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  • 特開-電気絶縁油組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157909
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電気絶縁油組成物
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/46 20060101AFI20221006BHJP
   C10M 171/00 20060101ALI20221006BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20221006BHJP
   C10N 40/16 20060101ALN20221006BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20221006BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20221006BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
H01B3/46 D
C10M171/00
C10M101/02
C10N40:16
C10N20:00 Z
C10N30:00 Z
C10N30:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062415
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 高志
(72)【発明者】
【氏名】中村 正司
【テーマコード(参考)】
4H104
5G305
【Fターム(参考)】
4H104DA02A
4H104EA13A
4H104EB09
4H104EB10
4H104PA12
5G305AA01
5G305AA02
5G305AA03
5G305AA05
5G305AB22
5G305AB27
5G305AB40
5G305BA13
5G305CA01
5G305CA02
5G305CD09
5G305CD20
(57)【要約】
【課題】耐腐食性に優れるとともに、水素ガス吸収性及び酸化安定性にも優れる、電気絶縁油組成物を提供する。
【解決手段】下記要件(1)~(5)を満たす鉱油系基油を含有する、電気絶縁油組成物。
・要件(1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上6.8以下である。
・要件(2):環分析(n-d-M法)による%Cが、46.0以上である。
・要件(3):硫黄分が、前記鉱油系基油全量基準で、80質量ppm以上200質量ppm以下である。
・要件(4):腐食性硫黄試験(ASTM D1275 B法)において、JIS K2513:2000に準拠して測定される銅板腐食試験評点が、2以下である。
・要件(5):環分析(n-d-M法)による%Cと%Cとが、下記式(I)を満たす。
%C+(%C/3)>21.1 (I)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)~(5)を満たす鉱油系基油(X)を含有する、電気絶縁油組成物。
・要件(1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上6.8以下である。
・要件(2):環分析(n-d-M法)による%Cが、46.0以上である。
・要件(3):硫黄分が、前記鉱油系基油(X)の全量基準で、80質量ppm以上200質量ppm以下である。
・要件(4):腐食性硫黄試験(ASTM D1275 B法)を実施し、JIS K2513:2000に準拠して測定される銅板腐食試験評点が、2以下である。
・要件(5):環分析(n-d-M法)による%Cと%Cとが、下記式(I)を満たす。
%C+(%C/3)>21.1 (I)
【請求項2】
さらに、前記鉱油系基油(X)が、下記要件(6)を満たす、請求項1に記載の電気絶縁油組成物。
・要件(6):流動点が、-37.5℃以下である。
【請求項3】
前記鉱油系基油(X)は、下記要件(α1)及び(α2)を満たす低硫黄型鉱油(α)と、下記要件(β1)及び(β2)を満たす高硫黄型鉱油(β)とを含む、請求項1又は2に記載の電気絶縁油組成物。
・要件(α1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上7.0以下である。
・要件(α2):硫黄分が、前記低硫黄型鉱油(α)の全量基準で、20質量ppm以下である。
・要件(β1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上である。
・要件(β2):硫黄分が、前記高硫黄型鉱油(β)の全量基準で、150質量ppm以上400質量ppm以下である。
【請求項4】
前記低硫黄型鉱油(α)及び前記高硫黄型鉱油(β)の合計含有量[(α)+(β)]が、前記鉱油系基油(X)の全量基準で、90質量%以上100質量%以下である、請求項3に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項5】
さらに、酸化防止剤及び腐食防止剤から選択される1種以上の添加剤を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電気絶縁油組成物を含む、油入電気機器の絶縁材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁油組成物は、油入コンデンサ、油入ケーブル、油入変圧器、及び油入遮断器等の油入電気機器の絶縁材料として使用される。例えば、特許文献1では、電気絶縁油組成物が絶縁材料として使用されることを踏まえ、電気絶縁性により優れる電気絶縁油組成物が提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-196391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気絶縁油組成物には、種々の性能が要求される。本発明者は、これらの性能の中でも、耐腐食性のさらなる向上に焦点を当て、鋭意研究を進めていた。ところが、電気絶縁油組成物を構成する基油の耐腐食性を向上させると、水素ガス吸収性が低下する傾向にあることがわかった。また、酸化安定性も低下することがあることがわかった。
しかしながら、電気絶縁油組成物は、水素ガス吸収性に優れることが望まれる。また、電気絶縁油組成物は、十年以上もの長期間に亘って使用されることが多い。そのため、電気絶縁油組成物は、酸化安定性に優れていることも重要である。
【0005】
