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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161306
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ガスバリア性フィルムおよび包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20221014BHJP
   B65D 30/02 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B65D30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066016
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】西原 光一
(72)【発明者】
【氏名】金井 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉田 健太郎
【テーマコード(参考)】
3E064
4F100
【Fターム(参考)】
3E064BA17
3E064BA24
3E064BA36
3E064BA40
3E064BA54
3E064BA60
3E064BB03
3E064BC08
3E064EA30
4F100AA01C
4F100AA20C
4F100AK01E
4F100AK21B
4F100AK21D
4F100AK41A
4F100AK80B
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100GB15
4F100JA07B
4F100JD03
4F100JD04
4F100JK06
(57)【要約】
【課題】ポリ乳酸系生分解性フィルムを用い、無機層との密着性を有し、高温湿下であっても高いガスバリア性を発現するガスバリアフィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂層、無機層の順で形成してなるガスバリア性フィルムであって、前記基材フィルムがポリ乳酸系生分解性フィルムであり、前記樹脂層がポリエチレンイミンとポリビニルアルコール系樹脂とを含むことを特徴とするガスバリア性フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂層、無機層の順で形成してなるガスバリア性フィルムであって、
前記基材フィルムがポリ乳酸系生分解性フィルムであり、
前記樹脂層がポリエチレンイミンとポリビニルアルコール系樹脂とを含む
ことを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記樹脂層が樹脂層(A)と樹脂層(B)の順で形成され、
前記樹脂層(A)を100質量%とする場合、ポリエチレンイミンを10質量%以上100質量%以下、およびポリビニルアルコール系樹脂を0質量%以上90質量%以下含有し、
前記樹脂層(B)がポリビニルアルコール系樹脂を含む
請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記樹脂層(A)がポリエチレンイミン100質量%である請求項2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記樹脂層(A)を100質量%とする場合、ポリエチレンイミンを10質量%以上50質量%以下、ポリビニルアルコール系樹脂を50質量%以上90質量%以下含有し、
前記樹脂層(B)を有しない
請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記ポリエチレンイミンの数平均分子量が30,000以上100,000以下である請求項1~4の何れか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記無機層の上に樹脂層(C)を有する請求項1~5の何れか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記無機層の厚みが10nm以上50nm以下であり、水蒸気透過率が3.5g/m/day以下である請求項1~6の何れか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
請求項1~7の何れかのガスバリア性フィルムを用いてなる包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系生分解性フィルムを用いたガスバリア性フィルムおよび包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
食料品、医薬医療品、工業部品等を包装し、収容物の腐食腐敗を防ぎ長期保管を可能とするガスバリア性フィルムが普及している。また、環境問題が重大な社会問題となり、それら包装フィルム、ガスバリア性フィルムも環境負荷を低減させ得る原材料構成が求められている。
【0003】
そういった中、従前より、生分解性フィルムであるポリ乳酸系(PLA)フィルムを用い、蒸着膜を形成してガスバリア機能を付与する開発が為されてきた。
例えば、特許文献1では、蒸着生分解性フィルム材料であるポリ乳酸系又はポリエステル系の生分解性樹脂フィルムに、0.1~1.0μmの厚みでスチレン-マレイン酸系水性樹脂、セルロース-ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、澱粉系樹脂、硝化綿含有樹脂等からなるアンカー層を形成し、その上に100~1000Åの膜厚の金属蒸着層を形成する技術が開示されている。
