IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

特開2022-162271コンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物
<>
  • 特開-コンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物 図1
  • 特開-コンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物 図2
  • 特開-コンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物 図3
  • 特開-コンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162271
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】コンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20221017BHJP
   E04C 5/07 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C08J5/04 CET
E04C5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067011
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩
(72)【発明者】
【氏名】須藤 健
(72)【発明者】
【氏名】郡 洋平
【テーマコード(参考)】
2E164
4F072
【Fターム(参考)】
2E164AA05
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD05
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH11
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】耐アルカリ性に優れるコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂を補強する連続繊維とを含む、コンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂を補強する連続繊維とを含む、コンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、メルトフローレートが10~50g/10minであるシンジオタクチック構造を有する結晶性ポリスチレンを含む、請求項1に記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、メルトフローレートが10~50g/10minであるシンジオタクチック構造を有する結晶性ポリスチレンと、酸変性ポリアリーレンエーテルとを含む、請求項1又は2に記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
【請求項4】
前記連続繊維が炭素繊維である、請求項1~3のいずれかに記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
【請求項5】
前記連続繊維がガラス繊維である、請求項1~3のいずれかに記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
【請求項6】
前記連続繊維(B)の形態が、一方向材、ロービング、マット、織布又は不織布である、請求項1~5のいずれかに記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
【請求項7】
コンクリート補強筋として用いられる、請求項1~6のいずれかに記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物に関する。
具体的には、本発明は、耐アルカリ性に優れるコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の補強材として鉄筋や繊維を用いる技術がある。例えば、繊維を樹脂で収束させたものをコンクリート補強筋として用いることが試みられている(特許文献1、2)。また、鉄筋にエポキシ樹脂を塗装することが試みられている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-139093号公報
【特許文献2】特開2004-232298号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】魚本健人、「コンクリート用FRP緊張材の特性と耐久性」、生産研究、1997年、49巻、10号、p.484~493
【非特許文献2】片脇清士、「コンクリート橋の塩害対策」、材料と環境、2010年、59、p.195~204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2及び非特許文献1、2をはじめとする従来の技術には、コンクリート成分に由来するアルカリによる補強材の劣化を防止する観点でさらなる改善の余地が見出された。
【0006】
本発明の目的の1つは、耐アルカリ性に優れるコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題に鑑み、耐久性に優れるコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物を得るべく検討した。その結果、熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂を補強する連続繊維とを含むコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物が、耐アルカリ性に優れ、上記課題を解決することを見出した。
本発明によれば、以下のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物を提供できる。
1.熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂を補強する連続繊維とを含む、コンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