そこで、本発明は、耐腐食性に優れるとともに、水素ガス吸収性及び酸化安定性にも優れる、電気絶縁油組成物及び当該電気絶縁油組成物を含む油入電気機器の絶縁材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の要件を満たす鉱油系基油を含有する電気絶縁油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記[1]~[2]に関する。
[1] 下記要件(1)~(5)を満たす鉱油系基油(X)を含有する、電気絶縁油組成物。
・要件(1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上6.8以下である。
・要件(2):環分析(n-d-M法)による%Cが、46.0以上である。
・要件(3):硫黄分が、前記鉱油系基油(X)の全量基準で、80質量ppm以上200質量ppm以下である。
・要件(4):腐食性硫黄試験(ASTM D1275 B法)を実施し、JIS K2513:2000に準拠して測定される銅板腐食試験評点が、2以下である。
・要件(5):環分析(n-d-M法)による%Cと%Cとが、下記式(I)を満たす。
%C+(%C/3)>21.1 (I)
[2] 上記[1]に記載の電気絶縁油組成物を含む、油入電気機器の絶縁材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐腐食性に優れるとともに、水素ガス吸収性及び酸化安定性にも優れる、電気絶縁油組成物及び当該電気絶縁油組成物を含む油入電気機器の絶縁材料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】%C+(%C/3)の値に対して水素ガス吸収性をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0010】
[電気絶縁油組成物の態様]
本実施形態の電気絶縁油組成物は、下記要件(1)~(5)を満たす鉱油系基油(X)を含有する。
・要件(1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上6.8以下である。
・要件(2):環分析(n-d-M法)による%Cが、46.0以上である。
・要件(3):硫黄分が、前記鉱油系基油(X)の全量基準で、80質量ppm以上200質量ppm以下である。
・要件(4):腐食性硫黄試験(ASTM D1275 B法)において、JIS K2513:2000に準拠して測定される銅板腐食試験評点が、2以下である。
・要件(5):環分析(n-d-M法)による%Cと%Cとが、下記式(I)を満たす。
%C+(%C/3)>21.1 (I)
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、電気絶縁油組成物を構成する鉱油系基油について、鋭意検討を行った。まず、鉱油系基油の耐腐食性を向上させると、水素ガス吸収性が低下する傾向にある点について、その要因の究明を行った。その結果、耐腐食性を向上させるために鉱油系基油の硫黄分を低減すると、これに随伴して水素ガス吸収性の向上を担う芳香族分も低減することが要因の一つと考えられた。
そこで、本発明者は、さらに鋭意検討を重ねた結果、芳香族分が従来よりも少ない鉱油系基油であっても、上記要件(1)に規定する芳香族分の範囲内であり、且つ、上記要件(2)に規定するナフテン分の範囲内であれば、上記要件(5)で規定する上記式(I)の関係を満たすことで、水素ガス吸収性を優れたものとできることを見出した。
そして、本発明者は、さらに鋭意検討を重ね、上記課題を解決することのできる鉱油系基油の創出に至り、本発明を完成するに至った。
【0012】
ここで、本実施形態の電気絶縁油組成物において、鉱油系基油(X)の含有量は、例えば、電気絶縁油の規格の一例であるIEC60296に応じて規定される。
IEC60296では、電気絶縁油の酸化防止剤の添加量に応じて、無添加油、微量添加油、添加油の区分に分けられている。具体的には、酸化防止剤の添加量は、「無添加油」では組成物全量基準で0質量%、「微量添加油」では組成物全量基準で0.08質量%未満、「添加油」では0.08質量%以上0.4質量%以下と定められている。
したがって、本実施形態の電気絶縁油組成物が「無添加油」である場合、電気絶縁油組成物中の鉱油系基油(X)の含有量は、電気絶縁油組成物の全量基準で、100質量%である。
本実施形態の電気絶縁油組成物が「微量添加油」である場合、電気絶縁油組成物中の鉱油系基油(X)の含有量は、電気絶縁油組成物の全量基準で、99.92質量%超100質量%未満である。
本実施形態の電気絶縁油組成物が「添加油」である場合、電気絶縁油組成物中の鉱油系基油(X)の含有量は、電気絶縁油組成物の全量基準で、99.6質量%以上99.92質量%以下である。
なお、本実施形態の電気絶縁油組成物は、「無添加油」として用いることが好ましい。すなわち、電気絶縁油組成物中の鉱油系基油(X)の含有量は、電気絶縁油組成物の全量基準で、100質量%であることが好ましい。
【0013】
以下、本実施形態の電気絶縁油組成物を構成する鉱油系基油(X)について、詳細に説明する。
【0014】
<鉱油系基油(X):要件(1)~(5)>
本実施形態の電気絶縁油組成物を構成する鉱油系基油(X)は、以下に説明する要件(1)~(5)をすべて満たす。
【0015】
(要件(1):%C
要件(1)では、鉱油系基油(X)の環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上6.8以下であることを規定している。
鉱油系基油(X)は、要件(1)で規定するように、芳香族分が少ない基油である。基油中の芳香族分は、水素ガス吸収性の向上を担っており、基油中の芳香族分が少ないと水素ガス吸収性が劣る傾向にあるが、本実施形態では、鉱油系基油(X)を、要件(2)及び要件(5)を満たすものとすることで、水素ガス吸収性に優れる基油としている。
但し、鉱油系基油(X)の%Cが4.5未満であると、鉱油系基油(X)の硫黄分が要件(3)で規定する範囲よりも小さくなりやすく、酸化安定性が劣る。また、上記要件(5)も満たしにくくなり、水素ガス吸収性が劣る。
また、鉱油系基油(X)の%Cが6.8超であると、鉱油系基油(X)の硫黄分が要件(3)で規定する範囲よりも大きくなりやすく、耐腐食性が劣る。すなわち、要件(4)を満たさない。
【0016】
本実施形態において、鉱油系基油(X)の水素ガス吸収性及び酸化安定性をより向上させやすくする観点から、環分析(n-d-M法)による%Cは、好ましくは4.6以上、より好ましくは4.7以上、更に好ましくは4.8以上である。また、鉱油系基油(X)の耐腐食性をより向上させやすくする観点から、環分析(n-d-M法)による%Cは、好ましくは6.5以下、より好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.5以下、より更に好ましくは5.4以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは4.6~6.5、より好ましくは4.7~6.0、更に好ましくは4.8~5.5、より好ましくは4.8~5.4である。
