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  • 特開-導電接続部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161833
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】導電接続部材
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/00 20060101AFI20221014BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20221014BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20221014BHJP
   H01M 50/522 20210101ALN20221014BHJP
   H01M 50/534 20210101ALN20221014BHJP
   H01M 8/021 20160101ALN20221014BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALN20221014BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALN20221014BHJP
【FI】
H01B5/00 Z
B32B7/025
B32B15/01 Z
H01M50/522
H01M50/534
H01M8/021
H01M8/0206
H01M8/0228
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042998
(22)【出願日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2021066616
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 晋司
【テーマコード(参考)】
4F100
5G307
5H043
5H126
【Fターム(参考)】
4F100AB03A
4F100AB03C
4F100AB04A
4F100AB04C
4F100AB10B
4F100AB16A
4F100AB16C
4F100AB17B
4F100AB24B
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100BA03A
4F100BA03B
4F100BA03C
4F100EC012
4F100EH012
4F100EH902
4F100EJ182
4F100EJ472
4F100GB48
4F100JB02
4F100JG01
5G307AA02
5G307AA07
5H043AA01
5H043AA03
5H043AA07
5H043EA13
5H043EA14
5H043EA15
5H043EA16
5H043EA18
5H043EA19
5H126AA14
5H126GG02
5H126GG08
5H126JJ05
5H126JJ06
(57)【要約】
【課題】体積抵抗率が小さく、常温大気環境下で十分な耐食性を有し、望ましくは、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有する、導電接続部材を提供する。
【解決手段】この発明に係る導電接続部材は、第1金属層と、第2金属層と、第3金属層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成され、第1金属層および第3金属層は、少なくともCrを含む金属材料から成り、第2金属層は、第1金属層および第3金属層と比べて、体積抵抗率が小さい金属材料から成る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属層と、第2金属層と、第3金属層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成され、
前記第1金属層および前記第3金属層は、少なくともCrを含む金属材料から成り、
前記第2金属層は、前記第1金属層および前記第3金属層と比べて、体積抵抗率が小さい金属材料から成る、導電接続部材。
【請求項2】
前記第1金属層および前記第3金属層は、Crを11質量%以上含む金属材料から成る、請求項1に記載の導電接続部材。
【請求項3】
前記第2金属層は、体積抵抗率が20×10-8Ω・m以下の金属材料から成る、請求項1または2に記載の導電接続部材。
【請求項4】
前記第1金属層および前記第3金属層は、Fe基合金またはNi基合金から成る、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の導電接続部材。
【請求項5】
前記第1金属層および前記第3金属層は、ステンレス鋼から成る、請求項4に記載の導電接続部材。
【請求項6】
前記第2金属層は、Ag、Ag基合金、Al、Al基合金、Cu、Cu基合金、Mo、Mo基合金、NiおよびNi基合金のうちのいずれかから成る、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の導電接続部材。
【請求項7】
前記第2金属層は、CuまたはCu基合金から成る、請求項6に記載の導電接続部材。
【請求項8】
前記第2金属層は、NiまたはNi基合金から成る、請求項6に記載の導電接続部材。
【請求項9】
前記第2金属層は、AlまたはAl基合金から成る、請求項6に記載の導電接続部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気的接続に用いられる導電接続部材に関し、詳しくは、異種金属の圧延接合によって成るクラッド材により構成された導電接続部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気的接続に用いられる導電接続部材が知られている。そのような導電接続部材は、たとえば、特許文献1(特開2016-162730号公報)や特許文献2(特開2000-182653号公報)に開示されている。
【0003】
特許文献1には、SUS(ステンレス鋼)、Ni(純ニッケル)、Cu(純銅)またはAl(純アルミニウム)のいずれか1種から成る金属薄板の表面に不働態化処理による耐食性保護層が形成された、電極リード線部材が開示されている。また、特許文献2には、SUSまたはNiから成る導電性金属棒の表面に耐酸化処理による耐酸化性保護層が形成された、導電性連結棒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-162730号公報
【特許文献2】特開2000-182653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に開示されるSUSは、適度な耐食性、加工性および導電性を有し、比較的安価で入手しやすく、電気的接続にも用いることができる金属材料である。また、特許文献1、2に開示されるNiは、SUSよりも導電性に優れ、耐食性が良く、適度な加工性を有し、SUSよりも高価であるが、電気的接続に多用されている金属材料である。また、特許文献1に開示されるCuは、Niよりも導電性に優れ、加工性が良く、電気的接続に多用される金属材料である。また、特許文献1に開示されるAlは、Cuには及ばないもののNiよりも導電性に優れ、加工性が良く、軽量化の用途に多用され、電気的接続にも用いられる金属材料である。この他、Alよりも導電性に優れるAu(純金)は、加工性が良く、電気的接続の多用される金属材料である。
