IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

特開2022-159231樹脂、樹脂組成物、塗液組成物、フィルム、コーティング膜、電子写真感光体、絶縁材料、成形物、電子デバイス、および樹脂の製造方法
<>
  • 特開-樹脂、樹脂組成物、塗液組成物、フィルム、コーティング膜、電子写真感光体、絶縁材料、成形物、電子デバイス、および樹脂の製造方法 図1
  • 特開-樹脂、樹脂組成物、塗液組成物、フィルム、コーティング膜、電子写真感光体、絶縁材料、成形物、電子デバイス、および樹脂の製造方法 図2
  • 特開-樹脂、樹脂組成物、塗液組成物、フィルム、コーティング膜、電子写真感光体、絶縁材料、成形物、電子デバイス、および樹脂の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159231
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】樹脂、樹脂組成物、塗液組成物、フィルム、コーティング膜、電子写真感光体、絶縁材料、成形物、電子デバイス、および樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/04 20060101AFI20221006BHJP
   G03G 5/05 20060101ALI20221006BHJP
   C09D 169/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08G64/04
G03G5/05 101
C09D169/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060216
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021063202
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 高明
【テーマコード(参考)】
2H068
4J029
4J038
【Fターム(参考)】
2H068AA13
2H068AA35
2H068AA37
2H068BB25
4J029AA09
4J029AB01
4J029AE01
4J029AE11
4J029BB10B
4J029BB12B
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BC09
4J029BD09A
4J029BD09B
4J029FA06
4J029FA07
4J029FA17
4J029HC01
4J029HC02
4J029JA091
4J029JC021
4J029JC031
4J029JC222
4J029JF031
4J029KE11
4J038DE021
4J038KA06
4J038NA18
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高分子反応することが可能であり、反応性基となるアントラセン構造を持ち、湿式成型用の塗液調製に好適に用いられ、樹脂の末端に存在する水酸基などの極性基を末端封止することで特性を改善した樹脂を提供すること。
【解決手段】置換基を有してもよいアントラセンジオールで表される構造と、下記一般式(UN1)および下記一般式(UN2)で表される構造の少なくともいずれかの構造と、を含む樹脂。前記樹脂は、全繰り返し単位中の置換基を有してもよいアントラセンジオールで表される構造の繰り返し単位のモル組成が、0.1モル%以上、60モル%以下である。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(AN1)で表される構造と、
下記一般式(UN1)および下記一般式(UN2)で表される構造の少なくともいずれかの構造と、
を含み、
全繰り返し単位中の前記一般式(AN1)で表される構造の繰り返し単位のモル組成が、0.1モル%以上、60モル%以下であり、
分子末端が、一価の芳香族基、一価のフッ素含有脂肪族基、下記一般式(AN2)で表される基、または下記一般式(DP2)で表される基のいずれかにより封止されている、樹脂。
【化1】

(前記一般式(AN1)において、
Rは、各々独立に、
炭素数1以上、6以下の脂肪族炭化水素基、
環形成炭素数6以上、12以下の芳香族炭化水素基、
炭素数1以上、10以下のアルコキシ基、または
ハロゲン原子であり、
また、複数のRが連結された環状構造(芳香族環、および複素環を含む)を形成してもよく、
nは、
0以上、8以下の整数を表す。)
【化2】
(前記一般式(UN1)および前記一般式(UN2)において、
Ar、Ar31およびAr32は、各々独立に、
下記一般式(UN11)で表される基である。)
【化3】

(前記一般式(UN11)において、
m3は、0、1または2であり、
n3は、4であり、
複数のRは、各々独立に
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1以上、10以下のアルキル、
環形成炭素数6以上、12以下のアリール、または
炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルであり、
は、各々独立に、
単結合、
-C(-R31-、
-O-、
-S-、
-SO-、
-SO-、
-N(-R32)-,
-P(-R33)-、
-P=O(-R34)-、
カルボニル、
エステル、
アミド、
炭素数2以上、20以下のアルキレン、
炭素数2以上、20以下のアルキリデン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキレン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキリデン、
環形成炭素数6以上、20以下のアリーレン、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルカンジイル、
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルカンジイル、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルキリデン、および
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルキリデンからなる群から選択される1種または2種以上からなる基であり、
31からR34は、各々独立に、
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1以上、10以下のアルキル、
環形成炭素数6以上、12以下のアリール、または
炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルである。)
【化4】

(前記一般式(AN2)において、
X1は、各々独立に、
-O-、
-(C=O)-O-、
-O-(C=O)-O-、
-O-(C=O)-、または
-S-であり、
R11は、各々独立に、
炭素数1以上、10以下の脂肪族炭化水素基、
環形成炭素数6以上、12以下の芳香族炭化水素基、または
炭素数1以上、10以下のアルコキシ基であり、
R12は、各々独立に、
水素原子、
炭素数1以上、12以下の脂肪族炭化水素基、または
炭素数6以上、12以下の芳香族炭化水素基であり、
nは、
0以上、4以下の整数を表す。)
【化5】
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂において、
前記樹脂が、芳香族ポリカーボネートおよびポリアリレートからなる群から選択される少なくとも1つである、樹脂。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の樹脂において、
下記一般式(S1)で表される構造を含む、樹脂。
【化6】
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂を含む、
樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の樹脂と、ジエノフィル構造を含む化合物またはジエノフィル構造を含む樹脂と、を含む、樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂組成物において、
前記ジエノフィル構造は、下記一般式(DP1)で表される構造を含む、樹脂組成物。
【化7】

(前記一般式(DP1)において、
は、単結合、または他の骨格との連結基であり、
当該連結基としてのXは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子およびホウ素原子からなる群から選択される少なくともいずれかの原子を含み、連結基を構成する原子同士の結合様式が全て共有結合からなる基である。)
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の樹脂組成物であり、
前記樹脂組成物が、下記成分(i)、下記成分(ii)、および下記成分(iii)から選択されるいずれかの成分を含む、樹脂組成物。
(i)請求項1または請求項2に記載の樹脂と、ジエノフィル基を持つ化合物、
(ii)請求項1または請求項2に記載の樹脂と、高分子鎖にジエノフィル構造を持つ樹脂、
(iii)請求項1または請求項2に記載の樹脂における一本の高分子鎖に、さらにジエノフィル構造を持つ樹脂。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、有機溶剤とを、含む、
塗液組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂を含む、
フィルム。
【請求項10】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂を含む、
コーティング膜。
【請求項11】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂を含む層を有する、
電子写真感光体。
【請求項12】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂を含む、
絶縁材料。
【請求項13】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂を含む、
成形物。
【請求項14】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂を含む、
電子デバイス。
【請求項15】
請求項7に記載の樹脂組成物を加熱することにより、前記樹脂組成物の高分子反応を行う工程、を有する、
樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂、樹脂組成物、塗液組成物、フィルム、コーティング膜、電子写真感光体、絶縁材料、成形物、電子デバイス、および樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的性質や熱的性質、電気的性質に優れていることから、様々な産業分野において成形品の素材に用いられてきた。近年、ポリカーボネート樹脂は、その光学的性質などをも併せて利用した機能的な製品の分野においても多用されている。そして、このような用途分野の拡大に伴って、ポリカーボネート樹脂に対する要求性能も多様化し従来から用いられてきたポリカーボネート樹脂のみではなく、様々な化学構造を有するポリカーボネート樹脂が提案されてきている。
【0003】
機能的な製品の一例として、ポリカーボネート樹脂を電荷発生材料や電荷輸送材料といった機能性材料のバインダー樹脂として使用した有機電子写真感光体がある。
この有機電子写真感光体には、適用される電子写真プロセスに応じて、所定の感度や電気特性、光学特性を備えていることが要求される。電子写真感光体は、その感光層の表面に、コロナ帯電、トナー現像、紙への転写、およびクリーニング処理などの操作が繰り返し行われるため、これら操作を行う度に電気的または機械的な外力が加えられる。したがって、長期間にわたって電子写真の画質を維持するためには、電子写真感光体の表面に設けた感光層に、これら外力に対する耐久性が要求される。また、有機電子写真感光体は、通常機能性材料と共にバインダー樹脂を有機溶剤に溶解し、導電性基板などにキャスト製膜する方法で製造されることから、有機溶剤への溶解性・安定性が求められる。
【0004】
従来、感光体用バインダー樹脂として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンや、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどを原料とするポリカーボネート樹脂が使用されてきたが、耐久性の点で充分に満足できなかった。耐久性の改善策の一つとして、感光層の耐摩耗性を向上させることが考えられる。感光層の耐摩耗性を向上させるための効果的な技術としては、ポリカーボネートに反応性の官能基を導入し、高分子反応により改質する技術が知られている。
【0005】
高分子反応の一例として、特許文献1に記載の樹脂においては、アリル基を持つPCを、ラジカル開始剤を用いて架橋する技術が開示されており、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂よりも機械強度(引張り強度など)が良好になる結果が得られている。
【0006】
また、特許文献2には、ポリカーボネート共重合体において、エポキシ基などを有するポリカーボネート樹脂を、イオン機構で架橋した樹脂が記載されている。さらに、特許文献3には、二重結合を持つポリカーボネートと複数のケイ素-水素結合を持つ化合物を白金触媒存在下に反応させることによる架橋、および二重結合を持つポリカーボネートとケイ素原子上にアルコキシ基および水素を持つ化合物を白金触媒存在下に反応させ、その後に加水分解と縮合反応を行うことによる架橋技術が記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、アリル基を持つポリカーボネートを120℃から260℃に加熱した状態で電子線を照射することによる架橋技術が開示されている。
特許文献5には、アリル基を持つポリカーボネートに特定構造のトリアリールアミン、およびトリアリールアミン構造を持たないラジカル重合性化合物を用いて、無触媒で加熱により架橋する方法が開示されている。
【0008】
特許文献6には、脂肪族-芳香族ポリエステルの末端にアントラセン骨格を持つ樹脂をビスマレイミドで鎖長伸長した樹脂が報告されている。
また、特許文献7には、フラン構造を持つ脂肪族ポリエステル、ポリアミド、またはポリウレアと多官能マレイミドの反応による架橋樹脂が開示されている。
特許文献8には、アントラセン骨格にアクリル基などの重合性官能基を導入し、当該官能基の部分で架橋反応を行う硬化性組成物が開示されている。
特許文献9には、1,4-ジヒドロキシアントラセン骨格を持つポリカーボネートが開示されている。
非特許文献1には、脂肪族-芳香族ポリエステルの一部にアントラセンジカルボン酸骨格を導入した樹脂を2官能のマレイミド化合物で架橋した樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10-77338号公報
【特許文献2】特開平9-319102号公報
【特許文献3】特開2000-44668号公報
【特許文献4】特開2007-314719号公報
【特許文献5】特開2010-72019号公報
【特許文献6】特開2003-286347号公報
【特許文献7】米国特許第3435003号明細書
【特許文献8】特開2012-224569号公報
【特許文献9】特開平9-43867号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Macromolecules 1999,32,5786~5792
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載のポリカーボネートにおいては、ラジカル開始剤を使用することで電荷輸送物質(CTM)が変質したり、加えた開始剤が感光体に残存するため感光体として使用した際に残留電位が上昇するという問題があった。
