IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特開2022-161921電子デバイス及びその製造方法、並びに半導体層形成用塗布液及びその製造方法
<>
  • 特開-電子デバイス及びその製造方法、並びに半導体層形成用塗布液及びその製造方法 図1
  • 特開-電子デバイス及びその製造方法、並びに半導体層形成用塗布液及びその製造方法 図2
  • 特開-電子デバイス及びその製造方法、並びに半導体層形成用塗布液及びその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161921
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】電子デバイス及びその製造方法、並びに半導体層形成用塗布液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20221014BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 51/48 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 21/225 20060101ALI20221014BHJP
   C07C 25/18 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 168
H01L31/04 182Z
H01L29/28 220A
H01L29/28 100A
H01L29/28 310A
H01L21/225 R
C07C25/18
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121698
(22)【出願日】2022-07-29
(62)【分割の表示】P 2017215856の分割
【原出願日】2017-11-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業[戦略的イノベーション創出推進プログラム]、「塗布型長寿命有機太陽電池の創出と実用化に向けた基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100188857
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 智文
(72)【発明者】
【氏名】横山 孝理
(72)【発明者】
【氏名】毛利 和弘
(57)【要約】
【課題】電子デバイスの耐久性を向上させる。
【解決手段】有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有する塗布液を85℃以上に加熱した及び/又は該塗布液に紫外線を照射した後に、塗布液を塗布することにより半導体層を形成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層を備える電子デバイスの製造方法であって、
有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である前記有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有する塗布液を85℃以上に加熱した及び/又は該塗布液に紫外線を照射した後に、該塗布液を塗布することにより前記半導体層を形成する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ドーパントは、ジアリールヨードニウム塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機半導体化合物は、トリアリールアミン化合物であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記電子デバイスは、下部電極と上部電極から構成される一対の電極と、該一対の電極間にあるペロブスカイト化合物を含有する活性層と、該一対の電極と前記活性層との間にあるバッファ層と、を備える光電変換素子であって、
前記半導体層は前記バッファ層であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記バッファ層は正孔取り出し層であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記バッファ層は、前記上部電極と前記活性層との間に位置することを特徴とする、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の製造方法により製造された電子デバイス。
【請求項9】
半導体層形成用塗布液の製造方法であって、
有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である前記有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有する塗布液を85℃以上に加熱する及び/又は該塗布液に紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法により製造された半導体層形成用塗布液。
【請求項11】
半導体層を備える電子デバイスであって、
前記半導体層は、ドーパントによりドーピングされた有機半導体化合物を含み、
前記半導体層が含有する未反応のドーパント量は、未反応のドーパント量と反応済みドーパント量の和であるドーパント量の80質量%以下である
ことを特徴とする、電子デバイス。
【請求項12】
半導体層形成用塗布液であって、
前記半導体層形成用塗布液は、ドーパントによりドーピングされた有機半導体化合物を含み、
前記半導体層形成用塗布液が含有する未反応のドーパント量は、未反応のドーパント量と反応済みドーパント量の和であるドーパント量の80質量%以下である
ことを特徴とする、半導体層形成用塗布液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス及びその製造方法、並びに半導体層形成用塗布液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体層を有する半導体デバイスの性能は、半導体層の特性に大きな影響を受ける。このため、性能の高い半導体デバイスを製造するための研究において、半導体層の改善は主要なターゲットとなっている。例えば非特許文献1には、ヨウ化メチルアミンとヨウ化スズとから得られるペロブスカイト半導体層を、LT-VASP法で作製することにより、デバイス再現性を向上できたことが記載されている。また、非特許文献1では、正孔輸送層の材料として4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TPFB)をドーピングしたポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】T. Yokoyama et al. "Overcoming Short-Circuit in Lead-Free CH3NH3SnI3 Perovskite Solar Cells via Kinetically Controlled Gas-Solid Reaction Film Fabrication Process", J. Phys. Chem. Lett. 2016, 7, 776.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、ドーピングされた半導体化合物を含む半導体層を備える電子デバイスは、経時的に光電変換効率が低下することがあることを見出した。例えば、非特許文献1に記載されているようなTPFBがドーピングされたPTAAを光電変換素子のバッファ層に用いたところ、初期の光電変換効率は高いものの、高温高湿下で保存すると光電変換効率が急速に低下していくことが見出された。光電変換素子の実用化のためには、光電変換効率の耐久性を高め、光電変換効率を低下しにくくすることが求められる。
【0005】
本発明は、半導体層を備える電子デバイスの耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、半導体化合物に対してドーピングを行う際に、特定の条件で処理することにより、この半導体化合物を用いた電子デバイスの耐久性を高められることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、以下に存する。
[1]半導体層を備える電子デバイスの製造方法であって、有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である前記有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有する塗布液を85℃以上に加熱した及び/又は該塗布液に紫外線を照射した後に、該塗布液を塗布することにより前記半導体層を形成する工程を含む、製造方法。
[2]前記ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物であることを特徴とする、[1]に記載の製造方法。
[3]前記ドーパントは、ジアリールヨードニウム塩であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記有機半導体化合物は、トリアリールアミン化合物であることを特徴とする、[1]から[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記電子デバイスは、下部電極と上部電極から構成される一対の電極と、該一対の電極間にあるペロブスカイト化合物を含有する活性層と、該一対の電極と前記活性層との間にあるバッファ層と、を備える光電変換素子であって、前記半導体層は前記バッファ層であることを特徴とする、[1]に記載の製造方法。
[6]前記バッファ層は正孔取り出し層であることを特徴とする、[5]に記載の製造方法。
[7]前記バッファ層は、前記上部電極と前記活性層との間に位置することを特徴とする、[5]又は[6]に記載の製造方法。
[8][1]から[7]のいずれかに記載の製造方法により製造された電子デバイス。
