(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159841
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】カード破砕具、カード破砕装置、発酵乳の製造方法および発酵乳
(51)【国際特許分類】
A01J 25/06 20060101AFI20221011BHJP
A01J 25/00 20060101ALI20221011BHJP
A23C 9/12 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
A01J25/06
A01J25/00
A23C9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064271
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 哲明
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 芳信
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智幸
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC31
4B001AC32
4B001BC12
4B001BC99
4B001EC04
(57)【要約】
【課題】食感が滑らかでありかつ粘度が保たれた発酵乳を製造可能であって、目詰まりの可能性が低いカード破砕具を提供する。
【解決手段】カード破砕具5は、カードを含んだ発酵乳を流通させる配管に配置されるものであり、発酵乳の流通方向に貫通する複数の孔52が設けられたプレート部51を備え、孔52の個々の断面積は、0.5~7.5mm
2であり、複数の孔52の断面積の合計は、20~40mm
2である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カードを含んだ発酵乳を流通させる配管に配置されるカード破砕具であって、
前記発酵乳の流通方向に貫通する複数の孔が設けられたプレート部を備え、
前記複数の孔の個々の断面積は、0.5~7.5mm2であり、
前記複数の孔の断面積の合計は、20~40mm2である、カード破砕具。
【請求項2】
前記複数の孔の個々の断面積は、0.8~7.1mm2であり、
前記複数の孔の断面積の合計は、27.5~35.0mm2である、請求項1に記載のカード破砕具。
【請求項3】
前記複数の孔の個々の断面積は、3.1~7.1mm2である、請求項2に記載のカード破砕具。
【請求項4】
前記孔の断面形状は、円形である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカード破砕具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のカード破砕具と、
前記カード破砕具が配置される前記配管と、備える、カード破砕装置。
【請求項6】
前記配管の第1継手部と第2継手部との間に挟持され、前記配管の内径よりも大きい内径を有する環状シール部材をさらに備え、
前記プレート部は、前記環状シール部材の径方向内側に配置される、請求項5に記載のカード破砕装置。
【請求項7】
カード破砕具が設けられた配管に対し、発酵乳原料を発酵させることで得られる発酵乳を流通させ、前記発酵乳に含まれるカードを破砕する破砕工程を含み、
前記カード破砕具は、前記発酵乳の流通方向に沿って貫通する複数の孔が設けられたプレート部を備え、
前記複数の孔の個々の断面積は、0.5~7.5mm2であり、
前記複数の孔の断面積の合計は、20~40mm2である、発酵乳の製造方法。
【請求項8】
カード破砕具が設けられた配管に対し、発酵乳原料を発酵させることで得られる発酵乳を流通させ、前記発酵乳に含まれるカードを破砕する破砕工程を含み、
前記カード破砕具は、前記発酵乳の流通方向に沿って貫通する複数の孔が設けられたプレート部を備え、
前記複数の孔の個々の断面積は、0.5~7.5mm2であり、
