(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159849
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】内燃機用燃料油組成物
(51)【国際特許分類】
C10L 1/04 20060101AFI20221011BHJP
【FI】
C10L1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064282
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 正
(57)【要約】
【課題】極めて厳しい貯蔵安定性能への要求に対応しつつ、他の性能、すなわち燃焼性能、環境性能及び粘度適性をも満足する内燃機用燃料油組成物を提供する。
【解決手段】特定の性状を満足する減圧脱硫軽油留分及び直脱重油留分を含み、前記減圧脱硫軽油留分の組成物全量基準の含有量が40.0容量%以上である、(1)15℃における密度が0.8800g/cm3以上0.9850g/cm3以下、(2)50℃における動粘度が10.0mm2/s以上180.0mm2/s以下、(3)硫黄分含有量が0.01質量%以上0.40質量%以下、(4)CCAIが830以下及び(5)潜在セジメントが0.10質量%以下をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)をいずれも満足する減圧脱硫軽油留分及び下記(a)~(d)をいずれも満足する直脱重油留分を含み、前記減圧脱硫軽油留分の組成物全量基準の含有量が40.0容量%以上である、下記(1)~(5)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物。
(A)15℃における密度が0.8500g/cm3以上0.9000g/cm3以下
(B)50℃における動粘度が10.0mm2/s以上30.0mm2/s以下
(C)硫黄分含有量が0.10質量%以上0.30質量%以下
(D)潜在セジメントが0.05質量%以下
(a)15℃における密度が0.9000g/cm3以上0.9500g/cm3以下
(b)50℃における動粘度が50.0mm2/s以上180.0mm2/s以下
(c)硫黄分含有量が0.20質量%以上0.50質量%以下
(d)潜在セジメントが0.05質量%以下
(1)15℃における密度が0.8800g/cm3以上0.9850g/cm3以下
(2)50℃における動粘度が10.0mm2/s以上180.0mm2/s以下
(3)硫黄分含有量が0.01質量%以上0.40質量%以下
(4)CCAIが830以下
(5)潜在セジメントが0.10質量%以下
【請求項2】
前記直脱重油留分の組成物全量基準の含有量が、10.0容量%以上45.0容量%以下である請求項1に記載の内燃機用燃料油組成物。
【請求項3】
前記減圧脱硫軽油留分の組成物全量基準の含有量が、90.0容量%以下である請求項1又は2に記載の内燃機用燃料油組成物。
【請求項4】
前処理装置として遠心分離装置を装備する船舶用ディーゼルエンジンに用いられる請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機用燃料油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機用燃料油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS K2205:2006の3種重油(以下、「C重油」とも称する。)は、灯油、軽油、A重油(JIS K2205:2006の1種重油)等と比べて単位体積当たりの発熱量が高く、燃料油使用量(体積)を低減することができ、また安価であることから、船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機の燃料油として、また発電用ボイラ等の外燃機の燃料油として広く使用されている。
一方、C重油は一般に灯油、軽油、A重油等と比べて硫黄分含有量、残留炭素分が多く、環境負荷が大きく、またスラッジも発生しやすく、スラッジの生成により燃料油フィルタの目詰まりが発生しやすくなることが知られている。これに対して、15℃密度、50℃動粘度、残留炭素分、アスファルテン分、硫黄分、芳香族分が所定範囲内となる、脱硫灯油、ライトサイクルオイル等の脱硫処理した留分、未脱硫の軽油留分等を含むC重油組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、船舶用の燃料油としては、ISO8217「Petroleum products-Fuels(class F)-Specification of marine fuels」を満足する燃料油等が知られている。この船舶用の燃料油は、燃料油フィルタの閉塞を生じる場合があるため、硫黄分、残留炭素分、アスファルテン分含有量、15℃密度、Total sediment by hot filtration(ISO 10307-1)等の所定性状を備える直接脱硫重油を所定量で含む重油組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-203802号公報
【特許文献2】特開2014-028977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の通油性を向上した内燃機用燃料油組成物を用いても、とりわけ大型船舶のディーゼルエンジン等の大型ディーゼルエンジンに内燃機用燃料油組成物を用いる場合、通常使用時に燃料油フィルタの閉塞頻度が高くなりやすく、船舶内の燃料油タンク等で長期貯蔵した後に使用すると、閉塞頻度はより高くなる傾向にある。そのため、内燃機用燃料油組成物には、特に長期貯蔵した後であっても常温通油性能を維持する貯蔵安定性能が求められるようになっており、要求される性能はより厳しくなっている。また、このような大型船舶等の船舶用ディーゼルエンジンには、燃料油組成物の前処理装置として遠心分離装置を装備した形式のものが採用されることがあるが、このような形式のディーゼルエンジンには特に厳しい貯蔵安定性が求められる。
【0006】
