(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161273
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】表皮角化細胞増殖促進剤及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/752 20060101AFI20221014BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20221014BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
A61K36/752
A61P17/00
A61P43/00 107
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065951
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】橋井 洋子
(72)【発明者】
【氏名】小方 美幸
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB62
4C088AC04
4C088BA10
4C088CA06
4C088CA17
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB22
4C088ZC19
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】安全性の高い天然物由来の組成物の中から表皮角化細胞増殖促進作用及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とする表皮角化細胞増殖促進剤及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤を提供する。
【解決手段】表皮角化細胞増殖促進剤又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤に、ユズの抽出物を有効成分として含有せしめる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユズの抽出物を有効成分として含有する表皮角化細胞増殖促進剤。
【請求項2】
ユズの抽出物を有効成分として含有するトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮角化細胞増殖促進剤及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
基底層、有棘層、顆粒層、及び角層から構成されている表皮は、外部刺激を緩和し、水分等の体内成分の逸失を制御する働きを有する。基底層で分裂し、増殖した角化細胞は、有棘層、顆粒層を通過しながら分化し、強固な架橋結合をもったケラチン蛋白線維で構成された角層になり、最終的には垢として角層から脱落する。
【0003】
角層は皮膚の最外殻に存在しており、絶えずターンオーバーを繰り返して一定の厚さと水分量を保持して、外界からの刺激に対するバリアとしての役割を果たしている。皮膚では、このバリア機能を維持させるため、角化細胞が基底層で生まれてから垢となって脱落するまでのサイクルを通常4週間の周期で繰り返し、表皮の新陳代謝を行っている。しかしながら、この角層は加齢等によって新陳代謝機能が衰えるため、小ジワ、くすみ、色素沈着、肌荒れ等の皮膚の老化症状を呈することになる。そのため、角化細胞の増殖を促進し、皮膚の新陳代謝機能を回復させることにより、これらの皮膚の老化症状を予防・改善できるものと考えられる。
【0004】
従来、表皮角化細胞増殖促進作用を有するものとしては、ビタミンB3、アスタキサンチン及び月桃抽出物(特許文献1参照)、ヒトリシズカ抽出物(特許文献2参照)、キウイの摘果果実からの抽出物(特許文献3参照)等が知られている。
【0005】
また、顆粒層では、細胞膜が肥厚して肥厚細胞膜を形成するとともに、トランスグルタミナーゼ-1の作用により、蛋白分子間がグルタミル-リジン架橋され、強靱なケラチン蛋白線維が形成される。さらに、その一部にセラミド等が共有結合し、疎水的な構造をとることで、細胞間脂質のラメラ構造の土台を供給し、角層バリア機能及び皮膚の保湿機能の基礎が形成される。
【0006】
しかし、加齢とともに表皮におけるトランスグルタミナーゼ-1の産生量が減少すると、角層バリア機能及び皮膚の保湿機能が低下するため、肌荒れ、乾燥肌等の皮膚の老化症状を呈したり、魚鱗癬、乾癬、アトピー性皮膚炎、乾皮症、座瘡等の皮膚疾患を発症したりするようになる。そのため、表皮におけるトランスグルタミナーゼ-1の産生を促進することにより、皮膚の老化症状や上記皮膚疾患を予防、治療又は改善することができると考えられる。
【0007】
従来、トランスグルタミナーゼ-1産生促進作用を有するものとして、タチジャコウソウの麹菌による発酵液及びヤグルマギクの麹菌による発酵液(特許文献4参照)、蒸気加熱処理工程と、乾燥工程とを含む工程で処理したクチナシの抽出物(特許文献5参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-214533号公報
【特許文献2】特開2008-088075号公報
【特許文献3】特開2011-144113号公報
【特許文献4】特開2020-164486号公報
【特許文献5】特開2020-105126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安全性の高い天然物由来の組成物の中から表皮角化細胞増殖促進作用及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とする表皮角化細胞増殖促進剤及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明は、ユズの抽出物を有効成分として含有する表皮角化細胞増殖促進剤及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安全性の高い天然物由来の組成物の中から表皮角化細胞増殖促進作用及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とする表皮角化細胞増殖促進剤及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係る表皮角化細胞増殖促進剤及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤は、ユズの抽出物を有効成分として含有する。
【0013】
本実施形態における有効成分を得るために使用される抽出原料は、ユズ(学名:Citrus junos)である。
【0014】
ユズ(学名:Citrus junos)は、ミカン科ミカン属に属する常緑小高木であって、中国や日本で古くから栽培されており、これらの地域から容易に入手され得る。抽出原料として使用し得るユズの構成部位としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、葉部、幹部、枝部、花部、蕾部、果実部、果皮部、果核部、種子部、根部又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは果実部である。
【0015】
上記の抽出原料からの抽出物に含まれる表皮角化細胞増殖促進作用又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出等に一般に用いられている抽出方法によって、上記抽出原料から表皮角化細胞増殖促進作用及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を有する抽出物を得ることができる。なお、抽出物には、抽出処理によって抽出原料から得られる抽出液、抽出液の希釈液もしくは濃縮液、抽出液を乾燥して得られる乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。
【0016】
上記抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま、または粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0017】