特許文献2では、ガスバリア性と透明性とを有し、さらに機械特性を有するポリ乳酸系生分解性ガスバリアフィルムとして、特定の面配向度ΔP、及び、フィルムを昇温したときの結晶融解熱量ΔHmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱ΔHcとの差が所定の値であるポリ乳酸系生分解性フィルムの少なくとも一方の面に、蒸着法またはスパッタ-法によって、無機酸化物、無機窒化物あるいは無機酸化窒化物の層が設ける技術が開示されている。
また、特許文献3では、ポリ乳酸系又はポリエステル系の生分解性樹脂基材の少なくとも片面に、ウロン酸残基を持つ多糖類からなる被膜を形成し、当該被膜に、更にセラミックを蒸着した層を有する技術(請求項8)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-145677号公報
【特許文献2】特開2006-069218号公報
【特許文献3】特開2008-049606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、蒸着層を70nmのように厚くして、ようやく酸素透過率4cc/m・24hrs・atm、水蒸気透過率3g/m・24hrs・atmといったガスバリア性レベルになるものであり(実施例6)、ガスバリア性フィルムとしては機能が不足している。
また、特許文献2の技術は、基材フィルムであるポリ乳酸系生分解性フィルムと無機物の層との間の密着性が著しく乏しいものである。
また、特許文献3の技術では、天然資源であるウロン酸残基を持つ多糖類からなる被膜によって生分解性樹脂基材へガスバリア性を付与しようとするものであり、当該被膜上に蒸着層を形成すると、高温湿下では多糖類の吸湿により蒸着膜のガスバリア性は発現されないものである。
【0006】
上記実情を鑑み、本発明の課題は、ポリ乳酸系生分解性フィルムを用い、無機層との密着性を有し、高温湿下であっても高いガスバリア性を発現するガスバリアフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討し、以下の発明を完成するに至った。
[1] 基材フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂層、無機層の順で形成してなるガスバリア性フィルムであって、前記基材フィルムがポリ乳酸系生分解性フィルムであり、前記樹脂層がポリエチレンイミンとポリビニルアルコール系樹脂とを含むことを特徴とするガスバリア性フィルム。
【0008】
[2] 前記樹脂層が樹脂層(A)と樹脂層(B)の順で形成され、前記樹脂層(A)を100質量%とする場合、ポリエチレンイミンを10質量%以上100質量%以下、およびポリビニルアルコール系樹脂を0質量%以上90質量%以下含有し、前記樹脂層(B)がポリビニルアルコール系樹脂を含む[1]に記載のガスバリア性フィルム。
【0009】
[3] 前記樹脂層(A)がポリエチレンイミン100質量%である[2]に記載のガスバリア性フィルム。
【0010】
[4] 前記樹脂層(A)を100質量%とする場合、ポリエチレンイミンを10質量%以上50質量%以下、ポリビニルアルコール系樹脂を50質量%以上90質量%以下含有し、
前記樹脂層(B)を有しない[1]または[2]に記載のガスバリア性フィルム。
【0011】
[5] 前記ポリエチレンイミンの数平均分子量が30,000以上100,000以下である[1]~[4]の何れか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【0012】
[6] 前記無機層の上に樹脂層(C)を有する[1]~[5]の何れか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【0013】
[7] 前記無機層の厚みが10nm以上50nm以下であり、水蒸気透過率が3.5g/m/day以下である[1]~[6]の何れか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【0014】
[8] [1]~[7]の何れかのガスバリア性フィルムを用いてなる包装体。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガスバリア性フィルムは、環境負荷を低減させ得る原材料構成として、基材フィルムにポリ乳酸系生分解性フィルムを用い、無機層との密着性を有し、高温湿下であっても高いガスバリア性を発現するため、本発明のガスバリア性フィルムを包装体に用いた際に、環境負荷を低減しつつ、収容物の腐食腐敗を防ぎ長期保管を可能とし得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、比較例1のガスバリア性フィルムを40℃相対湿度90RH%1時間の条件で調湿した後の無機層表面の3次元像である。
図2図2は、実施例1のガスバリア性フィルムを40℃相対湿度90RH%1時間の条件で調湿した後の無機層表面の3次元像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ガスバリア性フィルム>
本発明のガスバリア性フィルム(以下、本発明のフィルムと称することがある)は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂層、無機層の順で形成してなる。
(基材フィルム)
本発明のガスバリア性フィルムに用いる基材フィルムは、ポリ乳酸樹脂を含むポリ乳酸系生分解性フィルムである。
ポリ乳酸樹脂とは、D-乳酸もしくはL-乳酸の単独重合体、またはこれらの共重合体である。すなわち、上記のポリ乳酸樹脂は、構造単位がD-乳酸であるポリ(D-乳酸)、構造単位がL-乳酸であるポリ(L-乳酸)、及び、L-乳酸とD-乳酸の共重合体であるポリ(DL-乳酸)のうちの何れか、又は、これらの混合樹脂であればよい。また、D-乳酸とL-乳酸との共重合比の異なる複数の上記共重合体の混合樹脂であってもよい。