とりわけ大型船舶のディーゼルエンジン等の大型ディーゼルエンジンの用途においては、内燃機用燃料油組成物の使用環境は著しく変化することから、内燃機用燃料油組成物には、その環境の変化に対応することが求められる。中でも着火遅れ等がない着火性能及び安定した燃焼性能(これらをあわせて「燃焼性能」と称することがある。)を有することは重要である。
【0007】
ところで近年、環境汚染防止は世界的な最重要課題の一つとして挙げられており、国際海事機関(IMO)では、大気汚染防止対策の一環として、2020年から全ての船舶に対して燃料油中の硫黄分濃度を現行3.5質量%以下から0.5質量%以下と規制が強化された。そのため、船舶用の燃料油組成物については、硫黄分濃度を0.5質量%以下とすることで、環境への負荷を低減する環境性能に優れたものとすることが急務となっている。しかし、特許文献1に記載されるC重油組成物の硫黄分はいずれも2質量%を超えており、環境性能の点で満足するものとはいえない。
【0008】
また、上記性能以外にも、適度な動粘度を有する粘度適性が求められる。特許文献1のように、C重油相当品を得る手法として、脱硫軽油等の脱硫処理した軽油留分を用いる方法がある。脱硫処理した軽油留分等を用いると、硫黄分含有量を低減することができる。他方、脱硫処理した軽油留分等を用いると、動粘度が低くなりすぎるため、燃料油組成物をエンジンに送液するためのポンプ、流量計等の各種機器の使用範囲に適合しないものとなり、また潤滑性の悪化の要因の一つとなる。
【0009】
このように、従来のC重油、また上記の通油性を向上した内燃機用燃料油組成物は、これらの性能の全てを十分に満足するものとはいえないものであり、また燃料油組成物の前処理装置として遠心分離装置を装備した船舶用ディーゼルエンジンのように特に厳しい貯蔵安定性能が求められる用途においては、これらの性能を同時に満足し得ることは極めて困難である。
このような状況下、本発明は、極めて厳しい貯蔵安定性能への要求に対応しつつ、他の性能、すなわち燃焼性能、環境性能及び粘度適性をも満足する内燃機用燃料油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討の結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち、本発明は、下記の構成を有する内燃機用燃料油組成物を提供するものである。
【0011】
1.下記(A)~(D)をいずれも満足する減圧脱硫軽油留分及び下記(a)~(d)をいずれも満足する直脱重油留分を含み、前記減圧脱硫軽油留分の組成物全量基準の含有量が40.0容量%以上である、下記(1)~(5)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物。
(A)15℃における密度が0.8500g/cm3以上0.9000g/cm3以下
(B)50℃における動粘度が10.0mm2/s以上30.0mm2/s以下
(C)硫黄分含有量が0.10質量%以上0.30質量%以下
(D)潜在セジメントが0.05質量%以下
(a)15℃における密度が0.9000g/cm3以上0.9500g/cm3以下
(b)50℃における動粘度が50.0mm2/s以上180.0mm2/s以下
(c)硫黄分含有量が0.20質量%以上0.50質量%以下
(d)潜在セジメントが0.05質量%以下
(1)15℃における密度が0.8800g/cm3以上0.9850g/cm3以下
(2)50℃における動粘度が10.0mm2/s以上180.0mm2/s以下
(3)硫黄分含有量が0.01質量%以上0.40質量%以下
(4)CCAIが830以下
(5)潜在セジメントが0.10質量%以下
2.前記直脱重油留分の組成物全量基準の含有量が、10.0容量%以上45.0容量%以下である上記1に記載の内燃機用燃料油組成物。
3.前記減圧脱硫軽油留分の組成物全量基準の含有量が、90.0容量%以下である上記1又は2に記載の内燃機用燃料油組成物。
4.前処理装置として遠心分離装置を装備する船舶用ディーゼルエンジンに用いられる上記1~3のいずれか1に記載の内燃機用燃料油組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極めて厳しい貯蔵安定性能への要求に対応しつつ、他の性能、すなわち燃焼性能、環境性能及び粘度適性をも満足する内燃機用燃料油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る内燃機用燃料油組成物について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されることはなく、発明の効果を阻害しない範囲において任意に変更して実施し得るものである。
また、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値である。例えば、とある数値範囲について「A~B」及び「C~D」と記載されている場合、「A~D」、「C~B」といった数値範囲も含まれる。
【0014】
〔内燃機用燃料油組成物〕
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、下記(A)~(D)をいずれも満足する減圧脱硫軽油留分及び下記(a)~(d)をいずれも満足する直脱重油留分を含み、前記減圧脱硫軽油留分の組成物全量基準の含有量が40.0容量%以上である、下記(1)~(5)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物、である。
(A)15℃における密度が0.8500g/cm3以上0.9000g/cm3以下
(B)50℃における動粘度が10.0mm2/s以上30.0mm2/s以下
(C)硫黄分含有量が0.10質量%以上0.30質量%以下
(D)潜在セジメントが0.05質量%以下
(a)15℃における密度が0.9000g/cm3以上0.9500g/cm3以下
(b)50℃における動粘度が50.0mm2/s以上180.0mm2/s以下
(c)硫黄分含有量が0.20質量%以上0.50質量%以下
(d)潜在セジメントが0.05質量%以下
(1)15℃における密度が0.8800g/cm3以上0.9850g/cm3以下
(2)50℃における動粘度が10.0mm2/s以上180.0mm2/s以下
