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特開2022-158396吸着式ヒートポンプの制御方法、コンピュータプログラム、および、吸着式ヒートポンプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158396
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】吸着式ヒートポンプの制御方法、コンピュータプログラム、および、吸着式ヒートポンプ
(51)【国際特許分類】
   F25B 17/08 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
F25B17/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063263
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】品川 勉
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 毅
(72)【発明者】
【氏名】岡 弘之
【テーマコード(参考)】
3L093
【Fターム(参考)】
3L093NN04
3L093PP03
3L093PP04
3L093PP06
3L093PP20
3L093QQ01
(57)【要約】
【課題】 吸着式ヒートポンプの制御方法において、吸着式ヒートポンプの冷却加熱能力を向上する技術を提供する。
【解決手段】 吸着式ヒートポンプの制御方法は、第1の吸着器に収容された第1の吸着材に吸着質を供給して、前記第1の吸着材に吸着質を吸着させる第1工程と、第2の吸着器に収容された第2の吸着材を加熱して、第2の吸着材に吸着されている吸着質を第2の吸着材から脱着させる第2工程と、第1工程と第2工程の後、第1の吸着器と第2の吸着器との間で吸着質蒸気を移動させる蒸気回収と、第1の吸着器と第2の吸着器との間で熱交換をおこなう顕熱回収と、を並行しておこなう第3工程と、を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着式ヒートポンプの制御方法であって、
第1の吸着器に収容された第1の吸着材に吸着質を供給して、前記第1の吸着材に前記吸着質を吸着させる第1工程と、
第2の吸着器に収容された第2の吸着材を加熱して、前記第2の吸着材に吸着されている吸着質を前記第2の吸着材から脱着させる第2工程と、
前記第1工程と前記第2工程の後、前記第1の吸着器と前記第2の吸着器との間で吸着質蒸気を移動させる蒸気回収と、前記第1の吸着器と前記第2の吸着器との間で熱交換をおこなう顕熱回収と、を並行しておこなう第3工程と、を備える、
吸着式ヒートポンプの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の吸着式ヒートポンプの制御方法であって、
前記第3工程では、前記顕熱回収よりも先に、前記蒸気回収を開始し、前記蒸気回収をおこなっている途中で、前記顕熱回収を開始することで、前記蒸気回収と前記顕熱回収とを並行しておこなう、
吸着式ヒートポンプの制御方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の吸着式ヒートポンプの制御方法であって、
前記第3工程では、前記蒸気回収と前記顕熱回収とを並行しておこなった後、前記蒸気回収を停止し、前記顕熱回収を継続しておこなう、
吸着式ヒートポンプの制御方法。
【請求項4】
吸着式ヒートポンプの作動を制御する制御部に実行させるコンピュータプログラムであって、
第1の吸着器に収容された第1の吸着材に吸着質を供給して、前記第1の吸着材に前記吸着質を吸着させる第1機能と、
第2の吸着器に収容された第2の吸着材を加熱して、前記第2の吸着材に吸着されている吸着質を前記第2の吸着材から脱着させる第2機能と、
前記第1機能と前記第2機能を実行した後、前記第1の吸着器と前記第2の吸着器との間で吸着質蒸気を移動させる蒸気回収と、前記第1の吸着器と前記第2の吸着器との間で熱交換をおこなう顕熱回収と、を並行しておこなう第3機能と、を前記制御部に実行させる、
コンピュータプログラム。
【請求項5】
吸着式ヒートポンプであって、
第1の吸着材を収容する第1の吸着器と、
前記第1の吸着材との間で熱交換をおこなう第1の熱交換器と、
第2の吸着材を収容する第2の吸着器と、
前記第2の吸着材との間で熱交換をおこなう第2の熱交換器と、
前記第1の吸着器に吸着質を供給して前記第1の吸着材に前記吸着質を吸着させ、前記第2の吸着材を加熱して、前記第2の吸着材に吸着されている吸着質を前記第2の吸着材から脱着させた後、前記第1の吸着器と前記第2の吸着器との間で吸着質蒸気を移動させる蒸気回収と、前記第1の熱交換器と前記第2の熱交換器との間で熱交換をおこなう顕熱回収と、を並行しておこなう制御部と、を備える、
吸着式ヒートポンプ。
【請求項6】
請求項5に記載の吸着式ヒートポンプは、さらに、
前記第1の熱交換器と前記第2の熱交換器に接続されており、前記第1の吸着材または前記第2の吸着材が吸着質蒸気を吸着するときに発生する吸着熱を外部に放出する放熱器を備える、
吸着式ヒートポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着式ヒートポンプの制御方法、コンピュータプログラム、および、吸着式ヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、吸着材での吸着質の吸着と脱着とを繰り返すことによって、対象物を冷却または加熱する熱エネルギを生成する吸着式ヒートポンプの制御方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-200342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術によっても、吸着式ヒートポンプの制御方法において、吸着式ヒートポンプの冷却加熱能力を向上する技術については、なお、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、吸着式ヒートポンプの制御方法において、吸着式ヒートポンプの冷却加熱能力を向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、吸着式ヒートポンプの制御方法が提供される。この吸着式ヒートポンプの制御方法は、第1の吸着器に収容された第1の吸着材に吸着質を供給して、前記第1の吸着材に前記吸着質を吸着させる第1工程と、第2の吸着器に収容された第2の吸着材を加熱して、前記第2の吸着材に吸着されている吸着質を前記第2の吸着材から脱着させる第2工程と、前記第1工程と前記第2工程の後、前記第1の吸着器と前記第2の吸着器との間で吸着質蒸気を移動させる蒸気回収と、前記第1の吸着器と前記第2の吸着器との間で熱交換をおこなう顕熱回収と、を並行しておこなう第3工程と、を備える。
【0008】
この構成によれば、第1の吸着材に吸着質を吸着させる第1工程と第2の吸着材に吸着されている吸着質を第2の吸着材から脱着させる第2工程との後に、第3工程として、第2の吸着器から第1の吸着器への蒸気回収と、第2の吸着器から第1の吸着器への顕熱回収とをおこなう。2つの吸着器を備える吸着式ヒートポンプでは、2つの吸着器のそれぞれに、吸着材に吸着質が供給される時間と、吸着材が加熱される時間とが交互に来るように設定されている。これにより、吸着式ヒートポンプでは、吸着質を吸着する吸着器と吸着材が加熱される吸着器とを切り替えることで、対象物の冷却や加熱を連続しておこなう。そこで、一方の吸着器で吸着質が供給される時間が経過したとき、次の時間で吸着材に吸着質を吸着させる他方の吸着器に残っている吸着質を一方の吸着器へ移動させて、一方の吸着器の吸着材に吸着させる蒸気回収をおこなう。これにより、他方の吸着材は、他方の吸着器に吸着質が供給される前に、吸着質をさらに脱着することができるため、吸着材の作動域が広がり、吸着材の吸着能力を向上させることができる。また、他方の吸着器の吸着材が加熱される時間が経過したとき、加熱されていた吸着材の顕熱を、次の時間で吸着材が加熱される一方の吸着器に移動させて、一方の吸着器の吸着材を加熱させる顕熱回収をおこなう。これにより、他方の吸着材の顕熱を有効に利用して、次の時間に一方の吸着器を加熱するための熱量を減らすことができる。したがって、顕熱損失を抑制し、吸着式ヒートポンプシステムへの投入熱量を減少させることができるため、システム効率を向上させることができる。さらに、上述の構成では、吸着材に吸着質が供給される時間と吸着材が加熱される時間との間に設定される吸着器の切替時間において蒸気回収と顕熱回収を並行しておこなう。この場合、吸着器の切替時間は、蒸気回収の時間と顕熱回収の時間を合計した時間となるため、蒸気回収と顕熱回収を別々に行う場合に比べ、短縮することができる。この蒸気回収の時間と顕熱回収の時間を合計した切替時間が短縮されると、吸着器に吸着質蒸気を供給するための蒸発器や、吸着材から脱着された吸着質蒸気を凝縮させる凝縮器の稼働時間を長くすることができる。これにより、吸着式ヒートポンプの冷却加熱能力を向上させることができる。
