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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161836
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】構造発色する微粒子の水性分散体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/14 20060101AFI20221014BHJP
【FI】
C08L101/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044890
(22)【出願日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021066020
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
(72)【発明者】
【氏名】太田 匡哉
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA00W
4J002BC04X
4J002BE02W
4J002GC00
4J002GH01
4J002GP00
4J002HA07
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、製膜性に優れ、短い乾燥時間で構造色を発現することが可能で
あり、更に、微粒子間に容易にバインダー成分等を充填することができる構造体を得るた
めに最適な水性分散体を提供することにある。
【解決手段】微粒子と水溶性樹脂とを含有する水性分散体であって、該微粒子の個数平均
粒子径が50~450nm、個数基準による粒子径のCV値が10%以下であり、該微粒
子100質量部に対して該水溶性樹脂を0.001~0.4質量部含有する、水性分散体

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子と水溶性樹脂とを含有する水性分散体であって、
該微粒子の個数平均粒子径が50~450nm、個数基準による粒子径のCV値が10
%以下であり、
該微粒子100質量部に対して該水溶性樹脂を0.001~0.4質量部含有する、水
性分散体。
【請求項2】
ポリエステルフィルムに対する接触角が、ポリエステルフィルムに対する水の接触角よ
り2°以上低い、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項3】
固形分の濃度が10質量%以上である、請求項1又は2に記載の水性分散体。
【請求項4】
前記水溶性樹脂がイオン性の水溶性樹脂である、請求項1~3のいずれか一項に記載の
水性分散体。
【請求項5】
前記水溶性樹脂がイオン性のポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1~4のいず
れか一項に記載の水性分散体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の微粒子が配列して発色する、構造体。
【請求項7】
さらに、表面にオーバーコート層を有する、請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
配列した際に構造発色する微粒子と水溶性樹脂とを含有する水性分散体であって、
該微粒子100質量部に対して該水溶性樹脂を0.001~0.4質量部含有する、水
性分散体。
【請求項9】
ポリエステルフィルムに対する接触角が、ポリエステルフィルムに対する水の接触角よ
り2°以上低い、請求項8に記載の水性分散体。
【請求項10】
固形分の濃度が10質量%以上である、請求項8又は9に記載の水性分散体。
【請求項11】
前記水溶性樹脂がイオン性の水溶性樹脂である、請求項8~10のいずれか一項に記載
の水性分散体。
【請求項12】
前記水溶性樹脂がイオン性のポリビニルアルコール系樹脂である、請求項8~11のい
ずれか一項に記載の水性分散体。
【請求項13】
請求項8~12のいずれか一項に記載の微粒子が配列して発色する、構造体。
【請求項14】
さらに、表面にオーバーコート層を有する、請求項13に記載の構造体。
【請求項15】
請求項1~5又は8~12のいずれか一項に記載の水性分散体を用いた塗料組成物。
【請求項16】
請求項1~5又は8~12のいずれか一項に記載の水性分散体を用いたインク組成物。
【請求項17】
請求項1~5又は8~12のいずれか一項に記載の水性分散体を用いた化粧料。
【請求項18】
請求項1~5又は8~12のいずれか一項に記載の水性分散体を用いた装飾用フィルム
【請求項19】
請求項1~5又は8~12のいずれか一項に記載の水性分散体を用いた光学材料。
【請求項20】
請求項6,7,13又は14に記載の構造体を用いた塗料組成物。
【請求項21】