[9]半導体層形成用塗布液の製造方法であって、有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である前記有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有する塗布液を85℃以上に加熱する及び/又は塗布液に紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする、製造方法。
[10][9]に記載の製造方法により製造された半導体層形成用塗布液。
[11]半導体層を備える電子デバイスであって、前記半導体層は、ドーパントによりドーピングされた有機半導体化合物を含み、前記半導体層が含有する未反応のドーパント量は、未反応のドーパント量と反応済みドーパント量の和であるドーパント量の80質量%以下であることを特徴とする、電子デバイス。
[12]半導体層形成用塗布液であって、前記半導体層形成用塗布液は、ドーパントによりドーピングされた有機半導体化合物を含み、前記半導体層形成用塗布液が含有する未反応のドーパント量は、未反応のドーパント量と反応済みドーパント量の和であるドーパント量の80質量%以下であることを特徴とする、半導体層形成用塗布液。
【発明の効果】
【0008】
半導体層を備える電子デバイスの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態としての光電変換素子を模式的に表す断面図である。
図2】一実施形態としての太陽電池を模式的に表す断面図である。
図3】一実施形態としての太陽電池モジュールを模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定はされない。
【0011】
本発明は、半導体層を備える電子デバイスの製造方法に関する。本発明に係る製造方法は、有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有する塗布液を85℃以上に加熱した及び/又は該塗布液に紫外線を照射した後に、塗布液を塗布することにより半導体層を形成する工程を含む。以下では、半導体層を形成する工程で用いられる半導体層形成用塗布液及びその製造方法、並びにこの製造方法により製造された電子デバイスについても説明する。
【0012】
[有機半導体化合物]
半導体化合物とは、半導体特性を示す半導体材料として使用可能な化合物のことを指す。なお、本明細書において「半導体」とは、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義される。キャリア移動度とは、周知であるように、電荷(電子又は正孔)がどれだけ速く(又は多く)移動されうるかを示す指標となるものである。具体的には、本明細書における「半導体」は、室温におけるキャリア移動度が好ましくは1.0x10-6cm/V・s以上、より好ましくは1.0x10-5cm/V・s以上、さらに好ましくは5.0x10-5cm/V・s以上、特に好ましくは1.0x10-4cm/V・s以上である。なお、キャリア移動度は、例えば電界効果トランジスタのIV特性の測定、又はタイムオブフライト法等により測定できる。
【0013】
本実施形態においては半導体化合物として有機半導体化合物が用いられるが、その種類は特に限定されず、例えば従来知られているものを用いることができる。有機半導体化合物としては、低分子化合物及び高分子化合物が知られている。低分子の有機半導体化合物としては、多環芳香族化合物が挙げられ、具体例としてはテトラセン若しくはペンタセン等のアセン類化合物、オリゴチオフェン類化合物、フタロシアニン類化合物、ペリレン類化合物、ルブレン類化合物、又はトリアリールアミン化合物等のアリールアミン化合物、等が挙げられる。また、高分子の有機半導体化合物としては、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリフェニレン系ポリマー、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ポリフルオレン系ポリマー、若しくはポリピロール系ポリマーのような共役ポリマー、又はトリアリールアミンポリマーのようなアリールアミンポリマーが挙げられる。
【0014】
有機半導体化合物として好ましくはアリールアミン化合物であり、より好ましくはトリアリールアミン化合物である。アリールアミン化合物とは、アリールアミン構造(アリール基と窒素原子との結合)を有する化合物のことであり、アリールアミンポリマーを含む。アリールアミンポリマーとは、繰り返し単位がアリールアミン構造を含んでいるポリマーのことである。また、トリアリールアミン化合物とは、トリアリールアミン構造(3つのアリール基の同じ窒素原子への結合)を有する化合物のことであり、トリアリールアミンポリマーを含む。トリアリールアミンポリマーとは、繰り返し単位がトリアリールアミン構造を含んでいるポリマーのことである。このようなアリールアミン化合物又はトリアリールアミン化合物は、ドーパントにより安定に酸化され、良好な半導体特性を示しうる点で好ましい。
【0015】
ここで、アリール基(又は芳香族基)は、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基のことを指し、単環のもの、縮合環のもの、及び単環又は縮合環が連結しているもの、を含む。芳香族基としては、特に限定されないが、炭素数30以下であることが好ましく、炭素数12以下であることがより好ましい。芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、又はビフェニル基等が挙げられる。芳香族複素環基の具体例としては、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、又はイミダゾリル基等が挙げられる。
【0016】
芳香族基は、さらなる置換基を有していてもよい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、特に制限されないが、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。アリール基が有している置換基として好ましくは、アミノ基又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。ここで、アミノ基として好ましくは、炭素数2~12のジアルキルアミノ基、炭素数7~20のアルキルアリールアミノ基、又は炭素数12~30のジアリールアミノ基である。
【0017】
有機半導体化合物の好ましい例としては、下式(I)又は(II)で表される化合物が挙げられる。
【化1-1】
【0018】
式(I)(II)において、Arは2価の芳香族基であり、Arは直接結合又は2価の芳香族基である。ArとArとは同じであっても異なっていてもよい。2価の芳香族基とは、前に説明した芳香族基から1つの水素原子を除いて得られる置換基である。Ar及びArは、それぞれ独立に、好ましくは炭素数2~20の2価の芳香族基であり、より好ましくは炭素数6~20の芳香族炭化水素基(単環のもの、縮合環のもの、及び単環若しくは縮合環が連結されたものを含む)である。これらの2価の芳香族基は、好ましくはさらなる置換基を有さないか又は炭素数1~6のアルキル基を有している。
【0019】
式(I)(II)において、Ar~Arは置換基を有していてもよい芳香族基である。芳香族基としては、前に説明したものを用いることができる。Ar~Arは、同じ芳香族基であっても異なる芳香族基であってもよい。Ar~Arは、それぞれ独立に、好ましくは炭素数2~20の芳香族基であり、より好ましくは炭素数6~20の芳香族炭化水素基(単環のもの、縮合環のもの、及び単環若しくは縮合環が連結されたものを含む)である。これらの芳香族基は、好ましくはさらなる置換基を有さないか、又は上述したアミノ基若しくは炭素数1~6のアルキル基を有している。
【0020】
有機半導体化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0021】
【化1-2】
【0022】
【化1-3】
【0023】
[ドーパント]
本実施形態においては、ドーパントとして超原子価ヨウ素化合物が用いられる。超原子価ヨウ素化合物は、有機半導体化合物に対するドーパントとして働く。超原子価ヨウ素化合物は、電子受容性(すなわち酸化剤としての働き)を示すことが知られている。また、電子受容性のドーパントは、半導体化合物から電子を奪うことにより、半導体化合物の導電性又は正孔輸送能力を向上させることができる。このように、超原子価ヨウ素化合物は、電子デバイスに用いられる半導体化合物の電荷輸送特性を向上させることができる。
【0024】
超原子価ヨウ素化合物とは、超原子価ヨウ素を含む化合物であり、酸化数が+3以上となっているヨウ素を含む化合物と定義される。例えば、ドーパントは、ヨウ素(III)化合物又はヨウ素(V)化合物でありうる。5価のヨウ素を含むヨウ素(V)化合物は、例えば、デス・マーチン・ペルヨージナンのようなペルヨージナン化合物でありうる。また、3価のヨウ素を含むヨウ素(III)化合物としては、(ジアセトキシヨード)ベンゼンのようなヨードベンゼンが酸化された構造を有する化合物、又はジアリールヨードニウム塩が挙げられる。良好な電子受容性を示し、また酸化過程において分子が破壊されると逆反応が起こりにくい点で、ジアリールヨードニウム塩を用いることは好ましい。
【0025】
ジアリールヨードニウム塩とは、[Ar-I-Ar]X構造を有する塩のことである。ここで、2つのArはそれぞれアリール基を表す。アリール基(芳香族基)は特に限定されず、例えば有機半導体化合物に関して既に挙げたものでありうる。Xは、任意のアニオンを表す。Xとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、トリフルオロ酢酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、又はテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン等でありうる。溶解性が高く、塗布液の生成反応が円滑に進行しうる点で、Xはフッ素原子を有するアニオンであることが好ましい。
【0026】
