(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159997
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/62 20060101AFI20221011BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20221011BHJP
B01D 61/16 20060101ALI20221011BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20221011BHJP
C07K 2/00 20060101ALI20221011BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20221011BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
C02F1/62 Z
C02F1/62 C
B01D61/14 500
B01D61/16
C02F1/44 E
C07K2/00
C22B3/44
C22B3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061734
(22)【出願日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2021064007
(32)【優先日】2021-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 菜那
(72)【発明者】
【氏名】玉置 祥二郎
(72)【発明者】
【氏名】中埜 拓
(72)【発明者】
【氏名】上西 寛司
(72)【発明者】
【氏名】前山 和輝
【テーマコード(参考)】
4D006
4D038
4H045
4K001
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006KA01
4D006KB12
4D006MA11
4D006MC16
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC54
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA04
4D006PB12
4D038AA08
4D038AA10
4D038AB68
4D038AB69
4D038AB76
4D038AB83
4D038BB09
4D038BB17
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA15
4H045CA40
4H045EA65
4H045FA71
4K001AA01
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA30
4K001BA19
4K001BA21
4K001DB16
(57)【要約】
【課題】
有価金属を含有する被処理水から有価金属を簡単な工程で、可溶化状態のまま回収すること
【解決手段】
有価金属を含有する被処理水に、タンパク質及び/またはペプチド及び炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを含有する有価金属回収用組成物、あるいはその水溶液を添加し、有価金属と、タンパク質及び/またはペプチドとの複合体を形成させ、形成した複合体を膜分離することにより、有価金属をタンパク質及び/またはペプチドの複合体として回収する
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質及び/またはペプチド並びに炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを含有することを特徴とする有価金属回収用組成物。
【請求項2】
請求項1の有価金属回収用組成物であって、タンパク質及び/またはペプチド並びに炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを溶解した水溶液からなる有価金属回収用組成物。
【請求項3】
水溶液中に含まれる有価金属を回収する方法であって、タンパク質及び/またはペプチド並びに炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを溶解した有価金属回収用組成物の水溶液を得る工程、有価金属を含有する水溶液に前記有価金属回収用組成物を添加する、または前記有価金属回収用組成物に有価金属を含有する水溶液を添加することにより有価金属とタンパク質及び/またはペプチドを含む複合体を形成させる工程、および前記複合体を含む水溶液を膜処理する工程からなる回収方法。
【請求項4】
水溶液中に含まれる有価金属を回収する方法であって、有価金属を含有する水溶液にタンパク質及び/またはペプチドを添加した後、炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを溶解した水溶液を添加する、または炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを溶解した水溶液に前記有価金属並びにタンパク質及び/またはペプチドを含有する水溶液を添加することにより有価金属とタンパク質及び/またはペプチドを含む複合体を形成させる工程、および前記複合体を含む水溶液を膜処理する工程からなる回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属を含有する被処理水から有価金属を回収する方法に係り、有価金属回収用組成物の添加により有価金属を可溶化状態のまま膜処理で回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有価金属を含む被処理水から有価金属を回収することは、資源の有効活用だけでなく、水質基準を満たし環境負荷を低減するためにも重要である。被処理水からの有価金属回収の一般的な方法として、有価金属を不溶化して固液分離する中和凝集沈殿法が広く用いられ、高い水質の処理水を得るために固液分離に膜処理を用いた方法が種々検討されている。
