(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160364
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】フォトマスクブランク、フォトマスクの製造方法及びフォトマスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/58 20120101AFI20221012BHJP
G03F 1/24 20120101ALI20221012BHJP
G03F 1/84 20120101ALI20221012BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20221012BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G03F1/58
G03F1/24
G03F1/84
C23C14/14 D
C23C14/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033825
(22)【出願日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2021064874
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】松橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】寺島 隆世
【テーマコード(参考)】
2H195
4K029
【Fターム(参考)】
2H195BA02
2H195BA10
2H195BB31
2H195BB35
2H195BC04
2H195BC05
2H195BC11
2H195CA01
2H195CA11
2H195CA22
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA07
4K029BA43
4K029BA58
4K029BC08
4K029CA06
4K029DC03
(57)【要約】
【課題】クロム含有膜の表層粗さが良く50nmの欠陥を検出でき、抵抗値が小さく異物を吸着可能で、バーコードパターンを読み込み可能なフォトマスクブランクを提供する。
【解決手段】基板とクロム含有膜を備え、該クロム含有膜が基板から離間する側から第1-3層を有し、いずれもクロムを含有し、第1層はさらに酸素及び窒素を含有し、Cr:44原子%以下、O:30原子%以上、N:26原子%以下で、厚さが8-20nmで、第2層はさらに窒素を含有し、Cr:66-92原子%、N:8-34原子%で、厚さが40-70nm以下で、第3層はさらに酸素及び窒素を含有し、Cr:44原子%以下、O:30原子%以上、N:26原子%以下で、厚さが10nm以下であるフォトマスクブランク。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
クロムを含有する材料で構成された膜
を備え、
前記クロムを含有する材料で構成された膜が、前記基板から離間する側から第1層、第2層、及び第3層を有し、
前記第1層、第2層、及び第3層は、いずれもクロムを含有し、
前記第1層は、さらに酸素及び窒素を含有し、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが8nm以上20nm以下であり、
前記第2層は、さらに窒素を含有し、クロム含有率が66原子%以上92原子%以下、窒素含有率が8原子%以上34原子%以下、かつ厚さが40nm以上70nm以下であり、
前記第3層は、さらに酸素及び窒素を含有し、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが10nm以下であることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項2】
前記クロムを含有する材料で構成された膜が遮光膜であり、波長355nmの露光光に対する反射率が32%以下、かつ波長400nmの露光光に対する反射率が27%以上であることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクブランク。
【請求項3】
前記クロムを含有する材料で構成された膜の膜厚が53nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフォトマスクブランク。
【請求項4】
前記クロムを含有する材料で構成された膜の抵抗値が20オーム/□以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項5】
前記基板に対して、前記クロムを含有する材料で構成された膜を有する側と反対側に裏側膜をさらに備え、
該裏側膜が、前記基板から離間する側から、前記クロムを含有する材料で構成された膜と同様の前記第1層、前記第2層、及び前記第3層を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のフォトマスクブランク。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のフォトマスクブランクから、前記クロムを含有する材料で構成された膜の回路パターンを有するフォトマスクを製造する方法であって、
(A)前記クロムを含有する材料で構成された膜の前記基板から離間する側に、レジスト膜を形成する工程と、
(B)前記レジスト膜をパターニングして、レジストパターンを形成する工程と、
(C)前記レジストパターンをエッチングマスクとして、前記クロムを含有する材料で構成された膜を、酸素を含む塩素系ガスを用いるドライエッチングによりパターニングして、クロムを含有する材料で構成された膜のパターンを形成する工程と、
(D)前記レジストパターンを除去する工程
を備えることを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項7】
基板と、
該基板に設けられ、回路パターンである有効領域を有するクロムを含有する材料で構成された膜
を備え、
前記クロムを含有する材料で構成された膜が、前記基板から離間する側から第1層、第2層、及び第3層を有し、
前記第1層、第2層、及び第3層は、いずれもクロムを含有し、
前記第1層は、さらに酸素及び窒素を含有し、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが8nm以上20nm以下であり、
前記第2層は、さらに窒素を含有し、クロム含有率が66原子%以上92原子%以下、窒素含有率が8原子%以上34原子%以下、かつ厚さが40nm以上70nm以下であり、
前記第3層は、さらに酸素及び窒素を含有し、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが10nm以下であることを特徴とするフォトマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクブランク(特には半導体デバイスなどの製造および製造装置の管理において使用されるフォトマスクブランク)、それを用いたフォトマスクの製造方法及びフォトマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、特に大規模集積回路の高集積化により、投影露光に、高いパターン解像性が求められている。そこで、フォトマスクにおいては、転写パターンの解像性を向上させる手法として、位相シフトマスクが開発された。位相シフト法の原理は、フォトマスクの開口部を通過した透過光の位相が開口部に隣接する部分を通過した透過光の位相に対して約180度反転するように調整することによって、透過光が干渉しあう際に境界部での光強度を弱め、その結果として、転写パターンの解像性及び焦点深度を向上させるものであり、この原理を用いたフォトマスクを総じて位相シフトマスクと呼ぶ。
【0003】
位相シフトマスクに使用される位相シフトマスクブランクは、ガラス基板などの透明基板上に、位相シフト膜が積層され、位相シフト膜の上にクロム(Cr)を含有する膜を積層した構造のものが最も一般的である。位相シフト膜は、通常、露光光に対して、位相差が175~185度、透過率が6~30%程度であり、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)とを含有する膜で形成されたものが主流である。また、クロムを含有する膜は、位相シフト膜と合わせて所望の光学濃度となる膜厚に調整され、クロムを含有する膜を遮光膜とすると共に、位相シフト膜をエッチングするためのハードマスク膜とするのが一般的である。
【0004】
この位相シフトマスクブランクから位相シフトマスクのパターンを形成する方法として、より具体的には、位相シフトマスクブランクのクロムを含有する膜上にレジスト膜を形成し、このレジスト膜に光又は電子線によりパターンを描画し、現像してレジストパターンを形成し、このレジストパターンをエッチングマスクとして、クロムを含有する膜をエッチングしてパターンを形成する。更に、このクロムを含有する膜のパターンをエッチングマスクとして位相シフト膜をエッチングして、位相シフト膜パターンを形成し、その後、レジストパターンとクロムを含有する膜のパターンを除去する。
