(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161370
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】銀微粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20221014BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20221014BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20221014BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20221014BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F1/02 B
B22F9/24 E
H01B1/00 F
H01B13/00 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066124
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】福家 翼
(72)【発明者】
【氏名】樋之津 崇
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA02
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017EJ01
4K017FB07
4K017FB11
4K018BA01
4K018BB05
4K018BC29
4K018BC30
4K018BD04
4K018BD10
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】粒子径のバラツキが少なくシャープな粒度分布を有し、かつ親油性溶媒中での分散性を良好に維持することが可能な銀微粒子を提供する。
【解決手段】炭素数6以上の脂肪族アミン、例えばオクチルアミンを粒子表面に有し、円相当径での平均粒子径が70nm以上150nm以下であり、粒子径の変動係数が20%以下である銀微粒子。この銀微粒子は、還元剤の濃度が0.8モル当量/kg以下である溶液中に、銀を溶液1kg当たり0.4mmol/s以下の添加速度で添加する第1還元工程と、その反応液に還元剤を新たに追加したのち、銀を溶液1kg当たり0.4mmol/s以下の添加速度で添加する第2還元工程と、を含む還元過程によって合成することができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6以上の脂肪族アミンを粒子表面に有し、円相当径での平均粒子径が70nm以上150nm以下であり、粒子径の変動係数が20%以下である銀微粒子。
【請求項2】
前記脂肪族アミンがオクチルアミンである、請求項1に記載の銀微粒子。
【請求項3】
前記粒子径の変動係数が15%以下である、請求項1または2に記載の銀微粒子。
【請求項4】
水系溶媒中に炭素数6以上の脂肪族アミンおよび還元剤が混合されており、前記還元剤の濃度が0.8モル当量/kg以下である溶液A(1)に、銀化合物が溶解している溶液B(1)を、下記X(1)に示す条件で添加することにより、銀を液中に還元析出させて銀の結晶核形成を伴いながら銀微粒子を生成させる第1還元工程と、
水系溶媒中に前記第1還元工程で得られた銀微粒子が懸濁しており、炭素数6以上の脂肪族アミンが混合されており、かつ第1還元工程終了後に新たに混合された還元剤を含む溶液A(2)に、銀化合物が溶解している溶液B(2)を、下記X(2)に示す条件で添加することにより、銀を液中の銀微粒子の表面に還元析出させて銀微粒子を成長させる第2還元工程と、
を含む銀微粒子の製造方法。
ここで、Nモル当量(Nは数値。)は、1価の銀イオンNモルを金属銀に還元する反応に必要である還元剤の化学量論的なモル数を意味する。
X(1):溶液A(1)中への溶液B(1)による銀の平均添加速度を、溶液B(1)添加開始直前の溶液A(1)1kg当たりの換算で0.4mmol/s以下とする。
X(2):溶液A(2)中への溶液B(2)による銀の平均添加速度を、溶液B(2)添加開始直前の溶液A(2)1kg当たりの換算で0.4mmol/s以下とする。
【請求項5】
前記第1還元工程において溶液B(1)により添加する銀量を、第1還元工程および第2還元工程で溶液B(1)および溶液B(2)により添加する銀の総量に対して2%以上50%以下とする、請求項4に記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記炭素数6以上の脂肪族アミンがオクチルアミンである、請求項4または5に記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記第1還元工程および第2還元工程で使用する還元剤がいずれもヒドラジンである、請求項4~6のいずれか1項に記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記溶液A(1)として、炭素数6以上の脂肪族アミンおよび還元剤の他に、更にアルカリ金属水酸化物が混合されているものを使用する、請求項4~7のいずれか1項に記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記溶液A(2)として、炭素数6以上の脂肪族アミンおよび第1還元工程終了後に新たに混合された還元剤の他に、更に第1還元工程終了後に新たに混合された塩基性物質を含むものを使用する、請求項4~8のいずれか1項に記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記塩基性物質がアンモニアおよびアミンから選ばれる1種以上である、請求項9に記載の銀微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合用銀ペーストや導電ペーストなどの素材として有用な銀微粒子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、円相当径での平均粒子径が粒子径が200nm程度以下の銀粒子(silver partilce(s))を、特に銀微粒子(silver fine partilce(s))と呼ぶ。
【0003】
従来、電子部品の微細な電極や回路などを形成するために、銀微粒子を分散媒中に分散させた導電性インクや、銀微粒子をバインダー樹脂および溶剤と混合してペースト状にした導電性ペーストを、基板上に塗布した後、100~200℃程度の低温で加熱して焼成することによって、銀微粒子同士を焼結させて銀導電膜を形成することが知られている。
このような導電性インクや導電性ペーストに使用する銀微粒子は、非常に活性が高く、低温でも焼結が進み易く、そのままでは粒子として不安定である。そのため、銀微粒子同士の焼結や凝集を防止して、銀微粒子の独立性や保存安定性を確保するために、銀微粒子の表面を有機化合物からなる有機保護剤で被覆して溶媒中に分散させた銀微粒子分散液として保存する手法が知られている。
導電性インクや導電性ペーストを基板上に塗布し、その上に半導体素子を載置したり、あるいは回路パターン形状に印刷したりした後に焼成すると、融着接合現象により素子が基板に接着され、また金属粒子が焼結したり、バインダーが硬化収縮して金属粒子同士が接触したりすることにより、回路が形成される。
電子部品の微細な電極や回路等の形成のためにスクリーン印刷を利用する場合、銀ペーストには高沸点で親油性の溶媒を用いるのが一般的である。
【0004】
特許文献1には、このような導電性インクや導電性ペーストに用いる銀微粒子の製造方法として、溶媒としての水に有機保護剤として炭素数6以上の脂肪族アミンを添加するとともに、還元剤および銀化合物を添加する銀微粒子の製造方法(請求項1)、および有機保護剤としての脂肪族アミンと還元剤とを混合した水溶液中に銀化合物を添加する、銀微粒子の製造方法(請求項7)が開示されている。このような製造方法により、平均一次粒子径が10~500nmの銀粒子を得ることができるという(請求項6)。また、実施例においては有機保護剤としてのオクチルアミンと還元剤としてのヒドラジン水和物とを溶解させた水溶液に銀化合物としての硝酸銀水溶液を一挙添加する製造方法が開示されている(段落0022)。
【0005】
特許文献2には、分散剤である水溶性カルボキシメチルセルロースとしてエーテル化度が所定の範囲であるものを用いることで、平均粒子径が10~100nmであり、粒子径の粒度分布として、平均粒子径×(1±0.1)の粒子が70個数%以上である銀ナノ粒子を得る製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-070264号公報
【特許文献2】特開2016-020532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に開示されるような銀微粒子を用いて接合用銀ペーストを製造する場合、銀微粒子を想定した温度で焼結させるために、銀微粒子の溶融温度はバラツキがなく一定の温度であることが望ましい。ここで、銀微粒子の溶融温度を一定にするには、銀微粒子の粒子径を一定にして粒度分布をできるだけ狭くすることが好ましい。しかしながら、特許文献1の製造方法で得られる銀微粒子はその粒度分布が広いという問題点がある。
【0008】
