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特開2022-161060架空送電線への着氷雪量測定システム及び架空送電線への着氷雪量測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161060
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】架空送電線への着氷雪量測定システム及び架空送電線への着氷雪量測定方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/02 20060101AFI20221014BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20221014BHJP
   B64D 47/08 20060101ALI20221014BHJP
   G01C 11/36 20060101ALI20221014BHJP
   G01C 11/04 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
H02G1/02
B64C39/02
B64D47/08
G01C11/36
G01C11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065580
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】神山 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 広二
【テーマコード(参考)】
5G352
【Fターム(参考)】
5G352AA01
5G352AA12
5G352AK03
5G352AM01
5G352AM02
(57)【要約】
【課題】架空送電線への着氷雪量の測定を簡易かつ迅速に行うことが可能な架空送電線への着氷雪量測定システム及び架空送電線への着氷雪量測定方法を提供する。
【解決手段】架空送電線5への着氷雪量を測定するための架空送電線への着氷雪量測定システム1は、撮影装置20を搭載する飛行体2と、架空送電線5への着氷雪量を測定する測定装置3と、を備え、飛行体2は、飛行しながら撮影装置20で架空送電線5を撮影して、撮影した画像のデータDを測定装置3に送信し、測定装置3は、送信されてきた画像のデータDに基づいて架空送電線5の弛度dを算出し、算出した架空送電線5の弛度dに基づいて架空送電線5への着氷雪量を測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空送電線への着氷雪量を測定するための架空送電線への着氷雪量測定システムであって、
撮影装置を搭載する飛行体と、
前記架空送電線への前記着氷雪量を測定する測定装置と、
を備え、
前記飛行体は、飛行しながら前記撮影装置で前記架空送電線を撮影して、撮影した画像のデータを前記測定装置に送信し、
前記測定装置は、送信されてきた前記画像のデータに基づいて前記架空送電線の弛度を算出し、算出した前記架空送電線の弛度に基づいて前記架空送電線への前記着氷雪量を測定することを特徴とする架空送電線への着氷雪測定システム。
【請求項2】
前記飛行体は、前記架空送電線が張設された2基の鉄塔のうち、一方の前記鉄塔側の所定の高さの位置から、他方の前記鉄塔と前記架空送電線の弛度底を含むように前記架空送電線を撮影することを特徴とする請求項1に記載の架空送電線への着氷雪測定システム。
【請求項3】
前記測定装置は、温度と弛度理論値とを対応付けた弛度表を有しており、前記飛行体が前記架空送電線の近傍で測定した気温における前記弛度理論値を前記弛度表から割り出し、前記画像のデータに基づいて算出した前記架空送電線の弛度と、前記弛度表から割り出した前記弛度理論値に基づいて、前記架空送電線への前記着氷雪量を算出して測定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の架空送電線への着氷雪測定システム。
【請求項4】
前記測定装置は、さらに前記飛行体が測定した前記架空送電線の位置での風速に基づいて前記架空送電線に対する風圧荷重を算出し、算出した前記風圧荷重に基づいて、前記架空送電線への前記着氷雪量を算出して測定することを特徴とする請求項3に記載の架空送電線への着氷雪測定システム。
【請求項5】
前記測定装置は、前記撮影装置が前記架空送電線を横方向及び垂直方向から撮影した画像に基づいて、前記架空送電線への着氷雪の垂直方向の厚さ及び水平方向の厚さを測定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の架空送電線への着氷雪測定システム。
【請求項6】
前記測定装置は、前記架空送電線を撮影した前記画像のデータに基づいて前記架空送電線への着氷雪の体積を算出し、算出した前記体積と、測定した前記架空送電線への前記着氷雪量に基づいて、前記着氷雪の比重を算出することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の架空送電線への着氷雪測定システム。
【請求項7】
架空送電線への着氷雪量を測定するための架空送電線への着氷雪量測定方法であって、
撮影装置を搭載した飛行体が飛行しながら前記撮影装置で前記架空送電線を撮影する撮影工程と、
撮影した画像のデータを測定装置に送信する送信工程と、
前記測定装置が、送信されてきた前記画像のデータに基づいて前記架空送電線の弛度を算出する弛度算出工程と、
算出された前記架空送電線の弛度に基づいて前記架空送電線への前記着氷雪量を測定する着氷雪量測定工程と、
