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特開2022-157972二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法及び二酸化珪素高含有燃焼灰を原料とするテトラアルコキシシランの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157972
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法及び二酸化珪素高含有燃焼灰を原料とするテトラアルコキシシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/04 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
C07F7/04 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062541
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深谷 訓久
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】岡部 治美
(72)【発明者】
【氏名】大槻 茂
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ21
4H049VR44
4H049VT03
4H049VT23
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】反応性の向上した二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法を提供することを課題とする。また、該製造方法により得られる二酸化珪素高含有燃焼灰を原料とするアルコキシシランの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕してから酸処理する、または酸の存在下で、二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕する二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法。該二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法により得られた二酸化珪素高含有燃焼灰とアルコール化合物とを反応させてアルコキシシランを製造する反応工程を含む、アルコキシシランの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒と共に二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕する粉砕処理工程と、
前記湿式粉砕後の前記燃焼灰を酸処理する酸処理工程と、を含む、二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法。
【請求項2】
酸の存在下、二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕する、粉砕-酸処理工程を含む、二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法。
【請求項3】
前記湿式粉砕後の前記燃焼灰の比表面積が30m/g以上である、請求項1に記載の二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法。
【請求項4】
前記酸が塩酸又は硝酸である、請求項1~3のいずれか1項に記載の二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法により得られた二酸化珪素高含有燃焼灰とアルコール化合物とを反応させてアルコキシシランを製造する反応工程を含む、アルコキシシランの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法及び二酸化珪素高含有燃焼灰を原料とするテトラアルコキシシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所などの燃焼炉では、石炭の燃焼に伴って二酸化珪素を含有する石炭灰が発生する。石炭灰は廃棄処理にコストを要し、有効利用が求められ、セメント・コンクリート分野でセメント混合剤等として使用されたり、土木・建築分野で人口軽量骨材として使用されたり、農林水産分野では肥料・融雪剤等として使用されたりしている。
