(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162602
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】反応容器
(51)【国際特許分類】
C22B 3/08 20060101AFI20221018BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C22B3/08
C22B23/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067487
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓二
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA19
4K001BA02
4K001DB03
4K001DB14
(57)【要約】
【課題】例えば高温高圧下での酸による浸出処理に用いられる反応容器において、腐食を効果的に抑えることができる技術を提供すること。
【解決手段】本発明は、金属原料のスラリーが装入され、高温高圧下において硫酸の添加により金属原料に含まれる金属を浸出する浸出処理が施される反応容器であって、少なくともその内部の壁面がチタン材により構成され、撹拌軸と、撹拌羽根とを有する撹拌装置が備えられており、撹拌装置の下方の内壁に、摩耗防止板が接合されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原料のスラリーが装入され、高温高圧下において硫酸の添加により該金属原料に含まれる金属を浸出する浸出処理が施される反応容器であって、
少なくともその内部の壁面がチタン材により構成され、
撹拌軸と、撹拌羽根とを有する撹拌装置が備えられており、
前記撹拌装置の下方の内壁に、摩耗防止板が接合されている、
反応容器。
【請求項2】
前記摩耗防止板は、チタン合金により形成されている、
請求項1に記載の反応容器。
【請求項3】
前記内部の壁面を構成する前記チタン材は、パラジウム(Pd)を所定の割合で含有してなるものであり、
前記摩耗防止板を構成する前記チタン合金は、Pdを含まず、ニッケル(Ni)を所定の割合で含有するものである、
請求項2に記載の反応容器。
【請求項4】
前記摩耗防止板は、5mm以上20mm以下の厚みを有する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の反応容器。
【請求項5】
前記金属原料は、ニッケル酸化鉱石であり、
当該反応容器は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて前記ニッケル酸化鉱石のスラリーに対して硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を行う際に用いられるオートクレーブである、
請求項1乃至4のいずれかに記載の反応容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高温高圧下での酸による浸出処理に用いられる反応容器に関する。
【背景技術】
【0002】
High Pressure Acid Leaching(以下、「HPAL」と称す)プロセスによるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法では、低品位ニッケル鉱石をスラリー化し、その鉱石スラリーに高温高圧下で硫酸を添加することにより、ニッケルやコバルト等の有価金属を浸出している(浸出工程)。得られる浸出液には、鉄等の不純物が含まれているため、中和工程にて浸出液のpH調整を行って不純物成分を固液分離している。その後、浸出液中のニッケルやコバルトをH2Sガス等の硫化剤と反応させて硫化物として回収する(硫化工程)。また、有価金属を回収した後の液については、不純物を除去できるpHになるまで中和し、テーリングダムへ送液している(最終中和工程)。
【0003】
HPALプロセスでの主要反応となる浸出工程での高圧硫酸浸出反応では、オートクレーブを用いて鉱石スラリーと硫酸とを高温高圧下で反応させ、ニッケルやコバルトを浸出させた浸出液を生成する。
【0004】
浸出反応に使用するオートクレーブの内部の壁面(内壁)は、一般的に、Ti(チタン)を含む材質で構成されている。オートクレーブ内では、上述したように高温高圧下で硫酸による浸出反応を生じさせることから、耐腐食性を有する材質により構成する必要がある。中でも特に、Tiにより内壁を構成することで、耐腐食性を高めることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、オートクレーブ装置においては、内部での反応を促進するため、各室(各区画室)に撹拌装置及び邪魔板が設置されており、装置内で効率的に溶液の撹拌、混合が行われるようになっている。
