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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159659
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20221011BHJP
   C22B 1/14 20060101ALI20221011BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20221011BHJP
   C22C 33/04 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B1/14
C22B5/10
C22C33/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063999
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA09
4K001CA26
4K001DA05
4K001HA01
4K001HA10
(57)【要約】
【課題】ニッケル酸化鉱石からペレットを形成して還元してフェロニッケルを製造する方法において、生産性や効率性が高く、且つ高品質のフェロニッケルを安価に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ニッケル酸化鉱石からペレットを形成し、そのペレットを還元することによってフェロニッケルを製造する製錬方法であって、少なくともニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、得られる混合物を成形してペレットとする混合物成形工程と、ペレットを還元炉にて所定の還元温度で加熱する還元工程と、を有し、混合物成形工程では、ペレットの表面に炭素質還元剤を塗布し、ペレットに塗布する炭素質還元剤の少なくとも一部が植物由来成分であることを特徴としている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石からペレットを形成し、該ペレットを還元することによってフェロニッケルを製造する製錬方法であって、
少なくとも前記ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、
得られる混合物を成形してペレットとする混合物成形工程と、
前記ペレットを還元炉にて所定の還元温度で加熱する還元工程と、を有し、
混合物成形工程では、前記ペレットの表面に炭素質還元剤を塗布し、
前記ペレットに塗布する前記炭素質還元剤の少なくとも一部が植物由来成分である、
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記植物由来成分の炭素質還元剤が澱粉である、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記混合物成形工程では、
前記ペレットに塗布する炭素質還元剤を、該ペレットを構成する前記ニッケル酸化鉱石に含まれる酸化鉄及び酸化ニッケルを過不足なく還元するために必要な炭素質還元剤中の炭素量を100質量%としたとき、2質量%以上50質量%以下の割合となるように塗布する、
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項4】
前記還元工程を経て得られる還元物からスラグを分離してフェロニッケルを得る分離工程をさらに有する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用して硫黄と共に硫化焙焼してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用し炭素質還元剤を用いて還元することによって鉄-ニッケル合金(以下、「フェロニッケル」ともいう)を製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して硫酸でニッケルやコバルトを浸出して得た浸出液に硫化剤を添加して混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した種々の製錬方法の中で、炭素源と共に還元してニッケル酸化鉱石を製錬する場合、先ず、その原料鉱石を塊状物化やスラリー化等するための前処理が行われる。具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化、すなわち粉状や微粒状から塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱石をバインダーや還元剤等と混合し、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば10mm~30mm程度の塊状物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」という)とするのが一般的である。
【0004】
ペレットには、含有する水分を飛ばすために、ある程度の通気性が必要となる。また、ペレット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一にとなり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じるため、混合物を均一に混合し、またペレットを還元処理する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0005】