を含むことを特徴とする架空送電線への着氷雪測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線への着氷雪量測定システム及び架空送電線への着氷雪量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架空送電線(以下、単に電線という場合がある。)に雪や氷が付着すると、ギャロッピングやスリートジャンプ等の現象が発生し、隣接する電線同士が接触して短絡事故につながる場合がある。
そのため、従来から、電線への着氷雪の目視やロボット(非特許文献1参照)等による電線への着氷雪量の測定が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】株式会社ジェイ・パワーシステムズ、“架空送電線事業部門の紹介”、[令和3年3月29日検索]、インターネット<URL:https://www.jpowers.co.jp/product/pdf/kakuC.pdf>
【非特許文献2】関西電力送配電株式会社、“豪雪から送電線を守り抜く。送電鉄塔の雪降ろし”、[令和3年3月29日検索]、インターネット<URL:https://www.kansai-td.co.jp/supply/mission/aerial-01.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電線への着氷雪量の測定を行うためには、ロボットで行うにせよ、雪深い山中で現場に向かったり現場で作業を行わなければならず(例えば非特許文献2等参照)、作業者にとって過酷な作業になっていた。
また、比較的他人数で数日をかけて行われる場合が多く、コストがかかるものになっていた。
さらに、例えば短絡事故が生じた場合のように緊急を要する場合でも、迅速に測定を行うことができない等の問題があった。
【0005】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、架空送電線への着氷雪量の測定を簡易かつ迅速に行うことが可能な架空送電線への着氷雪量測定システム及び架空送電線への着氷雪量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
架空送電線への着氷雪量を測定するための架空送電線への着氷雪量測定システムであって、
撮影装置を搭載する飛行体と、
前記架空送電線への前記着氷雪量を測定する測定装置と、
を備え、
前記飛行体は、飛行しながら前記撮影装置で前記架空送電線を撮影して、撮影した画像のデータを前記測定装置に送信し、
前記測定装置は、送信されてきた前記画像のデータに基づいて前記架空送電線の弛度を算出し、算出した前記架空送電線の弛度に基づいて前記架空送電線への前記着氷雪量を測定することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の架空送電線への着氷雪量測定システムにおいて、前記飛行体は、前記架空送電線が張設された2基の鉄塔のうち、一方の前記鉄塔側の所定の高さの位置から、他方の前記鉄塔と前記架空送電線の弛度底を含むように前記架空送電線を撮影することを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の架空送電線への着氷雪量測定システムにおいて、温度と弛度理論値とを対応付けた弛度表を有しており、前記飛行体が前記架空送電線の近傍で測定した気温における前記弛度理論値を前記弛度表から割り出し、前記画像のデータに基づいて算出した前記架空送電線の弛度と、前記弛度表から割り出した前記弛度理論値に基づいて、前記架空送電線への前記着氷雪量を算出して測定することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の架空送電線への着氷雪測定システムにおいて、さらに前記飛行体が測定した前記架空送電線の位置での風速に基づいて前記架空送電線に対する風圧荷重を算出し、算出した前記風圧荷重に基づいて、前記架空送電線への前記着氷雪量を算出して測定することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の架空送電線への着氷雪測定システムにおいて、前記測定装置は、前記撮影装置が前記架空送電線を横方向及び垂直方向から撮影した画像に基づいて、前記架空送電線への着氷雪の垂直方向の厚さ及び水平方向の厚さを測定することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の架空送電線への着氷雪測定システムにおいて、前記測定装置は、前記架空送電線を撮影した前記画像のデータに基づいて前記架空送電線への着氷雪の体積を算出し、算出した前記体積と、測定した前記架空送電線への前記着氷雪量に基づいて、前記着氷雪の比重を算出することを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、
架空送電線への着氷雪量を測定するための架空送電線への着氷雪量測定方法であって、
撮影装置を搭載した飛行体が飛行しながら前記撮影装置で前記架空送電線を撮影する撮影工程と、
撮影した画像のデータを測定装置に送信する送信工程と、
前記測定装置が、送信されてきた前記画像のデータに基づいて前記架空送電線の弛度を算出する弛度算出工程と、
算出された前記架空送電線の弛度に基づいて前記架空送電線への前記着氷雪量を測定する着氷雪量測定工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、架空送電線への着氷雪量の測定を簡易かつ迅速に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る架空送電線への着氷雪量測定システムや架空送電線への着氷雪量測定方法における飛行体や測定装置等を表すイメージ図である。
図2】飛行体の構成を表すブロック図である。