この問題点について、特許文献2の水溶性カルボキシメチルセルロースを分散剤として用いる製法により得られる銀微粒子は粒度分布が狭いことから、銀微粒子の溶融温度のバラツキについては改善効果があると考えられる。しかしながら、得られた銀微粒子は分散剤として水溶性カルボキシメチルセルロースを用いているため、スクリーン印刷用銀ペーストの溶剤として用いられるメトキシエチルアセテート等のアセテート系溶媒やエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒等の親油性溶媒中での分散性が悪く、銀微粒子が凝集してしまうという問題点がある。ここで、親油性溶媒中での分散性は、銀微粒子の表面に存在する有機保護剤として、親油性の化合物を用いることにより向上させることが可能であると考えられる。特許文献2の技術では親油性の有機保護剤を適用することは難しい。
【0009】
本発明は、粒子径のバラツキが少なくシャープな粒度分布を有し、かつ親油性溶媒中での分散性を良好に維持することが可能な銀微粒子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の特許文献1に代表される水溶媒を用いた銀粒子の還元析出手法では、短時間で還元反応を終了させるために、銀化合物の全量を還元剤と一挙に混合する操作が行われていた。発明者らは、一挙に混合するのではなく、銀化合物と還元剤の混合速度を制御すること、および銀の結晶核形成を伴う還元過程では液中に存在させておく還元剤の濃度を低く抑えることにより、得られる銀微粒子の粒子径バラツキを顕著に低減することが可能になり、かつ得られる銀微粒子の平均粒子径の制御もしやすくなることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0011】
上記目的を達成するための手段として、本明細書では以下の発明を開示する。
[1]炭素数6以上の脂肪族アミンを粒子表面に有し、SEM(走査型電子顕微鏡)観察により測定される円相当径での平均粒子径が70nm以上150nm以下であり、粒子径の変動係数が20%以下である銀微粒子。
[2]前記脂肪族アミンがオクチルアミンである、上記[1]に記載の銀微粒子。
[3]前記粒子径の変動係数が15%以下である、上記[1]または[2]に記載の銀微粒子。
[4]水系溶媒中に炭素数6以上の脂肪族アミンおよび還元剤が混合されており、前記還元剤の濃度が0.8モル当量/kg以下である溶液A(1)に、銀化合物が溶解している溶液B(1)を、下記X(1)に示す条件で添加することにより、銀を液中に還元析出させて銀の結晶核形成を伴いながら銀微粒子を生成させる第1還元工程と、
水系溶媒中に前記第1還元工程で得られた銀微粒子が懸濁しており、炭素数6以上の脂肪族アミンが混合されており、かつ第1還元工程終了後に新たに混合された還元剤を含む溶液A(2)に、銀化合物が溶解している溶液B(2)を、下記X(2)に示す条件で添加することにより、銀を液中の銀微粒子の表面に還元析出させて銀微粒子を成長させる第2還元工程と、
を含む銀微粒子の製造方法。
ここで、Nモル当量(Nは数値。)は、1価の銀イオンNモルを金属銀に還元する反応に必要である還元剤の化学量論的なモル数を意味する。
X(1):溶液A(1)中への溶液B(1)による銀の平均添加速度を、溶液B(1)添加開始直前の溶液A(1)1kg当たりの換算で0.4mmol/s以下とする。
X(2):溶液A(2)中への溶液B(2)による銀の平均添加速度を、溶液B(2)添加開始直前の溶液A(2)1kg当たりの換算で0.4mmol/s以下とする。
[5]前記第1還元工程において溶液B(1)により添加する銀量を、第1還元工程および第2還元工程で溶液B(1)および溶液B(2)により添加する銀の総量に対して2%以上50%以下とする、上記[4]に記載の銀微粒子の製造方法。
[6]前記炭素数6以上の脂肪族アミンがオクチルアミンである、上記[4]または[5]に記載の銀微粒子の製造方法。
[7]前記第1還元工程および第2還元工程で使用する還元剤がいずれもヒドラジンである、上記[4]~[6]のいずれかに記載の銀微粒子の製造方法。
[8]前記溶液A(1)として、炭素数6以上の脂肪族アミンおよび還元剤の他に、更にアルカリ金属水酸化物が混合されているものを使用する、上記[4]~[7]のいずれかに記載の銀微粒子の製造方法。
[9]前記溶液A(2)として、炭素数6以上の脂肪族アミンおよび第1還元工程終了後に新たに混合された還元剤の他に、更に第1還元工程終了後に新たに混合された塩基性物質を含むものを使用する、上記[4]~[8]のいずれかに記載の銀微粒子の製造方法。
[10]前記塩基性物質がアンモニアおよびアミンから選ばれる1種以上である、上記[9]に記載の銀微粒子の製造方法。
【0012】
ここで粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)により観察される画像に基づく円相当径を採用することができる。以下、この平均粒子径を「SEM平均粒子径」と言うことがある。
粒子径の変動係数(%)は次式で表される。
変動係数(%)=100×[粒子径(nm)の分布の標準偏差σ]/[平均粒子径(nm)]
還元剤の液中濃度を表す「モル当量/kg」における「モル当量」は、1価の銀イオン1モルを金属銀に還元するのに必要である還元剤の化学量論的なモル数である。例えばヒドラジンの場合、1モル当量はヒドラジン0.25モルに相当する。
銀微粒子の粒度分布は以下のようにして測定することができる。
【0013】
(銀微粒子の粒度分布の測定方法)
銀微粒子のサンプルをSEM(走査型電子顕微鏡)により観察し、無作為に選択した視野についてのSEM画像において、粒子の輪郭の全体が把握できる全ての粒子を測定対象粒子とし、各測定対象粒子について画像上での粒子の輪郭線によって囲まれる領域の面積を測定し、その面積に等しい円の直径を当該粒子の円相当径とする。この円相当径の測定を、測定対象粒子の総数が100個以上となるように、無作為に選んだ1つまたは複数の視野についてのSEM画像で行い、全測定対象粒子の円相当径のデータについての粒度分布(ヒストグラム)を求める。平均粒子径は、全測定対象粒子の円相当径の相加平均値を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粒子径のバラツキが少なくシャープな粒度分布を有し、かつ親油性を有する有機保護剤が付着している銀微粒子を提供することが可能となった。特許文献1に代表される従来の技術で採用されていた、銀化合物を還元剤溶液に短時間で一挙に添加する手法と比べ、本明細書に開示する製造方法では銀化合物の添加所要時間は長くなる。しかし、反応容器の規模が同容量である場合、本発明の手法によれば1バッチの処理で投入可能な銀化合物の量を大幅に増やすことも可能となるので、結果的に生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】実施例10で得られた銀微粒子のSEM写真。
【
図6】実施例2で得られた銀微粒子について粒子径のヒストグラム。
【
図7】比較例3で得られた銀微粒子について粒子径のヒストグラム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[銀微粒子]
本発明の銀微粒子は、その金属銀の粒子の表面に、有機保護剤として炭素数6以上の脂肪族アミンを有し、円相当径での平均粒子径が70nm以上150nm以下であり、粒子径の変動係数が20%以下と小さい。
【0017】
[脂肪族アミン]
脂肪族アミンは、アミノ基の存在によって銀粒子に吸着しやすいため、銀微粒子を合成する際の有機保護剤として好適である。また、有機保護剤は合成された銀微粒子の表面に付着し、銀微粒子の懸濁液中や銀ペーストの基材中での凝集を防いで分散性を担う。ここで、脂肪族アミン中のアミノ基は銀微粒子表面に存在すると考えられる親水性の官能基と結合し、銀微粒子の分散安定性に寄与しているものと考えられる。
【0018】
1分子中の炭素数が6以上の脂肪族アミンは適度な親油性を有することから、親油性の溶剤を用いた銀ペーストにおける銀粒子の分散性を確保するためにも有効である。より具体的には、メトキシエチルアセテート等のアセテート系溶媒およびエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒等の親油性有機溶媒を用いて、スクリーン印刷用銀ペーストを製造した際にも、銀微粒子の分散性が良好となり、銀微粒子が凝集する問題を回避できる。本発明の銀微粒子において脂肪族アミンの炭素数の上限は特に限定されないが、炭素数が過大になると脂肪族アミンの沸点が上昇するので、銀微粒子を銀ペーストに用いた際に銀微粒子を焼結させるための加熱温度を高める必要が生じうる。銀微粒子は本来、低温焼結性を呈するメリットを有している。そのメリットを重視する場合は、脂肪族アミンの炭素数は18以下とすることが好ましい。
【0019】
脂肪族アミンとしては、親油性溶媒中での分散性を十分に確保する観点から、第1級アミンかつ1つのアミノ基を有する脂肪族アミンであることが好ましく、オクチルアミン、ヘキシルアミンおよびオレイルアミンから選ばれる1種以上を用いることがさらに好ましい。オクチルアミン(CH3(CH2)7NH2)を用いることが特に好ましい。このような分子量の小さい脂肪族アミンは、例えば特許文献2において分散剤として用いられる水溶性カルボキシメチルセルロースよりも沸点が低い。沸点が低い有機保護剤(分散剤)は、銀微粒子を焼結させるための加熱工程で揮発しやすいため、より低温焼結に適するという長所を有する。
【0020】
[平均粒子径]
本発明の銀微粒子は、銀ペースト中での分散安定性を十分に確保する観点からSEM平均粒子径を70nm以上とし、低温焼結性を十分に確保する観点からSEM平均粒子径を150nm以下とする。
【0021】
[粒子径の変動係数]
本発明の銀微粒子は、SEM観察により測定される円相当径での粒子径の変動係数(以下、単に「粒子径の変動係数」と言うことがある。)が20%以下であることを特徴とする。そのようなシャープな粒度分布を有する銀微粒子を接合用銀ペーストに用いることで、銀粒子の焼結を利用した金属接合層や導電体におけるボイドの形成をより一層安定して抑制することができる。また銀微粒子の銀微粒子の溶融温度のバラツキを低減することができる。銀微粒子の溶融温度バラツキを低減することにより、ペースト中の銀微粒子を所定の温度で場所的に均等に焼結させることができ、焼結むらを抑止する効果が大きくなる。粒子径の変動係数は15%以下であることがより好ましい。粒子径の変動係数は小さいほど好ましく、下限については制限する必要はないが、銀微粒子の製造性等を考慮して例えば5%以上の範囲に管理してもよい。
