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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162142
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】接着性細胞の浮遊培養用培地組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/02 20060101AFI20221014BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20221014BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221014BHJP
   C12P 31/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N1/00 F
C12N5/0775
C12P21/02 A
C12P31/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022135082
(22)【出願日】2022-08-26
(62)【分割の表示】P 2020539620の分割
【原出願日】2019-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2018164042
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019134058
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】金木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】木田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】南 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】畑中 大輔
(57)【要約】
【課題】従来のマイクロキャリアを用いた接着性細胞の浮遊培養における課題を解決し得る、新たな浮遊培養方法の提供。
【解決手段】本発明は、(1)キチンナノファイバー;および(2)キトサンナノファイバーまたは多糖類;を含む、接着性細胞の浮遊培養用培地組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)キチンナノファイバー;および
(2)キトサンナノファイバーまたは多糖類;
を含む、接着性細胞の浮遊培養用培地組成物。
【請求項2】
培地組成物がキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含み、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの比率が、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20である、請求項1記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項3】
培地組成物がキチンナノファイバーおよび多糖類を含み、多糖類が、メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、およびアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項1記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項4】
接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、請求項1~3のいずれか一項記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項5】
接着性細胞が、幹細胞である、請求項1~4のいずれか一項記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項6】
幹細胞が、間葉系幹細胞である、請求項5記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項7】
浮遊培養が、幹細胞の増殖、且つ、幹細胞の多能性および遊走性の維持のためのものである、請求項5または6記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項8】
接着性細胞を、
(1)キチンナノファイバー;および
(2)キトサンナノファイバーまたは多糖類;
を含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、接着性細胞の培養方法。
【請求項9】
培地組成物がキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含み、培地組成物中のキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの比率が、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20である、請求項8記載の培養方法。
【請求項10】
培地組成物がキチンナノファイバーおよび多糖類を含み、多糖類が、メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、およびアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項8記載の培養方法。
【請求項11】
接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、請求項8~10のいずれか一項記載の培養方法。
【請求項12】
接着性細胞が、幹細胞である、請求項8~11のいずれか一項記載の培養方法。
【請求項13】
幹細胞が、間葉系幹細胞である、請求項12記載の培養方法。
【請求項14】
浮遊培養が、幹細胞の増殖、且つ、幹細胞の多能性および遊走性の維持のためのものである、請求項12または13記載の培養方法。
【請求項15】
以下の工程をさらに含む、請求項8~14のいずれか一項記載の培養方法:
(1)浮遊培養された細胞をキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類から剥離させる処理を行うことなく、請求項1~7のいずれか一項に記載の浮遊培養用培地組成物をさらに添加する工程、および
(2)工程(1)で得られた混合物を浮遊培養に供する工程。
【請求項16】
接着性細胞を、
(1)キチンナノファイバー;および
(2)キトサンナノファイバーまたは多糖類;
を含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、細胞分泌物を生産する方法。
【請求項17】
培地組成物がキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含み、培地組成物中のキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの比率が、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
培地組成物がキチンナノファイバーおよび多糖類を含み、多糖類が、メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、およびアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項16記載の方法。
【請求項19】
接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、請求項16~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
接着性細胞が、幹細胞である、請求項16~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
幹細胞が、間葉系幹細胞である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
培地組成物中の血清の濃度が2%以下である、請求項16~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
細胞分泌物が、低分子化合物、タンパク質、核酸、および細胞分泌小胞からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項16~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーであって、該特定のアセチル化度が5~70%であるナノファイバーを含む、接着性細胞の浮遊培養用培地組成物。
【請求項25】
培地組成物中の特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーの濃度が、0.0001~0.2%(w/v)である、請求項24記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項26】
接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、請求項24または25記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項27】
接着性細胞が、幹細胞である、請求項24~26のいずれか一項記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項28】
幹細胞が、間葉系幹細胞である、請求項27記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項29】
浮遊培養が、幹細胞の増殖、且つ、幹細胞の多能性および遊走性の維持のためのものである、請求項27または28記載の浮遊培養用培地組成物。
【請求項30】
接着性細胞を、特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーであって、該特定のアセチル化度が5~70%であるナノファイバーを含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、接着性細胞の培養方法。
【請求項31】
培地組成物中の特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーの濃度が、0.0001~0.2%(w/v)である、請求項30記載の培養方法。
【請求項32】
接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、請求項30または31記載の培養方法。
【請求項33】
接着性細胞が、幹細胞である、請求項30~32のいずれか一項記載の培養方法。
【請求項34】
幹細胞が、間葉系幹細胞である、請求項33記載の培養方法。
【請求項35】
浮遊培養が、幹細胞の増殖、且つ、幹細胞の多能性および遊走性の維持のためのものである、請求項33または34記載の培養方法。
【請求項36】
以下の工程をさらに含む、請求項30~35のいずれか一項記載の培養方法:
(1)浮遊培養された細胞を特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーから剥離させる処理を行うことなく、請求項24~29のいずれか一項記載の浮遊培養用培地組成物をさらに添加する工程、および
(2)工程(1)で得られた混合物を浮遊培養に供する工程。
【請求項37】
接着性細胞を、特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーであって、該特定のアセチル化度が5~70%であるナノファイバーを含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、細胞分泌物を生産するための方法。
【請求項38】
培地組成物中の特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーの濃度が、0.0001~0.2%(w/v)である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、請求項37または38記載の方法。
【請求項40】
接着性細胞が、幹細胞である、請求項37~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
幹細胞が、間葉系幹細胞である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
培地組成物中の血清の濃度が2%以下である、請求項37~41のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
細胞分泌物が、低分子化合物、タンパク質、核酸、および細胞分泌小胞からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項37~42のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性細胞の浮遊培養用培地組成物、および接着性細胞の浮遊培養方法に関する。より詳細には、本発明は、キチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを含む接着性細胞の浮遊培養用培地組成物、および、該培地組成物を用いた接着性細胞の浮遊培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療の分野では、iPS細胞やES細胞等の多能性幹細胞を用いての臓器再生手段の構築が鋭意検討されている。しかし、ES細胞の樹立には倫理的な問題を伴い、また、iPS細胞は癌化リスクや培養期間の長さが問題として認識されている。そのため、癌化リスクが比較的低い間葉系幹細胞や神経幹細胞などの体性幹細胞、分化誘導期間が比較的短い前駆脂肪細胞や前駆心筋細胞などの前駆細胞、または軟骨細胞などを用いた手段の可能性も並行して模索されている。
【0003】
体性幹細胞等を用いた治療手段には、高品質な当該細胞が大量に必要となるため、効率よく高品質な細胞を調製し得る培養方法が求められている。例えば、間葉系幹細胞は、シャーレ中で単層培養(2次元(2D)培養等とも称される)により比較的容易に増殖させることができることが知られている。
【0004】
しかし、ひとつのシャーレ中で培養できる細胞数は限られているため、この方法を用いて細胞を大量に培養する場合、多くのシャーレを積層する等の検討が必要となるため、かかる培養方法は大量生産の観点には不向きである。また、最近の報告では、シャーレによる2次元培養法は、間葉系幹細胞の未分化能や増殖能を低下させる可能性があり、加えて、ホーミング作用を含んだ遊走能や抗炎症作用等の、間葉系幹細胞が有する機能の低下も危惧されている。従って、シャーレによる2次元培養法は、高品質な細胞の生産との観点においても不向きである。
【0005】
一方、大量に接着性細胞を培養する方法としては、細胞をマイクロキャリアに接着させた状態で培養し、増殖させる装置が報告されている(特許文献1)。しかしながら、現在一般的に入手可能なマイクロキャリアは、静置条件では培養液中で沈降してしまうことから、培養時に撹拌する必要がある。その撹拌時にキャリア同士の衝突などにより、細胞死が起こるとの課題が指摘されている。さらに、培地交換や培養のスケールアップ等の目的において、マイクロキャリアから細胞を回収する際には、細胞同士や細胞とキャリアとを剥離する必要があるが、当該剥離処理に用いられるトリプシンなどのタンパク質分解酵素により細胞がダメージを受け、その結果として細胞の生存率が低下することも、課題の一つとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3275411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した背景から、本発明の課題は、撹拌時のマイクロキャリアの衝突による細胞死、継代培養時におけるタンパク質分解酵素処理による細胞へのダメージ等、従来のマイクロキャリアを用いた接着細胞の浮遊培養における複数の課題を解決し得る、新たな培養方法を提供することにある。
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意工夫を重ねた結果、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは特定の多糖類を特定の比率において液体培地に配合することで、(1)当該液体培地は接着性細胞を浮遊培養することができ、撹拌が不要なため接着性細胞を効率よく増殖させることができること、(2)該液体培地は緩やかに撹拌することでキャリアおよびキャリアに付着している接着性細胞を容易に再分散させることができ、さらにこれを静置すれば再度浮遊培養を連続的に行えること、(3)当該液体培地により増殖させた幹細胞(例、間葉系幹細胞)は、分化能や遊走能を非常に高いレベルで維持していること、(4)該液体培地を用いれば、低血清条件で長期間細胞を維持培養することができ、細胞分泌物を効率よく生産できること、(5)該液体培地を用いれば、スフェアの分散性が長期間維持できること等を見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1](1)キチンナノファイバー;および
(2)キトサンナノファイバーまたは多糖類;
を含む、接着性細胞の浮遊培養用培地組成物。
[2]培地組成物がキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含み、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの比率が、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20である、[1]記載の浮遊培養用培地組成物。
[3]培地組成物がキチンナノファイバーおよび多糖類を含み、多糖類が、メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、およびアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される、[1]記載の浮遊培養用培地組成物。
[4]接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、[1]~[3]のいずれか記載の浮遊培養用培地組成物。
[5]接着性細胞が、幹細胞である、[1]~[4]のいずれか記載の浮遊培養用培地組成物。
[6]幹細胞が、間葉系幹細胞である、[5]記載の浮遊培養用培地組成物。
[7]浮遊培養が、幹細胞の増殖、且つ、幹細胞の多能性および遊走性の維持のためのものである、[5]または[6]記載の浮遊培養用培地組成物。
[8]接着性細胞を、
(1)キチンナノファイバー;および
(2)キトサンナノファイバーまたは多糖類;
を含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、接着性細胞の培養方法。
[9]培地組成物がキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含み、培地組成物中のキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの比率が、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20である、[8]記載の培養方法。
[10]培地組成物がキチンナノファイバーおよび多糖類を含み、多糖類が、メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、およびアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される、[8]記載の培養方法。
[11]接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、[8]~[10]のいずれか記載の培養方法。
[12]接着性細胞が、幹細胞である、[8]~[11]のいずれか記載の培養方法。
[13]幹細胞が、間葉系幹細胞である、[12]記載の培養方法。
[14]浮遊培養が、幹細胞の増殖、且つ、幹細胞の多能性および遊走性の維持のためのものである、[12]または[13]記載の培養方法。
[15]以下の工程をさらに含む、[8]~[14]のいずれか記載の培養方法:
(1)浮遊培養された細胞をキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類から剥離させる処理を行うことなく、[1]~[7]のいずれかに記載の浮遊培養用培地組成物をさらに添加する工程、および
(2)工程(1)で得られた混合物を浮遊培養に供する工程。
[16]接着性細胞を、
(1)キチンナノファイバー;および
(2)キトサンナノファイバーまたは多糖類;
を含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、細胞分泌物を生産する方法。
[17]培地組成物がキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含み、培地組成物中のキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの比率が、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20である、[16]記載の方法。
[18]培地組成物がキチンナノファイバーおよび多糖類を含み、多糖類が、メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、およびアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される、[16]記載の方法。