石炭灰の主成分は二酸化珪素であり、そこで、本発明者らは石炭灰を減容化して廃棄処理を容易にする観点から、石炭灰中に含まれる二酸化珪素を用いたアルコキシシランの製造方法を開発してきた(特許文献1、2)。石炭灰は、燃焼炉中での熱履歴によって結晶質の含有量が高くなり、反応性が低く、二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率が必ずしも十分ではない。そこで、特許文献1は、アルカリ金属のフッ化物及びフッ化アンモニウムからなる群から選択された少なくとも1種の触媒の存在下、二酸化珪素を含む燃焼灰とアルコール化合物とを反応させてアルコキシシランを得る工程を含むことを特徴とする、有機珪素化合物の製造方法を開示している。特許文献2は、分散媒と共に二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕する粉砕処理工程と、触媒の存在下、前記湿式粉砕後の前記燃焼灰とアルコール化合物とを反応させてアルコキシシランを得る反応工程とを含むことを特徴とする、有機珪素化合物の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-196335号公報
【特許文献2】特開2019-196336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、反応性の向上した二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法を提供することを課題とする。また、該製造方法により得られる二酸化珪素高含有燃焼灰を原料とするアルコキシシランの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕してから酸処理する、または酸の存在下で二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕することで、二酸化珪素(SiO)の純度向上と比表面積増大が同時に起こることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の具体的態様等を提供する。
[1]
分散媒と共に二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕する粉砕処理工程と、
前記湿式粉砕後の前記燃焼灰を酸処理する酸処理工程と、を含む、二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法。
[2]
酸の存在下、二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕する、粉砕-酸処理工程を含む、二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法。
[3]
前記湿式粉砕後の前記燃焼灰の比表面積が30m/g以上である、[1]に記載の二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法。
[4]
前記酸が塩酸又は硝酸である[1]~[3]のいずれかに記載の二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法により得られた二酸化珪素高含有燃焼灰とアルコール化合物とを反応させてアルコキシシランを製造する反応工程を含む、アルコキシシランの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、反応性の向上した二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法が提供される。また、該製造方法により得られる二酸化珪素高含有燃焼灰を原料とするアルコキシシランの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の詳細を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0008】
1.二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法
本発明の第1の実施形態に係る二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法は、分散媒と共に二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕する粉砕処理工程と、前記湿式粉砕後の前記燃焼灰を酸処理する酸処理工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明の第2の実施形態に係る二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法は、酸の存在下、二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕する、粉砕-酸処理工程を含むことを特徴とする。
なお、本発明の第1及び第2の実施形態に係る二酸化珪素高含有燃焼灰とは、二酸化珪素の含有率が通常70重量%以上であり、72重量%以上であることが好ましく、73重量%以上であることがより好ましく、74重量%以上であることがさらに好ましく、また、通常95重量%以下である。
【0009】
特許文献1及び2において、触媒と粉砕方法を工夫することにより反応率を向上させているが、テトラアルコキシシランの収率(二酸化珪素の反応率)は36.2%が最大である。また、特許文献2には、湿式粉砕前に二酸化珪素を含有する燃焼灰を酸処理することにより、テトラアルコキシシランの収率(二酸化珪素の反応率)が11%から18%に向上したことが開示されている。