【0006】
さて、オートクレーブ内では、上述したような撹拌装置により撹拌効果に基づいて浸出反応が促進されるが、得られる浸出液中に鉄等の不純物が含まれているため、流動に合わせて移動することでオートクレーブ装置の内面を摩耗させることがある。また、オートクレーブは、Tiを含むクラッド鋼で構成されることが多く、Ti部において摩耗により損傷が生じると、浸出反応により生成したスラリー液が鋼部にまで到達し、そこから腐食が一気に進行して、オートクレーブの缶体に大きな損傷を与える可能性がある。また、このような摩耗の発生により、内壁の補修などのメンテナンスや交換等の作業が必要となり、効率的な処理を行うことが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】上仲、他4名、“耐食チタン合金の特性と適用事例”、新日鉄住金技報、2013、第396号、P35~42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、例えば高温高圧下での酸による浸出処理に用いられる反応容器において、腐食を効果的に抑えることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、反応容器において撹拌装置の下方の内壁に、摩耗防止板を接合させて設けることで、腐食を効果的に抑えることができることを見出した。また、その摩耗防止板の材質を、オートクレーブ装置の内壁を構成する材質(チタン材)との関係で特定のものとすることで、いわゆる隙間腐食についても効果的に抑えることができることを見出した。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、金属原料のスラリーが装入され、高温高圧下において硫酸の添加により該金属原料に含まれる金属を浸出する浸出処理が施される反応容器であって、少なくともその内部の壁面がチタン材により構成され、撹拌軸と、撹拌羽根とを有する撹拌装置が備えられており、前記撹拌装置の下方の内壁に、摩耗防止板が接合されている、反応容器である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記摩耗防止板は、チタン合金により形成されている、反応容器である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記内部の壁面を構成する前記チタン材は、パラジウム(Pd)を所定の割合で含有してなるものであり、前記摩耗防止板を構成する前記チタン合金は、Pdを含まず、ニッケル(Ni)を所定の割合で含有するものである、反応容器である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記摩耗防止板は、5mm以上20mm以下の厚みを有する、反応容器である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記金属原料は、ニッケル酸化鉱石であり、当該反応容器は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて前記ニッケル酸化鉱石のスラリーに対して硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を行う際に用いられるオートクレーブである、反応容器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えば高温高圧下で酸による浸出処理が行われるような反応容器において、腐食を効果的に抑えることができる。
【0017】
また、隙間腐食についても効果的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出処理に用いられるオートクレーブ装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】オートクレーブ装置の長手方向に垂直な断面の図であり、摩耗防止板の設置態様を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更が可能である。
【0020】
≪1.反応容器(オートクレーブ装置)について≫
本実施の形態に係る反応容器は、金属原料のスラリーが装入され、高温高圧下において硫酸の添加によりその金属原料に含まれる金属を浸出する浸出処理が施される反応容器である。反応容器には、内部での反応効率を高める観点から、撹拌軸と、撹拌羽根とを有する撹拌装置が備えられている。
【0021】