【0012】
また、特許文献2に記載のポリカーボネートにおいては、開始反応にアミノ基などの求核性基を持つ化合物や、または無水カルボン酸基などの酸性基を使用するため、CTMが変質したり、加えた化合物が感光体に残存するため感光体として使用した際に残留電位が上昇するという問題があった。また、開示された樹脂が架橋していることを確認した記載が無く、開示された物性向上の効果が、架橋構造に由来したものであるかが不明確であった。
【0013】
また、特許文献3に記載のポリカーボネートにおいては、白金触媒を使用するため、CTMが変質したり、加えた触媒が感光体に残存するため感光体として使用した際に残留電位が上昇するという問題があった。また塗液中での反応抑制が困難であり、塗液保管中に粘度が上昇したり、ゲル化するなどの問題があった。
【0014】
また、特許文献4に記載のポリカーボネートにおいては、電子線を照射した際にCTMが変質し、感光体として使用した際に残留電位が上昇するという問題があった。
【0015】
上記に見られるように、電気特性悪化の原因となるラジカル開始剤、または反応触媒を含まず、またCTMを変質させるUV、および電子線などを用いることなく、架橋ポリカーボネート、および架橋ポリアリレートが得られる例もある。
このような例として、特許文献5には、ラジカル重合活性が高く、開始剤の使用やUVの照射なく加熱するだけでラジカル重合するモノマーを使用し、そこにアリル基を持つポリカーボネートを共存させる技術が報告されている。しかしながら、開始剤や光照射がなくてもラジカル重合するモノマーを使用していることから当該重合性モノマー単独の重合物が主に生成し、相対的にラジカル重合活性が低いアリル基を持つポリカーボネートと当該重合性モノマーの反応確率は低いと考えられる。そのため、得られた組成物はポリマーの緻密な3次元網目構造を持つのではなく、ポリカーボネート樹脂とラジカル重合モノマーの架橋重合物が別々に存在し、その一部分のみが結合された組成物になっていると考えられる。そして、通常低分子として存在する電荷輸送物質が高分子量化することによる物性向上の効果が支配的で、ポリカーボネート部分が架橋されることによる物性向上は不十分なものであった。また、開始剤がなくてもラジカル重合が進行する高活性な化合物を使用しているため、塗液組成物の段階で重合が進行することを抑制するのが困難であり、塗液保管中の粘度の上昇や、ゲル化などの問題があった。
【0016】
これらの要求を満たしうる架橋技術として、特許文献6には、ポリカーボネート以外の樹脂を用いた例としては、ディールス・アルダー反応による脂肪族-芳香族ポリエステルの分子量伸長反応による直鎖高分子が開示されている。しかしながら、特許文献6に記載の発明の目的は、ディールス・アルダー反応により形成された結合が高温で解離するレトロディールス・アルダー反応を起こすことを利用し、高温では低粘度化により溶融粘度が低下することで熱成形性が向上し、実用温度域では分子量が増大していることで機械物性が向上し、かつ直鎖構造を持つことで可溶性を保持することを特徴とした技術である。そして、この目的は、反応性基を導入し、これと反応する基を持つ成分を反応させることで樹脂に機能を付与することを目指す本発明の目的とは異なる。また、特許文献6には、当該特許文献6に記載の技術を芳香族ポリカーボネート、または全芳香族ポリエステルに適用することは記載も示唆も無い。
【0017】
また、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、またはポリウレアをディールス・アルダー反応で架橋する例が特許文献7に記載されている。しかしながら、これらの例は、軟質な脂肪族樹脂を架橋することで耐溶剤性の付与と、使用目的であるダイアフラムシールや接着剤に適用可能なエラストマーを得ることを目的としている。そして、これらの例の技術思想は、機械的強度が高い芳香族ポリカーボネートや、全芳香族ポリエステルを改質成分との反応によりさらに高機能化する本発明の思想とは異なるものである。また、特許文献7には、当該特許文献7に記載の技術を芳香族ポリカーボネート、または全芳香族ポリエステルに適用することは記載も示唆も無い。
【0018】
非特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート(PET)にアントラセンジカルボン酸骨格を導入し、2官能のマレイミド化合物により架橋する例が記載されている。この例の目的は、加熱架橋により機械物性を向上させる点では本発明の目的と類似するが、非特許文献1には、当該非特許文献1に記載の技術をポリカーボネートやポリアリレートに適用する例は記載も示唆も無い。また、PETは、電子写真感光体用途に使用することを考えると通常塗布溶剤として使用されるTHFなどの有機溶剤への溶解性が低く、またトリアリールアミンなどの電荷輸送物質との相溶性が悪く、当該用途には使用することができない。
【0019】
特許文献8には、アントラセン骨格にアクリル基などの重合性官能基を導入し、当該官能基の部分で架橋反応を行う例が開示されている。しかしながら、特許文献8には、アントラセン部分を架橋反応に利用する記載も示唆も無い。加えて、特許文献8に記載の発明は、アントラセン骨格の機能を残存させることを目的としており、反応によりアントラセン骨格を消失させるディールス・アルダー反応を適用する本発明の技術は、当該目的に反している。
特許文献9には本実施形態に係る一般式(AN1)で示される構造と同一の繰り返し単位を75%含み、末端が封止されていない樹脂が開示されている。この一般式(AN1)で示される構造はアントラセンの1,4位で結合しており、直線性が高いことから他の結合位置のアントラセンより耐摩耗性が良好な反面、結晶性が高いことから含有割合が高いとアントラセン構造が複数連結した成分が生じることで樹脂が結晶化により白濁する問題が有る。また、末端を封止していないポリカーボネートは、末端は水酸基、またはクロロホーメート基であると考えられるが、いずれも極性が高く、吸湿性が高くなったり、比誘電率が設計より高くなるなど問題が生じる恐れが有り好ましくない。特許文献9においても、高湿環境における画像欠陥の発生が課題である事が記載されているが、これはポリマー末端のOH基が存在する事が一因になっていると考えられる。加えて、特許文献9に記載の発明は、アントラセン骨格を含む特定構造の芳香族環、芳香族縮合環を持つ樹脂が効果を発揮する事を主旨としているのに対し、本願はアントラセン骨格を反応による機能性構造導入の連結部として活用する事を意図しており、目的が異なる。また、反応後はアントラセン構造が他の構造に変換されるため、特許文献9とは異なる構造となる。
【0020】
本発明の目的は、高分子反応することが可能であり、反応性基となるアントラセン構造を持ち、湿式成型用の塗液調製に好適に用いられ、樹脂の末端に存在する水酸基などの極性基を末端封止することで特性を改善した樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様によれば、特定のアントラセン構造を有する樹脂であり、前記樹脂は、特定のアントラセン構造を0.1モル%以上、60モル%以下含み、分子末端が特定の基で封止された構造を有する、樹脂が提供される。
【0022】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂を含む、樹脂組成物が提供される。
【0023】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂組成物と、有機溶剤とを含む、塗液組成物が提供される。
【0024】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂を含む層を有する、電子写真感光体が提供される。
【0025】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂を含む、成形物が提供される。
【0026】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂を含む、フィルムが提供される。
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂を含む、コーティング膜が提供される。
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂を含む、絶縁材料が提供される。
【0027】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂を含む、電子デバイスが提供される。
【0028】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂組成物を加熱することにより、前記樹脂組成物の高分子反応を行う工程を有する、樹脂の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一態様によれば、高分子反応することが可能であり、反応性基となるアントラセン構造を持ち、湿式成型用の塗液調製に好適に用いられ、樹脂の末端に存在する水酸基などの極性基を末端封止することで特性を改善した樹脂を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例で得られた原料樹脂であるPC-1のH-NMRスペクトルのチャートである。
図2】実施例で得られた原料樹脂であるPC-1を用いて得られた高分子反応性組成物のH-NMRスペクトルのチャートである。
図3】実施例で得られた原料樹脂であるPC-1を用いて得られた高分子反応性組成物のH-NMRスペクトルのチャートにおける部分拡大チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[樹脂]
本実施形態に係る樹脂は、後述の一般式(AN1)で表される構造と、後述の一般式(UN1)および一般式(UN2)で表される構造の少なくともいずれかの構造とを含む。また、本実施形態に係る樹脂は、全繰り返し単位中の一般式(AN1)で表される構造の繰り返し単位のモル組成が、0.1モル%以上、60モル%以下である。そして、本実施形態に係る樹脂は、分子末端が、一価の芳香族基、一価のフッ素含有脂肪族基、下記一般式(AN2)、または下記一般式(DP2)で表される基のいずれかにより封止されている。この樹脂を、本明細書の説明では、特定のアントラセン構造を有する樹脂(または高分子)という場合がある。
【0032】
本実施形態に係る樹脂は、芳香族ポリカーボネートおよびポリアリレートからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂であることが好ましい。具体的な樹脂としては、芳香族ポリカーボネート、ポリアリレート、および芳香族ポリカーボネート-ポリアリレート共重合体(以下、これらを単に「PC類」ともいう)が挙げられる。
【0033】
本実施形態に係る樹脂は、ディールス・アルダー反応による高分子反応を生じる性質を示す。高分子反応を生じる場合、後述の一般式(AN1)で表される構造のうち、アントラセン構造が、反応性基となる。一般式(AN1)で表される構造の繰り返し単位を有する樹脂が、高分子反応することによって得られた樹脂は、下記一般式(S1)で表される構造を有する。下記一般式(S1)において、*は、結合位置を表す。
【0034】
【化1】
【0035】
本実施形態に係る樹脂は、ディールス・アルダー反応による高分子反応により、種々の目的(架橋、グラフトポリマー合成、高分子ブラシ、機能性成分の担持、分子鎖伸長、異種ポリマーとのブロック共重合体の合成など)に適用できる。そして、高分子反応により得られる部位の構造は、例えば、下記一般式(P1)で示すような結合様式となる。
【0036】
【化2】
【0037】
前記一般式(P1)において、*PCは、PC類の高分子鎖を表す。楕円部分は、架橋、グラフト、樹脂ブラシ、機能性成分の担持、分子量伸長などを表す。一般式(P1)が示す楕円部分は、架橋、グラフトポリマー合成、樹脂ブラシ、機能性成分の担持、分子鎖伸長、異種ポリマーとのブロック共重合体の合成などのいずれでもよく、目的に応じて、適宜選定できる。
【0038】
なお、本発明者らは、前記した本発明の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ラジカル開始剤および反応触媒などを含まず、かつ、紫外線および電子線などを用いることなく、ジエノフィル構造を持つ物質との高分子反応を生じ、湿式成型用の塗液調製に好適に用いられ、樹脂の末端に存在する水酸基などの極性基を末端封止することで特性を改善した新規な樹脂を見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0039】
本実施形態に係る樹脂は、一般式(AN1)で表される構造の繰り返し単位を有する。本実施形態に係る樹脂は、ディールス・アルダー反応性を持つ特定のアントラセン構造を有する高分子である。
【0040】
【化3】
【0041】
前記一般式(AN1)において、
Rは、各々独立に、
炭素数1以上、6以下の脂肪族炭化水素基、
環形成炭素数6以上、12以下の芳香族炭化水素基、
炭素数1以上、10以下のアルコキシ基、または
ハロゲン原子であり、
また、複数のRが連結された環状構造(芳香族環、および複素環を含む)を形成してもよく、
また、Rが複数存在するときは、Rは同一であってもよく、異なっていてもよく、
nは、
0以上、8以下の整数を表す。
【0042】
前記一般式(AN1)中、Rが示す炭素数1以上、6以下の脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)が挙げられる。
炭素数1以上、6以下の脂肪族炭化水素基としてのアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基などが挙げられる。
炭素数1以上、6以下の脂肪族炭化水素基としてのアルケニル基は、例えば、ビニル基(エテニル基)、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、1-ブテニル基、1-ヘキセニル基などが挙げられる。
炭素数1以上、6以下の脂肪族炭化水素基としてのアルキニル基は、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、3-ヘキシニル基などが挙げられる。
【0043】
前記一般式(AN1)中、Rが示す環形成炭素数6以上、12以下の芳香族炭化水素基は、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。
【0044】
前記一般式(AN1)中、Rが示す炭素数1以上、10以下のアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、sec-ヘキシルオキシ基、tert-ヘキシルオキシ基、イソヘプチルオキシ基、sec-ヘプチルオキシ基、tert-ヘプチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、sec-オクチルオキシ基、tert-オクチルオキシ基、イソノニルオキシ基、sec-ノニルオキシ基、tert-ノニルオキシ基、イソデシルオキシ基、sec-デシルオキシ基、tert-デシルオキシ基などが挙げられる。
【0045】
前記一般式(AN1)中、Rが示すハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。
【0046】
本実施形態に係る樹脂は、全繰り返し単位中の一般式(AN1)で表される構造の繰り返し単位のモル組成が、0.1モル%以上、60モル%以下である。
全繰り返し単位中、一般式(AN1)で表される構造の繰り返し単位のモル組成は、改質成分の導入による特性改良効果を得る観点から、1モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることがさらに好ましい。