前記破砕工程において、前記発酵乳は、3.0~6.0m/sの線速度で前記カード破砕具を通過する、発酵乳の製造方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の製造方法により製造される発酵乳であって、
粘度が7500~9500cP(測定温度:10℃)であり、
前記カードの全粒子に対して粒子径が200μm以上である前記カードの体積割合が10%未満であり、
前記カードの粒子径が700μm未満の範囲内にある、発酵乳。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵乳に含まれるカードを破砕するためのカード破砕具およびカード破砕装置に関する。また、本発明は、発酵乳に含まれるカードを破砕する破砕工程を含んだ発酵乳の製造方法、および、当該製造方法によって製造される発酵乳に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の腸では、多種類の細菌が増殖と死滅の均衡を保つ複雑な微生物環境が形成されており、これを腸内細菌叢または腸内フローラと呼ぶ。この腸内細菌叢は人間の健康を増進する重要な生理作用を示すことがあり、細菌の種類によっては免疫機能の向上や内臓脂肪低減効果を示すことが分かっている。このため、近年、一般的にも腸内フローラへの関心度が高まり、発酵乳の需要が高まっている。
【0003】
発酵乳は、乳等省令で示されている通り、乳、またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌または酵母で発酵させたものを指す。発酵乳は、その製法により、後発酵型発酵乳と前発酵型発酵乳とに分類される。前発酵型発酵乳は、発酵後に容器に充填されるものであり、例えばドリンクヨーグルトやフルーツ入りヨーグルトが挙げられる。後発酵型発酵乳は、容器に充填後に発酵されるものであり、例えばプレーンヨーグルトやハードヨーグルトが挙げられる。
【0004】
前発酵型発酵乳の製造方法として、喫食時における発酵乳の食感を滑らかにする目的のために、発酵工程後、発酵乳に含まれるカードを破砕する破砕工程を行うことが知られている。一方で、カードを破砕すると、発酵乳の食感は滑らかになるが、発酵乳の粘度を低下させてしまうため、破砕工程を行いつつ、発酵乳の粘度を必要程度に保つ方法が求められている。
例えば、特許文献1には、破砕工程において325~1300メッシュ(JISの篩規格)相当の開口部で発酵後の発酵乳を押し出して破砕することで、粘度を特に低下させることなしにカード粒を低減できる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法では、発酵乳が、325~1300メッシュという微細な開口部を有するカード破砕具を通過する。例えば325メッシュの開口部の目開きは、0.043mmである。このため、発酵乳の条件によっては、カード破砕具の開口部が目詰まりしてしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、食感が滑らかでありかつ粘度が保たれた発酵乳を製造可能であって、目詰まりの可能性が低いカード破砕具、および、当該カード破砕具を利用したカード破砕装置を提供することを目的とする。また、本発明は、食感が滑らかでありかつ粘度が保たれた発酵乳を手間の少ない手法で製造できる発酵乳の製造方法、および、当該製造方法によって製造される発酵乳を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカード破砕具は、カードを含んだ発酵乳を流通させる配管に配置されるカード破砕具であって、前記発酵乳の流通方向に沿って貫通する複数の孔が設けられたプレート部を備え、前記複数の孔の個々の断面積は、0.5~7.5mm2であり、前記複数の孔の断面積の合計は、20~40mm2である。
【0009】
本発明のカード破砕具は、複数の孔の断面積の合計と、孔の個々の断面積とのバランスが調整されていることにより、プレート部の各孔を通過するときの発酵乳の流速変化量や、カードとプレート部との接触量が調整され、カードが十分に破砕されるが過度に破砕されることがない。これにより、食感が滑らかであって粘度が保たれた発酵乳が製造される。また、本発明のカード破砕具では、発酵乳が流通する各孔の大きさが従来のメッシュの目開きに比べて十分に大きいため、発酵乳の目詰まりが生じる可能性が低い。
