(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159923
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】磁性粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/553 20060101AFI20221011BHJP
G01N 33/545 20060101ALI20221011BHJP
G01N 33/552 20060101ALI20221011BHJP
C08F 292/00 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
G01N33/553
G01N33/545 Z
G01N33/552
C08F292/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064395
(22)【出願日】2021-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】辻野 由起
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 駿
(72)【発明者】
【氏名】久野 豪士
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AA18
4J026AB44
4J026AC00
4J026AC15
4J026AC18
4J026BA05
4J026BA25
4J026BA27
4J026BB03
4J026DA07
4J026DA15
4J026DB02
4J026DB08
4J026DB15
4J026FA07
4J026GA06
4J026GA08
(57)【要約】
【課題】 耐酸性に優れ酸性水溶液で処理しても鉄の溶出が少なく、さらに水への分散性が良好であり、容器への付着によるロスが少なく、また、非特異吸着が少なく、並びに、粒子の比表面積が大きく生理活性物質の担持量が多く、免疫測定の高感度化が可能な磁性粒子を提供する。
【解決手段】 コア粒子と、前記コア粒子表面に形成された第1の被覆層と、前記第1の被覆層の表面に形成された第2の被覆層を有する磁性粒子であって、
前記第1の被覆層は、ナノ磁性体を含有する架橋無機物層であり、
前記第2の被覆層は、炭素数5~20の長鎖アルキル基含有構造単位を有する重合体層であることを特徴とする、磁性粒子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア粒子と、前記コア粒子表面に形成された第1の被覆層と、前記第1の被覆層の表面に形成された第2の被覆層を有する磁性粒子であって、
前記第1の被覆層は、ナノ磁性体を含有する架橋無機物層であり、
前記第2の被覆層は、炭素数5~20の長鎖アルキル基含有構造単位を有する重合体層であることを特徴とする、磁性粒子。
【請求項2】
前記第1の被覆層が、ナノ磁性体層と、前記ナノ磁性体層の表面に形成された架橋無機物層の少なくとも2層を有することを特徴とする、請求項1に記載の磁性粒子。
【請求項3】
前記長鎖アルキル基含有構造単位が、スルホン酸基を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の磁性粒子。
【請求項4】
前記長鎖アルキル基含有構造単位が、ポリエチレングリコール基を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の磁性粒子。
【請求項5】
前記重合体が、炭素数1~20の疎水性基を側鎖にもつ単量体単位を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の磁性粒子。
【請求項6】
前記重合体が、カルボキシル基を側鎖にもつ単量体単位を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の磁性粒子。
【請求項7】
前記第1の被覆層の架橋無機物層が、シリカを含有することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の磁性粒子。
【請求項8】
比表面積が2~100m2/gであることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の磁性粒子。
【請求項9】
下記(i)~(iii)の工程を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
(i)コア粒子の表面にナノ磁性体を物理吸着させる工程
(ii)前記ナノ磁性体を吸着させた粒子の表面に架橋無機物層を形成する工程
(iii)前記架橋無機物層を形成した粒子を水溶液に分散させ、水溶液中で炭素数5~20の長鎖アルキル基を有する界面活性剤の存在下、単量体をフリーラジカル重合することにより粒子の表面に重合体層を形成する工程
【請求項10】
工程(i)が、水溶液中でコア粒子にナノ磁性体を静電吸着させた後、乾燥させる工程を含むことを特徴とする、請求項9に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項11】
工程(i)が、高速気流中に磁性粒子を分散させながら、粒子同士の衝撃力によって乾式で表面改質する工程を含むことを特徴とする、請求項9又は10に記載の磁性粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫測定に用いられる磁性粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粒子は、その磁気的特性を利用し、免疫測定用の生理活性物質担持用担体として使用されている。しかし、抗体等の生理活性物質を磁性粒子の表面に結合する際、酸性水溶液中で反応させるため、磁性体の脱離や鉄イオン溶出など、磁性体成分に由来する物質が流出するという問題があった。鉄は免疫反応の干渉物質として働くため、免疫測定の感度の低下や感作可能な生理活性物質が限定されるという問題があり、このような磁性体成分の流出が少ない磁性粒子が望まれている。また、免疫測定用担体としての磁性粒子には、免疫反応に無関係な成分が非特異吸着することを抑制した低ノイズ化や、多くの生理活性物質を担持可能とする高シグナル化等、免疫測定の高感度化が可能な磁性粒子が求められている。さらに、免疫測定では磁性粒子を水溶液に分散させて使用することから、水への分散性が良好な磁性粒子が求められている。
【0003】
