IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

特開2022-161530熱硬化性樹脂組成物、その硬化物及びプリプレグ、硬化物又はプリプレグの硬化物を備えた積層板、金属箔張積層板、並びにプリント配線板
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161530
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、その硬化物及びプリプレグ、硬化物又はプリプレグの硬化物を備えた積層板、金属箔張積層板、並びにプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 55/00 20060101AFI20221014BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20221014BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20221014BHJP
   C08F 299/02 20060101ALI20221014BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20221014BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20221014BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C08L55/00
C08L27/18
C08L53/02
C08F299/02
C08J5/24 CEZ
B32B15/08 U
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066425
(22)【出願日】2021-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】白木 真司
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4J002
4J127
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB03
4F072AB09
4F072AB10
4F072AD02
4F072AD05
4F072AD07
4F072AD42
4F072AD52
4F072AE08
4F072AG03
4F072AG19
4F072AH02
4F072AJ04
4F072AJ22
4F072AK02
4F072AK14
4F072AL13
4F100AB01C
4F100AB10C
4F100AB33C
4F100AG00A
4F100AK12B
4F100AK18B
4F100AK25B
4F100AK54B
4F100AK73B
4F100AL02B
4F100AL09B
4F100AT00A
4F100CA18B
4F100DE01B
4F100DH01B
4F100EH46B
4F100EH66C
4F100GB43
4F100JB12B
4F100JB13B
4F100JG01C
4F100JG04B
4J002BD15X
4J002BP01Y
4J002BQ00W
4J002GF00
4J002GQ00
4J127AA03
4J127BB031
4J127BB111
4J127BB161
4J127BC021
4J127BC131
4J127BD231
4J127BE051
4J127BE05Y
4J127BF231
4J127BF23X
4J127BG141
4J127BG14X
4J127DA44
4J127DA49
4J127FA03
4J127FA38
(57)【要約】      (修正有)
【課題】比誘電率及び誘電正接が十分に低く、柔軟性及び靭性が高い樹脂層を短時間に形成できる熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、プリプレグ、積層板、金属箔張積層板、並びにプリント配線板を提供する。
【解決手段】(A)下記一般式(1)で表される重合性ポリフェニレンエーテル化合物、

(B)エラストマー、及び
(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子
を含み、
前記(C)の含有量が、組成物の100質量部に対して、1~30質量部である、熱硬化性樹脂組成物によって達成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される重合性ポリフェニレンエーテル化合物、
【化1】
(一般式(1)において、R及びRは、各々独立に炭素数1~6のアルキル基、アリール基又はハロゲンを表し、a及びbは各々独立に0~4の整数を表し、R及びRは、各々独立に単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を表し、Xは、アリーレン基を表し、Y及びZは重合性官能基を表し、m及びnは、各々独立に1~100の整数を表す)
(B)エラストマー、及び
(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子
を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
前記(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子の含有量が、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に対して、1~30質量部である、
熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物における、一般式(1)のXが下記一般式(2)~(4)のいずれか一つで表される、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物:
【化2】
(一般式(2)~(4)において、R及びRは、各々独立に炭素数1~6のアルキル基、アリール基又はハロゲンを表し、c及びdは各々独立に0~4の整数を表し、e及びfは各々独立に0~3の整数を表す)。
【請求項3】
前記(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物における、一般式(1)の重合性官能基Y及びZが、各々独立にアルケニル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)エラストマーがスチレン系エラストマーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系エラストマーが、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-水添ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-水添イソプレン-スチレンブロック共重合体及びスチレン-水添(イソプレン/ブタジエン)-スチレンブロック共重合体からなる群から選択される、請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)エラストマーの含有量が、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に対して5~40質量部である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子が、下記一般式(5)で表される、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化3】
