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特開2022-161190スルフィド化剤およびポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161190
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】スルフィド化剤およびポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0281 20160101AFI20221014BHJP
   C08G 75/0259 20160101ALI20221014BHJP
   C08G 75/0209 20160101ALN20221014BHJP
【FI】
C08G75/0281
C08G75/0259
C08G75/0209
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065793
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】深澤 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】桧森 俊男
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA49
4J030BB29
4J030BB31
4J030BC02
4J030BC08
4J030BC18
4J030BD22
4J030BD23
4J030BF06
4J030BF07
4J030BG10
4J030BG30
4J030BG31
(57)【要約】
【課題】 ポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS樹脂)の重合反応後の水洗ないし熱水洗で排出される廃水からアルカリ金属炭酸塩を除去し、高純度のスルフィド化剤を製造する方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む混合物(A)と水とを接触させた後、固液分離して、水溶液(B)を得る工程、前記水溶液(B)に、少なくとも1種の第2族元素を含む金属塩を加えて、水に不溶な炭酸塩を生成させる工程、生成した水に不溶な炭酸塩を分離、除去して、水溶液(C)を得る工程、前記水溶液(C)に酸を加えて、硫化水素を生成させる工程、生成した硫化水素を回収する工程、および、回収した硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程を有するスルフィド化剤の製造方法、該スルフィド化剤を用いたPAS樹脂の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む混合物(A)と水とを接触させた後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む水溶液(B)を得る工程(1)、
前記水溶液(B)に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムのうちの少なくとも1種の第2族元素を含む金属塩を加えて、水に不溶な炭酸塩を生成させる工程(2)、
前記水溶液(B)から、生成した水に不溶な炭酸塩を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(C)を得る工程(3)、
前記水溶液(C)に酸を加えて、硫化水素を生成させる工程(4)、
生成した硫化水素を回収する工程(5)、および、
回収した硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(6)、
を有することを特徴とする、スルフィド化剤の製造方法。
【請求項2】
回収した硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(6)の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、該硫化水素と未反応のアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(7)を有することを特徴とする、請求項1記載のスルフィド化剤の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む混合物(A)が、
非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させた後に得られる、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、前記非プロトン性極性溶媒およびスルフィド化剤を含む粗反応混合物であるか、または当該粗反応混合物から前記非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られた反応混合物であることを特徴とする、請求項1記載のスルフィド化剤の製造方法。
【請求項4】
非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させる際に用いる前記スルフィド化剤が、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する脱水工程を経て得られたものであることを特徴とする、請求項3記載のスルフィド化剤の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の脱水工程において生成した硫化水素を回収した後、アルカリ金属水酸化物と反応させてスルフィド化剤を得る工程を有することを特徴とする、スルフィド化剤の製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属水酸化物と反応させてスルフィド化剤を得る工程の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、該硫化水素と未反応のアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程を有することを特徴とする、請求項5記載のスルフィド化剤の製造方法。
【請求項7】
有機アミド溶媒の存在下で含水スルフィド化剤を脱水して得られたスルフィド化剤を、有機アミド溶媒の存在下でポリハロ芳香族化合物と反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、
含水スルフィド化剤またはスルフィド化剤の少なくとも一部として請求項1~4の何れか一項記載のスルフィド化剤の製造方法により得られたスルフィド化剤および/または前記請求項5または6の製造方法により得られたスルフィド化剤を加える工程を有することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルフィド化剤の製造方法、および、それを用いたポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。より詳しくは、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で排出される廃水から不純物であるアルカリ金属炭酸塩を除去し、高純度のスルフィド化剤を分離、精製し製造する方法、および得られたスルフィド化剤を原料の一部として再利用するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と略すことがある)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と略すことがある)は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。特に、リチウムイオン電池用パッキンやガスケット部材といった用途では、近年、特に高分子量PAS樹脂が、靭性および成形性に優れることから広く用いられている。
