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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158457
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】判定方法、及び書き込み方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 47/18 20060101AFI20221006BHJP
   B24B 45/00 20060101ALI20221006BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20221006BHJP
   B23Q 13/00 20060101ALI20221006BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20221006BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20221006BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B24B47/18
B24B45/00 A
B24B27/06 J
B23Q13/00
B23Q17/09 B
G05B19/418 Z
H01L21/78 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063375
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】出島 信和
【テーマコード(参考)】
3C029
3C034
3C100
3C158
5F063
【Fターム(参考)】
3C029DD02
3C029DD20
3C034AA07
3C034BB52
3C034BB68
3C034BB73
3C034BB93
3C034CA08
3C034CA15
3C034CA22
3C034CB06
3C034CB07
3C034CB11
3C034DD07
3C034DD10
3C100AA22
3C100AA27
3C100AA29
3C100AA38
3C100AA57
3C100AA63
3C100BB05
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB19
3C100BB27
3C100BB33
3C100DD07
3C100DD14
3C100DD25
3C100DD33
3C158AA03
3C158AA15
3C158AB04
3C158AC02
3C158AC04
3C158BA04
3C158BA09
3C158CB03
3C158DA17
5F063AA23
5F063AA25
5F063AA48
5F063BA43
5F063BA45
5F063BA47
5F063BA48
5F063DD09
5F063DD17
(57)【要約】
【課題】加工情報に基づいて砥石工具や加工条件が被加工物の加工に適切であるか否かを判定する。
【解決手段】砥石工具または加工条件の適否を判定する判定方法であって、該砥石工具を使用して加工条件に従い加工を実施し、該砥石工具あるいは該砥石工具を収容するケースに配設されたICタグに対して、被加工物の情報と、該加工条件と、該被加工物を加工した際の該砥石工具の消耗量と、を含む加工情報を書き込み、該ICタグに書き込まれた該加工情報を読み出し、該加工情報から求められる該被加工物の累積加工量と、該累積加工量に対応する該砥石工具の累積消耗量と、の関係から該砥石工具の消耗傾向を特定して消耗傾向情報を作成し、該消耗傾向情報に基づいて、該砥石工具または該加工条件の該被加工物に対する適否を判定する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石工具または加工条件の適否を判定する判定方法であって、
該砥石工具を使用して加工条件に従い加工を実施し、該砥石工具あるいは該砥石工具を収容するケースに配設されたICタグに対して、該砥石工具で加工された被加工物の情報と、該砥石工具で該被加工物を加工した該加工条件と、該被加工物を加工した際の該砥石工具の消耗量と、をそれぞれ含む該砥石工具の複数の加工情報を書き込む書き込みステップと、
該書き込みステップで該ICタグに書き込まれた該加工情報を読み出し、該加工情報から求められる該被加工物の累積加工量と、該累積加工量に対応する該砥石工具の累積消耗量と、の関係から該砥石工具の消耗傾向を特定して消耗傾向情報を作成する消耗傾向情報作成ステップと、
該消耗傾向情報作成ステップで作成された該消耗傾向情報に基づいて、該砥石工具または該加工条件の該被加工物に対する適否の判定を実施する判定ステップと、
を有することを特徴とする判定方法。
【請求項2】
砥石工具の加工情報をICタグに書き込む書き込み方法であって、
該砥石工具を使用して加工条件に従い加工を実施し、
該砥石工具あるいは該砥石工具を収容するケースに配設されたICタグに対して、該砥石工具で加工された被加工物の情報と、該砥石工具で該被加工物を加工した該加工条件と、該被加工物を加工した際の該砥石工具の消耗量と、を含む該砥石工具の加工情報を書き込むことを特徴とする書き込み方法。
【請求項3】
砥石工具または加工条件の適否を判定する判定方法であって、
砥石工具で切削された被加工物の情報と、該砥石工具で該被加工物を加工した加工条件と、該被加工物を加工した際の該砥石工具の消耗量と、を含む加工情報が書き込まれた該砥石工具あるいは該砥石工具を収容するケースに配設されたICタグに書き込まれた該加工情報を読み出し、該加工情報から求められる該被加工物の累積加工量と、該累積加工量に対応する該砥石工具の累積消耗量と、の関係から該砥石工具の消耗傾向を特定して消耗傾向情報を作成する消耗傾向情報作成ステップと、
該消耗傾向情報作成ステップで作成された該消耗傾向情報に基づいて、該砥石工具または該加工条件の該被加工物に対する適否の判定を実施する判定ステップと、
を有することを特徴とする判定方法。
【請求項4】
該消耗傾向情報作成ステップでは、該砥石工具の消耗傾向を表すグラフを作成することを特徴とする請求項1または請求項3に記載の判定方法。
【請求項5】
該判定ステップでは、該砥石工具の基準となる消耗傾向に関する基準消耗傾向情報と、該消耗傾向情報と、を比較することで該判定を実施することを特徴とする請求項1または請求項3に記載の判定方法。
【請求項6】
該消耗傾向情報作成ステップでは、該消耗傾向情報として機能するグラフを作成し、
該判定ステップでは、該基準消耗傾向情報として機能する基準グラフと、該グラフと、を比較することで該判定を実施することを特徴とする請求項5に記載の判定方法。