【0018】
上記L-乳酸とD-乳酸との共重合体は、D-乳酸とL-乳酸との共重合比(以下「D/L比」と略する。)は、好ましくは「3/97」~「15/85」または「85/15」~「97/3」であり、より好ましくは「5/95」~「15/85」または「85/15」~「95/5」であり、さらに好ましくは「8/92」~「15/85」または「85/15」~「92/8」であり、特に好ましくは「10/90」~「15/85」または「85/15」~「90/10」である。
D/L比が異なるポリ乳酸樹脂をブレンドすることも可能であり、かつ、ブレンドするとポリ乳酸樹脂のD/L比を容易に調整できるので好ましい。この場合には、複数の乳酸系重合体のD/L比を、平均した値が上記範囲内に入るようにすればよい。使途に合わせて、D/L比の異なるポリ乳酸樹脂を2種以上ブレンドし、結晶性を調整することで、耐熱性と熱収縮特性とのバランスを図ることができる。
【0019】
上記ポリ乳酸樹脂は、少量の共重合成分を共重合させてもよく、例えば、乳酸以外のα-ヒドロキシカルボン酸、テレフタル酸等の非脂肪族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の非脂肪族ジオール、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール,1,4-シクロへキサンジメタノール等の脂肪族ジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
乳酸以外のα-ヒドロキシカルボン酸単位としては、例えばグリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-メチル乳酸、2-ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類を挙げることができる。
【0020】
乳酸と、乳酸以外のα-ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、または脂肪族ジカルボン酸等との共重合体における共重合比は特に限定されない。中でも、乳酸の占める割合が高いほど、石油資源の消費が少ないため好ましく、また後述するビカット軟化点の範囲を超えない程度の割合で共重合すると好ましい。
具体的には、乳酸と、乳酸以外のα-ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、または脂肪族ジカルボン酸との共重合体組成比(乳酸/乳酸以外)は、「95/5」~「10/90」、好ましくは「90/10」~「20/80」、さらに好ましくは「80/20」~「30/70」である。共重合比が上記範囲内であれば、剛性、透明性、耐衝撃性などの物性バランスの良好なフィルムを得ることができる。また、これらの共重合体の構造としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられ、いずれの構造でもよい。但し、フィルムの耐衝撃性および透明性の観点から、ブロック共重合体またはグラフト共重合体が好ましい。
【0021】
上記ポリ乳酸樹脂は、また、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を含有することもできる。
ポリ乳酸樹脂の質量平均分子量は、下限は20,000以上、好ましくは40,000以上、さらに好ましくは60,000以上であり、上限は400,000以下、好ましくは350,000以下、さらに好ましくは300,000以下である。ポリ乳酸樹脂の質量平均分子量が20,000以上であれば、適度な樹脂凝集力が得られ、フィルムの強伸度が不足する、または脆化を抑制できる。一方、質量平均分子量が400,000以下であれば、溶融粘度を下げることができ、フィルム製造、生産性向上の観点から好ましい。
【0022】
上記ポリ乳酸樹脂の重合法としては、縮合重合法、開環重合法など、公知の方法を採用することも可能である。例えば縮合重合法であれば、D-乳酸、L-乳酸、または、これらの混合物を直接脱水縮合重合して任意の組成を有するポリ乳酸樹脂を得ることができる。また、開環重合法では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤などを用いながら、所定の触媒の存在下で開環重合することにより任意の組成を有するポリ乳酸樹脂を得ることができる。上記ラクチドには、L-乳酸の二量体であるDL-ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成、結晶性を有するポリ乳酸樹脂を得ることができる。
【0023】
本発明の基材フィルムである、ポリ乳酸樹脂を含むポリ乳酸系生分解性フィルムは、十分なフィルム強度を有するために、フィルムの面配向度ΔPが3.0×10-3~30×10-3であることが好ましい。面配向度ΔPは、フィルムの厚み方向に対する面方向の配向度であり、直交3軸方向の屈折率を測定し下式から算出される。
ΔP={(γ+β)/2}-α
ここで、αはフィルム厚さ方向の屈折率であり、γ、βはフィルム面に平行な直交2軸の屈折率であり、α<β<γの関係である。
ΔPは結晶化度や結晶配向にも依存するが、大きくはフィルム面内の分子配向に依存する。つまり、無配向シート・フィルムでは1.0×10-3以下であるΔPを、フィルム面内、特にフィルムの流れ方向および/またはそれと直交する方向の1 または2方向に対し分子配向を増大させることにより増大させることができる。ΔPを増大させる方法としては、公知のフィルム延伸法や、電場や磁場を利用した分子配向法を挙げることができる。
【0024】
フィルム延伸法としては、例えば、Tダイ、Iダイ、丸ダイ等から溶融押し出ししたシート状物または円筒状物を冷却キャストロールや水、圧空等により急冷し、非晶質に近い状態で固化させた後、ロール法、テンター法、チューブラー法等により一軸または二軸に延伸する方法が挙げられる。延伸条件としては、例えば、延伸温度50~100℃、延伸倍率1.5倍~5倍、延伸速度100%/分~10000%/分が挙げられる。