本発明者らは検討を重ねた結果、二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕してから酸処理する、または酸の存在下で、二酸化珪素を含有する燃焼灰を粉砕することで、二酸化珪素(SiO)の純度向上と比表面積増大が同時に起こるという知見を得た。さらに、このようにして得られる燃焼灰は、より反応性が高く、例えば、テトラアルコキシシランの製造において、収率を向上できることを見出した。本発明の効果を奏する理由について、以下のように推定される。
後述する実施例にも示されるように、フライアッシュの酸処理のみではSiO純度の向上があまり向上せず効果が低い。これは酸条件に比較的強いSi-O-Si構造の内部にアルミやカルシウム等のシリカ以外の成分が含有しており、酸と接触しがたいためであると考えらえる。粉砕を行うことによって、不純物成分が表面に露出し、酸と接触して溶解するためSiO2純度の向上が起こると考えられる。同時に、SiOにアルミが含まれる場合には、アルミ成分の溶出にともなって細孔の形成もしくはさらなる粒子の崩壊が起こるため顕著な比表面積の増大が起こると考えられ、これが反応性の向上の要因の一つと考えられる。
一方、粉砕処理のみでも比表面積の向上を図ることができるが、粉砕のみではアルミ成分が取り除かれないため、骨格内には[Si-O-Al-O-Si]というユニットが存在する(珪素とアルミの複合酸化物)。この結合ネットワークがあることにより、反応性が低いことが推測される。従って粉砕後に酸処理若しくは粉砕と同時に酸処理を行うことによるアルミ成分の除去、SiO純度が向上すること自体とが相まって、反応性の向上に寄与していると考えられる。
【0010】
1-1.第1の実施形態に係る二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法
(粉砕処理工程)
粉砕処理工程では、乳鉢と乳棒;ボールミルなどの一般的な粉砕機;等を用いて分散媒と共に二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕する。
例えば、遊星型ボールミルを用いる場合、遊星型ボールミル装置に用いられる容器および攪拌媒体であるボールとしては、例えば、ステンレススチール、メノウ、アルミナ、タングステンカーバイド、クロムスチール、ジルコニア、窒化珪素等の材質で形成されたものが挙げられる。これら材質の中でもジルコニア、メノウ、アルミナが好ましく、ジルコニアがより好ましい。
遊星型ボールミル装置に用いられる容器の大きさは、特に限定されないが、通常、10~1000cm程度のものである。また、ボールの大きさも、特に限定されないが、その直径が2~20mm程度のものである。例えば、容器の大きさが10~20cm程度の場合、直径が3~6mm程度のボールが好ましい。ボール充填率は、反応効率の観点から、容器の大きさ(容器容量)の20体積%~50体積%が好ましく、25体積%~40体積%がより好ましい。遊星型ボールミル装置は市販の装置を用いることが出来、好ましい遊星型ボールミルの具体例としては、例えば、遊星型ボール P-5クラッシックライン(ドイツ フリッチュ社製)、遊星型ボールミル P-6クラッシックライン(ドイツ
フリッチュ社製)、遊星型ボールミル P-7(ドイツ フリッチュ社製)、遊星型ボールミル PM100(ドイツ ヴァーダー・サイエンティフィック社製)等を挙げることができる。
二酸化珪素を含有する燃焼灰としては、特に制限はないが、例えば、クリンカアッシュ及びフライアッシュなどの石炭灰;もみ殻、オーツ麦、キビなどの植物を燃焼させた後に残る煤塵;等が挙げられ、好適には石炭灰が用いられる。石炭灰としては、アルコキシシランの製造に用いた際の収率向上の観点から、フライアッシュであることが好ましい。
【0011】
分散媒としては、二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕処理できるものであれば特に制限はない。分散媒としては、例えば、アルコール化合物、エーテル化合物及びエステル化合物などの各種有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、分散媒としては、アルコール化合物からなるアルコール系分散媒が好ましい。アルコール分散媒は、粉砕の際に二酸化珪素を含有する燃焼灰の表面に新たに生成する水酸基を適度にアルコキシ化して該燃焼灰の流動性を増大させ、粉砕を高効率化する粉砕助剤として作用し得るためである。
【0012】
また、アルコール系分散媒としては、炭素数1以上5以下のアルコール化合物からなるものが好ましい。炭素数1以上5以下のアルコール系分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール及びペンタノールなどが挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノールが好ましく、エタノールがより好ましい。これらのアルコール系分散媒を用いることにより、アルコール系分散媒を後述する反応工程のアルコール化合物として用いた場合であっても、二酸化珪素とアルコール化合物との反応性を向上させることが可能となるので、燃焼灰中の二酸化珪素を効率よくアルコキシシランに変換することが可能となる。