図3】測定装置の構成を表すブロック図である。
図4】架空送電線への着氷雪量測定方法の各工程を示すフローチャートである。
図5】架空送電線の垂直方向及び水平方向の厚みと、架空送電線を横方向及び上方から撮影することを説明する図である。
図6】他方の鉄塔と架空送電線の弛度底を含むように架空送電線を撮影した画像の例を表す図である。
図7】異長法による架空送電線の弛度の計算のしかたを説明する図である。
図8】風が吹いている場合に架空送電線に加わる荷重の関係を表す図である。
図9】風が吹いていない場合に架空送電線に加わる荷重の関係を表す図である。
図10】風が吹いている状態で他方の鉄塔と架空送電線の弛度底を含むように架空送電線を撮影した画像の例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る架空送電線への着氷雪量測定システム及び架空送電線への着氷雪量測定方法について説明する。
ただし、以下に述べる各実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の各実施形態や図示例に限定するものではない。また、以下、架空送電線への着氷雪量測定システムや架空送電線への着氷雪量測定方法を、単に着氷雪量測定システムや着氷雪量測定方法という場合がある。
【0016】
図1は、本実施形態に係る架空送電線への着氷雪量測定システムの構成を表す図である。本実施形態では、架空送電線への着氷雪量測定システム1は、飛行体2と、測定装置3とを備えている。
そして、本実施形態に係る着氷雪量測定システム1や着氷雪量測定方法では、飛行体2に搭載された撮影装置20で電線(架空送電線)5を撮影し、撮影した画像のデータ(以下、画像データDという。)に基づいて測定装置3で電線5の弛度dを算出し、算出した電線5の弛度dに基づいて電線5への着氷雪Iの量(着氷雪重量Wi等)を測定するようになっている。
【0017】
なお、図1等において、6は鉄塔を、7は腕金部をそれぞれ表しており、碍子や架空地線等の図示が省略されている。また、図1では電線5が上下3本しか記載されていないが、実際には、例えば、鉄塔6の両側にそれぞれ上下3本ずつ計6本架設されている。また、鉄塔6等と飛行体2の相対的な大きさは現実を反映していない。
また、図1では、測定装置3が2本の鉄塔6の間の位置に記載されているが、これは、測定装置3が鉄塔6等から遠い位置にあってもよいことを表すものであり、2本の鉄塔6の間の位置に測定装置3を配置することを意味するものではない。
【0018】
図2は、飛行体の構成を表すブロック図である。飛行体2は、図1図2ではドローンである場合が示されているが、例えばヘリコプター型等であってもよい。
飛行体2は、図2に示すように、撮影装置20のほか、制御部21やメモリ22、駆動制御部23、測距部24、無線通信部25、センサ類26等を搭載するように構成されている。
【0019】
また、図示を省略するが、本実施形態では、飛行体2は、GPS(Global Positioning System)衛星や準天頂衛星等の人工衛星から衛星信号を受信して飛行体2の位置(緯度、経度又は緯度、経度、高度)を検出する位置検出部を備えている。
なお、本実施形態では、作業者等が飛行体2を操縦する場合が想定されているが、飛行体2が自律的に飛行するものであってもよい。その場合、飛行体2は後述するメモリ22中に鉄塔6や電線5の位置等を含む地図情報や送電線路情報等の必要な情報を記憶しておくように構成される。
【0020】
撮影装置20は、静止画と動画のいずれの画像を撮影するものであってもよく、また、画像はモノクロでもカラーでもよい。
なお、図1図2では、飛行体2に、下向きに取り付けられた撮影装置20と横向きに取り付けられた撮影装置20の2つの撮影装置20が搭載されている場合が示されているが、1台の撮影装置20の撮影方向を自在に変えることができるように構成することも可能である。
【0021】
また、本実施形態では、撮影装置20の撮影方向にスケール20aが配置されており、撮影装置20で撮影を行うと画像中にスケール20aが写り込むようになっている。
なお、スケール20aを使用しない場合に、スケール20aを撮影装置20の撮影範囲に入らない位置に移動させることができるように構成することも可能である。
【0022】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)等を備えるコンピュータで構成されており、撮影装置20を含む飛行体2の全般的な制御を行うようになっている。
なお、制御部21が専用装置で構成されていてもよい。
メモリ22は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等で構成されており、各種の制御プログラム22a等が記憶されている。
【0023】
駆動制御部23は、制御部21の制御に従って、飛行体2の回転翼23aを回転させるための図示しないモータ等の駆動装置を制御して飛行体2を適切に飛行させるようになっている。
測距部24は、レーザ装置等を備える測距センサ等で構成されており、撮影装置20と対象物(電線5等)との距離を測ることができるようになっている。
【0024】
また、飛行体2は、測定装置3との間で無線通信を行うようになっており、そのための無線通信モジュール等の無線通信部25を備えている。
また、飛行体2には、風速センサや温度センサ、日射計等のセンサ類26が取り付けられている。
【0025】
なお、図示を省略するが、飛行体2には、このほか、バッテリーやエンジン等の必要な装置等が搭載されている。
また、風速Vについては、上記のように風速センサで測定するように構成することも可能であるが、例えば飛行体2が風で流されないように駆動制御部23が回転翼23aを制御する際の制御値等から制御部21が外気の風速Vを割り出すように構成することも可能である。