(一般式(5)において、Rfは炭素数1~5のフッ化アルキル基を表し、p及びqは各々独立に1~100000の整数を表す)
【請求項8】
前記(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子の平均粒子径が、3nm~10μmの範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
更に、(D)フッ素系界面活性剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項11】
基材上に請求項1~9のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物から形成された層を備えた、プリプレグ。
【請求項12】
請求項10に記載の硬化物、又は請求項11に記載のプリプレグの硬化物を備えた、積層板。
【請求項13】
請求項12に記載の積層板の片面又は両面に金属箔を備えた、金属箔張積層板。
【請求項14】
絶縁層及び前記絶縁層の表面に導体層を有し、前記絶縁層が、請求項1~9のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物から形成された層を備えた、プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、その硬化物及びこれを用いたプリプレグ、硬化物又はプリプレグの硬化物を備えた積層板、金属箔張積層板、並びにプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信分野においては、スマートフォンの爆発的な普及などにより通信トラフィックが増大しており、通信に関わる電子機器には、大容量のデータを高速で処理することが求められている。また、情報の多様化に伴う無線機器の増加、又は取り扱われる情報量の増加によってチャンネル数が増加し、それに伴って、無線情報通信に使用する電波の高周波化も進行している。そのため、情報通信に使用される通信部材も高周波化への対応が要求され、通信時の情報伝達における伝送損失を小さくすることが重要になってきている。
【0003】
無線通信において発信された電波が熱変換されることで発生する伝送損失は(式1)によって表される。
【数1】
α : 誘電体の伝送損失
K : 比例定数
f : 周波数
εr : 比誘電率
tanδ : 誘電正接
【0004】
式1から、伝送損失量は比誘電率の平方根と誘電正接との積として表されるため、低損失通信の実現には低誘電特性を示すアンテナ材料が必要となってくる。特に高周波領域での伝送信号は、より熱に変わりやすいという特徴をもっているため、より低誘電特性を示す材料が求められている。
【0005】
従来、基板材料に多く用いられている熱硬化性のエポキシ樹脂や、芳香族テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンとの反応生成物であるポリイミド等は、ネットワーク構造を形成するため、極性基を多く含むことから低誘電化の達成が非常に難しいとされている。
【0006】
一方、低誘電特性を示す樹脂材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を代表とするフッ素樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系の熱可塑樹脂、液晶ポリマーなどの樹脂材料があげられ、寸法安定性や機械的強度のために、必要に応じてガラスクロスなどによって補強された銅張積層板が、アンテナや回路材料として使用されている。これらは良好な誘電特性を有するが、成形性や耐熱性、また金属層との密着性に大きな課題を有している。
【0007】
近年、ポリイミドと、カルボニル基含有基等の接着性官能基を有するフッ素樹脂を主成分とする樹脂材料からなる樹脂パウダーと、液状媒体とを含む樹脂組成物を、基板や金属箔の表面に塗布し、乾燥、硬化させて形成された樹脂層が提案されている(特許文献1及び2)。特許文献1及び2に記載の樹脂層は、比誘電率及び誘電正接がある程度低いものの、特に5G以降の高周波信号の高速伝送に用いられるプリント配線板には、さらなる伝送特性の向上が求められており、比誘電率及び誘電正接がさらに低い材料が求められている。
【0008】
他方、ポリフェニレンエーテル(以下、PPEと記す)を熱硬化変性することにより、電気特性と耐熱性を両立させる設計技術が注目されている。しかしながらPPE単独の硬化膜は柔軟性に難があり、熱硬化後にクラックを生じやすいという問題がある。このためエポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂を共通構造としたネットワークポリマーを形成させる基板設計がなされているが、この場合は比誘電率を一定値以下に低下させることが困難になる。
【0009】
さらに、スチレン系エラストマーは、電気特性(低誘電率・低誘電正接)に優れ、伝送速度の高速化や伝送損失の低減に効果が期待される化合物である。プリント配線基板の高性能化及び多層化のために、このスチレン系エラストマーを絶縁層として用いたプリプレグの積層体をプリント配線基板に適用する試みがなされている(特許文献3~5)。しかし、スチレン系エラストマーは一般に樹脂との相溶性が悪く、薬液処理時にスチレン系エラストマーそのものが剥がれ落ちてしまうという欠点がある。
【0010】
プリント配線板の材料として、これらの材料が組み合わされた様々な樹脂組成物が提案されている。特許文献6には、スチレン系エラストマー、スチレン系オリゴマー、マレイミド化合物及びシアン酸エステル化合物及びポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物、並びに特許文献7には、ポリフェニレンエーテル、エポキシ樹脂、シアン酸エステル化合物、スチレン及び/又は置換スチレンの低重合体並びに無機充填剤を含有する樹脂組成物がそれぞれ提案されているが、いずれも高い伝送特性が得られていない。また、特許文献8には、末端にスチレン基を有しポリフェニレンエーテル骨格を有する熱硬化性樹脂、水添されたスチレン系熱可塑性エラストマー及びポリテトラフルオロエチレンフィラーを含有し、ポリテトラフルオロエチレンフィラーを40質量%以上80質量%以下含有する樹脂組成物が提案されているが、硬化膜が脆く、柔軟性及び靭性などの膜として必要な物理的強度が低いため、プリント配線板への適用には不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2016/017801号
【特許文献2】特開2019-104843号公報
【特許文献3】特許第6167621号公報
【特許文献4】特許第6136348号公報
【特許文献5】特開2011-001411号公報
【特許文献6】国際公開第2019/230943号
【特許文献7】特開2014-240474号公報