【0022】
[銀微粒子の製造方法]
粒子径の変動係数が小さい銀微粒子を製造する手法として、ここでは、水系溶媒中で銀を還元析出させる製造プロセスにおいて、銀の結晶核形成を伴う第1還元工程と、既に生成している銀微粒子の表面に銀を還元析出させることによる銀微粒子の成長をメインとする第2還元工程とを有する、製造技術を開示する。
【0023】
[第1還元工程]
[溶液A(1)]
まず、水系溶媒中に脂肪族アミンおよび還元剤を混合させた混合液を用意する。この液に後述の溶液B(1)を添加することにより、液中で銀の還元析出反応を進行させる。本明細書では、第1還元工程において溶液B(1)の添加を受け入れる側の、脂肪族アミンと還元剤が混合されている液を「溶液A(1)」と呼ぶ。溶液B(1)の添加を開始する直前の溶液A(1)を「初期の溶液A(1)」と言うことがある。溶液B(1)の添加を開始した後の溶液A(1)は、反応液(中で還元反応を進行させる液)を指すことになる。
【0024】
水系溶媒とは、水を主成分とする液状媒体である。初期の溶液A(1)において、水系溶媒を純水のみで構成することができるが、本発明の効果(得られる銀粒子の粒度分布のシャープ化)を妨げない範囲で、水と、例えばアルコールやその他の液状有機媒体との、混合溶媒とすることもできる。混合溶媒の場合、液状媒体に占める水の質量割合を70%以上とすることが好ましい。溶液A(1)の水系溶媒中には脂肪族アミンと還元剤の他、更にアルカリ金属水酸化物を含有させることができる。
【0025】
本発明では、有機保護剤として1分子中の炭素数が6以上の脂肪族アミンを使用する。有機保護剤は、液中で還元析出した微細な銀粒子の周囲に付着して、水系溶媒中での銀微粒子の凝集を防ぎ、分散性を確保する役割を有する。上述したように、炭素数が6以上の脂肪族アミンは適度な親油性を有することから、親油性の基材を用いた銀ペーストにおける銀粒子の分散性を確保するためにも有効である。銀微粒子に特有の低温焼結性のメリットを十分に発揮させる観点から、脂肪族アミンの炭素数は18以下とすることがより好ましい。具体的には、上述のようにオクチルアミン、ヘキシルアミンおよびオレイルアミンから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。オクチルアミン(CH3(CH2)7NH2)を用いることが特に好ましい。
【0026】
炭素数が6以上である脂肪族アミンは一般に水に難溶性である。そのような脂肪族アミンを使用する場合は、初期の溶液A(1)の調製に際して十分に撹拌を行うことにより、脂肪族アミン分子の一部を水系溶媒中に溶解させるとともに、溶解しきれない大部分の脂肪族アミン分子を液中に均一に懸濁させる。初期の溶液A(1)中に混合しておく前記脂肪族アミンのモル数を、溶液B(1)および後工程で溶液B(2)により添加される銀の総モル数に対し0.05~6倍のモル比とすることが好ましく、0.05~2倍のモル比とすることがより好ましい。初期の溶液A(1)中における脂肪族アミンの含有量は、例えば溶液A(1)1kg当たり脂肪族アミン0.4~43gの範囲で調整すればよい。
【0027】
発明者らの研究によれば、粒子径のバラツキが小さい銀微粒子を生成させるためには、予め有機保護剤と還元剤が共存する溶液を用意しておき、銀化合物のゆっくりとした添加を待ち受けることが極めて有効である。したがって、本発明では初期の溶液A(1)として、有機保護剤である脂肪族アミンと還元剤とが水系溶媒中で混合されている液を用意する。
【0028】
還元剤としては、銀化合物によって供給される銀イオンを金属銀に還元することができる種々のものが適用対象となるが、塩基性の還元剤を適用することがより好ましい。例えばヒドラジン(N2H4)や、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)が好適であり、ヒドラジンが特に好適である。還元剤は溶液A(1)の調製において水系溶媒中に完全に溶解させておくことが望ましい。
【0029】
銀の結晶核の形成を伴う第1還元工程では、初期の溶液A(1)に混合しておく還元剤の濃度を、初期の溶液A(1)1kg当たり0.8モル当量以下とすることが極めて効果的である。ここで、1モル当量は、銀イオン1モルを金属銀に還元するのに必要な還元剤量を意味する。例えば、銀化合物が硝酸銀(I)であり、還元剤がヒドラジンである場合には、銀イオン1モルを金属銀に還元するのに必要なヒドラジンの量は0.25モルであるため、銀に対して1モル当量のヒドラジンとは、銀に対するモル比で0.25倍量のヒドラジンを指す。したがって、ヒドラジンを使用する場合、初期の溶液A(1)に混合しておくヒドラジンの濃度を初期の溶液A(1)1kg当たり0.8モル当量以下とするためには、初期の溶液A(1)中のヒドラジン濃度を0.2mol/kg以下とすればよい。初期の溶液A(1)に混合しておく還元剤の濃度を上記のように少なく制限することによって、後述のゆっくりとした銀添加速度に制御することとの相乗作用により、単位時間当たりに発生する結晶核の数が抑制される効果が得られるものと推察され、第1還元工程で生成する銀微粒子の粒子径のバラツキを小さくすることができる。それによって、第2還元工程で最終的に得られる銀微粒子の粒子径のバラツキを小さくすることができる。初期の溶液A(1)に混合しておく還元剤の濃度を、初期の溶液A(1)1kg当たり0.2モル当量以下とすることが、より好ましい。なお、生産性を考慮すると、初期の溶液A(1)に混合しておく還元剤の濃度を、初期の溶液A(1)1kg当たり0.001モル当量以上とすることが好ましく、0.02モル当量以上とすることがより好ましい。ヒドラジンを使用する場合であれば、初期の溶液A(1)に混合しておくヒドラジンの濃度を、初期の溶液A(1)1kg当たり0.004mol以上とすることが好ましく、0.08mol以上とすることがより好ましい。
【0030】
初期の溶液A(1)に含有させる還元剤の総量は、溶液B(1)により添加される銀の総量に対し、1~4倍当量の範囲とすることが好ましい。ここで、還元剤n倍当量(nは数値。)は、次式、n×[還元対象である1価の銀イオンの総量(mol)を金属銀に還元するために必要な還元剤の化学量論的な量(mol)]、により算出される還元剤の量を意味する。
【0031】
粒子径のバラツキが小さい銀微粒子を生成させるためには、溶液A(1)にアルカリ金属水酸化物を含有させておくことが有利となる。アルカリ金属水酸化物としては、コストおよび入手容易性の観点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種以上を採用することが好ましい。種々検討の結果、初期の溶液A(1)のpHを11.5以上とするために必要な量のアルカリ金属水酸化物を含有させておくことが効果的である。そのメカニズムについては未解明であるが、アルカリ金属水酸化物を用いてpHを上記以上に高めた場合には、銀の結晶核の発生が抑制されることによる効果が得られやすくなるのではないかと推察される。特に反応液の温度が45℃以下の場合には、溶液A(1)にアルカリ金属水酸化物を含有させて初期の溶液AのpHを11.5以上としておくことによる効果が大きい。アルカリ金属水酸化物の含有量は、例えば溶液A(1)中の還元剤含有量に対するモル比が0.10以上1.0以下となる範囲で調整すればよい。銀化合物の添加に伴って、アルカリ金属水酸化物の補給を適時行ってもよいが、発明者らのこれまでの知見では、初期の溶液A(1)のpHを上記の範囲に調整しておくだけでも、高い効果が得られる。なお、第1還元工程ではpH調整剤としてアンモニアを使用することは好ましくない。アンモニアは銀と錯体を形成するので、銀の結晶核形成を阻害する場合がある。
【0032】
ここで、本明細書に記載のpHの値は、JIS Z8802に基づき、ガラス電極を用いて測定されており、pH標準液として測定するpH領域に応じた適切な緩衝液を用いて校正したpH計により測定されたものである。また、本明細書に記載のpHは、温度補償電極により補償されたpH計の示す測定値を、測定対象液の液温の条件下で直接読み取った値である。難水溶性のアミンを使用した懸濁液では、液の温度が例えば50℃以上であるような場合には、その温度でpHを測定すると測定値が安定しないことがあるので、その場合には溶液A(1)から分取したサンプル液について40℃以下に冷却した後に測定したpH値で、溶液A(1)のpHを評価してもよい。
【0033】
[溶液B(1)]
銀イオンを上記の溶液A(1)へ導入するための液として、水系溶媒中に銀化合物が溶解している水溶液を用意する。この液を本明細書では「溶液B(1)」と呼んでいる。銀化合物は水系溶媒中に溶解して銀イオン供給源として機能するものであれば特に限定されないが、コストおよび取扱い容易性の観点から硝酸銀(AgNO3)が好適である。溶液B(1)の水系溶媒は純水のみで構成してもよいし、本発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて、水と、例えばアルコールやその他の液状有機媒体との混合溶媒としてもよい。溶液B(1)中における銀化合物の濃度は、例えば銀のモル数換算で0.3~3mol/kgの範囲とすればよい。
【0034】
[溶液A(1)への銀の添加]
