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特開2022-161267双極型蓄電池、双極型蓄電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161267
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】双極型蓄電池、双極型蓄電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20221014BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
H01M10/04 W
H01M4/66 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065939
(22)【出願日】2021-04-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小出 彩乃
【テーマコード(参考)】
5H017
5H028
【Fターム(参考)】
5H017AS03
5H017EE02
5H017HH00
5H028CC07
5H028CC19
5H028EE01
5H028HH00
(57)【要約】
【課題】基板の貫通穴で正極用集電板と負極用集電板とが導通されて複数のセル部材が直列に電気的に接続されている双極型蓄電池において、電解液が集電板と基板との間に移動した場合でも、基板の貫通穴に至りにくくして、短絡を防止する。
【解決手段】セル部材110同士の間に配置された基板(主基板)121の正極111の側の面(凹部121bの底面)および負極112の側の面(凹部121cの底面)の少なくとも一方は、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が30μm以上100μm以下であり、この規定による最大高さ粗さ(Rz)が120μm以下であり、上記各面に接着剤150で金属製の正極用集電板111aおよび金属製の負極用集電板112aが固定されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極用集電板と正極用活物質層を有する正極、負極用集電板と負極用活物質層を有する負極、および前記正極と前記負極との間に介在するセパレータを備え、間隔を開けて積層配置された、複数のセル部材と、
前記複数のセル部材を個別に収容する複数の空間を形成する、複数の空間形成部材と、
を有し、
前記空間形成部材は、前記セル部材の前記正極の側および前記負極の側の少なくとも一方を覆う合成樹脂製の基板と、前記セル部材の側面を囲う枠体と、を含み、
前記セル部材と前記空間形成部材の前記基板とが交互に積層された状態で配置され、隣接する前記枠体が接合され、
隣り合う前記セル部材の間に配置された前記基板である主基板の前記正極の側の面および前記負極の側の面の少なくとも一方は、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が30μm以上100μm以下であり、前記規定による最大高さ粗さ(Rz)が120μm以下であり、
前記主基板の前記正極の側の面に、接着剤で金属製の前記正極用集電板が固定され、
前記主基板の前記負極の側の面に、接着剤で金属製の前記負極用集電板が固定され、
前記主基板は板面と交差する方向に延びる貫通穴を有し、前記貫通穴の中で、隣り合う前記セル部材の前記正極用集電板と前記負極用集電板とが導通されて、前記複数のセル部材が直列に電気的に接続されている双極型蓄電池。
【請求項2】
前記正極用集電板および前記負極用集電板は鉛または鉛合金からなる請求項1記載の双極型蓄電池。
【請求項3】
双極型蓄電池の製造方法であって、
当該双極型蓄電池は、
正極用集電板と正極用活物質層を有する正極、負極用集電板と負極用活物質層を有する負極、および前記正極と前記負極との間に介在するセパレータを備え、間隔を開けて積層配置された、複数のセル部材と、
前記複数のセル部材を個別に収容する複数の空間を形成する、複数の空間形成部材と、
を有し、
前記空間形成部材は、前記セル部材の前記正極の側および前記負極の側の少なくとも一方を覆う合成樹脂製の基板と、前記セル部材の側面を囲う枠体と、を含み、
前記セル部材と前記空間形成部材の前記基板とが交互に積層された状態で配置され、隣接する前記枠体が接合され、
隣り合う前記セル部材の間に配置された前記基板である主基板の前記正極の側の面に、接着剤で金属製の前記正極用集電板が固定され、