【0006】
しかしながら、CuまたはAlから成る導電接続部材は、十分な導電性を有する一方、SUSおよびNiよりも耐食性が劣るため常温大気環境下でも腐食が進行し、長期的使用に耐えられない問題がある。また、Niから成る導電接続部材は、十分な導電性を有する一方、従来知られるように500℃から600℃の高温大気環境下では機械的強さが低下するため、500℃を超える高温大気環境下では長期的使用に耐えられないおそれがある。また、SUSから成る導電接続部材は、高温大気環境下でNiよりも長期的使用に耐え得る機械的強さや高温耐食性を有する一方、Al、CuおよびNiよりも体積抵抗率が大きく導電性が劣るため、電気的効率が低下する問題がある。また、Auから成る導電接続部材は、AlおよびNiよりも導電性に優れ、AgおよびCuよりも耐食性に優れる一方、上記したいずれの材質よりも高価であるし、Alよりも軟質で機械的強さが小さいため高温大気環境下では使用に耐えられない。
【0007】
この発明の目的は、体積抵抗率が小さく、常温大気環境下で十分な耐食性を有する導電接続部材を提供することである。さらに望めるのであれば、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有する導電接続部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明者は、体積抵抗率が小さい高導電材料の表面露出を小さく抑制するように、常温大気環境下で耐食性を有する高耐食材料を組み合せるという発想を得た。さらに同様の観点に立って、体積抵抗率が小さい高導電材料の表面露出を小さく抑制するように高温大気環境下で機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有する耐熱材料を組み合せるという発想を得た。そして、その後の工夫によって、上記課題が解決できることを見出し、この発明に想到した。
【0009】
すなわち、この発明に係る導電接続部材は、第1金属層と、第2金属層と、第3金属層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成され、前記第1金属層および前記第3金属層は、少なくともCrを含む金属材料から成り、前記第2金属層は、前記第1金属層および前記第3金属層と比べて、体積抵抗率が小さい金属材料から成る。
【0010】
この発明において、前記第1金属層および前記第3金属層は、Cr(クロム)を11質量%以上含む金属材料から成ることが好ましい。
【0011】
この発明において、前記第2金属層は、体積抵抗率が20×10-8Ω・m以下の金属材料から成ることが好ましい。
【0012】
この発明において、前記第1金属層および前記第3金属層は、Fe基合金またはNi基合金から成ることが好ましい。
【0013】
この発明において、前記第1金属層および前記第3金属層は、SUS(ステンレス鋼)から成ることが好ましい。
【0014】
この発明において、前記第2金属層は、Ag(純銀)、Ag基合金、Al(純アルミニウム)、Al基合金、Cu(純銅)、Cu基合金、Mo(純モリブデン)、Mo基合金、Ni(純ニッケル)およびNi基合金のうちのいずれかから成ることが好ましい。
【0015】
この発明において、前記第2金属層は、Cu(純銅)またはCu基合金から成ることが好ましい。たとえば、SUSから成る前記第1金属層と、CuまたはCu基合金から成る第2金属層と、SUSから成る前記第3金属層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成されている導電接続部とする。
【0016】
この発明において、前記第2金属層は、Ni(純ニッケル)またはNi基合金から成ることが好ましい。たとえば、SUSから成る前記第1金属層と、NiまたはNi基合金から成る第2金属層と、SUSから成る前記第3金属層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成されている導電接続部とする。
【0017】
この発明において、前記第2金属層は、Al(純アルミニウム)またはAl基合金から成ることが好ましい。たとえば、SUSから成る前記第1金属層と、AlまたはAl基合金から成る第2金属層と、SUSから成る前記第3金属層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成されている導電接続部とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、用途や目的に応じて、金属材料を適切に選択することにより、体積抵抗率が小さく、たとえば、常温大気環境下で十分な耐食性を有する導電接続部材を提供することができる。また、金属材料をより適切に選択することにより、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有する導電接続部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明に係る導電接続部材の断面構成を模式的に示す図である。
図2】この発明の一実施形態となる導電接続部材の断面構成を示す図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明において、その用途や目的に応じて、金属材料を適切に選択し、高導電材料から成る金属層の表面露出を小さく抑制するように、たとえば常温大気環境下で耐食性(常温耐食性)を有する高耐食材料から成る金属層を組み合せることによって、体積抵抗率が小さく、常温大気環境下で十分な耐食性を有する、この発明に係る導電接続部材を得ることができる。
【0021】
また、この発明において、金属材料をより適切に選択し、高導電材料から成る金属層の表面露出を小さく抑制するように、たとえば高温大気環境下で機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有する耐熱材料を組み合せることによって、体積抵抗率が小さく、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有する、この発明に係る導電接続部材を得ることができる。
【0022】
すなわち、この発明に係る導電接続部材は、第1金属層と、第2金属層と、第3金属層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成され、第1金属層および第3金属層は、少なくともCrを含む金属材料から成り、第2金属層は、第1金属層および第3金属層と比べて、体積抵抗率が小さい金属材料から成る。
【0023】
