷却する冷却工程を含む高温焼入れ処理を行う金属部材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば熱安定性に優れ、光輝性の長期的に維持することができる熱処理油を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例で用いた試験片について、目視観察を行った「端部」及び「接触部」の位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0012】
[熱処理油]
本実施形態の熱処理油は、鉱油(A)を含む基油を含有する熱処理油であって、
前記鉱油(A)は40℃動粘度が100~600mm2/sであり、かつ硫黄分含有量が0.10~0.20質量%であり、
前記鉱油(A)の含有量が、前記基油の全量基準で0.5質量%超である。
【0013】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の鉱油に含まれる硫黄分により、熱安定性に優れるとともに、光輝性を長期的に維持できる熱処理油を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
以下、本実施形態の熱処理油に含まれる各成分について説明する。
【0015】
<基油>
本実施形態の熱処理油は、基油を含有する。
当該基油は、少なくとも鉱油(A)を含有するものであるが、さらに鉱油(B)やその他の基油成分をも含有していてもよい。
上記基油は、鉱油(A)及び鉱油(B)の合計含有量が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが特に好ましく、さらに鉱油(A)のみからなるものであるか、鉱油(A)及び鉱油(B)のみからなるものであることが特に好ましい。
【0016】
上記基油が鉱油(A)及び鉱油(B)のみからなるものである場合、前記鉱油(A)の含有量が、前記基油の全量基準で0.8~99.2質量%であり、前記鉱油(B)の含有量が、前記基油の全量基準で0.8~99.2質量%である事が好ましい。
【0017】
本実施態様の熱処理油において、上記基油の含有量は、熱処理油の全量基準で、好ましくは80.0質量%以上、より好ましくは85.0質量%以上、更に好ましくは87.0質量%以上である。
【0018】
<鉱油(A)>
前記鉱油(A)としては、従来、潤滑油の基油として用いられている鉱油から選択される1種以上より、40℃動粘度が100~600mm2/sであり、かつ硫黄分含有量が0.10~0.20質量%のものを使用することができる。
【0019】
前記鉱油(A)としては、例えば、パラフィン基原油、中間基原油、ナフテン基原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;前記常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化仕上げ、水素化分解、高度水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化異性化脱ろう等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油等が挙げられる。
前記鉱油(A)としては、ナフテン基原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を、さらに減圧蒸留して得られた留出油が好ましく用いられ、特に、さらに当該留出油に対して溶剤精製を行って得られたものが好ましく用いられる。
また、鉱油(A)としては、留出油に対して、本発明の効果が奏する範囲内で水素化処理を行ったものであっても、水素化処理を行っていないものであってもよいが、水素化処理を施していないものが特に好ましい。留出油に対する水素化処理を避けることで、留出油中に含まれる、熱処理時に金属部材表面に適度な硫化物被膜を形成して光輝性を改善する特定の硫黄化合物が残存した鉱油が得られるため、本実施形態の熱処理油において好適に用いられる。
すなわち、前記鉱油(A)としては、ナフテン基原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を、さらに減圧蒸留して得られた留出油に対して溶剤精製を行って得られたものであって、水素化仕上げや水素化分解、高度水素化分解、水素化異性化脱ロウ等の各種水素化処理を行っていないものが好ましい。
【0020】
前記鉱油(A)の動粘度は、上限値は冷却性能が良好なものとする観点から、下限値は引火点を高く保ち、油煙の発生を抑制した熱処理油とする観点から、以下の範囲とすることが好ましい。
