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特開2022-160961導電性に優れた積層造形用の銅合金粉末
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  • 特開-導電性に優れた積層造形用の銅合金粉末 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160961
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】導電性に優れた積層造形用の銅合金粉末
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20221013BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20221013BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20221013BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20221013BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20221013BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20221013BHJP
【FI】
C22C9/00
C22C9/06
B22F1/00 L
B22F3/16
B22F10/28
B33Y70/00
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065521
(22)【出願日】2021-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】久世 哲嗣
(72)【発明者】
【氏名】相川 芳和
(72)【発明者】
【氏名】坂田 将啓
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA04
4K018BA02
4K018BB03
4K018BB04
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA08
(57)【要約】
【課題】 積層造形に適した、高い導電率を有する、高密度な造形物の作製が可能な銅合金粉末の提供。
【解決手段】
質量%で、元素群M(必須成分Zrと任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Nb)を合計で0.1~10%、Oを50~500ppm含有し、Siは0.2%以下、Pは0.2%以下、Sは0.2%以下であって、かつ残部がCuおよび不可避的不純物である銅合金粉末であって、CuKα線を用いたX線回折における(1)回折角2θ:43.0±0.2°のピーク強度、(2)回折角2θ:43.5±0.2°のピーク強度、(3)回折角2θ:50.2±0.5°のピーク強度についてのピーク強度比(1)/(3)が1.5~2.5であって、かつ、ピーク強度比(2)/(3)が2.5~3.5である、積層造形用の銅合金粉末。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
元素群M(必須成分Zrと任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Nb)を合計で0.1~10%、
Oを50~500ppm含有し、
Siは0.2%以下、Pは0.2%以下、Sは0.2%以下であって、
かつ残部がCuおよび不可避的不純物である銅合金粉末であって、
CuKα線を用いたX線回折における
(1)回折角2θ:43.0±0.2°のピーク強度、
(2)回折角2θ:43.5±0.2°のピーク強度、
(3)回折角2θ:50.2±0.5°のピーク強度についての
ピーク強度比(1)/(3)が1.5~2.5であって、かつ、
ピーク強度比(2)/(3)が2.5~3.5である、
積層造形用の銅合金粉末。
【請求項2】
粉末の最表面におけるO、Cu、元素群Mの質量比が、0.5≦[O]/([Cu]+[M])≦2.0である、請求項1に記載の積層造形用の銅合金粉末。
【請求項3】