前記主基板の前記負極の側の面に、接着剤で金属製の前記負極用集電板が固定され、
前記主基板は板面と交差する方向に延びる貫通穴を有し、前記貫通穴の中で、隣り合う前記セル部材の前記正極用集電板と前記負極用集電板とが導通されて、前記複数のセル部材が直列に電気的に接続されているものであり、
前記主基板として、
当該主基板の前記正極の側の面および前記負極の側の面の少なくとも一方が、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が30μm以上100μm以下であり、前記規定による最大高さ粗さ(Rz)が120μm以下であるものを使用する双極型蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双極型蓄電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光や風力等の自然エネルギを利用した発電設備が増えている。このような発電設備においては、発電量を制御することができないことから、蓄電池を利用して電力負荷の平準化を図るようにしている。すなわち、発電量が消費量よりも多いときには差分を蓄電池に充電する一方、発電量が消費量よりも小さいときには差分を蓄電池から放電するようにしている。上述した蓄電池としては、経済性や安全性等の観点から、鉛蓄電池が多用されている。このような従来の鉛蓄電池としては、例えば、下記特許文献1に記載された双極型鉛蓄電池が知られている。
【0003】
この双極型鉛蓄電池は、額縁形で樹脂製のフレームの内側に、樹脂製の基板が取り付けられている。基板の両面には鉛層が配置されている。基板の一面の鉛層には、正極用活物質層が隣接し、他面の鉛層には、負極用活物質層が隣接している。また、額縁形で樹脂製のスペーサを有し、その内側には、電解液を含浸させたガラスマットが配設されている。そして、フレームとスペーサとを交互に複数積層し、フレームとスペーサとの間が接着剤等で接着されている。また、基板に設けた貫通穴を介して、基板の両面の鉛層が接続されている。
【0004】
すなわち、特許文献1に記載された双極型鉛蓄電池は、正極用集電板と正極用活物質層を有する正極、負極用集電板と負極用活物質層を有する負極、および正極と負極との間に介在するセパレータ(ガラスマット)を備え、間隔を開けて積層配置された、複数のセル部材と、複数のセル部材を個別に収容する複数の空間を形成する、複数の空間形成部材と、を有し、正極用集電板および負極用集電板は共に金属(鉛)製である。また、空間形成部材は、セル部材の正極側および負極側の少なくとも一方を覆う基板と、セル部材の側面を囲う枠体(二極式プレートおよび端部プレートの枠部とスペーサ)と、を含んでいる。さらに、セル部材と空間形成部材の基板とが交互に積層状態で配置され、隣り合うセル部材の間に配置された基板は、板面と交差する方向に延びる貫通穴を有し、貫通穴の中で、隣り合うセル部材の正極用集電板と負極用集電板とが導通されて複数のセル部材が直列に電気的に接続され、隣接する枠体が接合されている。
【0005】
しかし、特許文献1には、正極用集電板および負極用集電板である鉛箔について、「鉛箔は、基板の両方の露出表面上のフレームの材料受け入れ通路に配置される」と記載されているだけで、鉛箔が基板に接着剤で固定されていることは記載されていないし、それを示唆する記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6124894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、基板の貫通穴で正極用集電板と負極用集電板とが導通されて複数のセル部材が直列に電気的に接続されている双極型蓄電池の場合、集電板が腐食して、活物質層に存在する電解液が基板と集電体との間に移動する状態になると、電解液が貫通穴を経由して反対側の集電板に到達し、液絡現象が生じて短絡に至る可能性がある。この液絡現象は、集電板が基板に接着剤で固定されている場合でも、接着剤層が存在していない部分があると、電解液が集電板と基板との間に移動して貫通穴に至る可能性がある。
【0008】
本発明の課題は、基板の貫通穴で正極用集電板と負極用集電板とが導通されて複数のセル部材が直列に電気的に接続されている双極型蓄電池において、電解液が集電板と基板との間に移動した場合でも、貫通穴に至りにくくして、短絡を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するための本発明の第一態様は、以下の構成(1)~(4)を有する双極型蓄電池である。
