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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158080
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/20 20060101AFI20221006BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20221006BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20221006BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20221006BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20221006BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20221006BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20221006BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221006BHJP
   A61K 33/34 20060101ALI20221006BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221006BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20221006BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01P1/00
A01P3/00
A01N61/00 D
A01N25/00 101
A61K8/81
A61P31/12
A61P31/04
A61K33/34
A61P17/00 101
A61K47/32
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062725
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大澤 重仁
(72)【発明者】
【氏名】大塚 英典
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C086
4H011
【Fターム(参考)】
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC31
4C076CC35
4C076EE16
4C076EE16A
4C076FF02
4C083AD091
4C083AD092
4C083CC02
4C083CC04
4C083EE12
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086HA28
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA05
4C086ZA90
4C086ZB33
4C086ZB35
4H011AA01
4H011AA04
4H011BB18
4H011BB19
4H011BC19
4H011DA13
4H011DC05
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】新規な抗菌・抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る抗菌・抗ウイルス剤は、抗菌性及び/又は抗ウイルス性を有する金属イオンに下記式(1)で表される重合性モノマーが配位した金属錯体モノマーに由来する構成単位を有する金属錯体ポリマーを含む。式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Ar及びArはピリジル基、ピロリル基等を示し、n、n、及びnは1~4の整数を示す。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性及び/又は抗ウイルス性を有する金属イオンに下記式(1)で表される重合性モノマーが配位した金属錯体モノマーに由来する構成単位を有する金属錯体ポリマーを含む、抗菌・抗ウイルス剤。
【化1】
[式中、Rは、水素原子又はメチル基を示し、Ar及びArは、それぞれ独立に下記式(2)又は式(3)で表される基を示し、n、n、及びnは、それぞれ独立に1~4の整数を示す。]
【化2】
[式中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。]
【請求項2】
前記金属イオンが、Cu、Ag、Au、Pt、Fe、Mn、Cr、Co、Ce、及びRuからなる群より選択される金属のイオンである、請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記金属錯体ポリマー中の前記金属錯体モノマーに由来する構成単位の割合が30モル%以上である、請求項1又は2に記載の抗菌・抗ウイルス剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染予防や衛生上の観点から、多くの製品に抗菌性及び/又は抗ウイルス性が求められており、各種の抗菌・抗ウイルス剤が使用されている。