レーザー波長1064nmにおけるレーザー光反射率が75%以下である、請求項1または請求項2に記載の積層造形用の銅合金粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形法、溶射法、レーザーコーティング法、肉盛法等の、急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに適した銅合金粉末に関する。とりわけ、パウダーベッド方式(粉末床溶融結合方式)による積層造形法に好適な銅合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
金属からなる造形物の製作に、3Dプリンターが使用されはじめている。この3Dプリンターとは、積層造形法によって造形物が製作するものであり、金属積層造形法の代表的な方式にはパウダーベッド方式(粉末床溶融結合方式)やメタルデポジション方式(指向性エネルギー堆積方式)などがある。パウダーベッド方式では、レーザービームまたは電子ビームの照射によって、敷き詰められた粉末のうち照射された部位が溶融し凝固する。この溶融と凝固により、粉末粒子同士が結合する。照射は、金属粉末の一部に選択的になされ、照射がなされなかった部分は、溶融せず、照射がなされた部分のみにおいて、結合層が形成される。
【0003】
形成された結合層の上に、さらに新しい金属粉末が敷き詰められ、それらの金属粉末にレーザービームまたは電子ビームの照射が行われる。すると、照射により、金属粒子が溶融、凝固し、新たな結合層が形成される。また、新たな結合層は、既存の結合層とも結合される。
【0004】
照射による溶融・凝固が順次繰り返されていくことにより、結合層の集合体が徐々に成長する。この成長により、三次元形状を有する造形体が得られる。こうした積層造形法を用いると、複雑な形状の造形物が、容易に得られる。
【0005】
パウダーベッド方式の積層造形法としては、「鉄系粉末」と、「ニッケル、ニッケル系合金、銅、銅系合金、及び黒鉛から成る群から選ばれる1種類以上の粉末」が混合されたものを金属光造形用金属粉末として用い、これらの金属粉末を敷く粉末層形成ステップと、粉末層にビームを照射して焼結層を形成する焼結層形成ステップと、造形物の表面を切削する除去ステップを繰り返して焼結層を形成して、三次元形状造形物を製造するといった手順が開示されている(特許文献1参照。)。
【0006】
高周波誘導加熱装置やモーター冷却用ヒートシンク等の合金には、高伝導度が要求される。このような用途には、Cu基合金が適している。例えば、主成分がCuであり、Crを0.1~20質量% およびZrを0~0.2質量%含有した銅合金が開示されている(特許文献2参照。)。
【0007】
銅に対する固溶量が0.2at%未満である添加元素を含有する積層造形用銅合金粉末が提案されている(特許文献3参照。)。この提案は、銅に対する固溶量の低い添加元素を用いることで銅への固溶による導電率の低下を低減させつつ、機械強度を得ることを意図したものであって、二元状態図などで銅に固溶しにくい元素を非固溶に添加するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-81840号公報
【特許文献2】特開2019-44260号公報
【特許文献3】国際公開第2019/039058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
積層造形法は、電子ビームやレーザーを照射することで造形物を形成するプロセスであって、金属粉末に対するエネルギー吸収は、造形における重要な因子である。例えば、レーザー積層造形法の場合、照射するレーザー波長に対するレーザー光反射率が低いほど、エネルギー吸収がしやすくなり、高効率に造形を行うことができる。
【0010】
しかしながら、銅はレーザー光反射率が高いため、エネルギーが吸収されづらく、効率を高めることが難しいので、高密度な造形が困難である。
【0011】
本発明の目的は、積層造形などの急速溶融急冷凝固を伴うプロセスに適しており、高密度な造形物の作製が可能であり、かつ高い導電率を有する造形物が得られる銅合金粉末の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、鋭意検討の結果、銅合金粉末の成分組成に加えて、粉末最表面に形成される膜(Cu、CuZr、ZrO2)の成分(Cu、Zr、O)の質量比を規定することで、レーザー光反射率を低減しうる条件を見出した。
【0013】
そこで、本発明の課題を解決するための第1の手段は、
質量%で、元素群M(必須成分Zrと任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Nb)を合計で0.1~10%、Oを50~500ppm含有し、