中和凝集沈殿法では、有価金属の不溶性水酸化物の凝集物が微細なため、沈降速度低下による沈殿分離能の低下や、処理水への不溶性水酸化物の混入が問題となる。そのため、凝集剤を添加して不溶性水酸化物の凝集物の粒形を大きくし、沈降速度を上げる対策が行われる。しかしながら、凝集剤添加により含水率の高い不溶性水酸化物の凝集物が大量に発生し、回収効率や凝集物の処理が課題となる。
特開2010-284593は、中和凝集沈殿法における大量の不溶性水酸化物の凝集物発生の抑制を課題とし、固液分離後にRO膜分離工程と晶析工程を組み合わせることで、メッキ洗浄排水からの金属回収効率を向上させている。
特開2006-320862は、処理水を排水せずに、ろ過装置の通過後であってろ過前の無機性廃水をろ過装置より上流側に所定時間循環させることにより、不溶性水酸化物の凝集物をケーキ層として堆積させて微細な不純物を捕捉し、金属除去能力を向上させた処理方法を開示している。
また、特開2008-253954は、固液分離において膜内外表面の堆積物の蓄積による膜間差圧上昇の抑制を課題とし、鉄を含む被処理水に鉄濃度を下げる薬剤を投入して溶解性鉄濃度を管理することで長期間安定して処理する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-284593
【特許文献2】特開2006-320862
【特許文献3】特開2008-253954
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中和凝集沈殿法では中和沈殿のために多くの工程と多種の薬剤が必要であり、作業工程が複雑かつ煩雑である。また、被処理水から使用した多種の薬剤の影響を除くためのさらなる処理や、回収した不溶化状態の有価金属に対し再活用のための処理が必要であり、有価金属回収後にも繁雑な手段を要する。
本発明は、有価金属回収用組成物の添加により有価金属を可溶化状態のまま膜処理で回収する方法を提供する。膜を透過した水溶液は有価金属の濃度を水質基準以下に低減させるため、メッキ廃水など金属を含む廃液処理に活用することも可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明には以下の構成が含まれる。
有価金属を含有する水溶液と、タンパク質やペプチドと炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを含む有価金属回収用組成物、あるいはその水溶液を混合する。これにより、有価金属とタンパク質やペプチドを含む複合体を形成させ、この複合体を含む水溶液を膜分離処理することで、有価金属を可溶化状態のまま回収することを可能とする。この方法を用いることで、有価金属の濃度を著しく高めた水溶液と、有価金属の濃度を法令に定められた水質基準以下まで低下させた水溶液が得られる。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、有価金属を可溶化状態のまま膜処理で回収する方法を提供するものである。
被処理水を膜分離処理することで可溶化状態の有価金属の濃度を著しく高めた水溶液が得られるため、有価金属再活用のための処理の負担が軽減する。
本発明は有価金属回収用組成物の添加と膜分離処理からなる有価金属の回収方法であり、回収工程が少ないために、回収方法を新規に採用するにあたり設備導入を最小限に抑えることができる。有価金属回収用組成物はタンパク質やペプチドと食品添加物である炭酸水素ナトリウムを使用する事もできるため、環境負荷を低減した有価金属の回収方法を提供する。さらに、膜を透過した水溶液は有価金属の濃度が水質基準以下に低減するため、金属を含む廃液処理に活用することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の被処理水からの有価金属の回収方法について以下に詳細に説明する。
有価金属回収用組成物は、タンパク質やペプチド及び炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを含有することを特徴とする。有価金属の一つである鉄は、炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンの存在下でタンパク質やペプチドと複合体を形成することが知られている。
有価金属回収用組成物としてタンパク質やペプチド及び炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンを溶解した水溶液を調製する。
有価金属を含有する被処理水に、有価金属回収用組成物の水溶液を添加する。これにより、有価金属とタンパク質やペプチドが複合体を形成するため、この複合体を含む溶液を膜分離処理すると有価金属は膜を透過せず濃縮液側に留まる。有価金属の可溶化状態を保つには、被処理水に有価金属回収用組成物を添加した後の水溶液において、タンパク質やペプチド素材の濃度が0.025~10%、好ましくは0.05%~4%、より好ましくは0.125~2%に対し、炭酸水素ナトリウム濃度を0.5~13.4g/L、好ましくは1.0~6.7g/L、より好ましくは1.7~3.4g/Lとする。
有価金属の透過を防ぐには、有価金属と有価金属回収用組成物を含む被処理水に対し、限外濾過膜を使用すれば良い。使用する限外濾過膜の膜孔径は500kDa以下、好ましくは300kDa以下、より好ましくは100kDa以下であれば良い。
使用する膜の材質は、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、4フッ化エチレン、セラミックや、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミド等の親水性の膜、あるいは荷電膜を例示することができる。