図1は、この発明に係る導電接続部材の断面構成を模式的に示す図である。図1に示す導電接続部材1は、第1金属層11と、第2金属層12と、第3金属層13とが、この順に積層されたクラッド材10から構成される。このクラッド材10は、第1金属層11と、第2金属層12と、第3金属層13とを、この順で積層して圧延接合する異種金属の圧延接合法によって製造することができる。なお、この発明に適用する異種金属の圧延接合には、圧延接合前の軟化焼鈍や中間圧延、圧延接合後の拡散焼鈍や中間圧延、目的製品の厚み、幅、表面性状および各種特性を得るための仕上げ圧延、スキンパス圧延、焼鈍、表面処理、条取り加工などの製造工程が含まれ、必要に応じて、幾つかの製造工程を選択することができる。このような製造工程によって製造されたクラッド材10を用いて、この発明に係る導電接続部材(導電接続部材1)を製造することができる。たとえば、このクラッド材10を所望の形状に加工することによって、所望の形状を有する導電接続部材を製造することができる。
【0024】
図1に示すクラッド材10は、第1金属層11と、第2金属層12と、第3金属層13とが、この順に積層されて成る。第1金属層11と第3金属層13との間に第2金属層12が位置し、圧延接合によって形成された第1接合部12aが第1金属層11と第2金属層12との間にあり、圧延接合によって形成された第2接合部12bが第2金属層12と第3金属層13との間にある。なお、第1接合部12aおよび第2接合部12bは、接合強度を高める観点から、好ましくは、焼鈍によって生じた金属拡散による接合部(金属拡散層)である。
【0025】
導電接続部材1を構成するクラッド材10の厚さt(全厚)は、導電接続部材1をリード(タブ)、端子、コネクタ(インターコネクタ)またはバスバーなどとして用いることを想定した場合、たとえば、0.05mm以上2mm以下である。この場合、第1金属層11の厚さt1と、第2金属層12の厚さt2と、第3金属層13の厚さt3との比率(層比)は、たとえば、1:1:1乃至1:4:1であってよい。導電接続部材1の導電性をより高めたい場合は、好ましくは、第2金属層12の厚さt2を第1金属層11の厚さt1および第3金属層13の厚さt3よりも大きくする。また、導電接続部材1の常温耐食性や高温特性(0.2%耐力、高温耐食性など)をより高めたい場合は、好ましくは、第1金属層11の厚さt1および第3金属層13の厚さt3を第2金属層12の厚さt2よりも大きくする。なお、第1金属層11の厚さt1と第3金属層13の厚さt3とは、同等であってもよい、同等でなくてもよい。
【0026】
このようなクラッド構造を有する導電接続部材1は、Crを含む金属材料から成る第1金属層11および第3金属層13によって、体積抵抗率が小さい金属材料から成る第2金属層12の表面露出が小さく抑制されている。そのため、第2金属層12がもつ導電性によって高効率の電気的接続が行えるとともに、第1金属層11および第3金属層13がもつ耐食性によって腐食の進行を抑制することができる。これにより、体積抵抗率が小さく、たとえば、常温大気環境下で十分な耐食性を有する導電接続部材を得ることができる。さらにCrを含むより適切な金属材料を選択することにより、体積抵抗率が小さく、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有する導電接続部材を得ることができる。
【0027】
この発明に係る導電接続部材において、第1金属層および第3金属層を構成する、少なくともCrを含む金属材料とは、高耐食材料である。不働態皮膜を形成しやすいCrを含む金属材料は、一般的に高い耐食性や耐酸化性を有する金属材料となる。この発明に適用するCrを含む金属材料は、たとえば、常温大気環境下で耐食性を有する金属材料(常温高耐食材料)であってよいし、高温大気環境下で機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有する金属材料(高耐食耐熱材料)であってよい。
【0028】
この発明において、上記したように、第1金属層および第3金属層は、少なくともCrを含む高耐食材料や高耐食耐熱材料などの金属材料から成るものとする。また、より高い耐食性を有する導電接続部材を得たいのであれば、好ましくは、Crを11質量%以上含む金属材料から成る第1金属層および第3金属層とする。
【0029】
Crを含む高耐食材料や高耐食耐熱材料などの金属材料を具体的に挙げるとすれば、たとえば、SUS405、SUS410L、SUS430およびSUS444などのフェライト系SUSや、SUS301、SUS304、SUS310SおよびSUS316Lなどのオーステナイト系SUSや、SUS403、SUS410およびSUS410Sなどのマルテンサイト系SUSなどがある。これらのSUSはJIS-G4305:2021に規定される。また、Fe-Cr-Mo(モリブデン)系合金やFe-Cr-W(タングステン)系合金、ASTMに規定されるアロイ718、アロイ713C、アロイ713LCなどのNi基耐熱合金なども挙げられる。
【0030】
このような金属材料として、好ましくは、Fe基合金またはNi基合金である。Fe基合金のうち、適度な耐食性を有し、比較的安価で入手しやすいのはSUSである。導電接続部材の使用環境は様々想定されるが、特に過酷な高温環境で使用されるのであれば、より耐熱に優れるSUS、Fe-Cr-Mo系合金、Fe-Cr-W系合金、または、Ni基耐熱合金から選択するとよい。
【0031】
この発明に係る導電接続部材において、第2金属層を構成する、第1金属層および第3金属層と比べて体積抵抗率が小さい金属材料とは、高電導材料である。高電導材料は、一般的に導電性に優れ、電気的接続に好適である一方、常温大気環境下での耐食性が不満とされる場合や高温大気環境下での機械的強さ(0.2%耐力)や耐食性(高温耐食性)が不満とされる場合がある。そこで、この発明においては、体積抵抗率が小さい高導電材料から成る第2金属層の表面露出を小さく抑制するように、少なくともCrを含む常温高耐食材料または高耐食耐熱材料から成る第1金属層および第3金属層を配置するのである。
【0032】
この発明において、上記したように、第2金属層は、体積抵抗率が小さい金属材料から成るものとする。少なくとも3層構造のクラッド材から構成される、この発明に係る導電接続部材は、第1層金属層の厚さおよび第3金属層の厚さが大きいほど長期使用に耐え得る耐久性を有すると考えられる。そのため、第1層金属層および第3金属層と比べて耐久性が期待できない第2金属層はその厚さをより小さく構成し、かつ、その体積抵抗率をより小さくすることが好ましいと考えられる。第1金属層および第3金属層を構成する金属材料に適すると考えるSUSの体積抵抗率は、たとえば、常温環境下で50×10-8Ω・mを超え、高温環境下で100×10-8Ω・mを超える。こうした観点から、相応の耐久性を有し、かつ、より高い導電性を有する導電接続部材を得たいのであれば、好ましくは、第2金属層を0℃~100℃の環境下での体積抵抗率が20×10-8Ω・m以下の金属材料から成るものとする。
【0033】
体積抵抗率が比較的小さい金属材料を具体的に挙げるとすれば、たとえば、925、835、800などのAg(純銀)が1.59×10-8Ω・m程度(0℃)、C1020などのCu(純銅)が1.68×10-8Ω・m程度(0℃)、A1050などのAl(純アルミニウム)が2.65×10-8Ω・m程度(0~100℃)、Mo(純モリブデン)が5.00×10-8Ω・m程度(0℃)、Ni(純ニッケル)が6.99×10-8Ω・m程度(0℃)、Fe(純鉄)が10.0×10-8Ω・m程度(0~200℃)、並びに、Au(純金)が2.44×10-8Ω・m程度(0~100℃)である。このうち、Auは、AlおよびNiよりも導電性に優れ、AgおよびCuよりも耐食性に優れる一方、上記したいずれの材質よりも高価であるし、Alよりも軟質で機械的強さが小さい。なお、上記括弧内に示す温度または温度範囲は、体積抵抗率の測定環境温度である。