【0025】
ポリ乳酸系生分解性フィルムは、樹脂層や無機層を形成する際の熱負荷に対する熱寸法安定性を向上するために 昇温時の結晶融解熱量ΔHmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm-ΔHc)を20J/g以上、かつ{(ΔHm-ΔHc)/ΔHm}が0.75以上であることが好ましい。
上記のΔHm、ΔHcは、示差走査熱量測定(DSC)により求められ、ΔHmは昇温速度10℃/分で昇温したときの全結晶を融解させるのに必要な熱量であって、結晶融解による吸熱ピークの面積から求められる。また、ΔHcは、昇温過程で生じる結晶化の際に発生する発熱ピークの面積から求められる。
【0026】
ΔHmは、主にポリ乳酸樹脂そのものの結晶性に依存し、結晶性が高いほど値が大きい。共重合体のないL-乳酸またはD-乳酸の完全ホモポリマーでは、60J/g以上であり、これら2種の乳酸の共重合体ではその組成比によりΔHmは変化する。ΔHcは、ポリ乳酸樹脂の結晶性に対するその時のフィルムの結晶化度に関係する指標であり、ΔHcが大きいほど、昇温過程でフィルムの結晶化が進行し、ポリ乳酸樹脂が有する結晶性を基準にフィルムの結晶化度が相対的に低かったことを表す。逆に、ΔHcが小さいと、ポリ乳酸樹脂が有する結晶性を基準にフィルムの結晶化度が相対的に高かったことを表す。
従って、(ΔHm-ΔHc)を増大させるための1手法は、結晶性が高いポリ乳酸樹脂を原料に、結晶化度の比較的高いフィルムをつくることである。フィルムの結晶化度は、ポリ乳酸樹脂の組成に少なからず依存し、ポリ乳酸樹脂そのもののΔHmを20J/g以上にするには、L-乳酸とD-乳酸から共重合体を作る場合は、両者の組成比(L-乳酸:D-乳酸)を100:0~94:6、または0:100~6:94の範囲内に調製することが好ましい。また、ΔHcを低下させ、フィルムの結晶化度を高めるためにはフィルムの成形加工条件を選定するとよい。例えば、成形加工工程、特にテンター法2軸延伸においてフィルムの結晶化度を高めるためには、延伸倍率を上げ配向結晶化を促進する、延伸後に結晶化温度以上の雰囲気で熱処理するなどの方法が有用である。
なお、ΔPが大きいほど結晶化温度が低下する傾向があり、例えば70℃~170℃、好ましくは90℃以上の範囲で3秒以上熱処理することで熱寸法安定性が付与でき、熱処理温度が高いほど、また熱処理時間が長いほど、ポリ乳酸系生分解性フィルムの熱寸法安定性は向上する傾向にある。
【0027】
ポリ乳酸系生分解性フィルムの厚みは、用途に応じて適宜選定できるが、例えば5~1000μmが好ましく、15~50μmがより好ましい。
【0028】
(樹脂層)
本発明のガスバリア性フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層、無機層の順に形成する。
ガスバリア性を発現するには、樹脂層にポリビニルアルコール系樹脂を用いて無機層を形成することが有用であるが、樹脂層にポリビニルアルコール系樹脂のみを用いた場合は、高温湿条件下でガスバリア性を得ることができない。本発明者らは、その原因が、ポリビニルアルコール系樹脂は吸湿性であるため、高温湿条件により樹脂層が膨潤、膨張して無機膜の損壊が起きる、また、ポリビニルアルコール系樹脂はポリ乳酸系生分解性フィルム表面との結合力が弱く、層間剥離が起きるからであるということを究明し、そして、樹脂層のポリビニルアルコール系樹脂を膨潤させず、且つポリ乳酸系生分解性フィルム表面との密着性を向上させるためには、樹脂層がポリエチレンイミンとポリビニルアルコール系樹脂とを含むことが必要であることを見出した。
【0029】
本発明のガスバリア性フィルムの樹脂層が、ポリエチレンイミンとポリビニルアルコール系樹脂とを含有する具体例としては、次の(i)、(ii)が挙げられる。
(i)樹脂層が、樹脂層(A)、樹脂層(B)の順に2層で形成され、樹脂層(A)が、樹脂層(A)を100質量%とする場合に、ポリエチレンイミンを10質量%以上100質量%以下、およびポリビニルアルコール系樹脂を0質量%以上90質量%以下含有し、樹脂層(B)がポリビニルアルコール系樹脂を含有する場合
(ii)樹脂層が、樹脂層(A)の1層で形成され、樹脂層(A)を100質量%とする場合に、ポリエチレンイミンを10質量%以上50質量%以下、ポリビニルアルコール系樹脂を50質量%以上90質量%以下含有する場合
【0030】
上述(i)において、樹脂層を2層で構成し、樹脂層(A)を100質量%とする場合にポリエチレンイミンが100質量%であると、ポリエチレンイミンはカチオン性が高く、その極性基であるアミノ基は、ポリ乳酸系生分解性フィルムに含まれるカルボニル基と静電的相互作用及び/又は共有結合し、また、ポリエチレンイミンに含まれる疎水基であるエチレン基は、ポリ乳酸系生分解性フィルムのメチル基等と疎水基同士が相互作用することで、ポリ乳酸系生分解性フィルムと樹脂層(A)との層間密着性が向上する。
また、樹脂層(A)のポリエチレンイミンのアミノ基が、樹脂層(B)のポリビニルアルコール系樹脂に含まれるヒドロキシ基と水素結合を形成することで、樹脂層(A)と樹脂層(B)の層間密着性が向上し、更には、樹脂層(B)のポリビニルアルコール系樹脂の吸湿膨潤抑制にも寄与するものと考えられる。
【0031】
また、上述(i)において、樹脂層(A)がポリエチレンイミンとポリビニルアルコールとを含有する場合は、ポリエチレンイミンに含まれるアミノ基が、樹脂層(A)のポリビニルアルコールに含まれるヒドロキシ基、酢酸基と水素結合し、樹脂層(A)の層内の凝集力を高め、高温湿下におけるポリビニルアルコールの膨潤を抑制する。