Siは0.2%以下、Pは0.2%以下、Sは0.2%以下であって、
かつ残部がCuおよび不可避的不純物である銅合金粉末であって、
CuKα線を用いたX線回折における(1)回折角2θ:43.0±0.2°のピーク強度、(2)回折角2θ:43.5±0.2°のピーク強度、(3)回折角2θ:50.2±0.5°のピーク強度についてのピーク強度比(1)/(3)が1.5~2.5であって、かつ、ピーク強度比(2)/(3)が2.5~3.5である、積層造形用の銅合金粉末である。
【0014】
すなわち、元素群Mにおいて、Zrは必須成分である。元素群MはZrのみでもよいが、Zrに加えてCr、Fe、Ni、Nbのいずれか1種もしくは2種以上を任意的付加的成分として添加してもよい。これら元素群Mの合計は、0.1~10%である。
【0015】
その第2の手段は、粉末の最表面におけるO、Cu、元素群Mの質量比が、0.5≦[O]/([Cu]+[M])≦2.0である、第1の手段に記載の積層造形用の銅合金粉末である。
【0016】
その第3の手段は、レーザー波長1064nmにおけるレーザー光反射率が75%以下である、第1または第2の手段に記載の積層造形用の銅合金粉末である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の手段によると、粉末表面に形成される膜と元素の比を規定することで、レーザー光反射率を低減することができるので、高密度な造形物を得ることが可能であり、さらに、本発明の銅合金粉末を用いると、得られた造形物に適した熱処理を行うことで、70%IACS以上の高い導電率を有する造形物を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の銅合金粉末のXRD回折パターンの一例として、実施例4の回折プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の積層造形用の銅合金粉末の実施の形態の説明に先立って、まずは、銅合金粉末に用いられている化学成分および粉末表面の膜と元素成分比を規定した理由について以下に説明する。なお、各成分の%とは質量%のことである。
【0020】
(銅合金粉末の成分について)
[必須成分Zrと任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Nbからなる群:合計0.1~10%]
必須成分Zrと任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Nbからなる群(これらを以下、「元素群M」という。)を、合計で0.1~10%含有する。必須成分のZr単独でもよいが、Zrに加えてさらに任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Zr、Nbを1種以上(すなわち2種以上付加されてもよい。)含有させてもよい。
Zr、Cr、Fe、Ni、Nbは、それぞれの平衡状態図上におけるCuへの固溶限は小さい。しかし、粉末がアトマイズ法のような急冷凝固を伴うプロセスで得られると、これらの元素群Mの元素はCuに過飽和に固溶する。この過飽和固溶体は、レーザー光反射率が低減されるため、効率よく造形物を作製することが可能であり、高密度の造形物を得ることができる。元素群Mのうち、特に好ましい成分はZrであり、Zrの化合物が存在する場合には特に優れた電気伝導率が得られるため、Zrを必須成分とする。
【0021】
元素群M(必須成分Zrと任意的付加的成分Cr、Fe、Ni、Nb)の元素は、レーザー光反射率を低減するための元素でもある。元素群Mの含有率が合計で0.1%以上であれば、高密度の造形物が得られる。もっとも、元素群Mの含有率が合計で10%を超えると、造形物の導電率が、純銅に比べて大きく低下する。
そこで、密度が高く、高い導電率を有する造形物を得るためには、元素群Mの成分の合計量は0.1~10%とする。より好ましくは、元素群Mの成分の合計量は、0.1~2.0%である。
【0022】
Si、P、Sは、いずれの成分も、含有しなくてもよいが、含有する場合には次のとおりとする。
【0023】
[Si:0.2%以下]
SiはCuに固溶し、銅合金の電気伝導および熱伝達を阻害する。この観点から、Siを含有する場合の上限は0.2%とする。より好ましくは、Siの上限は0.05%である。
【0024】
[P:0.2%以下]
PはCuに固溶し、銅合金の電気伝導および熱伝達を阻害する。この観点から、Pを含有する場合の上限は0.2%とする。より好ましくは、Pの上限は0.05%である。
【0025】