【特許文献8】特開2016-89137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の技術では、高周波信号の使用やより高いレベルの高速伝送のための電気・電子機器に用いられるプリント配線板に使用される樹脂材料が得られていなかった。
【0013】
本発明は前記課題を解決すべくなされたものであり、比誘電率及び誘電正接が十分に低く、柔軟性及び靭性が高い樹脂層を比較的短時間に形成できる熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、熱硬化性樹脂組成物から形成された層を備えたプリプレグ、硬化物又はプリプレグの硬化物を備えた積層板、金属箔張積層板、並びにプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題について鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の目的は、(A)下記一般式(1)で表される重合性ポリフェニレンエーテル化合物、
【化1】
(一般式(1)において、R及びRは、各々独立に炭素数1~6のアルキル基、アリール基又はハロゲンを表し、a及びbは各々独立に0~4の整数を表し、R及びRは、各々独立に単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を表し、Xは、アリーレン基を表し、Y及びZは重合性官能基を表し、m及びnは、各々独立に1~100の整数を表す)
(B)エラストマー、及び
(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子
を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子の含有量が、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に対して、1~30質量部である、
熱硬化性樹脂組成物によって達成される。
【0015】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いられる(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物における、一般式(1)のXが下記一般式(2)~(4)のいずれか一つで表されることが好ましい:
【化2】
(一般式(2)~(4)において、R及びRは、各々独立に炭素数1~6のアルキル基、アリール基又はハロゲンを表し、c及びdは各々独立に0~4の整数を表し、e及びfは各々独立に0~3の整数を表す)。
【0016】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いられる(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物における、一般式(1)の重合性官能基Y及びZが、各々独立にアルケニル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選択されることが好ましい。
【0017】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いられる(B)エラストマーがスチレン系エラストマーであることが好ましい。
【0018】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いられるスチレン系エラストマーが、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-水添ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-水添イソプレン-スチレンブロック共重合体及びスチレン-水添(イソプレン/ブタジエン)-スチレンブロック共重合体からなる群から選択されることが好ましい。
【0019】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いられる(B)エラストマーの含有量が、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に対して5~40質量部であることが好ましい。
【0020】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いられる(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子が、下記一般式(5)で表されることが好ましい。
【化3】
(一般式(5)において、Rfは炭素数1~5のフッ化アルキル基を表し、p及びqは各々独立に1~100000の整数を表す)
【0021】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いられる(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子の平均粒子径が、3nm~10μmの範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、更に、(D)フッ素系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0023】
本発明はまた、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物にも関する。
【0024】
本発明はまた、基材上に本発明の熱硬化性樹脂組成物から形成された層を備えた、プリプレグにも関する。
【0025】
本発明はまた、本発明の硬化物又は本発明のプリプレグの硬化物を備えた、積層板にも関する。
【0026】
本発明はまた、本発明の積層板の片面又は両面に金属箔を備えた、金属箔張積層板にも関する。
【0027】
本発明はまた、絶縁層及び絶縁層の表面に導体層を有し、絶縁層が、本発明の熱硬化性樹脂組成物から形成された層を備えた、プリント配線板にも関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、その硬化物が、十分に低い比誘電率及び誘電正接、並びに高い柔軟性及び靭性を有することができる。
【0029】
本発明の硬化物、又は熱硬化性樹脂組成物から形成されたプリプレグの硬化物によれば、十分に低い比誘電率及び誘電正接、並びに高い柔軟性及び靭性を有する積層板又は金属箔張積層板を提供することができる。
【0030】
本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、十分に低い比誘電率及び誘電正接、並びに高い柔軟性及び靭性を有し、加工工程における熱及び化学処理に耐えうるプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[熱硬化性樹脂組成物]
以下、まずは本発明の熱硬化性樹脂組成物について詳細に説明する。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)下記一般式(1)で表される重合性ポリフェニレンエーテル化合物、
【化4】
(一般式(1)において、R及びRは、各々独立に炭素数1~6のアルキル基、アリール基又はハロゲンを表し、a及びbは各々独立に0~4の整数を表し、R及びRは、各々独立に単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を表し、Xは、アリーレン基を表し、Y及びZは重合性官能基を表し、m及びnは、各々独立に1~100の整数を表す)