【0005】
ここで、位相シフト膜パターンの回路パターンが形成されている部分より外側に遮光膜を残存させて、位相シフト膜と遮光膜とを合わせた光学濃度が3以上となるように、位相シフトマスクの外周縁部の遮光部(遮光膜パターン)とすることが行われる。これは、ウエハ露光装置を用いて回路パターンを、ウエハに転写する際、不要な露光光が漏れて、回路パターンより外側に位置する隣接するチップ上のレジスト膜に照射されることを防ぐためである。このような遮光膜パターンを形成する方法としては、位相シフト膜パターンを形成し、レジストパターンを除去した後、レジスト膜を新たに形成し、パターン描画、現像によって形成したレジストパターンをエッチングマスクとして、クロムを含有する膜をエッチングして、外周縁部の遮光膜パターンを形成する方法が一般的である。
【0006】
高精度なパターン形成が要求される位相シフトマスクでは、エッチングはガスプラズマを用いるドライエッチングが主流である。クロムを含有する膜のドライエッチングには、酸素を含む塩素系ガスを用いるドライエッチング(塩素系ドライエッチング)、モリブデンとケイ素とを含有する膜のドライエッチングには、フッ素系ガスを用いるドライエッチング(フッ素系ドライエッチング)が用いられる。特に、クロムを含有する膜のドライエッチングでは、塩素系ガスに対して10~25体積%の酸素ガスを混合したエッチングガスとすることで、化学的な反応性が高くなり、エッチング速度が向上することが知られている。
【0007】
回路パターンの微細化に伴い、位相シフトマスクパターンにも、微細に形成する技術が求められている。特に、位相シフトマスクのメインパターンの解像性を補助する、ラインパターンのアシストパターンは、ウエハ露光装置を用いて回路パターンをウエハに転写する際、ウエハに転写されないように、メインパターンよりも小さく形成する必要がある。ウエハ上での回路のラインアンドスペースパターンのピッチが10nmの世代の位相シフトマスクにおいては、位相シフトマスク上のラインパターンのアシストパターンの線幅は、40nm程度が求められる。
【0008】
さらに半導体デバイスの微細化に伴い、特に大規模集積回路の高集積化により、投影露光に、高いパターン解像性が求められており、上記位相シフトマスクでも所望のパターン解像性を得られなくなってきた。そこで露光光に極端紫外線領域光を用いたEUVリソグラフィが用いられるようになった。
【0009】
極端紫外線領域光は、あらゆる物質に対して吸収されやすく、従来のArF光を用いたフォトリソグラフィのような透過型リソグラフィを使用できない。このため、EUVリソグラフィでは、反射光学系を用いる。
【0010】
EUVリソグラフィで用いられるフォトマスクは、ガラス製等の基板上に極端紫外線領域光を反射する反射層と、極端紫外線領域光を吸収層とがこの順で形成された構造を有している。反射層としては、低屈折率と高屈折率膜とを交互に積層することで、極端紫外線領域光を層表面に照射した際の反射率が高められた多層反射膜が使用される。多層反射膜の低屈折率膜としては、モリブデン(Mo)層が、高屈折率膜としては、ケイ素(Si)層が通常使用される。
吸収体層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的にはたとえば、クロム(Cr)やタンタル(Ta)を主成分とする材料が用いられる。
【0011】
また、EUVリソグラフィで用いられる極端紫外線領域光は波長13.5nmであり、従来のArF光は波長193nmであり、従来のフォトリソグラフィに対して露光波長が短く、フォトマスク上のより微細なパターンを転写させることが可能である。
【0012】
一方で、EUVリソグラフィでは、ArFリソグラフィでは転写させないフォトマスク上の微小な異物も転写させることになり、所望のパターンを製造することを妨げる。そのためEUVリソグラフィでは、従来のフォトリソグラフィに対して、より微細な欠陥の保証が求められる。そのためにはフォトマスク製造工程で異物を発生させない必要があり、従来のフォトリソグラフィでの装置管理よりさらに微細な欠陥を検出できるフォトマスクブランクが必要となる。
【0013】
フォトマスク製造装置の装置管理において、例えばドライエッチャーでは、処理するフォトマスクをローダーに置いてから、搬送室に搬送し、その後、プラズマ処理室に搬送する。そのプラズマ処理室内の側壁や、ステージから発塵があり、異物がフォトマスクの回路パターンに付着した場合、その異物がエッチングを妨げるマスクとなり、所望のフォトマスクパターンを作製することを妨げる。
そこで、搬送室及びプラズマ処理室内で発塵が発生していないことを確認するため、フォトマスクブランクまたは透明基板を搬送室に搬送し、その後プラズマ処理室に搬送し、プラズマ処理を実施せず、再び搬送室に搬送し、次いでローダーに戻し、その後フォトマスクブランク検査装置によりフォトマスクブランクまたは透明基板表層の異物の増加、増加位置を調査する。
上述したドライエッチャーだけではなく、フォトマスクを製造する際、レジスト塗布装置、電子線描画装置、現像装置、洗浄装置、フォトマスクのパターン外観検査装置及び修正装置において装置内の異物を管理する必要がある。さらにウエハ露光工程で用いられる露光装置においても、装置内の異物を管理する必要がある。特にEUVリソグラフィにおいて、フォトマスクの回路パターンに異物が付着することを防ぐフォトマスク保護用ペリクルが実用化されておらず、ウエハ露光装置内の装置管理が必要となる。
【0014】
フォトマスクブランクの欠陥検査は、紫外線領域光を使用するフォトマスクブランク検査装置が用いられる。フォトマスクブランクの欠陥検査装置は、特定波長域の光を放出する光放出手段と、この光放出手段から放出された光がフォトマスクブランクの表面に照射され、その反射光を受光する検出器を備えている。
フォトマスクブランクの欠陥検査装置では、検査されるフォトマスクブランクの表面反射率が低い方が、より多くの光量をフォトマスクに照射することが可能であり、より高感度の検査を実施可能である。これはフォトマスクブランクの反射率が高い場合、光放出手段からの光が異物とその周囲の膜に衝突し、その後反射した光が検出器に検出される際、異物からの反射光とその周囲の膜の反射光のコントラストが小さくなるため、異物からの反射光と膜からの反射光の差が判別しにくくなり、光放出手段から多くの光量をフォトマスクに照射できないためである。光放出手段からより多くの光量をフォトマスクに照射する方が、より小さな欠陥を検出することが可能である。
【0015】
ロジックデバイス7nm、5nm世代では、フォトマスクブランク上で50nmの欠陥がないことが求められ、フォトマスク製造装置内部にも50nmの欠陥が存在しないことが求められる。そのため、上述のフォトマスク製造装置の状態を確認するためのフォトマスクブランクは50nmの欠陥が検出されることが求められる。ロジックデバイス7nm、5nm世代のフォトマスクブランク欠陥検査装置の検査波長は200nmから400nm程度の紫外領域となる。
【0016】
ウエハ露光工程で用いられる露光装置は、フォトマスクを管理するためにフォトマスクに、リソグラフィによってバーコードパターンをマスク端に作製し、管理することが一般である。そのバーコードパターンは、波長400nm以上の光放出手段と、その反射光を受光する検出器を備えたものによって、読み込まれる。
EUVリソグラフィで使用されるウエハ露光機は、反射光学系を用いるため、バーコードパターンを読み込む手段も反射光学系となる。反射光を受光する光学系の場合、波長400nm以上の反射率27%が必要となる。
【0017】
例えば、特許文献1に記載の方法では、透明基板上に、該透明基板上に接して、酸素含有量が比較的少ない酸化クロム層を形成し、それに接して酸素含有量が少ない酸化クロム膜を厚く形成し、それに接して酸素含有量が多い酸素リッチな酸化クロム膜を薄く形成して、クロムを含有する材料で構成された膜の表面反射率を下げている。これにより高感度の検査が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
フォトマスクブランクの検査装置による欠陥検査を阻害する要因としては、クロム膜に起因する問題も存在する。クロム膜の膜表面の粗さが悪い場合、クロム膜の膜表層の凹凸を欠陥と判定し、大量の疑似欠陥を検出する。その場合、取り除くべき欠陥とクロム膜の凹凸を見分けることが難しく検査感度を下げる必要があり、検査能力が不十分となる。
【0020】
例えば、上述した特許文献1に記載の方法では、透明基板上に接して、酸素含有量が比較的少ない酸化クロム層を形成し、それに接して酸素含有量が少ない酸化クロム膜を厚く形成し、それに接して酸素含有量が多い酸素リッチな酸化クロム膜を薄く形成しているが、クロムを含有する材料で構成された膜の表面粗さRqが悪いため、フォトマスクブランクの欠陥検査装置の波長355nmに対する検査感度を十分に上げることができず、50nmの欠陥を安定して検出できないことが分かった。
【0021】
また、クロムを含有する材料で構成された膜の抵抗値が高いため、膜表層に電荷を蓄積しやすく、フォトマスク製造装置内で発生しているマイナス電荷をもった異物をクーロン反発によって、クロムを含有する材料で構成させた膜から遠ざけ、クロムを含有する材料で構成された膜の表層に異物を吸着させず、フォトマスク製造装置の装置管理で使用した場合、真の装置状態を調査することができない。