反応容器中で撹拌している上記溶液A(1)(有機保護剤と還元剤の混合溶液)の中に、上記溶液B(1)(銀化合物溶液)をゆっくりと少しずつ添加することにより、溶液A(1)中で銀の還元析出反応を進行させる。発明者らの研究によれば、溶液B(1)による銀の平均添加速度を、溶液B(1)添加開始直前の溶液A(1)1kg当たりの換算で0.4mmol/s以下とすることが、第1還元工程で得られる銀微粒子の粒度分布をシャープにするために極めて効果的である。ここで「溶液A(1)1kg当たり」の換算は、初期の溶液A(1)の質量(溶媒と溶質の総質量)を基準に行う。上記の平均添加速度は、溶液A(1)1kg当たりの換算で0.01~0.4mmol/sの範囲で設定することがより好ましい。
【0035】
溶液B(1)の溶液A(1)中への添加方法は、連続的であってもよいし、断続的(例えば一定のインターバルでの注入など)であってもよい。溶液B(1)の添加は、ポンプ等の機器で行ってもよいし、手動で行ってもよい。ポンプとしては、液の送給速度を制御できるものであれば特に制限はなく、例えばインバーターにより回転数制御を行う工業用の各種ポンプ、チューブポンプ、ダイヤフラムポンプ等を使用することができる。いずれの添加方法であっても、例えば1分間隔で計測した添加量の各1分間平均(添加終了直前の1分に満たない時間区分においてはその時間での平均)が、溶液B(1)添加開始直前の溶液A(1)1kg当たりの換算で0.4mmol/s以下となるように、できるだけ一定の供給速度とすることがより好ましい。
【0036】
また、溶液B(1)の添加開始から添加終了までのすべての時点での前1秒間における銀の1秒間平均添加速度を、溶液B(1)添加開始直前の溶液A(1)1kg当たりの換算で2.0ミリモル/秒以下に維持することがより効果的である。ここで、ある時点での「前1秒間における銀の1秒間平均添加速度」は、例えば添加開始12.3秒経過時点であれば、添加開始11.3秒から12.3秒までの1秒間に添加された銀の量(ミリモル)が「前1秒間における銀の1秒間平均添加速度(ミリモル/秒)」に相当する。添加開始からの経過時間が1秒以内である時点については、その時点までに添加された銀の量(ミリモル)を「前1秒間における銀の1秒間平均添加速度(ミリモル/秒)」とみなす。
【0037】
溶液B(1)による銀の添加を上記のようにゆっくりと少しずつ行うことによって粒子径のバラツキが少ない銀微粒子が生成するのは、単位時間当たりに発生する結晶核の数が抑制されることに起因する効果であると推測される。溶液B(1)による銀の平均添加速度を、溶液B(1)添加開始直前の溶液A(1)1kg当たりの換算で0.4mmol/s以下に維持したときに、銀の結晶核の単位時間当たりの発生数をコントロールする作用が有効に発揮されるものと考えられる。溶液B(1)による銀の平均添加速度を、溶液B(1)添加開始直前の溶液A(1)1kg当たりの換算で0.2mmol/s以下とすることがより好ましく、0.1mmol/s以下とすることが更に好ましい。また、溶液B(1)による銀の添加開始から添加終了までの時間は1分以上を確保することが望ましく、通常、60分以下の範囲で設定すればよい。
【0038】
溶液A(1)に溶液B(1)を添加する際には、溶液A(1)を撹拌状態にしておく。溶液B(1)の添加を終了した後も撹拌を例えば1分以上継続することが好ましい。銀の還元析出反応を進行させる際の溶液A(1)(すなわち反応液)の温度は、その液の融点以上沸点以下の範囲で設定する必要があるが、通常、30~80℃の範囲で好適条件を見出すことができる。得られる銀粒子の粒子径をできるだけ均一化させる観点から、反応開始から終了まで一定の液温に維持することがより効果的である。
【0039】
この第1還元工程は新たな銀の結晶核を液中に逐次形成させることを主たる役割とする。銀の結晶核が形成すると、その結晶核の近くに存在する銀イオンが結晶核の周囲に析出して、固体である微細な銀粒子が生成する。第1還元工程では、円相当径による平均粒子径が10~70nm程度の銀微粒子が合成されるように銀の添加量を設定することが好ましい。その銀微粒子を所望のサイズに成長させる還元過程は第2還元工程となる。したがって、第1還元工程で還元析出させる銀の量は、第2還元工程終了までに還元析出させる銀の総量に対して、僅かな割合であって構わない。発明者らの検討によると、第1還元工程において溶液B(1)により添加する銀量を、第1還元工程および第2還元工程で溶液B(1)および溶液B(2)により添加する銀の総量に対して2%以上50%以下とすることが好ましい。
【0040】
[第2還元工程]
[溶液A(2)]
水系溶媒中に前記第1還元工程で得られた銀微粒子が懸濁しており、炭素数6以上の脂肪族アミンが混合されている液を用意する。通常、第1還元工程を終えた状態の反応液を、その反応容器中で、そのまま第2還元工程に供することが効率的である。第2還元工程では、第1還元工程終了後に新たに混合された還元剤を含む溶液A(2)に、銀化合物が溶解している溶液B(2)を添加することにより、液中で銀の還元析出反応を進行させる。ここで、第2還元工程において溶液B(2)の添加を受け入れる側の、前記第1還元工程で得られた銀微粒子と第1還元工程終了後に新たに混合された還元剤を含む液を「溶液A(2)」と呼ぶ。溶液B(2)の添加を開始する直前の溶液A(2)を「初期の溶液A(2)」と言うことがある。溶液B(2)の添加を開始した後の溶液A(2)は、第2還元工程における反応液(中で還元反応を進行させる液)を指すことになる。「第1還元工程終了後」とは、「溶液B(1)により溶液A(1)中に導入された銀イオンが、溶液A(1)中の還元剤によって金属銀に還元される反応」が終了した後であることを意味する。
【0041】
第1還元工程を終えた状態の反応液を引き続き第2還元工程に使用する場合は、液の撹拌を継続しながら、その反応液に還元剤を混合し、液中に還元剤を溶解させ、溶液A(2)を得る。第1還元工程で得られた銀微粒子を一旦回収した後に第2還元工程を行う場合には、水系溶媒中に第1還元工程で得られた銀微粒子を懸濁させるとともに、炭素数6以上の脂肪族アミンおよび還元剤を混合して、溶液A(2)を得る。その場合、溶液A(2)の量は懸濁させる銀微粒子の含有量が例えば0.04~4.0質量%程度の範囲となるように設定すればよい。その水系溶媒としては、本発明の効果(得られる銀粒子の粒度分布のシャープ化)を妨げない範囲で、水と、例えばアルコールやその他の液状有機媒体との、混合溶媒とすることもできる。混合溶媒の場合、液状媒体に占める水の質量割合を70%以上とすることが好ましい。溶液A(2)の水系溶媒中には、更に第1還元工程終了後に新たに混合された塩基性物質を含有させることができる。塩基性物質は、純水(pH=7)に溶解させたときに塩基性を呈する物質である。
【0042】
初期の溶液A(2)中には、上述の初期の溶液A(1)と同様、炭素数6以上の脂肪族アミンを含有させておく。炭素数6以上の脂肪族アミンは成長過程にある銀粒子の液中分散性を確保するための有機保護剤として機能する他、pHの変動を抑制する緩衝剤としても機能する。第1還元工程を終えた反応液を初期の溶液A(2)として使用する場合には、その反応液中に炭素数6以上の脂肪族アミンが既に混合されているので、初期の溶液A(2)を調製する段階で炭素数6以上の脂肪族アミンを新たに追加で投入する必要はない。ただし、後述するように、pH調整のために新たに混合する塩基性物質として炭素数6以上の脂肪族アミンを選択することは可能である。初期の溶液A(2)中に含有させる炭素数6以上の脂肪族アミンの含有量は、初期の溶液A(2)1kg当たり例えば0.03~1.0molの範囲とすることが好ましい。第1還元工程を終えた反応液を初期の溶液A(2)として使用する場合、通常、その反応液中に存在する炭素数6以上の脂肪族アミンによって上記好ましい範囲の含有量を賄うことができる。ここで、初期の溶液A(2)1kg当たりの炭素数6以上の脂肪族アミン含有量には、液中に懸濁している銀微粒子の表面に付着して存在している炭素数6以上の脂肪族アミンも含まれる。
【0043】
還元剤としては、第1還元工程と同じ物質または異なる物質を使用することができる。第1還元工程と同様に、塩基性の還元剤を適用することがより好ましい。例えばヒドラジン(N2H4)や、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)が好適であり、ヒドラジンが特に好適である。第1還元工程では、銀結晶核の形成を抑制する観点から、還元剤の液中濃度を初期の溶液A(1)1kg当たり0.8モル当量以下に制限した。しかし、そのような低濃度での還元剤含有量では、銀微粒子をSEM平均粒子径70nm以上のサイズにまで生産性良く成長させることが難しい。そこで、第2還元工程では、新たに還元剤を追加した溶液A(2)中で銀微粒子の成長(サイズアップ)を目的とする還元反応を進行させる。
【0044】
第1還元工程を終えた状態の反応液中には、通常、未反応の還元剤が残存していると考えられる。その残存還元剤の量は、溶液A(1)に混合された還元剤の量と溶液B(1)により溶液A(1)へ導入された銀イオンの量に依存する。第1還元工程を終えた状態の反応液を引き続き第2還元工程に使用する場合は、上記の残存還元剤も第2還元工程での還元反応に利用することができる。この場合、第2還元工程の溶液A(2)中に新たに追加して含有させる還元剤の量r(2)は、下記[1]式を満たすように設定すればよい。
s(1)+s(2) ≦ n(1)×r(1) + n(2)×r(2) …[1]
ここで、
s(1)は、溶液B(1)によって溶液A(1)中へ添加した銀のモル数、
s(2)は、溶液B(2)によって溶液A(2)中へ添加する銀のモル数、
r(1)は、溶液A(1)中に含有させた還元剤のモル数、
r(2)は、溶液A(2)中に新たに追加する還元剤のモル数、
n(1)は、溶液A(1)に含有させた還元剤1モルにより金属銀に還元することが化学量論的に可能な1価の銀イオンのモル数、
n(2)は、溶液A(2)に新たに追加する還元剤1モルにより金属銀に還元することが化学量論的に可能な1価の銀イオンのモル数、
である。
なお、溶液A(1)中に含有させた還元剤と溶液A(2)中に新たに追加する還元剤がいずれもヒドラジンである場合、n(1)=n(2)=4である。