【0003】
一般に金属イオンや金属錯体を利用した無機系の抗菌・抗ウイルス剤は、有機系の抗菌・抗ウイルス剤に比べて抗微生物スペクトルが広く、耐久性に優れるとされる。このため、抗菌・抗ウイルス剤としての金属錯体も各種提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-7512号公報
【特許文献2】特開2015-195826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らが検討を重ねたところ、金属錯体を液体中に添加すると、ヒト細胞毒性を示さない低濃度では十分な抗菌性及び/又は抗ウイルス性が発揮されない場合があることが判明した。
【0006】
本発明は、新規な抗菌・抗ウイルス剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 抗菌性及び/又は抗ウイルス性を有する金属イオンに下記式(1)で表される重合性モノマーが配位した金属錯体モノマーに由来する構成単位を有する金属錯体ポリマーを含む、抗菌・抗ウイルス剤。
【化1】
[式中、Rは、水素原子又はメチル基を示し、Ar及びArは、それぞれ独立に下記式(2)又は式(3)で表される基を示し、n、n、及びnは、それぞれ独立に1~4の整数を示す。]
【化2】
[式中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。]
【0008】
<2> 前記金属イオンが、Cu、Ag、Au、Pt、Fe、Mn、Cr、Co、Ce、及びRuからなる群より選択される金属のイオンである、<1>に記載の抗菌・抗ウイルス剤。
【0009】
<3> 前記金属錯体ポリマー中の前記金属錯体モノマーに由来する構成単位の割合が30モル%以上である、<1>又は<2>に記載の抗菌・抗ウイルス剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な抗菌・抗ウイルス剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】銅錯体ポリマー(pDPACu(II)MA)による殺菌処理後の大腸菌の増殖曲線を示す図である。
図1B】低分子銅錯体(DPACu(II)-OH)による殺菌処理後の大腸菌の増殖曲線を示す図である。
図2】銅錯体(pDPACu(II)MA又はDPACu(II)-OH)の存在下で15分間インキュベートした大腸菌に結合した銅の量を示す図である。
図3】銅錯体(pDPACu(II)MA又はDPACu(II)-OH)の存在下でヒト皮膚繊維芽細胞を24時間培養したときの細胞生存率を示す図である。
図4】銅錯体(pDPACu(II)MA又はDPACu(II)-OH)を触媒として過酸化水素を分解したときの過酸化水素の残存率の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<抗菌・抗ウイルス剤>
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤は、抗菌性及び/又は抗ウイルス性を有する金属イオン(以下、「抗菌・抗ウイルス性金属イオン」ともいう。)に後述する重合性モノマーが配位した金属錯体モノマーに由来する構成単位を有する金属錯体ポリマーを含む。この金属錯体ポリマーは、液体中において優れた抗菌性及び/又は抗ウイルス性を発揮することができる。その理由は明確ではないが、金属錯体モノマーを高分子化することにより、液体中での金属錯体部位の拡散が制限され、局所濃縮効果によって複核構造が形成されやすくなるためと推測される。
【0013】
なお、本明細書において、「抗菌」との用語は、細菌の一部又は全てを死滅させること、及び細菌の増殖を抑えることを包含する意味として用いる。また、「抗ウイルス」との用語は、ウイルスを不活化することを包含する意味として用いる。
【0014】
抗菌・抗ウイルス性金属イオンは、抗菌性及び/又は抗ウイルス性を有するものであれば特に制限されない。抗菌・抗ウイルス性金属イオンの具体例としては、Cu、Ag、Au、Pt、Fe、Mn、Cr、Co、Ce、Ru等のイオンが挙げられる。
【0015】
抗菌・抗ウイルス性金属イオンに配位する重合性モノマーは、下記式(1)で表される。
【0016】
【化3】
【0017】
上記式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を示し、Ar及びArは、それぞれ独立に下記式(2)又は式(3)で表される基を示し、n、n、及びnは、それぞれ独立に1~4の整数を示す。
【0018】
【化4】
【0019】
上記式(2)、(3)中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。上記式(2)で表される基には、ピリジル基及び置換ピリジル基が含まれ、上記式(3)で表される基には、ピロリル基及び置換ピロリル基が含まれる。Rにおけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基が好ましい。Rとしては、水素原子が好ましい。
【0020】