【0022】
さらに、ウエハ露光工程で用いられる露光装置において、フォトマスクのバーコードパターンを反射光学系で読み込む場合、波長400nm以上の反射率27%が必要となるが、上述した特許文献1に記載の方法では、満たすことができない。
【0023】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、クロムを含有する材料で構成された膜の表面粗さRqが良く、フォトマスクブランクの欠陥検査装置の検査感度を十分にあげることができ、50nmの欠陥を検出でき、また、膜の抵抗値が小さいことで、フォトマスク製造装置内の周囲の異物を吸着することが可能であり製造装置管理用として有用であり、さらに、ウエハ露光工程で用いられる露光装置において、フォトマスクのバーコードパターンを反射光学系で読み込むことが可能であり、また、公知のフォトマスクプロセスを用いて、フォトマスクのパターンを製造できるフォトマスクブランクを提供することを目的とする。
また、それを用いたフォトマスクの製造方法及びフォトマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、
基板と、
クロムを含有する材料で構成された膜
を備え、
前記クロムを含有する材料で構成された膜が、前記基板から離間する側から第1層、第2層、及び第3層を有し、
前記第1層、第2層、及び第3層は、いずれもクロムを含有し、
前記第1層は、さらに酸素及び窒素を含有し、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが8nm以上20nm以下であり、
前記第2層は、さらに窒素を含有し、クロム含有率が66原子%以上92原子%以下、窒素含有率が8原子%以上34原子%以下、かつ厚さが40nm以上70nm以下であり、
前記第3層は、さらに酸素及び窒素を含有し、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが10nm以下であることを特徴とするフォトマスクブランクを提供する。
【0025】
上記のクロムを含有する材料で構成された膜(以下、単にクロムを含有する膜とも言う)に関し、まず第1層において酸素及び窒素の含有率が上記範囲であれば、クロムを含有する膜の表面粗さ(特には表面粗さRq)を良好にするのに有益である。また、クロムを含有する膜における反射率の調整(特には波長355nmの露光光の反射率を32%以下にすること、および、波長400nmの露光光の反射率を27%以上にすることが目標である。以下、露光光を単に光とも言う。また、露光光には検査装置での検査光が含まれる。)に有益である。
また、第1層において厚さが上記範囲であれば、第2層による影響(表面粗さ、反射率、導電率に関する影響)を適度に受けやすくすることができる。
【0026】
第2層において窒素の含有率が上記範囲であれば、クロムを含有する膜の表面粗さを良好にするのに有益であり、また、反射率の調整に有益である。また、クロムの含有率が第1層、第3層に比べて高く、第2層の導電率を高くすることができる。
また第2層において厚さが上記範囲であれば、クロムを含有する膜での波長400nmの光の反射率を27%以上にするのに有益である。
【0027】
第3層において酸素及び窒素の含有率が上記範囲であれば、反射率の調整に有益である。
また第3層において厚さが上記範囲であれば、反射率の調整に有益である。
【0028】
なお、クロムを含有する膜が例えば第1層のみでは、良好な表面粗さや上記のような目標とする反射率の調整を達成できない。しかしながら、第1層の厚さが上記範囲であるため、上記のような第2層(および第3層)の影響も受けることができ、良好な表面粗さや反射率の調整を達成することができる。
表面粗さが良好であるため、フォトマスクブランクの欠陥検査において、クロムを含有する膜の表層の凹凸を欠陥と判定してしまい、その疑似欠陥が大量に検出されることを抑制できる。そのため、取り除くべき欠陥と疑似欠陥との見分けのために波長355nmの光に対する検査感度を下げる必要もないことから、特には50nmレベルのサイズの欠陥を検出することができる。
また、反射率の調整に関して、波長355nmの光の反射率を32%以下に調整可能であるため、欠陥検査において、より多くの光量を照射することが可能であり、より高感度の検査を実施可能であり、より小さなサイズの欠陥を検出できる。
また、波長400nmの光の反射率を27%以上に調整可能であるため、フォトマスクにしたときにマスク端に管理用に作製されるバーコードパターンを反射光学系で読み込むことができる。
【0029】
さらには、上記のように導電率の高い第2層を挟むようにして第1層と第3層が位置する三層構造であり、クロムを含有する膜の抵抗値を低減することができる。
膜抵抗値を小さくすることができるため、フォトマスク製造装置内の周囲の異物を吸着することが可能であり、その製造装置の管理用として有用なものとすることができる。
【0030】
また、このようなクロムを含有する膜を有するフォトマスクブランクからは、公知のフォトマスクプロセスで十分にフォトマスクのパターンを製造可能である。
【0031】
このとき、前記クロムを含有する材料で構成された膜が遮光膜であり、波長355nmの露光光に対する反射率が32%以下、かつ波長400nmの露光光に対する反射率が27%以上のものとすることができる。
【0032】
このようなものであれば、欠陥検査において、より多くの光量を照射することができ、より高感度の検査、ひいてはより小さなサイズの欠陥の検出が可能な遮光膜を有するフォトマスクブランクとなる。また、フォトマスクの管理用バーコードパターンを読み込むことができる。
【0033】
また、前記クロムを含有する材料で構成された膜の膜厚が53nm以上100nm以下のものとすることができる。
【0034】
このようなものであれば、反射率の調整をより確実に行うことができるものとなる。
【0035】
また、前記クロムを含有する材料で構成された膜の抵抗値が20オーム/□以下のものとすることができる。
【0036】
このようなものであれば、抵抗値が小さいため、フォトマスク製造装置内において、周囲の異物の吸着をより確実に行うことができ、製造装置の管理用に、より有用なものとなる。
【0037】
また、前記基板に対して、前記クロムを含有する材料で構成された膜を有する側と反対側に裏側膜をさらに備え、
該裏側膜が、前記基板から離間する側から、前記クロムを含有する材料で構成された膜と同様の前記第1層、前記第2層、及び前記第3層を有するものとすることができる。
【0038】
基板が例えば石英製の場合、基板表層に電荷を蓄積しやすく、フォトマスク製造装置内で発生している異物を吸着させにくい。しかしながら、上記のようにクロムを含有する材料で構成された膜に加えて、その反対側に上記の裏側膜を備えたものであれば、その裏側膜を有する側においても異物を吸着させやすくすることができ、製造装置の管理用として、より有用なものとすることができる。
【0039】
また本発明は、上記のフォトマスクブランクから、前記クロムを含有する材料で構成された膜の回路パターンを有するフォトマスクを製造する方法であって、
(A)前記クロムを含有する材料で構成された膜の前記基板から離間する側に、レジスト膜を形成する工程と、
(B)前記レジスト膜をパターニングして、レジストパターンを形成する工程と、
(C)前記レジストパターンをエッチングマスクとして、前記クロムを含有する材料で構成された膜を、酸素を含む塩素系ガスを用いるドライエッチングによりパターニングして、クロムを含有する材料で構成された膜のパターンを形成する工程と、
(D)前記レジストパターンを除去する工程
を備えることを特徴とするフォトマスクの製造方法を提供する。
【0040】
このようにすれば、表面粗さが良く、欠陥検査において50nmのサイズの欠陥を検出でき、製造装置内の異物を吸着可能であり、バーコードパターンを読み込み可能なフォトマスクを製造することができる。
【0041】
また本発明は、
基板と、
該基板に設けられ、回路パターンである有効領域を有するクロムを含有する材料で構成された膜
を備え、
前記クロムを含有する材料で構成された膜が、前記基板から離間する側から第1層、第2層、及び第3層を有し、
前記第1層、第2層、及び第3層は、いずれもクロムを含有し、
前記第1層は、さらに酸素及び窒素を含有し、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが8nm以上20nm以下であり、
前記第2層は、さらに窒素を含有し、クロム含有率が66原子%以上92原子%以下、窒素含有率が8原子%以上34原子%以下、かつ厚さが40nm以上70nm以下であり、
前記第3層は、さらに酸素及び窒素を含有し、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが10nm以下であることを特徴とするフォトマスクを提供する。
【0042】