前記鉱油(A)の40℃動粘度は、100mm2/s以上である事を要し、110mm2/s以上が好ましく、120mm2/s以上がより好ましく、また、600mm2/s以下である事を要し、550mm2/s以下が好ましく、500mm2/s以下がより好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができ、具体的には、100mm2/s~600mm2/sである事を要し、110mm2/s~550mm2/sが好ましく、120mm2/s~500mm2/sがより好ましい。
前記鉱油(A)の100℃動粘度は、3.0mm2/s以上が好ましく、5.0mm2/s以上がより好ましく、7.0mm2/s以上が更に好ましく、また、50.0mm2/s以下が好ましく、40.0mm2/s以下がより好ましく、30.0mm2/s以下が更に好ましい。これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができ、具体的には、3.0mm2/s~50.0mm2/sが好ましく、5.0mm2/s~40.0mm2/sがより好ましく、7.0mm2/s~30.0mm2/sが更に好ましい。
前記40℃動粘度及び前記100℃動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠して測定することができる。
【0021】
前記鉱油(A)としては、前述の特定の硫黄化合物を含む鉱油を選択する観点から、環分析(n-d-M法)による%CNが、29.0~47.0のものが好ましく、30.0~45.0のものがより好ましく、32.0~43.0のものがさらに好ましい。
同様に、鉱油(A)としては、環分析(n-d-M法)による%CAが、5.0~25.0のものが好ましく、8.0~22.0のものがより好ましく、11.0~20.0のものが更に好ましい。
なお、本明細書において、環分析(n-d-M法)は、ASTM D 3238-95に準拠して実施される。
【0022】
本実施形態の熱処理油において、前記鉱油(A)の含有量は、前記基油の全量(100質量%)基準で、0.5質量%超である事を要し、好ましくは0.7~100質量%、より好ましくは0.8~100質量%、さらに好ましくは0.9~100質量%である。
【0023】
上述のように、本実施形態で用いる鉱油(A)は、鉱油(A)の全量基準における硫黄分含有量が0.10~0.20質量%のものであるが、当該硫黄含有量は、JIS K 2541-7:2013の波長分散蛍光X線法に準拠して測定した値を示す。
鉱油(A)の硫黄分含有量は、好ましくは0.11~0.17質量%である。
【0024】
<鉱油(B)>
前記基油は、上述の鉱油(A)とは別に、さらに鉱油(B)を含有していてもよい。
鉱油(B)としては、従来、潤滑油の基油として用いられている鉱油から選択される1種以上のものを使用することができるが、鉱油(B)の全量基準における硫黄分含有量が100質量ppm以下のものである事を要する。硫黄分含有量が100質量ppm超であると、鉱油が含有する硫黄化合物が、熱処理時に金属部材の表面を硫化させ、変色させてしまう虞がある。
【0025】
前記鉱油(B)としては、例えば、パラフィン基原油、中間基原油、ナフテン基原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;前記常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化仕上げ、水素化分解、高度水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化異性化脱ろう等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油等が挙げられる。
【0026】
<その他の基油成分>
前記基油は、上述の鉱油(A)及び鉱油(B)以外のその他の基油成分を含有していてもよい。
その他の基油成分は、上述の鉱油(A)や鉱油(B)に該当するもの以外であれば特に制限は無く、例えば、パラフィン基原油、中間基原油、ナフテン基原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;前記常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化仕上げ、水素化分解、高度水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化異性化脱ろう等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油等が挙げられ、また各種合成油を用いることもできる。
【0027】
<含硫黄合成添加剤>
本実施形態の熱処理油は、含硫黄合成添加剤を含んでいてもよいが、熱処理油の熱安定性を改善するとともに、スラッジの発生による光輝性の悪化を抑制する観点から、その含有量は熱処理油の全量基準で100質量ppm未満であることが好ましく、10質量ppm未満であることがより好ましい。