(B)エラストマー、及び
(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子
を含み、
(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子の含有量が、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に対して、1~30質量部であることを特徴とする。
【0032】
[(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物]
一般式(1)のR及びRは、各々独立に炭素数1~6のアルキル基、アリール基又はハロゲンを表し、好ましくは、炭素数1~6のアルキル基である。炭素数1~6のアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基からなる群から選択されることが好ましく、好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはメチル基である。炭素数1~6のアルキル基は、炭素数1~6のアルコキシ基、アリール基、又はハロゲンで置換されていてもよく、好ましくは置換されていない。炭素数1~6のアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、及びヘキシルオキシ基からなる群から選択されることが好ましい。アリール基は、フェニル基、メチルフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、メトキシフェニル基、ニトロフェニル基、シアノフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、及びピレニル基からなる群から選択されることが好ましい。
【0033】
一般式(1)のa及びbは、各々独立に0~4の整数を表し、好ましくは各々独立に0~3の整数であり、より好ましくは各々独立に1~2の整数であり、最も好ましくは2である。
【0034】
一般式(1)のR及びRは、各々独立に単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を表し、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、及びヘキシレン基からなる群から選択されることが好ましく、メチレン基及びエチレン基からなる群から選択されることがより好ましく、メチレン基が最も好ましい。炭素数1~6のアルキレン基は、炭素数1~6のアルコキシ基、アリール基、又はハロゲンで置換されていてもよく、好ましくは置換されていない。
【0035】
一般式(1)のXはアリーレン基を表し、フェニレン基、メチルフェニレン基、クロロフェニレン基、フルオロフェニレン基、メトキシフェニレン基、ニトロフェニレン基、シアノフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、アントリレン基、フェナントレン基、及びピレニレン基からなる群から選択されることが好ましく、フェニレン基、メチルフェニレン基、ナフチレン基、及びビフェニレン基からなる群から選択されることがより好ましい。アリーレン基は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アリール基、又はハロゲンで置換されていてもよく、好ましくは炭素数1~6のアルキル基で置換されている。
【0036】
一実施形態において、一般式(1)のXが下記一般式(2)~(4)のいずれか一つで表されることが好ましく、より好ましくは一般式(3)である。Xが一般式(2)~(4)のいずれか一つで表される重合性ポリフェニレンエーテル化合物を使用することで、本発明の熱硬化性樹脂組成物は良好な比誘電率及び誘電正接をもたらすことができる。
【化5】
(一般式(2)~(4)において、R及びRは、各々独立に炭素数1~6のアルキル基、アリール基又はハロゲンを表し、c及びdは各々独立に0~4の整数を表し、e及びfは各々独立に0~3の整数を表す)。
【0037】
一般式(2)~(4)のR及びRは、各々独立に炭素数1~6のアルキル基、アリール基又はハロゲンを表し、好ましくは、炭素数1~6のアルキル基である。炭素数1~6のアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基からなる群から選択されることが好ましく、好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはメチル基である。炭素数1~6のアルキル基は、炭素数1~6のアルコキシ基、アリール基、又はハロゲンで置換されていてもよく、好ましくは置換されていない。炭素数1~6のアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、及びヘキシルオキシ基からなる群から選択されることが好ましい。アリール基は、フェニル基、メチルフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、メトキシフェニル基、ニトロフェニル基、シアノフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、及びピレニル基からなる群から選択されることが好ましい。
【0038】
一般式(2)及び(3)のc及びdは各々独立に0~4の整数を表し、好ましくは各々独立に1~3の整数であり、より好ましくは3である。
【0039】
一実施形態において、一般式(1)のY及びZは重合性官能基を表し、各々独立にアルケニル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選択されることが好ましく、より好ましくはアルケニル基である。アルケニル基は、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプタニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基、オクタデセニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、及びシクロヘキセニル基からなる群から選択されることが好ましく、ビニル基がより好ましい。一般式(1)のY及びZが各々独立にアルケニル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選択されることで、熱硬化性樹脂組成物の良好な硬化膜が得られる。
【0040】
一般式(1)のm及びnは、各々独立に1~100の整数を表し、1~10の整数が好ましく、1~5の整数がより好ましい。m及びnが各々独立に1~100の整数を示すことで、熱硬化性樹脂組成物の良好な硬化膜が得られる。
【0041】
一実施形態において、(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物の数平均分子量は、300~4000の範囲が好ましく、500~3000の範囲がより好ましい。数平均分子量が300~4000の範囲であれば、熱硬化性樹脂組成物の良好な硬化膜が得られる。分子量の測定は、特に制限されないが、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィーが用いられ、(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物の数平均分子量は、ポリスチレン標準の較正曲線から算出されてもよい。
