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特開2022-162772フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法、及び自硬性材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162772
(43)【公開日】2022-10-25
(54)【発明の名称】フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法、及び自硬性材料
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20221018BHJP
   B09B 3/20 20220101ALI20221018BHJP
【FI】
B09B3/00 304G
B09B3/00 301N
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067760
(22)【出願日】2021-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田島 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】甚野 智子
(72)【発明者】
【氏名】人見 尚
(72)【発明者】
【氏名】田口 信子
(72)【発明者】
【氏名】白井 孝
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA37
4D004AB03
4D004CA04
4D004CA34
4D004CA47
4D004CB13
4D004CC06
4D004CC11
4D004CC12
4D004CC20
(57)【要約】
【課題】メカノケミカル処理が施されたフライアッシュ及びケイ素混合物を用いる際に、当該フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する技術を提供する。
【解決手段】メカノケミカル処理が施されたフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素と、酸化マグネシウムとを混合することにより、前記フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカノケミカル処理が施されたフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素と、酸化マグネシウムとを混合することにより、前記フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法。
【請求項2】
メカノケミカル処理が施されたフライアッシュと、
アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、
チオ尿素と、
酸化マグネシウムと、
を含む自硬性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法、及び自硬性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭灰の一種であるフライアッシュは、主に石炭火力発電所から発生する。原子力発電所の停止、石油価格の高騰等の電力事情から、石炭火力発電所の稼働率維持が求められており、それに伴い、フライアッシュの発生も継続すると予想される。
【0003】
しかしながら、フライアッシュは重金属類を含有する。そこで、重金属類の溶出を抑制する目的で、セメントやセメント系改良材を添加して使用する技術が検討されている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-28594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ボールミル等で摩砕することにより表面を活性化(メカノケミカル処理)したフライアッシュに、水酸化カリウム溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物を添加・混合した場合、コンクリートと同等の圧縮強度を有する自硬性材料が得られる。
【0006】
本発明は、メカノケミカル処理が施されたフライアッシュ及びケイ素混合物を用いる際に、当該フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、メカノケミカル処理を施したフライアッシュ及びケイ素混合物に対してチオ尿素及び酸化マグネシウムを添加することにより、重金属の溶出を抑制できるという知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0008】
具体的には、本発明の一実施態様は、メカノケミカル処理が施されたフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素と、酸化マグネシウムとを混合することにより、前記フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法である。
また、本発明の一実施態様は、メカノケミカル処理が施されたフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素と、酸化マグネシウムと、を含む自硬性材料である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メカノケミカル処理が施されたフライアッシュ及びケイ素混合物を用いる際に、当該フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0011】
==自硬性材料==