【0026】
図3は、測定装置の構成を表すブロック図である。測定装置3は、前述したように、電線(架空送電線)5への着氷雪量を測定するための装置である。
測定装置3は、図3に示すように、制御部31や無線通信部32、メモリ33、表示画面34等を備えて構成されている。なお、この他、必要に応じてセンサ類を備えたり、通信ネットワークに接続できるように構成されていてもよい。
【0027】
制御部31は、コンピュータで構成されていてもよく、専用の制御装置等で構成されていてもよい。制御部31は、後述する制御プログラム33aに従って測定装置3の全般的な制御を行うようになっている。
また、測定装置3は、飛行体2との間で無線通信を行うようになっており、そのための無線通信モジュール等の無線通信部32を備えている。無線通信部32は、飛行体2から撮影装置20で撮影された画像のデータ(以下、画像データDという。)が送信されてくると、画像データDをメモリ33に保存する。なお、制御部31は、送信されてきた画像データDに簡単な画像処理を施して画像を生成して、液晶ディスプレイ等で構成される表示画面34上に表示するようになっている。
【0028】
メモリ33には、各種の制御プログラム33aが記憶されている。また、メモリ33には、鉄塔6の番号や構造図、鉄塔6間に張設されている電線5等に関する情報等を含む送電線路情報33bが記憶されている。電線5の種類には電線5の太さの情報等も含まれる。
また、メモリ33は、無線通信部32が受信した画像データDを記憶領域33cに記憶させるようになっている。
【0029】
なお、本実施形態では、送電線路情報33bには後述する弛度表が含まれている。また、メモリ33に地図情報等が記憶されていてもよい。
そして、制御部31は、表示画面34上に地図を表示するとともに、表示した地図上に飛行体2の図形を表示するなどして、飛行体2がどこを飛行しているかを地図上に示すように構成することも可能である。
【0030】
[電線等の撮影と測定装置における処理、及び架空送電線への着氷雪量測定方法]
次に、本実施形態に係る着氷雪量測定システム1における飛行体2による電線5等の撮影と測定装置3における処理について説明する。
また、電線5への着氷雪量を測定するための架空送電線への着氷雪量測定方法についてもあわせて説明する。
【0031】
ここで、弛度表について説明する。
送電線路のある区間(すなわち鉄塔6と鉄塔6との間)に電線5を鉄塔6に架線する際に、事前に電線5をどのような弛度dで架線するかを設計する弛度設計が行われる。弛度設計については、例えば、竹下英世著、「架空送電線の弛度-弛度・張力の理論とその計算(増補改訂版)」、電力社、1957年1月、p.26-56に詳しく記載されている。
【0032】
そして、その際、例えば-10℃~40℃等の温度範囲で弛度dを算出し、例えば1℃刻みで各温度に、無風で着氷雪がない状態での電線5の弛度d(後述する弛度理論値di)を対応付けたものが弛度表である。
弛度表は送電線路の区間ごとに予め作成される。そして、測定装置3は、前述したように、各送電線路の区間ごとの弛度表をメモリ33に有している。なお、各送電線路の区間ごとの弛度表が保存されているデータベース等から測定装置3が必要な弛度表を読み出すように構成することも可能である。
【0033】
そして、電線5を鉄塔6に架線する際には、弛度表からその時点での気温に対応する弛度dを割り出し、その弛度dになるように電線5を架線する。
また、運用が開始され、電線5に電流が流れると電線5の温度が上昇し、電線5の長さが長くなるため、弛度dが大きくなる。
【0034】
なお、本実施形態では、前述したように(また、以下で説明するように)測定装置3で画像データDに基づいて電線5の弛度d(すなわち電線5の現在の弛度d)が算出されるが、この弛度dと区別するために、上記のように弛度設計で算出された弛度を、以下、弛度理論値diという。
【0035】
架空送電線への着氷雪量測定方法には、図4に示す各工程が含まれており、その流れに従って飛行体2による電線5等の撮影と測定装置3における処理等を説明する。
本実施形態では、架空送電線への着氷雪量測定方法には、撮影工程(ステップS1)と、送信工程(ステップS2)と、着氷雪の厚さ測定工程(ステップS3)と、弛度算出工程(ステップS4)と、着氷雪量測定工程(ステップS5)とが含まれている。
【0036】
[撮影工程]
撮影工程(ステップS1)では、撮影装置20を搭載した飛行体2が飛行しながら撮影装置20で電線5を撮影する。
この工程では、作業者等は、作業現場の基地(例えば飛行体2や測定装置3を運んできた場所等)から飛行体2を測定対象の電線5の近傍まで飛行させる。
【0037】
そして、本実施形態では、撮影工程で、電線5への着氷雪量の測定の観点から少なくとも以下の2つの点について撮影装置20で電線5を撮影する。
(A)電線5への着氷雪量の測定の第1の観点として、電線5に付着した氷や雪I(着氷雪)の厚さを測定したり付着した氷や雪Iの状態を観測するために、図1の飛行体2Aのように飛行体2を電線5の周囲の位置に移動させて、電線5の各箇所で電線5に付着した氷や雪Iを撮影する。
(B)電線5への着氷雪量の測定の第2の観点として、電線5への着氷雪重量Wiを測定するために必要となる電線5の弛度d(すなわち電線5の現在の弛度d)を算出するために、図1の飛行体2Bのように飛行体2を一方の鉄塔61の近傍に移動させて、電線5や他方の鉄塔62を撮影する。
【0038】
まず、(A)の撮影では、作業者等は、図5に示すように、電線5に付着した氷や雪Iの垂直方向の厚さaを測定するために、飛行体2を電線5の側方でホバリングさせながら撮影装置20で電線5を横方向から撮影する。
そして、飛行体2は、その際に測距部24が測定した撮影装置20と電線5との距離Laを、撮影した画像に対応付けて記憶する。