[S:0.2%以下]
SはCuに固溶し、銅合金の電気伝導および熱伝達を阻害する。この観点から、Sを含有する場合の上限は0.2%とする。より好ましくは、Sの上限は0.05%である。
【0026】
[O:50~500ppm以下]
Oは、酸化膜を形成する元素である。Oが50ppm以上であれば、銅合金粉末のレーザー光反射率が低減される。もっとも、Oが500ppmを超えると、積層造形物の内部に酸化物が残存することとなって、電気伝導率が低下することとなる。そこで、レーザー光反射率を低減し、高い電気伝導率を有する造形物を得ることができるためには、Oは、50~500ppmとする。
【0027】
[XRDのピーク強度比]
CuKα線を用いた粉末X線回折(XRD)測定における(1)回折角2θ:43.0±0.2°のピーク強度、(2)回折角2θ:43.5±0.2°のピーク強度、(3)回折角2θ:50.2±0.5°のピーク強度についてのピーク強度比(1)/(3)が1.5~2.5であって、かつ、ピーク強度比(2)/(3)が2.5~3.5であることが好ましい。
【0028】
なお、本発明でいうピーク強度とは、各ピークの積分強度(面積)をいう。ピーク強度比はそれらピークの積分強度同士の比、すなわち積分強度比のことである。なお、ピークの重なり合いについては、X線回折装置に付属の一般的な多重ピーク分離プログラムを用いて容易に分離することができるので、ピーク毎の積分強度はソフトウェア上で対比可能に求まる。
【0029】
本発明の銅合金粉末をCuKα線を用いたX線回折法で測定したとき、回折角2θの43.0±0.2°におけるピーク強度(1)は、Cuの(111)面に相当する。回折角2θの43.5±0.2°におけるピーク強度(2)は、CuZrの(111)面に相当する。回折角2θの50.2±0.2°におけるピーク強度(3)は、ZrO2の(220)面に相当する。
【0030】
このとき、ピーク強度(1)と(3)のピーク強度比(1)/(3)が1.5以上であると、高い電気伝導率を有する造形物が得られる。他方、ピーク強度比(1)/(3)が2.5を超えると、レーザー光反射率が高くなり、造形が困難になる。そこで、ピーク強度比(1)/(3)は1.5~2.5であることが好ましい。
また、ピーク強度(2)と(3)のピーク強度比(2)/(3)が2.5以上になると、レーザー光反射率を低減可能であり、高密度の造形が容易になる。他方、ピーク強度比(2)/(3)が3.5を超えると、造形物の電気伝導率が低下する。そこで、ピーク強度比(2)/(3)は、2.5~3.5であることが好ましい。
【0031】
[粉末表面の元素比[O]/([Cu]+[M]):0.5~2.0](ただし、MはCr、Fe、Ni、Zr、Nbである。)
銅合金粉末の最表面のO、Cu、Mの比、すなわち、元素Oの質量%を[O]、元素Cuの質量%を[Cu]、元素群Mの質量%を[M]とし、表面の元素比:[O]/([Cu]+[M])を求めたとき、元素比が0.5以上になると、粉末表面のすべてが酸化膜に覆われることになるため、レーザー光反射率を大きく低減することが可能であり、高密度の造形が容易になる。他方、元素比が2.0を超えると、造形物内部に酸化物が残存し、電気伝導率が低下する。そこで、レーザー光反射率を低減し、高い電気伝導率を有する造形物が得られるためには、銅合金粉末の表面の元素比[O]/([Cu]+[M])は、0.5~2.0とすることが好ましい。
【0032】
たとえば、Zrが添加されているCu合金粉末の最表面の成分が質量%でO:49.5%、Cu:24.1%、Zr:8.9%であるときには、その最表面の元素比は、[O]/([Cu]+[Zr]=1.5となる。
【0033】
[レーザー光反射率:75%以下]
銅合金粉末のレーザー光反射率は、レーザー波長1064nmにおいて、75%以下が好ましい。銅合金粉末のレーザー光反射率が75%以下である場合、造形時にレーザー光を効率よく吸収することができ、より低いエネルギー密度で造形することが可能である。この観点から、レーザー波長1064nmにおける粉末のレーザー光反射率は、75%以下であることが好ましく、より好ましくは65%以下である。
なお、波長1064nmとは、レーザー積層造形装置の汎用的なエネルギー源であるYbファイバレーザー光の波長である。
【0034】
[銅合金粉末の粒子径]