これらの課題を解決するため、コア粒子表面にフェライト被覆層を有する磁性粒子の表面をアミノ基等の官能基を有する有機シランカップリング剤で被覆し、さらにカルボキシル基を導入した免疫測定用粒子が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、疎水性の有機シランカップリング剤で被覆したナノ磁性体をコア粒子に吸着させた後、ナノ磁性体が埋没するように疎水性重合体で被覆し、さらにその表面に官能基を導入した免疫測定用粒子が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2979414号公報
【特許文献2】特許第3738847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、有機シランカップリング剤で表面を処理することによって鉄の溶出を抑制できるものの、抑制が不十分であるという問題があった。
【0006】
特許文献2では、疎水性の有機シランカップリング剤で処理した磁性体をコア粒子表面に被覆せしめた後、疎水性重合体層を形成することで鉄の溶出を抑制しているものの、疎水性重合体層は磁性粒子の水への分散性を悪化させるという問題があった。また、疎水性重合体層で被覆することでナノ磁性体が重合体で埋没するため、磁性粒子の比表面積が小さく、抗体等の生理活性物質を目的量担持させるためには多量の磁性粒子が必要であるという問題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、耐酸性に優れ酸性水溶液で処理しても鉄の溶出が少なく、さらに水への分散性が良好であり、容器への付着によるロスが少なく、また、非特異吸着が少なく、並びに、粒子の比表面積が大きく生理活性物質の担持量が多く、免疫測定の高感度化が可能な磁性粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以上の点を鑑み鋭意研究を重ねた結果、以下の磁性粒子並びに磁性粒子の製造方法によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の各態様は以下に示す[1]~[11]である。
[1]コア粒子と、前記コア粒子表面に形成された第1の被覆層と、前記第1の被覆層の表面に形成された第2の被覆層を有する磁性粒子であって、
前記第1の被覆層は、ナノ磁性体を含有する架橋無機物層であり、
前記第2の被覆層は、炭素数5~20の長鎖アルキル基含有構造単位を有する重合体層であることを特徴とする、磁性粒子。
[2]前記第1の被覆層が、ナノ磁性体層と、前記ナノ磁性体層の表面に形成された架橋無機物層の少なくとも2層を有することを特徴とする、[1]に記載の磁性粒子。
[3]前記長鎖アルキル基含有構造単位が、スルホン酸基を有することを特徴とする、[1]又は[2]に記載の磁性粒子。
[4]前記長鎖アルキル基含有構造単位が、ポリエチレングリコール基を有することを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の磁性粒子。
[5]前記重合体が、炭素数1~20の疎水性基を側鎖にもつ単量体単位を有することを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の磁性粒子。
[6]前記重合体が、カルボキシル基を側鎖にもつ単量体単位を有することを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の磁性粒子。
[7]前記第1の被覆層の架橋無機物層が、シリカを含有することを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の磁性粒子。
[8]比表面積が2~100m2/gであることを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の磁性粒子。
[9]下記(i)~(iii)の工程を含むことを特徴とする、[1]~[8]のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
(i)コア粒子の表面にナノ磁性体を物理吸着させる工程
(ii)前記ナノ磁性体を吸着させた粒子の表面に架橋無機物層を形成する工程
(iii)前記架橋無機物層を形成した粒子を水溶液に分散させ、水溶液中で炭素数5~20の長鎖アルキル基を有する界面活性剤の存在下、単量体をフリーラジカル重合することにより粒子の表面に重合体層を形成する工程
[10]工程(i)が、水溶液中でコア粒子にナノ磁性体を静電吸着させた後、乾燥させる工程を含むことを特徴とする、[9]に記載の磁性粒子の製造方法。
[11]工程(i)が、高速気流中に磁性粒子を分散させながら、粒子同士の衝撃力によって乾式で表面改質する工程を含むことを特徴とする、[9]又は[10]に記載の磁性粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様にかかる磁性粒子は、耐酸性に優れ酸性水溶液で処理しても鉄の溶出が少なく、さらに水への分散性が良好であり、容器への付着によるロスが少なく、また、非特異吸着が少なく、並びに、粒子の比表面積が大きく生理活性物質の担持量が多く、免疫測定の高感度化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一態様にかかる磁性粒子の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0013】
本発明において、「免疫測定」とは、抗原抗体反応を利用した生理活性物質(タンパク質など)の濃度測定法を示す。抗体や抗原等の生理活性物質を担持させた担体を使用し、容器内で抗原抗体反応を進行させ、最終的に酵素反応により可視化させる。濃度既知の抗原を測定することにより得られる検量線から逆算することで、濃度未知の試料中に含まれる抗原濃度を測定することができる。免疫測定方法としてはサンドウィッチ法や競合法などがある。
【0014】
サンドウィッチ法では2種類の抗体もしくは抗原が用いられる。サンドウィッチ法の測定原理の一例は以下の通りである。
固相上に固定化された第1抗体と酵素で標識した第2抗体で試料中の抗原を挟んだ後、未反応成分を洗浄によって除去する。酵素反応によって発光する基質を添加すれば、抗原濃度に応じたシグナルが得られる。検体成分中の抗原が多いほど標識抗体の反応量が増えるため、シグナルが上昇する。
【0015】
競合法は複数のエピトープを有することができない小さな分子を検出対象とする場合によく用いられる。競合法の測定原理の一例は以下の通りである。
【0016】
固相上に固定化された抗体に、固相抗体に反応する抗原を含む試料と、酵素で標識され固相抗体と反応する抗原を添加することで、未標識抗原と標識抗原の間で競合反応が発生する。未反応性分を洗浄によって除去し、酵素反応によって発光する基質を添加すれば、抗原濃度に応じたシグナルが得られる。検体成分中の抗原が多いほど標識抗原の反応量が減るため、シグナルが低下する。
【0017】
本発明の一態様にかかる磁性粒子は、