【0039】
また、作業者等は、図5に示すように、電線5に付着した氷や雪Iの水平方向の厚さbを測定するために、飛行体2を電線5の上方に移動させてホバリングさせながら撮影装置20を下に向けて電線5を上方から撮影する。撮影装置20を上に向けて電線5を下方から撮影してもよい。
そして、飛行体2は、その際に測距部24が測定した撮影装置20と電線5との距離Lbを、撮影した画像に対応付けて記憶する。
【0040】
なお、(A)の撮影の際には、撮影装置20の撮影方向にスケール20aを配置させて、撮影した画像中にスケール20a(図2参照)が写り込むようにする。
また、作業者等は、電線5に付着した氷や雪Iの状態、すなわち電線5が凍り付いている、電線5に雪が積もっている、付着した氷や雪Iが濡れている、乾いているなどの状態や、電線5に付着した氷や雪Iの断面が楕円状である、風上側が分厚い、電線5の長手方向にらせん状に付着しているなどの付着状態等が分かる画像を撮影する。
【0041】
そして、作業者等は、飛行体2を電線5に沿って移動させながら、電線5の複数箇所で(例えば所定の距離ごとに)上記の(A)の撮影を行う。
また、作業者等は、上記の(A)の撮影を各電線5について行う。
【0042】
一方、作業者等は、(A)の撮影の前又は後に、上記の(B)の撮影を行う。
(B)の撮影では、作業者等は、飛行体2を、図1に示したように、電線5が張設された2基の鉄塔6のうち、一方の鉄塔61側に移動させる。そして、飛行体2から送信されてくる動画を見ながら、一方の鉄塔61の所定の高さの位置、例えば腕金部7のうち最も下側の腕金部71E(図1参照)の位置に飛行体2を移動させる。
【0043】
そして、作業者等は、飛行体2をその位置(腕金部71Eの位置)でホバリングさせてその位置から高度を上げたり下げたりさせない状態で(なお、水平方向に移動させることは可能。)、図6に示すように、他方の鉄塔62と電線5の弛度底5aを含むように電線5を撮影する。
【0044】
なお、上記のように他方の鉄塔62や電線5の弛度底5aを撮影する際、図6に示すように、他方の鉄塔62の全体が画像10中に撮影される必要はないが、他方の鉄塔62の複数の腕金部72A~72E(図6では腕金部72C~72Eが写っている。)など実際の長さや間隔等が鉄塔62の構造図から容易に分かる鉄塔62の部分が撮影されていれば、後述する電線5の弛度dの算出処理を容易に行うことが可能となる。
【0045】
[送信工程]
そして、飛行体2の制御部21は、撮影装置20が撮影した画像データD等を測定装置3に送信する(送信工程(ステップS2))。
この場合、撮影装置20で撮影して得られた画像データD等を一旦飛行体2のメモリ22に保存しておき、対象の電線5の撮影が終了した後でまとめて測定装置3に送信するように構成することも可能であり、あるいは撮影装置20で画像を撮影するごとに画像データD等を測定装置3に送信するように構成することも可能である。
【0046】
[着氷雪の厚さ測定工程]
上記のようにして飛行体2から(A)の撮影で得られた画像データD等が送信されてくると、測定装置3は、電線5への着氷雪量の測定のための第1の測定として、送信されてきた画像データD等に基づいて電線5に付着した氷や雪I(着氷雪)の垂直方向の厚さaや水平方向の厚さb(図5参照)を算出して測定する(着氷雪の厚さ測定工程(ステップS3))。
この場合、前述したように電線5に付着した氷や雪Iを撮影した画像中にスケール20a(図2参照)が写り込んでいる。また、撮影装置20とスケール20a間の距離は予め分かっている。
【0047】
そして、撮影装置20とスケール20a間の距離と画像上でのスケール20aの1単位(例えば1cm)に相当する画素数との関係から、撮影装置20と電線5との距離Laと画像中に撮影された着氷雪Iの垂直方向の画素数に基づいて、電線5の着氷雪Iの垂直方向の実際の厚さaを算出して測定することができる。
そのため、測定装置3は、画像中に撮影された着氷雪Iの垂直方向の画素数を割り出して、上記の関係に基づいて電線5の着氷雪Iの垂直方向の厚さaを算出して測定する。
【0048】
また、同様にして、測定装置3は、画像中に撮影された着氷雪Iの水平方向の画素数を割り出して、上記の関係に基づいて電線5の着氷雪Iの水平方向の厚さbを算出して測定する。
測定装置3は、この電線5の着氷雪Iの厚さa、bの測定処理を、電線5に付着した氷や雪Iを撮影した全ての画像について行い、メモリ33に保存する。
【0049】
なお、測定装置3は、作業者等の指示に従って、測定した電線5の各箇所の着氷雪Iの厚さa、bを表示画面34上に表示するように構成することが可能である。また、測定装置3は、上記のように撮影装置20で撮影した、電線5に付着した氷や雪I(着氷雪)の状態(電線5が凍り付いている、氷や雪Iの断面が楕円状である等の状態)を表示画面34上に表示するように構成することも可能である。
このように、表示画面34上に電線5の各箇所の着氷雪Iの厚さa、bや付着した氷や雪Iの状態を表示すれば、作業者は、それらの測定結果や状態の画像を見て、各電線5への着氷雪Iの状況、すなわち各電線5のどの位置にどの程度の氷や雪Iがどのような状態で付着しているかを確認することが可能となる。
【0050】
[弛度算出工程]
一方、測定装置3は、上記のようにして飛行体2から(B)の撮影で得られた画像(例えば図6の画像10参照)の画像データD等が送信されてくると、電線5への着氷雪量の測定のための第2の測定として、後述する電線5への着氷雪重量Wiを測定するために、送信されてきた画像データD等に基づいて電線5の弛度dを算出する(弛度算出工程(ステップS4))。
【0051】