請求項6,7,13又は14に記載の構造体を用いたインク組成物。
【請求項22】
請求項6,7,13又は14に記載の構造体を用いた化粧料。
【請求項23】
請求項6,7,13又は14に記載の構造体を用いた装飾用フィルム。
【請求項24】
請求項6,7,13又は14に記載の構造体を用いた光学材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造発色する微粒子の水性分散体、及びその微粒子が配列して構造発色する
構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造発色とは光の波長またはそれ以下の微細構造による発色現象を指し、身近な構造色
の例としては、コンパクトディスク、シャボン玉、モルフォ蝶、玉虫等が挙げられる。こ
れらの例では、それ自身には色がついていないが、その微細な構造によって光が干渉する
ため、色づいて見える。
近年、構造色を発現するような規則正しい周期的な構造を人工的に作成する開発が進め
られている。例えば、粒子径が単分散の微粒子が媒体中に分散した分散体を用い、これを
流し込み、噴射、塗布、流動等で微粒子を配列・整合・乾燥・固定させて、基材上に微粒
子が平面方向に規則的に配列した構造体を製造する方法が種々提案されている。
【0003】
このような微粒子を規則配列したものとしてコロイド結晶が知られており、このような
コロイド結晶はBragg反射をし、構造色を発現することが知られている。また、これ
を色材や赤外線反射膜に応用する研究開発がされてきている。
コロイド結晶を形成して構造色を発現する方法として、特許文献1では、コア部及びシ
ェル部からなるコアシェル粒子を用い、加熱により融着するシェル部の流動性を利用して
、塗装のみでコロイド結晶を安価に形成する方法が提案されている。
また、特許文献2では、有機ポリマー粒子の分散体中にカルボキシメチルセルロースナ
トリウム等のハイドロゲル能を有する水溶性樹脂を、有機ポリマー粒子100質量部に対
して、0.5~2.2質量部配合することで、構造色を発現する膜を形成する方法が提案
されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-249517号公報
【特許文献2】特開2016-187803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案された方法では、コロイド結晶を形成するための加熱
処理時間が長いという課題があった。
また特許文献2で提案された方法では、構造色の発現が十分ではなく、膜を形成するた
めの乾燥時間が長いという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記の課題を解決することにある。即ち、製膜性に優れ、短い乾燥時
間で構造色を発現することが可能であり、更に、微粒子間に容易にバインダー成分等を充
填することができる構造体を得るために最適な水性分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、微粒子に特定の水溶性樹
脂を特定量配合することを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
[1] 微粒子と水溶性樹脂とを含有する水性分散体であって、
該微粒子の個数平均粒子径が50~450nm、個数基準による粒子径のCV値が10
%以下であり、
該微粒子100質量部に対して該水溶性樹脂を0.001~0.4質量部含有する、水
性分散体。
[2] ポリエステルフィルムに対する接触角が、ポリエステルフィルムに対する水の接
触角より2°以上低い、[1]に記載の水性分散体。
[3] 固形分の濃度が10質量%以上である、[1]又は[2]に記載の水性分散体。
[4] 前記水溶性樹脂がイオン性の水溶性樹脂である、[1]~[3]のいずれかに記
載の水性分散体。
[5] 前記水溶性樹脂がイオン性のポリビニルアルコール系樹脂である、[1]~[4
]のいずれかに記載の水性分散体。
【0009】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の微粒子が配列して発色する、構造体。
[7] さらに、表面にオーバーコート層を有する、[6]に記載の構造体。
[8] 配列した際に構造発色する微粒子と水溶性樹脂とを含有する水性分散体であって

該微粒子100質量部に対して該水溶性樹脂を0.001~0.4質量部含有する、水
性分散体。
[9] ポリエステルフィルムに対する接触角が、ポリエステルフィルムに対する水の接
触角より2°以上低い、[8]に記載の水性分散体。
[10] 固形分の濃度が10質量%以上である、[8]又は[9]に記載の水性分散体
【0010】
[11] 前記水溶性樹脂がイオン性の水溶性樹脂である、[8]~[10]のいずれか
に記載の水性分散体。
[12] 前記水溶性樹脂がイオン性のポリビニルアルコール系樹脂である、[8]~[