ドーパントの好ましい例としては、一般式(III)に表されるものが挙げられる。式(III)において、Xは、任意のアニオンを表し、具体例としては上記の通りである。
【化2-1】
【0027】
式(III)において、R及びRは、それぞれ独立に1価の有機基である。1価の有機基の例としては、脂肪族基又は芳香族基が挙げられる。脂肪族基の例としては、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基又は炭素数4~20の脂肪族複素環基が挙げられる。例えば、脂肪族基としては、シクロアルキル基を含むアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基等が挙げられ、具体例としてはメチル基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、又はテトラヒドロフリル基等が挙げられる。
【0028】
芳香族基の例としては、炭素数6~20の芳香族炭化水素基又は炭素数2~20の芳香族複素環基が挙げられる。例えば、芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、チエニル基、又はピリジル基等が挙げられる。
【0029】
なお、上記の脂肪族基及び芳香族基は、置換基を有していてもよい。有していてもよい置換基としては、特段の制限はないが、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。
【0030】
及びRは、好ましくは炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基である。ここで、芳香族炭化水素基は置換基を有さない又は炭素数1~6のアルキル基を有することが好ましい。R及びRは、特に、パラ位にアルキル基を有するフェニル基であることが好ましい。
【0031】
[塗布液の調製]
本実施形態においては、有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有する塗布液を85℃以上に加熱し及び/又はこの塗布液に紫外線を照射し、こうして半導体層形成用塗布液の調製が行われる。例えば、まず、有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有する溶液が調製される。次に、調製された溶液が85℃以上に加熱され及び/又はこの溶液に紫外線が照射される。こうして、半導体層形成用塗布液を製造することができる。
【0032】
最初に、有機半導体化合物とドーパントとを含有する溶液が調製される。具体的には、有機半導体化合物と、ドーパントと、が溶媒に溶解される。もっとも、これらの化合物を完全に溶媒に溶解させる必要はなく、加熱又は紫外線照射を行う際に化合物を溶媒に溶解させてもよい。
【0033】
溶媒は、半導体化合物及びドーパントを溶解可能な溶媒が用いられる。また、好ましくは、沸点が溶液調製時の温度よりも高い溶媒が用いられる。溶媒の例としては、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン若しくはデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン若しくはオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン若しくはデカリン等の脂環式炭化水素類;シクロペンタノン、若しくはシクロヘキサノン等の脂肪族ケトン類;アセトフェノン若しくはプロピオフェノン等の芳香族ケトン類;酢酸ブチル、乳酸メチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸イソブチル若しくは安息香酸イソアミル等のエステル類;トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;又は、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル、ジメトキシエタン若しくはジオキサン等のエーテル類が挙げられる。
【0034】
次に、調製された溶液が85℃以上に加熱されるか、この溶液に紫外線が照射されるか、又はこれらの双方が行われる。加熱を行う場合、加熱方法は特に限定されず、例えばホットプレート等の熱源を用いてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気を用いてもよい。また、紫外線を照射する場合、照射方法は特に限定されず、例えば紫外線ランプを用いて行うことができる。加熱又は紫外線照射中には、溶液を攪拌することができる。なお、本発明において紫外線とは波長200nm以上400nm未満の範囲の光を意味するものとする。
【0035】
本願発明者の検討によれば、85℃以上への加熱を行うか又は紫外線照射を行うことにより、得られた半導体層形成用塗布液を用いて形成した半導体層を有する電子デバイスの耐久性が向上する。この理由は明確ではないが、本願発明者らは、85℃以上への加熱を行うか又は紫外線照射を行うことにより、溶液中で有機半導体化合物に化学変化が生じるものと考えている。
【0036】
従来のように70℃以下で加熱を行って半導体層形成用塗布液を作製した場合でも、この半導体層形成用塗布液を用いて形成した半導体層を有する電子デバイスは機能することが知られていた。しかしながら、本願発明者らは、こうして作製された電子デバイスが、高温高湿環境下においては短期間で性能を失うことを見出した。本願発明者らは、この理由として、従来の方法でも半導体化合物からドーパントへの電荷移動は起こるため、当初は半導体層が電荷輸送特性を示すものの、半導体化合物の酸化状態が不安定なために、高温高湿環境下においてドーパントの電荷が再び半導体化合物に戻りやすいのではないかと推定している。その結果、半導体層は電気的に中性となるために導電性が下がり、電子デバイスの性能が低下する。
【0037】
一方、85℃以上への加熱を行うか又は紫外線照射を行うことにより、ドーパントと有機半導体化合物との化学反応により有機半導体化合物が酸化されるために、有機半導体化合物が酸化された状態で安定となり、半導体層の電荷が再びドーパントに戻る現象が起こりにくくなるのではないかと、本願発明者らは推定している。例えば、ドーパントが高温により壊れる反応が起こり、活性な酸化剤が生じた結果として有機半導体化合物が酸化される場合、有機半導体化合物が再び電荷を獲得する反応は進行しにくいものと考えられる。
【0038】
とりわけ溶液状態では一般に反応が進行しやすいため、85℃以上への加熱を行うか又は紫外線照射を行うことにより、ドーパントと有機半導体化合物との間の反応が円滑に進むことが予想できる。一方、半導体層形成用塗布液を塗布して半導体層を形成し、これを乾燥させる際に温度を上昇させても、固体中での反応は円滑に進行しないことが予想される。本実施形態においては、溶液状態において85℃以上への加熱を行うか又は紫外線照射を行うという構成により、電子デバイスにダメージが生じない程度の低い温度において半導体層を塗布成膜する場合であっても、十分に導電性が高く熱力学的に安定な半導体層が形成されたものと考えられる。
【0039】
一実施形態において、半導体層形成用塗布液が含有する未反応のドーパント量は、ドーパント量の80質量%以下である。ここで、ドーパント量とは、未反応のドーパント量と反応済みドーパント量の和である。未反応のドーパントとは、有機半導体化合物との化学反応を経ておらず、壊れていないために有している電荷が再び有機半導体化合物に戻りうるドーパントのことを指す。また、反応済みドーパントとは、有機半導体化合物との化学反応を経て壊れたため、再び有機半導体化合物に電荷を与える能力を有していないドーパントの分解生成物のことを指す。別の実施形態において、ドーパント量とは、半導体層形成用塗布液を調製するために使用したドーパントの量を指す。
【0040】
上述のように、有機半導体化合物とドーパントとの化学反応がある程度進んでいれば、半導体層が電荷輸送特性を失う現象が起こりにくくなり、また有機半導体化合物とドーパントとの化学反応が完全に進むことにより、より耐久性の高い半導体層が得られるものと考えられる。このような観点から、半導体層形成用塗布液が含有する未反応のドーパント量は、ドーパント量の60質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、実質的に存在しないことが特に好ましい。なお、未反応のドーパント量は、化学分析により確認することができるほか、紫外可視吸収スペクトルを用いた定量法により推定することもできる。
【0041】
加熱している際の溶液の温度は、反応を十分に進める観点から、90℃以上であることが好ましく、95℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましく、115℃以上であることがより好ましく、135℃以上であることがさらに好ましく、150℃以上であることが特に好ましい。一方化合物半導体の分解を防ぐため、半導体化合物の熱分解温度以下であることが好ましい。本発明において、熱分解温度とは、TG―DTAにより測定した場合に、質量が5%減少した温度を意味する。
【0042】
加熱の時間は、反応を十分に進める観点から、10分間以上であることが好ましく、20分間以上であることがより好ましく、30分以上であることがさらに好ましい。時間の上限は特に限定されないが、例えば10時間以下でありうる。
【0043】
紫外線照射を行う場合は、有機半導体化合物とドーパントを含む溶液に0.1J/cm以上の紫外線量を照射することで化学反応を十分進めることができる。より好ましくは0.5J/cm以上、さらに好ましくは1J/cm以上である。一方、半導体化合物の分解を防ぐため、紫外線量は1000J/cm以下であることが好ましい。より好ましくは800J/cm以下、さらに好ましくは500J/cm以下である。紫外線強度には特段の制限はないが、例えば365nmにおいて5mW/cm以上の強度のものを用いることができる。紫外線源としては特段の制限はないが、水銀ランプやメタルハライドランプを用いることができる。
【0044】