【0009】
(2)上記形態の吸着式ヒートポンプの制御方法において、前記第3工程では、前記顕熱回収よりも先に、前記蒸気回収を開始し、前記蒸気回収をおこなっている途中で、前記顕熱回収を開始することで、前記蒸気回収と前記顕熱回収とを並行しておこなってもよい。この構成によれば、第3工程では、先に蒸気回収を開始し、蒸気回収をおこなっている途中で、顕熱回収を開始する。吸着式ヒートポンプの状態によっては、蒸気回収に要する時間の方が顕熱回収に要する時間より長くなる場合がある。そこで、蒸気回収と顕熱回収とを並行しておこなう前に、蒸気回収をおこなうことで、蒸気を十分に回収することができる。これにより、吸着式ヒートポンプ全体における吸着質蒸気の利用率とシステム効率を向上させることができる。
【0010】
(3)上記形態の吸着式ヒートポンプの制御方法において、前記第3工程では、前記蒸気回収と前記顕熱回収とを並行しておこなった後、前記蒸気回収を停止し、前記顕熱回収を継続しておこなってもよい。この構成によれば、第3工程では、蒸気回収と顕熱回収とを並行しておこなっているときに、蒸気回収を停止し、顕熱回収を継続しておこなう。吸着式ヒートポンプの状態によっては、顕熱回収に要する時間の方が蒸気回収に要する時間より長くなる場合がある。そこで、蒸気回収と顕熱回収とを並行しておこなったあとに、顕熱回収をおこなうことによって、顕熱を十分に回収することができる。これにより、吸着式ヒートポンプ全体における顕熱の回収率とシステム効率を向上させることができる。
【0011】
(4)本発明の別の形態によれば、吸着式ヒートポンプの作動を制御する制御部に実行させるコンピュータプログラムが提供される。このコンピュータプログラムは、第1の吸着器に収容された第1の吸着材に吸着質を供給して、前記第1の吸着材に前記吸着質を吸着させる第1機能と、第2の吸着器に収容された第2の吸着材を加熱して、前記第2の吸着材に吸着されている吸着質を前記第2の吸着材から脱着させる第2機能と、前記第1機能と前記第2機能を実行した後、前記第1の吸着器と前記第2の吸着器との間で吸着質蒸気を移動させる蒸気回収と、前記第1の吸着器と前記第2の吸着器との間で熱交換をおこなう顕熱回収と、を並行しておこなう第3機能と、を前記制御部に実行させる。この構成によれば、コンピュータプログラムは、第1の吸着材に吸着質を吸着させる第1機能と第2の吸着材から吸着質を脱着させる第2機能とを実行した後に、第3機能として、顕熱回収と蒸気回収とを制御部に実行させる。これにより、一方の吸着器で吸着質が供給される時間が経過したとき、吸着質が他方の吸着器に供給される前に他方の吸着器に残っていた吸着質を脱着させて一方の吸着器に吸着させる蒸気回収をおこなうことができるため、吸着材の作動域が広がり、吸着材の吸着能力を向上させることができる。また、他方の吸着器が備える吸着材の顕熱を有効に利用する顕熱回収をおこなうことができる。これにより、顕熱損失を抑制し、吸着式ヒートポンプシステムへの投入熱量を減少させることができるため、システム効率を向上させることができる。さらに、蒸気回収と顕熱回収を並行しておこなうため、蒸気回収の時間と顕熱回収の時間の合計である、吸着器の切替時間が短縮され、蒸発器や凝縮器の稼働時間を長くすることができる。これにより、このコンピュータプログラムは、吸着式ヒートポンプの冷却加熱能力を向上させることができる。
【0012】
(5)本発明のさらに別の形態によれば、吸着式ヒートポンプが提供される。この吸着式ヒートポンプは、第1の吸着材を収容する第1の吸着器と、前記第1の吸着材との間で熱交換をおこなう第1の熱交換器と、第2の吸着材を収容する第2の吸着器と、前記第2の吸着材との間で熱交換をおこなう第2の熱交換器と、前記第1の吸着器に吸着質を供給して前記第1の吸着材に前記吸着質を吸着させ、前記第2の吸着材を加熱して、前記第2の吸着材に吸着されている吸着質を前記第2の吸着材から脱着させた後、前記第1の吸着器と前記第2の吸着器との間で吸着質蒸気を移動させる蒸気回収と、前記第1の熱交換器と前記第2の熱交換器との間で熱交換をおこなう顕熱回収と、を並行しておこなう制御部と、を備える。この構成によれば、制御部は、第1の吸着材に吸着質を吸着させ、第2の吸着材から吸着質を脱着させた後、顕熱回収と蒸気回収とをおこなう。これにより、一方の吸着器で吸着質が供給される時間が経過したとき、吸着質が他方の吸着器に供給される前に他方の吸着器に残っていた吸着質を脱着させて一方の吸着器に吸着させる蒸気回収をおこなうことができるため、吸着材の作動域が広がり、吸着材の吸着能力を向上させることができる。また、他方の吸着器が備える吸着材の顕熱を有効に利用する顕熱回収をおこなうことができる。これにより、顕熱損失を抑制し、吸着式ヒートポンプシステムへの投入熱量を減少させることができるため、システム効率を向上させることができる。さらに、制御部は、蒸気回収と顕熱回収を並行しておこなうため、蒸気回収の時間と顕熱回収の時間を合計した切替時間が短縮され、蒸発器や凝縮器の稼働時間を長くすることができる。したがって、吸着式ヒートポンプは、冷却加熱能力を向上させることができる。
【0013】
(6)上記形態の吸着式ヒートポンプにおいて、前記第1の熱交換器と前記第2の熱交換器に接続されており、前記第1の吸着材または前記第2の吸着材が吸着質蒸気を吸着するときに発生する吸着熱を外部に放出する放熱器を備えてもよい。この構成によれば、放熱器は、第1の吸着材または第2の吸着材が吸着質蒸気を吸着するときに発生する吸着熱を外部に放出する。これにより、吸着材の温度を低下させることができるため、吸着材の吸着量を増大させることができる。吸着材の吸着量が増大すると、吸着器に吸着質蒸気を供給する蒸発器での気化熱の発生量が増大するため、冷却能力を向上させることができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、吸着式ヒートポンプを含むシステム、このようなシステムの制御方法、吸着式ヒートポンプおよびこのようなシステムにおいて吸着式ヒートポンプの制御方法を実行させるコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の吸着式ヒートポンプの概略構成を示すブロック図である。
図2】第1実施形態の吸着式ヒートポンプの制御方法のフローチャートである。
図3】第1吸脱着工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。
図4】第1同時回収工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。
図5】第2吸脱着工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。
図6】第2同時回収工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。
図7】熱COP比の比較結果を示す図である。
図8】冷熱出力比の比較結果を示す図である。
図9】第2実施形態の吸着式ヒートポンプの制御方法のフローチャートである。
図10】第1蒸気回収工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。
図11】第1顕熱回収工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。
図12】第3実施形態の吸着式ヒートポンプの概略構成を示すブロック図である。
図13】第1吸脱着工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。
図14】第1同時回収工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。
図15】第2吸脱着工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。