また、ポリエチレンイミンの残りのアミノ基とポリ乳酸系生分解性フィルムのカルボニル基との静電的相互作用及び/又は共有結合や、ポリエチレンイミンとポリ乳酸系生分解性フィルムとの疎水的相互作用により、ポリ乳酸系生分解性フィルムとの層間密着性が向上する。
また、ポリエチレンイミンの残りのアミノ基と樹脂層(B)のポリビニルアルコール系樹脂のヒドロキシ基が水素結合し、樹脂層(B)との層間密着性や樹脂層(B)の吸湿膨潤抑制にも寄与する。
【0032】
上述(i)において、樹脂層(A)がポリエチレンイミンとポリビニルアルコール系樹脂とを含有する場合、樹脂層(A)を100質量%とし、ポリエチレンイミンが10質量%以上、ポリビニルアルコール系樹脂が90質量%以下であることにより、ポリエチレンイミンが樹脂層(A)のポリビニルアルコール系樹脂と水素結合による架橋反応をする他、余剰のポリエチレンイミンがポリ乳酸系生分解性フィルム及び樹脂層(B)と層間結合に係わり、各層間の密着性へ寄与することができる。
ポリエチレンイミンとポリビニルアルコール系樹脂との質量含有率(ポリエチレンイミン:ポリビニルアルコール系樹脂)は、(10~100):(0~90)であり、(12~70):(30~88)が好ましく、(15~50):(50~85)がより好ましい。
【0033】
上述(i)において、樹脂層(B)はポリビニルアルコール系樹脂を含むことにより、そのヒドロキシ基によって無機層との親和性が高く、化学結合点が多いことで無機膜が緻密になり、ガスバリア性が向上する。
樹脂層(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含むことができる。例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンイミド、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、等が挙げられる。
樹脂層(B)を100質量%とする場合、ポリビニルアルコール系樹脂の含有率は、70~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましい。
【0034】
上述(ii)において、樹脂層は樹脂層(A)の1層で構成し、樹脂層(A)を100質量%とする場合、ポリエチレンイミンを10質量%以上50質量%以下、ポリビニルアルコール系樹脂を50質量%以上90質量%以下とすることで、ポリエチレンイミンとポリビニルアルコール系樹脂との水素結合による架橋点が増え、ポリビニルアルコール系樹脂の膨潤が抑制される。
また、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール系樹脂は、無機層とそれぞれイオン結合、水素結合を形成し、樹脂層(A)と無機層との層間密着性が向上する。
ポリエチレンイミンとポリビニルアルコール系樹脂の質量含有率(ポリエチレンイミン:ポリビニルアルコール系樹脂)は、(10~50):(50~90)が好ましく、(12~45):(55~88)がより好ましく、(15~40):(60~85)が更に好ましい。
【0035】
・ポリエチレンイミン
本発明のガスバリア性フィルムの樹脂層に用いるポリエチレンイミンとしては、エチレンイミンの重合体であればよい。
ポリエチレンイミンは、その分子構造上、分子内のアミン基濃度(アミン価)が高い故に、反応性、水溶性に富む性質を有する。そのため、本発明に係る樹脂層に含有することにより、各層の成分と反応、相互作用し、本発明のフィルムのガスバリア性の向上に大きく寄与する。アミン価は15~25mmol/g・solidが好ましく、17~23mmol/g・solidがより好ましい。
ポリエチレンイミンの分子構造は、特に制限はなく、線状、分岐状の何れでもよいが、結晶性が低く、高い水溶性が得られる点から分岐状が好ましい。分岐状ポリエチレンイミンは、1級アミン、2級アミン、3級アミンを有し、分岐度は、2級アミンと3級アミンの合計に対する3級アミンのモル比で示される。分岐度が30%未満であると、比較的2級アミンの反応活性が高く、分岐度が30%以上であると、低結晶性で冷温水溶性に長ける。本発明のガスバリア性フィルムに用いるポリエチレンイミンのアミン基の[1級アミン:2級アミン:3級アミン]のモル比は特に限定しないが、例えば(20~50):(30~55):(15~35)の範囲が好ましく、(20~40):(40~55):(20~30)の範囲がより好ましい。アミン基のモル比は、13C-NMR法で分析できる。
ポリエチレンイミンの分子量は、特に限定しないが、例えば、数平均分子量5,000~200,000が好ましく、30,000~100,000がより好ましく、50,000~80,000が更に好ましい。数平均分子量が5,000以上により樹脂層の可撓性が良好となり、200,000以下により樹脂層の透明性が良好となる。数平均分子量は、GPC法で分析できる。
【0036】
・ポリビニルアルコール系樹脂
本発明のガスバリア性フィルムの樹脂層に用いるポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸ビニルの重合体であるポリ酢酸ビニルのアセテート基をケン化したものあればよく、ケン化度は特に限定しないが、水溶性、結晶性、樹脂層(被膜)強度の点から、例えば70mol%以上100mol%以下が好ましく、下限は80mol%以上がより好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、200~3000が好ましく、300~2000がより好ましく、400~1500が更に好ましい。重合度200以上により、樹脂層(被膜)強度が十分となり、3000以下により水溶性が良好となる。