(3)硫黄分含有量が0.01質量%以上0.40質量%以下
(4)CCAIが830以下
(5)潜在セジメントが0.10質量%以下
【0015】
(内燃機用燃料油組成物の組成及び性状)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、以下の(1)~(5)で規定された組成及び性状をいずれも満足する。
(1)15℃における密度
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度は、0.8800g/cm3以上0.9850g/cm3以下である。15℃における密度が上記範囲内にないと、大型船舶等の船舶用のディーゼルエンジン等の前に前処理装置として付設される遠心分離装置によるスラッジの分離性能が低減し、貯蔵安定性能が低下する。また、総発熱量が低下する場合がある。
貯蔵安定性能の向上、総発熱量の確保の観点から、好ましくは0.9600g/cm3以下、より好ましくは0.9400g/cm3以下、更に好ましくは0.9250g/cm3以下、より更に好ましくは0.9000g/cm3以下である。また、下限として好ましくは0.8850g/cm3以上、より好ましくは0.8900g/cm3以上である。
本明細書において、15℃における密度は、JIS K 2249-1:2011(原油及び石油製品-密度の求め方- 第1部:振動法)に準じて測定される値である。
【0016】
(2)50℃における動粘度
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度は、10.0mm2/s以上180mm2/s以下である。50℃における動粘度が上記範囲内にないと、ポンプ及び流量計等の各種機器の使用範囲に適合しにくくなり、潤滑性を確保できず、内燃機用燃料油組成物として使用することができなくなる場合がある。また、取扱い性が低下する、エンジン入口の加熱温度が低下するといった場合がある。
上記各種機器の使用範囲に適合しやすくし、かつ潤滑性を向上させる観点、取扱い性の向上等の観点から、50℃における動粘度は、好ましくは15.0mm2/s以上、より好ましくは20.0mm2/s以上であり、上限として好ましくは125mm2/s以下、より好ましくは100mm2/s以下、更に好ましくは50.0以下、より更に好ましくは25.0mm2/s以下である。
本明細書において、50℃における動粘度は、JIS K 2283:2000(原油及び石油製品の動粘度試験方法)に準じて測定される値である。
【0017】
(3)硫黄分含有量
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量は、0.01質量%以上0.40質量%以下である。硫黄分含有量が0.40質量%を超えると、排ガス中の硫黄酸化物の上昇により環境への負荷が高くなるため環境性能が低下し、また酸露点の上昇により酸露点腐食が生じやすくなる。環境性能の向上及び腐食の発生の抑制の観点から、硫黄分含有量は、好ましくは0.35質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下、更に好ましくは0.25質量%以下である。また、硫黄分含有量の含有量は、環境性能の観点から少なければ少ないほど好ましく、通常上記のように0.01質量%以上であり、本実施形態の燃料油組成物の製造のしやすさを考慮すると、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上である。
本明細書において、硫黄分含有量は、その含有量に応じて測定方法を選択して測定され、含有量が0.01~5質量%の場合はJIS K 2541-4:2003(原油及び石油製品-硫黄分試験方法- 第4部:放射線式励起法)に準じて測定される値である。
【0018】
(4)CCAI:Calculated Carbon Aromaticity Index
本実施形態の内燃機用燃料油組成物のCCAIは830以下である。CCAIが830より大きいと、燃焼性能が低下する。燃焼性能の向上の観点から、CCAIは好ましくは820以下、より好ましくは800以下である。また、下限としては、燃焼性能の観点から低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常750以上である。
本明細書において、CCAIは、ISO 8217-2012のAnnex F記載の計算式より算出される値である。
【0019】
(5)潜在セジメント
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の潜在セジメントは、0.10質量%以下である。潜在セジメントが0.10質量%よりも大きいと、燃料油貯蔵後の燃料油フィルタの通油性が確保されず、貯蔵安定性能が低下する。貯蔵後の燃料油フィルタの通油性を確保し、貯蔵安定性能を向上させる観点から、潜在セジメントは、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下、更に好ましくは0.02質量%以下である。
本明細書において、潜在セジメント(Total Sediment Potential)は、ISO10307-2A(Thermal Aging)に準じて、試料(本実施形態の内燃機用燃料油組成物)を100℃で24時間放置し、濾紙を通して得られる濾紙に残存するスラッジ量とした。
【0020】
また、本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記(1)~(5)の性状、組成に加えて、更に以下(6)~(8)の性状から選ばれる少なくとも1つを満足することが好ましく、特に以下(6)~(8)の性状のいずれも満足することが好ましい。
【0021】
(6)引火点
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の引火点は、取扱い上の安全性の観点から、好ましくは70.0℃以上、より好ましくは95.0℃以上、更に好ましくは110.0℃以上、より更に好ましくは125.0℃以上、特に好ましくは150.0℃以上である。
本明細書において、引火点は、JIS K 2265-3:2007(原油及び石油製品-引火点試験方法- 第3部:ペンスキーマルテンス密閉法)に準じて測定される値である。