11]のいずれかに記載の水性分散体。
[13] [8]~[12]のいずれかに記載の微粒子が配列して発色する、構造体。
[14] さらに、表面にオーバーコート層を有する、[13]に記載の構造体。
[15] [1]~[5]又は[8]~[12]のいずれかに記載の水性分散体を用いた
塗料組成物。
【0011】
[16] [1]~[5]又は[8]~[12]のいずれかに記載の水性分散体を用いた
インク組成物。
[17] [1]~[5]又は[8]~[12]のいずれかに記載の水性分散体を用いた
化粧料。
[18] [1]~[5]又は[8]~[12]のいずれかに記載の水性分散体を用いた
装飾用フィルム。
[19] [1]~[5]又は[8]~[12]のいずれかに記載の水性分散体を用いた
光学材料。
[20] [6],[7],[13]又は[14]に記載の構造体を用いた塗料組成物。
【0012】
[21] [6],[7],[13]又は[14]に記載の構造体を用いたインク組成物

[22] [6],[7],[13]又は[14]に記載の構造体を用いた化粧料。
[23] [6],[7],[13]又は[14]に記載の構造体を用いた装飾用フィル
ム。
[24] [6],[7],[13]又は[14]に記載の構造体を用いた光学材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性分散体は、被塗布基材への濡れ性に優れ、分散媒に含まれる高粘度成分が
少ないため、微粒子の配列を阻害することがなく、製膜性に優れる。
本発明の構造体は、膜表面が均一であるため、構造発色性が良好となる。また、微粒子
間に容易にバインダー成分等を充填することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本
発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容
に限定されない。
また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あ
るいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値ある
いは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。
【0015】
本発明の水性分散体は、微粒子と水溶性樹脂を含有する。
【0016】
[微粒子]
本発明の微粒子は、個数平均粒子径が50~450nm、個数基準による粒子径のCV
値が10%以下であればよい。
前記微粒子は個数平均粒子径と個数基準による粒子径のCV値が上記範囲内であれば、
特に制限されるものではなく、有機微粒子であっても、無機微粒子であってもよい。
【0017】
有機微粒子と無機微粒子の中では、組成制御等、反応条件を精密に制御しやすく、大き
さや形状の揃った微粒子を得やすいため、有機微粒子が好ましい。
【0018】
[個数平均粒子径]
本発明の微粒子の個数平均粒子径は50~450nmである。
個数平均粒子径が上記範囲内であれば、構造発色性が良好となることから好ましい。
本発明の個数平均粒子径の測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0019】
[個数基準による粒子径のCV値]
本発明の微粒子の個数基準による粒子径のCV値は10%以下である。
CV値は、「変動係数」又は「相対標準偏差」とも称され、本発明では (標準偏差/
個数平均粒子径)×100 で算出している。
個数基準による粒子径のCV値が上記範囲内であれば、構造発色性が良好となることか
ら好ましい。
本発明の個数基準による粒子径のCV値の測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0020】
[有機微粒子]
本発明の有機微粒子は、一般的な高分子からなる微粒子を表す。
一般的な高分子としては、例えば、ポリアミド類、ポリイミド類、低密度ポリエチレン
、高密度ポリエチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリスチレン及びその誘導
体等のポリスチレン類、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂類、ポリカーボネートが挙げら
れる。
【0021】
これらの中でも、原材料の入手が容易であり、粒子径の揃った微粒子を生産することが
容易なことから、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリスチレン類が好ましく、高屈
折率の重合体が得られることから、ポリスチレン類がより好ましい。
高屈折率の重合体は、粒子内外の屈折率差が大きくなり、構造発色性が向上することか
ら好ましい。
有機微粒子は、非架橋高分子であっても、架橋高分子であってもよい。
【0022】
本発明の有機微粒子は、本発明の効果を達成するため、粒子径が揃っていることが必要