加えて、還元されて生成したフェロニッケルを粗大化させることも重要である。なぜなら、生成したフェロニッケルが、例えば数10μm~数100μm以下の細かな大きさであった場合、同時に生成したスラグと分離することが困難となり、フェロニッケルとしての回収率(収率)が大きく低下する。このことから、還元後のフェロニッケルを粗大化する処理も必要となる。
【0006】
また、製錬コストの低減も重要な技術課題であり、コンパクトな設備で操業できる連続処理が望まれている。
【0007】
例えば、特許文献1には、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、金属酸化物を還元溶融させる粒状金属の製造方法において、塊成物同士の距離を0としたときの塊成物の炉床への最大投影面積率に対する、塊成物の炉床への投影面積率の相対値を敷密度としたとき、平均直径が19.5mm以上32mm以下の塊成物を、敷密度が0.5以上0.8以下になるように炉床上に供給して加熱する方法が開示されている。この方法では、塊成物の敷密度と平均直径とを併せて制御することで、粒状金属鉄の生産性を高められることが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の方法は、塊成物の外側で起こる反応を制御するための技術であり、還元反応において最も重要な因子である、塊成物の内部で起きる反応の制御については着目していない。他方で、塊成物の内部で起きる反応を制御することで、反応効率を高め、還元反応をより均一に進めることで、より高品質のフェロニッケルを得ることが求められている。
【0009】
また、特許文献1にあるような、特定の直径を有するものを塊成物として用いる方法では、特定の直径を有しないものを取り除く必要がある。そのため、塊成物を作製する際の収率は低いものであった。また、特許文献1に開示される方法は、塊成物の敷密度を0.5以上0.8以下に調整する必要があり、塊成物を積層させることもできないため、生産性の低い方法でもあった。また、これらの理由により、製造コストが上昇させる要因にもなっていた。
【0010】
このように、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を混合及び還元して金属や合金を製造する技術には、生産性を高め、製造コストを低減させ、メタルの品質を高めるという点で、多くの技術的課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011-256414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石からペレットを形成して還元してフェロニッケルを製造する方法において、生産性や効率性が高く、且つ高品質のフェロニッケルを安価に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を成形してペレットとし、成形したペレットの表面に少なくとも一部が植物由来成分である炭素質還元剤を塗布し、そのペレットに対して還元加熱処理を施すことで、高品質なフェロニッケルを効率的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル酸化鉱石からペレットを形成し、該ペレットを還元することによってフェロニッケルを製造する製錬方法であって、少なくとも前記ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、得られる混合物を成形してペレットとする混合物成形工程と、前記ペレットを還元炉にて所定の還元温度で加熱する還元工程と、を有し、混合物成形工程では、前記ペレットの表面に炭素質還元剤を塗布し、前記ペレットに塗布する前記炭素質還元剤の少なくとも一部が植物由来成分である、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記植物由来成分の炭素質還元剤が澱粉である、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記混合物成形工程では、前記ペレットに塗布する炭素質還元剤を、該ペレットを構成する前記ニッケル酸化鉱石に含まれる酸化鉄及び酸化ニッケルを過不足なく還元するために必要な炭素質還元剤中の炭素量を100質量%としたとき、2質量%以上50質量%以下の割合となるように塗布する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0017】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記還元工程を経て得られる還元物からスラグを分離してフェロニッケルを得る分離工程をさらに有する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石からペレットを形成して還元してフェロニッケルを製造する方法において、生産性や効率性が高く、且つ高品質のフェロニッケルを安価に製造することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す図である。
図2】混合物成形工程における処理の流れの一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0021】
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と還元剤とを含む混合物からペレットを形成し、そのペレットを還元炉に装入して還元処理を施すことによりフェロニッケルメタルとスラグとを生成させる方法である。具体的には、ペレットを構成するニッケル酸化鉱石中のニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄-ニッケル合金であるフェロニッケルメタルとスラグを生成させ、そのメタルをスラグと分離することでフェロニッケルを製造する。