なお、本発明のカード破砕具が配置される配管は、発酵乳の製造に用いられる一般的な配管であればよく、例えば、ステンレス鋼サニタリー管(JIS G 3447)の1.0Sが挙げられる。また、この配管を流通する発酵乳の流量は、発酵乳の充填時と同程度の流量であればよく、例えば550L/hである。
【0010】
本発明のカード破砕具において、前記複数の孔の個々の断面積は、0.8~7.1mm2であり、前記複数の孔の断面積の合計は、27.5~35.0mm2であることが好ましい。
【0011】
本発明のカード破砕具において、前記複数の孔の個々の断面積は、3.1~7.1mm2であることがさらに好ましい。
【0012】
本発明のカード破砕具において、前記孔の断面形状は、円形であることが好ましい。
このような構成によれば、各孔から噴出される発酵乳中のカードに対して均等に破砕力を加えることができる。また、穴の角部が形成されないため、発酵乳の固着などを抑制できる。
【0013】
本発明のカード破砕装置は、前述のカード破砕具と、前記カード破砕具が配置される前記配管と、備える。
本発明のカード破砕装置によれば、前述した本発明のカード破砕具と同様、食感が滑らかであって粘度が保たれた発酵乳を製造できる。
【0014】
本発明のカード破砕装置は、前記配管の第1継手部と第2継手部との間に挟持され、前記配管の内径よりも大きい内径を有する環状シール部材をさらに備え、前記プレート部は、前記環状シール部材の径方向内側に配置されることが好ましい。
このような構成では、カード破砕具を配管から取り外すことが可能であり、カード破砕具を容易に交換可能することができる。例えば、孔の断面積の合計や孔の個々の断面積が異なる複数タイプのカード破砕具を準備しておき、製造する発酵乳の種類に応じて、カード破砕装置に設置するカード破砕具のタイプを交換してもよい。
【0015】
本発明の発酵乳の製造方法は、カード破砕具が設けられた配管に対し、発酵乳原料を発酵させることで得られる発酵乳を流通させ、前記発酵乳に含まれるカードを破砕する破砕工程を含み、前記カード破砕具は、前記発酵乳の流通方向に沿って貫通する複数の孔が設けられたプレート部を備え、前記複数の孔の個々の断面積は、0.5~7.5mm2であり、前記破砕工程において、前記発酵乳は、3.0~6.0m/sの線速度で前記カード破砕具を通過する。
【0016】
本発明の発酵乳の製造方法には、カード破砕具が設けられた配管に対し、発酵乳原料を発酵させることで得られる発酵乳を流通させ、前記発酵乳に含まれるカードを破砕する破砕工程を含み、前記カード破砕具は、前記発酵乳の流通方向に沿って貫通する複数の孔が設けられたプレート部を備え、前記複数の孔の個々の断面積は、0.5~7.5mm2であり、前記複数の孔の断面積の合計は、20~40mm2である。
【0017】
本発明のいずれかの製造方法によれば、前述した本発明のカード破砕具と同様、カードが十分に破砕されるが過度に破砕されることがないため、食感が滑らかであって粘度が保たれた発酵乳を製造できる。また、本発明の製造方法は、従来の製造方法と比べて、カード破砕具の管理が容易であるため、製造にかかる手間を削減することができる。
【0018】
本発明の発酵乳は、前述の製造方法により製造される発酵乳であって、粘度が7500~9500cP(測定温度:10℃)であり、前記カードの全粒子に対して粒子径が200μm以上である前記カードの体積割合が10%未満であり、前記カードの粒子径が700μm未満の範囲内にある。
このような発酵乳は、食感が滑らかであって粘度が保たれた発酵乳となる。これにより、添加物を必要とせずに、食感を向上させつつ、充填などの製造適正を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るカード破砕装置を示す概略図。
【
図2】本発明の一実施形態に係るカード破砕具を示す正面図。
【
図3】前記実施形態に係るカード破砕具の設置状態を模式的に示す断面図。
【
図4】前記実施形態に係るカード破砕具の変形例を示す正面図。
【
図5】実施例1~6および比較例1~7について、粘度の測定結果示すグラフ。
【