また、半導体層形成用塗布液に対して、85℃以上への加熱、及び紫外線照射の両方を行ってもよい。例えば、半導体層形成用塗布液を85℃以上に加熱した後に紫外線照射を行ってもよいし、半導体層形成用塗布液に対して紫外線照射を行った後に85℃以上に加熱してもよい。また、半導体層形成用塗布液を85℃以上に加熱すると同時に紫外線照射を行ってもよい。これらの場合の反応条件として、ドーパントと半導体化合物との間の反応を円滑に進ませることができるように、前述の条件を適宜調整して用いることができる。
【0045】
塗布液中の有機半導体化合物及びドーパントの濃度は特に限定されず、所望の半導体層の厚さ等に応じて適宜設定することができる。例えば、塗布液中の有機半導体化合物の濃度は、1.0質量%以上であってもよく、10質量%以下であってもよい。また、塗布液中のドーパントの量は、塗布液中の有機半導体化合物の量に対して、1.0質量%以上であってもよく、20質量%以下であってもよい。
【0046】
[塗布液の塗布]
本実施形態においては、上記のように調製された塗布液を塗布することにより半導体層が形成される。塗布液の塗布方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0047】
塗布液を塗布した後には加熱乾燥を行うことができる。この際の加熱温度は、特段の制限はないが、十分に溶媒を取り除く観点から、好ましくは60℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。一方、電子デバイスへのダメージを抑制するために、加熱温度は、塗布液調製時の温度よりも低いことが好ましい。具体的には、加熱温度は、好ましくは150℃未満、より好ましくは135℃未満、さらに好ましくは115℃未満、より好ましくは100℃未満、さらに好ましくは95℃未満、より好ましくは90℃未満、特に好ましくは85℃未満である。加熱する時間にも特段の制限はないが、十分に溶媒を取り除く観点から、好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上であり、一方、生産効率を向上させる観点から、好ましくは10時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。これらの加熱は、常圧下、または、減圧下、で行ってよい。
【0048】
半導体層の厚さは特に限定されず、半導体層の用途に応じて適宜選択することができる。一例としては、半導体層の厚さは0.5nm以上500nm以下であってもよい。
【0049】
[電子デバイス]
電子デバイスの種類は特に限定されない。本明細書において電子デバイスとは、2個以上の電極とを有し、その電極間に流れる電流若しくは生じる電圧を、電気、光、磁気若しくは化学物質等により制御するデバイス、又は、その電極間に印加した電圧若しくは電流により、光、電場若しくは磁場等を発生させるデバイスのことを指す。具体例としては、電圧若しくは電流の印加により電流若しくは電圧を制御する素子、磁場の印加により電圧若しくは電流を制御する素子、又は化学物質を作用させて電圧若しくは電流を制御する素子等が挙げられる。制御の具体例としては、整流、スイッチング、増幅又は発振等が挙げられる。
【0050】
電子デバイスの例としては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子若しくは化学センサー等、又はこれらの素子を組み合わせ若しくは集積化して得られた半導体デバイスが挙げられる。また、電子デバイスのさらなる例としては光素子が挙げられ、光素子には光電流を生じるフォトダイオード若しくはフォトトランジスタ、電界を印加することにより発光する電界発光素子、又は光により起電力を生じる光電変換素子若しくは太陽電池等が含まれる。半導体デバイスのより具体的な例としては、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley Interscience 1981)に記載されているものを挙げることができる。
【0051】
本実施形態に係る電子デバイスは、半導体層を備えているが、その具体的な構成は特に限定されない。一実施形態において、電子デバイスは、一対の電極と、一対の電極間に配置された半導体層と、を有する。半導体層は、上記の本実施形態に係る半導体層形成用塗布液を塗布することにより得られる。電極の種類は特に限定されない。電子デバイスの種類に応じて、適切な材料を用いて電極を作製することができる。
【0052】
電子デバイスの好ましい例としては、電界発光素子(LED)、光電変換素子又は太陽電池が挙げられる。例えば、一実施形態に係る電界発光素子(LED)は、一対の電極である陽極及び陰極と、電極間に配置された発光層と、発光層と一方の電極との間に配置された半導体層と、を備えることができる。一実施形態においては、上記の本実施形態に係る半導体層形成用塗布液を塗布することにより得られた半導体層が、発光層と陽極との間に正孔輸送層として設けられる。
【0053】
上述のように、本実施形態において、電子デバイスは、上記のように調製された塗布液を塗布することにより半導体層を形成する工程を含む製造方法によって製造される。本実施形態に係る電子デバイスの製造方法は特に限定されず、電子デバイスの構成に合わせて適宜決定することができる。例えば、電極が形成された基材上に、塗布液を塗布することにより半導体層を形成する工程と、半導体層上に電極を形成する工程と、により電子デバイスを製造することができる。
【0054】
半導体層を形成した後に、例えば電子デバイスを構成する各要素が形成された後に、電子デバイスを加熱することができる。この工程はアニーリング処理工程と呼ばれることがあり、電子デバイスを構成する各要素間の密着性を向上させ、電子デバイスの性能を向上させる効果が得られうる。この際の加熱温度は、特段の制限はないが、十分な密着性向上効果を得る観点から、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。また、好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下の温度範囲において、加熱することが好ましい。一方、電子デバイスへのダメージを抑制するために、加熱温度は、塗布液調製時の温度よりも低いことが好ましい。具体的には、加熱温度は好ましくは150℃未満、より好ましくは135℃未満、さらに好ましくは115℃未満、より好ましくは100℃未満、さらに好ましくは95℃未満、より好ましくは90℃未満、特に好ましくは85℃未満である。加熱時間にも特段の制限はないが、十分な密着性向上効果を得る観点から、好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上であり、一方、生産効率を向上させる観点から、好ましくは180分間以下、さらに好ましくは60分間以下である。これらの加熱は、常圧下、または、減圧下、で行ってよい。
【0055】
以下、電子デバイスの好ましい例として、半導体層を備える光電変換素子について説明する。
【0056】
[光電変換素子]
本実施形態に係る光電変換素子は、下部電極と上部電極から構成される一対の電極と、一対の電極間にある活性層と、一対の電極と活性層との間にあるバッファ層と、を備える。一実施形態において、バッファ層は、上記の本実施形態に係る半導体層形成用塗布液を塗布することにより得られる半導体層である。
【0057】
図1は、本発明に係る光電変換素子の一実施形態を模式的に表す断面図である。図1に示される光電変換素子は、一般的な薄膜太陽電池に用いられる光電変換素子であるが、本発明に係る光電変換素子が図3に示されるものに限られるわけではない。本発明の一実施形態に係る光電変換素子100は、基材108、下部電極101、バッファ層102、活性層103、バッファ層105、及び上部電極107がこの順に形成された層構造を有する。図3に示すように、光電変換素子100が、基材108上に各層が積層された構造を有する場合、基材108に近い電極を下部電極101と、基材108から遠い電極を上部電極107と、それぞれ呼ぶことができる。なお、必ずしもバッファ層102とバッファ層105との双方を設ける必要はない。
【0058】
また、光電変換素子100がその他の層をさらに有していてもよい。その他の層としては、下部電極101又は上部電極107の仕事関数を調整する仕事関数チューニング層や、絶縁体層等が挙げられる。
【0059】
本実施形態に係る半導体層形成用塗布液を塗布することにより得られる半導体層は、良好な正孔輸送特性を示しうるため、正孔取り出し層として好ましく用いられうる。例えば、一実施形態において、下部電極101と上部電極107とのうち一方はカソードであり、他方はアノードである。一実施形態において、下部電極101はカソードであり、この場合バッファ層102は電子取り出し層、バッファ層105は正孔取り出し層、上部電極107はアノードである。このような構成において、上部電極107と活性層103との間に位置するバッファ層105(正孔取り出し層)は、上記の本実施形態に係る半導体層形成用塗布液を塗布することにより得られる半導体層でありうる。また、一実施形態において、下部電極101はアノードであり、この場合バッファ層102は正孔取り出し層、バッファ層105は電子取り出し層、上部電極107はカソードである。このような構成において、バッファ層102(正孔取り出し層)は、上記の本実施形態に係る半導体層形成用塗布液を塗布することにより得られる半導体層でありうる。
【0060】
また、本実施形態に係る半導体層形成用塗布液を塗布することにより得られる半導体層は、高い耐久性を示しうるため、上部電極107と活性層103との間に位置し外界からの影響を受けやすいバッファ層105として好ましく用いられうる。
【0061】
(1.活性層103)
活性層103は光電変換が行われる層である。光電変換素子100が光を受けると、光が活性層103に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極101及び上部電極107から取り出される。
【0062】
活性層103の種類は特に限定されず、従来知られているものを用いることができる。例えば、活性層103は、ポルフィリン誘導体のようなp型半導体化合物を含有する層と、フラーレン誘導体n型半導体化合物を含有する層とを含むヘテロ接合型の活性層でありうる。また、活性層103は、p型半導体化合物とn型半導体化合物とが混合した層(i層)を有するバルクヘテロ型の活性層でありうる。また、活性層103は、ペロブスカイト化合物を含有する層であってもよい。