このようなものであれば、表面粗さが良く、欠陥検査において50nmのサイズの欠陥を検出でき、製造装置内の異物を吸着可能であり、バーコードパターンを読み込み可能なものとなる。しかも公知のフォトマスクプロセスにより、フォトマスクブランクからフォトマスクパターンが製造されたものとすることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明のフォトマスクブランクは、クロムを含有する材料で構成された膜の表面粗さが良好であり、フォトマスクブランク検査装置の検査感度を上げても疑似欠陥を検出することなく、50nmの欠陥を検出できる。また、特に波長400nmの検査光に対する反射率が27%以上でありバーコートパターンを読み込むことが可能なものである。また、膜の抵抗値が小さいことで周囲の異物を吸着することが可能である。特には、上記のクロムを含有する材料で構成された膜が基板の両側に積層されていることで、フォトマスクブランクの上面及び下面において異物を吸着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明のフォトマスクブランクの第1の態様(フォトマスクブランク)の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明のフォトマスクの第1の態様(フォトマスク)の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明のフォトマスクブランクの第2の態様(フォトマスクブランク)の一例を示す断面図である。
【
図4】本発明のフォトマスクの第2の態様(フォトマスク)の一例を示す断面図である。
【
図5】本発明のフォトマスクブランクの第1の態様(フォトマスクブランク)の他の例を示す断面図である。
【
図6】本発明のフォトマスクブランクの第2の態様(フォトマスクブランク)の他の例を示す断面図である。
【
図7】(a)~(d)は、本発明の第1の態様のフォトマスクブランクからフォトマスクを製造する工程を説明するための断面図である。
【
図8】(a)~(d)は、本発明の第2の態様のフォトマスクブランクからフォトマスクを製造する工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
前述したように、フォトマスクブランクに関しては、表面粗さ、波長355nmの光や波長400nmの光に対する反射率、抵抗値を起因とする課題があった。
そこで本発明者らは、上記課題を解決するために、透明基板などの基板と、基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜で構成させた膜を備えるフォトマスクブランクについて、鋭意検討を重ねた。その結果、膜の表面粗さが良好であり、特に波長355nmの検査光に対する表面反射率が低く、波長400nmの検査光に対する反射率が27%以上を満たすためには、酸素を多く含有する酸素と窒素を含有する層が良好であることを知見した。
更に、クロムを含有する材料で構成された膜の抵抗値が、例えば20オーム/□以下のような小さな値である場合、周囲の異物を吸着することができるため、クロムを含有する膜を単層ではなく、導電率のよい、例えば窒化クロム層を間に挿入し、基板から離間する側から、例えば、酸窒化クロム層、窒化クロム層、酸窒化クロム層という三層構造にすることで、膜の抵抗値を低減できることを知見した。
【0046】
そして、これらの知見から、フォトマスクブランクとして、基板と、クロムを含有する材料で構成された膜を備え、前記クロムを含有する材料で構成された膜が、前記基板から離間する側から第1層、第2層、及び第3層を有し、前記第1層、第2層、及び第3層は、いずれもクロムを含有し、前記第1層は、さらに酸素及び窒素を含有し、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが8nm以上20nm以下であり、前記第2層は、さらに窒素を含有し、クロム含有率が66原子%以上92原子%以下、窒素含有率が8原子%以上34原子%以下、かつ厚さが40nm以上70nm以下であり、前記第3層は、さらに酸素及び窒素を含有し、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが10nm以下であるものが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0047】
以下、本実施の形態について説明する。
本実施の形態のフォトマスクブランクは、基板と、基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を有する。本実施の形態において、クロムを含有する材料で構成された膜は、基板から離間する側から第1層、第2層、及び第3層からなる3層構成の積層膜である。なお、クロムを含有する材料で構成された膜は4層以上から構成されてもよく、例えば5層や6層から構成されてもよい。
また、後に詳述するが、クロムを含有する材料で構成された膜は、片面のみならず基板の両側に積層されてもよい。
【0048】
(基板について)
基板としては、基板の種類や基板サイズに特に制限はなく、反射型のフォトマスクブランク及びフォトマスクにおいては、必ずしも露光波長として用いる波長で透明である必要はない。透過型のフォトマスクブランク及びフォトマスクにおいては、露光波長として用いる波長で透明である石英基板などの透明基板が適用され、例えば、SEMI規格において規定されている、6インチ角、厚さ0.25インチの6025基板と呼ばれる基板が好適である。6025基板は、SI単位系を用いた場合、通常、152mm角、厚さ6.35mmの基板と表記される。
【0049】
以下、本実施の形態に係るフォトマスクブランク及びフォトマスクの構造、並びにフォトマスクブランクからフォトマスクを製造する方法について、図面を参照して説明する。同一の構成要素については、同一の参照符号を付して、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、便宜上、拡張して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは、実際とは必ずしも同じではない。
【0050】
図1は、本実施の形態のフォトマスクブランクの第1の態様の一例を示す断面図である。このフォトマスクブランク511は、透明基板1上に、透明基板1に接して形成されている、クロムを含有する材料で構成された膜(クロムを含有する膜、または、被加工膜とも言う)(例えば遮光膜)21を有している。クロムを含有する材料で構成された膜21は、透明基板から離間する側から、第1層211、第2層212、及び第3層213からなる。言い換えると、透明基板1側から第3層213、第2層212、第1層211が積層されている。
【0051】
図2は、本実施の形態のフォトマスクの第1の態様の一例を示す断面図である。このフォトマスク513は、透明基板1上に、透明基板1に接して形成されている、クロムを含有する材料で構成された膜のパターン(遮光膜パターン)21aを有している。遮光膜パターン21aは、透明基板1から離間する側から、第1層211、第2層212、及び第3層213からなる(透明基板1側から第3層213、第2層212、第1層211)。
図1に示されるフォトマスクブランク511から、
図2に示されるフォトマスク513を製造することができる。
なお、フォトマスク513において、回路パターンが描かれた領域が有効領域5であり、該有効領域5の周囲に位置し、回路パターンが描かれない領域が遮光膜領域6である。
【0052】
図3は、本実施の形態のフォトマスクブランクの第2の態様の一例を示す断面図である。このフォトマスクブランク521は、まず、透明基板1の上面側にクロムを含有する材料で構成された膜21(被加工膜)を有しており、透明基板から離間する側から、第1層211、第2層212、及び第3層213からなる。またその反対側(下面側)に裏側膜21’をさらに備えている。この裏側膜21’は、透明基板1から離間する側から、上面側のクロムを含有する材料で構成された膜21と同様の第1層211、第2層212、及び第3層213を有している。すなわちこの態様では、透明基板1に接して両側に、同様のクロムを含有する材料で構成された膜を有している。
【0053】
図4は、本実施の形態のフォトマスクの第2の態様の一例を示す断面図である。このフォトマスク523は、透明基板1の上面側に透明基板1に接して形成されている、クロムを含有する材料で構成された膜のパターン(遮光膜パターン)21aを有しており、透明基板から離間する側から、第1層211、第2層212、及び第3層213からなる。またその反対側(下面側)に裏側膜21’をさらに備えている。この裏側膜21’は、透明基板1から離間する側から、上面側のクロムを含有する材料で構成された膜21と同様の第1層211、第2層212及び第3層213を有している。
【0054】
本実施の形態において、クロムを含有する材料で構成された膜は、基板から離間する側から第1層、第2層、及び第3層からなる3層構成の積層膜であるが、第1層及び第3層は、各々、クロム、酸素及び窒素を含有する材料で構成されており、第2層は、クロム、及び窒素を含有する材料で構成されている。クロムを含有する材料は、フッ素系ドライエッチングに対して耐性を有し、かつ塩素系ドライエッチングで除去可能な材料であることが好ましい。