以下、本発明に係る架空送電線への着氷雪量測定システム1や架空送電線への着氷雪量測定方法における電線5の弛度dの算出や電線5への着氷雪量(着氷雪重量Wi)の測定のしかたを分かりやすく説明するために、最初に、第1の実施形態で、無風あるいは無風と見なし得る状況下で電線5への着氷雪量を測定する場合について説明する。
そして、第2の実施形態で、風が吹いている状況下で電線5への着氷雪量を測定する場合について説明する。
【0052】
[第1の実施の形態]
[弛度dの算出のしかた]
以下で説明する電線5の弛度dの算出方法については、特開2000-324639号公報や特開2002-112421号公報に詳しく説明されているため、詳しくはそれらの公報を参照されたい。
また、以下、図6に示した画像10に基づいて説明する。
【0053】
測定装置3は、初めに、画像10の写角範囲Rを求める。
すなわち、例えば、測定装置3の表示画面34上に表示された画像10に対して、作業者等が、画像10中に撮影されている鉄塔62の各腕金部72C~72Eの左右の先端部を、所定のポインタ等で画面にタッチするなどして指し示すと、それらの画像10上での座標(x,y)をそれぞれ割り出す。測定装置3が自動的に画像10中から各腕金部72C~72Eの左右の先端部を抽出してそれらの座標を割り出すように構成してもよい。
【0054】
そして、例えば、腕金部72Eの左右の先端部間の実際の距離は、鉄塔62の構造図から既知であるため、当該先端部間の実際の距離を当該先端部間のx座標の差で割ることで、x軸方向の1画素あたりの実長が分かる。
そして、算出したx軸方向の1画素あたりの実長から、画像10のx軸方向の左端から右端までの実長が分かる。
【0055】
また、同様にして、例えば、腕金部72Cの画像10上で右側の先端部と腕金部72Eの画像10上で右側の先端部と間の実際の距離も鉄塔62の構造図から既知であるため、当該先端部間の実際の距離を当該先端部間のy座標の差で割ることで、y軸方向の1画素あたりの実高が分かる。
そして、算出したy軸方向の1画素あたりの実高から、画像10のy軸方向の上端から下端までの実高が分かる。
【0056】
測定装置3は、このようにして、画像10の写角範囲R、すなわち鉄塔62の位置での画像10の領域(左右方向の実長や上下方向の実高)を求める。
そして、このようにして画像10の写角範囲Rを求めることにより、社団法人送電線建設技術研究会が株式会社電気書院を発売所として昭和62年10月に発行した「TLT-5 架線工事施工基準解説書」の第228頁に記載されている弛度計算方法の異長法を適用して電線5の弛度dを計算することができる。
【0057】
すなわち、当該電線5の一方の鉄塔61における支持点(この場合は鉄塔61の腕金部71A(図1参照))と、画像10を撮影した飛行体2の撮影装置20(この場合は上記のように一方の鉄塔61の最も下側の腕金部71Eの高さにある。)と、の実際の高低差をh1とする。
また、当該電線5の他方の鉄塔62における支持点(この場合は鉄塔62の腕金部72A(図1参照))と、撮影装置20から当該電線5の弛度底5a(図6参照)を見通した場合の画像10の写角範囲R上の観測点(他方の鉄塔62の腕金部72Eより少し上側の、矢印5aで示されている点)と、の実際の高低差をh2とする。
【0058】
すると、この場合、上記の異長法によれば、当該電線5の弛度d(図7参照)と上記の高低差h1、h2との間には、下記式(1)の関係が成立する。
【数1】
【0059】
なお、この場合、上記の高低差h1は鉄塔61の構造図から分かる。また、上記の高低差h2は、画像10(図6参照)上で、撮影装置20から当該電線5の弛度底5aを見通した場合の画像10の写角範囲R上の観測点と腕金部72Dとの間のy軸方向の画素数を割り出し、それにy軸方向の1画素あたりの実高を乗じて観測点と腕金部72Dとの間のy軸方向の実高を割り出し、それに腕金部72A-72D間の実高を足すことで算出することができる。
また、撮影装置20から電線5の弛度底5aを見通した場合の画像10の写角範囲R上の観測点は、作業者等が所定のポインタ等で画面にタッチするなどして指し示すように構成してもよく、測定装置3が自動的に画像10中から割り出すように構成してもよい。
【0060】
本実施形態では、測定装置3は、以上のようにして、飛行体2から送信されてきた画像10の画像データD等に基づいて、上記式(1)の関係から電線5の弛度dを算出するようになっている。
【0061】
[着氷雪量測定工程]
続いて、測定装置3は、上記のようにして算出した電線5の弛度dに基づいて、電線5への着氷雪量(着氷雪重量Wi)を測定する(着氷雪量測定工程(ステップS5))。
本実施形態では、測定装置3は、以下のようにして電線5への着氷雪量(着氷雪重量Wi)を算出して測定するようになっている。
【0062】
電線5に電流が流れていれば、電線5の温度が上昇して0℃以上になるため、電線5に氷や雪Iは付着しない(付着しても融け落ちる)。電線5に氷や雪Iが付着しているということは電線5には電流が流れていないことを意味する。
そのため、氷や雪Iが付着している電線5の温度は電線5の近傍の現在の気温Tと同じ温度になっていると考えられる。
【0063】
そこで、測定装置3は、電線5の温度Tを、飛行した飛行体2が電線5の近傍で測定した気温Tであるとする。
続いて、測定装置3は、当該電線5に関する弛度表からその温度Tにおける弛度理論値diを割り出す。
【0064】
電線5の弛度dや弛度理論値diは、電線5の負荷係数qに比例する。
そして、一般に、電線5の負荷係数qは、電線5に対する各荷重との間に、
q=Ws/W={(W+Wi)+Ww1/2/W …(2)
の関係が成り立っている。
【0065】
ここで、Wsは合成荷重、Wは電線の自重、Wiは被氷雪荷重、Wwは風圧荷重を表し(単位はいずれもkg/m)、各荷重の関係は、図8に示される各ベクトルの関係になっている。