なお、本明細書において、環分析(n-d-M法)は、ASTM D3238-95に準拠して実施される。
【0017】
(要件(2):%C
要件(2)では、鉱油系基油(X)の環分析(n-d-M法)による%Cが、46.0以上であることを規定している。
鉱油系基油(X)の%Cが46.0未満であると、上記要件(5)を満たしにくくなり、水素ガス吸収性が劣る。
【0018】
本実施形態において、鉱油系基油(X)の水素ガス吸収性をより向上させやすくする観点から、環分析(n-d-M法)による%Cは、好ましくは46.5以上、より好ましくは47.0以上、更に好ましくは47.5以上、より更に好ましくは47.9以上である。また、好ましくは54.0以下、より好ましくは53.0以下、更に好ましくは52.0以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは46.5~54.0、より好ましくは47.0~53.0、更に好ましくは47.5~52.0、より更に好ましくは47.9~52.0である。
【0019】
(要件(3):硫黄分)
要件(3)では、硫黄分が、鉱油系基油(X)の全量基準で、80質量ppm以上200質量ppm以下であることを規定している。
鉱油系基油(X)の硫黄分が、鉱油系基油(X)の全量基準で、80質量ppm未満であると、酸化安定性が劣る。つまり、この場合には、酸化安定性を確保するための硫黄分が不足し、酸化安定性が劣るものと推察される。
また、鉱油系基油(X)の硫黄分が、鉱油系基油(X)の全量基準で、200質量ppm超であると、耐腐食性が劣る。つまり、この場合には、硫黄分を過剰に含むため、銅等の金属を腐食すると推察される。
なお、基油の精製の過程で基油中の硫黄分を低減すると、これに随伴して基油中の芳香族分も低減する。そのため、基油中の硫黄分を低減することは、水素ガス吸収性の向上を担う芳香族分を低減することになる。しかしながら、本実施形態では、鉱油系基油(X)を、要件(2)及び要件(5)を満たすものとすることで、水素ガス吸収性に優れる基油としている。
【0020】
本実施形態において、鉱油系基油(X)の酸化安定性をより向上させやすくする観点から、硫黄分は、好ましくは85質量ppm以上、より好ましくは90質量ppm以上、更に好ましくは95質量ppm以上、より更に好ましくは100質量ppm以上である。
また、鉱油系基油(X)の耐銅腐食性を向上させやすくする観点から、硫黄分は、好ましくは170質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以下、更に好ましくは140質量ppm以下、より更に好ましくは130質量ppm以下、更になお好ましくは120質量ppm以下、一層好ましくは110質量ppm以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは85質量ppm~170質量ppm、より好ましくは90質量ppm~150質量ppm、更に好ましくは95質量ppm~140質量ppm、より更に好ましくは100質量ppm~130質量ppm、更になお好ましくは100質量ppm~120質量ppm、一層好ましくは100質量ppm~110質量ppmである。
なお、本明細書において、硫黄分は、JIS K2541:2013に準拠し、硫黄分に応じて、微量電量滴定式酸化法、燃焼管式空気法、放射線式励起法、ボンベ式質量法、紫外蛍光法、及び波長分散蛍光X線法から選択して測定した値を意味する。
【0021】
(要件(4):銅板腐食試験評点)
要件(4)では、腐食性硫黄試験(ASTM D1275 B法)を実施し、JIS K2513:2000に準拠して測定される銅板腐食試験評点が、2以下であることを規定している。
銅板腐食試験評点は、耐腐食性の指標となる値であり、小さいほど耐腐食性に優れる。
銅板腐食試験評点が3以上であると、耐腐食性が劣る。
なお、銅板腐食試験評点が「2」以下であるとは、銅板腐食試験評点が、「1a、1b、2a、2b、2c、2d、2e」のいずれかであることを意味する。また、「銅板腐食試験評点」は、「変色番号」ともいう。
ここで、鉱油系基油(X)の耐腐食性は、銅板腐食試験評点が「1a、1b、2a、2b、2c、2d」のいずれかであることが好ましく、「1a、1b、2a、2b、2c」のいずれかであることがより好ましく、「1a、1b、2a、2b」のいずれかであることが更に好ましく、「1a、1b、2a」のいずれかであることがより更に好ましく、「1a、1b」のいずれかであることが更になお好ましい。
【0022】
(要件(5):式(I))
要件(5)では、分析(n-d-M法)による%Cと%Cとが、下記式(I)を満たすことを規定している。
%C+(%C/3)>21.1 (I)
%C+(%C/3)の値が21.1以下であると、水素ガス吸収性が劣る。
鉱油系基油(X)は、要件(1)で規定するように、芳香族分が少ない基油である。基油中中の芳香族分は、水素ガス吸収性の向上を担っており、基油中の芳香族分が少ないと水素ガス吸収性が劣る傾向にある。本発明者は、鋭意検討を進めた結果、基油の芳香族分だけでなく、ナフテン分にも着目し、ナフテン分の寄与を芳香族分に対して1/3程度に設定することで(すなわち、%C+(%C/3)とすることで)、水素ガス吸収性との相関が極めて良好になることを見出した。
なお、この理由は明らかにはなっていないが、ナフテン分もまた、芳香族分ほどではないにせよ、水素ガス吸収性の向上に寄与していることに起因するものと推察される。
【0023】
本実施形態において、鉱油系基油(X)の水素ガス吸収性をより向上させやすくする観点から、%C+(%C/3)は、好ましくは21.2以上、より好ましくは21.3以上、更に好ましくは21.4以上である。
また、%C及び%Cの好ましい上限値を考慮すると、%C+(%C/3)は、好ましくは24.8以下、より好ましくは24.0以下、更に好ましくは23.5以下、より更に好ましくは23.0以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは21.2~24.8、より好ましくは21.3~24.0、更に好ましくは21.4~23.5、より更に好ましくは21.4~23.0である。
【0024】
<鉱油系基油(X):他の要件>
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点、電気絶縁油組成物として求められる性状を満たしやすくする観点から、さらに、以下に説明する要件から選択される1つ以上を満たすことが好ましい。
【0025】
(要件(6):流動点)
要件(6)では、流動点が、-37.5℃以下であることを規定している。
鉱油系基油(X)の流動点が、-37.5℃以下であることによって、寒冷地等においても使用が制限されることのない、汎用性が高い電気絶縁油組成物とすることができる。