Ar及びArは、互いに同一であっても異なっていてもよく、同一構造であることが好ましい。また、Ar及びArとしては、上記式(2)で表される基であることが好ましく、ピリジル基であることがより好ましい。
【0021】
としては、2又は3が好ましく、2がより好ましい。n及びnとしては、それぞれ独立に1又は2が好ましく、1がより好ましい。
【0022】
上記式(1)で表される重合性モノマーの具体例としては、例えば、下記式(1-1)~(1-3)で表される重合性モノマーが挙げられる。式中のRは、上記式(1)と同義である。
【0023】
【化5】
【0024】
抗菌・抗ウイルス性金属イオンに上記式(1)で表される重合性モノマーが配位した金属錯体モノマーに由来する構成単位は、下記式(1a)で表される。式中のMは、抗菌・抗ウイルス性金属イオンを示す。
【0025】
【化6】
【0026】
上記金属錯体ポリマーは、上記式(1a)で表される構成単位以外に、他の重合性モノマーに由来する構成単位を有していてもよい。ただし、上記式(1a)で表される構成単位の割合は、30モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0027】
他の重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸及びその無水物、イタコン酸及びその無水物等の不飽和カルボン酸類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、クロロエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-フェニル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル等のアリル化合物類;ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン類;などが挙げられる。これらの重合性モノマーは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」との用語は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を意味する。「(メタ)アクリレート」等の他の用語についても同様である。
【0029】
上記金属錯体ポリマーは、例えば、上記式(1)で表される重合性モノマー(及び必要に応じて他の重合性モノマー)を重合させて重合体を得た後、その重合体を抗菌・抗ウイルス性金属イオンに配位させることにより得ることができる。重合体の製造方法は特に制限されず、重合開始剤又は連鎖移動剤を用いた公知の製造方法を採用することができる。あるいは、上記金属錯体ポリマーは、上記式(1)で表される重合性モノマーを抗菌・抗ウイルス性金属イオンに配位させて金属錯体モノマーを得た後、この金属錯体モノマー(及び必要に応じて他の重合性モノマー)を重合させることにより得ることもできる。
【0030】
上記金属錯体ポリマーの平均重合度は、例えば、10~1000であることが好ましく、20~100であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤は、必要に応じて、水、有機溶媒、界面活性剤、分散剤等の他の成分を含んでいてもよい。また、本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤は、上記金属錯体ポリマー以外の抗菌・抗ウイルス性物質をさらに含んでいてもよい。
【0032】
<抗菌・抗ウイルス処理方法>
実施形態に係る抗菌・抗ウイルス剤を用いた抗菌・抗ウイルス処理方法は、抗菌性及び/又は抗ウイルス性を付与する対象物に抗菌・抗ウイルス剤を接触させることを含む。対象物に接触させる形態としては、対象物に抗菌・抗ウイルス剤を添加したり、塗布したり、噴霧したり、対象物を抗菌・抗ウイルス剤に含浸させたりすることが例示される。
【0033】
抗菌性及び/又は抗ウイルス性を付与する対象物は特に制限されず、例えば、住居用洗剤、洗濯用洗剤、食器用洗剤等の洗剤;化粧水等の化粧品;水式空気清浄機のフィルター水;などが挙げられる。
【0034】
適応対象となる細菌としては、抗菌・抗ウイルス性金属イオンによって効果が奏されるものであれば特に制限されず、グラム陽性細菌であってもグラム陰性細菌であってもよい。また、適応対象となるウイルスとしては、抗菌・抗ウイルス性金属イオンによって効果が奏されるものであれば特に制限されず、エンベロープウイルスであっても非エンベロープウイルスであってもよい。
【実施例0035】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0036】
<合成例1:銅錯体ポリマー(pDPACu(II)MA)の合成>
(1)配位子としてジピコリルアミノ基(DPA)を有するメタクリレートモノマー(DPAMA)の合成
【0037】
【化7】
【0038】