一般式(AN1)で表される構造を有する樹脂は、結晶性の高い一般式(AN1)で表される構造が連鎖することで、得られた樹脂が結晶化しやすくなる。樹脂が結晶化することで、樹脂が白濁したり不溶化することを防止するため、全繰り返し単位中の一般式(AN1)で表される構造の繰り返し単位のモル組成は、60%以下にすることが必要である。さらに、溶解可能な溶剤の種類を多くしたり、溶剤溶解性を向上するためには、全繰り返し単位中の一般式(AN1)で表される構造の繰り返し単位のモル組成は、50モル%以下であることが好ましく、40モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましく、15モル%以下であることがよりさらに好ましい。
【0047】
特定のアントラセン構造を有する本樹脂に高分子反応させるジエノフィル構造としては、ディールス・アルダー反応を起こす構造であればどのようなものも適用できる。その反応性の高さより、ジエノフィル構造を持つ物質としては、マレイミド骨格を持つものが好適に使用される。
ジエノフィル構造としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、4,4’-メチレンジアニリンを有するジフェニルメタン-4,4’-ビスマレイミドポリマー、N,N’-(2,2’-ジエチル-6,6’-ジメチレンジフェニレン)ビスマレイミド、N,N’-(4-メチル-m-フェニレン)ビスマレイミド、N,N’-m-フェニレンジマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ポリフェニルメタンビスマレイミドなどのビスマレイミド類、N-フェニルマレイミドなどのモノマレイミド類、および下記化合物で分子末端が封止された構造を持つPC類が挙げられる。
【0048】
【化4】
【0049】
本実施形態において、ジエノフィル構造またはジエノフィル基(以下、これらを単に「ジエノフィル」ともいう)は、下記一般式(DP1)で表される構造を含むことが好ましい。
【0050】
【化5】
【0051】
前記一般式(DP1)において、
は、単結合、または他の骨格との連結基であり、
当該連結基としてのXは、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子およびホウ素原子からなる群から選択される少なくともいずれかの原子を含み、連結基を構成する原子同士の結合様式が全て共有結合からなる基である。
*は、結合位置を示す。
【0052】
本実施形態において、ジエノフィル構造またはジエノフィル基は、下記一般式(DP2)で表される構造を含むことが特に好ましい。なお、下記一般式(DP2)において、*は、結合位置を示す。本実施形態に係る樹脂の分子末端は、下記一般式(DP2)で表される基によって封止されていてもよい。
【0053】
【化6】
【0054】
本実施形態において高分子反応により機能を付与する場合、アントラセンとジエノフィルとの割合は、目標とする物性や目的とする用途に応じて適宜設定可能である。ジエノフィルに対するアントラセンのモル比(アントラセン/ジエノフィル)は、0.01以上、100以下であることが好ましく、0.1以上、10以下であることがより好ましく、0.2以上、5以下であることがさらに好ましく、0.5以上、1.5以下であることがよりさらに好ましい。ジエノフィルに対するアントラセンのモル比が、0.01未満である場合、或いは100を超える場合は、改質効果が十分得られないおそれがある。
【0055】
本実施形態に係る樹脂は、下記一般式(UN1)および一般式(UN2)で表される構造の少なくともいずれかの構造を含む。
【0056】
【化7】
【0057】
前記一般式(UN1)および一般式(UN2)において、Ar、Ar31およびAr32は、各々独立に、下記一般式(UN11)で表される基である。
*は、結合位置を示す。
【0058】
【化8】
【0059】
前記一般式(UN11)において、
m3は、0、1または2であり、
n3は、4であり、
複数のRは、各々独立に
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1以上、10以下のアルキル、
環形成炭素数6以上、12以下のアリール、または
炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルであり、
また、複数のRは、同一であってもよく、異なっていてもよく、
は、各々独立に、
単結合、
-C(-R31-、
-O-、
-S-、
-SO-、
-SO-、
-N(-R32)-,
-P(-R33)-、
-P=O(-R34)-、
カルボニル、
エステル、
アミド、
炭素数2以上、20以下のアルキレン、
炭素数2以上、20以下のアルキリデン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキレン、
環形成炭素数3以上、20以下のシクロアルキリデン、
環形成炭素数6以上、20以下のアリーレン、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルカンジイル、
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルカンジイル、
環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルキリデン、および
環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルキリデンからなる群から選択される1種または2種以上からなる基であり、
31からR34は、各々独立に、
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1以上、10以下のアルキル、
環形成炭素数6以上、12以下のアリール、または
炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルである。
*は、結合位置を示す。
【0060】
前記一般式(UN11)中、Rが示すハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。
【0061】
前記一般式(UN11)中、Rが示す炭素数1以上、10以下のアルキルは、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、イソヘキシル、sec-ヘキシル、tert-ヘキシル、イソヘプチル、sec-ヘプチル、tert-ヘプチル、イソオクチル、sec-オクチル、tert-オクチル、イソノニル、sec-ノニル、tert-ノニル、イソデシル、sec-デシル、およびtert-デシルなどの基が挙げられる。
【0062】
前記一般式(UN11)中、Rが示す環形成炭素数6以上、12以下のアリールは、例えば、フェニル、ナフチル、およびビフェニルなどの基が挙げられる。
【0063】
前記一般式(UN11)中、Rが示す炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルは、例えば、前述の一般式(UN11)のRが示す炭素数1以上、10以下のアルキルで例示したアルキルにおいて、炭素原子が持つ少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたアルキルの基が挙げられる。
【0064】
前記一般式(UN11)中、Xが示す炭素数2以上、20以下のアルキレンは、直鎖状または分岐状のアルキレン基が挙げられ、例えば、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、へキシレン、オクチレン、およびデシレンなどの基が挙げられる。
前記一般式(UN11)中、Xが示す炭素数2以上、20以下のアルキリデンは、エチリデン、プロピリデン、ブチリデン、ヘキシリデン、オクチリデン、デシリデン、ペンタデシリデン、およびイコシリデンなどの基が挙げられる。
一般式(UN11)中、Xが示す炭素数3以上、20以下のシクロアルキレンは、例えば、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロへキシレン、シクロオクチレン、シクロデシレン、シクロドデシレン、シクロペンタデシレン、およびシクロイコシレンなどの基が挙げられる。
前記一般式(UN11)中、Xが示す炭素数3以上、20以下のシクロアルキリデンは、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロオクチリデン、シクロデシリデン、シクロドデシリデン、シクロペンタデシリデン、およびシクロイコシリデンなどの基が挙げられる。
前記一般式(UN11)中、Xが示す環形成炭素数6以上、20以下のアリーレンは、例えば、フェニレン、ナフチレン、およびビフェニレンなどの基が挙げられる。
【0065】
前記一般式(UN11)中、Xが示す環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルカンジイルは、例えば、上述のシクロアルキレンの二環体が例示され、環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルカンジイルは、上述のシクロアルキレンの三環体が例示される。例えばアダマンタンジイル、およびトリシクロデカンジイル等の基が例示される。
前記一般式(UN11)中、Xが示す環形成炭素数4以上、20以下のビシクロアルキリデンは、上述のシクロアルキリデンの二環体が例示され、環形成炭素数5以上、20以下のトリシクロアルキリデンは、上述のシクロアルキリデンの三環体が例示される。例えばアダマンチリデン、およびトリシクロデシリデン等の基が例示される。
【0066】
前記一般式(UN11)中、XのR31からR34が示すハロゲン原子、炭素数1以上、10以下のアルキル、環形成炭素数6以上、12以下のアリール、および炭素数1以上、10以下のフッ化アルキルは、前述の一般式(UN11)中のRが示す基と同様の基が例示される。
【0067】
[高分子反応によって得られる樹脂の製造方法]
本実施形態に樹脂において、高分子反応によって得られる樹脂の製造方法は、後述の本実施形態に係る樹脂組成物を加熱することにより、樹脂組成物の高分子反応を行う工程、を有する。高分子反応を行うための樹脂組成物の成分は、例えば、後述の本実施形態に係る樹脂組成物において、(i)、(ii)および(iii)として例示する成分が挙げられる。樹脂組成物の高分子反応を行う工程において、加熱温度は、目的とする特性、用途などに応じて決定すればよい。高分子反応を行う加熱温度は、例えば、60℃以上250℃以下であることが挙げられる。
高分子反応によって得られる樹脂の製造方法は、後述の塗液組成物を湿式成形法で、対象物に塗布する工程と、加熱を行うことにより、この塗液組成物中の有機溶剤を除去する工程と、この有機溶剤を除去する工程における加熱と同時、または引き続き加熱を行うことにより、この塗液組成物中の樹脂組成物の高分子反応を行う工程と、を有する方法であってもよい。また、予め高分子反応により樹脂を改質し、得られた樹脂を用いて成型体を得る方法であっても構わない。
【0068】
以下、高分子鎖に特定のアントラセン構造を有する高分子(ポリカーボネート重合体)を例に挙げて、詳細に説明する。
【0069】
本実施形態に係るポリカーボネート重合体(以下、PC重合体ともいう)の第一の形態は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位A、および下記一般式(2)で表される繰り返し単位Bから選ばれる繰り返し単位を少なくとも有し、かつ、下記一般式(1A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマー、下記一般式(2A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマーおよび下記一般式(2C)で表されるビスクロロホーメートオリゴマーの少なくともいずれかを原料として得られる。
【0070】
【化9】
【0071】
【化10】
【0072】
前記一般式(1)および一般式(1A)において、Ar33は、前記一般式(AN1)で表される基における2価のアントラセン環残基であり、n31は、平均量体数を表す。また、平均量体数n31は、1.0以上、10以下である。
前記一般式(2)および一般式(2A)において、Ar34は、前記一般式(UN11)で表される基であり、n32は、平均量体数を表す。また、平均量体数n32は、1.0以上、10以下である。
前記一般式(2C)において、Ar33は、前記一般式(AN1)で表される基における2価のアントラセン環残基であり、Ar34は、前記一般式(UN11)で表される基である。また、n33およびn34は、それぞれ平均量体数を表す。また、平均量体数n33およびn34の合計は、1.0以上、10以下である。
*は、結合位置を示す。
ただし、Ar33およびAr34は、互いに異なる。前記一般式(2C)において、各繰り返し単位は必ずしも連続していなくてもよい。
平均量体数の算出方法は、後述する実施例において説明する方法が挙げられる。
【0073】
なお、一般式(AN1)で表される基における2価のアントラセン環残基は、下記一般式(AN1A)で表される。一般式(AN1A)中、(R)nで示される基のRおよびnは、一般式(AN1)の(R)nで示される基のRおよびnと同様である。
【0074】
【化11】
【0075】
このようなPC重合体は、特定のアントラセン構造を有する前記一般式(AN1)で表される基などが含まれる繰り返し単位Aを有するので、高分子鎖に2つ以上の共役ジエン構造を持つ高分子となる。
【0076】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位A単独の繰り返し単位を有するPC重合体、および前記一般式(1)で表される繰り返し単位Aと、前記一般式(2)で表される繰り返し単位Bとを有するPC重合体としては、下記一般式(100)で表されるものが好ましい。
【0077】
【化12】
【0078】
前記一般式(100)において、aは、前記繰り返し単位Aにおけるモル共重比を表し、bは、前記繰り返し単位Bにおけるモル共重比を表す。
aは、[Ar33]/([Ar33]+[Ar34])であり、bは、[Ar34]/([Ar33]+[Ar34])であり、bが0の場合も含む。[Ar33]は、PC重合体中のAr33で表される基を含む繰り返し単位Aのモル数を表し、[Ar34]は、PC重合体中のAr34で表される基を含む繰り返し単位Bのモル数を表す。
【0079】
なお、前記一般式(100)において、各繰り返し単位は必ずしも連続していない。
前記一般式(100)で表されるPC重合体は、ブロック共重合体、交互共重合体、およびランダム共重合体など、いずれであってもよい。
【0080】
本実施形態に係るPC重合体の連鎖末端は、前述の一般式(DP2)を含む上記特定の末端基以外に、一価の芳香族基、一価のフッ素含有脂肪族基、または下記一般式(AN2)のいずれかにより封止されていることで、PC重合体の末端として通常存在する水酸基などの極性基が低減されており、これにより耐湿性、低誘電特性、電気特性などの特性が改善されている。
【0081】
【化13】
【0082】
(一般式(AN2)において、
は、各々独立に、
-O-、
-(C=O)-O-、
-O-(C=O)-O-、
-O-(C=O)-、または
-S-であり、
11は、各々独立に、
炭素数1以上、10以下の脂肪族炭化水素基、
環形成炭素数6以上、12以下の芳香族炭化水素基、または
炭素数1以上、10以下のアルコキシ基であり、
12は、各々独立に、
水素原子、
炭素数1以上、12以下の脂肪族炭化水素基、または
炭素数6以上、12以下の芳香族炭化水素基であり、
nは、0以上、4以下の整数を表す。)
【0083】
一般式(AN2)中、R11およびR12が示す炭素数1以上、10以下の脂肪族炭化水素基、環形成炭素数6以上、12以下の芳香族炭化水素基、炭素数1以上、10以下のアルコキシ基は、例えば、一般式(AN1)中のRが示す炭素数1以上、10以下の脂肪族炭化水素基、環形成炭素数6以上、12以下の芳香族炭化水素基、炭素数1以上、10以下のアルコキシ基と同様の基が例示される。
【0084】
本実施形態において、PC重合体の連鎖末端が、一般式(AN2)で表される基である場合、電気特性および耐摩耗性の改善の点から、共重合組成のモル百分率として、好ましくは0.1モル%以上67モル%以下であり、さらに好ましくは0.5モル%以上50モル%以下である。末端封止剤の添加割合が、67モル%以下であると機械的強度の低下を抑制でき、0.1モル%以上であると改良構造導入による特性向上の効果を得ることができることから好ましい。末端封止剤の添加割合は、1モル%以上であることがよりさらに好ましく、5モル%以上であることさらになお好ましい。末端封止剤の添加割合は、15モル%以下であることがよりさらに好ましい。