本実施形態において、流動点は、好ましくは-80℃以上である。
なお、本明細書において、流動点は、JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準拠して測定した値を意味する。
【0026】
(要件(7):%C
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、環分析(n-d-M法)による%Cが、好ましくは42.0以上、より好ましくは42.5以上、更に好ましくは43.0以上である。また、好ましくは48.0以下、より好ましくは47.5以下、更に好ましくは47.0以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは42.0~48.0、より好ましくは42.5~47.5、更に好ましくは43.0~47.0である。
【0027】
(要件(8):40℃動粘度)
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、40℃動粘度が、好ましくは8.00mm/s以上、より好ましくは8.10mm/s以上、更に好ましくは8.20mm/s以上、より更に好ましくは8.30mm/s以上である。また、好ましくは9.00mm/s以下、より好ましくは8.80mm/s以下、更に好ましくは8.70mm/s以下、より更に好ましくは8.60mm/s以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは8.00mm/s~9.00mm/s、より好ましくは8.10mm/s~8.80mm/s、更に好ましくは8.20mm/s~8.70mm/s、より更に好ましくは8.30mm/s~8.60mm/sである。
なお、本明細書において、40℃動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定した値を意味する。
【0028】
(要件(9):100℃動粘度)
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、100℃動粘度が、好ましくは2.00mm/s以上、より好ましくは2.10mm/s以上、更に好ましくは2.20mm/s以上である。また、好ましくは2.50mm/s以下、より好ましくは2.40mm/s以下、更に好ましくは2.30mm/s以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは2.00mm/s~2.50mm/s、より好ましくは2.10mm/s~2.40mm/s、更に好ましくは2.20mm/s~2.30mm/sである。
なお、本明細書において、100℃動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定した値を意味する。
【0029】
(要件(10):粘度指数)
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、粘度指数が、好ましくは48以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは52以上である。また、好ましくは66以下、より好ましくは64以下、更に好ましくは62以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは48~66、より好ましくは50~64、更に好ましくは52~62である。
なお、本明細書において、粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠し、40℃動粘度及び100℃動粘度の測定値から算出した値を意味する。
【0030】
(要件(11):密度)
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、密度(15℃)が、好ましくは0.860g/cm以上、より好ましくは0.865g/cm以上、更に好ましくは0.870g/cm以上である。また、好ましくは0.900g/cm以下、より好ましくは0.895g/cm以下、更に好ましくは0.890g/cm以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.860g/cm~0.900g/cm、より好ましくは0.865g/cm~0.895g/cm、更に好ましくは0.870g/cm~0.890g/cmである。
なお、本明細書において、密度(15℃)は、JIS K2249-1:2011(原油及び石油製品-密度の求め方- 第1部:振動法)に準拠して測定した値を意味する。
【0031】
(要件(12):アニリン点)
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、アニリン点が、好ましくは70.0℃以上、より好ましくは72.0℃以上、更に好ましくは73.0℃以上である。また、好ましくは82.0℃以下、より好ましくは80.0℃以下、更に好ましくは79.0℃以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは70.0℃~82.0℃、より好ましくは72.0℃~80.0℃、更に好ましくは73.0℃~79.0℃である。
なお、本明細書において、アニリン点は、 JIS K 2256:2013に準拠して測定した値を意味する。
【0032】
(要件(13):引火点)
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、ペルスキーマルテンス密閉法による引火点が、好ましくは140℃以上、より好ましくは143℃以上、更に好ましくは145℃以上である。また、好ましくは160℃以下、より好ましくは155℃以下、更に好ましくは150℃以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは140℃~160℃、より好ましくは143℃~155℃、更に好ましくは145℃~150℃である。
なお、本明細書において、ペルスキーマルテンス密閉法による引火点は、JIS K 2265-3:2007に準拠して測定した値を意味する。
【0033】
(要件(14):フルフラール含有量)
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、フルフラール含有量が、0.01質量ppm未満であることが好ましい。
なお、本明細書において、フルフラール含有量は、石油学会規格JPI-5S-58-99 電気絶縁油-フルフラール定量試験法により測定される値を意味する。
【0034】
<鉱油系基油(X)の調製方法>