上述の含硫黄合成添加剤としては、スルフィド類やスルホン類が挙げられ、従って本実施形態の熱処理油は、スルフィド類及びスルホン類の合計含有量が、熱処理油の全量基準で100質量ppm未満であることが好ましく、10質量ppm未満であることがより好ましい。
【0028】
<添加剤>
本実施形態の熱処理油は、さらに所望により、熱処理油において慣用されている添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、蒸気膜破断剤、光輝性向上剤、酸化防止剤、及び清浄分散剤が挙げられ、これらから選択される1種以上を用いることができる。
すなわち、本実施形態の熱処理油は、上記基油に加えて、更に蒸気膜破断剤、光輝性向上剤、酸化防止剤、及び清浄分散剤から選択される1種以上を含む熱処理油であってもよく、上記基油と、蒸気膜破断剤、光輝性向上剤、酸化防止剤、及び清浄分散剤から選択される1種以上の添加剤とのみからなる熱処理油であってもよい。
【0029】
(蒸気膜破断剤)
蒸気膜破断剤としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体等のエチレン-α-オレフィン共重合体(α-オレフィンの炭素数は3~20);当該エチレン-α-オレフィン共重合体の水素添加物;1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、及び1-オクタデセン等の炭素数5~20のα-オレフィン重合体;当該α-オレフィン重合体の水素添加物;ポリプロピレン、ポリブテン、及びポリイソブチレン等の炭素数3又は4のオレフィン重合体;当該オレフィン重合体の水素添加物;ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリスチレン、及び石油樹脂等の高分子化合物;アスファルト等が挙げられる。
これらの蒸気膜破断剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
蒸気膜破断剤の数平均分子量(Mn)は、通常800~100,000であることが好ましい。蒸気膜破断剤の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて計測されるポリスチレン換算の値である。
蒸気膜破断剤の含有量は、熱処理油の全量基準で、好ましくは0.5質量%~18質量%、より好ましくは1.0質量%~16質量%、更に好ましくは2.0質量%~15質量%である。
【0030】
(光輝性向上剤)
光輝性向上剤としては、例えば、油脂;油脂脂肪酸;アルキルコハク酸イミド等のアルキルコハク酸;アルケニルコハク酸イミド等のアルケニルコハク酸;置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸エステル誘導体等が挙げられる。
これらの光輝性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
光輝性向上剤の含有量は、熱処理油の全量基準で、好ましくは0.1質量%~5.0質量%、より好ましくは0.3質量%~3.0質量%、更に好ましくは0.4質量%~2.0質量%である。
【0031】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート等の単環フェノール類;4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等の多環フェノール類;等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン系酸化防止剤及びナフチルアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
ジフェニルアミン系酸化防止剤としては、例えば、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン等が挙げられ、具体的には、ジフェニルアミン、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン、4,4’-ジブチルジフェニルアミン、4,4’-ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン、4,4’-ジノニルジフェニルアミン、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、及びテトラノニルジフェニルアミン等が挙げられる。
ナフチルアミン系酸化防止剤としては、例えば、炭素数3~20のアルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン等が挙げられ、具体的には、α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、ブチルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘキシルフェニル-α-ナフチルアミン、オクチルフェニル-α-ナフチルアミン、及びノニルフェニル-α-ナフチルアミン等が挙げられる。