本発明の銅合金粉末の平均粒子径D50は、10μm~100μmが好ましい。微細な粒子は凝集しやすくなるため、積層造形のようにパウダーを敷き詰める際にスムーズに粉体を敷き詰めることができなくなる。そこで、本発明の銅合金粉末の平均粒子径が10μm以上であれば、流動性に優れる。他方、100μmを超えると、得られる造形物の相対密度が下がってしまうこととなる。そこで、銅合金粉末の平均粒子径D50は、10μm~100μmが好ましい。より好ましくは、平均粒子径D50の下限は20μm以上であり、さらに好ましくは、30μm以上である。また、平均粒子径D50の上限は、より好ましくは80μm以下であり、さらに好ましくは、60μm以下である。
【0035】
平均粒子径D50の測定では、粉末の全体積が100%とされて、累積カーブが求められる。このカーブ上の、累積体積が50%である点の粒子径が、平均粒子径D50である。平均粒子径D50は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。たとえば、この測定に適した装置として、日機装社のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置「マイクロトラックMT3000」が挙げられる。この装置のセル内に、粉末が純水と共に流し込まれ、粒子の光散乱情報に基づいて、粒子径が検出される。
【0036】
[銅合金粉末について]
以下、本発明の銅合金粉末の製造について説明する。
銅合金粉末の製造方法としては、水アトマイズ法、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法及び遠心アトマイズ法が例示される。このうち、銅合金粉末の好ましい製造方法は、単ロール冷却法、ガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法である。
また、銅合金粉末の作製のために、メカニカルミリング等が施されて粉砕して粉体を得ることもできる。ミリング方法としては、ボールミル法、ビーズミル法、遊星ボールミル法、アトライタ法及び振動ボールミル法が例示される。
本発明における積層造形に用いる銅合金粉末は、添加成分Zr等の過飽和固溶および球状化の観点からは、とりわけガスアトマイズ法が好ましい。そこで、以下の実施の形態では、ガスアトマイズによる製造で得られた銅合金粉末を用いて説明する。
【0037】
[造形物の作製について]
本発明の銅合金粉末を用いて造形物を作製する方法としては、銅合金粉末を溶融及び凝固する工程である急速溶融急冷凝固プロセスが挙げられる。このプロセスの具体例としては、三次元積層造形法、溶射法、レーザーコーティング法及び肉盛法が挙げられる。特に、本発明の銅合金粉末は、レーザー光を吸収して溶融凝固させることに好適であることから、パウダーベッド方式(粉末床溶融結合方式)の三次元積層造形法で造形物を積層しながら作製していくことに適している。
【0038】
パウダーベッド方式では、レーザービームまたは電子ビームの照射によって、敷き詰められた粉末のうち照射された部位が溶融し凝固する。この溶融と凝固により、粉末粒子同士が結合する。照射は、銅合金粉末の一部に選択的になされ、照射がなされなかった部分は、溶融せず、照射がなされた部分のみにおいて、結合層が形成される。
【0039】
形成された結合層の上に、さらに新しい銅合金粉末が敷き詰められ、それらの銅合金粉末にレーザービームまたは電子ビームの照射が行われる。すると、照射により、銅合金粒子が溶融、凝固し、新たな結合層が形成される。また、新たな結合層は、既存の結合層とも結合される。
【0040】
照射による溶融・凝固が順次繰り返されていくことにより、結合層の集合体が徐々に成長する。この成長により、三次元形状を有する造形体が得られる。こうした積層造形法を用いると、複雑な形状の造形物が、容易に得られる。
【0041】
なお、積層造形法などの急速溶融急冷凝固プロセスで焼結をおこなう時のエネルギー密度は、120~250J/mm3であることが好ましい。エネルギー密度が120J/mm3以上である場合、十分な熱が粉末に与えられるので、造形物内部における未溶融粉末の残存が抑制され、相対密度の大きな造形物が得られやすい。そこで、より好ましくは、エネルギー密度は140J/mm3以上である。
【0042】
エネルギー密度が250J/mm3以下である場合、溶融に必要以上の過剰な熱を防ぐため、溶融金属の突沸が抑制され、造形物の内部における欠陥が抑制される。そこで、より好ましくは、エネルギー密度は230J/mm3以下である。
【0043】
[球形度]
粉末の球形度は、0.80以上0.95以下が好ましい。球形度が0.80以上である粉末は、流動性に優れる。この観点から、球形度は0.83以上がより好ましく、0.85以上が特に好ましい。球形度が0.95以下である粉末では、レーザーの反射が抑制されうる。この観点から、球形度は0.93以下がより好ましく、0.90以下が特に好ましい。