である。
粒子径の揃った有機微粒子を得るには、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液
重合等で適当な大きさの重合体を得て、これを粉砕して微粉とし、篩分等の操作により粒
子径を揃える方法がある。また、ソープフリー乳化重合によって、粒子径の揃った有機微
粒子を直接得る方法がある。
これらの中では、生産性に優れることから、ソープフリー乳化重合による方法が好まし
い。
【0023】
[ポリ(メタ)アクリル酸エステル類]
本発明のポリ(メタ)アクリル酸エステル類とは、(メタ)アクリル酸エステル単位を
主成分とする重合体である。ここで主成分とは、重合体全体に対して(メタ)アクリル酸
エステル単位の含有率が50質量%以上、更には60質量%以上であることを表す。
【0024】
(メタ)アクリル酸エステル単位の原料となる(メタ)アクリル酸エステルとしては、
例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プ
ロピル、(メタ)アクリル酸ブチルが挙げられる。
【0025】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル類は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよ
いが、一般的にはランダム共重合体である。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル類は、上述の(メタ)アクリル酸エステルの他に、任
意の単量体を共重合してもよい。
【0026】
任意の単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン等のスチレン類;スチレン
スルホン酸のナトリウム塩等の金属塩;アクリル酸、メタクリル酸等の酸性単量体;アク
リルアミド、N-プロピルアクリルアミド等のアクリルアミド類が挙げられる。
これらの中で、粒子径の制御が良好となることから、スチレンスルホン酸のナトリウム
塩等の金属塩が好ましい。
また、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類に架橋構造を導入する場合には、公知の多官
能単量体を共重合すればよい。
【0027】
[ポリスチレン類]
本発明のポリスチレン類とは、スチレン単位を主成分とする重合体である。ここで主成
分とは、重合体全体に対してスチレン単位の含有率が50質量%以上、更には60質量%
以上であることを表す。
ポリスチレン類は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよいが、一般的にはラ
ンダム共重合体である。
ポリスチレン類は、スチレンの他に、任意の単量体を共重合してもよい。
【0028】
任意の単量体としては、例えば、メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン以外の
スチレン類;スチレンスルホン酸のナトリウム塩等の金属塩;アクリル酸、メタクリル酸
等の酸性単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)ア
クリル酸エステル類;アクリルアミド、N-プロピルアクリルアミド等のアクリルアミド
類が挙げられる。
これらの中で、粒子径の制御が良好となることから、スチレンスルホン酸のナトリウム
塩等の金属塩が好ましい。
また、ポリスチレン類に架橋構造を導入する場合には、公知の多官能単量体を共重合す
ればよい。
【0029】
[ポリスチレン類の組成]
ポリスチレン類は、スチレン単位を80.0~99.75質量%含有することが好まし
い。スチレン単位の含有率が上記範囲内であれば、粒子の屈折率が高くなり、構造発色性
が向上することから好ましい。
スチレン単位の含有率は90.0質量%以上がより好ましい。また、99.4質量%以
下がより好ましい。
【0030】
ポリスチレン類は、アクリル酸単位、メタクリル酸単位等の酸性単量体単位を0.25
~20.0質量%含有することが好ましい。酸性単量体単位の含有率が上記範囲内であれ
ば、重合時のカレットが低減することから好ましい。
酸性単量体単位の含有率は0.6質量%以上がより好ましい。また、10.0質量%以
下がより好ましい。
【0031】
ポリスチレン類が、前記酸性単量体単位以外の任意の単量体単位及び/又は多官能単量
体単位を含有する場合、その含有率は3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ま
しい。
前記含有率が3質量%以下であれば、粒子径の制御が良好となる。
【0032】
[有機微粒子の製造方法]
本発明の有機微粒子はソープフリー乳化重合によって得ることが好ましい。ソープフリ
ー乳化重合は公知の重合方法であり、例えば下記の通りである。
反応容器にイオン交換水を仕込み、必要に応じて加熱、攪拌しながら、重合助剤を加え