図6】実施例1,4および比較例1,2について、粒径分布の測定結果を示すグラフ。
【
図8】実施例2,5および比較例3,4について、粒径分布の測定結果を示すグラフ。
【
図10】実施例3,6および比較例5~7について、粒径分布の測定結果を示すグラフ。
【
図12】実施例1~6および比較例1~7について、カード残り割合の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態について説明する。本実施形態は、発酵乳原料を発酵させた後に破砕を行う前発酵型の発酵乳の製造に関するものである。
【0021】
[カード破砕装置およびカード破砕具]
図1は、本発明の一実施形態にかかるカード破砕装置1を示す模式図である。
本実施形態のカード破砕装置1は、発酵後の発酵乳に含まれるカードを破砕することで、食感が滑らかな発酵乳を製造するものである。このカード破砕装置1は、
図1に示すように、発酵後の発酵乳を投入するホッパー2と、投入された発酵乳を送り出すポンプ3と、ポンプ3に送り出された発酵乳が流通する配管4と、配管4を流通する発酵乳中のカードを破砕するカード破砕具5と、カードが破砕された発酵乳を吐出する吐出部6とを備える。また、カード破砕装置1は、カード破砕具5の破砕力を測定するために、ポンプ3とカード破砕具5との間において、流路計71および圧力計72を備えてもよい。
なお、配管4は、発酵乳の製造に一般的に使用される配管であればよく、例えば、ステンレス鋼サニタリー管(JIS G 3447)の1.0S(内径23.0mm)が挙げられる。
【0022】
本実施形態のカード破砕具5は、
図2に示すように、円板形状のプレート部51を備える。プレート部51には、当該プレート部51の厚み方向に沿って貫通する複数の孔52が設けられている。
【0023】
プレート部51に設けられる孔52の数、大きさおよび形状は、
図2に限られず、孔52の断面積の合計が20~40mm
2であり、かつ、孔52の個々の断面積が0.5~7.5mm
2である範囲であれば、任意に変更可能である。
例えば、
図2に示されるカード破砕具5は、後述する実施例2に対応するものである。このカード破砕具5では、孔52の断面形状が円形であり、孔52の断面積が3.1mm
2であり、孔52の断面積の合計が27.5mm
2である。
【0024】
また、カード破砕具5は、孔52の断面積の合計が27.5~35.0mm2であり、かつ、孔52の個々の断面積が0.8~7.1mm2であることが好ましい。さらに、カード破砕具5は、孔52の個々の断面積が3.1~7.1mm2であることがより好ましい。
【0025】
なお、プレート部51における各孔52は、特に限定されないが、全て同じ大きさであることが好ましい。また、プレート部51における孔52の配置は、特に限定されないが、例えば孔52同士の間隔が均等になるように配置される。
また、プレート部51の厚み寸法、すなわちプレート部51を貫通する孔52の長さは、特に限定されないが、2.0~30.0mmであることが好ましく、2.0~20.0mmであることがより好ましく、2.0~5.0mmであることが最も好ましい。
【0026】
このようなカード破砕具5は、
図3に示すように、配管4の継手部41,42間に設置することができる。
具体的には、配管4の継手部41,42(第1継手部および第2継手部)は、例えばヘルール継手であり、フランジ部411,421を有する。また、フランジ部411,421同士の間には、ガスケットなどの環状シール部材43が挟持される。ここで、環状シール部材43のサイズ規格(例えば1.5S)は、配管4のサイズ規格(例えば1.0S)よりも大きいものが選択されており、環状シール部材43の内径(例えば35.7mm)は、配管4の内径(例えば23.0mm)よりも大きい。カード破砕具5は、環状シール部材43の径方向内側に配置され、フランジ部411,421に挟持されるように設置される。
このように設置されたカード破砕具5において、プレート部51の厚み方向は、発酵乳の流通方向Fに沿った方向である。
【0027】
[発酵乳の製造方法]
本実施形態における発酵乳の製造方法は、発酵乳原料を発酵させることで得られた発酵乳に含まれるカードを、前述のカード破砕装置1を利用して破砕する破砕工程を含む。