【0063】
好ましくは、活性層103はペロブスカイト化合物を含有する層である。このような活性層103を有する太陽電池はペロブスカイト太陽電池として知られている。ペロブスカイト半導体においては、ペロブスカイト構造を有するペロブスカイト化合物が結晶を形成している。このような結晶においては速い電荷分離が起こるとともに正孔及び電子の拡散距離が長いため、効率のよい電荷分離が起こる。なお、本発明は、とりわけぺロブスカイト化合物を含有する活性層を用いた光電変換素子の製造において特に有効である。この理由としては、通常、ペロブスカイト化合物は上記半導体層形成用塗布液に用いられる溶媒に対し不溶であり、また、上記半導体層形成用塗布液により形成された層は、ぺロブスカイト化合物を含有する層を形成するために用いられる溶媒に対して不溶であるため、各層を劣化させることなく塗布プロセスにより積層できる点が挙げられる。
【0064】
ペロブスカイト化合物とは、ペロブスカイト構造を有する半導体化合物のことを指す。ペロブスカイト化合物としては、特段の制限はないが、例えば、Galasso et al. Structure and Properties of Inorganic Solids, Chapter 7 - Perovskite type and related structuresで挙げられているものから選ぶことができる。例えば、ペロブスカイト化合物としては、一般式AMXで表されるもの又は一般式AMXで表されるものが挙げられる。ここで、Mは2価のカチオンを、Aは1価のカチオンを、Xは1価のアニオンを指す。ペロブスカイト化合物としては、半導体デバイスの種類に応じて適切なものを選択することができる。ペロブスカイト化合物としては、1.0eV以上3.5eV以下のエネルギーバンドギャップを有する半導体化合物を用いることが好ましい。
【0065】
1価のカチオンAに特段の制限はないが、上記Galassoの著書に記載されているものを用いることができる。より具体的な例としては、周期表第1族及び第13族~第16族元素を含むカチオンが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン(アミジニウムイオンを含む)、置換基を有していてもよいホスホニウムイオン、又は置換基を有していてもよいアミジニウムイオンが好ましい。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの例としては、1級アンモニウムイオン又は2級アンモニウムイオンが挙げられる。置換基にも特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの具体例としては、アルキルアンモニウムイオン、アリールアンモニウムイオン、アミジニウムイオン、又はグアニジウムイオン等が挙げられる。特に、立体障害を避けるために、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオンが好ましく、安定性向上の観点からは、一つ以上のフッ素基を置換したアルキルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。また、カチオンAとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。
【0066】
1価のカチオンAの具体例としては、メチルアンモニウムイオン、モノフッ化メチルアンモニウムイオン、ジフッ化メチルアンモニウムイオン、トリフッ化メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオン又はイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0067】
2価のカチオンMにも特段の制限はないが、2価の金属カチオン又は半金属カチオンであることが好ましい。具体的な例としては周期表第14族元素のカチオンが挙げられ、より具体的な例としては、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)が挙げられる。また、カチオンMとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。なお、安定な光電変換素子を得る観点からは、鉛カチオン又は鉛カチオンを含む2種以上のカチオンを用いることが特に好ましい。
【0068】
1価のアニオンXの例としては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、硫黄イオン、テルルイオン、チオシアン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、2,4-ペンタンジオナトイオン又はケイフッ素イオン等が挙げられる。バンドギャップを調整するためには、Xは1種類のアニオンであってもよいし、2種類以上のアニオンの組み合わせであってもよい。なかでも、Xとしてはハロゲン化物イオン、又はハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせを用いることが好ましい。ハロゲン化物イオンXの例としては、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオン等が挙げられる。
【0069】
ペロブスカイト化合物の好ましい例としては、有機-無機ペロブスカイト化合物が挙げられ、特にハライド系有機-無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。ペロブスカイト化合物の具体例としては、CHNHPbI、CHNHPbBr、CHNHPbCl、CHNHSnI、CHNHSnBr、CHNHSnCl、CHNHPbI(3-x)Cl、CHNHPbI(3-x)Br、CHNHPbBr(3-x)Cl、CHNHPb(1-y)Sn、CHNHPb(1-y)SnBr、CHNHPb(1-y)SnCl、CHNHPb(1-y)Sn(3-x)Cl、CHNHPb(1-y)Sn(3-x)Br、及びCHNHPb(1-y)SnBr(3-x)Cl、並びに、上記の化合物においてCHNHの代わりにCFHNH、CFHNH、CFNH、NHCH=NHを用いたもの、等が挙げられる。なお、xは0以上3以下、yは0以上1以下の任意の値を示す。
【0070】
活性層103は、2種類以上のペロブスカイト化合物を含有していてもよい。例えば、A、B及びXのうちの少なくとも1つが異なる2種類以上のペロブスカイト化合物が活性層103に含まれていてもよい。
【0071】
活性層103に含まれるペロブスカイト化合物の量は、良好な半導体特性が得られるように、好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上限に特に制限はない。
【0072】
活性層103の厚さに特段の制限はない。より多くの光を吸収できる点で、活性層103の厚さは、好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、特に好ましくは120nm以上である。一方で、直列抵抗が下がる点で、活性層103の厚さは、好ましくは2000nm以下、さらに好ましくは1000nm以下である。
【0073】
活性層103の形成方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。具体例としては、塗布法及び蒸着法(又は共蒸着法)が挙げられる。簡易に活性層103を形成できる点で、塗布法を用いることは好ましい。
【0074】
ペロブスカイト化合物を含有する活性層103の作製方法の例としては、例えば、ペロブスカイト化合物又はその前駆体を含有する塗布液を塗布することにより半導体層を形成する方法が挙げられる。ペロブスカイト化合物前駆体とは、塗布液を塗布した後にペロブスカイト化合物へと変換可能な材料のことを指す。具体的な例としては、加熱することによりペロブスカイト化合物へと変換可能なペロブスカイト化合物前駆体がある。例えば、塗布液を塗布することにより得られた膜を加熱することにより、ペロブスカイト化合物前駆体をペロブスカイト化合物へと変換し、ペロブスカイト化合物を含有する半導体層を形成することができる。ペロブスカイト化合物前駆体の具体例としては、加熱により下記(1)で表されるペロブスカイト化合物へと変換可能である、下記式(2)で表される化合物及び/又は下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0075】
一例としては、下記式(2)で表される化合物と、下記式(3)で表される化合物と、溶媒と、を含有する塗布液を作製し、この塗布液を塗布する方法が挙げられる。このような塗布液は、化合物を溶液中で加熱攪拌することにより作製することができる。この方法によれば、下記式(1)で表される化合物を含有する活性層103を作製することができる。
【0076】
AMX ・・・(1)
AX ・・・(2)
MX ・・・(3)
A、M及びXの定義は上述の通りである。AXの具体例としてはハロゲン化アルキルアンモニウム塩が挙げられ、MXの具体例としては金属ハロゲン化物が挙げられる。AX及びMXは、ベロブスカイト半導体化合物AMXの前駆体である。
【0077】
別の例としては、上記式(2)で表される化合物と溶媒とを含有する塗布液と、上記式(3)で表される化合物と溶媒とを含有する塗布液と、をそれぞれ調製して塗布する方法が挙げられる。例えば、まず、上記式(3)で表される化合物と溶媒とを含有する塗布液を塗布することにより式(3)で表される化合物の層を形成する。その上に、上記式(2)で表される化合物と溶媒とを含有する塗布液を塗布することにより、下記式(1)で表される化合物を含有する活性層103を作製することができる。各塗布液を塗布した後には、加熱を行うことにより、層を乾燥させたり、ペロブスカイト半導体化合物の結晶化を促進したりすることができる。加熱は、例えば60℃以上、又は180℃以下で行うことができる。
【0078】