【0044】
球形度の測定では、粉末が樹脂に埋め込まれた試験片が準備される。この試験片が鏡面研磨に供され、研磨面が光学顕微鏡で観察される。顕微鏡の倍率は、100倍である。無作為に抽出された20個の粒子について画像解析がなされ、この粒子の球形度が測定される。20個の測定値の平均が、粉末の球形度である。球形度は、粉末1粒子の最大長と、最大長に対して垂直方向における長さの割合を意味している。
【0045】
[熱処理]
銅合金造形物の熱処理では、未熱処理造形物に時効熱処理を施す工程を行う。時効熱処理により、元素群Mの元素成分単相および/またはCuと元素群Mの元素成分との化合物が、粒界に析出する。この析出により、母相におけるCuの純度を高めることができる。この母相は、造形物の導電性に寄与しうる。
【0046】
時効熱処理の温度が、350℃以上である場合、元素群Mの元素成分単相および/またはCuと元素群Mの元素成分との化合物が、十分に析出した組織が得られる。そこで、時効熱処理の温度は、400℃以上がより好ましい。時効熱処理の温度が、1000℃以下である場合、元素群Mの母相への固溶が抑制される。そこで、時効熱処理の温度は、950℃以下がより好ましい。
【0047】
時効熱処理の時間が1時間以上である場合、元素群Mの元素成分単相および/またはCuと元素群Mの元素成分との化合物が、十分に析出した組織が得られる。一方で、時効熱処理の時間が10時間以下である場合、エネルギーコストが抑制される。そこで、時効熱処理の時間は、1時間以上、10時間以下が好ましい。
【0048】
[造形物の電気伝導度]
熱処理後の造形物の電気伝導度は、70IACS%以上が好ましい。電気伝導度が70IACS%以上である造形物は、導電性に優れる。より好ましくは、電気伝導度は75IACS%以上であり、さらに好ましくは、電気伝導度は80IACS%以上である。
【0049】
[電気伝導度の測定]
試験片(3×2×60mm)を作製し、「JIS C 2525」に準拠した4端子法で、電気抵抗値(Ω)を測定した。測定には、アルバック理工社の装置「TER-2000RH型」を用いた。測定条件は、以下の通りである。
温度:25℃
電流:4A
電圧降下間距離:40mm
下記数式に基づき、電気抵抗率ρ(Ωm)を算出した。
ρ = R / I × S
この数式において、Rは試験片の電気抵抗値(Ω)であり、Iは電流(A)であり、Sは試験片の料断面積(m2)である。電気伝導度(S/m)は、電気抵抗率ρの逆数から算出した。また、5.9×107(S/m)を100%IACSとして、各試験片の電気伝導度(%IACS)を算出した。
【0050】
[実施例]
以下、実施例によって本発明の効果が確認されることを示すが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0051】
まず、ガスアトマイズすることで、表1に記載の実施例1~18および表2に記載の比較例1~17の化学成分及び残部Cuからなる銅合金粉末を得た。
真空中にて、アルミナ製坩堝で、所定の組成を有する原料を高周波誘導加熱で加熱し、溶解した後、坩堝下にある直径が5mmのノズルから、溶湯を落下させた。次いで、この溶湯に向けてアルゴンガスを噴霧し、多数の粒子を得た。これらの粒子に分級を施して直径が63μmを超える粒子を除去し、銅合金粉末を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
[レーザー光反射率の測定]
実施例1~18の得られた各銅合金粉末について、分光光度計を用いて、レーザー波長1064nmにおけるレーザー光反射率を測定した。表1に粉末のレーザー光反射率を示す。
【0055】
[XRD測定によるピーク強度比]
実施例1~18および比較例1~17の各粉末について、X線回折装置(Rigaku社製の商品名「RINT-2500」)を用いて、下記条件にてXRD測定を行った。
線源:CuKα
2θ:20-80°
ステップ角:0.02°
【0056】
得られた回折パターンから、(1)回折角2θ:43.0±0.2°のピーク強度、(2)回折角2θ:43.5±0.2°のピーク強度、(3)回折角2θ:50.2±0.5°のピーク強度に基づいて、ピーク強度比(1)/(3)及びピーク強度比(2)/(3)を算出した。表1、表2にXRDの強度比の結果を示す。
【0057】
[粉末最表面の元素比]