【0028】
なお、発酵乳の原料に使用される乳および乳製品は、乳および乳製品の成分規格等に関する省令(昭合計26年12月27日厚生省第52号)の「乳」および「乳製品」に該当するものである。すなわち、「乳」とは生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳をいい、「乳製品」とは、クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、タンパク質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、発酵乳、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%以上を含むものに限る)および乳飲料をいう。
このような乳または乳製品は、そのまままたは希釈などの調整を行われることで発酵乳の原料となり、この原料は、乳酸菌、ビフィズス菌または酵母などを添加されて発酵することで、カード(凝固物)を含む発酵乳となり、カード破砕装置1のホッパー2に投入される。
【0029】
本実施形態の破砕工程では、まず、ホッパー2に投入された発酵乳を、ポンプ3により、所定の圧力で配管4に連続的に送り出ず。ここで、配管4を流通する発酵乳の流量は、発酵乳の充填時と同程度の流量であればよく、例えば550L/hである。このような流量によれば、カード破砕具5における発酵乳の流路断面積、すなわちプレート部51における孔52の合計断面積との関係により、発酵乳は、3.0~6.0m/sの線速で各孔52を通過する。このとき、発酵乳中のカードとプレート部51と接触や、発酵乳が孔52を通過する際の流速変化などの要因により、カードが破砕される。
なお、カード破砕具5により破砕された発酵乳は、吐出部6から吐出され、容器などに充填されてもよい。
【0030】
前述の破砕工程によって製造される発酵乳は、粘度が7500~9500cP(測定温度:10℃)であり、カード残りが10%未満であり、カードの最大粒子径が700μm未満である。
なお、粘度、カード残りおよびカードの最大粒子径は、後述する実施例で用いた方法により測定される値として定義することができる。
【0031】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、カード破砕具5のプレート部51における複数の孔52の断面積の合計と、孔52の個々の断面積とのバランスが調整されていることにより、カードを破砕する要因が調整され、カードが十分に破砕され、かつ、過度に破砕されることがない。これにより、食感が滑らかであって粘度が保たれた発酵乳が製造される。
また、本実施形態のカード破砕具5では、発酵乳が流通する各孔52の大きさが従来のメッシュの目開きに比べて十分に大きいため、発酵乳の目詰まりが生じる可能性が低い。このため、カード破砕具5の管理にかかる手間が低減する。
【0032】
本実施形態のカード破砕具5において、孔52の断面形状は、円形であるため、各孔52から噴出する発酵乳中のカードに対して、均等に破砕力を加えることができる。また、孔52の角部が形成されないため、発酵乳の固着などを抑制できる。
【0033】
本実施形態のカード破砕装置1では、カード破砕具5を配管4から取り外すことが可能であり、カード破砕具5を容易に交換可能することができる。例えば、孔52の断面積の合計や孔52の個々の断面積が異なる複数タイプのカード破砕具5を準備しておき、製造する発酵乳の種類に応じて、カード破砕装置1に設置するカード破砕具5のタイプを交換してもよい。
【0034】
本実施形態の発酵乳製造方法は、前述のカード破砕具5を利用した破砕工程を実施することにより、食感が滑らかであって粘度が保たれた発酵乳が製造される。また、前述したようにカード破砕具5の管理に手間がかからないため、発酵乳を手間の少ない手法で製造できる。
さらに、本実施形態で製造される発酵乳は、粘度が7500~9500cP(測定温度:10℃)であり、カード残りが10%未満であり、カードの最大粒子径が700μm未満である発酵乳として定義される。このような発酵乳によれば、添加物を必要とせずに、食感を向上させつつ、充填などの製造適正を保つことができる。