また、PC重合体の連鎖末端が、一般式(DP2)で表される基である場合、電気特性および耐摩耗性の改善の点から、共重合組成のモル百分率として、好ましくは0.1モル%以上67モル%以下であり、さらに好ましくは0.5モル%以上50モル%以下である。末端封止剤の添加割合が、67モル%以下であると機械的強度の低下を抑制でき、0.1モル%以上であると改良構造導入による特性向上の効果を得ることができることから好ましい。
【0085】
一価の芳香族基は、脂肪族基を含有する基であってもよい。
一価のフッ素含有脂肪族基は、芳香族基を含有する基であってもよい。
また、一価の芳香族基および一価のフッ素含有脂肪族基には、アルキル基、ハロゲン原子、およびアリール基からなる群から選択される少なくともいずれかの置換基が付加していてもよい。これらの置換基には、アルキル基、ハロゲン原子、およびアリール基からなる群から選択される少なくともいずれかの置換基がさらに付加していてもよい。また、置換基が複数ある場合、これらの置換基同士が互いに結合して環を形成してもよい。
【0086】
連鎖末端を構成する一価の芳香族基は、環形成炭素数6から12のアリール基を含むことが好ましい。このようなアリール基としては、例えば、フェニル基やビフェニル基が挙げられる。
芳香族基に付加する置換基、および芳香族基に付加しているアルキル基に付加する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子が挙げられる。また、芳香族基に付加する置換基として炭素数1から20のアルキル基が挙げられる。このアルキル基は、上記のようにハロゲン原子が付加した基であってもよく、アリール基が付加した基であってもよい。
【0087】
連鎖末端を構成する一価のフッ素含有脂肪族基としては、フッ素含有アルコールから誘導される一価の基が挙げられる。
【0088】
フッ素含有アルコールとしては、炭素数2から6である複数のフルオロアルキル鎖同士が、エーテル結合を介して連結し、全フッ素原子数が13から19のものが好ましい。全フッ素原子数が13以上であれば、十分な撥水性、撥油性を発現させることができる。一方、全フッ素原子数が19以下であれば、重合時の反応性の低下を抑制し、得られたPC重合体の機械的強度、表面硬度、および耐熱性などの少なくともいずれかが向上し得る。
さらに、一価のフッ素含有脂肪族基としては、エーテル結合を2つ以上有するフッ素含有アルコールから誘導される一価の基でも好ましい。このようなフッ素含有アルコールを用いることで、塗液組成物におけるPC重合体の分散性が良くなり、成形体や電子写真感光体における耐摩耗性を向上させ、摩耗後の、表面潤滑性、撥水性および撥油性を保持することができる。
【0089】
あるいは、フッ素含有アルコールとしては、下記一般式(30)もしくは(31)で表されるフッ素含有アルコール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールなどのフッ素含有アルコール、または下記一般式(32)、(33)、もしくは(34)で表されるエーテル結合を介したフッ素含有アルコールも好ましい。
【0090】
H(CFn1CHOH・・・(30)
F(CFm1CHOH・・・(31)
【0091】
前記一般式(30)において、n1は1から12の整数であり、前記一般式(31)において、m1は1から12の整数である。
【0092】
F-(CF 31-OCFCH-OH・・・(32)
F-(CFCF 32-(CFCFO) 33-CFCHOH・・・(33)
CR-(CF 35-O-(CFCFO) 34-CFCHOH・・・(34)
【0093】
前記一般式(32)において、n31は1から10の整数であり、好ましくは、5から8の整数である。
前記一般式(33)において、n32は0から5の整数であり、好ましくは、0から3の整数である。n33は1から5の整数であり、好ましくは、1から3の整数である。
前記一般式(34)において、n34は1から5の整数であり、好ましくは、1から3の整数である。n35は0から5の整数であり、好ましくは、0から3の整数である。Rは、CFまたはFである。
【0094】
本実施形態において、PC重合体の連鎖末端が、一価の芳香族基、一価のフッ素含有脂肪族基である場合、この連鎖末端は、電気特性や耐摩耗性の改善の点から、PC重合体の連鎖末端は、下記一般式(35)で表されるフェノールから誘導される一価の基または下記一般式(36)で表されるフッ素含有アルコールから誘導される一価の基により封止されていることが好ましい。
【0095】
【化14】
【0096】
前記一般式(35)において、R30は炭素数1から10のアルキル基、または炭素数1から10のフルオロアルキル基を表し、pは1から3の整数である。
前記一般式(36)において、Rは、炭素数が5以上、かつ、フッ素原子数が11以上であるパーフルオロアルキル基、あるいは下記一般式(37)で表されるパーフルオロアルキルオキシ基を示す。
【0097】
【化15】
【0098】
前記一般式(37)において、Rf2は炭素数1から6の直鎖または分岐のパーフルオロアルキル基である。mxは1から3の整数である。
【0099】
本実施形態に係るPC重合体の製造方法の一態様としては、前記一般式(1A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマー化合物、および前記一般式(2A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマー化合物の少なくともいずれかと、有機溶剤と、アルカリ水溶液と、ビスフェノール化合物などのモノマーを用い、有機層と水層とを混合して界面重縮合反応を行う製造方法が挙げられる。
【0100】
本実施形態に係るPC重合体の製造方法において、連鎖末端を生成させる末端封止剤としては、一価のカルボン酸およびその誘導体や、一価のフェノールを用いることができる。
例えば、p-tert-ブチル-フェノール、p-フェニルフェノール、p-クミルフェノール、p-パーフルオロノニルフェノール、p-(パーフルオロノニルフェニル)フェノール、p-(パーフルオロヘキシル)フェノール、p-tert-パーフルオロブチルフェノール、p-パーフルオロオクチルフェノール、1-(p-ヒドロキシベンジル)パーフルオロデカン、p-〔2-(1H,1H-パーフルオロトリドデシルオキシ)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル〕フェノール、3,5-ビス(パーフルオロヘキシルオキシカルボニル)フェノール、p-ヒドロキシ安息香酸パーフルオロドデシル、p-(1H,1H-パーフルオロオクチルオキシ)フェノール、2H,2H,9H-パーフルオロノナン酸などが好適に用いられる。
【0101】
あるいは、連鎖末端を生成させる末端封止剤として、前記一般式(30)または(31)で表されるフッ素含有アルコール、または1,1,1,3,3,3-ヘキサフロロ-2-プロパノールなどの一価のフッ素含有アルコールも好適に用いられる。また、連鎖末端を生成させる末端封止剤として、前記一般式(32)、(33)、または(34)で表されるエーテル結合を介したフッ素含有アルコールを用いることも好ましい。
【0102】
連鎖末端を生成させる末端封止剤としては、これらの中でも、電気特性や耐摩耗性の改善の点から、前記一般式(35)で表される一価のフェノールまたは前記一般式(36)で表される一価のフッ素含有アルコールを用いることが好ましい。
【0103】
前記一般式(35)で表される一価のフェノールとしては、例えば、p-tert-ブチル-フェノール、p-パーフルオロノニルフェノール、p-パーフルオロヘキシルフェノール、p-tert-パーフルオロブチルフェノール、p-パーフルオロオクチルフェノールなどが好適に用いられる。すなわち、本実施形態においては、連鎖末端は、p-tert-ブチル-フェノール、p-パーフルオロノニルフェノール、p-パーフルオロヘキシルフェノール、p-tert-パーフルオロブチルフェノール、およびp-パーフルオロオクチルフェノールからなる群から選ばれる末端封止剤を用いて封止されていることが好ましい。
【0104】
前記一般式(36)で表されるエーテル結合を介したフッ素含有アルコールとしては、例えば、以下の化合物が挙げられる。すなわち、本実施形態の連鎖末端は、下記フッ素含有アルコールのいずれかから選ばれる末端封止剤を用いて封止されていても好ましい。
【0105】
【化16】
【0106】
末端封止剤の添加割合は、ディールス・アルダー反応性官能基(共役ジエン、またはジエノフィル)が末端に有る場合と、主鎖または側鎖に有る場合で適正な割合が異なる。共役ジエン、またはジエノフィルを末端に含む場合は、末端の分率により架橋性反応基の濃度、および分子量が連動して変化する。主鎖、および末端の繰り返し単位の合計、に対するジエン、またはジエノフィル末端基の共重合組成のモル百分率として、好ましくは0.1モル%以上67モル%以下であり、さらに好ましくは0.5モル%以上50モル%以下である。末端封止剤の添加割合が、67モル%以下であると機械的強度の低下を抑制でき、0.1モル%以上であると架橋による特性向上の効果を得ることができる。共役ジエン、またはジエノフィルが含まれない場合は、主鎖および末端の繰り返し単位の合計に対する連鎖末端の共重合組成のモル百分率として、好ましくは0.05モル%以上40モル%以下であり、さらに好ましくは0.1モル%以上20モル%以下である。末端封止剤の添加割合が、40モル%以下であると機械的強度の低下を抑制でき、0.05モル%以上であると成形性の低下を抑制できる。
【0107】
また、本実施形態に係るPC重合体の製造方法において用いることができる分岐剤は、特に限定されないが、分岐剤の具体例としては、フロログルシン、ピロガロール、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-2-ヘプテン、2,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-3-ヘプテン、2,4-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(2-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス〔4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル〕プロパン、2,4-ビス〔2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル〕フェノール、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)プロパン、テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、テトラキス〔4-(4-ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ〕メタン、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、シアヌル酸、3,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)
-2-オキソ-2,3-ジヒドロインドール、3,3-ビス(4-ヒドロキシアリール)オキシインドール、5-クロロイサチン、5,7-ジクロロイサチン、5-ブロモイサチンなどが挙げられる。
これら分岐剤の添加割合は、繰り返し単位A、繰り返し単位B、および連鎖末端の共重合組成のモル百分率で、または繰り返し単位A、および連鎖末端の共重合組成のモル百分率で30モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。分岐剤の添加割合が30モル%以下であると、成形性の低下を抑制できる。
【0108】
界面重縮合を行う場合、酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物や、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸カルシウムなどのアルカリ金属弱酸塩、アルカリ土類金属弱酸塩、ピリジンなどの有機塩基が挙げられる。界面重縮合を行う場合に好ましい酸結合剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物である。また、これらの酸結合剤は、混合物としても用いることができる。酸結合剤の使用割合も反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜調製すればよい。具体的には、原料である二価フェノールの水酸基の合計1モル当たり、1当量もしくはそれより過剰量の酸結合剤を使用すればよく、好ましくは1当量から10当量の酸結合剤を使用すればよい。
【0109】
本実施形態に係るPC重合体の製造方法で用いる溶媒としては、得られた共重合体に対して一定以上の溶解性を示せば問題無い。溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素や、塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、シクロヘキサノン、アセトン、アセトフェノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類などが好適なものとして挙げられる。これら溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、互いに混ざり合わない2種の溶媒を用いて界面重縮合反応を行ってもよい。
【0110】
本実施形態に係るPC重合体の製造方法で用いる有機溶剤として、実質的に水と混じりあわなく、最終的に得られるポリカーボネート共重合体を5質量%以上溶解可能な有機溶剤を用いることが好ましい。有機溶剤は、実質的に水と混じりあわなく、最終的に得られるポリカーボネート共重合体を5質量%以上溶解可能な有機溶剤であることが好ましい。
ここで、「実質的に水と混じりあわない」有機溶剤とは、常温常圧条件で、水と有機溶剤を1:9から9:1までの組成範囲で混合した場合に、均一な層からなる溶液(ゲル化物および不溶物のいずれもみられない溶液)が得られない有機溶剤である。
また、有機溶剤が「最終的に得られるポリカーボネート共重合体を5質量%以上溶解可能」とは、温度20℃から30℃、常圧の条件で測定した際のポリカーボネート共重合体の溶解度である。
また、「最終的に得られるポリカーボネート重合体」とは、本実施形態のポリカーボネート重合体の製造方法における重合工程を経て得られる重合体のことで、架橋前のものである。
このような有機溶剤としては、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素類、シクロヘキサノンなどのケトン類、および塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。中でも、溶解性が高いことから、塩化メチレンが好ましい。
【0111】
また、本実施形態のPC重合体の製造方法で用いる触媒としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミンや、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチルアニリンなどの第三級アミン、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリブチルベンジルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイドなどの四級アンモニウム塩、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイドなどの四級ホスホニウム塩などが好適である。
さらに、必要に応じて、本実施形態のPC重合体の反応系に亜硫酸ナトリウムやハイドロサルファイト塩などの酸化防止剤を少量添加してもよい。