、重合助剤をイオン交換水に十分に分散させる。次に攪拌を続けながら重合開始剤を添加
する。その後、攪拌を続けながら単量体を逐次滴下し、重合反応を開始させる。重合の進
行に従って粒子が形成される。
【0033】
重合時の固形分濃度、即ち、重合時の系全体に対する有機微粒子の濃度は20~40質
量%が好ましい。
重合時の固形分濃度が前記下限以上であれば、有機微粒子の生産性が向上する。また、
前記上限以下であれば、重合時のカレット及び重合装置内壁等への付着物の発生がない。
重合温度は重合開始剤を使用した場合には、一般に60~90℃に設定される。反応終
了後、有機微粒子をエマルションとして取り出す。
【0034】
ソープフリー乳化重合で用いる重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫
酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤;過酸化ベンゾイル、ラウリルパ
ーオキサイド等の油溶性重合開始剤;酸化剤と還元剤との組み合わせによるレドックス系
重合開始剤が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、取扱いが容易な点から水溶性重合開始剤が好ましい。
【0035】
[無機微粒子]
本発明の無機微粒子は、金属粒子や金属酸化物である。
これらの中では、入手が容易でかつ、透過性に優れるという理由で、シリカ微粒子が好
ましい。
【0036】
[水溶性樹脂]
本発明の水溶性樹脂とは、高分子化合物の内で、水に溶解するか少なくとも水に分散す
る物質である。
水溶性樹脂は、分子内にスルホニル基、カルボキシル基等のイオン性基;水酸基等の水
溶性置換基を有しており、水に溶解する。
本発明の水性分散体において、水溶性樹脂は、均一な塗膜を形成することを可能とする
【0037】
水溶性樹脂には、非イオン性の水溶性樹脂と、イオン性の水溶性樹脂がある。
非イオン性の水溶性樹脂としては、例えば、水溶性ポリアクリルアミド、水溶性アクリ
ル系樹脂、非イオン性のポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエチ
レンオキサイド、ポリ酢酸ビニル;デンプン、ゼラチン、カゼイン等の天然高分子化合物
が挙げられる。
イオン性の水溶性樹脂としては、例えば、水溶性ポリエステル樹脂、ポリアクリル酸、
イオン性のポリビニルアルコール系樹脂、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0038】
これらの中では、高分子主鎖の耐加水分解性が高い理由で、非イオン性のポリビニルア
ルコール系樹脂及び/又はイオン性のポリビニルアルコール系樹脂を用いることが好まし
い。
また、水溶性樹脂の中では、イオン強度が向上することから、イオン性の水溶性樹脂が
好ましい。
【0039】
[イオン性の水溶性樹脂]
イオン性の水溶性樹脂とは、アニオン性又はカチオン性の部位を有する水溶性樹脂のこ
とであり、具体的には上述の通りである。
イオン性の水溶性樹脂の中では、耐溶剤性に優れるという理由で、イオン性のポリビニ
ルアルコール系樹脂が好ましい。
【0040】
[イオン性のポリビニルアルコール系樹脂]
イオン性のポリビニルアルコール系樹脂とは、分子鎖中に、スルホニル基又はその塩;
カルボキシル基又はその塩;4級アンモニウム塩等のイオン性基を含むポリビニルアルコ
ール系樹脂である。
【0041】
イオン性のポリビニルアルコール系樹脂として、具体的には、分子鎖中にスルホニル基
のナトリウム塩を含むポリビニルアルコール系樹脂、分子鎖中にカルボキシル基のナトリ
ウム塩を含むポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。
これらの中では、塩が解離しやすいという理由で、スルホニル基のナトリウム塩を含む
ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
【0042】
イオン性のポリビニルアルコール系樹脂の市販品としては、例えば、ゴーセネックス(
三菱ケミカル社製、特殊変性ポリビニルアルコール系樹脂)が挙げられる。
【0043】
[水性分散体]
本発明の水性分散体は、前記微粒子と前記水溶性樹脂とを含有する。ここで水性分散体
とは、微粒子と水溶性樹脂が、水を主体とする媒体に分散していることを意味する。
水を主体とする媒体とは、水の比率が50質量%以上、更には60質量%以上であるこ
とを表す。水以外の成分としては、水に可溶な任意の有機溶媒を選択することができる。
【0044】
水溶性樹脂の含有量は、微粒子100質量部に対して0.001~0.4質量部である

水溶性樹脂の含有量は、微粒子100質量部に対して、0.005~0.4質量部が好
ましく、0.01~0.4質量部がより好ましく、0.05~0.4質量部が更に好まし
い。