【0022】
そして、この方法では、混合物成形工程において、ペレットの表面に炭素質還元剤を塗布し、そのペレットに塗布する炭素質還元剤の少なくとも一部として植物由来成分を用いることを特徴としている。
【0023】
なお、「ペレット」とは、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物から作製される成形体であり、塊状であるものを意味する。また、そのペレットの形状は、球形、楕円形、立方体、直方体、円柱等のいずれの形状であってもよい。
【0024】
図1は、ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す図である。図1に示すように、この製錬方法は、ニッケル酸化鉱石を原料として炭素質還元剤と混合して混合物を得る混合処理工程S1と、得られた混合物を所定の形状に成形してペレットとする混合物成形工程S2と、ペレットを還元炉内において所定の還元温度で加熱する還元工程S3と、還元により生成した還元物からスラグを分離してフェロニッケルメタルを回収する分離工程S4と、を有する。
【0025】
[混合処理工程]
混合処理工程S1は、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。具体的には、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に炭素質還元剤を添加して混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm~0.8mm程度の粉末を混合して混合物を得る。
【0026】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。ニッケル酸化鉱石の代表的な構成成分としては、酸化ニッケル(NiO)と酸化鉄(Fe)を含有する。
【0027】
炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。また、その一部または全てを植物由来成分、例えば澱粉等で構成してもよい。炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものであると、均一に混合し易く、還元反応も均一に進みやすくなるため好ましい。
【0028】
炭素質還元剤の混合量としては、特に限定されないが、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量を100質量%としたとき、50質量%以下とすることが好ましく、40質量%以下とすることがより好ましい。なお、酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量とは、ペレットに含まれる酸化ニッケルの全量をニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、ペレットに含まれる酸化鉄を鉄メタルに還元するのに必要な化学当量との合計値(以下、「化学当量の合計値」ともいう)と定義できる。
【0029】
また、炭素質還元剤の混合量の下限値としては、特に限定されないが、化学当量の合計値を100%としたときに、20質量%以上とすることが好ましく、23質量%以上とすることがより好ましい。
【0030】
このように、ペレットに含まれる炭素質還元剤の量(炭素質還元剤の混合量)を、化学当量の合計値を100重量%としたときに20質量%以上50重量%以下の割合とすることで、還元反応を効率的に進行させることができ、ニッケル品位の高いフェロニッケルを効率的に製造することができる。
【0031】
任意成分として添加する添加剤である鉄鉱石としては、特に限定されないが、例えば、鉄品位が50質量%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0032】
下記表1に、混合処理工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(質量%)の一例を示す。なお、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0033】
【表1】
【0034】
混合処理工程S1では、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末の混合を、混合機等を用いて行うことができる。また、原料粉末を混合して混合物を得る際、混合性を高めるために原料粉末を混練してもよい。これにより、混合物にせん断力が加えられ、炭素還元剤や原料粉末等の凝集が解けてより均一に混合できるとともに、各々の粒子の密着性が上がるため、均一な還元処理を行い易くすることができる。
【0035】
[混合物成形工程]
混合物成形工程S2は、混合処理工程S1にて得られた原料粉末の混合物を成形してペレットを得る工程である。そして、本実施の形態に係る方法では、混合成形工程S2において、ペレットを形成したのち、そのペレットの表面に、少なくとも一部が植物由来成分である炭素質還元剤を塗布することを特徴としている。
【0036】
図2は、混合物成形工程S2における処理の流れの一例を示すフロー図である。図2に示すように、混合物成形工程S2では、混合物を塊状物に成形する塊状化処理工程S21と、得られた塊状物に炭素質還元剤を塗布する塗布工程S22と、塗布した塊状物を乾燥する乾燥処理工程S23と、を有する。なお、「塗布する」とは、ペレットの表面にコーティングすることの意味を含み、ペレット表面の全体を覆う態様だけでなく、ペレット表面の一部に付着させる態様であってもよい。
【0037】
(1)塊状化処理工程