第1層及び第3層のクロム、酸素及び窒素を含有する材料は、ケイ素を含有していないことが好ましい。第1層及び第3層のクロム、酸素及び窒素を含有する材料としては、クロム(Cr)と酸素(O)と窒素(N)とからなる材料(CrON)が好適である。
一方、第2層のクロム、及び窒素を含有する材料も、ケイ素を含有していないことが好ましい。第2層のクロム、及び窒素を含有する材料としては、クロム(Cr)と窒素(N)からなる材料(CrN)が好適である。
【0055】
以下、各層についてさらに詳述する。なお、基本的には各層ごとに各原子の含有率や厚さ、およびそれらによる効果について説明するが、層同士の影響もあるので、ある層の説明をしている箇所において、別の層の説明や該別の層との関係も併せて説明することがある。
(第1層について)
本実施の形態のクロムを含有する材料で構成された膜において、基板から離間する側の層である第1層(上層)の組成は、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが8nm以上20nm以下である。
第1層のクロム含有率は43原子%以下であることが好ましく、また、30原子%以上、特に38原子%以上であることが好ましい。
第1層の酸素含有率は32原子%以上であることが好ましく、また、60原子%以下、特に54原子%以下であることが好ましい。
第1層の窒素含有率は25原子%以下であることが好ましく、また、5原子%以上、特に8原子%以上であることが好ましい。
第1層の厚さは18nm以下であることが好ましく、また、10nm以上であることが好ましい。
【0056】
第1層は、フォトマスクブランクからフォトマスクを製造するときには、洗浄液と直接接触する層であり、かつレジスト膜と接する層であり、フォトマスクブランク検査装置で検査する際、光放出手段から放出された光が入射する、基板から離間する側に位置する層である。そのため、第1層には、洗浄液に対する化学的耐性が高いこと、また、第1層、第2層及び第3層を合わせて、波長355nmの検査光に対する反射率が32%以下、かつ、波長400nmの検査光に対する反射率が27%以上であることが求められる(以下、反射率の調整とも言う)。
【0057】
酸窒化クロム(CrON)は、酸化クロム(CrO)と比べて、硫酸と過酸化水素水の混合液やアンモニア添加水(アンモニア添加過酸化水素水、APM)などで溶解せず、光学特性を安定して保つことが可能である。
また、酸窒化クロム(CrON)は、窒化クロム(CrN)と比べて、露光光に対する反射率が低い。そのため、クロムを含有する材料で構成された膜の波長355nmの検査光に対する反射率が32%以下とする場合に有利である。
このような観点から、第1層を、クロム、酸素及び窒素を含有する材料で構成し、酸素含有率が比較的高い酸素リッチな組成である上述した所定の組成(クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下)とすることが有益である。
【0058】
また、酸窒化クロム(CrON)は、酸化クロム(CrO)と比べて、膜の表面粗さRqが良好となる。このような観点から、第1層を酸素含有量と窒素含有量が比較的高い酸窒素リッチな組成である上述した所定の組成(クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下)とすることが有益である。
【0059】
また、後述するように、クロムを含有する材料で構成された膜の表面粗さRq、反射率および抵抗値の観点から第1層の厚さを上記のように20nm以下とする。
その一方で、厚さが薄すぎると第2層から影響を過度に受けてしまう恐れがあるため、上記のように8nm以上とする。
以上のような第1層であれば、適度に第2層(および第3層)からの影響も受けることができ、良好な表面粗さ、反射率の適切な調整、抵抗値の低減が達成されたクロムを含有する膜を得るのに有益である。
【0060】
(第2層について)
本実施の形態のクロムを含有する材料で構成された膜において、第1層と第3層に挟まれた層である第2層の組成は、クロム含有率が66原子%以上92原子%以下、窒素含有率が8原子%以上34原子%以下であり、かつ厚さが40nm以上70nm以下である。
第2層のクロム含有率は特に70原子%以上90原子%以下であることが好ましい。
第2層の窒素含有率は30原子%以下であることが好ましく、また、特に10原子%以上であることが好ましい。
【0061】
また、フォトマスクブランク検査装置において、光放出手段から放出された検査光に対するクロムを含有する材料で構成された膜の反射率が大きい方が、より多くの光を照射することができないため、検査感度を下げる必要がある。この観点から波長355nmの検査光に対する反射率が32%以下、特に30%以下であることが望ましい。
また、ウエハ露光工程で用いられる露光装置は、フォトマスクを管理するために、フォトマスクにフォトリソグラフィによってバーコードパターンをマスク端に作製し、そのバーコードの情報を用いてフォトマスクを管理することが一般である。そのバーコードパターンは、波長400nm以上の光放出手段と、その反射光を受光する検出器を備えたものによって、読み込まれる。
反射光を受光する場合、波長400nm以上の検査光に対する、クロムを含有する材料で構成された膜の反射率は27%が必要となる。この観点から、波長400nmの検査光に対する反射率が27%以上であることが望ましい。
また、上述した反射率(特に400nmの光の反射率)を満たすために、第2層の厚さは40nm以上70nm以下とし、特に44nm以上68nm以下であることが好ましい。
【0062】
窒化クロムは、窒素含有量が多い窒素リッチな窒化クロムとなることで、膜の表面粗さRqが良好となる。このような観点から、第2層を窒素含有率が比較的高い窒素リッチな組成である上述した所定の組成(クロム含有率が66原子%以上92原子%以下、窒素含有率が8原子%以上34原子%以下)とすることが有益である。そして、上述したより好ましい含有率の範囲であれば、より確実に良好な表面粗さを有するものとなる。
【0063】
また、第2層は第1層と接しているため、第1層の厚さが薄い方が第2層の表面粗さRqの影響を受ける。そのため、上述したように第1層の厚さを20nm以下とすることが有益である(ただし、8nm以上とする)。
また、窒化クロムは窒素リッチになる方が、波長355nmの検査光に対する反射率が小さくなり、第2層は第1層と接して形成されているため、第2層は波長355nmの検査光に対する反射率に影響する。このような観点だけからすると、第2層を比較的窒素リッチな組成である上述した所定の組成とすることが有益である。しかし、その一方で、窒化クロムは窒素が少ない方が、波長400nmの検査光に対する反射率が大きくなり、第2層は第1層と接して形成されるため、第2層は波長400nmの検査光に対する反射率に影響する。波長355nmと400nmの光に対するこれらのような観点から、第2層を上記した所定の組成(クロム含有率が66原子%以上92原子%以下、窒素含有率が8原子%以上34原子%以下)とすることが有益である。
【0064】
クロムを含有する材料で構成された膜は、フォトマスク製造装置内に搬送された際、フォトマスク製造装置内の雰囲気にさらされる。クロムを含有する材料で構成された膜の抵抗値が高い場合は、クロムを含有する材料で構成された膜表層に電荷が蓄積しやすく、フォトマスク製造装置内で発生しているマイナス電荷をもった異物をクーロン反発によって、クロムを含有する材料で構成させた膜から遠ざける。そのためフォトマスク製造装置内で発生している異物を吸着させにくく、フォトマスク製造装置内の異物を調査する目的で使用した場合、真の装置状態を調査することができない。そのため、前述したように、クロムを含有する材料で構成された膜の抵抗値が低いことが課題として挙げられている。
【0065】
第1層は、上述した理由から、クロム、酸素及び窒素を含有する材料で構成し、酸素含有率が比較的高い酸素リッチな組成とするが、酸化クロム(CrO)は、窒化クロム(CrN)と比べて膜の抵抗値が高く、酸素リッチな組成の酸窒化クロム(CrON)である第1層は、抵抗値が比較的高くなっている。
また、第2層は、上述した理由から、クロム、及び窒素を含有する材料で構成し、窒素含有率が比較的高い窒素リッチな組成とするが、クロム含有率も比較的高く(66原子%以上92原子%以下)、シート抵抗値が低くなっている。そのため、上記したように第1層の膜厚を薄くし、第2層は、窒素含有量が比較的高い組成である上述した所定の組成とすることが有益である。
【0066】
クロムを含有する材料で構成された膜の抵抗値は、第1層、第2層、第3層を合わせた抵抗値が、例えば20kΩ/□以下が好ましく、特に18kΩ/□以下であることが好ましく、第1層、第2層の上述した特徴により、このような抵抗値を有するクロムを含有する材料で構成された膜とすることが可能である。また、第2層は第1層と接しているため、第1層の膜厚が薄い方が、第1層の形成時に、導電性の高い第2層の影響を受けるので、第1層を導電性の低い組成としやすい。そのため、この観点から第1層の厚さを20nm以下(ただし、8nm以上)とすることが有益である。
【0067】
(第3層について)