【0022】
(7)流動点
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点は、好ましくは30.0℃以下である。流動点が30.0℃以下であると、取扱性が向上する。また下限については、流動点が低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常-10.0℃以上程度である。
本明細書において、流動点は、JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準じて測定される値である。
【0023】
(8)総発熱量
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の総発熱量は、好ましくは39,500(kJ/L)以上、より好ましくは40,000(kJ/L)以上、更に好ましくは41,250(kJ/L)以上である。
本明細書において、総発熱量は、減圧脱硫軽油留分、直脱軽油留分、分解軽油留分については、JIS K2279:2003(原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-)に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定される原油、灯油、軽油、A重油及びB重油の場合の計算式により推定)した。また、燃料油組成物、直脱重油留分、接触分解重油留分については、JIS K2279:2003(原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-)に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定されるC重油の場合の計算式により推定)した。
【0024】
(減圧脱硫軽油留分)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、減圧脱硫軽油留分を、組成物全量基準の含有量として40.0容量%以上で含有する。減圧脱硫軽油留分は、減圧蒸留装置から留出される減圧軽油留分を脱硫して得られる軽油留分のことである。減圧脱硫軽油留分を上記含有量で含有しないと、硫黄分含有量が高くなるため環境性能が得られず、燃焼性能も得られない。
【0025】
本実施形態で用いられる減圧脱硫軽油留分は、以下の(A)~(D)の性状及び組成を有する軽油留分である。減圧脱硫軽油留分が有する性状及び組成について、順に説明する。
【0026】
(A)15℃における密度
本実施形態で用いられる減圧脱硫軽油留分の15℃における密度は、0.8500g/cm3以上0.9000g/cm3以下である。15℃における密度が上記範囲内にないと、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度を上記所定範囲内としにくくなり、貯蔵安定性能が低下し、また総発熱量が低下する場合がある。
貯蔵安定性能の向上、総発熱量の確保の観点から、減圧脱硫軽油留分の15℃における密度は、好ましくは0.8950g/cm3以下、より好ましくは0.8900g/cm3以下である。また、下限として好ましくは0.8600g/cm3以上、より好ましくは0.8800g/cm3以上である。
【0027】
(B)50℃における動粘度
本実施形態で用いられる減圧脱硫軽油留分の50℃における動粘度は、10.0mm2/s以上30.0mm2/s以下である。50℃における動粘度が上記範囲内にないと、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度を上記所定範囲内としにくくなるため、ポンプ及び流量計等の各種機器の使用範囲に適合しにくくなり、潤滑性を確保できず、内燃機用燃料油組成物として使用することができなくなる場合がある。また、取扱い性が低下する、エンジン入口の加熱温度が低下するといった場合がある。
上記各種機器の使用範囲に適合しやすくし、かつ潤滑性を向上させる観点、取扱い性の向上等の観点から、減圧脱硫軽油留分の50℃における動粘度は、好ましくは15.0mm2/s以上、より好ましくは16.0mm2/s以上であり、上限として好ましくは27.5mm2/s以下、より好ましくは25.0mm2/s以下である。
【0028】
(C)硫黄分含有量
本実施形態で用いられる減圧脱硫軽油留分の硫黄分含有量は、0.10質量%以上0.30質量%以下である。硫黄分含有量が上記範囲内にないと、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量を上記所定範囲内としにくくなるため、排ガス中の硫黄酸化物の上昇により環境への負荷が高くなるため環境性能が低下し、また酸露点の上昇により酸露点腐食が生じやすくなる。
環境性能の向上及び腐食の発生の抑制の観点から、減圧脱硫軽油留分の硫黄分含有量は、好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.20質量%以下、更に好ましくは0.15質量%以下である。また、硫黄分含有量の含有量は、環境性能の観点から少なければ少ないほど好ましく、通常上記のように0.10質量%以上である。
【0029】
(D)潜在セジメント
本実施形態で用いられる減圧脱硫軽油留分の潜在セジメントは、0.05質量%以下である。潜在セジメントが0.05質量%よりも大きいと、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の潜在セジメントを上記所定範囲内としにくくなるため、燃料油貯蔵後の燃料油フィルタの通油性が確保されず、貯蔵安定性能が低下する。
貯蔵後の燃料油フィルタの通油性を確保し、貯蔵安定性能を向上させる観点から、潜在セジメントは、好ましくは0.03質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下である。
【0030】
また、本実施形態で用いられる減圧脱硫軽油留分は、上記(A)~(D)の性状、組成に加えて、更に以下(E)~(H)の性状から選ばれる少なくとも1つを満足することが好ましく、特に以下(E)~(H)の性状のいずれも満足することが好ましい。