【0035】
[変形例]
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【0036】
前記実施形態のカード破砕具5において、孔52の断面形状は、円形であるが、本発明はこれに限られず、三角形、正方形、長方形、5角形以上の多角形または正多角形、楕円形等であってもよい。
【0037】
前記実施形態のカード破砕具5は、プレート部51単独で構成されてもよいが、他の部材と組み合わさって構成されてもよい。
例えば、変形例にかかるカード破砕具5Aは、
図4に示すように、円板形状のプレート部51と、このプレート部51が嵌め込まれた管部53とを備える。この変形例において、プレート部51は、プレート部51の外周が管部53の内周に嵌合するように配置される。管部53は、その両端に設けられた継手部531,532を有する。継手部531,532は、例えばヘルール継手であり、それぞれ、配管4の継手部に接続される。これにより、カード破砕具5Aが設置される。
その他、カード破砕具5は、前記実施形態で説明した構成に限らず、また、配管4に対して任意の方法で設置されればよい。
【0038】
前記実施形態のカード破砕具5は、前述のようなカード破砕装置1に設置されることに限定されず、少なくとも、カードを含んだ発酵乳が流通する配管に配置されるものであればよい。
【0039】
前記実施形態の破砕工程では、配管4を流通する発酵乳の流量として550L/hを例示しているが、本発明はこれに限られない。例えば、発酵乳が3.0~6.0m/sの線速度でカード破砕具5を通過するように調整された流量であればよい。
【0040】
また、前記実施形態では、カード破砕具5の条件として、複数の孔52の個々の断面積が0.5~7.5mm2であることと、複数の孔52の断面積の合計が20~40mm2であることを挙げている。
ただし、一般的な配管または流速以外を利用する場合、複数の孔52の個々の断面積が0.5~7.5mm2であるカード破砕具5を用いて、発酵乳がカード破砕具を通過するときの線速度を3.0~6.0m/sにしてもよく、複数の孔52の断面積の合計が上記範囲を外れてもよい。
【実施例0041】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
実施例1~6では、前述したカード破砕装置1(
図1参照)を利用し、発酵乳のカード破砕を行った。一方、比較例1~7では、前述したカード破砕装置1のうち、カード破砕具5の孔52(
図2参照)を前記実施形態で説明した範囲とは異なるように変更し、発酵乳のカード破砕を行った。
【0042】
なお、実施例1~6および比較例1~7において、配管4を流通する発酵乳の流量は、550L/hとした。また、発酵乳としては、無脂乳固形分9.5%、乳脂肪分3.0%となる成分のものを用いた。
比較例1~7の説明では、実施例1~6の説明と同様、前記実施形態で各要素に付された符号を利用する。また、断面積などの数値は、有効数字を少数第1位として計算したものである。
【0043】
実施例1~6および比較例1~7における条件を以下の表1にまとめた。
表1において、「孔形状」は、カード破砕具5のプレート部51における孔52の断面形状である。「孔径」は、孔52の断面形状が円形である場合の孔52の径であり、「短辺寸法」は、孔52の断面形状が矩形である場合の孔52の短辺寸法である。「孔の断面積」は、1つの孔52の断面積であり、「孔の断面積合計」は、プレート部51における孔52の断面積の合計である。「線速」は、発酵乳がカード破砕具5の孔52を通過するときの流速であり、以下の式(1)により求めた値である。
線速[m/s]=体積流量[m
3/s] / 断面積[m
2] ・・・式(1)
なお、上記式(1)において、体積流量[m
3/s]は、配管4を流通する発酵乳の流量(550L/h)に基づいて求め、断面積[m
2]は、プレート部51における複数の孔52の断面積合計[mm
2]に基づいて求めた。
【表1】
【0044】
なお、上記表1において、比較例1,3,5では、「孔の断面積」と「孔の断面積合計」との間で値が同じであるが、これは、プレート部51における孔52の数が1個であることを意味している。
【0045】
[評価方法]