また、ポリビニルアルコール系樹脂は、一部変性されたものであってもよく、例えばブテンジオール変性、シラノール変性、アセトアセチル変性が挙げられる。特に、ブテンジオール変性では、樹脂層に含まれるポリエチレンイミンのアミン基との水素結合によって凝集力が向上し、吸湿膨潤抑制や樹脂層(被膜)強度が向上する。シラノール変性では、無機層と反応し、無機層の形成が緻密になりガスバリア性が向上する。また、ポリビニルアルコールの変性は、ポリビニルアルコール系樹脂の結晶化や架橋を促進し、吸湿膨潤抑制や樹脂層(被膜)強度の向上が期待される。
【0037】
・樹脂層の層厚、形成方法
樹脂層の総厚は、固形分厚として10~300nmが好ましい。樹脂層(A)の厚みは、5~200nmが好ましく、15~100nmがより好ましい。樹脂層(B)の厚みは、30~200nmが好ましく、50~150nmがより好ましい。樹脂層(A)がポリエチレンイミン100質量%で構成される場合は、ポリ乳酸系生分解性フィルムとの密着性の点で、厚みが薄いほど好ましい。
【0038】
樹脂層は、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール系樹脂を各々水性液で用意し、所定の固形分質量組成比、および固形分厚みになるように配合し、塗布および乾燥を行い、形成できる。その際、ポリ乳酸系生分解性フィルムの樹脂層を形成する面に、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射、アルカリ処理等の表面処理を施してもよく、例えば、コロナ処理によりポリ乳酸系生分解性フィルム表面の濡れ指数を40以上にするとよい。
塗布方法は、例えば、グラビアコート、グラビアリバースコート、キスリバースグラビアコート、スピンコート、ディップコート、バーコート等の公知の方法を用いることができる。
乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、輻射熱乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射など熱をかける方法を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
(無機層)
本発明のガスバリア性フィルムは、樹脂層を介して無機層を形成することで、水蒸気、酸素ガス等のガスの透過を抑制することができる。
無機層の組成は、ガスバリア性を有する他は特に制限はなく、例えば、無機物、無機酸化物、無機窒化物、無機酸化窒化物が挙げられ、具体的には、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム等、およびそれらの混合物を挙げることができる。また、無機層にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンを含有させて、ガスバリア性を向上させてもよい。
また、無機層は1層でもよく複数層でもよい。
【0040】
本発明のガスバリア性フィルムの無機層の厚みは、1~500nmが好ましく、5~100nmがより好ましく、10~50nmが更に好ましい。無機層が複数の場合は、それらの合計厚である。
本発明のガスバリア性フィルムは、ポリ乳酸系生分解性フィルム上に、好適な樹脂層を介して無機層を形成しているので、無機層の厚みが薄い場合でも良好なガスバリア性を発現することができる。
無機層の層厚は、ガスバリア性フィルムの断面超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡で観測できる。
【0041】
無機層の形成(成膜)は、例えば、真空加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相蒸着(PVD)法、化学気相蒸着(CVD)法などの公知の方法を用いることができる。PVD法、CVD法に、プラズマアシストを組み合わせてもよい。無機層が複数層の場合は、複数の無機層成膜法を用いてもよい。
ガスバリア性の点ではPVD法が好ましく、例えば、SiOx(1.0<x≦2.0)で表される酸化ケイ素からなる無機層を形成することが好ましい。SiOxのxの値が小さいとガスバリア性が高まり、xの値が大きいと無色透明性が良好となり、両者のバランスの点で、1.5≦x≦2.0が好ましい。SiOxの組成の制御は、使用する原料の配合組成、反応ガス種、真空度、蒸着速度により調整可能であり、SiOxの組成は、X線光電子分光法(XPS)等により分析できる。
【0042】
PVD法にプラズマアシストを組み合わせる場合は、真空蒸着中に、プラズマにより蒸着物質をイオン化ながら蒸着する、或いは別に設けたイオン源から気体イオンを照射する。プラズマアシストによって、無機層内に酸素原子を効率的に取り込むことができるので、無機層のガスバリア性を低下させずに透明性を向上させることができる。また、プラズマアシストにより蒸着物質にエネルギーを付与できるため、緻密な無機層を形成できる。また、プラズマ中の励起種は反応性に富むため、酸素、窒素、アセチレン等のガス導入による蒸発物質の酸化、窒化、炭化等を容易に制御できる。
従って、SiOx、AlOx等の無機酸化物の場合、PVD法のみで得た無機層に比べ、プラズマアシストを組み合わせると、xの値が同じでも緻密な膜構造となりガスバリア性を向上させることができる。
【0043】
(樹脂層(C))
本発明のガスバリア性フィルムは、無機層の保護やガスバリア性向上を目的として、無機層の表面に樹脂層(C)を設けることができる。
樹脂層(C)には、例えば、特に制限はないが、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂などの樹脂、エチレンイミン、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アルコキシシランなどの架橋剤を用いることができる。
【0044】
樹脂層(C)の厚みは、特に制限は無いが、固形分厚として10~1000nmが好ましく、50~500nmがより好ましい。
