(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161918
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】マイクロカプセル
(51)【国際特許分類】
B01J 13/04 20060101AFI20221014BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20221014BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20221014BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B01J13/04
B01J13/00 A
C08L29/04 A
C08K5/14
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121160
(22)【出願日】2022-07-29
(62)【分割の表示】P 2019037343の分割
【原出願日】2019-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 宏明
(72)【発明者】
【氏名】川窪 紀彦
(57)【要約】
【課題】製造されたビニル系重合体において、フィッシュアイを低減できるマイクロカプセルを提供すること。
【解決手段】マイクロカプセルは、コア/シェル構造を有し、上記シェルは、水溶性高分子を含み、上記コアは、有機過酸化物を含む。上記水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレンオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。上記ポリビニルアルコールは、鹸化度が80mol%以上99.5mol%以下であり、かつ平均重合度が1500以上3500以下である部分鹸化ポリビニルアルコールであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア/シェル構造を有し、前記シェルは、水溶性高分子を含み、前記コアは、有機過酸化物を含み、
該水溶性高分子は、ポリビニルアルコールであり、前記ポリビニルアルコールは鹸化度が82モル%以上98モル%以下であり、
該有機過酸化物は、ベンゼン中、濃度0.1mol/Lにおける10時間半減期温度が70℃以下である、
マイクロカプセル。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールは、平均重合度が1500以上3500以下である部分鹸化ポリビニルアルコールである、
請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
前記マイクロカプセルは、メディアン径(D50)が15μm以下である、
請求項1または2に記載のマイクロカプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラジカル反応によるビニル系単量体(たとえば塩化ビニル単量体)の重合開始剤として、有機過酸化物が知られている。有機溶剤で希釈したり、水でエマルション化したりした有機過酸化物は、取扱いが容易で、かつ安全性にも優れているため実用化されている。
【0003】
一般に、塩化ビニル単量体の重合または塩化ビニル単量体およびこれと共重合可能な単量体の重合は、回分式の懸濁重合法で行われている。すなわち、重合器中に、水性媒体、上記単量体および分散剤(懸濁剤)を仕込み、次いで上述した形態の重合開始剤を仕込み、続いてジャケットに熱水を通して、重合器内を所定の重合反応温度になるまで昇温して重合反応を行う方法である。
【0004】
近年、塩化ビニル系重合体の製造では、生産性向上を目的として、重合器の大型化と重合時間の短縮化とが図られている。重合時間の短縮化の方法の一つとして、仕込む重合開始剤の量を増して重合速度を増大させる方法がある。しかし、大型化された重合器では重合開始剤の量を増すと、重合器内で重合開始剤が均一に分散されるまでに時間を要するため、重合開始剤の濃度分布の不均一化が生じる。これにより、ガラス状粒子と呼ばれる内部空隙の少ない粒子が部分的に生成し、フィッシュアイが増加するという問題があった。
【0005】
別の重合時間の短縮化の方法として、塩化ビニル単量体を先に仕込み、続いて温水を連続的に仕込むことにより、昇温時間を短縮して生産性を上げる方法がある。この方法では、仕込む温水の温度によって温水仕込み終了時点の内温をある程度調節することが可能となる。このように、仕込み終了時点での内温を所定重合温度付近にすることによって実質的に昇温時間を短縮できる(本明細書において、この方法を高温水仕込み重合法ともいう。)。しかし、この方法は従来の方法に比べ重合開始剤を仕込む際の重合器内の温度が高いために、重合開始剤が仕込まれた近傍で重合反応が急速に進行してしまう。その結果重合開始剤の濃度分布の不均一化がより生じ易く、フィッシュアイが増加するという問題があった。
【0006】
塩化ビニル系重合体は、安価で優れた物理的性質を有する有用な樹脂であり、軟質分野、硬質分野等幅広い用途に用いられている。その用途の例として、軟質分野では被覆電線、ラップフィルム、シートなどが挙げられる。ラップフィルムやシートといった製品の表面は、均一でなければならず、特にフィッシュアイの発生は避けなければならない。フィッシュアイとなる粒子に関しては、コンタミ等樹脂以外の異物や、塩化ビニル系重合体の製造工程内にある乾燥工程で部分的に強加熱されたことで生じる樹脂も原因の一つである。一方、このようなフィッシュアイの解消ではなく、重合器内で生成する塩化ビニル系重合体粒子そのものをフィッシュアイとなり難くすることも試みられている。