塊状化処理工程S21では、混合処理工程S1にて得られた混合物を、所定の形状及び大きさの塊に成形する。
【0038】
混合物を成形する形状、すなわちペレットの形状としては、還元炉の炉床に積層できる形状であれば特に限定されないが、楕円状、立方体、直方体、円柱、又は球の形状であることが好ましい。混合物をこのような形状に成形することで、その成形処理が容易となって成形に要するコストを抑えることができる。また、成形する形状がシンプルであるほど、成形不良のペレットを低減でき、ペレットの強度も維持し易くなる。
【0039】
塊状化処理工程S21では、例えば、ペレット成形装置を用いて混合物を成形することができる。ペレット成形装置としては、特に限定されないが、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、原料粉末の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、得られるペレットの強度を高めることができる。
【0040】
また、ブリケットプレスを用いて成形することも可能である。設備やペレット強度、収率等を考慮して適宜、装置選定を行えばよい。
【0041】
(2)塗布工程
塗布工程S22では、得られた塊状物(ペレット)の表面に炭素質還元剤を塗布する。ペレットに炭素質還元剤を塗布する方法としては、例えば、吹き付ける方法や、まぶす方法等によって行うことができるが、ペレットの表面に均一にコーティングできる方法であることが好ましい。例えば、球状や丸棒状のペレットである場合には、粉状の炭素質還元剤を広げた床面上を転がして塗布するようにしてもよい。
【0042】
なお、上述したように、ペレットの表面に塗布することに関して、表面全体を覆う態様だけでなく、表面の一部に付着させる態様であってもよい。
【0043】
ここで、ペレット表面に塗布する炭素質還元剤としては、少なくともその一部に、植物由来の成分を含む。植物由来成分としては、例えば、澱粉、油、小麦粉、セルロース、ショ糖、乳糖、ブドウ糖(α-グルコース)、果糖等が挙げられる。その中でも澱粉を用いることが好ましい。このように、植物由来成分を少なくとも一部に含む炭素質還元剤をペレット表面に塗布することで、安価にかつ効率よく還元処理を施すことができるとともに、生成したメタルの再酸化を効果的に抑制することができる。
【0044】
例えば、植物由来成分である澱粉は、化石燃料に比較して安価であり、枯渇の心配もない。また、植物由来成分の製造から消費までを考慮すると、温室効果ガスとされるCOが増加することもなく、非常に環境にやさしい材料である。また、澱粉は、例えば石炭等の材料にように水分を含んでいないため水を蒸発させるエネルギーが不要であり特性低下の恐れもなく、また爆発や発火の危険性が実質的になく、有害性が無いため保管や取り扱いしやすい。そのため、製錬処理に適用しやすく、加熱コストを有効に抑えることができる。さらに、澱粉は、高純度で品質のばらつきが小さい製品を容易に入手できるため、還元剤に起因するコンタミを避けることができ、その結果、高品質なフェロニッケルを得ることができる。
【0045】
具体的に、澱粉は、下記化学式に示すように、炭素(C)、水素(H)、及び酸素(O)からなる構造体である。この澱粉が、還元工程における処理等で加熱され分解していくと、まずHOなどに分解されて揮発し、炭素分が残る。その結果、酸素や水素が抜けた細かい炭素が還元剤となるため反応性に富むものとなる。これにより、均一に鉱石を還元して品質ばらつきの小さい高品質なフェロニッケルを生成することができる。なお、澱粉としては、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、豆類の澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、片栗粉、ワラビ粉、葛粉等を挙げることができる。
【0046】
【化1】
【0047】
ペレットに塗布する炭素質還元剤の量は、特に限定されないが、そのペレットを構成するニッケル酸化鉱石に含まれる酸化鉄及び酸化ニッケルを過不足なく還元するために必要な炭素質還元剤中の炭素量を100質量%としたとき、2質量%~50質量%の範囲の割合となるように塗布することが好ましい。なお、当該炭素質還元剤の量は、少なくとも一部に含む植物由来成分のみの量ではなく、植物由来成分以外の成分の量も合わせたものである。
【0048】
ペレットに塗布する炭素質還元剤の量が、2質量%未満であると、生成したメタルの再酸化を効果的に抑制できない可能性がある。また、50質量%を超えると、過還元となる可能性があり、メタル中のニッケル品位を低下させる可能性がある。
【0049】
(3)乾燥処理工程
乾燥処理工程S23では、塗布工程S22にて炭素質還元剤を表面に塗布して得られたペレット(塊状物)に対して乾燥処理を施す。
【0050】
ここで、ペレット形状に塊状化の処理を行って得られた塊状物は、その水分が例えば50質量%程度と過剰に含まれている。そのため、過剰の水分を含むペレットを急激に還元温度まで昇温すると、水分が一気に気化し、膨張して塊状物が破壊することがある。そこで、得られたペレットに対して乾燥処理を施し、例えば固形分が70質量%程度で、水分が30質量%程度となるようにすることで、次工程の還元工程S3における還元加熱処理においてペレットが崩壊することを防ぐことができる。またそれにより、還元炉からの取り出しが困難になることを防ぐことができる。さらに、ペレットは、過剰な水分によりべたべたした状態となっていることが多いため、乾燥処理を施すことで、取り扱いを容易にすることができる。
【0051】
具体的に、乾燥処理工程S23における乾燥処理としては、特に限定されないが、例えば200℃~400℃の熱風をペレットに対して吹き付けて乾燥させる。なお、乾燥処理時におけるペレットの温度を100℃未満に維持することで、ペレットの破壊を防ぐことができ好ましく処理することができる。