【請求項7】
該砥石工具は、切削ブレードであることを特徴とする請求項1、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6のいずれか一項に記載の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削ブレードや研削砥石等の砥石工具で実施する加工についての加工情報をICタグに書き込む書き込み方法及び、該加工情報に基づいて砥石工具または加工条件の適否を判定する判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に組み込まれるデバイスチップの製造工程では、半導体ウェーハや樹脂パッケージ基板に代表される板状の被加工物が円環状の切削ブレードを備える切削装置で切削されて個片化される(特許文献1参照)。切削装置には、アルミニウム等で形成された円環状の基台と、該基台の外周部に固定された砥石部と、を含むハブタイプと呼ばれる切削ブレードが装着され、被加工物の切削に使用される。また、薄型のデバイスチップを得るために、個片化される前の被加工物が研削砥石を備える研削装置で研削される。研削装置には、一方の面に研削砥石が環状に配置された研削ホイールが装着される。
【0003】
切削装置や研削装置等の加工装置では、様々な種別の被加工物が加工される。そして、切削ブレードや研削砥石等の砥石工具には各種の被加工物に対応した様々な種別が存在しており、被加工物の種別に合う適切な種別の砥石工具が加工装置に予め装着される。加工装置では、被加工物の種別に対応した所定の加工条件により、被加工物が砥石工具で加工される。そして、被加工物の種別を切り替える際や加工装置に問題が生じた際には、古い砥石工具が加工装置から取り外され、新たな砥石工具が加工装置に装着される。
【0004】
加工装置から取り外された古い砥石工具は、ケースに収容されて保管される。このとき、この砥石工具の再使用や検証に備えて使用履歴が管理されることが望ましい。そこで、例えば、切削ブレードの使用履歴情報を登録できるICタグが組み込まれた切削ブレード又はブレードケースが使用される(特許文献2及び特許文献3参照)。切削ブレードを切削装置で再使用する際には、ICタグから使用履歴情報が読み出され、この切削ブレードの使用状況に合わせて該切削ブレードの高さが調整される。
【0005】
ところで、これまでに加工の経験のない新たな種別の被加工物を加工装置で加工する際には、被加工物を高品質に加工できる最適な種別の砥石工具や加工条件を探す必要がある。そのため、加工装置では、砥石工具の種別や加工条件を様々に変えながらテスト加工が実施され、加工結果が評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-53804号公報
【特許文献2】特開2006-51596号公報
【特許文献3】特開2016-64476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、デバイスチップの用途が多様化しており、各用途に対応する多種多様なデバイスチップが次々に製造されている。そのため、最適な加工条件等を探すためのテスト加工が日々繰り返されているが、テスト加工時の被加工物として使用できるダミー品の数を十分に確保できない場合やテスト加工に十分な時間をかけられない場合がある。この場合、砥石工具の種別や加工条件を十分に検証できないままデバイスチップの量産が開始されることになる。
【0008】
十分な検証を経ずに選定された砥石工具や加工条件で被加工物が加工されてデバイスチップが製造され、このデバイスチップが市場に出回ると、大規模な品質不良問題を引き起こすリスクが考えられる。しかも、近年、デバイスの高機能化の傾向も著しく、デバイスチップに求められる品質も高くなる傾向にあり、加工条件の最適化の難易度も益々高まっている。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加工情報に基づいて砥石工具や加工条件が被加工物の加工に適切であるか否かを判定できる判定方法と、加工情報をICタグに書き込む書き込み方法と、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、砥石工具または加工条件の適否を判定する判定方法であって、該砥石工具を使用して加工条件に従い加工を実施し、該砥石工具あるいは該砥石工具を収容するケースに配設されたICタグに対して、該砥石工具で加工された被加工物の情報と、該砥石工具で該被加工物を加工した該加工条件と、該被加工物を加工した際の該砥石工具の消耗量と、をそれぞれ含む該砥石工具の複数の加工情報を書き込む書き込みステップと、該書き込みステップで該ICタグに書き込まれた該加工情報を読み出し、該加工情報から求められる該被加工物の累積加工量と、該累積加工量に対応する該砥石工具の累積消耗量と、の関係から該砥石工具の消耗傾向を特定して消耗傾向情報を作成する消耗傾向情報作成ステップと、該消耗傾向情報作成ステップで作成された該消耗傾向情報に基づいて、該砥石工具または該加工条件の該被加工物に対する適否の判定を実施する判定ステップと、を有することを特徴とする判定方法が提供される。
【0011】
また、本発明の他の一態様によれば、砥石工具の加工情報をICタグに書き込む書き込み方法であって、該砥石工具を使用して加工条件に従い加工を実施し、該砥石工具あるいは該砥石工具を収容するケースに配設されたICタグに対して、該砥石工具で加工された被加工物の情報と、該砥石工具で該被加工物を加工した該加工条件と、該被加工物を加工した際の該砥石工具の消耗量と、を含む該砥石工具の加工情報を書き込むことを特徴とする書き込み方法が提供される。
【0012】
本発明のさらに他の一態様によれば、砥石工具または加工条件の適否を判定する判定方法であって、砥石工具で切削された被加工物の情報と、該砥石工具で該被加工物を加工した加工条件と、該被加工物を加工した際の該砥石工具の消耗量と、を含む加工情報が書き込まれた該砥石工具あるいは該砥石工具を収容するケースに配設されたICタグに書き込まれた該加工情報を読み出し、該加工情報から求められる該被加工物の累積加工量と、該累積加工量に対応する該砥石工具の累積消耗量と、の関係から該砥石工具の消耗傾向を特定して消耗傾向情報を作成する消耗傾向情報作成ステップと、該消耗傾向情報作成ステップで作成された該消耗傾向情報に基づいて、該砥石工具または該加工条件の該被加工物に対する適否の判定を実施する判定ステップと、を有することを特徴とする判定方法が提供される。
【0013】
好ましくは、該消耗傾向情報作成ステップでは、該砥石工具の消耗傾向を表すグラフを作成する。
【0014】