【0042】
一実施形態において、(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に対して、30~94質量部であることが好ましく、40~85質量部であることがより好ましく、50~80質量部であることが最も好ましい。(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物が、上記範囲で含まれることで、良好な比誘電率及び静電正接が得られ、熱硬化性樹脂組成物の良好な硬化膜が得られる。
【0043】
[(B)エラストマー]
(B)エラストマーは、(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物と相溶するエラストマーが好ましく、アクリルゴム、シリコーンゴム、エチレン-プロピレンゴム、ポリブタジエン、環状オレフィンコポリマー及びスチレン系エラストマーからなる群から選択されることが好ましい。
【0044】
一実施形態において、(B)エラストマーがスチレン系エラストマーであることが好ましい。スチレン系エラストマーを使用することによって、良好な比誘電率及び誘電正接が得られ、熱硬化性樹脂組成物の良好な硬化物の膜が得られる。
【0045】
一実施形態において、スチレン系エラストマーが、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-水添ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-水添イソプレン-スチレンブロック共重合体及びスチレン-水添(イソプレン/ブタジエン)-スチレンブロック共重合体からなる群から選択されることが好ましく、スチレン-水添ブタジエン-スチレンブロック共重合体が更に好ましい。
【0046】
一実施形態において、(B)エラストマーの含有量が、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に対して5~40質量部であることが好ましく、10~40質量部であることが更に好ましく、15~40質量部であることが最も好ましい。(B)エラストマーの含有量が上記範囲に含まれることで、良好な比誘電率及び誘電正接並びに熱硬化性樹脂組成物の良好な硬化膜が得られる。
【0047】
[(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子]
テトラフルオロエチレン系ポリマーは、テトラフルオロエチレンホモポリマー、テトラフルオロエチレンとエチレンとのコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレンとプロピレンとのコポリマー、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)とのコポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンとフルオロアルキルエチレン(FAE)とのコポリマー、テトラフルオロエチレンとフルオロアルキルフルオロエチレンとのコポリマー及びテトラフルオロエチレンとクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマーからなる群から選択されることが好ましい。
【0048】
一実施形態において、テトラフルオロエチレン系ポリマーは、下記一般式(5)又は(6)で表されることが好ましい。
【化6】
(一般式(5)及び(6)において、Rfは炭素数1~5のフッ化アルキル基を表し、p、q及びrは各々独立に1~100000の整数を表す)
【0049】
一実施形態において、テトラフルオロエチレン系ポリマーは上記一般式(5)で表されることが好ましい。一般式(5)のテトラフルオロエチレン系ポリマー粒子を使用することで、粒子がより良好に分散した熱硬化性樹脂を得ることができる。
【0050】
炭素数1~5のフッ化アルキル基は、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンチル基からなる群から選択されることが好ましく、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、パーフルオロエチル基又はパーフルオロプロピル基がより好ましく、パーフルオロプロピル基が最も好ましい。
【0051】
一実施形態において、(C)テトラフルオロエチエチレン系ポリマー粒子は、粉末状であることが好ましく、任意の溶剤又は水に分散された状態で熱硬化性樹脂組成物に混合される。熱硬化性樹脂組成物中では(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物及び(B)エラストマーのマトリックス中で分散された状態で存在する。
【0052】
一実施形態において、(C)テトラフルオロエチエチレン系ポリマー粒子は、平均粒子径が、3nm~10μmの範囲であることが好ましく、10nm~5μmの範囲であることがより好ましく、20nm~3μmの範囲であることが最も好ましい。(C)テトラフルオロエチエチレン系ポリマー粒子の平均粒子径の測定は、特に制限されないが、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて体積粒度分布を測定し、体積粒度分布における中心粒子径(D50)を平均粒子径とすることができる。
【0053】
(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に対して、1~30質量部であって、2~20質量部であることが好ましく、3~15質量部であることがより好ましい。(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子が、1質量部未満では良好な比誘電率及び誘電正接が得られず、30質量部超では、良好な柔軟性、靭性を有する熱硬化性樹脂組成物の硬化膜が得られない。
【0054】
[(D)フッ素系界面活性剤]
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(D)フッ素系界面活性剤をさらに含むことが好ましい。(D)フッ素系界面活性剤を含むことによって、(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子が安定して熱硬化性樹脂組成物中に分散することができる。(D)フッ素系界面活性剤の種類は、特に限定されないが、フッ素原子を含有するノニオン系界面活性剤が好ましい。本発明の一実施形態によれば、前記フッ素系界面活性剤は、商用品として、DIC(株)製magaface F-444、magaface F-445、magaface F-470、magaface F-477、magaface MCF-350SF、(株)ネオス製フタージェント 710FL、フタージェント 710FM、フタージェント 710FS、フタージェント 730LM、フタージェント 610FM、フタージェント 683、フタージェント 601AD、フタージェント 601ADH2、フタージェント 602A、フタージェント 650AC、フタージェント 681、共栄社化学(株)製FD-420などが用いられる。
【0055】