【0007】
具体的には、従来、可塑剤吸収性の良い塩化ビニル系重合体を製造すると、フィッシュアイが低減されることがよく知られており、これまで可塑剤吸収性の優れた塩化ビニル系重合体の製造方法が多数報告されている。たとえば、特許文献1には、(1)平均重合度が150~600、ケン化度が20~55モル%の部分ケン化ポリビニルアルコールと、(2)メトキシ基含有量が19~30重量%、ヒドロキシプロポキシ基含有量が4~15重量%で、かつその2重量%水溶液の20℃における粘度が100cps以上のヒドロキシプロピルメチルセルロースとを、特定の重量比で併用することが記載されている。具体的には、それらの重量比(1)/(2)が2/1~5/1となるように併用することが記載されている。このように、可塑剤吸収性が良好な多孔性の塩化ビニル系重合体を懸濁重合法により製造する方法が提案されている。しかし、低鹸化度のポリビニルアルコールを重合初期の段階で多量に使用すると、重合開始直後の塩化ビニル単量体の油滴表面を保護する能力が急激に低下し、得られる重合体が粗粒化する危険性がある。また、それを防ぐために、用いる分散剤の使用量を増やすと、粗粒化の問題は生じないが、塩化ビニル単量体の油滴表面が分散剤の厚い膜に覆われてしまう。その結果塩化ビニル単量体の油滴内に取り込まれた重合開始剤が、他の塩化ビニル単量体の油滴と合一・分散されにくくなるために、重合開始剤の濃度分布の不均一化が生じて、フィッシュアイが増加する。
【0008】
また、特許文献2には、重合度が2000~3000かつケン化度が75~85モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール(A)を塩化ビニル系単量体100質量部に対し0.04~0.08質量部、および重合度が100~700かつケン化度20~55モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール(B)を塩化ビニル系単量体100質量部に対し0.01~0.1質量部使用することが記載されている。また、部分ケン化ポリビニルアルコール(A)の全使用量のうち10~80%を重合開始前に仕込み、残りを重合転化率が1~10%に達した時点で重合系に添加することが記載されている。これにより、多孔性で可塑剤吸収性に優れた塩化ビニル系重合体が得られる。しかし、重合中に添加する懸濁剤の量や添加タイミングによっては重合系が不安定化し、得られる重合体が粗粒化する危険性がある。
【0009】
これら従来技術の特徴は、懸濁重合による塩化ビニル系重合体の製造において、使用する分散剤を工夫することにあるといえる。この理由は、使用する分散剤の界面活性能力の高さなどを工夫することにより、得られる塩化ビニル樹脂内部が高度に多孔質となると考えられる。このような高多孔質樹脂が可塑剤をより内部まで吸収し易い構造であることは想像に難しくない。また、このように可塑剤をより内部まで吸収しやすい構造の樹脂は全体が可塑化され易いということができ、混錬時に溶融し易くなるため、フィッシュアイの発生が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8-3206号公報
【特許文献2】特許第4688991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、このような従来技術は、重合を安定に実施するという観点からは必ずしも有利とはいえない。これは使用する分散剤が極めて高い界面活性能力を有する若しくは重合初期に添加する分散剤量を減らすことにより、塩化ビニル系重合体の懸濁重合における、単量体油滴同士の凝集を妨げる作用に乏しいためと考えられる。また、重合に使用する分散剤を工夫すると、得られる塩化ビニル系重合体の平均粒子径や可塑剤吸収量、見掛け密度といった基本特性を変えてしまい特殊製品となる。このため、生産管理の観点からも、決して望ましいものとはいえない。
【0012】
このように、特許文献1、2に記載された製造方法では、重合の不安定化、および製造された塩化ビニル系重合体における基本特性の変化という問題があった。なお、塩化ビニル系重合体以外のビニル系重合体においても同様の問題があった。
【0013】
したがって、本発明は、重合の不安定化、および製造されたビニル系重合体における基本特性の変化という問題点を伴うことなく、製造されたビニル系重合体においてフィッシュアイを低減できるマイクロカプセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明では、コア/シェル構造を有し、上記シェルは、水溶性高分子を含み、上記コアは、有機過酸化物を含むマイクロカプセルを提供する。
【0015】
また、上記水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレンオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
また、上記ポリビニルアルコールは、鹸化度が80mol%以上99.5mol%以下であり、かつ平均重合度が1500以上3500以下である部分鹸化ポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0017】
また、上記マイクロカプセルの粒径は特に限定しないが、メディアン径(D50)が15μm以下であることが好ましい。
【0018】
また、上記有機過酸化物は、ベンゼン中、濃度0.1mol/Lにおける10時間半減期温度が70℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製造されたビニル系重合体においてフィッシュアイを低減できるマイクロカプセルが提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により何ら限定されるものではない。