【0013】
分散媒の使用量としては、燃焼灰を粉砕できる範囲であれば特に制限はない。分散媒の使用量としては、例えば、燃焼灰100質量部に対して、100質量部以上が好ましく、200質量部以上がより好ましく、300質量部以上がさらに好ましく、また、10000質量部以下が好ましく、5000質量部以下がより好ましく、3000質量部以下が更に好ましい。これにより、粉砕時に燃焼灰がスラリー状になるので、燃焼灰を効率良く粉砕処理することができる。
【0014】
粉砕処理工程における湿式粉砕の条件は、燃焼灰を所望の比表面積とできる範囲であれば特に制限はない。湿式粉砕の温度は、例えば、20℃以上100℃以下である。湿式粉砕の時間は、例えば、1時間以上24時間以下である。また、粉砕機を用いて本工程を行う場合、粉砕機回転数は、通常50rpm以上であり、また、通常1000rpm以下、好ましくは500rpm以下である。
粉砕処理工程では、燃焼灰の比表面積を、30m/g以上とすることが好ましく、40m/g以上とすることがより好ましく、50m/g以上とすることが更に好ましく、また、500m/g以下とすることが好ましく、150m/g以下とすることがより好ましく、90m/g以下とすることが更に好ましい。湿式粉砕後の前記燃焼灰の比表面積が30m/g以上であると、燃焼灰の比表面積がアルコール化合物との反応に適した範囲となるので、燃焼灰中の二酸化珪素をアルコキシシランに効率よく変換することが可能となる。
【0015】
(酸処理工程)
本発明の第1の実施形態に係る燃焼灰の製造方法では、湿式粉砕後の燃焼灰を酸処理する酸処理工程を含む。この酸処理によって、燃焼灰の比表面積がより一層向上するので、燃焼灰中の二酸化珪素をアルコキシシランに効率よく変換できる。酸処理に用いられる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。これらの中でも塩酸又は硝酸が好ましく、塩酸がより好ましい。酸の濃度は特に限定されないが、通常1mol/L以上、好ましくは1.2mol/L以上、より好ましくは1.5mol/L以上であり、また、通常10.0mol/L以下、好ましくは6mol/L以下、より好ましくは4.0mol/L以下である。
酸の使用量(水溶液の場合は水溶液の使用量)としては、特に制限はなく、粉砕処理後の燃焼灰1質量部に対して、通常10質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上であり、また、通常10000質量部以下、好ましくは5000質量部以下、より好ましくは3000質量部以下である。
【0016】
酸処理工程の温度及び時間は、燃焼灰を所望の比表面積とできる範囲であれば特に制限はない。酸処理の温度は、通常25℃以上、好ましくは50℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは90℃以下である。また、酸処理の時間は、通常1分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、また、通常24時間以下であり、好ましくは18時間以下、より好ましくは16時間以下である。酸処理は、表面が耐酸性の容器等を用いて行うことができ、攪拌して行ってもよく、攪拌して行うことが好ましい。また、酸処理後の燃焼灰は、水で洗浄してから乾燥させることが好ましい。
酸処理工程では、燃焼灰の比表面積を、50m/g以上とすることが好ましく、70m/g以上とすることがより好ましく、90m/g以上とすることが更に好ましく、また1000m/g以下とすることが好ましく、500m/g以下とすることがより好ましく、300m/g以下とすることが更に好ましい。酸処理後の二酸化珪素高含有燃焼灰の比表面積が上記範囲の場合、アルコール化合物との反応に適した範囲となるので、燃焼灰中の二酸化珪素をアルコキシシランに効率よく変換することが可能となる。
燃焼灰の比表面積は、窒素ガス吸着測定によるBET法により決定される。燃焼灰中の二酸化ケイ素含有量は、ファンダメンタルパラメータ法による蛍光X線分析により測定される。
【0017】
1-2.第2の実施形態に係る二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法
(粉砕-酸処理工程)
本発明の第2の実施形態に係る二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法は、酸の存在下、二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕する、粉砕-酸処理工程を含む。すなわち、二酸化珪素を含有する燃焼灰の粉砕と酸処理を同時に行うものである。
粉砕-酸処理工程は、表面が耐酸性の容器等を用いて行うことができる。例えば、乳鉢と乳棒;ボールミルなどの一般的な粉砕機;等を用いて、二酸化珪素を含有する燃焼灰を、酸の存在下で湿式粉砕する。