2.前記熱可塑性樹脂が、メルトフローレートが10~50g/10minであるシンジオタクチック構造を有する結晶性ポリスチレンを含む、1に記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
3.前記熱可塑性樹脂が、メルトフローレートが10~50g/10minであるシンジオタクチック構造を有する結晶性ポリスチレンと、酸変性ポリアリーレンエーテルとを含む、1又は2に記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
4.前記連続繊維が炭素繊維である、1~3のいずれかに記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
5.前記連続繊維がガラス繊維である、1~3のいずれかに記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
6.前記連続繊維(B)の形態が、一方向材、ロービング、マット、織布又は不織布である、1~5のいずれかに記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
7.コンクリート補強筋として用いられる、1~6のいずれかに記載のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐アルカリ性に優れるコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の賦形物のアルカリ試験後(水洗後)の外観写真である。
図2】実施例1の賦形物のアルカリ試験前後のマイクロスコープ像である((a)アルカリ試験前、(b)アルカリ試験後(水洗後))。
図3】比較例1の賦形物のアルカリ試験後(水洗後)の外観写真である。
図4】比較例1の賦形物のアルカリ試験前後のマイクロスコープ像である((a)アルカリ試験前、(b)アルカリ試験後(水洗前)、(c)アルカリ試験後(水洗後))。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物について詳述する。
尚、本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。数値範囲に関して記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0011】
本発明の一態様に係るコンクリート構造物補強材用の連続繊維強化材賦形物(以下、単に「賦形物」ともいう。)は、熱可塑性樹脂(以下、「(A)成分」又は「(A)」ともいう。)と、前記熱可塑性樹脂(A)を補強する連続繊維(以下、「(B)成分」又は「(B)」ともいう。)とを含む。
一つの側面において、本態様の賦形物は、熱可塑性樹脂(A)と、前記熱可塑性樹脂(A)を補強する連続繊維(B)とを含む「複合樹脂組成物」であるともいえる。
【0012】
本態様の賦形物は、耐アルカリ性に優れる効果を発揮する。そのため、コンクリート成分に由来するアルカリ(例えばコンクリート中への水分の浸透によって生じるアルカリイオン)による賦形物の劣化が好適に防止又は抑制される。これにより、賦形物はコンクリート構造物を長期にわたり補強できる。
このような効果が得られる理由として、連続繊維(B)が熱可塑性樹脂(A)によってアルカリから保護されることに加えて、熱可塑性樹脂(A)自体が耐アルカリ性に優れることが挙げられる。例えば、コンクリート中において該熱可塑性樹脂(A)とコンクリートとの界面に水分が浸透してアルカリイオンが生じても、熱可塑性樹脂(A)が耐アルカリ性を発揮することによって、該熱可塑性樹脂(A)と連続繊維(B)とが腐食から保護される。
また、賦形物は、熱可塑性樹脂(A)を含むことにより(例えば熱硬化性樹脂との対比で)賦形性に優れ、種々の賦形方法を適用可能であり、コンクリート構造物補強材として求められる形状を好適に付与できる。
【0013】
(熱可塑性樹脂(A))
本態様の賦形物に含まれる熱可塑性樹脂(A)は特に限定されない。
一実施形態において、熱可塑性樹脂(A)は、シンジオタクチック構造を有する結晶性ポリスチレン(SPS)を含む。シンジオタクチック構造を有する結晶性ポリスチレンは、例えば、メタロセン触媒を用いてスチレン系モノマーを重合して得られる。熱可塑性樹脂(A)がSPSを含むことによって、賦形物の耐アルカリ性がさらに向上する。
【0014】
SPSのメルトフローレート(MFR)は、10~50g/10minであることが好ましい。ここで、MFRは、JIS K7210:2014の方法に従って、300℃で1.20kgにおいて測定される値である。SPSのMFRが10~50g/10minであることによって、賦形物の機械的強度が向上し、コンクリート構造物補強材としての補強性能が向上する。
【0015】
熱可塑性樹脂(A)は、上述したSPS単独で構成されてもよいが、他の熱可塑性樹脂を含有してもよい。
【0016】
他の熱可塑性樹脂としては、SPSと親和性(「相溶性」ともいう。)が高い樹脂を好ましく用いることができる。そのような樹脂として、例えば、ポリアリーレンエーテル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(略称「AS」)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(略称「ABS」)、アクリロニトリル/エチレン-プロピレン-ジエン/スチレン共重合体(略称「AES」)、アクリロニトリル/アクリル酸エステル/スチレン共重合体(略称「AAS」)、メチルメタクリレート/ブタジエン/スチレン共重合体(略称「MBS」)、スチレン/ブタジエン共重合体(略称「SBR」)、スチレン/ブタジエンスチレン共重合体(略称「SBS」)、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレン共重合体(略称「SEBS」)等が挙げられる。
【0017】