【0031】
(E)CCAI
本実施形態で用いられる減圧脱硫軽油留分のCCAIは、好ましくは830以下、より好ましくは820以下、更に好ましくは800以下である。CCAIが830以下であると、本実施形態の内燃機用燃料油組成物のCCAIを上記所定範囲内としやすくなるので、燃焼性能が向上する。また、下限としては、燃焼性能の観点から低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常750以上である。
【0032】
(F)引火点
本実施形態で用いられる減圧脱硫軽油留分の引火点は、好ましくは70.0℃以上、より好ましくは95.0℃以上、更に好ましくは125.0℃以上、より更に好ましくは150.0℃以上である。引火点が上記範囲内であると、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の引火点を上記所定範囲内としやすくなるので、取扱い上の安全性が向上する。
【0033】
(G)流動点
本実施形態で用いられる減圧脱硫軽油留分の流動点は、好ましくは40.0℃以下、より好ましくは35.0℃以下、更に好ましくは32.5℃以下である。流動点が上記範囲内であると、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点を上記所定範囲内としやすくなり、取扱性が向上する。また下限については、流動点が低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常-10.0℃以上程度である。
【0034】
(H)総発熱量
本実施形態で用いられる減圧脱硫軽油留分の総発熱量は、好ましくは38,500(kJ/L)以上、より好ましくは39,000(kJ/L)以上、更に好ましくは39,500(kJ/L)以上である。総発熱量が上記範囲内であると、燃費性能が向上する。
【0035】
(減圧脱硫軽油留分の含有量)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物に含まれる減圧脱硫軽油留分の組成物全量基準の含有量は、40.0容量%以上である。40.0容量%未満であると、減圧脱硫軽油留分の上記各性状及び組成による効果が得られにくくなり、中でも燃焼性能、とりわけ着火性能が低下し、また硫黄分含有量が増加するため優れた環境性能が得られない。
燃焼性能及び環境性能の向上の観点から、減圧脱硫軽油留分の含有量は、好ましくは45.0容量%以上、より好ましくは50.0容量%以上、更に好ましくは60.0容量%以上、より更に好ましくは75.0容量%以上である。また、上限としては、調製のしやすさを考慮すると、好ましくは90.0容量%以下である。
【0036】
(直脱重油留分)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、直脱重油留分を含有する。直脱重油留分は、常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を直接脱硫装置で脱硫して得られる重油留分のことである。直脱重油留分を減圧脱硫軽油留分と組み合わせて用いることで、貯蔵安定性能とともに、燃焼性能、環境性能及び粘度適性を同時に満足させやすくなり、また流動点を適正な範囲に保つことができるため取扱性が向上する。
【0037】
本実施形態で用いられる直脱重油留分は、以下の(a)~(d)の性状及び組成を有する重油留分である。直脱重油留分が有する性状及び組成について、順に説明する。
【0038】
(a)15℃における密度
本実施形態で用いられる直脱重油留分の15℃における密度は、0.9000g/cm3以上0.9500g/cm3以下である。15℃における密度が上記範囲内にないと、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度を上記所定範囲内としにくくなり、貯蔵安定性能が低下し、また総発熱量が低下する場合がある。
貯蔵安定性能の向上、総発熱量の確保の観点から、直脱重油留分の15℃における密度は、好ましくは0.9450g/cm3以下、より好ましくは0.9400g/cm3以下である。また、下限として好ましくは0.9150g/cm3以上、より好ましくは0.9300g/cm3以上である。
【0039】
(b)50℃における動粘度
本実施形態で用いられる直脱重油留分の50℃における動粘度は、50.0mm2/s以上180.0mm2/s以下である。50℃における動粘度が上記範囲内にないと、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度を上記所定範囲内としにくくなるため、ポンプ及び流量計等の各種機器の使用範囲に適合しにくくなり、潤滑性を確保できず、内燃機用燃料油組成物として使用することができなくなる場合がある。また、取扱い性が低下する、エンジン入口の加熱温度が低下するといった場合がある。
上記各種機器の使用範囲に適合しやすくし、かつ潤滑性を向上させる観点、取扱い性の向上等の観点から、直脱重油留分の50℃における動粘度は、好ましくは75.0mm2/s以上、より好ましくは100.0mm2/s以上、更に好ましくは125.0mm2/s以上であり、上限として好ましくは165.0mm2/s以下、より好ましくは150.0mm2/s以下、更に好ましくは135.0mm2/s以下である。
【0040】
(c)硫黄分含有量
本実施形態で用いられる直脱重油留分の硫黄分含有量は、0.20質量%以上0.50質量%以下である。硫黄分含有量が上記範囲内にないと、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量を上記所定範囲内としにくくなるため、排ガス中の硫黄酸化物の上昇により環境への負荷が高くなるため環境性能が低下し、また酸露点の上昇により酸露点腐食が生じやすくなる。
環境性能の向上及び腐食の発生の抑制の観点から、直脱重油留分の硫黄分含有量は、好ましくは0.49質量%以下、より好ましくは0.48質量%以下である。また、硫黄分含有量の含有量は、環境性能の観点から少なければ少ないほど好ましく、通常上記のように0.20質量%以上である。
【0041】
(d)潜在セジメント