(1)正極用集電板と正極用活物質層を有する正極、負極用集電板と負極用活物質層を有する負極、および前記正極と前記負極との間に介在するセパレータを備え、間隔を開けて積層配置された、複数のセル部材と、前記複数のセル部材を個別に収容する複数の空間を形成する、複数の空間形成部材と、を有する。
(2)前記空間形成部材は、前記セル部材の前記正極側および前記負極側の両方を覆う合成樹脂製の基板と、前記セル部材の側面を囲う枠体と、を含む。前記セル部材と前記空間形成部材の前記基板とが交互に積層された状態で配置されている。隣接する前記枠体が接合されている。
(3)隣り合う前記セル部材の間に配置された前記基板である主基板の前記正極の側の面および前記負極の側の面の少なくとも一方は、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が30μm以上100μm以下であり、前記規定による最大高さ粗さ(Rz)が120μm以下である。
(4)隣り合う前記セル部材の間に配置された前記基板である主基板の前記正極の側の面に、接着剤で金属製の前記正極用集電板が固定されている。前記主基板の前記負極の側の面に、接着剤で金属製の前記負極用集電板が固定されている。前記主基板は板面と交差する方向に延びる貫通穴を有し、前記貫通穴の中で、隣り合う前記セル部材の前記正極用集電板と前記負極用集電板とが導通されて、前記複数のセル部材が直列に電気的に接続されている。
【0010】
本発明の第二態様は、上記構成(1)(2)(4)を有する双極型蓄電池の製造方法であって、以下の構成(5)を有する。
(5)前記主基板として、当該主基板の前記正極の側の面および前記負極の側の面の少なくとも一方が、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が30μm以上100μm以下であり、前記規定による最大高さ粗さ(Rz)が120μm以下であるものを使用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の双極型蓄電池および本発明の方法で得られた双極型蓄電池は、電解液が集電板と基板との間に移動した場合でも、貫通穴に至りにくくなって、短絡防止効果が得られることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である双極型鉛蓄電池の概略構成を示す断面図である。
図2図1の双極型鉛蓄電池の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。なお、以下においては、双極型蓄電池として双極型鉛蓄電池を例に挙げて説明する。
【0014】
〔全体構成〕
先ず、この実施形態の双極(バイポーラ)型鉛蓄電池の全体構成について説明する。
図1に示すように、この実施形態の双極型鉛蓄電池100は、複数のセル部材110と、複数枚のバイプレート(空間形成部材)120と、第一のエンドプレート(空間形成部材)130と、第二のエンドプレート(空間形成部材)140を有する。図1ではセル部材110が三個積層された双極型鉛蓄電池100を示しているが、セル部材110の数は電池設計により決定される。また、バイプレート120の数はセル部材110の数に応じて決まる。
【0015】
セル部材110の積層方向をZ方向(図1及び図2の上下方向)とし、Z方向に垂直な方向をX方向とする。
セル部材110は、正極111、負極112、およびセパレータ(電解質層)113を備えている。セパレータ113には電解液が含浸されている。正極111は、正極用鉛箔(正極用集電板)111a,111aaと正極用活物質層111bを有する。負極112は負極用鉛箔(負極用集電板)112a,112aaと負極用活物質層112bを有する。セパレータ113は、正極111と負極112との間に介在している。セル部材110において、正極用鉛箔111a,111aa、正極用活物質層111b、セパレータ113、負極用活物質層112b、および負極用鉛箔112a,112aaは、この順に積層されている。
【0016】
Z方向の寸法(厚さ)は、正極用鉛箔111aの方が負極用鉛箔112aより大きく(厚く)、正極用活物質層111bの方が負極用活物質層112bより大きい(厚い)。
複数のセル部材110は、Z方向に間隔を開けて積層配置され、この間隔の部分にバイプレート120の基板121が配置されている。つまり、複数のセル部材110は、バイプレート120の基板121を間に挟んだ状態で積層されている。
【0017】