【0003】
PAS樹脂は、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略すことがある)などの非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物を、アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属水硫化物(以下、スルフィド化剤と略すことがある)と重合反応させる方法等により得られるが、目的物質のPAS樹脂と共に、溶媒、重合反応せずに残留したアルカリ金属水硫化物やアルカリ金属硫化物といったスルフィド化剤や塩化ナトリウムに代表されるアルカリ金属ハロゲン化物や、他のアルカリ金属含有無機塩、副反応により生成するオリゴマーおよびその誘導体といった副生成物を含有する粗反応生成物が得られる。重合反応後の粗反応生成物は適当な容器に取り出され、粗反応生成物中の溶媒は溶媒乾燥装置、濾過器、遠心分離器等の適当な固液分離装置を用いて脱溶媒処理により分離回収される(本操作を脱溶媒という)。
【0004】
さらに、脱溶媒処理後に得られる反応生成物は目的物質のPAS樹脂と共に、アルカリ金属ハロゲン化物や、他のアルカリ金属含有無機塩や副生成物を含有するため、水洗と濾過が繰り返され、これらが除去される。一般には、100℃未満で行う水洗方法と、100℃以上の高温高圧下で行う熱水洗とがある。水洗又は熱水洗後に得られるポリアリーレンスルフィドは濾過器、遠心濾過器等で分離され、その後乾燥され、必要に応じて熱処理し架橋反応を行い製品とする。
【0005】
一方、水洗または熱水洗後に得られる廃水は、これまで産業廃棄物として処理されており有効活用されてこなかった。しかし、該廃水はCOD負荷が高いことから、環境負荷低減のために、COD物質を低減することが求められていた。
【0006】
重合反応後の水洗ないし熱水洗で排出される廃水を詳しく調べたところ、未反応のまま残留したスルフィド化剤が硫黄原子に換算して、仕込み量の3~5モル%程度の残留しており、該未反応スルフィド化剤が廃水のCOD値を高くしている要因の一つであること、さらに、硫黄原子のロス(原料原単位の低下)の原因となっていることが明らかとなった。
【0007】
そこで、廃水に含まれる未反応スルフィド化剤をガス化して、分離、回収することで、該廃水のCOD値を低減する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法は、廃水に酸を添加して未反応スルフィド化剤をガス化する際に、原料の不純物として含まれるアルカリ金属炭酸塩までが同時にガス化してしまうため、廃水から回収したスルフィド化剤を用いた重合工程を重ねると、不純物であるアルカリ金属炭酸塩が廃水中に蓄積するといった不都合があった。また、これにより、配管が閉塞するなど生産面からも問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-218214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、PAS樹脂の重合反応後の水洗ないし熱水洗に得られる水溶液(以下、廃水ということがある)から不純物であるアルカリ炭酸金属塩を低減し、高純度なスルフィド化剤を製造する方法を提供することにある。さらに、前記製造方法により得られたスルフィド化剤を、PAS樹脂の重合原料として再利用する、PAS樹脂の製造方法を提供し、もって硫黄原子のロス(原料原単位の低下)を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、重合反応後の水洗ないし熱水洗で排出される廃水に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムのうちの少なくとも1種の第2族元素を含む金属塩を添加することで、不純物であるアルカリ金属炭酸塩から水に不溶な炭酸塩を形成し、それを分離、除去した廃水から、未反応スルフィド化剤をガス化して、分離、回収することによって、高純度なスルフィド化剤を製造することができること、および、廃水のCODの低減とPAS樹脂の製造原料として再利用が可能となることを見出し、上記課題を解決するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、[1]少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む混合物(A)と水とを接触させた後、PAS樹脂を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む水溶液(B)を得る工程(1)、
前記水溶液(B)にマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムのうちの少なくとも1種の第2族元素を含む金属塩を加えて、水に不溶な炭酸塩を生成させる工程(2)、
前記水溶液(B)から、生成した水に不溶な炭酸塩を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(C)を得る工程(3)、
前記水溶液(C)に酸を加えて、硫化水素を生成させる工程(4)、
生成した硫化水素を回収する工程(5)、および、
回収した硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(6)、
を有することを特徴とする、スルフィド化剤の製造方法、に関する。
【0012】
また、本発明は、[2]回収した硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(6)の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、該硫化水素と未反応のアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(7)を有することを特徴とする、前記[1]記載の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は[3]少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む混合物(A)は、
非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させた後に得られる、少なくともPAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、前記非プロトン性極性溶媒およびスルフィド化剤を含む粗反応混合物であるか、または当該粗反応混合物から前記非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られた反応混合物であることを特徴とする、前記[1]記載の製造方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、[4]非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させる際に用いる前記スルフィド化剤は、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する脱水工程を経て得られたものであることを特徴とする、前記[3]記載の製造方法、に関する。
【0015】
さらに本発明は、[5]前記[4]に記載の脱水工程において生成した硫化水素を回収した後、アルカリ金属水酸化物と反応させてスルフィド化剤を得る工程を有することを特徴とする、スルフィド化剤の製造方法、に関する。
【0016】