【0021】
<マイクロカプセル>
実施形態に係るマイクロカプセルは、コア/シェル構造を有し、シェルは、水溶性高分子を含み、コアは、有機過酸化物を含む。このように、実施形態に係るマイクロカプセルでは、有機過酸化物が内包されている。このマイクロカプセルは、いいかえると、有機過酸化物を含む粒状物と、その表面に付着している、水溶性高分子を含む被覆層とを有する被覆粒状物である。また、上記コア/シェル構造の形成は、実施例において後述するエチレンジクロライド(EDC)に対するマイクロカプセルの溶解性から確認できる。また、実施形態に係るマイクロカプセルは、たとえば、水性媒体に分散されており、水性媒体とともに組成物を形成している。
【0022】
ビニル系重合体の製造の際に、実施形態に係るマイクロカプセルを用いると、重合器内で、重合開始剤としての役目を有する有機過酸化物の濃度分布を均一にできる。これにより、製造されたビニル系重合体においてフィッシュアイを低減できる。
【0023】
このように、実施形態に係るマイクロカプセルによれば、分散剤を工夫することなく、ビニル系重合体におけるフィッシュアイの低減を達成できる。すなわち、実施形態に係るマイクロカプセルによれば、重合安定性の低下に伴う粗粒化を懸念することなく、その他、ビニル系重合体における基本特性の変化を懸念することなく、フィッシュアイの低減を達成できる。
【0024】
ところで、上述のように、フィッシュアイとなる粒子に関しては、コンタミ等樹脂以外の異物や、塩化ビニル系重合体の製造工程内にある乾燥工程で部分的に強加熱されたことで生じる樹脂も原因の一つである。しかしながら、本実施形態は、このようなフィッシュアイの解消ではなく、重合器内で重合開始剤の濃度分布の不均一化を起因として生成する塩化ビニル系重合体粒子そのものをフィッシュアイとなり難くすることを目的としている。そして、実施形態に係るマイクロカプセルを用いることにより、この目的を達成できる。更にビニル系重合体に残存するモノマー除去が容易であるとともにスケール防止効果も得られることを特徴とするものである。
【0025】
以下、実施形態に係るマイクロカプセルについて、より具体的に説明する。シェルに含まれる水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリニルピロリドンおよびポリエチレンオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。水溶性高分子は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
ポリビニルアルコールは、通常、ビニルエステル系重合体を公知の方法によって鹸化することで製造される。
ビニルエステル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル等を挙げることができ、これらのビニルエステル系単量体は1種又は2種以上使用してもよい。
また、ビニルエステル系単量体の重合に際して、他の単量体と共重合しても差し支えない。使用しうる他の単量体としては特に限定されないが、例えば、α-オレフィン、アクリル酸及びその塩、アクリル酸エステル類、メタクリル酸及びその塩、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド、アクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、メタクリルアミド誘導体、ビニルエーテル類、ニトリル類、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビニリデン類、アリル化合物、不飽和ジカルボン酸およびその塩又はそのエステル、オレフィンスルホン酸およびその塩、ビニルシリル化合物、脂肪酸アルキルエステル等が挙げられ、これらの他の単量体は1種又は2種以上を使用することができる。
また、ビニルエステル系重合体の重合に際して、得られるビニルエステル系重合体の重合度を調節すること等を目的として、連鎖移動剤を共存させても差し支えない。連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン類;2-ヒドロキシエタンチール、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、四塩化臭素、ジクロロメタン、ジブロモメタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等の有機ハロゲン類が挙げられ、これらの連鎖移動剤は1種又は2種以上を使用することができる。
また、ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールをアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化する方法等によって後変性させたポリビニルアルコール、すなわち変性ポリビニルアルコールであってもよい。
【0027】
ポリ(メタ)アクリル酸誘導体としては、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸エステルなどが挙げられる。上記ポリアクリル酸塩としては、たとえばポリアクリル酸と1価の陽イオンとにより形成される塩が挙げられる。1価の陽イオンとしては、Li+、Na+、K+、NH4
+が挙げられる。上記ポリアクリル酸エステルとしては、たとえばポリアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。ポリアクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基としては、たとえば炭素原子数1~5のアルキル基が好ましく、炭素原子数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0028】