【0034】
第2金属層を構成する金属材料は、第1金属層および第3金属層よりも体積抵抗率が小さい金属材料であればよい。第2金属層を構成するため金属材料を選択する場合、好ましくは、Ag、Cu、Au、Al、MoおよびNiのうちのいずれか1種から成る金属材料であり、または、実質的にCrを含まないAg、Cu、Au、Al、MoおよびNiのうちの1種以上を基とする合金から成る金属材料である。これらのうち、Cu(純銅)は、Agよりも安価で、MoやNiよりも体積抵抗率が小さく導電性が優り、Alよりも耐熱性が優り、また、加工性がよいためクラッド材を形成するのが比較的容易である。Cu基合金も、Cuの場合と同様な理由で、Ag基合金、Mo基合金、Ni基合金およびAl基合金よりも好ましい場合がある。Ni(純ニッケル)は、AgやMoよりも安価で、Cuよりも耐熱性、耐食性および機械的強さが優り、また、加工性がよいためクラッド材を形成するのが比較的容易である。Ni基合金も、Niの場合と同様な理由で、Ag基合金、Cu基合金、Mo基合金およびAl基合金よりも好ましい場合がある。Al(純アルミニウム)は、CuやNiよりも耐熱性は不利であるが、軽量で加工性がよく、導電接続部材の形状自由度や軽量化が望まれる場合は有効である。Al基合金も、Alの場合と同様な理由で、Ag基合金、Cu基合金、Mo基合金およびNi基合金よりも好ましい場合がある。
【0035】
この発明に係る導電接続部材は、体積抵抗率が小さい金属材料から成る第2金属層を有するため、その金属材料に相応の導電性を有することができる。同時に、この発明に係る導電接続部材は、少なくともCrを含む金属材料から成る第1金属層および第3金属層を有するため、その第1金属層および第3金属層に相応の特性(常温耐食性、0.2%耐力、高温耐食性など)を有することができる。これにより、この発明に係る導電接続部材は、一般的な電気的接続に適用可能なものとなり、同時に、常温大気環境下で十分な耐食性を有するものとなる。さらに、たとえば、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有するものとなる。なお、一般的な電気的接続とは、たとえば、ネジ締結、嵌め込み、かしめ、圧着、各種の溶接(レーザ溶接、超音波溶接など)、ろう接、および、拡散接合などの手段で構成可能な接続構造を意図する。また、この発明に係る導電接続部材に対する接続相手もまた相応の導電性を有する導電部材(被接続部材)である。
【0036】
この発明に係る導電接続部材は、たとえば、リード(タブ)、端子、コネクタ(インターコネクタ)またはバスバーなどに適用可能である。この発明に係る導電接続部材は、たとえば、集電体、メタルセパレータ、電極、または、電極端子などの被接続部材に対して、電気的接続が可能である。
【0037】
図2は、この発明の一実施形態となる導電接続部材であって、実際に製造した導電接続部材の断面像(写真)の一例である。なお、図2に示す断面像は、複数の導電接続部材1(1a、1b、1c、1d)を厚さ方向に重ねた状態で撮像したものである。図2に示す導電接続部材1は、Cr含有比が17.3質量%のSUS316L(JIS-G4305:2021)相当の金属材料から成る第1金属層11と、Cu含有比が99.9質量%以上のC1020(JIS-H3100:2018)相当の金属材料から成る第2金属層12と、Cr含有比が17.3質量%のSUS316L相当の金属材料から成る第3金属層13とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材10から構成されている。
【0038】
このクラッド材10の平均の厚さt(全厚)は、約0.2mmである。第1金属層11の平均の厚さt1と、第2金属層12の平均の厚さt2と、第3金属層13の平均の厚さt3との比率(層比)は、1:2:1程度である。第1金属層11の平均の厚さt1および第3金属層13の平均の厚さt3は、ほぼ同等である。
【0039】
第2金属層12を構成するC1020は、周知の通り、著名な高導電性材料の1つである。第1金属層11および第3金属層13を構成するSUS316Lは、周知の通り、常温大気環境下で耐食性を有し、比較的高温の大気環境下で機械的強さ(0.2%耐力)および耐食性を有する高耐食耐熱材料の1つである。第2金属層12を構成するC1020の体積抵抗率は、常温環境下で約1.71×10-8Ω・m(導電率は約101%IACS)である。なお、第1金属層11および第3金属層13を構成するSUS316Lの体積抵抗率は、常温環境下で約74×10-8Ω・mである。そのため、第2金属層12は、第1金属層11および第3金属層13と比べて体積抵抗率が小さく、第1金属層11および第3金属層13に対して約2.3%である。したがって、この導電接続部材1は、高導電材料であるC1020から成る第2金属層12によって高効率の電気的接続が可能となり、同時に、高耐食耐熱材料であるSUS316Lから成る第1金属層11および第3金属層13によって常温大気環境下での耐食性を有することが可能となり、さらに、高温大気環境下(たとえば600℃)での機械的強さ(0.2%耐力)および高温耐食性を有することが可能となる。
【実施例0040】
5種類のクラッド材を準備し、そのクラッド材から試験体1~5(導電接続部材)を作製した。また、7種類の単板を準備し、その単板から試験体6~12を作製した。試験体1~5は本発明例である。試験体6~12は比較例である。
【0041】
試験体1として、厚さが1.0mmの3層のクラッド材(SUS430/NW2201/SUS430)を作製した。具体的には、Cr含有比が16.5質量%のSUS430(JIS-G4305:2021)から成るステンレス鋼板と、Ni含有比が99.0質量%以上のNW2201(JIS-G4902:2019)から成るNi板と、Cr含有比が16.5質量%のSUS430からなるステンレス鋼板とを、この順に積層した状態で約62%の圧下率で圧延接合した。次いで、拡散焼鈍(875℃で5分間の保持)した。次いで、約38%の圧下率で仕上げ圧延した。なお、圧延接合から仕上げ圧延までの圧下率の合計(総圧下率)は約76%である。次いで、焼鈍(900℃で5分間の保持)し、調質した。そして、最終的に、厚さ(全厚)が1.0mmの3層のクラッド材を作製した。最終的に得られたクラッド材の厚さに対する各層の厚さ比率は、第1金属層に対応する一方表面のステンレス鋼層(SUS430層)が約33%、第2金属層に対応する中間位置のNi層(NW2201層)が約34%、第3金属層に対応する他方表面のステンレス鋼(SUS430層)が約33%である。
【0042】