[19]接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、[16]~[18]のいずれか記載の方法。
[20]接着性細胞が、幹細胞である、[16]~[19]のいずれか記載の方法。
[21]幹細胞が、間葉系幹細胞である、[20]記載の方法。
[22]培地組成物中の血清の濃度が2%以下である、[16]~[21]のいずれか記載の方法。
[23]細胞分泌物が、低分子化合物、タンパク質、核酸、および細胞分泌小胞からなる群から選択される少なくとも一つである、[16]~[22]のいずれか記載の方法。
[24]特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーであって、該特定のアセチル化度が5~70%であるナノファイバーを含む、接着性細胞の浮遊培養用培地組成物。
[25]培地組成物中の特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーの濃度が、0.0001~0.2%(w/v)である、[24]記載の浮遊培養用培地組成物。
[26]接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、[24]または[25]記載の浮遊培養用培地組成物。
[27]接着性細胞が、幹細胞である、[24]~[26]のいずれか記載の浮遊培養用培地組成物。
[28]幹細胞が、間葉系幹細胞である、[27]記載の浮遊培養用培地組成物。
[29]浮遊培養が、幹細胞の増殖、且つ、幹細胞の多能性および遊走性の維持のためのものである、[27]または[28]記載の浮遊培養用培地組成物。
[30]接着性細胞を、特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーであって、該特定のアセチル化度が5~70%であるナノファイバーを含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、接着性細胞の培養方法。
[31]培地組成物中の特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーの濃度が、0.0001~0.2%(w/v)である、[30]記載の培養方法。
[32]接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、[30]または[31]記載の培養方法。
[33]接着性細胞が、幹細胞である、[30]~[32]のいずれか記載の培養方法。
[34]幹細胞が、間葉系幹細胞である、[33]記載の培養方法。
[35]浮遊培養が、幹細胞の増殖、且つ、幹細胞の多能性および遊走性の維持のためのものである、[33]または[34]記載の培養方法。
[36]以下の工程をさらに含む、[30]~[35]のいずれか記載の培養方法:
(1)浮遊培養された細胞を特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーから剥離させる処理を行うことなく、[24]~[29]のいずれか記載の浮遊培養用培地組成物をさらに添加する工程、および
(2)工程(1)で得られた混合物を浮遊培養に供する工程。
[37]接着性細胞を、特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーであって、該特定のアセチル化度が5~70%であるナノファイバーを含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、細胞分泌物を生産するための方法。
[38]培地組成物中の特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーの濃度が、0.0001~0.2%(w/v)である、[37]記載の方法。
[39]接着性細胞が、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞である、[37]または[38]記載の方法。
[40]接着性細胞が、幹細胞である、[37]~[39]のいずれか記載の方法。
[41]幹細胞が、間葉系幹細胞である、[40]記載の方法。
[42]培地組成物中の血清の濃度が2%以下である、[37]~[41]のいずれか記載の方法。
[43]細胞分泌物が、低分子化合物、タンパク質、核酸、および細胞分泌小胞からなる群から選択される少なくとも一つである、[37]~[42]のいずれか記載の方法。
【0010】
また、一態様において、本発明は以下の通りである。
[1’]キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含む、接着性細胞の浮遊培養用培地組成物。
[2’]キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの比率が、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20である、[1’]記載の浮遊培養用培地組成物。
[3’]接着性細胞が幹細胞である、[1’]または[2’]記載の浮遊培養用培地組成物。
[4’]浮遊培養が、幹細胞の増殖、且つ、幹細胞の多能性および遊走性の維持のためのものである、[3’]記載の浮遊培養用培地組成物。
[5’]幹細胞が、間葉系幹細胞である、[4’]記載の浮遊培養用培地組成物。
[6’]接着性細胞を、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、接着性細胞の培養方法。
[7’]培地組成物中のキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの比率が、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20である、[6’]記載の培養方法。
[8’]接着性細胞が幹細胞である、[6’]または[7’]記載の培養方法。
[9’]浮遊培養が、幹細胞の増殖、且つ、幹細胞の多能性および遊走性の維持のためのものである、[8’]記載の培養方法。
[10’]幹細胞が、間葉系幹細胞である、[9’]記載の培養方法。
[11’]以下の工程をさらに含む、[6’]~[10’]のいずれか記載の培養方法:
(1)浮遊培養された細胞をキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーから剥離させる処理を行うことなく、[1’]~[5’]のいずれかに記載の浮遊培養用培地組成物をさらに添加する工程、および
(2)工程(1)で得られた混合物を浮遊培養に供する工程。
[12’]接着性細胞を、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、細胞分泌物を生産するための方法。
[13’]培地組成物中のキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの比率が、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20である、[12’]記載の方法。
[14’]培地組成物中の血清の濃度が2%以下である、[12’]または[13’]記載の方法。
[15’]接着性細胞が間葉系幹細胞である、[12’]~[14’]のいずれか記載の方法。
[16’]細胞分泌物が、低分子化合物、タンパク質、核酸、および細胞分泌小胞からなる群から選択される少なくとも一つである、[12’]~[15’]のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接着性細胞を非水溶性多糖類からなるナノファイバーに接着した状態で培養することにより、細胞の傷害や機能喪失を引き起こすリスクのある振とうや回転等の操作を要することなく、静置した状態で浮遊培養することができる。また、本発明を用いて培養される接着性細胞が幹細胞である場合は、幹細胞としての特性(例えば、間葉系幹細胞における分化能や遊走・ホーミング能等)を高いレベルで維持した高品質な幹細胞を効率よく調製することができる。さらに、本発明によれば、トリプシン等のタンパク質分解酵素を用いたキャリアとそれに接着する細胞の剥離操作を行うことなく、ピペッティング等による緩やかな撹拌と新鮮な培地の追加のみにより、簡便に培養のスケールアップを実施することが可能となる。その結果、有用な細胞分泌物を効率良く生産することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、サンプル1(キチンナノファイバー)、サンプル6(キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの混合物)、サンプル14(同時解繊により調製したキチン/キトサンナノファイバー)、またはサンプル15(N-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバー(Nアセチルグルコサミン量:50%))を添加した培地組成物を用いてHEK293-IFNβ細胞を21日間浮遊培養したときの、経時的な生細胞数を示すグラフである。各サンプルにおける4つの棒グラフは、左から、0日目、7日目、14日目、21日目の時点における生細胞数をそれぞれ示す。
図2図2は、各ナノファイバーを添加した培地組成物を用いてHEK293-IFNβ細胞を浮遊培養したときの、細胞のスフェア状態(8日目)を示す写真である。
図3図3は、各ナノファイバーを添加した培地組成物を用いてHEK293-IFNβ細胞を浮遊培養したときの、細胞のスフェア状態(15日目)を示す写真である。
図4図4は、各ナノファイバーを添加した培地組成物を用いてHEK293-IFNβ細胞を浮遊培養したときの、細胞のスフェア状態(21日目)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
【0014】
1.接着性細胞の浮遊培養用培地組成物
本発明は、(1)キチンナノファイバー;および(2)キトサンナノファイバーまたは多糖類を含む、接着性細胞の浮遊培養用培地組成物(以下、「本発明の培地組成物」と称することがある)を提供する。本発明の培地組成物は、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類を含有することにより、撹拌や振とう等の操作を行うことなく接着性細胞を浮遊培養することができる。
【0015】
本発明において使用する接着性細胞とは、生存や増殖に容器壁等の足場を必要とする細胞である。
【0016】
本発明において使用する接着性細胞としては、特に限定されるものではないが、例えば、幹細胞、前駆細胞、体性非幹細胞、初代培養細胞、細胞株、癌細胞等を挙げることができる。幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞である。接着性の幹細胞の例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、間葉系幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞等の体性幹細胞等を挙げることができる。間葉系幹細胞とは、骨細胞、軟骨細胞及び脂肪細胞の全て又はいくつかへの分化能を有する幹細胞である。間葉系幹細胞は骨髄、末梢血、臍帯血、脂肪組織等の組織中に低頻度で存在し、これらの組織から公知の方法で単離することが出来る。前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。接着性の前駆細胞の例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、前駆脂肪細胞、前駆心筋細胞、前駆内皮細胞、神経前駆細胞、肝前駆細胞、膵臓前駆細胞、腎臓前駆細胞等を挙げることができる。接着性の体性非幹細胞の例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、繊維芽細胞、骨細胞、骨周皮細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞または骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞等が含まれる。初代培養細胞とは、生体から分離した細胞や組織を播種し、第1回目の継代を行うまでの培養の状態にある細胞をいう。初代培養細胞は、例えば皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、脾臓、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液、心臓、眼、脳または神経組織などの任意の組織から採取された細胞であり得る。細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞をいう。本発明において使用する接着性細胞は、好ましくは幹細胞又は前駆細胞であり、より好ましくは、間葉系幹細胞である。
【0017】
本発明に使用される接着性細胞の由来は特に限定されず、動物および植物のいずれに由来する細胞であってよい。動物としては、限定されるものではないが、例えば魚類、両生類、爬虫類、鳥類、汎甲殻類、六脚類、哺乳類等が挙げられ、好適には哺乳類である。哺乳類の例としては、限定されるものではないが、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、リス、ハムスター、ハタネズミ、カモノハシ、イルカ、クジラ、イヌ、ネコ、ヤギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ゾウ、コモンマーモセット、リスザル、アカゲザル、チンパンジー、ヒト等が挙げられる。植物としては、採取した細胞が液体培養可能なものであれば、特に限定はない。例えば、生薬類(例えば、サポニン、アルカロイド類、ベルベリン、スコポリン、植物ステロール等)を生産する植物(例えば、薬用人参、ニチニチソウ、ヒヨス、オウレン、ベラドンナ等)や、化粧品・食品原料となる色素や多糖体(例えば、アントシアニン、ベニバナ色素、アカネ色素、サフラン色素、フラボン類等)を生産する植物(例えば、ブルーベリー、紅花、セイヨウアカネ、サフラン等)、或いは医薬品原体を生産する植物などがあげられるが、それらに限定されない。本発明においては、好適には、哺乳類の接着性細胞が用いられる。
【0018】
一態様において、接着性細胞は、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞であり得る。浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞には、浮遊培養下でスフェアを形成する細胞が含まれる。浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞としては、例えば、体細胞としては、HEK293細胞、HeLa細胞、A549細胞等が挙げられ、幹細胞としては、間葉系幹細胞、前駆脂肪細胞、iPS細胞等が挙げられる。本発明の一態様において、浮遊培養下で自己凝集する接着性細胞は、体細胞としてはHEK293細胞、HeLa細胞が好ましく、幹細胞としては間葉系幹細胞、iPS細胞が好ましい。
【0019】
本発明において使用するキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類は、液体培地中に分散し、該ナノファイバーまたは多糖類に付着した接着性細胞を、該液体培地中に浮遊させる効果を示す。
【0020】
本発明において使用するキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類は、液体培地と混合した際、一次繊維径を保ちながら当該ナノファイバーが当該液体中で分散し、当該液体の粘度を実質的に高めること無く、ナノファイバーに付着した細胞を実質的に保持し、沈降して培養容器に付着することを防ぐ効果を有する。液体の粘度を実質的に高めないとは、液体の粘度が8mPa・sを上回らないことを意味する。この際の当該液体の粘度(すなわち、下記の本発明の培地組成物の粘度)は、8mPa・s以下であり、好ましくは4mPa・s以下であり、より好ましくは2mPa・s以下である。キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類を含む液体の粘度は、例えば、25℃条件下で音叉振動式粘度測定(SV-1A、A&D Company Ltd.)を用いて評価することができる。
【0021】
本発明において使用するキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーは、非水溶性多糖類であるキチンおよびキトサン(即ち、キチン質)から構成されるものである。糖類とは、単糖類(例えば、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース等)が10個以上重合した糖重合体を意味する。
【0022】
キチン質とは、キチンおよびキトサンからなる群より選ばれる1以上の糖質をいう。キチン及びキトサンを構成する主要な糖単位は、それぞれ、N-アセチルグルコサミン及びグルコサミンであり、一般的に、N-アセチルグルコサミンの含有量が多く酸性水溶液に対し難溶性であるものがキチン、グルコサミンの含有量が多く酸性水溶液に対し可溶性であるものがキトサンとされる。本明細書においては、便宜上、構成糖に占めるN-アセチルグルコサミンの割合が50%以上のものをキチン、50%未満のものをキトサンと呼ぶことがある。一態様において、キチンを構成する糖単位に占めるN-アセチルグルコサミンの割合は、80%以上、90%以上、98%以上、または100%であり得る。また、一態様において、キトサンを構成する糖単位に占めるN-アセチルグルコサミンの割合は、40%以下、30%以下、20%以下、または10%以下であり得る。
【0023】
キチンの原料としては、例えば、エビ、カニ、昆虫、貝、キノコなど、多くの生物資源を用いることができる。本発明に用いるキチンは、カニ殻やエビ殻由来のキチンなどのα型の結晶構造を有するキチンであってもよく、イカの甲由来のキチンなどのβ型の結晶構造を有するキチンであってもよい。カニやエビの外殻は産業廃棄物として扱われることが多く、入手容易でしかも有効利用の観点から原料として好ましいが、不純物として含まれるタンパク質や灰分等の除去のために脱タンパク工程および脱灰工程が必要となる。そこで、本発明においては、既に脱マトリクス処理が施された精製キチンを用いることが好ましい。精製キチンは、市販されている。本発明に用いられるキチンナノファイバーの原料としては、α型およびβ型のいずれの結晶構造を有するキチンであってもよいが、α型キチンが好ましい。
【0024】
また、キトサンは、キチンを濃アルカリ(例、濃NaOH水溶液等)中で煮沸処理を行う等により脱アセチル化することにより製造することができる。キトサンもまた、市販されているものを用いればよい。
【0025】
上述のキチンおよびキトサンを粉砕(ナノファイバー化または解繊と称することもある)することにより、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを得ることができる。粉砕方法は限定されないが、本発明の目的に合う繊維径・繊維長にまで微細化するには、高圧ホモジナイザー、グラインダー(石臼)、あるいはビーズミルなどの媒体撹拌ミルといった、強いせん断力が得られる方法が好ましい。本発明において用いられるキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの混合物は、個々に解繊されたキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを混合することにより調製してもよく、キチン粉末とキトサン粉末を混合し、この混合物を同時に解繊することにより調製してもよい。
【0026】
これらの中でも高圧ホモジナイザーを用いて微細化することが好ましく、例えば特開2005-270891号公報や特許第5232976号に開示されるような湿式粉砕法を用いて微細化(粉砕化)することが望ましい。具体的には、原料を分散させた分散液を、一対のノズルから高圧でそれぞれ噴射して衝突させることにより、原料を粉砕するものであって、例えばスターバーストシステム((株)スギノマシン製の高圧粉砕装置)やナノヴェイタ(吉田機械興業(株)の高圧粉砕装置)を用いることにより実施できる。
【0027】
前述の高圧ホモジナイザーを用いて原料を微細化(粉砕化)する際、微細化や均質化の程度は、高圧ホモジナイザーの超高圧チャンバーへ圧送する圧力と、超高圧チャンバーに通過させる回数(処理回数)、及び水分散液中の原料の濃度に依存することとなる。圧送圧力(処理圧力)は、特に限定されないが、通常50~250MPaであり、好ましくは100~200MPaである。
【0028】
また、微細化処理時の水分散液中の原料の濃度は、特に限定されないが、通常0.1質量%~30質量%、好ましくは1質量%~10質量%である。微細化(粉砕化)の処理回数は、特に限定されず、前記水分散液中の原料の濃度にもよるが、原料の濃度が0.1~1質量%の場合には処理回数は10~100回程度で充分に微細化されるが、1~10質量%では10~1000回程度必要となる場合がある。
【0029】
前記微細化処理時の水分散液の粘度は特に制限されないが、例えば、αキチンの場合、該水分散液の粘度の範囲は、1~100mPa・S、好ましくは1~85mPa・S(25℃条件下での音叉振動式粘度測定(SV-1A、A&D Company Ltd.)による)である。また、キトサンの場合、該水分散液の粘度の範囲は、0.7~30mPa・S、好ましくは0.7~10mPa・S(25℃条件下での音叉振動式粘度測定(SV-1A、A&D Company Ltd.)による)である。また、微細化処理時の水分散液中のキチンまたはキトサンの粒子径も特に制限されないが、例えば、αキチンの場合、該水分散液中のαキチンの平均粒子径の範囲は、0.5~200μm、好ましくは30~150μm(レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960(堀場製作所)による)である。また、キトサンの場合、該水分散液中のキトサンの平均粒子径の範囲は、0.5~300μm、好ましくは50~100μm(レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960(堀場製作所)による)である。