自硬性材料は、常温(15~35℃)で放置することにより硬化する性質を有する。本実施形態に係る自硬性材料は、少なくともフライアッシュと、ケイ素混合物と、チオ尿素と、酸化マグネシウムとを含む。本実施形態に係る自硬性材料は、重金属の溶出量が環境基準値以下であり、流動性を有する。また、本実施形態に係る自硬性材料の硬化体は、他の自硬性材料の硬化体に比べ、高い圧縮強度が得られる。なお、自硬性材料の硬化物の重金属の溶出量は、JIS K 0058の利用有姿による溶出試験に基づいて測定した値である。流動性は、使用時の作業性を考慮したものである。流動性が高いほど、作業性が向上するため好ましい。圧縮強度は、JIS A 1216の一軸圧縮試験方法により測定した値である。
【0012】
[フライアッシュ]
フライアッシュは、石炭火力発電所等から排出される石炭灰の一種である。フライアッシュの主成分は、ケイ素やアルミニウムで構成される非晶質で、一部、結晶質の石英(SiO2)やムライト(AlSi13)が含まれる。
【0013】
フライアッシュは原料である石炭に由来する重金属を含む。重金属は、たとえばカドミウム、鉛、砒素、セレン、水銀、クロム、ふっ素、ほう素等である。なお、本明細書における重金属には、重金属単体ではなくその化合物やイオンを含まれる。重金属の含有量は、フライアッシュによって異なる。たとえば、ある採炭地で採掘された石炭を使用する火力発電所から排出されたフライアッシュと、別の採炭地で採掘された石炭を使用する火力発電所から排出されたフライアッシュとでは重金属の含有量は大きく異なる場合がある。
【0014】
本実施形態におけるフライアッシュは、メカノケミカル処理が施されている。メカノケミカル処理は、メカノケミカル現象を利用したものである。具体的に、メカノケミカル処理は、衝撃、圧縮、摩砕、粉砕、混合等により、物質に対して機械的エネルギーを与え、当該物質の化学反応性を高めることをいう。
【0015】
本実施形態に係るメカノケミカル処理の方法としては、特に限定されるものではないが、たとえば遊星型ボールミルのようなボールミルを用いた摩砕処理が挙げられる。ボールミルを用いてフライアッシュを摩砕処理することにより、中空のフライアッシュの表面積を増加させるよう研磨する状態となり、フライアッシュの化学反応性を効率よく高めることができる。なお、ボールミルの材料や摩砕処理における回転速度等の条件は、当業者が適宜選択することができる。
【0016】
メカノケミカル処理を行う時間は、たとえば、フリッチュ社製遊星型ボールミルP-5を使用する場合、3時間以上が好ましく、6時間程度がより好ましい。また、フライアッシュ50gに対し、上記メカノケミカル処理を6時間行った場合、フライアッシュの電気伝導度は初期の30%程度以下になり、フライアッシュの粒子径は微細(たとえば初期の1/10程度)となる。
【0017】
自硬性材料に対するフライアッシュの質量比は、55~75質量%程度であることが好ましい。
【0018】
フライアッシュ(メカノケミカル処理を行ったフライアッシュを含む)の重金属の溶出量は、環境庁告示46号に規定されている方法に基づいて測定することができる。
【0019】
[ケイ素混合物]
ケイ素混合物は、フライアッシュ同士を結合させるためのものである。ケイ素混合物は、スラリーとして用いられる。ケイ素混合物は、アルカリ溶液及びケイ素材料を含む。
【0020】
アルカリ溶液は、たとえば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))のようなアルカリを含む溶液である。アルカリのモル濃度は、1~5mol/Lであることが好ましく、1~3mol/Lであることがより好ましい。アルカリ溶液としては、たとえば、3mol/LのKOH水溶液を用いることができる。
【0021】
ケイ素材料は、たとえば、シリカフュームのようなケイ素微粉末である。ケイ素材料としては、たとえば、3mol/Lのアルカリ溶液中のシリカ濃度が管理値で40,000ppm程度のシリカフュームを用いることができる。
【0022】
[チオ尿素]
チオ尿素(CS(NH)は、尿素の酸素原子を硫黄原子に置換した構造を持つ材料である。チオ尿素は、フライアッシュから溶出した重金属を吸着し、不溶化する機能を有する。チオ尿素は、粉末のまま用いてもよいし、水等の溶媒に溶かしたものを用いてもよい。自硬性材料またはフライアッシュに対するチオ尿素の質量比は、フライアッシュから溶出する重金属の量によって決定される。重金属の溶出量が多いほどチオ尿素の質量比が高くなるよう、チオ尿素を添加することが好ましい。
【0023】
[酸化マグネシウム]
酸化マグネシウム(MgO)は、マグネシウムの酸化物である。酸化マグネシウムは、フライアッシュから溶出した重金属を吸着し、不溶化する機能を有する。酸化マグネシウムは、粉末のまま用いてもよいし、水等の溶媒に溶かしたものを用いてもよい。自硬性材料またはフライアッシュに対する酸化マグネシウムの質量比は、フライアッシュから溶出する重金属の量によって決定される。重金属の溶出量が多いほど酸化マグネシウムの質量比が高くなるよう、酸化マグネシウムを添加することが好ましい。
【0024】
チオ尿素の添加量と酸化マグネシウムの添加量は、1:1程度の割合が好ましい。また、フライアッシュから溶出する重金属の量が多い場合、チオ尿素の添加量と酸化マグネシウムの添加量は、1:2~1:4の割合がより好ましい。
【0025】
[その他の添加剤]
自硬性材料は、その機能に影響を及ぼさない範囲で適宜の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、たとえば減水剤がある。減水剤は、自硬性材料の硬化時間を調整するためのものである。
【0026】
なお、減水剤を添加する場合、フライアッシュに対する減水剤の質量比は、1質量%程度であることが好ましい。また、フライアッシュ、ケイ素混合物、チオ尿素、及び酸化マグネシウム(B)に対するアルカリ溶液及び減水剤(W)の質量比は、25~45質量%であることが好ましく、30質量%程度であることがより好ましい。
【0027】
==フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法==