そして、第1の実施形態では、前述したように無風あるいは無風と見なし得る状況であり、上記式(2)において風圧荷重Wwが0の状態(0と見なし得る状態)であるため(図9参照)、本実施形態では、下記式(3)が成り立っている。
q=Ws/W=(W+Wi)/W …(3)
【0066】
そして、上記式(1)に従って算出した電線5の弛度dは、氷や雪Iが付着した電線5の弛度であるため、上記式(3)で表される電線5の負荷係数qに比例する。
一方、上記のように弛度表から割り出した弛度理論値diは氷や雪Iが付着していない電線5の弛度であるから、上記式(3)においてWi=0とした場合の電線5の負荷係数q=W/W(すなわちこの場合は1)に比例する。
【0067】
そのため、
d:di=(W+Wi)/W:W/W
∴Wi=W(d-di)/di …(4)
を計算することで、被氷雪荷重Wiを算出することができる。
そのため、本実施形態では、測定装置3は、上記のように、上記式(1)に基づいて電線5の現在の弛度dを算出し、弛度表から気温Tにおける弛度理論値diを割り出すと、送電線路情報33bから当該電線5の自重Wの情報を入手し、それらを上記式(4)に代入して、被氷雪荷重Wiすなわち電線5への着氷雪量を算出して測定するように構成することができる。
【0068】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施形態では、風が吹いている状況下で電線5への着氷雪量(被氷雪荷重Wi)を測定する場合について説明する。
風が吹いている場合、電線5の負荷係数qと、被氷雪荷重Wiを含む各荷重との関係は、上記式(2)や図8に示したような関係になっている。なお、図8中のθは、合成荷重Wsと電線5の自重Wや被氷雪荷重Wiとのなす角度、すなわち電線5の垂直方向に対する傾斜角を表している。
【0069】
そして、上記式(2)に示されるように、風が吹いている状況下で被氷雪荷重Wiを算出する場合には、電線5の現在の負荷係数qや電線5の自重Wのほかに風圧荷重Wwの情報が必要になる。
そこで、風が吹いている場合に被氷雪荷重Wiを算出して測定する方法として、例えば以下のように構成することが可能である。
【0070】
第1の実施形態において画像10(図6参照)を撮影した場合と同様にして、飛行体2の撮影装置20で図10に示すような画像11を撮影し、撮影した画像10を用いて電線5の弛度dを算出した場合と同様にして画像11を用いて電線5の弛度dを算出する。
なお、この場合の電線5の弛度dは、図7に示した弛度dの場合を同様に、一方の鉄塔61における電線5の支持点と飛行体2の撮影装置20との実際の高低差h1や、他方の鉄塔62における電線5の支持点と、撮影装置20から当該電線5の弛度底5aを見通した場合の画像10の写角範囲R上の観測点と、の実際の高低差h2とを用いて、上記式(1)に基づいて算出される。
【0071】
しかし、風が吹いていて電線5が図8に示したように傾斜している場合、傾斜した状態の電線5の弛度が本来の電線5の弛度dになる。
そして、上記のようにして算出される電線5の弛度dは、高低差に着目して算出される弛度、すなわち垂直方向の成分にのみ着目して算出される弛度であるため、本来の電線5の弛度dの垂直成分に相当するものである。すなわち、算出される電線5の弛度dには、電線5の弛度dの水平成分は含まれていない。
【0072】
そのため、上記のようにして算出された電線5の弛度dと本来の電線5の弛度dとの間には、図9中の電線5の傾斜角θを用いて、
=dcosθ
∴d=d/cosθ …(5)
の関係がある。
【0073】
そこで、飛行体2の撮影装置20で撮影した画像11(図10参照)を画像解析して、電線5の垂直方向に対する傾斜角θを割り出す。
その際、例えば、画像11を複数回撮影して、各画像11に基づいて割り出された電線5の傾斜角θの平均値等を電線5の傾斜角θとするように構成することも可能である。
【0074】
そして、割り出した傾斜角θと算出した電線5の弛度dを上記式(5)に代入して本来の電線5の弛度d(電線5の現在の弛度d)を算出する。
続いて、測定装置3は、上記のようにして算出した電線5の弛度dに基づいて、電線5への着氷雪量(着氷雪重量Wi)を測定する(着氷雪量測定工程(ステップS5))。
【0075】
本実施形態においても、測定装置3は、電線5の温度Tを、飛行した飛行体2が電線5の近傍で測定した気温Tであるとして、当該電線5に関する弛度表からその温度Tにおける弛度理論値diを割り出す。
そして、電線5の弛度dや弛度理論値diは電線5の負荷係数qに比例し、電線5の負荷係数qと電線5に対する着氷雪重量Wiを含む各荷重との間には上記式(2)の関係がある。なお、弛度表に記載されている電線5の弛度理論値diは着氷雪重量Wi=0の場合の弛度である。
【0076】
そのため、電線5の弛度dと弛度理論値diの比をとると、
d:di={(W+Wi)+Ww1/2/W:(W+Ww1/2/W
が成り立ち、
Wi={(W+Ww)d/di-Ww1/2-W …(6)
となる。そのため、上記式(6)を計算することで、被氷雪荷重Wiを算出することができる。
【0077】
しかし、上記式(6)の計算を行うためには、風圧荷重Wwの情報が必要になる。
そのため、飛行体2に搭載した風速センサ等で電線5の位置での風速を測定し、それに基づいて電線5に対する風圧を算出するなどして電線5に対する風圧荷重Wwを算出することが可能である。
また、飛行体2が風で流されないように駆動制御部23が回転翼23aを制御する際の制御値等から制御部21が外気の風速を割り出すように構成することも可能である。
【0078】
具体的には、風速がVであるとき、電線5に対する風圧Pは、
P=0.5CxρV …(7)
で表される。
ここで、ρは空気密度であり、気圧や気温により変化するが標準状態では0.125である。なお、気圧や気温を測定して現在の空気密度ρを算出するように構成してもよい。