【0045】
第2還元工程においては、初期の溶液A(2)(すなわち溶液B(2)添加開始直前の溶液A(2))の中に、第1還元工程終了後に追加で添加する還元剤の量の一部が混合されていれば、その初期の混合量が溶液B(2)添加初期に溶液A(2)中へ導入される銀イオンを還元するに足る量である限り、第2還元工程での還元反応進行中に残りの必要分の還元剤を断続的あるいは分割して添加することもできる。しかし、操業の安定性を考慮すると、第1還元工程終了後に追加で添加する還元剤の全量、すなわち上記r(2)に相当する量の還元剤を、予め初期の溶液A(2)中に混合して十分に溶解させておくことが好ましい。第1還元工程終了後に追加で添加する還元剤の全量を予め初期の溶液A(2)中に混合しておく場合、懸濁している銀微粒子の質量を含む初期の溶液A(2)1kg当たりの還元剤の含有量は0.4モル当量/kg以上とすることが好ましく、0.6~2.0モル当量/kgの範囲とすることがより好ましい。
【0046】
銀の還元反応が進行すると、液のpHは酸性側に傾く。銀の還元速度は液のpHに依存し、塩基性領域で高い還元速度が得られる。銀微粒子の成長を担う第2還元工程では、還元反応の速さが生産性に及ぼす影響が大きくなるので、還元反応進行中の溶液A(2)のpHを塩基性に保つよう、塩基性物質を添加することが望ましい。第2還元工程では、塩基性物質として、アンモニアおよびアミンから選ばれる1種以上を使用することが好ましい。これらの物質は緩衝作用を有するので、pH調整剤としての添加量の許容範囲が広がり、反応槽内のpH分布が均等化された安定した操業に寄与できる。塩基性物質として使用するアミンとしては、オクチルアミン、ヘキシルアミン、オレイルアミン、メチルアミン等の脂肪族アミンが好適である。溶液A(2)に添加する塩基性物質の量は、還元反応中の液のpHが8.0~12.0の範囲に保持される量とすることが好ましい。還元反応中に適時添加することもできるが、安定した還元反応を進行させて粒子径のバラツキが小さい銀微粒子を得る観点から、初期の溶液A(2)中に予め塩基性物質の全量を混合しておくことが好ましい。例えば、第2還元工程の還元剤がヒドラジンである場合の塩基性物質の量は、還元される1価の銀イオン1モルに対し、アンモニアの場合1.5~8モルの範囲で使用することが好ましく、オクチルアミンの場合0.5~2モルの範囲で使用することが好ましい。なお、初期の溶液A(2)中には上述の通り、炭素数6以上の脂肪族アミンが混合されている。その炭素数6以上の脂肪族アミンと同種の物質を、上記の塩基性物質として使用しても構わない。ただし、ここでいう塩基性物質は、第1還元工程終了後に溶液A(2)中へ新たに混合されるものを指す。
【0047】
[溶液B(2)]
銀イオンを上記の溶液A(2)へ導入するための液として、水系溶媒中に銀化合物が溶解している水溶液を用意する。この液を本明細書では「溶液B(2)」と呼んでいる。溶液B(2)に使用する銀化合物、溶媒、および銀濃度についての説明は、上述した溶液B(1)の場合と同様であるので省略する。所定のタンクに予め収容してある銀化合物溶液を、第1還元工程では溶液B(1)として使用し、第2還元工程では溶液B(2)として使用することができる。
【0048】
[溶液A(2)への銀の添加]
反応容器中で撹拌している上記溶液A(2)(新たに追加で混合された還元剤を含有する銀微粒子の懸濁液)の中に、上記溶液B(2)(銀化合物溶液)をゆっくりと少しずつ添加することにより、溶液A(2)中で銀の還元析出反応を進行させる。その添加速度は、第1還元工程の場合と同様、溶液B(2)による銀の平均添加速度を、溶液B(2)添加開始直前の溶液A(2)1kg当たりの換算で0.4mmol/s以下とすることが、第2還元工程で得られる銀微粒子の粒度分布をシャープにするために極めて効果的である。ここで「溶液A(2)1kg当たり」の換算は、初期の溶液A(2)の質量(溶媒と溶質、および液中に懸濁している銀微粒子の総質量)を基準に行う。前記平均添加速度は、溶液A(2)1kg当たりの換算で0.01~0.4mmol/sの範囲で設定することがより好ましい。
【0049】
溶液B(2)の溶液A(2)中への添加方法は、第1還元工程と同様に、連続的であってもよいし、断続的(例えば一定のインターバルでの注入など)であってもよい。溶液B(2)の添加は、ポンプ等の機器で行ってもよいし、手動で行ってもよい。いずれの添加方法であっても、例えば1分間隔で計測した添加量の各1分間平均(添加終了直前の1分に満たない時間区分においてはその時間での平均)が、溶液B(2)添加開始直前の溶液A(2)1kg当たりの換算で0.4mmol/s以下となるように、できるだけ一定の供給速度とすることがより好ましい。
【0050】
また、溶液B(2)の添加開始から添加終了までのすべての時点での前1秒間における銀の1秒間平均添加速度を、溶液B(2)添加開始直前の溶液A(2)1kg当たりの換算で2.0ミリモル/秒以下に維持することがより効果的である。この点についても第1還元工程と同様であるので、説明は省略する。
【0051】
溶液B(2)による銀の添加を上記のようにゆっくりと少しずつ行うことによって、不均一な核形成を生じずに、既に生成している粒子径のバラツキが少ない銀微粒子の表面で銀の還元析出が起こり、結果的に粒子径のバラツキが少ない状態を維持しながら銀微粒子を成長させることが可能になるものと推察される。溶液B(2)による銀の平均添加速度を、溶液B(2)添加開始直前の溶液A(2)1kg当たりの換算で0.4mmol/s以下に維持したときに、上記作用が有効に発揮されるものと考えられる。溶液B(2)による銀の平均添加速度を、溶液B(2)添加開始直前の溶液A(2)1kg当たりの換算で0.2mmol/s以下とすることがより好ましい。また、溶液B(2)による銀の添加開始から添加終了までの時間は1分以上を確保することが望ましく、通常、400分以下の範囲で設定すればよい。
【0052】
溶液A(2)に溶液B(2)を添加する際には、溶液A(2)を撹拌状態にしておく。溶液B(2)の添加を終了した後も撹拌を例えば1分以上継続することが好ましい。それにより溶液A(2)に導入された未還元の銀イオンをほぼ完全に還元析出させることができ、銀の歩留り向上にも有利となる。銀の還元析出反応を進行させる際の溶液A(2)(すなわち反応液)の温度は、第1還元工程と同様に、通常、30~80℃の範囲で好適条件を見出すことができる。得られる銀粒子の粒子径をできるだけ均一化させる観点から、反応開始から終了まで一定の液温に維持することがより効果的である。
【0053】
この第2還元工程は、第1還元工程で合成された粒子径の小さい銀微粒子(例えば平均粒子径が10~70nm)をベースとして、銀微粒子のサイズを70~150nmの範囲内の所望の平均粒子径にまで成長させる工程である。第2還元工程によって得られる銀微粒子の平均粒子径は、第2還元工程で添加する銀の総量によってコントロールすることができる。
【0054】
[反応液1kg当たりの生産量]
特許文献1に開示される銀を一挙添加する銀微粒子の製造方法では、反応液1kg当たりから得られる銀微粒子の量は5g程度である。これに対し、本発明に従う銀微粒子の製造方法では第2還元工程終了時の反応液1kg当たりから30g以上の銀微粒子を得ることが可能である。すなわち、本発明により1バッチあたりの銀微粒子の生産量を大幅に増やすことができる。
【実施例0055】
[実施例1]
(第1還元工程)
(初期の溶液A(1)の調製)
5Lの反応槽に溶媒としての純水1343.3gを入れて40℃に調温した後、炭素数6以上の脂肪族アミンとしてのオクチルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製の特級、分子量129.24)115.3gと、還元剤としての80質量%ヒドラジン一水和物水溶液(大塚化学株式会社製)2.4gと、アルカリ金属水酸化物としての50%水酸化ナトリウム水溶液0.6gとを添加し、窒素ガスを1L/minの流量で吹き込みながら、羽根を備えた撹拌棒を外部モーターにより345rpmで回転させて液を撹拌した。この撹拌により有機保護剤の分子を溶媒中に十分に均一に懸濁させるとともに、還元剤およびアルカリ金属水酸化物を溶媒中に十分に溶解させ、初期の溶液A(1)(すなわち後述の溶液B(1)を添加する前の段階にある有機保護剤・還元剤含有溶液)を得た。
【0056】
初期の溶液A(1)中のヒドラジン濃度は0.026mol/kgであり、これは還元剤濃度として0.104モル当量/kgに相当する。初期の溶液A(1)に含有させたオクチルアミンの、第1還元工程での銀の総添加量に対するモル比(対Agモル比)は1.15である。初期の溶液A(1)中に添加したアルカリ金属水酸化物の濃度は0.005mol/kgである。この初期の溶液A(1)(40℃)のpHを測定したところ、11.6であった。
【0057】
(銀化合物水溶液の調製)
銀化合物として硝酸銀結晶(東洋化学工業株式会社製)131.9gを純水287.1gに溶解させ、銀濃度が1.85mol/kgである硝酸銀水溶液419gを得た。この液の一部を第1還元工程で溶液B(1)として使用し、その残りを第2還元工程で溶液B(2)として使用する。
【0058】
(溶液A(1)への溶液B(1)の添加)
反応槽中の溶液A(1)の液温を40℃に維持し、撹拌を継続しながら、この溶液A(1)に、溶液B(1)41.9gを10分かけて添加した。溶液A(1)中への溶液B(1)の導入は、チューブポンプにより一定の流量にコントロールした溶液B(1)を、溶液A(1)に連続的に注入する方法で行った。溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.089mmol/sとなる。この場合、1分間隔で計測した添加量の各1分間平均(以下「1分間平均添加速度」という。)は上記の平均添加速度と同じであり、また、チューブポンプの脈動を考慮しても、溶液B(1)の添加開始から添加終了までのすべての時点での前1秒間における銀の1秒間平均添加速度の最大値は、初期の溶液A(1)1kg当たり2.0mmol/s以下となる(以下の実施例2~13の第1還元工程、比較例3の全還元工程において同様。)。第1還元工程で添加した銀の総量に対する初期の溶液A(1)中の還元剤量は、1.98倍当量であった。