図16】第2同時回収工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の吸着式ヒートポンプ1の概略構成を示すブロック図である。吸着式ヒートポンプ1は、吸着器に収容されている吸着材において、吸着質を吸着または脱着させることで、対象物を冷却可能な熱エネルギ(以下、「冷熱」という)と、加熱可能な熱エネルギ(以下、「温熱」という)を生成する。本実施形態の吸着式ヒートポンプ1は、室内の空調設備に用いられ、対象物としての空気を冷却または加熱することで、室内の温度を調節することができる。本実施形態の吸着式ヒートポンプ1は、一対の吸着器11、12と、低温蒸発器13と、高温蒸発器14と、熱供給部15と、凝縮器16と、室内機17と、室外機18と、蒸気用バルブ21と、熱媒用バルブ22と、制御部25と、これらを接続する複数の配管と、流体の流れを制御する複数のバルブと、流体を圧送する複数のポンプと、を備える。なお、本実施形態の吸着式ヒートポンプ1が適用される分野は、室内空調に限定されず、廃熱などの低質エネルギから冷熱や温熱を生成することができることから、熱エネルギ生成システムや熱輸送システムとしても活用することができる。
【0017】
吸着器11と吸着器12とは、同程度の内容積を有する吸着器である。吸着器11の内部には、吸着材11aと、熱交換器11bとが互いに熱交換可能なように配置されている。吸着器12の内部には、吸着材12aと、熱交換器12bとが互いに熱交換可能なように配置されている。吸着材11a、12aは、シリカゲルまたはゼオライトであって、「吸着質」として水の吸着能を有する。熱交換器11b、12bは、例えば、熱媒体が流れる流路であって、熱媒体と吸着材11a、12aとの間において熱交換が行われる。本実施形態では、熱交換器11b、12bの内部を流れる熱媒体は、水である。なお、吸着器11、12のそれぞれに収容される吸着材と、吸着質の種類は、これらに限定されない。吸着材は、活性炭であってもよく、吸着質は、アルコールやアンモニアであってもよい。
【0018】
低温蒸発器13は、蒸気用バルブ21を介して、吸着器11、12のそれぞれに接続されている。低温蒸発器13は、吸着工程での吸着器11、12によって吸着質蒸気が吸着されて内部が減圧されることで、液体状の水から比較的低温の水蒸気(吸着質蒸気)を生成する。低温蒸発器13には、水蒸気が生成されるときの気化熱が伝わる熱交換器13aが収容されている。熱交換器13aは、2つの切替バルブ23、24を介して、室内機17、または、室外機18に接続している。低温蒸発器13の熱交換器13aに接続する配管には、熱交換器13aを流れる「温調用熱媒体」を加圧するポンプ13bが取り付けられている。本実施形態では、温調用熱媒体は、例えば、不凍液を含む水である。
【0019】
高温蒸発器14は、熱媒用バルブ22を介して、吸着器11、12のそれぞれの熱交換器11b、12bに接続されている。高温蒸発器14は、液体状の水から比較的高温の水蒸気を生成する。高温蒸発器14には、熱交換器14aが収容されている。ここで、高温蒸発器14で発生する比較的高温の水蒸気を「吸着器用熱媒体」という。
【0020】
熱供給部15は、ガスエンジン15aと、配管15bと、を備える。ガスエンジン15aは、ガスを燃焼させることで熱を発生する。配管15bは、ガスエンジン15aと、高温蒸発器14の熱交換器14aとを接続しており、内部に、例えば、不凍液を含む水が「蒸気用熱媒体」として封入されている。配管15bに封入されている蒸気用熱媒体は、ガスエンジン15aで発生する熱を高温蒸発器14に伝える。高温蒸発器14に伝えられる熱は、高温蒸発器14において、吸着器用熱媒体を生成する熱源となる。配管15bには、熱媒体を流すためのポンプ15cが取り付けられている。なお、熱を発生する熱源は、ガスエンジン15aには限定されず、吸着器用熱媒体を生成する熱量があればよく、他に用途がない廃熱であってもよい。
【0021】
凝縮器16は、吸着器11、12のそれぞれから排出される水蒸気を凝縮する。凝縮器16の内部には、水蒸気の凝縮熱が伝わる熱交換器16aが収容されている。熱交換器16aは、2つの切替バルブ23、24を介して、室内機17または室外機18に接続している。凝縮器16の熱交換器16aに接続する配管には、熱交換器16aを流れる温調用熱媒体を加圧するポンプ16bが取り付けられている。凝縮器16において、水蒸気の凝縮によって生成される液体状の水は、図示しない流路を介して、低温蒸発器13または高温蒸発器14に送られる。
【0022】
室内機17は、空調の対象空間となる室内に置かれる放熱器である。室内機17は、2つの切替バルブ23、24を介して、低温蒸発器13または凝縮器16に接続している。2つの切替バルブ23、24での切替によって室内機17が低温蒸発器13に接続されると、室内機17には、水蒸気が生成されるときの気化熱(冷熱)が伝わる。これにより、室内機17の内部にファン17aによって室内の空気を導入すると、室温に比べ温度が低い空気が生成される。2つの切替バルブ23、24での切替によって室内機17が凝縮器16に接続されると、室内機17には、水蒸気の凝縮熱(温熱)が伝わる。これにより、室内機17に室内の空気を導入すると、室温に比べ温度が高い空気が生成される。
【0023】
室外機18は、室外に置かれる放熱器である。室外機18は、2つの切替バルブ23、24を介して、低温蒸発器13または凝縮器16に接続している。2つの切替バルブ23、24での切替によって室外機18が低温蒸発器13に接続されると、室外機18には、水蒸気が生成されるときの気化熱が伝わる。これにより、室外機18の内部に、ファン18aによって室外の空気を導入すると、室外機18から室温に比べ温度が低い空気が室外に放出される。2つの切替バルブ23、24での切替によって室外機18が凝縮器16に接続されると、室外機18には、水蒸気の凝縮熱が伝わるため、室外機18から室温に比べ温度が高い空気が室外に放出される。
【0024】
蒸気用バルブ21は、組み合わせて使用される複数のバルブ21a、21bを含んでいる。蒸気用バルブ21は、蒸気用バルブ21に接続される複数の配管のそれぞれの接続先を適切に設定することで、吸着器11、12における水蒸気の出入りを制御する。例えば、低温蒸発器13で生成される水蒸気は、蒸気用バルブ21を経由して、吸着器11、12のいずれかに供給される。吸着器11、12内の水蒸気は、蒸気用バルブ21を経由して、凝縮器16に送られる。蒸気用バルブ21は、吸着器11内と吸着器12内とを直接接続する。これにより、吸着器11内の水蒸気の圧力と吸着器12内の水蒸気の圧力との差によって、高圧の吸着器側から低圧の吸着器側に水蒸気を移動させることができる。
【0025】
熱媒用バルブ22は、組み合わせて使用される複数のバルブ22a、22bを含んでいる。熱媒用バルブ22は、熱媒用バルブ22に接続される複数の配管のそれぞれの接続先を適切に設定することで、吸着器11、12のそれぞれの熱交換器11b、12bにおける吸着器用熱媒体の出入りを制御する。例えば、高温蒸発器14で生成される水蒸気は、熱媒用バルブ22を経由して、吸着器11、12のいずれかの熱交換器に送られる。熱交換器11b、12b内の吸着器用熱媒体は、熱媒用バルブ22を経由して、凝縮器16に送られる。熱媒用バルブ22は、吸着器11の熱交換器11bと吸着器12の熱交換器12bとを直接接続する。これにより、熱交換器11bの吸着器用熱媒体の圧力と熱交換器12bの吸着器用熱媒体の圧力との差によって、高温高圧の熱交換器側から低温低圧の熱交換器側に吸着器用熱媒体を移動させることができる。
【0026】
制御部25は、図示しないCPUと、ROM/RAMと、を有する。制御部25は、熱供給部15、室内機17、室外機18、蒸気用バルブ21、熱媒用バルブ22、および、切替バルブ23、24と電気的に接続している。また、制御部25は、ポンプ13b、15c、16b、および、吸着式ヒートポンプ1が備える図示しないセンサやバルブと電気的に接続している。ROMには、吸着式ヒートポンプの制御方法を制御部25に実行させるコンピュータプログラムが格納されている。CPUは、ROMに格納されているコンピュータプログラムをRAMに展開して実行することにより、熱供給部15などを作動させ、吸着式ヒートポンプ1全体を制御する。
【0027】
図2は、吸着式ヒートポンプ1における吸着式ヒートポンプの制御方法を示すフローチャートである。図3は、第1吸脱着工程での吸着式ヒートポンプ1の作動を説明する図である。図4は、第1同時回収工程での吸着式ヒートポンプ1の作動を説明する図である。図5は、第2吸脱着工程での吸着式ヒートポンプ1の作動を説明する図である。図6は、第2同時回収工程での吸着式ヒートポンプ1の作動を説明する図である。次に、吸着式ヒートポンプ1における吸着式ヒートポンプの制御方法を説明する。本実施形態の吸着式ヒートポンプ1では、吸着器11、12の一方において、吸着材に水蒸気を吸着させる吸着工程をおこないつつ、吸着器11、12の他方において、吸着材に吸着された水蒸気を脱着させる脱着工程をおこなう。2つの吸着器を備える吸着式ヒートポンプ1は、吸着工程を行う吸着器を一定の期間ごとに切り替えることで、連続して冷熱および温熱を生成することができる。図2に示す吸着式ヒートポンプ1における吸着式ヒートポンプの制御方法は、室内機17において室内の空気を冷却または加熱する要求が制御部25に入力されることによって実行され、室内の空気を冷却または加熱する要求が取り消されると終了する。吸着式ヒートポンプ1の制御方法では、室内の空気を冷却または加熱する要求が制御部25に入力されると、熱供給部15を起動させる。これにより、ガスエンジン15aが熱を発生する。