本実施の形態のクロムを含有する材料で構成された膜において、基板側の層である第3層の組成は、クロム含有率が44原子%以下、酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下であり、かつ厚さが10nm以下である。
第3層のクロム含有率は43原子%以下であることが好ましく、また、30原子%以上、特に38原子%以上であることが好ましい。
第3層の酸素含有率は32原子%以上であることが好ましく、また、60原子%以下、特に54原子%以下であることが好ましい。
第3層の窒素含有率は25原子%以下であることが好ましく、また、5原子%以上、特に8原子%以上であることが好ましい。
第3層の厚さは1nm以上であることが好ましく、特に3nm以上であることが好ましい。
【0068】
第3層において、酸素及び窒素の含有率が上記範囲(酸素含有率が30原子%以上、窒素含有率が26原子%以下)であれば、クロムを含有する膜の反射率の調整に有益である。
【0069】
第1層、第2層には上述したような制約があり、第3層には波長355nm及び波長400nmの検査光が、第1層及び第2層を透過して届くため、第3層の構成はクロムを含有する材料で構成された膜の反射率へ影響する。
波長355nmの検査光に対する反射率が32%以下、かつ波長400nmの検査光に対する反射率が27%以上であること満たすためには、第3層の厚さを10nm以下とする。
【0070】
以上のような本発明のフォトマスクブランクであれば、クロムを含有する膜の表面粗さを良好なものとすることができる。そして、良好な表面粗さを有するため、欠陥検査で疑似欠陥の大量検出を防ぐことができる。そのため、波長355nmの光に対する検査感度を下げる必要もなく、検査能力を十分なものとすることができ、サイズが50nm、さらにはそれ以下の小さな欠陥をも十分に検出することが可能になる。
また、特には波長355nmの検査光の反射率を32%以下にすることができるものであるので高感度の欠陥検査が可能なものとなる。同時に、波長400nmの検査光の反射率を27%以上にすることができるものでもあるので、フォトマスクとした場合に、その管理用のバーコードパターンを読み込み可能なものとなる。
【0071】
そして、クロムを含有する膜の抵抗値を小さくすることができる。このため、フォトマスク製造装置内において、異物を吸着することが可能であり、真の装置状態を調査するのに有用なものとなる。
特には、クロムを含有する膜の抵抗値が20オーム/□以下のような小さい抵抗値であれば、異物の吸着をより確実なものとすることができ、製造装置の管理用として一層有用である。
【0072】
しかも、公知のフォトマスクプロセスでフォトマスクパターンを製造可能なものでもある。
【0073】
クロムを含有する材料で構成された膜が遮光膜である場合において、特に、フォトマスクとしたとき、クロムを含有する材料で構成された膜のバーコードパターンが形成されている領域である基板の外周縁部に位置する部分に、遮光膜として残存させるものである場合、かつバーコードを読み込む検出器が、光放出手段から放出された光がフォトマスクに照射され、その反射光を受光する場合、遮光膜であるクロムを含有する材料で構成された膜の反射率が、上記のように、検査光、例えば、波長400nmの検査光、窒化ガリウム系レーザーなどの波長の光に対して、27%以上とすることができ、特に28%以上であることが好ましい。
【0074】
クロムを含有する材料で構成された膜の膜厚(第1層、第2層、及び第3層の合計の厚さ)は、53nm以上100nm以下が好ましい。このような膜厚のものであれば、クロムを含有する材料で構成された膜が、波長355nmの検査光に対する反射率が32%以下、かつ波長400nmの検査光に対する反射率が27%以上に、より確実に調整可能である。さらには、クロムを含有する材料で構成された膜の膜厚は、70nm以上87nm以下であると上記反射率の調整をより一層確実に行うことができ、一層好ましい。
【0075】
なお、
図3に示すように、基板の両側にクロムを含有する膜を有している場合(つまり、上面側のクロムを含有する膜21と下面側の裏側膜21’)、上面側に加えて下面側においても異物を吸着させることができ、フォトマスク製造装置の管理用として一層好ましい。
【0076】
本実施の形態のフォトマスクブランクは、更に、クロムを含有する材料で構成された膜の基板から離間する側に接して、レジスト膜を有するものであってもよい。レジスト膜は、電子線で描画する電子線レジストでもよく、特に光で描画するフォトレジストが好ましい。光で描画するフォトレジストは、ネガ型でもよいが、クロムを含有する材料で構成された膜をより多くの面積を残すためポジ型が望ましい。
微細パターン形成時に、ドライエッチング工程において、クロムを含有する材料で構成された膜と同時にレジスト膜もエッチングにより消失するが、クロムを含有する材料で構成された膜の加工部がエッチングにより消失するより前に、レジスト膜がエッチングにより消失しないように、レジスト膜の膜厚を厚くすることが好ましい。300nm以上、特に400nm以上が好ましい。
【0077】
図5は、本実施の形態のフォトマスクブランクの第1の態様の他の例を示す断面図である。このフォトマスクブランク512は、
図1に示されるフォトマスクブランクのクロムを含有する材料で構成された膜(被加工膜)21に接して、レジスト膜3が形成されている。
図5に示されるフォトマスクブランク512からも、
図2に示されるフォトマスク513を製造することができる。
【0078】
図6は、本実施の形態のフォトマスクブランクの第2の態様の他の例を示す断面図である。このフォトマスクブランク522は、
図3に示されるフォトマスクブランクのクロムを含有する材料で構成された膜(被加工膜)21に接して、レジスト膜3が形成されている。
図6に示されるフォトマスクブランク522からも、
図4に示されるフォトマスク523を製造することができる。
【0079】
また、
図2、4に示したような本発明のフォトマスクは、前述したように、クロムを含有する材料で構成された膜を有し、その組成(クロム、酸素、窒素)は本発明のフォトマスクブランクと同様であり、上記の本発明のフォトマスクブランクにおける効果と同様の効果を奏することができる。すなわち、表面粗さが良好で、50nmのサイズの欠陥の検出や異物の吸着、バーコードパターンの読み込みが可能なものとなる。
【0080】
以下、本発明のフォトマスクブランクを製造する場合の手順について説明する。
本実施の形態のクロムを含有する材料で構成された膜の基板上への形成は、特に限定されるものではないが、制御性がよく、所定の特性を有する膜を形成しやすいことから、スパッタリング法による形成が好ましい。スパッタリング方式は、DCスパッタリング、RFスパッタリングなどが適用でき、特に制限はない。
【0081】
クロムを含有する材料で構成された膜として、クロムを含有し、ケイ素を含有しない膜を形成する場合、スパッタターゲットとしては、クロムターゲットを用いることができる。
【0082】
スパッタターゲットに投入する電力はスパッタターゲットの大きさ、冷却効率、膜形成のコントロールのし易さなどによって適宜設定すればよく、通常、スパッタターゲットのスパッタ面の面積当たりの電力として、0.1~10W/cm2とすればよい。
【0083】
酸素又は窒素を含む材料の膜を形成する場合、スパッタリングは、反応性スパッタリングが好ましい。スパッタガスとしては、ヘリウムガス(He)、ネオンガス(Ne)、アルゴンガス(Ar)などの希ガスと、反応性ガスとが用いられる。例えば、酸素を含む材料の膜を形成するときは、反応性ガスとして酸素ガス(O2ガス)、窒素を含む材料の膜を形成するときは、反応性ガスとして窒素ガス(N2ガス)を用いればよい。また、窒素と酸素の双方を含む材料の膜を形成するときは、反応性ガスとして、酸素ガス(O2ガス)と窒素ガス(N2ガス)を同時に用いてもよいし、一酸化窒素ガス(NOガス)、二酸化窒素ガス(NO2ガス)、亜酸化窒素ガス(N2Oガス)などの酸化窒素ガスを用いてもよい。
【0084】
膜形成時の圧力は、膜応力、耐薬品性、洗浄耐性などを考慮して適宜設定すればよく、通常、0.01Pa以上、特に0.03Pa以上で、1Pa以下、特に0.3Pa以下とすることで、耐薬品性が向上する。また、各ガス流量は、所望の組成となるように適宜設定すればよく、通常0.1~100sccmとすればよい。
【0085】
フォトマスクブランクの製造過程において、基板又は基板及び基板上に形成した膜に、熱処理を施してもよい。熱処理の方法は、赤外線加熱、抵抗加熱などが適用でき、処理の条件も、特に制限はない。熱処理は、例えば、酸素を含むガス雰囲気で実施することができる。酸素を含むガスの濃度は、特に制限はなく、例えば、酸素ガス(O2ガス)の場合、1~100体積%とすることができる。熱処理の温度は、200℃以上、特に400℃以上とすることが好ましい。また、フォトマスクブランクの製造過程において、基板上に形成した膜、特に、クロムを含有する材料で構成された膜に、オゾン処理やプラズマ処理などを施してもよく、処理の条件も、特に制限はない。いずれの処理も、膜の表面部の酸素濃度を増加させる目的で実施することができ、その場合、所定の酸素濃度となるように、処理条件を適宜調整すればよい。なお、膜をスパッタリングで形成する場合は、スパッタガス中の希ガスと、酸素ガス(O2ガス)、一酸化炭素ガス(COガス)、二酸化炭素ガス(CO2ガス)などの酸素を含むガス(酸化性ガス)との比率を調整することにより、膜の表面部の酸素濃度を増加させることも可能である。