水溶性樹脂の含有量が上記範囲内であれば製膜性が良好となる。
【0045】
[濃度]
水性分散体の固形分の濃度は10質量%以上である。
水性分散体の固形分の濃度は20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好まし
い。また、水性分散体の固形分濃度の上限値は60質量%以下が好ましく、50質量%以
下がより好ましい。
水性分散体の固形分濃度が上記範囲内であれば製膜性が良好となり、得られる構造体の
構造発色性が良好となる。
本発明の固形分の測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0046】
[接触角]
本発明の水性分散体は、ポリエステルフィルムに対する接触角が、ポリエステルフィル
ムに対する水の接触角より2°以上低いことを特徴とする。
ポリエステルフィルムに対する水性分散体の接触角は、ポリエステルフィルムに対する
水の接触角より2°以上低いことが好ましく、3°以上低いことがより好ましい。
また、接触角差の上限値は20°である。
【0047】
ここで、ポリエステルフィルムとは、ポリエチレンテレフタレート樹脂のフィルムに必
要に応じてプラズマ処理等の表面処理を施したものである。
ここで水とは、イオン交換水である。
本発明の接触角の測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0048】
[構造発色]
本発明の微粒子は、構造発色性を有する。構造発色とは、粒子径の揃った微粒子が規則
的に配列したときに構造色を発現することを意味する。
構造発色とは、微粒子が規則正しく配列した結晶構造を有しているため、光の波長によ
って干渉や散乱等の光学物理的現象が起こり発色して見える現象のことである。
【0049】
構造発色は光の性質によるものであるから、可視光領域のみではなく、紫外線領域、赤
外線領域でも同様に発現する。
紫外線領域で構造色を発現させるには、個数平均粒子径が小さい微粒子を用いればよく
、赤外線領域で構造色を発現させるには、個数平均粒子径が大きい微粒子を用いればよい

本発明では、物品の意匠性の向上のために構造発色を利用することから、可視光領域で
の構造色を発現することが好ましい。
【0050】
ここで可視光領域とは波長360~830nmを表し、紫外線領域とは波長200~3
59nmを表し、赤外線領域とは波長831~2500nmを表す。
【0051】
[構造体とその製造方法]
本発明の構造体は、前記微粒子が周期的に配列し、構造色を発現する物である。
ここで、配列とは、微粒子がコロイド結晶を形成すること、または、コロイドアモルフ
ァス結晶を形成することをいう。
構造色を発現する物とは、粒子径の揃った微粒子が規則的に配列して光の回折・干渉が
起こり、見る角度によって色が変化して見える角度依存性のある色を呈する物をいう。
【0052】
本発明の水性分散体は、水溶性樹脂を含有する。微粒子を配列させた場合に、水溶性樹
脂は、水性分散体の表面張力を低下させ、高い構造発色性を維持したまま、製膜性を向上
させる効果を発現するものと考えられる。
これにより、本発明の水性分散体を用いて得た構造体は、水溶性樹脂を含有しない水性
分散体を用いて得た構造体に対して、製膜性が良好である。
【0053】
本発明の構造体の製造方法は、例えば下記の通りである。
ソープフリー乳化重合で得られた微粒子のエマルションに水溶性樹脂を適量配合し、こ
れを適宜希釈する。これを平滑な基材の上に塗布する。次いで、適切な温度で乾燥させて
、構造体を得る。
【0054】
本発明の微粒子は粒子径が揃っていることから、周期的に配列することによりコロイド
結晶化し、構造色を発現するという特徴を有する。
【0055】
本発明の構造体は、前記微粒子が周期的に配列し、構造色を発現する物である。
構造体としては、例えば、基材上に微粒子が配列した物、基材上に微粒子が配列した物
から微粒子の周期的な配列を損なうことなくコロイド結晶を剥離した物が挙げられる。
基材としては、特に制限されるものではなく、金属、樹脂、木材、紙等の一般的な材料
を用いることが可能である。
表面保護の目的で、必要に応じて構造体の表面にオーバーコート層を設けてもよい。
【0056】
基材としてフィルム状の材料を用いた場合、得られる構造体はフィルム状となる。
フィルム状の構造体には、表面保護の目的で、必要に応じて表面にオーバーコート層を
設けてもよい。
【0057】
[オーバーコート層]
オーバーコート層は構造体の表面を保護するための層であり、構造体の表面に膜を形成
する材料であれば、特に限定されるものではない。
オーバーコート層は、微粒子の表面を覆うことに加えて、微粒子の間に充填されること
が好ましい。
オーバーコート層を構成する樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルウレタン
樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。