コア粒子と、前記コア粒子表面に形成された第1の被覆層と、前記第1の被覆層の表面に形成された第2の被覆層を有する磁性粒子であって、
前記第1の被覆層は、ナノ磁性体を含有する架橋無機物層であり、
前記第2の被覆層は、炭素数5~20の長鎖アルキル基含有構造単位を有する重合体層であることを特徴とする、磁性粒子である。
【0018】
磁性粒子に用いられるコア粒子は、磁性粒子の最も中心に位置する粒子であり、コア粒子の形状や材質に特に限定はない。コア粒子の形状は適宜選択可能であり、真球に近い球状、楕円体や立方体、円柱、多角柱等の非球状、多孔質状や突起を有するもの等の比表面積の大きな凹凸を有する粒子等を挙げることができる。コア粒子の表面に多くのナノ磁性体を被覆させるのに好適のため、多孔質状や突起を有するもの等の比表面積の大きな凹凸を有する粒子が好ましい。
【0019】
磁気応答性が良好な磁性粒子とするため、コア粒子の粒径としては0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がさらに好ましく、1μm以上が特に好ましく、2μm以上が最も好ましい。また、水への再分散性が良好な磁性粒子とするために、コア粒子の粒径は100μm以下が好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましく、3μm以下が最も好ましい。
【0020】
コア粒子の材質としては、例えば重合体等の有機化合物、無機化合物等を挙げることができる。これらから適宜選択できるが、例えばスチレン系単量体単位、アクリレート系単量体単位若しくはメタクリレート系単量体単位を含む重合体粒子、又はシリカ粒子を挙げることができる。
【0021】
前記のスチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレン、2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、4-クロロ-3-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、p-スチレンスルホン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0022】
前記のアクリレート系単量体若しくはメタアクリレート系単量体としては、(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-へキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(シクロ)アルキル(メタ)アクリレート類;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、p-メトキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルコキシ(シクロ)アルキル(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクレート類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;2-シアノエチル(メタ)アクリレート、2-シアノプロピル(メタ)アクリレート、3-シアノプロピル(メタ)アクリレート等のシアノアクリレート類;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-アミノ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の置換ヒドロキシ(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジルメチルアクリレート、エポキシ化シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有アクリレート類;トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エトキシ化フェニルアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類等の(メタ)アクリレートを単量体単位とする重合体粒子が挙げられる。また、前記(メタ)アクリレートは架橋したものであってもよい。
【0023】
必要に応じて、コア粒子はナノ磁性体を含有してもよい。また、コア粒子の表面に常磁性の薄膜の被覆層を設けてもよい。常磁性の被覆層を設ける場合、粒子への残留磁化を低減し、粒子同士の凝集を抑制するのに好適のため、厚み0.001~1μmが好ましく、0.001~0.1μmがさらに好ましく、0.001~0.01μmが特に好ましく、0.001~0.005μmが最も好ましい。
【0024】
また、第1の被覆層を設けるための前処理として、コア粒子の表面に正電荷又は負電荷を有する物質を被覆してもよい。コア粒子の表面に正電荷又は負電荷を有する物質を被覆する方法としては特に限定はないが、側鎖に電荷を有する単量体を用いてコア粒子の表面に重合体層を形成する方法、電荷を有する重合体を交互積層法(Layer-by-Layer法)によりコア粒子表面に被覆する方法等を挙げることができる。
【0025】
コア粒子表面に形成された第1の被覆層は、ナノ磁性体を含有する架橋無機物層である。ナノ磁性体は、前記コア粒子よりも粒径の小さな粒子であり、さらに磁気応答性を有するものである。超常磁性を有するものであることが好ましいことから、ナノ磁性体の粒径は0.001~1μmが好ましく、0.001~0.5μmがさらに好ましく、0.001~0.1μmが特に好ましく、0.001~0.05μmが最も好ましい。材質としては例えば、マグネタイト等の酸化鉄を挙げることができる。
【0026】
ナノ磁性体は表面に脂質やシランカップリング剤等の無機表面改質剤を含んでいてもよい。前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0027】
ナノ磁性体は架橋無機物層中に分散した状態にあるか、又はナノ磁性体の表面を完全に架橋無機物層が被覆していることが好ましい。ナノ磁性体が架橋無機物層中に分散した状態にあるか、又はナノ磁性体の表面を完全に架橋無機物層が被覆していることで、磁性粒子の耐酸性を高めることができる。
【0028】
ナノ磁性体の含有量としては、磁気応答性の良好な磁性粒子とするのに好適のため、磁性粒子1g当たりのナノ磁性体の含有量として、0.1g/g以上が好ましく、0.2g/g以上がさらに好ましく、0.5g/g以上が特に好ましく、0.7g/g以上が最も好ましい。また、磁性粒子の水への分散性を高めるのに好適であることから、磁性粒子1g当たりのナノ磁性体の含有量として、0.9g/g以下が好ましく、0.8g/g以下がさらに好ましく、0.7g/g以下が特に好ましく、0.6g/g以下が最も好ましい。
【0029】