一実施形態において、(D)フッ素系界面活性剤の含有量は、(C)テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子100質量部に対して、フッ素系界面活性剤の固形分換算で0.01~100質量部であって、0.1~80質量部であることが好ましく、1~60質量部であることがより好ましい。
【0056】
熱硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、溶剤、シランカップリング剤、架橋性化合物、触媒等を添加してもよい。
【0057】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、該組成物を、必要により配合される各種添加剤とともに、例えば固形分濃度が3~90重量%となるように溶剤に溶解し、組成物溶液を調製してもよい。
【0058】
組成物溶液の調製に用いられる溶剤としては、熱硬化性樹脂組成物の成分と混合可能であり、良好な溶解性を有するものであれば特に限定しない。これらの具体的な例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノンなどのケトン、ベンゼン、トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドなどのアミド、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、酢酸メチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ及びブチルセロソルブなどの脂肪族アルコール、酢酸プロピレングリコールメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールエチルエーテル、及び酢酸プロピレングリコールプロピルエーテル等のエーテル、並びに2-ヒドロキシプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、オキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、酢酸3-メチル-3-メトキシブチル、プロピオン酸3-メチル-3-メトキシブチル、ブタン酸3-メチル-3-メトキシブチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、及びピルビン酸エチル等のエステルからなる群を挙げることができ、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0059】
これらの溶剤の中で、乾燥・硬化後の残存溶剤が誘電特性に与える影響を低減するため、沸点が低く、極性の低い溶剤が本発明の組成物に適する。特にトルエン、キシレンが好ましい。
【0060】
[硬化物]
本発明は、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物にも関する。
【0061】
本発明の硬化物は、熱硬化性樹脂組成物に含まれる(A)重合性ポリフェニレンエーテル化合物の重合性官能基X及びYが熱によって重合することにより、得ることができる。硬化は、乾燥機や焼成炉の中で加熱する方法や、比較的小さい基材上であれば、ホットプレート上で加熱してもよい。硬化温度は、特に限定されないが、約80~300℃、好ましくは90~250℃、硬化時間も特に限定されないが、乾燥機や焼成炉を用いる場合は10~180分、好ましくは20~120分である。またホットプレートを用いる場合は1~30分、好ましくは2~15分である。
【0062】
一実施形態において、硬化物の比誘電率は、2.5以下であり、好ましくは2.3以下であり、より好ましくは2.2以下である。
【0063】
一実施形態において、硬化物の誘電正接は0.005以下であり、好ましくは0.002以下であり、より好ましくは0.001以下である。
【0064】
[プリプレグ]
本発明は、本発明の熱硬化性樹脂組成物から形成された層を備えた、プリプレグにも関する。プリプレグとは、本発明の熱硬化性樹脂組成物が半硬化状態で繊維基材に含浸又は塗布されている物を意味する。
【0065】
一実施形態において、繊維基材は、特に限定されないが、ガラス繊維基材、炭素繊維基材、セルロース繊維基材、ポリアミド樹脂繊維、芳香族ポリアミド樹脂繊維などのポリアミド系樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維、芳香族ポリエステル樹脂繊維、全芳香族ポリエステル樹脂繊維などのポリエステル系樹脂繊維、ポリイミド樹脂繊維、フッ素樹脂繊維などを主成分とする織布又は不織布で構成される合成繊維基材、クラフト紙、コットンリンター紙、リンターとクラフトパルプの混抄紙などを主成分とする紙基材などを使用することができ、好ましくは、ガラス繊維基材、炭素繊維基材、又はセルロース繊維基材を使用する。ガラス繊維基材、炭素繊維基材、又はセルロース繊維基材は、プリプレグの強度が向上させ、吸水率を低下させることができ、また熱膨張係数を小さくすることができる。
【0066】
一実施形態において、プリプレグは、特に限定されないが、当該分野によく知られた方法により製造されてもよい。例えば、プリプレグの製造方法は、含浸法、各種コーターを用いたコーティング法、スプレー噴射法などを利用することができる。
【0067】
一実施形態において、プリプレグの製造条件は、特に制限されないが、熱硬化性樹脂組成物に溶剤を添加したワニス状態で使用することが好ましい。ワニス用溶剤は、熱硬化性樹脂組成物の成分と混合可能であり、良好な溶解性を有するものであれば特に限定しない。これらの具体的な例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノンなどのケトン、ベンゼン、トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドなどのアミド、並びにメチルセロソルブ及びブチルセロソルブなどの脂肪族アルコールからなる群から選択してもよい。
【0068】
一実施形態において、プリプレグの製造時、使用された溶剤が80重量%以上揮発し、半硬化状態になることが好ましい。このための乾燥条件は、特に制限はなく、乾燥機や焼成炉の中で加熱する方法や、比較的小さい基材上であれば、ホットプレート上で加熱してもよい。乾燥時の温度は、約80~300℃、好ましくは90~250℃、硬化時間も特に限定されないが、乾燥機や焼成炉を用いる場合は10~180分、好ましくは20~120分である。またホットプレートを用いる場合は1~30分、好ましくは2~15分である。
【0069】
一実施形態において、プリプレグは、プリプレグの総量に対する熱硬化性樹脂組成物の量が、20~90質量部の範囲であることが好ましく、30~80質量部であることがより好ましい。
【0070】
[積層板]
本発明は、本発明の硬化物、又は本発明のプリプレグの硬化物を備えた、積層板にも関する。一実施形態において、積層板は本発明の硬化物又はプリプレグの硬化物及び基材を含むことが好ましく、例えば、基材/硬化物又はプリプレグの硬化物の構成、基材/硬化物又はプリプレグの硬化物/基材の構成、又は更に基材及び硬化物又はプリプレグの硬化物を積層させる構成などの多層の積層構造になっていてもよい。
【0071】