さらに本発明は、[6]アルカリ金属水酸化物と反応させてスルフィド化剤を得る工程の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、該硫化水素と未反応のアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程を有することを特徴とする、前記[5]記載のスルフィド化剤の製造方法、に関する。
【0017】
さらに本発明は、[7]有機アミド溶媒の存在下で含水スルフィド化剤を脱水して得られたスルフィド化剤を、有機アミド溶媒の存在下でポリハロ芳香族化合物と反応させてPAS樹脂を製造する、PAS樹脂の製造方法において、含水スルフィド化剤またはスルフィド化剤として前記[1]~[4]の何れか一項記載の製造方法により得られたスルフィド化剤および/または前記[5]または[6]の製造方法により得られたスルフィド化剤を加える工程を有することを特徴とする、PAS樹脂の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、PAS樹脂の重合反応後の水洗ないし熱水洗で排出される廃水に含まれるアルカリ金属炭酸塩を効率よく除去し、未反応スルフィド化剤を回収し、該廃水のCOD値を低減する方法を提供することができる。さらに、回収した未反応スルフィド化剤をPAS樹脂の重合原料として再利用する、PAS樹脂の製造方法を提供し、もって硫黄原子のロス(原料原単位の低下)を抑制する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
スルフィド化剤の製造方法
本発明のスルフィド化剤の製造方法は、
少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む混合物(A)と水とを接触させた後、PAS樹脂を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む水溶液(B)を得る工程(1)、
少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む水溶液(B)にマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムのうちの少なくとも1種の第2族元素を含む金属塩を加えて、水に不溶な炭酸塩を生成させる工程(2)、
前記水溶液(B)から、生成した水に不溶な炭酸塩を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(C)を得る工程(3)、
少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(C)に酸を加えて、硫化水素を生成させる工程(4)、
生成した硫化水素を回収する工程(5)、および、
回収した硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(6)、
を有することを特徴とする。
【0020】
工程(1)
工程(1)は、少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む混合物(A)と水とを接触させた後、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む水溶液(B)とPAS樹脂とに分離した後、PAS樹脂を除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む水溶液(B)(以下、廃水ということがある)を得る工程である。
【0021】
工程(1)で用いる、前記混合物(A)は、少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む混合物であれば特に限定されるものではないが、好ましくは後述する本発明で用いるPAS樹脂の製造方法において得られる、少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む反応混合物を用いることが好ましい。
【0022】
前記混合物(A)と水とを接触させて、前記混合物(A)からPAS樹脂を除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む水溶液(B)を得る方法としては本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではないが、水と接触(以下、「水洗」ということがある)させた後、PAS樹脂を濾別することにより固液分離する方法を挙げることができる。
【0023】
前記混合物(A)を、水洗後、PAS樹脂を濾別することにより固液分離する方法としては、例えば、後述するPAS製造工程で得られた粗反応混合物から非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られた反応スラリーに水を加えて撹拌した後にろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。
【0024】
前記水洗の際、前記混合物(A)に加える水の量は最終的に得られるPAS樹脂の理論収量に対して2倍~10倍の範囲にあることが好ましく洗浄効率の点から好ましく、上記の量の水を2~10回、好ましくは2~4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗は、窒素ないし空気雰囲気下、水温20℃~300℃の範囲で行うことが好ましく、洗浄効率が良好となる点から、なかでも、50℃~100℃の範囲で行うことがより好ましく、さらに70℃~90℃の範囲で行うことが最も好ましい。前記水洗は、一回または複数回繰り返し行うことができる。複数回繰り返し水洗浄する場合、前記雰囲気・温度条件は同一でも異なっていても良い。
【0025】
濾別されたPAS樹脂には、微量のアルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤が十分に洗浄しきれずに残留していることがあるため、さらに、100℃~280℃の範囲の水と接触させた後に固液分離し(以下、「熱水洗」ということがある)、PAS樹脂を濾別等によって分離、除去して、得られた濾液を前記水溶液(B)に加えることができ、COD負荷の低減および硫黄原子のロス(原料原単位の低下)を抑制できる観点から好ましい。
【0026】
熱水洗の温度は、例えば、100~280℃の範囲が好ましく、さらに120~275℃の範囲であることが、樹脂中に残留するアルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤の抽出効率が良好となる点から好ましい。更に具体的には、反応器内の気相の圧力を加圧下、より好ましくは0.2~4.6MPa(ゲージ圧)なる条件下、140~260℃の熱水で抽出処理を行うことが好ましい。
【0027】
このような熱水洗を行う具体的方法は、前記の水洗後に濾別されたPAS樹脂を圧力容器中において所定の圧力条件及び温度条件下に水で攪拌下に洗浄する方法が挙げられる。熱水洗時の水量はポリアリーレンスルフィドの質量に対して1.5倍~10倍であることが、前記アルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤の抽出効率が良好となる点から好ましく、この量の熱水を2回以上に分けて熱水洗を行ってもよい。例えば、熱水洗を2回繰り返す場合、1回目の熱水洗と2回目の熱水洗の間にはろ過を行い、1回目の熱水洗で抽出したアルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤とPAS樹脂とを濾別することが好ましい。また、熱水洗を一回実施した後に濾過を行い、前記した水洗を実施しても良い。この操作によってもアルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤と、PAS樹脂との分離、除去がより促進されうる。また1回目の熱水洗工程と2回目の熱水洗工程の条件は前記の条件より任意に選ぶことができるものの、1回目の熱水洗工程の温度は例えば120℃~200℃の範囲にある温度に設定して、まず高アルカリ性の濾液を濾別して除去した後に、2回目の熱水洗工程の温度を1回目の熱水洗工程の温度より高い温度、例えば150℃~275℃の範囲にある温度に設定して実施することが前記熱水洗で用いられる装置の耐薬品性の観点から好ましい。