これらの酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸化防止剤の含有量は、熱処理油の全量基準で、好ましくは0.01質量%~5.0質量%、より好ましくは0.05質量%~3.0質量%、更に好ましくは0.1質量%~2.0質量%である。
【0032】
(清浄分散剤)
清浄分散剤としては、例えば、金属系清浄剤及び無灰系分散剤からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
金属系清浄剤としては、例えば、金属スルホネート、金属サリチレート、及び金属フェネート等が挙げられる。
金属系清浄剤を構成する金属としては、例えば、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、及びバリウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。
無灰系分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド類、ホウ素含有アルケニルコハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類等が挙げられる。
これらの清浄分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
清浄分散剤の含有量は、熱処理油の全量基準で、0.01質量%~5.0質量%である。
【0033】
[熱処理油の物性値]
<硫黄分>
本実施形態の熱処理油は、硫黄分が、熱処理油組成物の全量基準で、好ましくは5質量ppm~2,000質量ppm、より好ましくは8質量ppm~800質量ppm、更に好ましくは10質量ppm~500質量ppmである。
【0034】
<40℃動粘度>
本実施形態の熱処理油は、焼入れ等の熱処理時における所望の油温に応じて40℃動粘度が設定される。
熱処理油は、低い油温で使用するコールド油、高い油温で使用するホット油、これらの中間の油温で使用するセミホット油に区分される。コールド油は、JIS K2242:2012の1種に区分され、セミホット油及びホット油は、JIS K2242:2012の2種に区分される。
本実施形態の熱処理油がコールド油として用いられる場合、40℃動粘度は、5mm2/s以上40mm2/s未満であることが好ましい。
本実施形態の熱処理油がセミホット油又はホット油として用いられる場合、40℃動粘度は、40mm2/s以上500mm2/s以下であることがより好ましい。
【0035】
[熱処理油の製造方法]
本実施態様の熱処理油の製造方法は、特に限定されない。
本実施態様の熱処理油の製造方法においては、上述の40℃動粘度及び硫黄分含有量を満たす鉱油(A)のみをそのまま熱処理油としてもよいが、鉱油(A)と、上述の鉱油(B)、その他の基油成分及び添加剤からなる群から選択される1種以上とを混合する工程を有する製造方法であってもよい。
【0036】
[熱処理油の用途]
本実施態様の熱処理油は、金属材料の焼入れ等の熱処理の際に用いることで、焼入れ等の熱処理後の金属材料の光輝性を良好なものとできる。例えば、炭素鋼、ニッケル-マンガン鋼、クロム-モリブデン鋼、マンガン鋼等の各種合金鋼に焼入れ等の熱処理を行う際の熱処理油組成物として好適に用いることができる。
したがって、本発明は、本実施態様の熱処理油を金属材料の焼入れ等の熱処理の際に用いる、金属部材の熱処理方法を提供する。この際、熱処理油の油温は、熱処理が高温焼入れ処理である場合、好ましくは120℃以上、より好ましくは170℃~250℃に設定される。
【0037】
[金属部材の製造方法]
本実施態様の金属部材の製造方法は、加熱した状態の金属部材を、油温を120℃以上に維持した上記熱処理油に浸漬して冷却する冷却工程を含む高温焼入れ処理を行うものである。
上記冷却工程における油温は、170℃~250℃に維持することがより好ましい。
【0038】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様によれば、下記[1]~[7]が提供される。
[1] 鉱油(A)を含む基油を含有する熱処理油であって、
前記鉱油(A)は40℃動粘度が100~600mm2/sであり、かつ硫黄分含有量が0.10~0.20質量%であり、
前記鉱油(A)の含有量が、前記基油の全量基準で0.5質量%超である熱処理油。
[2] 前記鉱油(A)のn-d-M環分析による%CAが5.0~25.0である[1]に記載の熱処理油。
[3] 前記鉱油(A)を、前記基油の全量基準で0.7~100質量%含有する[1]又は[2]に記載の熱処理油。
[4] 含硫黄合成添加剤の配合量が、前記熱処理油の全量基準で100質量ppm未満である[1]~[3]のいずれかに記載の熱処理油。