また、免疫測定用粒子の比重を制御し、粒子の沈降速度を調整する目的から、磁性粒子に含まれるナノ磁性体の重量割合として、5~70wt%が好ましく、10~60wt%がさらに好ましく、15~50wt%が特に好ましく、20~40wt%が最も好ましい。
【0030】
架橋無機物層はコア粒子表面に架橋無機物を被覆することにより形成される。架橋無機物としては、シリカやガラス、酸化マグネシウム、酸化アルミナ等の酸化物、ジルコニアやヒドロキシアパタイト等のセラミックスを挙げることができる。これらの中で耐酸性を高めるのに特に好適のため、シリカが好ましい。架橋無機物層を設けることで、親水性でありながら耐酸性を高めることが可能であることから、鉄の溶出抑制と粒子の水への分散性という、相反する特性を付与することができる。また、架橋無機物層は粒子表面の磁性体の形状に沿って被覆され、磁性体を完全に埋没させないため、比表面積の大きな磁性粒子を得ることができ、抗体等の生理活性物質の担持量を増やすことができる。架橋無機物層の厚みとしては、耐酸性を高めるのに好適であることから、0.001μm以上が好ましく、0.005μm以上がさらに好ましく、0.01μm以上が特に好ましく、0.05μm以上が最も好ましい。また、比表面積の大きな磁性粒子とするのに好適のため、架橋無機物層の厚みは0.1μm以下が好ましく、0.05μm以下がさらに好ましく、0.02μm以下が特に好ましく、0.01μm以下が最も好ましい。
【0031】
また、免疫測定用粒子の比重を制御し、粒子の沈降速度を調整する目的から、磁性粒子に含まれる架橋無機物の含有割合として、0.1~10wt%が好ましく、0.5~5wt%がさらに好ましく、1~5wt%が特に好ましく、1~3wt%が最も好ましい。
【0032】
ナノ磁性体を含有する架橋無機物層の形成方法としては特に限定はないが、コア粒子表面にナノ磁性体を吸着させ集積せしめた後に架橋無機物層を形成する方法、架橋無機物層を形成する際にナノ磁性体を添加する方法等を挙げることができる。反応の制御が容易であることから、コア粒子表面にナノ磁性体を吸着させ集積せしめた後に架橋無機物層を形成する方法が好ましい。
【0033】
前記コア粒子表面にナノ磁性体を吸着させる方法としては、コア粒子と、コア粒子と反対の表面電荷を有するナノ磁性体とを水溶液中で混合することにより、静電相互作用によりコア粒子表面に自発的にナノ磁性体を吸着させる方法、コア粒子表面の官能基とナノ磁性体との化学的反応によりナノ磁性体をコア粒子表面に結合させる方法、機械的なエネルギーを与えることによりコア粒子とナノ磁性体とを複合化する方法等を挙げることができる。前記コア粒子表面にナノ磁性体を吸着させる方法は、複数の方法を組み合わせてもよく、例えば、静電相互作用によりコア粒子表面に自発的にナノ磁性体を吸着させた後、乾燥させた粒子を用い、さらに機械的なエネルギーを与えることにより強固にナノ磁性体をコア粒子に吸着させてもよい。
【0034】
前記静電相互作用によりコア粒子表面に自発的にナノ磁性体を吸着させる方法としては、コア粒子へのナノ磁性体の吸着量を増大させるのに好適のため、水溶液中でコア粒子とナノ磁性体を混合することが好ましく、塩化ナトリウム等の電解質を含有する水溶液がさらに好ましい。電解質を含有する水溶液の場合、ナノ磁性体が互いに凝集しない電解質濃度が好ましく、例えば、0.01~0.5M程度の濃度を好適に用いることができる。また、吸着させたナノ磁性体をコア粒子表面に強固に固定化させるため、水溶液中での複合化の後に粒子を乾燥させることが好ましい。
【0035】
前記機械的なエネルギーを与えることによりコア粒子とナノ磁性体とを複合化する方法としては、高速気流中で旋回力により複合化を行う装置、自転公転混合器やボールミル等で混合攪拌を行う装置、スプレードライヤー等で表面被覆を行う装置等、乾式で粒子を処理できる方法が好ましい。前記装置としては例えば、ハイブリダイゼーションシステムNHSシリーズ((株)奈良機械製作所製)、ノビルタNOB(ホソカワミクロン(株)製)、高速撹拌型粉体球状化装置NSMシリーズ((株)セイシン企業製)、ミニスプレードライヤー B-290型((株)柴田科学)等を挙げることができる。
【0036】
前記高速気流中で旋回力により複合化を行う場合、磁性体を強固にコア粒子に固定化するのに好適であることから、回転速度8000min-1以上が好ましく、9000min-1以上がさらに好ましく、10000min-1以上が特に好ましく、11000min-1以上が最も好ましい。また、粒子形状を球状に整形するのに好適であることから、回転速度15000min-1以下が好ましく、14000min-1以下がさらに好ましく、13000min-1以下が特に好ましく、12000min-1以下が最も好ましい。また、粒子形状を球状に整形するのに好適であることから、処理時間は1~60分が好ましく、1~20分がさらに好ましく、1~10分が特に好ましく、3~10分が最も好ましい。また、粒子の融着を抑制するのに好適であることから、処理温度は25~80℃が好ましく、25~60℃がさらに好ましく、25~50℃が特に好ましく、25~40℃が最も好ましい。
【0037】
架橋無機物としてシリカを形成する場合、粒子を溶媒中に分散させた後、オルトケイ酸テトラエチル及びアンモニア水を添加する方法を好適に用いることができる。反応時に添加するオルトケイ酸テトラエチルの量としては、粒子表面に十分な量のシリカを形成するために好適であることから、粒子1gに対して0.05g以上が好ましく、0.1g以上がさらに好ましく、0.2g以上が好ましく、0.5g以上が最も好ましい。また、反応中の粒子の凝集を抑制するのに好適であることから、粒子1gに対して5g以下が好ましく、2g以下がさらに好ましく、1g以下が特に好ましく、0.5g以下が最も好ましい。さらに、反応時に添加するアンモニア水の量としては、粒子表面に十分な量のシリカを形成するために好適であることから、溶媒1Lに対して20mL以上が好ましく、30mL以上がさらに好ましく、40mL以上が特に好ましく、50mL以上が最も好ましい。また、反応中の粒子の凝集を抑制するのに好適であることから、溶媒1Lに対して100mL以下が好ましく、80mL以下がさらに好ましく、70mL以下が特に好ましく、60mL以下が最も好ましい。
【0038】
架橋無機物としてシリカを形成する際の反応溶媒としては、粒子の凝集を抑制しつつ均一にシリカを被覆するのに好適であることから、エタノール、2-プロパノール、ブタノールが好ましく、エタノール又は2-プロパノールがさらに好ましく、2-プロパノールが特に好ましい。
【0039】