抽出に用いられる溶媒としては、水、親水性有機溶媒、またはこれらの混合物等が挙げられ、室温または溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。抽出原料に含まれる表皮角化細胞増殖促進作用及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を有する成分は、極性溶媒を抽出溶媒とする抽出処理によって容易に抽出することができる。
【0018】
抽出溶媒として使用し得る水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0019】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
【0020】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1~40容量部を混合することが好ましい。水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール1~90容量部を混合することが好ましい。
【0021】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特殊な抽出方法を採用する必要はなく、室温または還流加熱下で抽出することができる。例えば、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料を投入し、必要に応じて撹拌しながら、30分~4時間静置して可溶性成分を溶出した後、濾過して固形物を除去することにより抽出物を得ることができる。得られた抽出液から抽出溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥することにより乾燥物が得られる。抽出条件は、抽出溶媒として水を用いた場合には50~95℃で1~4時間程度である。また、抽出溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いた場合には、40~80℃で30分~4時間程度である。
【0022】
以上のようにして得られた抽出液は、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0023】
なお、得られた抽出液はそのままでも表皮角化細胞増殖促進剤又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤として使用することができるが、濃縮液または乾燥物としたもののほうが好ましい。乾燥物を得るにあたっては、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。
【0024】
また、抽出物は特有の匂いと味を有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、化粧料に添加する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。精製は、例えば活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等によって行うことができる。
【0025】
以上のようにして得られるユズの抽出物は、表皮角化細胞増殖促進作用及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を有しているため、その作用を利用して表皮角化細胞増殖促進剤及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤の有効成分として用いられ得る。
【0026】
本実施形態に係る表皮角化細胞増殖促進剤又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤は、ユズの抽出物を製剤化したものであってもよい。
【0027】
上記抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。上記抽出物を製剤化した表皮角化細胞増殖促進剤及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤等が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係る表皮角化細胞増殖促進剤は、ユズの抽出物が有する表皮角化細胞増殖促進作用を通じて、表皮角化細胞の増殖を促進することができる。これにより、皮膚の新陳代謝機能が回復し、小ジワ、くすみ、色素沈着、肌荒れ等の皮膚の老化症状を予防及び改善することができる。ただし、本実施形態に係る表皮角化細胞増殖促進剤は、これらの用途以外にも表皮角化細胞増殖促進作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0029】
本実施形態に係るトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤は、ユズの抽出物が有するトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を通じて、トランスグルタミナーゼ-1の発現を促進することができる。これにより、肌荒れ、乾燥肌等の皮膚の老化症状や、魚鱗癬、乾癬、アトピー性皮膚炎、乾皮症、座瘡等の皮膚疾患を予防、治療または改善することができる。ただし、本実施形態に係るトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0030】
本実施形態に係る表皮角化細胞増殖促進剤又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態に係る表皮角化細胞増殖促進剤又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0031】
また、本実施形態に係る表皮角化細胞増殖促進剤及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤は、優れた表皮角化細胞増殖促進作用及びトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を有するため、皮膚化粧料、頭皮化粧料、頭髪化粧料等の化粧料や、飲食品等に配合するのに好適である。
【0032】
上記表皮角化細胞増殖促進剤又は上記トランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤を配合可能な化粧料としては、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、ヘアトニック、ヘアローション、シャンプー、リンス、石鹸等が挙げられる。上記表皮角化細胞増殖促進剤や上記トランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤を化粧料に配合する場合、その配合量は、化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.0001~10質量%であり、特に好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.001~1質量%である。化粧料は、上記抽出物が有する表皮角化細胞増殖促進作用又はトランスグルタミナーゼ-1mRNAmRNA発現促進作用を妨げない限り、通常の化粧料の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0033】
飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口または消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態に係る「飲食品」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品)、医薬部外品、医薬品等を構成する組成物を幅広く含むものである。本実施形態における飲食品は、当該飲食品又はその包装に上記抽出物が有する表皮角化細胞増殖促進作用又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用が表示されるものであってもよいし、当該飲食品は、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品、栄養機能食品)、医薬部外品又は医薬品であってもよい。