積層板の製造は、本発明の熱硬化性樹脂組成物を基材に塗布して得ることが好ましい。塗布方法は、バーコーティング法、ロールコーティング法、エア・ナイフ法、グラビア法、リバースロール法、キスロール法、ドクターブレード法、ダイコーティング法、マイクログラビアコーティング法、コンマコーティング法、スロットダイコーティング法、リップコーティング法、スプレー法、浸漬法、刷毛塗り法、又はソリューションキャスティング(solution casting)等を用いることができる。また比較的小さい基材上であれば、スピンコーティング方式で塗布することも可能である。乾燥条件は本発明の熱硬化性樹脂組成物が硬化し、溶剤が十分に揮発する温度であれば、特に制限はなく、乾燥時の温度は約80℃~300℃、好ましくは90℃~250℃である。乾燥方法も特に限定されないが、乾燥機や焼成炉の中で加熱する方法や、比較的小さい基材上であれば、ホットプレート上で加熱してもよい。また時間は、乾燥機や焼成炉を用いる場合は10~180分、好ましくは20~120分である。またホットプレートを用いる場合は1~30分、好ましくは2~15分である。
【0072】
基材は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルム、及びこれらのフィルムの表面に離型剤を塗布した離型フィルム、並びにポリイミドフィルム等の有機系のフィルム基材、銅箔、アルミ箔等の金属箔、ガラス板、SUS板、FRP等の板状のものが挙げられる。
【0073】
一実施形態において、積層板中の本発明の硬化物、又は本発明のプリプレグの硬化物及び基材の厚さはそれぞれ0.1~500μmであることが好ましい。
【0074】
[金属箔張積層板]
本発明は、本発明の積層板の片面又は両面に金属箔を備えた、金属箔張積層板にも関する。一実施形態において、金属箔が本発明のプリプレグと共に加熱及び加圧されることにより金属箔がプリプレグの硬化物と一体化した金属箔張積層板を得ることが好ましい。
【0075】
金属箔は銅箔であってもよい。銅箔は銅又は銅合金であってもよく、圧延銅箔や電解銅箔から選択されてもよい。また本発明のプリプレグ上または離形フィルム上に金属成膜してもよく、成膜方法は、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法等の気層法、あるいは、電解めっき法、無電解めっき法等の湿式法により、銅や銅合金の金属薄膜を形成してもよい。また一実施形態において、金属箔の厚さは0.5~70μmが好ましく、より好ましくは2~35μmである。
【0076】
一実施形態において、金属箔及び本発明のプリプレグを加工する際には、100~300℃、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上で加熱され、2~100kgf/cm、好ましくは35~50kgf/cmで加圧されることが好ましい。加熱及び/又は加圧時間は0.05~5時間であることが好ましい。
【0077】
[プリント配線板]
本発明は、絶縁層及び絶縁層の表面に導体層を有し、絶縁層が本発明の熱硬化性樹脂組成物から形成された層を備えたプリント配線板にも関する。一実施形態において、プリント配線板は本発明のプリプレグを含む積層板又は金属箔張積層板から製造することができる。
【0078】
一実施形態において、プリント配線板は、当該分野によく知られた方法により製造されてもよく、例えば、エッチング処理を施した金属箔張積層板を内層基板として、更に、本発明のプリプレグ及び/又は積層体を積層することによって、外層に金属箔を有する積層体を得、内層回路と外層の金属箔との間に基材及び熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層が形成された積層板を得ることができる。更に、内層回路と外層回路を導通させ、外層回路の金属箔にエッチング回路を施すことによってプリント配線板を得ることができる。
【実施例0079】
〔実施例1〕
<熱硬化性樹脂組成物a1の調製>
ポリフェニレンエーテルA1(三菱ガス化学(株)製OPE-2St 1200、数平均分子量1200)6g、水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体B1((株)クラレ製SEPTON 8007L)4g、トルエン15gを入れて混合した。次いでこの混合溶液に、ポリテトラフルオロエチレン粒子C1(Polysciences,Inc.製MICRODISPERS-200)1gと、フッ素系界面活性剤D1((株)ネオス製フタージェント710FL)をフッ素系界面活性剤の固形分換算で0.05g入れ、撹拌して混合し、ポリテトラフルオロエチレン粒子分散液として熱硬化性樹脂組成物a1を得た。
【0080】
<比誘電率、誘電正接測定用素子の作製>
ガラス基板上に電極パターンのついた金属マスクを設置し、Elionix製3元スパッタ装置EIS-230Pのチャンバーに入れ、チャンバー内を3×10-4Pa以下となるまで真空排気した後に、アルゴンガス(濃度:99.9%)を流量1sccmで導入し、チャンバー内の真空度3×10-3Paでアルミスパッタリングすることにより、膜厚100nmのアルミ薄膜の下地電極を形成した。これをチャンバーから取り出し、下部電極の一部をカプトンテープで覆った基板上に、前記熱硬化性樹脂組成物a1をスピンコーティングによりコーティングした後、前記カプトンテープを剥がし、取り出し電極を露出させた。続いて90℃に設定したホットプレート上で1分乾燥した後、200℃に設定したホットプレート上で3分間加熱処理した。その後、下部電極形成時と同様に、金属マスクを介してアルミをスパッタリングすることにより、下部電極とは取り出し口が逆側になるように膜厚100nmの上部電極を形成した。
【0081】
<評価試験>
前記で得た組成物の塗布膜に対して、下記の方法により、評価試験を行った。
(1) 膜厚;触針式段差計(Bruker製Dektak XT)を用いて、前記硬化膜の膜厚を測定した。
(2) クラッキング;前記硬化膜の表面を、光学顕微鏡を用いてクラックの有無を観察した。(○:クラック無し、×:クラック発生)
(3) 比誘電率、誘電正接;LCRメーター(日置電機(株)製IM3536)に4端子プローブL2000を取り付け、室温(25℃)下で、前記作製した素子の上部電極と下部電極に挟まれた硬化膜の周波数1MHzでの誘電率および誘電正接tanδを測定し、比誘電率を算出した。
(4) 耐薬品性;硬化膜をトルエン中に室温(25℃)下で24時間浸漬し、外観変化を観察した。(○:変化無し、×:溶解または剥離発生)
(5) 分散性;熱硬化性樹脂組成物を室温(25℃)下で10日間静置し、3日目および10日目のポリテトラフルオロエチレン粒子の沈殿発生の有無を観察した。(×:3日目で沈殿発生、○:3日目で沈殿無し、◎:10日目でも沈殿無し)
【0082】
実施例1の評価結果を、〔表1〕に示す。
【0083】
〔実施例2〕
ポリフェニレンエーテルA1(三菱ガス化学(株)製OPE-2St 1200、数平均分子量1200)8g、水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体B1((株)クラレ製SEPTON 8007L)2g、トルエン15gを入れて混合した。次いでこの混合溶液に、ポリテトラフルオロエチレン粒子C1(Polysciences,Inc.製MICRODISPERS-200)0.5gと、フッ素系界面活性剤D1((株)ネオス製フタージェント710FL)をフッ素系界面活性剤の固形分換算で0.025g入れ、撹拌して混合し、ポリテトラフルオロエチレン粒子分散液として熱硬化性樹脂組成物a2を得た。熱硬化性樹脂組成物として、a2を用いた以外は実施例1と同様の方法で素子の作製を行い、評価試験を実施した。実施例2の評価結果を、〔表1〕に併せて示す。