また、好ましくは、該判定ステップでは、該砥石工具の基準となる消耗傾向に関する基準消耗傾向情報と、該消耗傾向情報と、を比較することで該判定を実施する。
【0015】
そして、さらに好ましくは、該消耗傾向情報作成ステップでは、該消耗傾向情報として機能するグラフを作成し、該判定ステップでは、該基準消耗傾向情報として機能する基準グラフと、該グラフと、を比較することで該判定を実施する。
【0016】
また、好ましくは、該砥石工具は、切削ブレードである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様にかかる判定方法及び書き込み方法では、ICタグが配設された砥石工具或いはICタグが配設されたケースが用いられる。このICタグには、加工された被加工物の情報、砥石工具の消耗量に加え、実施された加工条件を含む加工情報が書き込まれ、蓄積される。そして、この蓄積された加工情報をICタグから読み出すと、砥石工具及び加工条件の適否を評価できる。
【0018】
そのため、テスト加工を十分に実施できずにデバイスチップの量産が開始された場合でも、デバイスチップの製造を進めつつ砥石工具及び加工条件を評価でき、改善できる。そのため、デバイスチップの品質不良問題のリスクは低減される。
【0019】
したがって、本発明の一態様によると、加工情報に基づいて砥石工具や加工条件が被加工物の加工に適切であるか否かを判定できる判定方法と、加工情報をICタグに書き込む書き込み方法と、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】切削装置の構成例を模式的に示す図である。
図2】切削ユニットの構成例を模式的に示す分解斜視図である。
図3】ブレードケースの構成例を模式的に示す斜視図である。
図4】ブレードケースの構成例を模式的に示す平面図である。
図5】ブレードケースホルダーの構成例を模式的に示す斜視図である。
図6図6(A)は、刃先位置検出ユニットを模式的に示す斜視図であり、図6(B)は、刃先検出ユニットを模式的に示す側面図である。
図7図7(A)は、切削ブレードの加工距離と、刃先残量と、の関係の一例を模式的に示すグラフであり、図7(B)は、切削ブレードの加工距離と、刃先残量と、の関係の他の一例を模式的に示すグラフである。
図8】刃先残量の減少傾向を模式的に示すグラフである。
図9】実施形態に係る判定方法の各ステップの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。まず、砥石工具として切削ブレードが装着されて使用される加工装置である切削装置について説明する。図1は、切削装置(加工装置)2の構成例を模式的に示す斜視図である。
【0022】
切削装置2で加工される被加工物は、例えば、Si(シリコン)、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)、GaAs(ヒ化ガリウム)、若しくは、その他の半導体材料から形成される略円板状のウェーハである。または、被加工物は、サファイア、石英、ガラス、セラミックス等の材料からなる板状の基板等である。該ガラスは、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等である。
【0023】
例えば、被加工物の表面には、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等の複数のデバイスが形成されている。該被加工物には、デバイス間に分割予定ラインが設定される。そして、切削装置2で該被加工物を該分割予定ラインに沿って切削し被加工物を分割すると、個々のデバイスチップを形成できる。なお、研削砥石(砥石工具)が環状に配された研削ホイールを備える研削装置において、分割される前の該被加工物を薄化すると、最終的に薄型のデバイスチップが得られる。
【0024】
被加工物は、例えば、環状フレームに貼られたテープ上に貼着され、環状フレームと一体となったフレームユニット11の一部として取り扱われる。図1には、フレームユニット11を模式的に示す斜視図が含まれている。環状フレームとテープとを用いて被加工物を取り扱うと、搬送する際に生じる衝撃から該被加工物を保護できる。さらに、該テープを拡張すると、被加工物が分割されて形成された各チップの間隔を広げられるため、チップのピックアップが容易となる。
【0025】
以下、被加工物を加工する砥石工具を備える加工装置が切削装置2であり、砥石工具として切削ブレード8で被加工物を加工する場合を例に説明するが、加工装置及び砥石工具はこれに限定されない。切削装置(加工装置)2は、各構成要素を支持する基台4を備える。基台4の上方には、基台4を覆うカバー6が設けられている。カバー6の内側には、空間が形成されており、切削ブレード(砥石工具)8を含む切削ユニット10が収容されている。切削ユニット10は、切削ユニット移動機構(不図示)によって前後方向(Y軸方向、割り出し送り方向)に移動する。
【0026】
切削ユニット10の下方には、被加工物を吸引保持するチャックテーブル12が設けられている。チャックテーブル12は、チャックテーブル移動機構(不図示)によって左右方向(X軸方向、加工送り方向)に移動し、回転機構(不図示)によって鉛直軸(Z軸)の周りに回転する。
【0027】
基台4の角部には、カセットエレベーター14が配置されている。カセットエレベーター14の上面には、複数の被加工物を収容可能なカセット16が載置される。カセットエレベーター14は、昇降可能に構成されており、この被加工物を搬出、搬入できるように、カセット16の位置を高さ方向(Z軸方向)において調整する。
【0028】
カバー6の前面6aには、ユーザインタフェースとなるタッチパネル式のモニター18が設けられている。また、カバー6の側面6bには、ブレードケースホルダー20が配置されている。ブレードケースホルダー20の詳細は後述する。
【0029】
モニター18は、切削装置2の各部を制御する制御ユニット22と接続されている。制御ユニット22は、モニター18を通じて設定される加工条件等に基づいて、切削ユニット10、切削ユニット移動機構、チャックテーブル12、チャックテーブル移動機構等の動作を制御する。
【0030】
制御ユニット22は、例えば、CPU(Central Processing Unit)に代表されるプロセッサ等の処理装置と、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の主記憶装置と、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の補助記憶装置と、を含むコンピュータによって構成されている。
【0031】