【0028】
吸着式ヒートポンプ1の制御方法では、最初に、吸着器11において吸着工程をおこないつつ、吸着器12において脱着工程をおこなう(図2のステップS11:第1吸脱着工程)。制御部25は、低温蒸発器13の水蒸気が吸着器11に導入されるとともに、高温蒸発器14の吸着器用熱媒体が吸着器12の熱交換器12bに導入されるように、蒸気用バルブ21および熱媒用バルブ22における配管の接続先を設定する。
【0029】
図3から図6に示す吸着式ヒートポンプ1のブロック図において、流体が流れている配管を、流体の種類ごとに分類して以下のように記載し、流体が流れていない配管を破線で示した。また、水蒸気が流れている配管については、流れの方向を矢印で示した。
温調用熱媒体(不凍液を含む水):二点鎖線
吸着器用熱媒体(比較的高温の水蒸気):実線
蒸気用熱媒体(不凍液を含む水):一点鎖線
吸着質(比較的低温の水蒸気):実線
【0030】
第1吸脱着工程において、吸着器11には、図3に示すように、低温蒸発器13において液体状の水から生成される比較的低温の水蒸気が、配管31を通り、蒸気用バルブ21のバルブ21aを経由して、配管32を通り、導入される。吸着器11に導入される水蒸気は、吸着器11の吸着材11aに吸着される。このとき、吸着材11aにおいて発生する吸着熱は、熱交換器11b内の吸着器用熱媒体を加熱する。加熱された吸着器用熱媒体は、配管33を通り、熱媒用バルブ22のバルブ22aを経由して、凝縮器16に送られる。
【0031】
第1吸脱着工程において、吸着器12では、図3に示すように、高温蒸発器14において液体状の水から生成された比較的高温の水蒸気が、配管41を通り、熱媒用バルブ22のバルブ22bを経由して、配管42を通り、熱交換器12bに供給される。これにより、吸着材12aが加熱され、例えば、前回の作動によって吸着材12aに吸着されたまま残った水を脱着させる。吸着材12aから脱着した水は、気体状の水蒸気となって、配管43を通り、蒸気用バルブ21のバルブ21bを経由して、配管44を通り、凝縮器16に送られる。
【0032】
第1吸脱着工程において、低温蒸発器13において水蒸気が生成されるとき、水の気化熱は、熱交換器13aを流れる温調用熱媒体を冷却する。冷却された温調用熱媒体は、配管34、35を通り、室内機17に送られる。室内機17では、ファン17aによって送られる室内の空気を冷却する。室内機17を流れた温調用熱媒体は、配管36、37を通り、低温蒸発器13に戻る。
【0033】
また、凝縮器16において、吸着器11の熱交換器11bから送られる吸着器用熱媒体(水蒸気)と、吸着器12から送られる水蒸気を凝縮するときに生成される水蒸気の凝縮熱は、熱交換器16aを流れる温調用熱媒体を加熱する。加熱された温調用熱媒体は、配管45、46を通り、室外機18に送られる。室外機18は、ファン18aによって送られる室外の空気を用いて放熱する。室外機18を流れた温調用熱媒体は、配管47、48を通り、凝縮器16に戻る。
【0034】
次に、吸着器12内の水蒸気を吸着器11内に送るとともに、吸着器12の熱交換器12bの熱を吸着器11の熱交換器11bに送る(図2のステップS12:第1同時回収工程)。制御部25は、吸着器12内に残っている水蒸気が吸着器11内に送られるとともに、熱交換器12b内の吸着器用熱媒体が熱交換器11bに送られるように、蒸気用バルブ21および熱媒用バルブ22における配管の接続先を設定する。
【0035】
第1同時回収工程では、制御部25は、図4に示すように、配管43と、蒸気用バルブ21と、配管32とを用いて、吸着器12内と吸着器11内とを直接接続する。ここで、「直接接続する」とは、流れる流体に対して熱的変化を少なくなるように接続することであり、例えば、放熱器を通らない接続である。吸着器11は、ステップS11における吸着工程が終了した直後であり、吸着器11内の水蒸気の圧力は比較的低い一方、吸着器12は、ステップS11における脱着工程が終了した直後であり、吸着器12内の水蒸気の圧力は比較的高い。これにより、吸着器11内と吸着器12内とを接続すると、水蒸気の圧力差によって吸着器12から吸着器11に向かって水蒸気が供給される(蒸気回収)。吸着器11に供給された水蒸気は、吸着工程直後の吸着材11aに吸着される。したがって、吸着器11では、次の工程の前に、水蒸気をさらに吸着することができる。また、吸着器12では、次の吸着工程の前に水蒸気をさらに脱着することができるため、作動域を広げることができる。
【0036】
また、第1同時回収工程では、制御部25は、図4に示すように、配管42と、熱媒用バルブ22と、配管33とを用いて、吸着器12の熱交換器12bと吸着器11の熱交換器11bとを接続する。吸着器11は、吸着工程が終了した直後であり、熱交換器11bの圧力は比較的低い一方、吸着器12は、脱着工程が終了した直後であり、熱交換器12bの圧力は比較的高い。これにより、熱交換器12bと熱交換器11bとを接続すると、圧力差によって熱交換器12bから熱交換器11bに向かって高温の水蒸気が移動し、熱交換器12bの熱が移動する(顕熱回収)。本実施形態では、熱交換器12b内の比較的高熱の水蒸気が熱交換器11bに向かって移動する。したがって、吸着器11では、次の工程の前に、熱交換器11bを介して吸着材11aを加熱することができる。第1同時回収工程では、このようにして、吸着器11と吸着器12との間での水蒸気の移動(蒸気回収)と、熱交換器11bと熱交換器12bとの間での熱交換(顕熱回収)とを並列しておこなう。
【0037】
次に、吸着器11において脱着工程をおこないつつ、吸着器12において吸着工程をおこなう(図2のステップS13:第2吸脱着工程)。制御部25は、低温蒸発器13の水蒸気が吸着器12に導入されるとともに、高温蒸発器14の水蒸気が吸着器11の熱交換器11bに導入されるように、蒸気用バルブ21および熱媒用バルブ22における配管の接続先を設定する。
【0038】
第2吸脱着工程において、吸着器11には、高温蒸発器14において生成された水蒸気が、図5に示すように、配管41を通り、熱媒用バルブ22のバルブ22aを経由して、配管33を通り、熱交換器11bに送られる。これにより、吸着材11aが加熱され、第1吸脱着工程において吸着材11aに吸着された水蒸気を脱着させる。吸着材11aから脱着した水蒸気は、配管32を通り、蒸気用バルブ21のバルブ21aを経由して、配管44を通り、凝縮器16に送られる。吸着器12には、低温蒸発器13において生成される比較的低温の水蒸気が、図5に示すように、配管31を通り、蒸気用バルブ21のバルブ21bを経由して、配管43を通り、導入される。吸着器12では、吸着器12に導入された水蒸気が吸着材12aに吸着されるとき発生する吸着熱が、熱交換器12b内の吸着器用熱媒体を加熱する。加熱された吸着器用熱媒体は、配管42を通り、熱媒用バルブ22のバルブ22bを経由して、配管49を通り、凝縮器16に送られる。
【0039】
第2吸脱着工程において、低温蒸発器13における水の気化熱は、熱交換器13aを流れる温調用熱媒体を冷却し、室内機17において、ファン17aによって送られる室内の空気を冷却する。凝縮器16における水蒸気の凝縮熱は、熱交換器16aを流れる温調用熱媒体を加熱し、室外機18において、ファン18aによって送られる室外の空気を用いて室外に放出される。
【0040】
次に、吸着器11内の水蒸気を吸着器12内に送るとともに、吸着器11の熱交換器11bの熱を吸着器12の熱交換器12bに送る(図2のステップS14:第2同時回収工程)。制御部25は、吸着器11内に残っている水蒸気が吸着器12内に送られるとともに、熱交換器11b内の吸着器用熱媒体が熱交換器12bに送られるように、蒸気用バルブ21および熱媒用バルブ22における配管の接続先を設定する。
【0041】
第2同時回収工程では、制御部25は、図6に示すように、配管32と、蒸気用バルブ21と、配管43とを用いて、吸着器11内と吸着器12内とを接続するとともに、配管33と、熱媒用バルブ22と、配管42とを用いて、吸着器11の熱交換器11bと吸着器12の熱交換器12bとを接続する。これにより、蒸気の圧力差によって吸着器11内から吸着器12内に水蒸気が供給されると同時に、熱交換器11bから熱交換器12bに向かって圧力差によって蒸気が移動することで、熱交換器11bから熱交換器12bに熱交換器11bの熱が移動する。これにより、次の工程の前に、吸着器12では、吸着材12aが水蒸気を吸着するとともに、熱交換器12bを介して加熱される。このように、第2同時回収工程では、吸着器11と吸着器12との間での水蒸気の移動と、熱交換器11bと熱交換器12bとの間での熱交換とを並列しておこなう。