試験体2として、厚さが0.20mmの3層のクラッド材(SUS316L/C1020/SUS316L)を作製した。具体的には、Cr含有比が17.2質量%のSUS316L(JIS-G4305:2021)から成るステンレス鋼板と、Cu含有比が99.96質量%以上のC1020(JIS-H3100:2018)から成るCu板と、Cr含有比が17.2質量%のSUS316Lから成るステンレス鋼板とを、この順に積層した状態で約56%の圧下率で圧延接合し、さらに約29%の圧下率で圧延した。次いで、拡散焼鈍(1000℃で1.3分間の保持)した。次いで、約20%の圧下率で仕上げ圧延し、調質した。なお、圧延接合から仕上げ圧延までの圧下率の合計(総圧下率)は約75%である。そして、最終的に、厚さ(全厚)が0.20mmの3層のクラッド材を作製した。最終的に得られたクラッド材の厚さに対する各層の厚さ比率は、第1金属層に対応する一方表面のステンレス鋼層(SUS316L層)が約25%、第2金属層に対応する中間位置のCu層(C1020層)が約50%、第3金属層に対応する他方表面のステンレス鋼(SUS316L層)が約25%である。
【0043】
試験体3として、厚さが0.20mmの3層のクラッド材(SUS304/C1020/SUS304)を作製した。具体的には、Cr含有比が18.1質量%のSUS304(JIS-G4305:2021)から成るステンレス鋼板と、Cu含有比が99.9質量%以上のC1020から成るCu板と、Cr含有比が18.1質量%のSUS304から成るステンレス鋼板とを、この順に積層した状態で59%の圧下率で圧延し、さらに4%の圧下率で圧延接合した。次いで、拡散焼鈍(1050℃で1.5分間の保持)した。次いで、約35%の圧下率で圧延し、焼鈍(1050℃で1.3分間の保持)した。次いで、約13%の圧下率で仕上げ圧延し、調質した。なお、圧延接合から仕上げ圧延までの圧下率の合計(総圧下率)は約78%である。そして、最終的に、厚さ(全厚)が0.20mmの3層のクラッド材を作製した。最終的に得られたクラッド材の厚さに対する各層の厚さ比率は、第1金属層に対応する一方表面のステンレス鋼層(SUS304層)が約33%、第2金属層に対応する中間位置のCu層(C1020層)が約34%、第3金属層に対応する他方表面のステンレス鋼(SUS304層)が約33%である。
【0044】
試験体4として、厚さが0.20mmの3層のクラッド材(SUS301/C1020/SUS301)を作製した。具体的には、Cr含有比が17.5質量%のSUS301(JIS-G4305:2021)から成るステンレス鋼板と、Cu含有比が99.96質量%以上のC1020から成るCu板と、Cr含有比が17.5質量%のSUS301から成るステンレス鋼板とを、この順に積層した状態で56%の圧下率で圧延接合し、さらに33%の圧下率で圧延した。次いで、拡散焼鈍(1050℃で1.2分間の保持)した。次いで、15%の圧下率で仕上げ圧延し、調質した。なお、圧延接合から仕上げ圧延までの圧下率の合計(総圧下率)は約75%である。そして、最終的に、厚さ(全厚)が0.20mmの3層のクラッド材を作製した。最終的に得られたクラッド材の厚さに対する各層の厚さ比率は、第1金属層に対応する一方表面のステンレス鋼層(SUS301層)が約25%、第2金属層に対応する中間位置のCu層(C1020層)が約50%、第3金属層に対応する他方表面のステンレス鋼(SUS301層)が約25%である。
【0045】
試験体5として、厚さが0.20mmの3層のクラッド材(SUS304/A1050/SUS304)を作製した。具体的には、Cr含有比が18.4質量%のSUS304から成るステンレス鋼板と、Al含有比が99.5質量%以上のA1050(JIS-H4000:2014)から成るAl板と、Cr含有比が18.4質量%のSUS304から成るステンレス鋼板とを、この順に積層した状態で30%の圧下率で圧延接合し、さらに9%の圧下率で仕上げ圧延した。なお、圧延接合から仕上げ圧延までの圧下率の合計(総圧下率)は36%である。次いで、拡散焼鈍(500℃で0.6分間の保持)し、調質を兼ねた。そして、最終的に、厚さ(全厚)が0.20mmの3層のクラッド材を作製した。最終的に得られたクラッド材の厚さに対する各層の厚さ比率は、第1金属層に対応する一方表面のステンレス鋼層(SUS304層)が約13%、第2金属層に対応する中間位置のAl層(A1050層)が約74%、第3金属層に対応する他方表面のステンレス鋼(SUS304層)が約13%である。
【0046】
試験体6として、SUS430から成る厚さが0.20mmのステンレス鋼板(SUS430単板)を作製した。具体的には、Cr含有比が16.1質量%のSUS430から成る0.8mmの厚さのステンレス鋼板を準備した。そのステンレス鋼板に対して、圧下率38%の圧延、焼鈍(900℃で5分間の保持)、および、圧下率60%の圧延を行った。次いで、焼鈍(900℃で5分間の保持)を行って、調質した。そして、最終的に、厚さが0.20mmのSUS430単板を作製した。
【0047】
試験体7として、SUS316Lから成る厚さが0.20mmのステンレス鋼板(SUS316L単板)を準備した。具体的には、Cr含有比が17.3質量%のSUS316Lから成る0.20mmの厚さのステンレス鋼板を購入した。そのステンレス鋼板から、最終的に、厚さが0.20mmのSUS316L単板を作製した。なお、試験体7に用いた購入材のステンレス鋼板は850℃程度に加熱保持された焼きなまし材である。これは以下の理由による。後述する表1に示す高温大気環境下の0.2%耐力について、試験体7は試験体2の50%程度である。また、表1に示す酸化減量について、試験体7は試験体2の約2倍である。また、上記したように、試験体2が圧延調質前に固溶化熱処理相当の加熱(拡散焼鈍で1000℃に保持)を受けている。これらのことを参酌すれば、試験体7に用いたステンレス鋼板は、応力除去熱処理相当の加熱(汎用は約850℃で保持)を受けているが、固溶化熱処理相当の加熱(汎用は1000℃~1100℃で保持して急冷)を受けていないと解される。
【0048】
試験体8として、SUS304から成る厚さが0.20mmのステンレス鋼板(SUS304単板)を作製した。具体的には、Cr含有比が18.3質量%のSUS304から成る1.5mmの厚さのステンレス鋼板を準備した。そのステンレス鋼板に対して、圧下率67%の圧延と焼鈍(900℃で5分間の保持)、圧下率30%の圧延と焼鈍(900℃で5分間の保持)、および、圧下率43%の圧延を行った。次いで、焼鈍(900℃で5分間の保持)を行って、調質した。そして、最終的に、厚さが0.20mmのSUS304単板を作製した。
【0049】
試験体9として、SUS301から成る厚さが0.22mmのステンレス鋼板(SUS301単板)を作製した。具体的には、Cr含有比が17.1質量%のSUS301から成る1.5mmの厚さのステンレス鋼板を準備した。そのステンレス鋼板に対して、圧下率33%の圧延と焼鈍(900℃で5分間の保持)、圧下率35%の圧延と焼鈍(900℃で5分間の保持)、圧下率33%の圧延と焼鈍(900℃で5分間の保持)、圧下率30%の圧延と焼鈍(900℃で5分間の保持)、および、圧下率27%の圧延を行った。次いで、焼鈍(900℃で5分間の保持)を行って、調質した。そして、最終的に、厚さが0.22mmのSUS301単板を作製した。
【0050】
試験体10として、NW2201から成る厚さが0.20mmのNi単板(NW2201単板)を作製した。具体的には、Ni含有比が99.0質量%以上のNW2201から成る1.17mmの厚さのNi板を準備した。そのNi板に対して、圧下率57%の圧延と焼鈍(900℃で5分間の保持)、および、圧下率60%の圧延を行った。次いで、焼鈍(900℃で5分間の保持)を行って、調質した。そして、最終的に、厚さが0.20mmのNW2201単板を作製した。