第1の被覆層の表面に形成された第2の被覆層は、炭素数5~20の長鎖アルキル基含有構造単位を有する重合体層である。コア粒子表面に第1の被覆層を形成した粒子は、抗体等の生理活性物質を粒子に結合するための官能基を有していないことから、生理活性物質を担持することができないため、架橋無機物層を設けた粒子の表面に第2の被覆層を設けることにより、非特異吸着を抑制しつつ生理活性物質を担持させることができるようになり、免疫測定の高感度化が可能となる。炭素数5~20の長鎖アルキル基含有構造単位を有することにより、非特異吸着を抑制しつつ、疎水性相互作用によって多くの生理活性物質を担持することができるため、免疫測定の高感度化が可能となる。炭素数5未満の長鎖アルキル基含有構造単位の場合、生理活性物質を担持するための疎水性相互作用が不足し、十分な量の生理活性物質を担持できないため、免疫測定のポジカウントが低下し、免疫測定の感度が低下する。生理活性物質の担持量を増加させて免疫測定感度を高めるのに好適のため、炭素数7以上がさらに好ましく、炭素数9以上が特に好ましく、炭素数11以上が最も好ましい。また、炭素数20を超える長鎖アルキル基含有構造単位の場合、目的の生理活性物質以外の成分が非特異吸着するため、免疫測定の感度が低下する。免疫測定感度を高めるのに好適のため、炭素数18以下がさらに好ましく、炭素数16以下が特に好ましく、炭素数14以下が最も好ましい。
【0040】
炭素数5~20の長鎖アルキル基含有構造単位としては、界面活性剤が好ましく、前記界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、双性イオン性のいずれも用いることができる。
【0041】
競合法による免疫測定に対しては長鎖アルキル基含有構造単位がスルホン酸基をさらに有することが好ましく、例えば、n-ヘキシル硫酸ナトリウム、へプチル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ノニル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ヘキサデシル硫酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウム;等のアルキルスルホン酸塩類、ヘキシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム;等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類等を挙げることができる。
【0042】
また、サンドウィッチ法による免疫測定における測定感度を高めるのに好適であることから、長鎖アルキル基含有構造単位がポリエチレングリコール基をさらに有することが好ましい。サンドウィッチ法では生理活性物質の非特異吸着を低下させることが感度を高めるために必要であり、ポリエチレングリコール基が有効に働く。前記ポリエチレングリコール基を有する長鎖アルキル基含有構造単位としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエステル、ポリオキシアルキレングリコールロジン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等を挙げることができ、炭素数5~20の長鎖アルキルを有するポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。また、非特異吸着を抑制するのに好適であることから、前記ポリオキシエチレンの分子量は500以上が好ましく、1000以上が好ましく、1500以上がさらに好ましく、2000以上が特に好ましい。さらに、生理活性物質の担持を阻害しないために、前記ポリオキシエチレンの分子量は20000以下が好ましく、10000以下がさらに好ましく、5000以下が特に好ましく、3000以下が最も好ましい。
【0043】
また、前記長鎖アルキル基含有構造単位が、重合体と共有結合していることが好ましい。長鎖アルキル基含有構造単位が重合体と共有結合していることにより、粒子の長期保存安定性に優れる。長鎖アルキル基含有構造単位を重合体と共有結合させる方法としては、界面活性剤の存在下において、粒子表面で重合反応を行うことで、重合反応によって生じるラジカルを、界面活性剤に連鎖移動させる方法を挙げることができる。
【0044】
また、粒子の長期保存安定性の点から、第2の被覆層である重合体が第1の被覆層と共有結合していることが好ましい。重合体と第1の被覆層を共有結合させる方法としては特に限定はないが、例えば、第1の被覆層の表面にシランカップリング剤を用いて重合開始剤又は単量体を化学結合させた後、重合を行う方法が挙げられる。
【0045】
第2の被覆層である重合体はまた、炭素数1~20の疎水性基を側鎖にもつ単量体単位を有することが好ましい。疎水性基を側鎖にもつ単量体単位を有することにより、抗体を粒子表面に吸着又は結合させるための疎水性を付与するために好適である。また、疎水性基を側鎖にもつ単量体を用いることで、長鎖アルキル基含有構造単位を磁性粒子表面に均一に導入しやすくなる。疎水性基を側鎖にもつ単量体単位としては特に限定はないが、炭素数1~20の長鎖及び環状アルキル基を側鎖に有することが好ましく、炭素数1~10の長鎖及び環状アルキル基を側鎖に有することがさらに好ましく、炭素数1~6の長鎖及び環状アルキル基を側鎖に有することが特に好ましく、炭素数6の長鎖及び環状アルキル基を側鎖に有することが最も好ましい。例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルアクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-ペンタノイルアクリレート、n-ペンタノイルメタクリレート、n-ヘキシルチルアクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、シクロプロピルアクリレート、シクロプロピルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、スチレン等を挙げることができる。
【0046】
第2の被覆層である重合体はまた、カルボキシル基を側鎖にもつ単量体単位を有することが好ましい。カルボキシル基を側鎖にもつ単量体単位を有することにより、カルボキシル基を介して生理活性物質を粒子表面に固定化することができ、免疫測定の高感度化が可能となる。前記カルボキシル基含有構造単位を有する単量体としては、カルボキシル基を含有すること以外に特に限定はないが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができる。
【0047】
また、第2の被覆層は、ポリエチレングリコール以外の親水性基としてヒドロキシル基含有構造単位を含んでいてもよく、単量体としては例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、2-ヒドロキシフェニルアクリレート、2-ヒドロキシフェニルメタクリレート、3-ヒドロキシフェニルアクリレート、3-ヒドロキシフェニルメタクリレート、4-ヒドロキシフェニルアクリレート、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート等を挙げることができる。