【0030】
ナノファイバーの調製方法については、WO2015/111686A1等に記載されている。
【0031】
本発明の培地組成物には多糖類が添加され得る。本明細書において、多糖類とは、単糖類(例えば、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース等)が10個以上重合した糖重合体を意味する。
【0032】
非水溶性多糖類としては、セルロース、ヘミセルロース等のセルロース類;キチン、キトサン等のキチン質等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
水溶性多糖類としては、アニオン性の官能基を有する酸性多糖類が挙げられる。アニオン性の官能基を有する酸性多糖類としては、特に制限されないが、例えば、構造中にウロン酸(例えば、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸)を有する多糖類;構造中に硫酸又はリン酸を有する多糖類、或いはその両方の構造を持つ多糖類等が挙げられる。より具体的には、ヒアルロン酸、ジェランガム、脱アシル化ジェランガム、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン、ザンタンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ラムナン硫酸、アルギン酸及びそれらの塩からなる群より1種又は2種以上から構成されるものが例示される。
【0034】
ここでいう塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムといったアルカリ金属の塩;カルシウム、バリウム、マグネシウムといったアルカリ土類金属の塩;アルミニウム、亜鉛、銅、鉄等の塩;アンモニウム塩;テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ベンジルメチルヘキシルデシルアンモニウム、コリン等の四級アンモニウム塩;ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、エタノールアミン、ジオラミン、トロメタミン、メグルミン、プロカイン、クロロプロカイン等の有機アミンとの塩;グリシン、アラニン、バリン等のアミノ酸との塩等が挙げられる。
【0035】
一態様において、多糖類として、メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、アルギン酸、キサンタンガム、カラギーナン、ダイユータンガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、ペクチン、およびカルボキシメチルセルロース又はそれらの塩が好ましく用いられ得る。
【0036】
本発明の培地組成物において所望の効果が奏されるためには、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの配合割合が重要であり得る。まず、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを、比率(重量)において、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20(好ましくはキチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~10、より好ましくはキチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.7~9、さらに好ましくはキチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:1~8、よりさらに好ましくはキチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:2~7、特に好ましくはキチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:3~6)でブレンドする。得られたキチンナノファイバー/キトサンナノファイバーの混合物を、培地組成物中に含有される総ナノファイバー(キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバー)の濃度が、通常0.0001~0.2%(w/v)、好ましくは0.0005~0.1%(w/v)、さらに好ましくは0.001~0.05%(w/v)、特に好ましくは0.006~0.05%(w/v)となるように液体培地に配合することができる。或いは、液体培地に、必要量のキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを別々に添加し、良く撹拌することによって本発明の培地組成物を調製してもよい。一態様において、本発明の培地組成物は、ナノファイバーの濃度に関して、次の条件を満たす:
(1)培地組成物中に含有される総ナノファイバー(キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバー)の濃度が、0.0001~0.2%(w/v)であり、且つ、該培地組成物中に含有されるキチンナノファイバー:キトサンナノファイバーの重量比が1:0.5~20(好ましくは、1:0.5~10、1:0.7~9、1:1~8、1:2~7、または1:3~6);
(2)培地組成物中に含有される総ナノファイバー(キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバー)の濃度が、0.0005~0.1%(w/v)であり、且つ、該培地組成物中に含有されるキチンナノファイバー:キトサンナノファイバーの重量比が1:0.5~20(好ましくは、1:0.5~10、1:0.7~9、1:1~8、1:2~7、または1:3~6);
(3)培地組成物中に含有される総ナノファイバー(キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバー)の濃度が、0.001~0.05%(w/v)であり、且つ、該培地組成物中に含有されるキチンナノファイバー:キトサンナノファイバーの重量比が1:0.5~20(好ましくは、1:0.5~10、1:0.7~9、1:1~8、1:2~7、または1:3~6);
または、
(4)培地組成物中に含有される総ナノファイバー(キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバー)の濃度が、0.006~0.05%(w/v)であり、且つ、該培地組成物中に含有されるキチンナノファイバー:キトサンナノファイバーの重量比が1:0.5~20(好ましくは、1:0.5~10、1:0.7~9、1:1~8、1:2~7、または1:3~6)。
【0037】
また、キチンナノファイバーと多糖類を使用する場合は、次の濃度が例示され得るがこれらに限定されない:
キチンナノファイバー:メチルセルロース=0.0005~0.1%(w/v):0.0004~0.4(w/v)(より好ましくは、0.001~0.05%(w/v):0.001~0.04%(w/v))
キチンナノファイバー:脱アシル化ジェランガム=0.0005~0.1%(w/v):0.0001~0.1(w/v)(より好ましくは、0.001~0.05%(w/v):0.001~0.01%(w/v))
キチンナノファイバー:アルギン酸ナトリウム=0.0005~0.1%(w/v):0.0004~0.4(w/v)(より好ましくは、0.001~0.05%(w/v):0.001~0.04%(w/v))
キチンナノファイバー:タマリンドシードガム=0.0005~0.1%(w/v):0.0004~0.4%(w/v)(より好ましくは、0.001~0.05%(w/v):0.001~0.04%(w/v))
キチンナノファイバー:ペクチン=0.0005~0.1%(w/v):0.0004~0.4%(w/v)(より好ましくは、0.001~0.05%(w/v):0.001~0.04%(w/v))
キチンナノファイバー:カルボキシメチルセルロース=0.0005~0.1%(w/v):0.0004~0.4%(w/v)(より好ましくは、0.001~0.05%(w/v):0.001~0.04%(w/v))
【0038】
また、理論に拘束されることを望むものではないが、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの配合割合が本発明の所望の効果を得るために重要であるとの事実は、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバー中のアセチル化されたグルコサミンの総量が重要であることを示唆していると考えられる。従って、本発明の一態様においては、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの2種類のナノファイバーの混合物を用いる代わりに、当該2種類のナノファイバー混合物中のアセチル基数に対応するアセチル基数を有する、アセチル化度が最適化された単一のポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンから調製されたナノファイバー(以下、「N-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバー」等と称することがある)を用いることも可能である。従って、本発明は一態様において、特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーを含む、接着性細胞の浮遊培養用培地をも提供する。かかるポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンの特定のアセチル化度としては、通常5~70%、好ましくは9~70%、より好ましくは11~55%、さらに好ましくは14~50%、さらに好ましくは16~50%、特に好ましくは22~33%であり得るが、所望の効果を得られる限りこれらに限定されない。
【0039】
上述のような特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンは自体公知の方法により製造することができる。一例としては、アセチル化の割合が比較的高い(例、90%以上)キチンを、アルカリ(例、濃NaOH水溶液等)中で煮沸処理する等により脱アセチル化することで、所望のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンを製造する方法が挙げられるが、これに限定されない。
【0040】
かくして得られた特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンを、上述した方法により微細化(ナノファイバー化または解繊と称することもある)することにより、特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーを調製することができる。
【0041】
本発明の一態様において、N-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバーが液体培地組成物に添加され得る。N-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバーの液体培地組成物における濃度は、培地組成物中に含有される該ナノファイバーの濃度が、通常0.0001~0.2%(w/v)、好ましくは0.0005~0.1%(w/v)、さらに好ましくは0.001~0.1%(w/v)、特に好ましくは0.006~0.06%(w/v)となるように液体培地に添加することができるが、所望の効果を得られる限りこれらに限定されない。
【0042】
本発明の培地組成物中に含まれる培地は、使用する接着性細胞の種類等により適宜選択することが可能であり、例えば、哺乳類の接着性細胞の培養を目的とする場合、哺乳類細胞の培養に一般的に使用される培地を、本発明の培地組成物に含まれる培地として使用することができる。哺乳類細胞用の培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、DMEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)、イーグルMEM培地(Eagle’s Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagle’s Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMI1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer’s培地、StemPro34(インビトロジェン社製)、X-VIVO 10(ケンブレックス社製)、X-VIVO 15(ケンブレックス社製)、HPGM(ケンブレックス社製)、StemSpan H3000(ステムセルテクノロジー社製)、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)、StemlineII(シグマアルドリッチ社製)、QBSF-60(クオリティバイオロジカル社製)、StemProhESCSFM(インビトロジェン社製)、mTeSR1或いは2培地(ステムセルテクノロジー社製)、Sf-900II(インビトロジェン社製)、Opti-Pro(インビトロジェン社製)、などが挙げられる。
【0043】
上記の培地には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、各種アミノ酸、各種ビタミン、抗生物質、血清、脂肪酸、糖などを当業者は目的に応じて自由に添加してもよい。哺乳類細胞の培養の際には、当業者は目的に応じてその他の化学成分あるいは生体成分を一種類以上組み合わせて添加することもできる。哺乳類細胞用の培地に添加され得る成分としては、ウシ胎児血清、ヒト血清、ウマ血清、インシュリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コレステロール、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、モノチオグリセロール、2-メルカプトエタノール、ウシ血清アルブミン、ピルビン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、各種ビタミン、各種アミノ酸、寒天、アガロース、コラーゲン、メチルセルロース、各種サイトカイン、各種ホルモン、各種増殖因子、各種細胞外マトリックスや各種細胞接着分子などが挙げられる。培地に添加され得るサイトカインとしては、例えばインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-11(IL-11)、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-14(IL-14)、インターロイキン-15(IL-15)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-21(IL-21)、インターフェロン-α(IFN-α)、インターフェロン-β(IFN-β)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、単球コロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、幹細胞因子(SCF)、flk2/flt3リガンド(FL)、白血病細胞阻害因子(LIF)、オンコスタチンM(OM)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0044】
培地に添加され得るホルモンとしては、メラトニン、セロトニン、チロキシン、トリヨードチロニン、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、抗ミュラー管ホルモン、アディポネクチン、副腎皮質刺激ホルモン、アンギオテンシノゲン及びアンギオテンシン、抗利尿ホルモン、心房ナトリウム利尿性ペプチド、カルシトニン、コレシストキニン、コルチコトロピン放出ホルモン、エリスロポエチン、卵胞刺激ホルモン、ガストリン、グレリン、グルカゴン、ゴナドトロピン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ヒト胎盤性ラクトーゲン、成長ホルモン、インヒビン、インスリン、インスリン様成長因子、レプチン、黄体形成ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、オキシトシン、副甲状腺ホルモン、プロラクチン、セクレチン、ソマトスタチン、トロンボポイエチン、甲状腺刺激ホルモン、チロトロピン放出ホルモン、コルチゾール、アルドステロン、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオン、ジヒドロテストステロン、エストラジオール、エストロン、エストリオール、プロゲステロン、カルシトリオール、カルシジオール、プロスタグランジン、ロイコトリエン、プロスタサイクリン、トロンボキサン、プロラクチン放出ホルモン、リポトロピン、脳ナトリウム利尿ペプチド、神経ペプチドY、ヒスタミン、エンドセリン、膵臓ポリペプチド、レニン、及びエンケファリンが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0045】
培地に添加され得る増殖因子としては、トランスフォーミング成長因子-α(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)、マクロファージ炎症蛋白質-1α(MIP-1α)、上皮細胞増殖因子(EGF)、繊維芽細胞増殖因子-1、2、3、4、5、6、7、8、又は9(FGF-1、2、3、4、5、6、7、8、9)、神経細胞増殖因子(NGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、白血病阻止因子(LIF)、プロテアーゼネキシンI、プロテアーゼネキシンII、血小板由来成長因子(PDGF)、コリン作動性分化因子(CDF)、ケモカイン、Notchリガンド(Delta1など)、Wnt蛋白質、アンジオポエチン様蛋白質2、3、5または7(Angpt2、3、5、7)、インスリン様成長因子(IGF)、インスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0046】
また、遺伝子組換え技術によりこれらのサイトカインや増殖因子のアミノ酸配列を人為的に改変させたものも添加させることもできる。その例としては、IL-6/可溶性IL-6受容体複合体あるいはHyper IL-6(IL-6と可溶性IL-6受容体との融合タンパク質)などが挙げられる。
【0047】
各種細胞外マトリックスや各種細胞接着分子の例としては、コラーゲンI乃至XIX、フィブロネクチン、ラミニン-1乃至12、ニトジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド(von Willebrand)因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン、各種エラスチン、各種プロテオグリカン、各種カドヘリン、デスモコリン、デスモグレイン、各種インテグリン、E-セレクチン、P-セレクチン、L-セレクチン、免疫グロブリンスーパーファミリー、マトリゲル、ポリ-D-リジン、ポリ-L-リジン、キチン、キトサン、セファロース、ヒアルロン酸、アルギン酸ゲル、各種ハイドロゲル、さらにこれらの切断断片などが挙げられる。
【0048】
培地に添加され得る抗生物質の例としては、サルファ製剤、ペニシリン、フェネチシリン、メチシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、ナフシリン、アンピシリン、ペニシリン、アモキシシリン、シクラシリン、カルベニシリン、チカルシリン、ピペラシリン、アズロシリン、メクズロシリン、メシリナム、アンジノシリン、セファロスポリン及びその誘導体、オキソリン酸、アミフロキサシン、テマフロキサシン、ナリジクス酸、ピロミド酸、シプロフロキサン、シノキサシン、ノルフロキサシン、パーフロキサシン、ロザキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ピペミド酸、スルバクタム、クラブリン酸、β-ブロモペニシラン酸、β-クロロペニシラン酸、6-アセチルメチレン-ペニシラン酸、セフォキサゾール、スルタンピシリン、アディノシリン及びスルバクタムのホルムアルデヒド・フードラートエステル、タゾバクタム、アズトレオナム、スルファゼチン、イソスルファゼチン、ノカルディシン、フェニルアセトアミドホスホン酸メチル、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メタサイクリン、並びにミノサイクリンが挙げられる。
【0049】
尚、上述した通り、本発明の培地組成物には血清および/または血清代替物を添加してもよいが、本発明の培地組成物を用いれば、培地中の血清および/または血清代替物を通常用いられる濃度(例、10重量%)よりも低い濃度としても、細胞の維持および/または拡大が可能となる。本発明の培地組成物に添加する血清の濃度は、細胞の種類、培養条件、培養目的等により適宜設定すればよいが、一態様としては、本発明の培地組成物中の血清(及び/又は血清代替物)の濃度は、15重量%以下、10重量%以下、9重量%以下、8重量%以下、7重量%以下、6重量%以下、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、0.9重量%以下、0.8重量%以下、0.7重量%以下、0.6重量%以下、0.5重量%以下、0.4重量%以下、または0.3重量%以下とすることができる。尚、血清の濃度は、培養期間中、一定の濃度としてもよく、必要に応じて、培地交換時等に濃度を増減させてもよい。