本実施形態で用いられる直脱重油留分の潜在セジメントは、0.05質量%以下である。潜在セジメントが0.05質量%よりも大きいと、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の潜在セジメントを上記所定範囲内としにくくなるため、燃料油貯蔵後の燃料油フィルタの通油性が確保されず、貯蔵安定性能が低下する。
貯蔵後の燃料油フィルタの通油性を確保し、貯蔵安定性能を向上させる観点から、潜在セジメントは、好ましくは0.03質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下である。
【0042】
また、本実施形態で用いられる直脱重油留分は、上記(a)~(d)の性状、組成に加えて、更に以下(e)~(h)の性状から選ばれる少なくとも1つを満足することが好ましく、特に以下(e)~(h)の性状のいずれも満足することが好ましい。
【0043】
(e)CCAI
本実施形態で用いられる直脱重油留分のCCAIは、好ましくは830以下、より好ましくは820以下、更に好ましくは810以下である。CCAIが830以下であると、本実施形態の内燃機用燃料油組成物のCCAIを上記所定範囲内としやすくなるので、燃焼性能が向上する。また、下限としては、燃焼性能の観点から低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常750以上である。
【0044】
(f)引火点
本実施形態で用いられる直脱重油留分の引火点は、好ましくは70.0℃以上、より好ましくは95.0℃以上、更に好ましくは120.0℃以上、より更に好ましくは140.0℃以上である。引火点が上記範囲内であると、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の引火点を上記所定範囲内としやすくなるので、取扱い上の安全性が向上する。
【0045】
(g)流動点
本実施形態で用いられる直脱重油留分の流動点は、好ましくは20.0℃以下、より好ましくは15.0℃以下、更に好ましくは10.0℃以下である。流動点が上記範囲内であると、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点を上記所定範囲内としやすくなり、取扱性が向上する。通常、直脱重油留分の流動点は減圧脱硫軽油留分よりも流動点が低いので、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点を低減させる際に有効である。
また下限については、流動点が低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常-10.0℃以上程度である。
【0046】
(h)総発熱量
本実施形態で用いられる直脱重質留分の総発熱量は、好ましくは40,000(kJ/L)以上、より好ましくは40,500(kJ/L)以上、更に好ましくは41,000(kJ/L)以上である。総発熱量が上記範囲内であると、燃費性能が向上する。
【0047】
(直脱重質留分の含有量)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物に含まれる直脱重油留分の組成物全量基準の含有量は、好ましくは10.0容量%以上、より好ましくは15.0容量%以上であり、上限としては60.0容量%以下であればよく、好ましくは45.0容量%以下、より好ましくは35.0容量%以下、更に好ましくは30.0容量%以下、より更に好ましくは25.0容量%以下である。
直脱重油留分の含有量が上記範囲内であると、減圧脱硫軽油留分との組合せにより、貯蔵安定性能だけでなく、燃焼性能、環境性能及び粘度適性を向上させることができる。
【0048】
(その他の留分)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記の減圧脱硫軽油留分及び直脱重油留分とともに他の留分を含んでもよい。他の留分としては、内燃機用燃料油組成物が上記(1)~(5)の組成及び性状を満足させるものであれば、特に制限はなくいかなる留分を用いることが可能であり、より優れた貯蔵安定性能、燃焼性能、使用量低減性能及び環境性能をバランスよく向上させる観点から、以下の軽油留分、重油留分等が好ましく挙げられる。
【0049】
(重油留分)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、その他の留分の重油留分として、例えば、接触分解重油留分(CLO)、常圧蒸留残渣油留分、減圧蒸留残渣油等留分を含有することができる。
・接触分解重油留分(直脱重油留分を流動接触分解して得られる重油留分)
・常圧蒸留残渣油留分(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる残渣油)
・減圧蒸留残渣油留分(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる残渣油)
【0050】
(その他の重油留分が有する性状)
本実施形態で用いられ得る上記の重油留分が有する性状としては、例えば下記の性状を有していることが好ましい。重油留分が下記の性状を有することで、より優れた貯蔵安定性能、燃焼性能、使用量低減性能及び環境性能をバランスよく向上させることができる。
15℃における密度は、好ましくは1.3000g/cm3以下、より好ましくは1.2000g/cm3以下、更に好ましくは1.1000g/cm3以下、より更に好ましくは1.0500g/cm3以下であり、下限としては通常0.9000g/cm3以上程度である。
50℃における動粘度は、190.0mm2/s以下が好ましく、170.0mm2/s以下がより好ましく、また下限としては20.00mm2/s以上程度、好ましくは30.00mm2/s以上である。
硫黄分含有量は、1.20質量%以下が好ましく、1.00質量%以下がより好ましく、0.70質量%以下が更に好ましい。また下限値としては通常0.30質量%以上である。
CCAIは、920以下が好ましく、910以下がより好ましい。
引火点は、70.0℃以上が好ましく、95.0℃以上がより好ましく、120.0℃以上が更に好ましく、140.0℃以上がより更に好ましい。