【0048】
第2の被覆層形成に用いる重合開始剤としては特に限定はなく、所望の重合温度及び重合速度に応じて、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ペルオキソ二硫酸カリウム等の過酸化物、パーヘキシルPVやパーブチルO((株)日油製)等のパーオキシエステル類等を好適に用いることができる。
【0049】
第2の被覆層である重合体層は、第1の被覆層と、直接又はリンカーを介して化学結合していることが好ましい。直接又はリンカーを介して化学結合していることで、耐酸性及び耐溶剤性を高めることができる。化学結合の存在は、重合体が溶解する溶剤で洗浄しても重合体が消失していないことにより確認できる。化学結合していない場合は、被覆した重合体がほぼ全て溶けてなくなる。
【0050】
第2の被覆層を第1の被覆層と化学結合で固定化させることで、磁性粒子の耐酸性及び耐溶剤性を高めるのに好適であることから、架橋無機物層の表面に重合性官能基(及び残基)を有するシランカップリング剤を有していることが好ましい。前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0051】
前記シランカップリング剤を架橋無機物層の表面に反応させる場合、粒子を溶媒中に分散させた後、シランカップリング剤及びアンモニア水を添加する方法を好適に用いることができる。反応時に添加するシランカップリング剤の量としては、粒子表面に十分な量のシランカップリング剤を反応させるために好適であることから、粒子1gに対して0.05g以上が好ましく、0.1g以上がさらに好ましく、0.2g以上が好ましく、0.5g以上が最も好ましい。また、反応中の粒子の凝集を抑制するのに好適であることから、粒子1gに対して5g以下が好ましく、2g以下がさらに好ましく、1g以下が特に好ましく、0.5g以下が最も好ましい。さらに、反応時に添加するアンモニア水の量としては、粒子表面に十分な量のシランカップリング剤を反応させるために好適であることから、溶媒1Lに対して20mL以上が好ましく、30mL以上がさらに好ましく、40mL以上が特に好ましく、50mL以上が最も好ましい。また、反応中の粒子の凝集を抑制するのに好適であることから、溶媒1Lに対して100mL以下が好ましく、80mL以下がさらに好ましく、70mL以下が特に好ましく、60mL以下が最も好ましい。
【0052】
シランカップリング剤を反応させる際の反応溶媒としては、粒子の凝集を抑制しつつ均一にシランカップリング剤を反応させるのに好適であることから、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール等のアルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、2-プロパノールがさらに好ましく、メタノール又は2-プロパノールが特に好ましい。
【0053】
第2の被覆層における重合体の被覆量としては特に限定はないが、比表面積の大きな磁性粒子を作製するのに好適のため、磁性粒子1g当たりの重合体の被覆量として、1g/g以下が好ましく、0.5g/g以下がさらに好ましく、0.1g/g以下が特に好ましく、0.05g/g以下が最も好ましい。また、耐酸性を高めるのに好適のため、磁性粒子1g当たりの重合体の被覆量として、0.001g/g以上が好ましく、0.01g/g以上がさらに好ましく、0.1g/g以上が特に好ましく、0.5g/g以上が最も好ましい。重合体の被覆量は、重合体を被覆する前後の粒子のTG-DTAを測定し、重合体被覆前後の熱重量減少の差分を求めることにより測定可能である。また、粒子断面の走査型電子顕微鏡像、又は粒子の透過型電子顕微鏡像により、重合体の厚みを求めることでも算出可能である。
【0054】
磁性粒子のカルボキシル基量としては、多くの抗体を結合可能な磁性粒子とするのに好適のため、磁性粒子1g当たりのカルボキシル基量として、5μmol/g以上が好ましく、10μmol/g以上がさらに好ましく、20μmol/g以上が特に好ましく、50μmol/g以上が最も好ましい。また、磁性粒子への抗体以外の物質が非特異吸着し、免疫測定における測定ノイズが発生することを抑制するのに好適のため、磁性粒子1g当たりのカルボキシル基量として、200μmol/g以下が好ましく、100μmol/g以下がさらに好ましく、50μmol/g以下が特に好ましく、20μmol/g以下が最も好ましい。カルボキシル基量の測定方法としては、ピレニルジアゾメタンと磁性粒子を混合し、反応により消失したピレニルジアゾメタンを定量する方法、又は電位差滴定により磁性粒子表面のカルボキシル基量を直接定量する方法を挙げることができる。
【0055】
本発明の一態様にかかる磁性粒子は、比表面積が2m2/g以上であることが好ましい。比表面積が2m2/g以上であることで、単位重量当たりの磁性粒子の表面に結合可能な抗体の量を増やすことができ、免疫測定におけるシグナル強度を高めることができる。そのため、比表面積が大きいことで、少量の磁性粒子で免疫測定を行うことが可能となる。また、比表面積は5m2/g以上であることがさらに好ましく、10m2/g以上が特に好ましく、20m2/g以上が最も好ましい。一方、磁性粒子の力学的強度を高めるのに好適であることから、比表面積は100m2/g以下が好ましく、50m2/g以下がさらに好ましく、40m2/g以下が特に好ましく、30m2/g以下が最も好ましい。
【0056】
本発明の一態様にかかる磁性粒子は、下記(i)~(iii)の工程を含む製造方法により得られる。
(i)コア粒子の表面にナノ磁性体を物理吸着させる工程
(ii)前記ナノ磁性体を吸着させた粒子の表面に架橋無機物層を形成する工程
(iii)前記架橋無機物層を形成した粒子を水溶液に分散させ、水溶液中で炭素数5~20の長鎖アルキル基を有する界面活性剤の存在下、単量体をフリーラジカル重合することにより粒子の表面に重合体層を形成する工程
工程(i)において、コア粒子の表面電荷と反対の電荷を有するナノ磁性体を接触させる方法、疎水性のコア粒子に疎水性のナノ磁性体を接触させる方法、常磁性を有するコア粒子にナノ磁性体を接触させる方法により、コア粒子の表面にナノ磁性体を物理吸着させる。コア粒子とナノ磁性体を接触させる方法としては特に限定はなく、液相中、気相中で攪拌することで可能である。ナノ磁性体をコア粒子に均一に吸着させるために好適であることから、水溶液中でコア粒子にナノ磁性体を静電吸着させることが好ましい。また、前記静電吸着させたナノ磁性体を強固に固定させるため、静電吸着後に粒子を乾燥させることが好ましい。さらに、粒子の形状を真球化するのに好適であることから、高速気流中に磁性粒子を分散させながら、粒子同士の衝撃力によって乾式で表面改質することが好ましい。