【0050】
一態様において、細胞培養の目的が再生医療用の細胞分泌物の生産等である場合は、血清リスクを低減させるため本発明の培地組成物中の血清濃度を低く設定することが好ましい場合がある。かかる態様においては、本発明の培地組成物中の血清の濃度は、例えば、2重量%以下、1重量%以下、0.9重量%以下、0.8重量%以下、0.7重量%以下、0.6重量%以下、0.5重量%以下、0.4重量%以下、または0.3重量%以下とすることができる。
別の一態様において、低血清濃度下において、維持・拡大培養する細胞数を最大化する場合、血清濃度は、通常0.05~2.0重量%、好ましくは0.1~2.0重量%、さらに好ましくは0.2~2.0重量%、特に好ましくは0.2~1.0重量%とすることができる。
【0051】
また、別の一態様において、細胞分泌物の収量を最大化する場合の血清濃度の範囲としては、通常0.05~2.0重量%、好ましくは0.1~1.5重量%、さらに好ましくは0.2~0.9重量%、特に好ましくは0.4~1.0重量%とすることができる。
【0052】
尚、低血清培地において細胞を維持培養および/または拡大培養する期間は、細胞の種類、培養条件、または培養目的に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1日以上、3日以上、5日以上、7日以上、9日以上、11日以上、13日以上、15日以上、20日以上、25日以上、30日以上、40日以上、50日以上、60日以上、80日以上、または100日以上とすることができる。
一態様において、培養期間は、1~200日、1~100日、1~80日、1~60日、1~50日、1~40日、1~30日、1~25日、1~20日、1~15日、1~13日、1~11日、1~9日、1~7日、1~5日、または1~3日とすることができる。より好ましい一態様において、培養期間は、好ましくは10~60日、より好ましくは15~50日、さらに好ましくは、20日~50日、特に好ましくは25日~40日とすることができる。
【0053】
上記キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類を、該培地組成物を用いて接着性細胞を浮遊培養に供した場合に、該接着性細胞を浮遊させる(好ましくは浮遊静置させる)ことのできる濃度となるように、適切な液体培地と混合することにより、上記本発明の培地組成物を製造することができる。
【0054】
好ましい態様において、上記キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類の水性溶媒中の分散液と、液体培地とを混合することにより、本発明の培地組成物を調製することができる。該分散液は、滅菌(オートクレーブ、ガンマ線滅菌等)されていてもよい。あるいは、該分散液と、粉末培地を水に溶かして調製した液体培地(培地の水溶液)とを混合した後に、滅菌して使用してもよい。該分散液と液体培地の滅菌は、混合する前に、別々に行ってもよい。水性溶媒の例としては、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。水性溶媒としては、水が好ましい。水性溶媒中には、適切な緩衝剤や塩が含まれていてもよい。上記ナノファイバーの分散液は、本発明の培地組成物を調製するための培地添加剤として有用である。
【0055】
混合比率は、特に限定されることはないが、ナノファイバーの分散液:液体培地(培地の水溶液)(体積比)が、通常1:99~99:1、好ましくは10:90~90:10、より好ましくは、20:80~80:20である。
【0056】
本発明において、細胞の浮遊とは、培養容器に対して細胞が接着しない状態(非接着)であることをいい、細胞が沈降しているか否かは問わない。さらに、本発明において、細胞を培養する際、液体培地組成物に対する外部からの圧力や振動或いは当該組成物中での振とう、回転操作等を伴わずに細胞が当該液体培地組成物中で分散し尚且つ浮遊状態にある状態を「浮遊静置」といい、当該状態で細胞及び/又は組織を培養することを「浮遊静置培養」という。「浮遊静置」において浮遊させることのできる期間としては、少なくとも5分以上、好ましくは、1時間以上、24時間以上、48時間以上、6日以上、21日以上であるが、浮遊状態を保つ限りこれらの期間に限定されない。
【0057】
好ましい態様において、本発明の培地組成物は、細胞の培養が可能な温度範囲(例えば、0~40℃)の少なくとも1点において、細胞の浮遊静置が可能である。本発明の培地組成物は、好ましくは25~37℃の温度範囲の少なくとも1点において、最も好ましくは37℃において、細胞の浮遊静置が可能である。
【0058】
接着性細胞をキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類に付着した状態で培養することにより、接着性細胞を浮遊培養することができる。該浮遊培養は、上記本発明の培地組成物中で、接着性細胞を培養することにより実施することができる。キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類は、該ナノファイバーまたは多糖類に付着した細胞を培地中で浮遊させる効果(好ましくは浮遊静置させる効果)を示す。本発明の培地組成物において、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類は、溶解することも、培養容器に付着することもなく分散するので、該培地組成物中で接着性細胞を培養すると、接着性細胞は該ナノファイバーまたは多糖類に付着し、該培地組成物中に浮遊する。当該浮遊効果により、単層培養に比べて、一定体積あたりの細胞数を増やして培養することが可能である。また、従来の回転や振とう操作を伴う浮遊培養においては、細胞に対するせん断力が働くため、細胞の増殖率や回収率が低い、或いは細胞の機能が損なわれてしまう場合があるが、本発明の培地組成物を用いることにより振とう等の操作を要することなく細胞を分散した状態で培養し得るので、目的とする接着性細胞を細胞機能の損失無く容易かつ大量に浮遊培養することが期待できる。また、従来のゲル基材を含む培地において細胞を浮遊培養する際、細胞の観察や回収が困難であったり、回収の際にその機能を損なったりする場合があるが、本発明の培地組成物を用いることにより、浮遊培養した細胞を、その機能を損なうこと無く観察し、回収することが期待できる。また、従来のゲル基材を含む培地は、粘度が高く培地の交換が困難である場合があるが、本発明の培地組成物は、低粘度であるためピペットやポンプ等を用いて容易に培地を交換することが期待できる。
【0059】
キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類を用いて接着性細胞を浮遊培養する場合、本発明の培地組成物に対して別途調製した接着性細胞を添加し、均一に混合すればよい。その際の混合方法は特に制限はなく、例えばピペッティング等の手動での混合、スターラー、ヴォルテックスミキサー、マイクロプレートミキサー、振とう機等の機器を用いた混合が挙げられる。混合後は、得られた細胞懸濁液を静置状態にて培養してもよいし、必要に応じて回転、振とう或いは撹拌しながら培養してもよい。その回転数と頻度は、当業者の目的に合わせて適宜設定すればよい。例えば、接着性細胞を継代培養から回収し、適切な細胞解離液を用いて単一細胞、又はこれに近い状態にまで分散し、分散された接着性細胞を、本発明の培地組成物中に懸濁し、これを浮遊培養(好ましくは、浮遊静置培養)に付す。
【0060】
細胞を培養する際の温度は、動物細胞であれば通常25~39℃、好ましくは33~39℃(例、37℃)である。CO濃度は、通常、培養の雰囲気中、4~10体積%であり、4~6体積%が好ましい。培養期間は、培養の目的に合わせて適宜設定すればよい。
【0061】
本発明の培地組成物中での接着性細胞の培養は、細胞の培養に一般的に用いられるシャーレ、フラスコ、プラスチックバック、テフロン(登録商標)バック、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトル等の培養容器を用いて実施することができる。ナノファイバーに付着した接着性細胞が、培養容器へ接着しないよう、これらの培養容器は細胞低接着性であることが望ましい。細胞低接着性の培養容器としては、培養容器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリクス等によるコーティング処理)されていないもの、あるいは培養容器の表面が、細胞との接着性を低減させる目的で人工的に処理されているものを使用できる。
【0062】
培地交換が必要となった際には、遠心やろ過処理を行うことにより細胞を分離した後、新鮮な培地もしくは本発明の培地組成物を該細胞に添加すればよい。或いは、遠心やろ過処理を行うことにより細胞を適宜濃縮した後、新鮮な培地もしくは本発明の培地組成物をこの濃縮液に添加すればよい。例えば、遠心する際の重力加速度(G)は100乃至400Gであり、ろ過処理をする際に用いるフィルターの細孔の大きさは10μm乃至100μmであるが、これらに制限されることは無い。
【0063】
接着性細胞の培養は、機械的な制御下のもと閉鎖環境下で細胞播種、培地交換、細胞画像取得、培養細胞回収を自動で実行し、pH、温度、酸素濃度などを制御しながら、高密度での培養が可能なバイオリアクターや自動培養装置によって行うこともできる。
【0064】
接着性細胞を、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類に付着させた状態において浮遊培養すると、接着性細胞が効率よく増殖するため、該浮遊培養は、接着性細胞の増殖方法として優れている。接着性細胞を、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類に付着させた状態において浮遊培養すると、接着性細胞は、培養容器の底面のみに偏在せずに、三次元的な広がりをもって分散し、増殖が促進される。その結果、増殖した細胞が、ぶどうの房状にナノファイバーまたは多糖類上に連なる状態となる。この増殖促進効果には、接着性細胞を浮遊させる(即ち、接着性細胞の培養容器への接着を回避する)のに十分な濃度のナノファイバーが培地組成物中に含まれていればよく、浮遊静置(即ち、外部からの圧力、振動、振とう、回転操作等を伴わずに細胞が液体培地組成物中で均一に分散し尚且つ浮遊状態にあること)が可能であることは必須ではない。
【0065】
接着性細胞を、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類に付着した状態で、浮遊培養し、該細胞を増殖する場合、該浮遊培養に用いる本発明の培地組成物中に含まれる培地として、該接着性細胞の形質を維持しながら、該細胞を増殖することができる培地が用いられる。該培地は、接着性細胞の種類に応じて、当業者であれば適宜選択することができる。
【0066】
一態様において、哺乳動物の幹細胞(例、間葉系幹細胞)をキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類に付着させた状態において浮遊培養することにより、該細胞を増殖させる。該浮遊培養により、哺乳動物の幹細胞(例、間葉系幹細胞)を、その分化能やホーミング・遊走能を維持させながら増殖させることができる。従って、本発明の培地組成物を用いれば、高品質な幹細胞を調製することができる。なお、幹細胞が分化能や遊走能等の特性を維持しているかは、自体公知の方法によって判別することができる。簡潔には、幹細胞における未分化性に関する細胞マーカー(例、OCT4遺伝子、SOX2遺伝子、NANOG遺伝子等)や、遊走性に関する細胞マーカー(例、CXCR4遺伝子等)の発現量を、mRNAレベル及び/又はタンパク質量レベルで決定することにより容易に判別することができる。
【0067】
接着性細胞を、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーまたは多糖類に付着させた状態において浮遊培養する場合、培養容器からの細胞の剥離操作を要することなく、新鮮な培地もしくは本発明の培地組成物を当該浮遊培養物に単に添加するか、新鮮な培地もしくは本発明の培地組成物へ、当該浮遊培養物の全部又は一部を添加することのみで接着性細胞を継代することが可能である。この継代培養方法を用いることにより、接着性細胞を、培養容器からの細胞の剥離操作を行うことなく、継代培養することができる。また、この継代培養方法を用いることにより、培養容器からの細胞の剥離操作を行うことなく、接着性細胞の培養スケールを拡大することができる。培養容器からの細胞の剥離操作としては、キレート剤(例、EDTA)及び/又はタンパク質分解酵素(例、トリプシン、コラゲナーゼ)による処理が挙げられる。上記継代培養方法は、培養容器からの細胞の剥離操作に感受性が高い接着性細胞(例えば、剥離操作により生存性が低下する接着性細胞、剥離操作により形質が変わりやすい接着性細胞)の継代培養に有利である。培養容器からの細胞の剥離操作に感受性が高い接着性細胞としては、幹細胞(例、間葉系幹細胞)、前駆細胞(例、前駆脂肪細胞)、初代培養細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
本発明の培地組成物を用いて増殖させた接着性細胞は、キチナーゼ、キトビアーゼ、キトサナーゼ、β-1,3-グルカナーゼ等の分解酵素の1種以上を使用してキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを分解することで、該ナノファイバーと接着性細胞を剥離させた後に回収することができる。尚、Yatalase(タカラバイオ)は、キチナーゼ、キトビアーゼ、キトサナーゼ、及びβ-1,3-グルカナーゼを含む混合物であり、キチンおよびキトサンの分解酵素として好適に用いることができる。
【0069】
例えば、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーに付着させた接着性細胞の懸濁液に対して、キチンおよびキトサンの分解酵素を添加し、混合物を、接着性細胞の剥離に十分な時間、インキュベートする。キチンおよびキトサンの分解酵素によるインキュベーション温度は、通常、20℃~37℃である。インキュベーション時間は、酵素の種類等にもよるが、通常、5~60分である。
【0070】
ナノファイバーが分解し、接着性細胞がナノファイバーから剥離したら、懸濁液を遠心分離に付すことにより、剥離した接着性細胞を回収することができる。
【0071】
このようにして回収した接着性細胞は、ダメージが最小限に抑制されているので、機能解析や、移植等に好適に使用することができる。
【0072】
2.接着性細胞の培養方法
本発明はまた、接着性細胞を、(1)キチンナノファイバー;および(2)キトサンナノファイバーまたは多糖類;を含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、接着性細胞の培養方法(以下、「本発明の培養方法」と称することがある)を提供する。
【0073】
本発明の培養方法は、上述した本発明の培地組成物を用いて接着性細胞を培養することを特徴とする。従って、本発明の培養方法における培地組成物、接着性細胞、培養条件等は、本発明の培地組成物で説明したものと同様である。尚、上述した通り、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを使用する態様は、当該2種類のナノファイバーの代わりにN-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバーを使用してもよい。
【0074】
3.細胞分泌物を生産する方法
本発明はまた、接着性細胞を、(1)キチンナノファイバー;および(2)キトサンナノファイバーまたは多糖類;を含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、細胞分泌物を生産する方法(以下、「本発明の生産方法」と称することがある)を提供する。尚、上述した通り、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを使用する態様は、当該2種類のナノファイバーの代わりにN-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバーを使用してもよい。
【0075】
本発明の生産方法は、上述した本発明の培地組成物を用いて接着性細胞を培養することを特徴とする。従って、本発明の培養方法における培地組成物、接着性細胞、培養条件等は、本発明の培地組成物で説明したものと同様である。
【0076】
本発明の生産方法において用いられる接着性細胞は、細胞分泌物を生産するものであれば特に限定されないが、一態様において、接着性細胞は間葉系幹細胞であり得る。尚、かかる間葉系幹細胞の由来は、骨髄、脂肪細胞、臍帯、及び歯髄等のいずれであってもよい。
【0077】
本発明の生産方法における細胞分泌物は、低分子化合物、タンパク質、核酸(miRNAまたはmRNA等)、及び、細胞分泌小胞(以下参照)等の細胞が分泌するあらゆる物質が含まれ得る。
【0078】
本発明の生産方法により生産される細胞分泌物には、例えば、プロスタグランジンE2(PGE2)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、Tumor necrosis factor-stimulated gene-6 (TSG-6)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様成長因子(IGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、アンジオポエチン-1等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
本明細書において、細胞分泌小胞とは、典型的には細胞から放出される、電子顕微鏡で確認することができるサイズを有する小胞を意味する。かかる細胞分泌小胞のサイズは、平均粒子径において、1~1,000nm、10~500nm、または30~200nmであり得る。ここで、平均粒子径とは、動的光散乱法または電子顕微鏡での測定による各粒子の直径の平均値である。かかる細胞分泌小胞は生体分子を囲む脂質二重層から構成され得る。
【0080】
かかる細胞分泌小胞の具体例としては、例えば、膜粒子、膜小胞、微小胞、ナノ小胞、微小小胞体(microvesicles、平均粒子径30~1,000nm)、エクソソーム様小胞、エクソソーム(exosome、平均粒子径30~200nm)、エクトソーム様小胞、エクトソーム(ectosome)またはエキソベシクル等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の生産方法の好ましい一態様において、細胞分泌小胞はエクソソームであり得る。
【0081】
尚、本発明の生産方法の一態様において、細胞分泌物の生産を開始および/または促進するための化合物を添加してもよい。細胞分泌物の生産を開始および/または促進するための化合物は、生産しようとする細胞分泌物に合わせて公知の物を選択すればよい。かかる化合物には、TNF-α、IFN-γ、及びインターロイキン-1β(IL-1β)が含まれるが、これらに限定されない。一例としては、細胞分泌物がPGE2またはTSG-6である場合は、TNF-αを培地組成物に添加することが好適であり得る。また、細胞分泌物がPGE2やIDOである場合は、IFN-γを培地組成物に添加することが好適であり得る。尚、細胞分泌物の生産を開始および/または促進するための化合物の培地組成物への添加濃度は、所望の効果を得られる限り特に限定されず、生産しようとする細胞分泌物と該化合物の組み合わせ等に基づいて、適宜決定すればよい。
また、本発明の生産方法の別の一態様において、細胞分泌物の生産量を増加させるために、本発明の生産方法において用いられる細胞や培養条件を適宜最適化してもよい。一例としては、低酸素条件に暴露された接着細胞(例、間葉系幹細胞)を本発明の製造方法に用いることが好適である場合がある(J Cell Mol Med. 2018 Mar;22(3):1428-1442を参照)。細胞および/または培養条件のかかる最適化は自体公知のいかなる技術を用いてもよい。
【0082】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0083】
(試験例1:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を用いた3D培養におけるヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞の増殖)
WO2015/111686に開示される製造方法に準じて調製したαキチンナノファイバー(N-アセチルグルコサミンの割合:95%以上)またはキトサンナノファイバー(N-アセチルグルコサミンの割合:20%以下)(バイオマスナノファイバーBiNFi-S(ビンフィス)2質量%、株式会社スギノマシン)を1%(w/v)となるように超純水(Milli-Q水)に懸濁した後、転倒混和により分散し、本水溶液を121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。用いたαキチンナノファイバーは、200MPa、pass5回条件でナノファイバー化したαキチンナノファイバー(サンプル1)である。また、キトサンナノファイバーは、200MPa、pass5回条件でナノファイバー化したキトサンナノファイバー(サンプル2)である。さらにサンプル1とサンプル2の比率(体積)が、50%:50%(サンプル3)、33%:67%(サンプル4)、25%:75%(サンプル5)、20%:80%(サンプル6)、15%:85%(サンプル7)、10%:90%(サンプル8)、5%:95%(サンプル9)、1%:99%(サンプル10)になるようにサンプル1とサンプル2を混合し、キチンナノファイバー/キトサンナノファイバー混合物(サンプル3~10)を得た。