補助記憶装置には、所定のプログラムを含むソフトウェアが記憶されている。このソフトウェアに従い処理装置を動作させることによって、制御ユニット22は、ソフトウェアと処理装置(ハードウェア資源)とが協働した具体的手段として機能する。なお、補助記憶装置は、ソフトウェアや各種の情報を記憶する記憶部22aとして機能する。
【0032】
図2は、切削ユニット10の構成例を模式的に示す分解斜視図である。なお、図2では、切削ユニット10の構成要素の一部を省略している。図2に示すように、切削ユニット10は、スピンドルハウジング24に回転可能に支持されたスピンドル26を含む。
【0033】
スピンドル26の先端部には、切削ブレード8を固定するためのフランジ機構28が装着されている。フランジ機構28は、径方向外向きに延出されたフランジ部30と、フランジ部30の表面(前面)から突出するボス部32とで構成されている。
【0034】
フランジ部30の裏面(後面)側には、スピンドル26の先端部と嵌合する嵌合部(不図示)が形成されている。この嵌合部にスピンドル26の先端部を嵌め込んだ状態でボルト34を締め込めば、フランジ機構28はスピンドル26に固定される。
【0035】
切削ブレード8は、いわゆるハブブレードであり、円盤状の支持基台36の外周に、リング状の砥石部(切り刃)38が固定されている。支持基台36の中央には、フランジ機構28のボス部32が挿通される開口36aが形成されている。この開口36aにボス部32を挿通することで、切削ブレード8はフランジ機構28に装着される。
【0036】
支持基台36は、例えば、アルミニウムやステンレス鋼等の金属材料で形成される。支持基台36の外周には、電解メッキ等の方法により砥石部38が形成される。また、砥石部38には、非接触(無線)で受信した加工情報を記憶し、また、記憶した加工情報を非接触(無線)で送信するICタグ52aが設けられてもよい。ICタグ52aは、無線ICタグ、RFIDタグ等と表記されることもある。
【0037】
砥石部38は、例えば、ビトリファイドやレジノイド、金属(代表的には、ニッケル)等の結合材料にダイヤモンドやCBN等の砥粒を混合して円環状に形成されている。なお、本実施形態では、切削ブレード8としてハブブレードについて説明しているが、砥石部のみでなる、いわゆるワッシャーブレードを用いてもよい。
【0038】
フランジ機構28に切削ブレード8が装着された状態で、ボス部32の先端部には円環状の固定リング40が取り付けられる。これにより、切削ブレード8は、フランジ機構28と固定リング40とで挟持される。
【0039】
切削ユニット10は、切削ブレード8に設けられたICタグ52aから加工情報を読み出し、また、加工情報をICタグ52aへと書き込むためのリーダライタ(不図示)が設けられている。このリーダライタは、フランジ機構28に装着された切削ブレード8のICタグ52aと対応する位置に配置され、制御ユニット22と接続されている。
【0040】
次に、砥石工具を収容するケースとして、切削ブレード8を収容するブレードケースについて説明するが、該ケースはブレードケースに限定されず、収容対象となる砥石工具の収容に適した構成とされる。図3は、切削ブレード8を収容するブレードケースの構成例を模式的に示す斜視図であり、図4は、ブレードケースの構成例を模式的に示す平面図である。図3に示すように、ブレードケース42は、切削ブレード8を収容する収容部44と、収容部44に収容された切削ブレード8の脱落を防ぐ蓋部46とを含む。
【0041】
収容部44及び蓋部46は、隣接する2個の角部を円弧状に切り欠いた半矩形状の板状部材であり、切り欠かれていない側の外周に設けられた連結部48(図4)によって互いに連結されている。連結部48は、収容部44に対して蓋部46を開閉するヒンジとして機能する。連結部48と反対側の外周には、爪部50が形成されている。
【0042】
蓋部46と対面する収容部44の内表面には、円柱状の凸部44aが形成されている。この凸部44aを切削ブレード8の開口36aに挿通し、蓋部46を閉じることで、切削ブレード8をブレードケース42内に収容できる。
【0043】
図4に示すように、蓋部46の連結部48側には、非接触(無線)で受信した加工情報を記憶し、また、記憶した加工情報を非接触(無線)で送信するICタグ52bが設けられてもよい。なお、このICタグ52bは、収容部44に設けられても良い。
【0044】
図5は、ブレードケースホルダー20の構成例を模式的に示す斜視図である。ブレードケースホルダー20は、例えば、切削ブレード8の装着後に空となったブレードケース42を保持するために使用される。
【0045】
図5に示すように、ブレードケースホルダー20は、ブレードケース42が挿通されるスリット状の開口を備えた保持部20bを含む。保持部20bの下方には、保持部20bに挿通されたブレードケース42の爪部50側を下方から支持する支持部20cが配置されている。支持部20cには、爪部50に対応して切り欠かれた切り欠き部20dが形成されている。
【0046】
また、ブレードケースホルダー20は、蓋部46の外表面に形成された凸部46a(図4)に対応する溝部20aを備えている。ブレードケース42は、この溝部20aに沿って凸部46aをスライドさせるように、爪部50側を下に向けた状態で保持部20bに挿通される。
【0047】
溝部20aには、ブレードケース42に設けられたICタグ52bから加工情報を読み出し、また、加工情報をICタグ52bへと書き込むためのリーダライタ(読み書き手段)54が設けられている。このリーダライタ54は、ブレードケースホルダー20で保持したブレードケース42のICタグ52bと対応する位置に配置され、制御ユニット22と接続されている。リーダライタ54は、加工情報を送受信するためのアンテナを備える。
【0048】
切削装置2について説明を続ける。被加工物の切削を実施する際、ブレードケース42から切削ブレード8を取り出し、切削ブレード8をフランジ機構28でスピンドル26の先端に固定する。このとき、ブレードケース42は、ブレードケースホルダー20に収容されて保管されるとよい。
【0049】
そして、フレームユニット11をチャックテーブル12で保持する。その後、スピンドル26を回転させることで切削ブレード8を回転させ、所定の高さ位置まで切削ユニット10を下降させる。そして、チャックテーブル12を加工送り方向に沿って移動させ回転する切削ブレード8の砥石部38を被加工物に切り込ませ、被加工物を切削する。
【0050】
切削ブレード8を使用した被加工物の切削を繰り返すと、切削ブレード8の砥石部38が消耗し、切削ブレード8の径は徐々に減少する。このとき、切削ブレード8の砥石部38の下端の高さ位置が徐々に上昇する。
【0051】