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、上記要件を満たす限り、組成は特に限定されないが、上記要件を満たす鉱油系基油(X)を調製しやすくする観点から、鉱油系基油(X)は、下記要件(α1)及び(α2)を満たす低硫黄型鉱油(α)と、下記要件(β1)及び(β2)を満たす高硫黄型鉱油(β)とを含むことが好ましい。
・要件(α1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上7.0以下である。
・要件(α2):硫黄分が、低硫黄型鉱油(α)の全量基準で、20質量ppm以下である。
・要件(β1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上である。
・要件(β2):硫黄分が、高硫黄型鉱油(β)の全量基準で、150質量ppm以上400質量ppm以下である。
【0035】
また、本実施形態において、低硫黄型鉱油(α)及び高硫黄型鉱油(β)の合計含有量[(α)+(β)]は、鉱油系基油(X)の全量基準で、好ましくは90質量%~100質量%、より好ましくは95質量%~100質量%、更に好ましくは98質量%~100質量%、より更に好ましくは99質量%~100質量%である。
【0036】
以下、低硫黄型鉱油(α)及び高硫黄型鉱油(β)について、鉱油系基油(X)の調製方法を踏まえつつ、詳細に説明する。
【0037】
(低硫黄型鉱油(α))
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、下記要件(α1)及び(α2)を満たす低硫黄型鉱油(α)を含むことが好ましい。
・要件(α1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上7.0以下である。
・要件(α2):硫黄分が、水素化精製鉱油(α)の全量基準で、20質量ppm以下である。
鉱油系基油(X)が、上記要件(α1)及び(α2)を満たす低硫黄型鉱油(α)を含むことで、高硫黄型鉱油(β)との組み合わせにより、上記要件(1)~(5)、更には上記要件(6)~(13)を満たす基油を調製しやすい。
【0038】
ここで、低硫黄型鉱油(α)の流動点を低く調整しやすくする観点から、低硫黄型鉱油(α)は、硫黄分が3質量ppm未満の超低硫黄鉱油(αVL)を含むことが好ましい。
なお、超低硫黄鉱油(αVL)は、環分析(n-d-M法)による%Cが、好ましくは3.4~6.4、より好ましくは3.9~5.9、更に好ましくは4.4~5.4である。
本実施形態において、超低硫黄鉱油(αVL)の含有量は、特に上記要件(1)及び上記要件(6)を満たしやすくする観点から、低硫黄型鉱油(α)の全量基準で、好ましくは30質量%~70質量%、より好ましくは35質量%~65質量%、更に好ましくは40質量%~60質量%である。
【0039】
ここで、低硫黄型鉱油(α)は、上記要件を満たしやすくする観点から、超低硫黄鉱油(αVL)以外の他の低硫黄鉱油を含むことが好ましい。他の低硫黄鉱油としては、例えば、硫黄分が3質量ppm超20質量ppm以下(好ましくは3質量ppm超15質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm超10質量ppm以下)である低硫黄鉱油(αL)が挙げられる。
なお、低硫黄鉱油(αL)は、環分析(n-d-M法)による%Cが、好ましくは6.0~9.0、より好ましくは6.0~8.0、更に好ましくは6.0~7.0である。
本実施形態において、低硫黄鉱油(αL)の含有量は、超低硫黄鉱油(αVL)との組み合わせにより、特に上記要件(1)及び上記要件(6)を満たしやすくする観点から、低硫黄型鉱油(α)の全量基準で、好ましくは30質量%~70質量%、より好ましくは35質量%~65質量%、更に好ましくは40質量%~60質量%である。
【0040】
また、超低硫黄鉱油(αVL)及び低硫黄鉱油(αL)の合計含有量は、低硫黄型鉱油(α)の全量基準で、好ましくは90質量%~100質量%、より好ましくは95質量%~100質量%、更に好ましくは98質量%~100質量%、より更に好ましくは99質量%~100質量%である。
【0041】
以下、超低硫黄鉱油(αVL)及び低硫黄鉱油(αL)の調製方法について説明する。
【0042】
-超低硫黄鉱油(αVL)-
超低硫黄鉱油(αVL)は、例えば、パラフィン系原油又は中間基原油等の原油の常圧蒸留残油を減圧蒸留して得られる減圧留出油に対し、水素化分解処理及び水素化改質処理等から選択される1種以上の処理を行い、次いで水素化異性化脱蝋を行うことで得られる。
超低硫黄鉱油(αVL)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
超低硫黄鉱油(αVL)は、水素化分解処理及び水素化改質処理等から選択される1種以上の処理により、上記減圧留出油に由来する硫黄化合物(さらには窒素化合物)などの不純物が高度に除去される。また、ナフテン分の開環、芳香族分の水素化及び開環が進行する。そのため、硫黄分が極めて少なく、芳香族分も少ないが、低硫黄鉱油(αL)と組み合わせることによって、硫黄分の少なさと芳香族分の少なさが補完される。
そして、超低硫黄鉱油(αVL)は、水素化異性化脱蝋処理により、直鎖パラフィンが分岐鎖状のイソパラフィンに異性化されている。そのため、流動点が低く、上記要件(6)を満たすように鉱油系基油(X)の流動点を低温に調整しやすくできる。
【0044】
ここで、超低硫黄鉱油(αVL)は、以下の物性値を有することが好ましい。
・流動点
好ましくは-50℃未満である。
・%C
好ましくは3.4~6.4、より好ましくは3.9~5.9、更に好ましくは4.4~5.4である。
・%C
好ましくは35.0~45.0、より好ましくは38.0~44.0、更に好ましくは40.0~43.0である。
・%C
好ましくは51.7~54.7、より好ましくは52.3~54.2、更に好ましくは52.8~53.7である。
・40℃動粘度
好ましくは8.00mm/s~9.10mm/s、より好ましくは8.10mm/s~8.60mm/s、更に好ましくは8.10mm/s~8.40mm/sである。
・100℃動粘度
好ましくは2.10mm/s~2.60mm/s、より好ましくは2.15mm/s~2.50mm/s、更に好ましくは2.20mm/s~2.40mm/sである。
・粘度指数
好ましくは60~80、より好ましくは65~75、更に好ましくは67~73である。
・密度
好ましくは0.8610g/cm~0.8710g/cm、より好ましくは0.8630g/cm~0.8690g/cm、更に好ましくは0.8640g/cm~0.8680g/cmである。
・アニリン点
好ましくは75.0℃~95.0℃、より好ましくは80.0℃~90.0℃、更に好ましくは82.0℃~88.0℃である。
・引火点
好ましくは130℃~160℃、より好ましくは130℃~150℃、更に好ましくは130℃~145℃である。
・フルフラール含有量
好ましくは0.01質量ppm未満である。
【0045】
-低硫黄鉱油(αL)-