[5] 前記基油が、さらに、硫黄分含有量が100質量ppm以下の鉱油(B)を含有する[1]~[4]のいずれかに記載の熱処理油。
[6] 前記鉱油(A)の含有量が、前記基油の全量基準で0.8~99.2質量%であり、
前記鉱油(B)の含有量が、前記基油の全量基準で0.8~99.2質量%である[5]に記載の熱処理油。
[7] 加熱した金属部材を、油温を120℃以上に維持した[1]~[6]のいずれかに記載の熱処理油に浸漬して冷却する冷却工程を含む高温焼入れ処理を行う金属部材の製造方法。
【実施例0039】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた各成分及び得られた熱処理油の各種性状は、下記方法によって測定した。
【0040】
[40℃動粘度及び100℃動粘度]
各種鉱油及び熱処理油の40℃動粘度及び100℃動粘度を、JIS K 2283:2000に準拠して測定又は算出した。
【0041】
[硫黄分]
各実施例及び各比較例において用いた鉱油(A)、鉱油(B)、その他の鉱油並びに各実施例及び各比較例において調製した熱処理油の硫黄分は、0.05質量%(500質量ppm)未満の測定の場合には、JIS K 2541-6:2013の紫外蛍光法に準拠し、0.05質量%(500質量ppm)以上の場合には、JIS K 2541-7:2013の波長分散蛍光X線法に準拠して測定した。
【0042】
[実施例1~8、及び比較例1~9]
以下に示す各成分を、表1~2に示す含有量で加えて十分に混合し、熱処理油を得た。
実施例1~8、及び比較例1~9で用いた各成分の詳細は、以下に示すとおりである。
【0043】
<鉱油(A)>
・鉱油A1(ナフテン基原油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤抽出して得たもの。40℃動粘度:137.3mm2/s、100℃動粘度:10.02mm2/s、硫黄分:0.12質量%、ナフテン分(%CN):41.5、芳香族分(%CA):13.1)
・鉱油A2(ナフテン基原油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤抽出して得たもの。40℃動粘度:316.2mm2/s、100℃動粘度:16.52mm2/s、硫黄分:0.14質量%、ナフテン分(%CN):36.0、芳香族分(%CA):15.5)
・鉱油A3(ナフテン基原油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤抽出して得たもの。40℃動粘度:480.8mm2/s、100℃動粘度:22.19mm2/s、硫黄分:0.16質量%、ナフテン分(%CN):33.7、芳香族分(%CA):14.4)
<鉱油(B)>
・鉱油B1(中間基原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対し、減圧蒸留残渣油を溶剤脱歴して得られた脱歴油を混合し、水素化分解を行って得たもの。40℃動粘度:408.8mm2/s、100℃動粘度:30.88mm2/s、硫黄分:100質量ppm未満、ナフテン分(%CN):27.0、芳香族分(%CA):0.0)
・鉱油B2(中間基原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対し、水素化分解を行って得たもの。40℃動粘度:89.41mm2/s、100℃動粘度:10.70mm2/s、硫黄分:100質量ppm未満、ナフテン分(%CN):25.5、芳香族分(%CA):3.7)
・鉱油B3(中間基原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対し、減圧蒸留残渣油を溶剤脱歴して得られた脱歴油を混合し、水素化分解を行って得たもの。40℃動粘度:441.6mm2/s、100℃動粘度:32.07mm2/s、硫黄分:96質量ppm、ナフテン分(%CN):25.1、芳香族分(%CA):3.6)
<その他の鉱油>
・鉱油C1(中間基原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた減圧蒸留残渣油を、溶剤脱歴して得られた脱歴油に対し、溶剤抽出後に水素化仕上げを行って得たもの。40℃動粘度:495.8mm2/s、100℃動粘度:31.79mm2/s、硫黄分:1.18質量%、ナフテン分(%CN):23.3、芳香族分(%CA):7.0)
・鉱油C2(中間基原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた減圧蒸留残渣油を、溶剤脱歴して得られた脱歴油に対し、溶剤抽出後に水素化仕上げを行って得たもの。40℃動粘度:479.5mm2/s、100℃動粘度:31.65mm2/s、硫黄分:0.47質量%、ナフテン分(%CN):23.6、芳香族分(%CA):5.8)