【0028】
なお、工程(1)において、前記水溶液(B)に酸や塩基を添加してpH調整をすることができ、特に熱水洗後のpHが11.0以上13.0未満の範囲になるように制御することが好ましい。その際に用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸、シュウ酸等が挙げられ、これらの中でも炭酸、酢酸、シュウ酸が好ましい。また、常圧または加圧下で炭酸ガスを導入し接触させても良い。一方、塩基としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、または炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等が挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが好ましい。
【0029】
工程(1)は、撹拌機を有する水洗槽及び固液分離するための遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された混合機能を有す容器内で行うこともできる。また、100℃を超える熱水洗でも、熱水洗を行う撹拌機を有する水洗槽、及び、その後の20~100℃でろ過するため、遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された密閉型あるいは密閉可能な混合機能を有す容器内で行うことも可能である。本発明において、水洗ないし熱水洗は連続的に行っても良いし、バッチ式に行ってもいずれでも良い。
【0030】
工程(2)
工程(2)は、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む水溶液(B)にマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムのうちの少なくとも1種の周期律表における第2族元素を含む金属塩を加えて、水に不溶な炭酸塩を生成させ、水溶液(B)中に析出させる工程である。この際に用いる金属塩としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムのうちの少なくとも1種の周期律表における第2族元素を含む金属塩であれば特に制限されないが、例えば、塩化物、水酸化物、臭化物、酢酸塩等が挙げられる。これらの中でも塩化物が望ましく、塩化カルシウム、塩化バリウムがさらに好ましい。金属塩の添加量は、添加することによって水に不溶な炭酸塩が生成する範囲であれば特に限定されるものではないが、前記水溶液(B)中のアルカリ金属炭酸塩1モルに対して好ましくは0.1モル以上の範囲、より好ましくは0.3モル以上の範囲であり、好ましくは5モル以下の範囲、より好ましくは3モル以下の範囲である。
【0031】
工程(3)
工程(3)は、前記水溶液(B)から、生成した水に不溶な炭酸塩を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(C)を得る工程である。生成した水に不溶な炭酸塩を分離、除去する方法としては本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではないが、生成した水に不溶な炭酸塩を濾別することにより固液分離する方法を挙げることができる。生成した水に不溶な炭酸塩を濾別することにより固液分離する方法としては、例えば、ろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。工程(3)によって、工程(2)で前記水溶液(B)中に生成および析出した炭酸塩の90質量%以上を分離、除去することができる。
【0032】
工程(4)
工程(4)は、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(C)に酸を加えて、硫化水素を生成させる工程である。
この際に用いる酸としては、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸などが挙げられ、これらの中でも塩酸が好ましい。該水溶液(C)のpH範囲は、酸を加えることによって硫化水素が生成する範囲であれば特に限定されるものではないが、より硫化水素が生成しやすい条件であることから2.5~5.5の範囲で行うことが好ましく、さらに3.5~4.5の範囲で行うことがより好ましい。また、酸の添加は0~60℃の範囲で行うことが好ましく、さらに10~40℃の範囲の範囲で行うことがより好ましく、圧力0~1.0Pa(ゲージ圧)の範囲で行うことが好ましい。
【0033】
工程(5)および(6)
工程(5)は、工程(4)で生成した硫化水素が気体となって揮散するため、続いて、生成した硫化水素を回収する工程である。さらに工程(6)は、得られた硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程である。工程(5)と工程(6)は同時に行うことも、また、別々に行うこともできる。
【0034】
工程(5)と工程(6)を同時に行う場合は、例えば、揮散した硫化水素を、系外に排出して、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液に吸収させて回収し、同時に、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させて、スルフィド化剤を生成させる方法が挙げられる。この場合、使用するアルカリ金属水酸化物としては、前記したPAS重合工程で用いたものと同じものを使用することができる。アルカリ金属水酸化物の使用量は硫化水素を吸収させる際の温度、圧力によっても異なるため一概に規定することはできないものの、揮散する硫化水素の全量を充分に吸収、反応できる量以上であることが望ましい。一般的には、常温、常圧で硫化水素を吸収、反応させる場合、揮散する硫化水素の硫黄原子1モルに対して、1モル以上であることが好ましく、1~2モルの範囲であればより好ましい。水溶液中のアルカリ金属水酸化物の濃度も硫化水素を吸収、反応させる際の温度、圧力によっても異なるため一概に規定することはできないものの、5~49wt%の範囲であることが好ましく、10~45wt%の範囲であることがより好ましい。また、硫化水素をアルカリ金属水酸化物を含む水溶液に吸収、反応させる際の温度は圧力によっても異なるため、一概に規定することができないものの、0~200℃の範囲が好ましく、10~150℃の範囲がより好ましい。また、硫化水素をアルカリ金属水酸化物を含む水溶液に吸収、反応させる際の圧力は温度によっても異なるため、一概に規定することができないものの、0~1.0Pa(ゲージ圧)の範囲が好ましく、0~0.5Pa(ゲージ圧)の範囲がより好ましい。
【0035】
一方、工程(5)と工程(6)を別々に行う場合は、例えば、揮散した硫化水素を、系外に排出して、硫化水素を吸収することが知られている溶媒、例えば、有機アミド溶媒に吸収させて回収する工程を行った後、回収した硫化水素を含む溶媒にアルカリ金属水酸化物を加えて、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させ、アルカリ金属水硫化物を生成させる工程を行う方法が挙げられる。この場合、硫化水素を吸収することが知られている溶媒としては、有機アミド溶媒が挙げられる。さらに、有機アミド溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0036】