そこで、切削ブレード8の砥石部38の下端を切削に適した高さ位置に位置付けられるように、切削ブレード8で被加工物を切削した後、定期的にセットアップ工程が実施される。セットアップ工程では、切削ブレード8の砥石部38の下端の高さが被加工物の切削に適した所定の位置に位置付けられるときの切削ユニット10の高さ位置である切削ユニット10の基準高さが検出される。なお、セットアップ工程は、切削ブレード8を切削ユニット10に取り付けた際にも実施される。
【0052】
図6(A)は、セットアップ工程を実施する際に使用される刃先位置検出ユニット56を模式的に示す斜視図である。図6(B)は、切削ユニット10と、刃先位置検出ユニット56と、制御ユニット22と、を模式的に示す概念図である。刃先位置検出ユニット56は、切削ユニット10の近傍に配設されている。
【0053】
刃先位置検出ユニット56の本体58には、上方に開口した溝状のブレード進入部60が設けられている。刃先位置検出ユニット56を使用する際には、切削ブレード8をブレード進入部60の上方に位置付け、切削ブレード8を下降させて、該ブレード進入部60に切削ブレード8を進入させる。
【0054】
ブレード進入部60の一方の側壁には発光部62が設けられ、ブレード進入部60の他方の側壁には該発光部62に対向する位置に受光部64が設けられている。すなわち、発光部62及び受光部64は、ブレード進入部60を挟んで互いに対面する。発光部62は、発光窓62bと、該発光窓62bに光ファイバー等を介して接続された光源62aと、を備え、光源62aを作動させると発光窓62bから光が放射される。
【0055】
受光部64は、受光窓64bと、該受光窓64bに光ファイバー等を介して接続された光電変換部64aと、を備える。受光窓64bに到達した光は光電変換部64aで受光され、該光電変換部64aからは受光量に応じた電圧値の電気信号が出力される。光電変換部64aは制御ユニット22に電気的に接続されており、該電気信号を制御ユニット22に送る。
【0056】
発光窓62bと、受光窓64bと、は略同一の高さ位置に設けられる。該高さ位置は、切削ユニット10が切削加工に適した基準位置に位置付けられたときの切削ブレード8の砥石部38の下端付近の高さ位置である。刃先位置検出ユニット56には、該刃先位置検出ユニット56の不使用時に発光部62や受光部64を保護する開閉可能なカバー58aが備えられている。刃先位置検出ユニット56の使用時には、予め該カバー58aを開けて本体58を露出させる。
【0057】
刃先位置検出ユニット56による切削ブレード8の砥石部38の下端の高さ位置の検出時には、光源62aを作動させ発光窓62bから光を放射させて、該光を受光部64の受光窓64bに照射させ、受光窓64bに接続された光電変換部64aに該光を受光させる。光電変換部64aは、CMOSセンサーまたはCCDセンサー等の受光素子を含み、受光量に応じた電圧値の電気信号に該光を変換して、該電気信号を制御ユニット22に送る。
【0058】
ブレード進入部60に向けて切削ブレード8を下降させると、発光窓62bから放射された光が徐々に切削ブレード8により遮られるようになり、受光窓64bに到達して光電変換部64aで受光される光の受光量は徐々に減少する。そのため、光電変換部64aから出力された電気信号を制御ユニット22で解析することにより、切削ブレード8の砥石部38の下端の高さ位置を検出できる。
【0059】
光電変換部64aで受光される該光の受光量により切削加工に適した高さ位置に該砥石部38の下端が到達したことを確認できるとき、切削加工時に位置付けられるべき所定の高さ位置、すなわち、基準高さに該切削ユニット10が到達したことが確認される。制御ユニット22は、切削ユニット10を昇降させる昇降ユニット10aと、刃先位置検出ユニット56と、を制御し、切削ユニット10の基準高さ位置を検出する。
【0060】
被加工物を切削ブレード8で切削すると、砥石部38が消耗して径が小さくなる。そのため、被加工物を切削する前後でセットアップ工程を実施すると、砥石部38の消耗量に応じた切削ユニット10の基準高さの変化を測定できる。逆にいうと、刃先位置検出ユニット56を使用して被加工物の切削の前後でセットアップ工程を実施すると、砥石部38の消耗量を測定できる。
【0061】
切削装置2では、様々な種別の被加工物がそれぞれに適した加工条件で切削される。また、各種の被加工物に対応できるように切削ブレード8にも様々な種別が存在している。そして、切削装置2では、被加工物の種別に合う適切な種別の切削ブレードが選択され予め装着され、適切な加工条件で加工が実施される。
【0062】
そして、被加工物の種別を切り替える際や切削装置2に問題が生じた際には、古い切削ブレードが切削装置2から取り外され、新たな切削ブレード8が切削装置2に装着される。切削装置2から取り外された古い切削ブレード8は、ブレードケース42に収容されて保管される。このとき、この切削ブレード8の再使用や検証に備えて使用履歴が管理されることが望ましい。例えば、ICタグ52a,52bには、その時点における砥石部38の総消耗量が書き込まれる。
【0063】
ブレードケース42に一時保管された古い切削ブレード8を再び切削装置2で再使用する際には、ICタグ52a,52bに保存された総消耗量が読み出される。そして、切削ブレード8の再使用が終わり再びブレードケース42で保管する際には、ICタグ52a,52bに保存されていた総消耗量にこの再使用における砥石部38の消耗量を加えて算出された新たな総消耗量をICタグ52a,52bに上書きする。
【0064】
ところで、切削装置2で新たな種別の被加工物を切削して新たな種別のデバイスチップを製造する際には、被加工物を高品質に分割できる最適な種別の切削ブレード8や加工条件を探す必要がある。そのため、切削装置2では、切削ブレード8の種別や加工条件を様々に変えながらテスト加工が実施され、加工結果が評価される。
【0065】
近年、デバイスチップの用途が多様化しており、各用途に対応する多種多様なデバイスチップが次々に製造されている。そのため、最適な加工条件等を探すためのテスト加工が日々繰り返されているが、テスト加工時の被加工物として使用できるダミー品の数を十分に確保できない場合やテスト加工に十分な時間をかけられない場合がある。この場合、切削ブレード8の種別や加工条件を十分に検証できないままデバイスチップの量産が開始されることになる。
【0066】
十分な検証を経ずに選定された切削ブレード8や加工条件で被加工物が切削されてデバイスチップが製造され、このデバイスチップが市場に出回ると、大規模な品質不良問題を引き起こすリスクが考えられる。しかも、近年、デバイスの高機能化の傾向も著しく、デバイスチップに求められる品質も高くなる傾向にあり、加工条件の最適化の難易度も益々高まっている。
【0067】