樹脂層(C)の形成は、グラビアコート、グラビアリバースコート、キスリバースグラビアコート、スピンコート、バーコート、ダイコート等の公知の塗布方法を用いることができる。
乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、輻射熱乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射など熱をかける方法を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0045】
(層間密着性)
ポリ乳酸系生分解性フィルムは、表面活性が低いため、従来技術では無機層との密着性を維持できなかったが、本発明のガスバリア性フィルムは、上述の特定の樹脂層を介することで無機層の密着を維持できる。
例えば、本発明のガスバリア性フィルムの無機層面と、未延伸ポリプロピレンフィルムのコロナ処理面とを対向させ、ドライラミネート用ウレタン系接着剤を介してドライラミネートした積層フィルムについて、15mm幅の試験片を作製し、引張試験機を用い試験速度300mm/分、剥離角度180度の条件で剥離試験した剥離強度は、高いほど望ましく、5g/15mm以上が好ましく、10g/15mm以上がより好ましく、30g/15mm以上が更に好ましい。
【0046】
(ガスバリア性)
本発明のガスバリア性フィルムは、上述の通り、樹脂層にポリエチレンイミンを含有することにより、ポリ乳酸系生分解性フィルムとの密着を維持し、またポリビニルアルコール系樹脂の吸湿膨張を抑制するため、高温湿下であっても高いガスバリア性を有する。
例えば、40℃相対湿度90%において、水蒸気透過率(WVTR)3.5g/m/day以下が好ましく、3.0g/m/day以下がより好ましく、2.8g/m/day以下が更に好ましく、2.0g/m/day以下が特に好ましい。
また、本発明のガスバリア性フィルムの酸素透過率(OTR)は、25℃相対湿度80%において、1.2cc/m/day/atm以下が好ましく、1.0cc/m/day/atm以下がより好ましく、0.8cc/m/day/atm以下が更に好ましい。
【0047】
(表面粗さ)
本発明のガスバリア性フィルムは、ガスバリア性を良好にする観点から、無機層の表面におけるクラックの形成が抑制されていることが好ましく、その点から、無機層形成後の3次元表面粗さ(Sa)は、20nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましい。
また、上記したように本発明のガスバリア性フィルムでは、樹脂層を構成するポリビニルアルコール系樹脂の吸湿膨潤が抑制されているので、樹脂層の吸湿膨張によって無機層にクラックが発生することが抑制されており、無機層形成後に40℃相対湿度90%の雰囲気下で1時間調湿したガスバリア性フィルムの無機層の表面粗さと、上記無機層形成後の表面粗さとの差(ΔSa)は、12nm未満が好ましく、10nm以下がより好ましく、8nm以下がさらに好ましい。表面粗さの差(ΔSa)が小さいことは、樹脂層の吸湿膨張によって無機層にクラックが発生することが抑制されていることを意味する。
【0048】
<包装体>
本発明のガスバリア性フィルムは、他のフィルムと積層するなどして、包装体を作製することができる。他のフィルムとしては、例えば、ポリオレフィン系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、アクリル系フィルム等が挙げられ、ドライラミネート等の公知の方法で積層することができる。
包装体の形態は、特に制限はないが、袋体、チューブ、蓋材、底材などが挙げられ、食品、医薬医療品、電子部品、工業部品などを収容する包装に用いることができ、水蒸気や酸素ガス等の透過を抑制できるので、収容物の腐食腐敗を防ぎ長期間保管を可能とする。
【実施例0049】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
次に示す原材料を用いて、実施例および比較例のガスバリア性フィルムを作製した。
<原材料>
(ポリ乳酸生分解性フィルム)
質量平均分子量20万のポリL-乳酸(島津製作所製ラクティ1012)を60mmφ単軸押出機でTダイ押出した後、キャストロールで急冷して未延伸シートを得た。次いで、未延伸シートを70℃で2.5倍縦延伸し、続いて2.5倍横延伸をした後、120℃で30 秒熱固定処理を行い、厚み20μmの二軸延伸ポリ乳酸生分解性フィルムを得た。得られたフィルムの面配向度ΔPは14.8×10-3、(ΔHm-ΔHc)は45J/g、{(ΔHm-ΔHc)/ΔHm}は0.90であった。
【0050】
(樹脂層)
PEI-1; ポリエチレンイミン、数平均分子量70,000、アミン価18mmol/g・solid、アミン基モル比[1級アミン25%、2級アミン50%、3級アミン25%]
PVA-1; ポリビニルアルコール、ケン化度80mol%、重合度500
PVA-2; ポリビニルアルコール、ケン化度88mol%、重合度500
PVA-3; ポリビニルアルコール、ケン化度98mol%、重合度500
PVA-4; ポリビニルアルコール、ケン化度99mol%、重合度450
【0051】
<ガスバリア性フィルムの作製>
(実施例1~8)
二軸延伸ポリ乳酸生分解性フィルムの片面にコロナ処理を行い、濡れ指数40以上としたコロナ処理面に、樹脂層(A)の水性塗布液をバーコーターで塗布し、80℃1分間送風乾燥させ、樹脂層(A)を形成した。続けて、樹脂層(A)の面に、樹脂層(B)の水性塗布液をバーコーターで塗布し、80℃1分送風乾燥させ、樹脂層(B)を形成した。樹脂層(A)、樹脂層(B)の水性塗布液は、表1に示す樹脂層の固形分組成比および固形分厚となるように配合して用いた。
次いで、二軸延伸ポリ乳酸生分解性フィルムの樹脂層(B)の面に、真空加熱蒸着装置を使用して真空度2×10-3Paの条件下で酸化ケイ素SiOx(x=1.5)、30nm厚の無機層を形成し、ガスバリア性フィルムを得た。