【0057】
工程(ii)において、工程(i)でナノ磁性体を吸着させた粒子表面に架橋無機物層を形成する。架橋無機物層を形成する方法に特に限定はないが、架橋無機物層の原料となる試薬と反応触媒を有する溶液中に粒子を分散させ、反応を進行させることで粒子表面に架橋無機物層を形成する方法、粒子表面に前記架橋無機物層又はその原料を被覆する方法等を挙げることができる。
【0058】
工程(iii)において、工程(ii)で架橋無機物層を形成した粒子を水溶液に分散させ、水溶液中で炭素数5~20の長鎖アルキル基を有する界面活性剤の存在下、単量体をフリーラジカル重合することにより粒子の表面に重合体層を形成する。重合方法としては、粒子以外の成分が全て溶媒に溶解した状態で重合を行う分散重合法、溶媒に相溶しない単量体を使用し、粒子に単量体を吸着させた状態で重合を行うシード重合法等を挙げることができる。また、シード重合法としては、乳化剤を使用しないソープフリー重合、乳化剤を使用する乳化重合から適宜選択できる。また、ラジカル発生源としては過酸化物、アゾ化合物等を使用でき、溶媒又は単量体への溶解性については適宜選択可能である。
【0059】
さらに、工程(ii)と(iii)の間に、(iv)架橋無機物層の表面に重合性官能基を有するシランカップリング剤を結合させる工程を有していても良い。架橋無機物層の表面にシランカップリング剤を結合させる方法としては特に限定はなく、溶媒中に粒子を分散させ、シランカップリング剤を加える方法、粒子表面にシランカップリング剤を被覆する方法から選択可能である。また、必要に応じて反応触媒となる酸性又は塩基性水溶液を併用してよい。
【0060】
また、工程(iii)において、ポリエチレングリコール基有構造単位を有する単量体を用いる代わりに、ポリエチレングリコール基を含有する重合体を使用し、重合中のラジカル連鎖移動による粒子表面への化学結合による固定化、又は、粒子との疎水性相互作用又は静電相互作用、若しくは粒子表面の分子鎖との絡み合い効果のいずれかにより、粒子表面への物理吸着による固定化を利用し、ポリエチレングリコール基含有構造単位を粒子に導入してもよい。
【0061】
本発明の一態様にかかる磁性粒子は、粒子の表面に抗体を固定化し、免疫測定用装置で使用することができる。抗体の固定化方法としては、粒子表面との物理的相互作用によることが好ましい。
【実施例0062】
以下、本発明を実施するための形態を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。また本発明の要旨の範囲内で適宜に変更して実施することができる。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
[鉄イオン溶出の評価]
pH3.5のクエン酸緩衝液1mLに磁性粒子10mgを加え、37℃で17時間攪拌した。溶液から粒子を除いた溶液を測定試料とし、光の波長460nmにおける溶液の吸光度を測定することで鉄イオンの溶出量を評価した。
○:吸光度0.02以下
×:吸光度0.02を超える
[免疫測定感度の評価]
・希釈固相懸濁液と検出用標識抗体溶液の調製
リン酸緩衝液(pH7.5)中に分散させた磁性粒子に抗PSA抗体を加え、37℃で3.5時間インキュベートして抗PSA抗体を磁性粒子に結合させた。次にポリエチレングリコールから成る非特異吸着抑制剤を添加したトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を添加し、37℃で17時間インキュベートして磁性粒子にブロッキング処理を行い、抗PSA抗体固定化磁性粒子とした(F)。さらに(F)を5%BSAを含むトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で希釈し、希釈固相懸濁液(G)を調製した。また抗PSA抗体とアルカリ性ホスファターゼの結合物を、5%BSAを含むトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で希釈し、検出用標識抗体溶液(H)を調製した。
・感度評価用サンプルの調製
5%BSAを含むリン酸緩衝液(pH7.1)(I)と、5%BSAを含むリン酸緩衝液(pH7.1)にPSAを添加したサンプル(J)を調製した。
・感度の評価
測定試薬(希釈固相懸濁液(G)と検出用標識抗体溶液(H)を含む凍結乾燥品)で感度の評価を行った。
【0063】
感度評価サンプルの測定は以下の手順で行った。
【0064】
凍結乾燥した希釈固相懸濁液(G)を、トリトンX-100を含む純水と感度評価サンプル(I)もしくは(J)で溶解した後、37℃にて5分間免疫反応を行い、1回目のB/F分離を行った。次にトリトンX-100を含む純水で溶解した検出用標識抗体溶液(H)を加えて37℃にて3分間免疫反応を行い、2回目のB/F分離を行った。その後、アルカリ性ホスファターゼに対する化学発光基質(DIFURAT、3-(5-tert-ブチル-4,4-ジメチル-2,6,7-トリオキサビシクロ[3,2,0]ヘプト-1-イル)フェニルリン酸エステル ジナトリウム塩)及びフルオレセインを含む化学発光補助試薬を加え、発光強度(count/sec(cps))を測定した。
【0065】
感度は(J)を測定した際のカウント値を、(I)を測定した際のカウント値で割ることによって算出した。値が大きい方が感度に優れている。
○:感度2000以上
×:感度2000未満
[実施例1]
工程(i)(磁性化微粒子の作製)
ポリジビニルベンゼン粒子1g(粒子径2.2μm)を0.1Mの塩化ナトリウム純水50mLに室温にて回転数100rpmで分散させた。この粒子分散液に、表面にカチオン系分散剤を有する磁性体(材質:マグネタイト、粒子径:10nm、商品名:EMG607、フェローテック社製)1.2gを添加し、室温にて回転数100rpmで2時間反応させた。純水にて洗浄し、さらに50℃で15時間乾燥させることにより、磁性化された粒子を2.18g得た。この磁性化粒子をハイブリダイゼーションシステムNHS-0((株)奈良機械製作所製)に投入し、回転速度11300min-1、処理中の平均温度35℃で5分間処理した。
【0066】
工程(ii)(磁性化粒子へのシリカ被覆)
前記磁性化された微粒子1gを2-プロパノール10mLに分散させ、オルトけい酸テトラエチル0.4gを加え、室温にて回転数180rpmで攪拌した。25%アンモニア水0.4mLを加え、60℃にて回転数180rpmで4時間反応させた。メタノールにて洗浄し、減圧乾燥させた。透過型電子顕微鏡により確認したシリカ層の厚みは約5nmであった。
【0067】
工程(iv)(シリカ被覆粒子へのメタクリル基導入)
シリカ被覆された粒子1gを2-プロパノール10mLに分散させ、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5g、25%アンモニア水0.35mLを加え、60℃にて回転数180rpmで3時間反応させた。メタノールにて洗浄し、減圧乾燥させた。