【0086】
フォトマスクブランクの製造過程においては、基板又は基板上に形成した膜の表面上に存在する欠陥を除去するために、洗浄処理を実施してもよい。洗浄は、超純水、及びオゾンガス、水素ガスなどを含む超純水である機能水の一方又は双方を用いて実施することができる。また、界面活性剤を含む超純水で洗浄した後、超純水及び機能水の一方又は双方を用いて更に洗浄してもよい。洗浄は、必要に応じて超音波を照射しながら実施することができ、更に、UV光照射を組み合わせることもできる。
【0087】
本実施の形態のフォトマスクブランクに、レジスト膜を形成する場合、レジスト膜の塗布方法は、特に限定されず、公知の手法が適用できる。
【0088】
次に、本発明のフォトマスクの製造方法について説明する。
本実施の形態のフォトマスクブランクからフォトマスクを製造する。
図7は、本実施の形態の第1の態様の位相シフトマスクブランクから、位相シフトマスクを製造する工程を説明するための断面図である。
この場合、まず、
図7(a)に示されるように、クロムを含有する材料で構成された膜(遮光膜21)の透明基板1から離間する側に接して、レジスト膜(膜厚は300nm以上、特に400nm以上が好ましい)3を形成する(工程A)。
次に、
図7(b)に示されるように、レジスト膜3をパターニングして、レジストパターン31を形成する(工程B)。
【0089】
次に、
図7(c)に示されるように、レジストパターン31をエッチングマスクとして、第1層211、第2層212、及び第3層213からなるクロムを含有する材料で構成された膜(遮光膜21)を、塩素系ドライエッチング(酸素を含む塩素系ガスを用いるドライエッチング)によりパターニングして、クロムを含有する材料で構成された膜のパターン(遮光膜パターン21a)を形成する(工程C)。
次に、
図7(d)に示されるように、残存しているレジストパターン31を除去することにより、フォトマスク(位相シフトマスク)を得ることができる(工程D)。
【0090】
また、
図8は、本実施の形態の第2の態様の位相シフトマスクブランクから、位相シフトマスクを製造する工程を説明するための断面図である。
この場合、まず、
図8(a)に示されるように、上面側におけるクロムを含有する材料で構成された膜(遮光膜21)の透明基板1から離間する側に接して、レジスト膜(膜厚は300nm以上、特に400nm以上が好ましい)3を形成する(工程A)。
次に、
図8(b)に示されるように、レジスト膜3をパターニングして、レジストパターン31を形成する(工程B)。
【0091】
次に、
図8(c)に示されるように、レジストパターン31をエッチングマスクとして、第1層211、第2層212、及び第3層213からなるクロムを含有する材料で構成された膜(遮光膜21)を、塩素系ドライエッチング(酸素を含む塩素系ガスを用いるドライエッチング)によりパターニングして、クロムを含有する材料で構成された膜のパターン(遮光膜パターン21a)を形成する(工程C)。
次に、
図8(d)に示されるように、残存しているレジストパターン31を除去することにより、フォトマスク(位相シフトマスク)を得ることができる(工程D)。
【0092】
フォトマスクをフォトマスクパターン外観検査装置で検査する際、アライメントマークが必要となるが、本実施の形態のフォトマスクは、被加工基板に500nmから50000nmのアライメントパターンを形成するためのフォトリソグラフィにおいて、被加工基板上に形成したフォトレジスト膜に、ArFエキシマレーザ(波長193nm)など、特に波長300nm以上の露光光で、露光光としてパターンを転写する露光において特に有効である。
【0093】
ウエハ露光工程で用いられる露光装置は、フォトマスクを管理するためにマスクにリソグラフィによってバーコードパターンをマスク端に作製し、管理する。
本実施の形態のフォトマスクは、被加工基板に100μm以上のバーコードパターンを形成するためのフォトリソグラフィにおいて、被加工基板上に形成したフォトレジスト膜に、ArFエキシマレーザ(波長193nm)など、特に波長300nm以上の露光光で、露光光としてパターンを転写する露光において特に有効である。
【実施例0094】
以下、実施例及び比較例を示して、本実施の形態を具体的に説明するが、本実施の形態は、下記の実施例に制限されるものではない。
【0095】
[実施例1]
152mm角、厚さ約6mmの石英製の透明基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を積層した、フォトマスクブランクを製造した。
【0096】
まず、透明基板上に、ターゲットとして、クロムターゲットを用い、ターゲットへの印可電力を調整すると共に、スパッタガスとして、アルゴンガス、窒素ガス、酸素ガスとを用いて、CrONで構成される第3層を製造した。次にターゲットとして、クロムターゲットを用い、ターゲットへの印可電力を調整すると共に、スパッタガスとして、アルゴンガス、窒素ガスとを用いて、CrNで構成される第2層を製造した。次いでクロムターゲットを用い、ターゲットへの印可電力を調整すると共に、スパッタガスとして、アルゴンガス、窒素ガス、酸素ガスとを用いて、CrONで構成される第1層を製造し、
図1に示されるようなレジスト膜がないフォトマスクブランクを得た。第1層、第2層及び第3層の組成、第1層、第2層及び第3層の厚さを表1に示す。
【0097】
なお、組成は、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、X線光電子分光分析装置K-Alphaを用いて測定し、膜(層)の厚さは、ケーエルエー・テンコール株式会社製、接針式段差計P-16+を用いて測定した(以下同じ)。
【0098】
[実施例2]
第2層において、実施例1よりクロム含有率(原子%)を減らし、窒素含有率(原子%)を増やし、それ以外は実施例1と同様にして、透明基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を形成して、レジスト膜がないフォトマスクブランクを得た。
第1層、第2層及び第3層の組成、第1層、第2層及び第3層の厚さを表1に示す。
【0099】
[実施例3]
第2層において、実施例1よりクロム含有率(原子%)を減らし、窒素含有率(原子%)を増やし、それ以外は実施例1と同様にして、透明基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を形成して、レジスト膜がないフォトマスクブランクを得た。
第1層、第2層及び第3層の組成、第1層、第2層及び第3層の厚さを表1に示す。
【0100】
[実施例4]
第2層において、実施例1よりクロム含有率(原子%)を減らし、窒素含有率(原子%)を増やし、それ以外は実施例1と同様にして、透明基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を形成して、レジスト膜がないフォトマスクブランクを得た。
第1層、第2層及び第3層の組成、第1層、第2層及び第3層の厚さを表1に示す。
【0101】
[実施例5]
第1層を、実施例4より厚くし、それ以外は実施例4と同様にして、透明基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を形成して、レジスト膜がないフォトマスクブランクスを得た。
第1層、第2層及び第3層の組成、第1層、第2層及び第3層の厚さを表1に示す。
【0102】
[比較例1]
第1層及び第3層を、酸窒化クロム(CrON)の代わりに酸化クロム(CrO)とし、第2層を窒化クロム(CrN)の代わりに酸化クロム(CrO)とし、第1層、第2層及び第3層の各層の組成以外は、実施例1と同様にして、透明基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を形成して、レジスト膜がないフォトマスクブランクを得た。
第1層、第2層及び第3層の組成、第1層、第2層及び第3層の厚さを表1に示す。
【0103】
[比較例2]
第2層において、実施例1よりクロム含有率(原子%)を増やし、窒素含有率(原子%)を減らし、それ以外は実施例1と同様にして、透明基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を形成して、レジスト膜がないフォトマスクブランクを得た。
第1層、第2層及び第3層の組成、第1層、第2層及び第3層の厚さを表1に示す。
【0104】
[比較例3]
第2層において、実施例1よりクロム含有率(原子%)を減らし、窒素含有率(原子%)を増やし、それ以外は実施例1と同様にして、透明基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を形成して、レジスト膜がないフォトマスクブランクを得た。
第1層、第2層及び第3層の組成、第1層、第2層及び第3層の厚さを表1に示す。
【0105】
[比較例4]
第1層を、実施例4より厚くし、それ以外は実施例4と同様にして、透明基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を形成して、レジスト膜がないフォトマスクブランクを得た。