【0112】
本実施形態に係る樹脂の製造方法は、例えば、有機溶剤と、アルカリ水溶液との存在下で、1,4-ジヒドロキシアントラセンと、末端封止剤と用いて樹脂を重合する重合工程を有していてもよい。重合工程は、さらに、ビスクロロホーメートオリゴマー化合物を用いてもよい。重合工程では、酸素濃度を低減することが好ましい。重合工程のアルカリ水溶液は、弱塩基を含むアルカリ水溶液であることが好ましい。また、重合工程では、有機溶剤に1,4-ジヒドロキシアントラセンと末端封止剤とを含ませた有機層に対し、アルカリ水溶液を混合する工程を有していてもよい。本実施形態に係る樹脂の製造方法は、洗浄工程を有していてもよい。具体的には、PC重合体の製造方法は、以下の方法が挙げられる。
【0113】
本実施形態に係るPC重合体の製造方法としては、モノマーがキノン構造に酸化されやすいため、重合時、および必要に応じて洗浄時の反応系内の酸素を低減する。酸素濃度は、本実施例記載のDOメーター(溶存酸素計)を用いた読み取り値が1.0mg/L以下、好ましくは0.5mg/L以下、さらに好ましくは0.2mg/L以下、特に好ましくは0.1mg/L以下、最も好ましくは0.05mg/L以下である。1.0mg/Lを超えると、キノンの生成による着色や、酸化により変質した成分が不純物として混入することで重合工程や洗浄工程に悪化が見られたり、最終的なポリマーに残存して使用時に悪影響することがある。酸素濃度の低減は、反応系内、有機溶剤、水溶液いずれも実施することが好ましい。水溶液については、亜硫酸ナトリウムやハイドロサルファイト塩など酸素を消費するタイプの酸化防止剤を使用し、DOメーターの酸素濃度読み取り値を下げる手段も有効である。
また、キノン構造は強アルカリ性で、酸素が存在する際に顕著に生成するため、重合工程で通常使用する水酸化ナトリウムなどの強塩基を、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムを例とした炭酸塩などの弱塩基に代えて用いることも効果的である。
また、重合時にアルカリとの接触頻度を低減することでキノン生成を抑制することもできる。具体的には、通常モノマーはアルカリ溶液に溶解して重合するが、有機溶剤(ジクロロメタン、アセトンなど)に本願ポリマーの原料の1,4-ジヒドロキシアントラセンを溶解し、重合反応における有機層に添加し、これをアルカリ水溶液と混合して反応させることで、1,4-ジヒドロキシアントラセンは界面でのみアルカリと接触し、すぐに高分子伸長反応により消費されるため、キノンへの酸化を効果的に防止できる。
【0114】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、前述の本実施形態に係る樹脂を含む。つまり、本実施形態に係る樹脂組成物は、特定のアントラセン構造を有する樹脂を含む。また、本実施形態に係る樹脂組成物は、前記一般式(AN1)で表される構造と、ジエノフィル構造を含む化合物またはジエノフィル構造を含む樹脂とを含む。
【0115】
本実施形態に係る樹脂組成物は、高分子反応により、高分子反応によって得られる前述の本実施形態に係る樹脂を作製できるものであってもよい。
すなわち、本実施形態に係る樹脂組成物は、ディールス・アルダー反応性を持つ特定のアントラセン構造を有する高分子、およびジエノフィル基またはジエノフィル構造を持つ反応剤の組合せで含んでいてもよい。また、本実施形態に係る樹脂組成物は、高分子反応する前のディールス・アルダー反応性を持つ特定のアントラセン構造とジエノフィル構造とを有する高分子を含んでいてもよい。一つの高分子に特定のアントラセン構造とジエノフィル構造とを有する場合、分子中のジエノフィル構造は、ジエノフィル構造を持つ反応剤となる。
【0116】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、特定のアントラセン構造を有する高分子と、ジエノフィル構造を持つ反応剤とが、高分子反応した後の樹脂を含んでいてもよい。
【0117】
本実施形態に係る樹脂組成物において、アントラセン、ジエノフィル、およびアントラセンとジエノフィルとの割合については、本実施形態に係る樹脂と同様である。
【0118】
また、本実施形態に係る樹脂組成物中のアントラセン、およびジエノフィルの濃度は、目標とする物性や目的とする用途に応じて適宜設定可能である。ディールス・アルダー反応性基を持つ組成物の合計量に対して、アントラセンのモル数を官能基濃度とした場合、この官能基濃度は、0.01mmol/g以上、10mmol/g以下であることが好ましく、0.03mmol/g以上、7mmol/g以下であることがより好ましく、0.1mmol/g以上、5mmol/g以下であることがさらに好ましく、0.3mmol/g以上、5mmol/g以下であることが特に好ましい。また、アントラセンのモル数を官能基濃度とした場合の官能基濃度は、0.5mmol/g以上であることがよりさららに好ましい。アントラセンのモル数を官能基濃度とした場合の官能基濃度は、2mmol/g以下であることがよりさらに好ましく、1mmol/g以下であることがさらになお好ましい。官能基濃度が0.01mmol/g未満の場合は、高分子反応による改質効果が不十分になるおそれがある。官能基濃度が10mmol/gを超える場合は、アントラセン構造密度が高すぎて未反応の官能基が残りやすく、高分子反応やその他の副反応が経時的に進行することで材料の物性が変化したり、劣化しやすいため好ましくない。さらに、官能基濃度が10mmol/gを超える場合は、末端型のアントラセン構造の割合が多すぎるため、分子量が低くなることによる機械強度の低下が起こるため、好ましくない。
【0119】
本実施形態に係る樹脂組成物としては、例えば、以下のような成分が挙げられる。
(i)高分子鎖に特定のアントラセン構造を有する高分子(樹脂)と、ジエノフィル基を持つ化合物。
(ii)高分子鎖に特定のアントラセン構造と、高分子鎖にジエノフィル構造を持つ高分子(樹脂)。
(iii)特定のアントラセン構造を有する樹脂における一本の高分子鎖に、さらにジエノフィル構造を持つ高分子(樹脂)。
本実施形態に係る樹脂組成物が、例えば、上記に示す(i)、(ii)、および(iii)から選択されるいずれかの成分を含む場合、本実施形態に係る樹脂組成物は、室温程度(例えば、25℃)の低い温度下では高分子反応が起こりにくいため、特性変化の少ないという特徴を持つ。
【0120】
上記で例示する成分のうち、高分子鎖に一般式(AN1)で表される構造を持つ高分子、および一本の高分子鎖に一般式(AN1)で表される構造およびジエノフィル構造の双方の構造を持つ高分子は、一般式(AN1)で表される構造を高分子鎖の主鎖に有している。
【0121】
例えば、前記(i)の成分を含有する組成物の場合、1つ以上の前記一般式(AN1)で表される構造を有する高分子において、高分子の主鎖に存在する前記一般式(AN1)で表される構造の合計の数、および1官能以上のジエノフィル構造を持つ化合物に存在するジエノフィル基の数の少なくともいずれかは1を超える数であってもよい。
【0122】
例えば、前記(ii)の成分を含有する組成物の場合、1つ以上の前記一般式(AN1)で表される構造を有する高分子において、高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、前記一般式(AN1)で表される構造が結合しておらず、かつ、2つ以上のジエノフィル構造を有する高分子において、高分子鎖の一方の末端及び他方の末端の少なくともいずれかの末端には、ジエノフィル構造が結合していなくてもよく、また、高分子鎖の末端には前記一般式(AN1)で表される構造及びジエノフィル構造が結合していなくてもよい。
また、高分子の主鎖に存在する前記一般式(AN1)で表される構造の合計の数、およびジエノフィル構造を持つ高分子の主鎖、および末端に存在するジエノフィル基の合計の数の少なくともいずれかは2を超える数であってもよい。
【0123】
前記(ii)の成分を含有する組成物を反応させて、形成できる高分子鎖間の結合は、例えば、以下のような組み合わせの反応により形成できる。
【0124】
(ii-1)
2つのジエノフィル構造を有する高分子であって、高分子鎖の両末端に当該ジエノフィル構造を1つずつ有する高分子と、
高分子鎖に1つ以上の前記一般式(AN1)で表される構造を有する高分子と、の反応。
【0125】
(ii-2)
2つのジエノフィル構造を有する高分子であって、当該高分子鎖の一方の末端にジエノフィル構造を1つ有し、他方の末端にはジエノフィル構造を有さず、かつ主鎖内にジエノフィル構造を1つ有する高分子と、
高分子鎖に1つ以上の前記一般式(AN1)で表される構造を有する高分子と、の反応。
【0126】
(ii-3)
1つ以上のジエノフィル構造を有する高分子と、
高分子鎖に1つ以上の前記一般式(AN1)で表される構造を有する高分子と、の反応。
【0127】
[塗液組成物]
本実施形態に係る塗液組成物は、本実施形態に係る樹脂組成物と、有機溶剤とを含む。すなわち、本実施形態に係る塗液組成物は、本実施形態に係る樹脂と、有機溶剤とを含む。本実施形態に係る塗液組成物に含まれる本実施形態に係る樹脂は、有機溶剤への溶解性を有し、湿式成型用の塗液組成物として好適である。
本実施形態に係る塗液組成物は、塗液調製の段階、塗液組成物保管の段階で、室温程度の低い温度下では高分子反応が起こりにくいため、特性変化が少ないという特徴を持つ。
【0128】
本実施形態に係る有機溶剤としては、樹脂組成物などの材料の溶解性、成形後の乾燥速度、成形物への残留時の影響、および危険性(火災、または健康有害性)を考慮し、適宜選定可能である。
本実施形態に係る有機溶剤としては、環状エーテル類(テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、およびジオキソランなど)、環状ケトン類(シクロヘキサノン、シクロペンタノン、およびシクロヘプタノンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、およびクロロベンゼンなど)、ケトン類(メチルエチルケトン(MEK)、およびメチルイソブチルケトン(MIBK)など)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、およびクロロホルムなど)、エステル類(酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、および酢酸ブチルなど)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、およびエチレングリコールモノエチルエーテルなど)、アミド類(フマル酸ジメチル(DMF)、およびジメチルアセトアミド(DMAc)など)、および非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)など)などが挙げられる。
【0129】
本実施形態に係る塗液組成物中の、本実施形態に係る樹脂組成物の濃度は、同塗液組成物の使用法に合わせた適切な粘度となる濃度であればよく、0.1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。40質量%以下であれば、粘度が高くなりすぎることもなく塗工性が良好となる。0.1質量%以上であれば、適度な粘度に保つことができ、均質な膜が得られる。また、塗工後の乾燥時間の短縮や、容易に目標とする膜厚とするのに適度な濃度となる。
【0130】
塗液組成物には、本実施形態に係る樹脂組成物および有機溶剤以外に、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、低分子化合物、着色剤(例えば、染料、および顔料など)、機能性化合物(例えば、電荷輸送材、電子輸送材、正孔輸送材、および電荷発生材など)、充填材(例えば、無機または有機のフィラー、ファイバー、クロス、および微粒子など)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、並びに酸捕捉剤などが挙げられる。また、塗液組成物には、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物以外の他の樹脂が含まれていてもよい。
これら添加剤や他の樹脂としては、樹脂組成物と配合し得る物質として公知の物質を用いることができる。
【0131】
また、電荷輸送物質を含む場合、製品性能の観点から、本実施形態に係る塗液組成物中の樹脂組成物と電荷輸送物質との割合は、質量比で20:80から80:20の範囲であることが好ましく、30:70から70:30の範囲であることがより好ましい。
本実施形態に係る塗液組成物中、本実施形態に係る樹脂組成物は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0132】
本実施形態に係る塗液組成物は、通常、積層型電子写真感光体の感光層の形成に好適に用いられる。積層型電子写真感光体の感光層は、少なくとも電荷発生層と電荷輸送層とを含むことが好ましく、本実施形態に係る塗液組成物は、電荷輸送層の形成に好適に用いられる。また、本実施形態に係る塗液組成物に、上記電荷発生物質をさらに含有させることにより、単層型の電子写真感光体の感光層の形成に使用することも可能である。
また、感光体の保護層の形成に使用することも可能である。
【0133】
本実施形態に係る樹脂は、高分子反応性を有する樹脂であるため、例えば、ディールス・アルダー反応により高分子反応するPC類が溶液安定性に優れ、現状の感光体製造プロセス温度で反応し、得られた樹脂の耐摩耗性が優れ、電気特性の悪化が見られない。また、本実施形態に係る樹脂は、ラジカル開始剤または反応触媒などを含まず、かつ、紫外線または電子線などを用いることなく、高分子反応させることが可能であるため、電気特性悪化が抑制され、電荷輸送物質(CTM)の変質が抑制される。
【0134】
[成形物]
本実施形態に係る成形物は、本実施形態に係る樹脂を含む。本実施形態に係る成形物は、後述する電子写真感光体の用途の他に、様々な用途に使用できる。例えば、電子デバイスなどの基板、絶縁層、保護層、接着層、導電層、および構造材などの用途に好適に用いることができる。さらに、本実施形態に係る成形物は、フィルム、コーティング膜、絶縁材料などにも適用できる。ここに例示した成形物は、本実施形態に係る樹脂を少なくとも含んでいればよい。なお、本実施形態に係る樹脂を含む成形物において、前述の一般式(AN1)で表される構造を少なくとも含む樹脂と、ジエノフィル構造を含む化合物またはジエノフィル構造を含む樹脂とは、同一の層に含まれていてもよく、異なる層に含まれていてもよい。前述の一般式(AN1)で表される構造を少なくとも含む樹脂と、ジエノフィル構造を含む化合物またはジエノフィル構造を含む樹脂とが異なる層に含まれている場合、前記一般式(AN1)で表される構造を少なくとも含む樹脂と、ジエノフィル構造を含む化合物またはジエノフィル構造を含む樹脂とは、それぞれ、隣り合う層に含まれていてもよい。
【0135】
ここで、本明細書において、本実施形態に係る樹脂を含むフィルムと、本実施形態に係る樹脂を含むコーティング膜とは、明確に区別される。
本実施形態に係る樹脂を含むフィルムは、本実施形態に係る樹脂から形成された樹脂体であり、長さおよび幅に比べて厚さが小さい樹脂体を指す。例えば、本実施形態に係るフィルムが、本実施形態に係る塗料組成物を対象物に塗布し、対象物から剥離して形成した樹脂体である場合、この樹脂体は、フィルムである。
本実施形態に係る樹脂を含むコーティング膜は、本実施形態に係る塗料組成物を、対象物にコーティングすることによって形成された層を指す。一般的には、コーティング膜は、対象物上にそのまま残り、完成品の一部を構成する。
【0136】
また、本実施形態に係る成形物は、本実施形態に係る樹脂組成物を用いて作製できる。
本実施形態に係る樹脂組成物を用いる場合、その成形方法としては、湿式成形法、および溶融成形法のいずれの方法も適用できる。
【0137】
湿式成形法により成形物を得る場合には、(i)高分子反応が進行する温度で成形する方法、(ii)高分子反応が実質的に進行しない温度でウェット成形物を得た後、溶剤を除去する工程中に高分子反応が進行する温度に上昇させ、乾燥と高分子反応を同時に行う方法、(iii)高分子反応が実質的に進行しない温度で湿式成形、乾燥によりドライ成形物を得た後、成形物を高分子反応が進行する温度に上昇させ高分子反応を行う方法を採用できる。これらの方法は、いずれであっても構わない。また、予め高分子反応により改質した樹脂を得た後に、同樹脂を用いて塗液を調製し、成型物を得る方法であっても構わない。