【0068】
工程(iii)(メタクリル基導入粒子への重合体被覆)
前記メタクリル基導入された粒子1gを、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル0.3gを溶解させた純水10mLに分散させ、メタクリル酸0.02g、メタクリル酸シクロヘキシル0.05g、日油(株)製の製品名「パーブチルO」0.005gを加え、室温にて回転数180rpmで1時間攪拌後、脱気を行った後、窒素雰囲気下にて80℃で2時間反応させた。純水及びメタノールにて洗浄し、減圧乾燥させた。
(評価結果)
作製された磁性粒子は鉄イオンの溶出が吸光度0.003で、溶出が少ないものであった。また、免疫測定感度は3785で、免疫測定の感度に優れるものであった。
[実施例2]
実施例1の工程(iii)におけるポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテルの代わりにポリオキシエチレン(20)セチルエーテルを使用し、その他は実施例1と同様にして磁性粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子は鉄イオンの溶出が吸光度0.004で、溶出が少ないものであった。また、免疫測定感度は3841で、免疫測定の感度に優れるものであった。
[実施例3]
実施例1の工程(iii)におけるポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテルの代わりにポリオキシエチレン(47)ラウリルエーテルを使用しその他は実施例1と同様にして磁性粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子は鉄イオンの溶出が吸光度0.003で、溶出が少ないものであった。また、免疫測定感度は4123で、免疫測定の感度に優れるものであった。
[実施例4]
実施例1の工程(iii)におけるポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル0.3gの代わりにポリオキシエチレン(47)ラウリルエーテル0.15gとラウリル硫酸ナトリウム0.15gの混合物を使用し、その他は実施例1と同様にして磁性粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子は鉄イオンの溶出が吸光度0.001で、溶出が少ないものであった。また、免疫測定感度は7156で、免疫測定の感度に優れるものであった。
[実施例5]
実施例3の工程(iii)におけるメタクリル酸シクロヘキシルの代わりにメタクリル酸ブチルを使用し、その他は実施例3と同様にして磁性粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子は鉄イオンの溶出が吸光度0.002で、溶出が少ないものであった。また、免疫測定感度は5728で、免疫測定の感度に優れるものであった。
[実施例6]
実施例3の工程(iii)におけるメタクリル酸シクロヘキシルの代わりにメタクリル酸ベンジルを使用し、その他は実施例3と同様にして磁性粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子は鉄イオンの溶出が吸光度0.001で、溶出が少ないものであった。また、免疫測定感度は6080で、免疫測定の感度に優れるものであった。
[実施例7]
実施例3の工程(iii)におけるメタクリル酸シクロヘキシルの代わりにスチレンを使用し、また、メタクリル酸0.02gの代わりにメタクリル酸0.08gを使用し、その他は実施例3と同様にして磁性粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子は鉄イオンの溶出が吸光度0.003で、溶出が少ないものであった。また、免疫測定感度は3996で、免疫測定の感度に優れるものであった。
[比較例1]
以下の方法でシリカを含有しない磁性粒子を作製した。
【0069】
工程(i)(磁性化微粒子の作製)
実施例1と同様にして作製した。
【0070】
工程(iv)(シリカ被覆粒子へのメタクリル基導入)
前記工程(i)で得られたシリカを被覆していない粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてメタクリル基を導入した。
【0071】
工程(iii)(メタクリル基導入粒子への重合体被覆)
前記メタクリル基導入された粒子1gを、ポリオキシエチレン(47)ラウリルエーテル0.3gを溶解させた純水10mLに分散させ、アクリル酸0.05g、スチレン0.05g、日油(株)製の製品名「パーブチルO」0.005gを加え、室温にて回転数180rpmで1時間攪拌後、脱気を行った後、窒素雰囲気下にて80℃で2時間反応させた。純水及びメタノールにて洗浄し、減圧乾燥させた。
(評価結果)
作製された磁性粒子は鉄イオンの溶出が多く、また、免疫測定の感度に劣るものであった。
[比較例2]
実施例1の工程(iii)においてポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテルを使用する代わりに、1-ブタンスルホン酸ナトリウムを使用し、その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子はまた、免疫測定の感度に劣るものであった。
[比較例3]
実施例1の工程(iii)においてポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテルを使用する代わりに、ポリオキシエチレン(5)ドコシルエーテルを使用し、その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子は免疫測定の感度に劣るものであった。
[比較例4]
実施例1の工程(iii)においてポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテルを使用する代わりに、ポリオキシエチレン(20)ドコシルエーテルを使用し、その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子は免疫測定の感度に劣るものであった。
[比較例5]
実施例1の工程(iii)においてポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテルを使用する代わりに、ポリオキシエチレン(30)ドコシルエーテルを使用し、その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子は免疫測定の感度に劣るものであった。
【0072】