・鉱油C3(中間基原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対し、溶剤抽出後に水素化仕上げを行って得たもの。40℃動粘度:20.10mm2/s、100℃動粘度:4.070mm2/s、硫黄分:1000質量ppm、ナフテン分(%CN):28.2、芳香族分(%CA):4.9)
・鉱油C4(中間基原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対し、溶剤抽出後に水素化仕上げを行って得たもの。40℃動粘度:102.5mm2/s、100℃動粘度:11.300mm2/s、硫黄分:5300質量ppm、ナフテン分(%CN):24.1、芳香族分(%CA):7.0)
・鉱油C5(ナフテン基原油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対し、溶剤抽出を行って得たもの。40℃動粘度:27.13mm2/s、100℃動粘度:4.158mm2/s、硫黄分:700質量ppm、ナフテン分(%CN):47.3、芳香族分(%CA):10.2)
【0044】
上記原料を、表1~表2に示す配合量(質量%)で十分に混合し、実施例1~8及び比較例1~9の熱処理油をそれぞれ調製し、以下に示す光輝性評価と熱安定性評価を行った。
【0045】
<光輝性評価>
「熱処理油槽内の酸素による光輝性への影響(出光トライボレビュー、No.31、pp.1963~1966、平成20年9月30日発行)」を参考にして、焼入れ後の鋼材の光輝性の評価を行った。
具体的には、ダンベル型の鋼材S45C(径:16mm、長さ:30mm、硬度H
RC:16)と円柱型の鋼材SUJ2(径:10mm、長さ:30mm、硬度H
RC:15)とを組み合わせて試験片とした。詳細には、SUS303製ワイヤーを用いて、ダンベル型の鋼材S45Cと円柱型の鋼材SUJ2とを中央部で縛り、ダンベル型の鋼材S45Cと円柱型の鋼材SUJ2とを結束した(
図1を参照)。そして、窒素と水素との混合ガス雰囲気とした炉内で当該試験片を加熱した後、当該試験片を熱処理油組成物に投入して焼入れを行い、焼入れ試験を行った。
焼入れ試験の条件は、以下の条件とした。
【0046】
(ホット油想定試験)
炉内温度:850℃
炉内における試験片保持時間:炉内温度が850℃に到達してから40分間
熱処理油の温度:120℃
熱処理油への試験片の浸漬時間(焼入れ時間):10分間
【0047】
焼入れを終えた試験片について、「明度」、「端部の着色」、及び「接触部の着色」に着目して、以下の基準に基づき、光輝性を評価した。また、「明度」、「端部の着色」、及び「接触部の着色」の評価結果に基づき、試験片の光輝性を以下の基準で総合評価した。
(明度)
所定の着色を施した外観見本を作製して、焼入れ後の試験片の色と目視で比較評価した。外観見本の着色の程度は以下に示す数値で示される。
0:着色が全くない。
1:薄い着色がある。
2:黒褐色~黒色の着色がある。
(端部の着色)
試験片の端部(
図1を参照)を目視で観察し、以下の基準で評価した。
0:着色が全くないかほとんどない。
1:薄い着色が認められる。
2:黒褐色~黒色の着色が認められる。
(接触部の着色)
試験片(ダンベル型の鋼材と円柱型の鋼材との接触部、
図1を参照)を目視で観察し、以下の基準で評価した。
0:着色が全くないかほとんどない。
1:薄い着色が認められる。
2:黒褐色~黒色の着色が認められる。
【0048】
(光輝性の総合評価)
「明度」、「端部の着色」、及び「接触部の着色」の評価結果を用い、以下の基準に基づき総合評価を行った。
評価S:「明度」、「端部の着色」、及び「接触部の着色」の評価結果の総和が0
評価A:「明度」、「端部の着色」、及び「接触部の着色」の評価結果の総和が1
評価B:「明度」、「端部の着色」、及び「接触部の着色」の評価結果の総和が2
評価C:「明度」、「端部の着色」、及び「接触部の着色」の評価結果の総和が3以上
但し、「明度」、「端部の着色」、及び「接触部の着色」のいずれかの評価結果が2以上である場合には、評価はCとした。
評価Sである熱処理油組成物は、光輝性が極めて優れる。評価Aである熱処理油組成物は、光輝性が優れる。一方、評価Bである熱処理油組成物は、光輝性がやや劣る。評価Cである熱処理油組成物は、光輝性が劣る。
【0049】
<熱安定性評価>
JIS-2540熱安定度試験に準拠し、175℃で96時間後の試料油を目視で確認し、以下の基準でスラッジの発生有無を評価した。
評価A:試料油中にスラッジ無し
評価F:試料油中にスラッジ有り
【0050】
【0051】
【0052】
表1~2からわかるように、本発明の構成を全て満たす実施例1~8の潤滑油組成物は、光輝性及び熱安定性に優れていることがわかる。
一方、比較例1~9の潤滑油組成物は、実施例1~8の潤滑油組成物よりも光輝性や熱安定性に劣ることがわかる。