そこで、被加工物の切削を実施しながら加工情報を蓄積し、加工情報に基づいて切削ブレード及び加工条件の適否を判定することが考えられる。この場合、被加工物を実際に加工しその結果を評価することで加工条件等の最適化を実施できるため、被加工物を模したダミー品を十分に用意できない場合においても被加工物を高品質に加工できる加工条件等を追求できる。以下、本実施形態に係る判定方法、及び書き込み方法について詳述する。
【0068】
図9は、本実施形態に係る判定方法の各ステップの流れを表すフローチャートである。まず、ブレードケース42から切削ブレード8を取り出し、切削ユニット10のフランジ機構28でスピンドル26の先端に切削ブレード8を装着する。空になったブレードケース42は、ブレードケースホルダー20に収容されて保管されるとよい。
【0069】
ICタグ52bが設けられたブレードケース42をブレードケースホルダー20に収容すると、ICタグ52bがリーダライタ54の近傍に配されるため、ICタグ52bへの情報の書き込み及びICタグ52bからの情報の読み出しが可能となる。または、切削ブレード8にICタグ52aが設けられる場合、切削ユニット10に組み込まれた切削ブレード8の近傍にリーダライタ(不図示)が設けられる。そのため、ICタグ52aへの情報の書き込み及び読み出しが可能となる。
【0070】
その後、刃先位置検出ユニット56(図6(A)参照)を使用して、切削ブレード8の砥石部38の下端が所定の高さ位置に達する際の切削ユニット10の基準高さを測定する。後述の通り、被加工物の切削が終了した後に刃先位置検出ユニット56を使用して切削ユニット10の基準高さを測定すると、切削の前後の基準高さの変化量を砥石部38の消耗量として算出できる。
【0071】
セットアップ(S10)を実施した後、被加工物をチャックテーブル12で保持し、切削ブレード8を使用して加工条件に従い切削を実施する(S20)。被加工物を切削する際に参照される加工条件は、制御ユニット22の記憶部22aに予め登録される。
【0072】
ここで、加工条件には、切削ブレード8の回転速度、切削ユニット10及びチャックテーブル12の相対的な送り速度、切削液の供給量等の各種の項目が含まれる。被加工物の種別や求められる加工結果に応じて最適な加工条件が予め記憶部22aに登録されることが望ましい。本実施形態に係る判定方法では、被加工物の切削を実施しつつ加工条件の適否を判定できるため、判定の結果次第で加工条件の内容を適宜変更できる。または、検証が望まれる加工条件が記憶部22aに登録される。
【0073】
チャックテーブル12で保持された被加工物を切削する際、チャックテーブル12等の加工送り方向に被加工物の分割予定ラインの向きが合うようにチャックテーブル12を回転させる。そして、切削ブレード8の砥石部38を分割予定ラインの延長線上に位置づける。そして、加工条件に従って切削ブレード8を所定の回転速度で回転させ、切削ユニット10を所定の高さ位置に位置付け、チャックテーブル12等を加工送りして切削ブレード8の砥石部38を被加工物に切り込ませる。
【0074】
被加工物のすべての分割予定ラインに沿って該被加工物の切削を実施した後、チャックテーブル12から加工済みの被加工物を取り外し、新しい被加工物をチャックテーブル12で保持し、同様に切削加工を実施する。被加工物の切削を繰り返すと、切削ブレード8の砥石部38が徐々に消耗し、砥粒が脱落する。しかしながら、結合材が消耗すると結合材に埋もれていた砥粒が次々に露出し被加工物に当たるようになるため、切削ブレード8の切削能力は維持される。
【0075】
ただし、加工条件や切削ブレード8の種別が目的とする加工に適していない場合、砥石部38の消耗速度が遅くなり新しい砥粒の露出が遅くなり、切削ブレード8の切削能力が低下して高品質な加工を実施できなくなることがある。この状態は、切削ブレード8の目つぶれとも呼ばれる。
【0076】
または、加工条件や切削ブレード8の種別が目的とする加工に適していない場合、砥石部38の消耗速度が速すぎて多量の屑が生じ、砥粒の間に屑が詰まってやはり切削ブレード8の切削能力が低下し、高品質な加工を実施できなくなることがある。この状態は、切削ブレード8の目詰まりとも呼ばれる。
【0077】
逆に言えば、切削が実施された後の切削ブレード8の砥石部38の消耗状態を確認すると、加工条件や切削ブレード8の種別の適否の判定が可能である。そこで、一つ又は複数の被加工物の切削が完了した後、刃先位置検出ユニット56を利用して砥石部38の消耗量を測定する(S30)。
【0078】
より詳細には、切削後の切削ブレード8の砥石部38の下端が所定の高さに位置する際の切削ユニット10の高さ位置を基準の高さ位置として検出し、切削の前後における切削ユニット10の基準の高さ位置の変化量を砥石部38の消耗量として算出する。
【0079】
その後、再び切削ブレード8を使用した被加工物の切削を再開してもよい。切削ユニット10の基準の高さ位置が再検出されていると、砥石部38の消耗状態に対応して切削に適した高さ位置に切削ブレード8を位置付けられる。そして、切削ブレード8の消耗量が規定の値を超えており、切削ブレード8が寿命に達していた場合、切削ブレード8を切削ユニット10から取り外し、新しい切削ブレード8に交換する。または、被加工物を変更する場合や切削加工の内容を変更する際にも、切削ブレード8を交換してもよい。
【0080】
次に、切削ブレード8又はブレードケース42に配設されたICタグ52a,52bに対して、加工情報を書き込む書き込みステップS40を実施する。なお、加工情報とは、切削ブレード8を使用して実施された被加工物の切削の内容を表す情報である。より詳細には、切削ブレード8で切削された被加工物の情報と、該切削ブレード8で該被加工物を切削した加工条件と、該被加工物を加工した際の該切削ブレード8の消耗量と、を含む。
【0081】
加工情報は、例えば、刃先位置検出ユニット56による切削ユニット10の基準の高さ位置の検出が実施される度に作成される。例えば、加工情報は、作成される度にICタグ52a,52bに書き込まれ蓄積される。または、加工情報は、作成される度に制御ユニット22の記憶部22aに記憶され、切削ブレード8を交換する際に記憶部22aに記憶された複数の加工情報がまとめてICタグ52a,52bに書き込まれる。
【0082】
ここで、単に使用途中の切削ブレード8の寿命(刃先残量)を管理するだけであれば、使用履歴情報として砥石部38の消耗量をICタグ52a,52bに書き込むことで事足りる。特に、刃先残量の算出に必要であるのは砥石部38の総消耗量であり、切削ブレード8の使用途上における刃先残量の推移についての情報は不要である。そのため、砥石部38の消耗量がICタグ52a,52bに保存されていた場合、新たな砥石部38の消耗量を保存されていた情報に加算して上書き保存すればよい。
【0083】