複数枚のバイプレート120と第一のエンドプレート130と第二のエンドプレート140は、複数のセル部材110を個別に収容する複数の空間(セル)Cを形成するための部材である。
図2に示すように、バイプレート120は、平面形状が長方形の基板121と、基板121の四つの端面を覆う枠体122と、基板121の両面から垂直に突出する柱部123とからなり、基板121と枠体122と柱部123は一体に合成樹脂で形成されている。なお、基板121の各面から突出する柱部123の数は一つであってもよいし、複数であってもよい。
【0018】
Z方向において、枠体122の寸法は基板121の寸法(厚さ)より大きく、柱部123の突出端面間の寸法は枠体122の寸法と同じである。そして、複数のバイプレート120が枠体122および柱部123同士を接触させて積層することにより、基板121と基板121との間に空間Cが形成され、互いに接触する柱部123同士により、空間CのZ方向の寸法が保持される。
【0019】
正極用鉛箔111a,111aa、正極用活物質層111b、負極用鉛箔112a,112aa、負極用活物質層112b、およびセパレータ113には、柱部123を貫通させる貫通穴111c,111d,112c,112d,113aがそれぞれ形成されている。
バイプレート120の基板(主基板)121は、板面を貫通する複数の貫通穴121aを有する。基板121の一面に第一の凹部121bが、他面に第二の凹部121cが形成されている。第一の凹部121bの深さは第二の凹部121cより深い。第一の凹部121bおよび第二の凹部121cのX方向およびY方向の寸法は、正極用鉛箔111aおよび負極用鉛箔112aのX方向およびY方向の寸法に対応させてある。
【0020】
また、第一の凹部121bの底面(基板121の正極111の側の面)および第二の凹部121cの底面(基板121の負極112の側の面)は、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が30μm以上100μm以下であり、この規定による最大高さ粗さ(Rz)が120μm以下になっている。
【0021】
バイプレート120の基板121は、Z方向で、隣り合うセル部材110の間に配置されている。バイプレート120の基板121は、セル部材110の正極111の側と、その隣のセル部材110の負極112の側と、の両方を覆う基板である。バイプレート120の基板121の第一の凹部121bに、セル部材110の正極用鉛箔111aが接着剤層150を介して配置されている。つまり、基板121の正極111の側の面(第一の凹部121bの底面)に接着剤で正極用鉛箔111aが固定されている。
【0022】
また、バイプレート120の基板121の第二の凹部121cに、セル部材110の負極用鉛箔112aが接着剤層150を介して配置されている。つまり、基板121の負極112の側の面(第二の凹部121cの底面)に接着剤で負極用鉛箔112aが固定されている。
バイプレート120の基板121の貫通穴121aに導通体160が配置され、導通体160の両端面は、正極用鉛箔111aおよび負極用鉛箔112aと接触し、結合されている。つまり、導通体160により正極用鉛箔111aと負極用鉛箔112aとが電気的に接続されている。その結果、複数のセル部材110の全てが電気的に直列に接続されている。
【0023】
図1に示すように、第一のエンドプレート130は、セル部材110の正極側を覆う基板131と、セル部材110の側面を囲う枠体132と、基板131の一面(最も正極側に配置されるバイプレート120の基板121と対向する面)から垂直に突出する柱部133とからなる。基板131の平面形状は長方形であり、基板131の四つの端面が枠体132で覆われ、基板131と枠体132と柱部133が一体に合成樹脂で形成されている。なお、基板131の一面から突出する柱部133の数は一つであってもよいし、複数であってもよいが、柱部133と接触させるバイプレート120の柱部123に対応させる。
【0024】
Z方向において、枠体132の寸法は基板131の寸法(厚さ)より大きく、柱部133の突出端面間の寸法は枠体132の寸法と同じである。そして、最も外側(正極側)に配置されるバイプレート120の枠体122および柱部123に対して、枠体132および柱部133を接触させて積層することにより、バイプレート120の基板121と第一のエンドプレート130の基板131との間に空間Cが形成され、互いに接触するバイプレート120の柱部123と第一のエンドプレート130の柱部133とにより、空間CのZ方向の寸法が保持される。