これらのうちで、水溶性高分子としては、製造されたビニル系重合体においてフィッシュアイをより低減できるため、部分鹸化ポリビニルアルコールが好適に用いられる。
【0029】
部分鹸化ポリビニルアルコールは、鹸化度が80mol%以上99.5mol%以下であることが好ましい。この鹸化度は、JIS K 6726で規定されているポリビニルアルコールの鹸化度測定方法により求められる。鹸化度が80mol%未満である場合、重合器内で重合開始剤が均一に分散される前に、水性媒体によりシェルが溶解することがある。これにより、重合開始剤の濃度分布が不均一となり、製造されたビニル系重合体においてフィッシュアイが増加することがある。一方、鹸化度が99.5mol%を超える場合、加熱溶解にエネルギーが多く必要となるため、経済的な面で好ましくないことがある。
【0030】
また、部分鹸化ポリビニルアルコールは、平均重合度が1500以上3500以下であることが好ましい。この平均重合度は、JIS K 6726で規定されているポリビニルアルコールの平均重合度測定方法により求められる。平均重合度が1500未満である場合、重合器内で重合開始剤が均一に分散される前に、水性媒体によりシェルが溶解することがある。これにより、重合開始剤の濃度分布が不均一となり、製造されたビニル系重合体においてフィッシュアイが増加することがある。特に、高温水仕込み重合法の場合、この傾向が顕著であり、フィッシュアイが大幅に増加することがある。一方、平均重合度が3500を超える場合、シェルの溶解に時間が掛かり過ぎ、ビニル系単量体の油滴内に重合開始剤が入り込むまでの時間も掛かかり過ぎることがある。このため、フィッシュアイは低減できるが、重合時間が長くなり、生産性が低下して好ましくないことがある。
【0031】
コアに含まれる有機過酸化物は、ベンゼン中、濃度0.1mol/Lにおける10時間半減期温度が70℃以下であることが好ましく、30℃以上70℃以下であることがより好ましい。10時間半減期温度が70℃を超えると、過度に多量の有機過酸化物が必要となり、製造されたビニル系重合体の初期着色性、耐抽出性などが低下することがある。一方、10時間半減期温度が30℃未満であると、重合開始剤として有機過酸化物の活性が持続しにくくなることがある。なお、本明細書において、上記10時間半減期温度をT10-HDTともいう。
【0032】
有機過酸化物としては、具体的には、10時間半減期温度が上記範囲にある、ジアシルパーオキサイド化合物、パーオキシジカーボネート化合物、パーオキシエステル化合物などが挙げられる。有機過酸化物は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上記ジアシルパーオキサイド化合物としては、たとえば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【0035】
式(1)中、2つのR1は、同一でも異なってもよく、炭素原子数1~12の置換または非置換のアルキル基である。また、アルキル基は、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよい。上記アルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等のn-アルキル基;sec-アルキル基;tert-ブチル基、tert-ペンチル基、tert-ヘキシル基、tert-ノニル基、tert-デシル基等のtert-アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘプチル基、イソオクチル基等のイソアルキル基;1-シクロヘキシル-1-メチルエチル基等の環状アルキル基;2,4,4-トリメチルペンチル基などが挙げられる。
【0036】
上記ジアシルパーオキサイド化合物としては、より具体的には、ジラウロイルパーオキサイド(T10-HDT=62℃)、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(T10-HDT=59℃)、ジイソブチルパーオキサイド(T10-HDT=33℃)、ジコハク酸パーオキサイド(T10-HDT=65℃)などが好適に用いられる。
【0037】
上記パーオキシジカーボネート化合物としては、たとえば、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
【0039】
式(2)中、2つのR2は、同一でも異なってもよく、炭素原子数1~10の置換または非置換のアルキル基である。また、アルキル基は、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよい。上記アルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のn-アルキル基;sec-アルキル基;tert-ブチル基、tert-ペンチル基、tert-ヘキシル基、tert-ノニル基、tert-デシル基等のtert-アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘプチル基、イソオクチル基等のイソアルキル基;1-シクロヘキシル-1-メチルエチル基等の環状アルキル基;2,4,4-トリメチルペンチル基などが挙げられる。
【0040】