低硫黄鉱油(αL)は、例えば、パラフィン系原油又は中間基原油等の原油の常圧蒸留残油を減圧蒸留して得られる減圧留出油に対し、水素化分解処理及び水素化改質処理から選択される1種以上の処理を行い、次いで溶剤脱蝋を行うことで得られる。
【0046】
低硫黄鉱油(αL)は、水素化分解処理及び水素化改質処理から選択される1種以上の処理が行われた後、溶剤脱蝋処理により、低温環境下で直鎖パラフィンを析出させ分離除去している。低硫黄鉱油(αL)の流動点は、溶剤脱蝋処理の際の直鎖パラフィンの析出温度に依存し、析出温度を低温に設定する程、流動点は低下する一方、処理にかかるコストが上昇する。なお、本実施形態では、低硫黄鉱油(αL)の流動点が-25℃程度であっても、超低硫黄鉱油(αVL)及び高硫黄型鉱油(β)との組み合わせにより、鉱油系基油(X)の流動点を-37.5℃以下に調整し得る。したがって、低硫黄鉱油(αL)の流動点を-25℃程度に設定して低硫黄鉱油(αL)の製造コストを低減することで、低硫黄型鉱油(α)にかかるコストを全体的に低減することができる。
【0047】
ここで、低硫黄鉱油(αL)は、以下の物性値を有することが好ましい。
・流動点
好ましくは-30℃~-20℃である。
・%C
好ましくは6.0~9.0、より好ましくは6.0~8.0、更に好ましくは6.0~7.0である。である。
・%C
好ましくは30.0~45.0、より好ましくは35.0~44.0、更に好ましくは37.0~43.0である。
・%C
好ましくは50.6~56.0、より好ましくは52.0~56.0、更に好ましくは53.0~56.0である。
・40℃動粘度
好ましくは7.90mm/s~8.90mm/s、より好ましくは8.00mm/s~8.80mm/s、更に好ましくは8.10mm/s~8.70mm/sである。
・100℃動粘度
好ましくは2.00mm/s~2.50mm/s、より好ましくは2.05mm/s~2.45mm/s、更に好ましくは2.10mm/s~2.40mm/sである。
・粘度指数
好ましくは60~90、より好ましくは70~90、更に好ましくは75~85である。
・密度
好ましくは0.8600g/cm~0.8760g/cm、より好ましくは0.8620g/cm~0.8700g/cm、更に好ましくは0.8630g/cm~0.8680g/cmである。
・アニリン点
好ましくは68.0℃~90.0℃、より好ましくは73.0℃~88.0℃、更に好ましくは75.0℃~86.0℃である。
・引火点
好ましくは140℃~175℃、より好ましくは145℃~170℃、更に好ましくは145℃~165℃である。
・フルフラール含有量
好ましくは0.01質量ppm未満である。
【0048】
(高硫黄型鉱油(β))
本実施形態において、鉱油系基油(X)は、下記要件(β1)及び(β2)を満たす高硫黄型鉱油(β)を含むことが好ましい。
・要件(β1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上である。
・要件(β2):硫黄分が、前記高硫黄型鉱油(β)の全量基準で、150質量ppm以上400質量ppm以下である。
鉱油系基油(X)が、上記要件(β1)及び(β2)を満たす高硫黄型鉱油(β)を含むことで、低硫黄型鉱油(α)との組み合わせにより、上記要件(1)~(5)、更には上記要件(6)~(13)を満たす基油を調製しやすい。
【0049】
高硫黄型鉱油(β)は、例えば、ナフテン基系原油を常減圧蒸留して得られる留出油に対し、溶剤抽出処理することで得られる。また、高硫黄型鉱油(β)は、溶剤抽出処理の他に、脱蝋処理、脱れき処理、水素化仕上げ、アルカリ処理、白土処理等の従来公知の精製プロセスを適宜組み合わせて製造してもよい。
高硫黄型鉱油(β)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
高硫黄型鉱油(β)は、溶剤抽出処理により、上記留出油に由来する過剰の芳香族分及び硫黄化合物(さらには窒素化合物)等を除去しつつも、酸化防止剤として機能し得る硫黄化合物は適度に残留させることができる。そのため、適切な量の硫黄分が残留し、要件(3)を満たすように電気絶縁油組成物の硫黄分を所定の範囲に調整しやすくできる。
また、芳香族分の低減に起因する水素ガス吸収性の低下についても、上記要件(1)及び(2)、さらには上記要件(5)を満たすように、低硫黄型鉱油(α)と高硫黄型鉱油(β)との配合比率(含有比率)を調整することで解消され、良好な水素ガス吸収性を発揮する鉱油系基油(X)を調製することができる。
【0051】
また、溶剤抽出処理を行う際の、フルフラール(S)とラフィネート(R、原料基油)との投入比率[(S)/(R)]は、過剰な硫黄分等を除去しやすくする観点から、体積比で、好ましくは1.50超、より好ましくは1.70以上、更に好ましくは1.75以上である。また、硫黄分及び芳香族分を過剰に除去しすぎないようにする観点から、好ましくは2.50未満、より好ましくは2.30以下、更に好ましくは2.25以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは1.50超~2.50未満、より好ましくは1.70~2.30、更に好ましくは1.75~2.25である。
【0052】
ここで、高硫黄型鉱油(β)は、以下の物性値を有することが好ましい。
・流動点
好ましくは-50℃以下である。
・%C
好ましくは4.0~7.5、より好ましくは4.5~7.0、更に好ましくは4.7~6.8である。
・%C
好ましくは57.2~59.0、より好ましくは57.5~58.7、更に好ましくは57.6~58.5である。
・%C
好ましくは35.4~36.9、より好ましくは35.5~36.8、更に好ましくは35.6~36.7である。
・40℃動粘度
好ましくは8.50mm/s~9.00mm/s、より好ましくは8.55mm/s~8.95mm/s、更に好ましくは8.60mm/s~8.90mm/sである。
・100℃動粘度
好ましくは2.00mm/s~2.40mm/s、より好ましくは2.05mm/s~2.35mm/s、更に好ましくは2.10mm/s~2.30mm/sである。
・粘度指数
好ましくは31~37、より好ましくは32~36、更に好ましくは33~35である。
・密度(15℃)
好ましくは0.8960g/cm~0.9020g/cm、より好ましくは0.8970g/cm~0.9010g/cmである。
・アニリン点
好ましくは65.4℃~70.9℃、より好ましくは65.8℃~70.5℃、更に好ましくは66.0℃~70.0℃である。
・引火点
好ましくは140℃~160℃、より好ましくは143℃~155℃、更に好ましくは145℃~150℃である。
・フルフラール含有量
好ましくは0.01質量ppm未満である。
【0053】
(低硫黄型鉱油(α)と高硫黄型鉱油(β)の配合比率の調整)