流動点は、15.0℃以下が好ましく、12.5℃以下がより好ましく、10.0℃以下が更に好ましい。
また、総発熱量は、好ましくは40,000(kJ/L)以上、より好ましくは41,500(kJ/L)以上、更に好ましくは43,000(kJ/L)以上である。
【0051】
上記のその他の留分の重油留分として例示した留分の中でも、より優れた貯蔵安定性能、燃焼性能、使用量低減性能及び環境性能をバランスよく向上させる観点から接触分解重油留分(CLO)、を含むことが好ましい。接触分解重油留分(CLO)等の重油留分を含む場合、その組成物全量基準の含有量は、より優れた貯蔵安定性能、燃焼性能、使用量低減性能及び環境性能をバランスよく向上させる観点から、好ましくは1.0容量%以上、より好ましくは5.0容量%以上、更に好ましくは7.5容量%以上であり、上限として好ましくは20.0容量%以下、より好ましくは15.0容量%以下、更に好ましくは12.5容量%以下である。
【0052】
(軽油留分)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、その他の留分の軽油留分として、例えば、直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分、直脱軽油留分等の軽油留分を含有することができる。
・直留軽油留分(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる軽油留分)
・減圧軽油留分(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる軽油留分)
・脱硫軽油留分(直留軽油留分、直脱軽油留分及び/又は減圧脱硫軽油留分を脱硫して得られる軽油留分)
・分解軽油留分(直脱重油留分及び/又は減圧脱硫軽油留分を流動接触分解して得られる軽油留分)
・脱硫分解軽油留分(分解軽油留分を脱硫して得られる軽油留分)
・直脱軽油留分(常圧蒸留残渣油を直接脱硫装置で脱硫して得られる軽油留分)
【0053】
(軽油留分が有する性状)
本実施形態で用いられ得る上記の軽油留分が有する性状としては、例えば下記の性状を有していることが好ましい。軽油留分が下記の性状を有することで、より優れた貯蔵安定性能、燃焼性能、使用量低減性能及び環境性能をバランスよく向上させることができる。
15℃における密度は、好ましくは1.0500g/cm3以下、より好ましくは1.0200g/cm3以下、更に好ましくは0.9500g/cm3以下であり、下限としては特に制限はなく、通常0.8400g/cm3以上である。
50℃における動粘度は、好ましくは20.00mm2/s以下、より好ましくは10.00mm2/s以下、更に好ましくは5.00mm2/s以下であり、下限として好ましくは0.500mm2/s以上、より好ましくは1.000mm2/s以上である。
硫黄分含有量は、少なければ少ないほど好ましく、例えば0.50質量%以下、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.20質量%以下である。
CCAIは、920以下が好ましく、910以下がより好ましく、890以下が更に好ましい。
引火点は、50.0℃以上が好ましく、60.0℃以上がより好ましく、65.0℃以上が更に好ましい。
流動点は、好ましくは5.0℃以下、より好ましくは0.0℃以下、更に好ましくは-5.0℃以下、より更に好ましくは-15.0℃以下である。
また、総発熱量は、好ましくは38,000(kJ/L)以上、より好ましくは39,000(kJ/L)以上、更に好ましくは39,500(kJ/L)以上である。
【0054】
上記のその他の留分の軽油留分として例示した留分の中でも、より優れた貯蔵安定性能、燃焼性能、使用量低減性能及び環境性能をバランスよく向上させる観点から、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分、直脱軽油留分を含むことが好ましく、分解軽油留分、直脱軽油留分を含むことがより好ましい。
これらの軽油留分を含む場合、その他の軽油留分の組成物全量基準の含有量は、より優れた貯蔵安定性能、燃焼性能、使用量低減性能及び環境性能をバランスよく向上させる観点から、好ましくは1.0容量%以上、より好ましくは3.0容量%以上、更に好ましくは5.0容量%以上であり、上限として好ましくは20.0容量%以下、より好ましくは15.0容量%以下、更に好ましくは10.0容量%以下である。なお、軽油留分を二種以上含む場合は、軽油留分の合計含有量が上記範囲内にあるとよい。
【0055】
(各種添加剤)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物には、上記の諸性状を維持しうる範囲で、必要に応じ、各種添加剤として、酸化防止剤、低温流動性向上剤、潤滑性向上剤、セタン価向上剤、燃焼促進剤、清浄剤、スラッジ分散剤、防カビ剤等の各種添加剤を適宜選択して配合することができる。また、軽油引取税の観点よりクマリンを配合してもよい。
【0056】
(用途)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、極めて優れた貯蔵安定性能及び環境性能とともに、使用量低減性能にも優れる燃料油組成物である。そのため、内燃機用の燃料油組成物として用いられ、特に前処理装置として遠心分離機を装備した大型船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機等に好適に用いられる。
【0057】
(内燃機用燃料油組成物の製造方法)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記減圧脱硫軽油留分、直脱重油留分、必要に応じて用いられるその他軽油留分及び重油留分を、減圧脱硫軽油留分の含有量が40.0容量%以上となるように配合することにより、製造することができる。
【0058】
減圧脱硫軽油留分、直脱重油留分、その他の各種軽油留分、重油留分、また各種添加剤の配合順序は特に制限はなく、例えば、減圧脱硫軽油留分に直脱重油留分、その他の各種軽油留分、重油留分、さらに各種添加剤を逐次添加して混合してもよいし、各種添加剤を予め混合した後、減圧脱硫軽油留分と、直脱重油留分と、その他の各種軽油留分、重油留分と、を混合してもよいし、またその他の各種軽油留分、重油留分を予め混合した後、減圧脱硫軽油留分と、直脱重油留分と、各種添加剤と、を混合してもよい。