本実施形態に係る方法は、メカノケミカル処理が施されたフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素及び酸化マグネシウムとを混合することにより、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する。
【0028】
混合の方法は、ミキサーを用いる方法等、特に限定されない。また、各材料を混合する順番も特に限定されない。たとえば、フライアッシュとチオ尿素及び酸化マグネシウムとをはじめに混合した後、ケイ素混合物を添加してもよいし、4つの材料を一度に混合してもよい。
【0029】
メカノケミカル処理が施されたフライアッシュに対してケイ素混合物のアルカリ溶液が作用することにより、フライアッシュに含まれる重金属が溶出する。一方、チオ尿素及び酸化マグネシウムは、重金属の溶出を抑制することができる。すなわち、4つの材料を混合したスラリー(自硬性材料)やその硬化物から重金属が溶出することはない。従って、地盤等に対してコンクリートの代わりに自硬性材料を使用することができる。また、自硬性材料の硬化物を解体した後、路盤材等に再利用することができる。
【0030】
==実施例==
[重金属の溶出量、流動性、圧縮強度]
フライアッシュに含まれる重金属の溶出量、自硬性材料の流動性、及び自硬性材料の硬化物の圧縮強度について実験を行った。
【0031】
(使用した材料)
使用した材料及びその配合は、表1に示す通りである。なお、配合は、円柱モールド2本分の量を示している。
【0032】
【表1】
【0033】
フライアッシュは、異なる火力発電所から入手した原灰M1、原灰M2、原灰M1に対してメカノケミカル処理を施したMC灰M3、原灰M2に対してメカノケミカル処理を施したMC灰M4のいずれかを用いた。メカノケミカル処理は、原灰M1または原灰M2に対し、遊星型ボールミル(P-5型、フリッチュ社製)を用いて6時間行った。
【0034】
ケイ素混合物は、シリカフューム(エルケム社製。シリカ濃度の管理値40,000ppm)を3mol/LのKOH水溶液に溶解させたものを用いた。溶解は、転動ミルを用いて行った。
【0035】
チオ尿素は、昭和化学株式会社製、試薬特級の粉体を用いた。チオ尿素の質量比は、フライアッシュに対して、2.5質量%とした。
【0036】
酸化マグネシウムは、富士フィルム和光純薬株式会社製の粉体を用いた。酸化マグネシウムの質量比は、フライアッシュに対して、2.5質量%、5.0質量%、7.5質量%、10.0質量%とした。
【0037】
減水剤は、シーカメントFF86(日本シーカ社製。「シーカメント」は登録商標)を用いた。
【0038】
(供試体及び硬化物の作成方法)
フライアッシュに対し、ケイ素混合物及び減水剤を混合したものを添加し、手練りで約1分間混合し供試体を作製した。
【0039】
供試体をφ20mm×h40mmの円柱モールドにバイブレーター(ハンディマッサージャーMD-001、大東電機工業株式会社製)を用いて、気泡を抜きながら充填した。その後、円柱モールドの上部に蓋をかぶせ輪ゴムを用いて固定した。
【0040】
供試体を充填した円柱モールドを、チャック付きビニール袋に入れ40℃恒温槽で2日養生した後、脱型した。更に、脱型した供試体をむき出しのまま40℃恒温槽で5日間養生して供試体の硬化物を得た。
【0041】
なお、実験No.3、No.6からNo.9においては、予めフライアッシュと、チオ尿素及び酸化マグネシウムの粉体を混合したものに対し、ケイ素混合物及び減水剤を添加した。
【0042】
(試験方法)
重金属の溶出量及び圧縮強度については、供試体の硬化物を用いて測定した。具体的に、重金属の溶出量は、JIS K 0058の利用有姿による溶出試験に基づいて測定した。なお、本実施例においては、重金属のうち、砒素、セレン、及びふっ素の溶出量を測定した。また、圧縮強度については、JIS A 1216の一軸圧縮試験方法により基づいて測定した。一方、流動性については、供試体を円柱モールドに充填する際の作業性に基づいて判断した。
【0043】
(評価)
砒素の溶出量について、環境基準値(0.01mg/L以下)を満たす場合を「〇」とし、環境基準値を満たさない場合を「×」とした。また、セレンの溶出量について、環境基準値(0.01mg/L以下)を満たす場合を「〇」とし、環境基準値を満たさない場合を「×」とした。また、ふっ素の溶出量について、環境基準値(0.8mg/L以下)を満たす場合を「〇」とし、環境基準値を満たさない場合を「×」とした。また、圧縮強度について、10N/mm以上を「〇」とし、10N/mmより低い場合を「×」とした。また、流動性について、供試体の粘性が低く、供試体を円柱モールドに容易に充填できた場合を「〇」とし、供試体の粘性はある程度高いが、バイブレーターによる振動を充分に与えることで供試体を円柱モールドに充填できた場合を「△」とし、供試体の粘性が高いため、供試体を円柱モールドに充填し難かった場合を「×」とした。評価の結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
(実験結果)
表2に示したように、メカノケミカル処理を施したフライアッシュ及びケイ素混合物に対し、チオ尿素及び酸化マグネシウムを添加することにより、砒素、セレン、及びふっ素の溶出量を環境基準値以下とすることができた(No.3、N0.6からNo.9の結果を参照)。また、チオ尿素及び酸化マグネシウムを添加した場合であっても、供試体の流動性、及び供試体の硬化物の圧縮強度について、基準を満たすことができた。一方、チオ尿素及び酸化マグネシウムを添加しなかった場合、いずれも砒素、セレン、及びふっ素の溶出量が環境基準値を超える結果となった(No.1、No.2、No.4及びNo.5の結果を参照)。すなわち、メカノケミカル処理を施したフライアッシュ及びケイ素混合物に対してチオ尿素及び酸化マグネシウムを添加することにより、砒素、セレン、ふっ素の溶出を抑制できることが明らかとなった。