本実施形態において、鉱油系基油(X)が、低硫黄型鉱油(α)及び高硫黄型鉱油(β)を含有する場合、低硫黄型鉱油(α)及び高硫黄型鉱油(β)の配合比率(含有比率)[(α)/(β)]は、上記要件を満たす鉱油系基油(X)を調製しやすくする観点から、好ましくは30/70~70/30、より好ましくは35/65~65/35、更に好ましくは40/60~60/40である。
【0054】
(他の処理)
なお、低硫黄型鉱油(α)、超低硫黄鉱油(αVL)、低硫黄鉱油(αL)、及び高硫黄鉱油(β)には、上記以外の他の処理、例えば、活性炭、アルミナ、シリカゲル、モレキュラーシーブ、白土等による処理が施されていてもよい。
なお、これらの処理は、低硫黄型鉱油(α)、超低硫黄鉱油(αVL)、低硫黄鉱油(αL)、及び高硫黄鉱油(β)のそれぞれに対して施されてもよいし、これらを混合した後に施されてもよい。
【0055】
<添加剤>
本実施形態の電気絶縁油組成物は、電気絶縁油の規格に応じて、フェノール系酸化防止剤(例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール等)、アミン系酸化防止剤、モリブデンアミン系酸化防止剤、及び硫黄系酸化防止剤からなる群から選択される1種以上の酸化防止剤を含んでいてもよい。
また、電気絶縁油の規格に応じて、他の添加剤として、金属不活性化剤、流動点降下剤、並びに、防錆剤及び流動帯電防止剤(例えば、防錆剤と流動帯電防止剤とを兼ねるベンゾトリアゾール系化合物)等から選択される1種以上を更に含んでいてもよい。
【0056】
[電気絶縁油組成物の調製]
本実施形態の電気絶縁油組成物は、鉱油系基油(X)のみからなる場合には、鉱油系基油(X)を調製することによって、電気絶縁油組成物(電気絶縁油)が得られる。
また、本実施形態の電気絶縁油組成物が、上記添加剤を含む場合には、鉱油系基油(X)と当該添加剤とを混合することによって、電気絶縁油組成物が得られる。
【0057】
[電気絶縁油組成物の性状]
<酸化試験後の酸価及びスラッジ量>
本実施形態の電気絶縁油組成物は、後述する実施例に記載の方法で酸化安定性試験を実施した後の酸価が、好ましくは0.60mgKOH/g以下、より好ましくは0.50mgKOH/g以下、更に好ましくは0.40mgKOH/gである。
また、本実施形態の電気絶縁油組成物は、後述する実施例に記載の方法で酸化安定性試験を実施した後のスラッジ量が、好ましくは0.40質量%以下、より好ましく0.30質量%以下、更に好ましくは0.20質量%以下、より更に好ましくは0.10質量%以下である。
【0058】
<水素ガス吸収性>
本実施形態の電気絶縁油組成物は、後述する実施例に記載の方法で測定した水素ガス吸収性が、好ましくは+20μL/min以下、より好ましくは+19μL/min以下、更に好ましくは+18μL/min以下である。
【0059】
<連続酸化劣化試験における誘電正接ピーク>
本実施形態の電気絶縁油組成物は、後述する実施例に記載の方法で測定した連続酸化劣化試験における誘電正接ピークが、好ましくは0.60%以下である。
【0060】
[電気絶縁油組成物の用途]
本実施形態の電気絶縁油組成物は、油入コンデンサ、油入ケーブル、油入変圧器、及び油入遮断器等の油入電気機器の絶縁材料として使用することができる。
したがって、本発明によれば、本実施形態の電気絶縁油組成物を、油入コンデンサ、油入ケーブル、油入変圧器、及び油入遮断器等の油入電気機器の絶縁材料として使用する方法が提供される。
また、本発明によれば、本実施形態の電気絶縁油組成物を含む、油入コンデンサ、油入ケーブル、油入変圧器、及び油入遮断器等の油入電気機器の絶縁材料が提供される。
【0061】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様によれば、下記[1]~[6]が提供される。
[1] 下記要件(1)~(5)を満たす鉱油系基油(X)を含有する、電気絶縁油組成物。
・要件(1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上6.8以下である。
・要件(2):環分析(n-d-M法)による%Cが、46.0以上である。
・要件(3):硫黄分が、前記鉱油系基油(X)の全量基準で、80質量ppm以上200質量ppm以下である。
・要件(4):腐食性硫黄試験(ASTM D1275 B法)を実施し、JIS K2513:2000に準拠して測定される銅板腐食試験評点が、2以下である。
・要件(5):環分析(n-d-M法)による%Cと%Cとが、下記式(I)を満たす。
%C+(%C/3)>21.1 (I)
[2] さらに、前記鉱油系基油(X)が、下記要件(6)を満たす、上記[1]に記載の電気絶縁油組成物。
・要件(6):流動点が、-37.5℃以下である。
[3] 前記鉱油系基油(X)は、下記要件(α1)及び(α2)を満たす低硫黄型鉱油(α)と、下記要件(β1)及び(β2)を満たす高硫黄型鉱油(β)とを含む、上記[1]又は[2]に記載の電気絶縁油組成物。
・要件(α1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上7.0以下である。
・要件(α2):硫黄分が、前記低硫黄型鉱油(α)の全量基準で、20質量ppm以下である。
・要件(β1):環分析(n-d-M法)による%Cが、4.5以上である。
・要件(β2):硫黄分が、前記高硫黄型鉱油(β)の全量基準で、150質量ppm以上400質量ppm以下である。
[4] 前記低硫黄型鉱油(α)及び前記高硫黄型鉱油(β)の合計含有量[(α)+(β)]が、前記鉱油系基油(X)の全量基準で、90質量%以上100質量%以下である、上記[3]に記載の電気絶縁油組成物。
[5] さらに、酸化防止剤及び腐食防止剤から選択される1種以上の添加剤を含有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の電気絶縁油組成物。
[6] 上記[1]~[5]のいずれかに記載の電気絶縁油組成物を含む、油入電気機器の絶縁材料。
【実施例0062】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
[各種物性値の測定方法]
各実施例及び各比較例で用いた基油及び電気絶縁油組成物の各種物性値の測定は、以下に示す要領に従って行ったものである。
(1)芳香族分(%C)、ナフテン分(%C)、及びパラフィン分(%C)、分子量
ASTM D3238:1995に準拠し、環分析(n-d-M法)により算出した。
(2)硫黄分
JIS K 2541-2:2013の「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-微量電量滴定式酸化法」に準拠して測定した。
(3)流動点
JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準拠して測定した。
(4)動粘度及び粘度指数
40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(5)密度(15℃)