【0052】
なお、体積の大きなペレットを乾燥させる場合、乾燥前や乾燥後にひびや割れが入っていてもよい。ペレットの体積が大きい場合には、還元時に溶融して収縮するため、ひびや割れが生じることが多いが、ひびや割れによって生じる表面積の増加等の影響は僅かであるため大きな問題は生じ難い。また、ペレットに破壊が生じない態様となっていれば、乾燥処理工程S22における乾燥処理を省略してもよい。
【0053】
下記表2に、乾燥処理後のペレットにおける固形分中組成(重量部)の一例を示す。なお、ペレットの組成としては、これに限定されるものではない。
【0054】
【表2】
【0055】
[還元工程]
還元工程S3では、混合物成形工程S2で得られたペレットを還元炉に装入し、所定の還元温度に加熱して還元処理(還元加熱処理)を施す工程である。このような処理により、鉄-ニッケル合金であるフェロニッケルメタルとスラグとを含む還元物を生成する。
【0056】
特に、本実施の形態に係る方法では、反応し易い炭素質還元剤をペレット表面に予め塗布しているため、還元反応がより効率的に進行するとともに、ペレット中に生成したメタルが不可避的に還元炉内に混入する酸素や水等によって酸化されることを抑制することができる。また、ペレット表面に塗布した炭素質還元剤が植物由来成分を含むものであることから、ペレット周辺をより効果的に還元性雰囲気に保持でき、高品質のフェロニッケルを製造することができる。
【0057】
具体的に、還元加熱処理においては、ニッケル酸化鉱石を含むペレットを還元炉の炉床上に積層し、そのペレット積層体に対して、例えば1250℃~1450℃の温度、より好ましくは1300℃~1400℃程度の温度に加熱する。
【0058】
還元加熱処理では、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすいペレット表面近傍においてペレットに含まれる酸化ニッケル及び酸化鉄が還元されメタル化して鉄-ニッケル合金となり、シェル(以下、「殻」ともいう)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってペレット中のスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。これにより、1個のペレットの中で、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」ともいう)と、酸化物からなるスラグ(以下、単に「スラグ」という)が分かれて生成する。そして、加熱処理における還元加熱処理の処理時間が10分程度を経過すると、還元反応に関与しない余剰の炭素質還元剤の炭素成分が、鉄-ニッケル合金に取り込まれて融点を低下させる。その結果、鉄-ニッケル合金は溶解して液相となる。
【0059】
還元炉における還元加熱処理の時間(処理時間)としては、特に限定されず、還元炉の温度に応じて設定することができる。例えば、10分以上とすることができ、15分以上とすることがより好ましい。一方で、処理時間の上限としては、製造コストの上昇を抑える観点から、50分以下とすることが好ましく、40分以下とすることがより好ましい。
【0060】
還元加熱処理が施されたペレット積層体は、大きな塊のメタルとスラグとの混成物になる。見かけ上の体積の大きなペレットに対して還元加熱処理を行うことで、大きな塊のメタルが形成され易くなるため、還元炉から回収する際における回収の手間を低減させることができ、また、メタル回収率の低下を有効に抑えることができる。なお、得られる混成物の体積は、装入するペレット積層体と比較すると、50体積%~60体積%程度に収縮している。
【0061】
また、還元加熱処理においては、還元反応の途中において還元剤を追加添加してもよい。還元反応がある程度進むと炉内に不可避的に持ち込まれる酸素や燃料の燃焼によって発生する水分によって、生成したメタルの酸化が起きることがある。このとき、還元反応の途中で還元剤を追加添加することで、メタルの再酸化を防ぐことができる。還元剤の添加は、ペレットの上部から行われることが好ましい。生成したメタルの酸化がガスと接する頻度の高いペレット上部から添加することによって効率的に再酸化を防ぐことができる。
【0062】
なお、還元剤の追加添加における炭素質還元剤の割合としては、特に限定されないが、加熱還元処理に供するペレッに含まれる炭素質還元剤を100質量%としたとき、1質量%以上30質量%以下程度の範囲とすることが好ましい。このような範囲で追加添加することで、効率的に酸化の抑制をできるとともに過還元となることも防ぐことができる。
【0063】
還元加熱処理に用いる還元炉としては、特に限定されない。例えば、移動炉床炉を用いることができる。還元炉として移動炉床炉を使用することにより、ペレットを還元炉でより効率的に処理することができる。また、移動炉床炉を用いることで、連続的に還元反応が進行し、一つの設備で反応を完結させることができ、各工程における処理を別々の炉を用いて行うよりも処理温度の制御を的確に行うことができる。
【0064】
さらに、移動炉床炉での処理によれば、各処理の間でのヒートロスが低減し、より効率的な操業が可能となる。つまり、別々の炉を使用して反応を行った場合、ペレット積層体を炉と炉との間で移動させる際に、温度が低下してヒートロスが生じ、また反応雰囲気に変化を生じさせてしまうため、炉に再装入したときに即座に反応が進まない。これに対して、移動炉床炉を使用して一つの設備で各処理を行うことで、ヒートロスが低減されるとともに炉内雰囲気も的確に制御できるため、反応をより効果的に進行させることができる。これらのことにより、より効果的に、ニッケル品位が高いメタルを得ることができる。