なお、湿式成形法においては、前述の本実施形態に係る塗液組成物を用いることができる。
【0138】
溶融成形法を行う場合には、ディールス・アルダー反応が進行する温度以上で実施する方法が通常である。一方で、レトロディールス・アルダー反応が生じるまで成形温度を上昇させることで溶融粘度を低下させ、流動性を向上させる方法も好適に行える。このレトロディールス・アルダー反応が生じる条件で成形を行う場合、成形物を冷却する速度と温度を制御することにより、適宜再度ディールス・アルダー反応の進行を制御することができる。これにより、成形流動性が良好であり、高分子反応により得られる構造を持つことで樹脂物性が改良された樹脂からなる成形体を得ることができる。
【0139】
高分子反応の温度は、目標とする物性や目的とする用途に応じて適宜設定可能である。この反応温度に合わせて、高分子反応させる官能基の種類、アントラセンとジエノフィルとの割合、および官能基濃度などを調整して架橋方法を設定すればよい。
【0140】
一例として、電子写真感光体向けの高分子反応温度は、通常湿式成形によりウェット成形品を得た後、乾燥工程で高分子反応させることが好ましく、その温度は機能性低分子化合物が変質しない温度で行うことが求められる。例えば、電子写真感光体向けの高分子反応の温度は、60℃以上170℃以下であることが好ましく、80℃以上160℃以下であることがより好ましく、100℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。電子写真感光体向けの高分子反応の温度は、105℃以上140℃以下でもよく、110℃以上130℃以下でもよい。反応温度が170℃を超える温度では、電荷輸送物質などの機能性低分子化合物が変質することがある。反応温度が60℃未満では、乾燥が十分進行しなかったり、乾燥に長時間を要することになり好ましくない。
【0141】
一方で、電子デバイスの用途では、塗工製膜時の乾燥や硬化速度により膜物性を調整するためプロセスが高温になるものがある。そこで、電子デバイス向けの反応温度は、60℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上200℃以下であることがより好ましい。110℃以上180℃以下である事がさらに好ましい。反応温度が250℃を超える条件では、電子部品の故障やその他の有機材料の分解が生じるおそれがある。反応温度が60℃未満では、高分子反応が十分進行しなかったり、このような低温で反応が進行する材料は塗液組成物中でも一部反応が進行することで粘度が上昇するなど、塗工液の安定性に問題がでるおそれがある。
【0142】
本実施形態において、樹脂組成物の高分子反応は、触媒や重合開始剤などを添加することなく実施することができる。ただし、本実施形態の効果を阻害しない限りでは、他の高分子反応システムとの併用などの目的で、触媒や重合開始剤などの物質を添加しても構わない。
【0143】
[電子写真感光体]
本実施形態に係る電子写真感光体は、本実施形態に係る樹脂を含む層を有する。本実施形態に係る樹脂は、本実施形態に係る電子写真感光体の最外層に含むことが好ましい。
本実施形態に係る電子写真感光体は、基板と、この基板上に設けられた感光層とを有し、この感光層に、本実施形態に係る樹脂を含む。
本実施形態の電子写真感光体は、本実施形態に係る樹脂を感光層中に用いる限り、公知の種々の形式の電子写真感光体はもとより、どのような電子写真感光体としてもよいが、感光層が、少なくとも1層の電荷発生層と少なくとも1層の電荷輸送層とを有する積層型電子写真感光体、または、一層に電荷発生物質と電荷輸送物質とを有する単層型電子写真感光体とすることが好ましい。本実施形態に係る電子写真感光体は、本実施形態に係る樹脂を含む層を有することで、耐摩耗性に優れ、残留電位の悪化が無い。さらに、本実施形態に係る電子写真感光体は、本実施形態に係る樹脂を含む層を有することで、耐溶剤性に優れ、機械的劣化が起こりにくい。
【0144】
本実施形態に係る樹脂は、感光層中のどの部分にも使用してもよいが、本実施形態の効果を十分に発揮するためには、電荷輸送層中において電荷移動物質のバインダー樹脂として使用するか、単一の感光層のバインダー樹脂として使用することが望ましい。また、感光層のみならず、表面保護層として使用することが望ましい。電荷輸送層を2層有する多層型の電子写真感光体の場合には、そのいずれかの電荷輸送層に使用することが好ましい。
本実施形態の電子写真感光体において、本実施形態に係る樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。また、所望に応じて本実施形態の目的を阻害しない範囲で、他のポリカーボネートなどのバインダー樹脂成分を含有させてもよい。さらに、酸化防止剤などの添加物を含有させてもよい。
【0145】
本実施形態の電子写真感光体は、感光層を導電性基板上に有する。感光層が電荷発生層と電荷輸送層とを有する場合、電荷発生層上に電荷輸送層が積層されていてもよく、また逆に電荷輸送層上に電荷発生層が積層されていてもよい。また、一層中に電荷発生物質と電荷輸送物質を同時に含む感光層であってもよい。さらにまた、必要に応じて表面層に導電性または絶縁性の保護膜が形成されていてもよい。最外層に本実施形態に係る樹脂を用いることで、耐溶剤性や耐摩耗性に優れた電子写真感光体を得ることができる。
さらに、各層間の接着性を向上させるための接着層あるいは電荷のブロッキングの役目を果すブロッキング層などの中間層などが形成されていてもよい。
【0146】
本実施形態の電子写真感光体に用いられる導電性基板材料としては、公知の材料など各種の材料を使用することができ、具体的には、アルミニウム、ニッケル、クロム、パラジウム、チタン、モリブデン、インジウム、金、白金、銀、銅、亜鉛、真鍮、ステンレス鋼、酸化鉛、酸化錫、酸化インジウム、ITO(インジウムチンオキサイド:錫ドープ酸化インジウム)もしくはグラファイトからなる、板、ドラム、およびシート、蒸着、スパッタリング、または塗布などによりコーティングするなどして導電処理した、ガラス、布、紙、およびプラスチックのフィルム、シートもしくはシームレスベルト、並びに電極酸化などにより金属酸化処理した金属ドラムなどを使用することができる。
【0147】
前記電荷発生層は少なくとも電荷発生材料を有する。この電荷発生層はその下地となる基板上に真空蒸着もしくはスパッタ法などにより電荷発生材料の層を形成するか、またはその下地となる基板上に電荷発生材料を、バインダー樹脂を用いて結着してなる層を形成することによって得ることができる。バインダー樹脂を用いる電荷発生層の形成方法としては公知の方法など各種の方法を使用することができる。通常、例えば、電荷発生材料をバインダー樹脂と共に適当な溶媒により分散若しくは溶解した塗液組成物を、所定の下地となる基板上に塗布し、乾燥せしめて湿式成形体として得る方法が好適である。
【0148】
前記電荷発生層における電荷発生材料としては、公知の各種の材料を使用することができる。具体的な化合物としては、セレン単体(例えば、非晶質セレン、および三方晶セレンなど)、セレン合金(例えば、セレン-テルルなど)、セレン化合物もしくはセレン含有組成物(例えば、AsSeなど)、周期律表第12族および第16族元素からなる無機材料(例えば、酸化亜鉛、およびCdS-Seなど)、酸化物系半導体(例えば、酸化チタンなど)、シリコン系材料(例えば、アモルファスシリコンなど)、無金属フタロシアニン顔料(例えば、τ型無金属フタロシアニン、およびχ型無金属フタロシアニンなど)、金属フタロシアニン顔料(例えば、α型銅フタロシアニン、β型銅フタロシアニン、γ型銅フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、X型銅フタロシアニン、A型チタニルフタロシアニン、B型チタニルフタロシアニン、C型チタニルフタロシアニン、D型チタニルフタロシアニン、E型チタニルフタロシアニン、F型チタニルフタロシアニン、G型チタニルフタロシアニン、H型チタニルフタロシアニン、K型チタニルフタロシアニン、L型チタニルフタロシアニン、M型チタニルフタロシアニン、N型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、Y型オキソチタニルフタロシアニン、α型オキソチタニルフタロシアニン、β型オキソチタニルフタロシアニン、X線回折図におけるブラック角2θが27.3±0.2度に強い回折ピークを示すチタニルフタロシアニン、およびガリウムフタロシアニンなど)、シアニン染料、アントラセン顔料、ビスアゾ顔料、ピレン顔料、多環キノン顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、ピリリウム染料、スクアリウム顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料、アゾ顔料、チオインジゴ顔料、キノリン顔料、レーキ顔料、オキサジン顔料、ジオキサジン顔料、トリフェニルメタン顔料、アズレニウム染料、トリアリールメタン染料、キサンチン染料、チアジン染料、チアピリリウム染料、ポリビニルカルバゾール、並びにビスベンゾイミダゾール顔料などが挙げられる。これら化合物は、1種を単独であるいは2種以上の化合物を混合して、電荷発生物質として用いることができる。これら電荷発生物質の中でも、好適な電荷発生物質としては、特開平11-172003号公報に具体的に記載の電荷発生物質が挙げられる。
【0149】
前記電荷輸送層は、下地となる基板上に、電荷輸送物質をバインダー樹脂で結着してなる層を形成することによって、湿式成形体として得ることができる。
前記した電荷発生層や電荷輸送層のバインダー樹脂としては、特に制限はなく、公知の各種の樹脂を使用することができる。具体的には、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリケトン、ポリアクリルアミド、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体、メタクリル樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂、シリコンアルキッド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、スチレン-アルキッド樹脂、メラミン樹脂、ポリエーテル樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリスルホン、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ニトロセルロース、カルボキシ-メチルセルロース、塩化ビニリデン系ポリマーラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ビニルトルエン-スチレン共重合体、大豆油変性アルキッド樹脂、ニトロ化ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリイソプレン、ポリチオカーボネート、ポリアリレート、ポリハロアリレート、ポリアリルエーテル、ポリビニルアクリレート、およびポリエステルアクリレートなどが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いることもできるし、また、2種以上を混合して用いることもできる。なお、電荷発生層および電荷輸送層の少なくともともいずれかにおけるバインダー樹脂としては、前記した本実施形態のPC重合体を使用することが好適である。
【0150】
電荷輸送層の形成方法としては、公知の各種の方式を使用することができるが、電荷輸送物質を本実施形態のPC重合体とともに適当な溶媒に分散または溶解した塗液組成物を、所定の下地となる基板上に塗布し、乾燥して湿式成形体として得る方法が好適である。電荷輸送層形成に用いられる電荷輸送物質とPC重合体との配合割合は、好ましくは質量比で20:80から80:20までの範囲、さらに好ましくは30:70から70:30までの範囲である。
この電荷輸送層において、本実施形態のPC重合体は1種単独で用いることもでき、また2種以上混合して用いることもできる。また、本発明の目的を阻害しない範囲で、他のバインダー樹脂を本実施形態のPC重合体と併用することも可能である。
【0151】
このようにして形成される電荷輸送層の厚さは、通常5μm以上100μm以下程度、好ましくは10μm以上50μm以下、さらに好ましくは15μm以上40μm以下である。この厚さが5μm以上であれば、初期電位が低くなることもなく、100μm以下であれば、電子写真特性の低下を防ぐことができる。
本実施形態のPC重合体と共に使用できる電荷輸送物質としては、公知の各種の化合物を使用することができる。このような化合物としては、例えば、カルバゾール化合物、インドール化合物、イミダゾール化合物、オキサゾール化合物、ピラゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ピラゾリン化合物、チアジアゾール化合物、アニリン化合物、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン化合物、脂肪族アミン化合物、スチルベン化合物、フルオレノン化合物、ブタジエン化合物、キノン化合物、キノジメタン化合物、チアゾール化合物、トリアゾール化合物、イミダゾロン化合物、イミダゾリジン化合物、ビスイミダゾリジン化合物、オキサゾロン化合物、ベンゾチアゾール化合物、ベンズイミダゾール化合物、キナゾリン化合物、ベンゾフラン化合物、アクリジン化合物、フェナジン化合物、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリビニルアクリジン、ポリ-9-ビニルフェニルアントラセン、ピレン-ホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾール樹脂、あるいはこれらの構造を主鎖や側鎖に有する重合体などが好適に用いられる。これら化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これら電荷輸送物質の中でも、特開平11-172003号公報において具体的に例示されている化合物、および以下の構造で表される電荷輸送物質が特に好適に用いられる。
【0152】
【化17】
【0153】
【化18】
【0154】
【化19】
【0155】
【化20】
【0156】
【化21】
【0157】
【化22】
【0158】
【化23】
【0159】
【化24】
【0160】
【化25】
【0161】
【化26】
【0162】
【化27】
【0163】
【化28】
【0164】
【化29】
【0165】
【化30】
【0166】
なお、本実施形態に係る電子写真感光体においては、電荷発生層、電荷輸送層、および表面保護層の少なくともいずれかに本実施形態に係る樹脂組成物をバインダー樹脂として用いることが好適である。
【0167】
本実施形態に係る電子写真感光体においては、前記導電性基板と感光層との間に、通常使用されるような下引き層を設けることができる。この下引き層としては、例えば、微粒子(例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、ジルコニア、チタン酸、ジルコン酸、ランタン鉛、チタンブラック、シリカ、チタン酸鉛、チタン酸バリウム、酸化錫、酸化インジウム、および酸化珪素など)、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、カゼイン、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、セルロース、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、並びにポリビニルブチラール樹脂などの成分を使用することができる。また、この下引き層に用いる樹脂として、前記バインダー樹脂を用いてもよいし、本実施形態に係る樹脂組成物を用いてもよい。これら微粒子および樹脂は、単独または種々混合して用いることができる。これらの混合物として用いる場合には、無機質微粒子と樹脂を併用すると、平滑性のよい皮膜が形成されることから好適である。