【0084】
血清培地である間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製)に上記で得たサンプル1~10を様々な終濃度(終濃度:0.0006%(w/v)、0.002%(w/v)、0.006%(w/v)、0.02%(w/v))で添加した培地組成物、そして上記基材を含まない未添加培地組成物(サンプル11)を調製した。引き続き、培養したヒト脂肪由来間葉系幹細胞(C-12977、タカラバイオ社製)を、13333細胞/mLとなるように上記の各培地組成物に懸濁した後、96ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3474)に150μL/ウェルで播種した。細胞をCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で10日間培養した。播種後4、8日目の時点の培養液に対してATP試薬150μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数(3点の平均値)を算出した。
【0085】
その結果、αキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を含む培地組成物を用いてヒト脂肪由来間葉系幹細胞を96ウェル平底超低接着表面マイクロプレートで培養すると、培地組成物中に含有されるαキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの総量のうち、αキチンナノファイバーが5重量%以上であれば、細胞増殖促進効果を示した。また、培地組成物中に含有されるαキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの総量のうち、αキチンナノファイバーが25重量%以上である場合、αキチンナノファイバー単独添加の場合と比較して、同等レベルの細胞増殖促進効果を示した。各培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表1、表2および表3に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】

【0089】
(試験例2:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を用いた3D培養におけるヒト骨髄組織由来間葉系幹細胞の増殖)
WO2015/111686に準じて調製したαキチンナノファイバーまたはキトサンナノファイバー(バイオマスナノファイバーBiNFi-S(ビンフィス)2質量%、株式会社スギノマシン)を1%(w/v)となるように超純水(Milli-Q水)に懸濁した後、転倒混和により分散し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。用いたαキチンナノファイバーは、200MPa、pass5回条件でナノファイバー化したαキチンナノファイバー(サンプル1)である。またキトサンナノファイバーは、200MPa、pass5回条件でナノファイバー化したキトサンナノファイバー(サンプル2)である。さらにサンプル1とサンプル2の比率(体積)が、50%:50%(サンプル3)、33%:67%(サンプル4)、20%:80%(サンプル6)になるようにサンプル1とサンプル2を混合し、キチンナノファイバー/キトサンナノファイバー混合物(サンプル3、4、6)を得た。
【0090】
血清培地である間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製)に上記で得たサンプル1~4、6を様々な終濃度(終濃度:0.0006%(w/v)、0.002%(w/v)、0.006%(w/v)、0.02%(w/v))で添加した培地組成物、そして上記基材を含まない未添加培地組成物(サンプル11)を調製した。引き続き、培養したヒト骨髄由来間葉系幹細胞(C-12977、タカラバイオ社製)を、13333細胞/mLとなるように上記の各培地組成物に懸濁した後、96ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3474)に150μL/ウェルで播種した。細胞をCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で10日間培養した。7日目の培養液に対してATP試薬150μL(CellTiter-GloTMLuminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数(3点の平均値)を算出した。
【0091】
その結果、αキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を含む培地組成物を用いてヒト骨髄由来間葉系幹細胞を96ウェル平底超低接着表面マイクロプレートで培養すると、培地組成物中に含有されるαキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの総量のうち、αキチンナノファイバーが20重量%以上であれば、αキチンナノファイバーのみの場合(即ち、サンプル1)と比較して、同等の細胞増殖促進効果を示した。各培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表4に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
(試験例3:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を用いた3D培養におけるヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞の連続拡大培養)
WO2015/111686に準じて調製したαキチンナノファイバーまたはキトサンナノファイバー(バイオマスナノファイバーBiNFi-S(ビンフィス)2質量%、株式会社スギノマシン)を1%(w/v)となるように超純水(Milli-Q水)に懸濁した後、転倒混和により分散し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。ブレンドに用いたのは、200MPa、pass5回条件でナノファイバー化したαキチンナノファイバー(サンプル1)と200MPa、pass5回条件でナノファイバー化したキトサンナノファイバー(サンプル2)である。さらにサンプル1とサンプル2の比率(体積)が、50%:50%(サンプル3)、25%:75%(サンプル4)、20%:80%(サンプル6)、15%:85%(サンプル7)になるようにサンプル1とサンプル2を混合し、キチンナノファイバー/キトサンナノファイバー混合物(サンプル3、4、6、7)を得た。
【0094】
血清培地である間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製)に上記で得たサンプル1~4、6、7を、0.006%(w/v)の終濃度となるように添加した培地組成物を調製した。なお、調製した培地組成物中のキチンナノファイバー及び/又はキトサンナノファイバーの終濃度は次の通りである:
(1)サンプル1を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.006%(w/v)、キトサンナノファイバー:0%(w/v))
(2)サンプル2を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.006%(w/v))
(3)サンプル3を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.003%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.003%(w/v))
(4)サンプル4を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.0015%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.0045%(w/v))
(5)サンプル6を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.0012%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.0048%(w/v))
(6)サンプル7を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.0009%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.0051%(w/v))
【0095】
引き続き、培養したヒト脂肪由来間葉系幹細胞(C-12977、タカラバイオ社製)を、13333細胞/mLとなるように上記の各培地組成物に懸濁した後、96ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3474)に150μL/ウェルで播種した。細胞をCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で5日間培養した。播種時(0日目)と播種後5日目の培養液に対してATP試薬150μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数(3点の平均値)を算出した。
【0096】
播種後5日目において、ピペッティングによる細胞が接着したナノファイバーを分散させ、その懸濁液を96ウェル平底超低接着表面マイクロプレートからそれぞれ回収し、新しい各サンプル(0.006%)を含んだ間葉系幹細胞増殖培地600μLにピペッティングで混合し、24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3473)に全量/ウェルで播種した(24ウェルマイクロプレート播種0日目)。24ウェルマイクロプレート播種後5日目と10日目の細胞培養液は、1.5mLチューブにそれぞれ回収し、2800g、3分間遠心することで、細胞・ナノファイバー部分を沈降させた。細胞・ナノファイバーのペレットに対し、間葉系幹細胞増殖培地150μLとATP試薬150μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数(3点の平均値)を算出した。
【0097】
24ウェルマイクロプレート播種後10日目において、ピペッティングによる細胞が接着したナノファイバーを分散させ、その懸濁液を24ウェル平底超低接着表面マイクロプレートからそれぞれ回収し、新しい各サンプル(0.006%)を含んだ間葉系幹細胞増殖培地3000μLにピペッティングで混合し、6ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3471)に全量/ウェルで播種した(6ウェルマイクロプレート播種0日目)。
【0098】
6ウェルマイクロプレート播種後8日目の細胞培養液は、ピペッティングにより懸濁させ、蒸発分も考慮して間葉系幹細胞増殖培地を添加することで3500μLに全量を合わせた。500μLの細胞培養液とATP試薬500μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数(3点の平均値)を算出した。また最終的なATP値は全量の3500μLになるように換算した。
【0099】
その結果、培地組成物中に含有されるαキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの総量のうち、αキチンナノファイバーが15重量%~50重量%である、αキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを含有する培地組成物を用いてヒト脂肪由来間葉系幹細胞を培養すると、ファイバー同士の緩やかな凝集とピペッティングによる分散を繰り返すことが可能であった。また新鮮なαキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを含有する培地組成物を加えることで、トリプシンを使用せず拡大培養が可能であった。特に培地組成物中に含有されるαキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの総量のうち、αキチンナノファイバーが15重量%~20重量%の場合は、連続拡大培養時においてナノファイバー上でのヒト脂肪由来間葉系幹細胞凝集化による細胞増殖速度低下が起こりにくく、6穴プレートでも良好な増殖促進作用を示した。各培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表5に示す。
【0100】
【表5】
【0101】
(試験例4:キトサンナノファイバーもしくはキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を用いた3D培養におけるヒト脂肪由来間葉系幹細胞の幹細胞マーカー発現変動)
WO2015/111686に準じて調製したαキチンナノファイバーまたはキトサンナノファイバー(バイオマスナノファイバーBiNFi-S(ビンフィス)2質量%、株式会社スギノマシン)を1%(w/v)となるように超純水(Milli-Q水)に懸濁した後、転倒混和により分散し、本水溶液を121℃で20分オートクレーブ滅菌した。用いたαキチンナノファイバーは、200MPa、pass5回条件でナノファイバー化したαキチンナノファイバー(サンプル1)である。またキトサンナノファイバーは、200MPa、pass5回条件でナノファイバー化したキトサンナノファイバー(サンプル2)である。さらにサンプル1とサンプル2の比率(体積)が、50%:50%(サンプル3)、33%:67%(サンプル4)、25%:75%(サンプル5)になるようにサンプル1とサンプル2を混合し、キチンナノファイバー/キトサンナノファイバー混合物(サンプル3~5)を得た。間葉系幹細胞増殖培地2培地(C-28009、タカラバイオ社製)に上記で得たサンプル1~5を、0.015%(w/v)の終濃度となるように添加した培地組成物、そして上記基材を含まない未添加培地組成物(サンプル11)を調製した。なお、調製した培地組成物中のキチンナノファイバー及び/又はキトサンナノファイバーの終濃度は次の通りである:
(1)サンプル1を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.015%(w/v)、キトサンナノファイバー:0%(w/v))
(2)サンプル2を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.015%(w/v))
(3)サンプル3を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.0075%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.0075%(w/v))
(4)サンプル4を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.005%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.01%(w/v))
(5)サンプル5を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.00375%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.01125%(w/v))
【0102】
引き続き、培養したヒト脂肪由来間葉系幹細胞(C-12977、タカラバイオ社製)を、50000細胞/mLとなるように上記のキチン及び/又はキトサンナノファイバーを添加した培地組成物あるいは未添加培地組成物に播種した後、6ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3471、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり2mLになるように分注した。また、比較対象として25000細胞/mLを未添加培地組成物に播種した後、6ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3516、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり2mLになるように分注した(サンプル12)。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、6日間継続した。6日目に細胞を回収し、RLT溶液を350μL(RNeasy mini kit(QIAGEN社製、#74106)を添加し、RNA抽出溶液とした。RNA抽出溶液に70%エタノールを350μL加えた後、RNeasyスピンカラムに添加し、8000xgで15秒間遠心した。続いて、RNeasyスピンカラムに700μLのRW1溶液を添加し、8000xgで15秒間遠心した。続いて、500μLのRPE溶液を添加し、8000xgで15秒間遠心した。さらに500μLのRPE溶液を添加し、8000xgで2分間遠心した。RNeasyスピンカラム中に存在するRNAにRNaseフリー溶液を添加し、溶出させた。次に、得られたRNAからPrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製、#RR037A)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAとPremix EX Taq(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製、#RR039A)、Taq man Probe(Applied Bio Systems社製)を用いてリアルタイムPCRを行った。Taq man Probe(Applied Bio Systems社製)としては、OCT4はHs04260367_gH、SOX2はHs01053049_s1、NANOGはHs04399610_g1、CXCR4はHs00607978 s1,GAPDHはHs99999905_m1を用いた。機器はリアルタイムPCR7500を使用した。解析は各目的遺伝子の値をGAPDHの値で補正した相対値を算出し、比較した。
【0103】
その結果、キトサンナノファイバーおよびαキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を含む培地組成物を用いて、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を6ウェル平底超低接着表面マイクロプレートで培養することで未分化性を示すOCT4、SOX2、NANOG遺伝子とホーミングに関わる遊走性を示すCXCR4遺伝子の相対的な発現量の上昇が認められた。一方、接着プレートで単層培養した条件や、キチンナノファイバーのみを用いて低接着プレートで3D培養した条件では、これら遺伝子の明確な発現量の増加は認めなかった。各遺伝子発現の相対値を表6に示す。
【0104】
【表6】
【0105】
尚、試験例1~4(および、後述する試験例5、6、7)で使用した各種解繊条件(圧力・解砕回数)で調製されるαキチンナノファイバー分散液およびキトサンナノファイバー分散液の物性値(αキチンまたはキトサンの実測濃度、粘度、メジアン粒子径、平均粒子径等)を表7に示す。
【0106】
【表7】

【0107】
(試験例5:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を用いた3D培養におけるヒト臍帯由来間葉系幹細胞の連続拡大培養)
血清培地である間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製)に上記で得たサンプル6を、0.05%(w/v)の終濃度となるように添加した培地組成物を調製した(ここで調製した培地組成物を、以下、「ナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地」と称することがある)。なお、調製したナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地中のキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーの終濃度は次の通りである:キチンナノファイバー:0.01%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.04%(w/v)。
【0108】
引き続き、培養したヒト臍帯由来間葉系幹細胞(C-12971、タカラバイオ社製)を、15000細胞/mLとなるように上記のナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地に懸濁した後、6ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3471)に10mL/ウェルで播種した。細胞をCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で3日間培養した。培養の際、ナノファイバーと接着した細胞は、培養ウェルの底に沈殿したが、培養ウェルの表面との接着は生じていなかった。3日目に、ナノファイバー/細胞の沈殿物を実質的に含まないウェル中の培地上清を約5mL除去し、新鮮なナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地を5mL添加し、ピペットにより懸濁して、培養を7日目まで継続した。播種時(0日目)と播種後7日目の培養液300μLに対してATP試薬300μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数(2点の平均値)を算出した。