また、安定的に被加工物を加工できる加工条件が確立されており、この加工条件で被加工物の加工を実施する際に被加工物や切削装置2に生じる不具合の原因を解析したい場合、この確立された加工条件が記録される必要はない。例えば、切削ブレード8の砥石部38の消耗量、切削ブレード8を使用した日時、切削ブレード8が装着された切削装置2、及び切削ブレード8を切削装置2に取り付けたオペレータの名前等、加工条件以外の使用履歴情報が記録されれば十分である。
【0084】
これに対して、本実施形態に係る判定方法では、切削ブレード8の消耗量や、使用履歴情報に加え、切削ブレード8を使用して実施された切削における加工条件を含む加工情報がICタグ52a,52bに記録され蓄積される。そのため、ICタグ52a,52bに記録された加工情報を読み出して解析すると、後に加工条件等の適否を判定できる。
【0085】
切削ブレード8を切削ユニット10から取り外した後、ブレードケースホルダー20に収容されていたブレードケース42を取り出し、このブレードケース42に切削ブレード8を収容する。その後、切削ブレード8で実施された切削の加工条件を検証するために、ICタグ52a,52bと通信して情報の送受信が可能なリーダライタが接続されたPC等の情報処理端末を用意する。
【0086】
次に、この情報処理端末を使用してICタグ52a,52bに書き込まれた加工情報を読み出す読み出しステップS50を実施する。読み出しステップS50では、書き込みステップS40でICタグ52a,52bに書き込まれた加工情報を読み出し、切削ブレード8の消耗傾向を解析する準備を実施する。
【0087】
この情報処理端末では、続けて消耗傾向情報作成ステップS60を実施する。消耗傾向情報作成ステップS60では、加工情報から求められる被加工物の累積加工距離(累積加工量)と、該累積加工距離(累積加工量)に対応する切削ブレード8の累積消耗量と、の関係から切削ブレード8の消耗傾向を特定して消耗傾向情報を作成する。
【0088】
その後、この情報処理端末をさらに利用して、消耗傾向情報作成ステップS60で作成された消耗傾向情報に基づいて、切削ブレード8または加工条件の被加工物に対する適否の判定を実施する判定ステップS70を実施する。
【0089】
以下、読み出しステップS50でICタグ52a,52bから読み出される加工情報に基づいて加工条件や切削ブレード8の適否を判定する手順の一例を説明する。例えば、消耗傾向情報作成ステップS60では、ICタグ52a,52bから読み出された加工情報に基づいて切削ブレード8の消耗傾向を表すグラフを作成する。
【0090】
図7(A)及び図7(B)は、切削ブレード8の消耗傾向を表すグラフの一例である。図7に示すグラフの横軸は被加工物の累積加工距離(累積加工量)を表し、このグラフの縦軸は切削ブレード8の砥石部38の刃先残量を表す。刃先残量は、被加工物の累積加工距離に対応する切削ブレード8の累積消耗量を切削ブレード8の砥石部38の初期の刃先残量から引くことで算出できる。すなわち、このグラフは、累積加工距離(累積加工量)と、累積消耗量と、の関係を表すグラフともいえる。
【0091】
図7(A)及び図7(B)に示すグラフにおける各点は、切削ブレード8で被加工物の切削を進める間、切削ブレード8の砥石部38の消耗量が測定された時点における砥石部38の累積消耗量と、測定時までに切削ブレード8が加工した累積加工距離と、を表す。そして、図7(A)及び図7(B)に示すグラフにおける破線は、各点に近似する直線を表す。なお、両グラフは、それぞれ、加工条件を変化させずに同じ種別の被加工物を切削する場合における切削ブレード8の消耗傾向を表している。
【0092】
また、両グラフの縦軸及び横軸の縮尺は同一ではないため、2つの近似直線の見た目の傾きを単純に比較することに意味はない。その上で2つのグラフを比較すると、図7(A)に示すグラフの各点は、近似直線から大きなずれはなく砥石部38の消耗傾向のばらつきが比較的小さいことが理解される。その一方で、図7(B)に示すグラフの各点は、近似直線からのずれが大きく、砥石部38の消耗傾向に比較的大きなばらつきが存在することが理解される。
【0093】
ここで、図7(B)に示すグラフにおいて、切削ブレード8の累積加工距離が増大したときに刃先残量が増加するように見える領域がある。これは、刃先位置検出ユニット56の検出誤差の影響が一因として考えられる。または、加工開始時の予備加工動作(アイドリング)が不足しており、加工時に切削ブレード8の温度が変化することで切削ブレード8が熱伸縮していることも一因として考えられる。
【0094】
切削ブレード8の砥石部38の消耗傾向が図7(A)に示されるようなものとなる場合、被加工物を安定的かつ高品質に切削できていることが考えられる。この場合、切削ブレード8及び加工条件が被加工物に適していると判定できる。その一方で、切削ブレード8の砥石部38の消耗傾向が図7(B)に示されるようなものとなる場合、被加工物を安定的かつ高品質に切削できていないことが考えられる。この場合、切削ブレード8または加工条件が被加工物に適していないと判定できる。
【0095】
また、切削ブレード8の砥石部38の消耗傾向のばらつきだけでなく、傾きにより切削ブレード8及び加工条件の適否を判定することもできる。図8は、切削ブレード8の砥石部38の理想的な消耗傾向を表す直線グラフ66と、被加工物の切削を繰り返した際に得られる切削ブレード8の砥石部38の消耗傾向を表す折れ線グラフ68,70と、を模式的に示すグラフである。
【0096】
この理想的な消耗傾向を表す直線グラフ66は、砥石部38が程よく消耗して切削ブレード8の切削能力が高く維持される際の砥石部38の消耗傾向を表す。そして、被加工物の切削を繰り返した際に得られる砥石部38の消耗傾向を表す折れ線グラフ68,70が直線グラフ66から大きくずれていなければ、切削ブレード8の種別や加工条件が被加工物の切削に適していると判定できる。
【0097】
その一方で、折れ線グラフ68,70が直線グラフ66から大きくずれる場合、目つぶれや目詰まりが生じて切削ブレード8の切削能力が低下していることが考えられる。すなわち、切削ブレード8の種別または加工条件が被加工物の切削に適していないと判定できる。
【0098】
さらに、切削ブレード8または加工条件の被加工物に対する適否の判定の判定条件として、折れ線グラフ68,70の直線グラフ66からのずれの許容量が予め定められてもよい。この許容量は一定である必要はなく、切削ブレード8による被加工物の累積加工距離に対する砥石部38の消耗量(刃先残量)の割合として定められてもよい。このずれが許容される範囲にあれば切削ブレード8等が加工の目的に適していると判定でき、ずれが許容される範囲から外れていれば適していないと判定できる。
【0099】
なお、切削ブレード8の理想的な消耗傾向を表す直線グラフ66は、切削ブレード8の基準となる消耗傾向に関する基準消耗傾向情報の一種の形式である。また、切削ブレード8の消耗傾向を表す折れ線グラフ68,70は、消耗傾向情報の一種の形式である。