【0042】
上述の吸着式ヒートポンプ1の制御方法では、室内機17によって室内の空気を冷却するモードを説明した。本実施形態の吸着式ヒートポンプ1では、2つの切替バルブ23、24を切り替えることで、室内機17と凝縮器16とを接続し、室外機18と低温蒸発器13とを接続することで、室内機17によって室内の空気を温めることができる。
【0043】
図7は、熱COP比の比較結果を示す図である。図7では、冷熱を生成する吸着式ヒートポンプにおいて、投入される熱量に対する冷熱出力の比である熱COP比の比較結果を示している(図7の縦軸参照)。図7には、一対の吸着器での吸脱着の切り替えを、本実施形態の吸着式ヒートポンプの制御方法によって行った場合の熱COP比を「同時回収」として示している。また、図7には、比較例として、切り替え時に吸脱着を停止するのみの制御方法での熱COP比を「待機」として示し、切り替え時に顕熱のみを回収する制御方法での熱COP比を「顕熱のみ回収」として、切り替え時に蒸気のみを回収する制御方法での熱COP比を「蒸気のみ回収」として示している。また、別の比較例として、切り替え時に蒸気を回収したのち顕熱を回収する制御方法での熱COP比を「蒸気回収後顕熱回収」として示している。図7に示すこれらの制御方法での熱COP比は、3種類の環境温度(25℃、35℃、40℃)のそれぞれでの計算値を示している。
【0044】
図7に示すように、「顕熱のみ回収」では、「待機」に比べ、熱COP比は、約12.2~17.5%向上し、「蒸気のみ回収」では、約12.4~29.2%向上することが明らかとなった。「蒸気回収後顕熱回収」では、熱COP比は、約20.9~39.2%向上することが明らかとなった。本実施形態の「同時回収」では、「待機」に比べ、熱COP比は、約23.6~44.9%の向上となり、今回比較した制御方法の中では、熱COP比が最も大きく向上することが明らかとなった。また、「同時回収」での熱COP比の向上の度合いは、図7に示すように、環境温度の上昇によってさらに顕著になることも明らかとなった。このように、本実施形態の吸着式ヒートポンプの制御方法は、比較例の制御方法に比べ、熱COP比が大きく向上し、有効であることが明らかとなった。
【0045】
図8は、冷熱出力比の比較結果を示す図である。図8では、図7で示した各制御方法によって制御されたときに、吸着式ヒートポンプから出力される冷熱の大きさを、「待機」の制御方法で出力される冷熱量に対する比率(「冷熱出力比」)で比較したものである。図8に示すように、「顕熱のみ回収」では、冷熱出力比は、「待機」に比べ、約2.0~4.7%向上し、「蒸気のみ回収」では、冷熱出力比は、約6.9~21.3%向上することが明らかとなった。しかしながら、「蒸気回収後顕熱回収」では、冷熱出力比は、約3.0~15.3%の向上と、「蒸気のみ回収」より低下することが明らかとなった。これは、蒸気回収に続けて顕熱回収をおこなうことで、低温蒸発器の稼働時間が短くなるためと考えられる。一方、「同時回収」では、「待機」に比べ、冷熱出力比は、約8.8~23.5%の向上となり、冷熱出力比が最も大きく向上することが明らかとなった。また、「同時回収」での冷熱出力比の向上の度合いは、図8に示すように、環境温度の上昇によってさらに顕著になることも明らかとなった。このように、本実施形態の吸着式ヒートポンプの制御方法は、比較例の制御方法に比べ、冷熱出力比が大きく向上し、有効であることが明らかとなった。
【0046】
以上説明した、本実施形態の吸着式ヒートポンプの制御方法によれば、例えば、吸着器11の吸着材11aに水蒸気を吸着させるとともに、吸着器12の吸着材12aに吸着されている水蒸気を吸着材12aから脱着させる第1吸脱着工程の後に、第1同時回収工程として、吸着器12から吸着器11へ吸着蒸気を移動させる蒸気回収と吸着器12から吸着器11への顕熱回収とをおこなう。吸着式ヒートポンプ1のような2つの吸着器を備える吸着式ヒートポンプでは、2つの吸着器のそれぞれに、吸着材に吸着質が供給される時間と、吸着材が加熱される時間とが交互に来るように設定されている。そこで、例えば、吸着器11で水蒸気が供給される時間が経過したとき、次の時間で吸着材12aに水蒸気を吸着させる吸着器12に残っている水蒸気を吸着器11へ移動させて、吸着器11の吸着材11aに吸着させる蒸気回収をおこなう。これにより、吸着材12aは、吸着器12に水蒸気が供給される前に、水蒸気をさらに脱着することができるため、吸着材12aの作動域が広がり、吸着材12aの吸着能力を向上させることができる。また、例えば、吸着器12の吸着材12aが加熱される時間が経過したとき、加熱されていた吸着材12aの顕熱を、次の時間で吸着材11aが加熱される吸着器11に移動させて、吸着器11の吸着材11aを加熱させる顕熱回収をおこなう。これにより、吸着材12aの顕熱を有効に利用して、次の時間に吸着器11を加熱するための熱量を減らすことができる。したがって、顕熱損失を抑制し、吸着式ヒートポンプシステムへの投入熱量を減少させることができるため、システム効率を向上させることができる。さらに、本実施形態の吸着式ヒートポンプの制御方法では、吸着材に吸着質が供給される時間と吸着材が加熱される時間との間に設定される吸着器の切替時間において蒸気回収と顕熱回収を並行しておこなう。この場合、吸着器の切替時間は、蒸気回収の時間と顕熱回収の時間を合計した時間となるため、蒸気回収と顕熱回収を別々に行う場合に比べ、短縮することができる。この蒸気回収の時間と顕熱回収の時間を合計した切替時間が短縮されると、吸着器11、12に水蒸気を供給するための低温蒸発器13や、吸着材11a、12aから脱着された水蒸気を凝縮させる凝縮器16の稼働時間を長くすることができる。これにより、吸着式ヒートポンプ1の冷却加熱能力を向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態のコンピュータプログラムによれば、上述したように、例えば、水蒸気が吸着器12に供給される前に吸着器11に残っていた水蒸気をさらに脱着させる蒸気回収をおこなうことができるため、吸着材11a、12aの吸着能力を向上させることができる。また、吸着器12が備える吸着材12aの顕熱を有効に利用する顕熱回収をおこなうことができるため、顕熱損失を抑制し、システム効率を向上させることができる。さらに、蒸気回収と顕熱回収を並行しておこなうため、蒸気回収の時間と顕熱回収の時間の合計である切替時間が短縮され、低温蒸発器13や凝縮器16の稼働時間を長くすることができる。したがって、吸着式ヒートポンプ1の冷却加熱能力を向上させることができる。このように、本実施形態のコンピュータプログラムは、顕熱損失を抑制し、かつ、吸着材11a、12aの吸脱着能力を向上しつつ、冷却加熱能力を向上させることができるように、制御部25によって、吸着式ヒートポンプ1の作動を制御することができる。
【0048】
また、本実施形態の吸着式ヒートポンプによれば、制御部25は、例えば、吸着材11aに水蒸気を吸着させ、吸着材12aから水蒸気を脱着させた後、顕熱回収と蒸気回収とをおこなう。これにより、水蒸気が吸着器12に供給される前に吸着器12に残っていた水蒸気を脱着させる蒸気回収をおこなうことができるため、吸着材12aの吸着能力を向上させることができる。また、例えば、吸着器12が備える吸着材12aの顕熱を有効に利用する顕熱回収をおこなうことができるため、顕熱損失を抑制し、システム効率を向上させることができる。さらに、制御部25は、蒸気回収と顕熱回収を並行しておこなうため、蒸気回収の時間と顕熱回収の時間の合計である切替時間が短縮され、低温蒸発器13や凝縮器16の稼働時間を長くすることができる。これにより、吸着式ヒートポンプ1は、冷却加熱能力を向上させることができる。したがって、吸着式ヒートポンプ1は、顕熱損失を抑制し、かつ、吸着材11a、12aの吸脱着能力を向上しつつ、冷却加熱能力を向上させることができる。
【0049】
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態の吸着式ヒートポンプの制御方法のフローチャートである。第2実施形態の吸着式ヒートポンプの制御方法は、第1実施形態の吸着式ヒートポンプの制御方法(図2)と比較すると、同時回収工程の前に蒸気回収工程を備える点と、同時回収工程の後に顕熱回収工程を備える点と、が異なる。
【0050】