【0109】
播種後7日目において、ピペッティングにより細胞が接着したナノファイバーを分散させ、その懸濁液を6ウェル平底超低接着表面マイクロプレートから回収し、新鮮なナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地(40mL)にピペッティングで混合し、125mLフラスコ(Thermo Scientic社製、4115-0125)に全量/フラスコで播種し培養した。10日目にフラスコ中の培地を約25mL除去し、新鮮なナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地を25mL添加しピペットにより懸濁し、培養を播種後14日目まで継続した。125mLフラスコ拡大後7日目の細胞培養液500μLに対してATP試薬500μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数(2点の平均値)を算出した。またフラスコにおける最終的なATP値は、6ウェルからフラスコへの拡大比率(5倍)を用いて換算した。
【0110】
その結果、αキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを含有する培地組成物を用いてヒト臍帯由来間葉系幹細胞を培養すると、ファイバー同士の緩やかな凝集とピペッティングによる分散を繰り返すことが可能であった。また新鮮なαキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを含有する培地組成物を加えることで、トリプシンを使用せず拡大培養が可能であった。各培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表8に示す。
【0111】
【表8】
【0112】
(試験例6:キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含有する培地組成物を用いたヒト臍帯由来間葉系幹細胞の低血清濃度での浮遊培養と、連続的な細胞分泌物の回収1)
試験例5において、αキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを含有する培地組成物(即ち、ナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地)を用いてヒト臍帯由来間葉系幹細胞を培養した14日目の125mLフラスコ培養液を使用した。14日目にフラスコ中のナノファイバー/細胞の沈殿物を実質的に含まない培地上清を約25mL除去し、新鮮なDMEM培地(044-29765、富士フイルム和光純薬株式会社、ナノファイバーおよび血清を含まない)を25mL添加し、ピペットにより懸濁し、培養を17日目まで継続した。さらに17日目にフラスコ中のナノファイバー/細胞の沈殿物を実質的に含まない培地上清を約25mL回収し、ウェルに新鮮なDMEM培地(044-29765、富士フイルム和光純薬株式会社、ナノファイバーおよび血清を含まない)を25mL添加し、ピペットにより懸濁し、培養を21日目まで継続した。その後は24、28、31、35日目に、フラスコ中の培地上清を約25mL回収し、ウェルに新鮮なDMEM培地:間葉系幹細胞増殖培地(3:1)(いずれの培地もナノファイバーを含まない)を25mL添加し、ピペットにより懸濁し培養を35日目まで継続した。
【0113】
21、24、28、31、35日目において、回収した培地上清は遠心(400g、3分間)後、培養上清を回収した。回収した培養上清は使用時まで-80℃に保管した。また遠心後のペレット(ナノファイバー/細胞等)は細胞培養中のフラスコに戻し、フラスコによる培養を継続した。即ち、上記される全工程を通して、培地中のナノファイバー濃度は常に一定である。
【0114】
14、21、28、35日目において、125mLフラスコの細胞培養液500μLに対してATP試薬500μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数(2点の平均値)を算出した。
【0115】
[酵素抗体法によるエクソソーム産生量の測定]
各培養上清中(17、21、24、28、31、35日目)のエクソソーム産生量を酵素抗体法(ELISA;enzyme-linked immunosorbent assay)を用いて測定した。測定にはPS CaptureTM Exosome ELISA Kit(和光純薬社製、#297-79201)を用いた。Exosome Capture 96 Well Plateに反応/洗浄液を300μL/well添加する操作を3回繰り返した。10倍希釈した培養上清を100μL/wellで分注し、マイクロプレート振とう器を用いて室温で2時間反応させた。反応終了後、反応液を捨て、各ウェルに反応/洗浄液を300μL/well添加する操作を3回繰り返した。検出用コントロール抗CD63抗体反応液を100μL/wellで分注し、マイクロプレート振とう器を用いて室温で1時間反応させた。反応終了後、反応液を捨て、各ウェルに反応/洗浄液を300μL/well添加する操作を3回繰り返した。検出用2次抗体反応液を100μL/wellで分注し、マイクロプレート振とう器を用いて室温で1時間反応させた。反応終了後、反応液を捨て、各ウェルに反応/洗浄液を300μL/well添加する操作を5回繰り返した。TMB Solutionを100μL/wellで分注し、室温で30分反応させた。反応後、Stop Solutionを100μL/wellで添加し、450nm及び620nmの吸光度を測定した。各サンプルの吸光度値は450nmの吸光度から620nmの吸光度を減じた値(△Abs)とした。
【0116】
その結果、αキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを含有する培地組成物上で増殖したヒト臍帯由来間葉系幹細胞は、間葉系幹細胞培地の比率が25%である低血清培地でも35日目まで生細胞数が維持していた。また各培養上清中のCD63値(エクソソーム)は、間葉系幹細胞培地の比率が50%であるよりも25%にしたほうが生産量は高かった。また25%の低血清培地で培養を継続するほど生産量が増加していた。各培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表9に、CD63による△Abs値を表10に示す。
【0117】
【表9】
【0118】
【表10】
【0119】
(試験例7:キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含有する培地組成物を用いたヒト臍帯由来間葉系幹細胞の段階的な低血清化における浮遊培養と、細胞分泌物の回収2)
血清培地である間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製)に上記で得たサンプル3および6を、0.05%(w/v)の終濃度となるように添加した培地組成物を調製した(ここで調製した培地組成物を、以下、「ナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地」と称することがある)。なお、調製したナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地中のキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーの終濃度は次の通りである:
(1)サンプル3を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.025%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.025%(w/v))
(2)サンプル6を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.01%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.04%(w/v))
【0120】
引き続き、培養したヒト臍帯由来間葉系幹細胞(C-12971、タカラバイオ社製)を、15000細胞/mLとなるように上記のナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地に懸濁した後、24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3473)に1.2mL/ウェルで播種した。細胞をCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で3日間培養した。培養の際、ナノファイバーと接着した細胞は、培養ウェルの底に沈殿したが、培養ウェルの表面との接着は生じていなかった。3日目にウェル中のナノファイバー/細胞の沈殿物を実質的に含まない培地上清を約0.6mL除去し、間葉系幹細胞増殖培地を0.6mL添加し、ピペットにより懸濁して、培養を6日目まで継続した。播種後6日目において、ピペッティングにより細胞が接着したナノファイバーを分散させ、その懸濁液を24ウェル平底超低接着表面マイクロプレートから回収し、新鮮なナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地(8.4mL)にピペッティングで混合し、6ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3473)に9.6mL/ウェルで播種した。細胞をCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で4日間培養した。10日目にウェル中の培地上清を約5mL除去し、間葉系幹細胞増殖培地(ナノファイバーを含まない)を5mL添加しピペットにより懸濁し培養を14日目まで継続した。播種後14日目において、ピペッティングにより細胞が接着したナノファイバーを分散させ、その懸濁液を6ウェル平底超低接着表面マイクロプレートから回収し、新鮮なナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地(約40mL)にピペッティングで混合し、125mLフラスコ(Thermo Scientic社製、4115-0125)に全量/フラスコで播種し培養した。17日目にフラスコ中の培地上清を約25mL除去し、新鮮な間葉系幹細胞増殖培地(ナノファイバーを含まない)を25mL添加しピペットにより懸濁し、培養を播種後20日目まで継続した。
【0121】
20日目にフラスコ中の培地上清を約25mL除去し、新鮮なDMEM培地(044-29765、富士フイルム和光純薬株式会社、ナノファイバーおよび血清を含まない)を25mL添加し、ピペットにより懸濁し、培養を23日目まで継続した。さらに23日目にフラスコ中の培地上清を約25mL回収し、ウェルに新鮮なDMEM培地(044-29765、富士フイルム和光純薬株式会社、ナノファイバーおよび血清を含まない)を25mL添加しピペットにより懸濁し、培養を26日目まで継続した。その後は29、32、35日目にフラスコ中の培地上清を約25mL回収し、ウェルに新鮮なDMEM培地(ナノファイバーおよび血清を含まない)を25mL添加しピペットにより懸濁し培養を35日目まで継続した。
【0122】
26、29、32、35日目において、回収した培地は遠心(400g、3分間)後、培養上清を回収した。回収した培養上清は使用時まで-80℃に保管した。また遠心後のペレット(ナノファイバー/細胞等)は細胞培養中のフラスコに戻し、フラスコによる培養を継続した。即ち、上記される全工程を通して、培地中のナノファイバー濃度は常に一定である。
【0123】
26、29、32、35日目において、125mLフラスコの細胞培養液500μLに対してATP試薬500μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数(2点の平均値)を算出した。
【0124】
[酵素抗体法によるエクソソーム産生量の測定]
各培養上清中(26、29、32、35日目)のエクソソーム産生量を酵素抗体法(ELISA;enzyme-linked immunosorbent assay)を用いて測定した。測定にはPS CaptureTM Exosome ELISA Kit(和光純薬社製、#297-79201)を用いた。Exosome Capture 96 Well Plateに反応/洗浄液を300μL/well添加する操作を3回繰り返した。10倍希釈した培養上清を100μL/wellで分注し、マイクロプレート振とう器を用いて室温で2時間反応させた。反応終了後、反応液を捨て、各ウェルに反応/洗浄液を300μL/well添加する操作を3回繰り返した。検出用コントロール抗CD63抗体反応液を100μL/wellで分注し、マイクロプレート振とう器を用いて室温で1時間反応させた。反応終了後、反応液を捨て、各ウェルに反応/洗浄液を300μL/well添加する操作を3回繰り返した。検出用2次抗体反応液を100μL/wellで分注し、マイクロプレート振とう器を用いて室温で1時間反応させた。反応終了後、反応液を捨て、各ウェルに反応/洗浄液を300μL/well添加する操作を5回繰り返した。TMB Solutionを100μL/wellで分注し、室温で30分反応させた。反応後、Stop Solutionを100μL/wellで添加し、450nm及び620nmの吸光度を測定した。各サンプルの吸光度値は450nmの吸光度から620nmの吸光度を減じた値(△Abs)とした。
【0125】
その結果、αキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを含有する培地組成物上で増殖したヒト臍帯由来間葉系幹細胞に対し、段階的にDMEM培地添加により低血清培地にすると、血清を含む間葉系幹細胞培地の比率が6.25%になると生細胞数は低下していた。一方、各培養上清中のCD63値(エクソソーム)に関しては、低血清化になるほど生産量は減少しており、間葉系幹細胞培地の比率が25%(即ち、血清濃度が0.5重量%)の条件が最も生産量は高かった。各培養でのRLU値(ATP測定、発光強度)を表11に、CD63による△Abs値を表12に示す。
【0126】
【表11】
【0127】
【表12】
【0128】
(試験例8:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を用いたヒト骨髄由来及びヒト臍帯由来間葉系幹細胞の3D培養におけるPGE2産生量)
間葉系幹細胞増殖培地2培地(C-28009、タカラバイオ社製)にキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物(終濃度:0.05%(w/v))(サンプル6)、そして上記基材を含まない未添加培地組成物(サンプル12)を調製した。引き続き、培養したヒト骨髄由来間葉系幹細胞(C-12974、タカラバイオ社製)を40000細胞/mL、また、ヒト臍帯由来間葉系幹細胞(C-12971、タカラバイオ社製)を80000細胞/mLとなるように上記のキチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物あるいは未添加培地組成物に播種した後、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物は24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1mLになるように分注した。また、比較対象として24ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3526、コーニング社製)もしくは6ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3516、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1mLもしくは2mLになるように分注した。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、2日間継続した。2日目にそれぞれのウェルから、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物及び未添加培地組成物を15mLチューブに移し、300xgで3分間遠心したのち培養上清を回収した。培養上清を除いた後、1mLの間葉系幹細胞増殖培地2培地もしくは終濃度10ng/mLのTNF-α(#210-TA、R&Dシステムズ社製)を含む間葉系幹細胞増殖培地2培地を15mLチューブに添加し、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物は24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)のウェルに戻した。24ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3526、コーニング社製)は培地を除去後に1mLの間葉系幹細胞増殖培地2培地もしくは終濃度10ng/mLのTNF-αを含む間葉系幹細胞増殖培地2培地を添加した。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、1日間継続した。1日目にそれぞれのウェルから、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物及び未添加培地組成物を15mLチューブに移し、300xgで3分間遠心したのち培養上清を回収した。この際に細胞数の評価を行うために、ATP試薬1mL(CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を培養上清回収後の各サンプルに添加して懸濁させ、10分間室温で静置した後、Enspire(Perkin Elmer社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。続いて、回収した培養上清中に含まれるPGE2に関して、PGE2 ELISA kit(#ADI-900-001、Enzoライフサイエンス社製)を用いて定量を行った。Assay Bufferを用いて希釈したstandard及び培養上清100μLをキットに付属の96ウェルプレートの各ウェルに添加した。続いて、50μLのblue conjugateを各ウェルに添加した。さらに50μLのyellow antibodyを各ウェルに添加し、室温条件下で2時間振とうした。引き続き、溶液を捨て、wash solutionを400μL/wellで添加した後、溶液を捨てた。上記操作を3回繰り返した。200μLのpNpp substrate solutionを各ウェルに添加し、室温条件下で45分間振とうした。最後に50μLのstop solutionを添加して反応を止め、405nmの吸光度を測定した。各サンプル中に含まれるPGE2濃度は検量線の4パラメーターロジスティック回帰より算出した。細胞数あたりの分泌量を算出するために、算出されたPGE2量を発光強度で除した相対値を算出した。
【0129】
その結果、キチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物と低接着プレートを組み合わせた3D培養の方が、未添加培地組成物と接着プレートで単層培養した場合と比較してPGE2分泌量の相対値が増加した。また、TNF-α処置を比較した場合においてもキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物で低接着プレートと組み合わせた3D培養の方が、未添加培地組成物と接着プレートで単層培養した場合よりも多かった。ヒト骨髄由来及びヒト臍帯由来間葉系幹細胞の各サンプルにおける相対値を表13及び表14に示す。
【0130】
【表13】
【0131】
【表14】
【0132】
(試験例9:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を用いたヒト骨髄由来及びヒト脂肪由来間葉系幹細胞の3D培養におけるbFGF産生量)