例えば、遊星型ボールミルを用いる場合、遊星型ボールミルとしては、「1-1.第1の実施形態に係る二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法」の粉砕処理工程の説明において示したもののうち、表面が耐酸性のものが挙げられ、アルミナ、ジルコニア等の材質で形成されたものであることが好ましい。
二酸化珪素を含有する燃焼灰及び酸は、それぞれ第1の実施形態と同様である。
本実施形態では酸中で粉砕を行うので、有機溶媒などの分散媒を用いずに二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕することができる。また、水、アルコール化合物等を分散媒として用いることもできる。なお、水を分散媒として用いる場合は、酸の濃度は分散媒である水も含めて算出するものとする。
酸の使用量としては、燃焼灰を粉砕できる範囲であれば特に制限はなく、燃焼灰100質量部に対して、通常100質量部以上、好ましくは200質量部以上、より好ましくは300質量部以上であり、また、通常10000質量部以下、好ましくは5000質量部以下、より好ましくは3000質量部以下である。これにより、粉砕時に燃焼灰がスラリー状になるので、燃焼灰を効率良く粉砕処理することができる。
粉砕-酸処理工程の条件は、燃焼灰を所望の比表面積とできる範囲であれば特に制限はない。粉砕-酸処理工程の温度は、通常1℃以上、100℃以下であり、好ましくは室温である。なお、本明細書において室温とは1℃~30℃である。酸処理の時間は、通常30分以上、好ましくは1時間以上であり、また、通常240時間以下であり、好ましくは200時間以下、より好ましくは180時間以下である。また、粉砕機を用いて本工程を行う場合、粉砕機回転数は、通常50rpm以上であり、また、通常1000rpm以下、好ましくは500rpm以下である。
粉砕-酸処理後の燃焼灰は、水で洗浄してから乾燥させることが好ましい。
粉砕-酸処理工程では、燃焼灰の比表面積を、50m/g以上とすることが好ましく、70m/g以上とすることがより好ましく、90m/g以上とすることが更に好ましく、また1000m/g以下とすることが好ましく、500m/g以下とすることがより好ましく、300m/g以下とすることが更に好ましい。粉砕-酸処理により得られた二酸化珪素高含有燃焼灰の比表面積が上記範囲の場合、アルコール化合物との反応に適した範囲となるので、燃焼灰中の二酸化珪素をアルコキシシランに効率よく変換することが可能となる。
燃焼灰の比表面積の測定方法、燃焼灰中の二酸化珪素含有量の測定方法は、「1-1.第1の実施形態に係る二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法」と同様である。
【0018】
2.アルコキシシランの製造方法
本発明の一実施態様に係るアルコキシシランの製造方法は、上記の二酸化珪素高含有燃焼灰の製造方法により得られた二酸化珪素高含有燃焼灰とアルコール化合物とを反応させてアルコキシシランを製造する反応工程を含む。
反応工程では、下記式(1)に示すように、触媒の存在下、粉砕処理後の二酸化珪素高含有燃焼灰とアルコール化合物とを反応させてアルコキシシランを得る。なお、下記式(1)においては、二酸化珪素に対して4分子のアルコール化合物を反応させる例について示しているが、二酸化珪素に反応させるアルコール化合物の分子数は、用いるアルコール化合物及び反応条件などによって適宜変更可能である。例えば、本実施態様に係るアルコ
キシシランの製造方法は、二酸化珪素と4分子のアルコール化合物とが反応してテトラアルコキシシランを得るものであってもよく、二酸化珪素と3分子のアルコール化合物とが反応してトリアルコキシシランを得るものであってもよく、二酸化珪素と2分子のアルコール化合物とが反応してジアルコキシシランを得るものであってもよく、二酸化珪素と1分子のアルコール化合物とが反応してモノアルコキシシランを得るものであってもよい。
【化1】
【0019】
アルコール化合物は、二酸化珪素と反応する反応成分及び溶媒として用いられる。アルコール化合物としては、二酸化珪素と反応してアルコキシシランが得られるものであれば特に制限はない。アルコール化合物としては、炭素数1以上5以下のアルコール化合物であることが好ましい。これにより、アルコール化合物と触媒との反応率がより向上するので、二酸化珪素高含有燃焼灰中に含まれる二酸化珪素からアルコキシシランへの反応率をより一層向上することが可能となる。炭素数1以上5以下のアルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール及びペンタノールなどが挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、n-プロパノール又はi-プロパノールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0020】
アルコール化合物の使用量としては、二酸化珪素高含有燃焼灰中の二酸化珪素との反応率を向上する観点から、二酸化珪素高含有燃焼灰中の二酸化珪素100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましく、500質量部以上であることがより好ましく、1000質量部以上であることが更に好ましく、また、100000質量部以下であることが好ましく、50000質量部以下であることがより好ましく、10000質量部以下であることが更に好ましい。