【0025】
最も外側(正極側)に配置されるセル部材110の正極用鉛箔111aa、正極用活物質層111b、およびセパレータ113には、柱部133を貫通させる貫通穴111c,111d,113aがそれぞれ形成されている。
第一のエンドプレート130の基板131の一面に凹部131bが形成されている。凹部131bのX方向の寸法は、正極用鉛箔111aaのX方向の寸法に対応させてある。第一のエンドプレート130の基板131の一面に配置された正極用鉛箔111aaのZ方向の寸法は、バイプレート120の基板121の一面に配置された正極用鉛箔111aのZ方向の寸法よりも大きい。
【0026】
第一のエンドプレート130の基板131の凹部131bに、セル部材110の正極用鉛箔111aaが接着剤層150を介して配置されている。つまり、基板131の正極111の側の面(凹部131bの底面)に接着剤で正極用鉛箔111aaが固定されている。
また、第一のエンドプレート130は、凹部131b内の正極用鉛箔111aaと電気的に接続された正極端子を備えている。
【0027】
第二のエンドプレート140は、セル部材110の負極側を覆う基板141と、セル部材110の側面を囲う枠体142と、基板141の一面(最も負極側に配置されるバイプレート120の基板121と対向する面)から垂直に突出する柱部143とからなる。基板141の平面形状は長方形であり、基板141の四つの端面が枠体142で覆われ、基板141と枠体142と柱部143が一体に合成樹脂で形成されている。なお、基板141の一面から突出する柱部143の数は一つであってもよいし、複数であってもよいが、柱部143と接触させるバイプレート120の柱部123に対応させる。
【0028】
Z方向において、枠体142の寸法は基板131の寸法(厚さ)より大きく、二つの柱部143の突出端面間の寸法は枠体142の寸法と同じである。そして、最も外側(負極側)に配置されるバイプレート120の枠体122および柱部123に対して、枠体142および柱部143を接触させて積層することにより、バイプレート120の基板121と第二のエンドプレート140の基板141との間に空間Cが形成され、互いに接触するバイプレート120の柱部123と第二のエンドプレート140の柱部143とにより、空間CのZ方向の寸法が保持される。
【0029】
最も外側(負極側)に配置されるセル部材110の負極用鉛箔112aa、負極用活物質層112b、およびセパレータ113には、柱部143を貫通させる貫通穴112c,112d,113aがそれぞれ形成されている。
第二のエンドプレート140の基板141の一面に凹部141bが形成されている。凹部141bのX方向およびY方向の寸法は、負極用鉛箔112aaのX方向およびY方向の寸法に対応させてある。第二のエンドプレート140の基板141の一面に配置された負極用鉛箔112aaのZ方向の寸法は、バイプレート120の基板121の他面に配置された負極用鉛箔112aのZ方向の寸法よりも大きい。
【0030】
第二のエンドプレート140の基板141の凹部141bに、セル部材110の負極用鉛箔112aaが接着剤層150を介して配置されている。つまり、基板141の負極112の側の面(凹部141bの底面)に接着剤で負極用鉛箔112aaが固定されている。
また、第二のエンドプレート140は、凹部141b内の負極用鉛箔112aaと電気的に接続された負極端子を備えている。
【0031】
なお、上記説明から分かるように、バイプレート120は、セル部材110の正極側および負極側の両方を覆う基板121と、セル部材110の側面を囲う枠体122と、を含む空間形成部材である。第一のエンドプレート130は、セル部材110の正極側のみ(正極側および負極側の一方)を覆う基板131と、セル部材110の側面を囲う枠体132と、を含む空間形成部材である。
【0032】
また、第二のエンドプレート140は、セル部材110の負極側のみ(正極側および負極側の一方)を覆う基板141と、セル部材110の側面を囲う枠体142と、を含む空間形成部材である。つまり、基板121,131,141は、セル部材110の正極の側および負極の側の少なくとも一方を覆う基板であり、基板121はセル部材110の正極の側および負極の側の両方を覆う基板である。また、バイプレート120の基板121は、セル部材110同士の間に配置された基板(主基板)である。
【0033】
〔作用、効果〕