【0051】
試験体11として、C1020から成る厚さが0.20mmのCu単板(C1020単板)を作製した。具体的には、Cu含有比が99.96質量%以上のC1020から成る0.40mmの厚さのCu板を準備した。そのCu板に対して、圧下率50%の圧延を行った。次いで、焼鈍(500℃で5分間の保持)を行って、調質した。そして、最終的に、厚さが0.20mmのC1020単板を作製した。
【0052】
試験体12として、A1050から成る厚さが0.20mmのAl単板(A1050単板)を作製した。具体的には、Al含有比が99.50質量%以上のA1050から成る1.5mmの厚さのAl板を準備した。そのAl板に対して、圧下率60%の圧延を行った。次いで、焼鈍(500℃で5分間の保持)を行って、調質した。そして、最終的に、厚さが0.20mmのA1050単板を作製した。
【0053】
次に、上記した試験体1~5、試験体6~11および試験体12の諸特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
<常温の導電性>
常温大気環境下の導電性の評価を目的として、各試験体の常温大気環境下の体積抵抗率を測定した。具体的には、各試験体の体積抵抗率は、幅が10mmで長さが120mmのテストピースを準備し、JIS-C2525:1999の4端子法に準じて、所定の設定温度(23℃)で制御した室内で測定した。
【0056】
その結果、表1に示すように、常温大気環境下の体積抵抗率は、試験体2~5、11および12が十分に小さく、10.0×10-8Ω・m以下であった。次いで、試験体10が小さく、10.0×10-8Ω・m以下であった。次いで、試験体1が小さく、20.0×10-8Ω・m以下であった。これらに対して、試験体6~9は大きく、50.0×10-8Ω・mを超えた。このように、ステンレス鋼から成る2つの金属層を含むクラッド材で構成された試験体1~5の常温大気環境下の体積抵抗率は、ステンレス鋼の単板で構成された試験体6~9と比べて、十分に小さくなった。また、試験体1~5において、第2金属層にNiを用いた試験体1は大きく、Niよりも高導電性のCuまたはAlを用いた試験体2~5は試験体10(NW2201単板)と比べても十分に小さかった。
【0057】
これより、少なくともCrを含むステンレス鋼などの金属材料から成る2つの金属層(第1金属層と第3金属層)を有するクラッド材であっても、その2つの金属層と比べて体積抵抗率が小さいCuやAlなどの金属材料から成る金属層(第2金属層)を2つの金属層の間に有することによって、常温大気環境下の体積抵抗率が小さくなり、常温の導電性を相応に有する導電接続部材が得られることが判明した。
【0058】
<常温の機械的強さ>
常温大気環境下の機械的強さの評価を目的として、各試験体に対して常温大気環境下で引張試験を行って、各試験体の0.2%耐力を測定した。具体的には、各試験体の0.2%耐力は、全長が180mm、つかみ部の長さが45mm、肩部の半径が25mm、原標点距離が50mm、平行部の長さが70mm、平行部の幅が12.5mmのテストピースを準備し、JIS-Z2241:2011に準じて、所定の設定温度(30℃)で制御した室内で測定した。
【0059】
その結果、表1に示すように、常温大気環境下の0.2%耐力は、試験体2~4が450MPa以上、試験体9が400MPa以上、試験体5と8が300MPa以上、試験体6と7が200MPa以上、および、試験体1が150MPa以上であった。また、試験体10~12が100MPa未満であった。0.2%耐力が400MPa以上であった試験体9、300MPa以上であった試験体8、および、200MPa以上であった試験体6と7は、一般に、耐食性とともに機械的強さが要求される用途に適するステンレス鋼の単板である。また、0.2%耐力が100MPa未満であった試験体10~12は、いずれも導電性に優れる高純度金属の単板であるが、一般に、機械的強さが要求される用途に適さないとされている。
【0060】
これらに対して、常温大気環境下の0.2%耐力が450MPa以上であった試験体2~4は、ステンレス鋼よりも機械的強さが劣るC1020層(第2金属層)の両面にオーステナイト系ステンレス鋼から成る金属層(第1金属層と第3金属層)を有するクラッド材が圧延(圧下率15%、20%)調質されたものである。また、0.2%耐力が300MPa以上であった試験体5は、0.2%耐力がC1020の50%程度のA1050層(第2金属層)の両面にオーステナイト系ステンレス鋼から成る金属層(第1金属層と第3金属層)を有するクラッド材が焼鈍(500℃で保持)調質されたものである。また、0.2%耐力が150MPa以上であった試験体1は、0.2%耐力がC1020と同程度のNW2201層(第2金属層)の両面にフェライト系ステンレス鋼であるSUS430から成る金属層(第1金属層と第3金属層)を有するクラッド材が焼鈍(900℃で保持)調質されたものである。
【0061】
なお、試験体1の常温大気環境下の0.2%耐力は196MPaであり、試験体1~5の中で最も小さかった。しかし、試験体1、10と試験体5、12を対比して参酌すれば、たとえば、試験体1の調質条件(900℃保持の焼鈍)を試験体5(500℃保持の焼鈍)と同等にすることによって、材質・構成等が試験体1と同じSUS430/NW2201/SUS430)であっても、常温大気環境下で300MPa以上の0.2%耐力を有することが可能である。
【0062】
これより、少なくともCrを含むステンレス鋼などの金属材料から成る2つの金属層(第1金属層と第3金属層)と比べて、常温大気環境下で0.2%耐力が劣るCuやAlなどの金属材料から成る金属層(第2金属層)を有するクラッド材であっても、その金属層を常温大気環境下で0.2%耐力が高い2つの金属層の間に配置することによって、常温大気環境下の0.2%耐力が少なくとも150MPa以上となり、常温の機械的強さ(0.2%耐力)を相応に有する導電接続部材が得られることが判明した。
【0063】
<常温の耐食性>
常温大気環境下の耐食性の評価を目的として、各試験体に対して常温大気環境下の塩水噴霧試験を行って、各試験体の腐食状態を評価した。具体的には、塩水噴霧試験は、幅が70mmで長さが150mmのテストピースを準備し、JIS-Z2371:2015(附属書JC)のレイティングナンバ方法に準じて、所定の試験条件に制御して行った。なお、塩水噴霧室内は所定の設定温度(35℃)で制御し、塩水濃度を50g/L±5g/L、塩水噴霧のための圧縮空気の圧力を98kPa±10kPa、および、塩水噴霧時間を24hとした。また、腐食状態はレイティングナンバを用いて数値化した。具体的には、テストピースの中心部分(面積が約500mm)の表面状態を上記JISの附属書JCに記載の標準図と比較し、その表面状態に最も近いと判定し得る標準図のナンバを割り当てた。レイティングナンバは、たとえば、腐食の有無が肉眼で判別できない表面状態であれば10となり、腐食が全面的に確認される表面状態であれば0となる。
【0064】