硫化水素を吸収することが知られている溶媒の使用量は硫化水素を吸収させる際の温度、圧力によっても異なるため一概に規定することはできないものの、揮散する硫化水素の全量を充分に吸収できる量以上であることが望ましい。一般的には、常温、常圧で硫化水素を吸収させる場合、揮散する硫化水素の硫黄原子1モルに対して、1~30kgの範囲であれば好ましい。硫化水素を硫化水素を吸収することが知られている溶媒に吸収させる際の温度、圧力は、一概に規定することができないものの、吸収温度0~200℃の範囲が好ましく、10~150℃の範囲がより好ましく、一方、圧力は0~1.0Pa(ゲージ圧)の範囲が好ましく、0~0.5Pa(ゲージ圧)の範囲がより好ましい。その後、回収した硫化水素を含む溶媒にアルカリ金属水酸化物を加えて、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させ、アルカリ金属水硫化物を生成させる。その際、アルカリ金属水酸化物を加える量は、溶媒に吸収させた硫化水素の全量を充分に反応できる量以上であることが望ましい。一般的には、常温、常圧で硫化水素を吸収させる場合、溶媒に吸収させた硫化水素の硫黄原子1モルに対して、1モル以上であることが好ましく、1~2モルの範囲であればより好ましい。溶媒に加えるアルカリ水溶液中のアルカリ金属水酸化物の濃度も硫化水素を吸収させる際の温度、圧力によっても異なるため一概に規定することはできないものの、5~49wt%の範囲であることが好ましく、10~45wt%の範囲であることがより好ましい。また、溶媒に吸収させた硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる際の温度は圧力によっても異なるため、一概に規定することができないものの、温度は0~200℃の範囲が好ましく、10~150℃の範囲がより好ましい。また、圧力も、一概に規定することができないものの、0~1.0Pa(ゲージ圧)の範囲が好ましく、0~0.5Pa(ゲージ圧)の範囲がより好ましい。
【0037】
工程(5)は連続式、バッチ式いずれでも構わない。硫化水素のアルカリ金属水酸化物の水溶液または有機アミド溶媒に対する吸収速度は速いため、循環ポンプ付充填塔などの一般的なもので良く、液張り込み型やバブリング型等のものでも十分に使用可能である。また、工程(5)と工程(6)を同時に行う場合、工程(6)は工程(5)と同じ装置内で行うことができ、また、工程(5)と工程(6)を別々に行う場合は、工程(6)は工程(5)と同じ装置内で行っても、工程(5)で回収した硫化水素を別の装置、例えば、撹拌翼付き反応槽あるいはベッセルあるいはドラム等に移した後に、アルカリ金属水酸化物を加え、反応させてもよい。
【0038】
工程(7)
上記の通り、工程(5)および工程(6)は、回収した硫化水素の全量を充分に吸収、反応できる量以上のアルカリ金属水酸化物を用いるため、余剰のアルカリ金属水酸化物が未反応のまま系内に残留することとなる。そこで、工程(6)の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、未反応のアルカリ金属水酸化物と該硫化水素とを反応させる工程(7)を有することが好ましい。加える硫化水素の量は、未反応のまま残留しているアルカリ金属水酸化物の1モルに対して0.5~1モルの範囲であることが好ましい。当該範囲の硫化水素と反応させることによって、残留するアルカリ金属水酸化物1モルあたり、0.5~1モルのアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物が生成する。
【0039】
なお、工程(6)または工程(7)を経て生成したアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との割合は、硫化水素に反応させるアルカリ金属水酸化物の量や、反応時間、温度、圧力等に応じて変化するため一概に規定することはできず、また、アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属硫化物のいずれであっても後述するPAS樹脂の重合原料であるスルフィド化剤として再利用可能であることから、アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属硫化物とが質量基準で0/100~100/0の範囲のうちの任意の割合で良い。
【0040】
PAS樹脂の製造方法
少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩およびスルフィド化剤を含む混合物(A)は、以下のPAS樹脂の製造方法によって得られたものを用いることができる。また、上記の工程(1)~(6)、または、工程(1)~(7)を経て得られたアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物はスルフィド化剤として、以下のPAS樹脂の製造方法において、重合原料の少なくとも一部として用いることができる。
【0041】
PAS重合工程
すなわち、本発明に用いるPAS樹脂の製造方法は、非プロトン性極性溶媒と、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを混合し、該非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを重合反応させて、少なくともPAS樹脂と、重合せずに残留したスルフィド化剤と、アルカリ金属ハロゲン化物と、非プロトン性極性溶媒とを含む粗反応混合物を得るPAS重合工程、該粗反応混合物から非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られる、少なくともPAS樹脂と、重合せずに残留したスルフィド化剤と、アルカリ金属ハロゲン化物とを含む反応混合物を得る、PAS/溶媒固液分離工程、を経る方法を挙げることができる。
【0042】
ここで、本発明においてポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジクロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、m-ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。また、枝分かれ構造とすることによってPAS樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4-トリクロルベンゼン、1,3,5-トリクロルベンゼン、1,4,6-トリクロルナフタレン等が挙げられる。更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を挙げることが出来、具体的には、2,6-ジクロルアニリン、2,5-ジクロルアニリン、2,4-ジクロルアニリン、2,3-ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4-トリクロルアニリン、2,3,5-トリクロルアニリン、2,4,6-トリクロルアニリン、3,4,5-トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’-ジアミノ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノ-2’,4-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類およびこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用できる。
【0043】
これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0044】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4-ジニトロクロルベンゼン、2,5-ジクロルニトロベンゼン等のモノまたはジハロニトロベンゼン類;2-ニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5-ジクロル-3-ニトロピリジン、2-クロル-3,5-ジニトロピリジン等のモノまたはジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0045】
また、本発明においてスルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物及び/又はアルカリ金属水硫化物を挙げることができる。
【0046】
前記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0047】
また、前記アルカリ金属水硫化物としては、硫化水素リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素ルビジウム、硫化水素セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0048】
また、前記アルカリ金属水硫化物はアルカリ金属水酸化物と伴に用いる。当該アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0049】
なお、上記のとおり、前記工程(1)~(6)または前記工程(1)~(7)を経て得られたアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物もスルフィド化剤として、PAS樹脂の重合反応における原料として、再利用することができる。
【0050】
本発明に用いるPAS樹脂の製造方法は、原料として含水スルフィド化剤を用いることもでき、その場合、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する工程を経て、PAS樹脂の重合反応に供することが好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の仕込み量が少ない場合、例えば、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1モル未満の場合、ポリハロ芳香族化合物の存在下で、含水スルフィド化剤と、非プロトン性極性溶媒とを、脱水させることが好ましい。
【0051】
脱水工程は、少なくとも非プロトン性極性溶媒と、含水スルフィド化剤として含水アルカリ金属硫化物または含水アルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を、蒸留装置が設けられた反応容器に仕込み、水が共沸により除去される温度、具体的には、300℃以下の範囲、好ましくは80~220℃の範囲、より好ましくは100~200℃の範囲にまで加熱して、蒸留により水を系外に排出することにより行う。脱水工程では、重合反応を行う系内の水分量が、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、5モル以下、より好ましくは、0.01~2.0モルの範囲となるまで脱水することが好ましい。
【0052】
また、脱水工程では、アルカリ金属硫化物やアルカリ金属水硫化物が、水と反応して平衡的に硫化水素を気体として生成させる。このため、生成した硫化水素を回収した後、アルカリ金属水酸化物と反応させてアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物を得ることが好ましい。具体的には、生成した硫化水素は、水または共沸混合物とともに反応系外に排出し、蒸留装置により、水または共沸混合物と硫化水素を分離した後、前記工程(5)と同様の方法で回収することが好ましく、さらに、回収した硫化水素を前記工程(6)と同様の方法で、アルカリ金属水酸化物とを反応させて、アルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物を製造することが好ましい。また、脱水工程で回収した硫化水素を、アルカリ金属水酸化物とを反応させて、アルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物を製造する工程の後に、工程(7)と同様の方法で、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、未反応のアルカリ金属水酸化物と該硫化水素とを反応させる工程を有することが好ましい。当該脱水工程で得られたアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物も、スルフィド化剤としてPAS樹脂の製造方法において、原料の一部として用いることが好ましい。
【0053】
また、本発明において非プロトン性極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0054】
PAS重合工程におけるPAS樹脂の重合反応は、これらの非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。または、PAS樹脂の重合反応は、これらの非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200~330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1~20MPaの範囲、好ましくは0.1~2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル~5.0モルの範囲、好ましくは0.8~1.3モルの範囲、さらに好ましくは0.9~1.1モルの範囲となるよう調製する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0~6.0モルの範囲、好ましくは2.5~4.5モルの範囲となるよう調整する。なお、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、さらにポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における「5)」の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.05~0.3モル、より好ましくは0.01~0.02モル以下の範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0055】
上記した非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の分岐剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するPAS樹脂の製造方法、が挙げられる。
【0056】
このうち、1)~5)、特に1)~4)の重合方法でPAS樹脂を製造する場合であって、製造原料として、例えば、非プロトン性極性溶媒がNMP、ポリハロ芳香族化合物がp-ジクロロベンゼンである場合には、重合反応の副反応物として、下記一般式(1)
【0057】
【化1】