上記パーオキシジカーボネート化合物としては、より具体的には、ジ-(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート(T10-HDT=44℃)、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート(T10-HDT=40℃)、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(T10-HDT=41℃)、ジ-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(T10-HDT=41℃)、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート(T10-HDT=41℃)などが好適に用いられる。
【0041】
上記パーオキシエステル化合物としては、たとえば、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0042】
【0043】
式(3)中、2つのR3は、同一でも異なってもよく、炭素原子数1~10の置換または非置換のアルキル基あるいは炭素原子数7~10のアラルキル基である。また、アルキル基は、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよい。上記アルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のn-アルキル基;sec-アルキル基;tert-ブチル基、tert-ペンチル基、tert-ヘキシル基、tert-ノニル基、tert-デシル基等のtert-アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘプチル基、イソオクチル基等のイソアルキル基;1-シクロヘキシル-1-メチルエチル基等の環状アルキル基;2,4,4-トリメチルペンチル基、2-フェニルプロパン-2-イル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0044】
上記パーオキシエステル化合物としては、より具体的には、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(T10-HDT=46℃)、t-へキシルパーオキシネオデカノエート(T10-HDT=45℃)、t-ブチルパーオキシピバレート(T10-HDT=54.6℃)、t-ヘキシルパ-オキシピバレート(T10-HDT=53℃)、α-クミルパーオキシネオデカノエート(T10-HDT=37℃)、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート(T10-HDT=51℃)、t-アミルパーオキシネオデノエート(T10-HDT=43℃)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(T10-HDT=41℃)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシピバレート(T10-HDT=48℃)などが好適に用いられる。
【0045】
なお、上記10時間半減期温度(T10-HDT)は、以下のようにして求められる。有機過酸化物の濃度が0.1mоl/Lであるベンゼン溶液を調製する。窒素置換を行ったガラス管中に上記溶液を密封して、所定温度に調節した恒温槽に浸し、有機過酸化物を熱分解させる。時間に対する有機過酸化物の濃度変化を測定する。上記の反応条件では、有機過酸化物の分解反応は近似的に一次反応として取り扱うことができるため、以下の式(4)、(5)が成り立つ。
【0046】
dx/dt=k(a-x) (4)
ln[a/(a-x)]=kt (5)
【0047】
上記2つの式(4)、(5)中、xは分解した有機過酸化物の濃度、aは有機過酸化物の初期濃度、kは分解速度定数、tは時間を示す。半減期は、分解により有機過酸化物濃度が初期濃度の半分に減ずるまでに要する時間であるから、これをt1/2で示し、式(5)のxにa/2を代入して、以下の関係式を得る。
【0048】
kt1/2=ln2 (6)
【0049】
上記で測定した有機過酸化物の濃度変化から、時間tとln[a/(a-x)]との関係をプロットする。得られた直線の傾きをkとして、式(6)から、その温度における半減期t1/2が求められる。したがって、10時間半減期温度とは、ある有機過酸化物のt1/2が10時間となる温度として求められる。
【0050】
マイクロカプセルの粒径は特に限定しないが、メディアン径(D50)が15μm以下であることが好ましく、0.5μm以上15μm以下であることがより好ましい。メディアン径(D50)が上記範囲にあると、水性媒体中における有機過酸化物が内包されたマイクロカプセルの貯蔵安定性がより確保できる。
【0051】
上述のように、実施形態に係るマイクロカプセルは、たとえば、水性媒体に分散されており、水性媒体とともに組成物を形成している。組成物(水性液)中における有機過酸化物の含有量は、通常10質量%以上70質量%以下であり、好ましくは15質量%以上65質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上60質量%以下である。有機過酸化物の含有量が10質量%未満であると、輸送コストが高くなり経済的に好ましくないことがある。
【0052】
水性媒体としては、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水等の水、水と水溶性有機溶媒との混合媒体などが挙げられる。上記水溶性有機溶媒としては、たとえばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコールが挙げられる。水性媒体が混合媒体である場合、水性媒体中の水溶性有機溶媒の含有量は、好ましくは0質量%を超え50質量%以下である。
【0053】