実施例1~6および比較例1~7で得られた発酵乳について、発酵乳の粘度、発酵乳に含まれるカード粒子の粒径分布、および、カード残り割合をそれぞれ測定した。
また、実施例1~6および比較例1~7の各カード破砕具5について、カード破砕後の目詰まりの有無を確認した。
また、実施例1~6および比較例1~7で得られた発酵乳について、官能による品質評価試験(官能評価)を行った。
【0046】
(粘度)
発酵乳の粘度の測定には、BL型粘度計(TVB-10,東機産業(株))のローターNo.4を用い、回転速度を30rpmとし、試料温度10℃のときの計測開始から30秒後のみかけ粘度を測定した。破砕部通過前後のみかけ粘度の減少率は、破砕前の粘度をη0、破砕後の粘度をηとしたとき、100-(η/η0)×100で算出した。
【0047】
(粒径分布)
カード粒子の粒径分布の測定には、粒度分布計(マイクロトラックMT3300EX-II、日機装株式会社)を用い、レーザ回折・散乱法を行った。なお、測定時の溶媒には、脱イオン交換水を使用し、粒子屈折率を1.456、溶媒屈折率を1.333として測定を行った。
【0048】
(カード残り割合)
カード残り割合は、カードの全粒子に対して、一定以上の大きさのカード粒子が占める体積割合である。このカード残りの測定には、試料を顕微鏡で撮影し、画像解析手法により、試料に含まれる各カード粒子の大きさを算出した。そして、カードの全粒子に対して粒子径が200μm以上であるカードの体積割合を「カード残り割合」として算出した。
【0049】
(官能評価)
官能評価では、充填性および滑らかさについて評価を行った。なお、充填性は、発酵乳の粘度に関係する項目として採用した。
充填性の評価では、カード破砕装置1の吐出部6から液ダレなく連続して容器に充填できる状態を〇、断続的に液ダレが起きる状態を△、常に液ダレしている状態を×とした。
滑らかさの評価では、喫食時に舌に残る感触や粉っぽさが全くない状態を〇、やや舌に残る感触がある状態を△、舌に残り粉っぽさがある状態を×とした。
【0050】
[結果]
実施例1~6および比較例1~7について、測定結果および官能評価結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0051】
(粘度の測定結果)
実施例1~6および比較例1~7について、粘度の測定結果(上記表2参照)をグラフ化した(
図5参照)。
図5のグラフでは、孔52の径または短辺寸法を横軸とし、粘度[cP]を縦軸としている。また、
図5では、孔52の断面積合計および孔52の形状に基づいて、データ点の種類を区別している。
図5に示すように、孔52の径または短辺寸法が大きくなるほど、粘度が増加した。また、孔52の径が等しい場合、孔52の数が増えるほど、すなわち孔52の断面積合計が大きくなるほど、粘度が増加した(実施例1~6、比較例2,4,6)。
また、実施例1~6および比較例1,3~4,6,7は、粘度が7500~9500cPの範囲であり、比較例2,5は、当該範囲外であった。
【0052】
(粒径分布の測定結果)
実施例1~6および比較例1~7について、粒径分布の測定結果を
図6~
図11に示す。
図6~
図11の各グラフでは、カード粒子の粒子径[μm]を横軸とし、頻度[%]を縦軸としている。
具体的には、
図6は、孔52の径または短辺寸法が1.0mmである実施例1,4および比較例1,2の測定結果を示し、
図7は、
図6のグラフの一部(点線で囲った部分)を拡大している。
図8は、孔52の径または短辺寸法が2.0mmである実施例2,5および比較例3,4の測定結果を示し、
図9は、
図8のグラフの一部(点線で囲った部分)を拡大している。
図10は、孔52の径または短辺寸法が3.0mmである実施例3,6および比較例5,6の測定結果、ならびに、比較例7の測定結果を示し、
図11は、
図10のグラフの一部(点線で囲った部分)を拡大している。
【0053】
また、実施例1~6および比較例1~7について、
図6~
図11の各グラフに基づき、粒径分布に現れた最大粒子径を確認し、上記表2にまとめた。上記表2に示すように、実施例1~6および比較例1,3,4,5では、最大粒子径が700μm未満となり、比較例2,4,7では、最大粒子径が700μm以上となった。