溶液B(1)の添加を終了した後、反応液の液温を上記の温度に維持したまま撹拌を更に2分間継続し、第1還元工程を終了した。このようにして、微細な銀微粒子が懸濁している反応液を得た。第1還元工程での初期の溶液A(1)、溶液B(1)、反応条件を表1に示す(以下の各例において同じ。)。
【0059】
(第2還元工程)
(初期の溶液A(2)の調製)
銀微粒子が懸濁している第1還元工程で得られた反応液を撹拌しながら、その反応液中へ、追加の還元剤として80質量%ヒドラジン一水和物水溶液(大塚化学株式会社製)21.9gと、塩基性化合物として26.1質量%アンモニア水溶液202.2gとを添加して混合し、初期の溶液A(2)を得た。初期の溶液A(2)1kgに占める、初期の溶液A(2)中の新たに追加した還元剤の量(初期の溶液A(1)に添加した還元剤を含まない。以下「追加還元剤濃度」という。)は0.81モル当量/kgに相当する。初期の溶液A(2)中に新たに混合させた塩基性物質の濃度は1.80mol/kgである。なお、表2中には初期の溶液A(2)中に新たに混合させた塩基性物質を「追加の塩基性物質」と記載してある。この初期の溶液A(2)(40℃)のpHを測定したところ、11.2であった。
【0060】
(溶液A(2)への溶液B(2)の添加)
反応槽中の溶液A(2)の液温を40℃に維持し、撹拌を継続しながら、この溶液A(2)に、溶液B(2)として上記の銀化合物水溶液の残り全量377.1gを90分かけて添加した。溶液A(2)中への溶液B(2)の導入は、チューブポンプにより一定の流量にコントロールした溶液B(2)を、溶液A(2)に連続的に注入する方法で行った。溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.075mmol/sとなる。この場合、1分間平均添加速度は上記の平均添加速度と同じであり、また、チューブポンプの脈動を考慮しても、溶液B(2)の添加開始から添加終了までのすべての時点での前1秒間における銀の1秒間平均添加速度の最大値は、初期の溶液A(2)1kg当たり2.0mmol/s以下となる(以下の実施例2~13の第2還元工程において同様。)。第2還元工程で添加した銀の総量に対する初期の溶液A(2)中の還元剤量は、2.00倍当量であった。
溶液B(2)の添加を終了した後、反応液の液温を上記の温度に維持したまま撹拌を更に2分間継続した。このようにして、銀微粒子が懸濁している反応液を得た。第2還元工程での初期の溶液A(2)、溶液B(2)、反応条件を表2に示す(以下の各例において同じ。)。
【0061】
(得られた銀微粒子の評価)
(銀微粒子の粒度分布)
第2還元工程で得られた反応液をカーボンテープ上に塗布してSEM観察用のサンプルを作製した。そのサンプルをSEM(走査型電子顕微鏡、日本電子株式会社製、SM-7200)により倍率80,000倍で観察し、上掲の「銀微粒子の粒度分布の測定方法」に従い粒子径の分布(粒度分布)を求めた。粒子径の測定には、画像解析ソフトウェア(旭化成エンジニアリング株式会社製、A像くん(登録商標))を用いた(後述する各例においても同様。)。その結果、本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は97.1nm、変動係数は12.5%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は161個であった。
図1に、本例で得られた銀微粒子のSEM写真を例示する。写真下部の中央付近少し右寄りに示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。
【0062】
(反応液1kg当たりの生産量)
第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は39.8gと算出された。ここで、添加された銀イオンの還元反応は終了しているため、添加された銀イオンがすべて銀微粒子になっているものとして生産量を算出した(以下の各例において同様。)。
これらの結果を表3に示す(以下の各例において同じ。)。
【0063】
[実施例2]
銀化合物水溶液の調製において、硝酸銀結晶237.5gを純水1272.2gに溶解させ、銀濃度が0.93mol/kgである硝酸銀水溶液を作製し、これを溶液B(1)および溶液B(2)として使用したこと、第1還元工程で溶液A(1)へ溶液B(1)83.9gを添加したこと、および第2還元工程で溶液A(2)へ溶液B(2)1425.8gを170分かけて添加したことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0064】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.089mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.073mmol/sとなる。
【0065】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は124.0nm、変動係数は12.6%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は245個であった。
図2に、本例で得られた銀微粒子のSEM写真を例示する。写真下部の中央付近少し右寄りに示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は47.2gと算出された。
【0066】
[実施例3]
第2還元工程において、初期の溶液A(2)に含有させた80質量%ヒドラジン一水和物水溶液の量を41.3gとしたことを除き、実施例2と同様の条件で実験を行った。
【0067】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.089mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.073mmol/sとなる。
【0068】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は128.4nm、変動係数は13.9%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は234個であった。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は46.9gと算出された。
【0069】
[実施例4]
第1還元工程において、初期の溶液A(1)に含有させた50%水酸化ナトリウム水溶液の量を1.9gとしたこと、および第2還元工程において、初期の溶液A(2)に含有させた80質量%ヒドラジン一水和物水溶液の量を41.3gとしたことを除き、実施例2と同様の条件で実験を行った。
【0070】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.089mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.073mmol/sとなる。
【0071】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は90.3nm、変動係数は11.4%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は385個であった。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は46.9gと算出された。
【0072】
[実施例5]
(第1還元工程)
(初期の溶液A(1)の調製)
5Lの反応槽に溶媒としての純水2149.2gを入れて40℃に調温した後、炭素数6以上の脂肪族アミンとしてのオクチルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製の特級、分子量129.24)40.1gと、還元剤としての80質量%ヒドラジン一水和物水溶液(大塚化学株式会社製)3.9gと、アルカリ金属水酸化物としての50%水酸化ナトリウム水溶液1.0gとを添加し、窒素ガスを1L/minの流量で吹き込みながら、羽根を備えた撹拌棒を外部モーターにより345rpmで回転させて液を撹拌した。この撹拌により有機保護剤の分子を溶媒中に十分に均一に懸濁させるとともに、還元剤およびアルカリ金属水酸化物を溶媒中に十分に溶解させ、初期の溶液A(1)を得た。
【0073】
初期の溶液A(1)中のヒドラジン濃度は0.028mol/kgであり、これは還元剤濃度として0.112モル当量/kgに相当する。初期の溶液A(1)に含有させたオクチルアミンの、第1還元工程での銀の総添加量に対するモル比(対Agモル比)は1.15である。初期の溶液A(1)中に添加したアルカリ金属水酸化物の濃度は0.006mol/kgである。
【0074】
(銀化合物水溶液の調製)
銀化合物として硝酸銀結晶(東洋化学工業株式会社製)211.1gを純水459.2gに溶解させ、銀濃度が1.85mol/kgである硝酸銀水溶液670.3gを得た。この液の一部を第1還元工程で溶液B(1)として使用し、その残りを第2還元工程で溶液B(2)として使用する。
【0075】
(溶液A(1)への溶液B(1)の添加)