第2実施形態の吸着式ヒートポンプ2の制御方法では、最初に、第1実施形態の制御方法のステップS11と同様に、吸着器11において吸着工程をおこないつつ、吸着器12において脱着工程をおこなう(ステップS21:第1吸脱着工程)。制御部25は、低温蒸発器13の水蒸気が吸着器11に導入されるとともに、高温蒸発器14の水蒸気が吸着器12の熱交換器12bに導入されるように、蒸気用バルブ21および熱媒用バルブ22における配管の接続先を設定する。これにより、吸着器11において吸着材11aに水蒸気を吸着させつつ、吸着材12aにおいて吸着材12aに吸着している水蒸気を脱着させる。
【0051】
次に、吸着器12内の水蒸気を吸着器11内に送る(ステップS22:第1蒸気回収工程)。制御部25は、吸着器12内に残っている水蒸気が吸着器11内に送られるように、蒸気用バルブ21における配管の接続先を設定する。これにより、蒸気回収が同時回収より先におこなわれる。
【0052】
図10は、第1蒸気回収工程での吸着式ヒートポンプ2の作動を説明する図である。図10に示す流体の流れの分類は、第1実施形態の図3と同様である。第1蒸気回収工程では、制御部25は、配管43と、蒸気用バルブ21と、配管32とを用いて、吸着器12内と吸着器11内とを接続する。これにより、水蒸気の圧力差によって吸着器12から吸着器11に向かって水蒸気が供給される。吸着器11に供給された水蒸気は、吸着材11aに吸着される。
【0053】
次に、第1実施形態の制御方法のステップS12と同様に、吸着器12内の水蒸気を吸着器11内に送ると同時に、吸着器12の熱交換器12bの熱を吸着器11の熱交換器11bに送る(ステップS23:第1同時回収工程)。制御部25は、ステップS22の状態、すなわち、吸着器11内と吸着器12内とを接続している状態から、配管42と、熱媒用バルブ22と、配管33とを用いて、熱交換器12bと熱交換器11bとを接続する。これにより、吸着器11と吸着器12との間での水蒸気の移動と、熱交換器11bと熱交換器12bとの間での熱交換とを並列しておこなう。
【0054】
次に、吸着器12の熱交換器12bの熱を吸着器11の熱交換器11bに送る(ステップS24:第1顕熱回収工程)。制御部25は、ステップS23の状態から、吸着器11内と吸着器12内との接続が解除されるように、蒸気用バルブ21における配管の接続先を設定する。このとき、熱交換器11bと熱交換器12bとが接続されている状態は維持するため、熱交換器12b内の吸着器用熱媒体が熱交換器11bに送られる。これにより、顕熱回収は、継続しておこなわれる。
【0055】
図11は、第1顕熱回収工程での吸着式ヒートポンプの作動を説明する図である。図11に示す流体の流れの分類は、第1実施形態の図3と同様である。第1顕熱回収工程では、制御部25は、配管42と、熱媒用バルブ22と、配管33とを用いて、吸着器11の熱交換器11bと吸着器12の熱交換器12bとを接続する。これにより、圧力差によって熱交換器12bから熱交換器11bに向かって高温の蒸気が移動し、熱交換器12bの熱が移動する。
【0056】
次に、第1実施形態の制御方法のステップS13と同様に、吸着器11において脱着工程をおこないつつ、吸着器12において吸着工程をおこなう(ステップS25:第2吸脱着工程)。制御部25は、低温蒸発器13の水蒸気が吸着器12に導入されるとともに、高温蒸発器14の水蒸気が吸着器11の熱交換器11bに導入されるように、蒸気用バルブ21および熱媒用バルブ22における配管の接続先を設定する。
【0057】
次に、吸着器11内の水蒸気を吸着器12内に送る(ステップS26:第2蒸気回収工程)。制御部25は、吸着器11内に残っている水蒸気が吸着器12内に送られるように、蒸気用バルブ21における配管の接続先を設定する。これにより、水蒸気の圧力差によって吸着器11から吸着器12に向かって水蒸気が供給される。吸着器12に供給された水蒸気は、吸着材12aに吸着される。これにより、蒸気回収が同時回収より先におこなわれる。
【0058】
次に、第1実施形態の制御方法のステップS14と同様に、吸着器11内の水蒸気を吸着器12内に送ると同時に、吸着器11の熱交換器11bの熱を吸着器12の熱交換器12bに送る(ステップS27:第2同時回収工程)。制御部25は、ステップS26での吸着器12内と吸着器11内とを接続している状態から、配管33と、熱媒用バルブ22と、配管42とを用いて、熱交換器11bと熱交換器12bとを接続する。これにより、吸着器11と吸着器12との間での水蒸気の移動と、熱交換器11bと熱交換器12bとの間での熱交換とを並列しておこなう。
【0059】
次に、吸着器11の熱交換器11bの熱を吸着器11の熱交換器11bに送る(ステップS28:第2顕熱回収工程)。制御部25は、ステップS27の状態から、蒸気用バルブ21における配管の組み合わせを制御し、吸着器11内と吸着器12内との接続を解除する。このとき、吸着器11の熱交換器11bと吸着器12の熱交換器12bとが接続されている状態は維持されているため、熱交換器11b内の吸着器用熱媒体が熱交換器12bに送られる。これにより、顕熱回収は、継続しておこなわれる。
【0060】
以上説明した、本実施形態の吸着式ヒートポンプ2の制御方法によれば、先に、蒸気回収を開始し(蒸気回収工程)、蒸気回収を継続しておこなっている途中で、顕熱回収を開始する(同時回収工程)。吸着式ヒートポンプの状態によっては、蒸気回収に要する時間の方が顕熱回収に要する時間より長い場合がある。そこで、蒸気回収と顕熱回収とを並行しておこなう前に、蒸気回収をおこなうことで、蒸気を十分に回収することができる。これにより、吸着式ヒートポンプ1全体における水蒸気の利用率を向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態の吸着式ヒートポンプ2の制御方法によれば、蒸気回収と顕熱回収とを並行しておこなっているとき(同時回収工程)に、蒸気回収を停止し、顕熱回収を継続しておこなう(顕熱回収工程)。吸着式ヒートポンプの状態によっては、顕熱回収に要する時間の方が蒸気回収に要する時間より長い場合がある。そこで、蒸気回収と顕熱回収とを並行しておこなったあとに、顕熱回収をおこなうことによって、顕熱を十分に回収することができる。これにより、吸着式ヒートポンプ1全体における顕熱の回収率を向上させることができる。
【0062】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態の吸着式ヒートポンプの概略構成を示すブロック図である。第3実施形態の吸着式ヒートポンプは、第1実施形態の吸着式ヒートポンプ(図1)と比較すると、吸着材の熱を外部に放出する放熱器を備えている点が異なる。
【0063】
本実施形態の吸着式ヒートポンプ3は、一対の吸着器51、52と、低温蒸発器53と、熱供給部55と、凝縮器56と、室内機57と、室外機58と、放熱器59と、蒸気用バルブ61と、熱媒用バルブ62、63、64と、制御部65と、これらを接続する複数の配管と、流体の流れを制御するバルブと、流体を圧送する複数のポンプと、を備える。
【0064】
吸着器51、52は、第1実施形態の吸着器11、12と同じ構成を備えている。すなわち、吸着器51と吸着器52とは、同程度の内容積を有しており、吸着器51の内部には、吸着材51aと、熱交換器51bとが収容されている。吸着器52の内部には、吸着材52aと、熱交換器52bとが収容されている。
【0065】
本実施形態では、吸着器51の熱交換器51bは、熱媒用バルブ62、63に接続している。これにより、熱交換器51b内を流れる熱媒体は、熱媒用バルブ62から熱媒用バルブ63に向かう方向、または、熱媒用バルブ63から熱媒用バルブ62に向かう方向に流れる。また、吸着器52の熱交換器52bは、熱媒用バルブ62、64に接続している。これにより、熱交換器52b内を流れる熱媒体は、熱媒用バルブ62から熱媒用バルブ64に向かう方向、または、熱媒用バルブ64から熱媒用バルブ62に向かう方向に流れる。
【0066】
低温蒸発器53は、蒸気用バルブ61を介して、吸着器51、52のそれぞれに接続されている。低温蒸発器53は、吸着工程での吸着器51、52によって吸着質蒸気が吸着されて内部が減圧されることで、液体状の水から、比較的低温の水蒸気(吸着質蒸気)を生成する。低温蒸発器53には、水蒸気が生成されるときの気化熱(冷熱)が伝わる熱交換器53aが収容されている。熱交換器53aは、熱媒体が流れる配管53bを介して、室内機57に接続している。配管53bには、熱交換器53aを流れる温調用熱媒体を圧送するポンプ53cが取り付けられている。
【0067】