その結果、表1に示すように、常温大気環境下の塩水噴霧試験によるレイティングナンバは、試験体1~10が10となり、試験体11と12が0となった。このように、常温の耐食性が比較的高いとされるステンレス鋼またはNiが表面になる試験体1~10のレイティングナンバが10となった。これに対して、常温の耐食性が比較的低いとされるCuまたはAlが表面になる試験体11と12のレイティングナンバが0となった。しかし、常温の耐食性が比較的低いとされるCuまたはAlから成る金属層(第2金属層)を含むクラッド材で構成された試験体1~5は、レイティングナンバが0ではなく、10となった。これは、常温の耐食性が比較的低いとされるCuまたはAlから成る金属層の両面が、常温の耐食性が比較的高いとされるステンレス鋼で被覆されているためと考えられる。
【0065】
これより、少なくともCrを含むステンレス鋼などの金属材料から成る2つの金属層(第1金属層と第3金属層)と比べて、常温の耐食性が劣るCuやAlなどの金属材料から成る金属層(第2金属層)を有するクラッド材であっても、その常温の耐食性が劣る金属層を常温の耐食性が高い2つの金属層の間に配置することによって、常温大気環境下の塩水噴霧試験によるレイティングナンバが10となり、常温の耐食性を相応に有する導電接続部材が得られることが判明した。
【0066】
<高温の導電性>
高温大気環境下の導電性の評価を目的として、試験体1~12の高温環境下(600℃付近)の体積抵抗率を求めた。具体的には、試験体1~5の体積抵抗率は、下記(1)~(3)の文献等に記載の試験体1~5の各層を構成する各金属の600℃付近の体積抵抗率を用いて、下記(4)に記載の式により算定した。また、試験体6~12の高温時の体積抵抗率は、下記(1)~(3)の文献等に記載の試験体6~12を構成する各金属の600℃付近の体積抵抗率を援用した。
(1)ステンレス鋼便覧第三版、ステンレス協会編、日刊工業新聞社1995年刊、ISBNコード:4-526-03618-8
(2)ステンレス協会(https://www.jssa.gr.jp/contents/)、HOME>ステンレスについて>Q&A>ステンレスの導電率、透磁率、熱膨張率などの物理的性質について(https://www.jssa.gr.jp/contents/faq-article/q6/)
(3)アルミニウム便覧、軽金属協会編、カロス出版1996年刊、ISBNコード:4-87432-010-4
(4)クラッド材の600℃付近の体積抵抗率=1/(A+B+C)、A=第1金属層の厚さ比率/第1金属層の600℃付近の体積抵抗率、B=第2金属層の厚さ比率/第2金属層の600℃付近の体積抵抗率、C=第3金属層の厚さ比率/第3金属層の600℃付近の体積抵抗率
【0067】
その結果、表1に示すように、高温大気環境下の体積抵抗率は、試験体2~5、11および12が十分に小さく、20.0×10-8Ω・m以下であった。次いで、試験体10が小さく、50.0×10-8Ω・m以下であった。次いで、試験体1が小さく、100.0×10-8Ω・m以下であった。これらに対して、試験体6~9は大きく、100.0×10-8Ω・mを超えた。このように、ステンレス鋼から成る2つの金属層を含むクラッド材で構成された試験体1~5の高温大気環境下の体積抵抗率は、ステンレス鋼の単板で構成された試験体6~9と比べて、十分に小さくなった。また、試験体1~5において、第2金属層にNiを用いた試験体1は大きく、Niよりも高導電性のCuまたはAlを用いた試験体2~5は試験体10(NW2201単板)と比べても十分に小さかった。
【0068】
これより、少なくともCrを含むステンレス鋼などの金属材料から成る2つの金属層(第1金属層と第3金属層)を有するクラッド材であっても、その2つの金属層と比べて高温大気環境下で体積抵抗率が小さいCuやAlなどの金属材料から成る金属層(第2金属層)を2つの金属層の間に有することによって、高温大気環境下の体積抵抗率が小さくなり、高温の導電性を相応に有する導電接続部材が得られることが判明した。
【0069】
<高温の機械的強さ>
高温大気環境下の機械的強さの評価を目的として、各試験体に対して高温大気環境下で引張試験を行って、各試験体の0.2%耐力を測定した。具体的には、各試験体の0.2%耐力は、全長が175mm、つかみ部の長さが40mm、肩部の半径が20mm、原標点距離が50mm、平行部の長さが57mm、平行部の幅が12.5mmのテストピースを準備し、JIS-G0567:2020に準じて、試験体を所定の設定温度(600℃)に加熱保持して測定した。なお、融点が約660℃のA1050を用いた試験体5と12は、加熱昇温によるA1050の軟化に起因して引張試験の途中で破断したので測定できなかった。
【0070】
その結果、表1に示すように、高温大気環境下の0.2%耐力は、試験体2、3、8および9が200MPa以上、試験体4が150MPa以上、試験体7が100MPa以上、および、試験体1と6が50MPa以上であった。また、試験体10と11が50MPa未満であった。0.2%耐力が100MPa以上であった試験体7~9は、一般に、耐熱性(機械的強さ)とともに高温耐食性が要求される用途に適するオーステナイト系ステンレス鋼の単板である。また、50MPa以上であった試験体6は、オーステナイト系ステンレス鋼よりも劣るが、耐熱性(機械的強さ)が要求される用途にも使用されるフェライト系ステンレス鋼(SUS430)の単板である。また、0.2%耐力が50MPa未満であった試験体10と11は、いずれも導電性に優れる高純度金属の単板であるが、600℃下ではNW2201もC1020も軟化するため、一般に、耐熱性(機械的強さ)が要求される用途に適さないとされている。
【0071】
これらに対して、0.2%耐力が200MPa以上であった試験体2と3および150MPa以上であった試験体4は、耐熱性(機械的強さ)が劣るC1020層(第2金属層)の両面にオーステナイト系ステンレス鋼から成る金属層(第1金属層と第3金属層)を有するクラッド材が圧延(圧下率15%、20%)調質されたものである。また、150MPa以上であった試験体4は、C1020層(第2金属層)の両面にオーステナイト系ステンレス鋼(SUS301)から成る金属層(第1金属層と第3金属層)を有するクラッド材が圧延(圧下率15%)調質されたものである。また、50MPa以上であった試験体1は、C1020の2倍程度のNW2201層(第2金属層)の両面にフェライト系ステンレス鋼(SUS430)から成る金属層(第1金属層と第3金属層)を有するクラッド材が焼鈍(900℃で保持)調質されたものである。また、試験体1の高温大気環境下の0.2%耐力は69MPaであり、0.2%耐力の測定ができた試験体1~4の中で最も小さかった。しかし、試験体1は、SUS430(試験体6参照)に劣るNW2201(試験体10参照)から成る金属層(第2金属層)を有するクラッド材で構成されているものの、60MPa以上で、試験体6の約70%程度の0.2%耐力を有することができている。
【0072】
これより、少なくともCrを含むステンレス鋼などの金属材料から成る2つの金属層(第1金属層と第3金属層)と比べて、高温大気環境下(600℃)で0.2%耐力が劣るCuやNiなどの金属材料から成る金属層(第2金属層)を有するクラッド材であっても、その金属層を高温大気環境下(600℃)で0.2%耐力が高い2つの金属層の間に配置することによって、高温大気環境下(600℃)の0.2%耐力が50MPa以上、好ましくは150MPa以上、より好ましくは200MPa以上となり、高温の機械的強さ(0.2%耐力)を相応に有する導電接続部材が得られることが判明した。
【0073】
<高温の耐食性>