本発明の有価金属の回収に関わる膜処理法は、有価金属回収、水質浄化、製造等で一般的に用いられている方法であればどのようなものでもよく、クロスフロー方式での濾過処理等を例示できる。この方法により、有価金属の濃度を著しく高めた水溶液と、有価金属の濃度を法令に定められた水質基準以下まで低下させた水溶液を得ることが可能である。
なお、膜処理中の溶液の温度調整は、使用する膜の種類が対応可能な温度で実施すれば良い。
なお、回収する有価金属としては、鉄の他に、銅、亜鉛、銀などが挙げられる。これらの有価金属の状態としては、有価金属が可溶化状態で含まれる水溶液であればよく、不溶化した状態であっても事前に塩酸や硫酸等で可溶化の状態にすれば良い。
本発明のタンパク質としては、タンパク質を含む素材であればどのような由来のものであっても良く、動物由来のタンパク質のほか、植物由来のタンパク質、菌体由来のタンパク質が挙げられる。また、これらのタンパク質を酵素分解したペプチドも使用できる。
炭酸水素イオン及び/または炭酸イオンは、水溶液中で炭酸イオン及び/または炭酸水素イオンを生じるものであればどのような成分や方法を用いて生成させてもよく、以下に例示した1種類あるいは複数の化合物及び/または方法を組み合わせて炭酸イオン及び/または炭酸水素イオンを生じさせればよい。
気体状の二酸化炭素の吹き込み、液状あるいは固体状の二酸化炭素の添加といった二酸化炭素を添加する方法、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素アンモニウムなどの炭酸水素塩を添加する方法や、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩を添加する方法等が例示できる。
【実施例0008】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0009】
[実施例1]
鉄濃度が100mg/Lである塩化第二鉄水溶液を被処理水とし、その水溶液と同量の有価金属回収用組成物水溶液を添加した。添加後の有価金属回収用組成物濃度は、炭酸水素カリウム1.7g/L、乳タンパク質素材(WPI8855(フォンテラ社))0.125%とした。鉄水溶液に有価金属回収用組成物を添加することで、鉄とタンパク質を含む複合体が形成され、鉄の沈殿物が生じないことを確認した。
この複合体を含む被処理水4mLを、遠心式50kDa膜を用い4000×gで濃縮液を2mL得るまで遠心して膜分離処理をした(2倍濃縮)。
その後、膜分離処理前の被処理水、膜分離処理後の濃縮液、透過液に含まれる鉄濃度を測定すると、透過液では鉄が検出されなかった。なお、本発明において鉄の測定はニトロソPSAP法による。
【0010】
[比較例1]
炭酸水素カリウムを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で溶液添加と膜分離処理をし、鉄濃度測定を行ったところ、透過液において17mg/Lの鉄が検出され、回収率は77.1%であった。
【0011】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で調製した複合体を含む被処理水500mLを、クロスフロー式50kDa膜を用いて膜分離処理をし、透過液を450mL得た(10倍濃縮)。その後、膜分離処理前の被処理水、膜分離処理後の濃縮液、透過液に含まれる鉄濃度測定を行うと、透過液でのみ鉄が検出されなかった。
【0012】
[実施例3]
酵母由来のペプチド素材(BD社)0.5%水溶液を調製し、これを有価金属回収用組成物のペプチド水溶液とした。実施例1と同様の濃度条件となるよう、塩化第二鉄水溶液に有価金属回収用組成物を添加することで、酵母由来のペプチドと鉄の複合体を含む溶液を調製し、沈殿が生じないことを確認した。
複合体を含む被処理水4mLを、遠心式3kDa膜を用いて実施例1と同様の条件で2倍濃縮をして鉄濃度測定を行ったところ、透過液において鉄は検出されなかった。
【0013】
[実施例4]
亜鉛濃度が100mg/Lである酢酸亜鉛水溶液を被処理水とし、有価金属回収用組成物の水溶液を添加した。調製後の有価金属回収用組成物濃度は、炭酸ナトリウム3.4g/L、乳タンパク質素材(WPI8855(フォンテラ社))2%とした。これにより、亜鉛とタンパク質を含む複合体が形成され、亜鉛の沈殿が生じないことを確認した。
この複合体を含む被処理水4mLを、遠心式10kDa膜を用いて実施例1と同様の条件で2倍濃縮をして亜鉛濃度測定を行ったところ、亜鉛の回収率は98.9%であった。なお、本発明において亜鉛の測定は5-Br-PAPSを用いた直接法による。
【0014】
[実施例5]
銅濃度が100mg/Lである硫酸銅水溶液を被処理水とし、有価金属回収用組成物の水溶液を添加した。調製後の有価金属回収用組成物濃度は、炭酸水素ナトリウム3.4g/L、大豆タンパク質素材(ロケット社)2%とした。これにより、銅とタンパク質を含む複合体が形成され、銅の沈殿が生じないことを確認した。
銅の複合体を含む被処理水4mLを、遠心式10kDa膜を用いて実施例1と同様の条件で2倍濃縮をして銅濃度測定を行ったところ、銅の回収率は99.5%であった。なお、本発明において銅の測定はDiBr-PAESAを用いた直接法による。
【0015】
[実施例6]
実施例1と同様の方法で調製した複合体を含む被処理水50Lを、クロスフロー式50kDa膜を用いて膜分離処理をし、透過液を45L得た(10倍濃縮)。その後、膜分離処理前の被処理水、膜分離処理後の濃縮液、透過液に含まれる鉄濃度測定を行うと、透過液でのみ鉄が検出されなかった。
【0016】
[実施例7]
銀濃度が100mg/Lである硝酸銀水溶液を被処理水とし、有価金属回収用組成物の水溶液を添加した。調製後の有価金属回収用組成物濃度は、炭酸水素ナトリウム1.7g/L、タンパク質素材(WPI8855(フォンテラ社))0.25%とした。これにより、銀とタンパク質を含む複合体が形成され、銀の沈殿が生じないことを確認した。
銀の複合体を含む被処理水4mLを、遠心式50kDa膜を用いて実施例1と同様の条件で2倍濃縮をして銀濃度測定を行ったところ、銀の回収率は91.6%であった。なお、本発明において銀の測定はPANを用いた直接法による。