具体的に、その反応容器としては、例えば、HPAL法に基づくニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル酸化鉱石のスラリー(鉱石スラリー)に対して、高温高圧下で硫酸によりニッケル及びコバルトを浸出させる浸出処理を行う際の反応容器、すなわちオートクレーブが挙げられる。
【0022】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスでは、オートクレーブ内に鉱石スラリーが装入され、220℃~280℃程度の温度、3MPaG~6MPaG程度に加圧した条件下で、過剰量の硫酸を添加して、鉱石スラリーを撹拌しながら浸出処理が施される。また、浸出処理対象のニッケル酸化鉱石のスラリーには、10重量%~50重量%程度の割合で鉄が含まれている。したがって、オートクレーブ内での鉱石スラリーに対する浸出処理では、反応に伴って、オートクレーブの内部の壁面に摩耗を生じさせる。
【0023】
そこで、本実施の形態に係る反応容器では、少なくともその内部の壁面がチタン材により構成され、撹拌軸と撹拌羽根とを有する撹拌装置の下方の内壁に、摩耗防止板が接合されていることを特徴としている。
【0024】
このような反応容器によれば、例えば高温加圧下で硫酸等の酸による浸出処理を施すような場合でも、特に撹拌装置の下方の位置における腐食を効果的に抑えることができる。これにより、装置の寿命を延ばし、操業効率を向上させることができる。
【0025】
≪2.湿式製錬プロセスで用いられるオートクレーブ装置について≫
図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出処理に用いられるオートクレーブ装置の構成の一例を示す図である。以下、反応容器として、オートクレーブ装置を例示してより詳しく説明する。
【0026】
オートクレーブ装置1では、加熱、加圧された原料スラリー(例えばニッケル酸化鉱石のスラリー)を収容し、硫酸等の酸を添加して撹拌することによって、高温高圧下でスラリー中の固形物に含まれる有価金属を高温加圧浸出する。
【0027】
オートクレーブ装置1は、少なくとも、複数の区画室10と、各区画室10に設けられてスラリーを撹拌するための撹拌装置20と、を備えている。また、区画室10は、オートクレーブ装置1内に設けられた隔壁30によって複数に区画されている。なお、
図1に示すオートクレーブ装置1の例では、4つの隔壁30(30A,30B,30C,30D)によって区画された5つの区画室10(10A,10B,10C,10D,10E)が設けられている。また、それぞれの区画室10A~10E内に、撹拌装置20(20A,20B,20C,20D,20E)が設けられている。なお、オートクレーブ装置における区画室の数は、原料や浸出条件等に応じて適宜設定することができるものである。
【0028】
また、オートクレーブ装置1では、各区画室10において、撹拌装置20の下方の内壁に、摩耗防止板40(40A、40B、40C、40D、40E)が接合されて設けられている。
【0029】
また、オートクレーブ装置1では、その内部の壁面(内壁)がチタン材により構成されている。これにより、高温高圧下で硫酸による浸出処理を施すにあたり、装置の耐食性を高めることができる。そのチタン材としては、鉄等の不純物が0.35質量%以下の純チタンを用いてもよく、あるいはチタンと他の金属との合金を用いてもよい。中でも、白金族元素であるパラジウム(Pd)を所定の割合で含有するチタン合金であることが好ましい。特に、高耐食性と経済性を具備したASTM規格のASTM SB-265 Gr17(JIS規格:TP-240PdH)を使用することが好ましい。
【0030】
なお、ASTM SB-265 Gr17は、成分組成として、パラジウム(Pd):0.04~0.08質量%、炭素(C):≦0.08質量%、鉄(Fe):≦0.20質量%、水素(H):≦0.015質量%、窒素(N):≦0.03質量%、酸素(O):≦0.18質量%を選択的に含有し、残部がチタン(Ti)及び不可避的不純物よりなる。
【0031】
(区画室)
区画室10は、オートクレーブ装置1において原料スラリーに対する浸出処理等の処理を施す反応場となる空間である。上述したように、オートクレーブ装置1では、隔壁30によって5つに区画された5つの区画室10A~10Eにより構成されている。
【0032】
区画室10は、上流側(
図1の左側)から順に、第1の区画室10A、第2の区画室10B・・・と続き、最下流側(
図1の右側)が最終の第5の区画室10Eで構成されている。オートクレーブ装置1においては、最上流の第1の区画室10Aに原料スラリーが装入され、また第1の区画室10Aの上部から垂下された配管を介して硫酸等の溶液がスラリーに供給される。そして、第1の区画室10Aでは、後述する撹拌機20Aによる撹拌によって、スラリー中の固形物に含まれる有価金属が溶液中に浸出される。