溶媒としては、Brandrup,J.ら編「Polymer Handbook, 4th Ed.」に記載の溶解度パラメータ(SP値)が、9以上であるものが好ましく、10以上であるものが特に好ましい。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ピリジン、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。溶媒としては、2種類以上の溶媒の混合溶媒を用いてもよい。なお、混合溶媒を用いる場合も、混合溶媒のうち少なくとも1種の溶媒の溶解度パラメータは10以上であることが好ましい。
【0079】
(2.バッファ層102,105)
バッファ層は通常、電子取り出し層と正孔取り出し層とに分類することができる。上述の通り、光電変換素子100が備えるバッファ層のうち少なくとも1つは、上記の本実施形態に係る半導体層形成用塗布液を塗布することにより得られる半導体層でありうる。また、このような半導体層は、正孔取り出し層として用いることが好ましい。なお、バッファ層102を正孔取り出し層とし、バッファ層105を電子取り出し層としてもよいし、バッファ層102を電子取り出し層とし、バッファ層105を正孔取り出し層としてもよいが、バッファ層105が、上記半導体層形成用塗布液を塗布して形成するバッファ層であることが好ましい。この理由としては、上記ペロブスカイト前駆体溶液を上記半導体層形成用塗布液を用いて形成した層に対して濡れ性が低下する傾向があるのに対して、上記半導体層形成用組成物は、ぺロブスカイト化合物を含有する活性層に対して濡れ性が高い傾向がある点が挙げられる。また、電極107をスパッタプロセスで製膜する場合に、上記半導体層形成用塗布液により形成した層は酸化しにくい傾向があるため、スパッタプロセスによる酸化ダメージを受けにくい点が挙げられる。以下、正孔取り出し層と電子取り出し層のそれぞれについて説明する。なお、1つのバッファ層は、異なる複数の膜により構成されていてもよい。
【0080】
正孔取り出し層の材料に特に限定は無く、活性層103からアノードへの正孔の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。上述の通り、正孔取り出し層として本実施形態に係る半導体層形成用塗布液を塗布することにより得られる半導体層を用いることは好ましい。正孔取り出し層の材料の別の例としては、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物又は有機化合物が挙げられる。
【0081】
例えば、無機化合物としては、酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステン等の金属酸化物が挙げられる。また、有機化合物としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等に、スルホン酸及びヨウ素等がドーピングされた導電性ポリマー(例えば、PEDOT:PSS又はドーピングされたP3HT)、スルホニル基を置換基に有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物、ナフィオン、又はリチウムドーピングされたspiro-OMeTADが挙げられる。
【0082】
正孔取り出し層の全体の膜厚に特に限定はないが、好ましくは0.5nm以上である。一方、好ましくは400nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。正孔取り出し層の膜厚が0.5nm以上であることでバッファ材料としての機能をよく果たすことになり、正孔取り出し層の膜厚が400nm以下であることで、正孔が取り出し易くなり、光電変換効率が向上しうる。
【0083】
正孔取り出し層の形成方法に制限はない。昇華性を有する化合物を用いる場合は真空蒸着法等の乾式成膜法により形成することができる。また、溶媒に可溶な化合物を用いる場合は、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法により形成することができる。
【0084】
電子取り出し層の材料に特に限定は無く、活性層103からカソードへの電子の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。
【0085】
例えば、無機化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化インジウム、又は酸化スズ等の金属酸化物が挙げられる。有機化合物としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、フラーレン化合物、又はホスフィンオキシド化合物若しくはホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。
【0086】
電子取り出し層の形成方法に特に制限はない。昇華性を有する化合物を材料として用いる場合は、真空蒸着法等の乾式成膜法により形成することができる。また、溶媒に可溶な化合物を材料として用いる場合は、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法により形成することができる。
【0087】
電子取り出し層の全体の膜厚に特に限定はないが、好ましくは0.5nm以上、さらに好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、特に好ましくは10nm以上である。一方、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは700nm以下、より好ましくは400nm以下、特に好ましくは200nm以下である。電子取り出し層105の膜厚が上記の範囲内にあることで、均一な塗布が容易となり、電子取り出し機能もよく発揮されうる。
【0088】
(3.電極101,107)
電極は、光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。したがって、一対の電極としては、正孔の捕集に適したアノードと、電子の捕集に適したカソードとを用いることが好ましい。一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過することを指す。また、透明電極の太陽光線透過率は70%以上であることが、より多くの光が透明電極を透過して活性層103に到達するために好ましい。光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定できる。
【0089】
アノード及びカソードの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができる。
【0090】
(4.基材108)
光電変換素子100は、通常は支持体となる基材108を有する。もっとも、本発明に係る光電変換素子は基材108を有さなくてもよい。基材108の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の材料を使用することができる。
【0091】
(5.光電変換素子の作製方法)
上述の方法に従って、光電変換素子100を構成する各層を形成することにより、光電変換素子100を作製することができる。また、耐久性を向上させるため、光電変換素子100をさらに封止してもよい。例えば、上部電極107にさらに封止板を積層し、基材108と封止板とを接着剤で固定することにより、光電変換素子100を封止することができる。
【0092】
光電変換素子100を構成する各層の形成方法に特段の制限はなく、シートツゥーシート(万葉)方式、又はロールツゥーロール方式で形成することができる。なお、ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、ロールツゥーロール方式はシートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。一方、ロールツゥーロール方式で各層を成膜しようとすると、その構造上、成膜面とロールとが接触することにより膜に傷がついたり、部分的に剥がれてしまったりする場合がある。
【0093】
ロールツゥーロール方式に用いることのできるロールの大きさは、ロールツゥーロール方式の製造装置で扱える限り特に限定されないが、外径の上限は、好ましくは5m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは1m以下である。一方、下限は好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。ロール芯の外径の上限は、好ましくは4m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは0.5m以下である。一方、下限は好ましくは1cm以上、さらに好ましくは3cm以上、より好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、特に好ましくは20cm以上である。これらの径が上記上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは各工程で成膜される層が曲げ応力により破壊される可能性が低くなる点で好ましい。ロールの幅の下限は、好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上である。一方、上限は、好ましくは5m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは2m以下である。幅が上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは光電変換素子100の大きさの自由度が高くなるため好ましい。
【0094】
また、上部電極107を積層した後に、光電変換素子100に対して上述のアニーリング処理工程を行うことができる。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことにより、光電変換素子100の各層間の密着性が向上する効果が得られるため、好ましい。各層間の密着性が向上することにより、光電変換素子の熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程においては、異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0095】
アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換素子を入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0096】
(6.光電変換特性)
光電変換素子100の光電変換特性は次のようにして求めることができる。光電変換素子100にソーラシュミレーターでAM1.5G条件の光を照射強度100mW/cmで照射して、電流-電圧特性を測定する。得られた電流-電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。
【0097】
光電変換素子100の光電変換効率は、特段の制限はないが、好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、より好ましくは2%以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。また、光電変換素子100のフィルファクターは、特段の制限はないが、好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
【0098】
本実施形態に係る光電変換素子は、耐久性が高いという特徴を有する。一実施形態において、温度60℃、湿度90%の試験環境に1日間おいた後の、光電変換効率の維持率は、60%以上であり、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、特に好ましくは95%以上である。例えば、光電変換素子を作製した直後の初期光電変換効率と、この光電変換素子を試験環境においた後の光電変換効率とに基づいて、維持率を求めることができる。また、維持率は、上記のように光電変換素子を封止した後で測定することができる。ここで、維持率とは、試験環境におく前後での光電変換効率に基づいて、以下のように算出することができる。
維持率(%)=((試験環境においた後の光電変換効率)/(試験環境におく前の光電変換効率))×100
【0099】
また、一実施形態において、温度60℃、湿度90%の試験環境に96時間おいた後の、光電変換効率の維持率は、40%以上であり、好ましくは60%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、特に好ましくは95%以上である。
【0100】
(7.太陽電池)
本実施形態に係る光電変換素子100は、太陽電池、なかでも薄膜太陽電池の太陽電池素子として使用されることが好ましい。図2は本発明の一実施形態に係る太陽電池の構成を模式的に表す断面図であり、図2には本発明の一実施形態に係る太陽電池である薄膜太陽電池が示されている。図2に表すように、本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10と、をこの順に備える。本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、太陽電池素子6として、本実施形態に係る光電変換素子を有している。そして、耐候性保護フィルム1が形成された側(図2中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するようになっている。なお、薄膜太陽電池14は、これらの構成部材を全て有する必要はなく、必要な構成部材を任意に選択することができる。
【0101】
薄膜太陽電池を構成するこれらの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の技術を使用することができる。
【0102】
本発明に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14の用途に制限はなく、任意の用途に用いることができる。例えば、一実施形態に係る太陽電池は、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池として用いることができる。
【0103】
本発明に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14はそのまま用いてもよいし、太陽電池モジュールの構成要素として用いられてもよい。例えば、図5に示すように、本実施形態に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14を基材12上に備える太陽電池モジュール13を作製し、この太陽電池モジュール13を使用場所に設置して用いることができる。基材12としては周知技術を用いることができ、例えば、基材12の材料としては国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等に記載の材料を用いることができる。例えば、基材12として建材用板材を使用する場合、この板材の表面に薄膜太陽電池14を設けることにより、太陽電池モジュール13として、建物の外壁用太陽電池パネルを作製することができる。
【実施例0104】
以下に、実施例により本発明の実施形態を説明する。しかしながら、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例には限定されない。
【0105】
[塗布液の調製]
(電子取り出し層用塗布液の調製)
酸化スズ(IV)15%水分散液(Alfa Aesar社製)に超純水を加えることにより、7.5%の酸化スズ水分散液を作製した。
【0106】
(活性層用塗布液の調製)
ヨウ化鉛(II)をバイアル瓶に量りとりグローブボックスに導入した。ヨウ化鉛(II)の濃度が1.3mol/Lとなるように溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを加え、その後、100℃で1時間加熱撹拌することで活性層用塗布液1を作製した。
【0107】
次に、別のバイアル瓶にホルムアミジンヨウ化水素酸塩(FAI)、メチルアミン臭化水素酸塩(MABr)、及びメチルアミン塩化水素酸塩(MACl)を10:1:1の質量比となるよう量りとり、グローブボックスに導入した。そこへ溶媒としてイソプロピルアルコールを加えることにより、FAI、MAbr、及びMAClの合計濃度が0.49mol/Lである活性層用塗布液2を調製した。
【0108】
(正孔取り出し層用塗布液1の調製)
32mgのポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA,シグマアルドリッチ社製)と、3.6mgの4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TPFB,TCI社製)とをバイアル瓶に量りとり、グローブボックスに導入した。そこへ溶媒として1.6mLのクロロベンゼンを加えた。次に、得られた混合液を100℃で1時間加熱撹拌することにより、正孔取り出し層用塗布液1を調製した。
【0109】
(正孔取り出し層用塗布液2の調製)
64mgのPTAAと3.6mgのTPFBをバイアル瓶に量りとり、溶媒としてオルトジクロロベンゼンを用い、得られた混合液を100℃ではなく150℃で1時間加熱攪拌したこと以外は正孔取り出し層用塗布液1と同様の方法により、正孔取り出し層用塗布液2を調製した。
【0110】
(正孔取り出し層用塗布液3の調製)
得られた混合液を100℃ではなく70℃で1時間加熱攪拌したこと以外は正孔取り出し層用塗布液1と同様の方法により、正孔取り出し層用塗布液3を調製した。
【0111】
(正孔取り出し層用塗布液4の調製)
グローブボックス中で170mgのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)をバイアル瓶の中に量りとり、1mLのアセトニトリルを加えることにより、LiTFSI溶液を調製した。
【0112】
次に、グローブボックス中で別のバイアル瓶に15mgのPTAAを量りとり、そこへ溶媒として1mLのトルエン加えた。得られた溶液に、上記のLiTFSI溶液15μL及び4-tert-ブチルピリジン7.5μLを加え、室温で1時間撹拌することにより、正孔取り出し層塗布溶液4を調製した。
【0113】
[実施例1:光電変換素子1の作製]
パターニングされた酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜を備えるガラス基板(ジオマテック社製)に対して、超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローによる乾燥、及びUV-オゾン処理を行った。
【0114】
次に、上記のように調製した電子取り出し層用塗布液を、室温で、上記の基板上に2000rpmの速度でスピンコートすることにより、厚さ約35nmの電子取り出し層を形成した。その後、基板をホットプレート上150℃で10分間加熱した。
【0115】
次に、基板をグローブボックスに導入し、100℃に加熱した活性層用塗布液1を電子取り出し層上に150μL滴下し、2000rpmの速度でスピンコートした。次に、基板をホットプレート上100℃で10分間加熱アニールすることにより、ヨウ化鉛層を形成した。次に、基板が室温に戻った後、ヨウ化鉛層上に活性層塗布液2(120μL)を2000rpmの速度でスピンコートし、150℃で20分間加熱することにより、有機無機ペロブスカイトの活性層(厚さ650nm)を形成した。
【0116】
次に、基板が室温に戻った後、活性層上に、正孔取り出し層塗布液1(200μL)を1500rpmの速度でスピンコートし、さらにホットプレート上90℃で5分間加熱することで、正孔取り出し層(170nm)を形成した。
【0117】
次に、正孔取り出し層上に、抵抗加熱型真空蒸着法によりパターニングマスクを用いて厚さ約100nmの銀膜を蒸着させることで、電極を形成した。こうして、50×50mm角の光電変換素子1を作製した。さらに、中央部分が掘り下げられているガラスと光電変換素子1のガラス基板とをシール材(光硬化樹脂)によって貼り合わせることで、光電変換素子1を封止した。
【0118】
[実施例2:光電変換素子2の作製]
正孔取り出し層用塗布液1をスピンコートする代わりに、正孔取出し層用塗布液2を活性層上に1000rpmの速度でスピンコートしたこと以外は、実施例1と同様の方法を用いて光電変換素子2を作製した。
【0119】
[比較例1:光電変換素子3の作製]