高温大気環境下の耐食性の評価を目的として、JIS-Z2281:1993に規定される金属材料の高温連続酸化試験方法を参照し、各試験体に対して所定の条件で高温保持処理を行って、各試験体の酸化減量を測定した。具体的には、幅が20mmで長さが30mmのテストピースを準備し、高温保持処理前の各テストピースの表面積(A)を算定し、質量(W)を測定した。次いで、各テストピースに対して所定の条件で高温保持処理を行った。高温保持処理は、テストピースを坩堝に入れて、大気雰囲気下の恒温槽(幅260mm、高さ180mm、奥行300mm)内に配置し、恒温槽内を所定の設定温度(600℃)に達するまで加熱昇温し、所定の設定温度(600℃)で100時間の保持を行った後、そのまま室温まで冷却した。次いで、高温保持処理後の各テストピースの質量(W)を測定した。次いで、酸化減量(b)を算定した。この発明では、酸化減量(b)を、b=(W-W)/Aにより算定するものとする。なお、b≒0の場合、テストピースの表面に実質の酸化スケールが生成されず、高温耐食性を有することを意味する。また、b<0の場合は酸化スケールの剥離を意味し、b>0の場合は酸化スケールの成長を意味し、いずれの場合もbの絶対値に応じて、高温耐食性が低いことを意味する。
【0074】
その結果、表1に示すように、高温大気環境下の高温保持処理による酸化減量は、bの絶対値で、試験体5、8および12が最も小さく、0.3g/m以下であった。次いで、試験体4と9が十分に小さく、0.5g/m以下であった。次いで、試験体1と2が小さく、1.0g/m以下であった。次いで、試験体3と6が小さく、1.5g/m以下であった。これらに対して、試験体7と10は1.5g/mを超え、試験体11は最も大きく400g/mを超えた。このように、高温耐食性が比較的高いとされるステンレス鋼が表面である試験体1~6、8および9は、酸化減量が1.5g/m以下となった。これに対して、高温耐食性が低いCu(試験体11参照)が表面である試験体11は、酸化減量が1.5g/mを大きく超えた。これは、高温耐食性が低いCuから成る金属層の両面が、高温耐食性が高いステンレス鋼で被覆されているためと考えられる。
【0075】
また、高温耐食性が比較的低いと思われたA1050を有する試験体5と12は、酸化減量が0.3g/m以下であった。これは、試験体12(A1050単板)の場合、加熱の初期段階に表面酸化膜が生成され、その表面酸化膜がバリアとなって酸化が進行しなかったためと考えられる。また、試験体5(SUS304/A1050/SUS304)の場合、A1050層の表裏面に高温耐食性が高いSUS304層を有するとともに、A1050層の露出端面に生成した表面酸化膜がバリアになって酸化が進行しなかったためと考えられる。
【0076】
なお、試験体7(SUS316L単板)の酸化減量は2.08g/mとなった。しかし、試験体2(SUS316L/C1020/SUS316L)の酸化減量が0.75g/mとなったことを参酌すれば、たとえば、試験体7の調質条件(850℃程度で保持する焼鈍)を試験体2(圧下率20%の圧延)と同等にすることによって、酸化減量が1.0g/m以下になる可能性がある。
【0077】
これより、少なくともCrを含むステンレス鋼などの金属材料から成る2つの金属層(第1金属層と第3金属層)と比べて、高温耐食性が劣るCuなどの金属材料から成る金属層(第2金属層)を有するクラッド材であっても、その高温耐食性が劣る金属層を高温耐食性が高い2つの金属層の間に配置することによって、高温大気環境下の上記高温保持処理による酸化減量が1.5g/m以下、好ましくは1.0g/m以下、より好ましくは0.5g/m以下、より一層好ましくは0.3g/m以下となり、高温の耐食性を相応に有する導電接続部材が得られることが判明した。
【0078】
上述したように、試験体1、すなわち、SUS430層とNW2201層とSUS430層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成された導電接続部材は、体積抵抗率が小さく、常温大気環境下で十分な耐食性や機械的強さ(0.2%耐力)を有し、さらに、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有することが可能であることが確認された。
【0079】
また、試験体2、すなわち、SUS316L層とC1020層とSUS316L層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成された導電接続部材は、体積抵抗率が小さく、常温大気環境下で十分な耐食性や機械的強さ(0.2%耐力)を有し、さらに、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有することが可能であることが確認された。
【0080】
また、試験体3、すなわち、SUS304層とC1020層とSUS304層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成された導電接続部材は、体積抵抗率が小さく、常温大気環境下で十分な耐食性や機械的強さ(0.2%耐力)を有し、さらに、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有することが可能であることが確認された。
【0081】
また、試験体4、すなわち、SUS301層とC1020層とSUS301層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成された導電接続部材は、体積抵抗率が小さく、常温大気環境下で十分な耐食性や機械的強さ(0.2%耐力)を有し、さらに、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有することが可能であることが確認された。
【0082】
また、試験体5、すなわち、SUS304層とA1050層とSUS304層とが、この順に積層されて圧延接合されたクラッド材から構成された導電接続部材は、体積抵抗率が小さく、常温大気環境下で十分な耐食性や機械的強さ(0.2%耐力)を有することが可能であることが確認された。なお、常温大気環境下で好ましい諸特性を有することが可能な試験体5の導電接続部材は、600℃の高温大気環境下では、酸化減量が小さいことから高温耐食性を有することが可能と考えられるが、高温時の0.2%耐力が測定不可だったことから長期的使用に耐え得る機械的強さを有することが難しいと考えられる。
【0083】
以上、この発明によれば、用途や目的に応じて、クラッド材を構成する各層の材質や調質条件等を適切に選択することにより、体積抵抗率が小さく、常温大気環境下で十分な耐食性を有する導電接続部材を提供することができる。また、クラッド材を構成する各層の材質や調質条件等をより適切に選択することにより、600℃の高温大気環境下で長期的使用に耐え得る機械的強さ(0.2%耐力)や高温耐食性を有する導電接続部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0084】
1:導電接続部材
10:クラッド材
11:第1金属層
12:第2金属層
12a:第1接合部
12b:第2接合部
13:第3金属層
t:クラッド材の厚さ(全厚)
t1:第1金属層の厚さ
t2:第2金属層の厚さ
t3:第3金属層の厚さ
図1
図2