【0021】
触媒としては、二酸化珪素とアルコール化合物とからアルコキシシランが得られるものであれば特に制限はなく、各種塩基性物質を用いることができる。触媒としては、例えば、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化ナトリウムなどの各種塩基性化合物を用いることができる。
【0022】
触媒の使用量としては、二酸化珪素高含有燃焼灰中に含まれる二酸化珪素とアルコール化合物との反応率を向上する観点から、燃焼灰中の二酸化珪素に対して10mol%以上が好ましく、20mol%以上がより好ましく、30mol%以上が更に好ましく、50mol%以上がより更に好ましく、また100mol%以下が好ましく、80mol%以下がより好ましい。
【0023】
また、アルコキシシランの製造方法では、反応工程において、上記触媒の他に添加物を用いて反応を行ってもよい。このような添加物としては、例えば、反応系内の水分を脱水する脱水材が挙げられる。これにより、上記式(1)の反応の進行によって系内に発生した水分を脱水することができるので、より一層二酸化珪素の反応率が向上する。脱水材としては、各種モレキュラーシーブが好ましく、モレキュラーシーブ3Aがより好ましい。脱水材の使用量としては、二酸化珪素高含有燃焼灰中に含まれる二酸化珪素とアルコール化合物との反応性を向上する観点から、二酸化珪素高含有燃焼灰中に含まれる二酸化珪素100質量部に対して、例えば、100質量部以上10000質量部以下が好ましい。
【0024】
反応工程における反応温度としては、アルコキシシランが得られる温度であれば特に制限はない。反応温度としては、例えば、二酸化珪素高含有燃焼灰中の二酸化珪素の反応率
を向上する観点から、150℃以上が好ましく、210℃以上がより好ましく、また、300℃以下が好ましく、270℃以下がより好ましい。反応工程における反応時間としては、二酸化珪素高含有燃焼灰中の二酸化珪素の反応率を向上する観点から、例えば、1時間以上50時間未満が好ましい。
【実施例0025】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0026】
[実施例1]
BET比表面積2.2m/gのフライアッシュ20g(SiO含有量65.5%)とエタノール65gとを混合し、ジルコニアボール(球平均直径1mm)によるボールミル(型番:PM100、ヴァーダー・サイエンティフィック社製)を用いて300rpm、3時間の湿式粉砕処理を実施し、その後乾燥によりエタノールを除去することで、BET比表面積33.3m/gのフライアッシュを得た。
得られたフライアッシュ3.0gを2mol/L塩酸100g混合して80℃で2時間加熱撹拌することにより酸処理した。酸処理後、ろ過によってフライアッシュを回収し、水で洗浄してから、乾燥させた。この粉砕・酸処理工程後、テトラエトキシシラン合成反応に用いる前のフライアッシュのBET比表面積は、98.9m/g、SiO含有量は、73%であった。
機械撹拌機を備えた200mL容積のSUS316製オートクレーブ(日東高圧社製)の上部に、内径4.6mmのSUS316製チューブを介してモレキュラーシーブ3A(メルク社製:2mmビーズ状)90gを入れた内容積100mLのSUS製ポータブルリアクター(耐圧硝子社製)を接続した。ポータブルリアクターの外側には恒温水を循環させて、ポータブルリアクター内部のモレキュラーシーブの温度を60℃に保持した。
上記オートクレーブ内に、エタノール90g、上記湿式粉砕処理及び酸処理により得られたフライアッシュを、SiO量として0.9gとなるように加えた。さらに、触媒としての水酸化カリウムをフライアッシュ中のSiOに対して10mol%加え、25℃の温度下で、ボンベからアルゴンガスを、圧力計(スウェージロックFST社PGC-50M-MG10)が示す圧力で、オートクレーブが0.75MPaになるように充填して10分間撹拌しながら保持し、密封した。その後オートクレーブ内を500rpmに撹拌しつつ240℃で15時間反応させた。(SiO基準)を基準とするテトラエトキシキシシランの収率は、55%であった。結果を下記表1に示す。
【0027】
[実施例2]
実施例1の条件に対し、ボールミルでの湿式粉砕の条件を、300rpm、6時間に変更した以外は、実施例1の条件と同様の操作によりテトラエトキシシランの合成を行った。結果を表1に示す。
【0028】
[実施例3]
実施例1の条件に対し、ボールミルでの湿式粉砕の条件を、500rpm、6時間に変更し、酸処理に用いた塩酸の濃度を4mol/Lに変更した以外は、実施例1の条件と同様の操作によりテトラエトキシシランの合成を行った。結果を表1に示す。
【0029】
[比較例1]
実施例1の条件に対し、フライアッシュを粉砕も酸処理も行わず未処理のままとした以外は、実施例1の条件と同様の操作によりテトラエトキシシランの合成を行った。結果を表1に示す。
【0030】
[比較例2]