反応槽中の溶液A(1)の液温を40℃に維持し、撹拌を継続しながら、この溶液A(1)に、溶液B(1)67.0gを10分かけて添加した。溶液A(1)中への溶液B(1)の導入は、チューブポンプにより一定の流量にコントロールした溶液B(1)を、溶液A(1)に連続的に注入する方法で行った。溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.094mmol/sとなる。第1還元工程で添加した銀の総量に対する初期の溶液A(1)中の還元剤量は、2.01倍当量であった。
このようにして、微細な銀微粒子が懸濁している反応液を得た。
【0076】
(第2還元工程)
(初期の溶液A(2)の調製)
銀微粒子が懸濁している第1還元工程で得られた反応液を撹拌しながら、その反応液中へ、追加の還元剤として80質量%ヒドラジン一水和物水溶液(大塚化学株式会社製)35.0gと、塩基性化合物として26.1質量%アンモニア水溶液323.5gとを添加して混合し、初期の溶液A(2)を得た。初期の溶液A(2)1kgあたりの追加還元剤濃度は0.85モル当量/kgに相当する。初期の溶液A(2)中に新たに混合させた塩基性物質の濃度は1.90mol/kgである。
【0077】
(溶液A(2)への溶液B(2)の添加)
反応槽中の溶液A(2)の液温を40℃に維持し、撹拌を継続しながら、この溶液A(2)に、溶液B(2)として上記の銀化合物水溶液の残り全量603.3gを90分かけて添加した。溶液A(2)中への溶液B(2)の導入は、チューブポンプにより一定の流量にコントロールした溶液B(2)を、溶液A(2)に連続的に注入する方法で行った。溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.079mmol/sとなる。第2還元工程で添加した銀の総量に対する初期の溶液A(2)中の還元剤量は、2.00倍当量であった。
溶液B(2)の添加を終了した後、反応液の液温を上記の温度に維持したまま撹拌を更に2分間継続した。このようにして、銀微粒子が懸濁している反応液を得た。
【0078】
(銀微粒子の評価)
第2還元工程で得られた銀微粒子の粒度分布を実施例1に記載した手法で調べた。その結果、本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は104.5nm、変動係数は12.9%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は354個であった。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は41.6gと算出された。
【0079】
[実施例6]
第1還元工程において、初期の溶液A(1)に含有させたオクチルアミンの量を184.5gとしたこと、および第2還元工程において、初期の溶液A(2)に含有させた26.1質量%アンモニア水溶液の量を161.8gとしたことを除き、実施例5と同様の条件で実験を行った。
【0080】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.088mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.079mmol/sとなる。
【0081】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は87.6nm、変動係数は19.4%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は358個であった。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は40.8gと算出された。
【0082】
[実施例7]
第1還元工程において、初期の溶液A(1)に含有させたオクチルアミンの量を184.5gとしたこと、および第2還元工程において、初期の溶液A(2)に含有させた26.1質量%アンモニア水溶液の量を242.6gとしたことを除き、実施例5と同様の条件で実験を行った。
【0083】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.088mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.077mmol/sとなる。
【0084】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は98.2nm、変動係数は13.6%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は349個であった。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は41.8gと算出された。
【0085】
[実施例8]
銀化合物水溶液の調製において、硝酸銀結晶131.9gを純水706.8gに溶解させ、銀濃度が0.93mol/kgである硝酸銀水溶液を作製し、これを溶液B(1)および溶液B(2)として使用したこと、第1還元工程において、初期の溶液A(1)に含有させたオクチルアミンの量を25.6gとし、溶液B(1)の添加量を83.9gとしたこと、および第2還元工程において、初期の溶液A(2)にヒドラジン一水和物とアンモニア水溶液の他に、オクチルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製の特級)90.2gを新たに追加で含有させ、溶液B(2)の添加量を754.8gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0086】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.095mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.073mmol/sとなる。
【0087】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は101.1nm、変動係数は11.0%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は161個であった。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は33.2gと算出された。
【0088】
[実施例9]
銀化合物水溶液の調製において、硝酸銀結晶105.5gを純水565.4gに溶解させ、銀濃度が0.93mol/kgである硝酸銀水溶液を作製し、これを溶液B(1)および溶液B(2)として使用したこと、第1還元工程において、初期の溶液A(1)に含有させたオクチルアミンの量を25.6gとし、溶液B(1)の添加量を83.9gとしたこと、および第2還元工程において、初期の溶液A(2)にアンモニア水溶液を含有させず、オクチルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製の特級)70.2gを新たに追加で含有させ、溶液B(2)の添加量を587.0gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0089】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.095mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.085mmol/sとなる。
【0090】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は78.0nm、変動係数は17.0%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は263個であった。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は31.6gと算出された。
【0091】
[実施例10]
第1還元工程および第2還元工程の反応温度を50℃としたことを除き、実施例5と同様の条件で実験を行った。
【0092】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.094mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.079mmol/sとなる。
【0093】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は95.3nm、変動係数は9.3%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は438個であった。
図3に、本例で得られた銀微粒子のSEM写真を例示する。写真下部の中央付近少し右寄りに示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は41.6gと算出された。
【0094】
[実施例11]
第1還元工程において、初期の溶液A(1)にアルカリ水酸化物を含有させなかったこと、および第1還元工程および第2還元工程の反応温度を50℃としたことを除き、実施例5と同様の条件で実験を行った。
【0095】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.094mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.079mmol/sとなる。
【0096】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は131.4nm、変動係数は13.2%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は228個であった。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は41.6gと算出された。
【0097】
[実施例12]