(式中、Xはアルカリ金属原子または水素原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物が該粗反応混合物に含まれる場合がある。本発明は、PAS樹脂を製造方法について公知の方法であれば特に限定するものではないため、製造方法によっては該カルボキシアルキルアミノ基含有化合物が生成しない場合もあることから必須の成分ではない。しかし、例えば、1)~5)、特に1)~4)の重合方法で、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物が生成した場合は、当該カルボキシアルキルアミノ基含有化合物は粗反応混合物と非プロトン性極性溶媒のPAS/溶媒固液分離工程を経て、反応混合物中に含まれ、さらに本発明の工程(1)を経て、前記混合物(A)中に含まれ、さらに本発明の工程(2)を経て、前記水溶液(B)中に含まれ、(3)、(4)を経て、前記水溶液(C)中に含まれ、さらに工程(5)、(6)において硫化水素と分離されることとなる。すなわち、アルカリ金属ハロゲン化物と同様に移行する。このため、アルカリ金属水硫化物を生成する反応には関与せず、必須の成分ではない。
【0058】
上記のPAS重合工程を経て得られた、少なくともPAS樹脂と、未反応スルフィド化剤として残留したアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物と、アルカリ金属ハロゲン化物と、アルカリ金属炭酸塩と、非プロトン性極性溶媒とを含む粗反応混合物は、前記混合物(A)として用いることができる。
【0059】
PAS/溶媒固液分離工程
PAS重合工程を経て得られた、少なくともPAS樹脂と、アルカリ金属ハロゲン化物と、未反応スルフィド化剤として残留したアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物と、アルカリ金属炭酸塩と、非プロトン性極性溶媒とを含む粗反応混合物は、続いて、前記粗反応混合物から前記非プロトン性極性溶媒を固液分離させて、少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩並びにスルフィド化剤を含む反応混合物を得る工程である。得られた反応混合物も、前記混合物(A)として用いることができる。
【0060】
該固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。フラッシュ法は、溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、減圧下に加熱して溶媒を留去することにより行われる。
【0061】
一方、クウェンチ法は、重合反応物を、除冷して粒子状のPAS樹脂を回収する方法であり、一般的に、反応釜内で反応スラリーを冷却後、PAS樹脂を晶析させた後に固液分離する方法が挙げられる。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。フラッシュ法は、固形物を比較的簡便に回収することができる点で好ましく、クウェンチ法は、PAS樹脂の粒度を制御しやすい点や晶析時にポリマー粒子にアルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤などの不純物を取り込みにくくなるため、高純度のポリマーが得られる点で好ましい。
【0062】
続いて、前記反応混合物は、本発明の水洗ないし熱水洗による精製工程を経て、PAS樹脂と、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液とに分離する。当該精製工程は、工程(1)と同様におこなうことができ、PAS樹脂を製造する場合には、濾別したPAS樹脂を回収すればよい。
【0063】
濾別されたPAS樹脂は回収され、その後、そのまま乾燥してPAS樹脂粉末として用いても良いし、更に洗浄処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末状ないし顆粒状のPAS樹脂として調製することもできる。
【0064】
組成物・用途等
上記のように、本発明の工程(1)~(6)、または、工程(1)~(7)を経て得られたスルフィド化剤を原料の少なくとも一部として再利用して重合されたPAS樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填材などの添加剤を含有せしめることができる。更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用することもできる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0065】
さらに、工程(1)~(6)、または、工程(1)~(7)を経て得られたスルフィド化剤を原料の少なくとも一部として再利用して重合されたPAS樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形等の各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れる。このため、例えば、コネクタ・プリント基板・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品等として幅広く利用可能である。
【0066】
本発明により、PAS樹脂の製造工程で水洗後または熱水洗後に得られる廃水から、再利用可能な状態で高純度に未反応スルフィド化剤として残留するアルカリ金属水硫化物を分離、回収することにより、廃水のCOD値の低減、産業廃棄物の低減による環境負荷の低減と、硫黄原子のロス(原料原単位の低下)を抑制し、PAS樹脂の生産性を向上させることができる。
【実施例0067】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0068】
<評価>
【0069】
(1)廃水およびスルフィド化剤回収液中の炭酸ナトリウム濃度、硫化水素ナトリウム濃度、硫化ナトリウム濃度の定量
各実施例および比較例の各回にて得られた廃水およびスルフィド化剤回収液のそれぞれについて、塩化バリウム水溶液を添加し、炭酸バリウムの沈殿生成を確認した後、スラリー状の溶液について電位差自動滴定装置を用いて、0.5モル/L塩酸で中和滴定を行った。第1当量点の滴定量より硫化ナトリウム濃度を算出し、次に、第2当量点の滴定量と第1当量点の滴定量の差より硫化水素ナトリウム濃度を算出し、第3の当量点と第2の当量点の差より炭酸ナトリウム濃度を算出した。
【0070】
(2)廃水に塩酸を添加する際のpHの測定
各実施例および比較例の各スルフィド化剤回収工程において、廃水に塩酸を添加する際のpHを横河電機株式会社製の「パーソナルpHメーターPH72」を用いて測定した。電極の校正は、pH4およびpH7標準液を用いて行った。
【0071】
<実施例1~9、比較例1~4>
【0072】
実施例(1-1) PPS重合及び廃水の製造
予め20wt%水酸化ナトリウム水溶液1.88kgを仕込んだガス吸収瓶を接続したコンデンサ、圧力計、温度計、コンデンサを連結した撹拌翼および底弁付き150リットルオートクレーブに、60.33wt%NaSフレーク原料19.403kg(硫黄原子150モル、ナガオ株式会社製「硫化ナトリウム60%品」、炭酸ナトリウム含有量0.35wt%)と、NMP45.0kg(454モル)を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.815kgを留出させた。脱水時に飛散した硫化水素をガス吸収瓶により水酸化ナトリウム水溶液に吸収させた。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン22.185kg(151モル)及びNMP18.0kg(182モル)を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。次に降温させるとともに、オートクレーブ上部の冷却を止めた。反応後に得られたスラリーを室温まで冷却したのち、真空乾燥機を用いて、減圧下150℃で3時間乾燥して、NMPを留去した。次に70℃の温水93kgを加え攪拌した後、ろ過し、さらに70℃の温水53kgを加えてろ過した。各ろ液を集めて廃水(1a-1)136kgを得た。廃水(1a-1)に含まれる炭酸ナトリウム、スルフィド化剤(硫化水素ナトリウム及び硫化ナトリウム)の濃度を中和滴定にて測定した。結果を表1に示す。