実施例1の条件に対し、ボールミルでの湿式粉砕の条件を、500rpm、6時間に変更し、塩酸による処理を行わなかった以外は、実施例1の条件と同様の操作によりテトラエトキシシランの合成を行った。結果を表1に示す。
【0031】
[比較例3]
実施例1の条件に対し、ボールミルでの湿式粉砕を行わず、酸処理に用いた塩酸の濃度を4mol/Lに変更して酸処理のみとした以外は、実施例1の条件と同様の操作によりテトラエトキシシランの合成を行った。結果を表1に示す。
【0032】
[比較例4]
実施例1の条件に対し、フライアッシュに対する処理の順序を、最初に酸処理を行い、その後に粉砕するという順序に変更し、その際のボールミルでの湿式粉砕の条件を、500rpm、6時間、酸処理に用いた塩酸の濃度を4mol/Lに変更して酸処理のみとした以外は、実施例1の条件と同様の操作によりテトラエトキシシランの合成を行った。結果を表1に示す。
【0033】
[実施例4]
BET比表面積2.2m/gのフライアッシュ3g(SiO含有量65.5%)と2mol/L塩酸30gを混合し、アズワン社製マグネット乳鉢セットの乳鉢(φ130mm)に加えた。マグネティックスターラーの回転数を100rpmとして、マグネット乳棒(φ55mm)を回転させて、室温(25℃)で168時間乳鉢による粉砕と酸処理を同時に行った。この粉砕・酸の同時処理後、ろ過によってフライアッシュを回収し、水で洗浄してから、乾燥させた。この粉砕・酸の同時処理工程後、テトラエトキシシラン合成反応に用いる前のフライアッシュのBET比表面積は、74.5m/g、SiO含有量は、71.8%であった。
このフライアッシュを用いて、実施例1の条件と同様の操作により、テトラエトキシシランの合成を行った。結果を表2に示す
【0034】
[比較例5]
実施例4の条件に対し、乳鉢粉砕を水中で行い、酸処理を行わなかった以外は、実施例4の条件と同様の操作によりテトラエトキシシランの合成を行った。結果を表2に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
比較例1と比較例2との比較から、粉砕処理のみの場合、比表面積の増加は認められるが、未処理に対してアルコキシシランの収率は有意に向上しなかったことがわかる。なお二酸化珪素純度の低下は、粉砕に使用したジルコニアボール成分の混入による。
また、比較例3と比較例1との比較から、酸処理のみの場合は、比表面積はほとんど変化しないことがわかる。二酸化珪素純度はやや向上するが、アルコキシシランの収率は未処理とほぼ同等であった。
比較例4から、酸処理を先に行い、その後粉砕処理を行った場合、比表面積は粉砕のみと同等となり、二酸化珪素純度は向上しなかった。アルコキシシラン収率は未処理に対して一定の向上は認められるが、顕著な差とは言えないレベルである。
実施例1~3から、二酸化珪素を含有する燃焼灰を湿式粉砕してから酸処理することで、二酸化珪素(SiO)の純度が向上し、かつ比表面積が増大した二酸化珪素高含有燃焼灰が得られたことがわかる。また、当該二酸化珪素高含有燃焼灰を原料としてアルコールと反応させることで、未処理の燃焼灰、粉砕処理又は酸処理のいずれかを行わなかった燃焼灰(比較例1~3)、及び酸処理後に湿式粉砕して得られた燃焼灰を原料とした場合(比較例4)に比較して、はるかに高い収率でアルコキシシランを得られたことがわかる。
また、表2から分かるように、粉砕と酸処理を同時に行うことで、二酸化珪素(SiO)の純度が向上し、かつ比表面積が増大した二酸化珪素高含有燃焼灰が得られた。また、当該二酸化珪素高含有燃焼灰を原料とし、高い収率でアルコキシシランを得られた。実施例4は、酸処理後に湿式粉砕した比較例4と比較しても、収率が向上した。
【0038】
以上の結果から、本発明の効果が奏される理由は以下のように推定される。
フライアッシュの酸処理のみではSiO純度の向上があまり向上せず効果が低い。これは酸条件に比較的強いSi-O-Si構造の内部にアルミやカルシウム等のシリカ以外の成分が含有しており、酸と接触しがたいためであると考えらえる。粉砕を行うことによって、不純物成分が表面に露出し、酸と接触して溶解するためSiO純度の向上が起こると考えられる。同時にアルミ成分の溶出にともなって細孔の形成もしくはさらなる粒子の崩壊が起こるため顕著な比表面積の増大が起こると考えられ、これがアルコキシシラン収率の向上の要因の一つと考えられる。
一方、粉砕処理のみでも比表面積の向上を図ることができるが、アルコキシシラン収率の向上は限定的である。これは、粉砕のみではアルミ成分が取り除かれないため、骨格内には[Si-O-Al-O-Si]というユニットが存在する(珪素とアルミの複合酸化物)。この結合ネットワークを触媒によって有効に切断できないためではないかと推測している。従って粉砕後に酸処理若しくは粉砕と同時に酸処理を行うことによるアルミ成分の除去、SiO純度が向上すること自体も触媒での高収率化に寄与していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、未活用燃焼灰から、反応性の向上した二酸化珪素高含有燃焼灰を得ることができ、燃焼灰を有効活用できる。また、該製造方法により得られる二酸化珪素高含有燃焼灰を原料としてアルコキシシランを得ることができ、非常に有用である。