第1還元工程において、初期の溶液A(1)に含有させたオクチルアミンの量を12.5gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0098】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.095mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.080mmol/sとなる。
【0099】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は102.3nm、変動係数は11.0%であった。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は41.8gと算出された。
【0100】
[実施例13]
第2還元工程において、溶液B(2)を45分かけて溶液A(2)中に添加したことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
【0101】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.089mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.150mmol/sとなる。
【0102】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は92.5nm、変動係数は13.7%であった。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は39.8gと算出された。
【0103】
[比較例1]
2段階の還元工程を採用せず、銀化合物水溶液を一挙添加する従来の手法で銀微粒子を合成した例である。以下、便宜上、その還元工程を第1還元工程として記述する。
(第1還元工程)
(初期の溶液A(1)の調製)
5Lの反応槽に溶媒としての純水3192.5gを入れて40℃に調温した後、オクチルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製の特級、分子量129.24)60.8gと、80質量%ヒドラジン一水和物水溶液(大塚化学株式会社製)5.8gと、50%水酸化ナトリウム水溶液1.5gとを添加し、窒素ガスを1L/minの流量で吹き込みながら、羽根を備えた撹拌棒を外部モーターにより345rpmで回転させて液を撹拌した。この撹拌により有機保護剤の分子を溶媒中に十分に均一に懸濁させるとともに、還元剤およびアルカリ金属水酸化物を溶媒中に十分に溶解させ、初期の溶液A(1)を得た。
【0104】
初期の溶液A(1)中のヒドラジン濃度は0.028mol/kgであり、これは還元剤濃度として0.112モル当量/kgに相当する。初期の溶液A(1)に含有させたオクチルアミンの、還元工程での銀の総添加量に対するモル比(対Agモル比)は2.55である。初期の溶液A(1)中に添加したアルカリ金属水酸化物の濃度は0.006mol/kgである。
【0105】
(銀化合物水溶液の調製)
銀化合物として硝酸銀結晶(東洋化学工業株式会社製)31.4gを純水167.9gに溶解させ、銀濃度が0.93mol/kgである硝酸銀水溶液199.3gを得た。この液の全量を溶液B(1)として使用する。
【0106】
(溶液A(1)への溶液B(1)の添加)
反応槽中の溶液A(1)の液温を40℃に維持し、撹拌を継続しながら、この溶液A(1)に、溶液B(1)199.3gを3秒かけて添加した。その後、反応液の液温を上記の温度に維持したまま撹拌を更に2分間継続した。このようにして、銀微粒子が懸濁している反応液を得た。この還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり18.95mmol/sとなる。
【0107】
(銀微粒子の評価)
上記の還元工程で得られた銀微粒子の粒度分布を実施例1に記載した手法で調べた。その結果、本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は44.4nm、変動係数は22.8%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は606個であった。得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は5.8gと算出された。
【0108】
[比較例2]
2段階の還元工程を採用せず、銀化合物水溶液を一挙添加する従来の手法で、銀微粒子を、アルカリ水酸化物を添加せずに合成した例である。以下、便宜上、その還元工程を第1還元工程として記述する。
(第1還元工程)
(初期の溶液A(1)の調製)
5Lの反応槽に溶媒としての純水3422.0gを入れて40℃に調温した後、オクチルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製の特級、分子量129.24)51.1gと、80質量%ヒドラジン一水和物水溶液(大塚化学株式会社製)15.0gと、50%水酸化ナトリウム水溶液1.5gとを添加し、窒素ガスを1L/minの流量で吹き込みながら、羽根を備えた撹拌棒を外部モーターにより345rpmで回転させて液を撹拌した。この撹拌により有機保護剤の分子を溶媒中に十分に均一に懸濁させるとともに、還元剤およびアルカリ金属水酸化物を溶媒中に十分に溶解させ、初期の溶液A(1)を得た。
【0109】
初期の溶液A(1)中のヒドラジン濃度は0.069mol/kgであり、これは還元剤濃度として0.276モル当量/kgに相当する。初期の溶液A(1)に含有させたオクチルアミンの、還元工程での銀の総添加量に対するモル比(対Agモル比)は2.0である。
【0110】
(銀化合物水溶液の調製)
銀化合物として硝酸銀結晶(東洋化学工業株式会社製)33.6gを純水180.0gに溶解させ、銀濃度が0.93mol/kgである硝酸銀水溶液213.6gを得た。この液の全量を溶液B(1)として使用する。
【0111】
(溶液A(1)への溶液B(1)の添加)
反応槽中の溶液A(1)の液温を40℃に維持し、撹拌を継続しながら、この溶液A(1)に、溶液B(1)213.6gを3秒かけて添加した。その後、反応液の液温を上記の温度に維持したまま撹拌を更に2分間継続した。このようにして、銀微粒子が懸濁している反応液を得た。この還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり18.98mmol/sとなる。
【0112】
(銀微粒子の評価)
上記の還元工程で得られた銀微粒子の粒度分布を実施例1に記載した手法で調べた。その結果、本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は76.6nm、変動係数は34.5%であった。
図4に、本例で得られた銀微粒子のSEM写真を例示する。写真右下に示されるスケールの1目盛が100nmに相当する。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は195個であった。得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は5.8gと算出された。
【0113】
[比較例3]
本例は、第1還元工程の初期の溶液A(1)に全工程での還元反応を賄う量の還元剤を含有させ、第2還元工程の初期の溶液A(2)中には追加の還元剤を含有させなかった実験例である。
【0114】
第1還元工程において、初期の溶液A(1)に含有させたオクチルアミンの量を25.6gとし、80質量%ヒドラジン一水和物水溶液の量を24.3gとしたこと、および第2還元工程において、初期の溶液A(2)に追加のヒドラジンを含有させなかったことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。ここで、初期の溶液A(1)中のヒドラジン濃度は0.279mol/kgであり、これは還元剤濃度として1.116モル当量/kgに相当する。
【0115】
第1還元工程において、溶液B(1)により溶液A(1)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(1)1kg当たり0.093mmol/sとなる。
第2還元工程において、溶液B(2)により溶液A(2)中に添加される銀の平均添加速度は、初期の溶液A(2)1kg当たり0.079mmol/sとなる。
【0116】
本例で得られた銀微粒子の平均粒子径は118.6nm、変動係数は23.2%であった。ここで、粒子径の測定における測定対象粒子の総数は288個であった。
図5に、本例で得られた銀微粒子のSEM写真を例示する。写真下部の中央付近少し右寄りに示される白のスケールバーの長さが100nmに相当する。第2還元工程で得られた反応液1kg当たりの銀微粒子の生産量は41.6gと算出された。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
還元反応を本発明に規定する2段階の工程で進行させ、かつそれぞれの還元工程において銀の添加を本発明に規定する条件でゆっくりと少しずつ行う手法によって、平均粒子径が70nm以上の銀微粒子を合成した各実施例では、粒子径の変動係数が例えば20%以下と小さい、粒子径のバラツキが少ない銀微粒子を安定して得ることができた。平均粒子径が70nm以上の銀微粒子において、粒子径の変動係数が15%以下であるものを合成することも十分に可能であることが判る。また、本発明の製造方法に従えば、銀を一挙添加する従来の手法(例えば比較例1、2)と比べ、1バッチ当たりの銀微粒子生産量を大幅に増加させることが可能であることも確認された。
【0121】
図6に、実施例2で得られた銀微粒子についての粒子径のヒストグラムを例示する。
図7に、比較例3で得られた銀微粒子についての粒子径のヒストグラムを例示する。