樹脂の形態としては、任意の溶剤で希釈した樹脂溶液、または水に分散させたエマルシ
ョンが一般的である。
【0058】
オーバーコート層の厚さとしては、特に限定されるものではなく、構造体の微粒子を覆
う厚さ以上であればよい。
オーバーコート層は、構造体上に前記樹脂溶液又はエマルションを薄膜塗布し、必要に
応じて熱処理等を加えて、構造体の表面に形成することができる。
【0059】
[用途]
本発明の水性分散体は、被塗布基材への濡れ性に優れ、分散媒に含まれる高粘度成分が
少ないため、微粒子の配列を阻害することがなく、製膜性に優れる。本発明の構造体は、
膜表面が均一であるため、構造発色性が良好となる。また、微粒子間に容易にバインダー
成分等を充填することができる。
これらの特徴から、本発明の水性分散体は、単独または二次加工材として、例えば、建
築用塗料、自動車用塗料、プラスチック用塗料等の塗料組成物;インクジェット記録用イ
ンク、グラビア印刷用インク、文具用インク等のインク組成物;ファンデーション、口紅
、リップクリーム、頬紅、眉毛化粧品、マニキュア化粧品等の化粧料;カラーシート、加
飾フィルム等の装飾用フィルム;反射型ディスプレイ、変色センサー、偽造防止剤、電着
カラー板、カラーフィルター、偏光フィルム等の光学材料に好適に用いられる。
【0060】
また、本発明の構造体は、単独または二次加工材として、例えば、建築用塗料、自動車
用塗料、プラスチック用塗料等の塗料組成物;インクジェット記録用インク、グラビア印
刷用インク、文具用インク等のインク組成物;ファンデーション、口紅、リップクリーム
、頬紅、眉毛化粧品、マニキュア化粧品等の化粧料;カラーシート、加飾フィルム等の装
飾用フィルム;反射型ディスプレイ、変色センサー、偽造防止剤、電着カラー板、カラー
フィルター、偏光フィルム等の光学材料に好適に用いられる。
【0061】
上記の各種用途では、本発明の水性分散体を直接の原材料として用いてもよい。
また、微粒子が配列した構造体を原材料とし、微粒子が配列した状態を維持したまま、
マトリクスとなる材料に分散させて用いてもよい。
【実施例0062】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない
限り、以下の実施例により限定されるものではない。
尚、以下の記載において、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を
示す。
以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0063】
[評価方法]
(1)個数平均粒子径
微粒子のエマルションを基材に塗布し、乾燥させた後、倍率2万倍以上の電子顕微鏡で
、微粒子の画像を観察した。画像中、少なくとも400個の微粒子の直径を測定し、これ
を算術平均して個数平均粒子径を求めた。
【0064】
(2)粒子径のCV値
上記の少なくとも400個の微粒子の直径の測定値を用い、(標準偏差/平均粒子径)
×100 の計算をし、個数基準による粒子径のCV値を求めた。
【0065】
(3)固形分濃度
エマルションの固形分濃度は、エー・アンド・デイ株式会社製、加熱乾燥式水分計MX
-50を用い、10gのエマルションを190℃で60分加熱して水分を蒸発させること
により求めた。
【0066】
(4)接触角の差
接触角は、以下のようにして求めた。
協和界面科学製のDM-300を使用し、プラズマ処理を施したポリエステルフィルム
(東レフィルム製、ルミラー(黒色) 100μm厚)の上に、水性分散体の2μLの液
滴を作製し、25℃、60%RHの環境下で、着滴60秒後の接触角を2点測定し、平均
値を算出した。
また、同様の条件でイオン交換水の接触角を測定した。
次いで、「イオン交換水の接触角」-「水性分散体の接触角」を計算して、接触角の差
を求めた。
【0067】
(5)製膜性
製膜性は、以下のようにして求めた。
ワイヤーバー(OSG製、OSP-15)を使用し、プラズマ処理を施したポリエステ
ルフィルム(東レフィルム製、ルミラー(黒色) 100μm厚)の上に、水性分散体を
15mm/秒で塗布し、塗布時の液幅と、25℃×30分静置した後の塗布膜の幅から、
下記式に基づいて算出した。
製膜性評価指数=(静置後の塗布膜の幅/塗布時の液幅)
評価基準
◎:製膜性評価指数が0.9以上
○:製膜性評価指数が0.7以上0.9未満
×:製膜性評価指数が0.7未満
【0068】
(6)発色性
発色性は、以下のようにして求めた。
製膜後の構造体の表面に白色光を照射した際の構造色の反射光について、下記の評価基
準に基づいて判断した。
◎:単色金属光沢が確認されて色の角度依存性が確認された場合
△:金属光沢は確認されないが単色反射が確認された場合
×:単色の反射が確認できない場合
【0069】
[原材料等]
スチレン(デンカ社製)
アクリル酸(三菱ケミカル社製)
スチレンスルホン酸ナトリウム(東ソーファインケム社製)
炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光社製)
過硫酸アンモニウム(関東化学社製)
【0070】
水溶性樹脂
イオン性PVA:アニオン性のポリビニルアルコール系樹脂(三菱ケミカル社製、ゴ
ーセネックスCKS50)
水溶性ポリエステル:アニオン性のポリエステル樹脂(三菱ケミカル社製、ニチゴー
ポリエスターWR905)
非イオン性PVA:非イオン性のポリビニルアルコール系樹脂(三菱ケミカル社製、
ニチゴーGポリマー)
【0071】
[実施例1]
スチレン98.4部とアクリル酸1.5部を混合し、単量体混合液を調整した。
一方、スチレンスルホン酸ナトリウム0.1部、炭酸水素ナトリウム0.15部をイオ
ン交換水16.4部に溶解させた助剤溶液[A]を調整した。
撹拌装置、加熱冷却装置、窒素導入装置、及び、原料・助剤仕込み装置を備えた反応容
器に、イオン交換水177.5部を仕込み、次いで、150rpmで回転させながら助剤
溶液[A]を仕込み、内温を80℃に昇温させた。
次に、反応容器に過硫酸アンモニウム0.42部をイオン交換水33.7部に溶解させ
た開始剤溶液を投入し、5分後に単量体混合液を3時間かけて逐次滴下した。
単量体混合液の滴下終了後、5時間かけて重合処理を行なった。単量体混合液滴下終了
後の重合反応中、液面の高さが変わらないよう、イオン交換水を適宜添加した。
その後、重合反応物を不織布ガーゼ(トリート)で濾過して、有機微粒子のエマルショ
ンを得た。
【0072】
得られた有機微粒子は、個数平均粒子径246nm、CV値6.4%、固形分濃度29
.0%、収率98.5%であった。
有機微粒子は、用いた単量体混合液が1種類であることから均一な粒子であり、Tgは
Foxの式から算出して100℃であった。
【0073】
このエマルションに、水溶性樹脂としてイオン性PVAを、有機微粒子100部に対し
て0.01部添加し、アンモニア水で中和した後、固形分濃度28%になるようにイオン
交換水で希釈し、水性分散体を調整した。
水性分散体をよく分散させた後、プラズマ処理を施したポリエステルフィルム(東レフ
ィルム製、ルミラー(黒色) 100μm厚)の上に、ワイヤーバー(OSG製、OSP
-15)を用いて、15mm/秒で塗布し、25℃×3分乾燥させることで構造体を得た
【0074】
[実施例2]
水溶性樹脂としてイオン性PVAを、有機微粒子100部に対して0.05部添加した
こと以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。
【0075】
[実施例3]
水溶性樹脂としてイオン性PVAを、有機微粒子100部に対して0.1部添加したこ
と以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。
【0076】
[実施例4]
水溶性樹脂としてイオン性PVAを、有機微粒子100部に対して0.4部添加したこ
と以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。
【0077】
[実施例5]
水溶性樹脂として水溶性ポリエステルを有機微粒子100部に対して0.05部添加し
たこと以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。
【0078】
[実施例6]
水溶性樹脂として非イオン性PVAを有機微粒子100部に対して0.05部添加した
こと以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。
【0079】
[実施例7]
水溶性樹脂として非イオン性PVAを有機微粒子100部に対して0.1部添加したこ
と以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。
【0080】
[比較例1]
水溶性樹脂を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。
【0081】
[比較例2]
水溶性樹脂としてイオン性PVAを有機微粒子100部に対して0.5部添加したこと
以外は、実施例1と同様にして構造体を得た。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示す通り、本発明の水性分散体を用いた実施例1~7は、製膜性と発色性に優れ
ることがわかった。
非イオン性の水溶性樹脂(非イオン性PVA)を0.05部及び0.1部用いた実施例
6,7に比べて、イオン性の水溶性樹脂(イオン性PVA)を0.05部及び0.1部用
いた実施例2,3は、発色性が良好であった。これより、非イオン性の水溶性樹脂よりも
イオン性の水溶性樹脂を用いる方が好ましいことがわかった。
【0084】
これに対して、水溶性樹脂を用いなかった比較例1は、製膜性が十分ではなく、発色性
も十分ではなかった。
水溶性樹脂を0.5部用いた比較例2は、製膜性は十分であったが、発色性は十分では
なかった。