実施形態の双極型鉛蓄電池100では、主基板である基板121の凹部121bの底面(基板121の正極111の側の面)および凹部121cの底面(基板121の負極112の側の面)の両方が、「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が30μm以上100μm以下であり、この規定による最大高さ粗さ(Rz)が120μm以下になっている。そして、基板121の正極111の側の面(凹部121bの底面)に接着剤で正極用鉛箔111aが固定され、基板121の負極112の側の面(凹部121cの底面)に接着剤で負極用鉛箔112aが固定されている。これにより、双極型鉛蓄電池100は、以下の作用、効果が得られる。
【0034】
正極用鉛箔111aが腐食した場合、正極用活物質層111bに存在する電解液は正極用鉛箔111aの腐食部を通って基板121の側に移動しようとするが、正極用鉛箔111aが基板121の凹部121bの底面に接着剤で固定されているため、接着剤層150の存在により、電解液が基板121の凹部121bの底面に至ることが抑制される。
【0035】
また、この電解液が基板121の凹部121bの底面に至った場合でも、凹部121bの底面の表面状態が粗い(RZjisおよびRzの値が大きい)方が、滑らかな場合(RZjisおよびRzの値が小さい場合)よりも、底面に至った電解液が基板121の貫通穴121aまで移動する距離が長くなる。よって、底面に至った電解液が貫通穴121aに至りにくくなって、液絡現象の発生が抑制されるため、双極型鉛蓄電池100の短絡防止効果が期待できる。
【0036】
一方、第一の凹部121bおよび第二の凹部121cの底面の表面状態が粗すぎると、同じ平面積の正極用鉛箔111aおよび負極用鉛箔111bを固定するために必要な接着剤の量が多くなってコストアップ要因になるとともに、決められた量の接着剤で接着しようとすると正極用鉛箔111aおよび負極用鉛箔111bの面内での接着強度が不均一になるという問題点が生じる。双極型鉛蓄電池100では、第一の凹部121bおよび第二の凹部121cの底面の表面状態が「RzJISが30μm以上100μm以下、且つ、Rzが120μm以下」を満たすものとなっているため、このような問題点の解消が期待できる。
【0037】
なお、液絡抑制効果と少ない接着剤の使用量で必要な接着強度が得られる効果との両立の点から、第一の凹部121bおよび第二の凹部121cの底面(主基板の正極側の面および/または負極側の面)の表面状態は「RzJISが50μm~75μm、Rzが20μm~90μm」を満たすものになっていることが好ましい。
【0038】
また、主基板の正極側の面および/または負極側の面の表面状態を「RzJISが30μm以上100μm以下、且つ、Rzが120μm以下」とするための方法としては、合成樹脂で成形された後の主基板の表面を紙やすりで擦る方法、主基板の表面に対してシボ加工を施す方法、主基板の表面に対してサンドブラストやショットブラスト等の表面処理を施す方法が挙げられる。或いは、主基板を合成樹脂で成形する際に、金型表面を粗加工することにより、正極側の面および/または負極側の面の表面状態が「RzJISが30μm以上100μm以下であり、Rzが120μm以下」となるようにする方法も挙げられる。
【0039】
また、上記実施形態では、正極用集電板が正極用鉛箔からなり、負極用集電板が負極用鉛箔からなる双極型鉛蓄電池について説明したが、本発明の一態様は、正極用集電板および負極用集電板が鉛以外の金属(例えば、アルミニウム、銅、ニッケル)や合金、導電性樹脂からなる双極型蓄電池にも適用できる。
【実施例0040】
[バイプレート、正極用集電板、および負極用集電板の準備]
〔各集電板の切り出し〕
錫(Sn)の含有率が1.0質量%であり、残部が鉛(Pb)と不可避的不純物である鉛合金からなり、厚さが0.30mmである圧延シートを、一辺が28cmである正方形のシートに切り出して、サンプルNo.1~No.8のバイプレート120用の正極用集電板111aとした。また、同じ鉛合金からなり、厚さが1.50mmである圧延シートを、一辺が28cmである正方形のシートに切り出して、サンプルNo.1~No.8の第一のエンドプレート130用の正極用集電板111aaとした。
【0041】
錫(Sn)の含有率が1.0質量%であり、残部が鉛(Pb)と不可避的不純物である鉛合金からなり、厚さが0.1mmである圧延シートを、一辺が28cmである正方形のシートに切り出して、サンプルNo.1~No.8のバイプレート120用の負極用集電板112aとした。また、同じ鉛合金からなり、厚さが1.50mmである圧延シートを、一辺が28cmである正方形のシートに切り出して、サンプルNo.1~No.8の第二のエンドプレート140用の負極用集電板112aaとした。