実施形態に係るマイクロカプセルは、エマルション法によって調製することが好ましい。具体的には、水溶性高分子(たとえば部分鹸化ポリビニルアルコール)と有機過酸化物と水性媒体とを回転混合して調製することができる。ここで、回転混合は、高速回転により行うことが好ましく、回転数を適宜調整しながら行うとよい。回転数は、好ましくは1000rpm以上3000rpm以下である。上記混合は、たとえば、-30℃以上50℃以下、好ましくは-20℃以上30℃以下で、30秒以上120分以下行うことにより、好適にエマルション化させることができる。すなわち、水性媒体にマイクロカプセルが分散されている組成物(水性液)が得られる。
【0054】
使用する装置は周知の装置でよい。装置としては、たとえば器械回転式の撹拌機、高速回転せん断型の撹拌機、コロイドミル、パールミル、ホモジナイザー、加圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ホモミキサー、マイクロフルイダイザーなどが使用できる。
【0055】
上記混合においては、有機過酸化物100質量部に対して、水性媒体を好ましくは20質量部以上180質量部以下の量となるように、より好ましくは30質量部以上150質量部以下の量となるように使用することが望ましい。
【0056】
また、上記混合においては、有機過酸化物100質量部に対して、水溶性高分子(たとえば部分鹸化ポリビニルアルコール)を0.001質量部以上30質量部以下の量となるように使用することが好ましく、0.01質量部以上25質量部以下の量となるように使用することがより好ましい。
【0057】
また、上記混合において、有機過酸化物は、希釈または溶解させるために、事前にイソパラフィン系溶媒でエマルション化させてから使用してもよい。なお、上記混合において、必要に応じて、さらに界面活性剤を加えて行ってもよい。
【0058】
なお、実施形態に係るマイクロカプセルは、エマルション法以外の公知のマイクロカプセル化方法によって調製してもよい。エマルション法以外の公知のマイクロカプセル化方法としては、たとえばコアセルベーション法、スプレードライ法、液中乾燥法、in-situ法などが挙げられる。
【0059】
<ビニル系重合体の製造方法>
実施形態に係るマイクロカプセルは、ビニル系重合体の製造に好適に用いられる。すなわち、ビニル系重合体の製造方法は、上記マイクロカプセルを含む組成物を用いて、ラジカル反応によってビニル系単量体を重合して、ビニル系重合体を得る重合工程を含む。上述したように、上記マイクロカプセルは、コア/シェル構造を有し、上記シェルは、上記水溶性高分子を含み、上記コアは、上記有機過酸化物を含む。実施形態に係るマイクロカプセルを用いることにより、製造されたビニル系重合体においてフィッシュアイを低減できる。
【0060】
ビニル系単量体としては、塩化ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル等の単量体が挙げられ、塩化ビニルが好適に用いられる。ビニル系単量体としては、塩化ビニルとともに、塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体を用いてもよい。塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体としては、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニリデン;エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン等のα-オレフィン;アクリル酸;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;ラウリルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;スチレン等の芳香族ビニルなどが挙げられる。塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
このように、製造されるビニル系重合体は、ビニル系単量体として塩化ビニルのみを用いた塩化ビニル単独重合体であるか、あるいはビニル系単量体として塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体とを用いた共重合体であることが好ましい。共重合体の場合は、通常、ビニル系単量体中、塩化ビニルを50質量%以上の量で用いる。すなわち、ビニル系重合体の製造方法において、上記重合工程は、ビニル系単量体として塩化ビニルを重合して、ビニル系重合体として塩化ビニル系重合体(より具体的には塩化ビニル単独重合体)を得る工程であることが好ましい。あるいは、上記重合工程は、ビニル系単量体として塩化ビニルおよび塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体を重合して、ビニル系重合体として塩化ビニル系重合体を得る工程であることも好ましい。
【0062】
上記重合工程は、たとえば懸濁重合により行われる。重合条件は、特に限定されないが、たとえば、重合容器内に、上記ビニル系単量体、上記マイクロカプセルを含む組成物、懸濁剤および水性媒体を仕込んだ後、重合容器の内容物を攪拌しながら昇温して重合反応を行う。具体的には、20~80℃で1~20時間、重合反応を行う。
【0063】
有機過酸化物を内包したマイクロカプセルは、ビニル系単量体100重量部に対して、0.01質量部以上0.5質量部以下の量となるように用いることが好ましい。
【0064】