【0054】
(カード残り割合の測定結果)
実施例1~6および比較例1~7について、カード残り割合の測定結果(上記表2参照)をグラフ化した(
図12参照)。
図12のグラフでは、孔52の径または短辺寸法を横軸とし、カード残り割合[%]を縦軸としている。また、
図11では、孔52の断面積合計および孔52の形状に基づいて、データ点の種類を区別している。
図11に示すように、孔52の径または短辺寸法が大きくなるほど、カード残り割合が増加した。また、孔52の径が等しい場合、複数の数が増えるほど、すなわち孔52の断面積合計が大きくなるほど、カード残り割合が増加した(実施例1~6、比較例2,4,6)。
また、実施例1~6および比較例5~6は、カード残り割合が10%未満であり、比較例1~4,7は、カード残り割合が10%以上であった。
【0055】
(目詰まりの有無)
実施例1~6および比較例1~7について、カード破砕具5の孔52における通液時の発酵乳の詰まりは見られなかった。
【0056】
(官能評価結果)
上記表2に示すように、実施例1~6は、充填性および滑らかさ共に〇であり、総合評価が〇であった。
一方、比較例1~7では、充填性および滑らかの少なくとも一方が△または×であり、総合評価が△または×であった。
なお、充填性については、△または〇であれば、十分に実用に耐える範囲であった。
【0057】
(まとめ)
以上の測定結果および官能評価結果によれば、粘度が発酵乳の充填性に関係し、粒径分布の最大粒子径およびカード残り割合が発酵乳の滑らかさに関係している。
実施例1~6では、粘度が7500~9500cPの場合に、十分な充填性があると評価された。
また、実施例1~6では、粒度分布上の最大粒子径が700μm未満であり、かつ、カード残り割合が10%未満であることにより、十分な滑らかさを評価された。
【0058】
具体的には、孔52の断面積の合計が40mm2以下であり、線速が3.0m/s以上となる場合(実施例1~6,比較例1,3,5)では、粒度分布上の最大粒子径が700μm未満となった。
また、孔52の断面積の合計が40mm2以下であって、かつ、孔52の個々の断面積が7.5mm2以下である場合(実施例1~6)において、カード残り割合が10%未満になった。特に、実施例1~6のうち、孔52の個々の断面積が小さい実施例3や実施例6において、カード残り割合が低下する傾向がみられた。また、実施例1~3のグループと、実施例4~6のグループとを比較すると、孔52の断面積の合計が小さく、線速が速いグループである実施例1~3において、カード残り割合が低下する傾向がみられた。
なお、比較例5,6では、孔52の断面積の合計または孔52の個々の断面積が上記条件から外れているが、カード残り割合が10%以下になった。比較例5では実施例1~6よりも線速が高いこと、また、比較例6では孔52の個々の断面積が実施例3や実施例6と同様に小さいことが、カード残り割合に影響を与えていると考えられる。
以上により、粒度分布上の最大粒子径が700μm未満であり、かつ、カード残り割合が10%未満である実施例1~6および比較例5において、十分な滑らかさが実現された。比較例6は、粒度分布上の最大粒子径が700μm以上であるが、カード残り割合が10%未満であることにより、若干の滑らかさが実現された。
【0059】
また、孔52の断面積の合計が20mm2以上であり、線速が6.0m/s以下になる場合(実施例1~6,比較例1~4,6,7)では、粘度が7500cP以上になり、充填性をアップできることが分かった。一方、孔52の断面積の合計が20mm2より小さく、線速が6.0m/sより大きくなる場合(比較例5)では、粘度が7500cP未満となり、充填性が低い。
【0060】
また、実施例1~6において、カード破砕具5の孔52の断面積は0.5mm2以上であり、従来のカード破砕具の開口部と比べて十分に大きいため、通液時の発酵乳の詰まりは見られなかった。
1…カード破砕装置、2…ホッパー、3…ポンプ、4…配管、41,42…継手部、411,421…フランジ部、43…環状シール部材、5,5A…カード破砕具、51…プレート部、52…孔、53…管部、531,532…継手部、6…吐出部、71…流路計、72…圧力計、F…流通方向。