【実施例0059】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、各基材の性状は、上記のとおり、下記の方法に従って求めた。
【0060】
〔性状と組成の測定〕
実施例及び比較例で使用した減圧脱硫軽油留分、直脱重油留分、直脱軽油留分、接触分解重油留分及び分解軽油留分の各種基材の性状及び組成、実施例及び比較例の燃料油組成物の性状及び組成は以下の方法により測定した。各種基材の性状及び組成を第1表に示す。また、燃料油組成物の性状及び組成を第2表に示す。
・15℃における密度:JIS K 2249-1:2011(原油及び石油製品-密度の求め方- 第1部:振動法)に準じて測定した。
・50℃における動粘度:JIS K 2283:2000(原油及び石油製品の動粘度試験方法)に準じて測定した。
・硫黄分含有量:JIS K 2541-4:2003(原油及び石油製品-硫黄分試験方法- 第4部:放射線式励起法)に準じて測定した。
・潜在セジメント:試料(本実施形態の内燃機用燃料油組成物)を、ISO10307-2A(Thermal Aging)に準じて、100℃で24時間放置し、濾紙を通して得られる濾紙に残存するスラッジ量とした。
・CCAI:ISO 8217-2012のAnnex F記載の計算式より算出した。
・引火点:JIS K 2265-3:2007(原油及び石油製品-引火点試験方法- 第3部:ペンスキーマルテンス密閉法)に準じて測定した。
・流動点:分解軽油留分はJIS K2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準じて測定した。
・総発熱量:減圧脱硫軽油留分、直脱軽油留分、分解軽油留分については、JIS K2279:2003(原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-)に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定される原油、灯油、軽油、A重油及びB重油の場合の計算式により推定)した。また、燃料油組成物、直脱重油留分、接触分解重油留分については、JIS K2279:2003(原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-)に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定されるC重油の場合の計算式により推定)した。
【0061】
〔性能の評価基準〕
以下の1~4の各性能の評価を行い、一番悪い評価を総合評価として評価した。C評価であれば不合格である。各性能の評価を、第2表に示す。
【0062】
1.貯蔵安定性能
各実施例及び比較例の燃料油組成物の貯蔵安定性能について、上記の方法により測定した潜在セジメントに基づき以下の基準で評価した。
A.潜在セジメントが0.05質量%以下であった。
B.潜在セジメントが0.05質量%超0.10質量%以下であった。
C.潜在セジメントが0.10質量%超であった。
2.燃焼性能(着火性)
各実施例及び比較例の燃料油組成物の貯蔵安定性能について、上記の方法により測定したCCAIに基づき以下の基準で評価した。
A.CCAIが800以下であった。
B.CCAIが800超830以下であった。
C.CCAIが830超であった。
3.環境性能
実施例及び比較例の燃料油組成物の環境性能について、硫黄分含有量に基づき以下の基準で評価した。
A.硫黄分含有量が0.25質量%以下であった。
B.硫黄分含有量が0.25質量%超0.40質量%以下であった。
C.硫黄分含有量が0.40質量%超であった。
4.粘度適性
実施例及び比較例の燃料油組成物の粘度適性について、50℃における動粘度に基づき以下の基準で評価した。
A.50℃における動粘度が20.0mm2/s以上30.0mm2/s以下であった。
B.50℃における動粘度が10.0mm2/s以上20.0mm2/s未満、又は30.0mm2/s超180.0mm2/s以下であった。
C.50℃における動粘度が10.0mm2/s未満又は180.0mm2/s超であった。
【0063】
【0064】
〔実施例1、2、比較例1〕
第1表に示す性状及び組成を有する各種基材を、第2表に示す割合で混合し、実施例1、2及び比較例1の燃料油組成物を作製した。
得られた各燃料油組成物について、上記の方法により測定した組成及び性状を第2表に示す。また、得られた各燃料油組成物について、貯蔵安定性能、燃焼性能(着火性)、環境性能及び粘度適性を上記方法により評価した。その結果を第2表に示す。
【0065】
【0066】
〔性能の評価結果〕
第2表に示されるように、本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、貯蔵安定性能、燃焼性能、環境性能及び粘度適性の評価がいずれも良好であることが確認された。また貯蔵安定性能がA評価であることから、船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機、中でも前処理装置として遠心分離装置を装備する大型船舶等の各種船舶のディーゼルエンジン等への使用にも耐え得る極めて厳しい貯蔵安定性能への要求にも満足し得るものであることが分かる。
一方、減圧脱硫軽油留分、直脱重油留分を含まない比較例の燃料油組成物は、燃焼性能及び環境性能の点で満足する性能を有しておらず、貯蔵安定性能、燃焼性能、粘度適性及び環境性能を同時に満足するものとはいえないものであった。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、極めて厳しい貯蔵安定性能への要求に対応しつつ、他の性能、すなわち燃焼性能、環境性能及び粘度適性をも満足する燃料油組成物であり、内燃機関、特に船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機に好適に用いられ、中でも前処理装置として遠心分離装置を装備する大型船舶等の船舶用のディーゼルエンジン等に好適に用いられるものである。