重合容器に仕込む懸濁剤としては、具体的には、水溶性高分子が用いられる。水溶性高分子としては、たとえばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテル;水溶性あるいは油溶性の部分鹸化ポリビニルアルコール;(メタ)アクリル酸重合体;ゼラチンなどが挙げられる。懸濁剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。懸濁剤は、ビニル系単量体100重量部に対して、通常0.02質量部以上5.0質量部以下の量で、好ましくは0.04質量部以上1.5質量部以下の量で用いられる。
【0065】
また、重合容器に仕込む水性媒体としては、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水等の水、水と水溶性有機溶媒との混合媒体などが挙げられる。上記水溶性有機溶媒としては、たとえばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコールが挙げられる。水性媒体が混合媒体である場合、水性媒体中の水溶性有機溶媒の含有量は、好ましくは0質量%を超え50質量%以下である。水性媒体は、ビニル系単量体100重量部に対して、通常90質量部以上250質量部以下の量で、好ましくは100質量部以上200質量部以下の量で用いられる。
【0066】
また、重合の際には、必要に応じて、重合容器に、その他添加剤を加えることができる。添加剤としては、たとえば、上記有機過酸化物以外の油溶性重合開始剤;アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、メルカプタン類等の重合度調節剤;フェノール化合物、イオウ化合物、N-オキシド化合物等の重合禁止剤などが挙げられる。さらに、添加剤として、pH調整剤、スケール防止剤、架橋剤などを加えてもよい。添加剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
また、マイクロカプセルを含む組成物は、その使用目的に応じて、重合容器に一括添加してもよく、間欠的にまたは連続的に添加してもよい。また、ビニル系単量体、懸濁剤および水性媒体は、それぞれ、重合途中で途中仕込みしてもよい。
【0068】
なお、上述したビニル系重合体の製造方法において、ビニル系単量体として、塩化ビニルを50質量%未満の量で用いて重合工程を行ってもよい。さらに、塩化ビニルを用いずに、上記塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体のみを用いて重合工程を行ってもよい。
【0069】
また、上記ビニル系重合体の製造方法において、懸濁重合以外の重合形式によって重合工程を行ってもよい。具体的には、重合形式は、ビニル系単量体のラジカル重合反応が行えれば特に限定されず、たとえば乳化重合、塊状重合、微細懸濁重合などであってもよい。
【0070】
上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0071】
[実施例]
以下、上記実施の形態による効果を明確にするために行った実施例に基づいて上記実施の形態をより詳細に説明する。なお、上記実施の形態は、以下の実施例および比較例によって何ら制限されない。
【0072】
[実施例1]
(1)マイクロカプセルを含む水性液の製造
通常の撹拌装置および温度計を備えた500mlの四つ口フラスコへ、水15質量部と、鹸化度88mol%、平均重合度1800の部分鹸化ポリビニルアルコールの水溶液(濃度10質量%)10質量部と、エタノール17質量部と、界面活性剤(ソルビタンモノオレエート)3質量部とを入れて溶解した後、内温を5~10℃にした。そこへ有機過酸化物としてジ-(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート55質量部を滴下しながら激しく撹拌した。さらに30分間撹拌を続け、ジ-(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネートが内包されたマイクロカプセルを含む水性液(マイクロカプセル組成液)を得た。また、表1に、得られたマイクロカプセルについて、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定したメディアン径(D50)を示す。
【0073】
(2)エチレンジクロライド(EDC)に対する溶解性評価
EDCに対するマイクロカプセルの溶解性について、以下の方法により評価した。500mlビーカーに対して、水150質量部、上記マイクロカプセルを含む水性液50質量部およびEDC100質量部を加え、内温40℃で、通常の撹拌装置を用いて5分間撹拌した。その後静置させ、EDC層および水層が分離した際の状態を観察し、以下の基準で評価を行った。その結果を表1に示す。
〇:EDC層にマイクロカプセルがほとんど溶解していない状態
△:EDC層にマイクロカプセルが全量の半分未満溶解した状態
×:EDC層にマイクロカプセルが全量の半分以上溶解した状態
【0074】
製造されたビニル系重合体においてフィッシュアイが低減されるためには、コア/シェル構造を有するマイクロカプセルが形成されていることが必要である。いいかえると、マイクロカプセルが重合器内に投入された後、すぐにビニル系重合体に溶解することなく、しばらくの間水性媒体中で分散している必要がある。そこで、ここでは、塩化ビニルの懸濁重合法をモデルに、塩化ビニルの疑似物質としてEDCを用い、マイクロカプセルのEDCに対する溶解性を評価した。この評価結果が優れていれば、コア/シェル構造を有するマイクロカプセルが形成されていることが確認できる。
【0075】
(3)塩化ビニル系重合体の製造