第1層、第2層及び第3層の組成、第1層、第2層及び第3層の厚さを表1に示す。
【0106】
[比較例5]
第1層を、実施例4より薄くし、それ以外は実施例4と同様にして、透明基板上に、クロムを含有する材料で構成された膜を形成して、レジスト膜がないフォトマスクブランクを得た。
第1層、第2層及び第3層の組成、第1層、第2層及び第3層の厚さを表1に示す。
【0107】
(表面粗さについて)
次にクロムを含有する材料で構成された膜の表面粗さRqを評価するため、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5で得られたフォトマスクブランクを用いて評価した。
クロムを含有する材料で構成された膜の表面粗さRqは、ブルカー・エイエックスエス社製NanoScope V/Dimension Iconを用いて評価した。
表2に結果を示す。
【0108】
表2に示されるように、比較例1、及び比較例2のフォトマスクブランクに対して、本実施の形態のフォトマスクブランクである、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、表面粗さRqが良いことが確認された。
これは比較例1に対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、表面に表面粗さRqの良い酸窒化クロムを形成したためであると考えられる。
また、比較例2に対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、第2層に、比較的窒素リッチであり表面粗さRqの良い窒化クロムを形成したためであると考えられる。
【0109】
(反射率について)
次にクロムを含有する材料で構成された膜の波長355nmおよび波長400nmに対する反射率を評価するため、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5で得られたフォトマスクブランクを用いて評価した。
波長355nmおよび波長400nmに対する反射率は、株式会社島津製作所製、紫外可視近赤外分光光度計SolidSpec-3700を用いて測定した。
表3に結果を示す。
【0110】
表3に示されるように、比較例2及び比較例5のフォトマスクブランクは、波長355nmに対する反射率が32%より高いのに対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、波長355nmに対する反射率が32%以下であることが確認された。
これは比較例2に対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクの第2層に、比較的窒素リッチであり、波長355nmに対する反射率が低い層を形成したためであると考えられる。
比較例5に対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクの第1層の厚さが厚いため、比較的反射率の高い第2層の影響を受けすぎず、反射率が小さいと考えられる。比較例5の第1層の厚さは薄すぎてしまい、影響を受けすぎたと考えられる。
また、比較例3のフォトマスクブランクは、波長400nmに対する反射率が27%未満と低いのに対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、波長400nmに対する反射率が27%以上であることが確認された。これは比較例3に対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクの第2層に、波長400nmの膜厚に対する反射率が27%以上となるよう窒化クロムの組成を調整したためであると考えられる。
【0111】
(抵抗値について)
次にクロムを含有する材料で構成された膜の抵抗値を評価するため、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5で得られたフォトマスクブランクを用いて評価した。
クロム膜の抵抗値は、三菱化学株式会社製、抵抗率計MCP-T600を用いて評価した。
表4に結果を示す。
【0112】
表4に示されるように、比較例1、比較例3、及び比較例4のフォトマスクブランクに対して、本実施の形態のフォトマスクブランクである、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、膜の抵抗値が小さいことが確認された。
これは比較例1、及び比較例3に対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクの第2層に、比較的窒素リッチであり、導電性の良い窒化クロムを形成したためであると考えられる。
また、比較例4に対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクの第1層の膜厚を20nm以下と薄くし、導電性の良い第2層の影響を受けるようにしたためであると考えられる。
【0113】
(検出限界について)
次にフォトマスクブランク検査装置を用いて、クロムを含有する材料で構成された膜の検出限界を評価するため、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5で得られたフォトマスクブランクを用いて評価した。
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5で得られたフォトマスクブランク上に、同じ大きさを持ったPSL(ポリスチレンラテックス)標準粒子を1cm×1cmの領域に、一定の間隔を持たせて1000個配置する。PSL標準粒子を配置した領域を、検査波長355nmを持ったフォトマスクブランク検査装置によって検査を行った。PSL標準粒子の大きさを70nmから40nmまで、2nmずつ変更し、フォトマスクブランクに配置した。大きさの異なるPSL標準粒子について、フォトマスクブランク検査装置が検出する欠陥の個数を評価し、配置した1000個のPSL標準粒子の個数に対して95%以上を検出できた場合、そのPSL標準粒子を検出可能とする。配置した1000個のPSL標準粒子の個数に対して検出する個数が95%を下回る場合、そのPSL標準粒子を検出不可能とし、95%を下回らないPSL標準粒子の大きさを検出限界とする。
表5に結果を示す。
【0114】
表5に示されるように、比較例1、比較例2、及び比較例5のフォトマスクブランクに対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、欠陥の検出限界が小さく、より小さな欠陥を検出できることを確認した。
これは表2示されるように実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、比較例1、及び比較例2のフォトマスクブランクに対して表面粗さRqが小さいためであると考えられる。
また、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、比較例5に対して、波長355nmの検査光に対する反射率が小さいためであることが考えられる。
【0115】
(異物の吸着について)
次に、フォトマスクブランクをフォトマスク製造装置内において、異物の吸着量を評価するために、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5で得られたフォトマスクブランクを用いて評価した。
まず、検査波長355nmを持ったフォトマスクブランクス検査装置によって実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5で得られたフォトマスクブランクを検査する。
次いで、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5で得られたフォトマスクブランクをフォトマスク製造装置のローダーから処理室内に搬送後、処理をせずに再びローダーに戻す。この作業を20回繰り返す。
その後、再度、上記検査波長355nmを持ったフォトマスクブランク検査装置によって実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5で得られたフォトマスクブランクを検査し、増加した欠陥の個数を調査した。
表6に結果を示す。
【0116】
表6に示されるように、比較例1、比較例3、比較例4及び比較例5のフォトマスクブランクに対して、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、より異物の吸着することを確認した。
これは、表4に示されるように実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、比較例1、比較例3及び比較例4に対し、膜の抵抗値が低いためである。
また、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5のフォトマスクブランクは、比較例5のフォトマスクブランクに対して、表5に示されるよう検出限界が小さいためであると考えられる。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。