【0168】
この下引き層の厚みは、0.01μm以上10μm以下、好ましくは0.1μm以上7μm以下である。この厚みが0.01μm以上であると、下引き層を均一に形成することが可能となり、また10μm以下であると電子写真特性が低下することを抑制できる。
また、前記導電性基体と感光層との間には、通常使用されるような公知のブロッキング層を設けることができる。このブロッキング層としては、前記のバインダー樹脂と同種の樹脂を用いることができる。また本実施形態に係る樹脂組成物を用いてもよい。このブロッキング層の厚みは、0.01μm以上20μm以下、好ましくは0.1μm以上10μm以下である。この厚みが0.01μm以上であると、ブロッキング層を均一に形成することが可能となり、また20μm以下であると電子写真特性が低下することを抑制できる。
【0169】
さらに、本実施形態に係る電子写真感光体には、感光層の上に、保護層を積層してもよい。この保護層には、前記のバインダー樹脂と同種の樹脂を用いることができる。また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いることが特に好ましい。この保護層の厚みは、0.01μm以上20μm以下、好ましくは0.1μm以上10μm以下である。そして、この保護層には、前記電荷発生物質、電荷輸送物質、添加剤、金属およびその酸化物、窒化物、または塩、合金、カーボンブラック、並びに有機導電性化合物などの導電性材料を含有していてもよい。
【0170】
さらに、この電子写真感光体の性能向上のために、本発明の効果を失わない範囲で前記電荷発生層および電荷輸送層には、結合剤、可塑剤、硬化触媒、流動性付与剤、ピンホール制御剤、および分光感度増感剤(増感染料)などを添加してもよい。また、繰り返し使用に対しての残留電位の増加、帯電電位の低下、および感度の低下を防止する目的で種々の化学物質、酸化防止剤、界面活性剤、カール防止剤、およびレベリング剤などの添加剤を添加することができる。
【0171】
前記結合剤としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート共重合体、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイソプレン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリクロロプレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、エチルセルロース樹脂、ニトロセルロース樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ホルマール樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合樹脂、およびポリエステルカーボネート樹脂などが挙げられる。また、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂の少なくとも一方も使用できる。いずれにしても、電気絶縁性で通常の状態で皮膜を形成し得る樹脂であり、本実施形態の効果を損なわない範囲であれば、特に制限はない。
【0172】
前記可塑剤の具体例としては、例えば、ビフェニル、塩化ビフェニル、o-ターフェニル、ハロゲン化パラフィン、ジメチルナフタレン、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチレングリコールフタレート、トリフェニルフォスフェート、ジイソブチルアジペート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ラウリル酸ブチル、メチルフタリールエチルグリコレート、ジメチルグリコールフタレート、メチルナフタレン、ベンゾフェノン、ポリプロピレン、ポリスチレン、およびフルオロ炭化水素などが挙げられる。
【0173】
前記硬化触媒の具体例としては、例えば、メタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、およびジノニルナフタレンジスルホン酸などが挙げられ、流動性付与剤としては、例えば、モダフロー、およびアクロナール4Fなどが挙げられ、ピンホール制御剤としては、例えば、ベンゾイン、およびジメチルフタレートが挙げられる。これら可塑剤、硬化触媒、流動性付与剤、およびピンホール制御剤は、本発明の効果を失わない範囲で前記電荷輸送物質に対して、5質量%以下で用いることが好ましい。
【0174】
また、分光感度増感剤としては、増感染料を用いる場合には,例えば、トリフェニルメタン系染料(例えば、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルー、およびビクトリアブルーなど)、アクリジン染料(例えば、エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジ、およびフラペオシンなど)、チアジン染料(例えば、メチレンブルー、およびメチレングリーンなど)、オキサジン染料(カプリブルー、およびメルドラブルーなど)、シアニン染料、メロシアニン染料、スチリル染料、ピリリウム塩染料、並びにチオピリリウム塩染料などが適している。
【0175】
感光層には、感度の向上、残留電位の減少、反復使用時の疲労低減などの目的で、本発明の効果を失わない範囲で電子受容性物質を添加することができる。その具体例としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、3-ニトロ無水フタル酸、4-ニトロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水メリット酸、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、o-ジニトロベンゼン、m-ジニトロベンゼン、1,3,5-トリニトロベンゼン、p-ニトロベンゾニトリル、ピクリルクロライド、キノンクロルイミド、クロラニル、ブロマニル、ベンゾキノン、2,3-ジクロロベンゾキノン、ジクロロジシアノパラベンゾキノン、ナフトキノン、ジフェノキノン、トロポキノン、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、4-ニトロベンゾフェノン、4,4’-ジニトロベンゾフェノン、4-ニトロベンザルマロンジニトリル、α-シアノ-β-(p-シアノフェニル)アクリル酸エチル、9-アントラセニルメチルマロンジニトリル、1-シアノ-(p-ニトロフェニル)-2-(p-クロロフェニル)エチレン、2,7-ジニトロフルオレノン、2,4,7-トリニトロフルオレノン、2,4,5,7-テトラニトロフルオレノン、9-フルオレニリデン-(ジシアノメチレンマロノニトリル)、ポリニトロ-9-フルオレニリデン-(ジシアノメチレンマロノジニトリル)、ピクリン酸、o-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、3,5-ジニトロ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、5-ニトロサリチル酸、3,5-ジニトロサリチル酸、フタル酸、およびメリット酸などの電子親和力の大きい化合物が好ましい。これら化合物は電荷発生層および電荷輸送層のいずれに加えてもよく、その配合割合は、本発明の効果を失わない範囲で電荷発生物質または電荷輸送物質の量を100質量部としたときに、0.01質量部以上200質量部以下、好ましくは0.1質量部以上50質量部以下である。
【0176】
また、表面性の改良のため、四フッ化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、二フッ化二塩化エチレン樹脂およびそれらの共重合体、並びにフッ素系グラフトポリマーなどを本発明の効果を失わない範囲で用いてもよい。これら表面改質剤の配合割合は、前記バインダー樹脂に対して、本発明の効果を失わない範囲で0.1質量%以上60質量%以下、好ましくは5質量%以上40質量%以下である。この配合割合が0.1質量%以上であれば、表面耐久性および表面エネルギー低下などの表面改質が充分となり、60質量%以下であれば、電子写真特性の低下を招くこともない。
【0177】
前記酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、スルフィド系酸化防止剤、および有機リン酸系酸化防止剤などが好ましい。これら酸化防止剤の配合割合は、本発明の効果を失わない範囲で前記電荷輸送物質に対して、通常、0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上2質量%以下である。
このような酸化防止剤の具体例としては、特開平11-172003号公報の明細書に記載された化学一般式[化94]から[化101]の化合物が好適である。
これら酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい、そして、これらは前記感光層のほか、表面保護層や下引き層、ブロッキング層に添加してもよい。
【0178】
前記電荷発生層および電荷輸送層の少なくとも一方の形成の際に使用する前記溶媒の具体例としては、例えば、芳香族系溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、およびクロロベンゼンなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、およびシクロヘキサノンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールなど)、エステル(例えば、酢酸エチル、およびエチルセロソルブなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、四塩化炭素、四臭化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタンなど)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、およびジオキサンなど)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシドなど)、並びにアミド(例えば、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミドなど)などを挙げることができる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を混合溶媒として使用してもよい。
【0179】
単層型電子写真感光体の感光層は、前記の電荷発生物質、電荷輸送物質、および添加剤を用い、本実施形態に係る樹脂組成物をバインダー樹脂として適用することで容易に形成することができる。また、電荷輸送物質としては前述したホール輸送性物質および電子輸送物質の少なくとも一方を添加することが好ましい。電子輸送物質としては、特開2005-139339号公報に例示される電子輸送物質が好ましく適用できる。
各層の塗布は公知の装置など各種の塗布装置を用いて行うことができ、具体的には、例えば、アプリケーター、スプレーコーター、バーコーター、チップコーター、ロールコーター、ディップコーター、およびドクターブレードなどを用いて行うことができる。
【0180】
電子写真感光体における感光層の厚さは、5μm以上100μm以下、好ましくは8μm以上50μm以下であり、これが5μm以上であると初期電位が低くなることを防ぐことができ、100μm以下であると電子写真特性が低下することを抑制することができる。電子写真感光体の製造に用いられる電荷発生物質:樹脂組成物の比率は、質量比で20:80から80:20の範囲であることが好ましく、30:70から70:30の範囲であることがより好ましい。
【0181】
このようにして得られる電子写真感光体は、感光層中に本実施形態に係る樹脂組成物からなる高分子反応により改質された樹脂をバインダー樹脂として有しているため、耐久性などの特性に優れるとともに、優れた電気特性(電子写真特性)を有しており、長期間にわたって優れた電子写真特性を維持する感光体である。そして、電子写真感光体は、複写機(モノクロ、マルチカラー、フルカラー、アナログ、デジタル)、プリンター(レーザー、LED、液晶シャッター)、ファクシミリ、製版機、およびこれら複数の機能を有する機器など各種の電子写真分野に好適に用いられる。
【0182】
[電子写真感光体の製造方法]
本実施形態に係る電子写真感光体の製造方法は、本実施形態に係る塗液組成物を湿式成形法で導電性基体に塗布する工程と、加熱を行うことにより、この塗液組成物中の有機溶剤を除去する工程と、この有機溶剤を除去する工程における加熱と同時、または引き続き加熱を行うことにより、この塗液組成物中の樹脂組成物の高分子反応を行う工程と、を備える方法である。
【0183】
導電性基体に塗布する工程において、塗液組成物の塗布厚みは、本実施形態に係る電子写真感光体の感光層の厚さに応じて、適宜設定できる。
有機溶剤を除去する工程において、本実施形態に係る塗液組成物における有機溶剤の種類に応じて、適宜設定できる。
樹脂組成物の高分子反応を行う工程において、加熱温度は、本実施形態に係る成形物における電子写真感光体向けの反応温度と同様である。
【実施例0184】
次に、本発明を実施例および比較例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲での種々の変形および応用が可能である。
【0185】
(酸素濃度測定)
飯島電子工業株式会社製DOメーターMODEL B-506、プローブとしてワグニット(WA-BRP)を用い、空気校正を行った。その後、ゼロ点校正として亜硫酸ナトリウム25gをイオン交換水500mLに溶解した水溶液を行った後、DO測定モードにおける読み取り値を酸素濃度とした。(気相、塩化メチレン層、水層いずれの酸素濃度も上記方法により行った。)
【0186】
[製造例:モノマーの調製]
<製造例1:1,4-ジヒドロキシアントラセンの合成>
メカニカルスターラー、撹拌羽根、邪魔板、還流管を装着した反応容器をArで置換し、キニザリン(190g)、メタノール(3.8L)を加え、5℃以下になるまで冷却した。続いて、内温が0℃から5℃を保つ様にNaBH(120g)を5時間かけて添加し、その後5℃以下の温度で12時間撹拌した。
その後、6規定の塩酸(2L)を内温が10℃以下を保ちながら滴下し、固形分をろ取し、水で洗浄して中間体である1,4-アントラキノンの粗生成物を得た。粗生成物をアセトンで再結晶し、114gの生成物を得た。
続いてメカニカルスターラー、撹拌羽根、邪魔板、還流管を装着した反応容器をArで置換し、上記で得た1,4-アントラキノン(100g)、1,4-ジオキサン(2.5L)を加え、撹拌しながら15℃以下になるまで冷却した。続いてNa(334g)をイオン交換水(2.5L)で溶解した水溶液を、内温が10℃から20℃の範囲になる様に注意しながら1時間かけて滴下した。その後、内温を25℃まで昇温した後、3時間撹拌した。
反応液をイオン交換水(5L)に加え、氷浴により固体を析出させ、得られた固体をイオン交換水で洗浄し、1,4-ジヒドロキシアントラセン(67g)を得た。
【0187】
[製造例:オリゴマーの調製]
<製造例2:ビスフェノールZオリゴマー(ビスクロロホーメート)の合成>
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)60.0g(224ミリモル)を塩化メチレン1080mLで懸濁し、そこにホスゲン66.0g(667ミリモル)を加えて溶解させた。これにトリエチルアミン44.0g(435ミリモル)を塩化メチレン120mLに溶解させた液を、温度5℃から15℃の範囲で滴下した。次に、30分間撹拌後、塩化メチレンを所定濃度になるまで留去した。残液に、純水210mL、濃塩酸1.2g、ハイドロサルファイト450mgを加え洗浄した。その後、純水210mLで5回洗浄を繰り返し、分子末端にクロロホーメート基を有するビスフェノールZオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。得られた溶液のクロロホーメート濃度は1.12モル/L、固形物濃度は0.225kg/L、平均量体数は1.03であった。以後この得られた原料をZ-CFという。