内容量2m3のステンレス製重合器に、脱イオン水876kgと、ヒドロキシプロピルメチルセルロース182.5gと、鹸化度80.5モル%、平均重合度2500の部分鹸化ポリビニルアルコール182.5gと、鹸化度48モル%、平均重合度230の部分鹸化ポリビニルアルコール73gとを仕込んだ。内圧が8kPa(絶対圧)となるまで重合器内を脱気した後、塩化ビニル単量体730kgを仕込んだ。撹拌しながら、重合開始剤が内包された上記(1)で得られたマイクロカプセルを含む水性液を有機過酸化物の純分換算で400gとなる重量で仕込み、同時にジャケットに温水を通して昇温を開始した。重合器内の温度が57.0℃に達した段階で、その温度を保ち重合を続けた。
重合転化率が88%となった時点で、重合器内にトリエチレングリコール・ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕の35質量%水性分散液186gを添加し、次いで未反応単量体を回収した。重合体スラリーを脱水、乾燥して塩化ビニル系重合体を得た。
得られた重合体の見掛け比重、平均粒子径、可塑剤吸収量およびフィッシュアイ個数について、下記の方法で測定した。その結果を表1に示す。
-見掛け密度-
試料重合体の見掛け密度は、JIS K 7365に準拠して測定した。
-平均粒子径-
JIS Z 8801既定の試験用篩のうち、呼び寸法が300μm、250μm、180μm、150μm、106μmおよび75μmの篩をロータップ型篩分け装置に取り付け、最上段に試料重合体100gを静かに入れた。10分間振とう後、各篩上に残った試料重合体の質量を測定し、下記に示す総質量(100g)に対する百分率(A~F)を求めた。
A:呼び寸法250μmの篩での篩上率(%)
B:呼び寸法180μmの篩での篩上率(%)
C:呼び寸法150μmの篩での篩上率(%)
D:呼び寸法106μmの篩での篩上率(%)
E:呼び寸法75μmの篩での篩上率(%)
F:呼び寸法75μmの篩での篩下率(%)
平均粒子径は、求めた各篩における篩上率および篩下率を下記式に代入して得た。
平均粒子径(μm)={(A×300)+(B×215)+(C×165)+(D×128)+(E×90)+(F×60)}×(1/100)
-可塑剤吸収量-
試料重合体の可塑剤吸収量(%)は、JIS K 7386に準拠して測定した。
-フィッシュアイ個数-
試料重合体100質量部、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOP)50質量部、Ba/Zn系安定剤2.0質量部、エポキシ化大豆油5.0質量部、カーボンブラック0.1質量部および二酸化チタン0.5質量部を混合してコンパウンドを得た。このコンパウンド50gを145℃においてロールミルで5分間混練して0.3mm厚のシートとして分取した。フィッシュアイ個数は、このシート100cm2中の透明粒子の数を測定して求めた。
【0076】
[実施例2]
マイクロカプセルを含む水性液の製造において使用した部分鹸化ポリビニルアルコールを、鹸化度88mol%、平均重合度3300の部分鹸化ポリビニルアルコールに代えた以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0077】
[実施例3]
マイクロカプセルを含む水性液の製造において使用した部分鹸化ポリビニルアルコールを、鹸化度82mol%、平均重合度2400の部分鹸化ポリビニルアルコールに代えた以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0078】
[実施例4]
マイクロカプセルを含む水性液の製造において使用した部分鹸化ポリビニルアルコールを、鹸化度98mol%、平均重合度1700の部分鹸化ポリビニルアルコールに代えた以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0079】
[実施例5]
マイクロカプセル組成液の製造において、水40質量部、部分鹸化ポリビニルアルコールの水溶液(濃度10質量%)5質量部、ジ-(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート35質量部に代えた以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0080】
[実施例6]
マイクロカプセルを含む水性液の製造において使用した部分鹸化ポリビニルアルコールを、ゼラチンに代えた以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0081】
[実施例7]
マイクロカプセルを含む水性液の製造において使用した有機過酸化物を、t-ブチルパーオキシネオデカノエートに代えた以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0082】
[比較例1]
マイクロカプセル組成液の代わりに、ジ-(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネートの濃度70%イソパラフィン系溶液を使用した以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。この場合、得られた塩化ビニル系重合体のフィッシュアイが多くなり、塩化ビニル系重合体成形物での品質が悪化した。
【0083】
[比較例2]
マイクロカプセル組成液の製造において、部分鹸化ポリビニルアルコールを使用しなかった以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。この場合、マイクロカプセルとはならず、メディアン径が200μm以上の凝集体が形成された。
【0084】
【0085】
表1の結果より、生産性向上が求められるビニル系重合体のうち、特に塩化ビニル単量体または塩化ビニル単量体およびこれと共重合可能な単量体を用いた重合体の製造において、実施形態のマイクロカプセルによれば、フィッシュアイが非常に少ないビニル系重合体が得られることが分かる。さらに、重合安定性およびビニル系重合体の基本特性も保たれることが分かる。