JIS K 2249-1:2011(原油及び石油製品-密度の求め方- 第1部:振動法)に準拠して測定した。
(6)アニリン点
JIS K 2256:2013に準拠して測定した。
(7)引火点
JIS K2265-3:2007に準拠し、ペンスキーマルテンス密閉法(PM)法により測定した。
(8)フルフラール含有量
石油学会規格JPI-5S-58-99 電気絶縁油-フルフラール定量試験法に基づき測定した。
【0064】
[実施例1~5及び比較例1~4]
まず、表1に示す鉱油を準備した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示す鉱油の製造方法を以下に示す。
【0067】
<製造例1:低硫黄型鉱油(α)-1の製造)
中間基原油の常圧蒸留残油を減圧蒸留して得られる減圧留出油に対し、水素化改質処理を行い、次いで水素化異性化脱蝋を行うことにより、超低硫黄鉱油(αVL)を得た。
また、中間基原油の常圧蒸留残油を減圧蒸留して得られる減圧留出油に対し、水素化改質処理を行い、次いで溶剤脱蝋を行うことにより低硫黄鉱油(αL)を得た。
そして、水素化異性化脱蝋油と溶剤脱蝋油とを、質量比で、50:50の割合で混合し、低硫黄型(α)-1を得た。
【0068】
<製造例2:高硫黄型鉱油(β)-1の製造>
ナフテン基原油を常減圧蒸留して得られる留出油に対し、溶剤抽出処理し、更にアルカリ処理することで、高硫黄型鉱油(β)-1を得た。
溶剤抽出工程において、留出油(R)に対するフルフラール(S)の投入比率[(S)/(R)]は、体積比で、1.75とした。
【0069】
<製造例3:高硫黄型鉱油(β)-2の製造>
[(S)/(R)]を2.0に調整したこと以外は、製造例2と同様の方法で、高硫黄型鉱油(β)-2を得た。
【0070】
<製造例4:高硫黄型鉱油(β)-3の製造>
[(S)/(R)]を2.25に調整したこと以外は、製造例2と同様の方法で、高硫黄型鉱油(β)-3を得た。
【0071】
<比較製造例1:高硫黄型鉱油(β’)-1の製造>
[(S)/(R)]を1.5に調整したこと以外は、製造例2と同様の方法で、高硫黄型鉱油(β’)-1を得た。
【0072】
<比較製造例2:高硫黄型鉱油(β’)-2の製造>
[(S)/(R)]を2.5に調整したこと以外は、製造例2と同様の方法で、高硫黄型鉱油(β’)-2を得た。
【0073】
次に、表2に示す配合で、各種鉱油を混合した後、白土処理を行って、鉱油系基油を調製し、実施例1~5及び比較例1~4の電気絶縁油組成物を得た。
なお、実施例1~5及び比較例1~4の電気絶縁油組成物は、鉱油系基油のみからなる電気絶縁油組成物である。
【0074】
[評価]
実施例1~5及び比較例1~4の電気絶縁油組成物について、以下の評価を行った。
【0075】
<耐腐食性の評価>
実施例1~5及び比較例1~4の電気絶縁油組成物について、ASTM D1275Bに準拠して、硫黄腐食試験を実施し、銅に対する腐食性を評価した。銅板腐食試験評点は、JIS K2513:2000に準拠して測定した。
本実施例では、銅板腐食試験評点が2以下である電気絶縁油組成物を合格とした。
【0076】
<酸化安定性試験後の酸価及びスラッジ量の評価>
実施例1~5及び比較例1~4の電気絶縁油組成物について、JIS C2101:2010に準拠し、下記試験条件で酸化安定性試験を実施し、酸価及びスラッジ量を測定した。
・試験条件:120℃、75時間
酸化安定性試験後の酸価は、JIS K2501-7:2003に準拠して測定した。
酸化安定性試験後の酸価が小さいほど、酸化安定性に優れる電気絶縁油組成物であるといえる。
本実施例では、酸化安定性試験後の酸価が0.6mgKOH/g以下である電気絶縁油組成物を合格とした。
酸化安定性試験後のスラッジ量は、JIS C2101:2010に準拠して測定した。
酸化安定性試験後のスラッジ量が少ないほど、酸化安定性に優れる電気絶縁油組成物であるといえる。
本実施例では、酸化安定性試験後のスラッジ量が0.4質量%以下である電気絶縁油組成物を合格とした。
【0077】
<水素ガス吸収性の評価>
実施例1~5及び比較例1~4の電気絶縁油組成物について、ASTM D2300に準拠して、水素ガス吸収性を評価した。
水素ガス吸収性を示す数値が正の値を示す場合、その値が0に近づくほど、水素ガスの放出が少ないことを意味する。また、水素ガス吸収性を示す数値が負の値を示す場合、その値が0から遠ざかるほど、水素ガスの吸収量が多いことを意味する。
本実施例では、水素ガス吸収性が+20μL/min以下である電気絶縁油組成物を合格とした。
【0078】
<連続酸化劣化試験>
実施例1~5及び比較例1~4の電気絶縁油組成物を、銅触媒存在下で空気を吹き込みながら温度95℃で酸化劣化させて誘電正接tanδを連続的に測定し、tanδのピーク(極大値)を評価した。本試験は、「電気協同研究 第54巻第5号(その1)油入変圧器の保守管理 P298 付8-2連続酸化試験」に記された方法で実施した。
本試験は、経年劣化した電気絶縁油の流動帯電現象により発生する絶縁破壊トラブルの防止を目的に評価する試験であり、tanδのピーク(極大値)が小さい電気絶縁油ほど好ましいとされている。本実施例では、0.6%以下を合格とした。
【0079】
結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示す結果から、以下のことがわかる。
実施例1~4の電気絶縁油組成物は、耐腐食性に優れるとともに、酸化安定性及び水素ガス吸収性にも優れることがわかる。
これに対し、比較例1の電気絶縁油組成物は、環分析(n-d-M法)による%Cが上記要件(1)に規定する範囲よりも大きく、硫黄分が上記要件(3)に規定する範囲よりも大きく、その結果として、耐腐食性が上記要件(4)を満たさないことがわかる。
比較例2の電気絶縁油組成物は、環分析(n-d-M法)による%Cが上記要件(1)に規定する範囲よりも小さく、硫黄分が上記要件(3)に規定する範囲よりも小さく、%C+(%C/3)が上記要件(5)を満たさず、その結果として、水素ガス吸収性が劣ることがわかる。
比較例3の電気絶縁油組成物は、硫黄分が上記要件(3)に規定する範囲よりも大きく、その結果として、耐腐食性が上記要件(4)を満たさないことがわかる。
比較例4の電気絶縁油組成物は、環分析(n-d-M法)による%CNが上記要件(2)に規定する範囲を満たさず、%C+(%C/3)が上記要件(5)を満たさず、その結果として、水素ガス吸収性が劣ることがわかる。
【0082】
また、図1に%C+(%C/3)の値に対して水素ガス吸収性をプロットした図を示す。
図1に示すように、%C+(%C/3)と水素ガス吸収性との間には良好な相関があることがわかり、%C+(%C/3)の値が減少する程、水素ガス吸収性が悪化し、%C+(%C/3)の値が増加する程、水素ガス吸収性が良好になることがわかる。
図1