【0034】
上記抽出物、又は上記抽出物から製剤化した表皮角化細胞増殖促進剤又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤を飲食品に配合する場合、それらにおける有効成分の配合量は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象となる飲食品の一般的な摂取量を考慮して、成人1日あたりの抽出物摂取量が約1~1000mgになるようにするのが好ましい。なお、添加対象飲食品が顆粒状、錠剤状又はカプセル状の形態である場合、上記抽出物、又は上記抽出物から製剤化した表皮角化細胞増殖促進剤又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤の添加量は、添加対象飲食品に対して通常0.1~100質量%であり、好ましくは5~100質量%である。
【0035】
なお、本実施形態に係る表皮角化細胞増殖促進剤又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤はヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することも可能である。
【実施例0036】
以下、製造例、試験例等を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記製造例、試験例等に何ら制限されるものではない。
【0037】
〔製造例〕ユズ抽出物の製造
ユズの果実部100gに50容量%エタノール溶液1500mLを加え、還流抽出器を用いて80~90℃にて2時間還流抽出を行い熱時濾過した。得られた抽出液を乾燥してユズ抽出物(24g)を得た。
【0038】
〔試験例1〕表皮角化細胞増殖促進作用試験
上記製造例で得られたユズ抽出物を50容量%1,3-ブチレングリコール溶液に加え、ユズ抽出物の固形分濃度が1.2質量%となるようにユズ抽出物溶液を調製した。このユズ抽出物溶液を被験試料として、下記の方法により表皮角化細胞増殖促進作用の試験を実施した。
【0039】
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を正常ヒト表皮角化細胞増殖培地(KGM)を用いて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を3.0×104cells/mLの細胞密度になるようにKGMで希釈した後、コラーゲンコートした96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0040】
被験試料を溶解したKGMを所定の濃度(添加濃度は表1を参照)で各ウェルに100μL添加し、3日間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加のKGMを用いて同様に培養した。
【0041】
表皮角化細胞増殖促進作用は、MTTアッセイ法を用いて測定した。具体的には、培養終了後、培地を抜き、終濃度0.4mg/mLでPBS(-)に溶解したMTTを各ウェルに100μL添加し、2時間培養した。培養終了後、細胞内に生成したブルーホルマザンを2-プロパノール100μLで抽出した。抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。得られた値から、下記式により表皮角化細胞増殖促進率(%)を算出した。
【0042】
表皮角化細胞増殖促進率(%)=A/B×100
式中の「A」は、被験試料添加時のブルーホルマザン生成量を表し、「B」は、被験試料無添加時のブルーホルマザン生成量を表す。
【0043】
上記試験の結果を表1に示す。なお、上記式において、被験試料無添加の表皮角化細胞増殖促進率は100%となる。
【0044】
【0045】
表1に示すように、ユズ抽出物は、高い表皮角化細胞増殖促進率を示した。この結果から、ユズ抽出物は、優れた表皮角化細胞増殖促進作用を有することが確認された。
【0046】
〔試験例2〕トランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用試験
上記製造例で得られたユズ抽出物を50容量%1,3-ブチレングリコール溶液に加え、ユズ抽出物の固形分濃度が1.2質量%となるようにユズ抽出物溶液を調製した。このユズ抽出物溶液を被験試料として、下記の方法によりトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現作用の試験を実施した。
【0047】
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞増殖培地(KGM)を用いて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を6ウェルプレートに3.0×105cells/2mLの細胞密度になるようにKGMで希釈した後、37℃・5%CO2-95%airの条件下で一晩培養した。
【0048】
培養後に培地を除去し、増殖因子を添加していない培地(正常ヒト表皮角化細胞基礎培地;KBM)に交換し、24時間培養した。培養後に培地を除去し、被験試料を溶解したKBMを所定の濃度(添加濃度は表2を参照)で各ウェルに2mLずつ添加し、37℃・5%CO2-95%airの条件下で24時間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加のKBMを用いて同様に培養した。培養後、培地を除去し、ISOGEN II(ニッポンジーン社製)にて総RNAを抽出し、波長260nmにおける吸光度からRNA量を計算し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0049】
この総RNAを鋳型とし、トランスグルタミナーゼ-1及び内部標準であるGAPDHについて、mRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III (タカラバイオ社製)を用いて、PrimeScriptTM RT Master Mix (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)及びTB Green(登録商標) Fast qPCR Mix(タカラバイオ社製)によるリアルタイム2Step RT-PCR反応により行った。トランスグルタミナーゼ-1mRNAの発現量は、GAPDHmRNAの値で補正し算出した。得られた値から、下記式によりトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進率(%)を算出した。
【0050】
トランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進率(%)=C/D×100
式中の「C」は、被験試料を添加したものの補正値を表し、「D」は、被験試料無添加のものの補正値を表す。
【0051】
上記試験の結果を表2に示す。なお、上記式において、被験試料無添加のトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進率は100%となる。
【0052】
【0053】
表2に示すように、ユズ抽出物は、高いトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進率を示した。特に、被験試料の濃度が1質量%のとき、被験試料無添加のトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進率に対して約2倍のトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を有することが確認された。この結果から、ユズ抽出物は、優れたトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進作用を有することが確認された。
本発明の表皮角化細胞増殖促進剤又はトランスグルタミナーゼ-1mRNA発現促進剤は、化粧料や飲食品等の一成分として、更には研究用の試薬として好適に利用され得る。