間葉系幹細胞増殖培地2培地(C-28009、タカラバイオ社製)にキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物(終濃度:0.05%(w/v))(サンプル6)、そして上記基材を含まない未添加培地組成物(サンプル12)を調製した。引き続き、培養したヒト骨髄由来間葉系幹細胞(C-12974、タカラバイオ社製)を80000細胞/mL、また、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞(C-12977、タカラバイオ社製)を100000細胞/mLとなるように上記のキチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物あるいは未添加培地組成物に播種した後、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物は24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1mLになるように分注した。また、比較対象として24ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3526、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1mLになるように分注した。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、2日間継続した。2日目にそれぞれのウェルから、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物及び未添加培地組成物を15mLチューブに移し、300xgで3分間遠心したのち培養上清を除いた。続いて1mLの17%FBS含有MEMα培地を添加し、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物は24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)のウェルに戻した。未添加培地組成物は間葉系幹細胞増殖培地2培地を除去後に1mLの17%FBS含有MEMα培地を24ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3526、コーニング社製)に添加した。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、1日間継続した。1日目にそれぞれのウェルから、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物及び未添加培地組成物を15mLチューブに移し、300xgで3分間遠心したのち培養上清を回収した。この際に細胞数の評価を行うために、ATP試薬1mL(CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を培養上清回収後の各サンプルに添加して懸濁させ、10分間室温で静置した後、Enspire(Perkin Elmer社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。続いて、回収した培養上清中に含まれるbFGFに関して、bFGF ELISA kit(#ELH-bFGF-1、RayBiotech社製)を用いて定量を行った。100μLのstandardもしくはサンプル溶液をwellに添加し、2.5時間室温で振とうした。引き続き、溶液を捨て、300μLの1x wash solutionを添加後に、除去した。上記操作を4回繰り返した。100μLの1x Detection antibodyを添加し、1時間室温で振とうした。溶液を捨て、300μLの1x wash solutionを添加後に、除去した。上記操作を4回繰り返した。100μLのHRP-Streptavidin solutionを添加し、45分間室温で振とうした。続いて、溶液を捨て、300μLの1x wash solutionを添加後に、除去した。上記操作を4回繰り返した。100μLのTMB One-Step Substrate reagentを添加し、30分間室温、暗所で振とうした。最後に50μLのstop solutionを添加し、450nmの吸光度を測定した。各サンプル中に含まれるbFGF濃度は検量線の4パラメーターロジスティック回帰より算出した。細胞数あたりの分泌量を算出するために、算出されたbFGF量を発光強度で除した相対値を算出した。
【0133】
その結果、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞もしくはヒト脂肪由来間葉系幹細胞いずれにおいても、キチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物と低接着プレートを組み合わせた3D培養の方が、未添加培地組成物と接着プレートで単層培養した場合と比較してbFGF分泌量の相対値が増加した。ヒト骨髄由来間葉系幹細胞もしくはヒト脂肪由来間葉系幹細胞における相対値を表15及び表16に示す。
【0134】
【表15】
【0135】
【表16】
【0136】
(試験例10:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を用いたヒト骨髄由来及びヒト臍帯由来間葉系幹細胞の3D培養におけるTSG-6産生量)
間葉系幹細胞増殖培地2培地(C-28009、タカラバイオ社製)にキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物(終濃度:0.05%(w/v))(サンプル6)、そして上記基材を含まない未添加培地組成物(サンプル12)を調製した。引き続き、培養したヒト骨髄由来間葉系幹細胞(C-12974、タカラバイオ社製)を、80000細胞/mL、また、ヒト臍帯由来間葉系幹細胞(C-12971、タカラバイオ社製)を40000細胞/mLとなるように上記のキチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物あるいは未添加培地組成物に播種した後、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物は24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1mLになるように分注した。また、比較対象として6ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3516、コーニング社製)もしくは24ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3526、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1mLになるように分注した。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、2日間継続した。2日目にそれぞれのウェルから、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物及び未添加培地組成物を15mLチューブに移し、300xgで3分間遠心したのち培養上清を除いた。培養上清を除いた後、1mLの間葉系幹細胞増殖培地2培地もしくは終濃度10ng/mLもしくは20ng/mLのTNF-α(#210-TA、R&Dシステムズ社製)を含む間葉系幹細胞増殖培地2培地を15mLチューブに添加し、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物は24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)のウェルに戻した。24ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3526、コーニング社製)は培地を除去後に1mLの間葉系幹細胞増殖培地2培地もしくは終濃度10ng/mLもしくは20ng/mLのTNF-αを含む間葉系幹細胞増殖培地2培地を添加した。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、1日間継続した。1日目にそれぞれのウェルから、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物及び未添加培地組成物を15mLチューブに移し、300xgで3分間遠心したのち培養上清を回収した。この際に細胞数の評価を行うために、ATP試薬1mL(CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を培養上清回収後の各サンプルに添加して懸濁させ、10分間室温で静置した後、Enspire(Perkin Elmer社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。続いて、回収した培養上清中に含まれるTSG-6に関して、ELISAを用いて定量を行った。Maxisorp flat bottom(#44-2404-21、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に0.2M炭酸―重炭酸緩衝液(pH9.2)で10μg/mLに希釈したTSG-6抗体(#sc-65886、Santacruz社製)を50μL/ウェルで添加し、4℃で24時間静置した。24時間後、D-PBS(-)(#043-29791、富士フイルム和光純薬株社製)にTween‐20(#P7949、シグマアルドリッチ社製)を終濃度0.05%(v/v)となるように添加したPBST溶液を300μL添加後、除去した。本操作を3回繰り返した。BSA(#A2153、シグマアルドリッチ社製)を5%含有させたPBST溶液を100μL添加し、室温で30分間静置した。溶液を廃棄後、300μLのPBST溶液を添加、除去した。本操作を3回繰り返した。続いて、検量線用に調製したTSG-6(#2104-TS、R&D Systems社製)及び評価サンプルを50μL各ウェルに添加し、室温で2時間静置した。溶液を廃棄後、300μLのPBST溶液を添加し、除去した。本操作を3回繰り返した。PBSTで5μg/mLに希釈したBiotinylated anti human TSG-6抗体(#BAF2104、R&D Systems社製)の溶液を50μL添加し、室温で120分間静置した。溶液を廃棄後、300μLのPBST溶液を添加し、除去した。本操作を3回繰り返した。PBST溶液で200ng/mLに希釈したStreptavidin-HRP(#ab7403、Abcam社製)の溶液を50μL添加し、室温で30分間静置した。溶液を廃棄後、300μLのPBST溶液を添加し、除去した。本操作を3回繰り返した。100μLのsubstrate solution(#52-00-03、KPL社製)を添加し、15分間室温で静置した。最後に100μLのstop solution(#50-85-06、KPL社製)を添加し、450nmの吸光度を測定した。各サンプル中に含まれるTSG-6濃度は検量線の4パラメーターロジスティック回帰より算出した。細胞数あたりの分泌量を算出するために、算出されたTSG-6量を発光強度で除した相対値を算出した。
【0137】
その結果、キチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物と低接着プレートを組み合わせた3D培養の方が、未添加培地組成物と接着プレートで単層培養した場合と比較してTSG-6分泌量の相対値が増加した。また、各サンプルにおけるcontrolとTNF-α処置を比較した際の増加率もキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物で低接着プレートと組み合わせた3D培養の方が、未添加培地組成物と接着プレートで単層培養した場合よりも多かった。ヒト骨髄由来間葉系幹細胞及びヒト臍帯由来間葉系幹細胞の各サンプルにおける相対値を表17及び表18に示す。
【0138】
【表17】
【0139】
【表18】
【0140】
(試験例11:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を用いたヒト骨髄由来の3D培養におけるVEGF産生量)
間葉系幹細胞増殖培地2培地(C-28009、タカラバイオ社製)にキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物(終濃度:0.05%(w/v))(サンプル6)、そして上記基材を含まない未添加培地組成物(サンプル12)を調製した。引き続き、培養したヒト骨髄由来間葉系幹細胞(C-12974、タカラバイオ社製)を、100000細胞/mLとなるように上記のキチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物あるいは未添加培地組成物に播種した後、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物は24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)に、未添加培地組成物は24ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3526、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1mLになるように分注した。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、2日間継続した。2日目にそれぞれのウェルから、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物及び未添加培地組成物を15mLチューブに移し、300xgで3分間遠心したのち培養上清を除いた。続いて1mLの17%FBS含有MEMα培地を添加し、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物は24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)のウェルに戻した。未添加培地組成物は間葉系幹細胞増殖培地2培地を除去後に1mLの17%FBS含有MEMα培地を24ウェル平底接着表面マイクロプレート(#3526、コーニング社製)に添加した。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、1日間継続した。1日目にそれぞれのウェルから、キチン及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物及び未添加培地組成物を15mLチューブに移し、300xgで3分間遠心したのち培養上清を回収した。この際に細胞数の評価を行うために、ATP試薬1mL(CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を培養上清回収後の各サンプルに添加して懸濁させ、10分間室温で静置した後、Enspire(Perkin Elmer社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。続いて、回収した培養上清中に含まれるVEGFに関して、VEGF165 ELISA kit, Human(#ENZ-KIT156-0001、Enzoライフサイエンス社製)を用いて定量を行った。100μLのstandardもしくはサンプル溶液をwellに添加し、室温で60分間振とうした。引き続き、溶液を捨て、300μLの1x wash solutionを添加後に、除去した。上記操作を3回繰り返した。100μLのVEGF detector antibodyを添加し、30分間室温で振とうした。溶液を捨て、300μLの1x wash solutionを添加後に、除去した。上記操作を3回繰り返した。100μLのVEGF conjugate (blue)を添加し、30分間室温で振とうした。続いて、溶液を捨て、300μLの1x wash solutionを添加後に、除去した。上記操作を4回繰り返した。100μLのTMB solutionを添加し、30分間室温振とうした。最後に100μLのstop solution2を添加し、450nmの吸光度を測定した。各サンプル中に含まれるVEGF濃度は検量線の4パラメーターロジスティック回帰より算出した。細胞数あたりの分泌量を算出するために、算出されたVEGF量を発光強度で除した相対値を算出した。
【0141】
その結果、キチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物で培養した場合の方が、未添加培地組成物で培養した場合と比較して細胞あたりのVEGF産生量が増加した。各サンプルにおける相対値を表19に示す。
【0142】
【表19】
【0143】
(試験例12:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物又はマイクロキャリアを用いた3D培養におけるヒト臍帯由来間葉系幹細胞の幹細胞マーカー発現変動)
間葉系幹細胞増殖培地2培地(C-28009、タカラバイオ社製)に上記で得たサンプル6を、0.05%(w/v)の終濃度となるように添加した培地組成物を調製した。また、Corning低濃度SynthemaxIIマイクロキャリア(Corning社製、3781)を360mg秤量し、滅菌精製水で水和後に、10mLのエタノールに30分間浸漬させた。その後、エタノールを除去し、30mLのPBS(‐)で2回洗浄し、最後に10mLの間葉系幹細胞増殖培地2培地で洗浄した。上記のマイクロキャリアを10mLの間葉系幹細胞増殖培地2培地に添加した培地組成物を比較対照として調製した(サンプル13)。引き続き、培養したヒト臍帯由来間葉系幹細胞(C-12971、タカラバイオ社製)600000細胞を、上記のナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地40mLに懸濁し、培養バッグとして用いた抗体固相化バッグA(ニプロ社製、87-362)に充填した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で3日間培養した。また、培養したヒト臍帯由来間葉系幹細胞600000細胞をマイクロキャリア含有間葉系幹細胞増殖培地15mLに懸濁した後、Corning 125mL ディスポーザブルスピナーフラスコに移し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で1日間培養した。1日後にマイクロスタースロースピードマグネチックスターラー(WHEATON社製、W900701-B)を用いて、30rpmで15分間の振とう、その後2時間静置する方法でさらに2日間培養した。3日後、抗体固相化バッグA及びディスポーザブルスピナーフラスコで培養した細胞は半量培地交換を行い、さらに上記と同様の条件で4日間培養した。4日後、40mLから1mLを取り出して1.5mLチューブに移し、300xgで3分間遠心した。上清を除いた後、350μLのRLT溶液(RNeasy mini kit、QIAGEN社製、#74106)を添加し、RNA抽出溶液とした。引き続き、RNA抽出溶液に70%エタノールを350μL加えた後、RNeasyスピンカラムに添加し、8000xgで15秒間遠心した。続いて、RNeasyスピンカラムに700μLのRW1溶液を添加し、8000xgで15秒間遠心した。続いて、500μLのRPE溶液を添加し、8000xgで15秒間遠心した。さらに500μLのRPE溶液を添加し、8000xgで2分間遠心した。RNeasyスピンカラム中に存在するRNAにRNaseフリー溶液を添加し、溶出させた。次に、得られたRNAからPrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製、#RR037A)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAとPremix EX Taq(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製、#RR039A)、Taq man Probe(Applied Bio Systems社製)を用いてリアルタイムPCRを行った。Taq man Probe(Applied Bio Systems社製)としては、OCT4はHs04260367_gH、SOX2はHs01053049_s1、NANOGはHs04399610_g1、CXCR4はHs00607978 s1,GAPDHはHs99999905_m1を用いた。機器はリアルタイムPCR7500を使用した。解析は各目的遺伝子の値をGAPDHの値で補正した相対値を算出し、比較した。
【0144】
その結果、キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物を含む培地組成物を用いて、ヒト臍帯由来間葉系幹細胞を培養バッグで培養することで、未分化性を示すOCT4、SOX2、NANOG遺伝子とホーミングに関わる遊走性を示すCXCR4遺伝子の相対的な発現量の上昇が認められた。一方、Corning低濃度SynthemaxIIマイクロキャリアで培養した条件では、これら遺伝子の明確な発現量の増加は認めなかった。各遺伝子発現の相対値を表20に示す。
【0145】
【表20】
【0146】
(試験例13:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物又はマイクロキャリアを用いたヒト脂肪由来間葉系幹細胞の3D培養におけるbFGF産生量)
間葉系幹細胞増殖培地2培地(C-28009、タカラバイオ社製)に上記で得たサンプル6を、0.05%(w/v)の終濃度となるように添加した培地組成物を調製した。また、Corning低濃度SynthemaxIIマイクロキャリア(Corning社製、3781)を360mg秤量し、滅菌精製水で水和後に、10mLのエタノールに30分間浸漬させた。その後、エタノールを除去し、30mLのPBS(‐)で2回洗浄し、最後に10mLの間葉系幹細胞増殖培地2培地で洗浄した。上記のマイクロキャリアを10mLの間葉系幹細胞増殖培地2培地に添加した培地組成物を比較対照として調製した(サンプル13)。引き続き、培養したヒト脂肪由来間葉系幹細胞(C-12977、タカラバイオ社製)600000細胞を、上記のナノファイバー含有間葉系幹細胞増殖培地40mLに懸濁し、培養バッグとして用いた抗体固相化バッグA(ニプロ社製、87-362)に充填した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で3日間培養した。また、培養したヒト脂肪由来間葉系幹細胞600000細胞をマイクロキャリア含有間葉系幹細胞増殖培地15mLに懸濁した後、Corning 125mL ディスポーザブルスピナーフラスコに移し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で1日間培養した。1日後にマイクロスタースロースピードマグネチックスターラー(WHEATON社製、W900701-B)を用いて、30rpmで15分間の振とう、その後2時間静置する方法でさらに2日間培養した。3日後、培養バッグ及びスピナーフラスコ中の40mLから1mLを取り出して1.5mLチューブに移し、300xgで3分間遠心した。遠心後、上清を除去し、2mLのPBS(-)を添加して洗浄した。洗浄後、300xgで3分間遠心し、PBS(-)を除去後、17%FBS含有MEMα培地(富士フイルム和光純薬社製、135-15175)1mLで懸濁後、24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)に添加し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で1日間培養した。1日後に培養液を取り出して1.5mLチューブに移した後、300xgで3分間遠心し、培養上清を新しい1.5mLチューブに回収した。この際に、細胞数の評価を行うために、ATP試薬1mL(CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay, Promega社製)を培養上清回収後の各サンプルに添加して懸濁し、10分間室温で静置した後、Enspire(Perkin Elmer社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引くことで生細胞の数を測定した。続いて、回収した培養上清中に含まれるbFGFに関して、bFGF ELISA kit(#ELH-bFGF-1、RayBiotech社製)を用いて定量を行った。100μLのstandardもしくはサンプル溶液をwellに添加し、2.5時間室温で振とうした。引き続き、溶液を捨て、300μLの1x wash solutionを添加後に、除去した。上記操作を4回繰り返した。100μLの1x Detection antibodyを添加し、1時間室温で振とうした。溶液を捨て、300μLの1x wash solutionを添加後に、除去した。上記操作を4回繰り返した。100μLのHRP-Streptavidin solutionを添加し、45分間室温で振とうした。続いて、溶液を捨て、300μLの1x wash solutionを添加後に、除去した。上記操作を4回繰り返した。100μLのTMB One-Step Substrate reagentを添加し、30分間室温、暗所で振とうした。最後に50μLのstop solutionを添加し、450nmの吸光度を測定した。各サンプル中に含まれるbFGF濃度は検量線の4パラメーターロジスティック回帰より算出した。細胞数あたりの分泌量を算出するために、算出されたbFGF量を発光強度で除した相対値を算出した。