ポリアリーレンエーテルとしては、例えば、ポリ(2,3-ジメチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-クロロメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-ヒドロキシエチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-n-ブチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-エチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-エチル-6-n-プロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,3,6-トリメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ〔2-(4’-メチルフェニル)-1,4-フェニレンエーテル〕、ポリ(2-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-6-ブロモ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジ-n-プロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-6-メチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジブロモ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)等が挙げられる。あるいは、米国特許第3,306,874号,同第3,306,875号,同第3,257,357号及び同第3,257,358号の各明細書に記載のポリマー及び共重合体も適切である。また、例えば、ポリスチレン等のビニル芳香族化合物と前記のポリフェニレンエーテルとのグラフト共重合体及びブロック共重合体が挙げられる。これらのなかでは、特にポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)が好ましく用いられる。
【0018】
他の熱可塑性樹脂として例示した上記の樹脂は、変性樹脂、特に酸変性樹脂であることが好ましい。変性樹脂は、変性基を有する化学種を共重合、例えばグラフト重合することによって得られる。酸変性樹脂を得る場合は、化学種として、不飽和カルボン酸又はその誘導体を好ましく用いることができる。
【0019】
酸変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基を含有する重合性二重結合を有する化合物を用いることができる。これらの化合物には、カルボキシル基に加えて、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基等のような他の官能基を必要に応じて導入することができる。酸変性に用いられる不飽和カルボン酸の誘導体としては、上述した化合物の酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等が挙げられる。その具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸モノアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、メタクリル酸ナトリウム等が挙げられる。中でも、好ましいのはフマル酸及び無水マレイン酸である。
【0020】
一実施形態において、熱可塑性樹脂(A)は、MFRが10~50g/10minであるSPSと、酸変性ポリアリーレンエーテルとを含む。これにより、SPSと連続繊維(B)との親和性が高まり、賦形物の機械的強度が向上し、コンクリート構造物補強材としての補強性能が向上する。酸変性ポリアリーレンエーテルとしては、無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル、フマル酸変性ポリフェニレンエーテル等が好ましく挙げられる。酸変性ポリフェニレンエーテルの変性量(変性剤含有量)は、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは0.2~15質量%であり、更に好ましくは0.3~10質量%であり、より更に好ましくは0.5~5.0質量%である。変性量が前記範囲であると良好な強度と耐熱性を有するものとなる。
変性ポリフェニレンエーテルの変性量(変性剤含有量)は、JIS K 0070-1992に準拠して測定された中和滴定量によって求めることができる。
変性ポリフェニレンエーテルは、前記ポリフェニレンエーテルと変性剤とを反応させることにより得られる。好ましい変性方法として、溶融変性及び溶液変性が挙げられ、なかでもより好ましくは溶融変性である。
【0021】
一実施形態において、熱可塑性樹脂(A)の総量を100質量%としたときに、SPSは、20質量%以上99質量%以下である。SPSの含有量が20質量%以上、40質量%以上、60質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、さらには95質量%以上であることによって、繊維強化樹脂ペレットを原料に用いて成形された成形品、好ましくは射出成形品に、優れた耐衝撃強度が付与される。また、SPSの含有量が99質量%以下、98質量%以下、さらには97質量%以下であることによって、残部を構成する他の熱可塑性樹脂(例えば酸変性ポリアリーレンエーテル)による効果、例えばSPSと連続繊維(B)との親和性を向上する効果等を良好に発揮できる。
【0022】
熱可塑性樹脂(A)は、SPSや、上述したSPSと親和性が高い樹脂を含むものに限定されず、目的、用途等に応じて種々の熱可塑性樹脂を含むことができる。
熱可塑性樹脂(A)のさらなる他の例として、例えば、PA6、PA66等のような脂肪族ポリアミド;PA6T、PA9T等のような主鎖に芳香環を持つ芳香族ポリアミド;ポリエチレンテレフタレート(略称「PET」)、ポリブチレンテレフタレート(略称「PBT」)等のようなポリエステル;ポリフェニレンスルフィド(略称「PPS」)等のような主鎖にアリール基を有するポリアリーレンスルフィド;主鎖にスルフォニル結合を有するポリエーテルスルフォン;主鎖にケトン基を持つポリエーテルエーテルケトン(略称「PEEK」);ポリプロピレン(略称「PP」)、高密度ポリエチレン(略称「HDPE」)、直鎖状低密度ポリエチレン(略称「LLDPE」)、エチレン・ブテン共重合体(略称「EBR」)、エチレン・オクテン共重合体(略称「EOR」)、エチレン・ヘキセン共重合体(略称「EHR」)、エチレン・プロピレン共重合体(略称「EPR」)等のようなポリオレフィン(あるいはオレフィン系エラストマー)等が挙げられる。
【0023】
一実施形態において、熱可塑性樹脂(A)は、エステル結合及びアミド結合を含まない熱可塑性樹脂を含む。これにより賦形物の耐アルカリ性がさらに向上する。そのような観点では、例えば、SPS、ポリオレフィン(あるいはオレフィン系エラストマー)、ポリアリーレンスルフィド等が好適である。
尚、熱可塑性樹脂(A)として、エステル結合及びアミド結合を含む熱可塑性樹脂を含むこともでき、例えば液晶ポリマー(「液晶ポリエステル」とも称される。)は、エステル結合を含むが、耐薬品性に優れる性能を持つため好適に用いられる。