実施例1~18の粉末に、X線光電子分光分析装置(XPS)(アルバック・ファイ社製の「Quantera SXM」)を用いて、粉末最表面の元素O、Cu、Zrの質量%を測定した。粉末最表面の元素比で、元素Oの質量%を[O]、元素Cuの質量%を[Cu]、元素Zrの質量%を[Zr]として、[O]/([Cu]+[Zr])の値を表1、表2に示す。
そして、実施例1の粉末の最表面は、O:35.2%、Cu:25.6%、元素群M:7.9%であるから、最表面の元素比は、[O]/([Cu]+[M]=1.05となった。
【0058】
なお、最表面の[O]、[Cu]、[M]の比率は次のとおりである。
実施例 1:[O]35.2%、[Cu]25.6%、[M]7.9%
実施例 2:[O]38.4%、[Cu]29.4%、[M]7.5%
実施例 3:[O]46.9%、[Cu]35.6%、[M]8.6%
実施例 4:[O]39.3%、[Cu]30.4%、[M]8.1%
実施例 5:[O]39.5%、[Cu]29.5%、[M]7.8%
実施例 6:[O]33.9%、[Cu]36.8%、[M]8.4%
実施例 7:[O]33.1%、[Cu]34.1%、[M]8.9%
実施例 8:[O]31.8%、[Cu]34.3%、[M]8.7%
実施例 9:[O]34.4%、[Cu]39.5%、[M]9.0%
実施例10:[O]36.0%、[Cu]38.1%、[M]8.6%
実施例11:[O]48.9%、[Cu]30.1%、[M]9.0%
実施例12:[O]52.5%、[Cu]30.6%、[M]9.5%
実施例13:[O]56.0%、[Cu]27.8%、[M]8.1%
実施例14:[O]55.2%、[Cu]21.0%、[M]9.0%
実施例15:[O]47.3%、[Cu]29.4%、[M]8.4%
実施例16:[O]52.0%、[Cu]28.3%、[M]7.1%
実施例17:[O]56.4%、[Cu]24.3%、[M]9.7%
実施例18:[O]31.1%、[Cu]38.5%、[M]9.4%
比較例 1:[O]57.9%、[Cu]20.6%、[M]7.9%
比較例 2:[O]63.4%、[Cu]20.7%、[M]8.0%
比較例 3:[O]65.3%、[Cu]19.4%、[M]8.4%
比較例 4:[O]54.0%、[Cu]20.6%、[M]5.6%
比較例 5:[O]64.1%、[Cu]25.6%、[M]4.2%
比較例 6:[O]62.5%、[Cu]21.9%、[M]6.9%
比較例 7:[O]65.2%、[Cu]22.2%、[M]5.3%
比較例 8:[O]64.1%、[Cu]23.4%、[M]6.0%
比較例 9:[O]60.2%、[Cu]22.1%、[M]4.9%
比較例10:[O]21.7%、[Cu]40.7%、[M]7.6%
比較例11:[O]18.6%、[Cu]35.6%、[M]8.6%
比較例12:[O]17.0%、[Cu]36.1%、[M]7.5%
比較例13:[O]66.7%、[Cu]20.7%、[M]6.4%
比較例14:[O]21.1%、[Cu]35.8%、[M]9.1%
比較例15:[O]68.0%、[Cu]18.5%、[M]10.3%
比較例16:[O]59.3%、[Cu]17.6%、[M]9.6%
比較例17:[O]61.1%、[Cu]16.8%、[M]11.5%
【0059】
なお、XPSは、その原理上、光電子の平均自由行程が数nmにとどまることから、最表面を定量的に観察することができる。もちろん、同様に最表面を定量的に観察できる他の手段で代替することもできる。
【0060】
[造形]
銅合金粉末を原料として、それぞれ、3次元積層造形装置(EOS-M280)による積層造形法を実施し、造形物(未熱処理造形物)を得た。
【0061】
[熱処理]
造形物に対して、時効熱処理を施した。時効熱処理の温度は800℃、時効熱処理の時間は5hとした。
【0062】
[電気伝導率測定]
熱処理後の造形物について、それぞれ、試験片(3×2×60mm)を作製し、「JIS C 2525」に準拠した4端子法で、電気抵抗値(Ω)を測定した。結果を表1、表2に示す。
【0063】
実施例1~18の銅合金粉末は、本発明の規定する成分組成で、規定するピーク強度比の範囲内にある銅合金粉末であるところ、[O]/([Cu]+[Zr]が規定値であってレーザー光の反射率も75%以下で低いことから、エネルギー効率が高く、造形物が適切に作製でき、得らえた造形物の電気伝導率も70%以上となり、高い導電率が確保されるものとなった。
他方、比較例1~9では、(1)/(3)のピーク強度比が低く、造形物の電気伝導率が低いものとなっている。比較例10~17は、(2)/(3)のピーク強度比が3.5を超えており、造形物の電気伝導率が低いものとなっている。
図1