【0188】
ここで、下記一般式(X1)で表されるビスクロロホーメート化合物の平均量体数(n)は、次の数式(数1)を用いて求めた。
平均量体数(n)=1+(Mav-M1)/M2・・・(数1)
(前記数式(数1)において、Mavは(2×1000/(CF価))であり、M2は(M1-98.92)であり、M1は、下記一般式(X1)において、n=1のときのビスクロロホーメート化合物の分子量であり、CF価(N/kg)は(CF値/濃度)であり、CF値(N)は反応溶液1Lに含まれる下記一般式(X1)で表されるビスクロロホーメート化合物中のクロル原子数であり、濃度(kg/L)は反応溶液1Lを濃縮して得られる固形分の量である。ここで、98.92は、ビスクロロホーメート化合物同士の重縮合で脱離する2個の塩素原子、1個の酸素原子および1個の炭素原子の合計の原子量である。)
なお、2種類以上の原料を用いてビスクロロホーメートを合成した場合の平均量体数を求める際には、用いた原料の分子量をモル比で平均した分子量に基づきM1を算出して求める。例として、分子量268のモノマーを366モル、分子量214のモノマーを108モル使用して合成した場合、M1=(268×(366÷(366+108)))+214×(108÷(366+108))+124.9である。
このM1の計算式における「124.9」は、使用するモノマーの水素原子2つが無くなり、炭素原子、酸素原子、および塩素原子がそれぞれ2つ増加した際の分子量増分である。
【0189】
【化31】
【0190】
前記一般式(X1)において、ArX1は、2価の基である。例えば、製造例2に係るビスクロロホーメート化合物(ビスフェノールZオリゴマー)の場合は、下記一般式(10)で表される2価の基が、ArX1に相当する。
【0191】
【化32】
【0192】
前記一般式(1A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマーの場合は、Ar33が、ArX1に相当し、n31が、nに相当する。
前記一般式(2A)で表されるビスクロロホーメートオリゴマーの場合は、Ar34が、ArX1に相当し、n32が、nに相当する。
【0193】
<製造例3:ビスフェノールZ・3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルオリゴマー(ビスクロロホーメート)の合成>
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)98g(366ミリモル)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル22g(103ミリモル)を塩化メチレン2400mLで懸濁し、そこにホスゲン138g(1395ミリモル)を加えて溶解させた。これにトリエチルアミン93.8g(929ミリモル)を塩化メチレン256mLに溶解させた液を、温度16℃から19℃の範囲で滴下した。次に、140分間撹拌後、塩化メチレンを所定濃度になるまで留去した。残液に、純水1100mL、濃塩酸2.4g、ハイドロサルファイト450mgを加え洗浄した。その後、純水210mLで5回洗浄を繰り返し、分子末端にクロロホーメート基を有するビスフェノールZオリゴマー、および3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。得られた溶液のクロロホーメート濃度は0.57モル/L、固形物濃度は0.11kg/L、平均量体数は1.02であった。以後この得られた原料をZOCBP-CFという。
【0194】
<製造例4:3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルオリゴマー(ビスクロロホーメート)の合成>
3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル100.4g(469ミリモル)を塩化メチレン2400mLで懸濁し、そこにホスゲン138g(1395ミリモル)を加えて溶解させた。これにトリエチルアミン93.8g(929ミリモル)を塩化メチレン256mLに溶解させた液を、温度16℃から19℃の範囲で滴下した。次に、140分間撹拌後、塩化メチレンを所定濃度になるまで留去した。残液に、純水1100mL、濃塩酸2.4g、ハイドロサルファイト450mgを加え洗浄した。その後、純水210mLで5回洗浄を繰り返し、分子末端にクロロホーメート基を有するビスフェノールZオリゴマー、および3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。得られた溶液のクロロホーメート濃度は0.52モル/L、固形物濃度は0.089kg/L、平均量体数は1.01であった。以後この得られた原料をOCBP-CFという。
【0195】
[合成例1](PC重合体の製造)
メカニカルスターラー、撹拌羽根、邪魔板を装着した反応容器に、製造例2のZ-CF(24mL)と塩化メチレン(96mL)を注入した。これに末端封止剤としてp-tert-ブチルフェノール(以下、PTBPと表記)(0.038g)、および上記で合成した1,4-ジヒドロキシアントラセン(0.56g)をアセトン5mLに溶解して添加し、窒素ガスを反応容器の気相に0.2L/分の流速で吹込みながら、十分に混合されるように20分間撹拌した。気相の酸素濃度を溶存酸素計(飯島電子工業株式会社製DOメーターMODEL B-506)のDOモードで読み取った値が0.5mg/L以下になった後、測定プローブを反応溶液に浸漬して液中の酸素濃度を測定し、気相と同様に0.5mg/L以下の読み取り値であることを確認した。反応器内の温度が10℃になるまで冷却した後、2.4Nの水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム0.39gをイオン交換水(4mL)に溶解し、ハイドロサルファイトナトリウム50mgを添加して調製)を加え、撹拌しながらトリエチルアミン水溶液(7vol%)を0.6mL添加し、30分撹拌を継続した。この溶液に調製した1,1-ビス(3-メチル―4-ヒドロキシフェニル)エタン(2.6g)溶液(溶液調製法:2.4Nの水酸化ナトリウム水溶液16mL(水酸化ナトリウム1.5g)を調製し、室温以下に冷却した後、酸化防止剤としてハイドロサルファイト50mgを添加し、完全に溶解して調製した)を全量添加しさらに30分撹拌を継続した。
得られた反応混合物を窒素雰囲気で、別途窒素置換により酸素濃度を0.1mg/L以下に低減した塩化メチレン200mL、水50mLで希釈し、洗浄を行った。下層を分離し、さらに水100mLで1回、0.03N塩酸100mLで1回、水100mLで3回の順で洗浄を行った。得られた塩化メチレン溶液を、撹拌下メタノールに滴下投入し、得られた再沈物をろ過、乾燥することにより下記構造のPC重合体(PC-1)を得た。
【0196】
(PC重合体の特定)
このようにして得られたPC重合体(PC-1)を塩化メチレンに溶解して、濃度0.5g/dLの溶液を調製し、20℃における還元粘度[ηsp/C](離合社製、自動粘度測定装置VMR-042を用い、自動粘度用ウッベローデ改良型粘度計(RM型)で測定)を測定したところ、1.03dL/gであった。なお、得られたPC-1の構造および組成をH-NMRスペクトル(日本電子株式会社製、核磁気共鳴装置JNM-ECZ400S)の各構成モノマー由来のピーク積分値により分析したところ、下記の繰り返し単位、繰り返し単位数、およびモル組成からなるPC重合体であることが確認された。また、このPC重合体の分子末端は、下記構造式(ME1)に示すように、PTBP由来の構造であることが確認された。なお、以下の記載において、「AN1」は、一般式(AN1)で表される構造単位である。また、H-NMRスペクトルの測定条件は以下のとおりである。
【0197】
H-NMRスペクトルの測定条件)
・溶媒 :CDCl
・測定濃度(サンプル量/溶媒量):1.5mg/mL
・積算回数:64回(約3min)
【0198】
【化33】
【0199】
【化34】
【0200】
組成比(モル%)は、BisZ:BisOCE:AN1=61:30:9である。
アントラセン基濃度は、0.33mmol/gである。
【0201】
[実施例A]
〔塗料組成物および樹脂フィルムの作製〕
PC-1を2gスクリューキャップ付きのサンプルチューブに計り取り、ジクロロメタン12mLに溶解して、塗液組成物を得た。この結果から、PC-1と有機溶剤を含む塗料調製が可能であることを確認した。
得られた塗液組成物を、ギャップ250μmのアプリケーターを用い、市販の200μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにキャスト成膜した。1時間風乾した後、真空乾燥機(減圧度は1Paから100Pa)で温度50℃、8時間処理し、続いて100℃、8時間溶剤を除去して、塗布部分の膜厚が20μmから30μmの樹脂フィルムを得た。この結果から、PC-1の樹脂フィルム、及びコーティング膜の作製が可能であることを確認した。
【0202】
[実施例B]
〔共重合体と反応性物質からなる高分子反応性組成物フィルム作製〕
PC-1(2g:0.65mmol)、N-フェニルマレイミド(0.11g:マレイミド基0.65mmol)をスクリューキャップ付きのサンプルチューブに計り取り、ジクロロメタン12mLに溶解して、塗液組成物を得た。
得られた塗液組成物を、ギャップ250μmのアプリケーターを用い、市販の200μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにキャスト成膜した。1時間風乾した後、真空乾燥機(減圧度は1Paから100Pa)で温度50℃、16時間処理し、溶剤を除去して、塗布部分の膜厚が20μmから30μmの樹脂フィルムを得た。
【0203】
〔高分子反応性組成物の反応性確認〕
上記で得たフィルムを真空乾燥機で温度200℃、1時間処理し、処理前後の構造変化をH-NMRで確認した。図1に原料樹脂であるPC-1のH-NMRスペクトルのチャートを示し、図2に高分子反応性組成物のH-NMRスペクトルのチャートを示す。H-NMRスペクトルの測定条件は以下のとおりである。
【0204】
H-NMRスペクトルの測定条件)
・溶媒 :CDCl
・測定濃度(サンプル量/溶媒量):10mg/mL
・積算回数:16回
【0205】
原料樹脂、およびN-フェニルマレイミドには無い新たなピークとして、3.4~3.5ppm(ディールス・アルダー反応によるより新たに生じた3級炭素に結合したプロトン)のピークが観察され、本樹脂が高分子反応により修飾可能であることが確認された。
【0206】
[実施例C1]
〔共重合体と反応性物質を含む電子写真感光体感光層塗布用塗液の調製、及び積層型電子写真感光体の作製〕
導電性基体として膜厚100μmのアルミニウム板を用い、その表面に、電荷発生層と電荷輸送層とを順次積層して、積層型感光層を形成した電子写真感光体を製造した。電荷発生物質として、Y型オキソチタニウムフタロシアニン0.5質量部を用い、バインダー樹脂として、ブチラール樹脂0.5質量部を用いた。これらを溶媒であるTHF(テトラヒドロフラン)19質量部に加え、ボールミルにて分散し、この分散液をバーコーターにより、前記導電性基体の表面に塗工し、70℃、30分間乾燥させることにより、膜厚約0.5μmの電荷発生層を形成した。
【0207】
つぎに、電荷輸送層用の塗液組成物として、PC-1(1.0g:アントラセン基0.33mmol)、N-フェニルマレイミド(0.055g:マレイミド基0.32mmol)、及び下記構造の電荷輸送物質(CTM-1(0.67g))をスクリューキャップ付きのサンプルチューブに計り取り、ジクロロメタン10mLに溶解して、電荷輸送層の塗液組成物を得た。塗液組成物の塗液は、室温で1週間以上ゲル化など起こすことが無く、塗液として安定であることを確認した。
【0208】
【化35】
【0209】
得られた塗液組成物を、ギャップ375μmのアプリケーターを用い、上記で得た電荷発生層の上にキャスト成膜した。1時間風乾した後、真空乾燥機(減圧度は1Paから100Pa)で温度50℃、16時間処理し、溶剤を除去して、塗布部分の膜厚が30μmの樹脂フィルムを得た。
上記で得た積層型の電子写真感光体、及び同電子写真感光体をさらに真空乾燥機で温度150℃、1時間処理したものについて、φ60mmのアルミドラムに貼りつけ、電子写真特性を静帯電試験装置CYNTHIA54IM(ジェンテック株式会社製)を用い、EVモードにて表面電位の光減衰特性を評価した。得られた感光体は、光量に応じて表面電位が減衰し、初期帯電量の1/2以下まで表面電位が低減することを確認し、本樹脂を含む組成物が電荷輸送性能を有し電子写真感光体として機能することを確認した。
【0210】
次に、上記電子写真感光体の耐摩耗性を確認するため、最表層である電荷輸送層と同じ組成の塗液を調製し、ギャップ250μmのアプリケーターを用い、市販の200μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにキャスト成膜した。1時間風乾した後、真空乾燥機(減圧度は1Paから100Pa)で温度50℃、16時間処理し、溶剤を除去して、塗布部分の膜厚が20μmの樹脂フィルムを得た。
上記で得た電荷輸送性組成物フィルム、及び同フィルムをさらに真空乾燥機で温度150℃、1時間処理したものについて、樹脂フィルムのキャスト面の耐摩耗性をスガ摩耗試験機NUS-ISO-3型(スガ試験機社製)を用いて評価した。試験条件は4.9Nの荷重をかけた摩耗紙(粒径3μmのアルミナ粒子を含有)をキャスト面(感光層表面を模した面)と接触させて800回往復運動を行い、質量減少量(摩耗量、単位:mg)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0211】
[実施例C1-2]
摩耗試験に用いられる電荷輸送層組成物塗液の調製において、N-フェニルマレイミド(0.022g)を使用しない以外は実施例C1と同様にして、摩耗試験用塗布フィルムを得た。得られたフィルム、及び同フィルムをさらに真空乾燥機で温度150℃、1時間処理したものについて、同様に耐摩耗性を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0212】
実施例C1で得たフィルムを真空乾燥機で温度150℃、1時間処理し、処理前後の構造変化をH-NMRで確認した。図3に高分子反応性組成物(150℃、1時間処理後)のH-NMRスペクトルのチャートの拡大図を示す。H-NMRスペクトルの測定条件は以下のとおりである。
【0213】
H-NMRスペクトルの測定条件)
・溶媒 :CDCl
・測定濃度(サンプル量/溶媒量):10mg/mL
・積算回数:16回
【0214】
[比較例]
実施例C1におけるPC-1の代わりに下記構造であり、濃度0.5g/dLの溶液を調製し、20℃における還元粘度[ηsp/C]が1.19dL/gのポリカーボネート(PCA)を用い、電荷輸送層組成物フィルムを調製し、上記と同様に耐摩耗性を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0215】
【化36】
【0216】
【表1】
【0217】
実施例C1(150℃加熱後)は、実施例C1-2(150℃加熱後)より摩耗量が5%低減していた。
また、実施例C1は150℃加熱により高分子と低分子化合物が反応する事で摩耗量が32%低減しており、反応性樹脂の耐摩耗性が優れる事が確認された。
また、比較例に対して実施例C1-2の摩耗量が40%低い値である事から、本樹脂は耐摩耗性に優れる骨格である事が確認された。
また、実施例C1で得られた電荷輸送層フィルムの加熱処理前後の構造変化をH-NMRで確認したところ、図1図2における変化と同様に、原料樹脂、およびN-フェニルマレイミドには無い新たなピークとして、3.4~3.5ppm(ディールス・アルダー反応によるより新たに生じた3級炭素に結合したプロトン)のピークが観察され、本樹脂が高分子反応により修飾可能であることが確認された。結果を図3に示す。
図1
図2
図3