2-(クロロメチル)ピリジン塩酸塩(40.11g,245mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB;1.31g,4.08mmol)、及び炭酸カリウム(112.6g,815mmol)をアセトニトリル(500mL)に溶解し、窒素雰囲気下で撹拌した。混合液に3-アミノ-1-プロパノール(6.12g,81.5mmol)を加え、95℃で60時間還流した。反応溶液をセライト(Celite No.503、富士フイルム和光純薬(株))により濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/メタノール=90/10)により精製し、目的物を含むフラクションを真空乾燥することにより、粘性液状の化合物(DPA-OH)を得た(収量:8.893g、収率:42.0%)。得られた化合物の構造は、H-NMR(Bruker Avance 400Hz)により確認した。
【0039】
次いで、DPA-OH(4.06g,15.7mmol)及びトリエチルアミン(TEA;1.97g,19.5mmol)をジクロロメタン(20mL)に溶解し、得られた溶液を氷冷した。別途、塩化メタクリロイル(2.04g,19.5mmol)をジクロロメタン(4mL)に溶解した。氷浴上で撹拌しながら塩化メタクリロイル溶液にDPA-OH溶液を滴下し、室温で24時間撹拌した。次いで、反応溶液をセライト(Celite No.503、富士フイルム和光純薬(株))により濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。不純物を除くため、濃縮物に酢酸エチル(20mL)を加えて希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄して油相を回収した。回収した油相に硫酸ナトリウムを加えて脱水し、桐山ロートで濾過した後、濾液を濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/メタノール=90/10)により精製し、目的物を含むフラクションを真空乾燥することにより、粘性液状の化合物(DPAMA)を得た(収量:1.582g、収率:31.0%)。得られた化合物の構造は、H-NMR(Bruker Avance 400Hz)により確認した。
【0040】
(2)DPAMAのRAFT重合による重合体(pDPAMA)の合成
【0041】
【化8】
【0042】
DPAMA(955mg,2.94mmol)及びRAFT剤としての2-フェニル-2-プロピル-ベンゾジチオエート(8.41mg,30.9μmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF;5mL)に溶解した。モノマーとRAFT剤とのモル比は、溶液の一部を取り出してH-NMR(Bruker Avance 400Hz)により確認した。この溶液に、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN;1.01mg,6.3μmol)をDMF(1mL)に溶解した溶液を加え、混合溶液とした。凍結融解を3回繰り返すことにより混合溶液を脱気し、窒素雰囲気下、60℃で48時間撹拌することにより重合を行った。モノマー転化率はH-NMRにより確認した。次いで、反応溶液をジエチルエーテル(150mL)に注ぎ込んで沈殿物を生じさせた。沈殿物をDMF(6mL)に溶解し、ジエチルエーテル(150mL)に注ぎ込んで沈殿物を再度生じさせた後、真空乾燥することにより、粉末状の化合物(pDPAMA)を得た(収量:604mg、収率:62.7%)。得られた化合物の構造は、H-NMR及びサイズ排除クロマトグラフィー(HLC-8020 GPCシステム、東ソー(株))により決定した。サイズ排除クロマトグラフィーのカラムにはTSKgel SuperHZM-H(東ソー(株))を使用し、溶離液には10mM 塩化リチウムを含有するDMFを使用した。
【0043】
分析の結果、モノマーのRAFT剤に対する仕込みモル比は90であった。また、モノマー転化率は73%であり、重合度は65であった。また、精製によって未反応のモノマーが完全に除去されていることがH-NMRスペクトルにより確認された。得られたpDPAMAのポリエチレングリコール換算の数平均分子量(Mn)は6980であり、質量平均分子量(Mw)は10670であり、分散度(Mw/Mn)は1.528であった。
【0044】
(3)銅錯体ポリマー(pDPACu(II)MA)の合成
pDPAMA(52.89mg;160.5μmolのDPAを含む)をメタノール(2mL)に溶解した。別途、塩化銅(II)二水和物(35.56mg,208.6μmol)をメタノール(2mL)に溶解した。pDPAMA溶液を銅溶液に滴下して撹拌し、さらに室温で12時間撹拌した。次いで、溶液を水に対して5回透析(MWCO:3.5kDa)し、凍結乾燥することにより、粉末状の銅錯体ポリマー(pDPACu(II)MA)を得た(収量:79.40mg、収率:98.8%)。
【0045】
<合成例2:比較用の低分子銅錯体(DPACu(II)-OH)の合成>
合成例1(1)で得られたDPA-OH(40mg)をジメチルスルホキシド(DMSO;4.31mL)に溶解し、36mMのDPA-OH溶液を調製した。また、塩化銅(II)二水和物(33mg)をDMSO(64.5mL)に溶解し、3mMの塩化銅溶液を調製した。そして、DPA-OH溶液に塩化銅溶液を添加することにより、低分子銅錯体(DPACu(II)-OH)を得た。
【0046】
<実験例1:抗菌活性の評価>