【0033】
第1の区画室10Aにおいては、スラリーに対する撹拌によって浸出処理が施されるとともに、そのスラリーの一部が第1の区画室10Aと第2の区画室10Bとを区画する隔壁30Aの上部をオーバーフローして、第2の区画室10Bへと移送される。第2の区画室10Bでは、第1の区画室10Aにおける処理と同様に、撹拌機20Bによる撹拌によって順次浸出処理が進行する。なお、第2の区画室10Bにおいても、その上部から配管を垂下させて、浸出に用いる硫酸等の溶液やスラリー等を供給することができる。
【0034】
以降順次、第3の区画室10C、第4の区画室10Dへとスラリーが主としてオーバーフローにより移送され、各区画室10において浸出処理が進行していく。そして、最下流の第5の区画室10Eにおいても同様にして、スラリーに対する浸出処理が施されると、その第5の区画室10Eに設けられた浸出液排出管(図示しない)を介して、有価金属が浸出されて得られた浸出液を含むスラリー(浸出スラリー)が排出される。
【0035】
(撹拌装置)
区画室10においては、上述したように、内部のスラリーを撹拌するための撹拌装置20が設けられている。撹拌装置20は、第1の区画室10A~第5の区画室10Eのそれぞれに設置されており、各区画室10の内部に装入、移送されたスラリーを撹拌する。
【0036】
撹拌装置20としては、例えば
図1に模式的に示すように、撹拌軸21と、複数の撹拌羽根22とを備えたものを用いることができる。撹拌装置20は、例えば、各区画室10の上部天井から垂下され、オートクレーブ装置1を上部から視たときに各区画室10の中央部分に撹拌軸が位置するように設けることができる。
【0037】
撹拌装置20は、例えば時計回りに所定の速度で撹拌軸21を回転させ、撹拌羽根22によってスラリーを撹拌する。このような撹拌装置20による撹拌によって、区画室10内のスラリーには所定の方向への液流が発生する。
【0038】
(摩耗防止板)
摩耗防止板40は、オートクレーブ装置1の底部内壁の摩耗を防ぐための板材であり、装置を保護する目的で設けられている。オートクレーブ装置1において、摩耗防止板40は、撹拌装置20の下方の内壁に設けられている。
【0039】
図2は、オートクレーブ装置1の長手方向(第1の区画室から第5の区画室へ向かう方向と同じ方向)に垂直な断面の図であり、摩耗防止板40の設置態様を説明するための図である。オートクレーブ装置1では、上述したように、各区画室10での反応促進のため撹拌装置20によるスラリーに対する撹拌、混合の操作が行われるが、その撹拌装置20により生み出される流動に合わせてスラリー(浸出液を含む)中の鉄等も移動する。特に、撹拌装置20の真下の部分においては、オートクレーブ装置1の底部内壁を這うようにして固形物が移動することで、その底部内壁の摩耗が進行する。また、撹拌装置20のフローパターンによって同じ部分が摩耗し、底面に粒子が移動する流れのパターンができ、それによって局所的な摩耗が発生し、摩耗がさらに促進される可能性がある。
【0040】
したがって、
図1、
図2に示すように、オートクレーブ装置1では、摩耗防止板40が撹拌装置20の下方内壁に設けられている。このように、摩耗防止板40を設けてなる装置によれば、特に、撹拌装置20の下方に内壁における摩耗を効果的に防ぐことができる。これにより、オートクレーブ装置1の寿命を延ばし、操業効率を高めることができる。
【0041】
摩耗防止板40の厚みは、特に限定されないが、5mm以上20mm以下であることが好ましい。厚みが5mm未満であると、摩耗防止板40それ自体が短期間で摩耗する可能性があり、取り換えの回数が増えるとともに、取り換え作業に伴い休転期間が長くなり、操業効率が低下する。また、オートクレーブ装置1は、一般的に長軸方向に垂直な断面が円形状の構造を有しているため(
図2も参照)、摩耗防止板40の厚みが20mmを超える場合には、そのオートクレーブ装置1の内部の曲率に合わせるように成形することが困難になる。
【0042】
なお、摩耗防止板40の構成材料(材質)については、後で詳述する。
【0043】
(その他の構成)
区画室10のうち第1の区画室10Aには、原料のスラリーを装入するための原料スラリー装入管(図示しない)が付設されており、その原料スラリー装入管を介して固形物を含むスラリーが装入される。
【0044】
例えば、少なくともニッケルとコバルトとの混合硫化物を含む原料スラリーに対する浸出処理に当該オートクレーブ装置1を用いる場合、各区画室10内における、ニッケル硫化物やコバルト硫化物の浸出処理時の反応は、下記式(1)及び式(2)となる。
NiS+2O2→NiSO4 ・・・(i)