【0042】
〔バイプレートの作製〕
<サンプルNo.1>
ABS樹脂の射出成形により図1に示す形状のバイプレート120を作製した。バイプレート120の基板121の厚さは2mmである。凹部121bの底面は、一辺が28.5cmの正方形であり、深さは0.32mmである。凹部121cの底面は、一辺が28.5cmの正方形であり、深さは0.12mmである。
「JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定に基づいてバイプレート120の基板121の凹部121bの底面の表面状態を計測したところ、十点平均粗さ(RzJIS)は10μmであり、最大高さ粗さ(Rz)は17μmであった。
【0043】
<サンプルNo.2>
サンプルNo.1と同じ方法で作製したバイプレート120の凹部121bおよび凹部121cの底面を、2000番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が18μmで、最大高さ粗さ(Rz)が23μmとなるようにした。これをサンプルNo.2のバイプレートとした。
【0044】
<サンプルNo.3>
サンプルNo.1と同じ方法で作製したバイプレート120の凹部121bおよび凹部121cの底面を、800番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が30μmで、最大高さ粗さ(Rz)が39μmとなるようにした。これをサンプルNo.3のバイプレートとした。
【0045】
<サンプルNo.4>
サンプルNo.1と同じ方法で作製したバイプレート120の凹部121bおよび凹部121cの底面を、800番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が46μmで、最大高さ粗さ(Rz)が63μmとなるようにした。これをサンプルNo.4のバイプレートとした。
【0046】
<サンプルNo.5>
サンプルNo.1と同じ方法で作製したバイプレート120の凹部121bおよび凹部121cの底面にシボ加工を施すことにより、十点平均粗さ(RzJIS)が69μmで、最大高さ粗さ(Rz)が155μmとなるようにした。これをサンプルNo.5のバイプレートとした。
【0047】
<サンプルNo.6>
サンプルNo.1と同じ方法で作製したバイプレート120の凹部121bおよび凹部121cの底面を、150番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が77μmで、最大高さ粗さ(Rz)が92μmとなるようにした。これをサンプルNo.6のバイプレートとした。
【0048】
<サンプルNo.7>
サンプルNo.1と同じ方法で作製したバイプレート120の凹部121bおよび凹部121cの底面を、120番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が104μmで、最大高さ粗さ(Rz)が123μmとなるようにした。これをサンプルNo.7のバイプレートとした。
【0049】
<サンプルNo.8>
サンプルNo.1と同じ方法で作製したバイプレート120の凹部121bおよび凹部121cの底面を、80番の紙やすりで擦って、十点平均粗さ(RzJIS)が128μmで、最大高さ粗さ(Rz)が141μmとなるようにした。これをサンプルNo.8のバイプレートとした。
【0050】
[エンドプレートの作製]
<サンプルNo.1~No.8>
ABS樹脂の射出成形により図1に示す形状の第一のエンドプレート130および第二のエンドプレート140を作製した。第一のエンドプレート130の基板131および第二のエンドプレート140の141の厚さは10mmである。凹部131bおよび凹部141bの底面は、一辺が28.5cmの正方形であり、深さは1.52mmである。
【0051】
[双極型鉛蓄電池の組み立て]
サンプルNo.1~No.8の各バイプレートを用いたこと以外は全て同じ方法で、図1に示す構造を有し、定格容量が45AhとなるようにNo.1~No.8の双極型鉛蓄電池を組み立てた。つまり、バイプレート120の基板121の凹部121bの底面の表面状態以外は、全てのサンプルで同じ構成とした。
【0052】
正極用活物質層111bおよび負極用活物質層112bは鉛化合物からなるもの、セパレータ113はガラス繊維からなるものであって、それぞれ定格容量45Ahに対応させた厚さのものを使用した。