【0100】
そして、以上の説明は、消耗傾向情報作成ステップS60の一例として、消耗傾向情報として機能するグラフである折れ線グラフ68,70を作成することについての説明である。また、判定ステップS70の一例として、基準消耗傾向情報として機能する基準グラフである直線グラフ66と、折れ線グラフ68,70と、を比較することで切削ブレード8等の適否を判定することについての説明である。
【0101】
ただし、基準消耗傾向情報及び消耗傾向情報の形式はこれに限定されず、基準消耗傾向情報と、消耗傾向情報と、を比較して切削ブレード8等の適否を判定する方法もこれに限定されない。
【0102】
また、該情報処理端末の記憶部には、消耗傾向情報から切削ブレード8または加工条件の被加工物に対する適否を判定するプログラムが格納されていてもよい。また、消耗傾向情報を作成する情報処理端末の記憶部には、直線グラフ66からのずれの許容量が判定条件として予め登録されていてもよい。そして、該プログラムを該情報処理端末で実行することで記憶部に登録された直線グラフ66からのずれの許容量に基づいて自動的に切削ブレード8等の適否が判定されてもよい。
【0103】
例えば、読み出しステップS50と、消耗傾向情報作成ステップS60と、判定ステップS70と、が実施される情報処理端末は、切削装置2が設置されたデバイスチップ工場の内部に設置される。この場合、デバイスチップ工場に所属するオペレータが情報処理端末を使用して各ステップを実施する。
【0104】
または、この情報処理端末は、切削装置2や切削ブレード8の製造者が所有するものでもよい。例えば、寿命を迎えた切削ブレード8は、切削装置2や切削ブレード8の製造者に引き取られ、処分されることがある。この際に、該製造者がICタグ52a,52bに書き込まれた加工情報を情報処理端末で読み出して切削ブレード8または加工条件の被加工物に対する適否を判定してもよい。
【0105】
この場合、切削ブレード8の特性や切削装置2の構造を熟知した製造者が深い知見に基づいて加工条件の適否を判定できる。そのため、この製造者は、所望の加工結果を得るために適した加工条件を判定結果に基づいて切削装置2等の使用者にフィードバックすることも可能である。
【0106】
このように、本実施形態に係る判定方法は、各ステップが一貫して切削装置2の使用者により実施される場合がある。または、書き込みステップS40までの各ステップが切削装置2等の使用者により実施され、読み出しステップS50以降の各ステップが切削装置2等の製造者により実施される場合がある。
【0107】
後に加工情報に基づく加工条件の適否の判定が可能となるように加工情報をICタグ52a,52bに書き込む書き込み方法は、本発明の一態様といえる。また、ICタグ52a,52bに書き込まれた加工情報を読み出し、加工情報に基づいて加工条件の適否を判定する判定方法も本発明の一態様といえる。
【0108】
なお、判定ステップS70において、切削ブレード8または加工条件が適切ではないと判定される場合、切削ブレード8の種別や加工条件が変更されることが望ましい。そして、本実施形態に係る判定方法が再度実施されて、変更された切削ブレード8の種別や加工条件の適否がさらに判定されることが望ましい。また、判定ステップS70において、切削ブレード8または加工条件が適切であると判定される場合においても、より好ましい加工結果が得られるように切削ブレード8または加工条件が変更されてもよい。
【0109】
以上に説明する通り、本実施形態に係る判定方法、及び書き込み方法によると、被加工物を加工して得られる加工情報に基づいて切削ブレード8や加工条件が被加工物の切削に適切であるか否かを判定できる。すなわち、最適な加工条件を探すためのテスト加工を十分に実施できない場合においても、被加工物の切削を進める過程で切削ブレード8や加工条件の適否を判定できる。
【0110】
なお、上記実施形態では、グラフの形式で消耗傾向情報が作成される場合について説明したが、本発明の一態様に係る判定方法はこれに限定されない。すなわち、消耗傾向情報作成ステップS60では、グラフ以外の形式で消耗傾向情報が作成されてもよい。例えば、プログラムに従って情報処理端末が切削ブレード8等の適否の判定を実施する場合、消耗傾向情報が視覚的な情報であるグラフの形式で表現される必要はなく、例えば、切削ブレード8の累積加工距離(累積加工量)と、累積消耗量と、のデータセットで構成されてもよい。
【0111】
さらに、上記実施形態では、一定の加工条件で実施される場合において消耗傾向情報を表すグラフが作成される場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。すなわち、一つの切削ブレード8が切削装置2の切削ユニット10に装着されてから取り外されるまでの間に様々な異なる加工条件で被加工物の切削が進められる場合において消耗傾向情報を表すグラフが作成されてもよい。
【0112】
この場合、消耗傾向情報を表すグラフには、各加工条件で被加工物が切削された際の切削ブレード8の複数の消耗傾向が連続的に示される。このグラフで示される各消耗傾向は個別に評価されてもよく、各消耗傾向が比較されることで各加工条件の優劣が判定されてもよい。このように、一つの切削ブレード8で被加工物を切削するだけで様々な加工条件の優劣を判定できると、被加工物に適した加工条件の探索を効率的に進められる。
【0113】
その他、上述した実施形態や変形例等にかかる構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0114】
11 フレームユニット
2 切削装置(加工装置)
4 基台
6 カバー
6a 前面
6b 側面
8 切削ブレード(砥石工具)
10 切削ユニット
10a 昇降ユニット
12 チャックテーブル
14 カセットエレベーター
16 カセット
18 モニター
20 ブレードケースホルダー
20a 溝部
20b 保持部
20c 支持部
20d 切り欠き部
22 制御ユニット
22a 記憶部
24 スピンドルハウジング
26 スピンドル
28 フランジ機構
30 フランジ部
32 ボス部
34 ボルト
36 支持基台
36a 開口
38 砥石部
40 固定リング
42 ブレードケース
44 収容部
44a,46a 凸部
46 蓋部
48 連結部
50 爪部
52a,52b ICタグ
54 リーダライタ
56 刃先位置検出ユニット
58 本体
58a カバー
60 ブレード進入部
62 発光部
62a 光源
62b 発光窓
64 受光部
64a 光電変換部
64b 受光窓
66 直線
68 折れ線
70 折れ線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9