【0024】
熱可塑性樹脂(A)は、以上に例示した熱可塑性樹脂からなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0025】
(連続繊維(B))
本態様の賦形物に含まれる連続繊維(B)は特に限定されない。
尚、本明細書において、「連続繊維」とは、賦形物の全長又は全幅にわたって実質的に連続して配置された繊維であるか、又は、数平均繊維長が20mm以上の繊維である。ここでいう「数平均繊維長」は、賦形物に含まれる繊維の繊維長の数平均値である。
【0026】
一実施形態において、連続繊維(B)は炭素繊維である。
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリルを原料としたPAN系、石油や石炭中のコールタールピッチを原料としたピッチ系、熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂を原料としたフェノール系等の各種の炭素繊維を用いることができる。炭素繊維は、リサイクル炭素繊維(RCF)であってもよい。このように炭素繊維は特に限定されないが、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、熱硬化系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、リサイクル炭素繊維(RCF)からなる群から選択される少なくとも1種の炭素繊維であることが好ましい。
【0027】
一実施形態において、連続繊維(B)はガラス繊維である。
ガラス繊維は格別限定されず、例えば、耐アルカリ性ガラス、石英ガラス、Eガラス、低誘電ガラス、シリカガラス等のような種々の組成のガラス繊維を、目的、用途に応じて選定し、使用することができる。これらの中でも、耐アルカリ性ガラス、石英ガラスが好ましい。
【0028】
連続繊維(B)の形態は格別限定されない。
一実施形態において、連続繊維(B)の形態は、一方向材、ロービング、マット(連続繊維フェルト)、織布又は不織布である。
【0029】
本態様の賦形物における連続繊維(B)の含有量は格別限定されない。
一実施形態において、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、連続繊維(B)は10~90質量%である。
【0030】
(他の成分:(C)成分又は(C)ともいう。)
本態様の賦形物は、本発明の効果を損なわない範囲で、以上に説明した熱可塑性樹脂(A)及び連続繊維(B)以外の他の成分(C)を含有することができる。他の成分(C)としては、各種の添加剤が挙げられる。添加剤は格別限定されず、例えば、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、顔料、難燃剤、ラジカル発生剤、相溶化剤等のような樹脂用添加剤等が挙げられる。また、添加剤の含有量は格別限定されず、必要量添加することが可能であり、例えば、賦形物の総量を100質量%としたときに、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、さらには1質量%以下とすることができる。添加剤は、熱可塑性樹脂(A)に混合して用いることができる。
【0031】
一実施形態において、賦形物の50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上又は実質的に100質量%が、
熱可塑性樹脂(A)及び連続繊維(B)であるか、又は、
熱可塑性樹脂(A)、連続繊維(B)及び他の成分(C)である。
尚、「実質的に100質量%」の場合、不可避不純物を含んでもよい。
【0032】
(賦形物を製造する方法)
本態様の賦形物を製造する方法は格別限定されず、例えば、連続繊維(B)に熱可塑性樹脂(A)を浸漬させることによって製造することができる。浸漬時において、熱可塑性樹脂(A)は溶融させた状態であり得、また必要に応じて他の成分(C)を含んだ状態であり得る。尚、連続繊維(B)に熱可塑性樹脂(A)を「浸漬させる」という場合には、連続繊維(B)に熱可塑性樹脂(A)が付加されるあらゆる形態を含む。
【0033】
(用途)
本態様の賦形物は、コンクリート構造物を補強するための種々の用途に用いることができる。賦形物は、例えば、コンクリート構造物を構成するコンクリートの内部に埋設されてもよいし、コンクリートの表面に貼付されてもよい。
一実施形態において、賦形物はコンクリート補強筋として用いられる。
【実施例0034】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0035】
(実施例1)
SPS(出光興産社製、MFR:30g/10min)96.5質量%と、酸変性ポリアリーレンエーテル(出光興産社製;フマル酸変性ポリフェニレンエーテル、溶融変性により製造、変性量1.5質量%)3.5質量%とを混合して、熱可塑性樹脂(A)とした。
上記により得られた熱可塑性樹脂(A)を320℃で溶融し、連続繊維(B)として、一方向に配向させた炭素繊維(三菱ケミカル社製「TRH50」)に浸漬させて、厚さ1mmのシート状の賦形物(一方向材)を得た。
【0036】
<評価方法>
アルカリ試験として、得られた賦形物を120℃の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度0.5質量%)に2週間浸漬し、次いで、賦形物を水洗した。この水洗時、表面を手指で摩擦した。アルカリ試験後の賦形物を目視及びマイクロスコープで観察した。
図1にアルカリ試験後(水洗後)の賦形物の外観写真を示す。
図2にアルカリ試験前後の賦形物表面のマイクロスコープ像を示す((a)アルカリ試験前、(b)アルカリ試験後(水洗後))。
【0037】
(比較例1)
一方向に配向させた炭素繊維の束にエポキシ樹脂を浸漬させてなる、厚さ1mmのシート状の賦形物(一方向材)を用意し、実施例1と同様に評価した。
図3にアルカリ試験後(水洗後)の賦形物の外観写真を示す。
図4にアルカリ試験前後の賦形物表面のマイクロスコープ像を示す((a)アルカリ試験前、(b)アルカリ試験後(水洗前)、(c)アルカリ試験後(水洗後))。
【0038】
<評価>
実施例1の賦形物は、アルカリ試験後(水洗後)において、表面に僅かな荒れが観察されたが、炭素繊維の脱落は生じておらず、全体としてアルカリ試験前の外観を保っていた。
これに対して、比較例1の賦形物は、アルカリ試験後(水洗後)において、表面荒れが顕著に観察され、炭素繊維の脱落が生じていた。
これらのことから、本発明の賦形物が耐アルカリ性に優れることがわかった。

図1
図2
図3
図4