熱供給部55は、ガスエンジン55aと、配管55b、55c、55d、55eと、を備える。配管55b、55c、55d、55eのそれぞれの内部には、例えば、不凍液を含む水が封入されている。配管55bは、ガスエンジン55aと熱媒用バルブ63とに接続されており、ポンプ55fによって圧送されて熱交換器51bに供給される熱媒体が流れる。配管55cは、ガスエンジン55aと熱媒用バルブ64とに接続されており、ポンプ55fによって圧送されて熱交換器52bに供給される熱媒体が流れる。配管55dは、ガスエンジン55aと熱媒用バルブ62とに接続されており、熱交換器51bから排出される熱媒体が流れる。配管55eは、ガスエンジン55aと熱媒用バルブ62とに接続されており、熱交換器52bから排出される熱媒体が流れる。ここで、配管55b、55c、55d、55eに封入されている不凍液を含む水を吸着器用熱媒体という。
【0068】
凝縮器56は、吸着器51、52のそれぞれから排出される水蒸気を凝縮する。水蒸気の凝縮によって生成される液体状の水は、図示しない流路を介して、低温蒸発器53に送られる。凝縮器56の内部には、水蒸気の凝縮熱(温熱)が伝わる熱交換器56aが収容されている。熱交換器56aは、室外機58に接続している。熱交換器56aと室外機58とを接続する配管56bには、熱交換器56aを流れる温調用熱媒体を加圧するポンプ56cが取り付けられている。
【0069】
室内機57は、第1実施形態の室内機17と同じ構成を有している。室内機57は、低温蒸発器53から供給される冷熱を用いて、室内機57の内部にファン57aによって導入される室内の空気を冷却する。室外機58は、第1実施形態の室外機18と同じ構成を有している。室外機58は、凝縮器56から供給される温熱を用いて、室外機58の内部にファン58aによって導入される空気を加熱し、外部に放出する。
【0070】
放熱器59は、熱媒用バルブ62に接続する熱交換器であって、室内機57と同じ構成を有している。放熱器59は、吸着工程において発生する吸着熱によって温められた、熱交換器51b、52bから排出される熱媒体をファン59aの回転によって発生する空気の流れを用いて冷却する。
【0071】
蒸気用バルブ61は、第1実施形態の蒸気用バルブ21と同じ構成を有しており、組み合わせて使用される複数のバルブ61a、61bを含んでいる。蒸気用バルブ61は、蒸気用バルブ61に接続される複数の配管の接続先を適切に設定することで、吸着器51、52における水蒸気の出入りを制御する。蒸気用バルブ61は、吸着器51内と吸着器52内とを直接接続する。これにより、吸着器51内の水蒸気の圧力と吸着器52内の水蒸気の圧力との差によって、高圧の吸着器側から低圧の吸着器側に水蒸気を移動させることができる。
【0072】
熱媒用バルブ62は、第1実施形態の熱媒用バルブ22と同じ構成を有しており、組み合わせて使用される複数のバルブ62a、62bを含んでいる。熱媒用バルブ62は、熱媒用バルブ62に接続される複数の配管の接続先を適切に設定することで、熱交換器51b、52bにおける吸着器用熱媒体の出入りを制御する。熱媒用バルブ62は、熱交換器51bと熱交換器52bとを直接接続する。これにより、熱交換器51bの吸着器用熱媒体の温度と熱交換器52bの吸着器用熱媒体の温度との差によって、高温の熱交換器側から低圧の熱交換器側に、吸着器用熱媒体を移動させることができる。
【0073】
熱媒用バルブ63は、熱交換器51bにおいて、熱媒用バルブ62が接続する側とは反対側に接続されている。熱媒用バルブ63は、配管55bを介して熱供給部55に接続されている。熱媒用バルブ63は、熱供給部55が供給する熱媒体を熱交換器51bに供給したり、熱交換器51bを通過した熱媒体を放熱器59に送ったりする。熱媒用バルブ63は、ポンプ65aと熱媒用バルブ64を介して、熱交換器52bからの熱媒体を移動させる。
【0074】
熱媒用バルブ64は、熱交換器52bにおいて、熱媒用バルブ62が接続する側とは反対側に接続されている。熱媒用バルブ64は、配管55cを介して熱供給部55に接続されている。熱媒用バルブ64は、熱供給部55が供給する熱媒体を熱交換器52bに供給したり、熱交換器51bを通過した熱媒体を放熱器59に送ったりする。熱媒用バルブ64は、ポンプ65aと熱媒用バルブ63を介して、熱交換器51bに熱媒体を移動させる。
【0075】
制御部65は、図示しないCPUと、ROM/RAMと、を有する。制御部65は、熱供給部55、室内機57、室外機58、蒸気用バルブ61、および、熱媒用バルブ62、63、64と、電気的に接続している。また、制御部65は、複数のポンプ53c、55f、56c、59b、65aや、吸着式ヒートポンプ1が備える図示しないセンサやバルブと電気的に接続している。制御部65は、ROMに格納されているコンピュータプログラムをRAMに展開して実行することにより、吸着式ヒートポンプ3全体の動作を制御する。
【0076】
制御部65によって作動が制御されるポンプ65aは、熱媒用バルブ63と熱媒用バルブ64と接続する配管65bに取り付けられている。ポンプ65aは、両方向に圧送可能なポンプである。ポンプ65aは、熱媒用バルブ63と熱媒用バルブ64との間で流れる熱媒体を加圧し圧送する。
【0077】
次に、本実施形態における吸着式ヒートポンプ3における吸着式ヒートポンプの制御方法を説明する。吸着式ヒートポンプ3における吸着式ヒートポンプの制御方法は、第1実施形態と同じフローで進行する。
【0078】
図13は、第1吸脱着工程での吸着式ヒートポンプ3の作動を説明する図である。図13に示す流体の流れの分類は、第1実施形態の図3と同様である。吸着式ヒートポンプ3における吸着式ヒートポンプの制御方法では、最初に、吸着器51において吸着工程をおこないつつ、吸着器52において脱着工程をおこなう(第1吸脱着工程)。吸着器51には、低温蒸発器53において液体状の水から生成される比較的低温の水蒸気(吸着質蒸気)が、配管71を通り、蒸気用バルブ61のバルブ61aを経由して、配管72を通り、導入される。吸着器51に導入される水蒸気は、吸着器51の吸着材51aに吸着される。
【0079】
吸着材51aにおいて水蒸気の吸着によって発生する吸着熱は、熱交換器51b内の吸着器用熱媒体を加熱する。加熱された吸着器用熱媒体は、配管73を通り、熱媒用バルブ63を経由して、配管74を通り、放熱器59に送られる。放熱器59に送られた吸着器用熱媒体は、ファン59aの回転によって発生する空気の流れによって冷却され、配管75を通り、熱媒用バルブ62のバルブ62aを経由して、配管76を通り、熱交換器51bに戻る。なお、図13では、吸着器用熱媒体が流れている配管は、二点鎖線で示しており、吸着器用熱媒体の流れ方向を矢印で示した。
【0080】
第1吸脱着工程において、吸着器52では、熱供給部55が供給する吸着器用熱媒体が、配管55cを通り、熱媒用バルブ64を経由して、熱交換器52bに送られる。これにより、吸着材52aが加熱され、吸着材52aに吸着されて残っていた水蒸気を脱着させる。吸着材52aから脱着した水蒸気は、配管81を通り、蒸気用バルブ61のバルブ61bを経由して、配管82を通り、凝縮器56に送られる。
【0081】
また、吸着器52では、熱交換器52bを流れた吸着器用熱媒体が、配管83を通り、熱媒用バルブ62のバルブ62bを経由して、配管84、55eを通り、ガスエンジン55aに戻る。ガスエンジン55aに戻った吸着器用熱媒体は、再度加熱され、配管55cを通り、熱交換器52bに送られる。
【0082】
第1吸脱着工程において、低温蒸発器53において水蒸気が生成されるとき発生する水の気化熱(冷熱)は、配管53bを流れる温調用熱媒体によって室内機57に送られる。室内機57では、ファン57aによって送られる室内の空気を冷却する。凝縮器56において吸着器52から送られる水蒸気が凝縮するときの水蒸気の凝縮熱(温熱)は、配管56bを流れる温調用熱媒体によって、室外機58に送られる。室外機58は、ファン58aによって送られる室外の空気を用いて放熱する。
【0083】
図14は、第1同時回収工程での吸着式ヒートポンプ3の作動を説明する図である。図14に示す流体の流れの分類は、第1実施形態の図3と同様である。次に、吸着器52内の水蒸気を吸着器51内に送ると同時に、吸着器52の熱交換器52bの熱を吸着器51の熱交換器51bに送る(第1同時回収工程)。制御部65は、吸着器52内に残っている水蒸気が吸着器51内に送られるとともに、熱交換器52b内の吸着器用熱媒体が熱交換器51bに送られるように、蒸気用バルブ61および熱媒用バルブ62、63、64における配管の接続先を設定する。なお、図14では、吸着器用熱媒体が流れている配管は、二点鎖線で示しており、吸着器用熱媒体の流れ方向を矢印で示した。
【0084】
第1同時回収工程では、制御部65は、配管81と、蒸気用バルブ61と、配管72とを用いて、吸着器52内と吸着器51内とを接続する。吸着器51は、吸着工程が終了した直後であり、吸着器52は、脱着工程が終了した直後であるため、吸着器51内と吸着器52内と接続すると、水蒸気の圧力差によって吸着器52から吸着器51に向かって水蒸気が供給される(蒸気回収)。吸着器51に供給された水蒸気は、吸着材51aに吸着される。これにより、吸着器52では、次の吸着工程の前に、水蒸気をさらに脱着することができる。