【0147】
その結果、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞をキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物で実施した3D培養の方が、マイクロキャリアを添加した培地組成物で実施した3D培養と比較してbFGF分泌量の相対値が増加した。結果を表21に示す。
【0148】
【表21】
【0149】
(試験例14:同時解繊により製造したキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物又は特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーを用いた3D培養におけるヒト脂肪由来間葉系幹細胞の幹細胞マーカー発現変動)
キチン粉末およびキトサン粉末を重量比1:4で混合し、この混合物を200MPa、pass5回条件でナノファイバー化することでαキチン/キトサンナノファイバーを調製した(以下、本方法で製造したキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーの混合物を、「同時解繊により調製したキチン/キトサンナノファイバー」等と称することがある)。また、特定のアセチル化度(本試験例においては約50%)を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバー(以下、「N-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバー」等と称することがある)は、ポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンを30%水酸化ナトリウム水溶液中で4時間加熱還流処理することによって、N-アセチルグルコサミン量を約50%に調節し、さらにこれを200MPa、pass5回条件でナノファイバー化することによって調製した。かくして得られた同時解繊により調製したキチン/キトサンナノファイバーとN-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバーは、それぞれ、1%(w/w)となるように注射用水(大塚蒸留水)で希釈後、転倒混和により分散し、本水懸濁液を121℃で20分オートクレーム滅菌処理した(それぞれ、サンプル14およびサンプル15)。間葉系幹細胞増殖培地2培地(C-28009、タカラバイオ社製)に上記で得たサンプル14又はサンプル15を、0.05%(w/v)の終濃度となるように添加した培地組成物を調製した。
【0150】
(1)サンプル14を添加した培地組成物(同時解繊により調製したキチン/キトサンナノファイバー:0.05%(w/v))
(2)サンプル15を添加した培地組成物(N-アセチルグルコサミン量調節(50%)ナノファイバー:0.05%(w/v))
【0151】
引き続き、培養したヒト脂肪由来間葉系幹細胞(C-12977、タカラバイオ社製)を、シャーレにて2D培養により増殖させ、50000細胞/mLとなるように上記のナノファイバーを添加した培地組成物あるいは未添加培地組成物に播種した後、24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1.2mLになるように分注した。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、13日間継続した。播種時、8日目および13日目に細胞を回収し、RLT溶液を300μL(RNeasy mini kit(QIAGEN社製、#74106)を添加し、RNA抽出溶液とした。RNA抽出溶液に70%エタノールを300μL加えた後、RNeasyスピンカラムに添加し、8000xgで15秒間遠心した。続いて、RNeasyスピンカラムに600μLのRW1溶液を添加し、8000xgで15秒間遠心した。続いて、500μLのRPE溶液を添加し、8000xgで15秒間遠心した。さらに500μLのRPE溶液を添加し、8000xgで2分間遠心した。RNeasyスピンカラム中に存在するRNAにRNaseフリー溶液を添加し、溶出させた。次に、得られたRNAからPrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製、#RR037A)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAとPremix EX Taq(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製、#RR039A)、Taq man Probe(Applied Bio Systems社製)を用いてリアルタイムPCRを行った。Taq man Probe(Applied Bio Systems社製)としては、OCT4はHs04260367_gH、NANOGはHs04399610_g1,PPIAはHs99999904_m1を用いた。機器はリアルタイムPCR7500を使用した。解析は各目的遺伝子の値をPPIAの値で補正した相対値を算出し、比較した。
【0152】
その結果、播種時の2D培養条件と比較して、同時解繊により調製したキチン/キトサンナノファイバー又はN-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバーを含む培地組成物を用いて、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を24ウェル平底超低接着表面マイクロプレートで3D培養することで、未分化性を示すNANOGおよびOCT4遺伝子の相対的な発現量の上昇が認められた。NANOG遺伝子発現の相対値を表22に、OCT4遺伝子発現の相対値を表23に示す。
【0153】
【表22】
【0154】
【表23】
【0155】
(試験例15:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物またはキチンナノファイバーと他の多糖類の混合物を用いた3D培養におけるヒト脂肪由来間葉系幹細胞の増殖および幹細胞マーカー発現変動)
メチルセルロース粉末(1.0g)を水(100mL)に加え撹拌し懸濁後、オートクレーブ滅菌処理(121℃、20分間)することで得られた1.0%(w/v)のメチルセルロース水溶液(8mL)に、サンプル1(2mL)を加えピペッティングにより混合することで0.2%(w/v)キチンナノファイバーと0.8%(w/v)メチルセルロースの混合物を調製した(サンプル16)。
【0156】
脱アシル化ジェランガム粉末(0.8g)を水(100mL)に加え撹拌し溶解後、オートクレーブ滅菌処理(121℃、20分間)することで0.8%(w/v)の脱アシル化ジェランガム水溶液を得た。この脱アシル化ジェランガム水溶液(12.5mL)をD-PBS(+)(Ca, Mg含有)(27.5mL)に培地作製キット(日産化学 FCeM(登録商標)-series Preparation Kit)を使用して混合することで得られた0.25%(w/v)の脱アシル化ジェランガム2価カチオン架橋構造体分散液(8mL)に、サンプル1(2mL)を加えピペッティングにより混合することで0.2%(w/v)キチンナノファイバーと0.2%(w/v)脱アシル化ジェランガムの混合物を調製した(サンプル17)。
【0157】
アルギン酸ナトリウム粉末(1.0g)を水(50mL)に加え撹拌し溶解後、オートクレーブ滅菌処理(121℃、20分間)することで2.0%(w/v)のアルギン酸ナトリウム水溶液を得た。このアルギン酸ナトリウム水溶液(10mL)をD-PBS(+)(Ca, Mg含有)(10mL)に培地作製キット(日産化学 FCeM(登録商標)-series Preparation Kit)を使用して混合することで得られた1.0%(w/v)アルギン酸2価カチオン架橋構造体分散液(8mL)に、サンプル1(2mL)を加えピペッティングにより混合することで0.2%(w/v)キチンナノファイバーと0.8%(w/v)アルギン酸の混合物を調製した(サンプル18)。
【0158】
つぎに、間葉系幹細胞増殖培地2培地(C-28009、タカラバイオ社製)に上記で得たサンプル6、16、17および18を0.05%(w/v)の終濃度となるように添加した培地組成物を調製した。なお、調製した培地組成物中のキチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーあるいは他の多糖類(メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、アルギン酸)の終濃度は次の通りである:
【0159】
(1)サンプル6を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.01%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.04%(w/v))
(2)サンプル16を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.01%(w/v)、メチルセルロース:0.04%(w/v))
(3)サンプル17を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.01%(w/v)、脱アシル化ジェランガム:0.04%(w/v))
(4)サンプル18を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.01%(w/v)、アルギン酸:0.04%(w/v))
【0160】
引き続き、培養したヒト脂肪由来間葉系幹細胞(C-12977、タカラバイオ社製)を、13333細胞/mLとなるように上記のキチンナノファイバーにキトサンナノファイバーあるいは他の多糖類(メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、アルギン酸)を添加した培地組成物に播種した後、24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3473、コーニング社製)のウェルに1ウェル当たり1.2mLになるように分注した。各プレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で培養し、14日間継続した。播種時(0日目)と播種後7、14日目において、各培養液を懸濁し300μL分注しさらにATP試薬300μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数を算出した。
【0161】
7日目および14日目に細胞を回収し、RLT溶液を300μL(RNeasy mini kit(QIAGEN社製、#74106)を添加し、RNA抽出溶液とした。RNA抽出溶液に70%エタノールを300μL加えた後、RNeasyスピンカラムに添加し、8000xgで15秒間遠心した。続いて、RNeasyスピンカラムに600μLのRW1溶液を添加し、8000xgで15秒間遠心した。続いて、500μLのRPE溶液を添加し、8000xgで15秒間遠心した。さらに500μLのRPE溶液を添加し、8000xgで2分間遠心した。RNeasyスピンカラム中に存在するRNAにRNaseフリー溶液を添加し、溶出させた。次に、得られたRNAからPrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製、#RR037A)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAとPremix EX Taq(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製、#RR039A)、Taq man Probe(Applied Bio Systems社製)を用いてリアルタイムPCRを行った。Taq man Probe(Applied Bio Systems社製)としては、OCT4はHs04260367_gH、NANOGはHs04399610_g1,PPIAはHs99999904_m1を用いた。機器はリアルタイムPCR7500を使用した。解析は各目的遺伝子の値をPPIAの値で補正した相対値を算出し、比較した。
【0162】
その結果、αキチンナノファイバーと組み合わせた多糖類のなかで、キトサンナノファイバーとの混合物を含む培地組成物が最もヒト脂肪由来間葉系幹細胞の増殖能が高く、かつ未分化性を示すOCT4遺伝子およびNANOG遺伝子の発現能が高かった。キチンナノファイバーと、メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、アルギン酸のいずれかの多糖類との混合物を含む培地組成物も、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を増殖させ、OCT4遺伝子およびNANOG遺伝子の発現亢進作用を認めたが、キトサンナノファイバーとの混合物に比べ弱かった。生細胞数の結果は表24に、NANOG遺伝子発現の結果を表25に、OCT4遺伝子発現の結果を表26に示す。
【0163】
【表24】
【0164】
【表25】
【0165】
【表26】
【0166】
(試験例16:キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物、同時解繊により製造したキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの混合物、又は特定のアセチル化度を有するポリ(1,4)-N-アセチル-β-D-グルコサミンナノファイバーを用いた3D培養におけるHEK293-IFNβ細胞の増殖、生存維持、細胞凝集塊の分散性)
【0167】
10%(v/v)胎児ウシ血清を含むEMEM培地(和光純薬社製)に上記で得たサンプル1を0.02%(w/v)又は0.1%(w/v)の終濃度となるように添加した培地組成物を調製した。また、10%(v/v)胎児ウシ血清を含むEMEM培地(和光純薬社製)にサンプル6、14又は15を、0.02%(w/v)の終濃度となるように添加した培地組成物を調製した。さらに、上記基材を含まない未添加培地組成物(サンプル12)を調製した。なお、調製したナノファイバー含有10%(v/v)胎児ウシ血清を含むEMEM培地中の各ナノファイバーの終濃度は次の通りである:
【0168】
(1)サンプル1を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.02%(w/v)、キトサンナノファイバー:0%(w/v))
(2)サンプル1を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.1%(w/v)、キトサンナノファイバー:0%(w/v))
(3)サンプル6を添加した培地組成物(キチンナノファイバー:0.02%(w/v)、キトサンナノファイバー:0.08%(w/v))
(4)サンプル14を添加した培地組成物(同時解繊により調製したキチン/キトサンナノファイバー:0.1%(w/v))
(5)サンプル15を添加した培地組成物(N-アセチルグルコサミン量調節(50%)ナノファイバー:0.1%(w/v))
【0169】
引き続き、培養したヒトIFMβを安定的に産生させるHEK293-IFMβ細胞を、約200000細胞/mLとなるように上記の各培地組成物に懸濁した後、24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3473)に1.2mL/ウェルで播種した。細胞をCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で最大21日間培養し、培地交換は1あるいは2日おきに実施した。播種時(0日目)と播種後7、14、21日目において、各培養液を懸濁し300μL分注しさらにATP試薬300μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加し懸濁させ、約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、培地のみの発光値を差し引き、生細胞の数を算出した。また播種後8日目、15日目、21日目に写真撮影を実施し、細胞スフェア塊の分散性を確認した。
【0170】
その結果、未添加の条件と比較して、各基材を添加したすべての条件で増殖および生存維持効果が認められた。また、同時解繊により調製したキチン/キトサンナノファイバー又はN-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバーを含む培地組成物を用いると、キチンナノファイバー単独より高い細胞密度を示した。また継時的な観察により、未添加では8日目に大きな細胞凝集塊が見られ、キチンナノファイバー単独(サンプル1)でも細胞凝集体が徐々に大きくなりまた凝集体の数が減っていた。これらの条件では細胞凝集体同士のさらなる凝集化が起こっているものと考えられた。一方、キチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを添加した培地組成物および同時解繊により調製したキチン/キトサンナノファイバーを含む培地組成物を用いると、細胞凝集体同士の凝集化を抑制していた。特にN-アセチルグルコサミン量調節ナノファイバーを含む培地組成物を用いると、21日目の時点でも小さな細胞凝集体が分散する傾向を維持していた。生細胞数の結果を図1に、写真観察の結果を図2(8日目)、図3(15日目)、図4(21日目)に示す。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明によれば、高品質な接着性細胞(例、間葉系幹細胞)を効率よく生産することが可能となる。本発明により得られた細胞が幹細胞である場合、これらは未分化性や遊走性等の特性を好ましい状態で維持している、非常に品質の高い幹細胞である。従って、本発明により得られた幹細胞(例、間葉系幹細胞)は、疾患等により失われた器官や組織を補うために好ましく使用可能である。さらに、本発明により得られた細胞分泌物もまた、種々の疾患の治療に用い得る。従って、本発明は例えば再生医療分野において極めて有用であると考えられる。
【0172】
本出願は、日本で出願された特願2018-164042(出願日:2018年8月31日)および特願2019-134058(出願日:2019年7月19日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-09-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞を、キチンナノファイバーを含む培地組成物中において浮遊培養する工程を含む、細胞分泌物を生産する方法。
【請求項2】
培地組成物がさらに、キトサンナノファイバーまたは多糖類を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
培地組成物がキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーを含み、培地組成物中のキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーの比率が、キチンナノファイバー:キトサンナノファイバー=1:0.5~20である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
培地組成物がキチンナノファイバーおよび多糖類を含み、多糖類が、メチルセルロース、脱アシル化ジェランガム、およびアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項2記載の方法。
【請求項5】
培地組成物中の血清の濃度が2%以下である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
細胞分泌物が、低分子化合物、タンパク質、核酸、および細胞分泌小胞からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
細胞分泌物が、細胞分泌小胞である、請求項6項記載の方法。