正孔取り出し層用塗布液1をスピンコートする代わりに、正孔取出し層用塗布液3を活性層上にスピンコートしたこと以外は、実施例1と同様の方法を用いて光電変換素子3を作製した。
【0120】
[参考例1:光電変換素子4の作製]
正孔取り出し層用塗布液1をスピンコートする代わりに、正孔取出し層用塗布液4を活性層上に3000rpmの速度でスピンコートしたこと以外は、実施例1と同様の方法を用いて光電変換素子4を作製した。
【0121】
[光電変換素子の評価]
実施例1及び2、比較例1、並びに参考例1で得られた光電変換素子1~4のそれぞれに4mm角のメタルマスクを付け、ITO電極と銀電極との間における電流-電圧特性を測定した。測定にはソースメーター(ケイスレー社製,2400型)を用い、照射光源としてはエアマス(AM)1.5G、放射照度100mW/cmのソーラシミュレータを用いた。この測定結果から、耐久性試験機に入れられていない光電変換素子についての初期変換効率PCE(%)を算出した。次に、光電変換素子1~4のそれぞれを、温度60℃、湿度90%の高温高湿耐久性試験機の中へ入れて1日後に取り出し、電流-電圧特性を測定した。次に、光電変換素子1~4のそれぞれを高温高湿耐久性試験機の中へ入れて長時間経過後に取り出し、電流-電圧特性を測定した(耐久性試験機の中に入れた時間を表1に示す)。それぞれの測定結果に基づいて算出された、それぞれの時点における変換効率PCEを表1に示す。表1において、維持率は初期のPCEに対する耐久性試験後のPCEの割合を示す。
【0122】
【表1】
【0123】
表1に示すように、初期の変換効率は、実施例1及び2、比較例1、及び参考例1で大きな差は見られなかった。一方、耐久性試験の結果を見ると、比較例1及び参考例1では大幅に変換効率が低下したのに対して、実施例1及び2では耐久性試験後も初期の変換効率と同等の変換効率が維持された。以上の結果から、100℃又は150℃の条件下で塗布液を調製した実施例1及び2に係る光電変換素子は高い耐久性を備えていることが分かる。このように、比較例1と、実施例1及び2とでは、バッファ層の形成に用いた材料は同じであるものの、その構造には差異があるものと理解される。その理由は現時点では必ずしも決定されていないが、本願発明者らは、高温で正孔取り出し層用塗布液を調製したことにより、有機半導体化合物(本実施例ではPTAA)の酸化が円滑に進行したことが、高い耐久性の理由であると推測している。
【0124】
また、本願発明者らは、上記の推測を裏付けるために、実施例2に係る正孔取り出し層用塗布液の吸光度スペクトルを測定した。PTAAとTPFBとを含む混合液を150℃で10分間加熱攪拌した後に吸光度スペクトルを測定したところ、521nmに明確な吸光ピークが観測された。PTAAはこの吸光ピークを有さないことから、この521nmの吸光ピークは酸化されたPTAAに特徴的なものと考えられる。また、この吸光ピークの大きさは、1.5時間加熱攪拌した後でもほとんど増加しなかった。このように、実施例2に係る正孔取り出し層用塗布液では、TPFBによる酸化反応がほとんど完全に進行したものと考えられる。一方、より低い温度を用いてPTAAとTPFBとを含む混合液を10分間加熱攪拌した場合については、この521nmの吸光ピークはほとんど増加しない傾向がみられた。
【0125】
これらの結果から、本願発明者らは、温度が低い場合、有機半導体化合物の酸化反応は非常に進みにくい傾向にあり、有機半導体化合物の酸化状態が不安定なために導電性を失いやすい一方、85℃以上の条件下で半導体層形成用塗布液を調製することにより、有機半導体化合物の酸化反応がある程度進行するために、安定に酸化された有機半導体化合物が得られ、これが半導体層ないし電子デバイスの高い耐久性につながっているものと推測している。
【符号の説明】
【0126】
1 耐候性保護フィルム
2 紫外線カットフィルム
3,9 ガスバリアフィルム
4,8 ゲッター材フィルム
5,7 封止材
6 太陽電池素子
10 バックシート
12 基材
13 太陽電池モジュール
14 薄膜太陽電池
100 光電変換素子
101 下部電極
102 バッファ層
103 活性層
105 バッファ層
107 上部電極
108 基材
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-08-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層を備える電子デバイスの製造方法であって、
5℃以上に加熱した塗布液に紫外線を照射した後に、該塗布液を塗布することにより前記半導体層を形成する工程を含
前記塗布液は、有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である前記有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有し、
前記電子デバイスは、下部電極と上部電極から構成される一対の電極と、該一対の電極間にあるペロブスカイト化合物を含有する活性層と、該一対の電極と前記活性層との間にあるバッファ層と、を備える太陽電池であり、
前記半導体層は前記バッファ層である
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ドーパントは、ジアリールヨードニウム塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機半導体化合物は、トリアリールアミン化合物であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記バッファ層は正孔取り出し層であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記バッファ層は、前記上部電極と前記活性層との間に位置することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法により製造された電子デバイス。
【請求項8】
半導体層形成用塗布液の製造方法であって、
有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である前記有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有し、85℃以上に加熱した該塗布液に紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の製造方法により製造された半導体層形成用塗布液。
【請求項10】
半導体層を備える電子デバイスであって、
前記半導体層は、ドーパントによりドーピングされた有機半導体化合物を含み、
前記半導体層が含有する未反応のドーパント量は、未反応のドーパント量と反応済みドーパント量の和であるドーパント量の80質量%以下である
ことを特徴とする、電子デバイス。
【請求項11】
半導体層形成用塗布液であって、
前記半導体層形成用塗布液は、ドーパントによりドーピングされた有機半導体化合物を含み、
前記半導体層形成用塗布液が含有する未反応のドーパント量は、未反応のドーパント量と反応済みドーパント量の和であるドーパント量の80質量%以下である
ことを特徴とする、半導体層形成用塗布液。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、以下に存する。
[1]半導体層を備える電子デバイスの製造方法であって、5℃以上に加熱した塗布液に紫外線を照射した後に、該塗布液を塗布することにより前記半導体層を形成する工程を含前記塗布液は、有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である前記有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有し、前記電子デバイスは、下部電極と上部電極から構成される一対の電極と、該一対の電極間にあるペロブスカイト化合物を含有する活性層と、該一対の電極と前記活性層との間にあるバッファ層と、を備える太陽電池であり、前記半導体層は前記バッファ層であることを特徴とする、製造方法。
[2]前記ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物であることを特徴とする、[1]に記載の製造方法。
[3]前記ドーパントは、ジアリールヨードニウム塩であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記有機半導体化合物は、トリアリールアミン化合物であることを特徴とする、[1]から[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記バッファ層は正孔取り出し層であることを特徴とする、[1]から[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記バッファ層は、前記上部電極と前記活性層との間に位置することを特徴とする、[1]から[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7][1]から[6]のいずれかに記載の製造方法により製造された電子デバイス。
[8]半導体層形成用塗布液の製造方法であって、有機半導体化合物と、超原子価ヨウ素化合物である前記有機半導体化合物に対するドーパントと、を含有し、85℃以上に加熱した該塗布液に紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする、製造方法。
[9][8]に記載の製造方法により製造された半導体層形成用塗布液。
[10]半導体層を備える電子デバイスであって、前記半導体層は、ドーパントによりドーピングされた有機半導体化合物を含み、前記半導体層が含有する未反応のドーパント量は、未反応のドーパント量と反応済みドーパント量の和であるドーパント量の80質量%以下であることを特徴とする、電子デバイス。
[11]半導体層形成用塗布液であって、前記半導体層形成用塗布液は、ドーパントによりドーピングされた有機半導体化合物を含み、前記半導体層形成用塗布液が含有する未反応のドーパント量は、未反応のドーパント量と反応済みドーパント量の和であるドーパント量の80質量%以下であることを特徴とする、半導体層形成用塗布液。