CoS+2O2→CoSO4 ・・・(ii)
【0045】
上記反応式に示すように、高温高圧下での浸出処理では、反応に必要なガス(O2ガス等)をスラリー中に供給したり、高温高圧状態を維持するために蒸気を供給するなど、区画室10には種々の供給配管等を付設するのが通例である。また、ニッケル及びコバルトの混合硫化物に対する浸出処理では、硫酸等の酸を供給して硫酸酸性の浸出液とすることから、硫酸を供給するための配管も当然に付設されることになる。また、濃度調節等の目的で水やスラリーを供給することもある。
【0046】
≪3.摩耗防止板の材質について(隙間腐食への対応)≫
上述したように、オートクレーブ装置1には、撹拌装置20の下方の内壁の位置に摩耗防止板40が接合されて設けられている。このように摩耗防止板40を設けることで、撹拌によって流動するスラリー中の固形物による摩耗の進行を効果的に防ぐことができる。
【0047】
ところが、オートクレーブ装置1の内壁と摩耗防止板40との間に「隙間」が生じることがある。具体的に、摩耗防止板40は、
図2に示すように、撹拌装置20の直下においてオートクレーブ装置1の内壁に重ねるように溶接して取り付けられるが、経年の運転によって摩耗防止板40それ自体の摩耗も発生し、その溶接部も摩耗することでクラックが生じる。クラックが生じると、スラリーや生成した浸出液がそのクラックを介してオートクレーブ装置1の内壁と摩耗防止板40との間に侵入し、その空間において部分的に、いわゆる「隙間腐食」が発生する。
【0048】
隙間腐食を抑制する方法として、隙間腐食の原因となる隙間を発生させないように装置の内壁厚みを増やすことも対策として考えられるが、摩耗自体を抑制することはできないためいずれ減肉し、また製作時の加工性の問題等が発生する可能性がある。また、摩耗防止板のシール性を高めて液の侵入を防ぐことによって隙間腐食を防止することも可能であるが、溶接線の肉盛補修等を実施する必要があり、整備期間が長くなり操業効率を低下させる可能性がある。
【0049】
そこで、本発明者は、摩耗防止板40の材質に関して、浸出スラリーや浸出液がオートクレーブ装置1の内壁と摩耗防止板40との隙間に侵入して隙間腐食が発生しても、摩耗防止板40側に選択的に腐食を発生させ、オートクレーブ装置1の内壁への腐食を抑える構造について検討した。
【0050】
上述したように、オートクレーブ装置1の内壁は、好ましくはPdを所定の割合で含むチタン材(チタン合金)により構成されている。そのチタン材により構成されるオートクレーブ装置1に対して、同等のグレードのチタン材により摩耗防止板を構成して接合させた場合、オートクレーブ装置1の内壁と摩耗防止板の両方に隙間腐食が発生する。これに対して、オートクレーブ装置1の内壁を構成するチタン材に比べ、耐食性の劣るグレードのチタンを含む材料(チタン合金)により構成される摩耗防止板を接合させることで、浸出スラリーや浸出液が隙間に進入して隙間腐食が発生した場合でも、耐食性の劣る摩耗防止板40の側に選択的に隙間腐食が発生するようになる。
【0051】
すなわち、オートクレーブ装置1においては、内壁を構成するチタン材に比べて耐食性の劣るグレードのチタン合金、具体的には、Pdを含まず、ニッケル(Ni)を所定の割合で含むチタン合金により構成される摩耗防止板40を、オートクレーブ装置1の内壁に接合させる。これにより、隙間腐食が発生したとしても、その摩耗防止板40に選択的に発生するようになり、オートクレーブ装置1の内壁への腐食を抑制することができる。このような効果を奏する理由としては、Pdを含まずNiを所定の割合で含むチタン合金が、オートクレーブ装置1の内壁を構成するチタン合金と比較して、電気化学的に卑な材質であるため、いわゆる犠牲防食作用を発揮するためであると考えられる。
【0052】
例えば、Pdを含まずNiを所定の割合で含むチタン合金としては、ASTM規格のASTM SB-265 Gr12を用いることができる。このようなチタン合金により摩耗防止板40を構成することで、高温高圧下において硫酸の添加により浸出処理が施されるにあたり、腐食環境に対してある程度の耐食性を有するとともに、機械特性に優れるため、優れた摩耗性を発揮する。また、Pdを含まないため、経済性にも優れる。
【0053】
なお、ASTM SB-265 Gr12は、成分組成として、Pd:(-)、C:≦0.08質量%、Fe:≦0.30質量%、H:≦0.15質量%、N:≦0.03質量%、O:≦0.25質量%、Ni:0.6~0.9質量%を選択的に含有し、残部がTi及び不可避的不純物よりなる。
【符号の説明】
【0054】
1 オートクレーブ装置
10,10A~10E 区画室
20,20A~20E 撹拌装置
21 撹拌軸
22 撹拌羽根
30,30A~30D 隔壁
40,40A~40E 摩耗防止板