銅錯体(pDPACu(II)MA又はDPACu(II)-OH)と脱イオン水とを混合し、種々の銅濃度のサンプル液を調製した。また、大腸菌を水に懸濁させ、OD600=1.0の大腸菌懸濁液を調製した。大腸菌懸濁液1mLにサンプル液20μLを加え、37℃で15分間インキュベートした。そして、インキュベート後の大腸菌懸濁液500μLをLB培地20mLに加えて培養し、OD600の値をモニターすることにより、大腸菌の増殖曲線を得た。
【0047】
pDPACu(II)MAによる殺菌処理後の大腸菌の増殖曲線を図1Aに示し、DPACu(II)-OHによる殺菌処理後の大腸菌の増殖曲線を図1Bに示す。図1A及び図1Bに示すとおり、pDPACu(II)MAにより殺菌処理を行った場合には、銅濃度が25μMという低濃度であっても大腸菌がほぼ完全に死滅した。一方、DPACu(II)-OHにより殺菌処理を行った場合には、銅濃度を400μMに増加させても、pDPACu(II)MAの銅濃度を25μMとした場合よりも殺菌効果に劣っていた。すなわち、銅錯体モノマーを高分子化することにより、殺菌効果が15倍以上に向上した。
【0048】
さらに、上記のように、銅錯体の存在下、37℃で15分間インキュベートした後の大腸菌に結合した銅の量を測定した。まず、インキュベート後の大腸菌を遠心分離し、ペレットを回収した。そして、ペレットを水に懸濁させて洗浄した後に遠心分離を行う操作を2回繰り返した後、ペレットを0.1Mの硝酸水溶液に溶解した。そして、溶液中の銅の量を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(SPECTRO ARCOS FHM22、SPECTRO Analytical Instruments社)により測定した。なお、測定に際しては、イットリウムを内部標準として使用した。
【0049】
大腸菌に結合した銅の量を図2に示す。図2に示すとおり、銅濃度25μMのpDPACu(II)MAの存在下でインキュベートした後の大腸菌には、同濃度のDPACu(II)-OHの存在下でインキュベートした後の大腸菌に比べて、有意に多い量の銅が結合していた(****p<0.0001)。これは、pDPACu(II)MAが大腸菌のリポ多糖と多点で相互作用するためと推測される。ただし、銅濃度400μMのDPACu(II)-OHの存在下でインキュベートした後の大腸菌には、銅濃度25μMのpDPACu(II)MAの存在下でインキュベートした後の大腸菌に比べて、顕著に多い量の銅が結合していた(*****p<0.00001)。この結果から、銅錯体モノマーを高分子化することにより、銅の単位量あたりの殺菌効果が顕著に向上していたことが分かる。
【0050】
<実験例2:ヒト繊維芽細胞に対する毒性の評価>
ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF)を24ウェルプレートに10000個/ウェルの細胞密度で播種し、DMEM培地(10%(v/v) FBS及び2%(w/v) ペニシリン/ストレプトマイシンを含む)(400μL)中で一晩培養した。次いで、各種銅濃度の銅錯体(pDPACu(II)MA又はDPACu(II)-OH)を含有するDMEM培地(400μL)中で24時間培養した。24時間後、銅錯体を含有しないDMEM培地に交換し、Cell Counting Kit 8((株)同仁化学研究所)を用いて細胞生存率を測定した。
【0051】
細胞生存率の測定結果を図3に示す。図3に示すとおり、pDPACu(II)MAは、銅濃度を実験例1において大腸菌がほぼ完全に死滅した25μMとした場合であっても、ヒト皮膚繊維芽細胞に対して細胞毒性を示さなかった。一方、DPACu(II)-OHは、銅濃度を実験例1において大腸菌に対する殺菌効果を示した100μM以上に高めると、ヒト皮膚繊維芽細胞に対して細胞毒性を示した(**p<0.01;*****p<0.00001)。
【0052】
<実験例3:過酸化水素の分解の評価>
過酸化水素の分解に伴う活性酸素ラジカル種の発生を、2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)をプローブとして確認することにより、銅錯体を触媒とした過酸化水素の分解を間接的に評価した。まず、10mMのDPPHを含有するメタノール溶液、1mMの銅錯体(pDPACu(II)MA又はDPACu(II)-OH)を含有する水溶液、10mMの過酸化水素を含有する水溶液、及びメタノールを混合し、DPPH、銅錯体、過酸化水素の濃度がそれぞれ250μM、25μM、250μMであるサンプル液を調製した。そして、そのサンプル液を37℃で振盪し、10分後、30分後、60分後における波長512nmの光の吸光度の変化から、過酸化水素の残存率を算出した。
【0053】
過酸化水素の残存率の経時変化を図4に示す。図4に示すとおり、pDPACu(II)MAを添加した場合には、DPACu(II)-OHを添加した場合に比べて、過酸化水素の分解(活性酸素ラジカル種の発生)が促進されていた。この結果から、pDPACu(II)MAは、大腸菌が産生した過酸化水素がカタラーゼ等によって消去される前に、過酸化水素から活性酸素ラジカル種を発生させることにより殺菌作用を示すことが示唆された。なお、銅触媒の過酸化水素に対する触媒効果には、銅二核構造の形成が重要であることが知られている(N.Oishi et al.,Polyhedron,1984,3,157)。pDPACu(II)MAでは、銅錯体部位が局所濃縮されることにより、銅二核構造が形成されやすくなったと考えられる。
図1A
図1B
図2
図3
図4