【0084】
〔実施例3〕
ポリフェニレンエーテルA1(三菱ガス化学(株)製OPE-2St 1200、数平均分子量1200)7g、水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体B1((株)クラレ製SEPTON 8007L)3g、トルエン15gを入れて混合した。次いでこの混合溶液に、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子C2(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、AGC(株)製Fluon+ EA-2000 PW10)1gと、フッ素系界面活性剤D2(共栄社化学(株)製FD-420)をフッ素系界面活性剤の固形分換算で0.05g入れ、撹拌して混合し、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子分散液として熱硬化性樹脂組成物a3を得た。熱硬化性樹脂組成物として、a3を用いた以外は実施例1と同様の方法で素子の作製を行い、評価試験を実施した。実施例3の評価結果を、〔表1〕に併せて示す。
【0085】
〔実施例4〕
実施例3において、フッ素系界面活性剤D2を入れずに撹拌して混合し、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子分散液として得た熱硬化性樹脂組成物a4を用いた以外は実施例3と同様の方法で素子の作製を行い、評価試験を実施した。実施例4の評価結果を、〔表1〕に併せて示す。
【0086】
〔比較例1〕
前記実施例3において、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子C2およびフッ素系界面活性剤D2を混合せず、熱硬化性樹脂組成物a5を得た。熱硬化性樹脂組成物として、a5を用いた以外は実施例3と同様の方法で素子の作製を行い、評価試験を実施した。比較例1の評価結果を、〔表1〕に併せて示す。
【0087】
〔比較例2〕
前記実施例3において、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子C2(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、AGC(株)製Fluon+ EA-2000 PW10)0.05gと、フッ素系界面活性剤D2(共栄社化学(株)製FD-420)をフッ素系界面活性剤の固形分換算で0.0025g入れ、撹拌して混合し、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子分散液として熱硬化性樹脂組成物a6を得た。熱硬化性樹脂組成物として、a6を用いた以外は実施例3と同様の方法で素子の作製を行い、評価試験を実施した。比較例2の評価結果を、〔表1〕に併せて示す。
【0088】
〔比較例3〕
前記実施例3において、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子C2(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、AGC(株)製Fluon+ EA-2000 PW10)5gと、フッ素系界面活性剤D2(共栄社化学(株)製FD-420)をフッ素系界面活性剤の固形分換算で0.25g入れ、撹拌して混合し、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子分散液として熱硬化性樹脂組成物a7を得た。熱硬化性樹脂組成物として、a7を用いた以外は実施例3と同様の方法で素子の作製を行い、評価試験を実施した。比較例3の評価結果を、〔表1〕に併せて示す。
【0089】
〔比較例4〕
前記実施例3において、水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体を使用せず、ポリフェニレンエーテルA1(三菱ガス化学(株)製OPE-2St 1200、数平均分子量1200)10g、トルエン15gを入れて混合した。次いでこの混合溶液に、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子C2(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、AGC(株)製Fluon+ EA-2000 PW10)1gと、フッ素系界面活性剤D2(共栄社化学(株)製FD-420)をフッ素系界面活性剤の固形分換算で0.05g入れ、撹拌して混合し、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子分散液として熱硬化性樹脂組成物a8を得た。熱硬化性樹脂組成物として、a8を用いた以外は実施例3と同様の方法で素子の作製を行い、評価試験を実施した。比較例4の評価結果を、〔表1〕に併せて示す。
【0090】
表1中の記載内容の説明は以下の通りである。
A1:ポリフェニレンエーテル、三菱ガス化学(株)製OPE-2St 1200、数平均分子量1200
B1:水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体粒子、(株)クラレ製SEPTON 8007L
C1:ポリテトラフルオロエチレン粒子、Polysciences,Inc.製MICRODISPERS-200、粒径200~300nm
C2:テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、AGC(株)製Fluon+ EA-2000 PW10、粒径D50=3μm
D1:フッ素系界面活性剤、(株)ネオス製フタージェント710FL
D2:フッ素系界面活性剤、共栄社化学(株)製FD-420
( )内数字は各成分の固形分含有量を示す。
【0091】
【表1】
【0092】
〔結果〕
〔表1〕の比較例3においては、テトラフルオロエチレン系ポリマー粒子C2が樹脂溶液中に均一に分散できず、塗布膜の表面凹凸により、再現性のある誘電正接の値が得られなかった。また比較例4においては、硬化膜全面にクラックによる剥離が生じ、比誘電率および誘電正接の測定ができなかった。
いずれの実施例においても、比誘電率の値が2.5以下、誘電正接の値が0.002以下と極めて小さいことから、伝送損失を小さくすることが可能である。また、クラッキング、耐薬品性、分散性も良好なことから、耐熱性・耐久性の高い硬化膜が得られていることがわかる。一方、本発明の組成物に含まれる成分を含まない、又は各成分の含有量が本発明の範囲から逸脱する場合、比誘電率ならびに誘電正接の値の上昇(比較例1、2)、耐薬品性及び分散性の低下(比較例3)、クラックの発生(比較例4)等の問題が生じる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の積層板は、前記に開示した他に何ら制約はなく、プリント配線板等の基板として用いることができ、その優れた比誘電率及び誘電正接、並びに硬化膜の柔軟性及び靭性から、従来用いられるものより高周波及び高速伝送が要求されるプリント配線板の使用にも適している。