【0053】
[寿命試験]
先ず、No.1~No.8の各双極型鉛蓄電池を、水温が25℃±2℃に制御された水槽内に置き、電池の端子電圧が1.8V/セルに低下するまで、定格容量(45Ah)の10時間率電流(4.5A)で放電し、放電持続時間を記録し、放電電流と放電持続時間から10時間率容量を計算した。
【0054】
次に、各双極型鉛蓄電池を満充電状態にした後、端子電圧を常時計測しながら、下記の(1)を400回繰り返した。
(1)定格容量(45Ah)の10時間率電流(4.5A)で7時間放電する。つまり、定格容量に対してDOD70%の放電を行う。
液絡が発生すると端子電圧は急激に降下する。液絡が発生したかどうかは、上記放電を400回繰り返した後の各電池を解体して、正極用鉛箔111aの導通体160との結合部分の周縁部が硫酸によって変色しているか否かを確認することにより行った。そして、この変色度合いから液絡の有り無しを判定した。
【0055】
[接着剤塗布試験]
先ず、サンプルNo.1~No.8の各バイプレート120に対応させた試験板として、ABS樹脂製で、厚さが2mmで一辺が30cmである正方形の板の一面の表面状態を、サンプルNo.1~No.8の各バイプレート120の凹部121bおよび凹部121cの底面の表面状態と同じにしたものを用意した。
【0056】
次に、各サンプル用の試験板の一面に、接着剤を25ml塗布する。その際、基板面を水平に保持する。その後、接着剤を塗布した面に、上述の一辺が28cmである正方形の鉛合金製のシートを載せて、このシートの上面にゴムローラを当てて、端(右端)から端(左端)に向かうように移動することで、接着剤を延ばしながらシートを貼り付ける。
次に、全面に接着剤が隙間なく広がっているかどうかを調べた。接着剤としては、ソマール株式会社製のエポキシ系接着剤「エピフォーム(登録商標)K-9487」を使用した。
【0057】
なお、厚さ2mmのABS樹脂製の板は透過率が高いため、板の他方の面(鉛合金シートを貼り付けていない面)を目視することで、板とシートとの間の接着剤の状態を調べることができる。
全面に接着剤が隙間なく広がっている場合は、接着剤量が十分である(○)と判定し、隙間が存在している場合は接着剤量が不足している(×)と判定した。
これらの結果を、基板(凹部121b,121cの底面および試験板の一面)の表面状態とともに表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1の結果から以下のことが分かる。
主基板121の両面(正極側の面および負極側の面)の表面状態が、{JIS B 0601:2013の付属書JA」の規定による十点平均粗さ(RzJIS)が30μm以上100μm以下であり、この規定による最大高さ粗さ(Rz)が120μm以下}を満たし、各面に接着剤で鉛合金製の正極用集電板111aおよび負極用集電板112aが固定されているNo.3、No.4、No.6、No.7の双極型鉛蓄電池は、液絡抑制効果と少ない接着剤の使用量で必要な接着強度が得られる効果とが両立できるものとなる。
【0060】
RzJISが30μm未満であるNo.2、No.3の双極型鉛蓄電池では、少ない接着剤の使用量で必要な接着強度が得られたが、液絡抑制効果は得られなかった。また、RzJISが69μmであるがRzが120μmを超えているNo.5の双極型鉛蓄電池と、RzJISが100μmを超えRzが120μmを超えているNo.8の双極型鉛蓄電池では、液絡抑制効果は得られたが、必要な接着強度を得るための接着剤量が多くなった。
【符号の説明】
【0061】
100 双極(バイポーラ)型鉛蓄電池
110 セル部材
111 正極
112 負極
111a 正極用鉛箔(主基板の正極の側の面に配置された正極用集電板)
111aa 正極用鉛箔(正極用集電板)
111b 正極用活物質層
112a 負極用鉛箔(主基板の負極の側の面に配置された負極用集電板)
112aa 負極用鉛箔(負極用集電板)
112b 負極用活物質層
113 セパレータ
120 バイプレート
121 バイプレートの基板(隣り合うセル部材の間に配置された基板、主基板)
121a 基板の貫通穴
121b 基板の第一の凹部
121c 基板の第二の凹部
122 バイプレートの枠体
130 第一のエンドプレート
131 第一のエンドプレートの基板
132 第一のエンドプレートの枠体
140 第二のエンドプレート
141 第二のエンドプレートの基板
142 第二のエンドプレートの枠体
150 接着剤層
160 導通体
C セル(セル部材を収容する空間)
図1
図2