【0085】
また、第1同時回収工程では、制御部65は、配管83と、熱媒用バルブ62と、配管76とを用いて、吸着器51の熱交換器51bと吸着器52の熱交換器52bとを接続する。また、制御部65は、配管73と、熱媒用バルブ63と、配管65bと、熱媒用バルブ64と、配管85とを用いて、熱交換器51bと熱交換器52bとを接続する。これにより、熱交換器51bと熱交換器51bとは、複数の配管と、熱媒用バルブ62、63、64とによって、環状の流路を形成する。吸着器51は、吸着工程が終了した直後であり、吸着器52は、脱着工程が終了した直後であるため、熱交換器51bと熱交換器52bとを接続すると、温度差によって熱交換器52bから熱交換器51bに向かって、熱交換器12bの熱が移動する(顕熱回収)。本実施形態では、高温の吸着器用熱媒体が熱交換器52bから熱交換器51bに向かって移動する。したがって、吸着器51では、次の脱着工程の前に、熱交換器51bを介して吸着材51aを加熱することができる。このように、第1同時回収工程では、吸着器51と吸着器52との間での水蒸気の移動(蒸気回収)と、熱交換器51bと熱交換器52bとの間での熱交換(顕熱回収)と、を並列しておこなう。
【0086】
本実施形態では、第1同時回収工程において、制御部65は、ガスエンジン55aと、配管55cと、熱媒用バルブ64と、配管86、55eとによって環状の流路を形成する。また、制御部65は、放熱器59と、配管75と、熱媒用バルブ62のバルブ62aと、配管77と、熱媒用バルブ63と、配管74とによって環状の流路を形成する。第1同時回収工程の間、吸着器用熱媒体は、これらの環状の流路を流れる。
【0087】
図15は、第2吸脱着工程での吸着式ヒートポンプ3の作動を説明する図である。図15に示す流体の流れの分類は、第1実施形態の図3と同様である。次に、吸着器51において脱着工程をおこないつつ、吸着器52において吸着工程をおこなう(第2吸脱着工程)。制御部65は、低温蒸発器53の水蒸気が吸着器52に導入されるとともに、ガスエンジン55aによって加熱された吸着器用熱媒体が吸着器51の熱交換器51bに導入されるように、蒸気用バルブ61および熱媒用バルブ62における配管の接続先を設定する。なお、図15では、吸着器用熱媒体が流れている配管は、二点鎖線で示しており、吸着器用熱媒体の流れ方向を矢印で示した。
【0088】
第2吸脱着工程において、吸着器51では、熱供給部55が供給する熱媒体が、配管55bを通り、熱媒用バルブ63を経由して、配管73を通り、熱交換器51bに送られる。これにより、吸着材51aが加熱され、第1吸脱着工程において、吸着材51aに吸着された水蒸気を脱着させる。吸着材51aから脱着した水蒸気は、配管72を通り、蒸気用バルブ61のバルブ61aを経由して、配管82を通り、凝縮器56に送られる。
【0089】
また、吸着器52では、低温蒸発器53において生成される比較的低温の水蒸気(吸着質蒸気)が、配管71を通り、蒸気用バルブ61のバルブ61bを経由して、配管81を通り、導入される。吸着器52では、吸着器52に導入された水蒸気が吸着材52aに吸着されるとき発生する吸着熱が、熱交換器52b内の吸着器用熱媒体を加熱する。加熱された吸着器用熱媒体は、配管85を通り、熱媒用バルブ64を経由して、配管87、74を通り、放熱器59に送られる。放熱器59に送られた熱媒体は、ファン59aの回転によって発生する空気の流れによって冷却され、配管75、88を通り、熱媒用バルブ64のバルブ62bを経由して、配管83を通り、熱交換器52bに戻る。
【0090】
第2吸脱着工程において、低温蒸発器53において水蒸気が生成されるとき発生する水の気化熱は、室内機57において、室内の空気を冷却する。凝縮器56において吸着器51から送られる水蒸気が凝縮するときの水蒸気の凝縮熱は、室外機58において、室外の空気を用いて放出される。
【0091】
次に、吸着器51内の水蒸気を吸着器52内に送ると同時に、吸着器51の熱交換器51bの熱を吸着器52の熱交換器52bに送る(第2同時回収工程)。制御部65は、吸着器51内に残っている水蒸気が吸着器52内に送られるとともに、熱交換器51b内の吸着器用熱媒体が吸着器52の熱交換器52bに送られるように、蒸気用バルブ61および熱媒用バルブ62における配管の接続先を設定する。
【0092】
図16は、第2同時回収工程での吸着式ヒートポンプ3の作動を説明する図である。図16に示す流体の流れの分類は、第1実施形態の図3と同様である。第2同時回収工程では、制御部65は、配管81と、蒸気用バルブ61と、配管72とを用いて、吸着器51内と吸着器52内とを接続するとともに、配管76と、熱媒用バルブ62と、配管83とを用いて、吸着器51の熱交換器51bと吸着器52の熱交換器52bとを接続する。これにより、蒸気の圧力差によって吸着器51から吸着器52に向かって水蒸気が供給されると同時に、温度差によって熱交換器51bから熱交換器52bに向かって、熱交換器51bの熱が移動する。したがって、次の工程の前に、吸着器52では、吸着材52aは、水蒸気を吸着しつつ、熱交換器52bを介して加熱される。このように、第2同時回収工程では、吸着器51と吸着器52との間での水蒸気の移動と、熱交換器51bと熱交換器52bとの間での熱交換とを並列しておこなう。なお、図16では、吸着器用熱媒体が流れている配管は、二点鎖線で示しており、吸着器用熱媒体の流れ方向を矢印で示した。
【0093】
以上説明した、吸着式ヒートポンプ3の制御方法によれば、例えば、吸着器51の吸着材51aに水蒸気を吸着させるとともに、吸着器52の吸着材52aに吸着されている水蒸気を吸着材52aから脱着させる第1吸脱着工程の後に、第1同時回収工程を行う。第1同時回収工程では、吸着器52から吸着器51への水蒸気の移動(蒸気回収)と、熱交換器52bから熱交換器51bへの吸着器用熱媒体の移動(顕熱回収)とをおこなう。これにより、吸着式ヒートポンプ3の冷却加熱能力とシステム効率を向上させることができる。
【0094】
また、本実施形態の吸着式ヒートポンプ3によれば、放熱器59は、吸着材51a、52aが水蒸気を吸着するときに発生する吸着熱を外部に放出する。これにより、水蒸気を吸着しているときに吸着材51a、52aの温度を低下させることができるため、51a、52aの水蒸気吸着量を増大させることができる。51a、52aの水蒸気吸着量が増大すると、吸着器51、52に水蒸気を供給する低温蒸発器53での気化熱の発生量が増大するため、吸着式ヒートポンプ1の冷却能力を向上させることができる。
【0095】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0096】
[変形例1]
上述の実施形態では、吸着式ヒートポンプの制御方式において、第1吸脱着工程のように、吸着工程と脱着工程とを同時におこなうとした。しかしながら、吸着工程と脱着工程とは、ずれて行われていてもよい。例えば、吸着器に収容されている吸着材の吸着量の上限値と、熱交換器の熱交換容量との関係から、いずれかの工程を先に開始してもよいし、別々の時間でおこなってもよい。同時回収工程の前に、吸着工程と脱着工程と終了していればよい。同時回収工程での蒸気回収と顕熱回収との効率を最大にするためには、吸着工程と脱着工程とが同時期に終了し、その直後に同時回収工程が行われることが望ましい。
【0097】
[変形例2]
上述の実施形態では、吸着式ヒートポンプは、一対の吸着器、低温蒸発器、熱供給部、凝縮器、室内機、室外機、放熱器、蒸気用バルブ、熱媒用バルブ、制御部などを備えるとした。しかしながら、吸着式ヒートポンプの構成は、これに限定されない。第1の吸着材を収容する第1の吸着器と、第1の吸着材との間で熱交換をおこなう第1の熱交換器と、第2の吸着材を収容する第2の吸着器と、第2の吸着材との間で熱交換をおこなう第2の熱交換器と、吸着工程と、脱着工程と、蒸気回収工程と、顕熱回収工程とを行うための制御部と、を備えていればよい。
【0098】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0099】
1,2,3…吸着式ヒートポンプ
11,12,51,52…吸着器
11a,12a,51a,52a…吸着材
11b,12b,51b,52b…熱交換器
13,53…低温蒸発器
15,55…熱供給部
16,56…凝縮器
17,57…室内機
18,58…室外機
21,61…蒸気用バルブ
22,62…熱媒用バルブ
25,65…制御部
59…放熱器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16