【0052】
(実施例9~11、比較例1~4)
実施例1において、樹脂層(B)を形成せずに、二軸延伸ポリ乳酸生分解性フィルムの樹脂層(A)の面に無機層を形成した他は同様にして、ガスバリア性フィルムを作製した。
樹脂層(A)の水性塗布液は、表2に示す樹脂層の固形分組成比および固形分厚となるように配合して用いた。
【0053】
<積層フィルムの作製>
未延伸ポリプロピレンフィルム60μm厚のコロナ処理面に、ドライラミネート用ポリウレタン系接着剤を固形分厚3μmとなるように塗布、乾燥し、実施例、比較例で得られたガスバリア性フィルムの無機層面とを対向させ、両フィルムの流れ方向(M.D.)を合わせてドライラミネートし、40℃、72時間エージングして積層フィルムを得た。
ドライラミネート用接着剤には、東洋モートン製AD900とCAT-RT85を10:1.5の質量比で配合した、2液硬化型ポリウレタン接着剤を用いた。
作製した積層フィルムは、下記の剥離強度の測定に使用した。
【0054】
<評価>
実施例、比較例で得られたガスバリア性フィルムおよび積層フィルムについて、以下の評価を行い、表1、表2、表3に纏めた。
(水蒸気透過率)
水蒸気透過率測定装置(Technolox社製DELTAPERM)を用い、得られた積層フィルムについて、未延伸ポリプロピレンフィルム側を検出器側、ポリ乳酸生分解性フィルム側を水蒸気暴露側の向きにセットし、40℃相対湿度90%の条件下で水蒸気透過率(WVTR、単位:g/m/day)を測定した。
【0055】
(酸素透過率)
JIS K 7126B法に準じ、酸素透過率測定装置(MOCON社製OX-TRAN 2/21型)を用い、得られた積層フィルムについて、25℃相対湿度80%の条件下で酸素透過率(OTR、単位:cc/m/day/atm)を測定した。
【0056】
(剥離強度)
得られた積層フィルムを幅15mmの短冊状に切り出し、一方の端部を一部剥がし、ガスバリア性フィルムと未延伸ポリプロピレンフィルムとを引張試験機(オリエンテック製STA-1150)のチャックに取り付けて、試験速度300mm/min、剥離角度180度の条件で剥離させ、剥離強度(単位:g/15mm)を測定した。
【0057】
(表面粗さ)
無機層形成後のガスバリア性フィルムと、40℃相対湿度90%の雰囲気下で1時間調湿したガスバリア性フィルムの無機層面の表面粗さについて、走査型白色干渉顕微鏡(日立ハイテクサイエンス製VertScan)を用い、対物レンズ倍率5倍、測定面積948.76μm×711.61μmの条件で、3次元表面粗さSa(単位:nm)を解析した。また、無機層形成後と調湿後との3次元表面粗さの差ΔSa(単位:nm)を算出した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
実施例1~8は、樹脂層(A)がポリエチレンイミン(PEI-1)100質量%、樹脂層(B)がポリビニルアルコール(PVA-1、-2、-3、-4)100質量%であり、40℃相対湿度90%条件の水蒸気透過率が3.0g/m/day以下、25℃相対湿度80%条件の酸素透過率が1.0cc/m/day/atm以下とガスバリア性が良好であった。また、剥離強度は10g/15mm以上を有し、樹脂層(A)の層厚が25nmの実施例1~4は30g/15mm以上であった。
【0062】
実施例9~11は、樹脂層がポリエチレンイミン(PEI-1)とポリビニルアルコール(PVA-4)とを含有する樹脂層(A)1層であり、40℃相対湿度90%条件の水蒸気透過率が2.0g/m/day以下、25℃相対湿度80%条件の酸素透過率が0.8cc/m/day/atm以下とガスバリア性が良好で、剥離強度は30g/15mm以上を有した。
【0063】
比較例1~3は、樹脂層がポリビニルアルコール(PVA-1、-2、-4)のみで構成される樹脂層(A)1層からなり、水蒸気透過率、酸素透過率ともに値が高くガスバリア性は不十分であり、剥離強度は5g/15mm未満であった。この結果から、樹脂層がポリビニルアルコールのみで構成されると、ポリ乳酸系生分解性フィルムと樹脂層との密着が不十分であり、ガスバリア性が得られないことが判る。
比較例4は、樹脂層がポリエチレンイミン(PEI-1)のみで構成される樹脂層(A)1層からなり、剥離強度は110g/15mmと層間密着性は高かったが、ポリエチレンイミンは、耐熱性が低いため真空加熱蒸着時の熱負荷により樹脂層が変形し、均一な無機層が形成されずガスバリア性が得られなかった。
【0064】
また、樹脂層がポリビニルアルコール(PVA-1、-2、-4)のみからなる比較例1~3は、調湿前後の無機層表面の表面粗さ変化が12nm以上と大きかった。これは、樹脂層のポリビニルアルコールの吸湿膨張により無機層にクラックが発生したためである。一例として、図1に、比較例1の調湿後の無機層表面の3次元像を示す。多数の直線状の箇所がクラックである。
一方、樹脂層(A)がポリエチレンイミン、樹脂層(B)がポリビニルアルコールからなる実施例1、2、4、及び、ポリエチレンイミンとポリビニルアルコールを含有する樹脂層(A)からなる実施例9~11は、調湿前後の無機層表面の表面粗さ変化は8nm以下と小さく、樹脂層にポリエチレンイミンとポリビニルアルコールとを含むと、高温湿条件下でもポリビニルアルコールの膨張を抑制できたことが判る。一例として、図2に実施例1の調湿後の無機層表面の3次元像を示す。クラックは観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のガスバリア性フィルムは、基材フィルムにポリ乳酸系生分解性フィルムを用いているので環境負荷の低減に役立ち、また、無機層との密着性を有し、高温湿下であっても高いガスバリア性を発現するため、本発明のガスバリア性フィルムを包装体に用いた際に、収容物の腐食腐敗を防ぎ長期保管を可能とし得る。
図1
図2