【0073】
実施例(1-2) 廃水のろ過と廃水に含まれるスルフィド化剤の回収
廃水(1a-1)に、溶存する炭酸ナトリウム分1モルに対して0.50モルの塩化カルシウムを添加し、生成した白色沈殿物をろ過して廃水(1a-2)136kgを得た。廃水(1a-2)を中和滴定して炭酸ナトリウム、スルフィド化剤の量を求めた。結果を表1に示す。その後、撹拌機、pHメーター、ガス導入管、滴下ロートを備えた容器に実施例(1-1)で得られた硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液が入ったガス吸収瓶を連結した。その容器に廃水(1a-2)136kgを仕込み、Nガス(50ml/分)を導入しながら撹拌し、塩酸を添加してpHを3.0に調整し、60分間撹拌を行い、硫化水素を含むガスを発生させた。発生した硫化水素ガスは水酸化ナトリウム水溶液に吸収させ、スルフィド化剤回収液(1a)2.17kgを得た。スルフィド化剤回収液(1a)を中和滴定により測定して炭酸ナトリウム、スルフィド化剤の濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0074】
実施例(1-3) スルフィド化剤回収液を用いたPPS製造
オートクレーブに仕込む原料を、「60.33wt%NaSフレーク原料19.413kg」の代わりに、「60.33wt%NaSフレーク原料18.918kg(硫黄原子146.25モル)と、スルフィド化剤回収液(1a)0.997kg(硫黄原子3.75モル、全硫黄原子の仕込みモル数に対してのスルフィド化剤回収液使用割合は2.5モル%)と、49.21wt%水酸化ナトリウム0.259kg(3.18モル)の混合物」としたこと以外は、実施例(1-1)と同様に行い、廃水(1b-1)を得た。PPS製造における仕込んだ原料中のスルフィド化剤量と炭酸ナトリウム量を表3に示す。
【0075】
実施例(1-4)廃水のろ過と廃水に含まれるスルフィド化剤の回収(2回目)
実施例(1-2)と同様の手順で、廃水(1b-1)に、廃水中の炭酸ナトリウム分1モルに対して0.50モルの塩化カルシウムを添加し、生成した白色沈殿物をろ過して廃水(1b-2)を得た。その後、得られた廃水(1b-2)へ塩酸を添加し、発生した硫化水素を含むガスを水酸化ナトリウム水溶液に吸収させて、スルフィド化剤回収液(1b)を得た。スルフィド化剤回収液(1b)を中和滴定により測定して炭酸ナトリウム、スルフィド化剤の濃度を求めた。結果を表4に示す。
【0076】
実施例(1-5)繰り返し試験
以降、実施例(1-3)と同様にスルフィド化剤回収液を用いたPPS製造および(1-4)と同じ廃水のろ過と廃水に含まれるスルフィド化剤の回収を繰り返した。各過程において、スルフィド化剤回収液(1c)~(1j)をそれぞれ得た。各スルフィド化剤回収液に含まれる炭酸ナトリウム、スルフィド化剤の濃度を中和滴定により求めた。結果を表4に示す。
【0077】
実施例(2-1~2-5)
実施例(1-3)において、全硫黄原子の仕込みモル数に対するスルフィド化剤回収液使用割合を2.5モル%の代わりに、5.0モル%としたこと以外は、実施例(1)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。
【0078】
実施例(3-1~3-5)
実施例(1-2)において、廃水に添加する塩化カルシウムの量を、炭酸ナトリウム分1モルに対して0.50モルの代わりに、1.00モルとしたこと以外は、実施例(1)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。
【0079】
実施例(4-1~4-5)
実施例(2-2)において、廃水に添加する塩化カルシウムの量を、炭酸ナトリウム分1モルに対して0.50モルの代わりに、1.00モルとしたこと以外は、実施例(2)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。
【0080】
実施例(5-1~5-5)
実施例(2-2)において、廃水に添加する塩化カルシウムの量を、炭酸ナトリウム分1モルに対して0.50モルの代わりに、2.00モルとしたこと以外は、実施例(2)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。
【0081】
実施例(6-1~6-5)
実施例(4-2)において、廃水に添加する金属塩を塩化カルシウムの代わりに、酢酸カルシウムとしたこと以外は、実施例(4)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。
【0082】
実施例(7-1~7-5)
実施例(4-2)において、廃水に添加する金属塩を塩化カルシウムの代わりに、水酸化カルシウムとしたこと以外は、実施例(4)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。
【0083】
実施例(8-1~8-5)
実施例(4-2)において、廃水に添加する金属塩を塩化カルシウムの代わりに、塩化バリウムとしたこと以外は、実施例(4)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。
【0084】
実施例(9-1~9-5)
実施例(4-2)において、廃水に添加する金属塩を塩化カルシウムの代わりに、塩化ストロンチウムとしたこと以外は、実施例(4)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。
【0085】
比較例(1-1~1-5)
実施例(1-2)において、廃水に金属塩を添加せずに塩酸処理を行ったこと以外は、実施例(1)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。
【0086】
比較例(2-1~2-5)
実施例(2-2)において、廃水に金属塩を添加せずに塩酸処理を行ったこと以外は、実施例(2)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。スルフィド化剤製造では4回目において炭酸ナトリウムの濃度が10wt%を超え、炭酸ナトリウム析出懸念のため、以降のPPS製造を中止した。
【0087】
比較例(3-1~3-5)
実施例(4-2)において、廃水に添加する金属塩を塩化カルシウムの代わりに、炭酸カルシウムとしたこと以外は、実施例(4)と同様に行った。得られた各結果を表1~4に示す。スルフィド化剤製造では4回目において炭酸ナトリウムの濃度が10wt%を超え、炭酸ナトリウム析出懸念のため、以降のPPS製造を中止した。
【0088】
比較例(4-1~4-5)
実施例(4-2)において、廃水に添加する金属塩を塩化カルシウムの代わりに、塩化カリウムとしたこと以外は、実施例(4)と同様に行った。塩化カリウム添加後の廃水には沈殿物は確認されなかった。そのため後続のろ過は実施せずに塩酸を添加した。得られた各結果を表1~4に示す。スルフィド化剤製造では4回目において炭酸ナトリウムの濃度が10wt%を超え、炭酸ナトリウム析出懸念のため、以降のPPS製造を中止した。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
表1の結果から、実施例は比較例と対比して、ろ過後の廃水中の炭酸ナトリウム濃度を低減できることが認められた。表2の結果から、実施例の廃水は炭酸ナトリウム濃度が低いため、廃液に塩酸を添加して発生した硫化水素ガスを水酸化ナトリウム水溶液に回収した際に、共に発生する炭酸ナトリウム由来の炭酸ガスが少なく、スルフィド化剤回収液中の炭酸ナトリウムが少ないことが認められた。表3に示す量でスルフィド化剤回収液を再利用してPPS製造を繰り返した場合、実施例ではスルフィド化剤回収液中の炭酸ナトリウム濃度が低いままであることが表4から明らかとなった。