【0079】
また、Cxは抵抗係数であり、電線周辺の空気の流れによって定まる値である。すなわち、空気の流れが層流の場合は約1.1程度でほぼ一定であるが、空気の流れが乱流になると0.9~1.0程度になる。
そのため、抵抗係数Cxについては、作業者が飛行体2の撮影装置20で撮影した電線5の画像等から判断して測定装置3に入力するように構成してもよい。
【0080】
また、上記のようにして測定した電線5の着氷雪Iの厚さa、b(図5参照)のうち、風圧を受けるのは垂直方向の長さaの方であるから、上記のようにして算出した風圧Pと着氷雪Iの垂直方向の長さa(例えばその平均値aave)とを下記式(8)のように乗算して、風圧荷重Wwを算出することができる。
Ww=Paave …(8)
【0081】
そのため、本実施形態では、測定装置3は、まず、上記式(1)と式(5)に基づいて電線5の現在の弛度dを算出する。そして、弛度表から気温Tにおける弛度理論値diを割り出すとともに、送電線路情報33bから当該電線5の自重Wの情報を入手する。そして、上記のようにして風圧荷重Wwを算出する。
そして、測定装置3は、これらの値を上記式(6)に代入することで、被氷雪荷重Wiすなわち電線5への着氷雪量を算出して測定するように構成することが可能である。
【0082】
なお、上記式(6)で風圧荷重Ww=0とすると、
Wi=(W/di1/2-W
となり、これを変形すれば、風が吹いていない場合に被氷雪荷重Wiを算出するための上記式(4)と同じ式になる。
【0083】
そのため、以上のように風が吹いている場合と吹いていない場合とを場合分けする必要はなく、いずれの場合も上記式(6)を用いて電線5への着氷雪量(被氷雪荷重Wi)を算出することが可能となる。
また、測定装置3は、電線5への着氷雪量(被氷雪荷重Wi)を測定すると、測定結果を表示画面34上に表示するなどして作業者等に報知するように構成される。
【0084】
以上のように、本発明に係る架空送電線への着氷雪量測定システム1及び架空送電線への着氷雪量測定方法によれば、作業者等が飛行体2を飛行させて撮影装置20で電線5等を撮影すると、測定装置3が、飛行体2から送信されてきた画像データDに基づいて電線5の弛度dを自動的に算出し、算出した電線5の弛度dに基づいて電線5への着氷雪量(被氷雪荷重Wi等)を自動的に測定する。
そのため、作業者は、測定の対象の電線5や鉄塔6の所まで行かなくても電線5への着氷雪量を測定できるため、電線5への着氷雪量の測定を簡易に行うことが可能となる。
【0085】
また、電線5への着氷雪Iの観測を行うために雪深い山中に分け入ったり氷や雪が付着した鉄塔6に登るなどして観測を行う必要がなく、現場の近くから飛行体2を飛ばせば測定を行うことができるため、電線5への着氷雪量の測定を迅速に行うことが可能となる。
そのため、例えば短絡事故が生じた場合のように緊急を要する場合に、迅速に電線5への着氷雪量の測定を行って電線5等の状況の観測を迅速に行うことが可能となる。
【0086】
なお、前述したように、上記の実施形態では、測定装置3は、電線5の各箇所の着氷雪Iの厚さa、bを測定するとともに、当該電線5への着氷雪量(被氷雪荷重Wi)を測定する。
そのため、それらの情報を用いて、電線5への着氷雪Iの比重を算出することが可能となる。
【0087】
具体的には、測定装置3は、例えば、前述したように、飛行体2の撮影装置20が電線5を撮影した画像データDに基づいて算出した電線5の各箇所の着氷雪Iの垂直方向の厚さaの平均値aaveを算出し、水平方向の厚さbの平均値baveを算出する。
そして、電線5に付着した着氷雪Iの断面形状が図5に示したように垂直方向の径がaave、水平方向の径がbaveの楕円状であると仮定すると、着氷雪Iの断面積Sは、
S=π×aave×bave-π×r …(9)
で算出される。なお、rは電線5の半径を表す。
【0088】
そこで、測定装置3は、上記式(9)に従って着氷雪Iの断面積Sを算出し、それに電線5の長さ(あるいは鉄塔6間の距離)を乗算して、電線5への着氷雪Iの体積Voを算出する。
そして、上記のようにして算出した電線5への着氷雪量(被氷雪荷重Wi)を算出した体積Voで除することで着氷雪Iの比重sを算出するように構成することが可能である。
【0089】
なお、上記のように、着氷雪Iの垂直方向の厚さaや水平方向の厚さbの平均値aave、baveに基づいたり着氷雪Iの断面形状を楕円状であると仮定して着氷雪Iの体積Voを算出する代わりに、画像データDに基づいてより精密に電線5への着氷雪Iの体積Voを算出するように構成することも可能である。
従来、電線5への着氷雪Iの比重の情報は、電線5から落とした氷雪を比重計で計測するなどして得られていたが、本発明に係る架空送電線への着氷雪量測定システム1や架空送電線への着氷雪量測定方法によれば、作業者が電線5から着氷雪Iを落とす等の作業を行う必要がなく、氷雪が電線5に付着した状態のまま着氷雪Iの比重sを算出して測定することが可能となる。
【0090】
なお、本発明が上記の各実施形態等に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0091】
1 架空送電線への着氷雪量測定システム
2 飛行体
3 測定装置
5 電線(架空送電線)
5a 弛度底
6 鉄塔
20 撮影装置
61 一方の鉄塔
62 他方の鉄塔
a 着氷雪の垂直方向の厚さ
b 着氷雪の水平方向の厚さ
D 画像データ(画像のデータ)
d 弛度
di 弛度理論値
I 着氷雪
s 着氷雪の比重
T 温度、気温
V 風速
Vo 着氷雪の体積
Wi 被氷雪荷重(架空送電線への着氷雪量)
Ww 風圧荷重
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10