【0065】
[分離工程]
分離工程S4は、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する工程である。具体的には、ペレットに対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混在物(還元物)から、メタル相を分離して回収する。
【0066】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0067】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、上述した還元工程S3によって得られる大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させ、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を付与することで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【実施例0068】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
[原料粉末の混合]
各試料について原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:45重量%、平均粒径:約150μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤には微粉炭を用いて、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケル(NiO)と酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに、下記表4に示す割合で含有させた。
【0070】
[混合物の成形]
次に、各試料について得られた混合物をペレタイザーでペレット形状に成形した。その後、得られたペレットを篩って直径15±0.3mmのペレットを回収し試験に用いた。
【0071】
[炭素質還元剤のコーティング]
次に、実施例であるNo.1~No.12(実施例1~12)の試料に関して、下記表4に示す割合でペレット表面に炭素質還元剤をコーティングした。炭素質還元剤としては澱粉を用いた。また、No.13(実施例13)の試料に関しては、炭素質還元剤として澱粉と微粉炭とを混合したものを用いてコーティングした。なお、塗布した炭素質還元剤の量についても、そのペレットを構成するニッケル酸化鉱石に含まれる酸化鉄及び酸化ニッケルを過不足なく還元するために必要な炭素質還元剤中の炭素量を100質量%としたときの添加割合とした。
【0072】
一方、比較例であるNo.14~No.16(比較例1~3)の試料に関しては、ペレット表面への炭素質還元剤のコーティングは行わなかった。
【0073】
次に、各々の試料に対して、固形分が70質量%程度、水分が30質量%程度となるように、150℃~200℃の窒素の熱風を吹き付けて乾燥処理を施した。下記表3に、乾燥処理後のペレットの固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0074】
【表3】
【0075】
[ペレットに対する還元加熱処理]
乾燥処理後の試料のペレットを、実質的に酸素を含まない窒素雰囲気にした還元炉に装入した。なお、還元炉内の装入時の温度条件としては500±20℃とした。
【0076】
次に、下記表4に示す温度及び時間で、ペレットに対して還元加熱処理を施した。還元処理後は、窒素雰囲気中で速やかに室温まで冷却して、試料を大気中へ取り出した。
【0077】
ここで、ペレットの還元炉への装入は、予め、還元炉の炉床に灰(主成分はSiOであり、その他の成分としてAl、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上にペレットを載置することで行った。
【0078】
還元加熱処理後の各試料について、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。具体的に、ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率は、以下の式により算出した。
ニッケルメタル化率=混合物中のメタル化したNi量÷(混合物中の全てのNi量)×100(%)
メタル中のニッケル含有率=混合物中のメタル化したNi量÷(混合物中のメタルしたNiとFeの合計量)×100(%)
【0079】
また、還元加熱処理後の各試料について、湿式処理よる粉砕後、磁力選別によってメタルを回収した。そして、還元炉に装入したペレット積層体におけるニッケル酸化鉱石の含有量と、ニッケル酸化鉱石におけるニッケル含有率と、回収されたニッケル量からニッケルメタル回収率を算出した。なお、ニッケルメタル回収率は、以下の式により算出した。
ニッケルメタル回収率=回収されたNi量÷(装入した酸化鉱石の量×酸化鉱石中のNi含有率)×100(%)
【0080】
下記表4に、それぞれの試料における、ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率、及びニッケルメタル回収率を示す。
【0081】
【表4】
【0082】
表4の結果に示されるように、実施例1~13では、ペレット表面に炭素質還元剤をコーティングしたことにより、生成したメタルの再酸化を効果的に抑制でき、良好な結果が得られた。
【0083】
これに対して、比較例1~3では、Niメタル化率、Ni含有率、メタル回収率のいずれにおいても実施例に比べて低い値となった。このことは、還元加熱処理により得られたメタルに再酸化が生じたことによると考えられる。
図1
図2